(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る分注チップ装着用ヘッド装置1の実施形態を、図面に基づいて詳細に説明する。この実施形態においては、分注チップによる吸引及び吐出の対象物が生体由来の細胞、特に細胞凝集塊を含む細胞培養液である場合について説明する。なお、液体は細胞培養液に限られるものではなく、各種の対象物を含む医療用液体、食品産業用液体、工業用の液体等であっても良い。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係るヘッド装置1の外観を示す斜視図、
図2は、
図1の要部を拡大した斜視図、
図3は、ヘッド装置1の側断面図である。ヘッド装置1は、細胞凝集塊を含む細胞培養液(対象物を含む液体)の吸引、及び吸引した細胞培養液の吐出を行う分注チップ80が装着される装置である。ヘッド装置1は、第1ボールねじ装置10(第1軸部材)と、第1ボールねじ装置10によって上下方向(Z方向)に移動されるピストン部材14と、分注チップ80が装着されるヘッド15(筒状ロッド)と、第1ボールねじ装置10及びヘッド15が搭載される第1フレーム21と、第1フレーム21を上下方向に移動させる第2ボールねじ装置30(第2軸部材)と、第2ボールねじ装置30が搭載される第2フレーム22とを備えている。
【0013】
第1ボールねじ装置10は、ピストン部材14が係合され、該ピストン部材14を上下方向に移動させる。第1ボールねじ装置10は、Z方向に配置された、第1モータ11、カップリング111、上端軸受け112、第1ねじ軸12及び第1ナット部材13を含む。第1モータ11は、第1ねじ軸12を軸回りに正回転及び逆回転させる回転駆動力を発生するモータである。カップリング111は、第1モータ11の出力軸と第1ねじ軸12の上端とを連結する部材である。上端軸受け112は、第1ねじ軸12の上端を回転自在に支持する。第1ねじ軸12は、Z方向に延び、周面に雄ねじが刻まれている。第1ナット部材13は、雌ねじを内面に有し、第1ねじ軸12に係合されている。第1ねじ軸12が正回転又は逆回転することで、第1ナット部材13は上方(+Z)又は下方(−Z)に移動する。ピストン部材14は、この第1ナット部材13に係合される。
【0014】
ピストン部材14は、Z方向に長い部材であって、上端部141と、下端部143と、上端部141と下端部143との間の中間部142とを有する部材である。
図3の要部拡大断面図である
図10も参照して、上端部141は、中間部142及び下端部143に比べて径大の円筒状部分であり、その内周面に第1ナット部材13に固定される係合部(ねじ部)を備えている。第1ナット部材13は、−Z側に筒状部と、+Z側にフランジ部とを備える。前記筒状部が上端部141の筒内に嵌め込まれ、前記フランジ部が上端部141の上面で保持された状態で、第1ナット部材13は上端部141ねじ止めされている。これにより、ピストン部材14は、第1ナット部材13の上下方向の移動に連動して、上下方向に移動する。
【0015】
下端部143は、次述のヘッド15のシリンダ空間15Hに収容される円柱状部分であり、その周面にシール部材144が備えられている。シール部材144は樹脂製のシールリングであり、ピストン部材14の下端面付近の周面に設けられたシール溝に嵌め込まれている。中間部142は、下端部143と同じ外径を有する円筒状部分であり、その内部に第1ねじ軸12を収容する収容空間14Hを内部に備えている。収容空間14Hは、Z方向に延びる円柱空間であり、第1ねじ軸12の外径よりもやや大きい内径を備えている。第1ナット部材13が下方に移動した状態(
図1及び
図2)では、第1ねじ軸12は収容空間14Hに比較的浅く嵌り込む(
図12も参照)。一方、第1ナット部材13が上方に移動した状態(
図3及び
図10)では、第1ねじ軸12は収容空間14Hに比較的深く嵌り込む。
【0016】
ヘッド15は、第1フレーム21に固定され、ピストン部材14対しては不動の円筒状部材である。ヘッド15は、上下方向に連なる第1部分151及び第2部分152を含むヘッド本体部150(ロッド本体部)と、このヘッド本体部150の下端に着脱可能に装着される交換部153とを備えている。
【0017】
第1部分151は、ピストン部材14の下端部143を上下方向に移動可能に収容するシリンダ空間15Hを内部に備えている。シリンダ空間15Hは、下端部143の外径よりもやや大きい内径を有する円柱空間である。シール部材144は、シリンダ空間15Hを区画する第1部分151の内壁面に密に摺接する。第2部分152は、シリンダ空間15Hに連通し、シリンダ空間15Hよりも小さい内径の筒状空間152Hを内部に備えている。交換部153は、筒状空間152H及びシリンダ空間15Hに連通する筒状空間153Hを内部に備えており、その上端が第2部分152の下端にねじ接続される。交換部153の下端付近の外周面は、分注チップ80が嵌め込み装着されるチップ装着部153Aである(
図6参照)。
【0018】
第2ボールねじ装置30は、第1ボールねじ装置10及びヘッド15が搭載された第1フレーム21を、上下方向に移動させるための軸部材である。第2ボールねじ装置30は、Z方向に配置された、第2モータ31、カップリング311、上端軸受け312、第2ねじ軸32及び第2ナット部材33を含む。
【0019】
第2モータ31は、第2ねじ軸32を軸回りに正回転及び逆回転させる回転駆動力を発生するモータである。カップリング311は、第2モータ31の出力軸と第2ねじ軸32の上端とを連結する部材である。上端軸受け312は、第2ねじ軸32の上端を回転自在に支持する。第2ねじ軸32は、Z方向に延び、周面に雄ねじが刻まれている。第2ナット部材33は、雌ねじを内面に有し、第2ねじ軸32に係合されている。第2ねじ軸32が正回転又は逆回転することで、第2ナット部材33は上方(+Z)又は下方(−Z)に移動する。第1フレーム21は、第2ナット部材33に固定されている。
【0020】
第1フレーム21は、ヘッド15を固定的に保持する役目、第2ナット部材33と連動することでヘッド15を上下方向に移動させる役目、及び第1ボールねじ装置10を保持する役目を果たす。第1フレーム21は、主フレーム部211、主フレーム部211の下方から−X方向に突出した下フレーム部212、主フレーム部211の上方から−X方向に突出した上フレーム部213、主フレーム部211の+X方向側面に配置された被ガイド部214を備えている。
【0021】
主フレーム部211は、
図10に示すように、第2ねじ軸32を上下方向に貫通させる孔を備えている。主フレーム部211の上端には、第2ナット部材33を保持するための保持孔211Aが形成されている。第2ナット部材33は、−Z側に筒状部と、+Z側にフランジ部とを備える。前記筒状部が保持孔211Aに嵌め込まれ、前記フランジ部が主フレーム部211の上面で保持された状態で、第2ナット部材33は主フレーム部211にねじ止めされている。これにより、第1フレーム21は、第2ナット部材33の上下方向の移動に連動して、上下方向に移動する。
【0022】
下フレーム部212は、ヘッド15の上端部を固定的に保持するための部位である。下フレーム部212の−X側の側面には、ヘッド15の+X側の半面を収容できる断面半円状の縦溝が設けられている。ヘッド15の−X側の半面には、同様な断面半円状の縦溝を備えた保持ピース215が添設されている。下フレーム部212及び保持ピース215の前記縦溝によってヘッド15の上端部を挟んだ状態で、下フレーム部212が保持ピース215に対してねじ止め固定されることによって、ヘッド15は第1フレーム21に固定されている。
【0023】
上フレーム部213は、ピストン部材14の中間部142を上下方向に貫通させる孔を備えている。上フレーム部213の−X側の端部からは、第1ボールねじ装置10を保持するための保持フレーム23が立設されている。保持フレーム23は、
図2に示すように、垂直フレーム231と、垂直フレーム231の上端から+X方向に突設された上段フレーム232及び下段フレーム233とを含む。垂直フレーム231には、上下方向に延びるガイドレール234(
図10)が取り付けられている。このガイドレール234には、ピストン部材14の上端部141に付設された被ガイド部145が係合されている。ピストン部材14は、第1ナット部材13が上下動するとき、ガイドレール234にガイドされつつ上下動する。上段フレーム232には、第1モータ11が固定されている。下段フレーム233には、上端軸受け112が固定されている。
【0024】
第2フレーム22は、第2ボールねじ装置30を保持する役目、第1フレーム21の上下方向の移動をガイドする役目、及びヘッド15の上下方向の移動をガイドする役目を果たす。第2フレーム22は、縦フレーム221と、縦フレーム221の下端224から−X方向に突設された横フレーム225と、横フレーム225の下面から−Z方向に突設されたアーム部材24(ガイド部)とを備えている。
【0025】
縦フレーム221は上下方向に延びる矩形のフレームであり、その−X側の側面には上下方向に延びるガイドレール222が取り付けられている。ガイドレール222には先述の第1フレーム21の被ガイド部214が嵌め込まれている。これにより、第1フレーム21は、第2ボールねじ装置30の駆動時においてガイドレール222に沿ってガイドされつつ、上下方向に移動することができる。縦フレーム221の上端223には、上端軸受け312を保持するL字フレーム226が取り付けられている。L字フレーム226の上端には、第2モータ31を保持するための保持フレーム227が固定されている。
【0026】
横フレーム225は、X方向に延びる矩形のフレームであり、第2ねじ軸32の下端を回転自在に支持する軸受け部251と、ヘッド15を上下方向に貫通させる貫通孔252とを備える。第1フレーム21と共にヘッド15が上下方向に移動する際、貫通孔252の内壁面によってヘッド15の揺動が規制される。横フレーム225の下面には、アーム部材24がねじ253(
図10)によって組み付けられている。
【0027】
アーム部材24は、第1フレーム21の上下方向の移動に伴うヘッド15(ヘッド本体部150)の上下方向の移動をガイドする。また、アーム部材24は、ヘッド15に装着された分注チップ80を当該ヘッド部15から離脱させるための機能も果たす。この点については、後記で詳述する。アーム部材24は、−X方向に開口したU字型のガイド凹部241を備えたガイド板242と、垂直アーム243とを備えている。
【0028】
ガイド板242は、水平方向に延びる板材である。ガイド凹部241のY方向の開口幅、及びU字型開口の底部の半円面は、円筒形状を有するヘッド15の外径よりも僅かに大きい幅、及び内径を有している。従って、ガイド凹部241をヘッド15に対して側方から嵌め込むことができる。垂直アーム243は、横フレーム225の下面から下方向に突出する板材である。ガイド板242の+X方向端部が、垂直アーム243の下端面に、ねじ253にて固定されている。ねじ253は、ガイド板242及び垂直アーム243を下から上方向に貫通し、横フレーム225の下面に形成されたねじ孔に螺合されている。
【0029】
図4は、ヘッド装置1の斜視図であって、ヘッド15が+Z方向に上昇している状態を示す図である。この状態では、第2ボールねじ装置30の駆動によって、第1フレーム21が、第2フレーム22に対して相対的に上昇される。すなわち、第1フレーム21は、ガイドレール222に沿った可動域の+Z上限付近に位置している。これに伴い、第1フレーム21に保持されている第1ボールねじ装置10及びヘッド15も上昇した状態となる。
図4では、第1モータ11の給電ケーブルを保護する屈曲保護部材25を付記している。屈曲保護部材25は上方に向けて凸に湾曲した部分であり、第1フレーム21の上下動に追従して変形する。
【0030】
ヘッド15の上昇によって、ヘッド15の下端に装着されている分注チップ80のZ方向高さ位置も上昇している。具体的には、分注チップ80の上端がアーム部材24の下方直近に位置している状態である。このような高さ位置に分注チップ80が配置されるのは、例えば、細胞凝集塊が分散された細胞培養液の吸引を終え、吐出先となるディッシュの配置位置までヘッド装置1がXY方向に移動される際である。
【0031】
図5は、ヘッド15が−Z方向に下降している状態を示す図である。この状態では、第2ボールねじ装置30の駆動によって、第1フレーム21は、ガイドレール222に沿った可動域の−Z下限付近に位置し、第2フレーム22の横フレーム225に近接した状態となる。これに伴い、第1ボールねじ装置10及びヘッド15も下降した状態となる。ヘッド15は、横フレーム225から大きく下方に突出した状態に至る。
【0032】
ヘッド15の下降によって、分注チップ80のZ方向高さ位置も下降する。このような下降位置に分注チップ80が配置されるのは、例えば、分注チップ80にて細胞培養液を貯留するチューブから細胞培養液を吸引する際、或いは、吸引した細胞培養液を、他のディッシュに吐出する際である。
【0033】
続いて、本実施形態のヘッド15に装着される分注チップ80について説明する。
図6は、ヘッド15に装着された状態の分注チップ80の断面図である。分注チップ80は、細長いチューブ状の部材であり、ヘッド15(交換部153)に嵌め込まれる基端部81と、細胞培養液を吸引及び吐出する開口80Tを下端縁に備えた先端部82と、両者の間に延在する中間部83とを含む。中間部83は、基端部81側から先端部82側に向けて、外径が徐々に縮小するテーパ形状を備えている。なお、基端部81の内部にエアーフィルターが組み込まれていても良い。分注チップ80は、交換部153のチップ装着部153Aに対して装着及び取り外しが可能である。チップ装着部153Aは、交換部153の下端付近の外周面である。
【0034】
分注チップ80の内部には、対象物を含む液体を収容することが可能な管状空間80Hが備えられている。この管状空間80Hは、ヘッド15の交換部153内の筒状空間153H、第2部分152内の筒状空間152H、及び第1部分151内のシリンダ空間15Hと連通している。従って、ピストン部材14の上方への移動によって管状空間80Hには吸引力が発生し、ピストン部材14の下方への移動によって管状空間80Hには吐出力が発生する。分注チップ80は、前記吸引力が与えられることで開口80Tから細胞培養液を吸引する一方、前記吐出力を与えられることで吸引した細胞培養液を開口80Tから吐出する。
【0035】
図7(A)及び
図7(B)は、分注チップ80による細胞凝集塊Cを含む細胞培養液Lmの吸引及び吐出動作を模式的に示す図である。ここでは、分注チップ80にて、第1容器C1に貯留されている細胞培養液Lm(細胞凝集塊C)を吸引し、第2容器C2に吸引した細胞培養液Lmを吐出するケースを例示している。
図7(A)は、分注チップ80が第1容器C1から細胞培養液Lmを吸引する吸引動作を、
図7(B)は、吸引した細胞培養液Lmを分注チップ80が第2容器C2に吐出する吐出動作をそれぞれ示している。
【0036】
図7(A)の吸引動作が行われる際、先ず、第1容器C1の上空に分注チップ80が位置するように、ヘッド装置1の位置合わせが行われる。その後、第2ボールねじ装置30の駆動によって、
図5に示すようにヘッド15が下降される。この下降は、分注チップ80の下端の開口80Tが、第1容器C1に貯留されている細胞培養液Lmの液面下に至るまで行われる。しかる後、第1ボールねじ装置10の駆動によってピストン部材14が上昇され、管状空間80Hに吸引力が発生される。この吸引力によって、開口80Tの付近には矢印a1で示す吸引液流が生じ、管状空間80Hに細胞培養液Lmが吸引される。図中の符号Lmaは、管状空間80Hに吸引された細胞培養液を示している。この吸引動作の後、第2ボールねじ装置30の駆動によって、
図4に示すようにヘッド15が上昇される。
【0037】
図7(B)の突出動作が行われる際、第2容器C2の上空に分注チップ80が位置するように、ヘッド装置1がXY方向に移動される。その後、第2ボールねじ装置30の駆動によりヘッド15が下降される。この下降は、分注チップ80の開口80Tが、第2容器C2のキャビティ内へ進入するまで行われる。しかる後、第1ボールねじ装置10の駆動によってピストン部材14が下降され、管状空間80Hに吐出力が発生される。この吸引力によって、管状空間80Hに保持されていた細胞培養液Lmaは、開口80Tから矢印a2で示すように吐出され、第2容器C2に細胞培養液Lmが貯留される。
【0038】
本実施形態では、分注チップ80のヘッド15への装着動作及びヘッド15からの離脱動作も自動化されている。
図8(A)〜(D)は、ヘッド15(交換部153)のチップ装着部153Aへの分注チップ80の着脱動作を説明するための斜視図である。
【0039】
分注チップ80のチップ装着部153Aへの装着時、
図8(A)に示す通り、ヘッド15が立設状態にある1つの分注チップ80の上空に位置合わせされる。そして、第2ボールねじ装置30の駆動によりヘッド15が下降される。この下降により、
図8(B)に示すように、ヘッド15のチップ装着部153Aが分注チップ80の基端部81に嵌り込む。
図8(C)は、分注チップ80が装着されたヘッド15が、第2ボールねじ装置30の駆動により上昇された状態を示している。
【0040】
分注チップ80による細胞培養液の吸引及び吐出動作時には、第2ボールねじ装置30は分注チップ80を
図8(C)の状態よりもさらに上方に引き上げることはない。しかし、分注チップ80のチップ装着部153Aからの取り外し時には、
図8(D)に示すように、ヘッド15がさらに上方に引き上げられる。ヘッド15のさらなる引き上げが進むと、ガイド板242の下端面と分注チップ80の上端縁とが干渉するようになる。前記干渉によって分注チップ80は徐々にチップ装着部153Aから外されて行き、最終的には分注チップ80はチップ装着部153Aから離脱する。
【0041】
以下、
図7(A)及び
図7(B)に示した、分注チップ80による液体(細胞培養液Lm)の吸引及び吐出動作を実現するための詳細構成について、
図9〜
図12に基づき説明する。
図9は、
図7(A)に示した吸引動作のために、ピストン部材14が上昇している状態のヘッド装置1を示す斜視図、
図10は、
図9の状態のヘッド装置1の断面図である。
図11は、
図7(B)に示した吐出動作のために、ピストン部材14が下降している状態のヘッド装置1を示す斜視図、
図12は、
図11の状態のヘッド装置1の断面図である。
【0042】
図9及び
図10を参照して、前記吸引動作時には、第1ナット部材13が上方に移動するように、第1ねじ軸12が第1モータ11によって回転駆動される。このときの第1フレーム21は、その移動範囲の最下位置に設定され、不動とされる。第1ナット部材13が上昇すると、この第1ナット部材13に固定されているピストン部材14も一体的に上昇する。この際、ピストン部材14の収容空間14Hは、第1ねじ軸12の逃がし孔として機能する。上端部141の筒内空間を含めた収容空間14HのZ方向の長さは、第1ねじ軸12よりもやや長目に設定されている。
図9及び
図10では、第1ナット部材13が、第1ねじ軸12に沿った移動可能範囲内において最も上方に移動している状態を示している。この状態では、第1ねじ軸12は収容空間14Hに深く嵌り込み、第1ねじ軸12の下端12Bと収容空間14Hの底面146との間隔は最短となる。
【0043】
このようにピストン部材14が上昇されても、ヘッド15は第1フレーム21に固定的に保持されているため不動である。このため、第1ナット部材13の上昇に伴って、ピストン部材14の下端部143は、シリンダ空間15Hを上方へ移動する。シール部材144によって下端部143とシリンダ空間15Hとの間の密閉性が確保されているので、下端部143の上昇によってシリンダ空間15Hは負圧となる。従って、シリンダ空間15Hと連通している分注チップ80の管状空間80Hに吸引力が発生する。なお、管状空間80H内への液体の吸引量に応じて、ピストン部材14の上昇度合いが調整される。
【0044】
図11及び
図12を参照して、前記吐出動作時には、第1ナット部材13が下方に移動するように、第1ねじ軸12が第1モータ11によって回転駆動される。第1ナット部材13が下降すると、この第1ナット部材13と一体のピストン部材14も下降する。この際、ピストン部材14の収容空間14Hから、第1ねじ軸12が徐々に抜け出ることとなる。
図11及び
図12では、第1ナット部材13が、第1ねじ軸12に沿った移動可能範囲内において最も下方に移動している状態を示している。この状態は、第1ねじ軸12は収容空間14Hに最も浅く嵌り込んだ状態となり、第1ねじ軸12の下端12Bと収容空間14Hの底面146との間隔は最長となる。
【0045】
このため、第1ナット部材13の下降に伴って、ピストン部材14の下端部143は、シリンダ空間15Hを下方へ移動する。この下端部143の下降によって、分注チップ80の管状空間80Hに細胞培養液が存在している場合には、シリンダ空間15Hの空気は加圧される。従って、管状空間80Hに保持されている細胞培養液は、前記加圧力によって分注チップ80から吐出されることになる。
【0046】
続いて、分注チップ80のヘッド15(チップ装着部153A)からの離脱動作を実現する機構について説明する。
図13は、アーム部材24によって分注チップ80がヘッド15から離脱される直前の状態を示す斜視図である。既述の通り、アーム部材24のガイド板242は、ヘッド15の上下方向への移動をガイドする部分であって、ヘッド15の外径よりも僅かに大きい開口幅を有するガイド凹部241を備えている。ガイド凹部241の開口幅は、チップ装着部153Aに装着された分注チップ80の外径よりも小さい幅である。従って、ガイド板242の下端面242Bと分注チップ80の基端部81における上端縁81Aとは、
図13の状態では、互いに対向している。
【0047】
第1ボールねじ装置10の駆動によってヘッド15が、
図13の状態からさらに上方に引き上げられると、ガイド板242の下端面242Bが分注チップ80の上端縁81Aに当接(干渉)し始める。分注チップ80は、チップ装着部153Aに嵌め込まれているだけであり、接着等は為されていない。このため、ヘッド15の上昇に伴って、上端縁81Aは下端面242Bに押圧され、基端部81は徐々にチップ装着部153Aから外されて行く。そして、下端面242Bが上端縁81Aに当接後、チップ装着部153AのZ方向長さ分だけヘッド15が上昇されると、分注チップ80はチップ装着部153Aから離脱し、落下する。
【0048】
図14は、ヘッド装置1の制御構成を示すブロック図である。ヘッド装置1は、第1ボールねじ装置10及び第2ボールねじ装置30の駆動を制御するため、及び、ヘッド装置1自体のX方向、Y方向及びZ方向の移動を制御するための、軸制御部300を備えている。具体的には、軸制御部300は、上述の第1モータ11及び第2モータ31と、上掲の図では不図示のX軸モータ302及びY軸モータ301(ヘッド装置1を水平方向に移動させるヘッド移動機構)とを制御する。
【0049】
軸制御部300は、分注チップ80がヘッド15のチップ装着部153Aに装着された状態において、次の第1制御及び第2制御を実行する。
[第1制御]ピストン部材14の上下方向への移動によって、分注チップ80による細胞凝集塊を含む細胞培養液の吸引及び吐出が行われるよう、第1ボールねじ装置10を制御する(
図7A、
図7B、
図9〜
図12参照)。
[第2制御]第1フレーム21の上方向への移動によって、アーム部材24(ガイド部)と分注チップ80の基端部81とを干渉させ、チップ装着部153Aから分注チップ80を離脱させるよう、第2ボールねじ装置30を制御する(
図8A〜8D、
図13参照)。
【0050】
さらに軸制御部300は、分注チップ80がヘッド15に装着されていない状態において、第1フレーム21の下方向への移動によって、分注チップ80がヘッド15のチップ装着部153Aに装着されるよう、第2ボールねじ装置30を制御する装着制御も実行する。
【0051】
第1モータ11は、第1ねじ軸12を回転させることで第1ナット部材13に一体化されたピストン部材14を上下動させ、上述の通り、分注チップ80による細胞培養液(対象物)の吸引及び吐出を行わせる。第2モータ31は、第2ねじ軸32を回転させることで、ヘッド15が搭載された第1フレーム21をZ方向に移動させる。X軸モータ302は、ヘッド装置1のX方向への移動をガイドするXガイドフレーム(図略)に搭載され、ヘッド装置1をX方向に移動させる。Y軸モータ301は、ヘッド装置1のY方向への移動をガイドするYガイドフレーム(図略)に搭載され、ヘッド装置1をY方向に移動させる。
【0052】
軸制御部300は、第1モータ11の駆動を制御することによって、第1ナット部材13の上下方向の動作を制御し、これにより上記の第1制御を実行する。吸引動作の際、軸制御部300は、第1モータ11を正方向に所定時間回転させることによりピストン部材14を所定距離だけ上昇させ、分注チップ80内に所定量の細胞培養液を吸引させる。吐出動作の際、軸制御部300は、第1モータ11を逆方向に所定時間回転させることによりピストン部材14を所定距離だけ下降させ、分注チップ80内に保持されている細胞培養液を吐出させる。吸引速度又は吐出速度は、第1モータ11の回転速度によって制御される。
【0053】
また、軸制御部300は、第2モータ31の駆動を制御することによって、第1フレーム21、すなわちヘッド15のZ方向における高さ位置を制御する。この制御により、
図7(A)及び
図7(B)に基づき説明した、第1容器C1又は第2容器C2に対する分注チップ80の下降及び上昇が実行される。この際、軸制御部300は、第2モータ31を正方向又は逆方向に所定時間回転させることにより、ヘッド15を通常移動範囲内(
図8(B)及び
図8(C)の範囲内)で上下方向に移動させる。
【0054】
さらに、軸制御部300による第2モータ31の制御によって、上記の第2制御及び装着制御を実行させる。前記第2制御の際、軸制御部300は、ヘッド15を前記通常移動範囲の上限よりもさらに上方に移動させ(
図8(D)参照)、チップ装着部153Aから分注チップ80を離脱させる。前記装着制御の際、軸制御部300は、ヘッド15のチップ装着部153Aと分注チップ80の基端部81とが上下方向に位置合わせされた状態で(
図8(A)参照)、チップ装着部153Aを基端部81に嵌り込ませるのに必要な移動量だけ、ヘッド15を下降させる。
【0055】
上記の制御に加え、軸制御部300は、X軸モータ302及びY軸モータ301の駆動を制御することによって、ヘッド装置1のX方向及びY方向への移動を制御する。例えば、
図7(A)及び
図7(B)に示すように第1容器C1及び第2容器C2が存在する場合に、ヘッド15(分注チップ80)が第1容器C1の上空から第2容器C2の上空に移動するよう、軸制御部300はX軸モータ302及びY軸モータ301を制御し、ヘッド装置1を移動させる。
【0056】
以上説明した通り、本実施形態の分注チップ装着用ヘッド装置1によれば、第1ボールねじ装置10の駆動によるピストン部材14の上下方向への移動(第1制御)によって、分注チップ80に細胞培養液(対象物を含む液体)の吸引及びその吐出を実行させることができる。さらに、第2ボールねじ装置30の駆動による1フレーム21の上方向への移動(第2制御)によって、ヘッド15のチップ装着部153Aから分注チップ80を自動的に離脱させることができる。従って、分注チップ80を用いた細胞培養液の吸引及び吐出の作業、使用後に分注チップ80を廃棄する必要がある場合における当該分注チップ80の廃棄作業を、高度に自動化することができる。
【0057】
また、ヘッド装置1によれば、ヘッド15から分注チップ80の取り外しが、ヘッド15の外径よりも僅かに大きい開口幅(内径)を有するガイド凹部241を備えるアーム部材24によって行われる。このため、アーム部材24に対するヘッド15の単純な上方向移動によって、チップ装着部153Aから分注チップ80を離脱させることができる。
【0058】
さらに、ヘッド装置1によれば、ヘッド15のうち、実際に分注チップ80が装着される交換部153だけを交換することができる。従って、チップ装着部153Aが汚濁した場合等にあっては、交換部153をロッド本体部150の下端から取り外してこれを清掃することができる。また、異なる口径の分注チップ80をヘッド15に装着させる場合に、その口径にマッチした別の交換部153をロッド本体部150に取り付ければ、迅速に口径変更に対応することができる。
【0059】
続いて、本実施形態に係る分注チップ装着用ヘッド装置1が好適に適用される細胞の移動装置4を例示する。
図15は、移動装置4の斜視図、
図16は、ヘッド装置1が組み込まれたヘッドユニット61の斜視図である。移動装置4は、支持フレーム41、支持フレーム41によって支持される基台42、基台42に組み付けられる細胞移動ライン50、基台42の上方に配置されるヘッドユニット61及び照明ユニット62、及び、基台42の下方に配置される撮像ユニット63を備えている。
【0060】
支持フレーム41は、基礎フレーム411と、一対のサイドフレーム412とを含む。基礎フレーム411は、X方向に長い直方体形状のフレーム組立体であり、矩形の下層フレーム枠411Aと、その上の上層フレーム枠411Bとを含む。上層フレーム枠411Bの上面には、撮像ユニット63をX方向に移動させるためのガイドレール413が備えられている。基台42は、所定の剛性を有し、その一部又は全部が透光性の材料で形成され、上面視において基礎フレーム411と略同じサイズを有する長方形の平板である。
【0061】
基台42の上には、フレーム架台43が立設されている。フレーム架台43は、X方向に延びる平板である上フレーム431及び中フレーム432を備える。上フレーム431の上面には、ヘッドユニット61をX方向に沿って移動させるための上ガイドレール433が組み付けられている。また、中フレーム432の上面には、照明ユニット62をX方向に沿って移動させるための中ガイドレール434が組み付けられている。
【0062】
細胞移動ライン50は、細胞含有液から所望の細胞凝集塊を抽出し、これを所定の容器へ移動させる一連の細胞移動工程の実施に必要なエレメントが、X方向に配列されてなる。細胞移動ライン50は、細胞含有液を貯留する対象物ストック部51、分注チップストック部52、細胞含有液が分注され細胞凝集塊を選別するための細胞選別部53、チップストック部54、チップ撮像部55、選別された細胞凝集塊を受け入れる細胞移載部56、ブラックカバー載置部57及びチップ廃棄部58を備えている。ここでは、対象物ストック部51に含まれる容器が、
図7(A)に示した第1容器C1に相当する容器であり、細胞選別部53に含まれる容器が、
図7(B)に示した第2容器C2に相当する容器である。
【0063】
ヘッドユニット61は、ユニット本体611、ヘッド部612、Xスライダ613及びYスライダ614を含む。
図16に示すように、ヘッド部612は、複数本のシリンダチップ70が装着される複数のシリンダチップヘッド615、上記で説明した分注チップ80の装着用のヘッド15、及びノズル616を備えている。本実施形態では、8本のシリンダチップヘッド615がX方向に一列に配列されている例を示している。シリンダチップヘッド615の本数は任意であり、またX−Y方向にマトリクス状に配列されていても良い。ノズル616は、上下動が可能にユニット本体611に組み付けられ、下端に吸盤617を備えている。ユニット本体611の内部には、
図1〜
図5に示した第1、第2ボールねじ装置10、30などの、ヘッド15をZ方向に移動させるための機構、及びシリンダチップヘッド615をZ方向に移動させるための機構が内蔵されている。
【0064】
Xスライダ613は、上ガイドレール433に対して組み付けられている。上ガイドレール433には、
図14のX軸モータ302に相当するX駆動モータ441が付設されている。X駆動モータ441の動作によって、Xスライダ613は上ガイドレール433上をX方向に移動する。Yスライダ614は、Y方向の一端(前端)においてユニット本体611を支持している。Yスライダ614は、Xスライダ613の上面に配置されたYレール(
図15には現れていない)に対して組み付けられている。前記Yレールに付設された図略の駆動モータ(
図14のY軸モータ301に相当)が動作することで、Yスライダ614及びユニット本体611はY方向に移動する。つまり、ヘッド部612は、ユニット本体611が上ガイドレール433及び前記Yレールに沿って移動することで、X方向及びY方向に移動自在である。従って、ヘッド部612は、基台42の上方において、細胞移動ライン50上を所定の移動経路に沿って移動することができる。
【0065】
照明ユニット62は、専ら細胞選別部53及び細胞移載部56を上方から照明するために、基台42の上方に移動可能に配置されている。前記照明は、細胞選別部53又は細胞移載部56に保持されている細胞凝集塊を撮像ユニット63にて撮像する際に、透過照明として使用される。照明ユニット62は、照明光を発する照明器621、Xスライダ622及びホルダー623を含む。Xスライダ622は、中ガイドレール434に対して組み付けられている。中ガイドレール434には、照明ユニット駆動モータ443が付設されている。駆動モータ443の動作によって、Xスライダ622は中ガイドレール434上をX方向に移動する。ホルダー623は、照明器621を保持すると共に、図略の駆動装置によってXスライダ622に対してY方向に短距離だけ移動可能に組み付けられている。従って、照明器621は、基台42の上方において、X方向及びY方向に移動可能である。
【0066】
撮像ユニット63は、細胞選別部53及び細胞移載部56に保持されている細胞凝集塊を基台42の下方から撮像するために、基台42の下方に移動可能に配置されている。さらに、本実施形態では、撮像ユニット63は、チップ撮像部55においてシリンダチップ70のヘッド615への装着状態を観察するためにも用いられる。撮像ユニット63は、カメラ631、落射照明器632、Xスライダ633及びホルダー634を含む。
【0067】
カメラ631は、CCDイメージセンサと、該CCDイメージセンサの受光面に光像を結像させる光学系とを含む。落射照明器632は、カメラ631の撮像対象物が光の透過体でない場合や蛍光染色されている場合等に用いられる光源である。Xスライダ633は、支持フレーム41のガイドレール413に対して組み付けられている。ガイドレール413には、撮像ユニット駆動モータ444が付設されている。駆動モータ444の動作によって、Xスライダ633はガイドレール413上をX方向に移動する。ホルダー634は、カメラ631及び落射照明器632を保持すると共に、図略の駆動装置によってXスライダ633に対してY方向に短距離だけ移動可能に組み付けられている。従って、カメラ631は、基台42の下方において、X方向及びY方向に移動可能である。
【0068】
図17は、基台42の図示を省き、細胞移動ライン50の構成要素を抜き出して示す斜視図である。
図17には、上述のヘッドユニット61、照明ユニット62及び撮像ユニット63の配置位置も模式的に付記している。細胞移動ライン50は、X方向の上流側(
図17の左端側)から順に、分注チップストック部52、対象物ストック部51、チップストック部54、チップ撮像部55、細胞選別部53、ブラックカバー載置部57、細胞移載部56及びチップ廃棄部58が一列に配列されてなる。これらの各部は、位置決め部材42Sによって、基台42上の位置が定められている。ここに示した細胞移動ライン50の配列は一例であり、作業効率等を考慮して各部の配置位置を適宜設定することができる。例えば、ブラックカバー載置部57を、細胞選別部53、細胞移載部56の前方側(+Y)又は後方側(−Y)に配置しても良い。
【0069】
対象物ストック部51は、分注元となる、多量の細胞凝集塊(対象物)が分散された細胞培養液(液体)を貯留する部位である。対象物ストック部51は、基台42上の所定位置に配置されたボックス511と、このボックス511で保持されたチューブ512(第1容器)と、ボックス511上に載置された蓋部材513とを備える。チューブ512は、上面が開口した円筒状容器であり、細胞凝集塊や夾雑物を含む細胞培養液を貯留する。蓋部材513は、チューブ512の開口を塞ぐための部材である。
【0070】
分注チップストック部52は、上記で説明した分注チップ80の多数個を保管する部位である。分注チップストック部52は、立設状態(基端部81が上方に位置する状態)でマトリクス状に整列された分注チップ80を保持する保持ボックス521と、ボックス蓋部材523とを備えている。保持ボックス521の内部には、分注チップ80を整列保持するためのホルダー部材522が配置されている。
【0071】
細胞選別部53は、各種サイズの細胞凝集塊や夾雑物を含む細胞培養液から、所望のサイズの細胞凝集塊を選別するための部位である。細胞選別部53は、ディッシュ64、保持テーブル531及びテーブル蓋部材532を含む。ディッシュ64は、分注チップ80によって細胞凝集塊を含む細胞培養液が分注され、該細胞培養液を貯留することができる上面開口の容器である。保持テーブル531は、ディッシュ64を位置決めして保持する。テーブル蓋部材532は、ディッシュ64及び保持テーブル531の上面を覆い隠すための蓋部材である。
【0072】
ディッシュ64は、上面側に細胞凝集塊を担持するための複数の凹部を備えたウェルプレートを含む。前記凹部の底部には貫通孔が設けられており、抽出対象となる細胞凝集塊は前記凹部で保持され、夾雑物等は前記貫通孔から落下する。このように細胞凝集塊と夾雑物との選別が行われるので、前記ウェルプレート上には細胞凝集塊だけが残存するようになる。前記凹部に担持された状態の細胞凝集塊の画像が、照明ユニット62の点灯下でカメラ631にて撮像される。これにより、吸引すべき細胞凝集塊の位置が特定される。
【0073】
チップストック部54は、シリンダチップ70の多数個を保持する部位である。シリンダチップ70は、細胞凝集塊の吸引経路となる管状通路を内部に備えるシリンジと、前記管状通路を画定するシリンジの内周壁と摺接しつつ前記管状通路内を進退移動するプランジャとを含み、シリンダチップヘッド615に対して装着及び取り外しが可能である。シリンダチップ70は、上述のウェルプレートの凹部に担持された細胞凝集塊を吸引し、ヘッドユニット61の移動に伴い該細胞凝集塊を運搬し、これを細胞移載部56へ吐出する機能を果たす。
【0074】
チップストック部54は、保持ボックス541と、ボックス蓋部材543とを備えている。保持ボックス541は、立設状態でマトリクス状に整列されたシリンダチップ70を保持する。保持ボックス541の内部には、シリンダチップ70を整列保持するためのホルダー部材542が配置されている。シリンダチップ70は、その上端部分が保持ボックス541の上端面から上方に突出した状態で、保持ボックス541に保持されている。ボックス蓋部材543は、保持ボックス541の上端面の上に被せられ、シリンダチップ70を覆い隠すための蓋部材である。
【0075】
チップ撮像部55は、シリンダチップヘッド615に装着されたシリンダチップ70の画像が撮像される位置を提供するピットである。前記撮像は、撮像ユニット63によって行われる。前記撮像が行われる際、撮像ユニット63のカメラ631は、チップ撮像部55の直下に移動され、落射照明器632の照明下において、各シリンダチップ70の画像を撮像する。シリンダチップ70の画像並びに撮像時における焦点位置情報に基づき、シリンダチップ70の吸引口71TのXYZ座標位置が求められる。当該座標位置と、予め定められた基準位置との差分から補正値が導出される。当該補正値は、ヘッド615の移動制御の際の補正値として利用される。なお、落射照明器632に代えて、チップ撮像部55自体にLED照明具のような照明器具を装備させ、該照明器具の照明下で前記撮像を行うようにしても良い。
【0076】
細胞移載部56は、細胞移動ライン50においてX方向の下流側端部付近に配置され、細胞選別部53のディッシュ64から吸引された細胞凝集塊の移動先となる部位である。細胞移載部56は、マイクロプレート65、保持テーブル561及びテーブル蓋部材562を含む。なお、マイクロプレート65に代えて、ディッシュ64と同様な容器を細胞移載部56に具備させても良い。
【0077】
マイクロプレート65は、上面が開口した多数の小さなウェル66が、マトリクス状に配列されたプレートである。マイクロプレート65は、透光性の部材、例えば透明プラスチックで形成されている。一般に、1のウェル66には、1の細胞凝集塊が収容される。従って、各ウェル66に収容された状態の細胞凝集塊を、カメラ631によって撮像することができる。また、ウェル66の配列ピッチは、一列に並んだヘッド615に装着されたシリンダチップ70群の配列ピッチと略同一に設定されている。これにより、一群のシリンダチップ70から同時にウェル66に細胞凝集塊を吐出させることが可能である。なお、1のウェル66に、指定個数の細胞凝集塊を収容させたり、指定量(総体積又は総面積)の細胞凝集塊を収容させたりすることもできる。保持テーブル561は、マイクロプレート65を位置決めして保持する。テーブル蓋部材562は、マイクロプレート65及び保持テーブル561の上面を覆い隠すための蓋部材である。
【0078】
ブラックカバー載置部57は、細胞移載部56に被せられる第1ブラックカバー571と、細胞選別部53に被せられる第2ブラックカバー572とが載置される部位である。第1、第2ブラックカバー571、572は、遮光された状態で、ディッシュ64又はマイクロプレート65に担持された細胞凝集塊を撮像する際に用いられる遮光体である。例えば、細胞培養液に蛍光剤を添加し、細胞凝集塊を蛍光観察する際に、第1、第2ブラックカバー571、572は、保持テーブル531、561を覆い隠すように被せられる。
【0079】
チップ廃棄部58は、細胞移動ライン50においてX方向の最も下流側端部に配置され、上述の吸引及び吐出動作を終えた使用後のシリンダチップ70及び分注チップ80が廃棄される部位である。チップ廃棄部58は、使用後のシリンダチップ70及び分注チップ80を収容するための回収ボックス581を含む。前記廃棄の際、シリンダチップ70又は分注チップ80を装備したヘッドユニット61が回収ボックス581の開口部582上に移動され、シリンダチップ70のシリンダチップヘッド615からの取り外し、若しくは、上述した分注チップ80のヘッド15からの取り外し動作が実行される。この取り外し動作により、シリンダチップ70又は分注チップ80は、開口部582を通して回収ボックス581に落下する。
【0080】
上記の通り構成された移動装置4は、
図14の軸制御部300に相当する制御部(移動装置4に接続されたパーソナルコンピュータ等)によって、その動作が制御される。前記制御部は、大別して本実施形態に係るヘッド15を用いた分注動作と、シリンダチップヘッド615を用いた細胞移動動作とを移動装置4に実行させる。まず、前記分注動作において、前記制御部は、順次、
[制御1]ヘッドユニット61を分注チップストック部52上に移動させ、ヘッド15に分注チップ80を装着させる制御、
[制御2]ヘッドユニット61を対象物ストック部51上に移動させ、チューブ512に貯留された、細胞凝集塊を含む細胞培養液を所定の分注量だけ分注チップ80内に吸引させる制御、
[制御3]ヘッドユニット61を細胞選別部53上に移動させ、分注チップ80内の前記細胞培養液をディッシュ64に吐出させる制御、及び、
[制御4]ヘッドユニット61をチップ廃棄部58上に移動させ、使用済みの分注チップ80をヘッド15から取り外し、回収ボックス581内に廃棄させる制御、
を移動装置4に実行させる。
【0081】
前記細胞移動動作において、前記制御部は、順次、
[制御5]ヘッドユニット61をチップストック部54上に移動させ、シリンダチップヘッド615にシリンダチップ70を装着させる制御、
[制御6]ヘッドユニット61を細胞選別部53上に移動させ、ディッシュ64に貯留された細胞凝集塊をシリンダチップ70内に吸引させる制御、
[制御7]ヘッドユニット61を細胞移載部56上に移動させ、シリンダチップ70内の細胞凝集塊をマイクロプレート65に吐出させる制御、及び、
[制御8]ヘッドユニット61をチップ廃棄部58上に移動させ、使用済みのシリンダチップ70をシリンダチップヘッド615から取り外し、回収ボックス581内に廃棄させる制御、
を移動装置4に実行させる。
【0082】
上記制御1は、
図8(A)に示した動作を行わせるための制御であって、
図14の軸制御部300の説明において「装着制御」として説明した制御である。ヘッドユニット61が分注チップストック部52上に移動された後、1の分注チップ80に対してヘッド15が位置合わせらされ、その後、第2ボールねじ装置30の駆動によってヘッド15が降下される。ヘッド15が下降することで、チップ装着部153Aは分注チップ80の基端部81の装着孔に圧入される。これにより、分注チップ80のヘッド15への装着が完了する。
【0083】
上記制御2及び制御3は、
図7(A)及び
図7(B)に示した動作を行わせるための制御であって、軸制御部300の説明において「第1制御」として説明した制御である。細胞培養液を分注チップ80内に吸引させる動作、及び分注チップ80から吐出させる動作は、第1ボールねじ装置10によるピストン部材14によって実現される。この点は、先に詳述した通りである。
【0084】
上記制御4は、
図8(D)に示した動作を行わせるための制御であって、軸制御部300の説明において「第2制御」として説明した制御である。ここでの制御は、上述の通り、第2ボールねじ装置30の駆動によってヘッド15を通常移動範囲の上限よりも上昇させる制御である。
【0085】
以上説明した移動装置4によれば、本発明の実施形態に係るヘッド装置1を適用することで、分注チップ80のヘッド15への装着、分注チップ80によるチューブ512(第1容器C1)からの細胞培養液の吸引、当該細胞培養液のディッシュ64(第2容器C2)への吐出、及び、チップ廃棄部58への分注チップ80の廃棄までの一連の作業を、上記制御部による制御下で自動化することができる。従って、細胞凝集塊を含む細胞培養液の移動作業効率を格段に高めることができる。
【0086】
なお、上述した具体的実施形態には以下の構成を有する発明が主に含まれている。
【0087】
本発明の一局面に係る分注チップ装着用ヘッド装置は、対象物を含む液体の吸引、及び前記吸引した液体の吐出を行う分注チップが装着されるヘッド装置であって、ピストン部材と、前記ピストン部材が係合され、該ピストン部材を上下方向に移動させる第1軸部材と、前記ピストン部材を上下方向に移動可能に収容するシリンダ空間を含む筒状空間を備え、前記分注チップの基端部が嵌め込まれるチップ装着部を下端に備えた筒状ロッドと、前記第1軸部材及び前記筒状ロッドが搭載される第1フレームと、前記第1フレームが係合され、該第1フレームを上下方向に移動させる第2軸部材と、前記第2軸部材が搭載され、前記第1フレームの上下方向の移動に伴う前記筒状ロッドの上下方向の移動をガイドするガイド部を備える第2フレームと、前記第1軸部材及び前記第2軸部材の動作を制御する軸制御部と、を備え、前記軸制御部は、前記分注チップが前記チップ装着部に装着された状態において、ピストン部材の上下方向への移動によって、前記分注チップによる前記液体の吸引及び吐出が行われるよう前記第1軸部材を制御する第1制御と、前記第1フレームの上方向への移動によって、前記ガイド部と前記分注チップの基端部とを干渉させ、前記チップ装着部から前記分注チップを離脱させるよう前記第2軸部材を制御する第2制御と、を実行する。
【0088】
上記のヘッド装置によれば、第1軸部材の駆動によるピストン部材の上下方向への移動によって、分注チップに対象物を含む液体の吸引及びその吐出を実行させることができる。さらに、第2軸部材の駆動による1フレームの上方向への移動によって、チップ装着部から分注チップを自動的に離脱させることができる。従って、分注チップを用いた対象物の吸引及び吐出の作業、使用後に廃棄する必要がある場合における当該分注チップの廃棄作業を、高度に自動化することが可能となる。
【0089】
上記の分注チップ装着用ヘッド装置において、前記筒状ロッドは、円筒形状を備え、前記ガイド部は、前記筒状ロッドの外径よりも僅かに大きい内径を有するガイド凹部を備えたアーム部材であり、前記第2制御の際、前記アーム部材の下端面と前記分注チップの基端部の上端縁とが干渉することで、前記チップ装着部から前記分注チップが離脱されることが望ましい。
【0090】
このヘッド装置によれば、筒状ロッドの外径よりも僅かに大きい内径を有するガイド凹部を備えるので、前記ガイド部材に対する筒状ロッドの単純な上方向移動によって、前記チップ装着部から前記分注チップを離脱させることができる。
【0091】
上記の分注チップ装着用ヘッド装置において、前記筒状ロッドは、前記シリンダ空間を備えるロッド本体部と、前記ロッド本体部の下端に着脱可能に装着され、内部に前記シリンダ空間に連通する筒状空間を備えると共に、外周面に前記チップ装着部を備えた交換部とを具備することが望ましい。
【0092】
このヘッド装置によれば、筒状ロッドのうち、実際に分注チップが装着される部分(交換部)だけを交換することができる。従って、チップ装着部が汚濁した場合等にあっては、交換部をロッド本体部の下端から取り外してこれを清掃することができる。また、異なる口径の分注チップを装着させる場合に、その口径にマッチした別の交換部をロッド本体部に取り付ければ、迅速に口径変更に対応することができる。
【0093】
上記の分注チップ装着用ヘッド装置において、前記第1軸部材は、上下方向に延びる第1ねじ軸と、該第1ねじ軸に係合される第1ナット部材とを含む第1ボールねじ装置であり、前記ピストン部材は、前記第1ナット部材に固定される係合部を備えた上端部と、周面にシール部材を備えた下端部と、前記上端部と前記下端部との間の部分であって、前記第1ねじ軸を収容する収容空間を内部に備えた中間部とを具備することが望ましい。
【0094】
このヘッド装置によれば、第1軸部材にボールねじ構造を適用すると共に、これに適応した構造のピストン部材を採用することによって、ヘッド装置をシンプルな構造で構築することができる。
【0095】
上記の分注チップ装着用ヘッド装置において、前記第2軸部材は、上下方向に延びる第2ねじ軸と、該第2ねじ軸に係合される第2ナット部材とを含む第2ボールねじ装置であって、前記第1フレームは、前記第2ナット部材に固定されていることが望ましい。
【0096】
このヘッド装置によれば、第2軸部材にボールねじ構造を適用して第1フレームを上下動させることができる。従って、第2軸部材による駆動系を簡素化することができる。
【0097】
この場合、前記第2フレームは、前記第1フレームの上下方向の移動をガイドするガイドレールが取り付けられる縦フレームと、前記縦フレームの下端に取り付けられ、前記第2ねじ軸の下端の軸受け部と、前記筒状ロッドを貫通させる貫通孔とを備え、前記ガイド部が組み付けられる横フレームとを備えることが望ましい。
【0098】
このヘッド装置によれば、縦フレーム及び横フレームを用いて、ガイドレール及びガイド部を効率的に配置することができる。
【0099】
本発明の他の局面に係る移動装置は、上記の分注チップ装着用ヘッド装置と、対象物を貯留する第1容器と、対象物を受け入れる第2容器と、前記ヘッド装置を前記第1容器と前記第2容器との間において水平方向に移動させるヘッド移動機構と、を備える。
【0100】
以上説明した本発明によれば、分注チップを用いた対象物の吸引、前記吸引した対象物の吐出、さらには筒状ロッド(ヘッド)への分注チップの取り付け及び取り外しを自動化することができる。従って、分注チップを用いた対象物の移動作業の作業効率を、格段に向上させることができる。