(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る培養装置の実施形態を、図面に基づいて詳細に説明する。この実施形態においては、培養対象となる生物が細胞凝集塊である場合について説明する。細胞凝集塊(スフェロイド;spheroid)は、細胞が数個〜数十万個凝集して形成されている。そのため、細胞凝集塊の大きさは様々である。生きた細胞が形成する細胞凝集塊は略球形であるが、細胞凝集塊を構成する細胞の一部が変質したり、死細胞となっていたりすると、細胞凝集塊の形状は歪になる、あるいは密度が不均一となる場合がある。バイオ関連技術や医薬の分野における試験において、種々の形状を呈する複数の細胞凝集塊を本実施形態の培養装置にて維持乃至は培養させること、或いは本実施形態の培養装置にて保持した状態で試験に適した形状の細胞凝集塊のみを選別する作業を行うことは、当該培養装置の好適な用途である。
【0012】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る培養装置1の概略的な側断面図である。培養装置1は、細胞凝集塊C(生物)を維持乃至は培養するための装置であって、培養容器101と蓋部材102とからなるコンテナ100と、コンテナ100内に配置されたプレート2Aと、ガス交換機構3とを備えている。コンテナ100は、高さに比べて横幅が長い扁平な円柱型、角柱型の形状を有している。
【0013】
培養容器101は、細胞凝集塊Cの培養領域Rを提供する容器であって、その下面側に平坦な底壁を有し、上面側に上部開口を備える有底筒状の容器である。培養容器101のキャビティは培養領域Rであり、前記上部開口を通して培養対象の細胞凝集塊Cが投入される。培養容器101には、細胞凝集塊Cの培養液Lが貯留されている。培養液Lは、予め定められた液面LTの高さになるよう、培養容器101に注入される。
【0014】
蓋部材102は、培養容器101のキャビティ、つまり培養領域Rを閉鎖するように、前記上部開口を完全に覆っている。培養液Lは培養容器101に満杯には注液されていないので、培養容器101のキャビティは上方部分において残存している。蓋部材102が培養容器101の上部開口に被せられることで、液面LTの上(液面LTと蓋部材102の内面との間)に閉鎖空間Aが形成される。従って、コンテナ100内部の培養領域Rは、培養液Lとその上の閉鎖空間Aとで占有されることになる。蓋部材102には、閉鎖空間Aへ培養ガスを流通させるために、閉鎖空間Aに連通する入気アダプタ103(入口部)及び出気アダプタ104(出口部)が付設されている。
【0015】
培養容器101に貯留される培養液Lは、細胞凝集塊Cの性状を劣化させないものであれば特に限定されず、細胞凝集塊の種類により適宜選定することができる。培養液Lとしては、たとえば基本培地、合成培地、イーグル培地、RPMI培地、フィッシャー培地、ハム培地、MCDB培地、血清などの培地(細胞培養液)のほか、冷凍保存前に添加するグリセロール、セルバンカー(十慈フィールド(株)製)等の細胞凍結液、ホルマリン、蛍光染色のための試薬、抗体、精製水、生理食塩水などを挙げることができる。たとえば、細胞凝集塊としてBxPC−3(ヒト膵臓腺癌細胞)を用いる場合には、培養液LとしてはRPMI−1640培地に牛胎児血清FBS(Fetal Bovine Serum)を10%混ぜたものに、必要に応じて抗生物質、ピルビン酸ナトリウムなどのサプリメントを添加したものを用いることができる。
【0016】
プレート2Aは、細胞凝集塊Cを保持するための部材である。プレート2Aは、細胞凝集塊Cを保持した状態で、培養容器101に貯留されている培養液L内に浸漬される。プレート2Aとしては、細胞凝集塊Cを個別に独立して保持できる構造を備えたものが好ましい。なお、プレート2Aを用いず、細胞凝集塊Cを培養容器101の底壁で保持させたり、培養液L中で浮遊させたりしても良い。
【0017】
ガス交換機構3は、閉鎖空間A(培養領域R)を経由して培養ガスを流通させる機構であって、ボンベ31(ガス供給源)、ポンプ32、供給配管301及び排気配管302(配管系統)を備えている。供給配管301は、一端が入気アダプタ103に接続され、他端がボンベ31に接続されている。排気配管302は、一端が出気アダプタ104に接続され、他端が大気中に開放されている。なお、供給配管301及び排気配管302に、それぞれ開閉弁を取り付け、入気アダプタ103の上流側及び出気アダプタ104の下流側を閉止できるようにすることが望ましい。また、供給配管301にガスマスフローコントローラ等の流量制御部材を組み込むことが望ましい。
【0018】
ボンベ31は、細胞凝集塊Cの培養に適した培養ガスを貯留する。例えば、細胞凝集塊Cが炭酸ガス条件下での発育が促進される性質を有する場合は、培養ガスは炭酸ガスである。一般に、炭酸ガス培養では、5%〜10%程度の炭酸ガス濃度が必要となる。この場合、ボンベ31は、20%〜100%濃度の炭酸ガスを貯留していることが望ましい。マルチガスによる培養が行われる場合には、例えば炭酸ガス、窒素ガス及び酸素ガスのボンベ31が用いられる。
【0019】
ポンプ32は、供給配管301、閉鎖空間A及び排気配管302を通して、培養ガスを流通させるためのガス流を発生させる。ポンプ32は、少なくとも吐出機能を備えていれば良く、ダイアフラム式、ベローズ式、電磁式、ピストン式などの各種のエアーポンプを用いることができる。或いは、ポンプ32に代替して、ボンベ31からのガス噴出圧のみでガス流を発生させ、ガスマスフローコントローラ等によってガス流量を制御するガス交換機構3としても良い。
【0020】
細胞凝集塊Cを培養する手順の一例は次の通りである。先ず、蓋部材102を取り外した状態で、培養容器101のキャビティ内にプレート2を設置し、上部開口から培養液Lを所定量だけ培養容器101に注ぐ。次いで、ピペットチップなどの、細胞凝集塊Cを吸引して吐出することが可能なチップ部材を用い、細胞凝集塊Cをプレート2A上に吐出する。細胞凝集塊Cをプレート2A上に良好に担持させることができたら、蓋部材102で培養容器101の上部開口を塞ぐ。
【0021】
その後、コンテナ100にガス交換機構3を組み付ける。すなわち、ボンベ31及びポンプ32が接続された供給配管301の一端を入気アダプタ103に、排気配管302の一端を出気アダプタ104にそれぞれ接続する。そして、ポンプ32を作動させ、ボンベ31の培養ガスを閉鎖空間Aへ供給する。培養ガスの供給態様は、特に限定はなく、閉鎖空間Aが細胞凝集塊Cにダメージを与えない環境に維持できる態様であれば良い。
【0022】
例えば、所定濃度に調整された培養ガス、一例としては5%の濃度の炭酸ガスを、一定の流量で入気アダプタ103から閉鎖空間Aへ供給し、同じ量だけ出気アダプタ104から培養ガスを排出する態様を例示できる。あるいは、閉鎖空間Aが所定濃度に調整された培養ガスで満たされた後、入気アダプタ103及び出気アダプタ104を閉止し、所定時間経過後に培養ガスを入れ替える態様でも良い。この場合、所定時間の経過を待つのではなく、閉鎖空間A内にガス濃度センサを配置し、培養ガスの濃度が所定の閾値範囲よりも低下したときに、培養ガスを入れ替えるようにすることもできる。さらに、閉鎖空間Aにガス濃度センサを配置する態様では、閉鎖空間Aに常時培養ガスを流通させつつ、培養ガスの濃度に応じてガス流量を制御することで、閉鎖空間A内を一定のガス濃度に保つようにしても良い。
【0023】
第1実施形態の培養装置1によれば、培養容器101の上部開口が蓋部材102で覆われ、培養領域Rが閉鎖的な領域とされる。このような閉鎖的な培養領域Rにガスを流通させることにより、培養領域Rの汚染を防止しつつ、コンテナ100内に細胞凝集塊Cの保管若しくは培養に適した環境を形成することができる。また、閉鎖空間Aの環境を、細胞凝集塊Cの培養に適した環境に維持することができる。すなわち、培養液L中に浸漬された細胞凝集塊Cは、その活動によってガスを発生することがあり、このため閉鎖空間Aの環境は変化し得る。培養装置1では、閉鎖空間Aを経由してガスを流通させることができるので、閉鎖空間Aの環境を一定に維持することが可能となる。これにより、環境変化に伴い細胞凝集塊Cにダメージが与えられることを抑止することができる。
【0024】
<第2実施形態>
図2は、本発明の第2実施形態に係る培養装置1Aの概略的な側断面図である。培養装置1Aは、培養液Lを貯留する培養容器10と、細胞凝集塊Cを培養液L中において担持するプレート2と、第1実施形態と同様なガス交換機構3とを備えている。
図3は、培養容器10の斜視図、
図3は、プレート2の上面図、
図5は、
図4のV−V線断面図である。第1実施形態と相違する点は、蓋部材102Aが培養容器10に一体的に形成され、蓋部材102Aが培養容器10の上部開口1Hの全てではなく、一部を覆っている点である。蓋部材102Aは、上部開口1Hの中央部領域を覆わず、周縁付近を覆っている。
【0025】
培養容器10は、円柱形の形状を備える。培養容器10の形状は特に限定されないが、ここでは操作性や安定性等の観点から、高さが横幅(直径)に比べて比較的広い扁平な円柱形状のものを培養容器10として例示している。上部開口1H(投入開口)は、培養容器10の上面側に形成され、矩形の形状を有している。上部開口1Hは、細胞凝集塊Cの投入、並びに、選別された細胞凝集塊Cをピックアップするための開口である。上部開口1Hの形状には特に限定はなく、例えば円形の上部開口1Hとしても良い。プレート2は、この上部開口1Hの下方に配置されている。培養容器10は、透光性の樹脂材料やガラスで作製されていることが望ましい。これにより、培養容器10の下方に配置されたカメラ等により、プレート2に保持された細胞凝集塊Cを観察することができる。
【0026】
細胞凝集塊Cの投入の際、
図13〜
図15に基づき後記で詳述する通り、細胞凝集塊Cを含む細胞懸濁液を吸引し保持している分注チップ64が、上部開口1Hに対向して配置される。そして、分注チップ64から前記細胞懸濁液が、培養容器10に貯留された細胞凝集塊を含まない培養液L中に吐出される。また、細胞凝集塊Cのピックアップの際、
図17〜
図19に基づき後記で詳述する通り、細胞凝集塊Cを吸引及び吐出可能なシリンダチップ67が、上部開口1Hに対向して配置される。そして、シリンダチップ67により、細胞凝集塊Cが個別にプレート2上から吸引される。
【0027】
培養容器10は、底壁11と、外周壁12と、内周壁13と天壁14とからなる蓋部材102Aとを備える。底壁11は、培養容器10の底部を区画する平坦な円板部材である。外周壁12は、底壁11の外周縁から立設された円筒状の部材である。内周壁13は、外周壁12の内部に配置された角筒状の部材である。天壁14は、培養容器10の上面側において、内周壁13の上端部と外周壁12の上縁部との間を覆う板部材である。
【0028】
内周壁13の上端部は、矩形の上部開口1Hを画定している。内周壁13は、上部開口1Hから底壁11に向けて開口面積が徐々に縮小するように傾斜している。内周壁13の下端部は、プレート2の外周縁を保持している。天壁14には、上下方向への貫通孔からなる第1作業孔15H及び第2作業孔16Hが穿孔されている。これら作業孔15H、16Hを通して、培養容器10のキャビティへの培養液Lの注液、薬品類の注液、若しくは培養液Lの吸液などの作業が行われる。さらに本実施形態では、ガス交換機構3の培養容器10への組み付けのために、第1作業孔15Hには入気アダプタ15(入口部)が、第2作業孔16Hには出気アダプタ16(出口部)が取り付けられる。
【0029】
プレート2は、上面2Uと下面2Bとを有する矩形の板状部材である。プレート2は、下面2Bが培養容器10の底壁11に対して間隔を置いた状態で、内周壁13の下端部にて保持されている。プレート2は、培養容器10内の培養液L中に浸漬されている。つまり、プレート2の上面2Uが培養液Lの液面LTよりも下方に位置するよう、培養容器10に培養液Lが注液される。
【0030】
プレート2は、上面2U側に配置され細胞凝集塊Cを担持する複数の保持部21と、各保持部21の配置位置に形成され上面2Uから下面2Bに直線状に貫通する貫通孔22とを備えている。本実施形態では、上面視で四角形の保持部21がマトリクス状に配列されている例を示している。これは一例であり、保持部21の上面視形状は、丸形、三角形、五角形、六角形等であってもよく、これらがハニカム状、直線状、ランダムに配置されていても良い。或いは、一つの保持部21だけが備えられているプレート2としても良い。なお、培養容器10と同様にプレート2も、担持された細胞凝集塊Cの下面2B側からの撮像を可能とするために、透明な部材で形成されることが望ましい。
【0031】
図5に示すように、保持部21の縦断面の形状は、上方に開口した凹曲面211(凹部)である。貫通孔22の上面2U側の開口は、保持部21の凹曲面211の底面(もっとも深い位置)に配置されている。1の保持部21とこれに隣接する保持部21(凹曲面211)の上縁部212は、互いに近接している。
図4では、各保持部21の形状を際立たせるため、上縁部212が比較的広幅を有するように描いているが、実際は
図5に示すように上縁部212同士は隣接している。このため、隣接する凹曲面211の上縁部212同士が接することにより形成される稜線部分は、鋭利な凸状の部分となっている。保持部21の変形実施形態では、凹曲面211に代えて、保持部21の開口面積が上方から下方に向けて小さくなるような直線状の傾斜壁面、階段状の壁面とされる。或いは、開口面積が上方から下方に向けて一定の、円筒型、角筒形の凹部からなる保持部21とすることもできる。
【0032】
保持部21には、一般は1個の細胞凝集塊が収容されることが企図されている。但し、1の保持部21に、指定個数の細胞凝集塊を収容させたり、指定量(総体積又は総面積)の細胞凝集塊を収容させたりする場合もある。貫通孔22のサイズは、所望のサイズの細胞凝集塊は通過できず、所望のサイズ以外の小さな細胞凝集塊や夾雑物を通過させるサイズに選ばれている。プレート2の下面2Bと培養容器10の底壁11との間の距離は、夾雑物等を底壁11上に堆積させるのに十分な高さに選ばれる。
【0033】
培養容器10内には、当該容器10の底壁11、外周壁12、内周壁13、天壁14及びプレート2によって囲まれた領域が形成されている。この囲まれた領域と外部とは、上述の第1作業孔15H及び第2作業孔16Hと貫通孔22とによって連通している。第1作業孔15H又は第2作業孔16Hから細胞凝集塊Cを含まない細胞培養液Lが注液され、該培養液Lの液面LTがプレート2よりも高いレベルになると、培養液Lは貫通孔22を通してプレート2の上面2U側に至る。培養液Lは、液面LTがプレート2を完全に浸漬する高さであって、天壁14よりも低い高さ(内周壁13の上下方向の中間付近の高さ)まで注液される。このような注液によって、上部開口1Hに対応する領域においてプレート2上には、上部液体層LSが存在するようになる。また、蓋部材102Aの内側には、空間が形成される。
【0034】
上記のレベルの液面LTの高さに培養容器10が培養液Lを貯留した状態(
図2はこの状態を示す)であって、第1作業孔15H及び第2作業孔16H(入気アダプタ15及び出気アダプタ16)が封止された状態においては、上部開口1Hに対応する領域においてプレート2上に存在する上部液体層LSにて貫通孔22が塞がれることによって、前記空間は密閉された空間(閉鎖空間A)となる。閉鎖空間Aは、外周壁12及び内周壁13の上方部分と、天壁14と、液面LTとで囲まれる空間である。
図3から理解される通り、本実施形態の閉鎖空間Aは、上部開口1Hの領域を除いた環状の領域である。また、培養液L、上部液体層LS及び閉鎖空間Aが存在する領域が、細胞凝集塊Cの培養領域Rである。
【0035】
図6は、細胞凝集塊がプレート2に担持される状況を説明するための模式図である。ここでの細胞凝集塊の担持作業は、種々の細胞凝集塊や夾雑物の中から所望の細胞凝集塊を選別する作業でもある。この細胞選別動作が行われる際、細胞凝集塊を含まない培養液Lが上記の通り予め培養容器10内に注液される。その後、上部開口1Hを通してプレート2上の上部液体層LSに向けて、選別対象となる細胞凝集塊Cと不可避的に混在する夾雑物Cxとを含む細胞懸濁液が注入される。
【0036】
注入された前記細胞懸濁液に含まれる細胞凝集塊C及び夾雑物Cxは、液面LTから下方に向けて自重により培養液L内を沈降する。
図6では、2つの細胞凝集塊C1、C2と3つの夾雑物Cx1、Cx2、Cx3を模式的に示している。プレート2が備える多数の保持部21は、半球状のキャビティ(凹曲面211)が密に配列されており、保持部21同士を区切る稜線(上縁部212)は鋭利である。従って、沈降する細胞凝集塊C1、C2及び夾雑物Cx1、Cx2、Cx3は、上縁部212付近に滞留することなく、いずれかの保持部21の凹曲面211内に導かれる。
【0037】
所定のサイズを備える細胞凝集塊C1、C2は、貫通孔22を通過することができない。従って、これら細胞凝集塊C1、C2は、導入された保持部21上で担持されることになる。一方、夾雑物Cxは、一般に細胞凝集塊Cよりは相当小さいサイズであり、貫通孔22を通過し得る。このため、凹曲面211内に導かれた夾雑物Cxは、貫通孔22を通過して、培養容器10の底壁11上に落下する。
図6では、夾雑物Cx1が貫通孔22を通過しつつあり、夾雑物Cx2、Cx3が底壁11上に落下した状態を示している。このように、選別対象の細胞凝集塊C1、C2はプレート2の保持部21にトラップされ、無用な夾雑物Cx1、Cx2、Cx3は、底壁11に回収される。以上のような細胞選別動作は、1回のみ実行される場合、或いは必要に応じて複数回繰り返される場合がある。
【0038】
一つの代表的な培養装置1Aの使用例では、上記の細胞選別動作の後、容器1の下方に配置されたカメラにより、細胞凝集塊Cを担持したプレート2の画像が撮像される。取得された画像が解析され、
図4のようにn列m行にマトリクス配置された保持部21群のうち、どの保持部21に細胞凝集塊Cが担持されているかが座標情報で特定される。ここで把握される細胞凝集塊Cの担持状況に基づいて、再度の細胞懸濁液の培養容器10への注液を行うか否かが判断される。並行して、シリンダチップ67が装着され、XYZ方向に移動可能なヘッドユニット60が準備される(
図17参照)。ヘッドユニット60が上部開口1H上に配置され、前記座標情報に基づきターゲットとする保持部21にシリンダチップ67がアプローチする。そして、シリンダチップ67により、当該保持部21に担持されている細胞凝集塊Cが吸引される(
図18、
図19参照)。
【0039】
ガス交換機構3は、第1実施形態と同様の構成であり、ボンベ31、ポンプ32、供給配管301及び排気配管302を備える。入気アダプタ15及び出気アダプタ16は、閉鎖空間Aに連通している。供給配管301は、一端が入気アダプタ15に接続され、他端がボンベ31に接続されている。排気配管302は、一端が出気アダプタ16に接続され、他端が大気中に開放されている。ポンプ32が作動されることで、ボンベ31から吐出される培養ガスは、閉鎖空間Aを経由して入気アダプタ15から出気アダプタ16へ流通される。
【0040】
培養ガスの前記流通の具体的態様も、第1実施形態と同様な態様を採用することができる。例えば、所定濃度に調整された培養ガスを、一定の流量で入気アダプタ15から閉鎖空間Aへ供給し、同じ量だけ出気アダプタ16から培養ガスを排出する態様を例示できる。あるいは、閉鎖空間Aが所定濃度に調整された培養ガスで満たされた後、入気アダプタ15及び出気アダプタ16を閉止し、所定時間経過後に培養ガスを入れ替える態様でも良い。また、閉鎖空間Aにガス濃度センサを配置し、閉鎖空間Aに常時培養ガスを流通させつつ、培養ガスの濃度に応じてガス流量を制御することで、閉鎖空間A内を一定のガス濃度に保つ態様でも良い。
【0041】
ところで、上記の細胞選別動作において、1つの保持部21に複数個の細胞凝集塊Cが収容されてしまう場合がある。一般に、一つの保持部21には一つの細胞凝集塊Cが保持されることが、細胞凝集塊Cの画像観察やシリンダチップ67による個別吸引が容易であるという観点から望ましい。しかし、このような細胞凝集塊Cの望ましい保持状態を、分注チップ64を用いた通常の細胞懸濁液の注液動作だけで形成することは難しい。つまり、細胞凝集塊Cが概ね均等にプレート2上にばら撒かれた状態を形成することは難しい。
【0042】
このような不具合を、本実施形態では、入気アダプタ15及び出気アダプタ16の開閉操作と、ポンプ32の動作とを活用して解消することができる。すなわち、プレート2の貫通孔22に、下面2Bの側から上面2Uの側に向けて流れる液流を発生させ、保持部21に担持された細胞凝集塊Cを一旦舞い上がらせる。これにより、折り重なって保持部21に担持されている細胞凝集塊Cを分散させることができる。
【0043】
具体的には、前記液流を発生させる際、入気アダプタ15が開とされ、出気アダプタ16が閉とされる。そして、ポンプ32から所定量のガスを閉鎖空間A内に供給させ、当該閉鎖空間Aを加圧させる。この加圧力の逃げ場は、出気アダプタ16が閉じられていることから、貫通孔22のみとなる。従って、貫通孔22には、前記液流が発生する。液流が発生すると、保持部21に重なり合うように担持されている細胞凝集塊Cは、四散して上方に舞い上がる。この際、上部液体層LSの液面LTは上昇する。その後、出気アダプタ16が開とされることで閉鎖空間Aは大気圧に戻り、液面LTも元のレベルに戻る。舞い上がった細胞凝集塊Cは、分散状態でプレート2上へ沈降する。しかる後、培養ガスを閉鎖空間Aに流通させる運転に移行する。
【0044】
以上の通りの第2実施形態の培養装置1Aによれば、細胞凝集塊Cを培養容器10に投入させる領域(投入開口)を除いて、培養領域Rが蓋部材102Aで覆われ、培養領域Rが閉鎖的な領域とされる。このような閉鎖的な培養領域Rの閉鎖空間Aに培養ガスを流通させることにより、培養領域Rの汚染を防止しつつ、培養容器10内に細胞凝集塊Cの保管若しくは培養に適した環境を形成することができる。従って、細胞凝集塊Cの投入作業性を良好としつつ、プレート2に担持されている細胞凝集塊Cにダメージが与えられることを抑止することができる。
【0045】
<第3実施形態>
図7は、本発明の第3実施形態に係る培養装置1Bのブロック図である。第3実施形態では、第2実施形態において用いた培養容器10に、循環配管系統を備えたガス交換機構3Aが組み合わされてなる培養装置1Bを例示する。培養液Lを貯留する培養容器10と、細胞凝集塊Cを培養液L中において担持するプレート2とについては、先に説明したものと同じであるので、ここでは説明を省略する。
【0046】
ガス交換機構3Aは、循環配管30と、この循環配管30に分岐接続された供給配管303及び排気配管304とを含む。循環配管30は、培養容器10の入気アダプタ15(入口部)に一端30Aが接続され、出気アダプタ16(出口部)に他端30Bが接続されてなる配管である。つまり、循環配管30は、培養容器10内の閉鎖空間A(培養領域R)を経由して、培養ガスを循環させることが可能な配管である。供給配管303は、一端30Aに近い側(培養ガスの循環方向の上流側)において、その下流端が循環配管30に分岐接続されている。排気配管304は、他端30Bに近い側(培養ガスの循環方向の下流側)において、その上流端が循環配管30に分岐接続されている。なお、
図7において循環配管30、供給配管303及び排気配管304を矢印で示しており、該矢印の方向はガスの流れる方向を表している。
【0047】
さらにガス交換機構3Aは、先の実施形態で説明したボンベ31(ガス供給源)及びポンプ32を含む。ボンベ31は、供給配管303の上流端に接続されている。つまり、ボンベ31は、循環配管30に分岐接続されている。ポンプ32は、循環配管30の途中に組み入れられている。ポンプ32の作動により、循環配管30及び閉鎖空間A内を循環するガス流が発生する。このようなガス交換機構3Aによれば、培養ガスを循環配管30で循環させながら、閉鎖空間Aへ供給することができるので、培養ガスを有効利用することができる。また、閉鎖空間A乃至は循環配管30内において培養ガスの濃度が変化した場合には、分岐接続されているボンベ31からの培養ガスの供給、若しくは排気配管304からのガス排気によって、閉鎖空間Aの培養ガスの濃度を調整することが可能となる。
【0048】
上記に加え、ガス交換機構3Aは、流量調整弁33、三方弁34(第1弁装置)、調圧弁35(第2弁装置)、フィルタ36、湿度調整部41、温度調整部42、温度センサ43、ガスセンサ44及び制御部50を備えている。これらは、培養ガスの濃度、温度及び湿度を所望のコンデションに調整するために、ガス交換機構3Aに備えられている。
【0049】
流量調整弁33は、供給配管303に取り付けられ、ボンベ31から噴出する培養ガスの循環配管30への流入量を規制する。流量調整弁33の弁の開度は、制御部50によってコントロールされる。
【0050】
三方弁34は、入気アダプタ15よりも培養ガスの循環方向上流側において循環配管30に組み入れられている。三方弁34は、循環配管30内を流れるガスと、ボンベ31から供給される新たな培養ガスとを混合させるために配置されている。三方弁34の3つの出入口の内、常時「開」とされる2つの出入口には循環配管30の上流端と下流端とが各々接続され、必要に応じて開閉される残り1つの出入口には供給配管303の下流端が接続されている。ボンベ31は三方弁34を介して循環配管30に接続されており、供給配管303が接続された三方弁34の出入口が「開」とされると、流量調整弁33で規制された流入量で、培養ガスが循環配管30に供給される。勿論、三方弁34の出入口が「閉」とされると、培養ガスは循環配管30に供給されない。この三方弁34の開閉制御は、制御部50によって行われる。なお、流量調整弁33に供給配管303を「閉」とする機能が備えられている場合は、三方弁34を、弁機能を備えない三方分岐管に置換することができる。
【0051】
調圧弁35は、出気アダプタ16よりも培養ガスの循環方向下流側において循環配管30に組み入れられている。調圧弁35は、循環配管30と培養容器10の閉鎖空間Aとからなる循環経路の内圧を一定に保つために配置されている。調圧弁35の逃がし口には、排気配管304の上流端が接続されている。つまり、排気配管304は、調圧弁35を介して循環配管30に接続されている。調圧弁35は常時「閉」であり、「開」とされると、循環配管30と排気配管304とが連通し、循環経路内のガスが排気配管304を介して排出される。この調圧弁35の開閉制御も、制御部50によって行われる。
【0052】
調圧弁35は、ボンベ31から培養ガスが循環配管30に供給される際、その供給の前に、例えば数十ミリ秒前に「開」とされる。培養ガスの供給により循環経路内の内圧が高まると、培養容器10内の培養液Lの液面LTに押圧力が加わることになる。該押圧力によって、培養液L中の細胞凝集塊Cがプレート2上に舞い上がり、良好な細胞凝集塊Cの担持状態が乱れてしまうことがある。培養ガスの供給開始前に、予め調圧弁35を「開」としておけば、培養ガスの流入に伴う前記循環経路の内圧上昇を防止することができる。
【0053】
フィルタ36は、入気アダプタ15の直ぐ上流側において循環配管30に組み付けられ、前記循環経路内を循環する培養ガスを清浄に維持する。フィルタ36は、塵埃や細菌などをトラップすることが可能なフィルタエレメントを備える。入気アダプタ15から閉鎖空間Aに入るガスは、事前にフィルタ36によって清浄化される。
【0054】
湿度調整部41は、三方弁34とフィルタ36との間において循環配管30に組み付けられ、培養ガスが閉鎖空間Aに導入される前に、当該培養ガスの湿度を調整する。培養容器10に収容されている培養液L(培地)は、上部開口1Hが存在することから、蒸発し得る。湿度調整部41は、培地が乾燥しないように、閉鎖空間Aに供給される培養ガスに適度な水分を含有させるために配置されている。湿度調整部41としては、電熱により水を加熱してスチームを発生させるタイプ、常温水を超音波により微細な粒子にして放出させるタイプなどを用いることができる。湿度調整部41の動作は、制御部50によって制御される。
【0055】
温度調整部42は、三方弁34とフィルタ36との間において循環配管30に組み付けられ、培養ガスが閉鎖空間Aに導入される前に、当該培養ガスを予め定められた温度に調整する。細胞凝集塊Cを培養には、当該細胞凝集塊Cの成育にとって望ましい温度帯が存在する。また、実験の目的によっては、企図する温度にて細胞凝集塊Cの培養が行われる場合がある。温度調整部42は、ターゲットとする温度で培養ガスが閉鎖空間Aに導入されるよう、当該培養ガスを加熱又は冷却する。温度調整部42の動作は、制御部50によって制御される。
【0056】
培養ガスの加熱のみが専ら予定されている場合は、温度調整部42として電気ヒーターを用いることができる。培養ガスの加熱及び冷却の双方が予定されている場合は、温度調整部42としてペルチェ素子を用いることができる。すなわち、培養ガスを冷却する場合は、当該培養ガスと熱交換する面をペルチェ素子の冷却面とし、培養ガスを加熱する場合は、培養ガスと熱交換する面を放熱面とすれば良い。
【0057】
温度センサ43及びガスセンサ44は、出気アダプタ16と調圧弁35との間において循環配管30に付設されている。温度センサ43は、循環配管30内を流れる培養ガスの温度を計測する。ガスセンサ44は、循環配管30内を流れる培養ガスの濃度を検出する。培養ガスとして炭酸ガスが用いられる場合は、ガスセンサ44として炭酸ガスセンサが用いられる。ガスセンサ44は、出気アダプタ16の直ぐ下流に配置されているので、検出されるガス濃度は、閉鎖空間Aから排出されて来る培養ガスの濃度となる。温度センサ43及びガスセンサ44の計測値は、制御部50に送信される。
【0058】
制御部50は、マイクロコンピュータ等からなり、ガス交換機構3Aの動作を制御する。具体的には制御部50は、ポンプ32を制御して循環配管30内に循環ガス流を発生させると共に、ガスセンサ44の計測値に基づいて流量調整弁33、三方弁34及び調圧弁35を制御することで、循環配管30と閉鎖空間Aとからなる循環経路内の培養ガス濃度を一定に維持する。例えば、培養ガスが5%濃度の炭酸ガスとする。この場合、制御部50は、ガスセンサ44の計測する炭酸ガス濃度が5%であれば、三方弁34を「閉」とし、ボンベ31から新たな培養ガスを循環配管30に供給させない。一方、制御部50は、ガスセンサ44の計測する炭酸ガス濃度が5%未満であれば、三方弁34を「開」とし、ボンベ31から新たな培養ガスを循環配管30に供給させる。上述の通り、この培養ガス供給の僅かに前に、制御部50は調圧弁35を「開」とし、前記循環経路内の内圧が高くなることを防止する。
【0059】
また、制御部50は、温度センサ43の計測値に基づいて温度調整部42を制御することで、前記循環経路内の培養ガスの温度を所定温度に維持する。温度調整部42が電気ヒーターである場合、目標とするガス温度をTとすると、制御部50は温度センサ43の計測値が温度Tを超過していると前記ヒーターの出力を低下させ、逆に温度T未満であると前記ヒーターの出力を上昇させるフィードバック制御を行う。さらに制御部50は、予め定められたインターバルで湿度調整部41を動作させ、培養ガスを加湿する。勿論、湿度センサを循環配管30に配置し、その計測値に基づき湿度調整部41をフィードバック制御しても良い。
【0060】
続いて、制御部50の制御シーケンスを説明する。
図8は、制御部50の制御下における培養装置1Bの動作例を示すフローチャートである。ここでは、温度調整部42が電気ヒーターである場合を例示している。制御部50は、初期設定として、三方弁34の供給配管303側及び調圧弁35を「閉」とし、循環配管30と閉鎖空間Aとからなる循環経路を完全に閉じた循環系とする(ステップS1)。また、制御部50は、流量調整弁33の開度を、予め設定された培養ガスの単位時間当たりの供給量に対応した開度に設定する(ステップS2)。
【0061】
次いで制御部50は、ポンプ32を動作させる(ステップS3)。これにより、ポンプ32の吐出口、循環配管30の往路、一端30A、入気アダプタ15、閉鎖空間A、出気アダプタ16、他端30B、循環配管30の復路及びポンプ32の受入口を順次経由する循環ガス流が発生する。そして、制御部50は、温度調整部42のヒーターをONとすると共に、湿度調整部41を動作させ、循環配管30内のガスの加熱及び加湿を開始する(ステップS4)。
【0062】
所定のサンプリング周期で、制御部50はガスセンサ44から培養ガス濃度の計測値を取得する(ステップS5)。サンプリング周期は、例えば30ms〜5min程度である。そして、制御部50は、取得したガス濃度計測値が、予め定められた閾値(上掲の例では5%濃度の炭酸ガス)以下であるか否かを判定する(ステップS6)。
【0063】
ガス濃度計測値が閾値以下である場合(ステップS6でYES)、循環配管30に培養ガスを補充する必要がある。このため制御部50は、先ず調圧弁35を「開」とし(ステップS7)、続いて三方弁34を「開」とする(ステップS8)。このように制御部50は、ボンベ31から培養ガスの補充が必要な際、三方弁34を制御してボンベ31から培養ガスを循環配管30内に導入させるタイミングよりも所定時間だけ早いタイミングに、調圧弁35を制御して循環配管30と排気配管304とを連通させる。これにより、培養ガスが循環配管30内に導入されても、前記循環経路内の圧力が上昇することを抑止できる。従って、閉鎖空間Aを介して培養液Lの液面LTに押圧力が与えられることを防止でき、培養液L内の細胞凝集塊Cが揺動したり舞い上がったりすることを回避できる。
【0064】
これに対し、ガス濃度計測値が閾値を維持している場合(ステップS6でNO)、当該状態を維持するために(培養ガス濃度が上昇しないようにするために)、調圧弁35は「閉」とされ(ステップS9)、三方弁34も「閉」とされる(ステップS10)。
【0065】
続いて制御部50は、温度センサ43から培養ガス温度の計測値を取得する(ステップS11)。そして、制御部50は、取得した温度計測値に基づき、温度調整部42のヒーター出力を調整する(ステップS12)。つまり、培養ガスの温度を、設定されている温度に維持できるよう、温度調整部42における培養ガスの加熱度合いを調整する。なお、この温度調整ステップS11、S12を、ガス濃度調整ステップS5〜S10と並行して実行しても良い。すなわち、温度センサ43から培養ガス温度の計測値を取得するサンプリング周期を、ガスセンサ44のサンプリング周期と異ならせても良い。
【0066】
その後、制御部50は、培養装置1Bによる細胞凝集塊Cの培養期間が継続しているか否かを確認する(ステップS13)。培養期間が継続しているならば(ステップS13でYES)、ステップS5以下の動作が繰り返される。一方、培養期間が終了するタイミングであれば(ステップS13でNO)、制御部50は処理を終了する。
【0067】
<培養方法/細胞凝集塊の選別方法>
続いて、
図9〜
図22を参照して、
図2に示した培養装置1Aを用いた細胞凝集塊Cの選別方法について説明する。勿論、用いる培養装置は、
図1に示す培養装置1、或いは
図7に示す培養装置1Bであっても良い。なお、
図9〜
図16に示すステップは、本発明の培養方法に係る実施形態にも相当する。
【0068】
図9及び
図17に示すように、当該選別方法の実施に際しては、ヘッドユニット60と、このヘッドユニット60の駆動装置90とが用いられる。なお、ヘッドユニット60及び駆動装置90は、図示の簡略化のために
図9及び
図17以外では記載を省いている。また、当該選別方法の実施に際し、培養装置1Aが備える培養容器10のほか、培養対象の細胞凝集塊Cを含む細胞懸濁液L1(培養液)を貯留するチューブ70(第1容器;
図9)と、細胞懸濁液L1を吸引及び吐出可能な分注チップ64(
図9)と、細胞凝集塊Cを吸引及び吐出可能なシリンダチップ67(
図17)と、細胞凝集塊Cの移送先となる保持容器80(第2容器;
図17)とが準備される(準備するステップ)。
【0069】
ヘッドユニット60は、ユニット本体61と、分注チップ64が下端に装着される第1ヘッド62(
図9)と、シリンダチップ67が下端に装着される第2ヘッド65(
図17)とを含む。第1ヘッド62及び第2ヘッド65は、ユニット本体61に対して上下方向に移動可能である。第1ヘッド62内には、上下方向に移動するピストンロッド63が配置されている。また、第2ヘッド65内には、上下方向に移動するロッド66が配置されている。ヘッドユニット60は、水平2方向(XY方向)に移動可能である。
【0070】
図9に示すように、分注チップ64は、断面積が上方から下方に向けて徐々に小さくなる円錐状の筒体であり、その下端に吸引又は吐出のための開口64Tを備える。ピストンロッド63が上昇すると、開口64Tには吸引力が発生し、分注チップ64内に細胞懸濁液L1が吸引・保持される。一方、ピストンロッド63が下降すると、開口64Tには吐出力が発生し、分注チップ64内に保持されている細胞懸濁液L1が吐出される。ピストンロッド63の前記上昇及び下降動作、並びに第1ヘッド62の上下方向への移動動作は、ユニット本体61内の第1駆動部63Dによって実行される。
【0071】
シリンダチップ67は、細胞凝集塊Cの吸引経路となる管状通路を内部に備えるシリンジと、この管状通路の内周壁と摺接しつつ前記管状通路内を進退移動するプランジャとを備えている。
図17に示すように、シリンダチップ67の下端には、細胞凝集塊Cの吸引又は吐出のための開口67Tが備えられている。ロッド66の下端に前記プランジャが取り付けられている。ロッド66が上昇すると、前記プランジャが前記シリンジに対して相対的に上昇するのに伴い開口67Tには吸引力が発生し、シリンダチップ67内(前記管状通路内)に細胞凝集塊Cが吸引・保持される。一方、ロッド66が下降すると、開口67Tには吐出力が発生し、シリンダチップ67内に保持されている細胞凝集塊Cが吐出される。ロッド66の前記上昇及び下降動作、並びに第2ヘッド65の上下方向への移動動作は、ユニット本体61内の第2駆動部66Dによって実行される。
【0072】
駆動装置90は、駆動モータ91と、駆動モータ91により回転駆動されるねじ軸92と、ねじ軸92に係合される図略のナット部材と、駆動制御部93とを含む。ねじ軸92は、チューブ70の配置位置の上空から、保持容器80の上空まで水平方向に延びている。前記ナット部材は、ねじ軸92が正回転又は逆回転すると、水平方向に移動する。ユニット本体61は、前記ナット部材に取り付けられている。従って、駆動モータ91によりねじ軸92が回転駆動されることで、ヘッドユニット60は水平方向に移動する。
【0073】
駆動制御部93は、駆動モータ91、第1駆動部63D及び第2駆動部66Dの動作を制御する。これにより駆動制御部93は、ヘッドユニット60の移動動作、第1ヘッド62及び第2ヘッド65の上下動、ピストンロッド63の上下動に伴う分注チップ64による細胞懸濁液L1の吸引・吐出動作、並びに、ロッド66の上下動に伴うシリンダチップ67による細胞凝集塊Cの吸引・吐出動作を制御する。
【0074】
図9は、ヘッドユニット60がチューブ70の上空に移動している状態を示している。チューブ70は、上面に開口部71を有する容器であり、細胞凝集塊Cを含む細胞懸濁液L1を貯留している。この開口部71に、第1ヘッド62の下端に装着された分注チップ64が対向している。第1ヘッド62は上昇位置にあり、ピストンロッド63は、上下方向の可動範囲の最下位置まで下降している。
【0075】
図10は、駆動制御部93が第1駆動部63Dを動作させ、第1ヘッド62を下降位置に移動させた状態を示している。この下降によって、分注チップ64の開口64Tを含む下方部分が、チューブ70内の細胞懸濁液L1に浸漬された状態となる。
図11は、第1駆動部63Dによりピストンロッド63が上昇された状態を示している。これにより、開口64Tには吸引力が発生し、チューブ70に貯留された細胞凝集塊Cを含む細胞懸濁液L1の一部が、分注チップ64内に吸引される(吸引するステップ)。
【0076】
続いて、ヘッドユニット60が培養容器10の上空に移動される。先ず、
図12に示すように、第1駆動部63Dにより第1ヘッド62が上昇位置に移動される。これにより、細胞懸濁液L1を保持した分注チップ64も、細胞懸濁液L1の液中から離れ、チューブ70の上に移動する。その後、駆動制御部93により駆動モータ91が駆動され、ヘッドユニット60がねじ軸に沿って右方へ移動される。ヘッドユニット60は、
図13に示すように、培養容器10の上空で停止される。分注チップ64は、培養容器10の上部開口1H(投入開口)と対向している。
【0077】
その後、
図14に示すように、駆動制御部93は第1駆動部63Dを制御し、第1ヘッド62を下降位置に移動させる。この状態では、分注チップ64が上部開口1Hに入り込み、プレート2に接近している。分注チップ64の開口64Tは、培養液Lに入り込んでいても、培養液Lの液面よりもやや上方であっても良い。
【0078】
しかる後、駆動制御部93は第1駆動部63Dを制御し、ピストンロッド63を下降させる。これにより、分注チップ64に保持されている細胞懸濁液L1は、上部開口1Hを通して培養容器10内に吐出される(吐出するステップ)。
図15は、前記吐出が行われた後の状態を示している。吐出された細胞懸濁液L1に含まれていた細胞凝集塊Cは、プレート2上に担持されている。この後、図示は省略しているが、第1ヘッド62は上昇位置に移動される。
【0079】
そして、
図16に示す通り、培養容器10に付設されているガス交換機構3により、成分調整された培養ガス(例えば5%濃度の炭酸ガス)の、培養容器10内の閉鎖空間Aを経由した流通が開始される(流通を開始するステップ)。具体的には、図略のコントローラがポンプ32を動作させ、ボンベ31に貯留されている培養ガスを、供給配管301を通して閉鎖空間Aへ導入すると共に、導入された培養ガスを排気配管302から排出する。実際の装置では、ガス交換機構3のコントローラ(
図7では制御部50)と上述の駆動制御部93とを統括的にコントロールする統括制御部が存在し、当該統括制御部が上述の動作をシーケンシャルに実行させる。
【0080】
その後、このような培養ガスの閉鎖空間Aへの流通を維持しつつ、細胞凝集塊Cがプレート2で保持される(保持するステップ)。細胞凝集塊Cを、当該培養容器10にてそのまま培養する場合は、この状態が所定の培養期間だけ維持される。この際には、上部開口1Hに蓋部材を被せ、細胞凝集塊Cを覆い隠すようにしても良い。一方、細胞凝集塊Cの選別が行われる場合は、次の
図17〜
図22のステップが実行される。
【0081】
図17は、ヘッドユニット60の第2ヘッド65に装着されているシリンダチップ67が、培養容器10の上空で上部開口1Hと対向している状態を示している。ここでは、第1ヘッド62の記載は省かれている。以後、シリンダチップ67によりプレート2上の細胞凝集塊Cが個別に吸引され、保持容器80に移送される。保持容器80は、上面に開口81を有する扁平な容器であり、細胞の培養液L2を貯留している。培養液L2中には、ウェルプレート82が浸漬されている。この細胞凝集塊Cの個別吸引〜移送の作業の間、ガス交換機構3は稼働を続ける。すなわち、閉鎖空間Aへの培養ガスの流通を継続し、細胞凝集塊Cの劣化を抑止する。なお、培養ガスは、閉鎖空間Aに導入される前に、予め定められた温度及び/又は湿度に調整される。
【0082】
図23は、ウェルプレート82の拡大断面図である。ウェルプレート82は、上面視で矩形の部材であり、上面82Uと下面82Bとを有する。下面82Bは平坦であるが、上面82Uにはマトリクス配置された多数のウェル83(凹部)を有している。ウェル83は、縦断面がU字型の凹部である。プレート2の保持部21には貫通孔22が付設されているが、ウェル83には貫通孔は付設されていない。各ウェル83には、図示の通り1の細胞凝集塊Cが担持される。なお、このウェルプレート82を、プレート2に代替して培養容器10に設置し、ウェルプレート82のウェル83に細胞凝集塊Cを担持させ、これを培養するようにしても良い。また、
図17では、ウェルプレート82が培養液L2中に浸漬されている例を示しているが、各ウェル83にだけ培養液L2が注液され、ウェルプレート82自体は培養液L2に浸漬されない態様としても良い。
【0083】
シリンダチップ67により細胞凝集塊Cを吸引させる前に、細胞凝集塊Cを担持しているプレート2の画像が撮像される。好ましくは、透明な部材で形成された培養容器10及びプレート2を用い、培養容器10の下方にカメラを配置してプレート2の撮像を行う。取得された画像に基づき、プレート2に担持されている細胞凝集塊Cのうち、予め定められた基準を満たす合格検体が特定される。すなわち、細胞凝集塊Cの中には、十分な大きさを有していない、又は形状が歪であるというような、その後の培養や試験等に適さないものが混在している。従って、合格検体を選別するステップが必要となる。この選別は、ユーザーの目視、若しくは取得された画像の解析により行われる。その後、合格検体として特定された細胞凝集塊Cの、プレート2上における担持位置(保持部21の位置)を特定する座標情報が導出される。この座標情報は、第2ヘッド65(シリンダチップ67)の下降位置を特定する情報となる。
【0084】
図17の状態において、吸引ターゲットする1の細胞凝集塊Cが特定され、その座標情報に応じて第2ヘッド65の位置合わせが行われる。図示は省略しているが、ヘッドユニット60は、ねじ軸92の延伸方向(X方向)だけでなく、該ねじ軸92と水平面で直交する方向(Y方向)にも移動可能である。駆動制御部93は、ヘッドユニット60をXY方向に微小移動させることで、第2ヘッド65の位置合わせを行う。このとき、ロッド66は下降位置である。
【0085】
図18は、駆動制御部93により第2駆動部66Dが制御され、第2ヘッド65が下降位置に移動された状態を示している。このとき、シリンダチップ67の下端の開口67Tは培養液L内に入り込み、ターゲットとする1の細胞凝集塊Cに近接している。その後、駆動制御部93は、第2駆動部66Dを制御し、前記プランジャが取り付けられているロッド66を上昇位置に移動する。これにより、前記1の細胞凝集塊Cは、シリンダチップ67内(前記シリンジの前記管状通路内)に吸引される(個別に吸引するステップ)。
【0086】
そして、駆動制御部93は第2駆動部66Dを制御し、第2ヘッド65を上昇位置に移動させる。
図19は、前記移動の後の状態を示している。シリンダチップ67内には、僅かな培養液Lと1の細胞凝集塊Cが保持されている。この状態から駆動制御部93は駆動モータ91を駆動し、ヘッドユニット60を、
図20に示すように、保持容器80の上空まで移動させる。その後、駆動制御部93は、細胞凝集塊Cの吐出先となるウェルプレート82上の1のウェル83の直上にシリンダチップ67が位置合わせされるよう、ヘッドユニット60を微小移動させる。
【0087】
続いて、
図21に示すように、駆動制御部93は第2駆動部66Dを制御し、第2ヘッド65を下降位置に移動させる。これにより、シリンダチップ67の開口67Tが、吐出対象の1のウェル83内に入り込んだ状態となる。そして、駆動制御部93は第2駆動部66Dを制御し、ロッド66を下降させる。これにより、開口67Tには吐出力が発生し、シリンダチップ67内に保持されている細胞凝集塊Cがウェル83内に吐出される(第2容器に吐出するステップ)。
【0088】
しかる後、駆動制御部93は第2駆動部66Dを制御し、第2ヘッド65を上昇位置に移動させる。
図22は、前記移動の後の状態を示している。ウェル83には細胞凝集塊Cが保持されている。この後、駆動制御部93は駆動モータ91を駆動し、ヘッドユニット60を、培養容器10の上空まで再び移動させる。そして、
図17〜
図22の動作が、合格検体と判定された細胞凝集塊Cをプレート2から全てウェルプレート82に移送するまで繰り返される。この間、閉鎖空間Aへの培養ガスの流通が継続される。
【0089】
以上説明した通りの本実施形態の培養装置によれば、閉鎖的な培養領域R(閉鎖空間A)に培養ガスを流通させることにより、培養領域Rの汚染の問題を軽減化しつつ、培養容器10内に細胞凝集塊Cの保管若しくは培養に適した環境を形成することができる。また、同様な環境をチャンバー内などで作成する場合、或いは実験室内全体の環境を調整する場合に比べて、本実施形態では培養容器10のみに培養ガスを流通させるだけで済むので、装置構成を大幅に簡略化、コンパクト化することができる。
【0090】
上記で説明した実施形態は本発明の一例であり、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、培養容器10に貯留した培養液L中にプレート2を浸漬し、該プレート2に細胞凝集塊Cを担持させる例を示した。しかし、プレート2を培養液Lに浸漬することは必須ではない。
【0091】
図24は、本発明の第4実施形態に係る培養装置1Cの概略的な側断面図である。培養装置1Cは、培養容器101と蓋部材102とからなるコンテナ100と、コンテナ100内に配置された多孔プレート84と、ガス交換機構3とを備えている。コンテナ100及びガス交換機構3は、第1実施形態と同じである。多孔プレート84は、平板状のプレートであり、上下方向に貫通する多数の保持孔85(保持部)を備える。保持孔85には、培養液の液滴LDが保持されている。この液滴LD内には、細胞凝集塊Cが含まれている。コンテナ100内の閉鎖空間は培養領域A0であるが、培養液は貯留されておらず、多孔プレート84が担持する液滴LDのみが培養液として存在する。培養領域A0内には、加湿用に蒸留水等を保持する部位を設けることが望ましい。
【0092】
コンテナ100の内部において、多孔プレート84の下面と培養容器101の底壁との間に空間が存在するよう、多孔プレート84はコンテナ100にて保持されている。ガス交換機構3は、コンテナ100内の培養領域A0を通して培養ガスを流通させる。培養ガスは、液滴LD中の細胞凝集塊Cに作用し、当該細胞凝集塊Cの成育を促進する。このような実施形態であっても、本発明は実施可能である。
【0093】
なお、
図24では、多孔プレート84がコンテナ100で完全に覆われている例を示したが、これに代えて、多孔プレート84の下面側が閉鎖空間に臨み、上面側は外部に露出している態様としても良い。この態様によれば、多孔プレート84の保持孔85に対して上方から分注チップ64をアクセスさせることができ、また、多孔プレート84の下面側に垂下している液滴LDを培養ガスに曝すことができる。
【0094】
なお、上述した具体的実施形態には以下の構成を有する発明が主に含まれている。
【0095】
本発明の一局面に係る培養装置は、生物の培養領域を提供する容器であって、前記培養領域中に培養対象の生物を投入させるための上部開口を備える培養容器と、前記培養領域を閉鎖するように、前記上部開口の少なくとも一部を覆う蓋部材と、前記培養領域を経由してガスを流通させるガス交換機構とを備える。
【0096】
この培養装置によれば、培養容器の上部開口の少なくとも一部が蓋部材で覆われ、培養領域が閉鎖的な領域とされる。このような閉鎖的な培養領域にガスを流通させることにより、前記培養領域の汚染の問題を軽減化しつつ、前記培養容器内に生物の保管若しくは培養に適した環境を形成することができる。
【0097】
上記の培養装置において、前記培養容器は、生物の培養液を所定の液面高さで貯留する容器であり、前記蓋部材は、前記培養液の液面上に閉鎖空間が形成されるように、前記上部開口の一部を覆い、前記培養領域は前記培養液及び前記閉鎖空間を含み、前記ガス交換機構は、前記閉鎖空間を経由してガスを流通させることが望ましい。
【0098】
この培養装置によれば、前記閉鎖空間の環境を、生物の培養に適した環境に維持することができる。すなわち、培養液中に浸漬された生物は、その活動によってガスを発生することがあり、このため前記閉鎖空間の環境は変化し得る。上記培養装置では、閉鎖空間を経由してガスを流通させることができるので、前記閉鎖空間の環境を一定に維持することが可能となる。これにより、環境変化に伴い生物にダメージが与えられることを抑止することができる。
【0099】
上記の培養装置において、前記ガス交換機構は、前記生物の培養に適した培養ガスを貯留するガス供給源と、前記閉鎖空間に前記培養ガスを導く供給配管と、前記閉鎖空間の前記培養ガスを排気させる排気配管とを含む配管系統と、前記配管系統及び前記閉鎖空間内において前記培養ガスを流通させるポンプとを含む構成とすることができる。
【0100】
この場合、前記培養容器又は前記蓋部材には、前記閉鎖空間に連通する入口部及び出口部が備えられ、前記配管系統は、前記入口部に一端が接続され、前記出口部に他端が接続された循環配管を含み、前記ポンプは、前記循環配管に組み入れられ、前記ガス供給源及び前記排気配管は、前記循環配管に分岐接続されていることが望ましい。
【0101】
この培養装置によれば、前記培養ガスを前記循環配管で循環させながら、前記閉鎖空間へ供給することができるので、培養ガスを有効利用することができる。また、前記循環配管内において培養ガスの濃度が変化した場合には、分岐接続されているガス供給源からの培養ガスの供給、若しくは循環配管からのガス排気によって、前記培養ガスの濃度を調整することが可能となる。さらに、閉ループ内で培養ガスが循環されるので、前記培養ガスのコンタミネーションを防止できる利点もある。
【0102】
上記の培養装置において、前記循環配管の、前記入口部よりも前記培養ガスの循環方向上流側に組み入れられる第1弁装置と、前記循環配管の、前記出口部よりも前記培養ガスの循環方向下流側に組み入れられる第2弁装置と、前記ポンプ、前記第1弁装置及び前記第2弁装置の動作を制御する制御部と、をさらに備え、前記ガス供給源は、前記第1弁装置を介して前記循環配管に接続され、前記排気配管は、前記第2弁装置を介して前記循環配管に接続されていることが望ましい。
【0103】
この培養装置によれば、制御部は、前記循環配管への培養ガスの供給が必要な場合、前記第1弁装置を制御して前記ガス供給源から前記培養ガスを供給させ得る。また、制御部は、前記循環配管のガスの排気が必要な場合は、前記第2弁装置を制御して前記排気配管からの排気を行わせ得る。
【0104】
この場合、前記制御部は、前記培養ガスを流通させる際、前記第1弁装置を制御して前記ガス供給源から前記培養ガスを前記循環配管内に導入させるタイミングよりも所定時間だけ早いタイミングに、前記第2弁装置を制御して前記循環配管と前記排気配管とを連通させることが望ましい。
【0105】
この培養装置によれば、ガス供給源から培養ガスを循環配管内に導入されるよりも所定時間前に、循環配管と排気配管とが連通される。従って、培養ガスが循環配管内に導入されても、前記循環配管内の圧力が上昇することを抑止できる。圧力変動が生じると、前記閉鎖空間を介して前記培養液の液面に押圧力を与えることとなり、前記培養液内の生物を揺動したり舞い上がらせたりして、当該生物に悪影響を及ぼし得る。上記培養装置によれば、このような問題を回避できる。
【0106】
上記の培養装置において、前記ガス交換機構は、前記閉鎖空間に導入される前に、前記培養ガスを予め定められた温度に調整する温度調整部をさらに備えることが望ましい。また、前記ガス交換機構は、前記閉鎖空間に導入される前に、前記培養ガスの湿度を調整する湿度調整部をさらに備えることが望ましい。
【0107】
これらの培養装置によれば、前記閉鎖空間の温度及び湿度を、生物の培養に適した温度及び湿度に維持することができる。
【0108】
上記の培養装置において、前記上部開口のうち前記蓋部材で覆われていない投入開口に対向した状態で前記培養液中に浸漬され、前記培養対象の生物を担持する複数の保持部を有するプレートをさらに備えることが望ましい。
【0109】
この培養装置によれば、培養対象となる生物を、培養液中においてプレートによって安定的に保持することができる。
【0110】
上記の培養装置において、前記プレートは、上面と下面とを有し、前記下面が前記培養容器の底壁に対して間隔を置いた状態で前記培養体中に浸漬され、前記保持部は、前記上面側に配置され、各保持部の配置位置に形成され前記上面から前記下面に貫通する貫通孔をさらに備えていることが望ましい。
【0111】
この培養装置によれば、所定サイズの生物を保持部で保持させる一方で、小サイズの夾雑物などの異物を前記貫通孔から落下させ、培養容器の底壁で回収することができる。従って、必要な生物だけをプレートで担持させ、培養させることができる。
【0112】
上記の培養装置において、前記プレートは、上面と下面とを有し、前記培養液中に浸漬され、前記保持部は、前記上面側に配置された複数の凹部であることが望ましい。
【0113】
この培養装置によれば、培養液中に浸漬した状態で生物をプレートの凹部で担持させ、培養させることができる。
【0114】
また、培養装置は、前記培養領域中に配置され、前記培養対象の生物を保持する複数の保持部を有するプレートをさらに備え、前記保持部は、前記生物を含む培養液を液滴の状態で保持する態様とすることができる。
【0115】
この培養装置によれば、内部に生物が含まれた液滴が前記培養領域に配置され、前記ガスに曝されることとなる。従って、培養容器内の閉鎖された環境において、前記液滴内で前記生物を培養することができる。
【0116】
本発明の他の局面に係る培養方法は、培養対象の生物を含む培養液を貯留するチューブと、上記の培養装置と、前記培養液を吸引及び吐出可能な分注チップとを準備するステップと、前記分注チップにより、前記チューブから前記培養対象の生物を含む培養液を吸引するステップと、前記吸引された培養液を、前記上部開口のうち前記蓋部材で覆われていない投入開口を通して、前記分注チップから前記培養容器内に吐出するステップと、前記ガス交換機構により、成分調整された培養ガスの前記閉鎖空間を経由した流通を開始するステップと、前記培養ガスを前記閉鎖空間に流通させつつ、前記培養対象の生物を前記培養容器内で保持するステップと、を含む。
【0117】
上記の培養方法によれば、分注チップにより培養対象の生物を含む培養液をチューブから培養容器へ移送した後、当該培養容器の前記閉鎖空間の環境を、生物の培養に適した環境に維持することができる。すなわち、培養液中に浸漬された生物は、その活動によってガスを発生することがあり、このため前記閉鎖空間の環境は変化し得る。上記培養方法では、閉鎖空間を経由して培養ガスを流通させることができるので、前記閉鎖空間の環境を一定に維持することが可能となる。これにより、環境変化に伴い生物にダメージが与えられることを抑止することができる。
【0118】
本発明のさらに他の局面に係る細胞凝集塊の選別方法は、培養対象の生物としての細胞凝集塊を含む培養液を貯留する第1容器と、上記の培養装置と、前記培養液を吸引及び吐出可能な分注チップと、前記細胞凝集塊を吸引及び吐出可能なシリンダチップと、前記細胞凝集塊の移送先となる第2容器とを準備するステップと、前記分注チップにより、前記第1容器から前記細胞凝集塊を含む培養液を吸引するステップと、前記吸引された培養液を、前記投入開口を通して前記分注チップから前記培養容器内に吐出し、前記プレートの前記保持部に前記細胞凝集塊を担持させるステップと、前記ガス交換機構により、成分調整された培養ガスの前記閉鎖空間を経由した流通を開始するステップと、前記培養ガスを前記閉鎖空間に流通させつつ、前記保持部に担持された前記細胞凝集塊を、前記シリンダチップで個別に吸引するステップと、前記吸引された細胞凝集塊を、前記シリンダチップから前記第2容器に吐出するステップと、を含む。
【0119】
上記の細胞凝集塊の選別方法によれば、分注チップにより細胞凝集塊を含む培養液をチューブから培養容器へ移送した後、前記細胞凝集塊がシリンダチップにより前記培養容器から吸引されるまでの間、当該培養容器の前記閉鎖空間の環境を、細胞凝集塊の培養に適した環境に維持することができる。
【0120】
上記の細胞凝集塊の選別方法において、前記培養ガスは、前記閉鎖空間に導入される前に、予め定められた温度及び/又は湿度に調整されることが望ましい。
【0121】
以上説明した本発明によれば、簡易な構成で、培養容器に保持された生物にダメージを可及的に与えないようにする機構を備えた培養装置、これを用いた培養方法及び細胞凝集塊の選別方法を提供することができる。