(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のガラス電解質は、酸化物基準で、Li
2O成分を39.8〜65モル%、P
2O
5成分を30〜60モル%、Al
2O
3成分を0〜10モル%、並びにY
2O
3成分、Sc
2O
3成分、ZrO
2成分、CeO
2成分及びSm
2O
3成分の中から選択される1種以上を合計0.2〜10モル%含有する。ガラス電解質にY
2O
3成分、Sc
2O
3成分、ZrO
2成分、CeO
2成分及びSm
2O
3成分のうち少なくともいずれかを所定の含有量の範囲で含ませることで、ガラス電解質の極性溶媒に対する耐性が向上する。それとともに、ガラス電解質におけるリチウムイオンの伝導度(以下、単に「イオン伝導度」ともいう。)が高められることで、全固体リチウムイオン二次電池の充放電特性をより高めることが可能なガラス電解質を提供できる。
【0023】
以下、本発明のガラス電解質の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0024】
本発明のガラス電解質に含まれる各成分の含有量は、特に明記しない限りは酸化物基準のモル%で表す。ここで、「酸化物基準」は、ガラス電解質の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総モル数を100モル%として、ガラス電解質中に含有される各成分を表記した組成である。
【0025】
<ガラス電解質の組成について>
以下、本発明のガラス電解質を構成する成分とその作用について説明する。
【0026】
Li
2O成分は、ガラス電解質にLi
+イオンキャリアを提供することで、リチウムイオン伝導性を付与するのに有用な必須成分である。従って、Li
2O成分の含有量は、好ましくは39.8%、より好ましくは40%、より好ましくは45%、さらに好ましくは48%を下限とする。
他方で、Li
2O成分の含有量を65%以下にすることで、溶融したガラス原料を冷却した際のガラスの失透又は結晶化を抑制でき、且つ化学的耐久性を高められる。従って、Li
2O成分の含有量は、好ましくは65%、より好ましくは62%、さらに好ましくは60%を上限とする。
【0027】
P
2O
5成分は、特に30%以上含有することで、ガラスの形成に有用な必須成分であり、且つガラス転移点を低くできる成分である。従って、P
2O
5成分の含有量は、好ましくは30%、より好ましくは33%、さらに好ましくは35%を下限とする。
他方で、P
2O
5成分の含有量を60%以下にすることで、電池作製時の熱処理によるガラス電解質の結晶化を低減できる。また、電極層シートや電解質層シートの作製時において、スラリー中の溶媒にガラスの成分が溶出し難くなり、結果的に、スラリーに対して乾燥を行った際に、スラリー中の溶媒に溶出していたガラス成分が結晶状態で析出することも抑制できる。 このように溶媒に溶出していた成分の結晶析出を抑制することで、正極シート、負極シート、電解質シートから作製された、正極層や負極層や電解質層のイオン伝導度の低下を抑制することができる。従って、P
2O
5成分の含有量は、好ましくは60%、より好ましくは55%、さらに好ましくは50%、さらに好ましくは48%を上限とする。
【0028】
Y
2O
3成分、Sc
2O
3成分、ZrO
2成分、CeO
2成分及びSm
2O
3成分は、これらの中から選択される1種以上を合計で0.2%以上含有することで、ガラス電解質の極性溶媒に対する耐性を高められる。その結果、極性溶媒を用いてスラリーを作製した場合における、ガラス成分の溶出等によるイオン伝導性の極端な低下を抑制できる。加えて、これによりイオン伝導度を高められる。従って、Y
2O
3成分、Sc
2O
3成分、ZrO
2成分、CeO
2成分及びSm
2O
3成分から選択される1種以上の合計量は、好ましくは0.2%、より好ましくは0.5%、さらに好ましくは0.8%を下限とする。
他方で、これらの成分のうち1種以上の合計量を10%以下にすることで、これらの成分の過剰な含有による、ガラス原料を溶融して、ガラス電解質を作製する際の失透又は結晶化を抑制することができる。これらを抑制することで、歩留が向上し易くなるため、ガラス電解質の大量生産を容易にできる。また、正極シート、負極シート、電解質シートからの全固体リチウムイオン二次電池の作製において、これらのシートに含まれるガラス電解質を熱処理によって軟化及び冷却させる際の、結晶化によるイオン伝導度の極端な低下を抑制できる。また、溶媒への溶出成分の結晶析出も抑制できる。従って、これらの成分のうち1種以上の合計量は、好ましくは10%、より好ましくは8%、さらに好ましくは5%を上限とする。
【0029】
これらの成分の中でも、特にZrO
2成分及びCeO
2成分の中から選択される1種以上を合計で0.1%以上含有することで、ガラス電解質の極性溶媒に対する耐性をより高められる。加えて、これによりイオン伝導度を高められる。従って、ZrO
2成分及びCeO
2成分から選択される1種以上の合計量は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.3%、さらに好ましくは0.5%を下限としてもよい。
他方で、これらの成分のうち1種以上の合計量を10%以下にすることで、これらの成分の過剰な含有による失透を低減できる。特に、ガラス原料を溶融した際の失透又は結晶化を低減することで、大量生産が容易になる。また、全固体リチウムイオン二次電池の作製において、ガラス電解質を軟化及び冷却させる際の結晶化を抑制でき、そのような結晶化によるイオン伝導度の極端な低下を抑制できる。また、溶媒への溶出成分の結晶析出も抑制できる。従って、これらの成分のうち1種以上の合計量は、好ましくは10%、より好ましくは8%、さらに好ましくは5%を上限とする。
【0030】
ZrO
2成分は、0%超含有する場合に、ガラス電解質の極性溶媒に対する耐性を高められる任意成分である。従って、ZrO
2成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.3%、さらに好ましくは0.5%を下限としてもよい。
他方で、ZrO
2の含有量を10%以下にすることで、これらの成分の過剰な含有による失透を低減できる。特に、ガラス原料を溶融した際の失透又は結晶化を低減することで、大量生産が容易になる。また、全固体リチウムイオン二次電池の作製において、ガラス電解質を軟化及び冷却させる際の結晶化を抑制でき、そのような結晶化によるイオン伝導度の極端な低下を抑制できる。更に、溶媒への溶出成分の結晶析出も抑制できる。従って、ZrO
2の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは8%、さらに好ましくは5%を上限とする。
【0031】
CeO
2成分は、0%超含有する場合に、ガラス電解質の極性溶媒に対する耐性を高められる任意成分である。従って、CeO
2成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.3%、さらに好ましくは0.5%を下限としてもよい。
他方で、CeO
2の含有量を10%以下にすることで、原料の熔解を促進でき、且つ溶融したガラス原料を冷却した際の失透又は結晶化を低減できる。従って、CeO
2の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは8%、さらに好ましくは5%を上限とする。
【0032】
Y
2O
3成分は、安定なガラス相を形成でき、且つ、後述するAl
2O
3成分と部分的に置換することでイオン伝導度を高められる任意成分である。従って、Y
2O
3成分は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%、さらに好ましくは1%を下限としてもよい。
他方で、Y
2O
3成分を10%以下にすることで、溶融したガラス原料を冷却した際の失透又は結晶化によるイオン伝導度の低下を抑えられる。従って、Y
2O
3成分の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは8%、さらに好ましくは5%を上限とする。
【0033】
Sc
2O
3成分は、安定なガラス相を形成でき、且つ、後述するAl
2O
3成分と部分的に置換することでイオン伝導度を高められる任意成分である。従って、Sc
2O
3成分は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%、さらに好ましくは1%を下限としてもよい。
他方で、Sc
2O
3成分を10%以下にすることで、溶融したガラス原料を冷却した際の失透又は結晶化によるイオン伝導度の低下を抑えられる。従って、Sc
2O
3成分の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは8%、さらに好ましくは5%を上限とする。
【0034】
Sm
2O
3成分は、0%超含有する場合に、ガラス電解質の極性溶媒に対する耐性を高められる任意成分である。従って、Sm
2O
3成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%、さらに好ましくは1%を下限としてもよい。
他方で、Sm
2O
3成分の含有量を10%以下にすることで、原料の熔解を促進でき、且つ溶融したガラス原料を冷却した際の失透又は結晶化を低減できる。従って、Sm
2O
3成分の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは8%、さらに好ましくは5%を上限とする。
【0035】
Al
2O
3成分は、0%超含有する場合に、融点を低くでき、且つ、ガラス電解質の極性溶媒に対する耐性を高められる。その結果、極性溶媒を用いてスラリーを作製した場合における、ガラス成分の溶出等によるイオン伝導性の極端な低下を抑制できる任意成分である。従って、Al
2O
3成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは1%、さらに好ましくは2%を下限としてもよい。
他方で、Al
2O
3成分の含有量を10%以下にすることで、Al
2O
3成分の過剰な含有による溶融したガラス原料を冷却した際の失透又は結晶化や、電池作製時の熱処理による結晶化に起因したイオン伝導度の低下を抑えられる。また、溶媒への溶出成分の結晶析出も抑制できる。従って、Al
2O
3成分の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは8%、さらに好ましくは7%を上限とする。
【0036】
SiO
2成分は、0%超含有する場合に、ガラスの網目構造を形成し易くし、ガラスの形成を促せる任意成分である。
他方で、SiO
2成分の含有量を10%以下にすることで、ガラス転移点及び軟化点の低いガラス電解質を得易くできる。そのため、SiO
2の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは5%、さらに好ましくは3%を上限とする。
【0037】
ここで、P
2O
5成分及びSiO
2成分の合計量は、溶融したガラス原料を冷却した際の失透又は結晶化を低減させる観点から、好ましくは60%、より好ましくは55%、さらに好ましくは50%、さらに好ましくは48%を上限とする。
【0038】
RO(Rは、Mg、Ca、Srの中から選ばれる少なくとも1種である。)は、合計で0%超含有する場合、ガラス電解質の融点、Tgを下げることができる任意成分である。
他方で、ROを合計で10%以下にすることで、ガラス電解質のイオン伝導度の低下を抑えられる。そのため、ROの合計含有量は、好ましくは10%、より好ましくは8%より好ましくは5%を上限とする。
【0039】
DO
2(Dは、Ti、Geの中から選ばれる少なくとも1種である。)は、合計で0%超含有する場合に、溶融したガラス原料を冷却した際の失透又は結晶化を抑えられ、それにより熱的及び化学的耐久性の低下を抑えられる任意成分である。
他方で、DO
2を合計で5%以下にすることで、溶融したガラス原料を冷却した際の失透によるイオン伝導度の低下を抑えられる。そのため、DO
2の合計含有量は、好ましくは5%、より好ましくは3%、さらに好ましくは1%を上限とする。
【0040】
TeO
2は、0%超含有する場合に、ガラス電解質の融点、Tgを下げることができる任意成分である。他方で、TeO
2の含有量を10%以下にすることで、ガラス原料を溶解する際における坩堝へのダメージを低減することができる。そのため、TeO
2の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは8%、さらに好ましくは6%を上限とする。
【0041】
M’
2O
3(但し、M’はIn、La、Pr、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの中から選ばれる1種以上)は、合計で0%超含有する場合に、ガラスの溶融性及び耐失透性を高められる任意成分である。
他方で、ガラス電解質の材料コストの増加を抑える観点から、これら成分の1種以上の合計量は、好ましくは5%、より好ましくは1%を上限とし、さらに好ましくは実質的に含有させない。
【0042】
Nb
2O
5は、合計で0%超含有する場合に、ガラス電解質の融点、Tgを下げることができる任意成分である。他方で、ガラス電解質の材料コストの増加を抑える観点から、Nb
2O
5の含有量は、好ましくは5%、より好ましくは3%を上限とする。
【0043】
ZnO及びPbOは、ガラス原料の溶融性を更に向上する観点で、少なくともいずれかを合計で0%超含有させてもよい。
他方で、ガラス電解質のイオン伝導度の低下を抑える観点では、これら成分の1種以上の合計量は、好ましくは3%、より好ましくは0.5%を上限とし、さらに好ましくは実質的に含有させない。
【0044】
<ガラス電解質の作製>
本発明のガラス電解質は、例えば以下の方法により作製できる。すなわち、各出発原料を所定量秤量し、均一に混合した後、アルミナ、石英、金、又は白金からなる坩堝に入れて電気炉に収容し、750℃〜1300℃に温度を上げ、その温度で30分〜4時間保持して溶解する。溶解によって得られた溶融ガラスを板状に成形し、徐冷又は水冷により冷却することで、板状のガラス電解質を得ることができる。
【0045】
<ガラス電解質の特性について>
本発明のガラス電解質は、リチウムイオン伝導性を有することが好ましい。より具体的には、ガラス電解質の25℃におけるリチウムイオン伝導度(イオン伝導度)が1.0×10
−10S・cm
−1以上であることが好ましい。これにより、ガラス電解質を介したリチウムイオンの伝導がスムーズに行われるため、電池の抵抗を下げることができる。ここで、本発明のガラス電解質のイオン伝導度は、好ましくは1.0×10
−10S・cm
−1以上、より好ましくは1.0×10
−9S・cm
−1、さらに好ましくは1.0×10
−7S・cm
−1を下限とする。なお、このイオン伝導度が1×10
−10未満の場合、リチウムイオンの伝導は実質的に起こらない。
【0046】
本発明のガラス電解質は、極性溶媒に対する耐性が高いことが好ましい。すなわち、60℃の水に1時間浸漬させた前後における質量の減量率(重量減率)が、50質量%未満であることが好ましい。これにより、ガラス電解質そのものや、ガラス電解質に含まれる特定の成分が溶媒に溶出することによるイオン伝導性の低下、及び、溶媒に溶出したガラス成分の結晶化によるイオン伝導性の低下を抑制できる。ここで、本発明のガラス電解質の、60℃の水に1時間浸漬させた前後における減量率は、50質量%未満、より好ましくは40質量%未満、さらに好ましくは37質量%未満とする。
なお、極性溶媒に対する耐性の指標としては、上述のように極性の大きな溶媒である水に対する耐性を指標とすることが好ましい。
【0047】
本発明のガラス電解質は、軟化し易いことが好ましい。より具体的には、本発明のガラス電解質は、ガラス転移点(Tg)が500℃以下であることが好ましい。これにより、ガラス電解質が加熱によって軟化し易くなるため、粒子間の空隙の形成を抑制し易くでき、イオン伝導度を高めることができる。従って、本発明のガラス電解質のTgは、好ましくは500℃、より好ましくは450℃、最も好ましくは400℃を上限とする。他方で、このTgの下限は限定されないが、例えば100℃以上、より具体的には200℃以上、さらに具体的には300℃以上であってもよい。
【0048】
また、本発明のガラス電解質の結晶化開始温度Txは、好ましくは400℃、より好ましくは410℃、さらに好ましくは420℃を下限とする。この温度を高めることで、ガラス電解質の失透によるイオン伝導度の低下を抑えられる。
【0049】
また、本発明のガラス電解質の融点は、好ましくは700℃以下、より好ましくは650℃以下、さらに好ましくは600℃を上限とする。これにより、電池作製時の熱処理による、ガラス電解質や結晶質固体電解質、電極活物質の間での熱分解反応を低減でき、それによる放電容量の低下を抑えられる。
他方で、本発明のガラス電解質の融点は、好ましくは400℃、より好ましくは450℃、さらに好ましくは500℃を下限とする。これにより、積層型の全固体リチウムイオン二次電池を作製する際に、スラリーから形成されるシートに含まれるバインダーを脱脂するときの、ガラス電解質の溶解や、それによるガラス電解質の反応を抑えられる。また、ガラス電解質の溶解とバインダーの脱脂が同時に進むことが抑えられることで、特に積層型の全固体リチウムイオン二次電池を作製する際のシートの脱脂を円滑に行えるため、バインダーの脱脂不良によって発生する残炭による、電解質層内の電子の伝導に起因した電池短絡を抑えられる。
特に、ガラス電解質の融点は、シート成形に用いるバインダーの脱脂温度にも左右されるため、バインダーの脱脂温度+50℃を下限としてもよい。これにより、積層型の全固体リチウムイオン二次電池を作製する際のシートの脱脂を円滑に行えるため、バインダーの脱脂不良によって発生する残炭による、電解質層内の電子の伝導に起因した電池短絡を抑えられる。
【0050】
[全固体リチウムイオン二次電池]
本発明のガラス電解質は、リチウムイオン二次電池をはじめとする全固体リチウムイオン二次電池に好ましく用いることができる。全固体リチウムイオン二次電池は、正極層及び負極層と、それらの間に介在する電解質層と、を有しており、これら正極層、負極層及び電解質層の少なくともいずれかの層に、本発明のガラス電解質が固体電解質として含まれることが好ましい。
これにより、電解質層や電極層をスラリーから作製する際に、極性溶媒を用いてスラリー中にガラス電解質を良好に分散でき、且つ、ガラス電解質の成分を極性溶媒に溶出し難くすることでガラス成分の結晶析出を抑制できる。よって、電解質層や電極層のスラリーからの作製を行い易くでき、且つ、ガラス成分の溶出等によるイオン伝導度の低下を抑えられる。
また、本発明のガラス電解質を電極層あるいは電解質層に含んだ状態で、このガラス電解質の屈服点又は融点付近あるいはそれ以上の温度で熱処理することにより、電極層あるいは電解質層を高密度化できる。高密度化により、粒子間の距離が狭められ、結晶質固体電解質どうしの接触確率や電極活物質と結晶質との接触確率を高められることから、イオン伝導性を向上することができる。その際、このガラス電解質にイオン伝導性があることで、本来のリチウムイオンの伝導などを阻害せずに、電極層や電解質層の密度を増加させることができる。
例えば、このような高密度化は、本発明のガラス電解質が、結晶質固体電解質や電極活物質の間隙に入り込むことにより、ガラス電解質を介して結晶質固体電解質同士が結合することや、ガラス電解質を介して電極活物質と結晶質固体電解質とが結合することにより、これらの接触性が高められると考えられる。
さらに、ガラス電解質そのもののイオン伝導性の向上によって、電解質層や電極層のイオン伝導性が高められるため、全固体リチウムイオン二次電池の充放電特性をより高めることができる。
特に、正極層、負極層及び電解質層の全ての層に、固体電解質としてガラス電解質が含まれることがより好ましい。これにより、全固体リチウムイオン二次電池の作製し易さと充放電特性の向上に関する効果をより高めることができる。
【0051】
<電解質層>
本実施態様の電解質層は、ガラス電解質と結晶質固体電解質を含むことが好ましく、結晶質固体電解質としてセラミック電解質を含むことがより好ましい。より具体的には、電解質層の全質量に対して、ガラス電解質と結晶質固体電解質の合計含有量を80%以上にすることが好ましい。これにより、電解質層中にリチウムイオンの伝導する経路が形成され易くなるため、電解質層のリチウムイオン伝導性をより高めることができる。
他方で、ガラス電解質と結晶質固体電解質の合計含有量の上限は特に限定されず、100%であってもよい。
【0052】
電解質層の厚さは、厚さ1μm以上50μm以下の範囲であることが好ましい。
特に、電解質層の厚さを50μm以下にすることで、電解質層のイオン伝導抵抗が減ることで、全固体リチウムイオン二次電池の内部抵抗を低減できる。また、電解質層が薄くなるため、単位体積当たりの電極層の積層数を増加でき、ひいては単位体積あたりの放電容量やエネルギー密度を向上できる。この場合、電解質層の厚さの上限は、好ましくは50μm、より好ましくは40μm、最も好ましくは20μmである。
他方で、電解質層の厚さを1μm以上にすることで、正極層と負極層の短絡を低減できる。また、電解質層に用いられる結晶質固体電解質粉末及びガラス電解質の粒子としては、一般に目的とする厚さの1/5〜1/10の平均粒子径を有する粒子が好ましく用いられるところ、電解質層の厚さを大きくすることでより大きい粒子を用いることが可能になるため、全固体リチウムイオン二次電池の材料コストを低減できる。この場合、電解質層の厚さの下限は、好ましくは1μm、より好ましくは3μm、最も好ましくは5μmである。
【0053】
<正極層及び負極層>
本実施態様における正極層は、ガラス電解質と、結晶質固体電解質と、正極活物質と、導電助剤とを含有することが好ましい。また、本実施態様における負極層は、ガラス電解質と、結晶質固体電解質と、負極活物質と、導電助剤とを含有することが好ましい。
また、本発明のガラス電解質を含有することにより、電極層あるいは電解質層が高密度化されることで、結晶質固体電解質どうしの接触性や、電極活物質と結晶質固体電解質との接触性が高められるため、正極層及び負極層のイオン伝導性を高められる。
さらに、これら電極層に含まれるガラス電解質の含有量を低減させても所望のイオン伝導度を確保できることで、代わりに電極活物質や導電助剤の含有量を増加できるため、電極活物質をガラス電解質と導電助剤の双方に隣接し易くできる。
なお、本明細書では、正極層及び負極層を電極層と総称し、正極活物質及び負極活物質を電極活物質と総称する。
【0054】
本実施態様の電極層は、電極層の全質量に対する、ガラス電解質と結晶質固体電解質の合計含有量が20〜70質量%であることが好ましい。
特に、これらの合計含有量を20%以上にすることで、ガラス電解質によって形成されるリチウムイオンの移動経路が確保され易くなるため、電池の充放電特性や電池容量をより高め易くできる。従って、電極層におけるガラス電解質と結晶質固体電解質の合計含有量は、好ましくは20%、より好ましくは25%、さらに好ましくは30%を下限とする。
他方で、これらの合計含有量を70%以下にすることで、電極層中に含まれる電極活物質の含有量が増加するため、全固体リチウムイオン二次電池のエネルギー密度を高められる。そのため、電極層におけるガラス電解質と結晶質固体電解質の合計含有量は、好ましくは70%、より好ましくは65%、さらに好ましくは60%を上限とする。
【0055】
結晶質固体電解質としては、例えば、一般式Li
1+x+2y+zM
2−x−2yA
xB
zSi
zP
3−xO
12(ここで、0≦x≦0.7、0≦y≦0.4、0≦Z≦0.5であり、MはZr、Ti、Geの中から選ばれる1種以上であり、AはAl、Y、Scの中から選ばれる1種以上であり、BはCa、Mgの中から選ばれる1種以上である)で表されるセラミック電解質や、一般式Li
7La
3Zr
2O
12[LLZ]で表されるセラミック電解質が用いられる。
【0056】
正極層及び負極層の厚さは、40μm以下であることが好ましい。これにより、電極層中でリチウムイオンを伝導させる距離が短くなるため、電池抵抗を小さくできる。また、これにより、電極層中の電極活物質の含有量を増やしても、リチウムイオンが伝導し難い電極活物質を低減できる。従って、正極層及び負極層の厚さの上限は、それぞれ好ましくは40μm、より好ましくは30μm、最も好ましくは20μmである。
他方で、正極層及び負極層の厚さを1μm以上にすることで、電極層と電解質層の比率において電極層の比率を高めることができ、極端に薄い電解質層や、極端に細かい電解質粒子を用いなくとも、電池のエネルギー密度を高められる。また、特に積層型の全固体リチウムイオン二次電池においては、積層方向と垂直な方向についての電気抵抗の増加を抑えられる。従って、正極層及び負極層の厚さの下限は、好ましくは1μm、より好ましくは2μm、さらに好ましくは5μm、最も好ましくは10μmである。
【0057】
(正極活物質及び負極活物質)
正極活物質は、例えばNASICON型のLiV
2(PO
4)
3、オリビン型のLi
xJ
yMtPO
4(但し、JはAl、Mg、Wから選ばれる少なくとも1種以上であり、MtはNi、Co、Fe、Mnから選ばれる1種以上、0.9≦x≦1.5、0≦y≦0.2)、層状酸化物、又はスピネル型酸化物であることが好ましい。
正極活物質の具体例としては、例えばLiV
2(PO
4)
3、LiFePO
4、LiCoPO
4、LiCoO
2、LiMn
2O
4を用いることができる。
【0058】
負極活物質は、NASICON型、オリビン型、スピネル型の結晶を含む酸化物、ルチル型酸化物、アナターゼ型酸化物、若しくは非晶質金属酸化物、又は金属合金等から選ばれる少なくとも1種以上であることが好ましい。
負極活物質の具体例としては、例えばLi
2V
2(PO
4)
3、Li
2Fe
2(PO
4)
3、LiFePO
4、Li
4Ti
5O
12、TiO
2、SiO
x(0.25≦x≦2)、Cu
6Sn
5を用いることができる。
【0059】
これら正極活物質及び負極活物質の含有量は、含まれる電極層の材料(すなわち、正極材料又は負極材料)全体に対し、1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
特に、これらの含有量を1質量%以上にすることで、二次電池の電池容量を高めることができる。従って、正極活物質及び負極活物質の含有量は、好ましくは1質量%、より好ましくは2質量%、さらに好ましくは4質量%を下限とする。
他方で、これらの含有量を20質量%以下にすることで、電極層の電子伝導性を確保し易くできる。従って、正極活物質及び負極活物質の含有量は、好ましくは20質量%、より好ましくは15質量%、さらに好ましくは10質量%を上限とする。
【0060】
これらの電極層にも、電解質層と同様の無機バインダーを混合してもよい。
電極層に含まれる無機バインダーの含有量は、電極層の全質量に対して、好ましくは20%、より好ましくは10%、さらに好ましくは5%を上限とする。
【0061】
(導電助剤)
導電助剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック等の炭素や、Ni、Fe、Mn、Co、Mo、Cr、Ag及びCuの少なくとも1種以上からなる金属並びにこれらの合金を用いることできる。また、チタンやステンレス、アルミニウム等の金属や、白金、銀、金、ロジウム等の貴金属を用いてもよい。このような電子伝導性の高い材料を導電助剤として用いることで、電極層中に形成された狭い電子伝導経路を通じて伝導できる電流量が増大するため、全固体リチウムイオン二次電池の充放電特性を高めることができる。
【0062】
導電助剤の含有率は、電池容量と電極層の電子伝導性のバランスを考慮し、含まれる電極層の電極材料(すなわち、正極材料又は負極材料)全体に対し、1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、2質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、4質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0063】
なお、本発明のガラス電解質を用いた全固体リチウムイオン二次電池は、電解質層、正極層及び負極層のうち1種又は2種を従来公知のものとしてもよい。しかしながら、電解質層、正極層及び負極層の全てにガラス電解質を用いることで、より長寿命化が図られ、且つ、より充放電特性の高い全固体リチウムイオン二次電池を形成できる。
【0064】
(集電体)
本実施態様の全固体リチウムイオン二次電池には、正極層及び/又は負極層に集電体を設けてもよい。これにより、集電体を通じて電気を取り出し易くなるため、全固体リチウムイオン二次電池への充電や、全固体リチウムイオン二次電池からの放電を行い易くできる。集電体の具体的態様としては、正極層及び/又は負極層に薄膜状の金属層が積層又は接合されたものであってもよく、原料組成物に金属層や導電体の前駆体を積層した後で焼成したものであってもよい。なお、電極層自体の電子伝導性が高ければ、集電体は設けなくてもよい。
【0065】
本明細書に記載された電解質層や電極層に含まれる、ガラス電解質、電極活物質及び導電助剤の含有量とこれらの組成は、電解質層や電極層を削り出し、電界放出形透過電子顕微鏡(FE−TEM)に搭載されたエネルギー損出分析装置若しくはX線分析装置、又は電界放出形走査顕微鏡(FE−SEM)に搭載されたX線分析装置を用いて特定することが可能である。このような定量分析や点分析を用いることで、例えば電解質層中におけるガラス電解質の存在の有無や、その含有量及び組成がわかる。ここで、X線分析装置を用いた場合、Li
2O成分は直接分析できないが、他の構成成分から電荷を算出することで、Li
2O成分の含有量を推定することが可能である。
【0066】
なお、正極層、負極層、電解質層を作製する際、具体的には正極シート、負極シート、電解質シートに、予め作製したガラス電解質と結晶質固体電解質との複合体を含ませるようにすることもできる。これにより、応用製品を得る際の熱処理によってガラス電解質粉末が軟化して結晶質固体電解質の粉末の間隙に入り込むことで、ガラス電解質を介して、結晶質固体電解質同士の接触性や、結晶質固体電解質と電極活物質との接触性が高められる。また、ガラス電解質によって固められた緻密な組織が形成されるため、より高いイオン伝導性と機械的特性を兼ね備えた、固体電解質を含有する層を作製できる。
【実施例】
【0067】
[実施例1〜14、比較例1〜3]
本発明の実施例及び比較例のガラス電解質の組成、並びに、これらのガラス電解質のリチウムイオン伝導度と極性溶媒に際する耐性(重量減率)の結果を表1〜表3に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみ限定されるものではない。
なお、表1中の以下の標記は、以下の次のような含有量(モル%)を示す。
Y+Sc+Zr+Ce+Sm:Y
2O
3成分とSc
2O
3成分とZrO
2成分とCeO
2成分とSm
2O
3成分の合計含有量
Zr+Ce:ZrO
2成分とCeO
2成分の合計含有量
【0068】
(ガラス電解質の作製)
各成分の原料として、硼酸、メタリン酸アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化セリウム、酸化スカンジウム、炭酸リチウム、メタリン酸リチウム、リン酸リチウム等の高純度原料を用い、これらを酸化物基準のモル%単位で表1〜表3に記載の組成になるようにガラス原料を調合した。調合されたガラス原料をアルミナ、石英、金、又は白金からなる坩堝に入れ、電気炉中で750℃〜1300℃で撹拌しながら、30分〜4時間にわたり加熱溶融した。
【0069】
その後、溶融したガラス原料を2枚のキャスト板に挟んで押圧して成形することで、薄板状に成形されたガラス電解質を得た。得られた薄板状のガラスブロックを切断した後、その両面を研削及び研磨することで、直径25.4mm、厚み0.25mmのディスク形状のガラス電解質を得た。
【0070】
他方で、溶融したガラス原料を金属の型に流し込んで板状に成形し、徐冷又は水冷により冷却することで、ガラスブロックを作製した。このガラスブロックを、スタンプミルと遊星ボールミルを用いて平均粒子径1μm(D50)まで粉砕することで、ガラス電解質粉末を得た。
【0071】
表1〜3に記載のガラス転移点(Tg)、結晶化開始温度Tx(℃)、融点(℃)は、熱分析システム器(BRUKER社製 TG−DTA2000SA)により測定した値である。なお、本明細書におけるガラス電解質の融点とは、この熱分析システム器にて測定されるmpをいう。
【0072】
(結晶質固体電解質(セラミック電解質)の作製)
結晶質固体電解質であるセラミック電解質として、以下の方法により、Li
1.3Al
0.1Zr
1.8Y
0.1Si
0.1P
2.9O
12粉末を作製した。
原料としてLi
2CO
3、ZrO
2、Al
2O
3、Y
2O
3及びSiO
2の紛体と、H
3PO
4溶液とを量論比で混合した後、白金板上にて1480℃で1時間焼成し、焼成した混合物をスタンプミルで直径200μm以下になるように粉砕した。これに、φ2mmのYTZボール及びエタノールを加え、遊星ボールミルを用いてさらに粉砕して乾燥させることで、平均粒子径1.0μm(D50)のセラミック電解質粉末を得た。
【0073】
ガラス電解質粉末を6g、セラミック電解質粉末を114g混合し、これにバインダーとしてアクリル系ポリマー(オリコックスKC−250(商品名)、共栄社化学株式会社製)を77.3g、高分子系分散剤としてBYK180(ビックケミー・ジャパン社製)8.6g、湿潤材としてシリコーン含有オリゴマー(ポリフローKL−100、共栄社化学株式会社製)を0.4g、可塑剤としてセバシン酸ジ−2−エチルヘキシル(DOS、伊藤製油株式会社製)を7.7g、及び、溶剤としてエタノールを50g加え、ボールミルで混合して電解質スラリーを作製した。
【0074】
得られた電解質スラリーを、離型処理が施されたPETからなる基材に、塗工機を用いてギャップ400μmで塗布するのと同時に乾燥温度110℃で乾燥させ、厚さ30μm、幅18cm、長さ5mのシートを得た。このシートを12cm角に裁断することで、電解質シートを作製した。
【0075】
次いで、得られた電解質シートを、枚葉式積層機(アルファーシステム株式会社製)を用いて30枚積層した。
このとき、離形処理後のシートの外寸が15cm角になるようにし、各層を積層するごとに仮積層を行い、最後に本積層として2段階のプレスを行った。仮積層は常圧で行い、100kPaのプレス圧で行った。次いで、真空脱気を行い、シート中の気泡を取り除いた。その後に行われる本積層は250kPaのプレス圧で行った。
【0076】
積層により得られたシート積層体を直径11mmでくり抜き、窒素雰囲気中で3時間にわたり400℃で脱脂した。その後、成形型に入れて上型を乗せ、油圧プレスで2000kg/cm
2の圧力を掛けながら600℃まで2℃/secの昇温速度で加熱し、600℃に到達した後に圧力を開放して室温まで放冷することで、ガラス電解質とセラミック電解質を含んだ複合電解質を得た。
【0077】
ガラス電解質及び複合電解質のリチウムイオン伝導度は、ソーラートロン社製のインピーダンスアナライザーSI−1260を用い交流二端子法による複素インピーダンス測定により、25℃におけるリチウムイオン伝導度を算出した。ここで、複素インピーダンス測定は、サンユー電子製のクイックコーターを用いて、金をターゲットとしてガラス電解質の両面にスパッタを行って金電極を取り付け、これらの金電極を端子にして行った。
【0078】
ガラス電解質の極性溶媒(エタノール)に対する耐性を確認する加速試験として、より極性の高い安全な純水を用い、且つ、60℃の高温で1時間浸漬させた前後の重量減率(%)を測定した。なお、本試験の意図として、高温のエタノールを実験で用いることによる危険性を避ける意味もある。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
表に表されるように、本発明の実施例のガラス電解質は、60℃の水に1時間浸漬させた前後における質量の減量率が50質量%未満、より具体的には37質量%未満であった。他方で、比較例1、2のガラス電解質は、この減量率が50質量%以上であった。また、比較例3のガラス電解質は、この減量率が37質量%以上であった。よって、本発明の実施例のガラス電解質は、比較例のガラスよりも高い極性溶媒に対する耐性を有することが確認された。このことから、極性溶剤(エタノール)に対する耐性も高くなることが期待できる。
【0083】
また、本発明の実施例のガラス電解質は、イオン伝導度が1×10
−9S/cm以上であり、所望の範囲内であった。特に、実施例9〜14のガラス電解質は、イオン伝導度が1.5×10
−7S/cm以上であり、実施例1〜8よりも高いイオン伝導性を示した。このように高いイオン伝導性を示した理由として、実施例9〜14のガラス電解質がAl
2O
3成分を共通して含有しており、それによりガラスの安定性が高められていることが推察される。
【0084】
また、本発明の実施例のガラス電解質は、セラミック電解質を加えて複合電解質を作製したときのイオン伝導度が1×10
−6S/cm以上であり、高いイオン伝導性を示した。他方で、比較例1〜3のガラス電解質は、イオン伝導度が1×10
−6S/cmを下回った。よって、本発明の実施例のガラス電解質は、特にセラミック電解質とともに複合電解質の原料として用いたときに、比較例のガラスよりも高いイオン伝導性を有することが確認された。
【0085】
(積層型の全固体リチウムイオン二次電池の作製)
表4及び表5に示す割合で、各実施例及び比較例のガラス電解質と、セラミック電解質とを混合し、次いで、バインダーとしてアクリル系ポリマー(オリコックスKC−250(商品名)、共栄社化学株式会社製)、高分子系分散剤としてBYK180(ビックケミー・ジャパン社製)、湿潤材としてシリコーン含有オリゴマー(ポリフローKL−100、共栄社化学株式会社製)、可塑剤としてセバシン酸ジ−2−エチルヘキシル(DOS、伊藤製油株式会社製)、及び、溶剤としてエタノールを、表4及び表5に示す割合で加えた後、ボールミルを用いて混合し、電解質スラリーを作製した。
また、表4及び表5に示す割合で、各実施例及び比較例のガラス電解質と、正極活物質としてLiFePO
4(宝泉株式会社製)、導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、デンカブラック(商品名))及びセラミック電解質を混合し、次いで、電解質スラリーと同じバインダー、分散剤、湿潤材、可塑剤及び溶剤を表4及び表5に示す割合で加えた後、ボールミルを用いて混合し、正極スラリーを作製した。
また、表4及び表5に示す割合で、各実施例及び比較例のガラス電解質に、負極活物質としてLi
4Ti
5O
12(チタン工業株式会社製)、導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、デンカブラック(商品名))及びセラミック電解質を混合し、次いで、電解質スラリーと同じバインダー、分散剤、湿潤材、可塑剤及び溶剤を表4及び表5に示す割合で加えた後、ボールミルを用いて混合し、負極スラリーを作製した。
【0086】
ここで、正極に用いられるセラミック電解質であるLi
1.7Al
0.4Zr
1.8Y
0.1Si
0.2P
2.8O
12は、以下のように作製した。原料としてLi
2CO
3、ZrO
2、Al
2O
3、Y
2O
3及びSiO
2の紛体と、H
3PO
4溶液とを量論比で混合した後、白金板上にて1480℃で1時間焼成し、焼成した混合物をスタンプミルで200μm以下に粉砕した。これに、φ2mmのYTZボール、エタノールを加え、遊星ボールミルを用いてさらに粉砕して乾燥させることで、平均粒子径1.0μm(D50)のセラミック電解質粉末を得た。
【0087】
【表4】
【0088】
【表5】
【0089】
得られた正極スラリー、負極スラリー及び電解質スラリーを、離型処理が施されたPETからなる基材に、それぞれ塗工機を用いてギャップ400μmで塗布するのと同時に乾燥温度110℃で乾燥させ、厚さ80μm、幅18cm、長さ5mのシートを得た。このシートを12cm角に裁断することで、正極シート、負極シート及び電解質シートを作製した。
【0090】
このうち、正極シート及び負極シートに、レーザ加工機(パナソニック電工SUNX社製、型番LPV−15U)を用いてレーザを照射し、直径1mmの円形の開口を有する開口部を形成した。
図3(c)に示すように開口部を形成した正極シートをシートCとして7枚準備し、
図3(a)に示すように開口部を形成した負極シートをシートAとして7枚準備した。このとき、正極シートと負極シートで、異なる位置に開口部を形成するようにした。また、
図3(d)に示すように開口部を形成しない正極シートをシートDとして1枚準備し、
図3(b)に示すように開口部を形成しない負極シートをシートBとして1枚準備した。
他方で、電解質シートにも、レーザ加工機を用いてレーザを照射し、正極シート及び負極シートのうち少なくとも一方の開口部の中心と重なる位置に、直径0.8mmの円形の開口を有する開口部を形成した。このとき、
図3(g)に示すように正極シートの開口部の中心と重なる位置のみに開口部を形成した電解質シートをシートGとして1枚準備し、
図3(f)に示すように負極シートの開口部の中心と重なる位置のみに開口部を形成した電解質シートをシートFとして1枚準備し、
図3(e)に示すように両方の位置に開口部を形成した電解質シートをシートEとして13枚準備した。
シートA〜Gに形成する開口部の模式図を
図3に示す。
【0091】
次いで、枚葉式積層機(アルファーシステム株式会社製)を用いて、正極シート、正極シート、電解質シート、負極シート、電解質シート及び正極シートの順で交互に積層した。より具体的には、シートD、シートF、シートA、シートE、シートC及びシートCを順に積層した後、シートE、シートA、シートE、シートC及びシートCの順で6回繰り返して積層し、その後シートG及びシートBを順に積層した。このとき、2枚の正極シートの共通する位置にある開口部と、その開口部に隣接する電解質シートにある開口部を重ね合せるとともに、負極シートの開口部とそれに隣接する電解質シートにある開口部を重ね合せた。
このとき、離形処理後のシート外寸は15cm角になるようにし、各層を積層するごとに仮積層を行い、最後に本積層として2段階のプレスを行った。仮積層は常圧で行い、100kPaのプレス圧で行った。次いで、真空脱気を行い、シート中の気泡を取り除いた。その後に行われる本積層を250kPaのプレス圧で行うことでシート積層体を得た。
【0092】
プレス後のシート積層体を直径11mmでくり抜き、窒素雰囲気中で3時間にわたり400℃で脱脂した。その後、成形型に入れて上型を乗せ、油圧プレスで2000kg/cm
2の圧力を掛けながら600℃まで2℃/secの昇温速度で加熱し、600℃に到達した後に圧力を開放して室温まで放冷することで、積層型の全固体リチウムイオン二次電池を得た。作製した積層型の全固体リチウムイオン二次電池の断面を電子顕微鏡により観察したところ、正極層の厚みは40μm、負極層の厚みは40μm、電解質層の厚みは15μmであった。
【0093】
作製した積層型の全固体リチウムイオン二次電池を、100℃の真空中で1時間乾燥させた後、タブフィルムとアルミラミネートフィルム、銅箔、アルミ箔で作製されたセルホルダーを用い、露点−50℃のドライルームで、真空状態でパッケージングした。このとき、負極側に銅箔の集電体を、正極側をアルミ箔の集電体をそれぞれ配置し、積層型の全固体リチウムイオン二次電池をアルミラミネートパッケージで上下を挟んで真空パックし、アルミラミネートパッケージをクリップで止めることで、パッケージングされた積層型の全固体リチウムイオン二次電池を得た。
【0094】
このパッケージングされた積層型の全固体リチウムイオン二次電池について、恒温槽内に入れて、25℃にて充放電試験を行った。1/100Cで定電流充電し、2.8Vとなったところで充電を停止し、1/100Cで定電流放電をして、0.3Vとなるまでの放電容量を計測し、正極活物質の重量当たりの放電容量を算出した。その結果、各実施例及び比較例のガラス電解質を電解質層、正極層及び負極層の各々に用いた場合の放電容量は、表1〜3に示すとおりである。
【0095】
表に示されるように、本発明の実施例のガラス電解質を電解質層、正極層及び負極層の各々に用いた全固体リチウムイオン二次電池は、放電容量が100mAh/g以上、より具体的には105mAh/g以上であり、高い放電容量が得られた。他方で、比較例のガラスを電解質層、正極層及び負極層の各々に用いた二次電池は、放電容量が100mAh/gを下回った。よって、本発明の実施例のガラス電解質から作製される全固体リチウムイオン二次電池は、比較例のガラス電解質から作製される二次電池よりも高い放電容量を得られることが確認された。
【0096】
図1に、実施例及び比較例のガラス電解質の重量減率と、それを用いて作製した全固体リチウムイオン二次電池の放電容量の関係を示す。また、
図2に、実施例のガラス電解質及び比較例のガラス電解質の重量減率と、実施例及び比較例のガラス電解質とセラミック電解質とを用いて作製された複合電解質のイオン伝導度の対数との関係を示す。
図1及び
図2から、重量減率が、イオン伝導度の対数や放電容量とほぼ直線的な相関関係を示していることが推察される。
このことは、重量減率が小さい、すなわち極性溶媒に対する耐性が高いガラス電解質ほど、イオン伝導度が高められ、且つ、放電容量が高められることを示している。
【0097】
ガラス電解質の極性溶媒に対する耐性が高まることで、ガラス電解質がスラリー形成時に溶媒の影響を受け難くなることで、ガラス電解質の表面に−OH基等が入り難くなることが推察される。このとき、Li
+イオンの伝導はLi
+が粒界を移動することでなされるため、成形時に粒界に−OH基を存在し難くすることで、−OH基によるリチウムイオン伝導性の低下を抑えられるものと推察される。
成形時の加熱等によって、スラリー形成時にガラスに吸着していた−OH基の一部やH
2Oは除去されるものの、ガラスの表面近傍にある−OH基は化学吸着に近いため、加熱プレス時の加熱でも完全には取りきれずにガラスの表面に存在し続けた−OH基が、リチウムイオン伝導性に悪影響を与えると考えられる。
【0098】
また、ガラス電解質の極性溶媒に対する耐性が高まることで、ガラス電解質そのものや、ガラス電解質に含まれる特定の成分が溶媒に溶出し難くなることで、それによるリチウムイオン伝導性の低下や、ガラス電解質から溶出した成分の析出や結晶化によるリチウムイオン伝導性の低下を抑えられるものとも推察される。
【0099】
このように、ガラス電解質の重量減率を低くすること、すなわち極性溶媒に対する耐性を高めることで、ガラス電解質のリチウムイオン伝導性や、全固体リチウムイオン二次電池の放電容量を高められることが、本実験から考察される。
【0100】
このことから、本発明の実施例のガラス電解質では、イオン伝導度が向上し、且つ、全固体リチウムイオン二次電池の放電容量が高められる。そのため、これらのガラス電解質を全固体リチウムイオン二次電池に用いることで、より高い充放電特性を実現できると推察される。
【0101】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。当業者は本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を成し得、それらも本発明の範囲内に含まれる。