(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ワークと前記給電子とがそれぞれ、前記ワイヤ列上で、前記二つのメインローラ間の中心部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のワイヤ放電加工システム。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明の実施の形態に係るマルチワイヤ放電加工機1を前方から見た外観図である。尚、
図1に示す各機構の構成は一例であり、目的や用途に応じて様々な構成例があることは言うまでもない。
【0011】
図1は本発明におけるマルチワイヤ放電加工システム(半導体基板または太陽電池基板の製造システム)の構成を示す図である。マルチワイヤ放電加工システムは、マルチワイヤ放電加工装置1、電源装置2、加工液供給装置50から構成されている。
マルチワイヤ放電加工システムは、放電により並設された複数本のワイヤの間隔で被加工物を薄片にスライスすることができる。
【0012】
1はマルチワイヤ放電加工装置であり、1には、サーボモータにより駆動されるワーク送り装置3がワイヤ103上部に設けられ上下方向にワーク105を移動できる。本発明ではワーク105が下方向に送られ、ワーク105とワイヤ103の間で放電加工がおこなわれるが、ワーク送り装置3をワイヤ103の下部へ設けワーク105を上方向へ移動してもよい。
【0013】
2は電源装置であり、2には、サーボモータを制御する放電サーボ制御回路が放電の状態に応じて効率よく放電を発生させるために放電ギャップを一定の隙間に保つように制御し、またワーク位置決めを行い、放電加工を進行させる。
【0014】
加工電源回路(
図7)は、放電加工のための放電パルスをワイヤ103へ供給するとともに、放電ギャップで発生する短絡などの状態に適応する制御を行いまた放電サーボ制御回路への放電ギャップ信号を供給する。
【0015】
50は加工液供給装置であり、50は、放電加工部の冷却、加工チップ(屑)の除去に必要な加工液をポンプによりワーク105とワイヤ103へ送液する共に、加工液中の加工チップの除去、イオン交換による電導度(1μS〜250μS)の管理、液温(20℃付近)の管理を行う。おもに水が使用されるが、放電加工油を用いることもできる。
【0016】
8,9はメインローラであり、メインローラには、所望する厚さで加工出来るようにあらかじめ決められたピッチ、数で溝が形成されており、ワイヤ供給ボビンからの張力制御されたワイヤが2つのメインローラに必要数巻きつけられ、巻き取りボビンへ送られる。ワイヤ速度は100m/minから900m/min程度が用いられる。
2つのメインローラが同じ方向でかつ同じ速度で連動して回転することにより、ワイ
【0017】
ヤ繰出し部から送られた1本のワイヤ103がメインローラ(2つ)の外周を周回し、並設されている複数本のワイヤ103を同一方向に走行させる(走行手段)ことができる。
【0018】
ワイヤ103は
図8に示すように、1本の繋がったワイヤであり、図示しないボビンから繰り出され、メインローラの外周面のガイド溝(図示しない)に嵌め込まれながら、当該メインローラの外側に多数回(最大で2000回程度)螺旋状に巻回された後、図示しないボビンに巻き取られる。
マルチワイヤ放電加工機1は、電源ユニット2と電線513を介して接続されており、電源ユニット2から供給される電力により作動する。
【0019】
マルチワイヤ放電加工機1は、
図1に示すように、マルチワイヤ放電加工機1の土台として機能するブロック15と、ブロック15の上部の中に設置されている、ブロック20と、ワーク送り装置3と、接着部4と、シリコンインゴット105と、加工液漕6と、メインローラ8と、ワイヤ103と、メインローラ9と、給電ユニット10と、給電子104と、を備えている。
図2を説明する。
図2は、
図1に示す点線16枠内の拡大図である。
【0020】
8,9はメインローラであり、メインローラにワイヤ103が複数回巻きつけられており、メインローラに刻まれた溝に従い、所定ピッチでワイヤ103が整列している。
メインローラは中心に金属を使用し、外側は樹脂で覆う構造である。
メインガイドローラの間中央部の下部に、加工電源からの放電パルスを供給するため
に給電子104が設けられていてワイヤ103の10本と接触させている(
図3)。
給電子104の配置は、シリコンインゴット105の両端よりワイヤの長さが等しくなる位置を中心に設けてある。
給電子104は、機械的摩耗に強く、導電性があることが要求され超硬合金が使用されている。
メインローラの間中央部の上部に、シリコンインゴット105を配置、ワーク送り装置3に取付け上下方向に移動し加工を行う。
メインローラの間中央部に加工液槽6を設け、ワイヤ103およびシリコンインゴット105を浸漬し、放電加工部の冷却、加工チップの除去を行う
【0021】
図3のように、ワイヤ104の本数を10本に対して接触する給電子104を1個で示しているが、給電子あたりのワイヤ本数や給電子の総数は必要数に応じて増やすことは言うまでもない。
【0022】
ブロック20は、ワーク送り装置3と接合されている。また、ワーク送り装置3は、シリコンインゴット105(ワーク)と接着部4により接着(接合)されている。
本実施例では、加工材料(ワーク)として、シリコンインゴット105を例に説明する。
【0023】
接着部4は、ワーク送り装置3と、シリコンインゴット105(ワーク)とを接着(接合)するためのものであれば何でもよく、例えば、電導性の接着剤が用いられる。
【0024】
ワーク送り装置3は、接着部4により接着(接合)されているシリコンインゴット105を上下方向に移動する機構を備えた装置であり、ワーク送り装置3が下方向に移動することにより、シリコンインゴット105をワイヤ103に近づけることが可能となる。
【0025】
加工液漕6は、加工液を溜めるための容器である。加工液は、例えば、抵抗値が高い脱イオン水である。ワイヤ103と、シリコンインゴット105との間に、加工液を設けられることにより、ワイヤ103と、シリコンインゴット105との間で放電が起き、シリコンインゴット105を削ることが可能となる。
【0026】
メインローラ8、9には、ワイヤ103を取り付けるための溝が複数列形成されており、その溝にワイヤ103が取り付けられている。そして、メインローラ8、9が右又は左回転することにより、ワイヤ103が走行する。
また、
図2に示すように、ワイヤ103は、メインローラ8、9に取り付けられ、メインローラ8、9の上側、及び下側にワイヤ列を形成している。
【0027】
また、ワイヤ103は、伝導体であり、電源ユニット2から電圧が供給された給電ユニット10の給電子104と、ワイヤ103とが接触することにより、当該供給された電圧が給電子104からワイヤ103に印加される。(給電子104がワイヤ103に電圧を印加している。)
【0028】
そして、ワイヤ103と、シリコンインゴット105との間で放電が起き、シリコンインゴット105を削り(放電加工を行い)、薄板状のシリコン(シリコンウエハ)を作成することが可能となる。
図3を説明する。
図3は、給電子104の拡大図を示す。
給電子104(1個)はワイヤ103(10本)と接触している。
ワイヤ103同士の間隔(ワイヤのピッチ)は0.3mm程度である。
図4を説明する。
図4は従来方式であるワイヤ毎に個別に加工電流を給電する個別給電での電気回路400を示す図である。
【0029】
401は加工電源(Vm)である。放電加工に必要な電流を供給するために設定される加工電圧である。Vmは60V〜150Vで任意の加工電圧に設定することができる。
【0030】
402は加工電源(Vs)である。放電を誘発するために設定される誘発電圧である。さらにワイヤとワークとの間にて極間電圧(極間電流)の状態をモニターする目的にも使用される。Vsは60V〜300Vで任意の誘発電圧に設定することができる。
403はトランジスタ(Tr2)である。加工電源VmのON(導通)状態とOFF(非導通)状態をスイッチングで切り替える。
404はトランジスタ(Tr1)である。加工電源VsのON(導通)状態とOFF(非導通)状態をスイッチングで切り替える。
【0031】
405は加工電流制限抵抗体の抵抗(Rm)である。固定の抵抗値を設定することで、1本毎のワイヤ電流(Iw)や極間放電電流(Ig)を制限する。Rmは1Ω〜100Ωで任意の抵抗値に設定することができる。つまりVm=60V(ボルト)、Vg=30V、Rm=10Ωとした場合で、Iw(Ig)=(60V−30V)/10Ω=3A(アンペア)となる。
【0032】
なお、上記の計算式では、加工電源(Vm)から給電点(給電子)までの電圧降下を30Vとしたが、ワイヤ抵抗(Rw)による給電点から放電点までの電圧降下は考慮していない。
【0033】
つまり従来方式である個別給電方式の場合には加工電流Iwの値は、加工電流制限抵抗体の抵抗Rmにより決定されるので、1本毎に所望のワイヤ電流や放電電流(Ig)を得るためには、ワイヤ抵抗RwがRm>Rwの関係になるように設定される。
【0034】
406は誘発電流制限抵抗(Rs)である。固定の抵抗値を設定することで放電を誘発する誘発電流を制限する。Rsは1Ω〜100Ωで任意の抵抗値に設定することができる。
407は極間電圧(Vg)である。放電中にワイヤ103とワーク105との間(極間)に印加される極間放電電圧である。
408は極間電流(Ig)である。放電中にワイヤ103とワーク105との間に流れる極間放電電流である。
410はワイヤ1本毎に個別に供給される加工電流(Iw)である。
図5を説明する。
図5は従来方式であるワイヤ毎に個別に加工電流を給電する個別給電での電気回路400が複数本のワイヤに給電している図である。
409はワイヤ1本毎の抵抗を示すワイヤ抵抗(Rw)である。
204は個別の給電子である。シリコンインゴット105の両端の近傍に設けた、2ヶ所の個別給電子から加工電圧のパルスを印加し、放電加工を行う。
巻回するワイヤ103の本数と同数の電源回路400に接続されている。
【0035】
図6は、本発明の極間放電電圧(Vgn)及び極間放電電流(Ign)の変化とTr1、Tr2のON/OFF動作(タイミングチャート)を示す。グラフの横軸は時間である。
【0036】
まずトランジスタTr1503をONし、誘発電圧を印加する。このときワイヤ103とワーク105間(極間)は絶縁されているため、ほとんど極間放電電流は流れない。その後、極間放電電流が流れ始めて放電を開始するとVgnが電圧降下することで、放電開始を検出しTr2をONすると、大きな極間放電電流を得る。所定時間経過後にTr2をOFFする。Tr2のOFFを所定時間経過した後に再び一連の動作を繰り返す。
図7を説明する。
【0037】
図7は本発明における複数本のワイヤ(10本)に一括で加工電流を給電する一括給電での電気回路2を示す図である。加工電流とワイヤ電流と極間放電電流が流れている状態を示している。
図8に示す電気回路2との等価回路を示している。
【0038】
仮に
図4に示す従来方式の電気回路400を、複数のワイヤ(10本)に一括で加工電流を給電する一括給電での電気回路にそのまま導入したとすれば、加工電源から給電点の間にて加工電流を制御するために、電流制限抵抗体Rm405の代わりに、複数のワイヤ(10本)に供給されるワイヤ電流の合計(10倍)の加工電流が供給されるように、Rmを10本(メインローラ8、9を巻回する周回数)で割った抵抗値の電流制限抵抗体を加工電源から給電点との間に設置すればよい。
まず、このように固定された抵抗値を持つRm/10本を加工電源から給電子との間に設置した場合を説明する。
【0039】
10本全てのワイヤとワークとの間で放電状態が均一にかつ同時に起こった場合には、10本のワイヤで放電電流が均等に分散されるので、固定された抵抗値(Rm/10本)に応じた放電電流が各ワイヤとワークとの間に供給されるので、過剰な放電電流の供給は問題とならない。
【0040】
しかしながら、10本全てのワイヤとワークとの間で放電状態が均一にかつ同時に起こらなかった場合には、固定された抵抗値(Rm/10本)に応じたワイヤ電流が放電状態になったワイヤとワークとの間に集中して供給されるので、過剰なワイヤ電流の供給が問題となる。つまり、10本の中で1本のみが放電状態になった場合には、本来1本のワイヤとワークに供給されるべきワイヤ電流の10倍のワイヤ電流が、放電状態になっているワイヤとワークに供給され、ワイヤが断線してしまう。
【0041】
本発明の配線513の抵抗値Rmn505は従来方式の加工電流制限抵抗体のように抵抗値を所定の値に固定するものではなく、10本の中で1本のみが放電状態になった場合であっても、放電状態となった本数に応じて抵抗値が変動するように制御できる機構を備えている。
【0042】
さらに、本発明の抵抗値Rmn505をワイヤ抵抗Rwn509と比べて十分に小さな抵抗値の範囲で変動させることで、加工電流を制限するにあたってRwn509の方が支配的になり、抵抗値Rmn505の影響はほぼ無視することができる。
【0043】
つまり、加工電源部501から給電子104までの間に流れ、極間ではワーク105に放電する極間放電電流になる加工電流の下限を制限する加工電流制限抵抗体を備えなくてもよいということである。
つまり、Rmnを10本(メインローラ8、9を巻回する周回数)で単純に割った抵抗値よりも小さい抵抗値にすればよいということである。
【0044】
つまり各ワイヤの抵抗Rwn509であるインピーダンスを利用することで、各ワイヤのワイヤ電流Iwnが安定して供給されるので、ワイヤ電流の集中が起こらない。
509はワイヤ1本毎のワイヤによる抵抗(Rwn)である。
【0045】
ここで給電子104から放電部までのワイヤ抵抗値とは、給電子104と接触してから、かつ走行するワイヤ(1本)による、放電部までのワイヤの長さよる抵抗である。
例えば、ワイヤ10本(メインローラ8、9を10周巻回する)に一括で給電する場合の各ワイヤ抵抗をそれぞれRw1、Rw2、〜Rw10とする。
【0046】
従来方式のように、RmnではなくRwnを1本毎のワイヤ電流(Iw)や放電電流(Ig)を制限する抵抗とすることで、1本毎のワイヤ電流(Iwn)や放電電流(Ign)を制限することができる。つまり給電点(給電子)と放電点(放電部)との距離(長さL)を変えることで任意の抵抗値に設定することができる。つまりVmn=60V、Vgn=30V、Rwn=10Ωとした場合には、Iwn(Ign)=(60V−30V)/10Ω=3Aとなる。
【0047】
なお、上記の計算式では、ワイヤ抵抗(Rwn)による給電点から放電点までの電圧降下を30Vとしたが、加工電源から給電点までの電圧降下を起こす抵抗(Rmn)による給電点から放電点までの電圧降下は考慮していない。
【0048】
つまり本発明である一括給電方式の場合にはIwnは、Rmnにより決定されるので、1本毎に所望のワイヤ電流(Iwn)や放電電流(Ign)を得るためには、加工電源から給電点までの電圧降下を起こす抵抗RmnがRmn<Rwnの関係になるように設定される。
【0049】
また各ワイヤ個別のワイヤ抵抗Rwnは(1)ワイヤの材質による電気抵抗値ρ、(2)ワイヤの断面積B、(3)ワイヤの長さL、の3つのパラメータからRwn=(ρ×B)/Lの関係式によりで定めることができる。
【0050】
501は加工電源部(Vmn)である。放電加工に必要な加工電流を供給するために設定される加工電圧である。Vmnは任意の加工電圧に設定することができる。さらに従来方式よりも加工電流の供給量が大きくなるので、401と比べると大きな電力(加工電圧と加工電流の積)を供給する。
加工電源部501は給電子104に加工電源(Vmn)を供給する。
【0051】
502は加工電源部(Vsn)である。放電を誘発するために設定される誘発電圧である。さらにワイヤとワークとの間にて極間電圧(極間電流)の状態をモニターし、ワーク送り装置の制御に利用する目的にも使用される。Vsnは任意の誘発電圧に設定することができる。さらに従来方式よりも誘発電流の供給量が大きくなるので、402と比べると大きな電力を供給する。
加工電源部502は給電子104に加工電源(Vsn)を供給する。
503はトランジスタ(Tr2)である。加工電源VmnのON(導通)状態とOFF(非導通)状態をスイッチングで切り替える。
504はトランジスタ(Tr1)である。加工電源VsnのON(導通)状態とOFF(非導通)状態をスイッチングで切り替える。
507は放電極間電圧(Vgn)である。放電中にワイヤ103とワーク105との間に印加される放電極間電圧である。
例えば、ワイヤ10本に一括で給電する場合の各放電極間電圧をそれぞれVg1、Vg2、〜Vg10とする。
【0052】
放電によりワイヤ103とワーク105との間に放電極間電圧が印加される部分が放電部である。放電部において、走行する複数のワイヤと給電子との接触により走行する複数のワイヤに一括で給電された加工電源をワークに放電する。
508は放電極間電流(Ign)である。放電中にワイヤ103とワーク105との間に流れる放電極間電流である。
例えば、ワイヤ10本に一括で給電する場合の各放電極間電流をそれぞれIg1、Ig2、〜Ig10とする。
【0053】
放電によりワイヤ103とワーク105との間に放電極間電流が流れる部分が放電部である。放電部において、走行する複数のワイヤと給電子との接触により走行する複数のワイヤに一括で給電された加工電源をワークに放電する。
510はワイヤ1本毎に個別に供給されるワイヤ電流(Iwn)である。
例えば、ワイヤ10本に一括で給電する場合の各ワイヤ電流をそれぞれIw1、Iw2、〜Iw10とする。
511は給電点から放電点までの距離Lであり、すなわち給電点(給電子)から放電点(ワーク)までのワイヤの長さである。
図8を説明する。
図8は本発明における複数本のワイヤ(10本)に一括で加工電流を給電する一括給電の電気回路2により複数本のワイヤに一括給電している図である。
【0054】
104は給電子である。給電子104は走行する複数本のワイヤに一括で接触する。シリコンインゴット105と対向する位置に設けた、1ヶ所の給電子104から放電パルスを印加し、放電加工を行う。
メインローラを巻回するワイヤ103の本数(10本)に対して1つの電源回路2が接続されている。
以下、
図8の配置を参照して、ワイヤに流れる加工電流(各ワイヤ電流の合計)を説明する。
【0055】
図8に示すように、給電点(給電子104とワイヤ103が接触する位置)から放電点(ワイヤ103とワーク105との間)に流れるワイヤ電流は左右のメインローラの2方向に流れるので、各方向に対するワイヤ抵抗が存在している。
511L1は電流が左のメインローラ方向に流れた場合の給電点と放電点との長さ(距離)であり、L1の場合に定まるワイヤ抵抗をRw1aとする。
511L2は電流が右のメインローラ方向に流れた場合の、放電点と給電点との長さ(距離)であり、L2の場合に定まるワイヤ抵抗をRw1bとする。
ワイヤ103がメインローラ8、9を1周巻回する長さを2mとする。
給電子104は、1周巻回する長さのほぼ半分の距離に配置されているので、放電点と給電点との距離(ワイヤの長さL)を1mである。
よって給電子から放電部までを走行するワイヤの距離は0.5mよりも長い。
【0056】
ワイヤ103の材質の主成分は鉄であり、ワイヤの直径は0.12mm(断面積0.06×0.06×πmm
2)である。ワイヤの抵抗値Rw1a、Rw1bはそれぞれ、同じ長さ(L1=L2=1m)であるので各々のワイヤ抵抗値は同一の20Ω程度とすればRw1aとRw1bによる1本(メインローラ8、9を1周巻回する)の合成のワイヤ抵抗値は10Ω程度となる。
【0057】
また、
図8のようにL1及びL2の長さによるワイヤ抵抗値を同じ抵抗値にするために、L1とL2の長さが同じになるように給電子104を配置することが好ましいが、L1とL2の長さの違いが10%程度(例えばL1が1mでL2が1.1m)ことなるように給電子104を配置しても特に問題はない。
放電電圧Vg1〜Vg10がほぼ等しい場合、VmnがそれぞれのRw1〜Rw10に印加されているので、Iw1〜Iw10は全て同じワイヤ電流である。
ここでワイヤ抵抗による電圧降下値(Rw1×Iw1)と放電電圧(Vgn)からVmnを求める.
給電子104から放電部までの電圧降下は走行するワイヤの抵抗による電圧降下である。
Rw1=10Ω(給電子104から放電部までの抵抗値)。
Iw1=3A
Vgn=30Vとすれば、Vmnは以下のようになる。
Vmn=10(Ω)×3(A)+30V=60V
よって給電子から放電部までの電圧降下は10Vよりも大きい。
よって給電子から放電部までの抵抗値が1Ωよりも大きい。
尚、Rwn=(ρ×B)/Lの関係式により、ワイヤのパラメータによりワイヤ抵抗による電圧降下値を設定してもよい。
【0058】
よって、10本全てのワイヤとワークとの間で放電状態が均一にかつ同時に起こった場合のRmnを計算すると、全てのワイヤで放電状態となり10本のワイヤにIw1=3Aが流れている場合は、加工電源から給電点との間では全体で10本×3A=30Aの加工電流が必要となり、この加工電源から給電点との間の電圧降下をVmnの100分の1(0.6V)とすれば、この場合のRmnは以下のようになる。
よって加工電源部から給電子104までの電圧降下は1Vよりも小さい。
よって加工電源部から給電子までの電圧降下は、給電子から放電部までの電圧降下よりも小さい。
Rmn=0.6V/30A=0.02Ω(加工電源部501から給電子104までの抵抗値)。
よって加工電源部から給電子までの抵抗値は0.1Ωより小さい。
よって加工電源部から給電子までの抵抗値が、給電子から放電部までの抵抗値よりも小さい。
よって加工電源部から給電子104までの電圧降下と給電子104から放電部までの電圧降下との比は10倍以上である。
よって加工電源部から給電子104までの抵抗値と給電子から放電部までの抵抗値との比が10倍以上である。
よってRmnを考慮して10本の加工電流をもとめると(60V−30V)/((10Ω/10本)+0.02Ω)=29.41Aとなり
ワイヤ一本当たりに割ったあとの加工電流は2.941Aとなる。
【0059】
また、10本全てのワイヤとワークとの間で放電状態が均一にかつ同時に起こらなかった場合に1本のワイヤ電流が流れたとしても、ワイヤ一本当たりに割ったあとの加工電流は(60V−30V)/(10Ω+0.02Ω)=2.994Aとなり、10本全てのワイヤとワークとの間で放電状態が均一にかつ同時に起こった場合と比べても大きな差は生じない。
【0060】
また更なる効果として、複数本であるN本(メインローラ8、9をN周巻回する)のワイヤに1箇所(一括)で給電する場合には、1本のワイヤ毎に個別に給電したときの加工速度に比べて加工速度が1/Nとなるが,本発明によれば、N本のワイヤへ1箇所(一括)で給電した場合においても1本のワイヤへ個別に給電したときと同等の加工速度を維持することができる。
【0061】
図9は、上述の(Vmn−Vgn)/((Rwn/ワイヤの本数)+Rmn)=加工電流の計算式を用いて、ワイヤの本数の増加にともなって変化する合計の加工電流の理論計算値を、Rmnだけを可変にして比較したグラフである。また式においてはVmn=60V、Vgn=30V、Rwn=10Ωとして加工電流の値(アンペア)を求めた。
【0062】
グラフの縦軸は合計の加工電流を示すアンペアであり、グラフの縦軸は給電子に接し、1箇所(一括)で給電されるワイヤの本数である。異なるサイズの給電子104をワイヤと接触されて給電することで、1箇所(一括)で給電されるワイヤの本数(1本、2本、10本、、、、100本)を変える事ができる。
グラフはRmn以外のパラメータを固定しRmnの抵抗値(Ω)だけをそれぞれ異なる3つの抵抗値に置き換えて比較したものである。
【0063】
グラフから、Rmnをより小さくするほど、ワイヤの本数の増加にともなって加工速度と直接関連性があるといえる加工電流の合計はワイヤの本数にほぼ比例するように増加していることがわかる。
【0064】
図10は、A点に流れるモニター電流を測定可能な電流測定器1000を設置した配置図とそれにより実測したモニター電流値の測定結果の表である。モニター電流値を加工電流値の合計として見た場合、モニター電流値の実測値から加工電流値の挙動を確認することができる。
【0065】
実測したモニター電流値と給電子104から一括給電されるワイヤ本数との関係を見ると、一括給電されるワイヤ本数の増加に応じてモニター電流値が増加することが確認された。表から一括給電されるワイヤ本数が5倍になると、モニター電流値が約3倍程度になっている。この結果により
図9で示したようにRmnを0.02Ω程度まで小さくした場合、ワイヤの本数の増加にともなって加工速度と直接関連性があるといえる加工電流の合計はワイヤの本数にほぼ比例するように増加していることを実証している。すなはち、加工電流の合計が増加することで、ワイヤ1本毎に流れるワイヤ電流(Iwn)もワイヤの本数にほぼ比例するように増加するので、N本のワイヤへ1箇所(一括)で給電した場合においても1本のワイヤへ個別に給電したときと同等の加工速度を維持することができる。
また、Rsn506の抵抗値は、Rmn505とは逆に、高い抵抗値が設定されることが望ましい。Vsn502の役割は、上述した放電を誘発するために設定される誘発電圧としての役割の他に、極間の状態であるワイヤとワークの間で発生する短絡の有無を検出に使用する役割があるため、なるべくVsn502から供給されるエネルギーは小さい方が好ましい。換言すれば、Vsn502から供給される誘発電圧および電流は、Vmn501とは異なり加工速度には直接的に寄与しない電圧および電流であると言うことができる。
本発明においては、ワイヤ103とワーク105間(極間)の加工液の抵抗値は極間の距離により変化する。よって誘発電流制限抵抗であるRsn506をこの極間の加工液の抵抗値とほぼ同じ程度の値に設定することで、極間電圧(Vgn)の変動を検出することができる。
尚、本発明のマルチワイヤ放電加工システムでスライスされた半導体インゴットは、半導体用の基板または太陽電池用の基板として製造され、半導体デバイスや太陽電池として使用することができる。