特許第6294083号(P6294083)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294083
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】電子機器
(51)【国際特許分類】
   G01L 9/00 20060101AFI20180305BHJP
   H01L 29/84 20060101ALI20180305BHJP
   G01P 15/12 20060101ALI20180305BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   G01L9/00 303M
   H01L29/84 B
   H01L29/84 A
   G01P15/12 D
   B81B3/00
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-2181(P2014-2181)
(22)【出願日】2014年1月9日
(65)【公開番号】特開2015-129724(P2015-129724A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2016年11月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100166305
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 徹
(72)【発明者】
【氏名】大海 学
(72)【発明者】
【氏名】内山 武
(72)【発明者】
【氏名】篠原 陽子
【審査官】 梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−337956(JP,A)
【文献】 特開昭63−167159(JP,A)
【文献】 特開平11−153501(JP,A)
【文献】 特開2013−185970(JP,A)
【文献】 特開2013−234853(JP,A)
【文献】 特開2014−167459(JP,A)
【文献】 特開2014−238273(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0085156(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 7/00 − 23/32
G01L 27/00 − 27/02
B81B 1/00 − 7/04
B81C 1/00 − 99/00
H01H 35/02 − 35/42
H01L 27/20
H01L 29/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板に一端が固定され、他端が自由端である片持ち梁形状からなる平板状の薄膜と、を有し、前記薄膜の変位を介して物理量を検出する機能を持つ電子機器において、
前記薄膜は、前記薄膜の変位によって電気抵抗が変化するピエゾ抵抗素子である半導体以上金属材未満の導電性からなる導電材を含む2つの導電体部と、前記2つの導電体部の間で電気的に接続された金属材を含む金属材部と、で電気配線を形成し、
前記金属材部は、少なくとも一部に前記薄膜の厚み方向において前記金属材の一層構造からなる金属層を有することを特徴とする電子機器。
【請求項2】
前記物理量は、
外気圧の変化量であることを特徴とする請求項に記載の電子機器。
【請求項3】
前記物理量は、
前記電子機器に作用する加速度であることを特徴とする請求項1または2に記載の電子機器。
【請求項4】
前記金属層は、前記電気配線のうち、前記片持ち梁構造の固定端から自由端を結ぶ方向に略直交する方向に亘って形成されることを特徴とする請求項に記載の電子機器。
【請求項5】
前記金属層は、前記片持ち梁の幅方向全体に亘って形成されることを特徴とする請求項に記載の電子機器。
【請求項6】
前記導電体部の導電材は、前記薄膜の表面から当該薄膜の厚み方向の中心線までの領域に積層されることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の電子機器。
【請求項7】
前記金属材は、前記導電材よりも薄いことを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は平面基板上に薄膜を持ち、特にその薄膜が電気配線の一部を形成する電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、Siなどから成る基板の上にセンサやスイッチ機能を持つ素子を薄膜構造体として備えるMEMSデバイスが開発されている。当該MEMSデバイスは、作製プロセスが半導体プロセス技術を応用しているため、従来の機械加工による機能部品に比べてはるかに小型で高機能・高性能な部品を作製することができる。更に、MEMSデバイスは、作製プロセスを半導体部品の作製プロセスと共通化することにより、半導体部品と集積化することも可能であり、電子機器の実装サイズの小型化や消費電力の低減が実現できる。
【0003】
ただし、基板上に薄膜を作製すると、成膜後の温度降下中に基板と薄膜の熱膨張率の差によって両者界面で応力が発生し、デバイスが反ってしまう。これを防止するために、例えば、基板の裏面側に同じ膜を成膜して両面からの応力が打ち消しあう構造にする方法が提案されている(例えば特許文献1)。また、例えば、基板にあらかじめ力をかけて反らせておいた状態で成膜することで、その後の温度降下中の反りと打ち消し合わせて平坦にさせる方法も提案されている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−193132号公報
【特許文献2】特開平6−280026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来技術には以下のような課題がある。
特許文献1にて提案された方法では、反り防止という目的のためだけに基板の裏面に追加の膜を作製することとなるため、基板が厚くなってしまいMEMSデバイスの小型化に不利となる。圧力センサのような基板の薄さがデバイスの性能実現に重要であるような場合は、反りを低減できたとしても性能が劣化してしまうという課題がある。
【0006】
また、特許文献2にて提案された方法では、基板をあらかじめ所定量だけ精度良く反らせることが困難であり、また、反った基板上に微細なパターンを作製することも安定的に行うことは困難である、という課題がある。
【0007】
本発明は上述の課題を解決するために考案されたものであり、熱膨張率の異なる基板上の薄膜から成るMEMSデバイスにおいて、基板の反りを安定的に防止する構造を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る電子機器は、基板と、該基板に固定された平板状の薄膜と、を有し、前記薄膜の変位を介して物理量を検出する機能を持つ電子機器において、前記薄膜は、半導体以上金属材未満の導電性からなる導電材を含む導電体部と、前記導電体部の端部において前記導電材と電気的に接続された金属材を含む金属材部と、で電気配線を形成し、前記金属材部は、少なくとも一部に前記薄膜の厚み方向において前記金属材の一層構造からなる金属層を有することを特徴とする。
本発明に係る電子機器によれば、薄膜と金属材の膨張率に差があっても、作製プロセスの途中で薄膜の反りを低減することができ、安定した機能を持つ電子機器が実現できる。
【0009】
本発明に係る電子機器は、前記薄膜は、前記基板に一端が固定され、他端が自由端である片持ち梁形状からなることを特徴とする。
本発明に係る電子機器によれば、薄膜が大きく変化しやすいため、外部の物理量の変化に対して大きな出力を出すことができ、高感度な電子機器が実現できる。
【0010】
本発明に係る電子機器は、前記薄膜は、前記基板に周面全体が固定されたダイヤフラム構造であることを特徴とする。
本発明に係る電子機器によれば、薄膜の内側の状態を常に一定に維持することができるため、外部の物理量の絶対値を検出する電子機器が実現できる。
【0011】
本発明に係る電子機器は、前記物理量は、外気圧の変化量であることを特徴とする。
本発明に係る電子機器によれば、外部の気体の圧力が変化した際に薄膜が変形することで信号を発生させ、外部の気体の圧力を検出する電子機器が実現できる。
【0012】
本発明に係る電子機器は、前記物理量は、前記電子機器に作用する加速度であることを特徴とする。
本発明に係る電子機器によれば、外部からかけられた加速度によって薄膜が変形することで信号を発生させ、外部からかけられた加速度を検出する電子機器が実現できる。
【0013】
本発明に係る電子機器は、前記導電体部の前記導電材は、前記薄膜の変位によって電気抵抗が変化するピエゾ抵抗素子であることを特徴とする。
本発明に係る電子機器によれば、薄膜の微小な変形を電気信号の形で取り出すことができ、高感度な電子機器が実現できる。
【0014】
本発明に係る電子機器は、前記金属層は、前記電気配線のうち、前記片持ち梁構造の固定端から自由端を結ぶ方向に略直交する方向に亘って形成されることを特徴とする。
本発明に係る電子機器によれば、電気配線のうち、薄膜の変形に伴った変形量が少ない部分を電気的に直結させることで電気配線全体の電気抵抗を低減し、薄膜の変形に伴う電気抵抗の変化を大きな変化率として取り出すことができるため、高感度な電子機器が実現できる。
【0015】
本発明に係る電子機器は、前記金属層は、片持ち梁の幅方向全体に亘って形成されていることを特徴とする。
本発明に係る電子機器によれば、金属層が薄膜の厚み方向において他の材質と接触する界面を持たないため、金属層と他の材質の熱膨張率が異なっていても薄膜が反ることがなく、安定した性能の電子機器が実現できる。
【0016】
本発明に係る電子機器は、前記導電体部の導電材は、前記薄膜の表面から当該薄膜の厚み方向の中心線までの領域に積層されることを特徴とする。
本発明に係る電子機器によれば、薄膜の変形によって導電材にかかる応力が一方向のみに集中されるため、わずかな薄膜の変形によっても大きな信号出力が得られ、高感度な電子機器が実現できる。
【0017】
本発明に係る電子機器は、前記金属材は、導電材よりも薄いことを特徴とする。
本発明に係る電子機器によれば、金属材の収縮による薄膜の反りを低減しつつ、十分な導電性を維持することができるため、安定した性能の電子機器が実現できる。
【発明の効果】
【0018】
したがって、本発明は、熱膨張率の異なる基板上の薄膜から成るMEMSデバイスにおいて、基板の反りを安定的に防止する構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る第1実施形態の電子機器が配管に配設された状態を表す斜視図である。
図2】本発明に係る第1実施形態の電子機器を示す斜視図である。
図3図2におけるE部の拡大図である。
図4】第1実施形態の電子機器の断面図であり、(a)〜(d)は、それぞれ図3のA−A’〜D−D’断面線に沿った縦断面を表す。
図5】差圧が生じた際の電子機器の状態を示す斜視図である。
図6】差圧が生じた際の電子機器の断面図であり、(a)〜(d)は、それぞれ図3のA−A’〜D−D’断面線に沿った縦断面を表す。
図7】電子機器1の作製ステップを説明するための作製ステップ図である。
図8】本発明に係る第2実施形態の電子機器を示す斜視図である。
図9図8に示す電子機器のキャビティを表す斜視図である。
図10】本発明に係る第3実施形態の電子機器を示す図であり、(a)は斜視図を、(b)は(a)のC−C‘断面線に沿った縦断面図をそれぞれ表す。
図11】本発明に係る第4実施形態の電子機器の縦断面図であって、(a)〜(d)はそれぞれ、図4(a)〜(d)に相当する位置での断面を示す。
図12】本発明に係る第5実施形態の電子機器における薄膜近傍の平面図である。
図13図12に示す電子機器の縦断面図であり、(a)〜(d)はそれぞれ、図12のA−A’〜D−D’断面線に沿った縦断面図である。
図14】本発明に係る第6実施形態の電子機器を表す断面図であって、(a)〜(d)はそれぞれ、図12のA−A’〜D−D’断面線に相当する位置における縦断面図をそれぞれ表す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1実施形態)
本発明に係る第1実施形態を図1から図3を用いて説明する。
図1は、本発明に係る第1実施形態の電子機器1(MEMSデバイス)が配管100内に配設された状態を示し、(a)が斜視図を、(b)が縦断面図を、それぞれ表す。本実施形態に係る電子機器1は、図1に示すように、配管100に備わる第1の圧力室101と、第2の圧力室102と、の境界を塞ぐように配置され、両圧力室間の差圧を検出する圧力センサとして機能する。
【0021】
「電子機器の全体構造」
まず、図2を用いて電子機器1の全体構造について説明する。ここで、図2は電子機器1の構造を表す斜視図である。なお、便宜上図2において、電子機器1の上部側を第1の圧力室101、下部側を第2の圧力室102、とする。
【0022】
電子機器1は、図2に示すように、内部に平面視矩形状の貫通穴4の形成された基板2と、貫通穴4の上部を覆うように配置された薄膜3と、基板2の上面に形成されたパターン配線12と、パターン配線12に接続された配線7と、を持つ。
【0023】
基板2は、例えば数百ミクロンの厚さのSiから成る平板で、その一部には基板2の厚み方向に亘って形成された貫通穴4がある。貫通穴4は、例えば一辺が数十から数百ミクロンの長さを持つ。なお、基板2の側壁は、配管100の内周面に接合されているものとする。
【0024】
薄膜3は、例えば厚さが数十から数百ナノメートルのSiからなる、平面視コ字状の膜である。薄膜3は、貫通穴4の上面をギャップ5を残してふさぐように配置され、後述する導電材の形成された基部6(導電体部)において基板2に固定された片持ち梁構造を持つ。
【0025】
ギャップ5は、薄膜3の外縁と貫通穴4の内縁との間に形成される平面視コ字状の溝形状からなり、その幅が例えば数百ナノメートルから数ミクロンである。すなわち、ギャップ5の幅は、貫通穴4の一辺に比べて十分に小さなものである。なお、薄膜3の細部構造については、図3及び図4を用いて後段で詳述する。
【0026】
パターン配線12は、薄膜3の基部6と配線7とを連接するように形成された基板2上の配線パターンである。
配線7は、パターン配線12を介して電子機器1と、外部のブリッジ回路(図示略)とを電気的に接続する。
【0027】
「薄膜の細部」
次いで、薄膜3の細部構造について図3及び図4を用いて説明する。ここで、図3は、図2のE部拡大図であり、電子機器1における薄膜3近傍の平面図である。また、図4(a)〜(d)はそれぞれ、図3のA−A’〜D−D’断面線に沿った縦断面図である。
【0028】
図3に示すように、配線7は基板2上のパターン配線12に接続され、パターン配線12は薄膜3の基部6に相当する箇所に形成された導電材13に接続される。
薄膜3は、このような構造が図3中の上下方向に亘ってC−C’ 断面線に対して略対称に対になって形成されてなり、2つの導電材13(基部6)の間が金属材14(金属材部)によって接続されている。
【0029】
ここで、導電材13は、薄膜3と同一のSiから成るが、不純物としてPイオンがドープされているため、Siよりも導電率が高い部材である。つまり、導電材13は、片持ち梁構造からなる薄膜3がたわんだ際に電気抵抗が変化するピエゾ抵抗素子として機能する。なお、図3において、上方の配線7から下方の配線7に至るまでの電気回路は、図を略したブリッジ回路に組み込まれることによって、導電材13の電気抵抗の変化を信号出力する。
【0030】
また、図4(a)に示すように、導電材13は、薄膜3の厚み方向において、上面付近にのみ形成されている。さらに、図4(b)と(c)に示すように、金属材14は、その厚み方向において一層構造からなる金属層であり界面を持たない(上下面が露出している)ことを示す。図4(d)は、金属材14が導電材13に接触し電気的に接続していることを示す。
【0031】
「電子機器の動作」
次に電子機器1が圧力センサとして機能する原理を図5図6を用いて説明する。図5は、配管100において第1の圧力室101の内圧と、第2の圧力室102の内圧と、の間に差圧が生じたときの電子機器1の状態を示す斜視図である。図6(a)〜(d)は、それぞれ、そのときの図3の断面線A−A’〜D−D’に沿った縦断面図であり、図4(a)〜(d)の断面図に相当する。なお、図5図6の、それぞれ図2図4との差異は、薄膜3が貫通穴4の内部方向にたわんでいる点である。
【0032】
電子機器1は、配管100における第1の圧力室101と第2の圧力室102との間をギャップ5を介してのみ空気を流出入させる構造である。そして、上述したようにギャップ5の幅が貫通穴4の一辺に比べて小さいため、第1の圧力室101と第2の圧力室102との間に差圧が生じた際、第1の圧力室101の内部流体と第2の圧力室102の内部流体とがギャップ5を介して流出入して圧力室間が等圧化するまでには十分な時間を要するため、その時間が経過するまでの期間、圧力室間に一時的に差圧が発生する。すなわち、第1の圧力室101又は第2の圧力室102の内圧が上昇又は下降すると、薄膜3には上面側から底面側又は底面側から上面側に向けた力がかかる。
【0033】
ここで、薄膜3は基板2の厚みに比べて極めて薄いため、わずかな差圧によっても有意な変形を起こす。なお、薄膜3は基部6の部分が幅の狭い構造であるため、基部6に集中的にたわみが発生する。ここで、図6に示した導電材13は、上記たわみによって応力を受けピエゾ抵抗効果によって電気抵抗が変化する。つまり、電子機器1は、これを上述のブリッジ回路によって検出することで出力信号とする。このような構造にした電子機器1により、外気圧のわずかな変動を出力信号に反映させる高感度な圧力センサを実現できる。
【0034】
ところで、第1の圧力室101と第2の圧力室102との間の差圧がゆっくりと生じた場合には、ギャップ5を介した圧力室間の内部流体の流出入の影響により薄膜3にかかる差圧が小さくなってしまい、感度が低下する。つまり、内部流体の流出入速度を左右するこのギャップ5の幅が、電子機器1の感度や応答速度を規定する重要な設計パラメータである。
【0035】
また、金属材14は、後述するようにスパッタや蒸着によって成膜されるもので、薄膜3とは熱膨張率が異なる。そのため、金属材14は、成膜後に常温に温度降下させた際に、薄膜3との界面があると表面応力が発生し、薄膜3を反らせてしまうが、本発明では、薄膜3は厚み方向には一層構造であって薄膜3との界面が存在しないため、薄膜3を反らせる方向の応力は発生しない。
【0036】
これにより、差圧が無い初期状態では薄膜3は基板2の表面に平行な姿勢を保つことができ、ギャップ5が設計通りの値になる。特にゆっくりした外気圧変動を検出する際に十分で安定した感度を持つ電子機器1が実現する。
【0037】
「電子機器の作製方法について」
次に電子機器1の作製方法を、図7を用いて説明する。図7は、電子機器1の作製ステップであって、図4(c)に示した断面に相当する部分を表す図である。ここで、電子機器1に使用するウェハは、Si支持層21の上にSiO2層22を持ち、更にその上にSiデバイス層23を持つSOI(シリコン・オン・インシュレータ)基板である。
【0038】
まず図7(a)では、フォトリソ工程によるパターニングでSiデバイス層23の一部をエッチング除去して、Siデバイス層除去部24を作製する。
次に図7(b)では、Siデバイス層23全面と、Siデバイス層除去部24のうちの一部をパターニングによりレジスト膜26で覆う。この際、レジスト膜26で覆われる領域のうち図7(b)中に示す幅Dは、ギャップ5の幅と等しくなるように形成される。Siデバイス層除去部24のうちレジスト膜26で覆われていない部分は、SiO2層22が露出した露出部25となる。
【0039】
次に図7(c)では、金属(例えばAu)を全面に成膜した後にレジスト膜26を除去することにより、露出部25の上部のみに金属材27が残る。
最後に図7(d)では、所定領域のSi支持層21とSiO2層22を裏面側からのエッチングによって除去することで、図4(c)に示した、一対の導電材13間を接続する金属材14と、ギャップ5とを有する片持ち梁構造の薄膜3が作製される。
【0040】
なお、本電子機器1の作製方法としては、ウェハ表面にPイオンをドープすることで、導電材13を形成するステップも含まれる(図示省略)。ドープの深さはSiデバイス層23の表面から数十〜百数十ナノメートルとし、Siデバイス層23の厚みのうち中央よりも浅い部分のみにドープする。ドープする領域は最終的に薄膜の基部6に対応する部分とする。
【0041】
このような構造を持つ電子機器1は、金属材14がその厚み方向において他の材質との界面を持たないため、成膜後に常温に温度降下する際に薄膜3を反らせる力を発生させないため、薄膜3は基板2の表面に水平な構造を持つものができる。反りの少ない薄膜3は、外気圧が上昇した場合でも下降した場合でもほぼ同等の感度を持ち、また、空気が流出入するギャップ5を精密に設計することができるため、人体の動きのようなゆっくりした変位による圧力変動に対しても高い感度を持つ圧力センサとして機能する。
【0042】
(第2実施形態)
第1実施形態に係る電子機器1では、配管100内の圧力室間の差圧を検出する圧力センサとして機能する場合を例示したが、本第2実施形態に係る電子機器1aでは、外気圧変動を測定可能な構成とする。
【0043】
具体的には、電子機器1aは、図8に示すように、図2に示した電子機器1(本実施形態では便宜上、本体部50と称する)に、有底凹形状のキャビティ8が連接されることで、貫通穴4の底面側が封止され、薄膜3の上部側が外気(大気)に晒された構造を呈する。なお、電子機器1aのうち、第1実施形態に係る電子機器1と同一構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0044】
ここで、図9は、本体部50に固定されるキャビティ8を示す図である。
キャビティ8は、例えば、基板2と同一材料からなり、平面視で外枠が基板2と同一形状である略直方体形状の部材であり、上面側より底面側に向けて窪んだ凹部9を持つ。当該凹部9は、上縁が縁部10に囲まれ、下面側が底面11からなる。また、凹部9は、平面視で外枠が貫通孔4と同一形状からなる。
【0045】
つまり、キャビティ8は、縁部10を介して、図2に示した基板2のうち、貫通穴4よりも外方部分で本体部50の下面と接着される。その結果、凹部9と貫通穴4とは、貫通穴4の直下に凹部9が配置されるように組立てられる。
【0046】
「電子機器の動作について」
次に電子機器1aが、外気圧変動を測定する圧力センサとして機能する原理を説明する。
【0047】
電子機器1aにおいて、凹部9(及び貫通穴4のうち薄膜3の下方部分)と外部との間は、ギャップ5を介してのみ空気が流出入できる構造である。そして上述したように、ギャップ5の幅が貫通穴4の一辺に比べて十分小さいものであるため、外気圧が変動した際、凹部9への外気の流入は時間的に非常に緩やかになされるため、凹部9の内部空気圧が追従できず、両者の間に一時的に差圧が発生する。すなわち、外気圧が上昇すると、凹部9の内部空気圧に比べ外気圧が高くなるため、薄膜3には外部から凹部9側に向けた差圧による力がかかる。そして、薄膜3は極めて薄いため、わずかな差圧によっても有意な変形を起こす。
【0048】
ここで、薄膜3は、基部6が他の部分に比べて幅の狭い構造であるため、基部6近傍に集中的にたわみが発生する。その結果、基部6近傍に形成された導電材13は、応力を受けてピエゾ抵抗効果によって電気抵抗が変化する。つまり、電子機器1aは、この電気抵抗変化を上述のブリッジ回路によって検出することで、上記外気圧変動量に応じた出力信号を得ることができる。このような構造にした電子機器1aにより、外気圧のわずかな変動を出力信号に反映させる高感度な圧力センサが実現する。
【0049】
(第3の実施形態)
次いで、本発明に係る第3実施形態の電子機器を、図10を用いて説明する。
図10(a)は、本発明に係る第3実施形態の電子機器31を示す斜視図である。図10(b)は、図10(a)のC−C’断面線に沿った断面図である。本実施形態に係る電子機器31は外部の大気圧の変動を検出する圧力センサとして機能する。図2に示した第1実施形態に係る圧力センサ1と同一構成には同一符号を与え説明を省略する。
【0050】
本実施形態に係る電子機器31は、外気圧の変動によって変形する薄膜33が、片持ち梁ではなく全周を基板32に固定されたダイヤフラム構造を持つ。基板32の下側は、第2実施形態において説明した図2のキャビティ8が接続される。つまり、キャビティ8内は、上面が薄膜33や金属材14等で封止されるので外気と完全に隔離される。
【0051】
ここで、薄膜33は外気圧とキャビティ8の内部圧との差圧によって変形する。そして、電子機器31は、第2実施形態に係る電子機器1aと同様に、その薄膜33の変形によって惹き起こされる導電材13の電気抵抗の変化を検出することで、外気圧の変動を測定する。
【0052】
また、図10(b)に示すように、金属材14はその厚み方向において金属材14のみの一層構造であり、他の材質との界面を持たない。金属材14を作製した際に常温まで温度降下をしても薄膜を反らせる応力発生が最小限に抑えられるため、設計通りの形状を持つ薄膜33を作製できる。外気圧とキャビティ内圧力の差が無い初期状態において、薄膜33には反りが無く、外気圧変動に対して高感度で線形な応答を示す高性能な圧力センサが実現する。
【0053】
(第4の実施形態)
本発明に係る第4実施形態の電子機器を、図11を用いて説明する。
図11は本発明に係る第4実施形態の電子機器(図示略)の縦断面図であって、(a)〜(d)それぞれが、図4(a)〜(d)に相当する断面を示す。
【0054】
本実施形態に係る電子機器は、外部から作用する力によって発生する加速度を測定する加速度センサとして機能する。なお、第1実施形態と同一構成には同一符号を与え説明を省略する。本実施形態に係る電子機器は、薄膜41の自由端側に錘42を備える。当該錘42は、サイズが数ミクロンから数百ミクロンであり、材質がSiやSiO2などである。
【0055】
このような構造を持つ薄膜41は、錘42を備える分質量が大きくなっている。そのため、本実施形態に係る電子機器において、基板2に外力が作用して基板2が加速度を持って移動し始めても、薄膜41は、その大きな慣性力(質量)のために移動が少なく、結果として基板2に対して相対的に変形する。そして、電子機器は、この変形によるピエゾ抵抗効果で生ずる導電材13の電気抵抗の変化をブリッジ回路によって検出することで、作用した加速度を検出する。薄膜41は図11の上下方向に亘って薄い板形状であるので、図11の上下方向に対してたわみ変形を起こしやすいが、図11の紙面に垂直な方向には変形しにくい。ここで、ピエゾ抵抗効果を効率的に検出するためには、変形しにくい部分の電気抵抗を極力低く抑えることで、変形した際の抵抗変化率を大きく出来る。すなわち、金属材14は薄膜41の変形によっても変形しにくい場所を電気的に短絡することで、導電材13のピエゾ抵抗効果に基づく抵抗変化を効率的に取り出すことができる。
【0056】
なお、電子機器にかけられた加速度を正確に測定するためには、薄膜41が基板2に対して水平か、少なくとも設計された角度で配置されている必要がある。図11に示すように、金属材14はその厚み方向において他の材質と界面を持たないので、成膜後に常温に温度降下させた際に薄膜41を反らせる応力が発生せず、薄膜41の反りを最小限に抑えることができる。このようにして高性能で安定した加速度センサを実現する。
【0057】
(第5実施形態)
本発明に係る電子機器の第5実施形態を、図12図13を用いて説明する。
図12及び図13は本発明に係る第5実施形態の電子機器(図示略)の、薄膜3の近傍の平面図である。第1実施形態と同一部分には同一符号を与え説明を省略する。
【0058】
本実施形態に係る電子機器は第1実施形態の電子機器と同様に圧力センサとして機能する。本実施形態に係る電子機器の第1実施形態との差異は、導電材13が金属材14の幅だけ短く、金属材14が薄膜3の幅(固定端から自由端を結ぶ方向に直交する方向)全体に亘って形成されている点である。図13(a)〜(d)はそれぞれ、図12のA−A’〜D−D’断面線に沿った縦断面図である。図13(a)は、金属材14が薄膜3の幅全体に亘っており、導電材13と接続していることを示す。図13(b)と(c)は、金属材14がその厚み方向において一層構造であり界面を持たないことを示す。図13(d)は、金属材14が薄膜3の幅全体に亘っていることを示す。金属材14はその全体に亘って厚み方向において一層構造であるので、薄膜3を反らせる応力が発生せず、安定した高性能な圧力センサを実現する。
【0059】
(第6実施形態)
本発明に係る第6実施形態を、図14を用いて説明する。
図14は本発明に係る第5実施形態の電子機器(図示略)の、薄膜3近傍の断面図である。図14は第5実施形態の図13における各A−A’〜D−D’断面線に相当する位置における縦断面図である。本実施形態に係る電子機器の第5実施形態からの差異は、金属材14の厚さが薄膜3の厚さと略同一である点である。このような構造にすることにより、薄膜3の機械的強度が向上することと、ピエゾ抵抗効果による導電材13の電気抵抗の変化をより効率的に取り出せること、という効果を奏する。
【符号の説明】
【0060】
1,1a 電子機器
2 基板
3 薄膜
4 貫通穴
5 ギャップ
6 基部
7 配線
8 キャビティ
9 凹部
10 縁部
11 底面
12 パターン配線
13 導電体
14 金属材
21 Si支持層
22 SiO2層
23 Siデバイス層
24 Siデバイス層除去部
25 露出部
26 レジスト膜
27 金属材
31 電子機器
32 基板
33 薄膜
41 薄膜
42 錘
50 本体部
100 配管
101 第1の圧力室
102 第2の圧力室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14