(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
3つの単相インバータを含み、各単相インバータの一方の出力端子が負荷に接続され、且つ3つの前記単相インバータの他方の出力端子が中性点を形成すべく互いに接続される、三相の電力変換部と、
各前記単相インバータの出力電力が前記中性点の電位を変化させない場合に比べて減少するように当該中性点の電位が変化するよう各前記単相インバータの出力電圧を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、3つの前記単相インバータの出力電力の最大値が最小となるように又は3つの前記単相インバータの直流部電流の二乗和が最小となるように、前記中性点の電位が変化するよう各前記単相インバータの出力電圧を制御する、マルチレベル電力変換装置。
前記制御部は、前記単相インバータが負荷に印加したい相電圧と前記中性点電位との和の絶対値が、各単相インバータの入力電圧以下であるという制約条件をさらに満たす前記中性点電位を算出する、請求項3又は請求項5に記載のマルチレベル電力変換装置。
前記制御部は、前記中性点電位が前記制約条件を満たさない場合には、当該制約条件を満たす最大値及び最小値のうち近い値を、3つの前記単相インバータの出力電力の最大値が最小となる又は3つの前記単相インバータの入力電流の二乗和が最小となる値とする、請求項6に記載のマルチレベル電力変換装置。
3つの単相インバータを含み、各単相インバータの一方の出力端子が負荷に接続され、且つ3つの前記単相インバータの他方の出力端子が中性点を形成すべく互いに接続される、三相の電力変換部を備えるマルチレベル電力変換装置の制御方法であって、
各前記単相インバータの出力電力が前記中性点の電位を変化させない場合に比べて減少するように当該中性点の電位が変化するよう各前記単相インバータの出力電圧を制御することを含み、
3つの前記単相インバータの出力電力の最大値が最小となるように又は3つの前記単相インバータの直流部電流の二乗和が最小となるように、前記中性点の電位が変化するよう各前記単相インバータの出力電圧を制御することを更に含む、マルチレベル電力変換装置の制御方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載の電力変換装置は、本来の目的は電圧利用率の向上であるため、負荷の電流が不平衡である場合、正弦波ではない場合、あるいは負荷力率が変動するような場合には個々の単相インバータの出力電力を低減することができない。その結果、三台の単相インバータの出力電力が不均等になってしまい、装置の必要な定格容量が増大してしまうという課題がある。
【0006】
本発明は以上のような課題を解決するためになされたものであり、三台の単相インバータを含む三相のマルチレベル電力変換装置において単相インバータの出力電力の均等化を図り、装置の定格容量を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明のある態様に係るマルチレベル電力変換装置は、3つの単相インバータを含み、各単相インバータの一方の出力端子が負荷に接続され、且つ3つの前記単相インバータの他方の出力端子が中性点を形成すべく互いに接続される、三相の電力変換部と、各前記単相インバータの出力電力が前記中性点の電位を変化させない場合に比べて減少するように当該中性点の電位が変化するよう各前記単相インバータの出力電圧を制御する制御部と、を備える。
【0008】
ここで「単相インバータの出力電圧」とは、単相インバータが負荷に印加したい相電圧と中性点電位の和とする。また、これは、単相インバータの一方の出力端子の電位と、他方のY接続された出力端子の電位との差に等しい。
【0009】
一般に、三相の負荷電力は線間電圧で決まり、中性点電位については自由度がある。また、いわゆるY接続(スター結線)マルチレベル電力変換器では、この自由度を用いて3つの単相インバータの負荷分担を変えることができる。そこで、上記構成によれば、制御部が、適宜な最適化方法を用いて、各単相インバータの出力電力が中性点の電位を変化させない場合に比べて減少するように当該中性点の電位が変化するよう各単相インバータの出力電圧を制御するので、単相インバータの出力電力の均等化を図り、装置の定格容量を低減することができる。
【0010】
前記制御部は、3つの前記単相インバータの出力電力の最大値が最小となるように前記中性点の電位が変化するよう各前記単相インバータの出力電圧を制御してもよい。
【0011】
上記構成によれば、各単相インバータの出力電力の最大値を中性点の電位を変化させない場合に比べて減少するように中性点の電位を最適化することできる。
【0012】
3つの前記単相インバータの一方の出力端子の出力電流である相電流をそれぞれ検出する3つの相電流検出器をさらに備え、前記制御部は、前記単相インバータが前記負荷に与えたい相電圧と3つの前記相電流検出器でそれぞれ検出される相電流とに基づいて3つの前記単相インバータの出力電力の最大値が最小となる又は3つの前記単相インバータの直流部電流の二乗和が最小となるように前記中性点の電位である中性点電位を算出し、この算出した中性点電位を前記相電圧に加算して各前記単相インバータの出力電圧を制御するための指令値を生成してもよい。
【0013】
上記構成によれば、中性点の電位を好適に最適化する構成を具体的に実現できる。
【0014】
前記制御器は、前記単相インバータが前記負荷に印加したい相電圧と前記中性点電位との和の絶対値が、各単相インバータの入力電圧以下であるという制約条件をさらに満たす前記中性点電位を算出してもよい。
【0015】
上記構成によれば、単相インバータの出力電圧が単相インバータの入力電圧を上限又は下限としてカットされることを防止できる。
【0016】
前記制御部は、前記中性点電位が前記制約条件を満たさない場合には、当該制約条件を満たす最大値及び最小値のうち近い値を、3つの前記単相インバータの出力電力の最大値が最小となる又は3つの前記単相インバータの直流部電流の二乗和が最小となる値としてもよい。
【0017】
上記構成によれば、中性点電位が前記制約条件を満たさない場合でも、単相インバータの出力電圧が単相インバータの入力電圧を上限又は下限としてカットされることを好適に防止できる。
【0018】
本発明の他の態様に係るマルチレベル電力変換装置の制御方法は、3つの単相インバータを含み、各単相インバータの一方の出力端子が負荷に接続され、且つ3つの前記単相インバータの他方の出力端子が中性点を形成すべく互いに接続される、三相の電力変換部を備えるマルチレベル電力変換装置の制御方法であって、各前記単相インバータの出力電力が前記中性点の電位を変化させない場合に比べて減少するように当該中性点の電位が変化するよう各前記単相インバータの出力電圧を制御する。
【0019】
上記構成によれば、制御部が、適宜な最適化方法を用いて、各単相インバータの出力電力が中性点の電位を変化させない場合に比べて減少するように当該中性点の電位が変化するよう各単相インバータの出力電圧を制御するので、単相インバータの出力電力の均等化を図り、装置の必要な定格容量を低減することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、三台の単相インバータを有する三相出力電圧変換装置において単相インバータの出力電力の均等化を図り、装置の定格容量を低減することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。以下では、全ての図面を通じて同一又は相当する要素には同じ符号を付して、重複する説明は省略する。
【0023】
(実施の形態1)
[構成]
図1は、本実施の形態1に係る電力変換装置の全体構成を示すブロック図である。本実施の形態1の電力変換装置100は、特に用途は限定されない。電力変換装置100は、例えば船内における電力システムにおいて実装され、船内の電気系統から供給された交流電力を高電圧の可変電圧可変周波数の交流電力に変換し、船舶推進用のモータを駆動する。
図1に示すように、電力変換装置100は、入力側の三相変圧器2を介して三相交流電源1に接続され、出力線30を介して三相交流モータ(負荷)4に接続された電力変換部3と、電力変換部3をPWM制御する制御部7を備える。
【0024】
電力変換部3は、a相〜c相の3つの単相インバータ3a〜3cを含み、各単相インバータ3a〜3cの一方の出力端子が出力線30を介して負荷4に接続され、他方の出力端子が中性点Nを形成すべく互いにY接続された三相出力を有する。本実施の形態では、出力線30には電流センサ5が設けられている。電流センサ5は、3つの単相インバータ3a〜3cの一方の出力端子の出力電流である相電流をそれぞれ検出する3つの相電流検出器を含む。電流センサ5は検出した相電流を制御部7へ出力するようになっている。
【0025】
制御部7は、各単相インバータ3a〜3cの出力電力が中性点Nの電位を変化させない場合に比べて減少するように当該中性点Nの電位が変化するよう各単相インバータ3a〜3cの出力電圧を制御するものである。本実施の形態では、制御部7は、3つの単相インバータ3a〜3cの出力電力の最大値が最小となるように中性点Nの電位が変化するよう各単相インバータ3a〜3cの出力電圧v
*a、v
*b、v
*cを制御する。
【0026】
ここで、本実施の形態における単相インバータ3a〜3cの出力電圧について説明する。
図7は、後述する本実施の形態のミニマックス法による出力電圧の関係を示すベクトル図である。
図7(a)は中性点電位v0がゼロの場合の単相インバータが負荷に印加したい相電圧va、vb、vcのベクトル図である。
図7(b)は中性点電位v0がゼロ以上の場合の単相インバータが負荷に印加したい相電圧va、vb、vc及び出力電圧v
*aのベクトルを示している。
図7(b)に示すように、例えば、単相インバータ3aの出力電圧v
*aは、単相インバータ3aが負荷4に印加したい相電圧vaと後述する中性点電位演算部72で演算された中性点電位v0の和として表現される。中性点電位v0は、中性点Nの電位と所定の基準電位の差で表現される。このように、単相インバータ3a〜3cの出力電圧v
*a、v
*b、v
*cとは、単相インバータ3a〜3cが負荷4に印加したい相電圧va、vb、vcと中性点電位v0の和とする。また、所定の基準電位は、ここでは、負荷4の中性点電位である、従って、ここでの中性点電位v0とは、負荷4の中性点電位と単相インバータ3a〜3cの中性点Nとの差となる。また、相電圧va、vb、vcは、例えば一定の周波数信号とし本実施の形態では、外部から制御部7へ入力される。
【0027】
次に単相インバータ3a〜3cの構成について具体的に説明する。単相インバータ3a〜3cの各構成は同様であるので、ここでは単相インバータ3aについてのみ説明する。
図2は、
図1の電力変換部3の構成を示す回路図である。
図2に示すように、単相インバータ3aは、三相変圧器2から供給された交流電圧を直流電圧に変換する順変換器11と、順変換器11で変換された直流電圧を平滑する平滑コンデンサ12と、パルス幅変調(PWM)した電力を出力する逆変換器13とを備える。なお、単相インバータ3aが逆変換器13のみで構成され、順変換器11がこれと別体の整流器を構成してもよい。この場合、単相インバータ3aの直流部電流(後述する最小二乗法において使用する)は、単相インバータ3aへの入力電流となる。
【0028】
順変換器11は、6つの整流ダイオードにより構成されている。順変換器11には、多パルス型の整流回路やPWMコンバータを用いてもよい。逆変換器13は、それぞれ逆並列接続されたダイオードを備えた4個のスイッチング素子Q1〜Q4により構成されている。この逆変換器13は、半導体素子で形成され、各スイッチング素子Q1〜Q4には例えばIGBTが用いられる。また、他の実施例として単相インバータには、単相マルチレベルインバータを用いてもよい。
【0029】
尚、本実施の形態では、電流センサ5は、a相の相電流iaを検出する相電流検出器と、b相の相電流ibを検出する相電流検出器と、相電流ia及びibを減算してc相の相電流icを演算する減算器51により構成される。このようにして電流センサ5は検出した相電流ia、ib、icを制御部7へ出力する。また、他の形態として、電流センサ5は、a相〜c相全ての相電流を検出する相電流検出器から構成されてもよい。
【0030】
次に、制御部7の構成について
図3のブロック図を用いて説明する。
図3に示すように、制御部7は、単相インバータが負荷4に印加したい相電圧va、vb、vcと電流センサ5でそれぞれ検出される相電流ia、ib、icとに基づいて3つの単相インバータ3a〜3cの出力電力の最大値が最小となる中性点Nの電位である中性点電位v0を算出し、この算出した中性点電位v0を相電圧va、vb、vcに加算して各単相インバータ3a〜3cの出力電圧v
*a、v
*b、v
*cを制御するための指令値を生成する電圧指令生成部70と、電圧指令信号に基づいてPWM信号を生成し、電力変換部3にPWM信号を出力するPWM信号生成部7と、を備える。
【0031】
本実施の形態では、電圧指令生成部70は、中性点電位演算部72により、相電圧va、vb、vc及び相電流ia、ib、icとに基づいて3つの単相インバータ3a〜3cの出力電力の最大値が最小となる中性点Nの電圧である中性点電位v0を算出し、3つの加算器73により、中性点電位v0を単相インバータが負荷に印加したい相電圧va、vb、vcに加算して各単相インバータ3a〜3cの出力電圧v
*a、v
*b、v
*cを制御するための指令値を生成する。
【0032】
PWM信号生成部71は、3つの加算器73で出力された出力電圧v
*a、v
*b、v
*cの指令信号に基づいてPWM信号を生成し、電力変換部3にPWM信号を出力する。PWM信号は公知の方法で生成してよいが、本実施の形態では、PWM信号生成部71は、電圧指令信号の符号を反転させる符号反転器74と、搬送波である三角波を発生させる三角波発生回路78と、2つの入力信号を比較してその大小に応じてパルスを出力する比較器75と、論理反転器76と、遅延回路77を備えている。
【0033】
このような構成により、制御部7は、制御信号(PWM信号)を電力変換部3内の例えば単相インバータ3aへ出力する。PWM信号は、単相セルインバータ3aのスイッチング素子Q1〜Q4の制御端子(例えばIGBTのゲート端子)に入力され、各スイッチング素子Q1〜Q4をオンオフ動作させることにより、単相インバータ3aをインバータとして機能させる。制御部7は、他の単相インバータ3b、3cについても同様にインバータとして機能させる。これにより、電力変換部3は、制御部7で演算された電圧指令値v
*a、v
*b、v
*cに対応する電圧を出力するようにPWM制御される。
【0034】
尚、本実施の形態では、制御部7の一部は、例えば、FPGA(field programmable gate array)、PLC(programmable logic controller)、マイクロコントローラ等の演算装置で構成され、特に中性点電位演算部72は、上記演算装置においてそれに内蔵されているプログラムが実行されることにより実現される機能ブロックである。制御部7は、電圧指令生成部70及びPWM信号生成部71の他、電流センサ5の検出信号を受信する機能を備えているものとする。
【0035】
[本発明の基礎となった知見]
本発明者らは、
図1、
図2に示した3つの単相インバータ3a〜3cの他方の出力端子が中性点Nを形成すべく互いにY接続されている電力変換部3の出力電圧について検討した。電力変換部3の負荷4に与えたい相電圧va、vb、vc(va+vb+vc=0)、各単相インバータ3a〜3cの中性点電位v0とすると、各単相インバータ3a〜3cの出力電圧v
*a、v
*b、v
*cは式(1)と表すことができる。
【0037】
ここで各単相インバータ3a〜3cの直流電圧部の電圧をv
DCとし、直流電圧v
DCは互いに等しいものとする。各単相インバータ3a〜3cの出力電圧について、式(2)のような制約がある。
【0039】
式(2)は、各単相インバータの出力端子の一端に出力される出力電圧v
*a、v
*b、v
*cの絶対値が、各単相インバータの入力電圧v
DC以下であるという制約条件を表している。
【0040】
図4は、単相インバータ3a〜3cの直流電圧v
DCに対する単相インバータ3a〜3cが負荷4に印加したい相電圧va、vb、vc及び中性点電位v0の関係を示すベクトル図である。
図4(a)及び
図4(b)は、中性点電位v0=0、すなわちインバータ3a〜3cから見た中性点電位と負荷4から見た中性点電位が一致している場合において、相電圧va、vb、vcの絶対値が最小の場合、及び最大の場合のベクトル図をそれぞれ示している。
【0041】
図4(a)に示す相電圧に対し、
図4(b)に示すように相電圧va、vb、vcの絶対値は2/√3×v
DC=1.15×v
DCまで許容されることが知られている。すなわち最大相電圧は、単相インバータの直流電圧v
DCの1.15倍となる。
【0042】
図4(c)及び
図4(d)は、最大相電圧を出力している場合に中性点電位v0を変動させた場合のベクトル図を示している。
図4(c)及び
図4(d)に示すような位相角において、最大相電圧を出力している場合の中性点電位v0は、(1/√3−1)×v
DCから(1−2/√3)×v
DCの範囲となる。すなわち
図4(c)と
図4(d)を比較すれば、最大電圧を出力している状態であっても、電気角によっては、まだ中性点電位v0に自由度が残されていることが分かる。一般に、三相の負荷電力は線間電圧で決まり、中性点電位については自由度がある。また、いわゆるY接続(スター結線)マルチレベル電力変換装置100では、この自由度を用いて3つの単相インバータの負荷分担を変えることができる。そこで、本発明者らは、中性点電位v0の自由度に着目し、電力変換部3において各単相インバータの瞬時電力を平準化するための制御方法に想到した。
【0043】
[ミニマックス法]
以下、本実施の形態1の電力変換装置100におけるピーク電力を平準化するための制御方法について
図5及び
図6を用いて説明する。本制御方法は、線形計画法の考え方に基づいて、3つの単相インバータ3a〜3cの出力電力の最大値を最小化する中性点電位v0を演算するというものである(以下、ミニマックス法ともいう)。
【0044】
図5は、制御部7による単相インバータ3a〜3cの瞬時電力の平準化処理の流れの一例を示すフローチャートである。尚、このフローチャートで実行される処理は一定の制御周期毎に行われるものとする。
図5に示すように、まず、中性点電位演算部72は、単相インバータ3a〜3cが負荷に印加したい相電圧va、vb、vc及び相電流ia、ib、icとに基づいて3つの単相インバータ3a〜3cの出力電力の最大値が最小となる中性点Nの電圧である中性点電位v0を算出する(ステップ1)。ここで各相の出力電力は式(3)で表される。本実施の形態では、中性点電位演算部72は、式(3)で表される各相の電力の最大値を表す式(4)を最小化する中性点電位v0を演算する。
【0047】
ここで、ステップ1で実行される式(4)の解法の一例について
図6も参照しながら説明する。
図6は、電力変換部3のY接点における中性点電位に対する各相の電力を示したグラフである。縦軸は各相の電力Pを示し、横軸は中性点電位v0を示している。
図6(a)はa相〜c相全てを組み合わせた電力P、
図6(b)はa相とb相の組み合わせた電力P
ab、
図6(c)はb相とc相の組み合わせた電力P
bc、
図6(d)はc相とa相の組み合わせた電力P
caをそれぞれ絶対値関数で示している。
図6(a)では、絶対値関数から得られる3本の折れ線(実線、一点鎖線及び破線)は合計6個の交点をもち、そのうちの一つが解となる。今、三組の相の組み合わせ(a,b)、(b,c)、(c,a)のそれぞれについて、次式(5)で与えられる2つの相の電力の絶対値の最大を考える。
【0049】
そして、このP
xyの最小を与える中性点電位v0をv
xyとする。ここで添え字x,yはそれぞれa,b,cのいずれかを表すものとする。
【0050】
式(4)を中性点電位v0について最小化することは比較的容易であり、
図6(b)〜(d)に示すように、4本の直線の交点を求めるという問題に帰着される。交点がP
xyの最小値を与えるときは、二本の直線の傾きの符号が異なっている。この性質を利用すると、(5)式の解は以下の式(6)のようになる。分子と分母にともに電流の一次の項があるので,電流についてはその位相関係によってのみ決まることに注意しなくてはならない。
【0052】
ここで上記三組の相の組み合わせの関係を調べる。例えば相の組み合わせ(a,b)と(b,c)を考えて、P
ab>P
bcとし、対応する中性点電位v0をv
abとv
bcとする。中性点電位v
bcはb相とc相の組合せの場合の最小電力を与えるが、除外されたa相の電力|(va+vbc)×ia|の値はP
abよりも更に大きくなるので、求める解の候補から除外されてしまう。結局,三組の組合せのなかで、最大のP
xyを与えるv
xyが式(3)の解となる。
【0053】
次に、中性点電位演算部72は、式(2)の制約条件を満たすか否かを判定する(ステップ2)。ここで、式(2)の制約条件をv0について書き直すと次式(7)を得る。本実施の形態では、中性点電位v0が式(7)の範囲に有るか否かを判定する。
【0055】
次に、中性点電位演算部72は、中性点電位v0が式(7)の条件を満たす場合は、ステップ1で演算した中性点電位v0を最適値とする(ステップ3)。
【0056】
また、中性点電位演算部72は、式(7)の条件を満たさない場合は、式(7)の条件を満たす最大値及び最小値のうち近い値を、3つの前記単相インバータの出力電力の最大値が最小となる値とする(ステップ4)。すなわち式(4)は下に凸な関数であるので、式(4)を最小化する中性点電位が(7)式で示す範囲を逸脱する場合は、(7)式の範囲内で一番近い値を選択すればよい。本実施の形態では、中性点電位v0は、式(7)の最大値v
DC−max(va、vb、vc)、式(7)の最小値−v
DC−max(va、vb、vc)のうちのいずれかが選択される。これにより、中性点電位v0が制約条件(7)を満たさない場合でも、単相インバータの出力電圧が単相インバータの入力電圧を上限又は下限としてカットされることを好適に防止できる。
【0057】
次に、電圧指令生成部70は、中性点電位演算部72で演算した中性点電位v0と相電圧va、vb、vcを加算し、出力電圧v
*a、v
*b、v
*cの指令信号を出力する(ステップ5)。
【0058】
次に、PWM信号生成部71は、電圧指令信号に基づいてPWM信号を生成し、電力変換部3にPWM信号を出力する(ステップ6)。これにより、電力変換部3が、制御部7で演算された電圧指令信号に対応する電圧v
*a、v
*b、v
*cを出力するようにPWM制御される。
【0059】
上記構成によれば、制御部7が、ミニマックス法という最適化方法を用いて、各単相インバータ3a〜3cの出力電力v
*a、v
*b、v
*cが中性点Nの電位を変化させない場合に比べて減少するように当該中性点Nの電位が変化するよう各単相インバータの出力電圧を制御するので、単相インバータの出力電力の均等化を図り、装置の定格容量を低減することができる。
【0060】
このように、本実施の形態によれば、従来は電圧利用率の向上や、歪み率の低減という観点から議論されることの多かった中性点電位の選択方法について相毎の瞬時電力の最大を最小化するという効果を奏するものである。このような点で、本実施の形態のピーク電力の平準化制御は、他の目的による制御とは本質的に相違しており、Y接続された3つの単相インバータを有する三相出力の電力変換装置ならではの独創的な構成である。
【0061】
(実施の形態2)
[最小二乗法]
次に、本発明の実施の形態2について説明する。尚、実施の形態1と共通する構成の説明は省略し、相違する構成についてのみ説明する。本実施の形態2のピーク電力の平準化するための制御方法は、最小二乗法の考え方に基づいて、3つの単相インバータ3a〜3cの直流部電流の二乗和を最小化する中性点電位v0を演算するというものである(以下、最小二乗法ともいう)。
【0062】
すなわち、本実施の形態2の電力変換装置は、実施の形態1と比較すると、中性点電位演算部72が、実施の形態1における
図5のステップ1において、式(5)の制約条件を満たす中性点電位v0の最適値を、3つの単相インバータ3a〜3cの直流部電流の二乗和が最小となる中性点電位v0を最適値とする点が相違する。
【0063】
例えばa相の単相インバータ3aの直流電圧部に流れる電流は、(va+v0)ia/v
DCとなる。ここで、式(8)のように、三台の単相インバータ3a〜3cの直流部電流の二乗和Wを考える。
【0065】
ここで、式(8)は、v0に関する下に凸な二次関数であるので、中性点電位演算部72は、式(8)を最小にするような中性点電位v0を式(9)により演算する。
【0067】
前記3つの単相インバータの直流部電流の二乗和は、直流部の配線における配線抵抗による電力損失に対応するので、上記構成により、電力損失を最小化することができる。また、本実施の形態のように、インバータに変圧器が接続される場合には、変圧器の二次巻線に流れる電流と直流部電流は比例するので変圧器巻線における巻線抵抗による発熱を最小化することができる。同様な理由で、変圧器2の二次巻線の銅損や、平滑コンデンサ11の損失を最小化することができる。
【0068】
尚、実施の形態1におけるミニマックス法の式(3)と同様に式(8)も下に凸な関数であるので、式(8)を最小化する中性点電位が式(5)で示す範囲を逸脱する場合は、上記実施の形態1と同様に、式(5)の範囲内で一番近い値を選べばよい。
【0069】
[シミュレーション結果]
本発明者等は、上記各実施の形態の効果を実証するために、ミニマックス法及び最小二乗法によるシミュレーションを行った。シミュレーションでは、負荷電流ia、ib、icを平衡した三相交流電流と仮定し、単相インバータ3a〜3cが負荷4に印加したい相電圧va、vb、vcと中性点電位v0、直流部電力の二乗和W、及び相毎の瞬時電力Pを計算した。
図8〜
図12は、負荷力率が1.0の場合の計算結果のグラフを示している。波形が錯綜するので、2相分についてのみ示している。尚、図中の変調率Mは負荷に与える相電圧を直流部電圧で除した値で定義され、零から2/√3の値をとる。図中には、式(7)の条件で示される解の範囲もあわせて示している。電圧利用率の向上を優先する場合には、中性点電位は式(7)の範囲内で零に近い値を選択することが多い。計算結果をみるとこの逆に、相電力の最小化をするために、中性点電位は非常に大きく動いている。
【0070】
まず、ミニマックス法によるシミュレーション結果を示す。
図8(a)及び
図8(b)は、ミニマックス法による変調率Mが0.8の場合の相電圧及び中性点電位の時間変化を示したグラフである。
図9(a)及び
図9(b)は、ミニマックス法による変調率Mが1.0の場合の相電圧及び中性点電位の時間変化を示したグラフである。
図8及び
図9のグラフに示すように、ミニマックス法による結果では、中性点電位は変調率が小さいときから三角波状をなしている。変調率が大きい場合では、三角波形状を保ったまま、制限範囲内で大きく変動する。相電力の瞬時値をみると、変調率Mが1.0を超えない範囲ではミニマックス法による方法ではおよそ1/6周期の間、二つの相の瞬時電力が一致している。
【0071】
次に、最小二乗法によるシミュレーション結果を示す。
図10(a)及び
図10(b)は、最小二乗法による変調率Mが0.8の場合の相電圧及び中性点電位の時間変化を示したグラフである。
図11(a)及び
図11(b)は、最小二乗法による変調率Mが1.0の場合の相電圧及び中性点電位の時間変化を示したグラフである。
図10及び
図11のグラフに示すように、二乗和の最小化による方法では、変調率が小さいとき、中性点電位が基本波の三倍の周波数をもつ正弦波をなしており、電圧利用率の向上のための三次調波と同様の動きをしている。ただし、変調率が大きくなると中性点電位は制限範囲内で大きく変動する。また、二乗和の最小化による方法では相毎の一致区間が無く、ピーク電力そのものも、ミニマックス法による結果と比べわずかながら大きくなっている。
【0072】
図12(a)及び
図12(b)は、ミニマックス法及び最小二乗法による変調率1.0の場合の直流電力の二乗和の平均値の時間変化をそれぞれ示したグラフである。
図12に示すように、ミニマックス法及び最小二乗法により、直流電力の二乗和の平均値は中性点電位の変動により、同程度抑制されていることが分かる。
【0073】
図8〜
図12の結果をまとめたものが
図13である。
図13は、補正無しの場合とミニマックス法及び最小二乗法による電力の二乗和とピーク電力を比較したグラフである。
図13に示すように、変調率が1.0のとき、中性点電位をまったく動かさない補正無しの場合に比べ、二乗和の最小化による方法では、最大電力がおよそ22%低減されている。また、ミニマックス法による方法では、25%改善されている。
【0074】
一方で、直流部電流の二乗和の平均値は、二乗和の最小化による方法がごくわずか小さいが、無視しうる範囲であり、二つの方法で大きな差異はないとみなせる。本発明者らは、最小二乗法よりもミニマックス法が望ましい結果が得られたと総合的に評価している。
【0075】
図14(a)及び
図14(b)は、負荷力率0.5及び変調率0.8の場合のミニマックス法による相電圧、中性点電位及び相電力の結果を示したグラフである。
図14に示すように、中性点電位の動きは、力率が1.0の場合と大きく異なっており、力率の変化に応じて瞬時電力を最小化しようと働いていることがわかる。
【0076】
以上の二乗和の最小化による方法とミニマックス法による方法についてシミュレーション結果から、僅かながらミニマックス法による方法が優れていることが明らかになった。両方法の計算量について検討した場合、ミニマックス法の解法では、少なくとも6回の絶対値演算と3回の除算、および三つの変数の比較を必要とする。よって計算量という点では二乗和最小化法の方が有利である。しかし近年の制御装置の性能向上を考えると、この演算に要する時間の差は軽微であると考えられる。本方式は,不平衡負荷や非線形負荷にともなう電流の不平衡、高調波にも対応できるという利点がある。
【0077】
尚、上記各実施の形態における電力変換部3の出力側には出力線30を介して三相交流負荷4が接続されたが、これに限られるものではなく、二相負荷であってもよい。このような場合ではあっても、上記各実施の形態で説明したような効果を奏することができる。
【0078】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。