特許第6294009号(P6294009)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6294009溶接システム、および、溶接システムの通信方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294009
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】溶接システム、および、溶接システムの通信方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/10 20060101AFI20180305BHJP
【FI】
   B23K9/10 A
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-110509(P2013-110509)
(22)【出願日】2013年5月27日
(65)【公開番号】特開2014-226714(P2014-226714A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年4月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100103078
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 達也
(74)【代理人】
【識別番号】100115369
【弁理士】
【氏名又は名称】仙波 司
(74)【代理人】
【識別番号】100130650
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 泰光
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(72)【発明者】
【氏名】松本 悟
(72)【発明者】
【氏名】手島 修
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 孝美
(72)【発明者】
【氏名】阿部 泰浩
【審査官】 岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−095542(JP,A)
【文献】 特開2009−049544(JP,A)
【文献】 特開昭62−145940(JP,A)
【文献】 特開平06−335061(JP,A)
【文献】 特開平04−137008(JP,A)
【文献】 特開昭61−156942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の溶接電源装置と、
前記複数の溶接電源装置を操作する遠隔操作装置と、
前記遠隔操作装置との間で無線通信を行う無線ルータと、
を備えており、
前記複数の溶接電源装置は、前記無線ルータにそれぞれ個別のケーブルで接続されており、
前記無線ルータは、無線通信によって前記遠隔操作装置から受信した信号に含まれる識別番号に基づいて、対応する溶接電源装置に、前記個別のケーブルを介して当該信号を送信する、
ことを特徴とする溶接システム。
【請求項2】
前記溶接電源装置は、
前記遠隔操作装置との間で無線通信を行っており、
無線通信によって前記遠隔操作装置から直接受信した信号と、前記無線ルータおよびケーブルを介して受信した信号とを比較する比較手段と、
前記比較手段によって2つの信号が同じであると判断された場合にのみ、当該信号に基づいて処理を行う処理手段と、
を備えている、
請求項1に記載の溶接システム。
【請求項3】
前記溶接電源装置は、前記比較手段によって2つの信号が異なると判断された場合に、前記遠隔操作装置に信号の再送信を要求する再送信要求手段をさらに備えている、
請求項2に記載の溶接システム。
【請求項4】
前記溶接電源装置は、前記比較手段が比較を行った回数をカウントするカウント手段をさらに備え、
前記処理手段は、前記カウント手段によってカウントされた数が所定数を超えた場合に、前記無線ルータおよびケーブルを介して受信した信号に基づいて処理を行う、
請求項3に記載の溶接システム。
【請求項5】
前記処理手段は、前記比較手段によって2つの信号が異なると判断された場合に、前記無線ルータおよびケーブルを介して受信した信号に基づいて処理を行う、請求項2に記載の溶接システム。
【請求項6】
前記溶接電源装置は、
溶接条件を設定するための溶接条件設定信号を受信する第1通信手段と、
前記第1通信手段によって受信された溶接条件設定信号に基づいて、第1記憶手段に記憶されている溶接条件パラメータを変更する第1記憶制御手段と、
前記第1記憶手段に記憶されている溶接条件パラメータに基づいて、前記溶接電源装置の出力を制御する出力制御手段とを備え、
前記第1通信手段は、前記第1記憶手段に記憶されている溶接条件パラメータを溶接条件パラメータ信号として送信し、
前記遠隔操作装置は、
溶接作業者による操作に基づいて、第2記憶手段に記憶されている溶接条件を変更する第2記憶制御手段と、
前記第2記憶手段に記憶されている溶接条件に基づいて表示を行う表示手段と、
前記第2記憶手段に記憶されている溶接条件を溶接条件信号として送信し、前記第1通信手段が送信した溶接条件パラメータ信号を受信する第2通信手段と、
前記第2通信手段によって受信された溶接条件パラメータ信号に基づく溶接条件パラメータを記憶する第3記憶手段と、
を備えており、
前記溶接条件および前記溶接条件パラメータに基づいて、正しく通信が行われているか否かを前記溶接作業者に知らせる、
請求項1ないし5のいずれかに記載の溶接システム。
【請求項7】
前記溶接条件と前記溶接条件パラメータとを比較して、一致しているか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段による判定結果に基づいて報知を行う報知手段と、
をさらに備えている、
請求項6に記載の溶接システム。
【請求項8】
前記表示手段は、前記第3記憶手段に記憶されている溶接条件パラメータに基づいての表示も行う、
請求項6に記載の溶接システム。
【請求項9】
複数の溶接電源装置と、前記複数の溶接電源装置を操作する遠隔操作装置と、前記遠隔操作装置との間で無線通信を行う無線ルータとを備えており、前記複数の溶接電源装置が前記無線ルータにそれぞれ個別のケーブルで接続されている溶接システムの通信方法であって、
前記遠隔操作装置が、無線によって信号を送信する第1の工程と、
前記無線ルータが、前記遠隔操作装置が送信した信号を受信する第2の工程と、
前記無線ルータが、受信した信号に含まれる識別番号に基づいて、対応する溶接電源装置に前記個別のケーブルを介して当該信号を送信する第3の工程と、
前記対応する溶接電源装置が、前記個別のケーブルを介して送信された信号を受信する第4の工程と、
を備えていることを特徴とする通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠隔操作装置で溶接電源装置の操作を行う溶接システム、および、溶接システムの通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
消耗電極式の溶接装置は、通常、重量があるために移動させない溶接電源装置と、溶接個所の変更に伴って溶接作業者が持ち運びするワイヤ送給装置とに分離されている。溶接電源装置が溶接作業を行っている位置から離れた場所に設置されている場合、溶接電圧などの溶接条件を設定するために、作業者が溶接電源装置の設置場所まで行くのは作業効率が悪い。これを解消するために、溶接電源装置との間で無線通信を行う遠隔操作装置を用いて、溶接条件の変更を行うものが開発されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3414193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
造船、橋梁等の大型構造物の溶接現場においては、溶接電源装置と溶接個所とが数十m離れていることが多い。このような溶接現場において、溶接作業者が溶接個所付近で無線式の遠隔操作装置を使用して溶接電源装置に溶接条件を設定する場合、遠隔操作装置と溶接電源装置とが隔壁等によって隔てられていることがあるために、無線通信に障害が生じることがある。
【0005】
また、このような溶接現場においては複数の溶接装置が用いられているので、他の溶接装置が送受信する信号が混信したり、ノイズが混入するなどして、無線通信に障害が生じることもある。
【0006】
図7は、従来の溶接装置A100の遠隔操作装置300と溶接電源装置100との間で、無線通信を行っている状態を示している。溶接電源装置100が非加工物Wから離れた位置に配置されており、溶接作業者はワイヤ送給装置200を被加工物Wの近くに持ち運んで溶接作業を行っている。溶接作業者は溶接電源装置100を遠隔操作するために、遠隔操作装置300を所持している。同図は、隔壁Bによって溶接電源装置100から隔てられた位置にある被加工物Wの溶接作業を行っているときに、溶接作業者が、遠隔操作装置300を操作して溶接条件を設定している状態を示している。溶接条件を設定するための信号が遠隔操作装置300の通信部360から送信されている。しかし、隔壁Bのために、送信された信号が溶接電源装置100の通信部140に正しく受信されない場合がある。また、遠隔操作装置300と溶接電源装置100とが離れているので、間にある他の溶接装置の送信信号を受信したり、間にある他の機器から発生するノイズが混入したりする場合がある。
【0007】
無線通信に障害が発生すると、溶接条件を通信することができなくなったり、通信できたとしても溶接条件の値を正確に通信できなくなったりする。このような通信障害が発生すると、遠隔操作装置300で設定された溶接条件が溶接電源装置100に正確に通信されないために、溶接が不安定になり溶接品質が悪くなる。
【0008】
本発明は上記した事情のもとで考え出されたものであって、無線通信を利用する遠隔操作装置が溶接電源装置との間でできるだけ正確に通信を行うことができる溶接システムを提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0010】
本発明の第1の側面によって提供される溶接システムは、複数の溶接電源装置と、前記複数の溶接電源装置を操作する遠隔操作装置と、前記遠隔操作装置との間で無線通信を行う無線ルータとを備えており、前記複数の溶接電源装置は、前記無線ルータにケーブルでそれぞれ接続されており、前記無線ルータは、無線通信によって前記遠隔操作装置から受信した信号に含まれる識別番号に基づいて、対応する溶接電源装置に当該信号を送信することを特徴とする。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記溶接電源装置は、前記遠隔操作装置との間で無線通信を行っており、無線通信によって前記遠隔操作装置から直接受信した信号と、前記無線ルータおよびケーブルを介して受信した信号とを比較する比較手段と、前記比較手段によって2つの信号が同じであると判断された場合にのみ、当該信号に基づいて処理を行う処理手段とを備えている。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記溶接電源装置は、前記比較手段によって2つの信号が異なると判断された場合に、前記遠隔操作装置に信号の再送信を要求する再送信要求手段をさらに備えている。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記溶接電源装置は、前記比較手段が比較を行った回数をカウントするカウント手段をさらに備え、前記処理手段は、前記カウント手段によってカウントされた数が所定数を超えた場合に、前記無線ルータおよびケーブルを介して受信した信号に基づいて処理を行う。
【0014】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記処理手段は、前記比較手段によって2つの信号が異なると判断された場合に、前記無線ルータおよびケーブルを介して受信した信号に基づいて処理を行う。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記溶接電源装置は、溶接条件を設定するための溶接条件設定信号を受信する第1通信手段と、前記第1通信手段によって受信された溶接条件設定信号に基づいて、第1記憶手段に記憶されている溶接条件パラメータを変更する第1記憶制御手段と、前記第1記憶手段に記憶されている溶接条件パラメータに基づいて、前記溶接電源装置の出力を制御する出力制御手段とを備え、前記第1通信手段は、前記第1記憶手段に記憶されている溶接条件パラメータを溶接条件パラメータ信号として送信し、前記遠隔操作装置は、溶接作業者による操作に基づいて、第2記憶手段に記憶されている溶接条件を変更する第2記憶制御手段と、前記第2記憶手段に記憶されている溶接条件に基づいて表示を行う表示手段と、前記第2記憶手段に記憶されている溶接条件を溶接条件信号として送信し、前記第1通信手段が送信した溶接条件パラメータ信号を受信する第2通信手段と、前記第2通信手段によって受信された溶接条件パラメータ信号に基づく溶接条件パラメータを記憶する第3記憶手段とを備えており、前記溶接条件および前記溶接条件パラメータに基づいて、正しく通信が行われているか否かを前記溶接作業者に知らせる。
【0016】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記溶接システムは、前記溶接条件と前記溶接条件パラメータとを比較して、一致しているか否かを判定する判定手段と、前記判定手段による判定結果に基づいて報知を行う報知手段とをさらに備えている。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記表示手段は、前記第3記憶手段に記憶されている溶接条件パラメータに基づいての表示も行う。
【0018】
本発明の第2の側面によって提供される通信方法は、複数の溶接電源装置と、前記複数の溶接電源装置を操作する遠隔操作装置と、前記遠隔操作装置との間で無線通信を行う無線ルータとを備えており、前記複数の溶接電源装置が前記無線ルータにケーブルでそれぞれ接続されている溶接システムの通信方法であって、前記遠隔操作装置が、無線によって信号を送信する第1の工程と、前記無線ルータが、前記遠隔操作装置が送信した信号を受信する第2の工程と、前記無線ルータが、受信した信号に含まれる識別番号に基づいて、対応する溶接電源装置に前記ケーブルを介して当該信号を送信する第3の工程と、前記対応する溶接電源装置が、前記ケーブルを介して送信された信号を受信する第4の工程とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、遠隔操作装置と無線ルータとが無線通信を行い、無線ルータと溶接電源装置とがケーブルを介した有線通信を行う。無線ルータを遠隔操作装置の近辺に配置することにより、無線ルータと遠隔操作装置との間に隔壁や他の溶接装置などが存在する可能性が少なくなり、無線通信に障害が発生しにくい。また、無線ルータと溶接電源装置とは離れていても有線通信なので、通信に障害が発生しにくい。したがって、遠隔操作装置が溶接電源装置と直接無線通信を行う場合と比べて、通信に障害が発生しにくく、正確に通信を行うことができる。
【0020】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1実施形態に係る溶接システムの全体構成を説明するための図である。
図2】遠隔操作装置の外観図の一例である。
図3】遠隔操作装置の制御部が行う判定処理を説明するためのフローチャートである。
図4】第2実施形態に係る溶接システムの全体構成を説明するための図である。
図5】溶接電源装置の制御部が行う比較処理を説明するためのフローチャートである。
図6】比較処理の他の実施例を説明するためのフローチャートである。
図7】従来の溶接装置の遠隔操作装置と溶接電源装置との間で、無線通信を行っている状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0023】
図1は、第1実施形態に係る溶接システムの全体構成を説明するための図である。
【0024】
図1に示すように、溶接システムAは、溶接装置a〜c、遠隔操作装置3、および、無線ルータ5を備えている。溶接装置aは、溶接電源装置1a、ワイヤ送給装置2a、パワーケーブル41,42、および、溶接トーチTを備えている。同図では、溶接装置bおよびcの記載を簡略化して、溶接装置bが溶接電源装置1bおよびワイヤ送給装置2bを備え、溶接装置cが溶接電源装置1cおよびワイヤ送給装置2cを備えることだけを記載している。以下では、溶接装置aの各構成について説明するが、溶接装置bおよびcの構成も溶接装置aの構成と同様である。なお、溶接システムAが備える溶接装置の数は限定されない。
【0025】
溶接電源装置1aの一方の出力端子は、パワーケーブル41を介して、ワイヤ送給装置2aに接続されている。ワイヤ送給装置2aは、ワイヤ電極を溶接トーチTに送り出して、ワイヤ電極の先端を溶接トーチTの先端から突出させる。ワイヤ送給装置2aにおいて、パワーケーブル41とワイヤ電極とは電気的に接続されている。溶接電源装置1aの他方の出力端子は、パワーケーブル42を介して、被加工物Wに接続される。溶接電源装置1aは、溶接トーチTの先端から突出するワイヤ電極の先端と、被加工物Wとの間に高電圧を印加してアークを発生させる。溶接装置aは、当該アークの熱で被加工物Wの溶接を行う。なお、溶接装置aは、実際には、溶接トーチTから放出するためのシールドガスのガスタンク、溶接トーチTを冷却する冷却水を循環させる冷却水循環装置などを備えている場合もあるが、図への記載や説明を省略している。
【0026】
溶接電源装置1aは、アークを発生させるための電力を供給するものである。溶接電源装置1aは、電力変換部11、記憶部12、制御部13、および、通信部14を備えている。
【0027】
電力変換部11は、電力系統から入力される三相交流電力をアーク溶接に適した直流電力に変換して出力するものである。電力変換部11に入力される三相交流電力は、整流回路によって直流電力に変換され、インバータ回路によって交流電力に変換される。そして、トランスによって昇圧され、整流回路によって直流電力に変換されて出力される。なお、電力変換部11の構成は、上記したものに限定されない。
【0028】
記憶部12は、溶接電源装置1aから出力される溶接電圧を設定するための設定電圧や、溶接電源装置1aから出力される溶接電流を設定するための設定電流などの溶接条件パラメータWpを記憶するものである。
【0029】
制御部13は、溶接電源装置1aの制御を行うものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御部13は、溶接電源装置1aから出力される溶接電圧や溶接電流が記憶部12に記憶されている設定電圧や設定電流になるように、制御を行う。また、図示しない設定ボタンの操作に応じて記憶部12に記憶されている溶接条件パラメータWpの変更を行ったり、図示しない起動ボタンの操作に応じて電力変換部11を起動させたりなどの制御を行う。また、制御部13は、図示しないセンサによって検出された溶接電圧や溶接電流の検出値を図示しない表示部に表示させたり、異常が発生した場合に図示しない報知部に報知させたりする。
【0030】
また、制御部13は、通信部14から入力される信号に基づいても、溶接条件パラメータWpの変更や電力変換部11の起動を行い、検出された溶接電圧または溶接電流の検出信号や、異常発生を示す信号を通信部14に出力する。なお、溶接条件パラメータWpの変更などを、通信部14から入力される信号に基づいて行う場合と、溶接電源装置1aの設定ボタンの操作に基づいて行う場合とに、スイッチで切り替えるようにしてもよい。また、制御部13は、あらかじめ設定された送信周期ごとに、記憶部12に記憶されている溶接条件パラメータWpを読み出して、通信部14に出力する。なお、本実施形態では、送信周期は、10〜500ms程度の範囲で設定されている。
【0031】
通信部14は、ケーブル5aを介して、無線ルータ5との間で通信を行うためのものである。溶接装置aには、固有の識別IDが付与されている。通信部14は、制御部13より入力される信号に識別IDを付加して、無線ルータ5に送信する。無線ルータ5に送信する信号には、例えば、検出された溶接電圧または溶接電流の検出信号や、異常発生を示す信号、記憶部12に記憶されている溶接条件パラメータWpを送信するための溶接条件パラメータ信号などがある。また、通信部14は、無線ルータ5から受信した信号を制御部13に出力する。無線ルータ5から受信する信号には、例えば、記憶部12に記憶された溶接条件パラメータWpを変更するための溶接条件設定信号や、電力変換部11の起動を指示する起動信号などがある。なお、無線ルータ5との間で送受信される信号は、上記したものに限定されない。
【0032】
溶接電源装置1bおよび1cの構成も、溶接電源装置1aの構成と同様である。
【0033】
ワイヤ送給装置2aは、ワイヤ電極を溶接トーチTに送り出すものである。ワイヤ送給装置2aは、図示しない送給モータを制御して、ワイヤ電極の送り出しを行う。ワイヤ送給装置2bおよび2cの構成も、ワイヤ送給装置2aの構成と同様である。
【0034】
無線ルータ5は、溶接電源装置1aとの間でケーブル5aを介した有線通信を行い、遠隔操作装置3との間で無線通信を行う。また、無線ルータ5は、溶接電源装置1bおよび1cともケーブルで接続されており、有線通信を行っている。無線ルータ5は、溶接電源装置1a〜1cから受信した信号を、アンテナ5bによって電磁波として遠隔操作装置3に送信する。また、無線ルータ5は、遠隔操作装置3が出力する電磁波をアンテナ5bで受信することで、信号を受信する。遠隔操作装置3から送信される信号には、送信先の溶接電源装置1a〜1c(溶接装置a〜c)を特定するための識別IDが含まれている。無線ルータ5は、遠隔操作装置3より受信した信号から識別IDを抽出し、これに対応する溶接電源装置1a〜1cに受信した信号を送信する。
【0035】
無線ルータ5は、遠隔操作装置3との間で、直接スペクトル拡散(Direct Sequence Spread Spectrum:DSSS)通信方式を用いて通信を行う。直接スペクトル拡散通信方式では、送信側は、送信する信号に対して拡散符号による演算を行い、元の信号のスペクトルをより広い帯域に拡散して送信する。受信側は、受信した信号を共通する拡散符号を用いて逆拡散することで、元の信号に戻す。
【0036】
無線ルータ5は、溶接電源装置1a〜1cより入力される信号に応じてキャリア信号をBPSK(Binary Phase Shift Keying)変調により一次変調し、一次変調信号に直接スペクトル拡散通信方式により二次変調を行い、アナログ信号に変換して、電磁波として送信する。なお、変調方法はBPSK変調に限られず、ASK変調やFSK変調などの他の一次変調を行うようにしてもよい。また、スペクトル拡散は直接拡散方式に限られず、周波数ホッピング方式を用いてもよい。なお、本実施形態では、スペクトル拡散を行っているが、これに限定されず、スペクトル拡散を行わないようにしてもよい。無線ルータ5は、アンテナ5bが受信した電磁波をデジタル信号に変換して、逆拡散およびフィルタリングを行い、復調を行って出力する。
【0037】
遠隔操作装置3は、離れた位置から溶接電源装置1a〜1cを操作するためのものである。遠隔操作装置3は、溶接電源装置1a〜1cの電力変換部11を起動したり、溶接電源装置1a〜1cの溶接条件パラメータWpの変更を行ったりする。また、溶接電源装置1a〜1cで検出された溶接電圧または溶接電流の検出値を表示したり、溶接電源装置1a〜1cで発生した異常を報知したりする。遠隔操作装置3は、操作部31、記憶部32、表示部33、報知部34、制御部35、および、通信部36を備えている。
【0038】
操作部31は、溶接作業者による操作ボタンの操作を操作信号として制御部35に出力するものである。
【0039】
図2(a)は、遠隔操作装置3の外観図の一例である。同図(a)に示すように、遠隔操作装置3の操作部31には、操作ボタンとして、溶接電流設定用ボタン31a、溶接電圧設定用ボタン31b、起動ボタン31c、および、切替ボタン31dが配置されている。溶接電流設定用ボタン31aは、溶接電源装置1a〜1cから出力される溶接電流の設定電流を変更するためのものである。溶接電圧設定用ボタン31bは、溶接電源装置1a〜1cから出力される溶接電圧の設定電圧を変更するためのものである。起動ボタン31cは、溶接電源装置1a〜1cの電力変換部11を起動させるためのものである。切替ボタン31dは、操作対象となる溶接電源装置1a〜1c(溶接装置a〜c)を切り替えるためのものである。切替ボタン31dが操作されると、操作部31は、制御部35に設定されている現在の操作対象を変更するための信号を、制御部35に出力する。溶接電流設定用ボタン31aまたは溶接電圧設定用ボタン31bが操作されると、操作部31は、溶接条件を変更するための操作信号を、制御部35に出力する。起動ボタン31cが操作されると、操作部31は、起動のための操作信号を、制御部35に出力する。なお、操作部31には、他の操作ボタンも配置されているが、同図(a)では省略している。各操作ボタンの操作の詳細については後述する。
【0040】
図1に戻って、記憶部32は、操作部31の操作ボタンの操作によって設定される溶接条件Wrを記憶するものである。また、記憶部32は、溶接電源装置1a〜1cから溶接条件パラメータ信号として受信した溶接条件パラメータWpも記憶している。記憶部32は、溶接条件Wrと溶接条件パラメータWpとを、溶接電源装置1a〜1c毎に、それぞれ定められた記憶領域に記憶している。
【0041】
表示部33は、各種表示を行うものであり、例えば液晶表示装置によって実現されている(図2(a)参照)。表示部33は、制御部35によって制御されており、操作対象となっている溶接電源装置1a〜1c(溶接装置a〜c)を示すための表示や、記憶部32に記憶されている溶接条件Wrを表示し、後述する判定処理の結果も表示する(図2(a)参照)。また、溶接電源装置1a〜1cで検出された溶接電圧や溶接電流の検出値の表示も行う(図2(b)参照)。溶接条件Wrを表示するモードと、検出値を表示するモードとは、図示しないモード切替ボタンによって切り替えられる。なお、同一画面上に両方表示するようにしてもよい。
【0042】
報知部34は、所定の報知を行うものであり、例えばスピーカによって実現されている(図2(a)参照)。報知部34は、制御部35によって制御されており、溶接電源装置1a〜1cの異常を警告音で報知する。また、後述する判定処理の結果も報知する。なお、報知部34は、音で報知を行うものに限定されない。例えば、振動で報知を行うようにしてもよいし、表示部33に文字や画像で報知するようにしてもよい。
【0043】
制御部35は、遠隔操作装置3の制御を行うものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御部35は、操作部31より入力される起動のための操作信号に応じて、電力変換部11を起動するための起動信号を通信部36に出力する。このとき、現在の操作対象(溶接電源装置1a、1b、1cのいずれか)を示す識別IDも通信部36に出力される。また、操作部31より入力される、溶接条件Wrを変更するための操作信号に応じて、記憶部32に記憶されている、現在の操作対象(溶接電源装置1a、1b、1cのいずれか)の溶接条件Wrを変更する。
【0044】
また、制御部35は、あらかじめ設定された送信周期ごとに、記憶部32に記憶されている溶接条件Wrを読み出して、通信部36および表示部34に出力する。このとき、現在の操作対象(溶接電源装置1a、1b、1cのいずれか)の溶接条件Wrが読み出される。また、現在の操作対象を示す識別IDも通信部36に出力される。なお、本実施形態では、送信周期は、10〜500ms程度の範囲で設定されている。制御部35に設定される送信周期は、溶接電源装置1aの制御部13に設定される送信周期と同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、送信周期に係わらず、記憶部32に記憶されている溶接条件Wrが変更されたときに、変更後の溶接条件Wrを出力するようにしてもよい。
【0045】
また、制御部35は、通信部36より入力される異常発生を示す信号に基づいて、報知部34に異常の報知をさせる。この場合、制御部35は、合わせて通信部36より入力される識別IDに対応する溶接装置a〜cを示すための表示も、表示部33に表示させる。また、制御部35は、通信部36より入力される溶接電圧または溶接電流の検出値を、記憶部32に記憶する。このとき、合わせて通信部36より入力される識別IDに対応する領域に、上書き記憶する。遠隔操作装置3の表示部33の表示が、検出値を表示するモードに切り替えられた場合、制御部35は、現在の操作対象(溶接電源装置1a、1b、1cのいずれか)の識別IDに対応する記憶部32の領域からデータを読み出して、表示部33に表示させる(図2(b)参照)。
【0046】
また、制御部35は、遠隔操作装置3で設定された溶接条件Wrが溶接電源装置1a〜1cに正しく通信されているかを判定する判定処理を行う。
【0047】
図3は、制御部35が行う判定処理を説明するためのフローチャートである。当該判定処理は、所定のタイミング毎に実行される。また、当該判定処理は、現在の操作対象(溶接電源装置1a、1b、1cのいずれか)に対して、実行される。以下では、溶接電源装置1aに対して実行される場合について記載するが、溶接電源装置1bおよび1cに対して実行される場合も同様である。
【0048】
上述したように、溶接電源装置1aは送信周期ごとに溶接条件パラメータ信号を遠隔操作装置3に送信しており、記憶部32は溶接電源装置1aに対応する記憶領域に溶接条件パラメータWpとして記憶している。まず、記憶部32に記憶されている溶接条件パラメータWpが取得される(S1)。また、記憶部32は、遠隔操作装置3で設定された溶接条件Wrも、溶接電源装置1aに対応する記憶領域に記憶している。記憶部32に記憶されている溶接条件Wrが取得される(S2)。
【0049】
次に、溶接条件パラメータWpが溶接条件Wrに一致するか否かが判別される(S3)。溶接条件パラメータWpの各要素(設定電圧や設定電流など)が溶接条件Wrの対応する各要素にすべて一致する場合に、溶接条件パラメータWpが溶接条件Wrに一致すると判別される。溶接条件パラメータWpは、遠隔操作装置3で設定された溶接条件Wrに基づいて溶接電源装置1aに設定されたものである。遠隔操作装置3と溶接電源装置1aとの間で正しく通信が行われていれば、溶接条件パラメータWpと溶接条件Wrとは一致する。溶接条件パラメータWpと溶接条件Wrとが一致する場合(S3:YES)、正しく通信が行われており、遠隔操作装置3で設定された溶接条件Wrが溶接条件パラメータWpとして溶接電源装置1aに正しく設定されていると判定され、一致信号(例えば、ローレベル信号)が報知部34に出力されて(S4)、判定処理が終了する。
【0050】
一方、溶接条件パラメータWpと溶接条件Wrとが一致しない場合(S3:NO)、正しく通信が行われておらず、遠隔操作装置3で設定された溶接条件Wrが溶接電源装置1aに正しく設定されていないと判定され、不一致信号(例えば、ハイレベル信号)が報知部34に出力されて(S5)、判定処理が終了する。
【0051】
報知部34は、一致信号(ローレベル信号)が入力された場合には報知を行わないが、不一致信号(ハイレベル信号)が入力された場合には、例えば、「ピー」という音声によって、報知を行う。これにより、溶接作業者は、通信が正しく行われていないことに気付くことができる。この場合、溶接が不安定になり溶接品質が悪くなる可能性があるので、溶接作業者は溶接作業を開始せずに、通信状態が改善されるのを待つ。また、本実施形態では、判定処理の結果は表示部33にも出力される。表示部33は、不一致信号(ハイレベル信号)が入力された場合に通信状態の欄に「×」を表示し、一致信号(例えば、ローレベル信号)が入力された場合に通信状態の欄に「○」を表示する(図2(a)参照)。
【0052】
なお、判定処理のフローチャートは、図3に示したものに限定されない。例えば、ステップS3でNOとの判別が所定回数(例えば、10回)以上連続している場合にのみ、ステップS5に進み、NOとの判別が所定回数以上連続しない場合にはステップS4に進むようにしてもよい。また、ステップS3でNOとの判別が所定時間(例えば、1秒)以上連続している場合にのみ、ステップS5に進み、NOとの判別が所定時間以上連続しない場合にはステップS4に進むようにしてもよい。溶接作業者が溶接条件を設定している途中には、通信による時間遅れによって、WpとWrとが一致しない瞬間が発生する場合がある。この瞬間的な不一致の場合にも報知が行われると紛らわしいので、所定回数(または、所定時間)以上連続してNOと判別されることで判定を行っている。
【0053】
通信部36は、無線ルータ5との間で無線通信を行うためのものである。通信部36は、無線ルータ5から受信した信号を復調して、制御部35に出力する。無線ルータ5から受信する信号には、例えば、溶接電源装置1a〜1cにおいてセンサで検出された溶接電圧または溶接電流の検出信号や、異常発生を示す信号、記憶部12に記憶されている溶接条件パラメータWpに基づいて送信された溶接条件パラメータ信号などがある。また、通信部36は、制御部35から入力される信号を変調して、無線ルータ5に送信する。無線ルータ5に送信する信号には、例えば、電力変換部11の起動を指示する起動信号や、記憶部32に記憶された溶接条件Wrを送信するための溶接条件設定信号などがある。なお、無線ルータ5との間で送受信される信号は、上記したものに限定されない。
【0054】
通信部36は、アンテナ36aを介して信号の送受信を行う。通信部36は、制御部35より入力される信号に、現在の操作対象(溶接電源装置1a、1b、1cのいずれか)に対応した識別IDを付加し、この信号に応じてキャリア信号をBPSK(Binary Phase Shift Keying)変調し、変調信号にスペクトル拡散を行い、アナログ信号に変換して、電磁波として送信する。なお、変調方法はBPSK変調に限られず、ASK変調やFSK変調を行うようにしてもよい。また、スペクトル拡散は直接拡散方式に限られず、周波数ホッピング方式を用いてもよい。なお、本実施形態では、スペクトル拡散を行っているが、これに限定されず、スペクトル拡散を行わないようにしてもよい。通信部36は、アンテナ36aが受信した電磁波をデジタル信号に変換して、逆拡散およびフィルタリングを行い、復調を行って、制御部35に出力する。無線ルータ5から受信した信号には、送信元を特定するための識別IDが含まれており、この識別IDも制御部35に入力される。なお、遠隔操作装置3から無線ルータ5に送信する信号と、無線ルータ5から遠隔操作装置3に送信する信号とでは、異なる周波数帯域を利用している。
【0055】
次に、溶接作業者が遠隔操作装置3を操作して、溶接電源装置1aの溶接条件パラメータWpを設定する場合を例として、溶接システムAの作用について説明する。
【0056】
溶接作業者は、遠隔操作装置3の操作部31を操作して、操作対象を溶接電源装置1aに切り替え、溶接条件Wrを設定する。図2に示すように、切替ボタン31dには、「切替」とラベルが付されており、ボタンの上部を1回押すごとに操作対象が溶接電源装置1a,1b,1cの順で切り替えられ、ボタンの下部を1回押すごとに操作対象が溶接電源装置1c,1b,1aの順で切り替えられる。また、溶接電流設定用ボタン31aには「Current」とラベルが付されており、ボタンの上部を1回押すごとに設定電流の値が1Aずつ増加し、ボタンの下部を1回押すごとに設定電流の値が1Aずつ減少する。また、溶接電圧設定用ボタン31bには「Voltage」とラベルが付されており、ボタンの上部を1回押すごとに設定電圧の値が0.1Vずつ増加し、ボタンの下部を1回押すごとに設定電圧の値が0.1Vずつ減少する。操作部31の操作によって、記憶部32に記憶されている溶接条件Wrが変更される。記憶部32に記憶されている溶接条件Wrは、表示部33に表示される。図2においては、操作対象となっているのが溶接装置a(溶接電源装置1a)であることが表示され、現在の溶接条件Wrの一部である「設定電流:150A」および「設定電圧:18.5V」が表示されている。溶接作業者は、表示部33の表示をみて、所望の値になるように操作部31を操作する。なお、同図においては他の溶接条件Wrの表示を省略している。
【0057】
遠隔操作装置3は、記憶部32に記憶されている溶接条件Wrを、送信周期ごとに溶接条件設定信号として、無線通信によって無線ルータ5に送信する。無線ルータ5は受信した溶接条件設定信号から識別IDを抽出して、識別IDに応じた溶接電源装置1aに溶接条件設定信号を送信する。
【0058】
溶接電源装置1aは、無線ルータ5から受信した溶接条件設定信号に基づいて、記憶部12に記憶されている溶接条件パラメータWpを変更する。溶接電源装置1aは、記憶部12に記憶されている溶接条件パラメータWpに基づいて制御される。
【0059】
また、溶接電源装置1aは、記憶部12に記憶されている溶接条件パラメータWpを、送信周期ごとに溶接条件パラメータ信号として、ケーブル5aを介した有線通信によって無線ルータ5に送信する。無線ルータ5は、受信した溶接条件パラメータ信号を、無線通信によって遠隔操作装置3に送信する。
【0060】
遠隔操作装置3は、無線ルータ5から受信した溶接条件パラメータ信号に基づいて、記憶部32に記憶されている溶接条件パラメータWpを変更する。この時、溶接条件パラメータ信号に含まれる識別IDに基づいて、記憶部32の溶接電源装置1aのための記憶領域の溶接条件パラメータWpが変更される。また、遠隔操作装置3は、所定のタイミング毎に判定処理を行う。すなわち、記憶部32に記憶されている溶接条件パラメータWpと溶接条件Wrとが一致するか否かを判別して、正しく通信されているかを判定する。遠隔操作装置3は、判定結果に応じて、表示部33に所定の表示を行い、報知部34に所定の報知をさせる。図2の場合は、正しく通信されていると判定されて、表示部33に「通信状態:○」の表示がされており、報知部34による音声での報知はされていない。溶接作業者は、「通信状態:○」の表示により、表示部33に表示されている溶接条件Wrが溶接電源装置1aの溶接条件パラメータWpとして正しく設定されていることを確認することができる。もし、「通信状態:×」と表示されていた場合は、表示部33に表示されている溶接条件Wrとは異なる内容で溶接電源装置1aの溶接条件パラメータWpが設定されていることを、溶接作業者は認識することができる。
【0061】
本実施形態によると、遠隔操作装置3と無線ルータ5とが無線通信を行い、無線ルータ5と溶接電源装置1aとがケーブル5aを介した有線通信を行う。無線ルータ5を溶接個所の近辺、すなわち、遠隔操作装置3の近辺に配置することにより、無線ルータ5と遠隔操作装置3との間に隔壁や他の溶接装置などが存在する可能性が少なくなり、無線通信に障害が発生しにくい。また、無線ルータ5と溶接電源装置1aとは離れていても有線通信なので、通信に障害が発生しにくい。したがって、遠隔操作装置3が溶接電源装置1aと直接無線通信を行う場合と比べて、通信に障害が発生しにくく、正確に通信を行うことができる。
【0062】
また、遠隔操作装置3は判定処理を行い、溶接電源装置1a〜3aとの間で正しく通信できなかった場合に、その旨を溶接作業者に知らせる。したがって、通信に障害が発生した場合に、そのまま溶接作業を開始して、溶接が不安定になって溶接品質が悪くなってしまうことを抑制することができる。
【0063】
なお、本実施形態においては、溶接条件が設定電圧および設定電流を含んでいる場合について説明したが、これに限られない。溶接条件は、設定電圧および設定電流のいずれか一方を含んでいなくてもよい。また、溶接条件が、設定電圧および設定電流のいずれも含まないようにしてもよい。例えば、溶接条件を、設定電圧、設定電流、その他の条件を組み合わせたパターンとして溶接電源装置1aの記憶部12に記憶しておき、遠隔操作装置3とはパターンのナンバーだけを溶接条件として送受信するようにしてもよい。
【0064】
本実施形態においては、溶接電源装置1a〜1cが直流電力を供給する直流電源である場合について説明したが、これに限られない。例えばアルミなどの溶接を行うために、溶接電源装置1a〜1cを、交流電力を供給する交流電源としてもよい。この場合、電力変換部11にさらにインバータ回路を追加し、整流回路から出力される直流電力を交流電力に変換して出力するようにすればよい。
【0065】
本実施形態においては、判定処理を行って、その結果を表示部33の通信状態の欄に表示する場合について説明したが、これに限られない。例えば、判定処理を行わず、表示部33の溶接条件Wrの表示に加えて、溶接条件パラメータWpも表示するようにしてもよい。図2(c)は、溶接条件Wrの表示の横に、カッコ書きで溶接条件パラメータWpも表示したものである。この場合、溶接作業者は溶接条件Wrと溶接条件パラメータWpとの違いから、通信が正しく行われていないことに気付くことができる。なお、溶接条件Wrと溶接条件パラメータWpとを同一画面上に表示するのではなく、別々の画面で表示するようにして、画面表示を切り替えるようにしてもよい。
【0066】
本実施形態においては、1つの遠隔操作装置3で複数の溶接電源装置1a〜1cを操作する場合について説明したが、これに限られない。溶接電源装置1a〜1cごとに遠隔操作装置3を用意して、1対1で対応付けるようにしてもよい。この場合、遠隔操作装置3の切替ボタン31dによる切替は必要なく、各遠隔操作装置3の通信部36が対応する溶接電源装置の識別IDを付加して信号を送信するようにすればよい。
【0067】
上記第1実施形態においては、溶接電源装置1a〜3aと遠隔操作装置3とが、無線ルータ5を介してのみ通信を行う場合について説明したが、これに限られない。例えば、溶接電源装置1aと遠隔操作装置3とが直接通信も行うようにしてもよい。直接通信も行う場合を第2実施形態として、以下に説明する。
【0068】
図4は、第2実施形態に係る溶接システムの全体構成を説明するための図である。同図において、第1実施形態に係る溶接システムA(図1参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0069】
図4に示す溶接システムA’は、溶接電源装置1a’〜1c’が無線通信部15を備えており、無線通信部15が遠隔操作装置3の通信部36と直接無線通信を行う点で、第1実施形態に係る溶接システムAと異なる。以下では、溶接電源装置1a’について説明するが、溶接電源装置1b’および1c’も溶接電源装置1a’と同様である。
【0070】
無線通信部15は、遠隔操作装置3との間で無線通信を行うためのものであり、アンテナを介して信号の送受信を行う。無線通信部15の通信方式は、無線ルータ5の通信方式と共通する。無線通信部15は、制御部13’より入力される信号に識別IDを付加して、変調およびスペクトル拡散を行い、アナログ信号に変換して送信する。また、無線通信部15は、アンテナが受信した電磁波をデジタル信号に変換して、逆拡散およびフィルタリングを行い、復調を行って、制御部13’に出力する。このとき、無線通信部15は、受信信号に含まれる識別IDが溶接電源装置1a’(溶接装置a’)の識別IDであるものだけ制御部13’に出力する。
【0071】
なお、溶接電源装置1a’〜1c’に用いる拡散符号をそれぞれ異なるものにすれば、識別IDで受信信号を選択する必要はない。しかし、この場合、遠隔操作装置3の通信部36は、送信先に応じて拡散符号を変更してスペクトル拡散する必要があり、また、受信信号に対してすべての拡散符号を用いて逆拡散する必要がある。また、無線ルータ5も、受信信号に対してすべての拡散符号を用いて逆拡散する必要がある。
【0072】
溶接電源装置1a’は、遠隔操作装置3との通信において、2つの通信経路を有している。無線通信部15は、通信部14からの信号を受信した無線ルータ5が遠隔操作装置3に送信する信号と同じ信号を、無線通信により遠隔操作装置3に直接送信する。また、遠隔操作装置3が送信する信号は、無線ルータ5を介して通信部14によって受信され、無線通信部15によっても受信される。通信部14が受信した信号と、無線通信部15が受信した信号とが一致する場合、いずれの通信経路でも通信障害が発生していないと考えることができる。
【0073】
制御部13’は、通信部14が受信した信号と無線通信部15が受信した信号の比較を行い、両者が一致する場合にのみ、当該信号を受け付けて処理を行う。一致しない場合は、当該信号の再送信を要求する。
【0074】
図5は、溶接電源装置1a’の制御部13’が行う比較処理を説明するためのフローチャートである。当該比較処理は、溶接電源装置1a’が起動されたときに開始される。
【0075】
まず、通信部14および無線通信部15が信号を受信したか否かが判別される(S11)。信号が受信されるまでステップS11の判別は繰り返され、信号が受信された場合(S11:YES)に、通信部14が受信した信号S1が取得され(S12)、無線通信部15が受信した信号S2が取得される(S13)。
【0076】
次に、信号S1と信号S2とが一致するか否かが判別される(S14)。一致する場合(S14:YES)、2つの通信経路のいずれにも通信障害が発生しておらず、受信された信号S1および信号S2は正しく通信されたものであると考えられるので、信号S1(または信号S2)に応じた処理が行われて(S15)、ステップS11に戻る。例えば、信号S1,S2が溶接条件設定信号であった場合、記憶部12の溶接条件パラメータWpが変更される。また、信号S1,S2が起動信号であった場合、電力変換部11が起動される。一方、一致しない場合(S14:NO)、2つの通信経路のいずれか一方または両方で通信障害が発生していると考えられるので、遠隔操作装置3に対して信号の再送信が要求されて(S16)、ステップS11に戻る。
【0077】
信号が受信された場合(S11:YES)に、信号S1と信号S2とが一致すれば(S14:YES)、処理が行われて(S15)、次の信号の受信待ち状態(S11)になる。信号S1と信号S2とが一致しなければ(S14:NO)、再送信が要求されて(S16)、再送信される信号を待つ(S11)。
【0078】
第2実施形態によると、溶接電源装置1a’は2つの通信経路で受信された信号が一致する場合にのみ処理を行うので、通信障害が発生して正しく通信できていない状態で受信した信号に基づいて処理をしてしまうことを防止することができる。
【0079】
なお、図5に示すフローチャートの場合、信号S1と信号S2とが一致するまで再送信が要求されるので、処理が行われるまでに時間がかかる場合がある。信号S1と信号S2とが一致しない場合でも、いずれか一方の通信経路では通信障害が発生していない場合がある。したがって、信号S1と信号S2との比較が所定回数行われても一致しない場合には、通信障害が発生していない可能性が高い通信経路の信号に基づいて処理を行うようにしてもよい。
【0080】
図6は、溶接電源装置1a’の制御部13’が行う比較処理の別の実施例を説明するためのフローチャートである。図6に示すフローチャートは、図5に示すフローチャートに対して、ステップS21〜S24が追加され、ステップS15がS15’に変更されている。具体的には、比較回数Nをカウントして(ステップS23)、所定回数N0を超えたか否かを判別し(S22)、超えた場合(S22:YES)には、信号S1に応じた処理が行われる(S15’)。ステップS21およびS24は、比較回数Nを「1」に初期化するステップである。
【0081】
受信された信号S1と信号S2とが一致しなければ(S14:NO)、ステップS22,S16,S23,S11〜S14が繰り返され、比較回数Nがカウントされる。比較回数Nが所定回数N0を超えた場合(S22:YES)、信号S1に応じた処理が行われ(S15’)、比較回数Nが「1」に初期化されて(S24)、次の信号の受信待ち状態(S11)になる。
【0082】
無線通信部15が遠隔操作装置3との間で無線通信を行うのに対して、通信部14は無線ルータ5との間で有線通信を行い、無線ルータ5と遠隔操作装置3とは近い位置で無線通信を行っている。したがって、通信部14が受信した信号S1の方が無線通信部15が受信した信号S2より信頼性が高い。よって、ステップS15’では、信号S1に応じて処理を行うようにしている。
【0083】
この実施例の場合、信号S1と信号S2とが一致するまで再送信要求をする場合より信頼性は低くなるが、処理が行われるまでの時間を短縮することができる。なお、比較回数Nが所定回数N0を超えた場合(S22:YES)に、遠隔操作装置3に注意を促すための信号を送信するようにしてもよい。当該信号を受信した遠隔操作装置3が注意を報知するようにすれば、溶接作業者に通信障害の可能性があることの注意を促すことができる。
【0084】
さらに別の実施例として、信号S1と信号S2とが一致しない場合に、再送信要求をせずに、信号S1に応じた処理を行うようにしてもよい。この場合のフローチャートは、図5に示すフローチャートにおいて、ステップS16をステップS15’(図6参照)に置き換えたものになる。この実施例の場合、さらに信頼性は低くなるが、処理が行われるまでの時間をさらに短縮することができる。
【0085】
また、遠隔操作装置3の制御部35にも同様の機能を持たせるようにしてもよい。すなわち、制御部35が、通信部36が無線通信部15から直接受信した信号と、無線ルータ5を介して通信部36が受信した信号との比較を行い、両者が一致する場合に当該信号を受け付けて処理を行い、一致しない場合には当該信号の再送信を要求するようにしてもよい。
【0086】
上記第1および第2実施形態においては、無線ルータ5と遠隔操作装置3とが無線通信を行う場合について説明したが、これに限られない。無線ルータ5に代えて有線ルータを用いて、有線ルータと遠隔操作装置3とをケーブルで接続して有線通信するようにしてもよい。
【0087】
本発明に係る溶接システム、および、溶接システムの通信方法は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る溶接システム、および、溶接システムの通信方法の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0088】
A,A’ 溶接システム
a,b,c,a’,b’,c’ 溶接装置
1a,1b,1c,1a’,1b’,1c’ 溶接電源装置
11 電力変換部
12 記憶部(第1記憶手段)
13 制御部(第1記憶制御手段、出力制御手段、)
13’ 制御部(比較手段、処理手段、再送信要求手段、カウント手段、第1記憶制御手段、出力制御手段)
14 通信部(第1通信手段)
15 無線通信部
2a,2b,2c ワイヤ送給装置
3 遠隔操作装置
31 操作部
31a 溶接電流設定用ボタン
31b 溶接電圧設定用ボタン
31c 起動ボタン
31d 切替ボタン
32 記憶部(第2記憶手段、第3記憶手段)
33 表示部(表示手段、報知手段)
34 報知部(報知手段)
35 制御部(第2記憶制御手段、判定手段)
36 通信部(第2通信手段)
36a アンテナ
41,42 パワーケーブル
5 無線ルータ
T 溶接トーチ
W 被加工物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7