(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6293804
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】マグネシウム塩を含む電解質溶液及びマグネシウム塩の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0568 20100101AFI20180305BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20180305BHJP
C07F 3/02 20060101ALN20180305BHJP
C07C 255/03 20060101ALN20180305BHJP
【FI】
H01M10/0568
H01M10/054
!C07F3/02 Z
!C07C255/03
【請求項の数】12
【外国語出願】
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-25709(P2016-25709)
(22)【出願日】2016年2月15日
(65)【公開番号】特開2017-145197(P2017-145197A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2016年4月8日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)2015年9月9日、及び2015年9月10日に、Dalton Younger Members Eventにて発表 (2)2015年9月11日に、Main Group Interest Group Annual Meeting and AGMにて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】500024469
【氏名又は名称】ダイソン・テクノロジー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】エヴァン・キーザー
(72)【発明者】
【氏名】クレア・グレー
(72)【発明者】
【氏名】ヒュー・グラス
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク・ライト
【審査官】
水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−106467(JP,A)
【文献】
特開2015−115233(JP,A)
【文献】
J. Am. Chem. Soc.,2016年 6月30日,Vol. 138,8682-8685
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0568
H01M 10/0569
H01M 10/054
C07C 255/02
C07F 3/02
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質溶媒としてのエーテル及びアセトニトリルと、以下の一般式の塩とを含む電解質溶液:
Mg2+(L)x(PF6)2 (i)
式中、xは1〜6の数を表し、
各Lは一般式R−C≡Nのニトリルであるリガンドを表し、Rは以下から独立に選択された有機基を表す:メチル、エチル、プロピル、ブチル、t−ブチル、ペンチル、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、トルエン、ナフタレン、またはフェニル。
【請求項2】
xは1より大きい、請求項1に記載の電解質溶液。
【請求項3】
xが6である、請求項1または2に記載の電解質溶液。
【請求項4】
Rが、Lで表された各リガンドについて同一である、請求項3に記載の電解質溶液。
【請求項5】
各リガンドLがアセトニトリルである、請求項1から4のいずれか一項に記載の電解質溶液。
【請求項6】
以下の一般式の塩の製造方法であって:
Mg2+(Ly)x(PF6)2 (i)
式中、xは1〜6の数を表し、
Lyは一般式R−C≡Nのニトリルであるリガンドを表し;
Lyは、それぞれが一般式R−C≡Nで表されるニトリルであるリガンドL1及びL2の任意の組合せを備え;
L1及びL2についてRが以下から選択された有機基を独立に表し:メチル、エチル、プロピル、ブチル、t−ブチル、ペンチル、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、トルエン、ナフタレン、またはフェニル;
Mg金属を提供するステップと、
第1リガンド(L1)を備える第1乾燥溶液中で前記Mg金属を洗浄、及び活性化するステップと、
活性化されたMg金属及び第1リガンドL1の溶液を、第2リガンド(L2)を備える第2乾燥溶液中のNOPF6で処理するステップと、
残留溶媒を除去するステップと、
残存固体を再結晶化して式(i)の塩を形成するステップと、を備える方法。
【請求項7】
xが1より大きい、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
xが6である、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
L1及びL2が同一のニトリルである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
L1及びL2が両方ともアセトニトリルである、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1に記載の電解質溶液を備える、セルまたは電池。
【請求項12】
前記セルまたは電池は、マグネシウムセル若しくは電池、またはマグネシウムイオンセル若しくは電池である、請求項11に記載のセルまたは電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヘキサフルオロリン酸マグネシウム(magnesium hexafluorophosphate)の塩に関連する。更に、本発明はヘキサフルオロリン酸マグネシウムの塩の製造方法と、セル(cell)または電池(battery)中の電解質としてのヘキサフルオロリン酸マグネシウムの塩の使用に関連する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は現在多様な電子デバイス中で使用されている。リチウムイオンセルは、短期間で著しく電荷容量をロスすることなく再充電されることが可能なので、リチウムイオンセルの使用は他の電池技術より優先されてきた。更に、リチウムイオン電池のエネルギー密度によって、それをノートパソコンや携帯電話などの携帯製品中で使用することを可能にする。しかし、時間が経つと、リチウム電池は電荷容量のロスに苦しむことが知られている。更に、熱暴走及び過熱のリスクの問題が広く報告されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
LiBF
4、LiClO
4、LiNTF
2、LiPF
6、LiAsF
6、及びLiSbF
6だけでなく他を含む幅広いリチウム塩を用いて、多くのリチウムイオン電解質系が開発され研究されてきた。他のリチウム塩が有するとは知られていない幾つかの特性のバランスによって、LiPF
6がリチウムイオンセル中の好ましい電解質である。しかし、地殻中のリチウムの存在量は比較的少なく、他のアルカリ及びアルカリ土類金属と比較して現在のリチウムの価格が高いので、リチウムセルの長期使用に対する不安がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1の態様において、本発明は以下の一般式の塩を提供する:
Mg
2+(L)
x(PF
6)
2 (i)
式中、xは1〜6の数を表し、各Lは以下の化合物の一つから選択されたリガンドを表す:ハロメタン、環状クラウンエーテル、または一般式R−C≡Nのニトリル。
【0005】
マグネシウムなどのアルカリ土類金属を電気化学セル及び電池中の電解質溶液として使用可能であると理論的に認識されてきた。マグネシウムは地殻中に非常に豊富であり、かつ、従って他のアルカリおよびアルカリ土類金属よりもトン当たりで安価である。更に、マグネシウムはリチウムよりも大きな電荷容量を有する。更に、マグネシウムイオンセルでは、マグネシウム金属上にデンドライトが形成しないので、熱暴走のリスクなくマグネシウム金属を金属アノードとして使用することができる。しかし、この知識にもかかわらず、幅広い電圧範囲にわたって安定であり、複数電極と相性もよい電解質を形成するのが困難なので、マグネシウムは電解質としてまたはアノード用材料として広く採用されていない。
【0006】
上述の通り、ヘキサフルオロリン酸リチウムの塩はリチウムイオンセル中で好ましい電解質である。しかしマグネシウムイオン電池中のヘキサフルオロリン酸マグネシウムに基づく電解質を使用することに対する障壁は、ヘキサフルオロリン酸リチウムの塩の合成と比較して、ヘキサフルオロリン酸アルカリ土類金属の塩の合成に費用がかかることがあり、不確実であり得る(しばしば低純度の材料になる)という事実である。更に、MgPF
6中のPF
6−アニオンはマグネシウム金属アノードと反応し、不動態化MgF
2の層を形成すると主張されている。しかし、本発明に係るヘキサフルオロリン酸マグネシウム塩は比較的穏やかな条件で、溶液中で容易に合成可能であり、また、得られた塩は、アノードで不動態化を生じることなくコインセル電池中の電解質として使用可能であることが分かった。
【0007】
本明細書全体を通して使用される塩との用語は、上記一般式内のリガンド(L)との複合体マグネシウム塩を含むように意図される。リガンドまたはリガンドの混合物の選択は、ヘキサフルオロリン酸マグネシウム塩の合成におけるより安定な反応混合物を可能にし得る。xが1より大きい場合、各リガンドは、ハロメタン、または環状クラウンエーテル、またはニトリル化合物から独立に選択され得る。合成中の反応混合物を単純化するために、xが1より大きい場合、Lは以下の化合物の一つのみから選択されたリガンドを表してよい:ハロメタン、環状クラウンエーテル、または一般式R−C≡Nのニトリル。つまり、Lは、二以上のハロメタン、環状クラウンエーテル、または二以上の一般式R−C≡Nのニトリルを備えてよい。
【0008】
ハロメタンはCH
2Cl
2、CHCl
3、CCl
4等の塩化メタンであり得る。クロロメタンは合成用の安定で安価な乾燥溶媒を表す。ジクロロメタン(CH
2Cl
2)は、その低い沸点及び溶媒和特性によって、マグネシウム塩の合成用のリガンド及び溶媒として特に適している。
【0009】
環状クラウンエーテルは以下のうちの一つから選択された典型的な環状クラウンエーテルを備えることができる:[12]−クラウン−4、[18]−クラウン−6、[24]−クラウン−8。環状クラウンエーテルはマグネシウムカチオンを隔離するために使用され得る。マグネシウムカチオンは低下した反応性を有して溶液中に残り、電極表面上へのマグネシウムのめっきも抑制し得るので、多座配位性リガンドを使用することが好都合であり得る。これらの環状クラウンポリエーテルは、マグネシウム塩の所望の合成を妨げることなく、CH
2Cl
2、CHCl
3、CCl
4等のハロメタン系溶媒と組み合わせて使用され得る。
【0010】
ニトリルの一般式の観点では、xが6の場合、各Rは以下から独立に選択された有機基を表し得る:メチル、エチル、プロピル、ブチル、t−ブチル、ペンチル、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、トルエン、ナフタレン、またはフェニル。立体的に嵩高いリガンドはマグネシウムカチオンの溶媒和を防ぎ得る。従って、一般式について、Rは、好ましくは立体障害が小さいと考えられるニトリルを提供し得る基を表し得る。
【0011】
各Lは同一のニトリルでもよい。これによって、活性化ステップ及び処理ステップの両方で同じニトリル溶液を使用できるので、塩の合成がより簡単になる。塩について、Lは最も立体障害が小さいニトリルであるアセトニトリルでよい。追加の利点として、他の溶媒を伴う場合よりも高真空下での脱溶媒和を簡単に達成できるので、アセトニトリルを使用することで、マグネシウムカチオンの良好な溶媒和、並びに、低い製造費用が提供される。この脱溶媒和された塩は、その後、例えば(THF、ジエチルエーテル等の)エーテル、または他のドナー溶媒で再溶媒和されてよい。
【0012】
第2の態様において、本発明は以下の一般式の塩の製造方法を提供する:
Mg
2+(L
y)
x(PF
6)
2 (ii)
式中、xは1〜6の数を表し、各L
yは以下の化合物の任意の一つから独立に選択されたリガンドを表す:ハロメタン、環状クラウンエーテル、または一般式R−C≡Nのニトリル;そしてL
yは化合物L
1及びL
2の混合物を備え;本方法は、Mg金属を提供するステップ、第1化合物(L
1)を備える第1乾燥溶液中でMg金属を洗浄し、活性化させるステップ、活性化されたMg金属及び第1化合物L
1の溶液を、第2化合物(L
2)を備える第2乾燥溶液中のNOPF
6で処理するステップ、残留溶媒を除去するステップ、及び、残存固体を再結晶化して式(ii)の塩を形成するステップ、を備える。
【0013】
残留溶媒は、例えば真空下での、エバポレーションによって、または加熱によって除去できる。
【0014】
第3の態様において、本発明は、上記式(i)または式(ii)に記載の塩を備える電解質を提供する。この電解質は従来の電解質に添加剤として上記塩を備えてよく、または、上記塩は純粋な溶液中で使用されて、適切な溶媒とともに、それ自体によって電解質を形成し得る。
【0015】
第4の態様において、本発明は上記式(i)または式(ii)に記載の電解質を備えるセルまたは電池を提供する。本発明の塩は、電気化学セルまたは電池でリチウム塩を使用することで観測されるのと同じ不利益のいくらかに悩まされない。更に、本発明の塩は多くのセルまたは電池システム中の電解質で使用され得る。より具体的に、このセルまたは電池は、例えばリチウムセルまたはリチウムイオンセルであり得る。しかし、本発明の塩を用いるセルまたは電池は、金属系の、若しくは金属イオン系のセル若しくは電池としてより一般的に記述され得る。他の、金属系の若しくは金属イオン系のセル若しくは電池の例は、マグネシウム、カルシウム、またはアルミニウムの金属またはイオンを含み得る。金属セルまたは電池中の電解質中に本発明の塩を用いる場合、塩の分解の危険性なく、マグネシウム、カルシウム、またはアルミニウム等の金属を金属アノードとして使用し得る。他の利点は、本発明の塩は、金属または金属イオン系のセルまたは電池で用いられるアルミニウム集電体の腐食を低減または制限する観点で有用であり得る。
【0016】
本発明がより容易に理解され得るように、本発明の実施形態が例示として添付図面を参照して以下に記述される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】本発明の塩の
1H NMRスペクトルを表すである。
【
図3】本発明の塩の
13C NMRスペクトルを表す図である。
【
図4】本発明の塩の
19F NMRスペクトルを表す図である。
【
図5】本発明の塩の
31P NMRスペクトルを表す図である。
【
図6】25℃で、グラッシーカーボンの作用電極、Mg参照電極、及び対向電極を含む三電極セル中で、25mVs
−1の速度でサイクルする1:1のTHF−CH
3CN中のMg(CH
3CN)
6(PF
6)
2の0.12M溶液のサイクリックボルタモグラムを表す図である。
【
図7】白金、ステンレス鋼、グッラッシーカーボン、及びアルミニウム作用電極上での、掃引速度25mVs
−1の、1:1のTHF−CH
3CN中のMg(CH
3CN)
6(PF
6)
2の0.12Mのリニアスイープボルタモグラムを表す図である。
【
図8】25℃で、対称的な三電極Mg|Mg|Mg冠水セル(flooded cell)中の、サイクル速度50mVs
−1の、1:1のTHF−CH
3CN中のMg(CH
3CN)
6(PF
6)
2の0.12M溶液のサイクリックボルタモグラムを表す図である(インセットはMgめっきを示す領域の拡大である)。
【
図9】25℃で、対称的な三電極Mg|Mg|Mg冠水セル(flooded cell)中の、サイクル速度50mVs
−1の、1:1のTHF−CH
3CN中のMg(CH
3CN)
6(PF
6)
2の0.71M溶液のサイクリックボルタモグラムを表す図である
【
図10】1:1のTHF−CH
3CN中のMg(CH
3CN)
6(PF
6)
2の0.71M溶液と、Mgアノードと、Mo
3S
4カソードと、Al集電体とを含むコインセルの、サイクル速度C/100の三回の定電流放電―充電サイクルを示す図である。
【
図11】1:1のTHF−CH
3CN中のMg(CH
3CN)
6(PF
6)
2の0.71M溶液と、Mgアノードと、Mo
3S
4カソードと、カーボン膜集電体とを含むコインセルの、サイクル速度C/100の三回の定電流放電―充電サイクルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、これから以下の実施例を参照して描写される。
【0019】
[実施例1−Mg(CH
3CN)
6(PF
6)
2の合成]
Sigma Aldrichからのマグネシウム粉末(>99%)の形態のマグネシウム金属が洗浄され、約10mgのI
2で溶液が透明になるまで活性化された。得られた混合物は、室温の乾燥N
2雰囲気下で、CH
3CN及びNOPF
6(ACROS Organicsから購入した)の乾燥溶液中で、滴下により溶媒和された。NOPF
6溶液を加えた後、反応混合物は透明ガス(NO)を放出し、乾燥N
2下の反応フラスコから排出された。溶液は一晩中45℃に穏やかに加熱された。反応式は以下の式(1)の通りである。
【0021】
溶媒を除去してから、灰色がかった(off−white)固体が、高温のアセトニトリルから二回再結晶化され、Mg(CH
3CN)
6(PF
6)
2の白色結晶粉末が52%の収率で与えられた。
【0022】
[実施例2−Mg(CH
3CN)
6(PF
6)
2の特徴づけ]
Mg(CH
3CN)
6(PF
6)
2のCH
3CN溶液にEt
2Oを拡散して単結晶が得られた。Bruker D8 Quest CCD回折計を用いて集められたデータをについてX線解析を行い、複合体が所望の塩であることを確認した(
図1)。
【0023】
Mg(CH
3CN)
6(PF
6)
2の白色結晶粉末の
1H、
13C、
19F、及び
31PのNMRスペクトルがそれぞれ
図2から
図5に示されている。特に、
19Fと
31PのNMRスペクトルはPF
6−アニオンの特徴である、ダブレット(doublet)とヘプテット(heptet)をそれぞれ示した。別段特定されない限り、NMRスペクトルは、298.0KでBruker 500 MHz AVIII HD Smart Probe Spectrometer(
1Hは500MHz、
31Pは202MHz、
13Cは125MHz、
19Fは471MHz)に、またはBruker 400 MHz AVIII HD Smart Probe spectrometer (
1Hは400MHz、
31Pは162MHz、
13Cは101MHz、
19Fは376MHz)に記録された。化学シフト(δ、ppm)は、
1Hと
13Cについては残留溶媒のシグナルに対して、
31Pについては外部の85% H
3PO
4に対して、
19FについてはCCl
3Fに対して与えられる。
【0024】
Mg(CH
3CN)
6(PF
6)
2のバルク純度が元素分析(C、H、N)によって確認された。元素微量分析データは、ケンブリッジ大学化学科微量分析サービスから得た。更に、1のIRスペクトルは、2299cm
−1に予想されたC≡N伸縮バンドを示す。PerkinElmerユニバーサルATRサンプリングアクセサリーを用いてFT−IR分光測定が行われた。
【0025】
[実施例3−電解質塩としてのMg(CH
3CN)
6(PF
6)
2の使用]
以下に報告する全てのサイクリックボルタンメトリー及びリニアスイープボルタンメトリー実験は、乾燥溶媒を用いた乾燥アルゴン雰囲気下のグローブボックス(MBraun)内で実行された。サイクリックボルタンメトリー及びリニアスイープボルタンメトリーは、IVIUM CompactStatを使用して実行した。
【0026】
図6はTHF−CH
3CNでの1:1比中におけるMg(CH
3CN)
6(PF
6)
2の0.12M溶液のサイクリックボルタンメトリーを示す。電解質は、グラッシーカーボン作用電極(Alvatek Limitedから購入)とMg参照及び対向電極(Sigma Aldrichからのマグネシウムリボン(99.9%))を用いて、25mVs
−1の速度で、少なくとも20サイクルにわたって、Mgに対して−0.5Vから1.5Vの間で可逆的にサイクルされた。電解質は、メッキ/剥離電流のほんの穏やかな損失を伴って少なくとも20サイクルにわたってサイクルされることができ、小さな剥離過電圧(Mgに対して約0.25V)及びMg/Mg
2+に対する0Vでのめっきオンセットを示した。正の電位に戻る、Mg/Mg
2+に対して0V付近で観測されたブロードな特徴は、表面積が大きいグラッシーカーボン電極に起因する容量効果の結果であると考えられる。
【0027】
最適化されたMg(PF
6)
2電解質の電気化学的安定性を、白金(Pt)(Alfa Aesarから購入された白金ワイヤ(99.95%))、グラッシーカーボン(GC)、ステンレス鋼(ss)(Advent Research materialsから購入したStainless steel 316)、及びアルミニウム(Al)作用電極(Dexmet社から購入)を用いたリニアスイープボルタンメトリー(LSV)を実行することでさらに研究した(結果は
図7に示されている)。Pt及びGC電極上では、電解質酸化の立ち上がり(onset)がMg/Mg
2+に対して3V付近で起きている。一方、ss上では、Mg/Mg
2+に対して1.5V付近の電位で酸化が起きている。Al作用電極でMg/Mg
2+に対して4Vまで掃引した場合、電流は殆ど観測されず、これはAl表面が不動態化されたことを示唆する。1:1のTHF−CH
3CN電解質溶媒混合物は、同一条件下での純粋なCH
3CN中における0.12Mの電解質溶液と比較して、優れた電気化学的安定性と、GC上でのめっき−剥離可逆性とを示すことが判明した。
【0028】
[実施例4−Mgイオンセル中の電解質としてのMg(CH
3CN)
6(PF
6)
2の使用]
Mgを作用電極として使用する対称セル(Mg|Mg|Mg)中の電解質としてMg(CH
3CN)
6(PF
6)
2塩を使用することについて研究を行った。Arbin BT2043電池試験システムで電池サイクルを実行した。THF−CH
3CNでの1:1比中におけるMg(CH
3CN)
6(PF
6)
2の0.12M及び0.71M溶液の両方が、50mV・s
−1の速度で、Mgに対して−0.5Vから0.5Vの間で10サイクルされた。
図8及び9は0.12M及び0.71Mの電解質溶液のボルタモグラムを示す。これらの溶液は10サイクルにわたってめっき電流密度の損失が殆どない状態で可逆的なMgのめっき及び剥離を示した。実質的に電流密度の減衰がないことを示すこれらのプロセスの可逆性は、Mg電極が絶縁膜または不動態膜がないままであることを示唆する。
【0029】
以上の結果から、Mg(PF
6)
2に基づく電解質はGC並びにMg電極を用いたMgの可逆的なめっき及び剥離を促進できることが理解される。この新規な電解質の更なる調査がプロトタイプのコインセル電池で行われた。Mgアノードとシェブレル(Chevrel)相のカソード(Mo
3S
4)とを用いて組み立てられたコインセルにおいて、0.71Mの電解質溶液が用いられた。ステンレス鋼上でのこの電解質の観測された反応性によって、起こり得る副反応を制限するために、非反応性のカーボン膜集電体が採用された。C/100でサイクルされたコインセルは可逆的な充電−放電プロファイルを示した(Al集電体と、カーボン膜(カーボンが充填された、Goodfellow Cambridge Limitedから購入されたポリエチレン)集電体とともに、
図10及び11にそれぞれ示される)。これらのセルは少なくとも3サイクルでき、容量の穏やかな低下(fade)に悩まされつつ、Al及びカーボン膜のセルについてそれぞれ51mAhg
−1及び53mAhg
−1の最大可逆容量に到達した。この観測された低下は多くのMgイオンシステムについて共通であることが理解される。