【実施例】
【0042】
以下、実施例等を挙げて、本発明について具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例等に限定して解釈されるものではない。
【0043】
参考試験例1:油脂分解能が公知の微生物での脂肪酸除去作用の評価(1)
表1に示す2種の微生物製剤は、油脂分解能を有することが知られており、これらの微生物製剤の脂肪酸除去作用を、以下の方法でn−ヘキサン抽出物量を測定することにより評価した。なお、下記微生物製剤1では、バークホルデリア属に属する微生物が含まれており、下記微生物製剤2では、バークホルデリア属、アシネトバクター属、及びセラチア属に属する各微生物が含まれていることが確認されている。
【0044】
【表1】
【0045】
トリプトンソーヤブイヨンUSP(SCD培地)(日水製薬社製)を前培養培地として、前記微生物製剤1及び2を2%接種し、30℃にて160rpm、24時間前培養を行った。続いて、前培養液1mLを、1重量%の大豆油を含む本培養培地(ニュートリエント培地(Difco社製)を10倍に純水にて希釈したもの)50mLに懸濁し、30℃、160rpmで24時間振とう培養した。培養終了後、培養液に残留する油脂成分を定量した。油脂成分の定量方法は、JIS K0102の方法に従って、n−ヘキサン抽出物量として定量を行った。また、JIS K0102によるヘキサン抽出の際に無水硫酸ナトリウムを加えることにより、解乳化処理を行った条件での油脂成分の定量も行った。解乳化条件での油脂成分の定量の際には、無水硫酸ナトリウムを乳化による白濁が見られなくなるまで添加を行い、白濁が消失した状態でヘキサン抽出を行った。また、コントロールとして、微生物製剤を接種しなかったこと以外は、前記と同条件でn−ヘキサン抽出物量を測定した。なお、コントロールでは、油脂成分が乳化されていないので、解乳化処理を行うことなく、油脂成分の定量を行った。
【0046】
微生物製剤1及び2を用いて本培養を行った結果、いずれでも、培養液が乳化状態になることが観察された。
図1に、微生物製剤1を用いて本培養を行った後の培養液の外観を観察した図を示す。また、
図2に、コントロールにおけるn−ヘキサン抽出物量を100%として算出した各条件でのn−ヘキサン抽出物量(%)を示す。微生物製剤1及び2を用いた培養液では、解乳化処理を行わずにn−ヘキサン抽出物量を測定した場合には、n−ヘキサン抽出物量が低下していたのに対して、解乳化処理を行ってn−ヘキサン抽出物量を測定した場合には、コントロールと同量という結果となった(
図2)。即ち、微生物製剤1及び2では、培養後には、脂肪酸が除去されているのではなく、脂肪酸を乳化させることによって、見掛け上、n−ヘキサン抽出物量が低下していることが確認された。
【0047】
なお、参考のため、微生物製剤1を用いた培養液について、無水硫酸ナトリウムの添加による解乳化処理の有無での外観上の違いを観察した結果を
図3に示す。本試験はn=2で行い、
図3においてYB−1は1回目の試験結果、YB−2は2回目の試験結果を示す。
図3から明らかなように、無水硫酸ナトリウムを添加しない場合では乳化状態になり、無水硫酸ナトリウムを添加した場合では可溶化状態になることが確認できている。
【0048】
参考試験例2:油脂分解能が公知の微生物での脂肪酸除去作用の評価(2)
前記表1に示す2種の微生物製剤の脂肪酸除去作用について、以下の方法で、脂肪酸を直接測定することにより評価した。
【0049】
トリプトンソーヤブイヨンUSP(SCD培地)(日水製薬社製)を前培養培地として、前記微生物製剤1及び2を2%接種し、30℃にて160rpm、24時間前培養を行った。続いて、前培養液1mLを、1重量%のオレイン酸を含む本培養培地(ニュートリエント培地(Difco社製))50mLに懸濁し、30℃、160rpmで24〜72時間振とう培養した。培養終了後、培養液に含まれる脂肪酸を定量した。脂肪酸の定量は、アシルCoAシンテターゼとアシルCoAオキシダーゼを用いる酵素法により行った。具体的には、先ず、培養後の培養液に4w/v%となるようにTriton−X100を添加し、完全に乳化分散させた。次いで、0.5w/v%のTriton−X100水溶液にて、この培養後サンプルを20倍に希釈した。希釈サンプルをNEFA C−テストワコー(和光純薬工業社製)にて測定を行い、脂肪酸残存量を定量した。また、コントロールとして、微生物製剤を接種しなかったこと以外は、前記と同条件で脂肪酸残存量を測定した。
【0050】
得られた結果を
図4に示す。この結果から、酵素法により脂肪酸の定量を行った結果、油脂分解能を有することが知られている微生物製剤1及び2のいずれでも、培養液中の脂肪酸量は、24〜72時間の培養時間において殆ど変化していないことが確認された。
【0051】
試験例1:プロトテカ属に属する微生物による脂肪酸除去作用の評価
表2に示すプロトテカ属に属する微生物を用いて、脂肪酸除去作用について評価した。試験方法は、本培養時間を24〜48時間に変更したこと以外は、前記参考試験例2と同様である。また、比較のために、前記表1に示す2種の微生物製剤についても、前記と同条件で脂肪酸残存量を測定した。また、コントロールとして、微生物を接種しなかったこと以外は、前記と同条件で脂肪酸残存量を測定した。
【0052】
【表2】
【0053】
得られた結果を
図5に示す。この結果から、プロトテカ属に属する微生物には、強い脂肪酸除去作用が認められた。
【0054】
試験例2:低栄養源且つ高C/N比の環境でのプロトテカ属に属する微生物による脂肪酸除去作用の評価
厨房・食堂・食品工場等から排出される排水の全窒素量は3〜600mg/Lであり(環境技術実証事業 小規模事業場向け有機性排水処理技術分野 実証試験要領 より)、グリーストラップなどの油脂回収槽であれば、5000〜500000mg/Lまでの油脂濃度となってしまう。つまりC/N比としては生物処理が正常に行われる20以上の値からさらに高いC/N比条件で油脂の分解を行わなければならない。そこで、前記試験例1において、プロトテカ属に属する微生物において、強い脂肪酸除去作用が認められたので、本試験では、低栄養源且つ高C/N比の環境でプロトテカ属に属する微生物が脂肪酸除去作用を発揮し、排水中の脂肪酸除去に適した特性を備えているかについて検討を行った。具体的には、低栄養源且つ高C/N比の環境を模した培地として、ニュートリエント培地(Difco社製)を10倍希釈し、且つ1重量%のオレイン酸を含む培地を本培養培地(C/N比は100であると推測される)として使用し、プロトテカ属に属する微生物としてプロトテカ・ウィッカーハミイJCM9645株を使用して脂肪酸除去作用を評価した。詳細な試験条件は、以下の通りである。
【0055】
トリプトンソーヤブイヨンUSP(SCD培地)(日水製薬社製)を前培養培地として、各プロトテカ属に属する微生物を接種し、30℃にて160rpm、24時間前培養を行った。続いて、前培養液50mLを、10000Gにて5分間遠心分離し、遠心沈殿した微生物を、本培養培地50mLに懸濁し、30℃、160rpmで24時間振とう培養した。培養終了まで経時的に培養液をサンプリングし、培養液中の脂肪酸残存量を前記参考試験例2と同様の方法で定量した。また、比較のために、前記表1に示す2種の微生物製剤についても、前記と同条件で脂肪酸残存量を測定した。更に、コントロールとして、微生物を接種しなかったこと以外は、前記と同条件で脂肪酸残存量を測定した。
【0056】
得られた結果を
図6及び7に示す。この結果から、低栄養源且つ高C/N比の環境であっても、プロトテカ属に属する微生物は、脂肪酸除去作用を有効に発揮できることが確認された(
図6)。また、低栄養源且つ高C/N比の環境であっても、プロトテカ属に属する微生物の添加から2時間という短時間で、脂肪酸は40%程度が除去されることも確認された(
図7)。
【0057】
試験例3:連続的回分処理におけるプロトテカ属に属する微生物による脂肪酸除去作用の評価
前記試験例2にて、低栄養条件且つC/N比が高い培地において、プロトテカ属に属する微生物は、脂肪酸除去作用を発揮することが明らかとなった。そこで、脂肪酸除去作用が回分培養にて連続的にみられるかどうかを、本培養培地として、(1)ニュートリエント培地(Difco社製)を10倍希釈し、且つ1重量%のオレイン酸を含む培地(1/10NB)、及び(2)食品工場から排出された油脂含有排水をリパーゼ処理によって油脂の50%を脂肪酸に分解した排水(油脂含有量2重量%)(実排水)を使用し、プロトテカ・ウィッカーハミイJCM9645株を使用して検討した。
【0058】
具体的には、まず、トリプトンソーヤブイヨンUSP(SCD培地)(日水製薬社製)を前培養培地として、プロトテカ属に属する微生物を接種し、30℃にて160rpm、48時間前培養を行った。続いて、前培養液50mLを、10000Gにて5分間遠心分離し、遠心沈殿した微生物を、本培養培地50mLに懸濁し、30℃、160rpmで48時間振とう培養した。培養後、培養液を前記条件で遠心分離し、遠心沈殿した微生物を回収し、更に、本培養培地50mLに懸濁し、30℃、160rpmで48時間振とう培養した。この操作を繰り返し、合計4日間、連続的に回分培養を行った。また、別途、本培養培地による1回当たりの培養時間を24時間に設定して、同様に回分培養を繰り返し、合計9日間、連続的に回分培養を行った。培養液を経時的にサンプリングし、培養液中の脂肪酸残存量を前記参考試験例2と同様の方法で定量した。また、比較のために、表1に示す微生物製剤2を使用し、前培養時間を24時間に変更し、且つ本培養における1回の回分培養の時間を24時間で合計3日間に設定したこと以外は、前記と同条件で脂肪酸残存量を測定した。
【0059】
プロトテカ属に属する微生物を用いて、48時間の振とう培養を合計4回繰り返した結果を
図8に示す。この結果、本培養培地として、1/10NB及び実排水のいずれの場合でも、回分培養を繰り返し行っても、脂肪酸を除去できることが確認できた。また、プロトテカ属に属する微生物を用いて、実排水に対して24時間の振とう培養を合計9日間繰り返した結果を
図9に示す。この結果から、24時間間隔にて回分処理を繰り返しても、9日間は脂肪酸の除去作用が十分に維持されることが明らかとなった。また、実排水に対して表1に示す微生物製剤2を使用して24時間の振とう培養を合計3日間繰り返した結果を
図10に示す。
図10から明らかなように、微生物製剤2では、2日間は脂肪酸除去作用が維持されていたが、プロトテカ属に属する微生物のような高い脂肪酸除去作用はなく、その作用も3日後には維持できなくなっていた。
【0060】
試験例4:プロトテカ属に属する微生物による脂肪酸の微生物内動態の回析
前記試験例1〜3にてプロトテカ属に属する微生物による脂肪酸の除去作用が認められたので、プロトテカ属に属する微生物内において、脂肪酸がどのような動態を示すかについて、本培養培地として、ニュートリエント培地(Difco社製)を10倍希釈し、且つ1重量%のオレイン酸を含む培地を使用し、プロトテカ・ウィッカーハミイJCM9645株を使用して検討した。
【0061】
具体的には、まず、トリプトンソーヤブイヨンUSP(SCD培地)(日水製薬社製)を前培養培地として、プロトテカ属に属する微生物を接種し、30℃にて160rpm、48時間前培養を行った。続いて、前培養液50mLを、10000Gにて5分間遠心分離し、遠心沈殿した微生物を、本培養培地50mLに懸濁し、30℃、160rpmで24時間振とう培養した。培養後、培養液を前記条件で遠心分離し、遠心沈殿した微生物を回収し、更に、本培養培地50mLに懸濁し、30℃、160rpmで24時間振とう培養した。この操作を繰り返し、合計4日間、連続的に回分培養を行った。
【0062】
培養中に培養液を経時的にサンプリングし、10000Gにて5分間 遠心分離を行い、遠心上清と遠心沈殿微生物とに分離した。遠心沈殿微生物をヘキサン10mLにて洗浄し、10000Gにて5分間再度遠心分離を行い、洗浄ヘキサン層と遠心沈殿微生物細胞に分離した。遠心上清全量にヘキサン20mLを添加し、乳化による白濁が生じていないことを確認しながらヘキサン抽出を行った。乳化が生じていた場合、適宜無水硫酸ナトリウムを添加し、解乳化を行った。洗浄ヘキサン抽出層と遠心上清からのヘキサン抽出層を混合し、蒸発乾固させることで得られたヘキサン抽出物を菌体外脂質とした。また、別途、洗浄後の遠心沈殿微生物は乳鉢を用いて破砕を行った。破砕した微生物に20mLヘキサンを添加し、ヘキサン抽出を行った。破砕した微生物とヘキサンの懸濁溶液を15000Gにて5分間遠心分離を行い、ヘキサン層を得た。このヘキサン層を蒸発乾固させることで得られたヘキサン抽出物を菌体内脂質とした。
【0063】
得られた菌体外脂質と菌体内脂質の組成をガスクロマトグラフィーにて分析した。ガスクロマトグラフィーの分析条件は以下の通りである。カラム: DB−1HT (J&W, 5m×0.25mm×0.1μm)、カラム温度: 120℃から220℃に昇温(15℃/分)、220℃にて1分間保持後、370℃に昇温(20℃/分、370℃にて3分間保持、検出器:FID、キャリアガス:窒素、流量374mL/分、スプリット比1/50。
【0064】
得られた菌体外脂質と菌体内脂質の経時的変化を測定した結果を
図11に示す。この結果から、プロトテカ属に属する微生物において、菌体外脂質は培養開始から速やかに減少していたが、菌体内脂質量は、菌体外脂質の減少に従って増加し、その後減少する傾向を示した。全脂質量(菌体内脂質と菌体外脂質の合計量)の結果から、プロトテカ属に属する微生物は、本培養培地に添加された脂肪酸の半分程度を資化し、残りの半分程度は菌体内に蓄積することが明らかとなった。
【0065】
また、菌体外脂質と菌体内脂質をガスクロマトグラフィーにて分析した結果を
図12に示す。この結果から、菌体内脂質は、殆どがトリグリセリドであることが確認され、プロトテカ属に属する微生物は脂肪酸を細胞内に急速に取り込み、トリグリセライドに変換して貯蔵し、順次β酸価により資化を行っていくという機構が明らかとなった。
【0066】
また、24時間毎に回分培養を繰り返し行った際の菌体内脂質の経時的変化を測定した結果を
図13に示す。この結果から、培地交換によって脂肪酸が供給されるに伴い、菌体内のトリグリセリド量が効率的に蓄積されることが確認できた。