(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
天然ゴム及び/又はポリイソプレンゴムを含むゴムラテックス溶液とカーボブラックのスラリー溶液を用いて前記ウェットマスターバッチを作製する工程において、しゃく解剤を添加する、請求項1記載の空気入りタイヤの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、一実施形態に係る空気入りタイヤを示したものであり、重荷重用空気入りラジアルタイヤの断面が示されている。この空気入りタイヤは、トレッド部(1)と、その両端から半径方向内側に延びる左右一対のサイドウォール部(2)と、サイドウォール部(2)の半径方向内側に設けられた左右一対のビード部(3)とからなる。一対のビード部(3)にはそれぞれ環状のビードコア(4)が埋設されている。図中、CLはタイヤ赤道を示す。この例では、タイヤは、タイヤ赤道CLに対して左右対称構造をなす。
【0013】
空気入りタイヤには、一対のビードコア(4)間にトロイダル状に延在する少なくとも1枚のカーカスプライ(5)が埋設されている。この例ではカーカスプライ(5)は1枚であるが、2枚以上設けてもよい。カーカスプライ(5)は、トレッド部(1)からサイドウォール部(2)を経てビード部(3)に延び、ビード部(3)においてビードコア(4)の周りにカーカスプライ(5)の端部を折り返すことにより係止されている。この例では、カーカスプライ(5)の端部は、ビードコア(4)の周りをタイヤ幅方向内側から外側に折り返して係止されている。カーカスプライ(5)は、スチールコードや有機繊維コード等からなるカーカスコードと、カーカスコードを被覆する被覆ゴムとからなる。カーカスコードは、タイヤ周方向に対して実質上直角に配列されている。
【0014】
トレッド部(1)におけるカーカスプライ(5)の半径方向外周側には、カーカスプライ(5)とトレッドゴム部(6)との間に、少なくとも2枚のベルトプライからなるベルト(7)が配されている。
【0015】
カーカスプライ(5)の本体部(5A)とその折り返し部(5B)との間には、ビードコア(4)の外周(即ち、半径方向外周側)に硬質ゴム製のビードフィラー(8)が設けられている。ビードフィラー(8)は、タイヤ半径方向外側ほど漸次幅が狭く形成された断面三角形状をなす。
【0016】
ビード部(3)は、不図示のリムフランジに接触する部分の外面部分を構成するゴム部として、ゴムチェーハー(9)を備える。ゴムチェーハー(9)は、空気入りタイヤを正規リムに装着した状態において、リムフランジに対向配置されて、これに当接するビード部外面部分を構成しており、リムストリップとも称される。ゴムチェーハー(9)は、より詳細には、カーカスプライ(5)の折り返し部(5B)のタイヤ幅方向外側を覆うように設けられている。そのため、折り返し部(5B)は、ビードフィラー(8)とゴムチェーハー(9)の間に介在している。
【0017】
図2に拡大して示すように、カーカスプライ(5)の折り返し部(5B)の先端(タイヤ半径方向外端)である折り返し端部(5E)の周りには、当該折り返し端部(5E)でのセパレーションを抑制するためのゴムシート(10)が配設されている。ゴムシート(10)として以下に詳述する耐疲労性能に優れたものを用いることにより、カーカスプライ(5)の折り返し端部(5E)で発生する歪みに起因するセパレーションを抑制することができる。
【0018】
ゴムシート(10)は、カーカスプライ(5)の折り返し端部(5E)に当接させてタイヤ周方向の全周にわたって設けられており、この例では、折り返し端部(5E)におけるビードフィラー(8)と反対側(即ち、ゴムチェーハー(9)側)に配置されている。従って、ゴムシート(10)は折返し部(5B)とゴムチェーハー(9)との間に介在している。ゴムシート(10)は、折り返し端部(5E)を越えてタイヤ半径方向外側に向かってビードフィラー(8)の外表面に沿って延在しており、そのため、折り返し端部(5E)をタイヤ幅方向外側から覆うように設けられている。なお、この例では、折り返し端部(5E)がビードフィラー(8)の先端(8E)よりもタイヤ半径方向内側に位置しているが、当該先端(8E)を越えてタイヤ半径方向外側に延在してもよい。
【0019】
かかるゴムシートは、上記折返し端部(5E)の表裏両側(即ち、内側と外側)のうちの少なくとも一方に配設することができる。すなわち、ゴムシートは、折り返し端部(5E)におけるビードフィラー(8)側及びゴムチェーハー(9)側の少なくとも一方に配設することができる。
図3は、折り返し端部(5E)におけるビードフィラー(8)側にゴムシート(10A)を配設した例である。そのため、ゴムシート(10A)は、折返し部(5B)とビードフィラー(8)との間に介在している。ゴムシート(10A)が折り返し端部(5E)を越えてタイヤ半径方向外側に延在しているのは
図2のゴムシート(10)と同様である。
【0020】
図4は、カーカスプライ(5)の折り返し端部(5E)における表裏両側、即ちビードフィラー(8)側とゴムチェーハー(9)側の双方に、ゴムシート(10)(10A)を配設した例である。すなわち、折返し部(5B)とゴムチェーハー(9)との間に介在した外側のゴムシート(10)と、折返し部(5B)とビードフィラー(8)との間に介在した内側のゴムシート(10A)が設けられている。そのため、折り返し端部(5E)は、外側のゴムシート(10)と内側のゴムシート(10A)とで挟まれた状態に設けられている。
【0021】
図5は、カーカスプライ(5)の折り返し端部(5E)を包み込む形にゴムシート(10B)を貼り付けた例である。すなわち、ゴムシート(10B)は折り返し端部(5E)を包み込むように折り返されており、従って、ゴムシート(10B)は、カーカスプライ(5)の折り返し端部(5E)におけるビードフィラー(8)側とゴムチェーハー(9)側の双方に配されている。
図4,5に示すように、折り返し端部(5E)を包み込むようにゴムシート(10)(10A)(10B)を配置することにより、折り返し端部(5E)でのセパレーションをより効果的に抑えることができる。
【0022】
本実施形態では、かかるゴムシートが、天然ゴム及び/又はポリイソプレンゴムとカーボンブラックを含むウェットマスターバッチを含むゴム組成物からなることを特徴とする。カーボンブラックが高次元に分散したウェットマスターバッチを用いてゴムシートを形成することにより、耐疲労性能を向上することができる。
【0023】
本実施形態の空気入りタイヤは、天然ゴム及び/又はポリイソプレンゴムとカーボンブラックを含むウェットマスターバッチを用いて上記ゴムシートを作製し、ゴムシートをカーカスプライの折り返し端部周りに配置してグリーンタイヤを作製し、グリーンタイヤを加硫成型することにより得られるものであり、以下、各工程において詳細に説明する。
【0024】
(ウェットマスターバッチ作製工程)
ウェットマスターバッチは、天然ゴム(NR)及び/又はポリイソプレンゴム(IR)を含むゴムラテックス溶液と、カーボンブラックのスラリー溶液を用いて作製することができ、製造方法は特に限定されないが、一般的には、カーボンブラックを分散溶媒に分散させたスラリー溶液と、ゴムラテックス溶液とを混合し、次いで凝固・乾燥させることより、ウェットマスターバッチが得られる。
【0025】
ここで、ゴムラテックス溶液としては、合成ゴムであるポリイソプレンゴムのラテックス溶液を用いてもよいが、天然ゴムラテックス溶液を用いることが好ましい(以下、好ましい態様であるNRの場合について説明するが、IRについても同様に適用することができる。)。天然ゴムラテックス溶液としては、濃縮ラテックスやフィールドラテックスといわれる新鮮ラテックスなどを使用することができ、必要に応じて、水を加えて濃度調整したものを用いてもよい。なお、効果が損なわれない範囲で、天然ゴム及び/又はポリブタジエンゴム以外のジエン系ゴムラテックス溶液を併用してもよい。
【0026】
また、カーボンブラックとしては、例えば、SAF級(N100番台)、ISAF級(N200番台)、HAF級(N300番台)、FEF級(N500番台)、GPF級(N600番台)(ともにASTMグレード)のものを用いることができ、より好ましくはHAF級のものである。
【0027】
好ましい実施形態に係るウェットマスターバッチ作製工程は、カーボンブラックを分散溶媒中に分散させる際に、天然ゴムゴムラテックス溶液の一部を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造する工程(A)と、該スラリー溶液と、残りのゴムラテックス溶液とを混合して、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(B)と、酸を添加することにより、前記カーボンブラック含有ゴムラテックス溶液を凝固させる工程(C)を含む。
【0028】
(1)工程(A)
工程(A)において、天然ゴムラテックス溶液は、あらかじめ分散溶媒と混合した後、カーボンブラックを添加し、分散させてもよい。また、分散溶媒中にカーボンブラックを添加し、次いで所定の添加速度で、天然ゴムラテックス溶液を添加しつつ、分散溶媒中でカーボンブラックを分散させてもよく、あるいは分散溶媒中にカーボンブラックを添加し、次いで何回かに分けて一定量の天然ゴムラテックス溶液を添加しつつ、分散溶媒中でカーボンブラックを分散させてもよい。天然ゴムラテックス溶液が存在する状態で、分散溶媒中にカーボンブラックを分散させることにより、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造することができる。
【0029】
ここで、分散溶媒としては、水を使用することが好ましいが、例えば有機溶媒を含有する水を用いてもよい。
【0030】
工程(A)における天然ゴムラテックス溶液の添加量としては、使用する天然ゴムラテックス溶液の全量(工程(A)および工程(B)で添加する全量)に対して、0.5〜50質量%が例示される。また、工程(A)で添加する天然ゴムラテックス溶液の固形分(ゴム)量は、カーボンブラックとの質量比で0.5〜10%であることが好ましく、1〜6%であることがより好ましい。
【0031】
工程(A)において、天然ゴムラテックス溶液存在下でカーボンブラックおよび分散溶媒を混合する方法としては、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどの一般的な分散機を使用してカーボンブラックを分散させる方法が挙げられる。
【0032】
一実施形態において、工程(A)後に得られる、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液のpHを7.1以上に調整することが好ましい。pHを7.1以上とすることにより、カーボンブラック表面に付着したゴムラテックス粒子同士の吸着・凝集を発生しにくくすることができ、カーボンブラックの分散性能を高めたまま、ゴムラテックスを凝固させることができ、上記ゴムシートの耐疲労性能を向上することができる。かかるスラリー溶液のpH調整方法は特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニアなどの塩基をスラリー溶液に添加することでpHを調整する方法が挙げられる。工程(A)後に得られる前記スラリー溶液のpHの上限は特に限定されないが、例えば9.0程度が挙げられる。
【0033】
(2)工程(B)
工程(B)において、上記スラリー溶液と、残りの天然ゴムラテックス溶液とを液相で混合する方法は特に限定されず、例えば、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどの一般的な分散機を使用して混合する方法が挙げられる。必要に応じて、混合の際に分散機などの混合系全体を加温してもよい。
【0034】
残りの天然ゴムラテックス溶液は、工程(A)で添加した天然ゴムラテックス溶液よりも固形分(ゴム)濃度が高いことが好ましく、具体的には固形分(ゴム)濃度が10〜60質量%であることが好ましく、20〜30質量%であることがより好ましい。
【0035】
(3)工程(C)
工程(C)において、凝固剤として作用する酸としては、ゴムラテックス溶液の凝固用として通常使用されるギ酸、硫酸などが挙げられる。
【0036】
工程(C)においては、酸を添加する前の、カーボンブラック含有ゴムラテックス溶液のpHを7.5〜8.5に調整することが好ましく、より好ましくは8.0〜8.5である。これにより、カーボンブラックの分散性能を高めたまま、ゴムラテックスを凝固させることができる。詳細には、このpHが7.5以上であることにより、ゴムラテックス溶液中でのゴムラテックス粒子の自己凝集を抑えることができ、上記ゴムシートの耐疲労性能を向上することができる。また、このpHが8.5以下であることにより、ゴムラテックス粒子の帯電マイナス電荷が大きくなりすぎるのを防いで、カーボンブラック粒子との親和性を高めることができ、カーボンブラックの分散性を高めて、上記ゴムシートの耐疲労性能を向上することができる。このようにpHを調整する方法としては、工程(B)において、カーボンブラック含有ゴムラテックス溶液を製造する際、得られる混合溶液を適宜、加熱、減圧脱揮する方法や、クエン酸、乳酸、炭酸水素ナトリウムなどのpH調整剤を適宜添加する方法が挙げられる。
【0037】
工程(C)における凝固段階の後、凝固物を含む溶液を脱水・乾燥させることでウェットマスターバッチが得られる。脱水・乾燥方法としては、オーブン、真空乾燥機、エアードライヤーなどの各種乾燥装置を使用してもよく、押出機を用いて機械的せん断力をかけながら脱水、乾燥させてもよい。
【0038】
工程(C)後に得られるウェットマスターバッチは、天然ゴム100質量部に対してカーボンブラックを30〜100質量部含有することが好ましく、より好ましくは40〜80質量部である。
【0039】
天然ゴムラテックス溶液とカーボブラックスラリー溶液を用いてウェットマスターバッチを作製する工程においては、しゃく解剤を添加してもよい。しゃく解剤を添加することにより、カーボンブラックの更なる高分散化を図ることができ、上記ゴムシートの耐疲労性能をより一層向上することができる。しゃく解剤としては、一般に素練促進剤(ペプタイザー)として使用されるものを用いることができ、例えば、キシリルメルカプタン、β−ナフチルメルカプタン、2,2−ジベンズアミドジフェニルジスルフィド、o−ベンズアミドチオフェノールの亜鉛塩などが挙げられ、これらはいずれか一種又は二種以上組み合わせて用いることができる。
【0040】
しゃく解剤は、天然ゴムラテックス溶液にあらかじめ添加しておいてもよく、カーボブラックスラリー溶液にあらかじめ添加しておいてもよく(上記工程(A)のスラリー溶液調製時に添加してもよく)、天然ゴムラテックス溶液とカーボンブラックスラリー溶液の混合時又は混合後に添加してもよい。しゃく解剤の添加量は、特に限定されず、例えば、天然ゴム100質量部に対して、0.01〜2.0質量部でもよく、0.5〜1.0質量部でもよい。
【0041】
なお、ウェットマスターバッチには、本実施形態の効果が損なわれない限り、ゴム工業で通常使用される各種添加剤が含まれてもよい。
【0042】
(ゴムシート作製工程)
ゴムシート作製工程では、得られたウェットマスターバッチを含むゴム組成物からゴムシートを作製する。かかるゴムシート用ゴム組成物には、上記ウェットマスターバッチに加えて、例えば、加硫剤、加硫促進剤、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの各種添加剤を配合することができる。
【0043】
加硫剤としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄成分が挙げられ、特に限定するものではないが、その配合量はゴム成分100質量部に対して0.5〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜6質量部である。また、加硫促進剤の配合量としては、ゴム成分100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0044】
該ゴム組成物において、ゴム成分は、ウェットマスターバッチとして配合される天然ゴム及び/又はポリイソプレンゴムのみでもよいが、効果が損なわれない範囲で他のジエン系ゴムを配合してもよい。好ましくは、天然ゴム及び/又はポリイソプレンゴムは、ゴム成分100質量部中50質量部以上であり、更に好ましくは80質量部以上であり、特に好ましくは100質量部である。
【0045】
該ゴム組成物において、カーボンブラックは、その全量がウェットマスターバッチとして配合されることが好ましい。ゴム組成物におけるカーボンブラックの配合量は、ゴム成分100質量部に対して30〜100質量部であることが好ましく、より好ましくは40〜80質量部である。
【0046】
該ゴム組成物には、更にフェノール系熱硬化性樹脂と、その硬化剤としてのメチレン供与体を配合してもよい。フェノール系熱硬化性樹脂としては、フェノール、レゾルシン、及びこれらのアルキル誘導体からなる群から選択された少なくとも1種のフェノール類化合物を、ホルムアルデヒドなどのアルデヒドで縮合してなるものが挙げられる。上記アルキル誘導体には、クレゾール、キシレノール、ノニルフェノール、オクチルフェノールなどが含まれる。フェノール系熱硬化性樹脂の具体例としては、フェノールとホルムアルデヒドを縮合してなる未変性フェノール樹脂、クレゾールやキシレノール等のアルキルフェノールとホルムアルデヒドを縮合してなるアルキル置換フェノール樹脂、レゾルシンとホルムアルデヒドを縮合してなるレゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシンとアルキルフェノールとホルムアルデヒドを縮合してなるレゾルシン−アルキルフェノール共縮合ホルムアルデヒド樹脂などの、各種ノボラック型フェノール樹脂が挙げられる。
【0047】
フェノール系熱硬化性樹脂の硬化剤として配合するメチレン供与体としては、ヘキサメチレンテトラミン及び/又はメラミン誘導体が用いられる。メラミン誘導体としては、例えば、ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテル、及び多価メチロールメラミンからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0048】
フェノール系熱硬化性樹脂の配合量は、ゴム成分100質量部に対して0.5〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜5質量部である。メラミン供与体の配合量は、ゴム成分100質量部に対して0.5〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜5質量部である。
【0049】
該ゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。得られたゴム組成物を用いて、ゴムシートを作製する方法としては、例えば押出機を用いてシート状に成形すればよい。ゴムシートの厚みは、特に限定しないが、耐疲労性能の観点から、0.1mm以上であることが好ましく、より好ましくは0.3〜5.0mmであり、更に好ましくは0.5〜2.0mmである。
【0050】
(グリーンタイヤ作製工程)
グリーンタイヤ作製工程では、カーカスプライ(5)の折り返し端部(5E)における表裏両側のうちの少なくとも一方に、未加硫の上記ゴムシートを配置して、グリーンタイヤ(未加硫タイヤ)を作製する。
【0051】
グリーンタイヤの作製方法については、成形ドラムを用いた公知の成形方法を適用することができる。例えば、成形ドラムにインナーライナーとカーカスプライを順次貼り付け、該カーカスプライの両端部にビードコア及びビードフィラーを載置し、カーカスプライの両端部をビードコアの周りで折り返した後、ゴムチェーハー及びサイドウォールゴムを貼り付け、次いで、成形ドラムを拡径して、カーカスプライのクラウン部にベルト層とトレッドゴムを貼り付けることによりグリーンタイヤを成形することができる。
【0052】
本実施形態では、かかるグリーンタイヤの作製時において、カーカスプライ(5)を巻き上げて折り返す際に、その折り返し部(5B)、又は折り返し部(5B)に積層されるビードフィラー(8)又はゴムチェーハー(9)に、上記ゴムシート(10)(10A)(10B)を貼り付ける。
【0053】
(加硫成型工程)
加硫成形工程では、上記で得られたグリーンタイヤを加硫成型する。加硫成型は、公知の方法を適用することができ、すなわち、グリーンタイヤを、常法に従い、加硫モールドにセットし、例えば140〜180℃で加硫成型することにより、実施形態に係る空気入りタイヤが得られる。
【0054】
以上よりなる本実施形態であると、上記ゴムシートはカーボンブラックが高次元に分散しており、該ゴムシートをカーカスプライの折り返し端部周りに配置したことにより、当該折り返し端部における局所的な歪み疲労によるエッジセパレーションを効果的に抑制することができる。なお、本実施形態は各種空気入りタイヤに用いることができ、好ましくはエッジセパレーションが問題となりやすい、トラックやバスなどの大型車に用いられる重荷重用タイヤに適用することである。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。使用原料及び評価方法は以下の通りである。
【0056】
(使用原料)
・カーボンブラック:N330、東海カーボン(株)製「シースト3」
・天然ゴムラテックス溶液:レヂテックス社製の天然ゴム濃縮ラテックス溶液「LA−NR」(DRC(Dry Rubber Content)=60%)
・凝固剤:ギ酸(一級85%、10%溶液に希釈してpH1.2に調整したもの)、ナカライテスク社製
・しゃく解剤:大内新興化学工業(株)製「ノクタイザーSD」
・フェノール系樹脂:レゾルシン−アルキルフェノール−ホルマリン共重合樹脂、住友化学(株)製「スミカノール620」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「3号亜鉛華」
・老化防止剤:N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン、モンサント社製「6PPD」
・不溶性硫黄:アクゾ社製「クリステックスOT−20」
・加硫促進剤:スルフェンアミド系、N, N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、大内新興化学工業(株)製「ノクセラーDZ−G」
・メチレン供与体:ヘキサメトキシメチルメラミン、日本サイテック社製「サイレッツ963L」。
【0057】
(測定・評価方法)
・pH:東亜ディーケーケー社製ポータブルpH計HM-30P、JIS Z 8802準拠して評価。工程(A)で得られたスラリー溶液のpH測定は25℃の条件下で行い、工程(C)における、前記酸を添加する前の、前記カーボンブラック含有ゴムラテックス溶液のpH測定は、表1に示す混合溶液の液温で行った。
・耐疲労性能:JIS K6260に準拠して評価。測定は温度23℃の条件下で行い、亀裂成長が2mmになるまでの回数を求めた。比較例1の値を100とした指数で示し、数値が大きいほど良好な耐疲労性能を示す。
・タイヤ耐久性:試作タイヤについて、ドラム試験機にて空気内圧0.9MPa、荷重53kN、速度40km/hrの条件で故障が故障するまで走行させ、ビード部が故障するまでの走行時間について、比較例1を基準とし、比較例1よりも走行時間が10%以上短い場合を「×(劣る)」、10%超15%未満長い場合を「○(良好)」、15%以上長い場合を「◎(非常に良好)」、比較例1に対する走行時間の違いが10%未満のものを「△(同等)」とした。
【0058】
(実施例1)
固形分(ゴム)濃度0.5質量%に調整した天然ゴムラテックス溶液954.8質量部にカーボンブラック50質量部を添加し、PRIMIX社製ロボミックスを使用してカーボンブラックを分散させることにより(該ロボミックスの条件:50℃、9000rpm、30分)、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有スラリー溶液を製造した(工程A)。工程Aで得られたスラリー溶液のpHを表1に示す。ここで、上記0.5質量%の天然ゴムラテックス溶液の使用量は、工程Aで得られるスラリー溶液において、水とカーボンブラックの合計量に対するカーボンブラックの量が5質量%となるように設定した(以下の実施例のウェットマスターバッチ作製工程において同じ)。
【0059】
次に、工程Aで製造したスラリー溶液に、残りの天然ゴムラテックス溶液(固形分濃度25質量%となるように温度25℃にて水を添加して調整したもの)を、工程Aで使用した天然ゴムラテックス溶液と合わせて、固形分量で100質量部となるように添加し、次いでSANYO社製家庭用ミキサーSM−L56型を使用して混合し(ミキサー条件11300rpm、30分)、カーボンブラック含有天然ゴムラテックス溶液を製造した(工程B)。工程Bで添加する天然ゴムラテックス溶液のpHを表1に示す。
【0060】
工程Bで製造したカーボンブラック含有天然ゴムラテックス溶液を、表1に示す混合溶液の液温となるように加熱して、凝固前のカーボンブラック含有天然ゴムラテックス溶液のpHを表1に記載の値に調整した。その後、凝固剤としてギ酸10質量%水溶液をpH4になるまで添加した(工程C)。凝固物を固液分離した後、スクイザー式1軸押出脱水機(スエヒロEPM社製V−02型)を用いて脱水し(180℃)、更に該押出脱水機を用いて水分率1.5%以下まで乾燥・可塑化して(200℃)、ウェットマスターバッチを得た。該ウェットマスターバッチは、表1のマスターバッチ配合に示す通り、天然ゴム100質量部に対してカーボンブラック50質量部を含有するものである。
【0061】
次いで、B型バンバリーミキサー(神戸製鋼社製)を使用し、表1のゴム組成物配合に従い、まず、第1工程(ノンプロ混合工程)で、上記ウェットマスターバッチに、硫黄と加硫促進剤とメチレン供与体を除く成分を添加混合し(排出温度=160℃)、次いで、得られた混合物に、第2工程(ファイナル混合工程)で硫黄と加硫促進剤とメチレン供与体を添加混合して(排出温度=100℃)、ゴム組成物を調製した。
【0062】
得られたゴム組成物から厚み1.0mmのゴムシートを作製し、該ゴムシートを
図2に示すように、スチールコードを埋設したカーカスプライの折り返し部とゴムチェーハーとの間に介在させて、常法に従い、重荷重用空気入りラジアルタイヤ(タイヤサイズ:11R22.5)を加硫成型した。ゴムシートは、カーカスプライの折り返し端からトレッド側に向かって20mm、ビードトウ側に向かって25mmの総幅45mmとし、タイヤ周方向の全周にわたって配置した。
【0063】
(比較例1,2)
ウェットマスターバッチは作製せずに、表1に記載のゴム組成物配合に従い、乾式混合によりゴム組成物を調製した。また、該ゴム組成物を用いて、実施例1と同様の手法により、ゴムシートを作製しタイヤを試作した。比較例2におけるドライマスターバッチは、B型バンバリーミキサー(神戸製鋼社製)を用いて、天然ゴム100質量部に対してカーボンブラックを50質量部添加し混練したものである。比較例1,2では天然ゴムとしてRSS3号を用いた。
【0064】
(実施例2〜8)
工程Aにおいて添加するカーボンブラックの量、工程A後に得られるカーボンブラック含有スラリー溶液のpH、工程Bで添加する天然ゴムラテックス溶液のpH、工程Bで製造したカーボンブラック含有天然ゴムラテックス溶液の液温(混合溶液の液温)、及び、工程Cにおける凝固前のカーボンブラック含有ゴムラテックス溶液のpHを、表1に示す値に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法によりウェットマスターバッチを作製し。得られたウェットマスターバッチを用いて、表1のゴム組成物配合に従い、実施例1と同様の手法により、ゴム組成物を調製しゴムシートを作製して、タイヤを試作した。
【0065】
(実施例9〜11)
ゴムシートの配置を、表1に記載の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてタイヤを試作した。詳細には、実施例9では、厚み1.0mmのゴムシートを
図3に示すように、カーカスプライの折り返し部とビードフィラーとの間に介在させた(ゴムシートは、カーカスプライの折り返し端からトレッド側に向かって20mm、ビードトウ側に向かって25mmの総幅45mm)。実施例10では、厚み1.0mmのゴムシートを2枚用いて、
図4に示すように、カーカスプライの折り返し部とビードフィラーの間、及びカーカスプライの折り返し部とゴムチェーハーの間に、それぞれ介在させた(ゴムシートは、カーカスプライの折り返し端からトレッド側に向かって20mm、ビードトウ側に向かって25mmの総幅45mm)。実施例11では、厚み1.0mmのゴムシートを
図5に示すように、カーカスプライの折り返し端部を包み込むように折り返して設置した(ゴムシートは、カーカスプライの折り返し端からビードトウ側に向かって、ビードフィラー側では20mm、ゴムチェーハー側では25mmの総幅45mm)。
【0066】
(実施例12)
工程Bでスラリー溶液と残りの天然ゴムラテックス溶液を混合する際に、しゃく解剤を天然ゴム100質量部に対して0.1質量部添加したこと以外は、実施例1と同様にして、ウェットマスターバッチ、ゴム組成物及びゴムシートを作製してタイヤを試作した。
【0067】
上記で得られた各ゴム組成物について、150℃で30分間加硫した試験片を用いて耐疲労性能を評価するとともに、各試作タイヤについて、ドラム耐久性を評価した。結果を表1に示す。
【0068】
表1に示すように、コントロールである比較例1に対し、天然ゴムをドライマスターバッチ化した比較例2では、耐疲労性能の改良効果が小さく、ドラム耐久性の改良効果は得られなかった。これに対し、ウェットマスターバッチを用いて作製したゴムシートをカーカスプライの折り返し端部周りに設置した実施例1〜12では、ゴムシートの耐疲労性能に優れるため、ドラム耐久性が改善されていた。特に、実施例1〜4,9〜12ではゴムシートの耐疲労性能が顕著に改善されていた。また、該ゴムシートをカーカスプライの折り返し端部を包み込むように配置した実施例10,11ではドラム耐久性が顕著に改善されていた。また、ウェットマスターバッチ作製時にしゃく解剤を添加した実施例12では、ゴムシートの耐疲労性能がより一層改善されており、ドラム耐久性に優れていた。
【0069】
【表1】