特許第6293704号(P6293704)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6293704
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】ガラスセラミックス焼結体及び配線基板
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/18 20060101AFI20180305BHJP
   C03C 10/04 20060101ALI20180305BHJP
   H01B 3/02 20060101ALI20180305BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   C04B35/18
   C03C10/04
   H01B3/02 A
   H05K1/03 610D
【請求項の数】3
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-108744(P2015-108744)
(22)【出願日】2015年5月28日
(65)【公開番号】特開2016-222479(P2016-222479A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2016年7月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】500480274
【氏名又は名称】スナップトラック・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100109830
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 淑弘
(74)【代理人】
【識別番号】100158805
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 守三
(72)【発明者】
【氏名】小更 恒
(72)【発明者】
【氏名】二俣 陽介
(72)【発明者】
【氏名】仁宮 恵美
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−313074(JP,A)
【文献】 特開2002−255645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
C03C 10/04
H01B 3/02
H05K 1/03
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス成分、セラミックスフィラー及び複合酸化物を含有するガラスセラミックス焼結体であり、
前記ガラス成分は、少なくともMg、Ca及びSiを含むディオプサイド型酸化物結晶相を析出する結晶化ガラスであり、
前記複合酸化物は、少なくともAl及びCoを含み、前記複合酸化物の含有量は、酸化物換算で0.05〜1.5質量%であり、前記セラミックスフィラーは、Alであることを特徴とするガラスセラミックス焼結体。
【請求項2】
前記複合酸化物は、さらにTiを含むことを特徴とする請求項1に記載のガラスセラミックス焼結体。
【請求項3】
絶縁基体と、配線導体とを有し、
前記絶縁基体が、請求項1〜2のいずれかに記載のガラスセラミックス焼結体からなることを特徴とする配線基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスセラミックス焼結体及びそれを用いた配線基板に関する。詳しくは、各種モジュール基板、半導体素子収納用パッケージ等に用いられるガラスセラミックス焼結体及び配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信の高速化に伴い、集積化したLSIや各種電子部品を搭載する配線基板においては、小型化や信頼性等の要求から、基板材料としてアルミナを用いたアルミナ基板や、ガラスセラミックスを用いた低温焼成基板等が使用されている。
【0003】
アルミナ基板は、強度が大きく、耐熱性に優れる等の利点を有するため、配線基板として占める割合が大きい。しかしながら、その一方で、比誘電率が大きいため伝送信号の遅延の原因になりやすいという、高周波化対応への問題点を有している。さらに、アルミナ基板は、焼成温度が1500℃以上と高いため、内層の配線に、融点が高いWやMo等の材料を使用しなければならないが、これらの材料は電気抵抗が大きいため、配線を微細化すると電気抵抗が大きくなるという問題点も有している。
【0004】
これに対し、ガラスセラミックス材料を用いた配線基板は、アルミナ基板に比べて、比誘電率を小さくでき、さらにCu、AgやAg−Pd等の低融点で低抵抗の金属材料を内層の配線に利用できるという利点から、その採用が増えつつある。
【0005】
ガラスセラミックス材料は、ガラス材料に骨材と呼ばれるアルミナ等のセラミックス材料とを混合し、焼成することによって製造される。このようなガラスセラミックス材料は、一般に、ガラス材料とセラミックス材料との組み合わせにより、焼成の際に相乗作用が働き、得られるセラミックス基板の特性(比誘電率、損失特性、熱膨張係数、焼成温度、抗析強度等)をコントロールできる。したがって、最良の組み合わせを発見し、常に一定の特性が出現されるような安定した組成や構造を見出すことが技術課題となっている。
【0006】
ところで、昨今、携帯電話や無線LAN等の高周波帯の周波数を利用する機器の増大と、それら機器における環境面からの省エネ対応の要求が高まりつつある。そのため、これらの機器に用いられる電子部品は、低損失化が求められており、特にマイクロ波やミリ波帯域において用いられる電子部品として、損失の小さな材料が求められている。
【0007】
そこで、上記のようなガラスセラミックス材料において、比誘電率が低く、誘電損失が小さい特性が得られるという観点から、ガラス材料として結晶化ガラスを用いることが注目されている。中でも、誘電損失が小さいという点で、CaMgSiで示されるディオプサイド型結晶相を主相とする結晶化ガラス材料が注目されている。
【0008】
このような結晶化ガラスは、焼成時に特定の結晶を析出するものであり、その結晶性を高めることで、ガラスセラミックス材料の誘電損失を低減できる。そのため、ガラスの結晶性を高めることは、ガラスセラミックス材料において低い誘電損失を実現するにあたり重要な要素となるが、ガラスの結晶性を高めるためには、高い熱量を与えることが有効な手段とされている。
【0009】
しかしながら、プロセス時の省エネルギーの観点からは、できるだけ、少ないエネルギー、すなわち、少ない熱量でガラスの結晶性を高めることが望まれている。また、配線基板における内部導体として、Agを用いる場合には、プロセス(特に焼成時)におけるガラス中への拡散を抑制する観点からも、できるだけ少ない熱量で処理できることが望まれている。
【0010】
また、昨今の使用周波数帯域の高周波化、例えば、ミリ波帯で使用されるケースが増えてきており、その場合には、波長が短くなることで、材料の誘電特性の変化が製品特性の変化に与える影響が強くなりつつある。このような観点からは、製造時における特性バラつきを小さくすることも重要となってきている。
【0011】
これらの問題を解決するために、ガラスセラミックス配線基板にディオプサイド型結晶相を主相とする結晶化ガラス材料を使って、さらに、各種の材料と組み合わせることで、誘電損失が小さい特性を実現することが提案されている。
【0012】
特許文献1では、ディオプサイド型結晶を析出する結晶化ガラス:40〜90質量%と、Al:6〜60質量%と、アルカリ土類金属の酸化物、炭酸塩及び水酸化物の中から選択される少なくとも1種以上を酸化物換算で0.1〜5質量%とすることで、誘電損失の小さな誘電体磁器が提案されている。しかしながら、このような特許文献1において開示されている酸化物を添加する技術では、誘電損失の低減効果が小さいばかりか、添加により焼結密度の低下等の問題がみられた。
【0013】
また、特許文献2では、焼成すると主結晶としてディオプサイド、コージェライト、又はフォルステライトを析出する性質を有する結晶性ガラス組成中にアニオン成分としてフッ素(F)を0.1〜3モル%含有することを特徴とする結晶性が高い、配線基板用ガラスセラミックス組成物提案されている。しかしながら、このような特許文献2に記載の技術では、添加材としてフッ素を用いるため、環境面への配慮の観点から、廃棄の際や製造時に問題があった。
【0014】
また、特許文献3では、ディオプサイド型結晶相を析出可能なガラス40〜99重量%と、フィラーとして少なくともγ−Alを1〜60重量%の割合で含有することを特徴とする高周波領域で小さい誘電損失を持つ、高周波用磁器が提案されている。しかしながら、このような特許文献3において開示されたγ―アルミナを添加する技術では、誘電損失の低減効果が十分なものではない。そのため、特許文献3の技術では、誘電損失を低減するために、900℃を超える温度域で長時間熱処理する必要があり、高い熱量を要するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許第4325920号公報
【特許文献2】特開2010−52953公報
【特許文献3】特許第3793559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、焼結密度を低下させることなく、高周波領域での誘電損失を低減したガラスセラミックス焼結体及びそれを用いた配線基板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、所定のディオプサイド型酸化物結晶相を析出する結晶化ガラスと共に、特定の複合酸化物を用いることにより、その目的を達成し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1] ガラス成分、セラミックスフィラー及び複合酸化物を含有するガラスセラミックス焼結体であり、
前記ガラス成分は、少なくともMg、Ca及びSiを含むディオプサイド型酸化物結晶相を析出する結晶化ガラスであり、
前記複合酸化物は、少なくともAl及びCoを含むことを特徴とするガラスセラミックス焼結体。
【0019】
[2] 前記複合酸化物は、さらにTiを含むことを特徴とする上記[1]に記載のガラスセラミックス焼結体。
【0020】
[3] 前記複合酸化物の含有量は、酸化物換算で0.05〜1.5質量%であることを特徴とする上記[1]または[2]に記載のガラスセラミックス焼結体。
【0021】
[4] 前記セラミックスフィラーは、Alであることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれかに記載のガラスセラミックス焼結体。
【0022】
[5] 絶縁基体と、配線導体とを有し、
前記絶縁基体が、上記[1]〜[4]のいずれかに記載のガラスセラミックス焼結体からなることを特徴とする配線基板。
【0023】
本発明によれば、高い焼結密度を有し、高周波領域にて誘電損失の小さなガラスセラミックス焼結体及びそれを用いた配線基板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明のガラスセラミックス配線基板の模式断面図である。
図2図2(S1)〜図2(S3)は、本発明の一実施形態に係るガラスセラミックス配線基板の製造方法のフローの一例を示す概略断面図である。
図3図3(s1)〜図3(s3)は、本発明の他の実施形態に係るガラスセラミックス基板の製造方法のフローの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係るガラスセラミックス焼結体は、ガラス成分、セラミックスフィラー及び複合酸化物を含有するガラスセラミックス焼結体であり、前記ガラス成分が少なくともMg、Ca及びSiを含むディオプサイド型酸化物結晶相を析出する結晶化ガラスであり、前記複合酸化物が少なくともAl及びCoを含むことを特徴とする。
【0026】
このようなガラスセラミックス焼結体は、実用可能な十分な焼結密度を持ち、誘電損失が小さく、特に1GHz以上の高周波領域にて誘電損失が小さい特性を有している。さらに、比較的少ない熱量で焼成してもその特性を実現することが可能であり、焼成条件(特に焼成時間)に対する特性変動が少なく、特性のバラつきを抑えることができる。
【0027】
本発明を実施するための形態について、以下、図面を参照しながら説明する。なお、図面において、共通する部材には共通する符号を付し、その説明は一部省略する。また、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施できる。さらに、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0028】
<第1実施形態>
以下、本発明に係るガラスセラミックス焼結体を用いたガラスセラミックス配線基板とその製造方法を例に、本発明の一形態について説明する。
【0029】
図1は、本実施形態のガラスセラミックス配線基板101の模式断面図である。図1においては、基板内に任意のピッチで配置された回路を構成する基本構造体の一つについて、中央付近の断面図を示してある。
【0030】
図1に示すように、ガラスセラミックス配線基板101は、ガラスセラミックス焼結体1で構成してある絶縁基体(絶縁層1a〜1d)と、配線導体(ビア導体3、実装用表面端子4、内部導体層5及び表面導体層6)とを有する。すなわち、ガラスセラミックス配線基板101は、図1中で上下に隣り合う絶縁層1a〜1dの間に所定パターンで設けられた内部導体層5と、最外層である絶縁層1a、1dの外表面に設けられた表面導体層6と、実装用表面端子4とを有する。さらに、ガラスセラミックス配線基板101は、絶縁層1a〜1dを貫通して、異なる層位置に存在する内部導体層5の相互間あるいは表面導体層6と内部導体層5とを接続するビア導体3を有する。
【0031】
なお、図1に示す実施形態のガラスセラミックス配線基板101では、ビア導体3は、異なる層位置に存在する内部導体層5の相互間あるいは表面導体層6と内部導体層5とを接続しているが、本発明は、それに限定されない。
【0032】
また、図1に示す各絶縁層1a〜1dは、単一のグリーンシートを焼成して得られるものでもよく、あるいは複数のグリーンシートの積層体を焼成して得られるものでもよい。また、絶縁層1a〜1dの積層数は、図示する実施形態に限定されない。
【0033】
また、ガラスセラミックス配線基板101の外形や寸法には特に制限はなく、用途に応じて適宜設定することができ、通常、外形はほぼ直方体形状とし、寸法は通常、縦(50〜200)mm×横(50〜200)mm×厚み(0.2〜1.5)mm程度である。
【0034】
上述の絶縁層1a〜1dは、本発明の一実施形態に係るガラスセラミックス焼結体1で構成されている。
【0035】
すなわち、本実施形態に係るセラミックス焼結体は、ガラス成分、セラミックスフィラー及び複合酸化物を含有するガラスセラミックス焼結体であり、前記ガラス成分が少なくともMg、Ca及びSiを含むディオプサイド型酸化物結晶相を析出する結晶化ガラスであり、前記複合酸化物が少なくともAl及びCoを含むことを特徴とする。
【0036】
このようなガラスセラミックス焼結体は、実用可能な十分な焼結密度を持ち、誘電損失が小さく、特に1GHz以上の高周波領域にて誘電損失が小さい特性を有している。さらに、少ない熱量での焼成条件でその特性を実現することが可能であり、焼成条件(特に焼成時間)に対する特性変動が少なく、特性のバラつきを抑えることができる。
【0037】
このようなガラスセラミックス焼結体は、高周波領域にて小さな誘電損失を持ち、1000℃以下の低温にて焼成できる。そのため、このようなガラスセラミックス焼結体によれば、Ag等の低抵抗金属による導体層を形成することができ、マイクロ波やミリ波が使用される各種モジュールや半導体素子等が実装されるパッケージに好適なガラスセラミックス配線基板が得られる。
【0038】
しかも、このようなガラスセラミックス焼結体によれば、製造工程中での特性バラつきを低減できると共に、十分な焼結密度を確保できるため、強度低下等の信頼性状の問題も生じない。
【0039】
さらに、このようなガラスセラミックス焼結体は、比較的少ない熱量でも、高い結晶状態で焼成可能なことから、Ag等の低抵抗金属のガラス中への拡散等も軽減でき、特性上の変動の少ない配線基板を実現できる。
【0040】
以下、本実施形態に係るガラスセラミックス焼結体について詳細に説明する。
(ガラス成分)
本実施形態に係るガラスセラミックス焼結体に含まれるガラス成分は、少なくともMg、Ca及びSiを含むディオプサイド型酸化物結晶相を析出する結晶化ガラスである。このようなディオプサイド型結晶相を主相とするガラス成分は、高周波領域において、セラミックス焼結体の誘電損失を小さくする。
【0041】
ここで、ディオプサイド型酸化物結晶相を析出する結晶化ガラス(以下、「ディオプサイド結晶化ガラス」ということがある)とは、焼成によって主結晶としてディオプサイド結晶を析出するガラスである。
【0042】
本実施形態に係るディオプサイド結晶化ガラスは、少なくともMg、Ca及びSiを含み、好ましくは、さらにAl、Cu、Sr、Zn及びTiからなる群から選択される1種以上を含む。なお、本実施形態に係るディオプサイド結晶化ガラスは、誘電損失等の特性を損なわない範囲で、上記以外の成分を含んでいてもよい。
【0043】
本実施形態に係るディオプサイド結晶化ガラスにおいて、Mgはディオプサイド結晶の構成成分である。Mgの含有量は、ディオプサイド結晶化ガラス全量に対し、MgO換算で、好ましくは11〜30質量%であり、より好ましくは12〜25質量%である。Mgの含有量が少なすぎると結晶が析出し難くなる傾向にあり、多すぎると製造時におけるガラス化が困難になる傾向にある。
【0044】
本実施形態に係るディオプサイド結晶化ガラスにおいて、Caはディオプサイド結晶の構成成分である。Caの含有量は、ディオプサイド結晶化ガラス全量に対し、CaO換算で、好ましくは20〜35質量%であり、より好ましくは25〜30質量%である。Caの含有量が少なすぎると誘電損失が高くなる傾向にあり、多すぎると製造時におけるガラス化が困難になる傾向にある。
【0045】
本実施形態に係るディオプサイド結晶化ガラスにおいて、Siはガラスのネットワークフォーマーであるとともに、ディオプサイド結晶の構成成分である。Siの含有量は、ディオプサイド結晶化ガラス全量に対し、SiO換算で、好ましくは40〜65質量%であり、より好ましくは45〜65質量%である。Siの含有量が少なすぎるとガラス化が困難になる傾向にあり、多すぎると密度が低くなる傾向にある。
【0046】
本実施形態に係るディオプサイド結晶化ガラスにおいて、Alはガラスの結晶性を調節する成分である。Al含有量は、ディオプサイド結晶化ガラス全量に対し、Al換算で、好ましくは0.5〜10質量%であり、より好ましくは1〜5質量%である。Alの含有量が少なすぎると結晶性が強くなりすぎてガラス成形が困難になる傾向にあり、多すぎるとディオプサイド結晶が析出し難くなる傾向にある。
【0047】
ディオプサイド結晶化ガラスにおいて、CuはAgに電子を与え、ガラスセラミックス中への拡散を抑制する成分である。Cuの含有量は、ディオプサイド結晶化ガラス成分全量に対し、CuO換算で、好ましくは0.01〜1.0質量%である。Cuの含有量が少なすぎると上述の効果が十分に発揮されない傾向にあり、多すぎると誘電損失が大きくなりすぎる傾向にある。
【0048】
ディオプサイド結晶化ガラス成分において、Sr、Zn及びTiはガラス化を容易にするための成分である。各成分の含有量は、ディオプサイド結晶化ガラス成分全量に対し、それぞれSrO、ZnO及びTiO換算で、好ましくは0〜10質量%であり、より好ましくは0〜5質量%である。これらの成分の含有量は、それぞれ多すぎると結晶性が弱くなり、ディオプサイドの析出量が少なくなって誘電損失が大きくなる傾向にある。
【0049】
また、本実施形態において、ガラス成分の含有量は、ガラスセラミックス焼結体全体に対して、好ましくは55〜85質量%であり、より好ましくは65〜80質量%である。ガラス成分の含有量を上記範囲とすることで、機械的強度の向上が可能となる。
【0050】
(セラミックスフィラー)
本実施形態に係るガラスセラミックス焼結体に含まれるセラミックスフィラーは、特に限定されるものではないが、例えば、アルミナ、マグネシア、スピネル、シリカ、ムライト、フォルステライト、ステアタイト、コージェライト、ストロンチウム長石、石英、ケイ酸亜鉛、ジルコニア及びチタニアからなる群より選ばれる少なくとも一種の材料によって形成されたセラミックスフィラー等が挙げられる。なお、本実施形態に係るセラミックスフィラーは、誘電損失等の特性を損なわない範囲で、上記以外の成分を含んでいてもよい。
【0051】
本実施形態において、セラミックスフィラーは、機械的強度の向上及び誘電特性の調整に寄与するものである。
【0052】
セラミックスフィラーの形状は、特に限定されるものではなく、板状や球状、不定形状のもの等を用いることができる。また、セラミックフラーの平均粒径についても、特に限定されるものではないが、好ましくは2〜10μmであり、より好ましくは2〜5μmである。
【0053】
さらに、本実施形態においては、セラミックスフィラーは、アルミナフィラー(Al)であることが好ましく、さらに好ましくは板状アルミナフィラーで構成されていること望ましい。
【0054】
また、本実施形態において、セラミックスフィラーの含有量は、ガラスセラミックス焼結体全体に対して、好ましくは20〜40質量%であり、より好ましくは25〜35質量%である。セラミックスフィラーの含有量を上記範囲とすることで、空孔等の欠陥の無い焼結性に優れた焼結体の実現が可能となる。
【0055】
(複合酸化物)
本実施形態に係るガラスセラミックス焼結体に含まれる複合酸化物は、少なくともAl及びCoを含む複合酸化物である。このような複合酸化物は、ディオプサイド型結晶相を主相とするガラス成分の結晶化を促進し、ガラスセラミックス焼結体の誘電損失の低減に寄与する。
【0056】
本実施形態に係る複合酸化物は、好ましくは、さらにTiを含む。なお、本実施形態に係る複合酸化物は、誘電損失等の特性を損なわない範囲で、上記以外の成分を含んでいてもよい。上記以外の成分としては、例えば、MnやCuなどが挙げられる。また、複合酸化物は、不可避的に含まれる場合を除き、実質的にFeを含まないことが好ましい。
【0057】
本実施形態に係る複合酸化物におけるAlの含有量は、複合酸化物全量に対し、Al換算で、好ましくは3〜70質量%であり、より好ましくは5〜50質量%である。
【0058】
本実施形態に係る複合酸化物におけるCoの含有量は、複合酸化物全量に対し、CoO換算で、好ましくは10〜50質量%であり、より好ましくは14〜45質量%である。
【0059】
本実施形態に係る複合酸化物におけるTiの含有量は、複合酸化物全量に対し、TiO換算で、好ましくは0〜80質量%であり、より好ましくは5〜25質量%である。
【0060】
さらに、本実施形態に係る複合酸化物におけるAl、Co、Tiの合計含有量は、複合酸化物全量に対し、上記各酸化物換算の合計で、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95〜100質量%である。上記範囲とすることで、誘電損失の低減効果が高まる。
【0061】
また、本実施形態において、少なくともAl及びCoを含む複合酸化物の含有量は、ガラスセラミックス焼結体全体に対して、好ましくは0を超え、2質量%以下であり、より好ましくは、0.05〜1.5質量%であり、さらに好ましくは0.2〜0.8質量%である。上記所定の複合酸化物の含有量を上記範囲とすることにより、ガラス成分に対する結晶化が有効に促進される共に、焼結性も良好となる。
【0062】
以上、本実施形態に係るガラスセラミックス焼結体を構成する成分として、所定のガラス成分、セラミックスフィラー及び所定の複合酸化物について説明してきたが、本実施形態に係るガラスセラミックス焼結体には、本発明の効果を妨げない範囲で、上記以外の成分を含有していてもよい。なお、その場合、上記以外の成分の含有量は、ガラスセラミックス焼結体全体の10質量%以下、さらには5質量%以下とすることが好ましい。上記以外の成分としては、アモルファスガラス成分や、上記以外の酸化物等が挙げられる。
【0063】
なお、本実施形態に係るガラスセラミックス焼結体中に含まれる各種成分の測定法は、従来から一般的に知られている方法を用いることができるが、例えば、蛍光X線分析装置(XRF)により分析する手法、試料を溶融して高周波結合プラズマ発光分析装置(ICP−AES)、もしくは、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)により分析する手法等により測定される。
【0064】
以上、本発明の一実施形態に係るガラスセラミックス配線基板101について好適な実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0065】
また、配線基板に備えられる絶縁基体(絶縁層)の枚数、及び配線導体(内層導体層及び表面導体層及びビア導体等)の構造や材質についても特に限定はない。例えば、配線導体の材質としては、Ag、Au、Cu、Pt、Ni等が挙げられる。
【0066】
(製造方法)
次に、本実施形態に係るガラスセラミックス配線基板の製造方法の好適な実施形態を、図面を参照して説明する。図2(S1)〜図2(S3)は、ガラスセラミックス配線基板の製造方法のフローを説明するための概略断面図である。特に、図2(S1)は、基板焼成前の各種パターンが形成されたガラスセラミックス配線基板用グリーンシートの模式断面図である。また、図2(S2)は、図2(S1)で準備されたガラスセラミックス配線基板用グリーンシートを積層した焼成前のガラスセラミックス配線基板用積層体の模式断面図である。さらに、図2(S3)は、図2(S2)を焼成することにより得られたガラスセラミックス配線基板の模式断面図である。
【0067】
本実施形態に係るガラスセラミックス配線基板は、従来のガラスセラミックス配線基板と同様に、まず、図2(S1)に示すように、ビア導体パターン3、内部導体パターン5及び表面導体パターン6の少なくとも一つが形成されたガラスセラミックス配線基板用グリーンシート11a〜11dを作製する。
【0068】
具体的には、以下のような方法により、グリーンシート10を作製し、各種導体パターン3、4、5及び6を形成する。
【0069】
[グリーンシートの作製]
まず、ガラスセラミックス焼結体を構成する成分の原材料として、少なくともガラス成分、セラミックスフィラー、及び複合酸化物を準備する。
【0070】
ガラス成分としては、少なくともMg、Ca及びSiを含むディオプサイド型酸化物結晶相を析出する結晶化ガラスを用いる。このようなディオプサイド結晶化ガラスは、さらに、Al、Cu、Sr、Zn及びTi等の成分を含んでいてもよく、誘電損失等の特性を損なわない範囲で、上記以外の成分を含んでいてもよい。
【0071】
本実施形態に係るディオプサイド結晶化ガラスは、少なくともMg、Ca及びSiを含み、好ましくは、さらにAl、Cu、Sr、Zn及びTiからなる群から選択される1種以上を含む。なお、本実施形態に係るディオプサイド結晶化ガラスは、誘電損失等の特性を損なわない範囲で、上記以外の成分を含んでいてもよい。
【0072】
本実施形態に係るディオプサイド結晶化ガラスにおいて、Mgはディオプサイド結晶の構成成分である。Mgの含有量は、ディオプサイド結晶化ガラス全量に対し、MgO換算で、好ましくは11〜30質量%であり、より好ましくは12〜25質量%である。Mgの含有量が少なすぎると結晶が析出し難くなる傾向にあり、多すぎると製造時におけるガラス化が困難になる傾向にある。
【0073】
本実施形態に係るディオプサイド結晶化ガラスにおいて、Caはディオプサイド結晶の構成成分である。Caの含有量は、ディオプサイド結晶化ガラス全量に対し、CaO換算で、好ましくは20〜35質量%であり、より好ましくは25〜30質量%である。Caの含有量が少なすぎると誘電損失が高くなる傾向にあり、多すぎると製造時におけるガラス化が困難になる傾向にある。
【0074】
本実施形態に係るディオプサイド結晶化ガラスにおいて、Siはガラスのネットワークフォーマーであるとともに、ディオプサイド結晶の構成成分である。Siの含有量は、ディオプサイド結晶化ガラス全量に対し、SiO換算で、好ましくは40〜65質量%であり、より好ましくは45〜65質量%である。Siの含有量が少なすぎるとガラス化が困難になる傾向にあり、多すぎると密度が低くなる傾向にある。
【0075】
本実施形態に係るディオプサイド結晶化ガラスにおいて、Alはガラスの結晶性を調節する成分である。Al含有量は、ディオプサイド結晶化ガラス全量に対し、Al換算で、好ましくは0.5〜10質量%であり、より好ましくは1〜5質量%である。Alの含有量が少なすぎると結晶性が強くなりすぎてガラス成形が困難になる傾向にあり、多すぎるとディオプサイド結晶が析出し難くなる傾向にある。
【0076】
ディオプサイド結晶化ガラスにおいて、CuはAgに電子を与え、ガラスセラミックス中への拡散を抑制する成分である。Cuの含有量は、ディオプサイド結晶化ガラス成分全量に対し、CuO換算で、好ましくは0.01〜1.0質量%である。Cuの含有量が少なすぎると上述の効果が十分に発揮されない傾向にあり、多すぎると誘電損失が大きくなりすぎる傾向にある。
【0077】
ディオプサイド結晶化ガラス成分において、Sr、Zn及びTiはガラス化を容易にするための成分である。各成分の含有量は、ディオプサイド結晶化ガラス成分全量に対し、それぞれSrO、ZnO及びTiO換算で、好ましくは0〜10質量%であり、より好ましくは0〜5質量%である。これらの成分の含有量は、それぞれ多すぎると結晶性が弱くなり、ディオプサイドの析出量が少なくなって誘電損失が大きくなる傾向にある。
【0078】
なお、ガラス成分は、上記結晶化ガラスのうち1種類を単独で用いてもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよく、本発明の効果を妨げない範囲内であれば、上記結晶化ガラスと、その他のガラス(結晶化ガラスも含む)を併用してもよい。いずれの場合も、市販のものや生成したものを用いることができる。
【0079】
セラミックスフィラーとしては、特に限定されるものではなく、公知の材料を用いることができる。例えば、アルミナ、マグネシア、スピネル、シリカ、ムライト、フォルステライト、ステアタイト、コージェライト、ストロンチウム長石、石英、ケイ酸亜鉛、ジルコニア及びチタニアからなる群より選ばれる少なくとも一種の材料によって形成されたセラミックスフィラー等が挙げられ。なお、本実施形態に係るセラミックスフィラーは、誘電損失等の特性を損なわない範囲で、上記以外の成分を含んでいてもよい。
【0080】
また、セラミックスフィラーの形状は、特に限定されるものではなく、板状や球状、不定形状のもの等を用いることができる。また、セラミックフラーの平均粒径についても、特に限定されるものではないが、好ましくは2〜10μmであり、より好ましくは2〜5μmである。
【0081】
さらに、本実施形態では、セラミックスフィラーとして、アルミナフィラー(Al)を用いることが好ましく、さらに好ましくは板状アルミナフィラーを用いることが好ましい。
【0082】
なお、セラミックスフィラーは、誘電損失等の特性を損なわない範囲で、上記以外の成分を含んでいてもよく、単独または組み合わせて用いてもよい。いずれの場合も市販のものや生成したものを用いることができる。
【0083】
複合酸化物としては、少なくともAl及びCoを含む複合酸化物を用いる。
このような複合酸化物は、さらに、TiやMn、Cu等の成分を含んでいてもよく、誘電損失等の特性を損なわない範囲で、上記以外の成分を含んでいてもよい。
【0084】
また、AlやCoOのような所定の複合酸化物の構成成分に対応する酸化物であっても、これらを単独で用いた場合には、Al及びCoを含む複合酸化物得られるガラスセラミックス焼結体において、は観察されない。
【0085】
本実施形態に係る複合酸化物におけるAlの含有量は、複合酸化物全量に対し、Al換算で、好ましくは3〜70質量%であり、より好ましくは5〜50質量%である。
【0086】
本実施形態に係る複合酸化物におけるCoの含有量は、複合酸化物全量に対し、CoO換算で、好ましくは10〜50質量%であり、より好ましくは14〜45質量%である。
【0087】
本実施形態に係る複合酸化物におけるTiの含有量は、複合酸化物全量に対し、TiO換算で、好ましくは0〜80質量%であり、より好ましくは5〜25質量%である。
【0088】
さらに、本実施形態に係る複合酸化物におけるAl、Co、Tiの合計含有量は、複合酸化物全量に対し、上記各酸化物換算の合計で、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95〜100質量%である。
【0089】
なお、複合酸化物は、上記複合酸化物のうち1種類を単独で用いてもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよく、本発明の効果を妨げない範囲内であれば、上記複合酸化物と、その他の複合酸化物とを併用してもよい。いずれの場合も、市販のものや生成したものを用いることができる。
【0090】
また、本実施形態において、複合酸化物は、Al及びCoを含む複合酸化物として用いることに意味がある。したがって、当該複合酸化物の構成成分に対応するAlやCoO、TiOのような単独の酸化物の形で、上記他の原材料(所定の結晶化ガラス等)とともに添加しても、本発明に係るガラスセラミックス焼結体は得られず、本発明のような作用効果も得られない。
【0091】
すなわち、原材料として、Al及びCoを含む複合酸化物に代えて、AlやCoO等の酸化物を組み合わせて用いた場合であっても、得られるガラスセラミックス焼結体において、Al及びCoを含む複合酸化物が形成されることはない。AlやCoO等の酸化物は、上記所定の複合酸化物の構成成分に対応する酸化物であるが、これらを単独で用いても、後述するガラスセラミックス焼結体の焼成温度では、これらの酸化物が複合酸化物に変化するほどの化学反応は起こらないためである。
【0092】
そのため、本実施形態に係る製造方法では、予め所定の組成となるように合成された複合酸化物を用いることが望ましい。
【0093】
例えば、上記所定の複合酸化物を、作製(生成)する場合には、次のような製造プロセスに従うことで行うことができる。すなわち、製造プロセスは、混合工程、仮焼成工程、粉砕工程、乾燥工程とから構成されるものである。以下、具体的に説明する。
【0094】
まず、主成分の原料粉末を所定量秤量し、これらを混合する(混合工程)。原料粉末としては、各構成元素(例えば、Al、Co及びTi等)の酸化物粉末の他、加熱により酸化物となる化合物、例えば炭酸塩、水酸化物、蓚酸塩、硝酸塩等の粉末を用いることができる。この場合、1種類の金属の酸化物(化合物)に限らず、例えば2種類以上の金属を含む酸化物化合物の粉末を原料粉末としてもよい。各原料粉末の平均粒径は、0.1μm〜5.0μmの範囲内で適宜選択すればよい。
【0095】
混合方法としては、例えばボールミルによる湿式混合等を採用することができ、混合の後、乾燥、粉砕、篩いかけをし、仮焼成工程を行う。仮焼成工程では、例えば電気炉等を用い、800℃〜1300℃の温度範囲で所定時間保持し、仮焼を行う。このときの雰囲気は、特に規定されず、任意であるが望ましくは酸化雰囲気で行うことが好ましい。また、仮焼における保持時間は、0.5〜5.0時間の範囲で適宜選択すればよい。
【0096】
仮焼後、粉砕工程において、仮焼体を例えば平均粒径0.5μm〜2.0μm程度になるまで粉砕する。粉砕手段としては、例えばボールミル等を用いることができる。
【0097】
粉砕後、乾燥工程にて微粉砕粉末を乾燥させる。乾燥方法としてはスプレードライヤー等を用いることができる。このようにして作製された複合酸化物を出発原料として用いることができる。
【0098】
次に、上記の原材料を、製造するガラスセラミックス焼結体の組成比率に応じて秤量し、混合し、原材料粉末とする。
【0099】
本実施形態において、ガラス成分の添加量は、原材料粉末100質量%中に、好ましくは55〜85質量%、より好ましくは65〜75質量%とする。
【0100】
また、セラミックスフィラー成分の含有量は、原材料粉末100質量%中に、好ましくは20〜40質量%、より好ましくは25〜35質量%とする。
【0101】
さらに、上記所定の複合酸化物の含有量は、原材料粉末100質量%中に、好ましくは0質量%を超え、2質量%以下、より好ましくは0.05〜1.5質量%、さらに好ましくは0.2〜0.8質量%とする。当該複合酸化物の含有量が多すぎると、ガラス全体が十分な流動状態になる前に、部分的な結晶化が開始してしまい、焼結性の低下、具体的には内部の空孔の増加を招き、特性の低下だけではなく、空孔の影響による信頼性の低下などの問題が起こる可能性が考えられる。
【0102】
本実施形態において、混合を行う方法は、特に限定されないが、例えば、水や有機溶媒、必要に応じて結合剤や可塑剤、分散剤等を添加し、ボールミル等を使用し、湿式混合により行うことができる。このようにして上記原材料の混合物(原材料粉末)を塗料化して、グリーンシート用ペーストを調整する。
【0103】
グリーンシート用ペーストは、上記原材料粉末と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。溶媒や添加剤の添加量は、特に制限はなく、通常の添加量とすればよく、用いる混合装置や、後工程において形成するシートの膜厚等に応じて、適宜選択することができる。
【0104】
例えば、有機ビヒクルを用いる場合には、上記グリーンシート用ペースト中の有機ビヒクルの含有量は、原材料粉体100重量%に対して、結合剤は5〜15重量%程度、溶剤は50〜150重量%程度とすればよい。また、必要に応じて添加される各種分散剤や可塑剤等の添加物は、これらの総含有量で10重量%以下とすることが好ましい。
【0105】
なお、結合剤としては、例えば、ポリビニルブチラール樹脂及びメタアクリル酸樹脂等が挙げられる。可塑剤としては、例えば、フタル酸ジブチル等が挙げられる。溶剤としては、例えば、トルエン、メチルエチルケトン等が挙げられる。
【0106】
次に、得られたグリーンシート用ペーストを、ポリエチレンテレフタレート(PET)シート等の支持体上に成膜し、支持体上にグリーンシート10を形成する。
【0107】
成膜方法としては、ドクターブレード法、カレンダーロール等の成型方法が使用できる。
【0108】
[導体パターンの形成]
上述の方法により作製されたグリーンシート10を準備し、各種導体パターン(内部導体パターン15、表面導体パターン16、実装用の表面端子パターン14や、ビア導体パターン13等)を形成し、ガラスセラミックス配線基板用グリーンシート11a〜11dを作製する。
【0109】
具体的には、まず、図2(S1)に示すように、準備したグリーンシート10の所定の位置に貫通孔(ビアホール)を形成し、ここに導体ペーストを充填することによりビア導体パターン13を形成する。また、内層となるグリーンシート10の表面に所定のパターンで導体ペーストを印刷し、内部導体パターン15を形成する。さらに、最も外側に配置されるグリーンシート10には、表面導体パターン16及び実装用の表面端子パターン14を形成する。なお、グリーンシート10には、必要に応じて電子素子(インダクタやキャパシタ等)を形成してもよい。
【0110】
導体パターンの形成に用いる導電ペーストは、例えば、Ag、Ag−Pd合金、Cu、Ni等の各種導電性金属や合金からなる導電材料と有機ビヒクルとを混練することにより調製することができる。導電ペーストに用いられる有機ビヒクルは、バインダと溶剤とを主たる成分として含有する。バインダ、溶剤及び導電材料の配合比に特に制限はなく、例えば、導電材料に対して、バインダを1〜15質量%、溶剤を10〜50質量%配合することができる。導電ペーストには、必要に応じて各種分散剤や可塑剤等から選択される添加物を添加してもよい。
【0111】
次に、図2(S2)に示すように、ガラスセラミックス配線基板用グリーンシート11a,11b,11c及び11dをこの順で積層して、ガラスセラミックス配線基板用積層体21を形成する。
【0112】
その後、ガラスセラミックス配線基板用積層体21をプレスした後、ガラスセラミックス配線基板用積層体21中の有機ビヒクル等の成分を加熱大気雰囲気中で除去し、800〜1000℃の大気雰囲気中焼成して、図2(S3)に示すようなガラスセラミックス配線基板101を得る。
【0113】
このとき、焼成により、グリーンシート中では、CaMgSiで示されるディオプサイド型結晶相を析出され、緻密な低損失のガラスセラミックス焼結体が実現される。
【0114】
特に、本実施形態では、ガラス成分とともに添加された所定の複合酸化物が、ガラスの結晶化を促進する作用として働き、その結果として、誘電損失の低減を実現することで、高周波、特にマイクロ波用ガラスセラミックス焼結体を得ることができると考えられる。
【0115】
また、ビアホール内のビア導体パターン13はビア導体3となり、実装用の表面端子パターン14は実装用の表面端子4となり、内部導体パターン15は内部導体層5となり、表面導体パターン16は表面導体層6となる。
【0116】
さらに、場合によっては、めっきにより、金を表面導体パターン上に施してもよい。その際には、金めっきの下地としてニッケル、パラジウム等の金属を施してもよい。
【0117】
<第2実施形態>
次に、本発明に係るガラスセラミックス焼結体を用いたガラスセラミックス基板とその製造方法を例に、上記とは別の一形態を説明する。なお、以下に示す部分以外は、第1実施形態と同様な構成及び作用効果を有し、重複する記載は一部省略する。
【0118】
図3は、第2実施形態に係るガラスセラミックス基板の製造方法を説明するための断面図である。特に、図3(s1)は、焼成前のガラスセラミックス基板用グリーンシートの模式断面図である。また、図3(s2)は、図3(s1)で準備されたガラスセラミックス基板用グリーンシートを積層した焼成前のガラスセラミックス基板用積層体の模式断面図である。さらに、図3(s3)は、図3(s2)を焼成することにより得られたガラスセラミックス基板の模式断面図である。
【0119】
本実施形態では、まず、図3(s1)に示すようにグリーンシート10を用意する。具体的には、上述のグリーンシートの作製方法と同様とすればよい。次に、図3(s1)に示すように、ガラスセラミックス基板用グリーンシート12a,12b,12c及び12dの順で積層して、ガラスセラミックス基板用積層体22を得る。その後、ガラスガラスセラミックス基板用積層体22をプレスし、ガラスセラミックス基板用積層体22中の有機ビヒクル等の成分を加熱大気雰囲気中で除去し、焼成を行うことにより、図3(s3)に示すようなガラスセラミックス基板102を得る。
【0120】
本実施形態に係るガラスセラミックス基板102は、本発明のガラスセラミックス焼結体1により構成されている。
【0121】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこうした実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0122】
例えば、第2実施形態では、グリーンシートを積層し、ガラスセラミックス積層体を形成してガラスセラミックス基板を作製したが、必ずしもグリーンシートを積層する必要はなく、所定の厚みで形成されたグリーンシートを単板で焼成し、ガラスセラミックス基板としてもよい。
【実施例】
【0123】
以下、実施例及び比較例を参照して、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0124】
[複合酸化物の作製]
(製造例1)
Al、Co、TiO、MnO、Fe、CuOを用意し、仮焼、微粉砕後の組成比が表1に示す値となるようにそれぞれの原材料を秤量し、ボールミルを用いて湿式混合を16時間行った。得られたスラリーを十分に乾燥させた後、大気中、1100℃で2時間保持する仮焼を行い、仮焼体を得た。その後、仮焼体が平均粒径1.0μmになるまでボールミルにより微粉砕した後、微粉砕粉末を乾燥させ、組成A〜Hの複合酸化物粉末を得た。
【0125】
【表1】
【0126】
(実施例1〜8、比較例1〜6)
[ガラスセラミックス焼結体の作製]
ガラス粉末(SiO=50質量%、CaO=16質量%、MgO=20質量%、Al=5質量%となるディオプサイドを析出する結晶化ガラス粉末)、アルミナフィラー(平均粒径1.5μm)、及び製造例1で得られた複合酸化物粉末を準備し、各試料の組成比が表2に示す値となるように、それぞれの材料を秤量した。
【0127】
次に、アクリル系樹脂を19.4g、トルエンを59.1g、エタノールを3g、可塑剤(ブチルフタリルグリコール酸ブチル)を6.5g混合して、有機ビヒクルを調製した。
【0128】
そして、秤量したガラス粉末、アルミナフィラー及び所定の複合酸化物粉末と、調製した有機ビヒクルとを配合し、ボールミルを用いて24時間混合して、基板用グリーンシートを形成するための塗料を調製した。
【0129】
上述の基板用グリーンシート用塗料をポリエチレンテレフタレートフィルム上に、ドクターブレード法により成膜して基板用グリーンシートを形成した。なお、グリーンシートの厚みは、焼成後に50μmとなるように調整した。次にこれらを10枚重ねた後、74MPaでプレス後、大気中、900℃で30分、60分、120分の3条件で焼成し、ガラスセラミックス焼結体を作製した。
【0130】
[ガラスセラミックス焼結体評価]
次に、得られたガラスセラミックス焼結体について、組成、比誘電率、誘電損失、相対密度について評価した。結果を表2に示す。なお、各種評価項目については以下の方法にて評価した。
【0131】
[組成評価]
得られたガラスセラミックス焼結体の組成を分析した。組成分析は蛍光X線分析装置(XRF)による分析方法で行った。その結果、各焼結体の組成が仕込み組成(特に、表1および2の組成)と等しいことを確認した。
【0132】
[比誘電率及び誘電損失]
比誘電率ε及び誘電損失tanδについては、空洞共振器摂動法(JISC2565準拠)を使って2GHzでの特性を評価した。ガラスセラミックス焼結体を所定の形状に成型して評価を行った。具体的には、0.5×0.5×80mmの棒状に、焼結基板から切り出し、その切り出された棒状サンプルを特定の周波数(例えば、2GHz)で共振する空洞共振器に挿入することで測定を行った。また、その空洞共振器は、空洞共振器の共振ピークの状態を測定するためのアジレントテクノロジー(株)製ベクトルネットワークアナライザN5222aおよび解析のためのコンピューターに接続されており、それら一連のシステムにより、測定した。
【0133】
[相対密度]
焼結体の相対密度については、アルキメデス法により比重を測定(Sg)した後、以下の計算式により相対密度とした。
相対密度(%)=Sg/[(ガラスの比重×含有率(%))+(セラミックスフィラーの比重×含有率(%))+ (複合酸化物の比重×含有率(%))]
【0134】
【表2】
【0135】
表2に示されるように、所定の複合酸化物を添加した場合(実施例1〜8)は、誘電損失が3.5×10−4以下と小さくなり、損失特性の向上が確認された。また、20分程度の短い焼成時間でも、低い誘電損失が可能となっているばかりか、焼成時間を長くしても、特性の変化が小さく、焼成条件に対する感度が小さくなっており、結晶化ガラスにありがちな結晶状態の変化による特性変動が抑制された、安定した製造に好適な材料となっていた。
【0136】
これに対して、複合酸化物を添加しない場合(比較例1)は、誘電損失が3.5×10−4と大きいばかりか、焼成時間に対する変動も大きく、安定した製造には適さないことが確認できた。
【0137】
さらに、複合酸化物を添加した場合であっても、本発明の範囲外となる場合(比較例2〜6)は、全て誘電損失が3.5×10−4以上と大きく、焼成時間による特性変化も大きくなっており、製品特性上のバラつき増大が懸念される結果となっていた。
【0138】
(実施例9、比較例7)
ガラス粉末(SiO=50質量%、CaO=19質量%、MgO=22質量%、Al=1質量%、CuO=0.05質量%、SrO=8質量%となるディオプサイドを析出する結晶化ガラス粉末)、アルミナフィラー(平均粒径2.5μm)、及び製造例1で得られた複合酸化物粉末を準備し、各試料の組成比が表3に示す値となるように、それぞれの材料を秤量した以外は、実施例1と同様の方法で、ガラスセラミックス焼結体を作製、評価した。結果を表3に示す。
【0139】
【表3】
【0140】
表3に示すように、組成が異なる結晶化ガラス使用した場合であっても、同じ結晶系を持つ結晶化ガラスであれば、上記と同様の傾向がみられた。すなわち、所定の複合酸化物を添加した場合(実施例9)には、誘電損失の向上が確認された。
【0141】
(実施例10)
[ガラスセラミックス配線基板の作製]
ガラス粉末(SiO=50質量%、CaO=19質量%、MgO=22質量%、Al=1質量%、CuO=0.05質量%、SrO=8質量%となるディオプサイドを析出する結晶化ガラス粉末)、アルミナフィラー(平均粒径2.5μm)、及び製造例1で得られた複合酸化物粉末を準備し、組成比が表3の実施例9に示す値となるように、それぞれの材料を秤量した。
【0142】
次に、アクリル系樹脂を19.4g、トルエンを59.1g、エタノールを3g、可塑剤(ブチルフタリルグリコール酸ブチル)を6.5g混合して、有機ビヒクルを調製した。
【0143】
そして、秤量したガラス粉末、アルミナフィラー及び所定の複合酸化物粉末と、調製した有機ビヒクルとを配合し、ボールミルを用いて24時間混合して基板用グリーンシート用塗料を調製した。
【0144】
調製した基板用グリーンシート用塗料をポリエチレンテレフタレートフィルム上にドクターブレード法により成膜して基板用グリーンシートを複数形成した。なお、グリーンシートの厚みは焼成後に25μmとなるように調整した。
【0145】
その後、表層用のグリーンシートに、所望の回路に応じた、表層の導体用パターン(表面導体パターンや実装用の表面端子パターン)をスクリーン印刷により形成した。なお、本実施例においては、表面導体パターン及び実装用の表面端子パターンは、最も外側に配置される基板用グリーンシートに、所定のパターンで銀ペーストを印刷して形成した。
【0146】
また、表層用のグリーンシート以外のグリーンシートに関しても所望の回路に応じて、内層の導体パターン(内部導体パターンやビア導体パターン等)をスクリーン印刷により形成した。なお、本実施例においては、ビア導体パターンは、各基板用グリーンシートの所定の位置に貫通孔(ビアホール)を形成し、ここに銀ペーストを充填することにより形成した。また、内部導体パターンは、内層となる基板用グリーンシートの表面に所定のパターンで銀ペーストを印刷して形成した。
【0147】
次にこれらを所定の順序に重ねた後、74MPaでプレス後、大気中、900℃で2時間焼成し、図1に断面構造を示したビア導体3、表面端子4、内部導体5、表面導体6を含む多層構造のガラスセラミックス配線基板101を得た。
【0148】
なお、焼成後のガラスセラミックス配線基板の合計厚さは0.20mm、表面導体6が形成された最表層部の厚みは25μmであった。その後、表面導体上にニッケルを下地にした後、金めっきを施した。
【0149】
このようにして得られたガラスセラミックス配線基板は、高周波領域にて小さな誘電損失を持ち、Ag等の低抵抗金属を導体層に用いて、1000℃以下の低温にて焼成できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明によれば、ミリ波等の高周波帯域で使用可能な低損失化を実現するとともに、特性バラつきの少ないガラスセラミックス焼結体及びそのようなガラスセラミックス焼結体を備える配線基板を提供することができる。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[C1]
ガラス成分、セラミックスフィラー及び複合酸化物を含有するガラスセラミックス焼結体であり、
前記ガラス成分は、少なくともMg、Ca及びSiを含むディオプサイド型酸化物結晶相を析出する結晶化ガラスであり、
前記複合酸化物は、少なくともAl及びCoを含むことを特徴とするガラスセラミックス焼結体。
[C2]
前記複合酸化物は、さらにTiを含むことを特徴とする[C1]に記載のガラスセラミックス焼結体。
[C3]
前記複合酸化物の含有量は、酸化物換算で0.05〜1.5質量%であることを特徴とする[C1]または[C2]に記載のガラスセラミックス焼結体。
[C4]
前記セラミックスフィラーは、Alであることを特徴とする[C1]〜[C3]のいずれかに記載のガラスセラミックス焼結体。
[C5]
絶縁基体と、配線導体とを有し、
前記絶縁基体が、[C1]〜[C4]のいずれかに記載のガラスセラミックス焼結体からなることを特徴とする配線基板。
【符号の説明】
【0151】
1 ガラスセラミックス焼結体
1a〜1d 絶縁層
3 ビア導体
4 実装用の表面端子
5 内部導体層
6 表面導体層
10 グリーンシート
11a〜11d ガラスセラミックス配線基板用グリーンシート
12a〜12d ガラスセラミックス基板用グリーンシート
13 ビア導体パターン
14 実装用の表面端子パターン
15 内部導体パターン
16 表面導体パターン
21 ガラスセラミックス配線基板用積層体
22 ガラスセラミックス基板用積層体
101 ガラスセラミックス配線基板
102 ガラスセラミックス基板
図1
図2
図3