(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6293199
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】シートの調節方法、熱調節シート、および調節流体の供給方法
(51)【国際特許分類】
B60N 2/56 20060101AFI20180305BHJP
【FI】
B60N2/56
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-96021(P2016-96021)
(22)【出願日】2016年5月12日
(65)【公開番号】特開2016-210414(P2016-210414A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2016年5月12日
(31)【優先権主張番号】62/160,327
(32)【優先日】2015年5月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511014862
【氏名又は名称】ジェンサーム インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Gentherm Incorporated
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】デーヴィッド ブライアン マーケット
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル チャールズ ゲリソールト
【審査官】
永安 真
(56)【参考文献】
【文献】
特表2011−514180(JP,A)
【文献】
特表2009−502279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の材料から構築されたシート部であって、中央サポート部と、それに隣接するとともに互いにある幅で水平方向に離間されたサイドボルスタと、を有するシートサポート構造を含み、前記中央サポート部に凹部が設けられるとともに、前記凹部が開口部を含んだシート部と、
前記第1の材料に対して前記凹部内に配置された多孔性材料と、
前記第1の材料および前記多孔性材料に対して配置された第2の材料と、
通気層と外側の座面を提供する美観層とを含んだカバーであって、前記通気層が前記第2の材料に対して配置され、前記美観層が貫通孔を有する、カバーと、
前記シート部に関連するとともに前記開口部と流体連通したブロワであって、前記開口部を通じて前記凹部を通る前記多孔性材料へと流体を供給するように構成され、前記流体が、前記多孔性材料から前記通気層へと通過して、前記貫通孔から流出するように構成された、ブロワと、
を備えた熱調節シート。
【請求項2】
前記第1の材料がポリウレタンフォームであることを特徴とする請求項1に記載の熱調節シート。
【請求項3】
前記シート部が、シート座部またはシートバックのうちの一つであることを特徴とする請求項2に記載の熱調節シート。
【請求項4】
前記幅が、第1の水平方向幅を有し、前記多孔性材料が前記第1の水平方向幅の75%未満の第2の水平方向幅を有することを特徴とする請求項1に記載の熱調節シート。
【請求項5】
前記第2の水平方向幅が、前記第1の水平方向幅の35〜65%の幅であることを特徴とする請求項4に記載の熱調節シート。
【請求項6】
前記多孔性材料が、通気性スペーサ材料であることを特徴とする請求項2に記載の熱調節シート。
【請求項7】
前記第2の材料が、フリースであることを特徴とする請求項6に記載の熱調節シート。
【請求項8】
前記フリース上の、前記多孔性材料と反対側の面に支持された発熱体を備えることを特徴とする請求項7に記載の熱調節シート。
【請求項9】
前記通気層と前記美観層とが、互いに縫い合わされた継ぎ目で接合されることを特徴とする請求項6に記載の熱調節シート。
【請求項10】
前記ブロワと前記凹部との間に配置された熱電装置を備え、前記熱電装置は、前記流体を冷却するように構成されることを特徴とする請求項1に記載の熱調節シート。
【請求項11】
前記第2の材料が、不透過性であるとともに開口部を有し、前記流体が、前記多孔性材料から前記開口部を通して前記通気層へと通過し、前記貫通孔から流出することを特徴とする請求項1に記載の熱調節シート。
【請求項12】
着座した乗員への調節流体の供給方法であって、
多孔性材料を通して調節流体を移動させるステップと、
前記多孔性材料の上に配置されたバリア層の開口部を通して調節流体を通過させるステップと、
多孔層を通して初期の集中的な熱流を供給するステップと、
前記バリア層と前記多孔層との間の通気層を通して前記調節流体を分散させるステップと、
前記初期の集中的な熱流の後に、該初期の集中的な熱流に比較して広範囲に及ぶ熱流を、前記多孔層を通して供給するステップと、
を備えた調節流体の供給方法。
【請求項13】
前記通過させるステップが、冷却された調節流体を提供するように熱電装置を通して空気を送風することを含むことを特徴とする請求項12に記載の調節流体の供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2015年5月12日出願の米国仮出願第62/160,327号の優先権を主張するものであり、本願の参照となる。
【0002】
本発明は、改良された熱調節シートおよびその作動方法に関する。
【背景技術】
【0003】
熱調節シートは、自動車乗員により快適な微気候を提供するように自動車においてますます使用されている。こうしたシートでは、スイッチを介したユーザ入力に対応してシート座部とシートバックの両方を同時かつ均一に加熱または冷却するのが一般的である。熱調節シートの一種では、シートバックのヒータは、シート座部のヒータから独立して通電される。
【0004】
シートを冷却するように様々なアプローチが用いられている。一例では、概してシート内の通路を冷却空気が通流してシートのカバーの外面の貫通孔を通して冷却流体が提供される。冷却流体は、車両の暖房、換気および空調(HVAC)装置から提供される、あるいはペルチェ素子などの熱電装置を用いることによって提供される。
【0005】
冷却配置の一種では、バッグ(bag)がポリウレタンフォームのシート部に支持される。サイドボルスタがシート部の両側に提供される。一般的にバッグは、シート部の全幅に亘ってボルスタへと延在する。バッグは、キャビティを提供する可塑性の外部を含み、その内部に織布などの通気性のスペーサ材料がキャビティを開放しておくように配置されて、空気がキャビティを通流する。バッグの可塑性の外面に複数の穴が設けられる。カバーがバッグおよびシート部に配置される。カバーは、バッグに隣接する通気層と、複数の貫通孔を含んだ美観層(aesthetic layer)と、を含む。ブロワが冷却流体をバッグに供給して通気性スペーサ材料を通流し、可塑性外面の複数の穴から流出する。次いで冷却流体が通気層によって分配されて、美観層の複数の貫通孔から流れ出る。
【0006】
別の種類の冷却配置では、複数の流路がフォームのシート部に設けられる。カバーがシート部の複数のチャネルに渡って配置され、ブロワが冷却流体をその複数のチャンネルに供給する。冷却流体が複数のチャネルから通気層に流れ、美観層の複数の貫通孔から流出する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、改良された熱調節シートおよびその作動方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施例では、シートの調節方法が、乗員の胴体を支持するように構成されたシートバックにおける第1の熱調節アセンブリを作動させるステップを含む。第1の熱調節アセンブリは、第1の熱伝達率を提供する。第2の熱調節アセンブリが、乗員の下部(lower region)を支持するように構成されたシートクッション内で作動する。第2の熱調節アセンブリは、第1の熱伝達率の提供と同時にその第1の熱伝達率とは異なる第2の熱伝達率を提供する。
【0009】
上記の更なる実施例では、第1および第2の熱調節アセンブリを作動させるステップが、シートバックおよびシートクッションの冷却を提供することを含む。
【0010】
上記の実施例のうちのいずれかの更なる実施例では、第1の熱伝達率は、第2の熱伝達率よりも大きい。
【0011】
上記の実施例のうちのいずれかの更なる実施例では、第1の熱調節アセンブリを作動させるステップが、熱電装置を通して流体を送風することを含む。
【0012】
上記の実施例のうちのいずれかの更なる実施例では、第2の熱調節アセンブリを作動させるステップが、ブロワ入口からの流体を、追加冷却を行うことなくシートクッションの支持面に送風することを含む。
【0013】
上記の実施例のうちのいずれかの更なる実施例では、第1の熱調節アセンブリを作動させるステップは、第2の熱調節アセンブリを作動させるステップの前に開始される。
【0014】
上記の実施例のうちのいずれかの更なる実施例では、第1および第2の熱伝達率は、第1の期間においては異なり、第1の期間に続く第2の期間においては実質的に同じである。
【0015】
上記の実施例のうちのいずれかの更なる実施例では、第1の熱調節アセンブリを作動させるステップが、第1の電流を引き出し(draw)、第2の熱調節アセンブリを作動させるステップが、第2の電流を引き出すことを含む。第1の電流は、第2の電流よりも少なくとも2倍大きい。
【0016】
上記の実施例のうちのいずれかの更なる実施例では、第1の電流は第2の電流よりも少なくとも4倍大きい。
【0017】
上記の実施例のうちのいずれかの更なる実施例では、第1の電流は第2の電流よりも少なくとも8倍大きい。
【0018】
別の実施例では、熱調節シート(thermally conditioned seat)が、第1の材料から構築されたシート部であって、中央サポート部と、それに隣接するとともに互いにある幅で水平方向に離間されたサイドボルスタと、を有するシートサポート構造を含む。中央サポート部に凹部が設けられるとともに、凹部が開口部を含む。多孔性材料が、第1の材料に対して凹部内に配置される。第2の材料が、第1の材料および多孔性材料に対して配置される。カバーが、通気層と、外側の座面を提供する美観層(aesthetic layer)と、を含む。通気層は、第2の材料に対して配置され、美観層は、複数の貫通孔を有する。ブロワが、シート部に関連するとともに開口部と流体連通する。そのブロワは、開口部を通じて凹部を通る多孔性材料へと流体を供給するように構成される。流体は、多孔性材料から通気層へと通過して貫通孔から流出するように構成される。
【0019】
上記の実施例のうちのいずれかの更なる実施例では、第1の材料はポリウレタンフォームである。
【0020】
上記の実施例のうちのいずれかの更なる実施例では、シート部は、シート座部またはシートバックのうちの一つである。
【0021】
上記の実施例のうちのいずれかの更なる実施例では、幅が、第1の水平方向幅を有する。多孔性材料は、第1の水平方向幅の75%未満の第2の水平方向幅を有する。
【0022】
上記の実施例のうちのいずれかの更なる実施例では、第2の水平方向幅は、第1の水平方向幅の35〜65%の幅である。
【0023】
上記の実施例のうちのいずれかの更なる実施例では、多孔性材料は通気性スペーサ材料である。
【0024】
上記の実施例のうちのいずれかの更なる実施例では、第2の材料はフリースである。
【0025】
上記の実施例のうちのいずれかの更なる実施例では、発熱体(heating elements)が、フリース上の、多孔性材料と反対側の面に支持される。
【0026】
上記の実施例のうちのいずれかの更なる実施例では、通気層と美観層とが、互いに縫い合わされた継ぎ目で接合される。
【0027】
上記の実施例のうちのいずれかの更なる実施例では、熱電装置(thermoelectric device)が、ブロワと凹部との間に配置される。熱電装置は、流体を冷却するように構成される。
【0028】
上記の実施例のうちのいずれかの更なる実施例では、第2の材料は不透過性であるとともに開口部を有する。流体は、多孔性材料から開口部を通して通気層へと通過し、貫通孔から流出するように構成される。
【0029】
別の実施例では、着座した乗員への調節流体の供給方法が、バリア層の開口部を通して調節流体を通過させ、多孔層(perforate layer)を通して初期の集中的な熱流を供給することを含む。調節流体は、バリア層と多孔層との間の通気層を通して分散される。初期の集中的な熱流の後、初期の集中的な熱流に比較して広範囲に及ぶ熱流(expanded thermal flow)が、多孔層を通して供給される。
【0030】
上記の実施例のうちのいずれかの更なる実施例では、通過させるステップが、冷却された調節流体を提供するように熱電装置を通して空気を送風することを含む。
【0031】
上記の実施例のうちのいずれかの更なる実施例では、調節流体は、多孔性材料を通して移動する。通過させるステップは、多孔性材料の上に配置されたバリア層の開口部を通して調節流体を通過させることを含む。
【0032】
上記の実施例のうちのいずれかの更なる実施例では、バリア層はポリウレタンフォームのクッションであり、開口部はフォームクッション内の流路および穴である。
【0033】
添付の図面に関連して検討する際、以下の詳細な説明の記載を参照することにより本発明を更に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】第1および第2の熱調節モジュールを示すシートの実施例の斜視図。
【
図3】明確にするために発熱体を省略した第2の材料の上面図。
【
図3A】対称的な熱管理アプローチに関する乗員の背中と下部の快適さを示す、乗員の一般的な知覚される快適性を示すグラフ。
【
図3B】非対称的な熱管理アプローチに関する乗員の背中と下部の快適さを示す、乗員の一般的な知覚される快適性を示すグラフ。
【
図4】シート支持面に関する集中的な調節領域の概略図。
【
図4A】シートクッションの「A」面に供給される流体の初期の配分を示す、シート部および第1の熱調節モジュールを通した断面図。
【
図4B】シートクッションの「B」面に供給される流体の初期の配分を示す、シート部および第1の熱調節モジュールを通した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
一例の車のシート10を
図1に概略的に示す。シート10は、シート座部すなわちクッション12と、シートバック14と、を含む。シートバック14は、第1の水平方向幅26を介して互いに水平方向に離間された2つのボルスタ18を有する中央サポート部16を有するシート部を含む。ヘッドレスト20が中央サポート部16に設けられる。座部12は、ある幅で互いに水平方向に離間された2つのボルスタ24と、タイ(thigh)ボルスタ22と、を備えた中央サポート部21を有するシート部を含み、タイボルスタは、中央サポート部21に対して調節可能である。シート部は、ポリウレタンフォームなどの第1の材料から構築される。
【0036】
第1の熱調節アセンブリ28が、シートバック14に設けられるとともに、第2の熱調節アセンブリ30がシート座部12に設けられる。熱調節アセンブリは、
図1のシートの外表面の下に鎖線で示す。この例では、第1および第2の熱調節アセンブリ28,30の各々が、それぞれ、第1および第2の加熱装置および冷却装置28a,28b,30a,30bの両方を含む。一例のシートバック14の場合、冷却は、例えばペルチェ素子およびブロワなどの能動冷却素子を有する熱冷却モジュールによって供給される。一例のシート座部の場合、冷却は、通気のみを有するブロワを用いた対流冷却によって供給される。一方、図示のものとは異なる、かつ/または、追加の加熱および/または冷却コンポーネントを使用してもよいことを理解されたい。例えば、シート座部12および/またはシートバック14は、加熱装置を含まなくてもよい。
【0037】
以下に説明する例ではシートバックを参照するが、記載の実施例はシート座部にも用いられる。多孔性材料34がポリウレタンフォームのシート部の凹部32に設けられる。多孔性材料34が第2の水平方向幅35に亘って延在しており、この幅は、第1の水平方向幅26よりも実質的に小さく、例えば75%未満である。別の例では、第2の水平方向幅35は、第1の水平方向幅26の35%〜65%である。その結果、乗員に対しシートサポート面を通して調節流体を供給する多孔性材料34が、乗員の体の主要な熱に応答する領域に対しさらに集中的な冷却を提供し、快適性を達成するのに最も必要な領域により迅速な熱応答を提供する。
【0038】
多孔性材料34は、例えば織布から構成された通気性スペーサ材料である。通気性スペーサ材料は、
図2に最もよく示されるように、互いに離間された複数の織物層を含む。パイル糸が複数の織物層を相互に連結する。パイル糸の数、寸法、向き、および材料特性が多孔性材料によってもたらされるクッション性を決定する。パイル糸の間に複数の空隙が設けられて流体を通流させる。一例の通気性スペーサ材料は、網目状のフォーム、またはMueller Textiles社から入手可能な3−Dメッシュ(登録商標)である。
【0039】
図3を参照すると、フリースまたはフェルトなどの第2の材料36が発熱体42を支持しており、この発熱体が
図1に示す加熱装置28b,30bを提供する。第2の材料36として、スクリムまたは発熱素子支持材料などのその他の材料が用いられうることを理解されたい。第2の材料36は、中央サポート部16の、
図3の破線で示す多孔性材料34の上に固定された中央部38を含む。ウイング40が中央部38から延在するとともにボルスタ18に支持される。明確にするように発熱体42を
図3から省略するが、
図1に示す。
【0040】
第2の材料36はバリア層として機能するとともに、複数の開口部44a〜44eを含んでおり、それらの開口部を「開口部44」として総称し、それらの開口部は、凹部32から多孔性材料を通して第2の材料へと流体が流れるのを可能にする。一つの実施例では、第2の材料36は開口部のほかは実質的に不透過性であり、それにより多孔性材料34の面積寸法によってもたらされる以上の集中的な冷却を初期に可能とする(例えば、
図3または
図4B)。別の実施例では、第2の材料36は実質的に透過性であり、それにより多孔性材料34の面積寸法に対応する初期冷却を提供する(例えば、
図4A)。
【0041】
人の所望の温熱感覚や快適性を達成するように熱調節システムを自動的に制御するように、例えば感覚や快適性などの、人の熱状態(総称して「乗員の熱状態」という)を客観的に定量化することは困難である。一例として、乗員の温熱条件や熱状態は、高温や冷温、または温度変化の知覚条件である。別の例として、乗員の温熱条件や熱状態は、快適さや不快感、快適さのレベル、または快適さのレベルの変化である。人の温熱条件を客観的に定量化することを目的とした一つの広く認識されているアプローチは、例えば、Arens E.A., Zhang H. & Huizenga C.(2006) Partial- and whole body thermal sensation and comfort, Part I: Uniform environmental conditions, Journal of Thermal Biology, 31, 53-59 に記載のバークレイ・センセーション・アンド・コンフォート・スケール(「バークレイスケール(Berkeley scale)」)と呼ばれるものである。乗員の熱状態を定量化するためにその他のアプローチが用いられうることを理解されたい。
【0042】
バークレイスケールを用いて、温度感覚(thermal sensation)が人により+4から−4まで定量化される。正の数は知覚される熱の程度の増加に対応し、負の数は知覚される冷たさの程度の増加に対応する。高い正の数または負の数は、それぞれ酷く熱いまたは酷く冷たい状態を示す。ゼロは、人が温度感覚に対して中立であることを示す。バークレイスケールの熱的快適性は人により+4から−4まで定量化され、+4は人が「非常に快適である」ことを示し、−4は人が「非常に不快である」ことを示す。
【0043】
図3Aは、乗員の一般的に知覚される快適性をグラフに示し、一般的な対称的な熱管理アプローチに対する乗員の背中と下部の快適性の違いを示す。背中の皮膚温度は中核体温により密接に従うため、背中の代謝熱量を克服するようにより高い冷却能が必要となる。
【0044】
体の異なる領域、例えば背中は、快適さを様々に知覚しうる、すなわち熱入力に対して異なる割合で反応する。したがって、背中全体を無差別に冷却するのではなく、例えば、乗員の背中の、冷却に対してより敏感な、全体的な熱的快適性の感覚をより迅速に誘発する熱的受容領域に対応する位置に、開口部(「A」面または「B」面のどちらを介して設けられるかに拘らず)が戦略的にサイジング、配置される。例えば、開口部44aは肩甲骨と揃えられるように配置され、開口部44bは脊椎と揃えられるように配置され、開口部44c,44eは背中の側面に沿って離間され、開口部44dは腰の部分に揃えられる。
【0045】
図4を参照すると、カバー48が、通気層52と、美観層50と、を含み、それらの層は一般的に互いに縫い合わされた継ぎ目で固定される。貫通孔54が美観層50、一般的には多孔皮革に設けられて、冷却流体が通気層52から貫通孔54を通して外部のシート面51に通流されて、着座した乗員を冷却する。一例では、通気層52はシートの中央サポート部16における貫通孔54の下に設けられるが、ボルスタ上には設けられない。
【0046】
図4Aを参照すると、シート座部12のカバー48の外周49を概略的に示す。カバー48は領域A1に亘って貫通孔54(明確にするために一部のみを示す)を含み、このカバーは、中央サポート部21を覆う。多孔性材料34は領域A2の周囲に外周を有し、乗員に対して集中的な熱調節を提供する。領域A2は、例えば領域A1の50%未満であり、一実施例では、領域A2は領域A1の20%〜50%である。第1および第2の領域A1,A2の間の上記の関係はシートバック14にも用いられうる。
【0047】
一例では、多孔性材料34がシート部および第2の材料36に対して(against)またはこれらと係合するように配置される。通気層52は、第2の材料36および美観層50に対して配置される。多孔性材料34はプレナムとして機能し、第2の材料36は、大きい矢印F1で示す開口部44を通しての乗員の体の熱的受容部分を除く、全ての箇所への流体の流れを遮断する。次いで、時間が経過するに従い、冷却流体が通気層52を通して第1の水平方向幅26全体へと外側に分散され、小さい矢印F2で示すように、乗員の体の持続的な冷却を提供する。
【0048】
一つ以上の開口部56がシート部に設けられる。ブロワ58は開口部56に収容される出口62を含む。「ブロワ」および「ファン」は本発明では同義で用いられる。フォームガスケット64が優れたシーリングのために出口62とシート部との間に設けられる。ブロワ58は、シート10の下に配置された入口66からの流体を受け入れ、その流体を冷却するようにペルチェ素子などの熱電装置(TED)60を通して入口空気を供給する。
【0049】
上記の実施例は、乗員に対するシートフォームの「A」面に沿った調節空気の集中的な供給を達成する。非対称的な調節の別の実施例は「B」面分配を利用し、
図4Bに示すように、そこでは複数の流路67すなわちひとまとまりの分散がフォームの底側に沿って行われ、貫通孔69の列を介して「A」面へと分散される。
図4Bにおける
図4Aと共通の要素は同じ符号を用いる。第2の材料136は
図4Bに示す実施例では透過性である。貫通孔69は、体の主な感覚機構に対する(すなわち、脊椎または温度受容器が高密度で集中するその他の領域に沿った)調節を可能にし、人の熱生理学を対象とした高速応答を可能にする。
【0050】
クッションの「プッシュ(push)」システムを上記の実施例に記載する。乗員を通してキャビン空気をシートに引き込み、シートの外側へと排出するクッションの「プル(pull)」システムなどのその他の実施例が用いられうることを理解されたい。非対称的熱調節を提供するように、シート座部のプルまたはプッシュ型の受動通気装置を、シートバックの能動冷却装置と組み合わせて用いてもよい。能動冷却が追加された実施例におけるシート座部にプッシュシステムを用いてもよい。
【0051】
高性能の実施例が、プル通気戦略に適合した非対称的冷却を備える。その場合、キャビンから乗員を横切ってシートへと空気の流れを引き込む追加のブロワ(または一組の軸流ファン)に加えて複数のTEDが背中に能動調節を推進(プッシュ)するように用いられる。シート座部では、キャビンから乗員を横切ってシートへと空気の流れを引き込む追加のブロワ(または一組の軸流ファン)に加えて単一のTED(またはシートバックよりも少ない数のTED)がシート座部に能動調節を推進(プッシュ)するように用いられる。
【0052】
一例の熱調節システム68を
図5に示す。発熱体42、ブロワ58、およびTED60が制御装置70と連通しており、その制御装置は、入力72からの指令信号を受信する。一例では、シートバック14は一対のTED60を有し、シート座部12はこれを持たない。別の例では、シートバック14は一対のTED60を有し、シート座部12は一個のTEDを有する。より安価な実施例では、シートバック14は一個のTEDによって調整され、シート座部はブロワのみによって受動的に調節される。したがって、所望のレベルの加熱/冷却を実現するように複数のTED、ブロワ、発熱体の様々な組み合わせが用いられうることを理解されたい。しかしながら、一般的に言えば、シートバック14はシート座部12よりも高い熱伝達能力を有する。
【0053】
ネックコンディショニング装置をヘッドレストに組み込み、同じ制御装置70で制御してもよく、これは例えば、本出願人に付与の2015年8月12日出願の「車両用ヘッドレスト熱調節器」と題された米国特許出願第14/824,154号に開示されており、本発明の参照となる。ネックコンディショナは、乗員の快適さと初期の感覚を更に最大化するように非対称的な熱制御を有する環境シートと組み合わせて用いてもよい。
【0054】
入力72は、加熱/冷却レベル用の3−ポジションスイッチと、加熱または冷却モードの選択用の2−ポジションスイッチであってもよい。ブロワ58は、必要に応じて独立して制御されうる。センサを含む、異なるおよび/または追加の入力が用いられうる。一例の入力は、乗員の顔の赤外線(IR)画像を得るための受動赤外線(PIR)センサによって提供され、これは2016年4月1日出願の「乗員の熱状態検出、快適性調節装置およびその方法」と題する米国仮出願番号第62/316,938号に開示されており、本発明の参照となる。その開示によれば、制御装置70は、例えば乗員の鼻や、頬や額周りに対応する熱画像のセグメントを測定するように用いられる。このシステムは、鼻の温度や頬および/または額の周りの温度差を測定し、その差に基づいて乗員の熱状態を測定する。そのシステムは、熱状態の傾向を監視し、乗員の熱状態およびその状態の傾向に基づいて、その乗員の加熱または冷却率を、開示の非対称的熱システムを用いることによって調節する。必要に応じて、開示の非対称的熱システムの自律制御を提供するようにその他の検出装置を用いてもよい。
【0055】
熱調節システム68を用いたシート10の一例の調節方法が、第1の熱伝達率76(q
1)を提供するようにシートバック14の第1の冷却装置28aを作動させることを含む。シートバックは乗員の局部的な快適性を達成するようにシート座部よりも高い冷却が求められ、それにより乗員に対し実質的に正比例するような熱調節を提供する。したがって、シートバックの冷却は、乗員の熱平衡を達成するようにシート座部の冷却よりもシートバックの冷却が優先される。このため、シートクッション12の第2の冷却装置30aは、第1の熱伝達率76の提供と同時にこれとは異なる第2の熱伝達率78(q
2)を提供するように作動される。一例では、
図3Bに示すように、体の通常の生理反応を補償するように臀部や脚部を含む下部に比べて乗客の背中により高い冷却を提供するように、第1の熱伝達率76は第2の熱伝達率78よりも大きい。
【0056】
例えば長期の自動車の運転時などの着座(レスト)期間中、体の中心部の臓器によって発生する熱は周辺組織によって発生する熱よりも数桁大きく、例えば、2:1、3:1またはそれよりも大きい。着座期間中、中心臓器への血流は周辺組織への血流よりも数桁大きい。相対的に激しい身体活動中、周辺組織への心臓血液搏出量は増加し、その後の期間も継続する。激しい身体活動期間中とその後の期間は、血液中に運ばれる熱と筋肉によって生成される熱に起因して、周辺組織によって発生する熱は中心臓器によって発生する熱よりも大きい。熱調節シートシステムは乗員の熱状態を(例えば、PIRセンサを用いることにより)検出することができるとともに、それに応じて第1および第2の熱伝達率を調節することができる。シートバック14およびシートクッションによって調節される対応する領域において乗員が生成または吸収した熱量の差に比例して、シートバック14によって提供される第1の熱伝達率76は、シートクッション12によって提供される第2の熱伝達率78とは異なる。例えば、第1の熱伝達率76は、乗員の身体中央部(シートバックによって調節される領域)によって生成または吸収される熱、そして乗員の臀部や大腿部(シートクッション12によって調節される領域)によって生成または吸収される熱量に比例して、第2の熱伝達率78とは異なる。この非対称的な熱管理アプローチにより、
図3Aに示す対称的な熱管理アプローチに比べて、乗員に対する改善された快適性を提供することができる。
【0057】
作動の一例の態様では、第1の熱調節アセンブリ28、例えば第1の冷却装置28aは、第2の熱調節アセンブリ30、例えば第2の冷却装置30aより先に起動される。第1および第2の熱伝達率76,78は、第1の期間においては異なり、第1および第2の熱伝達率76,78は、次いで第2の期間においては実質的に同じとなる。したがって、非対称的な熱伝達率は初期に提供される。時間が経過するに従い、シートバック14およびシート座部12によってもたらされる熱伝達率は対称的な熱伝達率を提供するように制御される。これは例えば、シート座部に供給される電力に対応させるように、シートバックへの電力を減少させることによって達成され、逆の場合も同様である。一実施例では、非対称冷却を行った後、非対称冷却が継続されるか、あるいは任意の周知の入力またはセンサに基づいて対称冷却または幾分かの組合せに移行する制御ループに入る。
【0058】
自動車製造業者は、座席の製造業者に対し、環境制御シートのために限られた消費電力量しか提供できない。開示の熱調節システム68により、環境制御シートのための利用可能な電力をよりうまく利用することができる。第1の熱調節アセンブリ28、例えば第1の冷却装置28aは、最初の冷却の際に第1の電流を引き出し、第2の熱調節アセンブリ30、例えば第2の冷却装置30aは、最初に第2の電流を引き出す。第1の電流は、第2の電流よりも例えば少なくとも2倍大きい。一実施例では、第1の電流は第2の電流よりも少なくとも4倍大きく、別の実施例では、第1の電流は第2の電流よりも少なくとも8倍大きい。乗員の背中を迅速に冷却することは、シートバックとシート座部とに利用可能な電流を均等に分散させることで乗員を冷却することに比べて、乗員の全体的な熱的快適性に多大な影響を及ぼす。開示の環境シートを調節するように、車両バッテリおよび/または熱管理コンポーネントの電圧および/または電流モニタリングを用いてもよい。非対称熱管理システムは、電圧入力に従って作動、調節、または最適化してもよい。それらの装置への出力電圧を、熱的快適性を最大化するように制御してもよい。
【0059】
それぞれ第3および第4の熱伝達率80,82(q
3,q
4)を提供する、シートバック14およびシートクッション12の発熱体42は、必要に応じて、上述した冷却機能と同様に制御される。
【0060】
図示の実施例に特定のコンポーネント配置を記載したが、その他の配置も本発明から利益を享受しうることを理解されたい。特定のステップの順序を示し、記載し、クレームするが、特に指示しない限り、複数のステップを任意の順序で、分割して、あるいは組み合わせて行ってもよく、本発明からもなお利益を享受しうることを理解されたい。
【0061】
異なる例が図示の特定のコンポーネントを有するが、本発明の実施例はそれらの特定の組合せに限定されない。一実施例からのコンポーネントまたは特徴部の幾つかを、別の実施例からの特徴部またはコンポーネントと組み合わせて使用することが可能である。
【0062】
実施例について記載したが、特定の修正が特許請求の範囲に含まれることが当業者にとって理解できるであろう。そのため、本発明の真の範囲および内容を決定するために以下の請求項を検討すべきである。
【符号の説明】
【0063】
10…シート
12…シート座部、クッション
14…シートバック
18…ボルスタ
20…ヘッドレスト
21…中央サポート部
22…タイボルスタ
24…ボルスタ
26…第1の水平方向幅
28…第1の熱調節アセンブリ
30…第2の熱調節アセンブリ
28a,30a…冷却装置
28b,30b…加熱装置
32…凹部
34…多孔性材料
42…発熱体
60…熱電装置(TED)