特許第6293601号(P6293601)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6293601ランフラットタイヤ用サイド補強ゴム組成物及びランフラットタイヤ
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  • 特許6293601-ランフラットタイヤ用サイド補強ゴム組成物及びランフラットタイヤ 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6293601
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】ランフラットタイヤ用サイド補強ゴム組成物及びランフラットタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20180305BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20180305BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20180305BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20180305BHJP
   B60C 17/00 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   C08L9/00
   C08L7/00
   C08K3/04
   B60C1/00 Z
   B60C17/00 B
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-147022(P2014-147022)
(22)【出願日】2014年7月17日
(65)【公開番号】特開2016-23207(P2016-23207A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100124707
【弁理士】
【氏名又は名称】夫 世進
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100059225
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 璋子
(72)【発明者】
【氏名】西村 知耶
【審査官】 藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−088502(JP,A)
【文献】 特開2012−251021(JP,A)
【文献】 特開2010−149632(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/123072(WO,A1)
【文献】 特開2006−169483(JP,A)
【文献】 特開2009−220776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
C08J 3/00−3/28、99/00
B60C 1/00−19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分100質量部が天然ゴム及び/又はポリイソプレンゴム10〜45質量部とポリブタジエンゴム55〜90質量部からなるランフラットタイヤ用サイド補強ゴム組成物の製造方法であって、
天然ゴム及び/又はポリイソプレンゴムとカーボンブラックを含むウェットマスターバッチに、ポリブタジエンゴムとカーボンブラックを乾式混合する工程を含み、前記ウェットマスターバッチ中のカーボンブラック量、並びに前記乾式混合時に添加するカーボンブラック量及びポリブタジエンゴム量が下記式(1)を満足する
ことを特徴とするランフラットタイヤ用サイド補強ゴム組成物の製造方法
0.30≦(B/X)/(A/100)≦3.00 …(1)
(式中、Aは前記ウェットマスターバッチ中の天然ゴム及び/又はポリイソプレンゴム100質量部に対するカーボンブラックの質量部、Bは前記乾式混合時に添加するカーボンブラックの前記ゴム成分100質量部に対する質量部、Xは前記ポリブタジエンゴムの前記ゴム成分100質量部に対する質量部である。)
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法により製造されたゴム組成物サイド補強ゴム部に用いてランフラットタイヤを製造するランフラットタイヤの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランフラットタイヤのサイド補強ゴム部に用いられるゴム組成物、及び該ゴム組成物を用いたランフラットタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
パンク等の障害によりタイヤ内部の空気圧が低下して0kPaになった状態でも、ある程度の距離を走行することのできるランフラットタイヤと呼ばれる空気入りタイヤがある。このような内圧が下がった状態でのランフラット走行を可能にするための技術として、サイドウォール部の内面にサイド補強ゴム部を設けてサイドウォール部を補強することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
サイド補強ゴム部は、ランフラット走行時におけるタイヤの変形抑制のため、高硬度配合のゴム組成物が用いられることが多い。ゴム組成物を高硬度にするため、補強性充填剤であるカーボンブラックを増量する手法があるが、一般にカーボンブラックを増量すると耐クリープ性が低下し、ランフラット耐久性が低下してしまう。また、高硬度にするため架橋密度を上げる手法もあり、この場合、硬度と耐クリープ性を両立することができるが、サイド補強ゴム部に必要な特性の一つである耐疲労性が低下してしまう。このように、これらの手法では、硬度と耐クリープ性と耐疲労性の三特性をバランスよく改良することができない。
【0004】
一方、タイヤ用ゴム組成物の分野において、ゴムラテックスとカーボンブラックスラリーを混合し、凝固乾燥して得られたウェットマスターバッチを用いることが知られている(例えば、特許文献2〜4参照)。しかしながら、ランフラットタイヤのサイド補強ゴム部において、上記三特性をバランスよく改良させる技術は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−149632号公報
【特許文献2】特開2006−160856号公報
【特許文献3】特開2012−197375号公報
【特許文献4】特開2004−107482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、硬度と耐クリープ性と耐疲労性をバランスよく改良することができるランフラットタイヤ用サイド補強ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るランフラットタイヤ用サイド補強ゴム組成物の製造方法は、ゴム成分100質量部が天然ゴム及び/又はポリイソプレンゴム10〜45質量部とポリブタジエンゴム55〜90質量部からなるゴム組成物の製造方法であって、天然ゴム及び/又はポリイソプレンゴムとカーボンブラックを含むウェットマスターバッチに、ポリブタジエンゴムとカーボンブラックを乾式混合する工程を含み、前記ウェットマスターバッチ中のカーボンブラック量、並びに前記乾式混合時に添加するカーボンブラック量及びポリブタジエンゴム量が下記式(1)を満足するものである。
【0008】
0.30≦(B/X)/(A/100)≦3.00 …(1)
式中、Aは前記ウェットマスターバッチ中の天然ゴム及び/又はポリイソプレンゴム100質量部に対するカーボンブラックの質量部、Bは前記乾式混合時に添加するカーボンブラックの前記ゴム成分100質量部に対する質量部、Xは前記ポリブタジエンゴムの前記ゴム成分100質量部に対する質量部である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上記特定のウェットマスターバッチにポリブタジエンゴムとカーボンブラックを乾式混合し、それらの比率を規定したことにより、硬度と耐クリープ性と耐疲労性をバランスよく改良することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る空気入りタイヤの半断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0012】
本実施形態に係るゴム組成物は、天然ゴム(NR)及び/又はポリイソプレンゴム(IR)とポリブタジエンゴム(BR)からなるゴム成分と、カーボンブラックとを含有するゴム組成物であって、天然ゴム及び/又はポリイソプレンゴムと一部のカーボンブラックを含むウェットマスターバッチに、ポリブタジエンと残部のカーボンブラックを乾式混合してなるものである。本実施形態に係るゴム組成物であると、硬度と耐クリープ性と耐疲労性をバランスよく改良することができる。その理由は特に限定するものではないが、次のように考えられる。
【0013】
一般に、天然ゴムよりもポリブタジエンゴムが多いNR/BRブレンド系において、これらをカーボンブラックとともに乾式混合した場合、カーボンブラック(CB)は島相を構成するNRよりも海相を構成するBRに偏在する。これに対し、式(1)に当てはまるように、島相を構成するNRをCBとともにウェットマスターバッチ化し、該ウェットマスターバッチと海相を構成するBRとCBを乾式混合することにより、BR(海相)に偏在していたCB量を減らすことができ、耐クリープ性を向上することができる。一方、NR(島相)中のCB量は増加するとともに、ウェットマスターバッチはバウンドラバーが多いため、島相が大きなフィラーのように働き、ゴム組成物全体としての硬度は維持できる。また、海相のBR中のCB量が減ることにより、応力の緩和が可能となり、更にウェットマスターバッチ自体が一般に耐疲労性良好であることから、ゴム組成物全体としての耐疲労性を向上することができる。
【0014】
該ゴム組成物において、ゴム成分100質量部は、天然ゴム(NR)及び/又はポリイソプレンゴム(IR)10〜45質量部とポリブタジエンゴム(BR)55〜90質量部からなる。NR及び/又はIRは、より好ましくは10〜40質量部であり、更に好ましくは15〜40質量部である。NR及び/又はIRが10質量部以上であることにより、島相を構成するウェットマスターバッチによる上記効果を高めることができる。一方、BRは、より好ましくは60〜90質量部であり、更に好ましくは60〜85質量部である。BRが55質量部以上であることにより、BRを海相とした海島構造が得られ、上記三特性をバランスよく改良することができる。
【0015】
天然ゴム、ポリイソプレンゴム及びポリブタジエンゴムとしては、特に限定されず、ゴム工業において一般に使用されているものを用いることができる。なお、ゴム成分は、好ましくは天然ゴムとポリブタジエンゴムからなり、また天然ゴムとポリイソプレンゴムは基本的には同様に考えることができるため、以下では天然ゴムとポリブタジエンゴムとのブレンドについて説明するが、ポリイソプレンゴムとポリブタジエンゴムとのブレンドについても同様に適用することができる。
【0016】
ポリブタジエンゴムとしては、例えば、シス−1,4結合含有量が96%以上のブタジエンゴムを用いてもよい。このようなシス含量の高いポリブタジエンゴムを用いることにより、低発熱性能を向上することができ、ランフラット耐久性を向上することができる。シス含量の高いブタジエンゴムとしては、ネオジウム系触媒などの希土類元素系触媒を用いて合成したものが好ましい。ネオジウム系触媒を用いて合成したブタジエンゴムのミクロ構造としては、シス−1,4結合含有量が96%以上かつビニル基(1,2−ビニル結合)含有量が1.0%以下であることが好ましい。ここで、シス−1,4結合含有量及びビニル基含有量は、1HNMRスペクトルの積分比により算出される値である。
【0017】
該ゴム成分は、基本的には天然ゴムとポリブタジエンゴムのみで構成されるが、上記効果を損なわない限り、その他のジエン系ゴムを配合してもよい。その他のゴムとしては、特に限定されないが、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)などが挙げられる。
【0018】
該ゴム組成物において、カーボンブラックの配合量は特に限定しないが、ゴム成分100質量部に対して30〜150質量部であることが好ましく、より好ましくは40〜100質量部であり、更に好ましくは50〜80質量部である。カーボンブラックとしては、特に限定されず、例えば、ISAF級(N200番台)、HAF級(N300番台)、FEF級(N500番台)、GPF級(N600番台)(ともにASTMグレード)のものを用いることができ、より好ましくはFEF級のものである。
【0019】
本実施形態に係るゴム組成物では、天然ゴムをウェットマスターバッチとした上で、ポリブタジエンゴム及びカーボンブラックと乾式混合することを特徴とする。マスターバッチとしてはドライマスターバッチもあるが、ドライマスターバッチでは、ウェットマスターバッチに比べてカーボンブラックの分散性に劣り、バウンドラバーも少ない。そのため、ドライマスターバッチでは、ポリブタジエンゴムと乾式混合したときに、天然ゴム相とポリブタジエンゴム相の間でのカーボンブラックの分布差を十分に設けることができない。本実施形態では、上述した効果を高めるために、ゴム成分として使用する天然ゴムは全てウェットマスターバッチとして配合することが好ましい。
【0020】
ウェットマスターバッチ中に含まれるカーボンブラックの量としては、例えば、天然ゴム100質量部に対して20〜150質量部でもよく、25〜120質量部でもよく、30〜100質量部でもよい。
【0021】
ウェットマスターバッチの製造方法としては、公知の方法を用いることができ、特に限定されない。一般的には、カーボンブラックを分散溶媒である水中に分散させたスラリー溶液と、天然ゴムラテックス溶液とを混合し、次いで凝固・乾燥させることより、ウェットマスターバッチが得られる。一実施形態として、特許第4738551号公報に記載の方法、即ち、カーボンブラックを水中に分散させる際に、天然ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造後、該スラリー溶液と残りの天然ゴムラテックス溶液とを混合し、次いで凝固・乾燥させる方法を用いてもよい。
【0022】
天然ゴムラテックス溶液としては、濃縮ラテックスや、フィールドラテックスといわれる新鮮ラテックスなどを使用することができ、どちらのラテックス種を用いても物性等に影響はみられない。また、必要に応じて、濃縮ラテックスや新鮮ラテックスに水を加えて濃度調整したものを用いてもよい。なお、スラリー溶液の調製及びスラリー溶液とラテックス溶液の混合には、例えば、ハイシアーミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどの一般的な分散機を用いることができる。また、凝固乾燥させる際の凝固剤としては、ゴムラテックス溶液の凝固用として通常使用されるギ酸、硫酸などの酸や、塩化ナトリウムなどの塩を使用することができる。凝固後に脱水・乾燥させる方法としては、オーブン、真空乾燥機、エアードライヤーなどの各種乾燥装置を使用してもよく、押出機を用いて機械的せん断力をかけながら脱水、乾燥させてもよい。
【0023】
本実施形態に係るゴム組成物は、上記ウェットマスターバッチにポリブタジエンゴムとカーボンブラックを添加し乾式混合して得られる。乾式混合は、バンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機(混練機)を用いて行うことができる。乾式混合時に添加するカーボンブラックは、ウェットマスターバッチに用いるカーボンブラックと同じものを用いることが好ましいが、別種のカーボンブラックを用いてもよい。
【0024】
本実施形態では、ウェットマスターバッチ中のカーボンブラック量、並びに、乾式混合時に添加するカーボンブラック量及びポリブタジエンゴム量が下記式(1)を満足するように設定する。
【0025】
0.30≦(B/X)/(A/100)≦3.00 …(1)
式中、Aは、ウェットマスターバッチ中の天然ゴム100質量部に対するカーボンブラックの質量部である。Bは、乾式混合時に添加するカーボンブラックのゴム成分100質量部に対する質量部である。Xは、乾式混合時に添加するポリブタジエンゴムのゴム成分100質量部に対する質量部である。そのため、A/100は、島相を構成するウェットマスターバッチにおけるカーボンブラックの濃度に相当し、B/Xは、海相を構成するポリブタジエンゴムにおけるカーボンブラックの濃度に相当し、両者の比(B/X)/(A/100)(以下、この比を海島カーボン比ということがある。)が式(1)のように0.30〜3.00の範囲内となるように設定する。海島カーボン比が3.00より大きいと、島(天然ゴム)相と海(ポリブタジエンゴム)相間でのカーボンブラックの分布状態が、一般の乾式混合の場合と大きく変わらず、耐クリープ性の改善効果が得られにくくなる。また、海島カーボン比が0.30よりも小さいと、ポリブタジエンゴム相のカーボンブラック量低減による硬度低下が、天然ゴム相のカーボンブラック量増加による硬度上昇を上回り、ゴム組成物全体としての硬度を維持することが困難となる。海島カーボン比は、0.30〜2.00であることが好ましく、より好ましくは0.40〜1.50であり、更に好ましくは0.40〜1.00であり、0.40〜0.80でもよい。
【0026】
実施形態に係るゴム組成物には、上記ウェットマスターバッチ、ポリブタジエンゴム及びカーボンブラックに加えて、フェノール系熱硬化性樹脂と、その硬化剤としてのメチレン供与体を乾式混合にて添加してもよい。メチレン供与体に対するフェノール系熱硬化性樹脂の配合量の質量比は1.5倍以上であることが好ましく、かかる質量比で両成分を配合することにより、高温時における剛性低下を抑えることができる。
【0027】
フェノール系熱硬化性樹脂としては、フェノール、レゾルシン、及びこれらのアルキル誘導体からなる群から選択された少なくとも1種のフェノール類化合物を、ホルムアルデヒドなどのアルデヒドで縮合してなる熱硬化性樹脂が挙げられる。上記アルキル誘導体には、クレゾール、キシレノール、ノニルフェノール、オクチルフェノールなどが含まれる。フェノール系熱硬化性樹脂の具体例としては、フェノールとホルムアルデヒドを縮合してなる未変性フェノール樹脂(ストレートフェノール樹脂)、クレゾールやキシレノール等のアルキルフェノールとホルムアルデヒドを縮合してなるアルキル置換フェノール樹脂、レゾルシンとホルムアルデヒドを縮合してなるレゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシンとアルキルフェノールとホルムアルデヒドを縮合してなるレゾルシン−アルキルフェノール共縮合ホルムアルデヒド樹脂などの、各種ノボラック型フェノール樹脂が挙げられる。また、例えばカシューナッツ油やトール油、オレイン酸などのオイルで変性されたオイル変性ノボラック型フェノール樹脂を用いることもできる。
【0028】
フェノール系熱硬化性樹脂の硬化剤として配合するメチレン供与体としては、ヘキサメチレンテトラミン及び/又はメラミン誘導体が用いられる。メラミン誘導体としては、例えば、ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテル、及び多価メチロールメラミンからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。これらの中でも、メチレン供与体としては、ヘキサメトキシメチルメラミン及び/又はヘキサメチレンテトラミンが好ましい。
【0029】
フェノール系熱硬化性樹脂の配合量は、メチレン供与体の配合量に対して質量比で1.5倍以上であることが好ましく、より好ましくは2.0倍〜5.0倍である。フェノール系熱硬化性樹脂の配合量は、ゴム成分100質量部に対して1〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜10質量部である。メラミン供与体の配合量は、ゴム成分100質量部に対して0.2〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0030】
実施形態に係るゴム組成物には、上記成分の他に、シリカなどの他の充填剤、オイル、亜鉛華、老化防止剤、ステアリン酸、ワックス、加硫剤、加硫促進剤など、タイヤ用ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を、乾式混合にて添加することができる。
【0031】
老化防止剤としては、キノリン系老化防止剤と、キノリン系老化防止剤以外の少なくとも一種の老化防止剤を配合することが好ましい。キノリン系老化防止剤としては、例えば、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体(TMDQ)、及び、6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロ−キノリン(ETMDQ)からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0032】
キノリン系老化防止剤と併用する他の老化防止剤としては、例えば、芳香族第2級アミン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤、硫黄系老化防止剤、及び亜リン酸エステル系老化防止剤からなる群から選択される少なくとも1種の老化防止剤が挙げられる。これらの中でも、芳香族第2級アミン系老化防止剤が好ましく、より好ましくは、N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン(6PPD)、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(IPPD)、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン(DPPD)、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン(DNPD)などのp−フェニレンジアミン系老化防止剤である。
【0033】
キノリン系老化防止剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対して、0.2〜8質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜4質量部である。また、老化防止剤の全配合量は、ゴム成分100質量部に対して、1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは2〜5質量部である。
【0034】
加硫剤としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄成分が挙げられ、特に限定するものではないが、その配合量はゴム成分100質量部に対して0.5〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜6質量部である。また、加硫促進剤の配合量としては、ゴム成分100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0035】
本実施形態に係るゴム組成物は、ランフラットタイヤに用いられるサイド補強ゴム組成物であり、すなわち、ランフラットタイヤのサイドウォール部において当該サイドウォール部を補強するサイド補強ゴム部に用いられる。
【0036】
図1は、ランフラットタイヤの一例を示すタイヤの概略半断面図である。このタイヤは、トレッド部1と、その両端から半径方向内側に延びる左右一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2の内側端に設けられた左右一対のビード部3とからなる。一対のビード部3にはビードコア4が埋設され、この一対のビードコア4により両端が係止されるようにカーカスプライ5が埋設されている。カーカスプライ5は、ビードコア4の周りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返されており、カーカスプライ5の本体とその折返し部との間には、ビードコア4の径方向外周側に断面三角形状をなす硬質ゴム製のビードフィラー6が配されている。トレッド部1におけるカーカスプライ5の半径方向外側にはベルト7が埋設されており、ベルト7の外周にはベルト補強層8が設けられている。そして、サイドウォール部2には、その剛性を上げるために、サイドパッドとも称されるサイド補強ゴム部9が設けられている。サイド補強ゴム部9は、サイドウォール部2におけるカーカスプライ5のタイヤ内面側に配設されており、タイヤ子午線断面において三日月状の断面形状にて設けられている。
【0037】
本実施形態では、サイド補強ゴム部9が上記実施形態のゴム組成物により形成されており、常法に従い、例えば140〜180℃で加硫成形することにより、ランフラットタイヤが得られる。得られたランフラットタイヤは、サイド補強ゴム部9が高硬度と耐クリープ性と耐疲労性の三特性をバランスよく改良した上記実施形態のゴム組成物からなるため、ランフラット耐久性を向上することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。使用原料及び評価方法は以下の通りである。
【0039】
(使用原料)
・カーボンブラック:N550、東海カーボン(株)製「シーストSO」
・天然ゴムラテックス溶液:天然ゴム新鮮ラテックス溶液、Golden Hope社製(DRC=31.2%、質量平均分子量23.2万)に常温で水を加えてゴム成分25質量%に調整したもの
・凝固剤:ギ酸(一級85%、10%溶液に希釈してpH1.2に調整したもの)、ナカライテスク社製
・NR:RSS3号
・BR:JSR(株)製「BR01」(シス−1,4結合含有量=95%)
・Nd−BR:ネオジウム系触媒で重合されたポリブタジエンゴム、KUNHO PETROCHEMICAL社製「BR40」(シス−1,4結合含有量=98%)
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS−20」
・フェノール系樹脂:オイル変性ノボラック型フェノール樹脂、住友ベークライト(株)製「スミライトレジンPR13349」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1号」
・老化防止剤A:N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン、住友化学(株)製「アンチゲン6C」
・老化防止剤B:2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体(TMDQ)、川口化学工業(株)製「アンテージRD」
・加硫促進剤:スルフェンアミド系、大内新興化学工業(株)製「ノクセラーNS−P」
・メチレン供与体:ヘキサメトキシメチルメラミン、三井サイテック(株)製「CYREZ 964RPC」
・硫黄:四国化成工業(株)「ミュークロンOT−20」。
【0040】
(評価方法)
・硬度:JIS K6253に準拠したタイプAデュロメータを使用し、23℃で測定した硬度を、各コントロールの値を100とした指数で示した。指数が大きいほど、硬度が高いことを示す。
・耐クリープ性:JIS K6262に準拠し、25%の圧縮歪を与えて100℃雰囲気中に7日間放置後の変形量の逆数につき、各コントロールの値を100とした指数で示した。指数が大きいほど変形量が少なく、すなわちクリープ量が少なくて耐クリープ性に優れることを示す。
・耐疲労性:JIS K6260に準拠して評価した。測定は温度23℃の条件下で行い、亀裂成長が2mmになるまでの回数を求めた。各コントロールの値を100とした指数で示し、数値が大きいほど良好な耐疲労性を示す。
【0041】
(実施例1)
固形分(ゴム)濃度0.5質量%に調整した天然ゴム新鮮ラテックス溶液にカーボンブラック30質量部を添加し、これにPRIMIX社製ロボミックスを使用してカーボンブラックを分散させることにより(該ロボミックスの条件:9000rpm、30分)、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有スラリー溶液を製造した(工程I)。ここで、上記0.5質量%の天然ゴム新鮮ラテックス溶液の使用量は、工程Iで得られるスラリー溶液において、水とカーボンブラックの合計量に対するカーボンブラックの含有量が5質量%となるように設定した(以下の実施例及び比較例のウェットマスターバッチ作製工程において同じ)。工程Iで製造したスラリー溶液に、残りの天然ゴム新鮮ラテックス溶液(固形分濃度25質量%となるように水を添加して調整したもの)を、工程Iで使用した天然ゴム新鮮ラテックス溶液と合わせて、固形分量で100質量部となるように添加し、次いでSANYO社製家庭用ミキサーSM−L56型を使用して混合し(ミキサー条件11300rpm、30分)、カーボンブラック含有天然ゴムラテックス溶液を製造した(工程II)。工程IIで製造したカーボンブラック含有天然ゴムラテックス溶液に、凝固剤としてギ酸10質量%水溶液をpH4になるまで添加し、固液分離した後、スクイザー式1軸押出脱水機(スエヒロEPM社製V−02型)を用いて水分率1.5%以下まで乾燥・可塑化することにより、ウェットマスターバッチを得た。該ウェットマスターバッチは、表1のマスターバッチ配合に示す通り、天然ゴム100質量部に対してカーボンブラック30質量部を含有するものである。
【0042】
次いで、バンバリーミキサーを使用し、表1のゴム組成物配合に従い、まず、第1工程(ノンプロ混合工程)で、上記ウェットマスターバッチにポリブタジエンとカーボンブラックを添加するとともに、硫黄と加硫促進剤とメチレン供与体を除く成分を添加混合し(排出温度=160℃)、次いで、得られた混合物に、第2工程(ファイナル混合工程)で硫黄と加硫促進剤とメチレン供与体を添加混合して(排出温度=100℃)、ゴム組成物を調製した。
【0043】
(実施例2〜5)
工程Iで添加するカーボンブラックの量を表1,2のマスターバッチ配合に記載の通りに変更したこと以外は実施例1と同様にしてウェットマスターバッチ(WMB)を作製し、更に、表1,2のゴム組成物配合に従い、実施例1と同様の乾式混合によりゴム組成物を調製した。
【0044】
(比較例1〜3,7,9,11)
ウェットマスターバッチは作製せずに、表1,2に記載のゴム組成物配合に従い、実施例1と同様の乾式混合によりゴム組成物を調製した。
【0045】
(比較例4)
表1のマスターバッチ配合に従い、バンバリーミキサーを用いて、天然ゴム(RSS3号)100質量部に対してカーボンブラックを70質量部添加し混練してドライマスターバッチ(Dry−MB)を作製した。得られたドライマスターバッチを用いて、表1のゴム組成物配合に従い、実施例1と同様の乾式混合によりゴム組成物を調製した。
【0046】
(比較例5,6,8,10)
工程Iで添加するカーボンブラックの量を表1,2のマスターバッチ配合に記載の通りに変更したこと以外は実施例1と同様にしてウェットマスターバッチ(WMB)を作製し、更に、表1,2のゴム組成物配合に従い、実施例1と同様の乾式混合によりゴム組成物を調製した。
【0047】
マスターバッチを使用した各ゴム組成物における(B/X)/(A/100)で表される海島カーボン比は表1,2に示した通りである。各ゴム組成物につき、160℃で25分間加硫した試験片を用いて、硬度、耐クリープ性及び耐疲労性を評価した。なお、比較例2〜6及び実施例1〜4は比較例1がコントロールであり、比較例8、比較例10及び実施例5はそれぞれ比較例7、比較例9及び比較例11がコントロールである。結果を表1,2に示す。
【0048】
表1に示すように、コントロールである比較例1に対し、カーボンブラックを増量した比較例2では、硬度は改良されたが、耐クリープ性及び耐疲労性が悪化した。比較例3では、硫黄を増量したことにより硬度及び耐クリープ性は改良されたが、耐疲労性が悪化した。一方、天然ゴムをドライマスターバッチ化した比較例4では、ウェットマスターバッチに比べてカーボンブラックの分散性が劣るため、海相と島相間に十分なカーボンブラックの分布差を設けることができず、比較例1に対して硬度が悪化しており、耐クリープ性及び耐疲労性の改良効果も得られなかった。比較例5では、目的とする海島構造への改良ができず、ウェットマスターバッチ化した効果がほとんど得られなかった。比較例6では、海島カーボン比が小さすぎ、海相のカーボンブラック量の減少による硬度低下が、島相のカーボンブラック量の増加による硬度上昇分を上回り、結果としてゴム組成物全体としての硬度が低下した。また、ウェットマスターバッチ中のカーボンブラック量が多すぎ、破壊点となることにより耐疲労性が低下した。これに対し、実施例1〜4であると、比較例1に対して、島相をなすウェットマスターバッチ中のカーボンブラック量を増やし、海相をなすポリブタジエンゴム中のカーボンブラック量を減らすことができるので、硬度を同等以上に維持しつつ、耐クリープ性及び耐疲労性を顕著に改善されており、これら三特性をバランスよく改良することができた。海島カーボン比が小さいほど(即ち、WMB中のカーボンブラック量が多く、BR相中のカーボンブラック量が少ないほど)、改良効果が大きかった。
【0049】
表2に示すように、ポリブタジエンゴムとしてNd−BRを用いた実施例5でも、コントロールである比較例11に対して、上記三特性をバランスよく改良することができた。一方、比較例8では、天然ゴムの比率が小さすぎるため、コントロールである比較例7に対して、ウェットマスターバッチ化したメリットが見られなかった。また、比較例10では、天然ゴムの比率が大きすぎたため、コントロールである比較例9に対して、硬度が低下しており、耐クリープ性にも劣っていた。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
(実施例6〜9)
工程Iで添加するカーボンブラックの量を表3のマスターバッチ配合に記載の通りに変更したこと以外は実施例1と同様にしてウェットマスターバッチを作製し、更に、表3のゴム組成物配合に従い、実施例1と同様の乾式混合によりゴム組成物を調製した。実施例1〜5とはゴム成分中の天然ゴムとポリブタジエンゴムの比が異なる。
【0053】
(比較例12,15)
ウェットマスターバッチは作製せずに、表3に記載のゴム組成物配合に従い、実施例1と同様の乾式混合によりゴム組成物を調製した。
【0054】
(比較例13,14)
工程Iで添加するカーボンブラックの量を表3のマスターバッチ配合に記載の通りに変更したこと以外は実施例1と同様にしてウェットマスターバッチを作製し、更に、表3のゴム組成物配合に従い、実施例1と同様の乾式混合によりゴム組成物を調製した。
【0055】
各ゴム組成物につき、160℃で25分間加硫した試験片を用いて、硬度、耐クリープ性及び耐疲労性を評価した。なお、比較例13,14及び実施例6〜9は比較例12がコントロールであり、実施例10は比較例15がコントロールである。結果を表3に示す。
【0056】
表3に示すように、コントロールである比較例12に対し、比較例13では、目的とする海島構造への改良ができず、ウェットマスターバッチ化した効果がほとんど得られなかった。比較例14では、耐クリープ性は改善されたものの、海島カーボン比が小さすぎて硬度及び耐疲労性が低下した。これに対し、実施例6〜9であると、比較例12に対して、上記三特性をバランスよく改良することができ、海島カーボン比が小さくなるほど、改良効果が高かった。また、ポリブタジエンゴムとしてNd−BRを用いた実施例10でも、コントロールである比較例15に対して、上記三特性をバランスよく改良することができた。
【0057】
【表3】
【符号の説明】
【0058】
1…トレッド部、2…サイドウォール部、3…ビード部、9…サイド補強ゴム部
図1