特許第6293876号(P6293876)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6293876
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】ボーリング工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 29/034 20060101AFI20180305BHJP
   B23B 29/12 20060101ALI20180305BHJP
   B23B 27/10 20060101ALN20180305BHJP
【FI】
   B23B29/034 B
   B23B29/12 Z
   !B23B27/10
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-517767(P2016-517767)
(86)(22)【出願日】2014年5月8日
(86)【国際出願番号】JP2014062401
(87)【国際公開番号】WO2015170390
(87)【国際公開日】20151112
【審査請求日】2017年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000205834
【氏名又は名称】BIG DAISHOWA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】緒方 達也
【審査官】 山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−221400(JP,A)
【文献】 特開平10−166219(JP,A)
【文献】 特開平8−25111(JP,A)
【文献】 特開平5−96444(JP,A)
【文献】 米国特許第4168925(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 29/034,29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転工作機械の主軸に装着される工具本体と、
前記工具本体の先端面に取付けられ、切刃を有し径方向に位置調整可能な複数のカートリッジと、を備え、
前記工具本体にその回転軸方向に切削液を搬送する通液路を備え、
前記切削液の吐出孔が、前記先端面において前記複数のカートリッジの間に設けられた第1吐出孔によって構成され、
前記複数のカートリッジの少なくとも1つに調整可能な当該カートリッジの位置に係わりなく前記第1吐出孔から吐出される前記切削液が流通する流通部が設けてあるボーリング工具。
【請求項2】
回転工作機械の主軸に装着される工具本体と、
前記工具本体の先端面に取付けられ、切刃を有し径方向に位置調整可能な複数のカートリッジと、を備え、
前記工具本体にその回転軸方向に切削液を搬送する通液路を備え、
前記切削液の吐出孔が、前記先端面において前記複数のカートリッジの間に設けられた第1吐出孔と、前記工具本体の外周部に設けられ前記切刃の刃先に向く第2吐出孔とによって構成され、
前記第1吐出孔及び前記第2吐出孔に前記切削液の吐出量を調整する調整機構を設け
前記複数のカートリッジの少なくとも1つに調整可能な当該カートリッジの位置に係わりなく前記第1吐出孔から吐出される前記切削液が流通する流通部が設けてあるボーリング工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内面加工用のボーリング工具に関する。
【背景技術】
【0002】
内面加工用のボーリング工具は、被加工物に形成された穿孔部の内面の粗加工や精密仕上げのために用いられる。特許文献1には、工具本体(台座部)に対して略180度オフセットされた状態に2つの切刃が配置されたボーリング工具(ボーリングヘッド)が開示されている。
【0003】
ボーリング工具による内面加工の際には、切刃が被加工物との摩擦や伝熱等により発熱し、切刃が切屑を巻き込んだりして、切刃が摩耗し易くなる。特許文献1のボーリング工具では、切刃を備えるカートリッジ(工具マウント部材)に、切刃に向けて切削液を噴射する噴射口を設けている。これにより、切削液によって切屑や切刃を冷却し、又は切刃への切屑の付着を防止して切刃の摩耗を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−221400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
止まり穴の内面加工を行う場合、切刃の下方に生じた切屑は工具本体の外周と止まり穴との隙間から外部へ排出する必要がある。しかし、特許文献1のボーリング工具を用いて刃先に切削油を噴射すると、切削油によって切屑の排出の流れが阻害されることがある。そうなると、穴底に切屑が堆積され、切屑の詰まりや切刃に切屑が噛み込む原因となる。特に、切屑の排出スペースが小さい小径穴の加工においては、こうした不具合はより顕著に現れる。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、切刃の摩耗を抑制しつつ各種形状の穿孔部を加工できるボーリング工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るボーリング工具の特徴構成は、回転工作機械の主軸に装着される工具本体と、前記工具本体の先端面に取付けられ、切刃を有し径方向に位置調整可能な複数のカートリッジと、を備え、前記工具本体にその回転軸方向に切削液を搬送する通液路を備え、前記切削液の吐出孔が、前記先端面において前記複数のカートリッジの間に設けられた第1吐出孔によって構成され、前記複数のカートリッジの少なくとも1つに調整可能な当該カートリッジの位置に係わりなく前記第1吐出孔から吐出される前記切削液が流通する流通部が設けてある点にある。また、本発明に係るボーリング工具の特徴構成は、回転工作機械の主軸に装着される工具本体と、前記工具本体の先端面に取付けられ、切刃を有し径方向に位置調整可能な複数のカートリッジと、を備え、前記工具本体にその回転軸方向に切削液を搬送する通液路を備え、前記切削液の吐出孔が、前記先端面において前記複数のカートリッジの間に設けられた第1吐出孔と、前記工具本体の外周部に設けられ前記切刃の刃先に向く第2吐出孔とによって構成され、前記第1吐出孔及び前記第2吐出孔に前記切削液の吐出量を調整する調整機構を設け、前記複数のカートリッジの少なくとも1つに調整可能な当該カートリッジの位置に係わりなく前記第1吐出孔から吐出される前記切削液が流通する流通部が設けてある点にある。
【0008】
本構成の如く、切削液の吐出孔が、工具本体の先端面に設けられた第1吐出孔と、工具本体の外周部に設けられた第2吐出孔で構成されていると、第1吐出孔については、止まり穴の内面加工時に、被加工物の穴底に向けて切削液を吐出することができる。第1吐出孔から吐出された切削液は、穴底で反射し穴部の内壁に沿って上昇して開口部へと向かう流れを形成する。これにより、切屑は穴底に堆積することなく工具本体の周囲から排出される。
【0009】
他方、貫通穴の内面加工の際には、第2吐出孔から刃先に向けて吐出される切削液によって、刃先が冷却され刃先への切屑の付着が防止される。
本構成のボーリング工具であれば、このように第1吐出孔による工具本体の回転軸方向への切削液の供給と、第2吐出孔による刃先への切削液の供給とを行うことができる。すなわち、穿孔部に向けて第1吐出孔と第2吐出孔との両方から切削液を供給することができる。その結果、切屑の排出効果及び刃先の冷却効果を高めて切刃の摩耗を抑制することができる。
【0010】
【0011】
第1吐出孔及び第2吐出孔から吐出される切削液の吐出量を調整するために、例えば切削液の供給元において供給量を変更する構成が考えられる。この場合、第1吐出孔からの切削液の吐出量と第2吐出孔からの切削液の吐出量とを各別に調整するためには、第1吐出孔に連通する通液路と第2吐出孔に連通する通液路とを別々に設ける必要があり、そのための工具本体の内部加工が別途必要になる。
そこで、本構成では、第1吐出孔及び第2吐出孔に切削液の吐出量を調整する調整機構を設けている。これにより、工具本体の内部加工を必要最小限にでき、簡単な構成にて穿孔部の加工条件に応じて、第1吐出孔及び第2吐出孔から吐出される切削液の吐出量を容易に調整することができる。その結果、例えば切屑の排出を優先して第1吐出孔からの切削液の吐出量が増すよう調整したり、刃先の冷却を優先して第2吐出孔からの切削液の吐出量が増すよう調整することができる。
【0012】
【0013】
カートリッジは、内面加工する径に応じて、工具本体の先端面において径方向に位置調整される。このため、第1吐出孔から吐出される切削液の供給方向に対して位置調整されたカートリッジが邪魔になることがある。しかし、本構成であれば、カートリッジに調整可能な当該カートリッジの位置に係わりなく切削液が流通する流通部が設けられているので、流通部によって切削液を確実に加工対象の穿孔部に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】は、ボーリング工具の分解斜視図である。
図2】は、ボーリング工具の斜視図である。
図3】は、ボーリング工具の先端側の正面図である
図4】は、止まり穴に内面加工を施している状態を示す図である。
図5】は、止まり穴に内面加工を施している状態のボーリング工具の部分断面図である。
図6】は、ボーリング工具の部分断面図である。
図7】は、貫通穴に内面加工を施している状態のボーリング工具の部分断面図である。
図8】は、止まり穴に内面加工を施している状態のボーリング工具の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1図3に、本発明によるボーリング工具1を示す。ボーリング工具1は、回転工作機械の主軸(図示しない)に装着される工具本体2と、切刃5を有するカートリッジ3とを備える。2つのカートリッジ3が、工具本体2の先端面7に略180度オフセットされた状態で取付けられており、径方向に位置調整が可能である。切刃5は、締付けネジ8によってカートリッジ3の各々に取付けられており、交換可能に構成されている。
【0016】
カートリッジ3は、クランプねじ9によって工具本体2に各々装着される。先端面7には全体にセレーション加工(セレーション部7a)が施されており、カートリッジ3の装着面10にもセレーション部7aに対応する凹凸加工が施されている。先端面7には、クランプねじ9が挿入されるねじ穴11が2つ設けられている。クランプねじ9はカートリッジ3に設けられた長円形孔12を通してねじ穴11に挿入されている。クランプねじ9を緩めれば、カートリッジ3を長円形孔12が許容する範囲内で個別に径方向に位置調整することができる。
【0017】
カートリッジ3には、先端面7の外周に沿う外壁部から長円形孔12に向けて径方向に貫通孔13が形成されている。図6に示すように、貫通孔13は先端面7のセレーション部7aに沿う方向に設けられており、貫通孔13に調整ねじ14が内装されている。調整ねじ14はクランプねじ9とカートリッジ3との相対位置を変更するものであり、例えばホロセット(芋ねじ)で構成されている。貫通孔13の外方から調整ねじ14を例えば時計回りに回転させると、貫通孔13から長円形孔12に挿入されているクランプねじ9に向けて調整ねじ14の先端部が露出してクランプねじ9を押圧する。すなわち、調整ねじ14がクランプねじ9とカートリッジ3の長円形孔12の内周面との間に位置する。これにより、カートリッジ3はクランプねじ9から相対的に離間し先端面7のセレーション部7aに沿って径方向外方に移動する。
【0018】
調整ねじ14を例えば反時計回りに回転させると貫通孔13から露出した調整ねじ14の先端部は引退する。こうして、調整ねじ14の操作によってカートリッジ3の径方向の位置を変更することができる。
【0019】
工具本体2は、シャンク部21と、シャンク部21の先端側に連続する本体部22とを備える。シャンク部21と本体部22とは共に円柱状に形成され、本体部22の方が小径である。本体部22の外周部にはシャンク部21の先端側から先端面7に向けて連続する溝部23が形成されている。溝部23は切屑が通過できる幅広形状であって回転軸芯に沿う方向から時計回りの方向に傾斜し、溝部23の先端側(先端面7の側)は切刃5の下手側を臨んでいる。溝部23によって切屑の外部への排出が促進される。溝部23をできるだけ深い溝にすることで、切屑が溝部23から排出され易くなる。
【0020】
工具本体2には、切削液を搬送する通液路24が回転軸方向に設けられている。切削液の吐出孔として、工具本体2の先端面7の中央に第1吐出孔25が形成され、工具本体2の本体部22の外周部に第2吐出孔26が形成されている。第2吐出孔26は溝部23に形成されており、先端面7に近接する位置に設けられている。第1吐出孔25及び第2吐出孔26は、いずれも通液路24に連通している。
【0021】
第1吐出孔25は、2つのカートリッジ3の間に配置されており、加工対象の穿孔部の底部に向けて切削液を供給する。カートリッジ3において、第1吐出孔25に面する内方側部には第1吐出孔25から吐出する切削液が流通する流通部27として凹部が形成されている。カートリッジ3は、内面加工する径に応じて、工具本体2の先端面7において径方向に位置が調整される。このため、流通部(凹部)27は、調整可能なカートリッジ3の位置に係わりなく第1吐出孔25から吐出される切削液が流通する形状で構成されている。第2吐出孔26は、カートリッジ3に対して1つずつ設けられおり、刃先に向けて切削液を供給する。
【0022】
ボーリング工具1には、第1吐出孔25及び第2吐出孔26に切削液の吐出量を調整可能にする調整機構が設けられている。図7に示すように、第1吐出孔25の内面に雌ねじ部25aが形成され、第2吐出孔26の内面に雌ねじ部26aが形成されている。調整機構は、雌ねじ部25a,26aと、当該雌ねじ部25a,26aに螺合可能なねじ部材28とで構成されており、このねじ部材28には任意の径で貫通孔が形成されている。第1吐出孔25及び第2吐出孔26に対し、貫通孔の径が異なるねじ部材28を付け替えることで、第1吐出孔25及び第2吐出孔26から吐出される切削液の吐出量(流量及び流速)を簡易に変更することができる。その結果、例えば切屑の排出を優先して第1吐出孔25からの切削液の吐出量が増すよう調整したり、刃先の冷却を優先して第2吐出孔26からの切削液の吐出量が増すよう調整することができる。
【0023】
調整機構(雌ねじ部25a,26a及びねじ部材28)は、第1吐出孔25及び第2吐出孔26からの切削液の吐出を各別に遮断可能に構成されてもよい。上述のねじ部材28を貫通孔のない形状にすることで、第1吐出孔25及び第2吐出孔26からの切削液の吐出を各別に遮断することができる。これにより、簡単な構成にて穿孔部30の加工条件に応じて、刃先及び穿孔部30の底部31の一方に切削液を供給する形態と、刃先及び穿孔部30の底部31の両方に切削液を供給する形態との切替えを容易に行うことができる。
【0024】
図4及び図5に示すように、ボーリング工具1を用いて止まり穴の内面加工をする際には、第1吐出孔25及び第2吐出孔26は開放状態にする。こうすると、第1吐出孔25から被加工物Aの穿孔部30の底部31に向けて切削液が供給されるとともに、第2吐出孔26から切刃5の刃先に向けて切削液が供給される。第1吐出孔25から吐出される切削液が被加工物Aの穿孔部30の底部31に反射して、穿孔部30の内壁面に沿って上昇して開口部へと向かう流れを形成する。これにより、切屑は底部31に堆積することなく工具本体2の周囲から外方へ排出される。また、第2吐出孔26から供給された切削液によって切刃5が冷却されつつ切刃5への切屑の付着も防止される。
【0025】
図7に示すように、貫通穴の内面加工の際には、貫通孔を有しないねじ部材28を第1吐出孔25の雌ねじ部25aに螺合して第1吐出孔25を遮蔽する。これにより、切削液は第2吐出孔26からのみ吐出され、切刃5の刃先が冷却されるとともに切刃5への切屑の付着が抑制されて、切刃5の摩耗を抑制することができる。
【0026】
[その他の実施形態]
(1)本発明によるボーリング工具1は、シャンク部21に代えて、連結軸を備えるものであってもよい。
【0027】
(2)上記の実施形態では、カートリッジ3に第1吐出孔25から吐出される切削液が流通する流通部27として凹部を形成する例を示したが、流通部27としてカートリッジ3に孔部を形成してもよい。流通部27は複数のカートリッジ3の一部にのみ設けてもよい。また、複数のカートリッジ3を装着した状態において第1吐出孔25の吐出領域が確保されている場合には、カートリッジ3に流通部27を設けなくてもよい。
【0028】
(3)本発明によるボーリング工具1は、止まり穴の内面加工の際に、第2吐出孔26をねじ部材28によって遮蔽し、第1吐出孔25による回転軸方向への切削液の供給のみを行うよう構成してもよい(図8)。
【0029】
(4)上記の実施形態では、切削液の吐出量の調整する調整機構が雌ねじ部25a,26aとねじ部材28とによって構成される例を示したが、この調整機構は第1吐出孔25及び第2吐出孔26からの切削液の吐出量を変更可能にする構成であれば特に限定されない。調整機構は、例えばカバー体等によって第1吐出孔25及び第2吐出孔26の一部または全部を遮蔽する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0030】
1 ボーリング工具
2 工具本体
3 カートリッジ
5 切刃
7 先端面
9 クランプねじ
12 長円形孔
13 貫通孔
14 調整ねじ
21 シャンク部
22 本体部
24 通液路
25 第1吐出孔
26 第2吐出孔
27 流通部
28 ねじ部材
30 穿孔部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8