特許第6293553号(P6293553)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ファンケルの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6293553
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】含硫化合物の硫黄臭のマスキング方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20180305BHJP
   A23L 33/175 20160101ALI20180305BHJP
   A61K 31/385 20060101ALI20180305BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20180305BHJP
   A61P 3/02 20060101ALN20180305BHJP
【FI】
   A23L33/10
   A23L33/175
   A61K31/385
   A61K47/46
   !A61P3/02 101
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-71996(P2014-71996)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-192615(P2015-192615A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2016年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100098110
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 みどり
(74)【代理人】
【識別番号】100090583
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 清
(72)【発明者】
【氏名】中川 公太
【審査官】 池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−285021(JP,A)
【文献】 特開2009−046463(JP,A)
【文献】 特開昭60−077763(JP,A)
【文献】 特開2012−065906(JP,A)
【文献】 特開2005−289918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 31/00−33/29
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
AGRICOLA(STN)
BIOSIS(STN)
CAplus(STN)
CABA(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
錠剤の形態を有するサプリメントまたは医薬品において、含硫化合物とサンショウ末を配合し、
前記錠剤中において、含硫化合物1質量%に対するサンショウ末の配合比率が0.2質量%〜1質量%であることを特徴とする、含硫化合物の硫黄臭をマスキングする方法。
【請求項2】
錠剤中において、含硫化合物1質量%に対して、サンショウ末を0.2質量%の比率で配合することを特徴とする請求項1記載の含硫化合物の硫黄臭をマスキングする方法。
【請求項3】
含硫化合物が、α−リポ酸または含硫アミノ酸であることを特徴とする請求項1または2に記載の含硫化合物の硫黄臭をマスキングする方法。
【請求項4】
含硫化合物が、α−リポ酸であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の含硫化合物の硫黄臭をマスキングする方法
【請求項5】
請求項1〜のいずれかの方法により硫黄臭がマスキングされたことを特徴とする含硫化合物とサンショウ末を含有するサプリメントたは医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含硫化合物の硫黄臭をマスキングする方法に関する。さらに詳しく言うと、本発明は、含硫化合物の硫黄臭をサンショウ末を用いてマスキングする方法及び前記方法により硫黄臭がマスキングされたサプリメント、飲食品または医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
含硫化合物には、α−リポ酸や、メチオニン、システイン、シスチン等の含硫アミノ酸など、サプリメントや健康食品における機能成分、医薬品の有効成分として有用な化合物が多い。しかしながら、含硫化合物は硫黄臭を有しており、サプリメント、飲食品、医薬品等に配合すると、商品の袋を開封する際や、服用、使用をする際に硫黄の臭いを感じることがあり、それが利用者や患者の不快感に繋がるという問題がある。そのため、従来より、含硫化合物の硫黄臭をマスキングする方法について、種々の研究がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、特定の融点、固体脂含有量、過酸化物価を有する硬化油脂でα−リポ酸を被覆してα−リポ酸油脂被覆粉末を製造することにより、α−リポ酸の臭いをマスキングする方法が開示されている。
また、特許文献2には、α−リポ酸をシクロデキストリンにより包接し、α−リポ酸/シクロデキストリン包接化合物を得ることにより、α−リポ酸の刺激臭等を改善する技術が開示されている。
さらに、特許文献3には、超臨界流体の存在下に、α−リポ酸等の有効成分含有材料と油脂を接触させた後、超臨界流体を除去して複合化粒子を得ることにより、不快な臭いをマスキングする方法が開示されている。
しかしながら、特許文献1に記載の方法は硫黄臭のマスキングが未だ不十分であり、特許文献2に記載の方法により得られるα−リポ酸/シクロデキストリン包接化合物は、水に濡れると強い硫黄臭を発してしまい、マスキング効果が失われるという問題がある。また、特許文献3に記載の方法は、超臨界装置を必要とし、製造工程が複雑なものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−325542号公報
【特許文献2】特開2007−99661号公報
【特許文献3】特開2012−85654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況下で、本発明は、特別な装置を必要とせずに、簡易な方法で、安全な材料を用いて含硫化合物の硫黄臭をマスキングできる方法及びその方法により硫黄臭がマスキングされたサプリメント、飲食品または医薬品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、含硫化合物の硫黄臭をマスキングでき、しかも、安全な材料を用いた簡易な方法でマスキングする方法を得るべく、種々の香辛料等を用いて研究を重ねた。その結果、サンショウ末を用いることにより、簡易な方法で含硫化合物の硫黄臭を顕著にマスキングすることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の含硫化合物の硫黄臭をマスキングする方法及びその方法により硫黄臭がマスキングされたサプリメント、飲食品または医薬品を提供するものである。
(1)含硫化合物とサンショウ末を配合することを特徴とする、含硫化合物の硫黄臭をマスキングする方法。
(2)錠剤中において、含硫化合物1質量%に対して、サンショウ末を0.2質量%〜1質量%の比率で配合することを特徴とする前記(1)記載の含硫化合物の硫黄臭をマスキングする方法。
(3)錠剤中において、含硫化合物1質量%に対して、サンショウ末を0.2質量%の比率で配合することを特徴とする前記(2)記載の含硫化合物の硫黄臭をマスキングする方法。
(4)粉末中において、含硫化合物1質量%に対して、サンショウ末を0.1質量%の比率で配合することを特徴とする前記(1)記載の含硫化合物の硫黄臭をマスキングする方法。
(5)含硫化合物が、α−リポ酸または含硫アミノ酸であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の含硫化合物の硫黄臭をマスキングする方法。
(6)含硫化合物が、α−リポ酸であることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の含硫化合物の硫黄臭をマスキングする方法。
(7)前記(1)〜(6)のいずれかの方法により硫黄臭がマスキングされたことを特徴とする、含硫化合物とサンショウ末を含有するサプリメント、飲食品または医薬品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、サンショウ末を用いることにより、特殊な装置を必要とせず、簡易な方法で、含硫化合物の硫黄臭を研著にマスキングすることができ、サンショウ自体の臭いも感じさせることがない。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について、詳しく説明する。
本発明において使用される含硫化合物は、硫黄を含む化合物であれば限定されないが、サプリメント、健康飲食品や美容飲食品等の飲食品、医薬品、化粧品等に配合できるものが好ましい。そのような含硫化合物の例としては、α−リポ酸や硫黄を含む含硫アミノ酸などが挙げられる。含硫アミノ酸の例としては、メチオニン、システイン、シスチン、タウリン、シスタチオニンまたはグルタチオンなどが挙げられる。これらの中でも、本発明において使用される含硫化合物としてはα−リポ酸が好ましい。
α−リポ酸は、チオクト酸ともいい、多数の酵素の補助因子として欠かせない光学活性のある有機化合物であり、近年、サプリメント、健康飲食品や美容飲食品等の飲食品、医薬品、化粧品等における機能成分、有効成分等として広く利用されている。
【0010】
本発明において、硫黄化合物のマスキング剤として使用されるサンショウ末は、サンショウをそのまま粉末状にしたものであり、サンショウの噴霧乾燥品(サンショウエキスパウダー)よりもマスキング効果が優れており、打錠などの製剤適性にも問題がない(下記試験例1)。このようなサンショウ末としては、特に限定されないが、日本粉末薬品社製のサンショウ末を用いることが好ましい。
本発明において、硫黄化合物の硫黄臭をマスキングするためには、硫黄化合物とサンショウ末を配合するのみでよく、特別な装置や操作は必要がない。
【0011】
以下、本発明における含硫化合物がα−リポ酸である場合を例として説明する。
サンショウ末の配合比率は、錠剤を製造する場合、α−リポ酸1質量%に対して、0.2質量%〜1.0質量%とすると、硫黄臭をマスキングすることができ好ましく、0.2質量%とすると、サンショウの香りも感じさせないため、特に好ましい。
また、剤形を粉末とする場合のサンショウ末の配合比率は、粉末中、α−リポ酸1質量%に対して、0.1質量%〜0.5質量%とすると、硫黄臭をマスキングすることができ好ましく、0.1質量%とするとサンショウの香りも感じさせないため、特に好ましい。
いずれの場合においても、α−リポ酸とサンショウ末を配合するのみで容易に硫黄臭をマスキングすることができる。
【0012】
本発明の硫黄臭のマスキング方法を用いて得られる組成物は、サプリメント、健康飲食品や美容飲食品等の飲食品、医薬品または化粧品など、特に限定されない。
【0013】
なお、本発明において、α−リポ酸に対してサンショウ末をマスキング剤として配合する場合には、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤など通常許容される添加剤や他の機能成分、有効成分を任意の配合量で使用して、任意の剤形や形態を有するサプリメント、飲食品、医薬品、化粧品等を製造することができる。剤形や形態は、錠剤、粉末、顆粒、カプセル等、許容されるいずれの種類とすることもできる。
【0014】
添加することのできる賦形剤としては、公知のものを使用することが可能であり、例えば、セルロース、乳糖、白糖、ブドウ糖、D−マンニトール、粉末還元麦芽糖水あめ、マルチトール、キシリトール、エリスリトール、D−ソルビトール、マルトース、デンプンおよびデンプン誘導体、アスパルテーム、グリチルリチン酸およびその塩、サッカリンおよびその塩、ステビアおよびその塩、スクラロース、アセスルファムカリウム、リン酸水素カルシウム等が挙げられ、その中でも、セルロースは好ましい。これらの賦形剤は、1種または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0015】
結合剤としては、公知のものを使用することが可能であり、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、デキストリン、デンプンおよびデンプン誘導体、グァーガム、アラビアゴム、トラガント、アルギン酸およびその塩、プルラン、カラギーナン、ゼラチン、寒天、カルボキシビニルポリマー、カルメロースナトリウム等が挙げられ、その中でも、ヒドロキシプロピルセルロースやヒドロキシプロピルメチルセルロースは好ましい。これらの結合剤は、1種または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0016】
崩壊剤としては、公知のものを使用することが可能であり、例えば、デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられ、これらの中でもデンプンは好ましい。これらの崩壊剤は、1種または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0017】
滑沢剤としては、公知のものを幅広く使用することが可能であり、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、水素添加植物油等が挙げられ、その中でもステアリン酸カルシウムは好ましい。これらの滑沢剤は、1種または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0018】
α−リポ酸に対してマスキング剤としてサンショウ末を含有する組成物の製造方法は限定されず、例えば、錠剤の製造方法は、当該分野で公知の方法により製造することができ、通常の打錠機を用いることができる。また、粉末剤の製造方法も限定されず、当該分野で公知の方法により製造することができる。
【0019】
本発明のマスキング方法により得られるα−リポ酸を含有する組成物は、長期保存しても、硫黄臭やサンショウの臭いに経時変化が起こらない。具体的には、2ヶ月以上、40℃、相対湿度75%で経時保存しても、α−リポ酸やサンショウの臭いが生じることもなく、水で濡れても硫黄臭が発生することもない。
本発明のマスキング方法により得られた組成物は、サプリメント、飲食品、医薬品、化粧品等用として用いることができ、それらの製造方法は、限定されない。
【0020】
以下、実施例、試験例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらは単なる例示であって、本発明を限定するものではない。
【0021】
(試験例1)
下記原材料及び処方を用いて、混合することにより粉末を得た。
(原材料)
・機能成分:α−リポ酸(日油社製:チオクト酸MC75F)
・マスキング剤:下記表2に示す
・賦形剤:セルロース(旭化成ケミカルズ社製:セオラスUF−F711)
・崩壊剤:デンプン(旭化成ケミカルズ社製:ピーシーエスFC−30)
・滑沢剤:ステアリン酸カルシウム(堺化学工業社製:食品添加物ステアリン酸カルシウム)
(処方)
【0022】
【表1】
【0023】
表1における「マスキング剤」を表2に示す種類とし、上記で得られた粉末を、アルミ製袋中に密封し、40℃、20時間保存した。保存後に、袋を開封し、α−リポ酸の硫黄臭の有無をモニターにより確認した。結果も表2に示す。表2中、α−リポ酸の硫黄臭を全く感じないものを「○」とし、やや強く感じるものを「△」とし、強く感じるものを「×」とした。
【0024】
【表2】
【0025】
表2に示される結果から、マスキング試験を行ったマスキング剤の中でも、サンショウ末が優れたマスキング効果を有し、しかも、打錠適性にも問題がないことが分かった。また、同じサンショウでも、噴霧乾燥品であるサンショウエキスパウダー(サンショウの噴霧乾燥品)よりもサンショウ末そのもののほうが、マスキング効果が優れており、打錠適性にも問題がないことが分かった。
【0026】
(試験例2)
表3の処方を元に、α−リポ酸とサンショウ末の配合比率を表4に示す種々の配合比率に変えながらサンプルを作成し、打錠機(岡田精工社製:単発打錠機)を使用して、常法により、1個280mgの錠剤を20粒ずつ調製した。得られた錠剤をアルミ製袋の中で密閉し、40℃、20時間保存した。保存後、各々のα−リポ酸の硫黄臭をモニターにより確認した。結果を表4に示す。
【0027】
【表3】
【0028】
【表4】
【0029】
表4に示される結果から明らかなように、錠剤では、α−リポ酸1.0質量%に対して、サンショウ末の配合比率を0.2質量%〜1質量%とした場合に、硫黄臭が感じられなかった。その中でも、α−リポ酸1.0質量%に対して、サンショウ末の配合比率を0.2質量%とした場合に、α−リポ酸の硫黄臭だけでなく、サンショウの臭も感じられなかった。
したがって、錠剤においては、α−リポ酸1.0質量%に対して、サンショウ末を0.2質量%〜1質量%の比率で配合することが好ましく、0.2質量%の比率で配合することが特に好ましいことが分かった。
【0030】
表3と同じ処方により打錠末を調製し、表4に示す配合比率で試験をしたところ、α−リポ酸1質量%に対して、サンショウ末を0.1質量%とした場合に、α−リポ酸の硫黄臭もサンショウ臭も共に感じられなかった。
したがって、粉末においては、α−リポ酸1.0質量%に対して、サンショウ末を0.1質量%の比率で配合することが好ましいことが分かった。
【実施例1】
【0031】
・錠剤の製造
下記原材料及び下記処方を用いて、常法により錠剤を製造した。
(原材料)
・機能成分:α−リポ酸(日油社製:チオクト酸MC75F)
・マスキング剤:サンショウ末(日本粉末薬品社製:サンショウ末)
・賦形剤:セルロース(旭化成ケミカルズ社製:セオラスUF−F711)
・崩壊剤:デンプン(旭化成ケミカルズ社製:ピーシーエスFC−30)
・滑沢剤:ステアリン酸カルシウム(堺化学工業社製:食品添加物ステアリン酸カルシウム)
(処方)
【0032】
【表5】
【0033】
上記の原材料及び処方により得られた錠剤は、αリポ酸1.0質量%に対してサンショウ末が0.2質量%の比率で配合されており、α−リポ酸の有する硫黄臭が全くなく、サンショウの香りも感じないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の方法によれば、含硫化合物の硫黄臭を容易にマスキングすることができるため、含硫化合物を含むサプリメントや、飲食品や医薬品等の利用者や患者は不快感を感じることなくそれらを摂取することができる。そのため、本発明のマスキング方法は、含硫化合物を含有するサプリメント、健康飲食品や美容飲食品等の飲食品、医薬品、化粧品等の製造において広く利用できる。