特許第6293503号(P6293503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 電気化学工業株式会社の特許一覧

特許6293503アクリルエラストマー、アクリルエラストマー組成物および積層体
<>
  • 特許6293503-アクリルエラストマー、アクリルエラストマー組成物および積層体 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6293503
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】アクリルエラストマー、アクリルエラストマー組成物および積層体
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/14 20060101AFI20180305BHJP
   C08F 20/18 20060101ALI20180305BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20180305BHJP
   C08K 5/49 20060101ALI20180305BHJP
   B32B 25/00 20060101ALI20180305BHJP
   F16L 11/04 20060101ALI20180305BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   C08L33/14
   C08F20/18
   C08K5/14
   C08K5/49
   B32B25/00
   F16L11/04
   F16F15/04 P
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-16102(P2014-16102)
(22)【出願日】2014年1月30日
(65)【公開番号】特開2015-140433(P2015-140433A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2016年12月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】堀口 達徳
(72)【発明者】
【氏名】河崎 孝史
(72)【発明者】
【氏名】小島 比登志
【審査官】 横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−194539(JP,A)
【文献】 特開平10−139829(JP,A)
【文献】 特開平08−053595(JP,A)
【文献】 特開昭49−092177(JP,A)
【文献】 特開平02−263640(JP,A)
【文献】 特開昭61−189934(JP,A)
【文献】 特開2009−091437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
B32B 25/00
C08F 6/00−246/00
C08K 3/00−13/08
F16F 15/04
F16L 11/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
臭素を架橋席として含有するアクリルエラストマーであって、JIS K7392:2009に記載された方法より測定される臭化物イオンの含有量がアクリルエラストマー100質量%に対して0.1〜2質量%であるアクリルエラストマー100質量部、有機過酸化物1〜7質量部、オニウム塩1〜5質量部とを含有する、アクリルエラストマー組成物
【請求項2】
アクリルエラストマーが、臭素を架橋席として含有し、更にエポキシ基、カルボキシ基および活性塩素基からなる群より選ばれた少なくとも一種を架橋席として含有するアクリルエラストマーであって、臭素以外の架橋席成分の質量合計がアクリルエラストマー100質量%に対して0〜1.5質量%である請求項1に記載のアクリルエラストマー組成物
【請求項3】
有機過酸化物がパーオキシケタール類およびジアルキルパーオキサイド類の少なくとも一方であり、オニウム塩が有機アンモニウム塩および有機ホスホニウム塩の少なくも一方である、請求項1または2に記載のアクリルエラストマー組成物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか一項に記載のアクリルエラストマー組成物からなるアクリルエラストマー層と、ヨウ素を架橋席として含有するフッ素エラストマー組成物からなるフッ素エラストマー層とが接着されて形成された積層体。
【請求項5】
請求項4に記載の積層体を加硫して得られる加硫物。
【請求項6】
請求項5に記載の加硫物からなるホース部品。
【請求項7】
請求項5に記載の加硫物からなるシール部品。
【請求項8】
請求項5に記載の加硫物からなる防振ゴム部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクリルエラストマー、アクリルエラストマー組成物、および積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリルエラストマーやその加硫物は、耐熱老化性や耐油性、機械的特性、圧縮永久歪み特性等の物性に優れているため、自動車のエンジンルーム内のホース部材やシール部材、防振ゴム部材などの材料として多く使用されている。
【0003】
これら部材については、近年の排ガス対策やエンジンの高出力化等の影響を受け、より耐熱老化性、耐酸性に優れるものが望まれている。
【0004】
そこで、上記の問題点を解決し、ゴム部品の信頼性を高めるためには、アクリルエラストマーよりも耐久性、耐酸性の高いフッ素エラストマーの採用が考えられる。しかし、フッ素エラストマーは耐寒性が劣り、かつ高価であるため、万全の素材とは言えず、特に価格と信頼性を同時に要求する自動車部品には不適当である。
【0005】
例えば、下記特許文献1〜4には、フッ素エラストマー層とアクリルエラストマー層との積層体が開示されている。従来の素材で耐久性が真に問題になる部分にフッ素エラストマーを積層すれば、実質的な耐久性を高めることができる。
【0006】
フッ素エラストマーとアクリルエラストマーを積層体とする場合の重要な要求特性として、各層間の接着性が挙げられる。両者の接着強度が低い場合、積層体としての信頼性が損なわれるので、耐久性に優れた安価な積層体を得るためには、両者の接着強度を向上することが極めて重要である。
【0007】
そのため、フッ素エラストマー表面の金属ナトリウム溶液による表面処理(例えば特許文献1参照)、放電処理(例えば、特許文献2参照)、プラズマ処理(例えば、特許文献3参照)等の処理を施すことによって層状に成形したエラストマーとの接着強度の向上を図っている。また、特定種類のフッ素エラストマーを使用することで、フッ素エラストマー層と、非フッ素エラストマー層との接着性を向上させることも公知である(例えば、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平3−67637号公報
【特許文献2】特開2002−59486号公報
【特許文献3】特開2009−234216号公報
【特許文献4】特開2010−42669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記特許文献1〜3のような表面処理は、製造工程を煩雑にし、ホース製品等の積層体の製造コストの上昇を招く。また、表面処理によりエラストマー層が劣化すると、積層体のシール性低下の原因となる。特許文献4のように特定のフッ素エラストマーだけを使用する方法は、フッ素エラストマーの種類が制限されるため、柔軟性等の特性を積層体の用途に合わせて自由に設計することが困難であった。
【0010】
そこで、本発明は複数のエラストマー層が強固に接着された積層体を成形する際の接着性の向上を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明は以下の通りである。
(1)臭素を架橋席として含有するアクリルエラストマーであって、JIS K7392:2009に記載された方法より測定される臭化物イオンの含有量がアクリルエラストマー100質量%に対して0.1〜2質量%であるアクリルエラストマー100質量部、有機過酸化物1〜7質量部、オニウム塩1〜5質量部とを含有する、アクリルエラストマー組成物
(2)アクリルエラストマーが、臭素を架橋席として含有し、更にエポキシ基、カルボキシ基および活性塩素基からなる群より選ばれた少なくとも一種を架橋席として含有するアクリルエラストマーであって、臭素以外の架橋席成分の質量合計がアクリルエラストマー100質量%に対して0〜1.5質量%である(1)に記載のアクリルエラストマー組成物
(3)有機過酸化物がパーオキシケタール類およびジアルキルパーオキサイド類の少なくとも一方であり、オニウム塩が有機アンモニウム塩および有機ホスホニウム塩の少なくとも一方である、(1)または(2)に記載のアクリルエラストマー組成物。
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載のアクリルエラストマー組成物からなるアクリルエラストマー層と、ヨウ素を架橋席として含有するフッ素エラストマー組成物からなるフッ素エラストマー層とが接着されて形成された積層体。
(5)(4)に記載の積層体を加硫して得られる加硫物。
(6)(5)に記載の加硫物からなるホース部品。
(7)(5)に記載の加硫物からなるシール部品。
(8)(5)に記載の加硫物からなる防振ゴム部品。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、フッ素エラストマー層とアクリルエラストマー層とを強固に接着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は本発明の積層体の一例を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明は以下に示す各実施形態に限定されるものではない。
【0015】
<アクリルエラストマー>
本発明に用いるアクリルエラストマーは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、臭素化合物を架橋席モノマーとして共重合させたものである。なお、架橋席モノマーとは架橋席(架橋点)を形成する官能基を有する単量体(モノマー)のことである。また、必要に応じて、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに、酢酸ビニルやエチレンなどを共重合させたものを用いてもよい。また、他の架橋席モノマーとして、エポキシ基、カルボキシ基、活性塩素基などを含むモノマーを共重合させてもよい。
【0016】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、アクリルエラストマーの骨格となるものであり、その種類を選択することにより、得られるアクリルエラストマー組成物の常態物性や耐寒性、耐油性などの基本特性を調整できるものである。本発明において、(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、メタクリル酸アルキルエステルとアクリル酸アルキルエステルの両方を含む概念である。
【0017】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、特に限定されるものではないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−メチルペンチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、n−オクタデシル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステルがある。
【0018】
また、2−メトキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、2−(n−プロポキシ)エチルアクリレート、2−(n−ブトキシ)エチルアクリレート、3−メトキシプロピルアクリレート、3−エトキシプロピルアクリレート、2−(n−プロポキシ)プロピルアクリレート、2−(n−ブトキシ)プロピルアクリレートなどのアクリル酸アルコキシアルキルエステルも用いることができ、これら単体だけでなく2種類以上のものを併用してもよい。
【0019】
これらの不飽和モノマーの配合量を調整することで、得られるアクリルエラストマー組成物やその加硫物の、耐寒性や耐油性を調整することができる。例えば、エチルアクリレートとn−ブチルアクリレートと、を使用してエラストマーを作る際、n−ブチルアクリレートの共重合比率を多くすることで耐寒性を向上させることができ、エチルアクリレートの共重合比率を多くすることで耐油性を向上させることができる。
【0020】
アクリルエラストマーには、本発明の目的を損なわない範囲で、臭素基を含有する架橋席モノマーとは別の架橋席モノマー、又は酢酸ビニルと共重合可能な他のモノマーを共重合させることもできる。共重合可能な他のモノマーとしては、特に限定するものではないが、例えば、メチルビニルケトンのようなアルキルビニルケトン、ビニルエチルエーテル、アリルメチルエーテルなどのビニル及びアリルエーテル、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレンなどのビニル芳香族化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのビニルニトリル、アクリルアミド、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、エチレン、プロピオン酸ビニルなどのエチレン性不飽和化合物がある。
【0021】
特に、アクリルエラストマーにエチレンを共重合させる場合には、アクリルエラストマー100質量%中60質量%以下の割合とすることが好ましい。エチレンを共重合させることによって、強度を著しく向上させたアクリルエラストマーが得られる。
【0022】
酢酸ビニルは、アクリルエラストマーが熱老化した際に、その分子間を架橋させてアクリルエラストマーの伸びなどの機械的特性を維持させるために用いるものであり、その配合量を調整することにより、得られるアクリルエラストマーの分子間架橋を調整できるものである。
【0023】
アクリルエラストマーは、熱や紫外線などの影響により、その主鎖が切断して引張強さや破断伸びといった機械的特性が急激に低下してしまうものである。そこで、架橋反応を起こしやすい酢酸ビニルをアクリルエラストマーの主鎖に共重合させておき、アクリルエラストマーの主鎖が切断してしまった際に酢酸ビニルが架橋席となって切断した分子間を再度架橋させることができる。
【0024】
酢酸ビニルを共重合させる場合には、アクリルエラストマー100質量%中20質量%以下の割合とすることが好ましい。酢酸ビニルの共重合量がこの範囲であれば、アクリルエラストマーの耐熱老化性を維持しつつ、その機械特性の低下を抑制することができる。
【0025】
アクリルエラストマーは、上記の単量体を乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合などの公知の方法により共重合することにより得られ、特に乳化重合が好ましい。
【0026】
架橋席モノマーは(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合させることにより、積層体の共架橋を進めて、得られる積層体の接着性を調整するためのものである。架橋席モノマーとしては臭素を含有するものを使用するが、エポキシ基、カルボキシ基および活性塩素基等からなる群より選ばれた少なくとも一種を併用して用いることもできる。
【0027】
臭素基を含有する架橋席モノマーとしては、特に限定するものではないが、1−ブロモメタン、1−ブロモエタン、1−ブロモプロパン、2−ブロモプロパン、1−ブロモブタン、2−ブロモブタン、1−ブロモペンタン、1−ブロモヘキサン、1−ブロモヘプタン、1−ブロモオクタン、1−ブロモノナン、1−ブロモデカン、1−ブロモドデカン、ジブロモメタン、1,1−ジブロモエタン、1,2−ジブロモエタン、1,2−ジブロモプロパン、1,3−ジブロモプロパン、1,4−ジブロモブタン、1,3−ジブロモブタン、2,3−ジブロモブタン、1,5−ジブロモペンタン、1,6−ジブロモヘキサン、1,7−ジブロモへプタン、1,8−ジブロモオクタン、1,9−ジブロモノナン、1,10−ジブロモデカン、1,12−ジブロモドデカン、ブロモホルム、2,4,6−トリブロモフェニルアクリレート、ペンタブロモフェニルアクリレート、ペンタブロモベンジルアクリレートなどがある。これらの臭素化合物は、単独若しくは2種類以上の併用も可能である。
【0028】
本発明に用いるアクリルエラストマーにおいて、臭化物イオンの含有量(質量%)は、JIS K7392:2009に記載された方法より求める事ができる。臭化物イオンの含有量は、十分な接着力、加工性、柔軟性を考慮するとアクリルエラストマー100質量%に対して0.1〜2質量%が好ましく、さらに好ましくは0.1〜1質量%含有しているものが望ましい。臭化物イオンの含有量をこの範囲にすることで十分な接着強度を得られる。0.1質量%以下では十分な接着強度を得られない。また、2質量%を超えて添加してしまうと、得られたアクリルエラストマーのムーニー粘度が低く、加工性が悪化してしまう。
【0029】
エポキシ基を含有する架橋席モノマーとしては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、メタアリルグリシジルエーテルなどがある。また、他の架橋席モノマーとしては、例えば、2−クロルエチルビニルエーテル、2−クロルエチルアクリレート、ビニルベンジルクロライド、ビニルクロルアセテート、アリルクロルアセテートなどの活性塩素基を有するもの、また、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2−ペンテン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、マレイン酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘキシル、桂皮酸などのカルボキシ基を含有するものがある。
【0030】
これらの架橋席成分の含有量は、アクリルエラストマー100質量%中に対して0〜1.5質量%含有しているものが望ましい。架橋席成分の含有量が1.5質量%を超えて添加してしまうと、得られた加硫物が硬化してゴム弾性を失ってしまう。
【0031】
なお、本発明に用いるアクリルエラストマーにおいて、臭素基を含有する架橋席モノマーとは別の架橋席成分であるエポキシ基、カルボキシ基、活性塩素基の含有量(質量%)は、滴定など公知の分析方法を用いて求める事ができる。架橋席成分の含有量とは、1種類を含有する場合は、1種類の架橋席成分の含有量であり、2種類以上を用いる場合は、それらの合計量のことである。
【0032】
<アクリルエラストマー組成物>
本発明に用いるアクリルエラストマー組成物は、上記臭素含有アクリルエラストマーと有機過酸化物とオニウム塩とを、含有するものである。アクリルエラストマー組成物は、アクリルエラストマー、有機過酸化物、オニウム塩の他、必要に応じて、架橋促進剤、充填剤などのその他配合剤を、一般に使用されているゴム混練り装置を用いて混練りすることにより得られる。ゴム混練り装置としては、ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、インターナルミキサー、二軸押し出し機などを用いることができる。
【0033】
本発明で用いられる有機過酸化物は、特に制限はないが、例えば、t−ブチルクミルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、ジ−t−ヘキシルペルオキシド、1,1−ジ−(t−ヘキシルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ−(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ−(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ−(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2−ジ−(t−ブチルペルオキシ)ブタン、2,2−ジ−(4,4−ジ−(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキシル)プロパン、n−ブチル−4,4−ジ−(t−ブチルペルオキシ)−バラレート、ジクミルペルオキシド、ジ(2−t−ブチルペルオキシ−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンなどが挙げられ、積層体を調製する際の加工温度条件下で適切な分解挙動を示す点で、特にパーオキシケタール類、ジアルキルパーオキサイド類が好ましい。
【0034】
これらの有機過酸化物は、単独若しくは2種類以上の併用も可能である。有機過酸化物の添加量は、十分な接着力、加工性、柔軟性を考慮するとアクリルエラストマー100質量部に対して1〜7質量部であり、1.5〜5質量部含有しているものが望ましい。有機過酸化物の添加量が1質量部より少ないと得られた積層体の接着力が不足し剥離してしまう。また、有機過酸化物の添加量が7質量部以上では得られた組成物が硬化し、ゴム弾性が失われてしまう。
【0035】
本発明で用いられるオニウム塩は特に制限はないが、有機アンモニウム塩、有機ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0036】
本発明で用いられる有機アンモニウム塩としては、特に制限はないが、テトラ−n−ブチルアンモニウムクロリド、トリメチルフェニルアンモニムクロリド、トリメチルステアリルアンモニムクロリド、トリメチルラウリルアンモニウムクロリド、トリメチルセチルアンモニウムクロリド、ジメチルジステアリルアンモニウムクロリド、トリブチルベンジルアンモニウムクロリド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド、メチルトリフェニルアンモニウムブロミド、エチルトリフェニルアンモニウムブロミド、トリメチルフェニルアンモニウムブロミド、トリメチルベンジルアンモニウムブロミド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムチオシアナート等が挙げられる。
【0037】
有機ホスホニウム塩としては、特に制限はないが、テトラ−n−ブチルホスホニウムクロリド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロミド、メチルトリフェニルホスホニウムブロミド、エチルトリフェニルホスホニウムブロミド、ブチルトリフェニルホスホニウムブロミド、ヘキシルトリフェニルホスホニウムブロミド、ベンジルトリフェニルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、4−ブトキシベンジルトリフェニルホスホニウムブロミド、アリルトリブチルホスホニウムクロリド、2−プロピニルトリフェニルホスホニウムブロミド、メトキシプロピルトリブチルホスホニウムクロリド等が挙げられる。
【0038】
これらのオニウム塩は、単独若しくは2種類以上の併用も可能である。オニウム塩の添加量は、十分な接着力、加工性、柔軟性を考慮するとアクリルエラストマー100質量部に対して1〜5質量部であり、2〜5質量部含有しているものが望ましい。オニウム塩の添加量をこの範囲にすることで十分な接着強度を得られる。
【0039】
有機過酸化物、オニウム塩の添加方法は特に限定するものではないが、特別な表面処理を施すことなく、アクリルエラストマー組成物とフッ素エラストマー組成物との強固な加硫接着性を得るためには、それらの組成物を加硫接着する前、例えばアクリルエラストマーと各種配合剤等の混練時に有機過酸化物、オニウム塩を添加し、アクリルエラストマー組成物とする方法が好ましい。
【0040】
アクリルエラストマー組成物は、さらに、加硫剤や加硫促進剤を添加してもよい。
【0041】
加硫剤は、アクリルエラストマー組成物の加硫に通常用いられるものであればよく、特に限定するものではないが、臭素基を含有する架橋席モノマーとは別の架橋席成分として、エポキシ基を有するものにはイミダゾール化合物が好ましく、カルボキシ基を有するものにはポリアミン化合物が好ましく、活性塩素基を有するものには硫黄もしくは硫黄供与体と脂肪酸金属石鹸との組合せ、またはジチオカルバミン酸塩もしくはその誘導体とトリチオシアヌル酸との組合せ等である硫黄化合物が好適に用いられる。
【0042】
イミダゾール化合物としては、1−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−メチル−2−エチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−エチルイミダゾール、1−ベンジル−2−エチル−5−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール・トリメリット酸塩、1−アミノエチルイミダゾール、1−アミノエチル−2−メチルイミダゾール、1−アミノエチル−2−エチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾ−ル、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾールトリメリテート、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾールトリメリテート、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾールトリメリテート、1−シアノエチル−2−ウンデシル−イミダゾールトリメリテート、2,4−ジアミノ−6−〔2’−メチルイミダゾリル−(1)’〕エチル−s−トリアジン・イソシアヌール酸付加物、1−シアノエチル−2−フェニル−4,5−ジ−(シアノエトキシメチル)イミダゾール、N−(2−メチルイミダゾリル−1−エチル)尿素、N,N’−ビス−(2−メチルイミダゾリル−1−エチル)尿素、1−(シアノエチルアミノエチル)−2−メチルイミダゾール、N,N’−〔2−メチルイミダゾリル−(1)−エチル〕−アジボイルジアミド、N,N’−〔2−メチルイミダゾリル−(1)−エチル〕−ドデカンジオイルジアミド、N,N’−〔2−メチルイミダゾリル−(1)−エチル〕−エイコサンジオイルジアミド、2,4−ジアミノ−6−〔2’−メチルイミダゾリル−(1)’〕−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−〔2’−ウンデシルイミダゾリル−(1)’〕−エチル−s−トリアジン、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド、1,3−ジベンジル−2−メチルイミダゾリウムクロライドなどが挙げられる。
【0043】
ポリアミン化合物としては、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−2,2−ジメチルプロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ペンタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、ビス(4−3−アミノフェノキシ)フェニルサルフォン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノベンズアニリド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォンなどの芳香族ポリアミン化合物、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、N,N′−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンなどの脂肪族ポリアミン化合物などがある。
【0044】
加硫剤の添加量は、特に限定するものではないが、アクリルゴム組成物100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましい。この範囲にすることで必要十分な加硫処理が行える。
【0045】
加硫促進剤は、加硫速度を調整するため、エポキシ樹脂の硬化剤、例えば有機酸、酸無水物、グアニジン化合物、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデ−7−センなどのジアザビシクロアルケン化合物、アミン類、硫黄及び硫黄化合物等の加硫促進剤を本発明の効果を減退しない範囲で添加してもよい。
【0046】
グアニジン化合物としては、グアニジン、テトラメチルグアニジン、ジブチルグアニジン、ジフェニルグアニジン、ジ−o−トリルグアニジンなどが挙げられる。
【0047】
アクリルエラストマー組成物の加硫ゴムは、これらの化合物を加硫温度以下の温度で混練することで得られるものである。得られたゴム組成物は、所望する各種の形状に成形された後に加硫して加硫物としたり、加硫させた後に各種の形状に成形することもできる。加硫温度はゴム組成物の配合や加硫剤の種類によって適宜設定でき、通常は100〜200℃、1〜10時間で行われる。
【0048】
アクリルエラストマー組成物を混練、成型、加硫する装置、およびアクリルエラストマー組成物の加硫物を混練、成型する装置は、通常ゴム工業で用いるものを使用することができる。
【0049】
アクリルエラストマー組成物は、実用に供するに際してその目的に応じ、充填剤、補強剤、可塑剤、滑剤、老化防止剤、安定剤、シランカップリング剤、多官能モノマー等を添加してもよい。
【0050】
充填剤、補強剤としては、通常のゴム用途に使用されている充填剤や補強剤を添加することができ、例えば、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウムなどの充填剤、補強剤がある。これら添加剤の添加量は、合計で、アクリルエラストマー組成物100質量部に対して20〜100質量部の範囲が好ましい。
【0051】
可塑剤としては、通常のゴム用途に使用されている可塑剤を添加することができ、例えば、エステル系可塑剤、ポリオキシエチレンエーテル系可塑剤、トリメリテート系可塑剤などがある。可塑剤の添加量は、アクリルエラストマー組成物100質量部に対して、50質量部程度までの範囲が好ましい。
多官能モノマーとしては、通常のゴム用途に使用されている多官能モノマーを添加することができ、例えば、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等が挙げられる。
これらの多官能モノマーの添加量は、アクリルエラストマー組成物100質量部に対して、1〜10質量部までの範囲が好ましい。
【0052】
<フッ素エラストマー組成物>
本発明に用いるフッ素エラストマーには、ヨウ素架橋席を含有するものが用いられ、エラストマー中にフッ素原子を有するものであれば特に限定されない。
【0053】
本発明に用いられるフッ素エラストマーとしては、例えば、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフロライド、ポリビニルフロライド、ビニリデンフロライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ビニリデンフロライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ビニリデンフロライド−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ビニリデンフロライド−プロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ビニリデンフロライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体等が挙げられる。
【0054】
本発明に用いるフッ素エラストマー組成物は、前記フッ素エラストマー、有機過酸化物、多官能モノマーを含有するものである。
【0055】
フッ素エラストマー組成物における有機過酸化物および多官能モノマーは、フッ素エラストマーを架橋するために用いられるものである。ここで、架橋とは、有機過酸化物および多官能モノマーによりフッ素エラストマーの同一または異なるポリマー鎖同士を架橋するものであり、このように架橋することにより、前記フッ素エラストマーは、引張強さが向上し、良好な弾性を有するものとなる。
【0056】
有機過酸化物および多官能モノマーにより架橋してなる架橋フッ素エラストマーは、耐熱老化性、及び耐酸性に優れているという特徴があるので、本発明の積層体に好適である。
【0057】
フッ素エラストマー組成物における有機過酸化物としては、特に制限はないが、アクリルエラストマー組成物の調製に用いる有機過酸化物として先に例示した物を使用することが出来る。
【0058】
フッ素エラストマー組成物における有機過酸化物の添加量は、フッ素エラストマー100質量部に対して0.05〜10質量部であることが好ましく、1.0〜5質量部であることがより好ましい。有機過酸化物の添加量が、0.05質量部未満であると、組成物を架橋させる効果が少なく、得られた加硫物の強度が不足してしまう。10質量部を越えて添加してしまうと、得られた加硫物が硬化してゴム弾性を失ってしまう。
【0059】
フッ素エラストマー組成物における多官能モノマーとしては、特に制限はないが、例えば、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、ジプロパルギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタールアミド、トリアリルホスフェートなどがあげられる。多官能モノマーの種類は特に限定されず、単独若しくは2種類以上の併用も可能である。多官能モノマーの添加方法は特に限定されないが、フッ素エラストマー層とアクリルエラストマー層とを加硫接着する前、例えばフッ素エラストマーと各種配合剤等の混練時に添加する方法によって強固な加硫接着性を達成することができる。
【0060】
また、必要に応じてフッ素エラストマー用の通常の添加物、たとえばカーボンブラック、補強剤、軟化剤、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤、充填剤、加工助剤、可塑剤、着色剤、安定剤、接着助剤、受酸剤、離型剤、導電性付与剤、熱伝導性付与剤、表面非粘着剤、柔軟性付与剤、耐熱性改善剤、難燃剤などの各種添加剤を配合することができ、有機過酸化物、多官能モノマー以外の架橋剤を1種またはそれ以上配合してもよい。
【0061】
フッ素エラストマー組成物は、フッ素エラストマー、有機過酸化物、多官能モノマーと、必要に応じて、充填剤などのその他配合剤を、一般に使用されているゴム混練り装置を用いて混練りすることにより得られる。ゴム混練り装置としては、ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、インターナルミキサー、二軸押し出し機などを用いることができる。
【0062】
<積層体>
本発明のアクリルエラストマー組成物は、フッ素エラストマー組成物との積層体を形成することができる。
図1は本発明の積層体1の一例を示す断面図であり、積層体1は、アクリルエラストマー組成物層11と、フッ素エラストマー組成物層12とを有しており、アクリルエラストマー組成物層11とフッ素エラストマー組成物層12は積層され、接着されている。
【0063】
アクリルエラストマー組成物層11と、フッ素エラストマー組成物層12は、界面でエラストマー同士を架橋させた架橋接着が望ましい。例えば、これらの層を重ね合わせた状態で加硫し、加硫物とすればより強固な積層体1が得られる。加硫方法は特に限定されず、プレス加硫、スチーム加硫、電子線加硫等の通常の加硫方法を採用することができる。
【0064】
加硫の前に、アクリルエラストマー組成物層11とフッ素エラストマー組成物層12のいずれか一方又は両方に表面処理を施すこともできるが、本発明によれば、このような表面処理を施さなくても、強固な加硫接着性を達成することができる。アクリルエラストマー組成物層11とフッ素エラストマー組成物層12の数も特に限定されず、1又は2以上のアクリルエラストマー組成物層11と、1又は2以上のフッ素エラストマー組成物層12を積層して積層体1を構成してもよい。アクリルエラストマー組成物層11とフッ素エラストマー組成物層12の数が複数の場合、アクリルエラストマー組成物層11とフッ素エラストマー組成物層12を交互に積層することができる。また、アクリルエラストマー組成物層11とフッ素エラストマー組成物層12以外の層、例えば、補強繊維を重ね合わせた構造とすることも可能である。補強繊維はアクリルエラストマー組成物層11とフッ素エラストマー組成物層12のいずれか一方又は両方に密着させる。
【0065】
アクリルエラストマー組成物層11は、臭素架橋席アクリルエラストマーと、有機過酸化物とオニウム塩とが添加されたアクリルエラストマー組成物を層状(フィルム状)に成形して得られ、フッ素エラストマー組成物層12は、ヨウ素架橋席フッ素エラストマーと、有機過酸化物と多官能モノマーとが添加されたフッ素エラストマー組成物を層状(フィルム状)に成形して得られる。なお、アクリルエラストマー組成物とは使用するエラストマーの内、50質量%以上の成分がアクリルエラストマーであり、フッ素エラストマー組成物は使用するエラストマーの内、フッ素エラストマーを50質量%以上含有する組成物である。
【0066】
本発明の積層体及びその加硫物は、特に、ゴムホース等のホース部品や、ガスケット、パッキング等のシール部品及び防振ゴム部品として好適に用いられる。
【0067】
ホース部品としては、例えば、自動車、建設機械、油圧機器等のトランスミッションオイルクーラーホース、エンジンオイルクーラーホース、エアダクトホース、ターボインタークーラーホース、ホットエアーホース、ラジエターホース、パワーステアリングホース、燃料系統用ホース、ドレイン系統用ホース等がある。
【0068】
ホース部品の構成としては、一般的に行われているように補強糸あるいはワイヤーをホース部品の中間あるいは、ホース部品の最外層に設けたものでもよい。
【0069】
シール部品としては、例えば、エンジンヘッドカバーガスケット、オイルパンガスケット、オイルシール、リップシールパッキン、O−リング、トランスミッションシールガスケット、クランクシャフト、カムシャフトシールガスケット、バルブステム、パワーステアリングシールベルトカバーシール、等速ジョイント用ブーツ材及びラックアンドピニオンブーツ材等がある。
【0070】
防振ゴム部品としては、例えば、ダンパープーリー、センターサポートクッション、サスペンションブッシュ等がある。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0072】
下記に示す条件で、8種類のアクリルエラストマーA〜Hを作成した。なおアクリルエラストマーの分析は以下の様にして行った。
臭化物イオンの含有量: JIS K7392:2009に準拠して、臭化物イオンの含有量(質量%)を求めた。
・エポキシ基含有量: JIS K7236:2001に準拠して測定を行い、エポキシ基の含有量(質量%)を求めた。
・カルボキシ基含有量: アクリルエラストマーをトルエンに溶解し、水酸化カリウムを用いた中和滴定によりカルボキシ基の含有量(質量%)を求めた。
・単量体単位成分: 核磁気共鳴スペクトル法で各単量体単位成分の組成比(質量比)を求めた。
<アクリルエラストマーAの製造>
内容積40リットルの反応容器に、部分ケン化ポリビニルアルコール4質量%水溶液17kg、酢酸ナトリウム22gを投入し、攪拌機であらかじめよく混合し、均一懸濁液を作製した。槽内上部の空気を窒素で置換した後、攪拌を続行し、槽内を55℃に保持した後、注入口より単量体成分(エチルアクリレート5.5kg、n−ブチルアクリレート5.5kg、1,6−ジブロモヘキサン0.045kg)と、t−ブチルヒドロペルオキシド0.5質量%水溶液2kgを別々に投入して重合を開始させた。反応中槽内温度は55℃に保ち、6時間で反応を終了させ、重合液を得た。
【0073】
生成した重合液に硼酸ナトリウム0.3質量%水溶液20kgを添加して重合体を固化し、脱水及び乾燥を行ってアクリルエラストマーAを得た。このアクリルエラストマーAは、臭化物イオンの含有量0.4質量%であり、共重合体組成比(質量比)は、エチルアクリレート単量体単位/n−ブチルアクリレート単量体単位=50.0/49.6であった。
【0074】
<アクリルエラストマーBの製造>
アクリルエラストマーの原料である単量体成分の配合を、エチルアクリレート5.5kg、n−ブチルアクリレート5.5kg、1,6−ジブロモヘキサン0.090kgに変えた以外は、上記アクリルエラストマーAと同じ条件でアクリルエラストマーBを得た。
【0075】
このアクリルエラストマーBは臭化物イオンの含有量0.8質量%であり、共重合体組成比(質量比)は、エチルアクリレート単量体単位/n−ブチルアクリレート単量体単位=49.8/49.4であった。
【0076】
<アクリルエラストマーCの製造>
アクリルエラストマーの原料である単量体成分の配合を、エチルアクリレート5.5kg、n−ブチルアクリレート5.5kg、1,10−ジブロモデカン0.045kgに変えた以外は、上記アクリルエラストマーAと同じ条件でアクリルエラストマーCを得た。
【0077】
このアクリルエラストマーCは臭化物イオンの含有量0.4質量%であり、共重合体組成比(質量比)は、エチルアクリレート単量体単位/n−ブチルアクリレート単量体単位=50.0/49.6であった。
【0078】
<アクリルエラストマーDの製造>
内容積40リットルの反応容器に、部分ケン化ポリビニルアルコール4質量%水溶液17kg、酢酸ナトリウム22gを投入し、攪拌機であらかじめよく混合し、均一懸濁液を作製した。槽内上部の空気を窒素で置換した後、エチレンを槽内上部に圧入し、圧力を4MPaに調整した。攪拌を続行し、槽内を55℃に保持した後、注入口より単量体成分(エチルアクリレート5.5kg、n−ブチルアクリレート5.5kg、1,10−ジブロモデカン0.045kg)とモノ−n−ブチルマレート0.123kg、t−ブチルヒドロペルオキシド0.5質量%水溶液2kgを別々に投入して重合を開始させた。反応中槽内温度は55℃に保ち、6時間で反応を終了させ、重合液を得た。
【0079】
生成した重合液に硼酸ナトリウム0.3質量%水溶液20kgを添加して重合体を固化し、脱水及び乾燥を行ってアクリルエラストマーDを得た。このアクリルエラストマーDは臭化物イオンの含有量0.4質量%、カルボキシ基含有量0.3質量%であり、共重合体組成比(質量比)は、エチルアクリレート単量体単位/n−ブチルアクリレート単量体単位/エチレン単量体単位=48.3/48.0/3.0であった。
【0080】
<アクリルエラストマーEの製造>
アクリルエラストマーの原料である単量体成分の配合を、エチルアクリレート5.5kg、n−ブチルアクリレート5.5kg、1,10−ジブロモデカン0.045kgに変え、これらと共にグリシジルメタクリレート0.123kgを添加した以外は、上記アクリルエラストマーAと同じ条件でアクリルエラストマーEを得た。
【0081】
このアクリルエラストマーEは臭化物イオンの含有量0.4質量%、エポキシ基含有量0.3質量%であり、共重合体組成比(質量比)は、エチルアクリレート単量体単位/n−ブチルアクリレート単量体単位=49.8/49.5であった。
【0082】
<アクリルエラストマーFの製造>
内容積40リットルの反応容器に、部分ケン化ポリビニルアルコール4質量%水溶液17kg、酢酸ナトリウム22gを投入し、攪拌機であらかじめよく混合し、均一懸濁液を作製した。槽内上部の空気を窒素で置換した後、エチレンを槽内上部に圧入し、圧力を4MPaに調整した。攪拌を続行し、槽内を55℃に保持した後、注入口より単量体成分(エチルアクリレート5.5kg、n−ブチルアクリレート5.5kg、1,10−ジブロモデカン0.045kg)とグリシジルメタクリレート0.123kg、t−ブチルヒドロペルオキシド0.5質量%水溶液2kgを別々に投入して重合を開始させた。反応中槽内温度は55℃に保ち、6時間で反応を終了させ、重合液を得た。
【0083】
このアクリルエラストマーFは臭化物イオンの含有量0.4質量%、エポキシ基含有量0.3質量%であり、共重合体組成比(質量比)は、エチルアクリレート単量体単位/n−ブチルアクリレート単量体単位/エチレン単量体単位=48.3/48.0/3.0であった。
【0084】
<アクリルエラストマーGの製造>
アクリルエラストマーの原料である単量体成分の配合を、エチルアクリレート5.5kg、n−ブチルアクリレート5.5kgに変え、1,10−ジブロモデカンは不使用とした以外は、上記アクリルエラストマーAと同じ条件でアクリルエラストマーGを得た。
【0085】
このアクリルエラストマーGの共重合体組成比(質量比)は、エチルアクリレート単量体単位/n−ブチルアクリレート単量体単位=50.0/50.0であった。
【0086】
<積層体の作製>
下記表1の配合(質量比)でフッ素エラストマー組成物を作成し、該フッ素エラストマー組成物(未加硫)を厚さ2.5mmに成形してフッ素エラストマー層を作成した。
【0087】
【表1】

【0088】
上記アクリルエラストマーA〜Gと他の材料を、下記表2〜3の配合(質量比)で8インチオープンロールを用いて混練し、実施例1〜10、比較例1〜6のアクリルエラストマー組成物を得た。これらのアクリルエラストマー組成物(未加硫)を厚さ2.5mmに成形してアクリルエラストマー層を作成し、上記フッ素エラストマー層に密着させ、スチーム加熱式の熱プレスにて160℃×35分間加熱処理して一次加硫物とした後、熱空気(ギヤーオーブン)にて170℃×4時間加熱処理して積層体の加硫物を得た。
【0089】
【表2】

【0090】
【表3】

【0091】
なお、上記表1〜3に用いた配合試薬は以下の通りである。
・フッ素エラストマー:ダイエルG801(ダイキン工業株式会社製、ヨウ素を製品中に含有する。)
・カーボンMT:旭#15(旭カーボン株式会社製)
・カーボンHAF:シースト#3(東海カーボン株式会社製)
・トリアリルイソシアヌレート(東京化成工業株式会社製)
・パーヘキサV40(日油株式会社製)
・ステアリン酸:ルナックS−90(花王株式会社製)
・ステアリルトリメチルアンモニウムブロミド(東京化成工業株式会社製)
・テトラ−n−ブチルホスホニウムブロミド(東京化成工業株式会社製)
【0092】
得られた積層体の加硫物(試験片)について、剥離強度を以下の条件で評価した。
(1)剥離強度
剥離強度は、引張り試験機を用い、50mm/分の剥離速度で各試験片の180°剥離試験を行い、接着強度を測定した。また、剥離状態を観察し、以下の基準で評価した。
【0093】
(剥離状態)
R・・・試験片破壊した。
RT・・・界面剥離した。
硬化・・・得られた積層体にゴム弾性がなく、剥離強度の測定ができない。
発泡・・・得られた積層体の接着部が発泡し、剥離強度の測定ができない。
評価結果を上記表2〜3に記載した。
【0094】
上記表2〜3から明らかなように、本発明の積層体は、特別な表面処理をしなくても、フッ素エラストマー層とアクリルエラストマー層との加硫接着面積が高く強固な接着を有した積層体が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明のアクリルエラストマーより、層間接着力に優れるアクリルエラストマー組成物が得られ、そのフッ素エラストマーとの積層体及びその加硫物は、ホース部品、シール部品、防振ゴム部品として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0096】
1 積層体
11 アクリルエラストマー組成物層
12 フッ素エラストマー組成物層
図1