特許第6293371号(P6293371)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6293371
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】パイプ用プロピレン系共重合体組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/12 20060101AFI20180305BHJP
   C08L 23/14 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   C08L23/12
   C08L23/14
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-517239(P2017-517239)
(86)(22)【出願日】2015年9月9日
(65)【公表番号】特表2017-530234(P2017-530234A)
(43)【公表日】2017年10月12日
(86)【国際出願番号】EP2015070529
(87)【国際公開番号】WO2016050461
(87)【国際公開日】20160407
【審査請求日】2017年3月30日
(31)【優先権主張番号】14187259.8
(32)【優先日】2014年10月1日
(33)【優先権主張国】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513076604
【氏名又は名称】バーゼル・ポリオレフィン・イタリア・ソチエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】クラウディオ・カヴァリエリ
(72)【発明者】
【氏名】モニカ・ガルヴァン
(72)【発明者】
【氏名】ジャンパオロ・ペレガッティ
(72)【発明者】
【氏名】フランセスカ・ティジ
【審査官】 久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−234318(JP,A)
【文献】 特表2011−528052(JP,A)
【文献】 特表2007−501298(JP,A)
【文献】 特開2004−196959(JP,A)
【文献】 特表2001−522904(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02505606(EP,A1)
【文献】 国際公開第2011/160953(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/00−23/36
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)90.0重量%〜99.0重量%のプロピレンホモポリマーであって:
(i)多分散指数が5〜10であり、
(ii)25℃でのキシレン可溶物が4.0重量%〜1.0重量%であり;
(iii)メルトフローレート(230℃/5kg、ISO1133)が0.2g/10分〜3.5g/10分である、プロピレンホモポリマーと;
B)1.0重量%〜10.0重量%のプロピレンエチレン共重合体組成物であって:
1)25℃で測定したキシレン可溶物の含有量が10重量%よりも少なく;メルトフローレート(230℃/2.16kg、ISO1133)が50g/10分〜120g/10分である;14重量%〜52重量%のプロピレンホモポリマーまたはエチレン誘導単位の含有量が0.1重量%〜4.5重量%であるプロピレン/エチレン共重合体;
b2)エチレン誘導単位の含有量が20.0重量%〜55.0重量%である48重量%〜86重量%のプロピレンエチレン共重合体を含む、プロピレン、エチレン共重合体組成物とを含む、ポリオレフィン組成物であって;
前記仕上がったポリオレフィン組成物は、メルトフローレート(230℃/5kg、ISO1133)が0.2g/10分〜4.0g/10分であり;A+Bの合計量は100であり、b1+b2の合計量は100である、ポリオレフィン組成物。
【請求項2】
成分A)は98.5〜95重量%であり、成分B)は1.5重量%〜5.0重量%である、請求項1に記載のポリオレフィン組成物。
【請求項3】
成分B)のb1)は、22重量%〜38重量%であり、成分b2)は62重量%〜78重量%である、請求項1または2に記載のポリオレフィン組成物。
【請求項4】
前記仕上がったポリオレフィン組成物は、メルトフローレート(230℃/5kg、ISO1133)が0.5g/10分〜2g/10分である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリオレフィン組成物。
【請求項5】
前記成分B)の成分b1)はプロピレンホモポリマーである、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリオレフィン組成物。
【請求項6】
前記成分B)の成分b2)は、25℃でのキシレン可溶画分の固有粘度が1.5dl/g〜3.9dl/gのプロピレンエチレン共重合体である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリオレフィン組成物。
【請求項7】
請求項1〜5の何れか一項に記載のポリオレフィン組成物を含むパイプ。
【請求項8】
下水管である、請求項7に記載のパイプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プロピレンホモポリマーおよび異相プロピレンエチレン共重合体を含み、とりわけ低温で使用する下水管の生産に特に適している組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレンエチレン共重合体は、パイプの生産向けに既に先行技術で公知である。
【0003】
例えば、国際特許出願第97/33117号によれば、耐クリープ性が高く、長期にわたる耐圧性が高く、急速な亀裂伝播に対する剛性および耐性も向上しているポリプロピレンプラスチック材料のパイプを入手できる。同文献によれば、ポリプロピレンプラスチックのパイプの大惨事を招く破損は、パイプが様々なポリプロピレンプラスチック材料からなる複数の層でできていて、少なくとも1つの層が高い耐クリープ性を実現する広い分子量分布(MWD)のポリプロピレンからなり、かつ少なくとも1つの層が衝撃強度を向上させるエラストマー変性ポリプロピレンからなる場合に防止される。この広いMWDのポリプロピレンは、1〜10重量%のエチレンを含む極めて高分子量のプロピレンランダム共重合体または高級−a−オレフィン反復単位と、コモノマーが少ない(最大1重量%)またはゼロの低分子量のプロピレンポリマーとの混合物である。
【0004】
特に直径の小さいパイプが必要とされるとき、パイプの壁厚が薄いことが重要である。これによって、含有材料が少ないパイプを得ることが可能になり、とりわけ内径が大きくなることによって供給という点でパイプの効率を向上させることが可能になる。しかしながら、壁厚が薄くなるとパイプがもろくなるおそれがあるため、特に低温では衝撃耐性の強い材料を使用する必要がある。さらに、パイプに使用する材料は、硬質のパイプを実現するために高い曲げ弾性率を有していなければならない。通常ポリプロピレン系組成物の場合、アイゾットが向上すると曲げ弾性率が下がる。本出願人は、基本的に剛性を損なうことなく良好な衝撃と剛性のバランスを得るために、特定の特徴を有する少量の異相共重合体をプロピレンエチレン共重合体に添加できることを見出した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の目的は:
A)90.0重量%〜99.0重量%のプロピレンホモポリマーであって:
(i)多分散指数が5〜10であり、
(ii)25℃でのキシレン可溶物が4.0重量%〜1.0重量%であり;
(iii)メルトフローレート(230℃/5kg、ISO1133)が0.2g/10分〜3.5g/10分である、プロピレンホモポリマーと;
B)1.0重量%〜10.0重量%のプロピレン、エチレン共重合体組成物であって:
b1)25℃で測定したキシレン可溶物の含有量が10重量%よりも少なく;メルトフローレート(230℃/2.16kg、ISO1133)が50g/10分〜120g/10分である;14重量%〜52重量%のプロピレンホモポリマーまたはプロピレン/エチレン共重合体(該プロピレン/エチレン共重合体は、エチレン誘導単位の含有量が0.1重量%〜4.5重量%である)
b2)エチレン誘導単位の含有量が20.0重量%〜55.0重量%である48重量%〜86重量%のプロピレンエチレン共重合体を含んでいる、プロピレン、エチレン共重合体組成物とを含む、ポリオレフィン組成物であって;
仕上がったポリオレフィン組成物は、メルトフローレート(230℃/5kg、ISO1133)が0.2g/10分〜4.0g/10分であり;A+Bの合計量は100であり、b1+b2の合計量は100である、ポリオレフィン組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
そのため、本開示の目的は:
A)90.0重量%〜99.0重量%;好ましくは93.0重量%〜98.5.0重量%、さらに好ましくは98.5重量%〜95.0重量%のプロピレンホモポリマーであって:
(i)多分散指数が5〜10であり、
(ii)25℃でのキシレン可溶物が4.0重量%〜1.0重量%;好ましくは3.0重量%〜2.0重量%であり;
(iii)メルトフローレート(230℃/5kg、ISO1133)が0.2g/10分〜3.5g/10分;好ましくは0.6g/10分〜2.0g/10分である、プロピレンホモポリマーと;
B)1.0重量%〜10.0重量%;好ましくは1.5重量%〜7.0重量%;さらに好ましくは1.5重量%〜5.0重量%のプロピレン、エチレン共重合体組成物であって:
b1)25℃で測定したキシレン可溶物の含有量が10重量%よりも少なく;好ましくは8重量%よりも少なく;さらに好ましくは7重量%よりも少なく;メルトフローレート(230℃/2.16kg、ISO1133)が50g/10分〜120g/10分;好ましくは72g/10分〜115g/10分;さらに好ましくは80g/10分〜95g/10分である;14重量%〜52重量%;好ましくは18重量%〜44重量%;さらに好ましくは22重量%〜38重量%のプロピレンホモポリマーまたはプロピレン/エチレン共重合体(該プロピレン/エチレン共重合体は、エチレン誘導単位の含有量が0.1重量%〜4.5重量%である)
b2)エチレン誘導単位の含有量が20.0重量%〜55.0重量%;好ましくは28重量%〜45重量%;さらに好ましくは32重量%〜40重量%である;48重量%〜86重量%;好ましくは56重量%〜82重量%;さらに好ましくは62重量%〜78重量%のプロピレンエチレン共重合体を含む、プロピレン;エチレン共重合体組成物とを含む、ポリオレフィン組成物であって:
仕上がったポリオレフィン組成物は、メルトフローレート(230℃/5kg、ISO1133)が0.2g/10分〜4.0g/10分;好ましくは0.4g/10分〜3.0g/10分;さらに好ましくは0.5g/10分〜2g/10分であり;A+Bの合計量は100であり;b1+b2の合計量は100である、ポリオレフィン組成物である。
【0007】
共重合体という用語は、2つのモノマーのみ;好ましくはプロピレンとエチレンを含むポリマーを意味する。
【0008】
成分B)のうち、成分b1)は好ましくはプロピレンホモポリマーである。
【0009】
成分B)のうち、成分b2)は、好ましくは、25℃でのキシレン可溶画分の固有粘度が1.5dl/g〜3.9dl/g;好ましくは2.2dl/g〜3.2dl/gであるプロピレンエチレン共重合体である。
【0010】
本開示のポリオレフィン組成物を用いると、高弾性率および高衝撃耐性を有するパイプ、特に下水管を得ることが可能である。
【0011】
そのため、本開示のさらに別の目的は、本開示の組成物を含むパイプである。
【0012】
本明細書で使用している「パイプ」という用語は、パイプ継手、バルブ、および一般に湯輸送システムなどに必要なあらゆる部品も含む。また、定義に含まれるものとして、単一層のパイプおよび複数層のパイプもあり、複数層のパイプは、例えば1つ以上の層が金属層であり、接着層を含んでいてもよい。
【0013】
このような物品は、先行技術で公知の多様な産業工程、例えば成形、押出などを介して製造され得る。
【0014】
本開示のさらに別の実施形態では、本開示の組成物は、その組成物の100重量部に対して0.5〜60重量部の量である無機充填材をさらに含んでいる。このような充填材の典型例が、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタンおよびタルクである。タルクおよび炭酸カルシウムが好ましい。多くの充填剤は、核剤でもあるタルクのように、成核作用も有し得る。核剤の量は、ポリマーの量に対して通常0.2〜5重量%である。
【0015】
本開示の組成物は、内面と外面が滑らかな構造以外の任意の構造の壁をパイプに設けるのにも適している。例として、サンドイッチ状のパイプ壁を備えたパイプ、長手方向に延びる空洞を備えた中空の壁構造であるパイプ、螺旋状の空洞を備えた中空の壁構造であるパイプ、パイプの両端部とは関係なく滑らかな内面と緻密もしくは中空で螺旋形状または環状のリブがある外面とを有するパイプがある。
【0016】
本開示による物品、圧力管およびこれ関連する取付部品は、それ自体が公知の方法で、例えば(共)押出または成形によって生産される。
【0017】
物品の押出は、ポリオレフィン用の異なる種類の押出機、例えば単軸スクリューまたは二軸スクリュー押出機で実施され得る。
【0018】
本開示のさらに別の実施形態は、前記組成物を前記物品に成形する工程である。
【0019】
パイプが複数層である場合、少なくとも1つの層が前述したポリオレフィン組成物で作製される。その他の(1つまたは複数の)層は、R−CH=CH2オレフィンの非結晶質ポリマーまたはまたは結晶ポリマー(ホモポリマーおよび共重合体またはテルポリマーなど)で作製され、式中Rは水素原子またはC−Cアルキル基である。特に好ましいのは以下のポリマーである:
アイソタクチックまたは主にアイソタクチックのアイソタクチックプロピレンホモポリマー;
エチレンおよび/または1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテンなどのC4−C8α−オレフィンを含み、全体のコモノマー含有量が0.05%〜20重量%である、プロピレンのランダムな共重合体およびテルポリマー、またはアイソタクチックまたは主にアイソタクチックのプロピレンホモポリマーを含む前記ポリマーの混合物;
(a)プロピレンホモポリマーおよび/または項目の共重合体およびテルポリマーのうちの1つ(2)と、プロピレンを含むエチレンの共重合体およびテルポリマーおよび/またはC4−C8α−オレフィンを含むエラストマー部分(b)とを含み、必要に応じてそれよりも少ない量のジエンを含有し、異相ポリマーのブレンド(これをポリマー(2)(a)として開示する);
フッ素化ポリマー、ポリビニルジフルオライド(PVDF)などの非結晶質ポリマー、などである。
【0020】
複数層のパイプでは、パイプの層は、同じ厚みを有していても異なる厚みを有していてもよい。
【0021】
本開示の組成物は、様々な成分A)、b1)およびb2)をブレンドすることによって、または成分A)を製造することによって製造でき、この成分を連続重合工程による単一の重合処理で製造した成分B)とブレンド可能である。
【0022】
A)とB)の重合は、チーグラー・ナッタ触媒の存在下で実行され得る。この触媒の本質成分が、少なくとも1つのチタン−ハロゲン結合を有するチタン化合物および電子供与体化合物を含む固体触媒成分であり、この両化合物は活性型のマグネシウムハロゲン化物に担持されている。別の本質成分(助触媒)が、アルミニウムアルキル化合物などの有機アルミニウム化合物である。
【0023】
必要に応じて、外部供与体を添加する。
【0024】
本開示の工程で概して使用する触媒は、周囲温度でのキシレン不溶性の値が90%よりも大きい、好ましくは95%よりも大きいポリプロピレンを生成することができる。
【0025】
上記の特徴を有する触媒は特許文献で公知であり、特に有利なものは米国特許第4,399,054号および欧州特許第45977号に記載されている触媒である。その他の例を米国特許第4,472,524号に見出すことができる。
【0026】
前記触媒で使用される固体触媒成分は、電子供与体(内部供与体)として、エーテル、ケトン、ラクトン、N、Pおよび/またはS原子を含有する化合物、ならびにモノカルボン酸およびジカルボン酸のエステルからなる群から選択される化合物を含む。
【0027】
特に適切な電子供与体化合物は、フタル酸のエステルおよび次式:
【0028】
【化1】
【0029】
の1,3−ジエーテルである。式中、RIとRIIは同じまたは異なり、C1−C18アルキル基、C3−C18シクロアルキル基またはC7−C18アリール基であり;RIIIおよびRIVは同じまたは異なり、C1−C4アルキル基であるか;1,3−ジエーテルであり、2位の炭素原子が、5個、6個、または7個の炭素原子からなるか、または5−n個または6−n’個の炭素原子からなる環式構造または多環式構造に属し、いずれの場合もn個の窒素原子およびn’個のヘテロ原子はN、O、SおよびSiからなる群から選択され、nは1または2であり、n’は1、2、または3であり、前記構造は2つまたは3つの不飽和(シクロポリエン構造)を含有し、必要に応じて他の環式構造で縮合されるか、線状もしくは分枝のアルキル基;シクロアルキル、アリール、アラルキル、アルカリール基およびハロゲンからなる群から選択される1つ以上の置換基で置換されるか、他の環式構造で縮合され、かつ縮合した環式構造に結合することもできる1つ以上の前述の置換基で置換され;1つ以上の前述のアルキル、シクロアルキル、アリール、アラルキル、またはアルカリール基および縮合した環式構造が、必要に応じて炭素原子もしくは水素原子、またはその両方の置換基として1つ以上のヘテロ原子を含有する。
【0030】
この種のエーテルは、公開されている欧州特許出願第361493号および同第728769号に記載されている。
【0031】
このジエーテルの代表例は、2−メチル−2−イソプロピル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジイソブチル−1,3−ジメトキシプロパン、2−イソプロピル−2−シクロペンチル−1,3−ジメトキシプロパン、2−イソプロピル−2−イソアミル−1,3−ジメトキシプロパン、9,9−ビス(メトキシメチル)フルオレンである。
【0032】
その他の適切な電子供与体化合物は、ジイソブチル、ジオクチル、ジフェニルおよびベンジルブチルフタレートなどのフタル酸エステルである。
【0033】
上記の触媒成分の製造は、様々な方法に従って行う。
【0034】
例えば、MgCl2・nROHアダクト(特に回転楕円形の粒子)(nは一般に1〜3であり、ROHはエタノール、ブタノールまたはイソブタノールである)を、電子供与体化合物を含有する過剰なTiCl4と反応させる。反応温度は一般に80〜120℃である。次に、固体を単離し、電子供与体化合物の存在下または不存在下で再度TiCl4と反応させ、その後、分離し、塩素イオンがすべて消失するまで炭化水素のアリコートで洗浄する。
【0035】
固体触媒成分では、Tiと表されるチタン化合物が一般に0.5〜10重量%の量で存在する。固体触媒成分に固定されたままの電子供与体化合物の量は、一般にマグネシウムジハロゲン化物に対して5〜20モル%である。
【0036】
固体触媒成分を製造するのに使用できるチタン化合物は、チタンのハロゲン化物及びハロゲンアルコラートである。四塩化チタンが好適な化合物である。
【0037】
上記の反応で、活性形のマグネシウムハロゲン化物の形成が生じる。その他の反応が文献で公知であり、それによって、マグネシウムカルボン酸塩などのハロゲン化物以外のマグネシウム化合物から始まって活性形のマグネシウムハロゲン化物の形成が起こる。
【0038】
助触媒として使用するAl−アルキル化合物は、Al−トリエチル、Al−トリイソブチル、Al−トリーn−ブチルのようなAl−トリアルキルと、OもしくはN原子、またはSO4もしくはSO3基により互いに結合した2個以上のAl原子を含有する線状もしくは環式のAl−アルキル化合物とを含む。
【0039】
Al−アルキル化合物は、一般にAl/Ti比が1〜1000であるような量で使用される。
【0040】
外部供与体として使用できる電子供与体化合物には、安息香酸アルキルのような芳香族酸エステル、および特に、少なくとも1つのSi−OR結合(この場合のRは炭化水素基)を含有するケイ素化合物がある。
【0041】
ケイ素化合物の例は、(tert−ブチル)2Si(OCH3)2、(シクロヘキシル)(メチル)Si(OCH3)2、(シクロペンチル)2Si(OCH3)2および(フェニル)2Si(OCH3)2および(1,1,2−トリメチルプロピル)Si(OCH3)3である。
【0042】
上記の式を有する1,3−ジエーテルも有利に使用できる。内部供与体がこれらのジエーテルの1種である場合、外部供与体を省略できる。
【0043】
特に、前述した触媒成分の多くのその他の組合せで本開示による組成物を得ることができたとしても、成分A)およびB)は、好ましくは、内部供与体としてフタレートを含有し、かつ外部供与体として(シクロペンチル)2Si(OCH3)2を含有するか、あるいは内部供与体として前記1,3−ジエーテルを含有する触媒を使用することにより製造される。
【0044】
さらに、本開示のプロピレンポリマーを生成するのに使用できるチーグラー・ナッタ触媒は、マグネシウムハロゲン化物と、前述した少なくとも1つのTi−ハロゲン結合を有するチタン化合物と、コハク酸塩および1,3ジエーテルから選択されるその他のものから選択される少なくとも2つの電子供与体化合物とを含む固体触媒成分である。
【0045】
成分A)は、好ましくは、欧州特許出願第1012195号に記載されている重合工程で生成される。
【0046】
詳細には、前記工程は、触媒が反応条件下にある状態でモノマーを前記重合領域に供給することと、前記重合領域からポリマー製品を回収することとを含む。前記工程では、成長中のポリマー粒子は、高速流動化の条件下で前記重合領域のうちの1つ(第1の)(上昇管)を通って上向きに流れ、前記上昇管から出て別の(第2の)重合領域(下降管)に入り、この下降管を通って重力の作用を受けて高密度の形態で下向きに流れ、前記下降管を出て再び上昇管に入り、このようにして上昇管と下降管との間でポリマーの循環を達成する。
【0047】
下降管では、固体の密度が高い値に達し、この値はポリマーのかさ密度に近づく。そのため、流れる方向に沿って圧力増大を実現でき、それによって特別な機械手段を用いることなく再びポリマーを上昇管に導入することが可能になる。このようにして、「ループ」状の循環が達成され、この循環は、2つの重合領域の間の圧力のバランス、およびシステムに導入される水頭損失によって決まる。
【0048】
一般に、上昇管での高速流動化の条件は、関連するモノマーを含む気体混合物を前記上昇管に供給することで確立される。気体混合物の供給は、必要に応じてガス分配手段を用いてポリマーを前記上昇管に再導入する点よりも下で実施することが好ましい。上昇管への輸送ガスの速度は、動作条件下の輸送速度よりも高く、好ましくは2〜15m/秒である。
【0049】
一般に、上昇管から出ていくポリマーおよび気体混合物は、固体と気体の分離領域に運搬される。固体と気体の分離は、従来の分離手段を用いて実施され得る。ポリマーは分離領域から下降管に入る。分離領域から出ていく気体混合物は、圧縮され、冷却され、必要に応じてモノマー構成物および/または分子量調整剤を添加して、上昇管に輸送される。輸送は、気体混合物の再循環ラインを介して実施され得る。
【0050】
2つの重合領域の間を循環するポリマーの制御は、固体の流れを制御するのに適した手段、例えば機械バルブなどを用いて、下降管から出て行くポリマーの量を測定することによって実施され得る。
【0051】
温度などの動作パラメータはオレフィン重合工程で通例のものであり、例えば50〜120℃である。
【0052】
この第1段階の工程は、0.5〜10MPa、好ましくは1.5〜6MPaの動作圧力下で実行され得る。
【0053】
有利には、不活性ガスの分圧の合計が気体の合計圧力の好ましくは5〜80%であるような量で、重合領域に1種類以上の不活性ガスを保持する。不活性ガスは、例えば窒素またはプロパンであってよい。
【0054】
様々な触媒は、上昇管の任意の点でその上昇管まで供給される。ただし、触媒は下降管の任意の点で供給されてもよい。触媒はそのような物理的状であってもよく、したがって、固体状態または液体状のいずれかの触媒を使用できる。
【0055】
以下の実施例は、本開示を説明するために限定する目的なしに挙げるものである。
【実施例】
【0056】
特徴表示方法
融解温度および結晶化温度:示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimetry、DSC)によって測定する。重さ6±1mgで、20℃/分の率で220±1℃まで加熱し、窒素流内で2分間220±1℃に保持し、その後、20℃/分の率で40±2℃まで冷却し、そのようにして2分間この温度で保持して試料を結晶化する。次に、試料を最大220℃±1まで20℃/分の温度上昇率で再度溶解させる。溶融走査を記録し、サーモグラムを取得し、そこから融解温度および結晶化温度を読み取る。
【0057】
メルトフローレート:ISO1133の方法(230℃、5kgまたは2.16kg)に従って測定した。
【0058】
25℃でのキシレン可溶性:以下のように測定した。
【0059】
ポリマー2.5gおよびキシレン250mlを冷蔵庫および磁気撹拌機を備えたガラスフラスコに導入する。30分で溶媒の沸点まで温度を上昇させる。このようにして得られた透明な溶液を還流下に保持し、さらに30分間撹拌する。次に、閉じたフラスコを氷水浴内に30分間保持し、25℃の恒温水浴内にも30分間保持する。このようにして形成された固体を高速濾紙で濾過する。濾過した液体100mlを事前に秤量したアルミニウム容器に注入し、これを窒素流下において加熱プレート上で加熱し、蒸発により溶媒を除去する。次に容器を80℃の炉で一定重量になるまで真空下に保持する。次に室温でキシレンに可溶のポリマーの重量百分率を算出する。
【0060】
ポリマーのエチレン含有量(C2含有量)
エチレン含有量を赤外分光法で測定した。圧縮フィルムの試料をASTM D5576〜00(2013)に従って製造した。ポリマーの圧縮フィルムのスペクトルを吸光度対波数(cm−1)として記録する。以下の測定を用いてC2含有量を算出する:
a)フィルム厚の分光標準化に用いられる4482〜3950cm−1の吸収帯を合わせた面積(At)。
b)アイソタクチックポリプロピレン(IPP)基準スペクトルを正確にデジタル減算した後のメチレン配列(CH2ロッキング振動)によって生じる吸収帯の面積(AC2)。範囲は660〜790cm−1。
【0061】
降伏点伸び:ISO527に従って測定した。
【0062】
破断点伸び:ISO527に従って測定した。
【0063】
破断応力:ISO527に従って測定した。
【0064】
アイゾット衝撃強さ
IS018011Aに従って算出した。
【0065】
機械解析用の試料
試料をISO294−2に従って得た。
【0066】
曲げ弾性率
ISO178に従って測定算出した。
【0067】
引張弾性率
ISO527に従って算出した。
【0068】
機械解析用の試料
試料をISO1873−2:2007に従って得た。ただし曲げ弾性率についてはISO3167を用いた。
【0069】
多分散指数(PI):RHEOMETRICS(米国)が販売する平行平板型レオメーターモデルRMS−800を使用し、0.1ラジアン/秒から100ラジアン/秒に増加する発振周波数で作動させて温度200℃で算出する。クロスオーバーしている弾性率から、次式を用いてP.I.を求めることができる:
【0070】
P.I.=105/Gc
【0071】
式中Gcはクロスオーバーしている弾性率であり、これは、G’=G”で、G’が貯蔵弾性率でG”が損失弾性率であるときの値(Paで表す)と定義される。
【0072】
成分A)
成分A)用の固体触媒成分の製造
機械撹拌器、ジャケットおよび熱電対を備え、窒素でパージした2000mLの5つ口ガラス製反応器に1000mLのTiCl4を導入し、反応器を−5℃で冷却した。撹拌しながら、平均粒子サイズが58μmの微小球状MgCl2・1.7C2H5OH(欧州特許第728769号の実施例1に記載の方法に従って製造)を−5℃で60.0g添加した。温度を40℃に上昇させ、Mg/コハク酸塩のモル比が13になるような量のジエーテル2,3−ジイソプロピルコハク酸を添加した。温度を100℃まで上昇させ、この値を60分間保持した。その後に撹拌を15分間停止し、固体を沈降させた。液体をサイホンで吸い上げた。サイホンで吸い上げた後、新鮮なTiCl4およびMg/ジエーテルのモル比が26になるような量量の9,9−ビス(メトキシメチル)フルオレンを添加した。その後、温度を110℃まで上昇させ、撹拌しながら30分間保持した。次に反応器を75℃で冷却し、撹拌器を15分間停止した。沈殿させサイホンで吸い上げた後、新鮮なTiCl4を添加した。次に温度を90℃まで上昇させ、懸濁液を15分間撹拌した。次に温度を75℃まで低下させ、撹拌器を15分間停止した。沈殿させサイホンで吸い上げた後、固体を無水ヘキサンを用いて60℃で6回(6x1000ml)かつヘキサンを用いて25℃で1回洗浄した。固体をロータリーエバポレーターで乾燥させた。
【0073】
実施例1、2および比較実施例3に対する触媒系の製造
重合反応器に導入する前に、前述の固体触媒成分を温度15℃でアルミニウムトリエチル(TEAL)およびジシクロペンチルジメトキシシラン(DCPMS)と接触させた。
【0074】
予備重合
次に、触媒系を液状プロピレン中に9分間の滞留時間にわたって浮遊状態に維持して20℃で予備重合処理に供してから重合反応器に導入した。
【0075】
重合作業を欧州特許第1012195号に記載の重合機で連続的に実行した。
【0076】
触媒を、互いに連結している2つの筒状反応器である上昇管および下降管を備えている重合機に搬送した。気体と固体の分離装置から気体を再循環させることによって、上昇管内で高速に流動させる条件が確立される。分子量調節剤として水素を使用した。表1に重合条件を記録する。
【0077】
【表1】
【0078】
成分Aの特性を表2に記録した。
【0079】
【表2】
【0080】
成分B)
成分B)は、連続気相重合によって得た市販の異相ポリマーであり、ポリマーの特徴を表3に記録する。
【0081】
【表3】
【0082】
成分AとBを様々な百分率でブレンドした。生じたブレンドの特性を表5に記録し、比較実施例2の特定と比較する。
【0083】
【表4】
【0084】
表4から、生じたブレンドの衝撃特性は向上し、曲げ弾性率は実質的に変化しないことが明らかになった。