(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
骨部と軟部とを含む部位を表すビームハードニング補正処理済みの画像における個々の部分領域について、該部分領域周辺の複数位置における画素値と該部分領域からの距離とに基づいて、前記骨部によるビームハードニングの影響が該部分領域に対してどの程度あるかを表す第1の指標を求める第1の指標取得手段と、
前記部分領域に対する第1の指標を用いて、該部分領域に対する画素値の補正量を決定する決定手段と、
該部分領域の画素値を該部分領域に対する補正量に応じて補正する画素値補正手段と、
前記個々の部分領域について、該部分領域の画素値と前記軟部を表す画素値の基準値との差分を求める差分取得手段と、
前記個々の部分領域について、該部分領域を通る方向に対する前記第1の指標の変化と、該方向に対する前記差分の変化との間の相関の程度を表す第2の指標を求める第2の指標取得手段と、を備え、
前記決定手段は、前記部分領域に対する第2の指標に基づいて、該部分領域に対する画素値の補正量を決定する、画像処理装置。
前記第1の指標取得手段は、前記部分領域周辺の複数位置について該位置の画素値に応じて大きくなる第1の値と該部分領域から該位置までの距離に応じて大きくなる第2の値とを成分として含む値を前記第1の指標として求める、請求項1に記載の画像処理装置。
前記第1の指標取得手段は、前記部分領域周辺の複数位置について前記第1の値と前記第2の値との乗算値を求め、前記複数位置の各々について求められた前記乗算値の加算値を成分として含む値を前記第1の指標として求める、請求項2に記載の画像処理装置。
前記第1の指標取得手段は、前記部分領域周辺の複数位置について前記第1の値と前記第2の値との積を求め、前記複数位置の各々について求められた前記積の和を成分として含む値を前記第1の指標として求める、請求項3に記載の画像処理装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、骨部の大きさ、形状、密度などは個人差が大きく、たとえ同一人物であっても位置によってビームハードニング現象の態様は大きく変化する。そして、このようなビームハードニング現象の態様のバラつきは補正結果に影響を与え、場所によっては補正不足や過補正が生じる。
【0006】
例えば、頭部の骨部と軟部組織との境界に着目すると、補正処理が不十分で他の領域に比べてCT値が高く(白く)表現される領域とそうでない領域とが混在しバラつくことがある。このように、ビームハードニング・アーチファクトは、個人差があるだけでなく、同一画像内であっても補正が十分な領域もあるし不十分な領域もあるといったバラつきが存在する。
【0007】
このような事情により、放射線断層像においてビームハードニング補正による補正結果のバラつきを低減することが可能な技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の観点の発明は、
骨部と軟部とを含む部位を表すビームハードニング補正処理済みの画像における個々の部分領域について、該部分領域周辺の複数位置における画素値と該部分領域からの距離とに基づいて、前記骨部によるビームハードニングの影響が該部分領域に対してどの程度あるかを表す第1の指標を求める第1の指標取得ステップと、
前記部分領域に対する第1の指標を用いて、該部分領域に対する画素値の補正量を決定する決定ステップと、
該部分領域の画素値を該部分領域に対する補正量に応じて補正する画素値補正ステップと、コンピュータに実行させる画像処理方法を提供する。
【0009】
第2の観点の発明は、
骨部と軟部とを含む部位を表すビームハードニング補正処理済みの画像における個々の部分領域について、該部分領域周辺の複数位置における画素値と該部分領域からの距離とに基づいて、前記骨部によるビームハードニングの影響が該部分領域に対してどの程度あるかを表す第1の指標を求める第1の指標取得手段と、
前記部分領域に対する第1の指標を用いて、該部分領域に対する画素値の補正量を決定する決定手段と、
該部分領域の画素値を該部分領域に対する補正量に応じて補正する画素値補正手段と、を備えた画像処理装置を提供する。
【0010】
第3の観点の発明は、
前記第1の指標取得手段が、前記部分領域周辺の複数位置について該位置の画素値に応じて大きくなる第1の値と該部分領域から該位置までの距離に応じて大きくなる第2の値とを成分として含む値を前記第1の指標として求める、上記第2の観点の画像処理装置を提供する。
【0011】
第4の観点の発明は、
前記第1の指標取得手段が、前記部分領域周辺の複数位置について前記第1の値と前記第2の値との乗算値を求め、前記複数位置の各々について求められた前記乗算値の加算値を成分として含む値を前記第1の指標として求める、上記第3の観点の画像処理装置を提供する。
【0012】
第5の観点の発明は、
前記第1の指標取得手段が、前記部分領域周辺の複数位置について前記第1の値と前記第2の値との積を求め、前記複数位置の各々について求められた前記積の和を成分として含む値を前記第1の指標として求める、上記第4の観点の画像処理装置を提供する。
【0013】
第6の観点の発明は、
前記個々の部分領域について、該部分領域の画素値と前記軟部を表す画素値の基準値との差分を求める差分取得手段と、
前記個々の部分領域について、該部分領域を通る方向に対する前記第1の指標の変化と、該方向に対する前記差分の変化との間の相関の程度を表す第2の指標を求める第2の指標取得手段とをさらに備えており、
前記決定手段が、前記部分領域に対する第2の指標に基づいて、該部分領域に対する画素値の補正量を決定する、上記第2の観点から第5の観点のいずれか一つの観点の画像処理装置を提供する。
【0014】
第7の観点の発明は、
前記決定手段が、前記部分領域に対する第2の指標に応じた値と該部分領域に対する前記差分との積を、前記補正量として決定する、上記第6の観点の画像処理装置を提供する。
【0015】
第8の観点の発明は、
前記軟部を表す画素値の基準値が、前記画像における前記軟部を表す領域の画素値の平均である、上記第7の観点の画像処理装置を提供する。
【0016】
第9の観点の発明は、
前記軟部を表す画素値の基準値が、前記軟部に相当すると考えられる画素値の代表値である、上記第7の観点の画像処理装置を提供する。
【0017】
第10の観点の発明は、
前記画像における前記第1の指標の分布と、前記画像における前記差分の分布とに対してスムージング(smoothing)処理を行う第1のスムージング処理手段をさらに備えており、
前記第2の指標取得手段が、前記方向に対する前記スムージング処理が行われた前記第1の指標の変化と、前記方向に対する前記スムージング処理が行われた前記差分の変化との間の相関に基づいて、前記第2の指標を求める、上記第6の観点から第9の観点のいずれか一つの観点の画像処理装置を提供する。
【0018】
第11の観点の発明は、
前記第2の指標取得手段が、前記相関が高いほど値が大きくなるよう前記第2の指標を求める、上記第10の観点の画像処理装置を提供する。
【0019】
第12の観点の発明は、
前記部分領域に対して、該部分領域に対する第1の指標の大きさに応じて補正量の上限値を決定する補正上限値決定手段をさらに備えており、
前記画素値補正手段が、前記部分領域の画素値を、補正量が該部分領域対して決定された上限値を超えないように補正する、上記第2の観点から第11の観点のいずれか一つの観点の画像処理装置を提供する。
【0020】
第13の観点の発明は、
前記画像における前記補正量の分布に対してスムージング処理を行う第2のスムージング処理手段をさらに備えており、
前記画素値補正手段が、該スムージング処理が行われた補正量を用いて補正する、上記第2の観点から第12の観点のいずれか一つの観点の画像処理装置を提供する。
【0021】
第14の観点の発明は、
前記スムージング処理が、平滑化処理である、上記第10の観点、第11の観点または第13の観点の画像処理装置を提供する。
【0022】
第15の観点の発明は、
前記画像が、ビームハードニング補正処理が行われた前記部位の投影データに基づいて再構成された画像である、上記第2の観点から第14の観点のいずれか一つの観点の画像処理装置を提供する。
【0023】
第16の観点の発明は、
前記ビームハードニング補正処理が、骨部によるビームハードニングを補正するように設計されたアルゴリズムを用いる、上記第2の観点から第15の観点のいずれか一つの観点の画像処理装置を提供する。
【0024】
第17の観点の発明は、
前記部位が、頭部である、上記第2の観点から第16の観点のいずれか一つの観点の画像処理装置を提供する。
【0025】
第18の観点の発明は、
前記部分領域が、単一の画素に対応した領域である、上記第2の観点から第17の観点のいずれか一つの観点の画像処理装置を提供する。
【0026】
第19の観点の発明は、
上記第2の観点から第18の観点のいずれか一つの観点の画像処理装置を備えた放射線断層撮影装置を提供する。
【0027】
第20の観点の発明は、
コンピュータを、上記第2の観点から第18の観点のいずれか一つの観点の画像処理装置における各手段として機能させるためのプログラムを提供する。
【発明の効果】
【0028】
上記観点の発明によれば、骨部と軟部組織とを含む部位を表すビームハードニング補正処理済みの画像において、個々の部分領域を対象領域に順次設定するとともに、設定された対象領域の周辺の複数位置における画素値とその対象領域からの距離とに基づいて、骨部によるビームハードニングの影響がその対象領域に対してどの程度あるかを表す第1の指標を求め、対象領域に対する画素値の補正量を当該対象領域に対する第1の指標を用いて決定し、当該対象領域の画素値をその補正量に応じて補正するので、従来の投影データ空間におけるビームハードニング補正処理だけでは補正し切れない部分についても、周辺に存在する骨部の量や近さの情報を基にビームハードニングの影響の程度を推定し、その推定結果を用いてさらに画素値の追加補正を行うことができ、放射線断層像においてビームハードニング補正による補正結果のバラつきを低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、発明の実施形態について説明する。なお、これにより発明は限定されない。
【0031】
図1は、本実施形態に係るX線CT装置(X-ray Computed Tomography system)のハードウェア(hardware)の構成を概略的に示す図である。
【0032】
図1に示すように、X線CT装置1は、ガントリ(gantry)2、撮影テーブル(imaging table)4、及び操作コンソール(console)6を備えている。
【0033】
ガントリ2は、X線管21、アパーチャ(aperture)22、コリメータ装置(collimator device)23、X線検出器24、データ収集部25、回転部26、高電圧電源27、アパーチャ駆動装置28、回転駆動装置29、及びガントリ・テーブル制御部30を有している。
【0034】
X線管21及びX線検出器24は、空洞部2Bを挟み対向して配置されている。
【0035】
アパーチャ22は、X線管21と空洞部2Bとの間に配置されている。X線管21のX線焦点からX線検出器24に向けて放射されるX線をファンビーム(fan beam)やコーンビーム(cone beam)に成形する。
【0036】
コリメータ装置23は、空洞部2BとX線検出器24との間に配置されている。コリメータ装置23は、X線検出器24に入射する散乱線を除去する。
【0037】
X線検出器24は、X線管21から放射される扇状のX線ビームの広がり方向(チャネル(channel)方向という)および厚み方向(列方向という)に、2次元的に配列された複数のX線検出素子を有している。各X線検出素子は、空洞部2Bに配された被検体5の透過X線をそれぞれ検出し、その強度に応じた電気信号を出力する。被検体5は、例えば、人間や動物などの生体である。
【0038】
データ収集部25は、X線検出器24の各X線検出素子から出力される電気信号を受信し、X線データに変換して収集する。
【0039】
回転部26は、空洞部2Bの周りに回転可能に支持されている。回転部26には、X線管21、アパーチャ22、コリメータ装置23、X線検出器24、及びデータ収集部25が搭載されている。
【0040】
撮影テーブル4は、クレードル(cradle)41、クレードル駆動装置42を有している。被検体5は、クレードル41の上に載置される。クレードル駆動装置42は、クレードル41をガントリ2の空洞部2Bすなわち撮影空間に入れ出しする。
【0041】
高電圧電源27は、X線管21に高電圧及び電流を供給する。
【0042】
アパーチャ駆動装置28、アパーチャ22を駆動しその開口を変形させる。
【0043】
回転駆動装置29、回転部26を回転駆動する。
【0044】
ガントリ・テーブル制御部30は、ガントリ2内の各装置・各部、撮影テーブル4等を制御する。
【0045】
操作コンソール6は、操作者からの各種操作を受け付ける。操作コンソール6は、入力装置61、表示装置62、記憶装置63、及び演算処理装置64を有している。本例では、操作コンソール6は、コンピュータ(computer)により構成されている。
【0046】
なお、ここでは、
図1に示すように、被検体5の体軸方向、すなわち撮影テーブル4による被検体5の搬送方向をz方向とする。また、鉛直方向をy方向、y方向およびz方向に直交する水平方向をx方向とする。
【0047】
次に、本実施形態に係るX線CT装置の機能について説明する。本実施形態に係るX線CT装置は、従来のビームハードニング補正による補正結果のバラつきを低減する機能を有する。基本的なコンセプトとしては、まず従来のビームハードニング補正を行う。そして、その結果得られたビームハードニング補正済み断層像において、各画素を対象画素に順次設定するとともに、その周辺画素における対象画素からの距離と画素値(CT値)との関係を精査する。これによって得られた画素値の変化の挙動から、各画素がビームハードニング・アーチファクトであるのか、部分的な出血や造影剤による造影効果を表すものであるのかといった評価を行う。そして、その評価結果から、画素ごとあるいは部分的な画像領域ごとに、ビームハードニング・アーチファクトのバラつきを判断し、補正不足の画素・画像領域に対しては追加の補正を行い、画素・画像領域ごとの補正のバラつきを低減する。その結果、品質がより安定したビームハードニング補正を行うことができる。
【0048】
図2は、本実施形態に係るX線CT装置の操作コンソールの機能ブロック図(block diagram)である。
【0049】
本実施形態に係るX線CT装置の操作コンソール6は、上記機能を実現させるための機能ブロックとして、スキャン制御部71、ビームハードニング補正部72、画像再構成部73、第1の指標算出部74、差分CT値算出部75、第2の指標算出部76、補正量決定部77、スムージング処理部78、補正上限設定部79、CT値補正部80、及び表示制御部81を有している。
【0050】
なお、第1の指標算出部74は発明における第1の指標取得手段の一例である。差分CT値算出部75は発明における差分取得手段の一例である。第2の指標算出部76は発明における第2の指標取得手段の一例である。補正量決定部77は発明における決定手段の一例である。スムージング処理部78は発明における第1及び第2のスムージング処理手段の一例である。補正上限設定部79は発明における設定手段の一例である。また、CT値補正部80は発明における画素値補正手段の一例である。
【0051】
また、操作コンソール6は、演算処理装置64が所定のプログラム(program)を実行することにより各機能ブロックとして機能する。所定のプログラムは、例えば、記憶装置63または外部接続された記憶装置または記憶媒体90に記憶されている。
【0052】
スキャン制御部71は、操作者の操作に応じて、スキャンが実施されるようガントリ・テーブル制御部30を制御する。
【0053】
ビームハードニング補正部72は、スキャンによって得られた複数ビューの投影データに対して、所定のアルゴリズム(algorithm)によりビームハードニング補正を行う。
【0054】
画像再構成部73は、投影データに基づいて再構成関数を用いて断層像を再構成する。画像再構成部73は、ビームハードニング補正部72からの要求により、収集されたオリジナル(original)の投影データに基づいて断層像を再構成したり、ビームハードニング補正済みの投影データに基づいてビームハードニング補正済み断層像を再構成したりする。
【0055】
第1の指標算出部74は、ビームハードニング補正済み断層像を構成する個々の画素について、ビームハードニングの影響がどの程度あるかを表す第1の指標を算出する。
【0056】
差分CT値算出部75は、ビームハードニング補正済み断層像を構成する個々の画素について、その画素のCT値と軟部組織を表すCT値の基準値(以下、基準CT値ともいう)との差分(以下、差分CT値ともいう)を算出する。
【0057】
第2の指標算出部76は、ビームハードニング補正済み断層像を構成する個々の画素について、その画素を含む方向での第1の指標の変化と差分CT値の変化との相関に基づいて、その画素がビームハードニング・アーチファクトである確度を表す第2の指標を算出する。
【0058】
補正量決定部77は、ビームハードニング補正済みの断層像を構成する個々の画素について、その画素に対する第2の指標に基づいて、CT値の補正量を決定する。
【0059】
スムージング処理部78は、ビームハードニング補正済み断層像における各画素に対する第1の指標、差分CT値あるいは補正量の空間的な分布に対して、スムージング処理を行う。
【0060】
補正上限設定部79は、ビームハードニング補正済み断層像における各画素について、その画素に対する第1の指標を用いて、その画素に対する補正上限値を設定する。補正上限値とは、補正量の上限を示す値である。
【0061】
CT値補正部80は、ビームハードニング補正済み断層像における各画素について、その画素に対する補正量に応じたCT値のシフト補正を追加的に行う。このとき、補正量が補正上限値を超えないようにする。
【0062】
表示制御部81は、追加補正済みの断層像を画面に表示するよう表示装置62を制御する。
【0063】
次に、本実施形態に係るX線CT装置における処理の流れについて説明する。
【0064】
図3は、本実施形態に係るX線CT装置における処理の流れを示すフロー図(flowchart)である。
【0065】
ステップS1では、スキャンを行う。具体的には、スキャン制御部71がガントリ・テーブル制御部30を制御して、頭部5hのスキャンを実施する。
【0066】
図4は、本実施形態における被検体の頭部5hがスキャンされる様子を模式的に示す図である。本例では、
図4に示すように、クレードル41に載置された被検体5の頭部5hを含む撮影空間R1に対してスキャンが実施される。スキャンは、X線管21及びX線検出器24を被検体5の周りに回転させながら、X線管21のX線焦点から被検体5にX線を照射することにより行われる。またスキャンは、ビュー角度範囲を180度+X線ビームのファン角(fan angle)αとする、いわゆるハーフスキャン(half scan)とする。スキャンを実施すると、X線検出器24におけるX線検出素子の配列構造に起因して、撮影空間をz軸方向にスライスして成る複数のスライスの各々について複数ビュー(view)の投影データが収集される。
【0067】
ステップS2では、ビームハードニング補正を行う。具体的には、ビームハードニング補正部72が、ステップS1のスキャンにより得られた投影データに対してビームハードニング補正を行う。以下、ビームハードニング補正について詳しく説明する。
【0068】
ビームハードニング補正では、例えば、
図5に示すようなビームハードニングの非線形特性を3〜4次程度の高次多項式で近似した後、逆変換して線形データに置き換えるという補正方法が用いられる。高次多項式での近似は、その高次多項式の係数を、数種のファントム(phantom)または数種の透過経路長の減衰特性より較正し決定することにより行う。
【0069】
この補正式は人体の大部分が水に近いことから、一般に水を基準として算出されるものが使われる。
【0070】
図6に水ファントムでの補正効果を示す。ビームハードニング補正なしの断層像では、ファントムの中心側のCT値が外側と比べて低くなっているのが分かる。一方、ビームハードニング補正ありの断層像では、水を表すCT値が均一であり、ファントムの中心側と外側とでほぼ同じCT値になっていることが分かる。
【0071】
ところで、前述のビームハードニング補正方法はファーストオーダー(first-order)ビームハードニング補正とよばれ、その基準物質は一般的には水である。しかし人体には水とは吸収係数が大きく異なる骨が存在する。そのため、水のビームハードニング補正だけでは骨によるビームハードニングの影響が補正しきれない。この影響は頭部撮影における頭蓋骨内側のシェーディング、側頭骨間に生じるダークバンド状のアーチファクトが代表的である。
【0072】
図7にこれらの影響が現れた人体頭部ファントムの画像(左)と骨等価物質によるファントムの画像(右)とを示す。いずれの画像にも、骨相当の物資の周辺にシェーディングやバンド状のアーチファクトが顕著に現れている。
【0073】
仮に軟部組織と骨部それぞれのX線透過長が分かれば2つのビームハードニング補正テーブルを持つことで、より正確なビームハードニング補正が可能となる。このような補正を実現する手法は、1978年にP.M.Josephらによって画像再構成を繰り返すIterative Methodとして発表されている。
【0074】
図8にそのIterative Methodによる補正処理の概念を示す。一度目の再構成画像からCT値の閾値によって骨だけを抽出し、この骨画像を再投影(re-projection)することにより骨のX線透過長を求め、その骨の透過長に応じて発生するビームハードニングによるエラーを求める。次に補正テーブルによりオリジナルデータを補正した後に2度目の再構成を行うことで目的の画像を得ることができる。
【0075】
図9にIterative Methodによる補正を用いたときの人体頭部ファントムの画像(左)と骨等価物質によるファントムの画像(右)とを示す。
図7の補正無しの例と比較して骨部からのアーチファクトが補正されている様子が分かる。
【0076】
本例では、ビームハードニング補正として、骨部によるビームハードニングの補正が可能な上述のIterative Methodによる補正を用いることにする。なお、ビームハードニング補正には、このIterative Methodによる補正に限定されることなく、種々の補正を用いることができる。
【0077】
ステップS3では、ビームハードニング補正済み断層像を再構成する。具体的には、画像再構成部73が、ビームハードニング補正済み投影データに基づいてビームハードニング補正済み断層像を再構成する。
【0078】
ステップS4では、第1の指標Bを算出する。具体的には、第1の指標算出部74が、ビームハードニング補正済み断層像における軟部組織に対応する領域の各画素について、ビームハードニングの影響を受ける程度の推定レベルを表す第1の指標Bを算出する。軟部組織に対応する領域の特定には、例えばCT値の閾値判定を用いる。
【0079】
図10に、第1の指標のコンセプト(concept)を示す。
【0080】
ある特定の対象画素に対する第1の指標Bは、その周辺画素のCT値と対象画素からの距離とにより導出される値の積算値(以下、骨近接度という)の和により概算される。
【0081】
次式は、第1の指標Bの算出式の例である。
【0082】
【数1】
ここで、(x,y)は対象画素の座標、(xi,yi)は周辺画素の座標である。
【0083】
そのため、周辺画素のCT値Pが高ければ高いほど、また骨部相当のCT値Pを有する画素に近ければ近いほど、第1の指標Bは高くなる。また、周辺画素を全方位に確認していくことになるため、一つの方向についての骨近接度がそれほど高くなくても、周辺を骨部で囲まれる対象画素の場合には、第1の指標Bは各方向の骨近接度の和として表されるので、そのような領域内の画素に対する第1の指標Bは、結果として高くなる。
【0084】
ステップS5では、スムージング処理を行う。具体的には、スムージング処理部78が、ステップS4で算出された第1の指標Bの空間的な分布に対してスムージング処理を行う。スムージング処理には、例えば3×3あるいは5×5の平滑化フィルタを用いる。
【0085】
ステップS6では、差分CT値Pdを算出する。具体的には、差分CT値算出部75が、ビームハードニング補正済み断層像における軟部組織に対応する領域の各画素について、その画素のCT値Pと軟部組織の基準CT値P_softとの差分である差分CT値Pdを算出する。
【0086】
ステップS7では、スムージング処理を行う。具体的には、スムージング処理部78が、ステップS6で算出された差分CT値Pdの空間的な分布に対してスムージング処理を行う。
【0087】
ステップS8では、第2の指標Sを算出する。具体的には、第2の指標算出部76が、ビームハードニング補正済み断層像における軟部組織に対応する領域の各画素について、その画素がビームハードニング・アーチファクトである確度を表す第2の指標Sを算出する。ここでは、第2の指標Sは、その対象画素を含む方向において、スムージング処理済みの第1の指標Bの位置的な変化と、スムージング処理済みの差分CT値Pdの位置的な変化との間の相関の高さを表す値として算出される。
【0088】
図11に、第2の指標のコンセプトを示す。ある特定の対象画素に対する第2の指標Sは、対象画素を含む画素列における、第1の指標Bの位置的な傾斜(勾配)と差分CT値Pdの位置的な傾斜(勾配)との相関の高さを表す値により概算される。
【0089】
次式は、第2の指標Sの算出式の例である。
【0090】
【数2】
ここで、P_softは軟部組織の基準CT値、Pd(x,y)は対象画素の差分CT値である。
【0091】
なお、軟部組織の基準CT値P_softは、例えば、補正済み断層像における軟部組織を表す複数画素のCT値Pの平均とすることができる。軟部組織はCT値Pの閾値判定処理により特定することができる。また例えば、軟部組織の基準CT値P_softは、経験則から軟部組織に相当すると考えられるCT値Pの代表値とすることができる。
【0092】
一般的に、対象画素の差分CT値Pdが補正済み断層像における骨部を表すCT値に近ければ近いほど、またその骨部を表すCT値Pが高ければ高いほど、対象画素がビームハードニング・アーチファクトである可能性は高くなると考えられる。そのため、対象画素を含む画素列において、第1の指標Bの位置的な傾斜と差分CT値Pdの位置的な傾斜との相関が高いほど、対象画素がビームハードニング・アーチファクトである可能性は高くなる。
【0093】
一方、図の下で表すように、その相関が低いほど、対象画素がビームハードニング・アーチファクトである可能性は低くなる。
【0094】
図12に、第2の指標のコンセプトのつづきを示す。補正済み断層像において、出血や造影剤の造影効果によって部分的にCT値Pが高くなっている場合には、そのような領域において第1の指標Bの位置的な傾斜と差分CT値Pdの位置的な傾斜との間の相関は低くなる。
【0095】
したがって、ある特定の対象画素に対する第2の指標Sは、画素がビームハードニング・アーチファクトである確度を表すと言える。
【0096】
ステップS9では、補正上限値を設定する。具体的には、補正上限設定部79が、ビームハードニング補正済み断層像における軟部組織に対応する領域の各画素について、補正上限値ΔP_capを設定する。補正上限値は、その対象画素に対して算出されたオリジナルの第1の指標Bもしくはスムージング処理済みの第1の指標Bに基づいて、その指標の値が大きいほど大きくなるような値として設定される。
【0097】
図13に、補正上限値のコンセプトを示す。過剰な補正を抑制する機能として、補正量の上限値を設定する。第1の指標Bに連動して領域ごとに最適な補正上限値を設定することにより、より適正な補正が期待できる。
【0098】
図14に、補正上限値のコンセプトのつづきを示す。
図14では、部分的な出血や局所的な造影効果によるCT値Pの上昇をビームハードニング・アーチファクトと誤認して補正してしまうリスクを低減している様子が理解できる。
【0099】
次式は、補正上限値ΔP_capの算出式の例である。
【0100】
【数3】
ここで、aは任意の定数である。
【0101】
ステップS10では、補正量を決定する。具体的には、補正量決定部77が、ビームハードニング補正済み断層像における軟部組織に対応する領域の各画素について、CT値の補正量ΔPを決定する。補正量決定部77は、例えば、対象画素に対して算出された第2の指標Sに基づいて対象画素に対する重み係数wght_indを決定し、対象画素に対する重み係数wght_indと差分CT値Pdとの乗算値を補正量ΔPとする。ただし、対象画素の補正量ΔPはその対象画素に対して設定された補正上限値ΔP_capを超えない範囲とする。
【0102】
次式は、補正量ΔPの算出式の例である。
【0103】
【数4】
ここで、S_max、S_mid、S_minは、それぞれ、補正済み断層像における第2の指標Sの最大値、中間値または中央値、最小値である。
【0104】
これにより、対象画素がビームハードニング・アーチファクトである可能性が高いほど、またCT値Pが軟部に相当するCT値より大きいほど大きくなる量を補正量ΔPとすることができる。その結果として、部分的な出血や局所的な造影効果によるCT値Pの上昇については、適切に保持することができる。同様にもう少し範囲の狭い骨部と軟部との境界における出血や造影効果についても適切に保持することができる。
【0105】
ステップS11では、スムージング処理を行う。具体的には、スムージング処理部78が、ステップS10で決定された補正量ΔPの空間的な分布に対してスムージング処理を行う。
【0106】
ステップS12では、CT値Pを追加補正する。具体的には、CT値補正部80が、次式の如く、ビームハードニング補正済み断層像における軟部組織に対応する領域の各画素について、スムージング処理済みの補正量ΔPを用いてCT値Pをシフト補正する。
【0107】
次式は、補正済みCT値P′の算出式の例である。
【0109】
ステップS13では、追加補正済み断層像を表示する。具体的には、表示制御部81が、表示装置62を制御して、ステップS12のCT値Pの追加補正により得られた追加補正済断層像を画面に表示させる。
【0110】
これより、本提案法により得られた断層像の例を示す。
【0111】
図15は、従来法による頭部断層像と本提案法による頭部断層像との比較結果を示した図である。従来法による頭部断層像(左図)では、骨部(頭蓋骨)と軟部組織(脳組織)との境界に、ビームハードニング補正の補正不足によるCT値上昇が確認できる。一方、本提案法による頭部断層像(右図)では、その補正不足によるCT値の上昇が抑えられ改善された様子を確認することができる。
【0112】
図16は、従来法による頭部断層像と本提案法による頭部断層像との別の比較結果を示した図である。3枚の画像のうち、左が従来法による頭部断層像であり、中央が本提案法であって第1の指標に応じた補正量を決定し、かつ補正上限値を設定しない場合の頭部断層像であり、右が本提案法であって第2の指標に応じた補正量を決定し、かつ補正上限値を設定した場合の頭部断層像である。従来法による頭部断層像(左図)では、骨部(頭蓋骨)と軟部組織(脳組織)との境界に、ビームハードニング補正の補正不足によるCT値上昇が確認できる。本提案法であって補正上限値を設定しない場合の頭部断層像(中央図)では、ビームハードニング補正の補正不足は改善されているが、右上の出血によるCT値上昇が損なわれている。一方、本提案法であって補正上限値を設定した場合の頭部断層像(右図)では、ビームハードニング補正の補正不足が改善され、かつ、部分的な出血によるCT値上昇が保持されている。
【0113】
以上、本実施形態によれば、ビームハードニング補正処理済みの頭部断層像において、個々の画素を対象画素に順次設定するとともに、設定された対象画素の周辺の複数位置におけるCT値とその対象画素からの距離とに基づいて、骨部によるビームハードニングの影響がその対象画素に対してどの程度あるかを表す第1の指標を求め、対象画素に対するCT値の補正量を当該対象画素に対する第1の指標を用いて決定し、当該対象画素のCT値をその補正量に応じて補正するので、従来の投影データ空間におけるビームハードニング補正処理だけでは補正し切れない部分についても、周辺に存在する骨部の量や近さの情報を基にビームハードニングの影響の程度を推定し、その推定結果を用いてさらにCT値の追加補正を行うことができ、頭部断層像においてビームハードニング補正による補正結果のバラつきを低減することができる。
【0114】
また、本実施形態では、対象画素を含む画素列において、第1の指標の位置的な変化と、CT値と軟部組織の基準CT値との差分である差分CT値の位置的な変化との相関の高さを表す第2の指標を算出し、第2の指標に応じた補正量を決定し、対象画素のCT値を補正するので、第2の指標を対象画素がビームハードニング・アーチファクトである確度として用い、その確度に応じたCT値の追加補正を行うことができ、従来のビームハードニング補正では補正不足となる領域について、さらに補正を行うことができる。
【0115】
また、本実施形態では、対象画素ごとに第1の指標の大きさに応じた補正上限値を設定するので、追加補正による副作用のリスクを低減することができ、部分的な出血や造影剤による局所的な造影効果などを損なわずに保持して、より精度の高い補正を行うことができる。
【0116】
なお、発明は、上記実施形態に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能である。
【0117】
例えば、本実施形態では、各指標を求めたりCT値を補正したりする際に、単一の画素に対応した領域を1単位として行っているが、複数の画素によって構成される部分領域、例えば縦横2×2画素からなる画像領域を1単位として行うようにしてもよい。
【0118】
また例えば、本実施形態では、撮影する部位は頭部であるが、骨部と軟部組織とが含まれていればいずれの部位であってもよい。
【0119】
また、本実施形態は、X線CT装置であるが、発明は、X線以外の放射線、例えばガンマ線を用いる断層撮影装置にも適用可能である。
【0120】
また、コンピュータを上記X線CT装置における制御や処理を行う各手段として機能させるためのプログラムやこれを記録した記録媒体もまた、発明の実施形態の一例である。