(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を、本発明に係る計測装置を出力有効電力の計測装置として用いた場合を例として、図面を参照して具体的に説明する。
【0025】
図1は、第1実施形態に係る計測装置Aを説明するための図であり、電力系統Bに連系するインバータ装置の内部で、インバータ回路Cの出力側に配置されている状態を示している。
図2は、インバータ装置が複数並列接続された太陽光発電所を示す図であり、各インバータ装置に内蔵されている計測装置Aが通信を行っている状態を示している。
【0026】
インバータ回路Cは、図示しない太陽電池から入力される直流電力を交流電力に変換して、電力系統Bに出力するものである。計測装置Aは、インバータ回路Cの出力有効電力を計測するものである。インバータ回路C、これを制御する制御回路、計測装置A、および、各種保護装置を備えているインバータ装置が、いわゆるパワーコンディショナと呼ばれるものである。
【0027】
図1に示すように、計測装置Aは、電圧センサ1、電流センサ2、有効電力算出部3、変化量算出部4、平均値生成部5、表示部6、および、通信部7を備えている。計測装置Aは、電圧センサ1が検出した電圧信号および電流センサ2が検出した電流信号に基づいて、インバータ回路Cが出力する有効電力Pを算出するものである。
【0028】
電圧センサ1は、インバータ回路Cの出力線に配置されて、配置位置の電圧の瞬時値を検出するものである。電圧センサ1は、検出した瞬時値をデジタル変換して、電圧信号として有効電力算出部3に出力する。電流センサ2は、インバータ回路Cの出力線に配置されて、配置位置の電流の瞬時値を検出するものである。電流センサ2は、検出した瞬時値をデジタル変換して、電流信号として有効電力算出部3に出力する。
【0029】
有効電力算出部3は、電圧センサ1より入力される電圧信号および電流センサ2より入力される電流信号に基づいて、有効電力Pを算出するものである。有効電力算出部3は、算出した有効電力Pを、所定のタイミング(例えば、1秒間隔)で更新して、変化量算出部4および表示部6に出力する。
【0030】
図3は、有効電力算出部3の内部構成の一例を示す図である。
【0031】
有効電力算出部3は、3相の電圧信号および電流信号に基づいて、有効電力Pを算出するものであり、αβ変換部31,31’、dq変換部32,32’、および、電力算出部33を備えている。
【0032】
αβ変換部31は、電圧センサ1より入力される3相の電圧信号Vu、Vv、Vwを2相の電圧信号Vα、Vβに変換する。dq変換部32は、αβ変換部31から電圧信号Vα、Vβを入力され、同相成分Vdと位相差成分Vqとを算出する。αβ変換部31’は、電流センサ2より入力される3相の電流信号Iu、Iv、Iwを2相の電流信号Iα、Iβに変換する。dq変換部32’は、αβ変換部31’から電流信号Iα、Iβを入力され、同相成分Idと位相差成分Iqとを算出する。
【0033】
電力算出部33は、dq変換部32より入力される同相成分Vdおよび位相差成分Vqと、dq変換部32’より入力される同相成分Idおよび位相差成分Iqとから、下記(1)式に基づいて、有効電力Pを算出する。電力算出部33は、所定のタイミングで、タイミング間の平均値を算出して、有効電力Pとして出力する。
【数1】
【0034】
なお、
図3に示す有効電力算出部3は、あくまでも一例であって、これに限られない。例えば、電圧信号Vα、Vβおよび電流信号Iα、Iβから有効電力Pを算出するようにしてもよいし、電圧信号Vu、Vv、Vwおよび電流信号Iu、Iv、Iwから有効電力Pを算出するようにしてもよい。また、電圧および電流の実効値と、電圧と電流の位相差とから有効電力Pを算出するようにしてもよい。
【0035】
変化量算出部4は、有効電力算出部3より入力される有効電力Pの変化量ΔPを算出するものである。変化量算出部4は、有効電力算出部3より入力される有効電力Pが更新されていない間は変化量ΔPを「0」とし、有効電力Pが更新された時は、更新後の有効電力Pと更新前の有効電力Pとの差を変化量ΔPとして算出する。変化量算出部4は、変化量ΔPを平均値生成部5に出力する。
【0036】
平均値生成部5は、各計測装置Aが算出した有効電力Pの内部平均値X
iを生成するものである。内部平均値X
iは、各計測装置Aの内部で仮に算出される、各計測装置Aが算出した有効電力Pの相加平均値である。後述するように、各計測装置Aの内部平均値X
iは、平均値生成部5での演算処理が繰り返されることで、各計測装置Aが算出した有効電力Pの相加平均値に収束する。平均値生成部5は、生成した内部平均値X
iを表示部6および通信部7に出力する。平均値生成部5の詳細については、後述する。
【0037】
表示部6は、計測値を表示するものであり、有効電力算出部3より入力された有効電力Pをインバータ回路Cの出力有効電力として表示する。また、表示部6は、平均値生成部5より入力された内部平均値X
iを発電所に設置されたインバータ装置の出力有効電力の平均値として表示する。さらに、表示部6は、発電所に設置されたインバータ装置の数nを内部平均値X
iに乗算して算出された値(n・X
i)を発電所全体の出力有効電力の合計値として表示する。
【0038】
通信部7は、他の計測装置Aとの間で通信を行うものである。通信部7は、平均値生成部5が生成した内部平均値X
iを入力され、他の計測装置Aの通信部7に送信する。また、通信部7は、他の計測装置Aの通信部7から受信した内部平均値X
jを、平均値生成部5に出力する。なお、通信方法は限定されず、有線通信であってもよいし、無線通信であってもよい。
【0039】
図2に示すように、各計測装置Aは、電力系統Bに連系するインバータ装置の内部で、インバータ回路Cの出力側に配置されている。
図2においては、電力系統Bに5つのインバータ装置が連系している状態を示している。なお、実際には、より多くのインバータ装置が連系しているが、説明の簡略化のために極端に少ないケースを示している。
【0040】
図2に示す実線矢印は、計測装置A同士で通信を行っていることを示している。計測装置A1は計測装置A2とのみ相互通信を行っており、計測装置A2は計測装置A1および計測装置A3とのみ相互通信を行っている。また、計測装置A3は計測装置A2および計測装置A4とのみ相互通信を行っており、計測装置A4は計測装置A3および計測装置A5とのみ相互通信を行っており、計測装置A5は計測装置A4とのみ相互通信を行っている。このように、計測装置Aは、発電所に設置された各インバータ装置に内蔵されている計測装置Aのうち、少なくとも1つの計測装置Aと通信を行っており、任意の2つの計測装置Aに対して通信経路が存在している状態(以下ではこの状態を「連結状態」と言う。)であればよく、すべての計測装置Aと通信を行う必要はない。
【0041】
例えば、計測装置Aが計測装置A2の場合、通信部7は、平均値生成部5が生成した内部平均値X
2を計測装置A1およびA3の通信部7に送信し、計測装置A1の通信部7から内部平均値X
1を受信し、計測装置A3の通信部7から内部平均値X
3を受信する。
【0042】
次に、平均値生成部5の詳細について説明する。
【0043】
平均値生成部5は、生成した内部平均値X
iと、通信部7より入力される、他の計測装置Aの内部平均値X
jとを用いて、内部平均値X
iを生成する。内部平均値X
iと内部平均値X
jとが異なっていても、平均値生成部5での演算処理が繰り返されることで、内部平均値X
iと内部平均値X
jとが共通の値に収束する。
図1に示すように、平均値生成部5は、演算部51、乗算器52、加算器53および積分器54を備えている。
【0044】
演算部51は、下記(2)式に基づく演算を行う。すなわち、演算部51は、通信部7より入力される各内部平均値X
jから、平均値生成部5が生成した内部平均値X
iをそれぞれ減算し、減算結果をすべて加算した演算結果u
iを乗算器52に出力する。
【数2】
【0045】
例えば、計測装置Aが計測装置A2の場合(
図2参照)、演算部51は、下記(3)式の演算を行い、演算結果u
2を出力する。
【数3】
【0046】
乗算器52は、演算部51から入力される演算結果u
iに所定の係数εを乗算して加算器53に出力する。係数εは、0<ε<1/d
maxを満たす値であり、あらかじめ設定されている。d
maxは、通信部7が通信を行う他の計測装置Aの数であるd
iのうち、発電所に設置された各インバータ装置に内蔵されているすべての計測装置Aの中で最大のものである。つまり、計測装置Aのなかで、一番多くの他の計測装置Aと通信を行っているものの通信部7に入力される内部平均値X
jの数である。なお、係数εは、内部平均値X
iの変動が大きくなりすぎることを抑制するために、演算結果u
iに乗算されるものである。したがって、平均値生成部5での処理が連続時間処理の場合は、乗算器52を設ける必要はない。
【0047】
加算器53は、乗算器52からの入力に変化量算出部4より入力される変化量ΔPを加算して、積分器54に出力する。有効電力Pが更新されていない間は変化量ΔPが「0」なので、乗算器52からの入力がそのまま積分器54に出力される。一方、有効電力Pが更新された時は、更新前後の有効電力Pの変化量ΔPが乗算器52からの入力に加算されて、積分器54に出力される。積分器54は、加算器53から入力される値を積分(すなわち、前回生成した内部平均値X
iに加算器53から入力される値を加算する)することで内部平均値X
iを生成して出力する。内部平均値X
iは、表示部6、通信部7および演算部51に出力される。
【0048】
本実施形態において、平均値生成部5は、生成した内部平均値X
iと、通信部7より入力される、他の計測装置Aの内部平均値X
jとを用いて、内部平均値X
iを生成する。内部平均値X
iが各内部平均値X
jの相加平均値より大きい場合、演算部51が出力する演算結果u
iは負の値になる。そうすると、積分器54から出力される内部平均値X
iは小さくなる。一方、内部平均値X
iが各内部平均値X
jの相加平均値より小さい場合、演算部51が出力する演算結果u
iは正の値になる。そうすると、積分器54から出力される内部平均値X
iは大きくなる。つまり、内部平均値X
iは各内部平均値X
jの相加平均値に近づいていく。この処理が各計測装置Aそれぞれで行われることにより、各計測装置Aの内部平均値X
iは同じ値Xαに収束する。内部平均値X
iが同じ値に収束することは、数学的にも証明されている(非特許文献1,2参照)。また、収束値Xαが、下記(4)式に示すように、各計測装置Aの内部平均値X
iの初期値の相加平均値になることも証明されている。nは発電所に設置されたインバータ装置の数(すなわち、計測装置Aの数)であり、下記(4)式は、計測装置A1〜Anの内部平均値X
1〜X
nの初期値をすべて加算してnで除算した相加平均値を算出することを示している。
【数4】
【0049】
初期値は、いずれかの計測装置Aの有効電力Pが更新された時に更新される。有効電力Pが更新された計測装置Aでは、加算器53で変化量ΔPが加算されることで、内部平均値X
iが更新された初期値になり、有効電力Pが更新されなかった計測装置Aでは、そのときの内部平均値X
iがそのまま初期値になる。なお、変化量算出部4が出力する変化量ΔPを加算器53で加算するのではなく、積分器54の出力に加算するようにしてもよい。
【0050】
図4は、有効電力Pの更新による初期値の更新と、初期値の相加平均値への収束を説明するための図である。
【0051】
図4においては、2つの計測装置A1およびA2の相加平均値を算出する場合について説明する。計測装置A1およびA2で計測された有効電力PをそれぞれP
1およびP
2とし、計測装置A1およびA2の平均値生成部5で生成された内部平均値をそれぞれX
1およびX
2として示している。また、P
1およびP
2の理論的な相加平均値をAveとして示している。P
1は、時刻t0からt1までが「40」で、時刻t1以降が「50」とし、P
2は、時刻t0からt2までが「20」で、時刻t2以降が「30」としている。理論的な相加平均値Aveは、時刻t0からt1までが「30」で、時刻t1からt2までが「35」で、時刻t2以降が「40」になっている。
【0052】
X
1およびX
2は、時刻t0においてそれぞれ「40」および「20」であるが、相加平均値「30」に収束する。その後、時刻t1でP
1が「40」から「50」に更新されるので、X
1が「10」増加されて「40」になり、X
2は「30」のままである。これらの値が初期値となって、X
1およびX
2は相加平均値「35」に収束する。次に、時刻t2でP
2が「20」から「30」に更新されるので、X
2が「10」増加されて「45」になり、X
1は「35」のままである。これらの値が初期値となって、X
1およびX
2は相加平均値「40」に収束する。
【0053】
以下に、
図2に示す各計測装置A1〜A5において、相加平均値が算出されることを確認するシミュレーションについて説明する。
【0054】
図5は、当該シミュレーションを説明するための図である。同図(a)は、各計測装置A1〜A5の有効電力算出部3が出力する有効電力P(すなわち、計測値)の時間変化を示している。各計測値は乱数を用いて1秒毎にランダムに変化させている。また、通信部7による通信周期は10ミリ秒としている。
【0055】
同図(b)は、各計測装置A1〜A5の平均値生成部5が出力する内部平均値X
iの時間変化を示している。実線Aveが計測値の理論的な相加平均値を示している。同図(b)に示すように、計測値の更新時には、各計測装置A1〜A5の内部平均値X
iが過渡的に変化するが、理論的な相加平均値に収束していることが確認できる。表示部6において、定常状態になってから(例えば、計測値の更新から0.5秒後など)、内部平均値X
iを表示するようにすれば、全体での相加平均値を表示することができる。
【0056】
本実施形態によると、発電所に設置された各インバータ装置に内蔵されている計測装置Aが、それぞれ少なくとも1つの計測装置A(例えば、近隣に位置するものや、通信が確立されたもの)と相互通信を行っており、各計測装置Aの通信状態が連結状態であることで、すべての計測装置Aの内部平均値X
iが収束値Xαに収束する。収束値Xαは、各計測装置Aの内部平均値X
iの初期値の相加平均値である。また、有効電力Pが更新された時にその変化量ΔPが内部平均値X
iに加算されることで初期値が更新される。したがって、内部平均値X
iは、各計測装置Aの有効電力Pの相加平均値になる。表示部6は、内部平均値X
iおよび合計値(n・X
i)を表示する。したがって、監視装置Eを参照しなくても、各計測装置Aで発電所全体での出力有効電力の合計値や相加平均値を知ることができる。
【0057】
なお、上記第1実施形態においては、各計測装置Aが相互通信を行う場合について説明したが、これに限られず、片側通信を行うようにしてもよい。例えば、
図6に示すように、計測装置A1が計測装置A5から受信のみを行って、計測装置A2に送信のみを行い、計測装置A2が計測装置A1から受信のみを行って、計測装置A3に送信のみを行い、計測装置A3が計測装置A2から受信のみを行って、計測装置A4に送信のみを行い、計測装置A4が計測装置A3から受信のみを行って、計測装置A5に送信のみを行い、計測装置A5が計測装置A4から受信のみを行って、計測装置A1に送信のみを行う場合でも、内部平均値X
iを相加平均値に収束させることができる。より一般的に言うと、ある計測装置Aから送信先をたどっていくと、任意の計測装置Aに到達することができる状態(グラフ理論における「全域木を含む」状態)であることが、内部平均値X
iを収束させるための条件であり、さらに、任意の計測装置Aから送信先をたどっていくと、任意の計測装置Aに到達することができる状態(グラフ理論における「強連結」状態)であり、すべての計測装置Aにおいて、送信先の計測装置Aの数と送信元の計測装置Aの数が等しい状態(グラフ理論における「平衡グラフ」状態)であることが内部平均値X
iを相加平均値に収束させるための条件である。
【0058】
上記第1実施形態においては、計測装置Aが平均値として相加平均値を算出する場合について説明したが、これに限られない。演算部51に設定する演算式によって、収束値Xαは変わってくる。演算式を変更することで、計測装置Aが、平均値として、加重平均値や、相乗平均値(幾何平均値)、調和平均値、P次平均値などを算出するようにしてもよい。なお、合計値を算出するためには、相加平均値を算出する必要がある。
【0059】
上記第1実施形態においては、平均値生成部5が内部平均値X
iを生成するタイミングについて言及していないが、各計測装置Aの平均値生成部5での内部平均値X
iの生成タイミングは一致させることが望ましい。
【0060】
図7および
図8は、内部平均値X
iの生成タイミングと内部平均値X
iの収束値との関係を説明するための図である。
【0061】
図7は、3つの計測装置A1〜A3の内部平均値X
iの生成タイミングを一致させた場合のシミュレーションを示している。
図7(a)は、各計測装置A1〜A3の通信タイミングおよび内部平均値X
iの生成タイミングを示している。計測装置A1〜A3の通信タイミングは一致しており、1秒間隔としている。また、計測装置A1〜A3の内部平均値X
iの生成タイミングも一致しており、10秒間隔としている。
図7(b)は、シミュレーション結果を示しており、各計測装置A1〜A3の内部平均値X
iの時間変化を示している。各計測装置A1〜A3の内部平均値X
iの初期値は、それぞれ「0」、「5」、「10」とし、乗算器52の係数εを「0.1」としている。
図7(b)に示すように、各計測装置A1〜A3の内部平均値X
iは、理論的な相加平均値である「5」に収束している。
【0062】
図8は、3つの計測装置A1〜A3の内部平均値X
iの生成タイミングをずらした場合のシミュレーションを示している。
図8(a)は、
図7(a)と同様、各計測装置A1〜A3の通信タイミングおよび内部平均値X
iの生成タイミングを示している。計測装置A1〜A3の通信タイミングは一致しており、1秒間隔としている。しかし、計測装置A1〜A3の内部平均値X
iの生成タイミングはいずれも10秒間隔としているが、各タイミングをずらしている。
図8(b)は、シミュレーション結果を示しており、各計測装置A1〜A3の内部平均値X
iの時間変化を示している。各計測装置A1〜A3の内部平均値X
iの初期値および係数εは、
図7の場合と同様である。
図8(b)に示すように、各計測装置A1〜A3の内部平均値X
iは、収束しているが、理論的な相加平均値からずれた「5.1」に収束している。
【0063】
つまり、各計測装置Aの平均値生成部5での内部平均値X
iの生成タイミングが一致しない場合、内部平均値X
iは収束するが、理論的な相加平均値に収束しない場合がある。したがって、内部平均値X
iを精度よく理論的な相加平均値に収束させるためには、各計測装置Aの平均値生成部5での内部平均値X
iの生成タイミングを一致させる必要がある。内部平均値X
iの生成タイミングを一致させる方法としては、例えば、GPS(Global Positioning System)の時刻情報を利用する方法がある。すなわち、GPSの時刻情報を用いて、同じタイミングで各計測装置Aの平均値生成部5が内部平均値X
iを生成するようにすればよい。また、生成タイミングのためのタイミング位相を各計測装置Aに生成させ、このタイミング位相を同じ位相に一致させる方法がある。
【0064】
図9は、第2実施形態に係る計測装置Aを説明するための図である。同図において、第1実施形態に係る計測装置A(
図1参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。第2実施形態に係る計測装置Aは、タイミング位相生成部8およびタイミング生成部9をさらに備えている点と、通信部7が内部平均値X
iに加えてタイミング位相θ
iの送受信も行う点で、第1実施形態に係る計測装置Aと異なる。
【0065】
タイミング位相生成部8は、平均値生成部5での内部平均値X
iの生成タイミングを指示するためのタイミング位相θ
iを生成するものである。タイミング位相生成部8は、生成したタイミング位相θ
iを通信部7およびタイミング生成部9に出力する。タイミング位相生成部8は、生成したタイミング位相θ
iと、通信部7より入力される、他の計測装置Aのタイミング位相θ
jとを用いて、タイミング位相θ
iを生成する。タイミング位相θ
iとタイミング位相θ
jとが異なっていても、タイミング位相生成部8での演算処理が繰り返されることで、タイミング位相θ
iとタイミング位相θ
jとが共通のタイミング位相に収束する。
図9に示すように、タイミング位相生成部8は、演算部81、乗算器82、加算器83および積分器84を備えている。
【0066】
演算部81は、下記(5)式に基づく演算を行う。すなわち、演算部81は、通信部7から入力される各タイミング位相θ
jから、タイミング位相生成部8が生成したタイミング位相θ
iをそれぞれ減算し、減算結果をすべて加算した演算結果u’
iを乗算器82に出力する。
【数5】
【0067】
乗算器82は、演算部81から入力される演算結果u’
iに所定の係数ε’を乗算して加算器83に出力する。係数ε’は、0<ε’<1/d
maxを満たす値であり、あらかじめ設定されている。なお、係数ε’は、修正角周波数ω
iが大きく(小さく)なりすぎて、タイミング位相θ
iの変動が大きくなりすぎることを抑制するために、演算結果u’
iに乗算されるものである。したがって、タイミング位相生成部8での処理が連続時間処理の場合は、乗算器82を設ける必要はない。
【0068】
加算器83は、乗算器82からの入力を所定の角周波数ω
0に加算して、修正角周波数ω
iとして積分器84に出力する。角周波数ω
0は、タイミング周波数に対応するものである。積分器84は、加算器83から入力される修正角周波数ω
iを積分することでタイミング位相θ
iを生成して出力する。積分器84は、前回生成したタイミング位相θ
iに修正角周波数ω
iを加算することでタイミング位相θ
iを生成する。また、積分器84は、タイミング位相θ
iを(−π<θ
i≦π)の範囲の値として出力する。なお、タイミング位相θ
iの範囲の設定の仕方はこれに限定されず、例えば、(0≦θ
i<2π)としてもよい。タイミング位相θ
iは、タイミング生成部9、通信部7および演算部81に出力される。
【0069】
第2実施形態において、タイミング位相生成部8は、生成したタイミング位相θ
iと、通信部7より入力される、他の計測装置Aのタイミング位相θ
jとを用いて、タイミング位相θ
iを生成する。タイミング位相θ
iが各タイミング位相θ
jの相加平均値より大きい場合、演算部81が出力する演算結果u’
iは負の値になる。そうすると、修正角周波数ω
iは所定の角周波数ω
0より小さくなり、タイミング位相θ
iの変化量は小さくなる。一方、タイミング位相θ
iが各タイミング位相θ
jの相加平均値より小さい場合、演算部81が出力する演算結果u’
iは正の値になる。そうすると、修正角周波数ω
iは所定の角周波数ω
0より大きくなり、タイミング位相θ
iの変化量は大きくなる。つまり、タイミング位相θ
iは各タイミング位相θ
jの相加平均値に近づいていく。この処理が各計測装置Aそれぞれで行われることにより、各計測装置Aのタイミング位相θ
iは同じ値に収束する。タイミング位相θ
iは時間とともに変化するものであり、角周波数ω
0に応じて変化する成分と、初期位相のずれを補償するように変化する成分とを合成したものと考えることができる。後者が同じ値θαに収束することで、各計測装置Aのタイミング位相θ
iも同じ値に収束する。後者が同じ値θαに収束することは、数学的にも証明されている(非特許文献1,2参照)。また、収束値θαが、下記(6)式に示すように、各計測装置Aのタイミング位相θ
iの初期値の相加平均値になることも証明されている。nは発電所に設置されたインバータ装置の数(すなわち、計測装置Aの数)であり、下記(6)式は、計測装置A1〜Anのタイミング位相θ
1〜θ
nの初期値をすべて加算してnで除算した相加平均値を算出することを示している。
【数6】
【0070】
なお、第2実施形態においては、タイミング位相生成部8での処理の周期Tが1秒である場合について説明している。周期Tが例えば0.1秒の場合、加算器83で乗算器82からの入力を加算されるのは、角周波数ω
0を1/10にした(0.1を掛けた)値になる。つまり、ω
0に代えてTω
0が入力される。
【0071】
タイミング生成部9は、平均値生成部5に内部平均値X
iの生成タイミングを指示するタイミング信号を出力するものである。タイミング生成部9は、タイミング位相生成部8より入力されるタイミング位相θ
iに基づいて、タイミング信号を出力する。具体的には、タイミング位相θ
iが「0」になるタイミングでタイミング信号を出力する。なお、タイミング信号を出力するタイミングは「0」に限定されない。また、タイミング位相θ
iが「0」になった回数が予定の回数になったタイミングでタイミング信号を出力するようにしてもよい。
【0072】
第2実施形態によると、各計測装置Aはそれぞれ少なくとも1つの計測装置Aと相互通信を行っており、各計測装置Aの通信状態が連結状態なので、すべての計測装置Aのタイミング位相θ
iが同じ値に収束する。したがって、各計測装置Aは、平均値生成部5での内部平均値X
iの生成タイミングを一致させることができる。これにより、各計測装置Aは、内部平均値X
iを精度よく理論的な相加平均値に収束させることができる。
【0073】
なお、第2実施形態においては、計測装置Aのタイミング位相θ
iの初期位相のずれを補償するように変化する成分を、各計測装置Aのタイミング位相θ
iの初期値の相加平均値に収束させる場合について説明したが、これに限られない。演算部81に設定する演算式によって、収束値θαは変わってくる。
【0074】
例えば、演算部81に設定する演算式を下記(7)式とした場合、収束値θαは下記(8)式に示すような値になる。d
iは、通信部7が通信を行う他の計測装置Aの数、すなわち、通信部7に入力されるタイミング位相θ
jの数である。つまり、収束値θαは、通信相手の数による重み付けを行った、各計測装置Aのタイミング位相θ
iの初期値の加重平均値である。
【数7】
【0075】
また、演算部81に設定する演算式を下記(9)式とした場合、収束値θαは下記(10)式に示すように、各計測装置Aのタイミング位相θ
iの初期値の相乗平均値(幾何平均値)になる。
【数8】
【0076】
また、演算部81に設定する演算式を下記(11)式とした場合、収束値θαは下記(12)式に示すように、各計測装置Aのタイミング位相θ
iの初期値の調和平均値になる。
【数9】
【0077】
また、演算部81に設定する演算式を下記(13)式とした場合、収束値θαは下記(14)式に示すように、各計測装置Aのタイミング位相θ
iの初期値のP次平均値になる。
【数10】
【0078】
上記第1および第2実施形態においては、計測装置Aが出力有効電力の相加平均値を算出する場合について説明したが、これに限られない。例えば、有効電力算出部3で有効電力を算出する代わりに無効電力を算出するようにすれば、計測装置Aを、出力無効電力の相加平均値を算出できる無効電力計測装置として機能させることができる。また、インバータ回路Cの出力電圧や出力電流を計測して、これらの相加平均値を算出するようにしてもよいし、インバータ回路Cに接続された太陽電池からの入力電力、入力電圧、入力電流を計測して、これらの相加平均値を算出するようにしてもよい。また、電圧信号から電圧位相や周波数を検出して、これらの相加平均値を算出するようにしてもよい。また、太陽電池への日射強度や日射量、太陽電池の温度などを計測して、これらの相加平均値を算出するようにしてもよい。さらに、これらの計測値のうちのいくつか、あるいはすべての相加平均値をそれぞれ算出するようにしてもよい。
【0079】
上記第1および第2実施形態においては、計測装置Aが太陽光発電所に設置されて太陽電池に接続されるインバータ装置に内蔵される場合について説明したが、これに限られない。例えば、風力発電所に設置されるインバータ装置に内蔵される計測装置にも、本発明を適用することができる。この場合、風速や風量を計測してその相加平均値を算出するようにしてもよい。また、電力系統の配電線や送電線、各家庭や建物のコンセントに配置されて、電気的情報(電圧、電流、電力など)を計測する計測装置にも、本発明を適用することができる。また、燃料電池、蓄電池、ディーゼルエンジン発電機、マイクロガスタービン発電機などの出力の電気的情報を計測する計測装置にも、本発明を適用することができる。
【0080】
また、電気的情報以外の情報(例えば、前述の温度、日射強度、日射量、風速、風量のほか、気圧、流量、重量などでも)を計測する計測装置にも、本発明を適用することができる。計測装置Aを温度計測装置として機能させる場合を、第3実施形態として、以下に説明する。
【0081】
図10は、第3実施形態に係る計測装置(温度計測装置)A’を説明するための図である。同図において、第1実施形態に係る計測装置A(
図1参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。第3実施形態に係る温度計測装置A’は、電圧センサ1、電流センサ2および有効電力算出部3に代えて温度センサ1’を備えている点で、第1実施形態に係る計測装置Aと異なる。
【0082】
温度センサ1’は、配置位置の温度Tを検出するものであり、例えばサーミスタや熱電対を利用したものである。検出された温度Tは、変化量算出部4および表示部6に出力される。変化量算出部4は、温度センサ1’より入力される温度Tの変化量ΔTを算出して平均値生成部5に出力する。平均値生成部5は、内部平均値X
iを生成し、通信部7を介して他の温度計測装置A’と送受信を行う。
【0083】
第3実施形態においても、各温度計測装置A’がそれぞれ少なくとも1つの温度計測装置A’と相互通信を行っており、各温度計測装置A’の通信状態が連結状態であれば、すべての温度計測装置A’の内部平均値X
iを理論的な相加平均値に収束させることができる。したがって、各温度計測装置A’が計測した温度の相加平均値を表示部6に表示することができる。第3実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0084】
第1〜3実施形態に示す計測装置A(A’)を利用して、異常を検出することができる。例えば、太陽光発電所などにおいて、設置されているインバータ装置が同じ規格であり、それぞれ接続される太陽電池アレイも同じ規格であれば、各インバータ装置の出力有効電力はほぼ同じ値になるはずである。したがって、計測装置Aが計測した有効電力Pと、平均値生成部5が生成した内部平均値X
iとが大きく異なる場合、当該インバータ装置またはこれに接続される太陽電池アレイに異常があると判断することができる。
【0085】
図11は、第4実施形態に係る異常検出装置Dを説明するための図である。同図において、第1実施形態に係る計測装置A(
図1参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。第4実施形態に係る異常検出装置Dは、比較部10および報知部11をさらに備えている点で、第1実施形態に係る計測装置Aと異なる。
【0086】
比較部10は、有効電力算出部3より入力される有効電力Pと、平均値生成部5より入力される内部平均値X
iとを比較して、両者の差が所定のしきい値以上の場合(|P−X
i|≧しきい値)に、異常があると判断し、異常検出信号を報知部11に出力する。なお、両者の差が所定のしきい値以上である状態が所定時間継続した場合に、異常があると判断するようにしてもよい。また、有効電力Pが内部平均値X
iよりしきい値以上に大きい場合(P−X
i≧しきい値)にのみ異常と判断するようにしてもよいし、内部平均値X
iが有効電力Pよりしきい値以上に大きい場合(X
i−P≧しきい値)にのみ異常と判断するようにしてもよい。
【0087】
報知部11は、比較部10より異常検出信号が入力された場合に、例えばブザー音やランプの点灯などで、異常が発生していることを報知する。なお、表示部6に異常が発生していることを示す表示を行うようにしてもよい。また、異常検出信号を監視装置E(
図13参照)に出力して、異常が発生していること、および、異常が発生しているインバータ装置を、監視装置Eで表示するようにしてもよい。
【0088】
また、異常を報知するだけでなく、インバータ回路Cの運転を停止させるようにしてもよい。また、2つのしきい値を設定しておき、有効電力Pと内部平均値X
iとの差が、小さい方のしきい値を超えた場合に異常であることを報知(故障の予測)し、大きい方のしきい値を超えた場合にインバータ回路Cの運転を停止させる(故障と判断)ようにしてもよい。また、しきい値をさらに段階的に設定して、異常の度合いを段階的に報知するようにしてもよい。
【0089】
また、異常検出装置Dを、太陽電池(太陽電池アレイ)からインバータ回路Cに入力される入力電圧や入力電力を計測するようにすれば、太陽電池(太陽電池アレイ)の異常を検出することができる。
【0090】
次に、太陽電池アレイの中の太陽電池モジュール毎の異常を検出するための異常検出装置について、第5実施形態として以下に説明する。
【0091】
図12は、第5実施形態に係る異常検出装置D’を説明するための図である。同図において、第3実施形態に係る温度計測装置A’(
図10参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。第5実施形態に係る異常検出装置D’は、比較部10および報知部11をさらに備えている点で、第3実施形態に係る温度計測装置A’と異なる。比較部10および報知部11は、第4実施形態に係る比較部10および報知部11と同様のものである。
【0092】
異常検出装置D’を、太陽電池アレイの各太陽電池モジュールに取り付けて、温度センサ1’でパネル温度を測定することで、太陽電池アレイのどの太陽電池モジュールに異常があるかを検出することができる。すなわち、各太陽電池モジュールに取り付けられた異常検出装置D’が通信を行うことで、平均値生成部5で生成される内部平均値X
iが各太陽電池モジュールのパネル温度の相加平均値に収束する。ある太陽電池モジュールに異常があればパネル温度が上昇(または下降)するので、これに取り付けられた異常検出装置D’で検出された温度Tと内部平均値X
iとに差が生じ、異常が検出される。なお、太陽電池モジュール毎に取り付けるのではなく、太陽電池セル毎(または、いくつかのセルの集合毎)に取り付けるようにしてもよい。また、温度で異常を検出する場合に限定されず、各太陽電池モジュールの出力電力や、出力電圧、出力電流を検出して異常を検出するようにしてもよい。
【0093】
本発明に係る計測装置、異常検出装置、算出方法、および、異常検出方法は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る計測装置、異常検出装置、算出方法、および、異常検出方法の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。