(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも1つのパラジウム塩および少なくとも1つの不飽和カルボン酸を含む第1の組成物を加温して、安定なパラジウムナノ粒子および少なくとも1つのパラジウム不飽和カルボキシレートを含む第2の組成物を形成する工程と、
前記第2の組成物を基材上に溶液堆積する工程と、および
前記第2の組成物を加熱して、前記基材上にパラジウム層を形成する工程と、
を含む方法であって、この第1の組成物が、実質的に付加的な還元剤を含まない、方法。
前記少なくとも1つのパラジウム塩が、パラジウムアセテート、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、ヨウ化パラジウム、シアン化パラジウム、エチレンジアミンパラジウムクロリド、テトラアミンパラジウムブロミド、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム、ジアミンジニトロパラジウム、およびこれらの混合物から選択され、
前記パラジウム塩は、前記第1の組成物の1〜50重量パーセントで含まれ、
前記不飽和カルボン酸の前記パラジウム塩に対するモル比は、1:5〜10:1である、
請求項1に記載の方法。
前記溶液堆積する工程が、前記基材上への前記第2の組成物の、スピンコーティング、浸漬コーティング、スプレーコーティング、スロットダイコーティング、フレキソ印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、またはインクジェット印刷を含む、請求項1に記載の方法。
前記パラジウム不飽和カルボキシレートが、オレイン酸、ヘプテン酸、オクテン酸、シトロネル酸、2−エチル−2−ヘキセン酸、ジメチル−4−ペンテン酸、クロトン酸、ビニル酢酸、チグリン酸、ペンテン酸、2−メチル−2−ペンテン酸、ウンデシレン酸、ミリストレン酸、パルミトレン酸、エライジン酸、エイコセン酸、エルカ酸、ネルボン酸、トランス−2,4−ペンタジエン酸、2−4−ヘキサジエン酸、2,6−ヘプタジエン酸、ゲラン酸、リノール酸、エイコサジエン酸、リノレン酸、エイコサトリエン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、トラウマチン酸、ムコン酸、およびこれらの混合物からなる群から選択される不飽和カルボン酸から得られる、請求項1に記載の方法。
前記少なくとも1つのパラジウム不飽和カルボキシレートの前記パラジウムナノ粒子に対するモル比は、パラジウム原子のモルに基づいて99:1〜1:99である、請求項1に記載の方法。
前記パラジウム塩は、前記第1の組成物の1〜50重量パーセントで含まれ、前記不飽和カルボン酸の前記パラジウム塩に対するモル比は、1:5〜10:1である、請求項1に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
用語「室温」とは、約20℃〜約25℃の温度を指す。
【0012】
量に関連して使用される修飾語「約」は、記載される値を含み、文脈によって指定される意味を有する(例えば、特定量の測定に関連した程度の誤差を少なくとも含む)。範囲の文脈において使用される場合、修飾語「約」はまた、2つの端点の絶対値によって規定される範囲を開示すると考えられるべきである。例えば、「約2〜約4」の範囲は、「2〜4」の範囲も開示する。
【0013】
単数形の用語「a」、「an」および「the」の使用は、特に文脈から明確に示されない限り、同様に複数の指示対象を含むと解釈されるべきである。言い換えれば、これらの単数形の用語は、「少なくとも1つの」として解釈されるべきである。
【0014】
用語「不飽和」は、アルキル鎖に沿った利用可能な原子価結合のすべてが満たされているわけではない状態を意味し、少なくとも2個の炭素原子が少なくとも1つの二重結合によって連結されていることを意味する。故に、「不飽和カルボン酸」という語句は、芳香族環の一部ではない少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含むカルボン酸を指す。
【0015】
本明細書で使用される場合に、「オルガノ」という用語は、オルガノ基がヘテロ原子、例えば窒素、酸素、硫黄、リン、ケイ素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などを含み得るが、例えば炭素原子の存在を指す。さらに、オルガノ基は、線状、環状、分岐状などであってもよい。
【0016】
加えて、パラジウム塩は分子化合物である。Pd−Pd結合がこの分子化合物に存在してもよい。しかし、パラジウム塩は、ナノ粒子または同様の材料ではない。塩中のパラジウム原子は、ゼロ原子価ではないが、パラジウム原子は、ナノ粒子形態においてゼロ原子価である。例えば、パラジウム塩中のパラジウムは、Pd(II)であるが、パラジウムナノ粒子中のパラジウムはPd(0)である。
【0017】
パラジウムナノ粒子を含む組成物を形成するためのプロセスが記載されるが、このプロセスは、少なくとも1つのパラジウム塩および少なくとも1つの不飽和カルボン酸を含む第1の組成物を加温して、安定なパラジウムナノ粒子および少なくとも1つのパラジウム不飽和カルボキシレートを含む第2の組成物を形成する工程を含む。このプロセスは、例えば第1の組成物の加温後にパラジウムナノ粒子を単離する工程を排除してもよい。換言すれば、パラジウムナノ粒子は、パラジウム不飽和カルボキシレートと共にインサイチュで形成される。第2の組成物は、2つの分離した物体である、パラジウムナノ粒子と、パラジウム不飽和カルボキシレートとを共に混合することによって形成されるのではない。
【0018】
第1の組成物は、例えば水を含有していなくてもよい。しかし、これは水の絶対的な不存在を必要としない。一部の残留水は、種々の成分から、または周囲/大気圧条件から第1の組成物中に存在してもよい。
【0019】
パラジウム塩はいかなるパラジウム塩であってもよい。例えば、パラジウム塩は、式
Pd(X)
2を有する塩およびこれらの混合物であってもよく、
式中、Xはパラジウムに対するいずれかの対イオンである。パラジウム塩は、例えばパラジウムアセテート、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、ヨウ化パラジウム、シアン化パラジウム、エチレンジアミンパラジウムクロリド、テトラアミンパラジウムブロミド、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム、ジアミンジニトロパラジウム、およびこれらの混合物から選択されてもよい。実施形態では、パラジウム塩はパラジウムアセテートである。
【0020】
パラジウム塩は、第1の組成物の約1〜約50重量パーセント(重量%)で含まれていてもよく、例えばパラジウム塩は、第1の組成物の約5重量%〜約40重量%、または第1の組成物の約5重量%〜約30重量%を構成する。
【0021】
不飽和カルボン酸は、少なくとも1つの二重結合または少なくとも1つの三重結合によって連結された少なくとも2個の炭素を含有するいずれかの不飽和カルボン酸である。不飽和カルボン酸は、式
R
1−CH=CH−R
2−COOHのいずれかの不飽和カルボン酸であってもよく、
式中R
1は、水素または約1個の炭素原子〜約25個の炭素原子を有する炭化水素基を表し、R
2は、約1〜約25個の炭素原子を有する炭化水素基を表し、ここでR
1および/またはR
2の炭化水素基は、独立に、置換または非置換アルキル、アルケニル、アルキニル、アリールおよびこれらの混合物からなる群から選択される。
【0022】
例えば、範囲内の炭素原子の数は、約4〜約20個の炭素原子、または約8〜約18個の炭素原子であってもよい。例えばR
1は水素であってもよい。加えて、R1および/またはR
2は、アルキル、アルケニル、アルキニル、およびアリールであってもよい。R
1またはR
2上の水素原子は、別の官能基、例えば−CHO、−OH、ハロゲンなどで置換されていてもよい。例えば、不飽和カルボン酸は、オレイン酸、ヘプテン酸、オクテン酸、シトロネル酸、2−エチル−2−ヘキセン酸、ジメチル−4−ペンテン酸、クロトン酸、ビニル酢酸、チグリン酸、ペンテン酸、2−メチル−2−ペンテン酸、ウンデシレン酸、ミリストレン酸、パルミトレン酸、エライジン酸、エイコセン酸、エルカ酸、ネルボン酸、トランス−2,4−ペンタジエン酸、2−4−ヘキサジエン酸、2,6−ヘプタジエン酸、ゲラン酸、リノール酸、エイコサジエン酸、リノレン酸、エイコサトリエン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、トラウマチン酸、ムコン酸など、およびこれらの混合物であってもよい。実施形態では、不飽和カルボン酸は、オレイン酸、オクテン酸および/またはウンデシレン酸である。
【0023】
用語「アリール」は、全体として炭素原子および水素原子を含む芳香族ラジカルを指す。アリールが、炭素原子の数値範囲と関連して記載される場合、置換された芳香族ラジカルを含むように解釈されるべきではない。例えば、6〜10個の炭素原子を含有するアリールは、フェニル基(6個の炭素原子)またはナフチル基(10個の炭素原子)だけを指すように解釈されるべきであり、メチルフェニル基(7個の炭素原子)を含むように解釈されるべきではない。
【0024】
用語「置換された」とは、指名されたラジカルにおいて少なくとも1つの水素原子が、別の官能基、例えばハロゲン、ヒドロキシル、メルカプト(−SH)、−CN、−NO
2、−COOHおよび−SO
3Hで置換されていることを指す。置換されたアルキル基の例は、ペルハロアルキル基であり、ここでアルキル基中の1つ以上の水素原子は、ハロゲン原子、例えばフッ素、塩素、ヨウ素および臭素で置換される。上述の官能基のほか、アリールまたはヘテロアリール基はまた、アルキルまたはアルコキシで置換されてもよい。例えば置換されたアリール基としては、メチルフェニルおよびメトキシフェニルが挙げられる。
【0025】
用語「アルキル」は、全体として完全に飽和して、式−C
nH
2n+1を有する、炭素原子および水素原子を含むラジカルを指す。アルキルラジカルは、線状、分岐状、または環状であってもよく、ここでnは1以上の数を表す。
【0026】
用語「アルケニル」は、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含有する、全体として炭素原子および水素原子を含むラジカルを指す。アルケニルラジカルは、線状または分岐状であってもよい。
【0027】
用語「アルキニル」は、少なくとも1つの炭素−炭素三重結合を含有する、全体として炭素原子および水素原子を含むラジカルを指す。
【0028】
不飽和カルボン酸とパラジウム塩とのモル比は、約1:5〜約10:1であってもよい。例えば、不飽和カルボン酸と、パラジウム塩とのモル比は、約1:1〜約10:1、または約2:1〜約10:1、または約2:1〜約5:1である。
【0029】
第1の組成物中に存在する不飽和カルボン酸は、水に不混和性であってもよい。一般に、水不混和性の不飽和カルボン酸は、カルボン酸基あたり、少なくとも約4個の炭素原子を含有する。例えば、水不混和性不飽和カルボン酸としては、式HOOC−R
3の脂肪族カルボン酸が挙げられ、式中R
3は、約4〜約25個の炭素原子、または約8〜約18個の炭素原子を有するアルケニルであり、例えばR
3は線状アルケニル鎖であってもよい。
【0030】
不飽和カルボン酸は、溶媒として機能してもよく、パラジウム塩が不飽和カルボン酸中に溶解する。故に、不飽和カルボン酸は液相状態でなければならない。不飽和カルボン酸とパラジウム塩とのモル比は、不飽和カルボン酸中のパラジウム塩の溶解を確実にするために、少なくとも約2:1であってもよい。
【0031】
しかし、これは、不飽和カルボン酸がおよそ室温未満の融点を有していなければならないことを意味するのではない。第1の組成物の温度は、不飽和カルボン酸が液相状態であるために、室温より高くてもよい。例えば、不飽和カルボン酸は、約50℃未満の融点、または約40℃未満の融点を有していてもよく、室温未満の融点を含む。液相/低融点は、均一なパラジウム層を得るのに有利である。例えば、高い融点を有する不飽和カルボン酸は、堆積後に結晶化してもよく、これが最終的なパラジウム層に高い表面ラフネスおよびホールを生じる場合がある。
【0032】
第2の組成物を形成する際、第1の組成物の温度は、室温から約160℃までで加温されてもよく、室温から約150℃まで、または室温から約110℃までを含む。この温度上昇の少なくとも一部、場合によってはすべてが、外部熱源を用いずに、例えばパラジウム塩と不飽和カルボン酸との発熱反応により生じてもよい。
【0033】
不飽和カルボン酸は、第1の組成物の単独溶媒である必要はない。第1の組成物はまた、例えばパラジウム塩が不飽和カルボン酸溶媒に完全に溶解していない場合に、パラジウム塩および/または不飽和カルボン酸を溶解するために第2の溶媒を含んでいてもよい。水と不混和性であってもよい別の有機溶媒が含まれていてもよい。水不混和性とは、例えば所与の有機溶媒が水とほぼ等体積量で混合される場合に、相分離が沈降後に(視覚的に、または光散乱または屈折率などの測定器のいずれかにより)検出されるなら、溶媒が水不混和性であると考えられることを意味する。パラジウム塩、不飽和カルボン酸、および得られたパラジウム不飽和カルボキシレートおよびパラジウムナノ粒子は、この第2の溶媒中に可溶性でなければならない。例えば、第2の溶媒に添加された少なくとも約0.5重量%の量の所与の構成成分は、添加された量の少なくとも約1重量%、または少なくとも約10重量%を含んで、溶解すべきである。非可溶性部分は、例えばろ過によって第1の組成物から取り除かれてもよい。
【0034】
いずれかの好適な水不混和性有機溶媒は、第2の溶媒のために使用されてもよい。第2の有機溶媒は、例えば炭化水素溶媒、例えば置換された炭化水素、芳香族炭化水素、ケトン、エステル、エーテルなどであってもよい。炭化水素溶媒は、例えば少なくとも6個の炭素原子、6〜約25個の炭素原子を有していてもよい。例えば溶媒としては、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、メチルエチルベンゼン、テトラヒドロナフタレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クロロトルエン、メチルイソブチルケトン、メチルベンゾエート、ベンジルベンゾエート、アニソール、シクロヘキサノン、アセトフェノン、デカリン、ヘプタン、ヘキサン、ベンゼン、シクロヘキサン、ペンタン、エチルベンゼン、オクタン、デカン、ドデカンなど、およびこれらの混合物を挙げることができる。
【0035】
第2の有機溶媒は、少なくとも約80℃、少なくとも約100℃、または少なくとも150℃の沸点を有していてもよい。
【0036】
水および/または水混和性溶媒が、第1の組成物に存在してもよい。いずれかの好適な濃度の水および/または水混和性溶媒が存在してもよい。例えば、水および/または水混和性溶媒の量(重量による)は、不飽和カルボン酸の量未満であってもよい。水混和性溶媒の例としては、アルコール、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、およびブタノール;グリコール;アセトン;テトラヒドロフラン(THF);ジクロロメタン;エチルアセテート;ジメチルホルムアミド(DMF);ジメチルスルホキシド(DMSO);酢酸;アセトニトリル;およびジオキサンが挙げられる。
【0037】
不飽和カルボン酸はまた還元剤として機能してもよい。そのため、第1の組成物は、例えばいずれかの付加的な還元剤を含有していなくてもよく、または不飽和カルボン酸以外の付加的な還元剤を実質的に含まなくてもよく、付加的な還元剤は、付加的な処理工程として別個に加える必要はない。例えば第1の組成物において排除されてもよい還元剤の例は、ギ酸およびギ酸塩またはエステル、次亜リン酸塩、ヒドラジン、アンモニウム化合物、アミンボラン化合物、アルカリ金属ホウ化水素、シュウ酸、アルカリまたはアルカリ土類亜硫酸塩などである。
【0038】
不飽和カルボン酸はまた、錯化剤として機能してもよい。錯化剤は、例えば配位化合物の中央原子に付着した化合物を指す。配位化合物は、例えば、金属イオンの非金属錯化剤との融合から形成された化合物を指す。
【0039】
加えて、組成物はさらに、さらなる錯化剤としてオルガノアミンを含んでいてもよい。オルガノアミンは、例えば約1個の炭素原子〜約20個の炭素原子、約2〜約18個の炭素原子、約4〜約16個の炭素原子、または約12〜約16個の炭素原子を含有する。オルガノアミンの例としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ヘキサデシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ジメチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、オレイルアミン、アリルアミン、ゲラニルアミン、N−メチルアリルアミン、ジアリルアミン、2−(1−シクロヘキセニル)エチルアミン、3−ピロリン、1,2,3,6−テトラヒドロピリジン、N−メチル−2−メチルアリルアミンなど、およびこれらの混合物を挙げることができる。
【0040】
少なくとも1日の安定性を有するパラジウムナノ粒子および不飽和カルボキシレートを含む第2の組成物は、加温することなく、室温にて形成してもよい。しかし、少なくとも1日の安定性を有するパラジウムナノ粒子および不飽和カルボキシレートを含む第2の組成物の形成を高速化するために、第1の組成物は、約30℃〜約150℃、例えば約30℃〜約100℃、例えば約30℃〜約80℃以下の温度に加温してもよい。この高温は、外部からの熱の適用による加温を通して、少なくとも1つのパラジウム塩と少なくとも1つの不飽和カルボン酸との発熱反応を通して、またはこれら両方の組み合わせにより得られてもよい。
【0041】
第1の組成物は、パラジウムナノ粒子を形成するために、約0.1秒〜約60分間、約1秒〜約45分間、または約10秒〜約30分間の期間、上記の温度にしてもよい。
【0042】
上記の温度上昇は、外部熱源、例えばホットプレート、Bunsenバーナー、オーブン、マイクロ波、水浴、加温空気、IR照射など、およびこれらの組み合わせからの熱の適用からの加温により生じてもよい。加えて、少なくとも一部の加温は、外部熱源を適用せず、例えばパラジウム塩と不飽和カルボン酸との発熱反応により生じてもよい。
【0043】
加温中、少なくとも1部のパラジウム塩および不飽和カルボン酸は反応して、パラジウムナノ粒子およびパラジウム不飽和カルボキシレートを形成する。例えば、パラジウム不飽和カルボキシレートとパラジウムナノ粒子とのモル比は、パラジウム原子のモルに基づいて約99:1〜約1:99であり、約90:10〜約10:99、または約60:40〜約40:60を含む、または例えば大部分の不飽和カルボン酸およびパラジウム塩は反応して、パラジウムナノ粒子およびパラジウム不飽和カルボキシレートを形成する。パラジウムナノ粒子の形成は、例えば加温の際に不飽和カルボン酸の色変化によって証明される。例えば、黒色が観察される場合があり、これはパラジウムナノ粒子が加温工程中に形成されていることを示す。
【0044】
第1の組成物の加温により、パラジウムナノ粒子およびパラジウム不飽和カルボキシレートを含む第2の組成物を形成する。第2の組成物はまた、第1の組成物の成分、例えば溶媒を含んでいてもよく、また錯化していない不飽和カルボン酸および/または錯化していないパラジウム塩を、例えば第1の組成物の不完全な反応により含有する場合がある。
【0045】
第2の組成物は、液体または半液体、例えばペーストの形態であってもよい。第2の組成物は、室温にて約5cps〜約5,000cps、例えば約5cps〜約2,500cps、または約5cps〜約1,000cps、室温にて約5cps〜約50cpsの粘度を有していてもよい。例えば、第2の組成物は、少なくとも約100cpsの粘度を有するペーストであってもよい。粘度は、例えばレオメータ、例えば25℃にて1000s
−1〜0.1s
−1の掃引速度でのBrook Field Rheometerを用いて決定される。
【0046】
パラジウム不飽和カルボキシレートは、式
(R
1−CH=CH−R
2−COO)
aPdX
bを有していてもよく、
式中R
1およびR
2は、第1の組成物におけるものと同一であり、Xはパラジウムに対する対イオンを表し、「a」は、パラジウムと錯化した不飽和カルボキシレートの数を表し、「b」は、対イオンの数1を表し、ここでaおよびbは、aがゼロより大きく、a+b=2である限り、実数または分数である。例えば、パラジウム不飽和カルボキシレートが、式a+b=2を有し、ここで「a」は約2であってもよく、「b」は0であり、または「a」は1.8であってもよく、「b」は0.2であってもよい。例えば、パラジウム不飽和カルボキシレートは、少なくとも3個の炭素原子〜約25個の炭素原子、例えば約4〜25個の炭素原子、6〜20個の炭素原子、または8〜18個の炭素原子を含む。組成物はまた、錯化していない不飽和カルボン酸および/または錯化していないパラジウム塩を含有してもよい。
【0047】
この理論によって制限されないが、不飽和カルボン酸の二重結合は、安定なパラジウムナノ粒子の形成に寄与し得ることが理論化される。不飽和カルボン酸は、パラジウム塩を還元し、ナノ粒子を形成し、その合間に不飽和カルボン酸のカルボキシル基は、形成直後に、ナノ粒子の表面と相互作用して、ナノ粒子の凝集を防止する。換言すれば、不飽和カルボン酸は、二重の機能であるパラジウム塩の還元機能およびパラジウムナノ粒子のための安定剤としての機能を提供する。加えて、第2の組成物はさらに、少なくとも1つの不飽和カルボン酸を含んでいてもよい。先立って記載されたパラジウムナノ粒子は、空気との曝露時に燃焼する、または第2の組成物中で凝集する。さらに、先立って記載されたパラジウムナノ粒子は、通常、パラジウムナノ粒子を形成するための安定剤とは異なる第2の還元剤の添加を必要としていた。
【0048】
実施形態において、パラジウムナノ粒子は、100nm未満、または50nm未満、または20nm未満の粒径を有する。例えば、約1nm〜約100nm(約1nm〜約50nm、または約1nm〜約20nmを含む)がTEMにより決定される。
【0049】
パラジウムは、例えば有機合成反応におけるもののような触媒として考慮されるべきではない。有機合成反応が不飽和カルボン酸試薬を含有する場合、パラジウム不飽和カルボキシレートは有機反応において形成されてもよい。これは、いくつかの態様において本開示とは異なる。まず、合成反応におけるパラジウムは触媒として機能する一方で、本発明の第1および第2の組成物中のパラジウムは、パラジウムコーティングまたは層のための金属供給源を提供し、触媒としては作用しない。触媒は、例えばそれ自体が消費されることもなく、または化学変化を受けることもなく、特に少量で化学反応の速度に影響を及ぼすいずれかの物質を指す。第2に、合成反応におけるカルボン酸は反応体として機能する一方で、第1の組成物中の不飽和カルボン酸は、錯化剤、還元剤および/または溶媒として機能する。第3に、パラジウムが合成反応における触媒量で使用される一方で、パラジウム塩は、第1の組成物の主要構成成分の1つに過ぎない。一般に、本開示は、非触媒組成物である第1および第2の組成物を記載する。例えば、パラジウム不飽和カルボキシレートは、2つの反応体からの生成物を形成するのに使用されるのではなく、不飽和カルボン酸は第3の化合物の一部にはならない。
【0050】
パラジウムナノ粒子およびパラジウム不飽和カルボキシレートを含む第2の組成物の形成後、ナノ粒子は、将来的な使用のために貯蔵されてもよく、または例えばパラジウム層を形成するために基材に直ちに堆積されてもよい。パラジウムナノ粒子は、第2の組成物を貯蔵または使用するために、第2の組成物から単離させる必要はない。
【0051】
第2の組成物は、周囲条件下で貯蔵されてもよい。例えば、第2の組成物は室温にて貯蔵されてもよい。貯蔵される場合、第2の組成物中のパラジウムナノ粒子は、少なくとも1日の安定性、例えば少なくとも1週間の安定性、少なくとも1カ月の安定性、または少なくとも6カ月の安定性を有していてもよい。安定性は、例えば視覚的な検査によって測定できる。例えば、第2の組成物が不安定になる場合、パラジウムナノ粒子は凝集する場合がある。この凝集は、視覚的な検査によって観察されてもよい。
【0052】
第2の組成物を堆積させる際、パラジウムナノ粒子は、場合により第2の組成物から単離され、基材上に堆積されてもよい。しかし、第2の組成物からのナノ粒子の単離は、基材上にパラジウム層を形成するために必ずしも必要ではない。
【0053】
基材は、例えば金属基材、例えば銅、銀、アルミニウム、およびニッケル、可塑性基材、例えばポリエステル、ポリイミド、ポリケトン、ポリスルホン、エポキシ、およびフェノール樹脂、および他の基材、例えばガラス、紙、セラミックなどおよびこれらの混合物であってもよい。
【0054】
第2の組成物を堆積させる際、受容層は、基材上に第2の組成物を堆積させる前に適用できる。受容層は、物体上の第2の組成物の接着を向上させてもよい。いずれかの好適な受容層である、例えばシランまたはアミノ基を含むシランから形成される受容層を使用することができる。
【0055】
第2の組成物および/または場合により単離されたナノ粒子の堆積は、例えば溶液堆積によって行われてもよい。溶液堆積は、例えば液体がコーティングまたは層を形成するために基材上に堆積されたプロセスを指す。これは、真空堆積プロセスとは対照的である。パラジウム層を形成するための本プロセスはまた、他の溶液系プロセス、例えば溶液中への含浸を保持するためのプレートを必要とし、さらにまたプレート上に金属コーティングを形成するために電流に曝すことを必要とする電気めっきとは異なる。本プロセスはまた、他のプロセスに比べていくつかの利点、例えば廃棄物の量を低減すること、および基材をコーティングするのに必要な時間を短縮することを提供する。溶液堆積としては、例えば基材上へのパラジウム第2組成物の、スピンコーティング、浸漬コーティング、スプレーコーティング、スロットダイコーティング、フレキソ印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、またはインクジェット印刷が挙げられる。
【0056】
第2の組成物は、例えば約10秒〜約1,000秒、約50秒〜約500秒、または約100秒〜約150秒の間、例えば毎分約100回転(rpm)〜約5,000rpm、約300rpm〜約3,000rpm、または約500rpm〜約1,500rpmの速度にて、基材上にスピンコーティングされてもよい。
【0057】
第2の組成物および/または場合により単離されたナノ粒子でコーティングされた基材を、次いで加熱して、基材上にパラジウム層を形成する。加熱は、先立って堆積された層または基材(単一層基材または多層基材にかかわらず)の特性に不利な変化を与えないいずれかの温度、例えば約60℃〜約350℃、約90℃〜約350℃、約100℃〜約300℃、または約150℃〜約250℃にて行われてもよい。加熱は、30分間までの期間で行われてもよく、パラジウム層のサイズおよび加熱方法に依存して、0.1秒程度に短い期間であることもできる。例えば、加熱期間は、約0.1秒〜約30分、約1秒〜約20分、または約1分〜約10分であってもよい。
【0058】
加熱は、空気、不活性雰囲気(例えば窒素またはアルゴン下)、または還元雰囲気(例えば1〜約20体積%の水素を含有する窒素下)で行われてもよい。加熱はまた、標準大気圧または例えば約1,000ミリバール〜約0.01ミリバールの減圧にて行うことができる。加熱技術の例としては、熱加熱(例えばホットプレート、オーブン、およびバーナー)、赤外(「IR」)照射、レーザービーム、フラッシュライト、マイクロ波照射、またはUV照射またはこれらの組み合わせを挙げることができる。パラジウム層を形成するための液体堆積プロセスは、従来の無電解めっきプロセスであって、中間ナノ粒子形態を経ることなく、直接パラジウム塩がパラジウム層に堆積されるプロセスとは異なる。加熱により、パラジウムナノ粒子が合体して、連続で、均一なパラジウム層を生じる。パラジウムナノ粒子は、最終的なパラジウムフィルムの均一性を向上させる。加熱により、パラジウムナノ粒子が、例えば電気伝導性層を形成するように誘導され、これは電気デバイスにおける電気伝導性要素として使用するのに好適である。
【0059】
上記で記載された堆積プロセスはまた、物体上により厚いパラジウム層を構築するように繰り返されてもよい。例えば、最終層の厚さはまた、約10ナノメートル〜約50マイクロメートル、または約50ナノメートル〜約30マイクロメートル、または約50nm〜約5マイクロメートル、または約80nm〜約1マイクロメートルであってもよい。この点において、複数の溶液堆積工程が行われてもよく、その後加熱されて最終層を形成する。あるいは、溶液堆積工程の後の加熱を複数回繰り返し、いくつかの薄い層からなる厚い層を構築できる。
【0060】
基材上に堆積したパラジウム層が電気伝導性であってもよく、例えば基材上の電気伝導性経路または回路のような所定のパターンにて堆積させてもよい。本開示に従って製造されたパラジウム層は、高い伝導度および低温での良好な接着性を有する。例えば、加熱により製造されたパラジウム層の伝導度は、例えば約100シーメンス/センチメートル(「S/cm」)〜約50,000S/cm、約1,000S/cm〜約10,000S/cm、例えば約2,000S/cm〜約5,000S/cmであり、または例えば伝導度は少なくとも1,000S/cmであってもよい。伝導度は、室温での4−プローブ方法を用いて測定した。
【0061】
パラジウム層はまた、電気伝導性でなくてもよい。加熱により第2の組成物が、他のイオンの存在により、例えば塩、残留量の不飽和カルボン酸およびその分解形態の存在および/または第1の組成物中の絶縁性添加剤、例えばポリマーの存在により、分解してパラジウムフィルムまたは層を生じるが、パラジウム層は伝導性でなくてもよい。
【0062】
所望により、付加的な層がパラジウム層の頂部上に適用できる(付加的な層は、例えばオーバーコート層を指す場合がある)。当該技術分野において既知のいずれかの層は、例えば引掻に対する耐性を有する材料が適用されてもよい。オーバーコート層を形成するために使用されてもよい材料としては、例えばエポキシ樹脂、ポリウレタン、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリシロキサン、ポリ(シルセスキオキサン)などが挙げられる。ポリシロキサンおよびポリ(シルセスキオキサン)(例えばゾル−ゲル手法)を使用して、高度に架橋したポリシロキサンまたはポリ(シルセスキオキサン)オーバーコート層を形成できる。オーバーコート層は、架橋されたポリシロキサン、架橋されたポリ(シルセスキオキサン)、またはポリ(ビニルフェノール)およびメラミン−ホルムアルデヒド樹脂を含む架橋された層であってもよい。オーバーコート層の厚さは、例えば約10nm〜約10マイクロメートル(約10nm〜約5マイクロメートル、または約50nm〜約1マイクロメートルを含む)であってもよい。オーバーコート層は、パラジウム層の視認性を確実にするために無色であってもよい。
【0063】
加えて、パラジウム層は、約10nm未満、例えば約1nm〜約10nm未満、約2nm〜約9nm、または約3nm〜約8nmの表面ラフネスを有する。表面ラフネスは、いずれかの好適な方法によって決定されてもよい。原子間力顕微鏡、表面プロフィロメータ、光学プロフィロメータなどを含む例示的な方法。
【0064】
図1は、本明細書で記載されるプロセスを例示する概略図である。工程100において、パラジウム第1組成物10は容器11において示される。容器は、パラジウムナノ粒子12の形成を誘導するために十分な温度に加温される。ワイヤ20は、コーティング溶液を通して引っ張られ、ワイヤ上にコーティング22を形成する。いずれかのワイヤは、ワイヤの直径、形状または長さにかかわらず、パラジウム第2組成物でコーティングできる。有機材料の両方、例えばプラスチック、例えばポリイミド、ポリエステル、ポリアミド(Nylor)、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリアクリレートなど、および無機材料、例えば銅、アルミニウム、タングステン、酸化亜鉛、ケイ素などは、ワイヤのための基材として使用されてもよい。ワイヤは、裸のままであってもよく、例えば他の層で被覆されなくてもよく、またはコアの周りに他の層を付加することによって絶縁されてもよい。ワイヤは、単一ストランド、複数ストランドおよび/またはツイストされていてもよい。
【0065】
次に工程200において、コーティング22は熱に曝されることによって徐冷される。結果は、パラジウム層31を有するワイヤ30である。元々のワイヤ20は、パラジウム層が位置する基材として作用する。
【0066】
図2は、パラジウムナノ粒子51を含まない飽和パラジウムカルボキシレートを含有する第1の組成物を用いて製造されたパラジウムフィルムと比べて、本開示50に従って調製されたパラジウムフィルムの写真である。
【0067】
本開示によって調製されたパラジウムフィルムは、非常に平滑であり、多孔性を有していない。反対に、パラジウムナノ粒子を含まず飽和パラジウムカルボキシレートを含有する第1の組成物によって製造されるフィルムは、ある程度の多孔性を有し、質感のある表面をもたらし得る。
【0068】
次の実施例は、本開示をさらに例示するためのものである。
【0069】
実施例1
パラジウムアセテート(三量体)をAlfa Aesarから購入した。0.1グラム(g)のパラジウムアセテート、0.3gのデカリンを共に混合して、第1の組成物を形成する。混合物を、約80℃に加温し、約30分間撹拌した。加熱時、溶液は、赤褐色になり、第2の組成物中のパラジウムナノ粒子の形成を示した。
【0070】
第2の組成物は、1,000rpmにてガラス基材上にスピンコーティングされ、結果として非晶質フィルムを得た。スピンコーティングの後、輝く銀色の金属フィルムが基材上に形成されるまで、約200℃〜約250℃にてホットプレート上で徐冷を行った。
【0071】
パラジウムフィルムは、非常に良好な引掻耐性および優れた接着性を示した。4プローブ方法を用いて測定される場合の伝導度は、4.5x10
4S/mであった。
【0072】
実施例2
0.2gのトルエンを溶媒として使用した以外、実施例1と同様に第1の組成物を調製した。銅ワイヤを数秒間第1の組成物に浸漬した後、約220℃〜約230℃のオーブンにて徐冷した。非常にロバストな輝くパラジウムコーティングが銅ワイヤ上に形成された。
【0073】
比較例1
パラジウムアセテート(三量体)をAlfa Aesarから購入した。0.1gのパラジウムアセテートを0.2gのトルエンに添加した。混合物を還流加熱した。しかし、パラジウムアセテートはトルエン中に溶解しなかった。故に、基材上にパラジウム層を形成するためにそれを使用することはできなかった。
【0074】
比較例2
パラジウムアセテート(三量体)をAlfa Aesarから購入した。0.1gのパラジウムアセテートを0.2gのトルエンに添加した後、0.1gのオクタン酸である飽和カルボン酸に添加した。混合物を約80℃の温度に加温した。パラジウムアセテートをオクタン酸の補助により溶解させたが、濃赤色溶液が形成され、Pdナノ粒子は形成しなかった。パラジウムカルボン酸塩溶液をガラススライド上にコーティングした後、200〜250℃で徐冷したが、連続的なPdフィルムは、Pd島を除いて形成されなかった(
図2、51)。
【0075】
上記で開示される変形例および他の特徴および機能またはそれらの代替例は、所望により多くの他の異なるシステムまたは用途に組み合わされてもよいことを認識すべきである。また、種々の、現在は想定されていないまたは予測されない代替例、変更、変形例またはそれらの改善は、当業者によって後に行われる場合があり、それらもまた、以下の特許請求の範囲によって包含されることを意図する。