(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294037
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】複合型ノイズフィルタ
(51)【国際特許分類】
H03H 7/09 20060101AFI20180305BHJP
H03H 7/075 20060101ALI20180305BHJP
H01F 27/00 20060101ALI20180305BHJP
H01F 17/06 20060101ALI20180305BHJP
H01F 27/29 20060101ALI20180305BHJP
H03H 7/01 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
H03H7/09
H03H7/075 A
H01F15/00 D
H01F17/06 D
H01F15/10 H
H03H7/01 Z
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-192543(P2013-192543)
(22)【出願日】2013年9月18日
(65)【公開番号】特開2015-61144(P2015-61144A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2016年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】591149089
【氏名又は名称】株式会社MARUWA
(72)【発明者】
【氏名】小島 靖
(72)【発明者】
【氏名】布野大輔
(72)【発明者】
【氏名】盛川 靖弘
【審査官】
橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−008582(JP,A)
【文献】
実公昭44−018172(JP,Y1)
【文献】
特開平08−213867(JP,A)
【文献】
特開2011−252216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 7/09
H01F 17/06
H01F 27/00
H01F 27/29
H03H 7/01
H03H 7/075
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略直方体状の1個の磁性体と、前記磁性体を平行に貫通している2本の貫通孔と、前記貫通孔のそれぞれに挿通する2本の導体と、前記2本の導体間に電気的に接続された少なくとも2個のコンデンサ及び/又はバリスタとからなる複合型ノイズフィルタであって、前記導体が、その両端において前記磁性体の両端側面に沿って折り曲げられて、前記磁性体を挟持している露出部を有する複合型ノイズフィルタ。
【請求項2】
前記貫通孔が、前記磁性体の長手方向に設けられている請求項1に記載の複合型ノイズフィルタ。
【請求項3】
前記コンデンサ及び/又はバリスタが、前記導体の入力側及び出力側にそれぞれ少なくとも1つ接続されている請求項1に記載の複合型ノイズフィルタ。
【請求項4】
前記磁性体が、前記貫通孔と少なくとも1つの切欠き空間とを有する請求項1に記載の複合型ノイズフィルタ。
【請求項5】
前記切欠き空間と前記貫通孔とが、前記磁性体内部において互いに独立して設置されている請求項4に記載の複合型ノイズフィルタ。
【請求項6】
前記切欠き空間が、前記コンデンサ及び/又はバリスタを収納している請求項4又は5に記載の複合型ノイズフィルタ。
【請求項7】
前記切欠き空間が、前記磁性体の1つの側端面とその背面側にある他の側端面のそれぞれと底面とのなすコーナー部に設けられている請求項4乃至6に記載の複合型ノイズフィルタ。
【請求項8】
前記磁性体が、Ni−Zn系フェライトである請求項1又は2、4乃至7の何れか1項に記載の複合型ノイズフィルタ。
【請求項9】
前記導体が、Cu、Al、Ni、Zn、Snから選択される1つの金属又はこれらの合金である請求項1又は3に記載の複合型ノイズフィルタ。
【請求項10】
前記導体が、Niによる下地層とSn又はAuによる表面層とによって被覆されている請求項1、3又は9の何れか1項に記載の複合型ノイズフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング電源や電子機器のDC電源等の入出力部におけるコモンモードノイズ、ディファレンシャルモードノイズ及びサージを除去するのに適したノイズフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子機器への入力電流に含まれる高周波の電圧変化を除去し、安定した電気信号を電子機器に供給するための素子であるノイズフィルタとして、特許文献1(特開2004−200781号公報)や特許文献2(特開2005−252358号公報)に示すノイズフィルタが公知であり、この種のノイズフィルタは、チョークコイル部とコンデンサとを複数組み合わせる構造となっている。
【0003】
図15、
図16に示すように、公知のノイズフィルタ51において、2本の略逆U字状の導体52が1個のコンデンサ53を覆うようにしてコンデンサ53に対して電気的に接続され、さらに、2本の導体52は1個の塊状磁性体54を垂直に貫通してチョークコイルを形成する。また、導体52の先端部52aが折り曲げられて面実装端子を形成している。ノイズフィルタ51は、導体52と磁性体54とによりコンデンサ53を挟み込んでいるため、機械的振動や衝撃が加わってもコンデンサ53が外れにくいという優れた効果を発揮している。
【0004】
また、
図18に示す公知のノイズフィルタ61においては、略逆U字状の第1導体62及び第2導体63が、それぞれの上部分62a、63aにおいてコンデンサ64に対して電気的に接続され、さらに、第1導体62は1個のビーズ状磁性体65aと1個の絶縁碍子66とに挿通され、第2導体63の両端はそれぞれ1個のビーズ状磁性体65b、65cとそれぞれ1個の貫通コンデンサ67a、67bとに挿通される。第1導体62及び第2導体63の先端部は、表面及び内部に電極パターンを有する基板68の孔69に電気的に接続されて固定されている。また、ノイズフィルタ61は基板68より上方を樹脂製のシールド70によって覆われる。前記構造を有することにより、ノイズフィルタ61は、コンデンサ64を設置する第1導体及び第2導体上部62a、63aにおいて、コンデンサやバリスタ等の素子を追加して高性能化することが容易になるという優れた効果を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−200781号公報
【特許文献2】特開2005−252358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1のノイズフィルタ51は、コモンモードにおいて高いインピーダンスを得られない。高いインピーダンスが得られなければ、大容量のコンデンサを使用したとしても、ノイズフィルタのノイズ除去性能は低くなってしまう。
【0007】
なお、前記公知のノイズフィルタ51においてインピーダンスが低くなってしまうのは、再び
図16に示すように、コンデンサ53を設置又は埋設するための切欠き空間55と、導体52を挿通する貫通孔56とが接しているという固有の構造に起因している。
【0008】
すなわち、塊状磁性体54の上部54aが、導体52と接しているだけで導体52の周囲を囲んでいないため、塊状磁性体54aにおいて磁束が収束せず、チョークコイルとしてほとんど機能しなくなるからである。結果として、チョークコイルとして有効に使える磁性体の体積は小さくなるため、チョークコイルのインピーダンスが低下する。
【0009】
そのため、コモンモードにおいてノイズフィルタの単位体積当たりのインピーダンスが低くなり、効率よくノイズを除去できないという問題がある。
【0010】
また、特許文献2に示す従来のノイズフィルタは、前記構造・形状を有するため部品点数が多くなり、生産・組み立てが煩雑になるという問題があった。
【0011】
そこで、本発明者らは、上記2つの問題を解決するために、鋭意、研究した結果、2本の平行の導体と、それら導体間に電気的に接続される少なくとも2個のコンデンサとを含む電気回路を、1個の磁性体によりほとんど包囲すればよいという事実を見出し、本発明を完成した。したがって、本発明の第1の課題は、コモンモード、ディファレンシャルモード両方において高いノイズ除去性能を有し、特にコモンモードにおいて高いインピーダンスが得られるノイズフィルタを取得することにある。また、本発明の第2の課題は、部品点数を少なくして、生産・組み立てを容易にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の課題を解決するため、前記ノイズフィルタを、略直方体状の1個の磁性体と、前記磁性体に平行に貫通している2本の貫通孔と、前記貫通孔のそれぞれに挿通する2本の導体と、前記2本の導体間に電気的に接続された少なくとも2個のコンデンサ及び/又はバリスタと、からなる構造のノイズフィルタにするという手段を採用する。
【0013】
前記ノイズフィルタは、上記の構造を有していることにより、磁性体の放熱性が上がり、また、部品点数を少なくできる。
【0014】
本発明に係るノイズフィルタは、さらに高いノイズ除去性能を発揮させるために、前記ノイズフィルタにおける貫通孔を、前記磁性体の長手方向に設ける。上記構造にすることによって、磁性体内部を貫通する導体の長さを長くすることができる。
【0015】
さらに、本発明に係るノイズフィルタにおいて、前記磁性体の両端面に沿って前記導体の両端部を折り曲げて、その両端部により前記磁性体を挟持することにより、中央部分が前記磁性体に保持された前記同端部により磁性体を保持して、ノイズフィルタを全体的にコンパクトにする。
【0016】
コンデンサ及び/又はバリスタを前記導体の入力側及び出力側にそれぞれ少なくとも1つ接続することにより、本発明に係るノイズフィルタの等価回路は、π型回路となる。
【0017】
本発明に係るノイズフィルタは、前記構造に加えて、前記磁性体に少なくとも1つの切欠き空間を設けることにより、本発明に係る複合型ノイズフィルタは、コンデンサを前記切欠き空間に半ば埋設することができる。
【0018】
前記切欠き空間と前記貫通孔とが、前記磁性体の内部において独立して設けられていることにより、磁束を磁性体によって無駄なく収束でき、コモンモードにおけるインピーダンスが上昇する。
【0019】
前記切欠き空間を前記貫通孔の開口を有する面と前記磁性体の底面とがなすコーナー部に設ける。この構造により、ノイズフィルタは、磁束を磁性体によって無駄なく収束でき、また、コンデンサは、本発明に係る複合型ノイズフィルタを設置する基板に対して、最も近い位置に設置される。
【0020】
前記磁性体が、Ni−Zn系フェライトである。Ni−Zn系フェライトを使用することにより、前記磁性体は、絶縁抵抗が高まり、また、高い周波数のノイズに対しても高い透磁率を有する。
【0021】
前記導体が、Cu、Al、Ni、Zn、Snから選択される1つの金属又はこれらの合金である。前記金属は、電気抵抗が低い、酸化しにくい等の作用を有する。
【0022】
前記導体が、Niによる下地層とSn又はAuによる表面層とによって被覆されている。前記金属は、はんだの濡れ性の向上と表面の酸化防止の作用を有する。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、上記の手段を採用することにより、コモンモード、ディファレンシャルモード両方において、単位体積当たりのノイズ除去性能が高いノイズフィルタを取得できるという、優れた効果を発揮する。また、上記の手段を採用することにより、部品点数を少なくし、容易に組み立てられるノイズフィルタを得られるという、優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1(a)】本発明の複合型ノイズフィルタの斜視図である。
【
図1(b)】本発明の複合型ノイズフィルタの底面を上に向けた斜視図である。
【
図2】本発明の複合型ノイズフィルタの製造に使用する乾式成装置の分解斜視図である。
【
図3】本発明の複合型ノイズフィルタのコンデンサ設置前の斜視図である。
【
図4】本発明の複合型ノイズフィルタのコンデンサ設置後の斜視図である。
【
図5】本発明の複合型ノイズフィルタの導体挿入前の斜視図である。
【
図6】本発明の複合型ノイズフィルタの導体挿入後の斜視図である。
【
図7】本発明の複合型ノイズフィルタの導体折り曲げ後の斜視図である。
【
図8】本発明の複合型ノイズフィルタの導体とコンデンサの接続前の底面図である。
【
図10】本発明の複合型ノイズフィルタの等価回路図である。
【
図11】第1実施例における本発明の複合型ノイズフィルタの側面図である。
【
図12】第2実施例における本発明の複合型ノイズフィルタの側面図である。
【
図13】第3実施例における本発明の複合型ノイズフィルタを導体に沿って切断した断面図である。
【
図14】第2実施例における本発明の複合型ノイズフィルタを導体に沿って切断した断面図である。
【
図15】公知のノイズフィルタの分解斜視図である。
【
図17】公知のノイズフィルタの等価回路図である。
【
図18】公知のノイズフィルタの分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明の好ましい実施形態を説明する。まず、本発明に係る複合型ノイズフィルタ1の製造方法を説明する。前記製造方法は、磁性体の原料を準備しスラリーにする混合工程、スラリーを磁性体粉にするスプレードライ工程、磁性体粉を乾式成形する成形工程、磁性紛体を焼成する焼成工程、得られた磁性体と別途用意したコンデンサとを一体化するコンデンサ設置工程、前記磁性体に設けられた貫通孔に別途用意した導体を挿入する導体挿入工程、導体の先端部を折り曲げる導体折り曲げ工程、及び導体の先端部とコンデンサの電極とを電気的に接続するコンデンサ接続工程からなる。以下、各工程を順次説明する。
【0026】
(混合工程)磁性体2の原料となるNi−Zn系フェライト仮焼粉と水とバインダーとをそれぞれ40〜60:40〜60:2〜10の重量割合で混合し、ボールミルを用いて5〜24時間撹拌し、スラリー状の原料にする。
【0027】
(スプレードライ工程)前記スラリー状の原料を120〜220℃の熱風中において噴霧にし、粒径が10〜200μmの球状の磁性体粉にする。
【0028】
(成形工程)
図2に示す磁性体を成形する乾式成形装置によって磁性体粉を成形品に成形する。前記装置は、磁性体に2本の貫通孔(いずれも後述)を形成する突出棒9を支える土台13と、磁性体の下面を形成する下型8と、磁性体の外形を成形する金属ダイス12と、磁性体の上面を形成する上型7とから構成される。
【0029】
土台13は、突出棒9をその下端において支持する支持台14とその支持台14を下面から支持する円盤状の第1支持板15とからなる。
【0030】
下型8は、上端面が磁性体の一端部を形成する角柱状の下型本体16とその本体を下方において支える円盤状の第2支持板17とからなる。下型本体16と第2支持板17には突出棒9が共通して挿入可能な貫通孔10が形成されているとともに、下型本体16の上部には、後述する切欠き空間を成形するための突出部11が設けられている。
【0031】
金属ダイス12は、略短円筒状をなし、その中央部には、後述する磁性体を成形するためのキャビティ18が上下方向に貫通・形成されている。
【0032】
上型7は、下端面が磁性体の一端部を形成する角柱状の上型本体19とその本体16を上方において支える円盤状の第3支持板20とからなる。上型本体19と第3支持板20には突出棒9が共通して挿入可能な貫通孔10形成されているとともに、上型本体19の下部には、後述する切欠き空間を成形するための突出部11が設けられている。
【0033】
次に、前記乾式形成装置を使用して、本発明に係る磁性体の製造方法を説明する。土台13の突出棒9を下型8の貫通孔10に挿入し、さらに下型8の下型本体16を金属ダイス12のキャビティ18に挿入して両者の間に成形空間を形成し、その成形空間に前工程で調合した磁性体粉を入れる。その後、キャビティ18に上型7の上型本体16をそして上型7の貫通孔10に突出棒9をそれぞれ挿入し、上型7と下型8に対して相対向する圧力をかけて前記磁性体粉を圧縮すると、乾式形成品21ができる。上型7を金属ダイス12から外し、さらに下型8を上昇させると、目的物である磁性体に相似した形状の乾式形成品21を乾式成形装置から取り出すことができる。
【0034】
(焼成工程)乾式形成品21を、徐々に加熱して脱バインダーを行い、高温炉を用いて900〜1300℃で約2時間かけて焼成すると、本発明に係るノイズフィルタの主材である磁性体が得られる。
【0035】
図3に示すように、前記磁性体2は、略直方体状をなす1個の塊状磁性体からなり、その一つの側端面2aの中位からその背面側にある他の側端面2bに向う長手方向に、貫通孔3が所定間隔をおいて水平に形成されている。さらに、二つの前記側端面2a,2bのそれぞれと磁性体2の底面2cとのなすコーナー部2dにおいてそれぞれの中央部には、段差状の切欠き空間4が形成されている。
【0036】
従って、前記磁性体2において前記貫通孔3と切欠き空間4とは、互いに独立して設置されているとともに、前記コーナー部2dにおいて前記切欠き空間4が存在しない領域は、切欠き空間4に比較して磁性体2そのものの三次元状突出部に相当すると言える。
【0037】
(コンデンサ設置工程)
図3、
図4に示すように、両端部に外部電極を有するコンデンサ6を切欠き空間4に設置する。まず、磁性体2を、その底面2cが上になるように、図示しない装置に置く。次に、磁性体2の切欠き空間4に絶縁性接着剤22を塗布し、その後、切欠き空間4にコンデンサ6を載せ、接着する。絶縁性接着剤22により、コンデンサ6の電極6a同士が電気的に接続されるのを防ぐことができる。
【0038】
(導体挿入工程)
図5、
図6に示すように、貫通孔3に導体5を挿通する。ここで、導体5は、ノイズフィルタの定格電流に応じて所定の断面積を有するように選定される。導体5を磁性体2の貫通孔3に挿入する。このとき、導体5は、側端面2a、2bから内側に向かって所定の長さの先端部が露出するように、貫通孔3に挿入される。したがって、導体5の中央部は貫通孔3に保持され、2つの先端部が露出部5cとなって外方に突出する。
【0039】
(導体折り曲げ工程)
図7に示すように、導体5の露出部5cを折り曲げる。露出部5cを、上方に向かって折り曲げ、さらに上方に折り曲げられた露出部5cの先端部5dを底面2cに沿わせて折り曲げる。
【0040】
(コンデンサ接続工程)
図8に示すように、露出部5cの先端部5dとコンデンサ6の電極6aとにまたがるように、はんだ23を塗布し、その後加熱してはんだ23を溶かして先端5dと電極6aとの電気的な接続を行う。以上の方法により、
図1(a)、
図1(b)に示す形状・構造を有する複合型ノイズフィルタ1が完成する。すなわち、略直方体状の1個の磁性体2と、その磁性体2を平行に貫通している2本の貫通孔3と、貫通孔3のそれぞれに挿通する2本の導体5と、それらの導体5間に電気的に接続された少なくとも2個のコンデンサ6とからなる複合型ノイズフィルタ1が完成する。
【0041】
磁性体2は、縦方向長さA:3〜15mm、横幅B:2〜8mm、高さH:0.8〜10mmの略直方体であり、原料には透磁率100〜2000のNi−Zn系フェライト材からなる磁性体を採用する。この原料を使用することにより、複合型ノイズフィルタ1は、磁性体の内部に挿通された導体同士及びコンデンサ電極同士がショートすることを防ぐことができる。また、前記原料を使用することによって、磁性体2は、高い周波数のノイズに対しても高い透磁率を有するため、複合型ノイズフィルタ1は広い周波数帯域のノイズ除去が可能となる。
【0042】
2本の貫通孔3は、
図9に示すように、磁性体2の側面2a、2b間に、貫通孔同士が平行に形成されるように設置されている。この構造により、コモンモードにおいて、それぞれの導体に生じる磁界が磁性体2の内部において結合し、ノイズフィルタのインピーダンスを上昇させるため、ノイズフィルタは高いノイズ除去性能を発揮する。また、ディファレンシャルモードにおいて、それぞれの導体に生じる磁界が磁性体2の内部において反発して相殺されることによりインピーダンスを低下させるため、ノイズフィルタはノイズ以外の信号を減衰させることなく伝達することが可能となる。
【0043】
また、再び
図1(a)、
図1(b)に示すように、貫通孔3は、好ましくは、磁性体2の長手方向に設ける。この構造により、磁性体2の内部を通過する導体5の長さが長くなり、コモンモードにおけるインピーダンスが上昇し、効率よくノイズを除去できる。
【0044】
導体5は、Cu、Al、Ni、Zn、Snから選択される1つの金属又はこれらの合金である。また、導体5の断面の形状は、略長方形であることが好ましいが、略円形であってもよい。前記金属を使用することにより、導体5は、抵抗値を下げてノイズ以外の電気信号が減衰されることを抑制する、表面の酸化を防止する、剛性を上げて壊れにくくする等の効果を得られる。
【0045】
また、再び
図7に示すように、導体5は、貫通孔3に挿通され、磁性体2の両端面2a、2bに沿って導体5の露出部5cが折り曲げられて、その両端部5dにより磁性体2を挟持する。さらに露出部5cの先端5dはコンデンサ6の電極6aと電気的に接続している。
【0046】
この構造により、複合型ノイズフィルタ1を設置する基板とコンデンサ6の電極6aとの間に導体が介在するため、基板が変形した時にコンデンサが受ける応力を導体5が緩和して、コンデンサ6が破損しにくくなる。
【0047】
また、この構造により、複合型ノイズフィルタ1を設置する基板と、導体5とが電気的に接続される。コンデンサ6の電極6aの断面積よりも導体5の断面積の方が大きい場合、基板から磁性体の開口部に至るまでの電気抵抗が下がり、ノイズフィルタに大電流を流すことが可能になる。
【0048】
導体5は、Niによる下地層とSn又はAuによる表面層とによって被覆されている。前記構造により、導体5の表面の酸化による電気抵抗の上昇を防ぐことができる。また、はんだの濡れ性が上がり、導体5と、複合型ノイズフィルタ1を設置する基板との接着が容易になり、導体と基板との接着力も上昇する。
【0049】
コンデンサ6は、2本の導体5と電気的に接続されるように設置される。コンデンサ6があることにより、ディファレンシャルモードにおけるノイズを除去できる。さらに、それぞれの導体に対向して流れる電流により生じる磁界が、磁性体内部において互いに打ち消し合う方向に相殺されて作用するため、定常電流に対して磁気飽和を抑制し、除去したいコモンモードのインピーダンスの低下を抑制することができる。したがって複合型ノイズフィルタ1は、必要な信号を減衰することなく低インピーダンスで伝達できる。
【0050】
コンデンサ6の代わりに図示しないバリスタを使用することができる。バリスタは、バリスタに対して一定値(バリスタ電圧)未満の電圧がかけられている場合、高い抵抗値を有しており、コンデンサと同様の電気特性を有するが、バリスタ電圧以上の電圧がかけられた場合、抵抗値が大きく下がり、導体として電流を流すという特性を有する。したがって、ディファレンシャルモードにおいて、複合型ノイズフィルタ1にバリスタ電圧以未満の電圧がかけられる場合、コンデンサを設置した場合と同様にノイズ除去性能を発揮し、複合型ノイズフィルタ1に、静電気やサージ等によってバリスタ電圧以上の電圧がかけられる場合、その電圧を電源のグランド側に逃がして静電気やサージ等を除去するという効果を発揮する。
【0051】
再び
図4に示すように、コンデンサ6の設置個所としては、好ましくは、磁性体2を挟んで導体5の入力側及び出力側の両方に1つずつ設置される。このとき、2つのコンデンサ6を同じ静電容量を有するように選定することにより、
図10に示すように、等価回路において、コンデンサ6と、導体5と磁性体2とからなるチョークコイルによるインダクタンスLとが中心線25a、25bにおいて線対称かつ中心線25a、25bの交点である中心点25において点対称に接続される形となるため、複合型ノイズフィルタ1は、流す電流の方向の指定、すなわち、方向性をなくすことができる。また、コンデンサ6の代わりにバリスタを使用した場合においても、同じ電気特性を有するバリスタを選定することにより、同様に方向性をなくすことができる。さらに、この構造により、コンデンサ及び/又はバリスタとπ型回路構成を組み合わせている構造となるため、広い周波数帯域のノイズ除去が可能となる。
【0052】
従来のノイズフィルタの等価回路は、
図17に示すように対称形ではなく、前述のような方向性があったため、左右を取り違えると本来よりも低いノイズ除去性能しか発揮できないばかりか、場合によっては電流を流すと破損してしまう可能性もあった。また、方向性があることによって、ノイズフィルタを取り付ける製品においても電流と電気回路の向きを調整して設計する必要があった。しかし、方向性を無くしたことによって本発明に係る複合型ノイズフィルタを装置に設置する場合に、複合型ノイズフィルタの方向を取り違えてしまっても性能が下がることがなく、また、本発明に係る複合型ノイズフィルタを設置する装置においても電流の向きを考慮することなく電気回路を設計することが可能となる。
【0053】
切欠き空間4は、再び
図4に示すように、磁性体2の底面2cと貫通孔3の開口3aを有する側面2a、2bとがなすコーナー部2dに設置され、さらに、コンデンサ6は、切欠き空間4に半ば埋設される。前記構造により、複合型ノイズフィルタ1の外形を略直方体状にすることができ、部品の突出部をなくすことにより、複合型ノイズフィルタ1をコンパクトにできる。また、複合型ノイズフィルタ1を設置する際に、他の電子部品と接触して破損する危険性を低くすることができる。
【0054】
切欠き空間4は、好ましくは貫通孔3と磁性体2の内部において独立させる。切欠き空間4と貫通孔3とが接している場合は、
図15に示す公知のノイズフィルタ51と同様に導体の周りのすべてが磁性体によって覆われない構造となるため、コモンモードにおけるインピーダンス低下の原因となるが、再び
図6に示すように、切欠き空間4と貫通孔3とが、磁性体2の内部において独立に設けられている場合は、磁性体2を貫通している内部導体5aの周りがすべて磁性体2によって囲まれているので、コモンモードにおけるインピーダンスが上昇し、本発明に係る複合型ノイズフィルタは、より高いノイズ除去性能を得られる。
【0055】
さらに、本発明に係る複合型ノイズフィルタは、切欠き空間の位置によってノイズ除去性能が変化するので、最適な位置に切欠き空間を配置することにより、複合型ノイズフィルタの性能を最大限に引き出すことができる。以下に切欠き空間の位置と性能との関係について、詳細に説明する。
【0056】
再び
図9に示すように、切欠き空間4が、磁性体2において、貫通孔3の開口部3aを有する側面2a、2bと、磁性体2の底面2cとがなすコーナー部2dに設けられたときに、本発明に係る複合型ノイズフィルタは、発揮するノイズ除去性能を最大にできる。
【0057】
図11に示すように、コーナー部2dと開口部3aとの間に切欠き空間4を設置してコンデンサ6を埋設した第1実施例の場合、複合型ノイズフィルタ1を設置する基板24から電極6aまでの間にある中間導体5eに存在する抵抗値とインダクタンス成分により、コンデンサ6の高周波インピーダンスが高くなり、高い周波数のディファレンシャルノイズに対してノイズフィルタ特性が低下してしまう。しかし、
図12に示す第2実施例の場合、コーナー部2dに切欠き空間4を設置することにより、前述した中間導体5eに相当する箇所がなくなり、コンデンサ6は、高周波インピーダンスが低くなり、ディファレンシャルノイズに対してノイズ除去性能を十分に発揮することができる。
【0058】
さらに、切欠き空間4によって磁界が分断されて有効利用できない磁性体の体積を比較する。
図12に示す第2実施例の場合は、切欠き空間4の左右の部分のみが有効利用できない部分であるのに対し、再び
図11に示す第1実施例の場合は、切欠き空間4の左右だけでなく、切欠き空間4の底面2c側すべてを含むコーナー部2dが有効利用できない部分となってしまう。したがって、第2実施例の場合の方が磁性体を有効利用できる体積を大きくできるため、コモンモードにおけるインピーダンスの低下を抑制でき、高いノイズ除去性能を得られる。
【0059】
また、
図13に示すように、切欠き空間4が、凹型切欠き空間4aとして底面2cにおいてコーナー部2dよりも内方にある第3実施例の場合、磁性体2は、
図2に示したような上下2方向からのプレス金型を用いて貫通孔3と凹型切り欠き部4aとを一体成形できないため、成形後に凹型切欠き空間4aを加工する必要があり、生産性が低くなる。しかし、
図14に示す第2実施例の複合型ノイズフィルタ1は、切欠き空間4がコーナー部2dに設置されているため、
図2に示した装置による一体成型が可能になり、複合型ノイズフィルタ1は、容易に生産される。
【0060】
さらに、再び
図13に示す第3実施例の場合、磁性体2の内部を貫通する内部導体5aによって生じる磁界H1と、コンデンサ6の電極6aまで延長導体5bによって生じる磁界H2によって磁界が相殺されるため、コモンモードにおいて高いインピーダンスが取れず、第3実施例のノイズフィルタはノイズ除去性能を発揮することができない。しかし、
図14に示す第2実施例の場合、コーナー部2dに切欠き空間4を設けることにより、磁界H2が発生せず、コモンモードにおいて高いインピーダンスを得られ、第2実施例のノイズフィルタは高いノイズ除去性能を発揮することができる。また、延長導体5bがなくなることにより無駄な電気抵抗を減らすことができるため、ノイズ以外の電気信号を減衰させなくなるという効果を発揮する。
【0061】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々に変更することができる。例えば、前記第1実施例、第2実施例及び第3実施例は全て本発明に係るノイズフィルタであるが、第2実施例が最も好ましい実施形態である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明を利用すると、簡便かつ効率的に、ノートPCや家電等のAC電源やスイッチング電源等の入出力部において発生する、コモンモードとディファレンシャルモード両方に使用できる、高性能のノイズフィルタを提供できる。
【符号の説明】
【0063】
1:複合型ノイズフィルタ
1a:第1実施例
1b:第2実施例
1c:第3実施例
2:磁性体
2a、2b:側面
2c:底面
2d:コーナー部
3:貫通孔
3a:開口部
4:切欠き空間
4a:凹型切欠き空間
5:導体
5a:内部導体
5b:延長導体
5c:露出部
5d:先端
5e:中間導体
6:コンデンサ
6a:電極
7:上型
8:下型
9:突出棒
10:貫通孔
11:突出部
12:金属ダイス
13:土台
14:支持台
15:第1支持板
16:下型本体
17:第2支持板
18:キャビティ
19:上型本体
20:第3支持板
21:乾式形成品
22:絶縁性接着剤
23:はんだ
24:基板
25a、25b:中心線
26:中心点
51:ノイズフィルタ
52:導体
52a:先端部
53:コンデンサ
54:塊状磁性体
54a:上部
55:切欠き空間
56:貫通孔
61:ノイズフィルタ
62:導体
63:コンデンサ
64:ビーズ状磁性体
65:絶縁碍子
66:基板
67:孔
68:シールド
A:縦方向長さ
B:横幅
H:高さ
L:インダクタンス
H1、H2:磁界