(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6293615
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】疎油性の低接着湿潤防止コーティングとしてのグラフト化ポリマー
(51)【国際特許分類】
C08G 81/00 20060101AFI20180305BHJP
C09D 153/00 20060101ALI20180305BHJP
C09D 127/12 20060101ALI20180305BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20180305BHJP
C08J 3/24 20060101ALI20180305BHJP
C08G 77/442 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
C08G81/00
C09D153/00
C09D127/12
C09D183/04
C08J3/24 ACEW
C08G77/442
【請求項の数】18
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-166429(P2014-166429)
(22)【出願日】2014年8月19日
(65)【公開番号】特開2015-48479(P2015-48479A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2017年8月16日
(31)【優先権主張番号】14/018,398
(32)【優先日】2013年9月4日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596170170
【氏名又は名称】ゼロックス コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マンダキニ・カナンゴ
(72)【発明者】
【氏名】マシュー・エム・ケリー
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルン・サンバイ
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィッド・ジェイ・ジェルヴァシ
(72)【発明者】
【氏名】サントク・エス・バデシャ
(72)【発明者】
【氏名】チャカラヴァーシー・チダンバレスワラパッター
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・エス・レトカー
【審査官】
藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−264021(JP,A)
【文献】
米国特許第05700861(US,A)
【文献】
特開2013−154882(JP,A)
【文献】
特開2011−032386(JP,A)
【文献】
特開昭58−132058(JP,A)
【文献】
特表2013−506739(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/041527(WO,A1)
【文献】
特開2015−047870(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0002581(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
・IPC
C08G 81/00
C08G 77/442
C08J 3/24
C09D 127/12
C09D 153/00
C09D 183/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋されたフルオロエラストマー;および
前記架橋されたフルオロエラストマーにグラフト化されたペルフッ素化ポリエーテルを含み、前記フルオロエラストマーが、アミノ官能化シランで架橋されており、前記アミノ官能化シランが、アミノアルキルシラン変性ポリシロキサンを含む、疎油性グラフト化ポリマー。
【請求項2】
前記アミノ官能化シランが、グラフト結合点を提供する、請求項1に記載の疎油性グラフト化ポリマー。
【請求項3】
式Iの構造を有する、請求項1に記載の疎油性グラフト化ポリマー:
【化1】
式中、FEはフルオロエラストマーであり;
PFPEはペルフッ素化ポリエーテルであり;
Lはリンカーであり;
m、およびoは、独立に、3〜8の整数であり;
nは、1〜10の整数であり;
R
1およびR
2の各出現が、独立に、置換または非置換C
1−C
6アルキルであり、
R
3およびR
4は、独立に場合によりフッ素化されたC
1−C
6アルキル、または場合によりフッ素化されたC
1−C
6アルコキシである。
【請求項4】
前記リンカーLは、ペルフッ素化ポリエーテルの末端ヒドロキシル官能基に共有連結している官能基を末端とするC1−C6アルキルを含む、請求項3に記載の疎油性グラフト化ポリマー。
【請求項5】
前記フルオロエラストマー(FE)は、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ペルフルオロメチルビニルエーテル、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるモノマーユニットを有する、請求項3に記載の疎油性グラフト化ポリマー。
【請求項6】
前記フルオロエラストマー(FE)が、少なくとも65%のフッ素含有量を有する、請求項3に記載の疎油性グラフト化ポリマー。
【請求項7】
前記フルオロエラストマー(FE)が、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定される場合に、50,000〜70,0000ダルトンの範囲の分子量を有する、請求項3に記載の疎油性グラフト化ポリマー。
【請求項8】
前記ペルフッ素化ポリエーテル(PFPE)は、1,500ダルトン〜2,500ダルトンの範囲の平均分子量を有するアルコキシシラン末端処理されたペルフッ素化ポリエーテルである、請求項3に記載の疎油性グラフト化ポリマー。
【請求項9】
フルオロエラストマーをアミノ官能化シランで架橋する工程;および
ペルフッ素化ポリエーテルを前記架橋されたフルオロエラストマーにグラフト化する工程を含み、前記アミノ官能化シランが、アミノアルキルシラン変性ポリシロキサンを含む、疎油性グラフト化ポリマーを製造するためのプロセス。
【請求項10】
前記疎油性グラフト化ポリマーは、式Iの構造を有する、請求項9に記載のプロセス:
【化2】
式中、FEはフルオロエラストマーであり;
PFPEはペルフッ素化ポリエーテルであり;
Lはリンカーであり;
m、およびoは、独立に、3〜8の整数であり;
nは、1〜10の整数であり;
R
1およびR
2の各出現が、独立に、置換または非置換C
1−C
6アルキルであり、
R
3およびR
4は、独立に場合によりフッ素化されたC
1−C
6アルキル、または場合によりフッ素化されたC
1−C
6アルコキシである。
【請求項11】
前記架橋工程が、ペルフッ素化ポリエーテルの存在下で行われる、請求項9に記載のプロセス。
【請求項12】
前記アミノ官能化シランと前記ペルフッ素化ポリエーテルとの比は、0.5:1〜3:1の範囲である、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
前記フルオロエラストマーに対する前記アミノ官能化シランの量は、2pph〜10pphの範囲である、請求項11に記載のプロセス。
【請求項14】
前記フルオロエラストマー(FE)は、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ベルフルオロメチルビニルエーテル、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるモノマーユニットを有する、請求項9に記載のプロセス。
【請求項15】
前記フルオロエラストマー(FE)が、少なくとも65%のフッ素含有量を有する、請求項9に記載のプロセス。
【請求項16】
前記フルオロエラストマー(FE)が、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定される場合に、50,000〜70,0000ダルトンの範囲の分子量を有する、請求項9に記載のプロセス。
【請求項17】
前記ペルフッ素化ポリエーテル(PFPE)は、1,500ダルトン〜2,500ダルトンの範囲の平均分子量を有するアルコキシシラン末端処理されたペルフッ素化ポリエーテルである、請求項9に記載のプロセス。
【請求項18】
構造Aの架橋されたフルオロエラストマー:
【化3】
式中、nは1〜10の整数であり;
R
1およびR
2のそれぞれは、独立に、場合によりフッ素化されたC
1−C
6アルキルである;および
前記架橋されたフルオロエラストマーにグラフト化されたペルフッ素化ポリエーテル:
を含む疎油性低接着グラフト化ポリマーであって;
前記ポリシロキサン架橋剤のOCH
3基は、ペルフッ素化ポリエーテルをグラフト化するための反応性部位を提供する、疎油性グラフト化ポリマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2013年6月30日に出願された米国仮出願第13/931,983号の一部継続出願であり、この内容全体が、参照によって本明細書に全体に組み込まれる。
【0002】
本明細書に開示される実施形態は、コーティングに関する。特に本明細書に開示される実施形態は、種々の用途、例えばプリントヘッドのフロント面および低接着の湿潤防止特徴から利益を得る他の表面に使用される疎油性湿潤防止コーティングに関する。
【背景技術】
【0003】
典型的な固体インクプリントヘッド構成において、ノズルプレートは、インクが通ってジェットスタックを出るジェットのアレイを備えている。一部のプリントヘッドシステムにおいて、ノズルプレートおよびジェットスタックは、ステンレススチールプレートを含むが、近年、これらの部品は、可撓性のポリマー層、例えばポリイミドで置き換えられている。場合によっては、ポリイミドフィルムは、ステンレススチールのアパーチャプレートに結合して湿潤防止コーティングが施され、続いてレーザーによりポリイミドフィルム中にアパーチャのアレイを切除する。
【0004】
垂れ落ちノズル、プリントヘッドのフロント面におけるインクの湿潤および接着が、上手く働かない噴出および誤った方向の噴出を導くと共に画像品質を落とす。プリントヘッドの内部圧力が特定の圧力を超えるときに垂れ落ちノズルがインクを滲み出す。滲み出すことなくノズルの圧力をより高く維持できれば、性能はより良好になる。プリントヘッドのフロント面が印刷後に湿潤したままである場合に湿潤が生じる。プリントヘッドに留まるこうしたインクは、ノズルをブロックする場合があり、結果としてノズルが上手く働かず、誤った方向の印刷をもたらす。
図1は、こうした汚染されたプリントヘッドの写真を示す。
【0005】
これらの問題に対処するための1つの手法は、アクティブクリーニングブレードシステムを採用する。このシステムは、プリントヘッドからインクをパージし、次いでワイパーブレードがフロント面からインクを拭き取る。インクのパージは、通常、システムが上手く働いていないジェットを検出した後、およびインクが凍結または固化し、収縮して、システムに空気を引き込んだ場合に電源が落ちた後に生じる。インクのパージは、汚染を放出し、空気を捕捉して、ノズルを清浄にし、次いでワイパーがフロント面を清浄にする。
【0006】
ワイパーのブレードシステムと組み合わせて、種々の湿潤防止コーティングが、性能を改善するために使用されている。現在のコーティングは、特に良好な熱およびインク安定性を有するが、ワイパーブレードシステムと組み合わせて使用される場合にこうしたコーティングに対する要求に関して所望され得るよりも機械的堅牢性が低い場合がある。他の問題は、プリントヘッドの製造条件の下でコーティング安定性が原因で生じ得る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、汚染されたプリントヘッドフロント面の写真を示す。
【
図2】
図2は、プリントヘッドアセンブリの側面図を示す。
【
図3】
図3は、本明細書の開示される実施形態に従う
図2のプリントヘッドアセンブリを調製するためのプロセスにおける中間構造の側面図を示す。
【
図4】
図4は、本明細書に開示される実施形態に従う、
図2のプリントヘッドアセンブリを調製するためのプロセスにおける別の中間構造の側面図を示す。
【
図5】
図5は、本明細書に開示される実施形態における
図2のプリントヘッドアセンブリを調製するためのプロセスのさらに別の中間構造の側面図を示す。
【
図6】
図6は、グラフトを製造するための合成手順を示す。
【
図7】
図7は、本明細書に開示される実施形態に従う例示的な疎油性グラフト化ポリマーの熱重量分析(TGA)プロファイルを示す。TGA分析は、コーティングが、重量損失なしで約330℃まで熱的に安定であることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
一部の態様において、本明細書に開示される実施形態は、架橋されたフルオロエラストマーおよびこの架橋されたフルオロエラストマーにグラフト化したペルフッ素化ポリエーテルを含む疎油性グラフト化ポリマーに関する。
【0009】
一部の態様において、本明細書に開示される実施形態は、フルオロエラストマーを、アミノ官能化シランで架橋する工程、およびアルコキシシラン末端処理されたペルフッ素化ポリエーテルをこの架橋されたフルオロエラストマーにグラフト化する工程を含む、疎油性グラフト化ポリマーを製造するためのプロセスに関する。
【0010】
一部の態様において、本明細書に開示される実施形態は、以下の構造の架橋されたフルオロエラストマー、およびこの架橋されたフルオロエラストマーにグラフト化されたペルフッ素化ポリエーテルを含む疎油性グラフト化ポリマーに関する:
【化1】
式中、nは1〜10の整数であり、R
1およびR
2のそれぞれは、独立に、場合によりフッ素化されたC
1−C
6アルキルであり、ここで、ポリシロキサン架橋剤のOCH
3基は、ペルフッ素化ポリエーテルをグラフト化するための反応性部位を提供する。
【0011】
本明細書に開示される実施形態は、架橋されたフルオロエラストマーをペルフルオロポリエーテルでグラフト化することによって調製された疎油性グラフト化ポリマーに基づく、熱的に安定であり、機械的に堅牢性である低接着コーティングを提供する。疎油性グラフト化ポリマーは、ポリウレタン系コーティングに対して、有利なおよび/または補足的な化学反応を示し得る。実施形態において、コーティングとして使用される疎油性グラフト化ポリマーは、コーティングがプリントヘッドのフロント面に適用されるような高精細度(HD)ピエゾプリントヘッド用途に特に有用であり得る。本明細書に開示される疎油性グラフト化ポリマーは、優れた熱安定性を有しながら、高いインク接触角(50°を超える)および小さい滑り角(30°未満)を示し得る。当該技術分野における他のコーティングとは対照的に、本明細書に開示される疎油性グラフト化ポリマーは、硬化後のコーティングの表面にほとんど、ないし全く油を生じ得ない。さらに、こうしたコーティングはまた、290℃を超える温度に曝された後に、最小限の厚みおよび質量損失を示し得るので、厳しいプリントヘッド製作条件での使用に好適となる。本明細書に開示される疎油性グラフト化ポリマーを採用するコーティングは、堅牢性であり、溶融インクに約140℃の温度で2日間の連続的な曝露に供される場合であっても貯蔵寿命が長くなり得る。疎油性グラフト化ポリマーコーティングは、固体インク、顔料着色インクおよびUVインクと共に使用でき、容易な清浄および自己清浄化特性を示しながら、高い垂れ落ち圧力の下で良好な性能を実現できる。最後に、疎油性グラフト化ポリマーは、単純なフローコーティング技術によって必要とされるコーティングに形成でき、プリントヘッドの製造を促進する。これらおよび他の利点は、当業者に明らかになる。
【0012】
一部の実施形態において、架橋されたフルオロエラストマーおよびこの架橋されたフルオロエラストマーにグラフト化されたペルフッ素化ポリエーテルを含む疎油性グラフト化ポリマーを提供する。
【0013】
本明細書で使用される場合、「疎油性」という用語は、グラフト化ポリマーと組み合わせて使用される場合に、油、炭化水素、より一般的には有機化合物、特に非極性有機化合物を撥くグラフト化ポリマーの物理的特性を指す。疎油性特徴は、溶媒系、固体インクジェット系、および他の顔料着色およびUV硬化性インク組成物による湿潤を撥くために有用な湿潤防止特性を付与する。疎油性特徴は、高い垂れ落ち圧力下での性能を促進するために良好な接触角および滑り角を有するコーティングを提供できる。
【0014】
本明細書で使用される場合、「グラフト化ポリマー」という用語は、2つ以上の予備製作されたポリマーの化学的な接合を指す。グラフト化は、ポリマー架橋の形態と見なすことができる。例えば本明細書に開示されるグラフトポリマーは、架橋剤の補助の下で、予備製作されたフルオロエラストマーと、予備製作されたペルフッ素化ポリエーテルとの反応によって、調製されてもよい。実施形態において、フルオロエラストマーを架橋するために使用される架橋剤は、ペルフッ素化ポリエーテルを結合させるグラフト化学反応のための結合点を提供することにより二重の役割を果たす。
【0015】
本明細書で使用される場合、「フルオロエラストマー」という用語は、エラストマーとして一般に分類され、実質的なフッ素化度を含有するいずれかの材料を指す。フルオロエラストマーは、高い熱安定性、非燃焼性、および腐食性媒体に対する耐性によって特徴付けられる合成フッ素含有ゴム様ポリマー(通常コポリマー/ターポリマー)である。実施形態において、フルオロエラストマー(FE)は、少なくとも約65%のフッ素含有量を有する。実施形態において、フッ素含有量は、約50〜約90%、または約60〜ほぼ100%までの範囲であってもよい。例示的な市販のフルオロエラストマーは、一般に約66〜約70%の範囲のフッ素含有量を有する。
【0016】
現在既知で、利用可能なフルオロエラストマーとしては、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンのコポリマー、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびテトラフルオロエチレンのターポリマー、ならびにプロピレンおよびテトラフルオロエチレンの交互コポリマーが挙げられる。こうしたフルオロエラストマーは、VITON(商標)(Dupont)、DYNEON(商標)(3M)、FLUOREL(商標)(3M)、AFLAS(商標)(3M)、およびTECNOFLON(商標)(Solvay Solexis)クラスの製品として市販されている。こうしたフルオロエラストマーは、優れた溶媒および油耐性を示し、さらにそれらの非フッ素化エラストマー対照物に比べて相対的に高い温度耐性を有し得る。実施形態において、フルオロエラストマー(FE)は、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ペルフルオロメチルビニルエーテルおよびこれらの組み合わせからなる群から選択されるモノマーユニットを含むポリマーであってもよい。こうした一部の実施形態において、フルオロエラストマーは、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、およびヘキサフルオロプロピレンのターポリマーである。
【0017】
実施形態において、フルオロエラストマー(FE)は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定される場合、約50,000〜約70,000ダルトンの範囲の分子量を有する。実施形態において、フルオロエラストマーは、その引張強度に基づいて選択されてもよい。一部のこうした実施形態において、フルオロエラストマーの引張強度は、標準ASTM D412Cによって測定される場合に、約15mPa〜約25mPa、または約20〜約25mPa、または約22mPa〜約25mPaの範囲であってもよい。実施形態において、フルオロエラストマーは、特に本明細書に開示されるような架橋化学反応に関与する能力に関して選択される。
【0018】
本明細書で使用される場合、ペルフッ素化ポリエーテルとは、実質的なフッ素置換度を有するポリエーテルポリマーを指し、いずれかのフッ素化オリゴマー、ホモポリマー、またはコポリマーであってもよい。ペルフッ素化ポリエーテルは、フルオロエラストマーに匹敵する化学安定性を示すことができ、同様の特性を示し得る。実施形態において、ペルフッ素化ポリエーテル(PFPE)は、約1,500ダルトン〜約2,500ダルトンの範囲の平均分子量を有するアルコキシシラン末端処理されたペルフッ素化ポリエーテルである。ペルフッ素化ポリエーテルは、フルオロエラストマーと同様の溶媒忌避特性を有すると同時に、シラノールに結合する能力に関して選択されてもよい。さらに、ペルフッ素化ポリエーテル構成成分は、疎油性グラフト化ポリマーに良好な摩耗耐性を付与するために選択されてもよい。摩耗耐性は、特に、使用中にコーティングと連続的に接触するワイパーブレードを使用するプリントヘッドシステムに特に有用である。
【0019】
好適なペルフッ素化ポリエーテルとしては、FLUOROLINK(商標)(Solvay Solexis)クラスのものが挙げられる。特定の実施形態において、ペルフッ素化ポリエーテルは、一般式IIの化合物におけるようにアルコキシシランを末端とするリンカー(L)で二官能性置換されてもよい:
【化2】
【0020】
末端アルコキシシラン基は、本明細書に開示される実施形態によれば、下流グラフト化化学反応のための化学ハンドルを提供する。アルコキシシラン基のグラフト化化学反応は、ヒドロキシル基を保持する基材、例えば有機アルコールまたはシラノールを用いて達成され得る。シラノールカップリングパートナーは、シロキサン生成物(Si−O−Si)、例えば本明細書に開示される疎油性グラフト化ポリマーにアクセスする。式IIの化合物に使用されるリンカー(L)は、いずれかの置換または非置換C
1−C
6アルキルを含んでいてもよく、それらとしてはフッ素化アルキル、例えばペルフッ素化アルキルが挙げられる。リンカーLはまた、いずれかの優れた有機官能基を含んでいてもよく、末端酸素にて、または一部の実施形態において、末端炭素原子にて、主要なペルフッ素化ポリエーテル鎖に結合する。酸素に結合する非限定官能基としては、カルバメート、エステル、エーテルなどが挙げられ、アルコキシシラン部分(Si(OR)
3)のR基は同一または異なっていてもよい。Rとしては、メチル、エチル、n−プロピル、またはイソプロピルを挙げることができ、これらのいずれかは置換されてもよく、フッ素での置換を含む。Rはまた、水素であってもよい。一部の実施形態において、Rは、グラフト化化学反応のための調製に際して加水分解工程後は水素である。式IIにおいて、m、nおよびoは、上記で記載されるようなターゲット分子量に基づいて選択される整数である。実施形態において、mおよびoは、2〜8の整数である。実施形態において、nが2〜4の整数である。
【0021】
実施形態において、本明細書で開示される疎油性グラフト化ポリマーは、式Iの化合物であってもよい:
【化3】
【0022】
式中、FEはフルオロエラストマーであり、
PFPEはペルフッ素化ポリエーテルであり、
Lはリンカーであり、
m、n、およびoは、独立に1から10の整数であり;
R
1およびR
2の各発生は、独立に、場合によりフッ素化されたC
1−C
6アルキルであり、
R
3およびR
4は、独立に、場合によりフッ素化されたC
1−C
6アルキルまたは場合によりフッ素化されたC
1−C
6アルコキシである。実施形態において、mおよびoは、独立に3〜8の整数であり、nは1〜10の整数である。実施形態において、リンカーLは、上記で記載されるようなペルフッ素化ポリエーテルの末端ヒドロキシル官能基に共有連結できる官能基を末端とするC
1−C
6アルキルを含む。
【0023】
いずれかのC
1−C
6アルキルまたはC
1−C
6アルコキシは、直鎖または分岐であってもよい。実施形態において、これらの基のいずれかは、場合により置換されていてもよく、フッ素以外のハロゲン、例えば塩素または臭素での置換を含む。当業者は、構造Iがポリマー性であるので、ペルフッ素化ポリエーテルが構造Iに示されるすべてではない部位が、実際のところそのように置換されてもよいことが認識される。故に、実施形態において、本明細書に開示されるプリントヘッドコーティングは、構造Iおよび構造IIIの混合物を含んでいてもよい:
【化4】
【0024】
それぞれの基が上記で記載されるように定義される。実施形態において、構造IIIは、微量成分であってもよく、コーティング組成物の約10重量%未満、または約5重量%未満、または約1重量%未満で存在してもよい。一部の実施形態において、構造IIIの一部の化合物において、存在する場合、キャップ処理された潜在的なシラノール基を有していてもよい。例えばそれらは、アルキル化剤での処理によってアルコキシ基としてキャップ処理されてもよい。
【0025】
式Iの化合物は、本明細書に記載されるフルオロエラストマー(FE)およびペルフッ素化ポリエーテル(PFPE)を含む。2つのポリマータイプは、架橋剤の補助により共に結合する。架橋剤は、フルオロエラストマーをそれら自体とまず架橋するために使用されてもよい。実施形態において、フルオロエラストマーは、アミノ官能化シランで架橋される。実施形態において、アミノ官能化シランはまた、構造Iに示されるように、ペルフッ素化ポリエーテルのためのグラフト結合点を提供する。実施形態において、アミノ官能化シランは、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(AO800、UCT,Bristol,PAから入手可能)によるポリシロキサン(または構造IおよびIIIにおいてn=1である単なるシロキサン)の末端キャップ処理に基づいてもよい。当業者は、架橋剤自体が高いフッ素化度を含んでいてもよいが、これは必須ではないことが理解される。
【0026】
実施形態において、構造Aの架橋されたフルオロエラストマーを含む疎油性グラフト化ポリマーが提供される:
【化5】
式中、nは1〜10の整数であり、R
1およびR
2のそれぞれは、独立に、場合によりフッ素化されたC
1−C
6アルキル、および架橋されたフルオロエラストマーにグラフト化したペルフッ素化ポリエーテルであり、式中、ポリシロキサン架橋剤のOCH
3基は、ペルフッ素化ポリエーテルをグラフト化するために反応性部位を提供する。実施形態において、場合によりフッ素化されたC
1−C
6アルキルのフッ素化レベルは、単一フッ素からペルフッ素化(すなわちすべての水素がフッ素に置換される)までのフッ素化量であることができる。
【0027】
一部の実施形態において、フルオロエラストマーをアミノ官能化シランで架橋する工程、およびアルコキシシラン末端処理されたペルフッ素化ポリエーテルを、架橋されたフルオロエラストマーにグラフト化する工程を含む、疎油性グラフト化ポリマーを製造するためのプロセスを提供する。一部のこうした実施形態において、こうしたプロセスによってアクセスされる疎油性グラフト化ポリマーは、上記で記載される構造Iの化合物を含んでいてもよい。実施形態において、架橋工程は、アルコキシシラン末端処理されたペルフッ素化ポリエーテルの存在下で行われてもよい。理論に束縛されないが、骨格に水素原子を含むフルオロエラストマーの架橋により、以下の反応スキーム1の工程1に示されるように、フルオロエラストマーの脱フッ化水素化が可能であることが予測される。脱フッ化水素化は、不飽和フルオロエラストマー中間体およびプロトン化アミノ官能化架橋剤を提供する。アミンの塩基による再生(工程2)および続く不飽和にわたるアミン添加(工程3)は、ペルフッ素化ポリエーテルでグラフト化されることが容易である架橋されたフルオロエラストマーを提供する。グラフト化(工程4)は、構造Iの化合物を提供するために架橋剤および/またはアルコキシシラン末端処理されたペルフッ素化ポリエーテル上のアルコキシシランのアルコキシ基を加水分解することによって達成され得る。
【0028】
工程1:(脱フッ素化)
【化6】
工程2:(アミン再生)
【化7】
工程3:(二重結合にわたるアミンの添加)
【化8】
工程4:(加水分解および縮合)
【化9】
スキーム1:フルオロエラストマーのアルコキシシラン末端処理されたペルフッ素化ポリエーテルによる、アミノ官能化フルオロシランを架橋剤として用いる架橋反応。
【0029】
上記で記載されるように、フルオロエラストマー架橋工程は、ペルフッ素化ポリエーテルの存在下で行われてもよい。一部のこうした実施形態において、アミノ官能化シランと、アルコキシシラン末端処理されたペルフッ素化ポリエーテルとの比は、約0.5:1〜約3:1、または約1:1〜約2:1の範囲である。一部の実施形態において、比は、約1.5:1であってもよい。実施形態において、フルオロエラストマーに対するアミノ官能化シランの量は、約2pph〜約10pphの範囲である。実施形態において、アミン官能化架橋剤とペルフッ素化ポリエーテルとの結合は、フルオロエラストマーの架橋前に行われてもよい。上記で記載される工程のいずれかは、触媒の補助の下で行われてもよく、反応は、場合により高温にて行われてもよい。通常、反応は、有機溶媒、例えばメチルイソブチルケトン(MIBK)中で行われる。実施形態において、反応はすべて、化学中間体の単離なしでワンポット順序で行われる。実施形態において、反応生成物は、いずれかのタイプの精製ありまたは精製なしでコーティングを形成するように直接使用される。
【0030】
一部の実施形態において、ポリマーコーティングを有するフロント面を含むインクジェットプリントヘッドを提供し、このポリマーコーティングは、架橋されたフルオロエラストマーおよびこの架橋されたフルオロエラストマーにグラフト化したペルフッ素化ポリエーテルを含む疎油性グラフト化ポリマーを含む。こうした一部の実施形態において、疎油性グラフト化ポリマーが構造Iの化合物を含む。
【0031】
優れた疎油性コーティングのためのインク接触角は、約4インチの垂れ落ち圧力仕様を維持するためにコーティングの寿命にわたって約40°を超えるべきであるモデリングを示し、より高い接触角がより有益である。フロント面コーティングは、理想的にはまた、容易/自己洗浄特徴を可能にする低滑り角を有し、これがメンテナンスのないまたはメンテナンスの低い、高いエンジンの信頼性および低いランニングコストを有するプリントヘッドカートリッジを導く。低い滑り角は、低いインク接着の尺度であり、インクは、ノズルの周りにインク残留物を残すことなく、表面から清浄に拭き取られることができることを示す。ノズル領域の周りのいずれかのインク残留物は、インクメニスカスを壊すことができ、特定の値未満の圧力での垂れ落ちを導く。また、いずれかのコーティングは、理想的に、スタッキングプレスの厳しい製作条件、すなわち約290℃にて350PSIで30分間の後、これらの特性を維持する。故に、実施形態において、ポリマーコーティングは、少なくとも約50°のインク接触角および約30°未満のインク滑り角を有する。さらに、プリントヘッドフロント面に使用されるポリマーコーティングは、製造を促進するために290℃にて350psiで安定であることによって特徴付けられ得る。
【0032】
本明細書で開示される疎油性低接着表面コーティングは、記録基材上のインクを放出するように構成されたインクジェットプリントヘッドのための湿潤防止プリントヘッドフロント面コーティングとして使用できる。いずれかの好適な記録基材は、普通紙、例えばXEROX(登録商標)4024紙、XEROX(登録商標)Image Series紙、Courtland 4024 DP紙、罫線付ノート紙、ボンド紙、シリカコーティングされた紙、例えばSharp Companyシリカコーティングされた紙、JuJo紙、Hammermill Laserprint Paperなど、透明材料、布地、繊維製品、プラスチック、ポリマー性フィルム、無機基材、例えば金属および木材などを含んでいて、それらが使用されてもよい。
【0033】
一部の実施形態において、プリントヘッドは、疎油性低接着ポリマー性材料を含む疎油性低接着コーティング表面上に堆積したフロント面を含み、ここで固体インクの紫外線ゲルインクの噴出された液滴、または固体インクの噴出された液滴は、約50°を超える表面コーティングを有する接触角を示す。一部の実施形態において、接触角は、約55°を超えるまたは約65°を超える。1つの実施形態において、紫外線ゲルインクの噴出された液滴または固体インクと表面コーティングの噴出された液滴との間に示された接触角に上限はない。別の実施形態において、接触角は、約150°未満、または約90°未満である。インクの接触角が大きくなるにつれて、垂れ落ち圧力は高くなる。垂れ落ち圧力は、インク槽(貯蔵器)の圧力が増大する場合に、ノズルからインクが滲み出すのを避けるためのアパーチャプレートの能力に関連する。一部の実施形態において、コーティングは、組み合わせて、紫外線硬化性ゲルインクおよび固体インクのための低接着および高い接触角を提供し、これが有利なことには垂れ落ち圧力に影響を及ぼす。一部の実施形態において、本明細書のコーティングは、約30°未満の低滑り角を提供する。一部の実施形態において、滑り角は約25°未満である。一部の実施形態において、滑り角は、約1°を超える。接触角は、液滴サイズに大きくは感受性でない。しかし、接触角は、表面コーティング上のUVインクまたは固体インクの5〜10マイクロリットル液滴を配置する際に測定できる。滑り角は、表面コーティング上にUVインクまたは固体インクの7〜12マイクロリットル液滴を配置する際に測定できる。
【0034】
本明細書に記載される実施形態において、疎油性低接着コーティングは、高温(例えば約180℃〜約325℃の範囲の温度)および高圧(例えば約100psi〜約400psiの範囲の圧力)に長期間にわたって(例えば約10分〜約2時間の範囲の期間)曝された後であっても、熱安定性であり、それによって約1°から約30°の範囲の低滑り角、および約45°〜約150°の範囲の高い接触角を提供する。1つの実施形態において、疎油性低接着コーティングは、約350psiの圧力にて約290℃の温度にて約30分間曝された後、熱的安定性である。高密度ピエゾプリントヘッドの製作は、高温、高圧接着結合工程を必要とする。故に、フロント面コーティングが、こうした高温および高圧条件に耐えることが望ましい。高温および高圧にて本明細書に記載される疎油性低接着表面コーティングの安定性は、現在のプリントヘッド製造プロセスと適合する。
【0035】
インクジェットプリントヘッドのフロント面上にコーティングされる場合、疎油性低接着表面コーティングは、インクジェットプリントヘッドから放出されるインクに関して十分低接着を示すので、疎油性低接着コーティングに残るこうしたインク液滴は、単純な自己清浄様式においてプリントヘッドを滑らせることができる。汚染物質、例えばダスト、紙粒子などは、インクジェットプリントヘッドのフロント面において見られることがあり、滑るインク液滴によって、インクジェットプリントヘッドフロント面から運び去ることができる。故に、疎油性低接着プリントヘッドフロント面コーティングは、自己清浄性の汚染のないインクジェットプリントヘッドを提供できる。
【0036】
本明細書で使用される場合、疎油性低接着コーティングは、疎油性低接着コーティングとの間の接触角が、実施形態において、約50°を超える、または約55°を超える場合に、インクジェットプリントヘッドから放出されるインクに関して「十分な低湿潤性」を示すことができる。
【0037】
本明細書に開示される疎油性低接着コーティングは、いずれかの好適なインクジェットプリンタ(例えば連続インクジェットプリンタ、サーマルドロップオンデマンド(DOD)インクジェットプリンタ、および圧電DODインクジェットプリンタ)のインクジェットプリントヘッドのための疎油性低接着プリントヘッドフロント面コーティングとして使用できる。本明細書で使用される場合、「プリンタ」という用語は、いずれかの装置、例えばデジタルコピー、製本機、ファックス機、マルチファンクション機などを包含し、いずれかの目的のためにプリント出力機能を果たす。
【0038】
本明細書に開示される疎油性低接着コーティングは、いずれかの好適なインク(例えば水性インク、溶媒インク、UV硬化性インク、昇華型インク、固体インクなど)を噴出するように構成されたインクジェットプリントヘッドのための疎油性低接着プリントヘッドフロント面コーティングとして使用できる。本明細書に開示される疎油性低接着コーティングを用いて使用するのに好適な例示的なインクジェットプリントヘッドを、
図2に関して記載する。
【0039】
図2を参照して、本発明の1つの実施形態に従うインクジェットプリントヘッド20は、支持体ブレース22、支持体ブレース22に結合するノズルプレート24、および疎油性低接着コーティング、例えば疎油性低接着コーティング26を含む。
【0040】
支持体ブレース22は、ステンレススチールのようないずれかの好適な材料で形成され、ここで規定されるアパーチャ22aを含む。アパーチャ22aは、インク供給源(図示せず)と連通していてもよい。ノズルプレート24は、いずれかの好適な材料、例えばポリイミドで形成されていてもよく、ここで規定されるノズル24aを含む。ノズル24aは、アパーチャ22aを介してインク供給源と連通してもよく、こうしてインク供給源からのインクは、ノズル24aを通して記録基材上のプリントヘッド20から噴出可能である。
【0041】
例示的な実施形態において、ノズルプレート24は、介在接着剤材料28によって支持体ブレース22に結合する。接着剤材料28は、それがノズルプレート24を支持体ブレース22に結合するための結合プロセスの間に溶融し得るときに提供されてもよい。通常、ノズルプレート24および疎油性低接着コーティング26はまた、結合プロセス中に加熱される。熱可塑性接着剤が形成される材料に依存して、結合温度は、約180℃および約325℃の範囲であることができる。
【0042】
従来の疎油性低接着コーティングは、典型的な結合プロセスの間に遭遇する温度に曝される場合に、またはインクジェットプリントヘッドの製作中に遭遇する他の高温高圧プロセスに曝される場合に、劣化する傾向がある。しかし、本明細書に開示される疎油性低接着コーティング26は、結合温度に加熱された後にインクに対して、十分低い接着(低滑り角によって示される)および高接触角を示す。故に、疎油性低接着コーティング26は、高い垂れ落ち圧力を有する、自己清浄性の汚染のないインクジェットプリントヘッド20を提供できる。高温に曝されるときに、疎油性低接着コーティング26において、所望の表面特性(例えば低滑り角および高接触角を含む)の実質的な劣化に抵抗する能力により、高い垂れ落ち圧力を維持しながら自己清浄能を有するインクジェットプリントヘッドを、高温および高圧プロセスを用いて製作可能にする。インクジェット10プリントヘッドを形成するための例示的なプロセスは、
図2〜5に関して記載される。
【0043】
図3を参照して、インクジェットプリントヘッド、例えばインクジェットプリントヘッド20は、基材32上の疎油性低接着コーティング、例えば疎油性低接着コーティング26を形成することによって形成されてもよい。基材32は、いずれかの好適な材料、例えばポリイミドで形成されてもよい。
【0044】
1つの実施形態において、疎油性低接着コーティング26は、上記で記載されるように、少なくとも1つのイソシアネートおよび少なくとも1つのペルフルロポリエーテル化合物を含む反応混合物を初期に適用することによって基材32上に形成されてもよい。反応混合物を基材32に適用した後、反応体を共に反応させて疎油性低接着コーティング26を形成する。反応体を、例えば反応混合物を硬化することによって共に反応できる。1つの実施形態において、反応混合物はまず、約130℃の温度で約30分間〜約2時間硬化し、続いて約290℃にて約30分間から約2時間高温ポスト硬化する。
【0045】
1つの実施形態において、反応体混合物を、いずれかの好適な方法、例えばダイ押出コーティング、浸漬コーティング、スプレーコーティング、スピンコーティング、フローコーティング、スタンプ印刷、およびブレード技術を用いて基材32に適用されてもよい。空気噴霧化デバイス、例えばエアブラシまたは噴霧化エア/リキッドスプレーは、反応体混合物を噴霧するために使用できる。空気噴霧化デバイスは、均一な(または実質的に均一な)量を用いて、基材32の表面を覆うように均一なパターンで移動する自動レシプロケーター往復運動器上に載置できる。ドクターブレードの使用は、反応体混合物を適用するために使用できる別の技術である。フローコーティングにおいて、プログラム可能なディスペンサは、反応混合物を適用するために使用される。
【0046】
図4を参照して、基材32は、接着剤材料28を介してアパーチャブレース22に結合させて、結果として
図5に示される構造を得る。1つの実施形態において、接着剤材料28は、基材32に結合する前にアパーチャブレース22に結合する。さらに別の実施形態において、接着剤材料28は、アパーチャブレース22に結合する前に基材32に結合する。さらに別の実施形態において、接着剤材料28は、基材32およびアパーチャブレース22に同時に結合する。
【0047】
接着剤材料28が熱可塑性接着剤として提供される実施形態において、接着剤材料28は、熱可塑性接着剤を結合温度および結合圧力まで溶融させ、疎油性低接着20コーティング26を結合温度および結合圧力に供することによって、基材32およびアパーチャブレース22に結合する。1つの実施形態において、結合温度は少なくとも約290℃である。1つの実施形態において、結合温度は、少なくとも約310℃であることができる。別の実施形態において、結合温度は、少なくとも約325℃であることができる。1つの実施形態において、結合圧力は、少なくとも約100psiである。1つの実施形態において、結合圧力は、少なくとも約300psiであることができる。
【0048】
基材32をアパーチャブレース22に結合させた後、アパーチャブレース22は、
図2に示されるように、アパーチャ22aを接着剤材料28に延ばすために1つ以上のパターニングプロセス中にマスクとして使用されてもよい。アパーチャブレース22はまた、基材32においてノズル24aを形成するために1つ以上のパターニングプロセス中のマスクとして使用されてもよく、それによって
図2に示されるノズルプレート24を形成する。ノズル24aを形成するために使用される1つ以上のパターニングプロセスはまた、疎油性低接着コーティング26内のノズル開口部26aを形成するために適用されてもよく、ここでこのノズル開口部26aがノズル24aと連通する。1つの実施形態において、アパーチャ22aは、レーザー切除パターニングプロセスなどによって接着剤材料28に延びてもよい。1つの実施形態において、ノズル24aおよびノズル開口部26aは、レーザー切除パターニングプロセスなどによって、それぞれ基材32および疎油性低接着コーティング26に形成されてもよい。
【0049】
疎油性グラフト化ポリマー(A)の合成。
図6を参照して、フルオロエラストマー(TECNOFLON(登録商標)FKM(P959),Solvay Specialty Polymers,Alpharetta,GA)の17.5%溶液は、メチルイソブチルケトン(MIBK)および約1pph(重量)のFC4430(3M)およびAKF290(Wacker)中に溶解させることによって製造された。(理論に束縛されないが、界面活性剤は、フルオロエラストマーと、フューザーに適用される剥離層/油との相溶性を付与し、ピンホール/フィッシュアイ欠陥を予防すると考えらえる)。次に、アミノ架橋剤およびFLUORLINK(商標)S10(Solvay Specialty Polymers,Alpharetta,GA)を、MIBK中に1.5:1のモル比で混合し、一晩ロール加工した。モル比を一定に維持し、架橋剤およびFLUORLINK(商標)S10の量を比例して増大させることにより、改善された低接着特性をもたらしたことが観察された。この例において、(1)架橋剤:およびFLUORLINK(商標)S10(0.86mM:0.57mM)(2)架橋剤:およびFLUORLINK(商標)S10(1.71mM:1.13mM)(3)架橋剤:およびFLUORLINK(商標)S10(2.56mM:1.70mMを有する3つの異なる配合物で試みた。16〜18時間後、Part Bは、
図3に示されるように、Part Aに滴下した。Part BをPart Aに添加したら、MgO/CaO(ゾルのMIBK混合物中の9%貯蔵溶液)を添加し、混合物をデビルシェイカーを用いて5分間激しく振とうさせ、得られた混合物をモールド(6×6インチ)に注ぎ、室温にて16から18時間維持した。溶液のPartを、表面特性測定のためにポリイミド基材上にドローバーコーティングし、それらを一晩室温にて硬化し、218℃にて4時間維持したオーブンに移した。増大した量のEF:FSL10を有する配合物(3)を、最良の表面特性を与え、さらに湿潤防止コーティング用途について評価した。
【0050】
疎油性グラフト化ポリマーの特徴付け:空気中のTGA分解プロファイルは、コーティングが330℃まで安定であることを示す(
図7)。コーティングを、ヘキサデカン(油のための代替として使用できる)および固体インクに向かう表面特性について評価した。結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0051】
以上のように、表面特性は、現在のコントロールコーティングと比較できる。これらのコーティングは、プリントヘッド製作中に使用されるプレス接着剤結合サイクルを模倣するスタッキング条件(Teflonカバーレイを有する290℃/350 PSI)後の高い接触角を維持していた。また、スタックされたコーティングは、溶融CYMKインクを有する140℃で2日後、高い接触角を維持していた。滑り角は、コントロールよりも幾分高かったが、インクは、表面から清浄に滑り、使用中に容易に清浄可能であるように十分低いと考えられる。加えて、この例示的な疎油性グラフト化ポリマーは、これらのコーティングの長期間性能について所望される機械的堅牢性を有すると予測される。これらのコーティングは、フローコーティング手順を通してスケールアップさせることができ、これらのグラフト化ポリマーを用いるフローコーティングの実証がなされた。
【0052】
これらのコーティングが油を示さず、非常に高い熱安定性を示すが、所望の表面特性を維持するという事実により、高精細度ピエゾプリント用途のための湿潤防止コーティングのために魅力的な選択肢となる。