(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一または相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。本実施の形態においては、鞍乗型乗り物として、自動二輪車を例示する。以下の説明で用いる方向の概念は、自動二輪車に騎乗した運転者から見た方向を規準とする。
【0017】
<第1の実施の形態>
図1は本発明の第1の実施の形態に係る自動二輪車を示す左側面図である。また、
図2および
図3は
図1に示す自動二輪車の吸気経路に関する概略構成を示すブロック図である。
図1に示すように、自動二輪車1は、路面R上を転動する前輪2および後輪3を備えている。後輪3が駆動輪であり、前輪2が従動輪である。前輪2は上下方向に延びるフロントフォーク4の下端部にて回転自在に支持されており、該フロントフォーク4は、ステアリングシャフトに支持されている。該ステアリングシャフトは、ヘッドパイプ5によって回転自在に支持されている。アッパーブラケットには、左右へ延びるバー型のハンドル6が取り付けられている。
【0018】
ハンドル6の運転者の右手により把持される部分に設けられたスロットルグリップ7(
図2参照)は、手首のひねりにより回転させることで後述するスロットル装置16を操作するためのスロットル入力手段である。運転者は、ハンドル6を回動操作することにより、ステアリングシャフトを回転軸として前輪2を所望の方向へ転向させることができる。
【0019】
ヘッドパイプ5からは左右一対のメインフレーム9が下方に傾斜しながら後方へ延びており、該メインフレーム9の後部に左右一対のピボットフレーム10が接続されている。該ピボットフレーム10には、略前後方向に延びるスイングアーム11の前端部が枢支されており、該スイングアーム11の後端部に後輪3が揺動軸11a回りに揺動可能に軸支されている。スイングアーム11の揺動軸11aは、エンジンEの後端部より後方に配置される。ハンドル6の後方には燃料タンク12が設けられており、該燃料タンク12の後方側に運転者騎乗用の着座シート13が設けられている。
【0020】
前輪2と後輪3との間には、エンジンEがメインフレーム9およびピボットフレーム10に支持された状態で搭載されている。
図1には、エンジンEとして気筒が車幅方向に並んだ並列四気筒エンジンが例示されている。エンジンEの出力軸には変速装置14が接続されており、この変速装置14から出力される駆動力がチェーン15を介して後輪3に伝達される。エンジンEおよび変速装置14は、エンジンEのクランクケースの後方に変速装置14のミッションケースが位置するように一体形成されている。側面視において、シリンダの軸線は、上方に進むに従って前方に傾斜している。側面視において、エンジンEのクランクケースおよび変速装置14のミッションケースは、全体として略L字状に形成される。言い換えると、エンジンEおよび変速装置14は、L字状ケースを備える。
【0021】
エンジンEの上流側には吸気通路20を介して燃料タンク12の下方に配置された吸気装置36が設けられている。吸気装置36は、吸気を圧縮する過給機32と、当該過給機32の下流側に設けられた吸気チャンバ33とを含む。過給機32の上流側には、前方からの走行風を導入する吸気ダクト34と、吸気ダクト34と過給機32との間に配置されたエアクリーナ19とが設けられる。吸気ダクト34から導入された吸気は、エアクリーナ19を介して過給機32に送られる。すなわち、過給機32は、エアクリーナ19の下流側に配置される。過給機32は、歯車およびチェーン等の動力伝達機構を介して伝えられるエンジンEの動力、すなわち、クランクシャフトの回転によって駆動され、送られてきた吸気を圧縮する。過給機32は、遠心式ポンプおよび遊星歯車機構を有し、エンジンEの動力を増速するように構成される。遠心式ポンプおよび遊星歯車機構は、同軸に形成される。遠心ポンプおよび遊星歯車機構は、ミッションケースの上壁部に軸支される。なお、過給機32は、上述したような遠心式以外の構造、例えば、定容量式の構造を有していてもよい。
【0022】
吸気チャンバ33とエンジンEの吸気ポート(図示せず)と間には、スロットル装置16が設けられ、吸気装置36からエンジンEへの吸気流量を調整する。スロットル装置16は、メインフレーム9の内側に配置される。
【0023】
過給機32が設けられることにより、自動二輪車1の出力の向上を図ることができる。過給機32で圧縮された吸気は、吸気チャンバ33に送られる。吸気チャンバ33は、過給機32で圧縮された吸気を貯留し、貯留した吸気をスロットル装置16を介してエンジンEの燃焼室に導く。吸気チャンバ33は、吸気経路内の圧力変化を抑えるために設けられている。吸気チャンバ33の容量が大きいほど、自動二輪車1の出力は向上する。エンジンEで燃焼に使用された空気は、排気管37を通じて排出される。
【0024】
本実施の形態において用いられる過給機32は、エンジンEの出力軸から駆動のための動力を得るスーパーチャージャ型の過給機であるため、エンジン回転数に比例して過給圧が大きくなるという特性を有している。さらに、排気を利用するターボ型の過給機に比べてエンジン回転数が比較的低くても、過給圧が高くなり易いという特性を有している。
【0025】
スロットル装置16は、吸気通路20の途中に配置されたスロットルバルブ21を有している。スロットルバルブ21は、スロットルグリップ7とスロットルリンク23を介して接続されており、運転者によるスロットルグリップ7の操作に連動して開閉するように構成されている。スロットルリンク23は、スロットルグリップ7とスロットルバルブ21とを機械的に接続するスロットルワイヤでもよいし、スロットルグリップ7の操作量を電気信号に変換してスロットルバルブ21に伝える電線でもよい。すなわち、本構成は、機械式のスロットル装置16および電子制御式のスロットル装置16の何れにも適用可能である。また、スロットル装置16には、吸気通路20内に燃料を噴射する燃料噴射装置(図示せず)が設けられている。変速装置14は、エンジンEの動力を変速して後輪3に伝達する。変速装置14には、動力を伝達または遮断するためのクラッチ(図示せず)が設けられている。
【0026】
図2に示すように、エンジンECU17は、バッテリ(図示せず)から供給される電力によって、各センサおよびスイッチから入力される信号に基づいてエンジン制御に関する演算を行い、各電動装置に制御指令を行う。センサおよびスイッチは、例えばスロットルポジションセンサ、クラッチスイッチ、ギヤポジションセンサ、およびエンジン回転数センサ等である。電動装置は、点火装置等の点火系装置、燃料噴射装置および電動スロットル弁等の吸気系装置、冷却ファン等の冷却系装置、エンジン駆動制御用の各種センサ、およびエンジンECU17、各種灯火装置、オーディオ等である。
【0027】
吸気チャンバ33には、吸気チャンバ33の内圧の上昇を抑制するための昇圧抑制機構40が取り付けられている。昇圧抑制機構40は、圧力作動式の昇圧抑制バルブ41と、電気作動式の制御バルブ42とを備えている。
【0028】
昇圧抑制バルブ41は、吸気チャンバ33に接続され、予め設定されるパイロット空間43の圧力に対する吸気チャンバ内圧の圧力差が所定値以上に達すると、吸気チャンバ33の内部空間33aをリリーフ通路44に開放するよう構成される。リリーフ通路44は、過給機32の上流側の吸気ダクト34に接続される。すなわち、吸気チャンバ33の内部空間33aをリリーフ通路44に開放すると、吸気がスロットル装置16の上流側で循環する。これにより、吸気チャンバ33の圧力上昇は抑制される。制御バルブ42は、パイロット空間43に連通する空間を、所定の内圧を有する高圧空間45および吸気チャンバ33の内部空間33aより低い内圧を有する低圧空間46の何れかに切換え可能に構成される。エンジンECU17は、制御バルブ42を制御するための動作指令を与えるバルブ制御装置61として機能する。すなわち、制御バルブ42は、バルブ制御装置61の動作指令に基づいてパイロット空間43に連通する空間を切換える。例えば、制御バルブ42は、印加する電圧を変化させることにより切換え動作が行われる一般的な構成の電磁バルブで実現できる。
【0029】
具体的には、制御バルブ42は、パイロット空間43に連通させる空間を高圧空間45および低圧空間46の何れかに切換える弁体42aと、バルブ制御装置61として機能するエンジンECU17からの動作指令に基づいて弁体42aを駆動するアクチュエータ42bとを有している。制御バルブ42は、バルブ制御装置61からの動作指令として信号電圧が第1の信号電圧Lを有する場合に、弁体42aをパイロット空間43と低圧空間46とを連通させる閉位置(
図2において
点線で示す)に移動させ、信号電圧が第1の信号電圧Lより高い第2の信号電圧Hを有する場合に、パイロット空間43と高圧空間45とを連通させる開位置(
図2において
実線で示す)に移動させるように構成される。制御バルブ42の切換え動作に基づいて、昇圧抑制バルブ41の開閉動作が行われる。
【0030】
以下、本実施の形態における昇圧抑制機構40の構成について
図2を用いてより詳しく説明する。昇圧抑制バルブ41は、パイロット空間43と吸気チャンバ33の内圧との差に応じて弁体が開閉する一般的な構成の圧力作動式バルブで実現できる。例えば、昇圧抑制バルブ41は、吸気チャンバ33に取り付けられる弁座71と、弁座71上に設けられる弁箱72とを備えている。弁箱72内には、吸気チャンバ33の内部空間33aとリリーフ通路44との間に設けられ、両空間の遮断と連通とを切換える弁体47と、弁体47を両空間が遮断される方向(弁体47を閉じる方向)Aに付勢する付勢機構48と、弁箱72の内部空間を第1空間41aおよび第2空間41bに区切るダイヤフラム49と、が設けられている。第1空間41aは、パイロット空間43と接続され、第2空間41bは、吸気チャンバ33の内部空間33aと接続される。弁体47は、ダイヤフラム49に連動して開閉方向に移動可能に構成される。ダイヤフラム49は、第1空間41aと第2空間41bとの圧力差に応じて弁体47が開閉方向に移動するように変形可能に構成される。付勢機構48は、ばね等の弾性部材により構成される。なお、昇圧抑制バルブ41は、吸気チャンバ33の開口部に接続される接続パイプ(図示せず)を介して吸気チャンバ33に接続される。
【0031】
ダイヤフラム49がパイロット空間43における圧力および付勢機構48の付勢力により第1空間41aの体積が増えるような方向Aに変形すると、弁体47は弁座71に当接し、吸気チャンバ33の内部空間33aとリリーフ通路44との間が遮断される(
図2において実線で示す)。ダイヤフラム49が吸気チャンバ33の内部空間33aの圧力により第2空間41bの体積が増えるような方向Bに変形すると、弁体47は付勢機構48の付勢力に抗して弁座71から離間し、吸気チャンバ33の内部空間33aとリリーフ通路44との間が連通される(
図2において点線で示す)。
【0032】
このため、パイロット空間43の圧力が大気圧である場合に弁体47が弁座71
から離間し、パイロット空間43の圧力が吸気チャンバ33の内圧である場合に弁体47が弁座71
に当接するように、ダイヤフラム49の構造および付勢機構48の付勢力が設定される。パイロット空間43の圧力をPPとし、吸気チャンバ33の内圧をPAとし、ダイヤフラム49の受圧面積をAとし、付勢機構48の付勢力をFとすると、A(PA−PP)<Fの場合に、吸気チャンバ33の内部空間33aとリリーフ通路44との間が遮断され、A(PA−PP)>Fの場合に、吸気チャンバ33の内部空間33aとリリーフ通路44との間が連通される。ダイヤフラム49の受圧面積および/または第1空間41aと第2空間41bとの圧力差を大きくすることにより、弁体47の駆動力を大きくし易くすることができる。これにより、弁体47により吸気チャンバ33の内部空間33aとリリーフ通路44との間を連通させたときの吸気のリリーフ量を大きくし易くすることができる。
【0033】
このように、昇圧抑制バルブ41は、パイロット空間43と吸気チャンバ33の内部空間との圧力差によって生じる弁体47を開く方向の圧力エネルギが付勢機構48による付勢力より大きいか否かによって弁体47を開閉動作させる。したがって、弁体47の開閉動作において外部から特別な動力を与える必要がない。
【0034】
予め定める開条件を満足しない場合において、バルブ制御装置61は、制御バルブ42の弁体42aを閉位置に移動させる。この場合、昇圧抑制バルブ41の弁体47は、パイロット空間43側からの圧力(弁体47を閉じる方向Aの圧力)と吸気チャンバ33の内圧となる弁体47を開く方向Bの圧力との圧力差が小さくなる。本実施の形態においては、この圧力差が略0になる。このため、弁体47には、付勢機構48の付勢力の分だけ弁体47を閉じる方向Aに力が働く。したがって、昇圧抑制バルブ41は、吸気チャンバ33とリリーフ通路44との間を遮断し、吸気チャンバ33の内部空間33aの圧力上昇が許容される。
【0035】
上記開条件を満足した場合において、バルブ制御装置61は、制御バルブ42の弁体42aを開位置に移動させる。この場合、昇圧抑制バルブ41の弁体47は、吸気チャンバ33の内圧(弁体47を開く方向Bの力)がパイロット空間43側からの圧力および付勢機構48による付勢力(弁体47を閉じる方向Aの力)より大きくなり、弁体47には、弁体47を開く方向Bに力が働く。したがって、昇圧抑制バルブ41は開かれて、吸気チャンバ33とリリーフ通路44との間が連通する。これによって、吸気チャンバ33の内圧の上昇が抑えられる。
【0036】
上述のように、昇圧抑制バルブ41は、圧力エネルギを利用して弁体47を駆動するため、弁体47を大型化し易く、弁体47の開閉時に吸気チャンバ33からリリーフ通路44へ流れる吸気流量(大気開放量)を大きくすることができる。これによって、可及的速やかに過給圧(吸気チャンバ33の内圧)の増加を抑えることができる。一方、制御バルブ42は、パイロット空間43への圧力を導くことができる程度に弁体を電気駆動によって切換え可能であればよい。このため、制御バルブ42の弁体の動作量は、昇圧抑制バルブ41の動作量に比べて小さい。したがって、制御バルブ42は、昇圧抑制バルブ41に比べて小型、軽量に形成することができる。
【0037】
また、昇圧抑制バルブ41は、リリーフ時に吸気が循環するので、吸気チャンバ33内の高温の吸気が多量に弁体47を通過し続けるため、耐熱性が要求される。これに対して、制御バルブ42は、流路を高圧空間45側に切換えても、弁体42aより吸気チャンバ33側の通路(高圧空間45)が閉塞されているので、吸気チャンバ33内の吸気が弁体42aを通過する量が少ない。このため、制御バルブ42は、要求される耐熱性が昇圧抑制バルブ41より低くてもよい。したがって、制御バルブ42として電気作動式のバルブを用いることができる。なお、好ましくは、制御バルブ42は、吸気チャンバ33から離間した位置に形成される。これによって制御バルブ42の吸気チャンバ33からの熱が制御バルブ42に伝わることを防止し、制御バルブ42の温度上昇を抑制することができる。また、制御バルブ42を吸気チャンバ33から離間した位置に形成するために高圧空間45の長さが長くなることにより、制御バルブ42に流れる吸気の温度を低くすることができる。例えば、制御バルブ42は、吸気チャンバ33よりも走行方向上流側(すなわち、車両前方)に配置される。これによれば、走行風によって制御バルブ42の温度上昇をより抑制することができる。
【0038】
以上のように、上記構成によれば、電気式に比べて耐熱性の高い圧力作動式の昇圧抑制バルブ41が用いられる。このため、吸気チャンバ33内の温度が高い場合でも、昇圧抑制バルブ41を適切に作動させることができる。また、昇圧抑制バルブ41は、バルブ制御装置61による動作指令に応じて作動する電気作動式の制御バルブ42を介して開閉動作される。このため、制御バルブ42へ動作指令を与えることにより、昇圧抑制バルブ41を任意のタイミングで開閉させることができる。したがって、吸気チャンバ33の内部空間を開放するタイミングを適切に設定することができる。
【0039】
さらに、例えば、吸気チャンバ33の内圧が所定の圧力より高い場合でも、過給可能な条件を満足した場合には、吸気チャンバ33の内圧上昇を抑制させない制御を行うことが可能となる。例えばスロットルをゆっくり閉じた場合等において、吸気チャンバ33の内圧が急激に上昇しない場合には昇圧抑制バルブ41を閉塞した状態のままにしておくことができる。また、例えば、出力抑制が必要な場合等において、吸気チャンバ33の内圧に拘わらず、昇圧抑制バルブ41を作動させることもできる。
【0040】
さらに、本実施の形態のように、エンジンEのクランクシャフトの回転によって過給機32が駆動される自動二輪車1においては、吸気チャンバ33の内圧が高くなっても、エンジンEの出力軸が回転する限り、過給機32が駆動されるため、吸気チャンバ33の内圧が高くなり易い。このような過給機32を備えた自動二輪車1であっても、圧力作動式の昇圧抑制バルブ41の開閉動作を電気作動式の制御バルブ42を用いて制御することにより、別途エンジンEの動力と過給機32の駆動とを遮断する構造を設けることなく吸気チャンバ33の内部空間を開放するタイミングを適切に設定することができる。
【0041】
本実施の形態において、高圧空間45は、吸気チャンバ33の内部空間に連通されている。これによれば、制御バルブ42によって高圧空間45とパイロット空間43とを連通させた場合に、パイロット空間43と吸気チャンバ33内との圧力差がなくなるため、昇圧抑制バルブ41が誤って開放することを防止することができる。また、低圧空間46は、大気圧空間とされている。これによれば、制御バルブ42によって低圧空間46とパイロット空間43とを連通させた場合に、吸気チャンバ33の内圧が高ければ、パイロット空間43と吸気チャンバ33内との圧力差を生じさせることができる。したがって、圧力差が所定値以上に達した際に、昇圧抑制バルブ41を適切に開放させることができる。また、スロットルバルブ21が故障した際であってもリリーフ通路44を開放させ易くすることができる。
【0042】
ここで、制御バルブ42の弁体をパイロット空間43が低圧空間46に連通する開位置に移動させる開条件(吸気チャンバ33をリリーフする条件)について例示する。
図3は吸気流量に対する吸気チャンバの内圧の関係を示すグラフである。
図3においては複数のエンジン回転数N
1〜N
5(N
1<N
2<N
3<N
4<N
5)における吸気流量と吸気チャンバ33の内圧との関係が示されている。同じエンジン回転数においても吸気流量が少なくなるとサージング現象を生じ易くなる。
図3においてはサージング領域として示されている。過給機32を用いた構成では、スロットルバルブ21が閉じている場合(スロットルオフ時)や半開している場合(パーシャルスロットル時)において過給機32からの過給圧が高くなると吸気流路において抵抗が生じる。この結果、過給機32で加圧された空気が吸気チャンバ33で閉塞される状況が生じ得る。このような状況において、過給機32で加圧された空気は、スロットルバルブ21を抜けられずに過給機32側に逆流し、過給機32の回転羽根に抵抗として伝わる。これがサージング現象と呼ばれる。サージング現象が生じると、過給機32の回転羽根が振動し、回転羽根が破損したりする。また、吸気流量に拘わらず、吸気チャンバ33の内圧が所定の限界圧以上となると、吸気チャンバ33または吸気経路等が破壊される恐れがある。
図3においては破壊領域として示されている。なお、同じエンジン回転数でも吸気流量が最大値近くになると吸気チャンバ33の内圧が低下する傾向にある。
【0043】
また、エンジン回転数が上がるほど吸気チャンバ33の内圧が上がり、吸気流量の最大値も大きくなる傾向にある。なお、
図3の例では、エンジン回転数が高いほどサージングが生じ易い領域(サージング領域)の内圧が高く、吸気流量の最大値が大きい傾向を示しているが、エンジンEおよび/または過給機32の特性によっては、異なる傾向(例えばN
4においてサージングが生じる内圧値がN
3においてサージングが生じる内圧値よりも低い等)を示す場合もある。
【0044】
本実施の形態における第1の制御態様として、バルブ制御装置61は、過給機32の吸気量に対応する値と吸気チャンバ33の内圧とに基づいて、制御バルブ42を制御する。本実施の形態において、過給機32の吸気量に対応する値としてエンジン回転数が用いられる。本実施の形態における過給機32は、エンジンEの動力(クランクシャフトの回転)によって駆動されるため、エンジン回転数と過給機32の吸気量とは対応関係にある。なお、これに代えて、吸気装置36の吸気経路において吸気量を計測し、この計測値を過給機32の吸気量に対応する値として利用してもよい。
【0045】
本実施の形態において、自動二輪車1は、エンジンEのエンジン回転数を計測するエンジン回転数センサ51と、吸気チャンバ33の内圧を計測する圧力センサ52と、を備えている。バルブ制御装置61は、圧力センサ52で計測された内圧がエンジン回転数に応じて予め定められた所定の圧力値(下記限界圧)より大きいか否かをエンジン回転数センサ51で計測されたエンジン回転数に基づいて判定する。
【0046】
具体的には、バルブ制御装置61は、吸気チャンバ33の内圧が、エンジン回転数に応じて設定されている吸気チャンバ33のしきい値(限界圧)より低い領域では、制御バルブ42をパイロット空間43と高圧空間45とを連通させるように制御し、吸気チャンバ33の内圧が限界圧以上の領域では、制御バルブ42をパイロット空間43と低圧空間46とを連通させるように制御する。
【0047】
なお、各エンジン回転数において設定される限界圧は、エンジン回転数によらず一定でもよい。すなわち、設定される限界圧は、
図3に示す破壊領域に基づいて設定されてもよい。しかし、これに限られず、エンジン回転数ごとに限界圧を設定することも可能である。例えば、各エンジン回転数において
図3に示すサージング領域との境界圧に基づいて設定してもよい。
図3に示す例に基づくと、サージング領域との境界圧は、エンジン回転数が高くなるほど高くなる。
【0048】
また、本実施の形態における第2の制御態様として、バルブ制御装置61は、過給機32の吸気量に対応する値(エンジン回転数)とスロットル開度またはスロットル操作量とに基づいて、制御バルブ42を制御する。本実施の形態においては、第1の制御態様および第2の制御態様を両方とも行う場合を説明するが、何れか一方の制御態様のみを行うこととしてもよい。
【0049】
本実施の形態において、自動二輪車1は、スロットルバルブ21の開度を計測するスロットル開度センサ53と、スロットルグリップ7の操作量を計測するスロットル操作量センサ54と、を備えている。バルブ制御装置61は、エンジン回転数とスロットル開度またはスロットル操作量との相関関係を用いて吸気チャンバ33の内圧が予め定められた所定の圧力値より大きいか否かを判定する。
【0050】
具体的には、バルブ制御装置61は、吸気チャンバ33の内圧がエンジン回転数に応じて設定されているスロットル開度のしきい値より高い領域(吸気チャンバ33の内圧が低い領域)では、制御バルブ42をパイロット空間43が高圧空間45に連通するように制御し、スロットル開度がしきい値以下の領域(吸気チャンバ33の内圧が高い領域)では、制御バルブ42をパイロット空間43が低圧空間46に連通するように制御する。例えば、所定のエンジン回転数ごと(例えば1000rpmごと)にしきい値を設定し、その間のエンジン回転数におけるしきい値は、しきい値が設定された隣り合うエンジン回転数における2つのしきい値を補間した値が設定される。なお、これに代えて、所定の関数を適用し、連続的にエンジン回転数に対するしきい値が設定されることとしてもよい。
【0051】
なお、
図3に示す例に基づくと、エンジン回転数に応じて設定されるスロットル開度のしきい値は、エンジン回転数が上がるほど大きくなるが、これに限られず、エンジンEの出力特性等に応じて様々に設定される。
【0052】
前述の通り、同じエンジン回転数でも吸気流量が少なくなるとサージング現象が発生し易くなる。
図3に示すように、同じエンジン回転数において吸気流量が少なくなると吸気チャンバ33の内圧が上昇する。ここで、同じエンジン回転数において吸気流量が変化するのは、同じエンジン回転数でもスロットル開度が異なる場合があるからである。言い換えると、吸気流量とそのときの吸気チャンバ33の内圧とは、エンジン回転数とスロットル開度とを知ることにより把握できる。したがって、エンジン回転数に応じたスロットル開度のしきい値を設定し、これに基づいて制御バルブ42を制御することにより、吸気チャンバ33の内圧がサージング領域との境界圧を超えたか否かに基づく昇圧抑制バルブ41の制御を行うことができる。なお、スロットル開度のしきい値は、サージング領域との境界圧より所定の値だけ低い圧力(
図3に示す領域Zにおける圧力)に対応するスロットル開度の値として設定されてもよい。このように余裕を見てしきい値を設定することにより、実際にサージングが生じる確率を有効に下げることができる。
【0053】
また、スロットル開度に加えてまたはこれに代えてスロットル操作量をエンジン回転数に応じて設定してもよい。すなわち、スロットルバルブ21の開度を直接計測するのに加えてまたはこれに代えてスロットルバルブ21の操作子であるスロットルグリップ7の操作量を計測することによって、スロットルバルブ21の開度を間接的に計測し、この値に基づいて制御バルブ42を制御してもよい。スロットル開度およびスロットル操作量の双方を利用して制御バルブ42を制御する場合は、スロットルバルブ21の動きを直接計測しているスロットル開度のしきい値に基づく制御バルブ42の制御を優先することが好ましい。
【0054】
本実施の形態において、エンジンECU17は、昇圧抑制バルブ41および/または制御バルブ42の故障の有無を判定する故障判定装置62として機能する。故障判定装置
62は、圧力センサ52で計測される吸気チャンバ33の内圧および制御バルブ42の作動状態等から昇圧抑制バルブ41および/または制御バルブ42の故障の有無を判定する。制御バルブ42の作動状態は、制御バルブ42への動作指令の信号電圧を検出することにより、把握することができる。なお、制御バルブ42の弁体および/または昇圧抑制バルブ41の弁体47の開度を計測するバルブ開度センサを設けて、各バルブ41,42の開度を直接計測することとしてもよい。
【0055】
故障判定装置62は、例えば制御バルブ42が常時パイロット空間43を高圧空間45に連通させる状態にある場合(条件1)、制御バルブ42がパイロット空間43を低圧空間46に連通させる状態にあり、かつ、吸気チャンバ33の内圧が上記破壊領域内(限界圧以上)である期間が所定時間以上継続した場合(条件2)、および、制御バルブ42がパイロット空間43を高圧空間45にを連通させる状態にあるにもかかわらず、予め設定されたエンジン回転数の範囲において所定期間における吸気チャンバ33の内圧の変化量が所定の範囲未満である場合(条件3)等の何れか1つを満たすと、故障であると判定する。故障判定は、随時または所定のタイミング(エンジンEの始動時、制御バルブ42作動時等)に行われる。
【0056】
さらに、エンジンECU17は、故障判定装置62の判定結果に基づいてエンジンEの出力を制御するエンジン出力制御装置63として機能する。エンジン出力制御装置63は、故障判定装置62が、制御バルブ42を介して昇圧抑制バルブ41によるリリーフ通路44への開放ができない状態であると判定した場合に、吸気チャンバ33の圧力上昇を抑制するようにエンジンEの出力を抑制させる。
【0057】
例えば故障判定装置62が上記条件1から条件3の何れかを満たすと判定した場合、エンジン出力制御装置63は、エンジンEの出力を抑制させる。エンジンEの出力を抑制させる手段としては、例えば、電子制御式のスロットル装置16を採用する場合にスロットルバルブ21を閉じる方向に作動させたり、所定のエンジン回転数以上において点火プラグによる点火を停止または燃料供給を停止したり、点火タイミングを遅らせたり、燃料供給量を変更したりする。これにより、昇圧抑制バルブ41が固着により動かなくなった場合等において、吸気チャンバ33の内部空間をリリーフ通路44に連通させることができなくなることにより、吸気チャンバ33の内圧上昇を抑制できなくなる状態を防止することができる。なお、エンジン出力制御装置63は、過給機32による過給圧が所定値以上となるようなエンジン回転数である過給回転数域に到達しないようにエンジン回転数を制御することが好ましい。
【0058】
一方、エンジン出力制御装置63は、エンジン出力制御装置63は、故障判定装置62が、制御バルブ42を介して昇圧抑制バルブ41により吸気チャンバ33の内部空間をリリーフ通路44と遮断できない状態であると判定した場合であっても、エンジンEの出力を抑制する制御は行わなくてもよい。例えば昇圧抑制バルブ41の弁体47のバルブ開度を直接計測する場合に、制御バルブ42への動作指令にかかわらず昇圧抑制バルブ41の弁体47が常時開放状態であることが検出されると、故障判定装置62は故障であると判定する。しかし、この場合には、吸気チャンバ33の内圧上昇を抑制することができないという状況は生じないため、エンジン出力制御装置63は、エンジンEの出力を抑制する制御は行わなくてもよい。
【0059】
なお、故障判定装置62は、エンジンECU17を含む制御回路における地絡や短絡の発生により故障であると判定し、エンジン出力制御装置63がこれに基づいてエンジンEの出力を抑制する制御を行ってもよい。
【0060】
<第2の実施の形態>
次に、第2の実施の形態について説明する。
図4は本発明の第2の実施の形態における自動二輪車の吸気経路に関する概略構成を示すブロック図である。本実施の形態において第1の実施の形態と同様の構成については同じ符号を付し説明を省略する。本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、故障判定に基づくエンジン出力抑制制御等を行うことができる。
【0061】
本実施の形態における自動二輪車の昇圧抑制機構40Bが第1の実施の形態の昇圧抑制機構40と異なる点は、低圧空間46Bが、スロットル装置16よりも下流側の吸気通路20aとなっていることである。すなわち、制御バルブ42が低圧空間46
Bとパイロット空間43とを連通させた際に、パイロット空間43は、吸気通路20のスロットルバルブ21よりも下流側の通路20aに連通される。
【0062】
スロットル装置16よりも下流側の吸気通路20aは、大気圧よりも低い圧力(負圧)となり易い。吸気チャンバ33の内圧が高くなるのは、スロットルバルブ21が閉じた状態である場合が多く、その状態において吸気通路20aの圧力は特に低くなる。したがって、昇圧抑制バルブ41を開放するための圧力としてこのような負圧を利用することにより、昇圧抑制バルブ41の応答性を向上させることができる。本実施の形態のように、昇圧抑制バルブ41を閉じる側に付勢機構48を用いて付勢している場合、当該付勢機構48の付勢方向(
図7における方向A)とは反対方向に昇圧抑制バルブを動かすことになるため、負圧を用いることにより、付勢機構48の付勢力に抗する力を容易に得ることができる。したがって、付勢機構48の付勢力を大きくすることができ、不所望に昇圧抑制バルブ41が開いてしまうことを防止することができる。
【0063】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、上記実施の形態においては、圧力作動式の昇圧抑制バルブ41を1つ備える例について説明したが、圧力作動式の昇圧抑制バルブ41を複数設けることとしてもよい。この場合、電気作動式の制御バルブ42は複数の昇圧抑制バルブ41に共通であってもよい。すなわち、1つの制御バルブ42によって複数の昇圧抑制バルブ41が一括制御されてもよい。これによれば、1つの制御バルブ42を制御することにより、複数の昇圧抑制バルブ41を駆動させることができるため、昇圧抑制バルブ41の数を変えることで吸気のリリーフ量を容易に調整することができる。これに代えて、所定の昇圧抑制バルブ41ごとに複数の制御バルブ42を対応させて各昇圧抑制バルブ41を個別に制御することとしてもよい。
【0064】
また、圧力作動式の昇圧抑制バルブ41に加えて、電気作動式の昇圧抑制バルブを吸気チャンバ33に設けてもよい。
【0065】
上記実施の形態においては、吸気チャンバ33を冷却するためのインタークーラを設けることなく、吸気チャンバ33の内圧の上昇を抑制することができる。ただし、インタークーラを備えた鞍乗型乗り物についても適用可能である。
【0066】
また、高圧空間45は、エンジンEの排気通路であってもよい。エンジンEの排気通路内の圧力(排気圧)は、負圧となるため、負圧を利用する第2の実施の形態と同様に、排気圧を昇圧抑制バルブ41の開放に利用することができる。
【0067】
また、過給機32を駆動する動力として、エンジンEの動力を用いる代わりに、別途モータ等の駆動源を設けてその動力を用いて過給機32を駆動してもよいし、排気エネルギから動力を取り出すこととしてもよい。
【0068】
昇圧抑制バルブ41の開条件は、上記実施の形態で例示した条件以外の条件に設定してもよい。例えば、吸気チャンバ33の内圧のみに基づいて昇圧抑制バルブ41を開閉する構成としてもよい。なお、制御バルブ42として圧力差によらない駆動が可能な電磁弁を用いているため、吸気チャンバ33の内圧以外の条件を昇圧抑制バルブ41の開条件に設定してもよい。例えば、排気温度または冷却水温度が所定値を超えた場合に、昇圧抑制バルブ41を開いて過給圧の上昇を抑制してもよい。この他、過給圧の上昇を抑制することが望まれる条件において、昇圧抑制バルブ41を開く制御を行ってもよい。
【0069】
また、上記実施の形態においては、鞍乗型乗り物として自動二輪車が例に挙げられているが、自動二輪車に限られず、その他の鞍乗型の車両であってもよいし、多目的車両などの居住空間を有する四輪車や、小型船舶のような車両以外の乗り物であってもよい。
【0070】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施の形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。