特許第6293669号(P6293669)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6293669
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】焼結された立方晶窒化ホウ素切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20180305BHJP
   B23B 27/20 20060101ALI20180305BHJP
   C04B 35/5831 20060101ALI20180305BHJP
   C04B 35/5835 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   B23B27/14 B
   B23B27/20
   C04B35/5831
   C04B35/5835
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-546019(P2014-546019)
(86)(22)【出願日】2012年12月5日
(65)【公表番号】特表2015-505740(P2015-505740A)
(43)【公表日】2015年2月26日
(86)【国際出願番号】US2012067918
(87)【国際公開番号】WO2013085979
(87)【国際公開日】20130613
【審査請求日】2015年10月5日
(31)【優先権主張番号】61/566,798
(32)【優先日】2011年12月5日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516053969
【氏名又は名称】ダイヤモンド イノヴェーションズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】アブズ−サミー マリク
【審査官】 村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−145667(JP,A)
【文献】 特開平11−335174(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0209818(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
B23B 27/20
B23B 51/00
C04B 35/5831
C04B 35/5835
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削工具の製造における使用のための焼結された成形体であって、
24vol%の立方晶窒化ホウ素、及び
結合相、を含み、
前記結合相は、2.5vol%〜4.9vol%のグラフェンを含み、
前記結合相が、Al23、Si34、Y23を含み、第4族元素を含まない、焼結された成形体。
【請求項2】
前記立方晶窒化ホウ素が約20ミクロン未満の粒径を有する、請求項1に記載の焼結された成形体。
【請求項3】
前記グラフェンが約1.2%〜約2.0%の酸素含有量を有する、請求項1に記載の焼結された成形体。
【請求項4】
切削工具の製造における使用のための焼結された成形体の製造方法であって、
粉末ブレンドを混合する工程であって、粉末ブレンドは、24vol%の立方晶窒化ホウ素、及び結合相を有し、前記結合相は、2.5vol%〜4.9vol%のグラフェンを含み、前記結合相が、Al23、Si34、Y23を含み、第4族元素を含まない、工程、
該粉末ブレンドをプレスして錠剤にする工程、及び
該錠剤を高圧かつ高温で焼結させる工程、を含む、方法。
【請求項5】
前記立方晶窒化ホウ素が約20ミクロン未満の粒径を有する、請求項に記載の方法。
【請求項6】
焼結が約75kBar未満の圧力で実施される、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記焼結が約45kBarの圧力でかつ約1500℃の温度で約30分の間実施される、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記グラフェンが約1.2%〜約2.0%の酸素含有量を有する、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2011年12月5日に出願された先の米国仮特許出願第61/566798号の優先権の利益を主張するものである。
【0002】
本開示は、立方晶窒化ホウ素(cBN)切削工具並びに向上した耐摩耗性及び強度を有するcBN切削工具の製造方法に関し、より具体的には立方晶窒化ホウ素及び単層又は複層のナノスケール材料、例えばグラフェンを含む結合相を含む、焼結された成形体から作られる切削工具に関する。
【背景技術】
【0003】
以下の背景技術の考察の中では、特定の構造及び/又は方法について言及されている。しかしながら、以下の言及は、これらの構造及び/又は方法が先行技術を構成することを認めるものとして解釈されるべきでない。出願人は、そのような構造及び/又は方法を先行技術として認定しない旨の説明をする権利を明確に有する。
【0004】
立方晶窒化ホウ素(cBN)の合成は、高圧かつ高温で、通常は60kBar以上の圧力かつ1350℃以上の温度で実施される。アルミニウム及びその合金は、多くの場合、いくらか低い圧力、例えば約45kBar〜75kBarの圧力での六方晶系窒化ホウ素(hBN)からcBNへの変態を触媒するのに使用される。結果生じるcBN粉末(すなわち、多結晶質cBN)の成形体は、cBN粒子間に直接ボンディングが存在して硬く強靭な固体の塊を形成しており、例えば金属の機械加工において有用である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多結晶質cBN(PCBN)の成形体は、成形体を硬く強靭な状態にするため、高含有量(例えば約60vol%超)のcBNで製造されている。しかしながら、幾つかの機械加工の用途では、そのような成形体は良い性能を示さないことが見出されている。例えば、硬い(例えば、50HRc超)鋼鉄又は圧縮黒鉛鉄(CGI)を加工する場合、工具先端で起きた摩擦によって生み出された熱は、工具先端の温度を1000℃超まで上昇させることがある。この高温がcBNからその六方晶への結晶学的形態の後方変換を促進させると考えられ、早い摩耗及びPCBN工具の故障をもたらす。これは通常「化学摩耗」と呼ばれており、cBNの量を、例えば約50vol%未満まで減らし、それを従来の耐熱性セラミック、例えばAl23、TiN、Si34等に置き換えることで軽減することができる。しかし、これらの従来のセラミックは硬度が低く一般にかなりもろいので、組成中にそれらの材料を含むPCBN成形体は、機械加工の用途において破損によってより故障しやすい傾向にある。
【0006】
添加剤は、例えばジルコニア(ZrO2)を15vol%まで加えることによりアルミナ(Al23)セラミック成形体の破壊靱性を向上させることが考えられている。セラミックホイスカー、例えばSiCホイスカーもまたホットプレスアルミナセラミックに加えられている。
【0007】
最近では、グラフェン(すなわち、個々の原子層のグラファイトシートが分離されているナノスケールのグラファイト粒子)が、1.5vol%までのグラフェンを加えることにより窒化ケイ素(Si34)セラミックの破壊靱性を強化することについて研究されている。しかしながら、Si34材料は放電プラズマで焼結され、方法はPCBN成形体の形成には適用できなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つの実施態様において、切削工具の製造における使用のための焼結された成形体であって、該焼結された成形体が約10vol%〜約90vol%の立方晶窒化ホウ素、及び約0.1vol%〜約10vol%の単層又は複層のナノスケール材料を含む結合相を含む、焼結された成形体を記載する。
【0009】
別の実施態様において、切削工具の製造における使用のための焼結された成形体の製造方法を記載する。この方法は、約10vol%〜約90vol%の立方晶窒化ホウ素及び約0.1vol%〜約10vol%の単層又は複層のナノスケール材料を有する粉末ブレンドを混合する工程、該粉末ブレンドをプレスして錠剤にする工程、並びに該錠剤を高温かつ高圧で焼結させる工程を含む。
【0010】
別の実施態様において、焼結された切削工具であって、約10vol%〜約90vol%の立方晶窒化ホウ素、並びに従来のセラミック材料、例えばアルミナ、窒化チタン又は窒化ケイ素等を含み、かつ約0.1vol%〜約10vol%の単層又は複層のナノスケール材料を含む結合相を含み、該単層又は複層のナノスケール材料が約2.0%未満の酸素含有量を有する、焼結された切削工具を記載する。
【0011】
上述の一般的な説明及び以下の詳細な説明はいずれも例示的でかつ説明的なものであり、特許請求の範囲に記載される発明のさらなる説明を提供することを意図するものと解されるべきである。
【0012】
以下の詳細な説明は、同様の数字が同様の構成要素を示す添付図面と関連付けて読むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】耐摩耗性試験から測定した、他の焼結された立方晶窒化ホウ素切削工具と比較した典型的な実施態様の工具性能のグラフを示す。
図2】他の焼結された立方晶窒化ホウ素切削工具と比較した典型的な実施態様の衝撃靱性についての工具試験結果を示す。
図3】典型的な実施態様の代表的なX線回折パターンを示す。
図4】幾つかの典型的な実施態様において使用したグラフェンのラマンスペクトルを示す。
図5】典型的な実施態様の代表的なラマンスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の方法、システム、及び材料を記載するに当たり、本開示は、記載される特定の方法論、システム、及び材料に制限するものではなく、これらは変更可能であるということが理解されるべきである。また、本記載において使用される専門用語は、特定の変形態様又は実施形態のみを記載することを目的とするものであり、特許請求の範囲を限定することを意図したものではないことも理解されるべきである。例えば、ここで使用される単数形(「a」、「an」及び「the」)は、文脈が明確に他の意味を示さない限り、複数の意味を含む。更に、ここで使用される「含む」という語は、「含むが、これに限られない」を意味するものである。別段の定めがない限り、ここで使用される全ての技術的及び科学的な用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0015】
他に示されていない限り、明細書及び特許請求の範囲で使用される成分、特性、例えばサイズ、重さ、反応条件などの量を表現する全ての数は、全ての場合において「約」という用語によって修飾されているものとして理解されるべきである。従って、そうでないと示されない限り、以下の明細書及び添付した特許請求の範囲に記載される数値パラメータは、概算値であり、発明によって見出される所望の性質に依存して変更可能である。少なくとも、均等論の適用を特許請求の範囲に制限することを意図せず、各数値パラメータは、報告された有効数字の数に照らし、通常の丸み付け技術を適用することによって解釈されるべきである。
【0016】
ここで使用される「約」という用語は、使用される数値のプラス又はマイナス10%を意味する。従って、約50%は45%〜55%の範囲を意味する。
【0017】
ここで使用される「超砥粒粒子」という語は、5000KHN以上のヌープ硬度を有する超硬粒子を意味することができる。超砥粒粒子としては、例えばダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素を挙げることができる。
【0018】
ここで使用される「グラフェン」という語は、黒鉛状炭素の形態であって、炭素原子が二次元六方格子に配置されており、1原子層と同程度の薄さ(<1nm)であることができる形態を意味する。これらの層は複層にスタックされたシートとして存在してもよい。グラフェン粒子は、厚さ(z軸)がおよそ100nm(ナノメートル)であることができる一方で、「x」及び「y」寸法がおよそ100μm(ミクロン)であることができるように非常に高いアスペクト比を有する。材料の酸素含有量は約1.0%〜約5.0%、ある幾つかの実施態様においては約1.2%〜約2.0%、ある幾つかの実施態様においては約1.4%であることができる。
【0019】
六方晶系窒化ホウ素(hBN)は、グラファイトと類似する原子構造を有し、「ホワイトグラフェン」として知られるグラフェンの類似体を形成することができる。ホワイトグラフェンは、構造的にグラフェンと類似する単層又は複層のシートで形成することができる。ホワイトグラフェンは、立方晶窒化ホウ素粒子と混合され、HPHTで焼結された場合に類似の有利な性質を示すことができる。それゆえ、ここで記載する例は、特にグラフェンに関し説明しているが、ホワイトグラフェンを使用する類似の例を実施することができる。
【0020】
他の材料、例えばMXeneは、またグラフェンと類似しており、一般化学式Mn+1nを有し、式中、Mは第4族又は5族の遷移金属であり、XはC又はNである。例としてはTi2C又はTi3CNが挙げられる。それらは2次元の金属カーバイド又は金属炭窒化物のシートとして記載することができる。それゆえ、ここで記載する例は、特にグラフェンに関し説明しているが、MXeneを使用する類似の例を実施することができることが想定される。
【0021】
炭素をグラフェンの形態で工具中に組み込むことにより、現在入手可能な材料で作られた切削工具よりも高速で操作することができ、かつ長持ちすることができる立方晶窒化ホウ素(cBN)切削工具を記載する。立方晶窒化ホウ素切削工具中の少量のセラミックをグラフェンに置き換えるだけでも、工具の破壊靭性は向上し、向上した切削性能及び寿命を有する材料をもたらす。組成パラメーターが最適化されるならば、均一性を高める粉末ブレンド法、例えば超音波混合、磨砕機混合及び噴霧乾燥を使用することにより、この向上はさらに増進される。
【0022】
1つの典型的な実施態様において、切削工具は、約10vol%〜約90vol%の立方晶窒化ホウ素及び結合相を含み、該結合相が約0.1vol%〜約10vol%の単層又は複層のナノスケール材料を含む、焼結された成形体を含む。幾つかの典型的な実施態様において、成形体は約30vol%〜約80vol%の立方晶窒化ホウ素を含み、結合相は約1vol%〜約3vol%の単層又は複層のナノスケール材料を含む。単層又は複層のナノスケール材料はグラフェン、Mxene、ホワイトグラフェンのうちの少なくとも1種を含む。1つの実施態様において、Angstron Materials,Dayton,Ohio,USAにより製造されるグラフェン(製品番号N008−100−P−10)を使用した。結合相はまた、例えばAl23、Si34、TiN、TiC、TiCN又はこれらの混合物を含むことができる。幾つかの実施態様において、立方晶窒化ホウ素は約20ミクロン未満の粒径を有する。
【0023】
特定の鋳鉄合金、例えば圧縮黒鉛鉄(CGI)又はダクタイル鉄の機械加工は、機械加工プロセス中に生み出される高い摩擦熱のために困難である。摩擦による工具先端の発熱(しばしば1000℃を超える)は、高cBN含有PCBN工具(一般的に約60vol%超のcBNを有する)を、cBNと鉄との化学反応により速く摩耗させる。cBNをより不活性のセラミック、例えばアルミナに置き換えることで、熱によるこの問題を軽減することができるが、低減された破壊靭性という犠牲を払うこととなる。cBN含有量が約40%を大きく下回る場合、摩耗は脆性破壊により支配される。それゆえ、低cBN含有量を有するが、優れた破壊靭性特性を有するPCBN工具を提供するニーズが存在する。
【0024】
理論に縛られることを望まないが、グラフェンが強化剤として働いてセラミック相中の亀裂の伝播を阻むと仮定する。cBNの組成に加えてグラフェンの量から形成される工具はその結果、破壊靭性を向上させることにより性能を向上させることができる材料を組み込むことにより、現在入手可能な材料よりも高速で操作することができ、かつより長持ちすることができる。
【0025】
次の実験の説明において、特定の供給源及び設備は例示的なもので、実施例を説明するものであって、説明するパラメータに限定すること、あるいは縛られることを意図するものではない。他の適した供給源及び装置を、特許請求の範囲で定義された発明の範囲内において使用することができる。
【実施例】
【0026】
[実験手順−ブレンド]
グラフェン(Angstron Materials,Dayton,Ohio,USAにより製造される(製品番号N008−100−P−10))をcBN母材に組み込んで、幾つかの工具を製造した。磨砕ミルを使用して粉末ブレンドとイソプロパノールとを、250ml容量のジャー中でWC磨砕媒体とともに、200rpmで10分間混合した。結果生じたスラリーをオーブン中で、空気中で数時間乾燥し、次いで40網目スクリーンを通過させた。3種の例示的な粉末ブレンドについての配合を表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
[実験手順−焼結体]
焼結された成形体を、従来法で粉末ブレンドをプレスして錠剤にすることにより製造した。立方晶窒化ホウ素は約20ミクロン未満の粒径を有していた。グラフェンは約2.0%未満の酸素含有量を有していた。錠剤を高圧セルに充填し、ベルトタイプの高圧高温(HPHT)装置でプレスし、約65kBarかつ約1500℃で約15分間焼結して成形体を製造した。幾つかの場合、焼結は約75kBar未満の圧力で約15〜30分の間実施することができる。他の幾つかの典型的な実施態様においては、焼結は約45kBarの圧力でかつ約1500℃の温度で約15〜30分の間実施することができる。
【0029】
焼結された成形体を、3.2mmの全厚まで研磨することにより仕上げ、次いで工具試験に適している0.004インチ(0.1mm)×30°面取り+0.001インチ(25ミクロン)のホーンである刃の形状を有する、正方形のCNGA−432工具インサートに切り分けた。
【0030】
[実験手順−機械加工試験]
機械加工試験を行い、耐摩耗性及び破壊靭性を下に示すように評価した。
【0031】
(1)耐摩耗性試験−8620浸炭鋼:耐摩耗性を表面硬度がHRc55〜63の範囲である8620鋼の上で評価した。一定の656sfm(200m/分)の表面速度、0.008ipr(0.2mm/回転)の供給量及び0.006インチ(0.15mm)の切削の深さを維持した。インサートの逃げ面摩耗を通過するたびに測定した。逃げ面摩耗が型の指定した摩耗限度である0.008インチ(0.2mm)に達した時、又は端部の破損が生じた時に試験を終了させた。工具寿命は型の指定した摩耗限度又は刃の先端の破損に達するまでに要した時間として定義した。
【0032】
(2)衝撃靱性試験−52100鋼、HRc60:衝撃抵抗(靱性)をHRc60であ52100鋼上で断続端面加工することにより測定した。断続はワークピースにおいて幅0.400インチ(10mm)×深さ0.840インチ(21mm)のスロットにより与えた。一定の394sfm(120m/分)の表面速度を維持しつつ、切削の深さ及び供給量を徐々に増加させた。失敗の基準は刃の先端の破損であった。もしインサートが失敗した場合、その供給量は失敗供給量であると決定した。
【0033】
(3)耐摩耗性試験(CGI):95%パーライト、10%小結節及び200〜220BHNを有する圧縮黒鉛鉄(CGI)試験シリンダー(145mm外径)を使用した。回転試験は、一定の1200SFMの表面速度、0.020インチの切削の深さ及び0.010iprの供給量で、冷却剤(5%Trim E206 Soluble Oil)を使用して行った。逃げ面摩耗を通過するたびに測定した。逃げ面摩耗が0.008インチに達した時、又は端部の破損が生じた時に試験を終了させた。
【0034】
インサート上の逃げ面摩耗並びにワークピース上の表面粗さRa及びRzを通過するたびに測定して記録した。逃げ面上の摩耗及びすくい面状の凹みを通過するたびに撮影して記録し、逃げ面摩耗が0.008インチ(0.2mm)に達した時、又は端部の破損が生じた時に試験を終了させた。工具寿命は指定した摩耗限度又は刃の先端の破損に達するまでに要した時間として定義した。各サンプルの3種の刃を試験した。
【0035】
図1は、耐摩耗性試験から測定した工具性能のグラフを示す。比較のため、標準的な工具材料「17X」もプロットする。実験工具の全ては標準よりも良好に機能する。特に、グラフェンを含有する工具127−1及び127−2はそれぞれ3倍〜4倍良好に機能する。しかしながら、グラフェンを含有しない工具128−1も標準的な工具と比較して非常に良好に機能することもわかる。表1を参照すると、全ての3種の実験工具は組成において非常に類似しており、唯一の違いはグラフェンの含有量であった。
【0036】
次に衝撃靱性試験(段落0032)の工具試験結果を見てみると、127−1及び128−2についての結果も、標準的な工具に対して図2にプロットしている。128−1は耐摩耗性試験においては非常に良好に機能した一方で、衝撃靱性の性能は標準と比較して50%未満であったことがわかる。しかしながら、グラフェンとともに配合された工具材料127−1は標準の2倍の性能を得た。衝撃靱性及び耐摩耗性の両方における良好な性能が、有用な工具材料においては望ましい。他方、試験の一方のみにおいて良好な結果が得られても、工具材料は実用的な用途には適していない。
【0037】
図3は、サンプル127−1の代表的なX線回折パターンを示す。図3のXRDパターンは、グラフェンのうちのいくらかが焼結プロセスを経てなお残り、焼結された成形体中に存在することを示す。特にXRDパターンはアルミナ、窒化ケイ素及びcBNについての強いピーク、並びにグラファイトに対応するより小さいピークの証拠となる。グラフェンはグラファイトと類似するXRDの特徴を有し、かつ焼結された成形体中に存在する他のグラファイト源は想定されないため、これらのグラファイトのピークはグラフェンの存在を示すという結論に達する。回折パターン中のピークはcBN、アルミナ、窒化ケイ素及び「グラファイト」を示すことができる。グラフェンについての標準的なXRDパターンは存在しないため、グラファイトのピークはグラフェンから生じる。
【0038】
これらのサンプル中にグラフェンが存在するというさらなる確証を得るため、ラマンスペクトル分析を行った。図4は、これらの実験で使用したグラフェンのラマンスペクトルを示す。グラフェンのラマンスペクトルは、1300cm-1付近を中心とした広いピーク及び1590cm-1付近におけるより鋭いピークとして表現することができることがわかる。
【0039】
サンプル127−1の代表的なラマンスペクトル(図5)は、グラフェンに対応するピークも見られることを示す。サンプルの異なる領域でとった2つのスペクトルは非常に類似しており、このことはサンプルが均一であることを示す。サンプルにおいて、幾つかの追加のピークが1050cm-1で、かつ鋭いピークが1300cm-1で観測され、これらはcBNのラマンスペクトルに対応する。
【0040】
これらの好ましい実施態様と関連付けて記載してきたが、特許請求の範囲に定義した発明の主旨及び範囲を逸脱することなく、特に記載していない追加、削除、変更及び置換をすることができるということが当業者により認識されよう。
図1
図2
図3
図4
図5