(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6293450
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】熱処理方法
(51)【国際特許分類】
C21D 1/42 20060101AFI20180305BHJP
C21D 1/10 20060101ALI20180305BHJP
H05B 6/40 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
C21D1/42 B
C21D1/42 J
C21D1/10 R
C21D1/10 S
H05B6/40
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-215509(P2013-215509)
(22)【出願日】2013年10月16日
(65)【公開番号】特開2015-78408(P2015-78408A)
(43)【公開日】2015年4月23日
【審査請求日】2016年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】特許業務法人航栄特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100115107
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 猛
(74)【代理人】
【識別番号】100151194
【弁理士】
【氏名又は名称】尾澤 俊之
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 智一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 洋介
【審査官】
佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭60−159115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/02− 1/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの柱状突起部分の突出方向中心線を間に挟んで対向し且つ該柱状突起部分の外周面に含まれる表裏一対の領域に沿って並行して延びる一対の導体を前記柱状突起部分の先端面よりも突出方向上側に配置し、前記一対の導体に該導体の延在方向同じ向きに電流を流し、前記柱状突起部分の外周面の前記表裏一対の領域を誘導加熱する熱処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の熱処理方法であって、
前記一対の導体の各々の前記突起部分の外周面に向く面を露呈させて該導体を囲繞するコアが、該導体に装着されている熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの突起部分の外周面を誘導加熱する熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークの突起部分の外周面を熱処理する場合に、突起部分の外周面を取り囲む環状の誘導加熱コイルが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭63−15970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
突起部分の外周面を局部的に熱処理することが要請される場合がある。しかし、特許文献1に記載された熱処理方法によると、突起部分に発生する誘導電流は突起部分の外周面を循環するため、突起部分の外周面が全周に亘って加熱されてしまう。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みなされたものであり、ワークの突起部分の外周面を局部的に熱処理することが可能な熱処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ワークの
柱状突起部分の突出方向中心線を間に挟んで対向し且つ該
柱状突起部分の外周面
に含まれる表裏一対の領域に沿って並行して延びる一対の導体
を前記柱状突起部分の先端面よりも突出方向上側に配置し、前記一対の導体に該導体の延在方向同じ向きに電流を流し、前記
柱状突起部分の外周面
の前記表裏一対の領域を誘導加熱する熱処理方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ワークの突起部分の外周面において一対の導体の並び方向に表裏をなす領域対を局部的に熱処理することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態を説明するための、誘導加熱コイルの一例の構成を示す図である。
【
図2】
図1の誘導加熱コイルを用いたワークの突起部分の誘導加熱において、誘導加熱コイルの一対の導体の周囲に形成される磁場を示す図である。
【
図3】
図1の誘導加熱コイルを用いたワークの突起部分の誘導加熱において、ワークの突起部分に発生する誘導電流を示す図である。
【
図4】
図1の誘導加熱コイルを用いて焼入れされたワークの突起部分の焼入れパターンを示す図である。
【
図5】
図1の誘導加熱コイルの変形例の構成を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態を説明するための、誘導加熱コイルの他の例の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明の実施形態を説明するための、誘導加熱コイルの一例の構成を示す。
【0010】
図1に示す誘導加熱コイル10は、ワーク1の突起部分2の外周面を誘導加熱するものである。
【0011】
ワーク1の突起部分2は、図示の例では略四角柱状に形成されており、突起部分2の外周面3は、表裏をなす一対の側面30,31、及び表裏をなす一対の側面32,33によって構成されている。なお、突起部分2の形状は、表裏をなす一対の領域を外周面に含む限りにおいて限定されず、例えば略円柱状などであってもよい。
【0012】
誘導加熱コイル10は、一対の導体11−1,11−2と、両導体11−1,11−2を接続する接続導体12とを備えている。
【0013】
導体11−1,11−2は突起部分2の先端面4よりも上方に配置される。そして、導体11−1は側面30の先端面4との稜線30aに沿い、導体11−2は側面31の先端面4との稜線31aに沿うようにして、両導体11−1,11−2は突起部分2の突出方向中心線Cを間に挟んで対向し、並行して延びて設けられている。
【0014】
接続導体12は、導体11−1,11−2を並列に接続しており、誘導加熱コイル10に高周波の電力を供給する電源部13に接続される。
【0015】
図2は、誘導加熱コイル10を用いたワーク1の突起部分2の誘導加熱において、導体11−1,11−2の周囲に形成される磁場を示し、
図3は突起部分2に発生する誘導電流を示す。
【0016】
電源部13から誘導加熱コイル10への給電に伴い、並列に接続された導体11−1,11−2には、任意の時点において、両導体の延在方向同じ向きに電流I1が流れる。導体11−1,11−2に電流I1が流れるのに伴い、両導体の周囲に磁場が形成される。
【0017】
同じ向きに電流I1が流れる導体11−1,11−2の周囲に形成される磁場において、両導体の間の磁束密度は減弱される。よって、先端面4の幅方向(導体11−1,11−2の並び方向)中央部に鎖交する磁束は僅かとなる。そして、導体11−1が沿う稜線30aを一辺とする側面30、及び導体11−2が沿う稜線31aを一辺とする側面31に対して、任意の時点において、同じ向きに磁束φが鎖交する。
【0018】
同じ向きに磁束φが鎖交した側面30,31の各々には誘導電流I2が発生し、誘導電流I2は、突起部分2の外周面3を循環することなく、側面30,31の各々の面内を循環するように流れる。それにより、突起部分2の外周面3のうち側面30,31が局部的に誘導加熱される。
【0019】
図4は、誘導加熱コイル10を用いて焼入れされたワーク1の突起部分2の焼入れパターンを示す図であり、(a)は
図3におけるIVa矢視面を示し、(b)は
図3におけるIVb−IVb断面を示し、(c)は
図3におけるIVc矢視面を示す。なお、図中、薄墨を施した箇所が焼入れ硬化層である。
【0020】
図4に示されるように、誘導加熱コイル10を用いたワーク1の突起部分2の焼入れによれば、側面32,33及び先端面4の幅方向中央部には焼入れ硬化層が形成されず、側面30,31に焼入れ硬化層が形成される。
【0021】
なお、上述した例では、導体11−1,11−2は、突起部分2の先端面4よりも上方に位置して側面30,31に沿って延びて設けられているが、例えば
図5に示すように、導体11−1,11−2は、側面30,31の側方に位置して側面30,31に沿って延びて設けられていてもよい。
【0022】
図6は、本発明の実施形態を説明するための、誘導加熱コイルの他の例の構成を示す。
【0023】
図6に示す例は、上述した誘導加熱コイル10の一対の導体11−1,11−2の各々に、磁束の広がりを調整するためのコア14を装着したものである。コア14によって磁束の広がりを調整することにより、磁束をワーク1の突起部分2の局部に集中的に鎖交させることができ、その部位の加熱効率を高めることができる。
【0024】
コア14は、図示の例では、導体11−1,11−2の下面(突起部分2の外周面3に向く面)を除く表面を各導体の略全長にわたって覆うように形成されているが、コア14の形状は突起部分2の形状や所望する突起部分2の外周面の加熱温度分布に応じて種々に変更することができる。
【0025】
以上、説明したとおり、本明細書には下記の事項が開示されている。
【0026】
(1) ワークの突起部分の突出方向中心線を間に挟んで対向し且つ該突起部分の外周面に沿って並行して延びる一対の導体に、該導体の延在方向同じ向きに電流を流し、前記突起部分の外周面を誘導加熱する熱処理方法。
(2) 上記(1)の熱処理方法であって、前記一対の導体の各々の前記突起部分の外周面に向く面を露呈させて該導体を囲繞するコアが、該導体に装着されている熱処理方法。
【符号の説明】
【0027】
1 ワーク
2 突起部分
3 外周面
4 先端面
10 誘導加熱コイル
11−1 導体
11−2 導体
12 接続導体
13 電源部
14 コア