特許第6294107号(P6294107)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6294107多孔性光触媒体の製造方法および多孔性光触媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294107
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】多孔性光触媒体の製造方法および多孔性光触媒体
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/02 20060101AFI20180305BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20180305BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20180305BHJP
   B01J 21/08 20060101ALI20180305BHJP
   A61L 9/00 20060101ALI20180305BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20180305BHJP
   A61L 2/16 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   B01J37/02 301P
   B01J35/02 J
   B01J35/10
   B01J21/08 M
   A61L9/00 C
   A61L9/01 B
   A61L2/16
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-44894(P2014-44894)
(22)【出願日】2014年3月7日
(65)【公開番号】特開2015-167916(P2015-167916A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2016年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(73)【特許権者】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(72)【発明者】
【氏名】俵山 博匡
(72)【発明者】
【氏名】細谷 俊史
(72)【発明者】
【氏名】落合 剛
(72)【発明者】
【氏名】田子 祥子
(72)【発明者】
【氏名】藤嶋 昭
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/004756(WO,A1)
【文献】 特開2005−161242(JP,A)
【文献】 特公昭47−005274(JP,B1)
【文献】 特開平09−075748(JP,A)
【文献】 国際公開第96/013327(WO,A1)
【文献】 特開2009−007219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00−38/74
C23C16/00−16/56
A61L2/00−2/28,11/00−12/14
A61L9/00−9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロッドを準備する工程と、
ケイ素を含む第1原料ガスおよびチタンを含む第2原料ガスを供給し、CVD法を用いて、前記ロッドの周囲に酸化チタンの結晶相を含む粒子が存在する多孔性の堆積層を形成する工程と、
前記堆積層から前記ロッドを引き抜く工程と、を備える多孔性光触媒体の製造方法。
【請求項2】
前記堆積層を形成する工程は、
前記第1原料ガスを供給して、二酸化ケイ素粒子が存在する担体層を形成する工程と、
前記第2原料ガスを供給して、前記酸化チタンの結晶相を含む粒子が存在する光触媒層を形成する工程と、を含む請求項1に記載の多孔性光触媒体の製造方法。
【請求項3】
前記光触媒層を形成する工程において、さらに前記第1原料ガスを供給する、請求項2に記載の多孔性光触媒体の製造方法。
【請求項4】
前記光触媒層の厚みは1μm以上10μm以下である、請求項2または請求項3に記載の多孔性光触媒体の製造方法。
【請求項5】
酸化チタンの結晶相を含む粒子が存在する堆積層を備え、
前記堆積層の平均気孔率は35%以上70%以下であり、
前記堆積層の気孔の平均孔径は200nm以上500nm以下であり
前記堆積層は、二酸化ケイ素を含む、
管状の多孔性光触媒体。
【請求項6】
前記堆積層は、二酸化ケイ素粒子が存在する担体層と前記酸化チタンの結晶相を含む粒子が存在する光触媒層とを含む、
請求項5に記載の管状の多孔性光触媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性光触媒体の製造方法および多孔性光触媒体に関し、特に、CVD法を用いた多孔性光触媒体の製造方法およびこれにより製造される多孔性光触媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題への関心の高まりにより、水、空気、土壌などの浄化に関する技術が注目されている。このような浄化に利用可能な物質として、酸化チタンがある。酸化チタンは、紫外線等の励起光が照射されることによって高い酸化力を発揮することのできる光触媒であり、この酸化力を利用することにより、様々な有機物の分解が可能となる。このため、現在、酸化チタンを利用した浄化装置の開発が進められている。
【0003】
たとえば、実開平6−19859号公報(特許文献1)には、筒部材内に酸化チタンを含む抗菌物質を充填させた携帯用浄水器が開示されている。また、特開平11−290656号公報(特許文献2)には、酸化チタンを用いた脱臭フィルターが開示されている。また、特開2004−41275号公報(特許文献3)には、酸化チタンを含有する耐水性光触媒シートを用いた耐水性脱臭フィルターが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平6−19859号公報
【特許文献2】特開平11−290656号公報
【特許文献3】特開2004−41275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術の携帯用浄水器、脱臭フィルターおよび耐水性脱臭フィルターは、浄化の対象である被処理体に対し菌の除去効果を示すとともにウイルスを不活性化させ得るまでには、酸化チタンの高い酸化力を利用できるように構成されていない。
【0006】
本発明は、上記のような現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、酸化チタンを利用して、菌の除去およびウイルスの不活性化の両方を可能とする多孔性光触媒体の製造方法および多孔性光触媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、ロッドを準備する工程と、ケイ素を含む第1原料ガスおよびチタンを含む第2原料ガスを供給し、CVD法を用いて、ロッドの周囲に酸化チタンの結晶相を含む粒子が存在する多孔性の堆積層を形成する工程と、堆積層からロッドを引き抜く工程と、を備える多孔性光触媒体の製造方法である。
【0008】
本発明の第2の態様は、上記多孔性光触媒体の製造方法により製造される多孔性光触媒体であって、酸化チタンの結晶相を含む粒子が存在する堆積層を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、菌の除去およびウイルスの不活性化の両方を可能とする多孔性光触媒体の製造方法およびこれにより製造される多孔性光触媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態におけるロッドを準備する工程を説明するための概略的な断面図である。
図2】第1の実施形態における堆積層を形成する工程を説明するための概略的な断面図である。
図3】堆積層を形成する工程の他の実施形態を説明するための概略的な断面図である。
図4】第1の実施形態における堆積層からロッドを引き抜く工程を説明するための概略的な断面図である。
図5】第2の実施形態における堆積層を形成する工程を説明するための概略的な断面図である。
図6】第2の実施形態における多孔性光触媒体の概略的な斜視図である。
図7】第3の実施形態における堆積層の積層構造を説明するための概略的な断面図である。
図8】光触媒フィルターとして、多孔性光触媒体を備える浄化ユニットの構成を説明するための概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施形態の概要について説明する。
【0012】
(1)本実施形態に係る多孔性光触媒体の製造方法は、ロッドを準備する工程と、ケイ素を含む第1原料ガスおよびチタンを含む第2原料ガスを供給し、CVD法を用いて、ロッドの周囲に酸化チタンの結晶相を含む粒子が存在する多孔性の堆積層を形成する工程と、堆積層からロッドを引き抜く工程と、を備える。
【0013】
本実施形態に係る多孔性光触媒体の製造方法によれば、酸化チタンの結晶相を含む粒子が存在する堆積層を備える、管状の多孔性光触媒体を容易に製造することができる。また、CVD法によって形成される堆積層は各粒子が相互にランダムに接合して構成される多孔性であって、その内部には複雑な形状を有する多くの微細孔が存在する。すなわち、堆積層は、フィルター機能と酸化チタンによる光触媒機能とを有することができるため、フィルター機能により細菌を除去するだけでなく、酸化チタンの光触媒機能によりウイルスを不活性化することができる。したがって、当該製造方法によれば、菌の除去およびウイルスの不活性化の両方を可能とする多孔性光触媒体の製造方法を提供することができる。
【0014】
(2)上記製造方法において好ましくは、第1原料ガスを供給して、二酸化ケイ素粒子が存在する担体層を形成する工程と、第2原料ガスを供給して、酸化チタンの結晶相を含む粒子が存在する光触媒層を形成する工程とを含む。担体層は、フィルター機能を有するとともに高い機械的強度を有することができ、光触媒層は、フィルター機能を有するとともに光触媒機能を有することができる。したがって、各層を備える多孔性光触媒体は、高い光触媒機能を有するとともに、より高い機械的強度(以下、「強度」ともいう。)を有することができる。
【0015】
(3)上記製造方法において好ましくは、光触媒層を形成する工程において、さらに第1原料ガスを供給する。これにより、担体層への光触媒層の付着強度を高めることができる。
【0016】
(4)上記製造方法において好ましくは、光触媒層の厚みは1μm以上10μm以下である。これにより、多孔性光触媒体は、より高い光触媒機能とより高い担体層への光触媒層の付着強度とを両立することができる。
【0017】
(5)また、本実施形態に係る多孔性光触媒体は、上記多孔性光触媒体の製造方法により製造される多孔性光触媒体であって、酸化チタンの結晶相を含む粒子が存在する堆積層を備える。
【0018】
本実施形態に係る多孔性光触媒体によれば、フィルター機能と光触媒機能とを有することができる。したがって、本実施形態に係る多孔性光触媒体によれば、被処理体に対する菌の除去およびウイルスの不活性化の両方が可能となる。
【0019】
(6)上記多孔性光触媒体において、堆積層の平均気孔率が35%以上70%以下であることが好ましい。これにより、菌に対する高いフィルター機能を発揮するとともに、実用的な機械強度を有することができる。
【0020】
[本願発明の実施形態の詳細]
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳細に説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰り返さない。
【0021】
なお、本明細書において、「CVD法」は外付けCVD(chemical vapor deposition)法を意味し、合成しようとする酸水素火炎中に酸化物の前駆体となる原料を酸水素火炎中に供給し、加水分解反応あるいは酸化反応によって生成した酸化物粒子をマンドレル(ロッド)上に堆積させる方法である。また、製造される多孔性光触媒体は管状体であり、該管状体を構成する堆積層は、複数の粒子が相互に接合することによって構成される多孔性の構造を有する。
【0022】
また、「結晶相」とは、原子、分子、イオンなどが規則正しく立体的に配列されている固体物質からなる相を意味し、「非晶質相」とは、原子、分子、イオンなどの配列に規則性が認められない固体物質からなる相を意味する。
【0023】
また、「多孔性」とは、被処理体(液体または気体)が通過し得る多数の孔を備える状態を意味する。
【0024】
また、「気孔」とは、堆積層を構成する粒子間の空隙を意味する。したがって、堆積層が有する気孔は、1つの部材を穿って形成される貫通孔のような単純な形状を有するものではなく、堆積層内を複雑な経路を経て貫通する形状、貫通しない形状などが含まれる。
【0025】
また、「平均気孔率」とは、堆積層の全体に対する気孔の占める割合であり、
「平均孔径」とは、堆積層が有する気孔の孔径(直径)の平均値である。堆積層の平均気孔率および平均孔径は、市販の細孔分布測定装置を用いて水銀圧入法により測定することができる。
【0026】
≪第1の実施形態≫
以下、第1の実施形態に係る多孔性光触媒体の製造方法およびこれにより製造される多孔性光触媒体について詳述する。本実施形態においては、多孔性光触媒体が備える堆積層が、二酸化ケイ素および酸化チタンの分子間化合物からなる非晶質相と、酸化チタンの結晶相とを含む粒子によって形成されている場合について説明する。なお、二酸化ケイ素および酸化チタンを成分とする非晶質相とは、二酸化ケイ素と酸化チタンとが混在した非晶質相を意味する。
【0027】
<多孔性光触媒体の製造方法>
本実施形態に係る多孔性光触媒体の製造方法は、ロッドを準備する工程(準備工程)と、ケイ素を含む第1原料ガスおよびチタンを含む第2原料ガスを供給し、CVD法を用いて、ロッドの周囲に酸化チタンの結晶相を含む粒子からなる多孔性の堆積層を形成する工程(形成工程)と、堆積層からロッドを引き抜く工程(引抜工程)とを備える。より具体的には、本実施形態における形成工程では、ケイ素を含む第1原料ガスおよびチタンを含む第2原料ガスを同時に供給することにより、二酸化ケイ素および酸化チタンの分子間化合物からなる非晶質相と、酸化チタンの結晶相とを含む粒子により構成される堆積層が形成される。以下、各工程について詳述する。
【0028】
(準備工程)
図1を参照し、本準備工程において、ロッド10が準備される。該ロッド10は、後述するCVD法において粒子を堆積させる基体として機能する。
【0029】
図1において、ロッド10は円柱形状を有しており、その両端は半球形状を有しているが、ロッド10の形状はこれに限定されない。ただし、後述する引抜工程において、堆積層とロッド10との分離を容易とする観点からは、円柱形状が好ましい。また、ロッド10は、その長手方向に関し、一端から多端に向かうに連れて断面面積が連続的に小さくなるテーパ形状を有していてもよい。この場合、引抜工程におけるロッド10の引き抜きがさらに容易となる。ロッド10の長手方向における形状をテーパ形状とする場合には、その外径傾斜率を0.2/1000mm以上2.0mm/1000mm以下とすることが好ましい。
【0030】
ロッド10の材料は制限されず、後述するCVD法による環境に耐え得る材料であればよく、たとえば、アルミナ、ガラス、窒化ケイ素、カーボン、耐火性セラミックスを用いることができる。なかでも、引き抜き易さの観点から、酸化ケイ素および酸化チタンといった酸化物との親和性(接着性)の低い材料が好ましい。このような材料として、窒化ケイ素、カーボンなどの非酸化物を挙げることができる。また、ロッド10の表面に、非酸化物を含む層を設けた構成であってもよい。
【0031】
(形成工程)
図2を参照し、本形成工程において、ケイ素を含む第1原料ガスおよびチタンを含む第2原料ガスを供給し、CVD法を用いて、ロッド10の周囲に酸化チタンの結晶相を含む粒子からなる多孔性の堆積層11を形成する。
【0032】
具体的には、まず、ロッド10がCVD装置のマッフル内(不図示)に配置される。マッフル内において、ロッド10はその長手方向が鉛直となるように配置される。なお、その長手方向を鉛直方向に直行するように配置してもよい。
【0033】
次に、その中心軸を中心として一定速度で回転するロッド10の表面に対し、ケイ素を含む第1原料ガスおよびチタンを含む第2原料ガスを、CVD装置が備える酸水素バーナー12に同時に供給する。供給された各ガスは、酸水素火炎中で化学反応し、これにより生成された粒子、すなわち、二酸化ケイ素および酸化チタンの分子間化合物からなる非晶質相と、酸化チタンの結晶相とを含む粒子がロッド10の周囲に堆積する。このとき、酸水素バーナー12は領域A内において図中上下方向に往復移動(以下、「トラバース」ともいう。)を繰り返している。なお、領域Aは、堆積層11を形成させる対象領域である。このため、上記粒子は、図2に示すように、領域A内に位置するロッド10の外周全体に堆積する。
【0034】
以上により、二酸化ケイ素および酸化チタンの分子間化合物からなる非晶質相と、酸化チタンの結晶相とを含む粒子からなる堆積層11が形成される。この堆積層11内において、隣接する各粒子間でのランダムな接合によって堆積層11の強度が維持され、その形状が保たれる。
【0035】
本工程において、第1原料ガスは、SiCl4、Si(OC254、C8244Si4などのケイ素系ガスを含み、第2原料ガスは、TiCl4、Ti(OC254などのチタン系ガスを含む。ただし、本明細書において、第1原料ガスにTiは含まれず、第2原料ガスにSiは含まれない。
【0036】
また、本工程において、第1原料ガスおよび第2原料ガスのそれぞれの供給量を制御することにより、堆積層11内における二酸化ケイ素および酸化チタンの分子間化合物からなる非晶質相と、酸化チタンの結晶相との含有割合を適宜変化させることができ、これによって所望の特性を有する堆積層11を得ることができる。特に、堆積層11中における酸化チタン(TiO2)のモル分率を0.25以上0.40以下にすることが好ましい。この場合、堆積層11中に含まれる酸化チタンの結晶相の割合を最適とすることができ、高い光触媒性能と高い機械強度を両立した多孔性光触媒体を得ることができる。
【0037】
堆積層11中における酸化チタンのモル分率が0.25未満の場合、堆積層11を形成する粒子中の酸化チタンの結晶相の含有割合が低くなり、堆積層11が十分な光触媒機能を有さない場合がある。また、上記モル分率が0.40を超える場合には、堆積層11を構成する粒子中における上記非晶質相の割合が低くなるために、粒子間の焼結が進行せず、堆積層11が十分な強度を有さない場合がある。
【0038】
また、本工程において、トラバース速度は50mm/min以上500mm/min以下であることが好ましい。トラバース速度が50mm/min未満の場合、堆積層11を加熱する時間が長くなることによってロッド10と堆積層11が反応しやすくなる傾向があり、トラバース速度が500mm/minを超える場合、堆積層11の外径変動が大きくなる傾向がある。また、トラバース速度をこのように制御することにより、ロッド10の端部(図2中下に位置する端部)の半球面にまで粒子が十分に回り込むことができるため、一端が閉塞された管状の堆積層11を容易に形成させることができる。なお、図3に示すように、両端が解放された管状の堆積層21を製造する場合には、酸水素バーナー12がトラバースする領域を領域Bに変更すればよい。
【0039】
また、酸水素バーナー12がロッド10の長手方向に対してトラバースする毎に、各原料ガスの供給量を変化させてもよい。これにより、堆積層11の厚み方向において、二酸化ケイ素および酸化チタンの分子間化合物からなる非晶質相と、酸化チタンの結晶相との含有割合を所望に変化させることができる。ここで、「トラバースする毎」とは、他端側へ移動する1回の動作毎を意味している。すなわち、酸水素バーナー12がロッド10の長手方向に対して領域Aの一端側から他端側へ移動する動作が「1回のトラバース」となる。なお、酸水素バーナー12を固定し、ロッド10を相対的に往復移動させてもよいことはいうまでもない。
【0040】
また、本工程において、酸水素火炎中で生成された粒子をロッド10に堆積させる温度(堆積温度)は1000℃以上であることが好ましい。1000℃未満の場合、堆積する粒子が十分に焼結されない場合がある。十分に焼結されなかった粒子からなる堆積層11は強度が低い傾向にある。また、堆積温度は1700℃以下であることが好ましい。1700℃を超える場合、後述する引抜工程において、ロッド10からの堆積層11の引き抜きが困難になる傾向がある。これは、ロッド10と堆積層11とが融着するために、ロッド10と堆積層11との間の摩擦力が高くなるためと考えられる。なお、堆積温度は酸水素バーナー12に供給する酸素ガスおよび水素ガスの流量などを変化させることによって調節することができる。
【0041】
(表層部焼結工程)
また、本実施形態において、形成工程により堆積層11を形成した後に、さらに堆積層11の表層部を加熱して焼結させる工程(表層部焼結工程)を行い、堆積層11の表層部近傍の強度を向上させることができる。堆積層11の表層部は内部と比較して気孔率が高く、強度が低くなる傾向があるためである。また、形成工程の間、たとえば、トラバース毎に表層部焼結工程を行ってもよく、形成工程と同時に表層部焼結工程を行ってもよい。なお、表層部焼結工程の熱源としては、酸水素バーナー12を用いることができるが、この場合、原料ガスは供給せず、酸水素火炎のみで堆積層11をトラバースしながら加熱する。
【0042】
表層部焼結工程における堆積層11の加熱温度は、酸水素バーナー12のトラバース速度にもよるが、1200℃以上1700℃以下であることが好ましい。1200℃未満の場合、目的とする表層部の焼結が不十分となる傾向があり、この場合、強度の向上を図り難くなる。1700℃を超える場合、過度に焼結が進行し、表層部の気孔率が極端に低下する傾向がある。
【0043】
また、表層部焼結工程における酸水素バーナー12のトラバース速度は、50mm/分以上500mm/分以下であることが好ましい。500mm/分を超える場合、目的とする表層部の焼結が不十分となる傾向があり、50mm/分未満の場合、過度の焼結が進行し、表層部の気孔率が極端に低下する傾向がある。また、トラバース速度が低くなるほど、光触媒機能が低下する傾向がある。本発明者らはこの理由を次のように推察する。
【0044】
すなわち、酸化チタン粒子には、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタンなどの種々の結晶相があり、中でも、アナターゼ型酸化チタンが高い光触媒機能を有する。堆積層11に含まれる酸化チタン粒子においても、種々の結晶相が含まれ得るが、堆積層11の長手方向の任意の位置における加熱時間が長くなるほど、酸化チタン粒子中のアナターゼ型酸化チタンがルチル型酸化チタンに相転位してしまい、結果的に、堆積層11の光触媒機能が低下する。
【0045】
特に、上記のような表層部に対する表層部焼結工程における加熱温度を1200℃以上1550℃以下、トラバース速度を200mm/分以上300mm/分以下とすることが好ましい。これにより、堆積層11の表層部の強度をさらに向上させることができる。
【0046】
(引抜工程)
図4を参照し、本引抜工程において、堆積層11からロッド10が引き抜かれる。これにより、堆積層11とロッド10とが分離され、管状の堆積層11からなる多孔性光触媒体を得ることができる。
【0047】
以上詳述した多孔性光触媒体の製造方法により、容易に、二酸化ケイ素および酸化チタンの分子間化合物からなる非晶質相と、酸化チタンの結晶相とを含む粒子が存在する堆積層11を備える多孔性光触媒体を製造することができる。堆積層11は、フィルター機能と酸化チタンによる光触媒機能とを有することができるため、フィルター機能により細菌を除去するだけでなく、酸化チタンの光触媒機能によりウイルスを不活性化することができる。したがって、当該製造方法によれば、菌の除去およびウイルスの不活性化の両方を可能とする多孔性光触媒体の製造方法を提供することができる。また、CVD法によって堆積された粒子は極めて小さい粒径を有するため、堆積層11内の酸化チタンは従来と比して高い表面積比を有することができる。換言すれば、従来と比して、単位体積における酸化チタンと被処理体との接触の程度が高められる。したがって、本実施形態に係る製造方法によれば、従来と比して高い光触媒機能を発揮可能な多孔性光触媒体を製造することができる。
【0048】
<多孔性光触媒体>
上記製造方法により製造された多孔性光触媒体に関し、酸化チタンの結晶相を含む粒子が存在する堆積層11は、フィルター機能と光触媒機能との両機能を有することができるため、従来と比して簡素な構成であるにも関わらず、フィルター機能により細菌を除去するだけでなく、酸化チタンの光触媒機能によりウイルスを不活性化することができる。また、上述のように、堆積層11内の酸化チタン粒子は従来と比して高い表面積比を有することができるため、たとえば、従来と比してさらなる小型化も可能となる。
【0049】
上記多孔性光触媒体において、堆積層11の平均気孔率は35%以上70%以下であることが好ましい。上述のように、このような堆積層11は、気孔の平均孔径が200nm以上500nm以下となる傾向にあるため、被処理体である水に対する高い透過性を有するとするとともに、細菌に対する高い捕捉性を有することができる。したがって、たとえば、細菌を含む汚水等の浄化を行う際に、特に効果的なフィルター機能を有することができる。
【0050】
また、上記多孔性光触媒体において、酸化チタン粒子はアナターゼ型酸化チタンまたはルチル型酸化チタンの少なくとも1種を含むことが好ましい。これにより、他の結晶相の酸化チタン、たとえば、ブルカイト型酸化チタンからなる酸化チタン粒子のみを含む場合と比して、高い光触媒機能を有することができる。特に、アナターゼ型酸化チタンを多く含むことにより、より高い光触媒機能を有することができる。多孔性光触媒体の堆積層11に含まれる酸化チタンの結晶相については、X線回折法またはラマン分光法を用いることによって同定することができる。
【0051】
また、上記多孔性光触媒体において、堆積層11中における酸化チタン(TiO2)のモル分率は、0.25以上0.40以下であることが好ましい。上述のように、該モル分率が0.25未満の場合には、堆積層11が十分な光触媒機能を有さない場合があり、0.40を超える場合には、堆積層11が十分な強度を有さない場合がある。
【0052】
また、上記多孔性光触媒体において、その内径は特に制限されないが、4〜26mmの範囲内であることが好ましく、6〜17mmの範囲内であることがより好ましい。上記多孔性光触媒体の内径が4mm未満である場合には、酸水素火炎中で生成された粒子をロッド10に効率良く堆積させることが難しい傾向にあり、26mmを超える場合には、粒子の堆積温度が十分に高くならない傾向にあるためである。
【0053】
また、上記多孔性光触媒体において、堆積層11の厚さは特に限定されないが、ろ過速度を大きく維持しつつ、実用に耐え得るに十分な強度を維持するという観点から、0.6mm以上3mm以下であることが好ましく、1mm以上2mm以下であることがより好ましい。
【0054】
また、酸水素火炎中で生成される粒子の平均粒径は特に制限されないが、堆積層11の平均孔径を200nm以上500nm以下にするという理由からは、100nm以上500nm以下であることが好ましく、200nm以上400nm以下であることがより好ましい。なお、これらの粒径は、たとえば、酸水素火炎中で生成された粒子を素早く冷却して捕集し、市販の粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0055】
≪第2の実施形態≫
以下、第2の実施形態に係る多孔性光触媒体の製造方法およびこれにより製造される多孔性光触媒体について詳述する。本実施形態においては、多孔性光触媒体が備える堆積層が、二酸化ケイ素粒子が存在する担体層と酸化チタンの結晶相を含む粒子が存在する光触媒層とからなる2層構造である場合について説明する。なお、第1の実施形態と同様の構成、態様についてはその説明は繰り返さない。
【0056】
<多孔性光触媒体の製造方法>
本実施形態に係る多孔性光触媒体の製造方法は、形成工程において、CVD法を用いて、ケイ素を含む第1原料ガスを供給して二酸化ケイ素粒子が存在する担体層を形成する工程と、チタンを含む第2原料ガスを供給して酸化チタンの結晶相を含む粒子が存在する光触媒層を形成する工程とを含む以外は、第1の実施形態と同様である。このため、以下では形成工程について詳述する。
【0057】
(形成工程:担体層を形成する工程)
図5を参照し、本形成工程においては、まず、二酸化ケイ素粒子が存在する担体層21が形成される。具体的には、まず、CVD装置のマッフル内に配置され、その中心軸を中心として一定速度で回転するロッド10の表面に対し、担体層形成用のガスとして、ケイ素を含む第1原料ガスを酸水素バーナー12から供給し、CVD法によって、ロッド10の周囲に二酸化ケイ素粒子を堆積させる。これにより、ロッド10の周囲に、二酸化ケイ素粒子からなる担体層21が形成される。ここで、「二酸化ケイ素粒子」とは、二酸化ケイ素を成分とする粒子であり、二酸化ケイ素の非晶質相からなる粒子である。
【0058】
上記担体層21に関し、その厚みは特に制限されない。しかし、担体層21が厚いほど、堆積層23の強度は高くなる傾向にあり、また、担体層21の厚さが厚いほど、堆積層23の分離性能は向上するが、ろ過速度は低下する。このため、強度、分離性能およびろ過速度のバランスの観点から、担体層21の厚さは、0.6mm以上3mm以下であることが好ましく、1mm以上2mm以下であることがより好ましい。担体層21の厚さは、第1原料ガスの供給速度、トラバース回数、堆積温度などの各条件を調整することにより制御することができる。
【0059】
(形成工程:光触媒層を形成する工程)
次に、本形成工程においては、酸化チタンの結晶相を含む粒子が存在する光触媒層22が形成される。具体的には、担体層21の表面に対し、光触媒層形成用のガスとして、チタンを含む第2原料ガスを酸水素バーナー12から供給し、CVD法によって、担体層21上に酸化チタンの結晶相を含む粒子をさらに堆積させる。これにより、担体層21上に、酸化チタンの結晶相を含む粒子からなる光触媒層22が形成される。
【0060】
ここで、光触媒層22は、酸化チタンの結晶相が存在することによって、光触媒性能を担うことができる。このため、光触媒層形成用のガスとして、第2原料ガスとともに第1原料ガスを用いて、二酸化ケイ素および酸化チタンの分子間化合物からなる非晶質相と、酸化チタンの結晶相とにより構成される光触媒層22を形成してもよいが、この場合、十分な光触媒性能を発揮させるべく、上記結晶相の含有割合を高めることが好ましい。
【0061】
具体的には、光触媒層22において、酸化チタンのモル分率は0.25以上1以下であることが好ましく、0.6以上1以下であることが好ましい。この場合、酸化チタンの結晶相の含有割合を十分に高めることができる。また、光触媒性能と強度のバランスの観点からは、上記モル分率は0.6以上0.9以下であることが好ましい。なお、本工程において、第1原料ガスを用いないことにより、光触媒層22における酸化チタンのモル分率を1とすることができる。
【0062】
また、上記光触媒層22に関し、その厚みは1μm以上10μm以下であることが好ましく、1μm以上5μm以下であることがより好ましい。1μm未満の場合、光触媒機能が十分でない場合があり、10μmを超えると光触媒層22の剥離が生じ易くなる傾向がある。これは、酸化チタンの結晶相を多く含む粒子は、焼結速度が低く、結果的に光触媒層22の担体層21への付着強度が小さくなるためである。光触媒層22の厚さは、供給速度、トラバース回数、堆積温度などの各条件を調整することにより制御することができる。
【0063】
以上詳述した多孔性光触媒体の製造方法により、容易に担体層21および光触媒層22を含む堆積層23を備える多孔性光触媒体を製造することができる。酸化チタンの結晶相は、その光触媒機能を効率的に励起させる観点からは、励起光が実質的に効果的に照射される領域、すなわち、多孔性光触媒体の表面近傍に位置することが好ましい。したがって、上記2層構造を有する堆積層23を備える多孔性光触媒体は、より効率的に光触媒機能を発揮することができる。特に、このような2層構造の堆積層23を備える多孔性光触媒体は、たとえば、以下のような浄化作用を発揮することができる。
【0064】
図6は、図5に示す2層構造の堆積層23を備える多孔性光触媒体30の概略的な斜視図である。多孔性光触媒体30は、堆積層23からロッド10が引き抜かれたことによって形成された空洞31を備え、また、解放される端部はその長手方向に対して平行に切断されている。この多孔性光触媒体30の空洞31内に、細菌およびウィルスが混在する汚水を注入し、これをろ過させることによって汚水の浄化を実施する場合について説明する。
【0065】
図6を参照し、空洞31内に注がれた汚水は、担体層21を経て光触媒層22に到達する。換言すれば、担体層21によってある程度ろ過された後の汚水が光触媒層22を通過する。細菌はウィルスよりも大きいため、堆積層23の平均孔径が細菌が通過できない程度の大きさ(たとえば、500nm以下)に設計されている場合、細菌は担体層21によって汚水中から効率的に除去され、光触媒層22に到達する汚水中には主にウィルスが含まれることになる。
【0066】
ここで、細菌とウィルスが混在する汚水が直接光触媒層22を通過する場合、光触媒層22による光触媒機能は細菌とウィルスとの両者に対して発揮される。これに対し、担体層21によってある程度のろ過が成された汚水、すなわち主にウィルスが含まれる汚水が光触媒層22を通過する場合、上記光触媒機能はウィルスに対して効率的に発揮されるため、ウィルスの不活性化がより効果的となる。
【0067】
<多孔性光触媒体>
上記製造方法により製造された多孔性光触媒体に関し、担体層21と光触媒層22とを含む堆積層23は、フィルター機能と光触媒機能との両機能を有することができる。また、上述のように、細菌およびウィルスが混在する汚水を浄化する場合に特に高い効果を発揮することができる。
【0068】
また、上述のように、担体層21の厚みは、0.6mm以上3mm以下であることが好ましく、1mm以上2mm以下であることがより好ましく、光触媒層22の厚みは1μm以上10μm以下であることが好ましく、1μm以上5μm以下であることがより好ましい。なお、堆積層23の厚みはノギスやレーザ変位計などで測定することができ、光触媒層22の厚みは、その断面を適切な倍率によってSEM像を撮影し、これを観察することによって求めることができる。
【0069】
≪第3の実施形態≫
第2の実施形態において、担体層21上に光触媒層22が形成された堆積層23を備える多孔性光触媒体の製造方法について説明したが、たとえば、図7に示すように、担体層21を2つの光触媒層22,24で挟んだような堆積層25を形成してもよい。このような3層構造の堆積層25を備える多孔性光触媒体は、たとえば、以下のような浄化作用を有することができる。
【0070】
上記3層構造の堆積層25を備える多孔性光触媒体の空洞内に、細菌およびウィルスが混在する汚水を注入し、これをろ過させることによって汚水の浄化を実施する場合について説明する。通常、ろ過フィルタによって汚水を浄化する場合、ろ過フィルタ中の汚水が最初に到達する領域、すなわち、汚水の流路の上流側に位置する領域に多くの細菌等が捕捉されることになる。この捕捉された細菌の量が多い場合や、細菌がその領域で繁殖した場合には、フィルタの目詰まりが生じる。これを本実施形態に当てはめると、堆積層25を備える多孔性光触媒体に汚水を注入した場合、その内表面に位置する光触媒層24により多くの細菌が捕捉されることなる。ここで、光触媒層24は光触媒機能を有するため、補足した細菌の繁殖を抑制させたり、殺菌したりすることができるため、上述のような目詰まりを低減させることができる。したがって、上記3層構造の堆積層25を備える多孔性光触媒体によれば、長期利用や、より汚染の程度の高い汚染水の浄化が可能となる。
【0071】
このような3層構造の堆積層25は、たとえば、第2の実施形態において、担体層を形成する工程の前に、光触媒層を形成する工程を実施することによって形成することができる。
【0072】
以上、各実施形態について個別に詳述したが、これらは適宜組み合わせてもよい。したがって、たとえば、図2に示す、二酸化ケイ素および酸化チタンの分子間化合物からなる非晶質相と、酸化チタンの結晶相とを含む粒子からなる堆積層11の表面(両面または片面)に光触媒層を設けてもよく、図5に示される堆積層23が備える担体層21が、二酸化ケイ素および酸化チタンの分子間化合物からなる非晶質相であってもよく、光触媒層22が複合層であってもよい。また、図7に示される堆積層25において、光触媒層22を備えず、光触媒層24のみを備える構成であってもよい。
【実施例】
【0073】
本発明を実施例および比較例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例および比較例により本発明が限定されるものではない。
【0074】
<実施例1>
まず、外径6.0mmの窒化ケイ素で形成されたロッドを準備した(準備工程)。次に、CVD法により、酸水素バーナーに四塩化ケイ素(SiCl4)、水素、酸素を供給し、酸水素火炎中に二酸化ケイ素の非晶質相からなる粒子を生成させ、酸水素バーナーを回転しているロッドの軸方向に沿ってトラバースさせることにより、二酸化ケイ素の非晶質相からなる粒子により構成される担体層をロッド上に形成した(形成工程(1):担体層を形成する工程)。
【0075】
次に、酸水素バーナーを用いて、担体層の表層部を加熱することにより、当該担体層の表層部を焼結した(表層部焼結工程)。
【0076】
次に、四塩化ケイ素に代えて四塩化チタン(TiCl4)を供給しながら、同様に酸水素バーナーをロッドの軸方向に沿ってトラバースさせ、CVD法により酸化チタンの結晶相からなる粒子により構成される光触媒層を形成した(形成工程(2):光触媒層を形成する工程)。
【0077】
そして、担体層および光触媒層からなる堆積層からロッドを引き抜いた後(引抜工程)、ロッドを引き抜いた側の端部を切断し、外径8.6mm、内径6.0mm、長さ300mmの一端封じの管状体である、多孔性光触媒体を得た。
【0078】
なお、形成工程(1)および形成工程(2)における原料ガスの供給量、加熱温度、トラバース速度および加熱時間、ならびに表層部焼結工程における加熱温度、トラバース速度および加熱時間の各条件は以下の通りであった。
【0079】
(形成工程(1))
原料供給速度(SiCl4):2.2×10-2mol/min
温度:1550℃
トラバース速度:200mm/分
トラバース数:76回
(表層部焼結工程)
温度:1250℃
トラバース速度:200mm/分
トラバース数:2回
(形成工程(2))
原料供給速度(TiCl4):1.3×10-3mol/min
温度:1200℃
トラバース速度:200mm/分
トラバース数:2回。
【0080】
<実施例2>
形成工程(1)および形成工程(2)における各条件を以下のようにした以外は、実施例1と同様の方法により、多孔性光触媒体を得た。
【0081】
(形成工程(1))
原料供給速度(SiCl4):2.2×10-2mol/min
温度:1340℃
トラバース速度:300mm/分
トラバース数:46回
(形成工程(2))
原料供給速度(TiCl4):1.3×10-3mol/min
温度:1200℃
トラバース速度:200mm/分
トラバース数:14回。
【0082】
<実施例3>
形成工程(1)および形成工程(2)における各条件を以下のようにした以外は、実施例1と同様の方法により、多孔性光触媒体を得た。
【0083】
(形成工程(1))
原料供給速度(SiCl4):2.2×10-2mol/min
温度:1340℃
トラバース速度:300mm/分
トラバース数:46回
(形成工程(2))
原料供給速度(TiCl4):1.3×10-3mol/min
温度:1200℃
トラバース速度:200mm/分
トラバース数:2回。
【0084】
<実施例4>
形成工程(1)および形成工程(2)における各条件を以下のようにした以外は、実施例1と同様の方法により、多孔性光触媒体を得た。
【0085】
(形成工程(1))
原料供給速度(SiCl4):2.2×10-2mol/min
温度:1340℃
トラバース速度:300mm/分
トラバース数:46回
(形成工程(2))
原料供給速度(TiCl4):4.3×10-4mol/min
温度:1200℃
トラバース速度:200mm/分
トラバース数:2回。
【0086】
<実施例5>
形成工程(2)において、四塩化チタン(TiCl4)と四塩化ケイ素(SiCl4)との混合割合が0.85:0.15となるように各原料ガスを同時に酸水素火炎中に供給し、さらに、形成工程(1)および形成工程(2)における各条件を以下のようにした以外は、実施例1と同様の方法により、多孔性光触媒体を得た。
【0087】
(形成工程(1))
原料供給速度(SiCl4):2.2×10-2mol/min
温度:1340℃
トラバース速度:300mm/分
トラバース数:46回
(形成工程(2))
原料供給速度(TiCl4):1.3×10-3mol/min
原料供給速度(SiCl4):2.2×10-4mol/min
温度:1200℃
トラバース速度:200mm/分
トラバース数:2回。
【0088】
<実施例6>
形成工程(1)および形成工程(2)における各条件を以下のようにした以外は、実施例1と同様の方法により、多孔性光触媒体を得た。
【0089】
(形成工程(1))
原料供給速度(SiCl4):2.2×10-2mol/min
温度:1250℃
トラバース速度:300mm/分
トラバース数:40回
(形成工程(2))
原料供給速度(TiCl4):1.3×10-3mol/min
温度:1200℃
トラバース速度:200mm/分
トラバース数:2回。
【0090】
<比較例1>
形成工程(2)を行わずに、すなわち酸化チタンを含む層(光触媒層)を形成せず、形成工程(1)における各条件を以下のようにした以外は、実施例1と同様の方法により、多孔性光触媒体を得た。
【0091】
(形成工程(1))
原料供給速度(SiCl4):2.2×10-2mol/min
温度:1340℃
トラバース速度:300mm/分
トラバース数:46回。
【0092】
得られた多孔性光触媒体について、電子顕微鏡による表面断面観察、細孔分布測定装置による平均気孔率と平均孔径の測定、機械強度(JIS Z 2507に準拠)、および、光触媒層のラマン分光分析を実施した。その結果を表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
表1を参照し、たとえば、実施例1の多孔性光触媒体に関し、担体層の厚みが1.3mm、光触媒層の厚みが2.0μm、平均気孔率が39%、平均孔径が0.35μm、最小破壊強度が13.6MPaであった。また、ラマン分光分析により、酸化チタンの結晶相からなる粒子を含む層(光触媒層)における酸化チタンの結晶型は、アナターゼとルチルとの混合であることが確認された。
【0095】
<浄化ユニットの作製>
実施例1〜6および比較例1の多孔性光触媒体を用いて浄化ユニットを作製した。具体的には、図8に示すように、多孔性光触媒体40を試験管41の開口部に設置し、堆積層に対して紫外光を照射できるよう、光源42として直線型の紫外光ランプ(冷陰極殺菌ランプ、三共電気株式会社製)を、多孔性光触媒体40を挟んで対向するように2個設置した。このようにして、図8に示される浄化ユニットを作製した。そして、多孔性光触媒体40の開口する端部43に、被処理体(後述するように調製された各液)を導入するための導入用管状体44(シリコン樹脂製チューブ)を取り付け、注射器(不図示)を連結した。
【0096】
<評価試験1>
大腸菌(NBRC3972)を平板培地で一晩培養した後、回収し、PBSに懸濁し、菌数を約106CFU(colony forming unit)/mLに調整した。
【0097】
大腸菌液を注射器内に収容し、各多孔性光触媒体内に注入し、圧力をかけてサンプルを多孔性光触媒体を通過させ、回収用管状体である試験管内に回収した。そのうち0.1mLをPBS0.9mLと混合し、10倍希釈(10-1)された液を調製した。そのうち0.1mLをPBS0.9mLと混合し、100倍希釈(10-2)された液を調製した。同様の手順で希釈を繰り返し、10-3、10-4、10-5と希釈された液を順次調製していき、それぞれを0.1mL/プレートで、NB平板培地上に接種し、コンラージ棒で均一に広げた後、37℃で約18〜20時間培養し、培地上に出現したコロニーを計測した。
【0098】
実施例1〜6および比較例1の各浄化ユニットを通過させたサンプルにおいて、通過させなかったサンプルと比較して大腸菌の菌数(CFU/mL)は減少していた。したがって、光触媒層の有無にかかわらず、多孔性光触媒体を通過させることで、大腸菌の除去機能は発揮されたことが分かる。
【0099】
<評価試験2>
ウイルスのモデルとして大腸菌ファージQβ(NBRC20012)を、PBSで500倍に希釈したNB培地(1/500NB培地)に接種し、プラーク数を約1010PFU(plaque forming unit)/mLに調整してサンプルを準備した。
【0100】
ファージ液を注射器内に収容し、各多孔性光触媒体(実施例1、3、5および比較例1)に、4mLを10秒に1滴で1分間注入し、圧力をかけてサンプルを多孔性光触媒体を通過させ、回収用管状体である試験管内に回収した。また、このとき、照射される紫外光が合計5mW/cm2(254nm)となるようにした。そのうち0.1mLをPBS0.9mLと混合し、10倍希釈(10-1)された液を調製した。そのうち0.1mLをPBS0.9mLと混合し、100倍希釈)(10-2)された液を調製した。同様の手順で希釈を繰り返し、10-3、10-4、10-5、10-6、10-7、10-8と希釈された液を順次調製した。それぞれを0.1mL小試験管に取り、大腸菌液0.1mLを加え、0.5%寒天LB培地3mLを加え、転倒混和後、LB平板培地上に播いた。37℃で約18〜20時間培養し、出現したプラーク数を計測した。表1の「プラーク数」の欄に、回収されたサンプルにおける大腸菌ファージQβのプラーク数(PFU/mL)を示す。
【0101】
表1を参照し、大腸菌ファージQβの場合には、光触媒層を有する場合にその除去効果が発揮されることは明らかであった。担体層によるフィルター効果に加え、酸化チタンの光触媒反応によるウイルスの浄化効果が発揮されたためであると考えられる。
【0102】
また、表1を参照し、実施例1および実施例3において、高いウィルスの不活性化が確認された。これは光触媒層が酸化チタンの結晶相のみで形成されていることに加え、光触媒層の厚みがより試験条件に適していたためと考えられる。なお、実施例2の多孔性光触媒体に関し、光触媒層に部分的な脱落(破損)が確認されたが、これは、光触媒層の厚みが厚すぎたためと考えられる。
【0103】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0104】
10 ロッド、11,21,23,25 堆積層、12 酸水素バーナー、21 担体層、22,24 光触媒層、30,40 多孔性光触媒体、31 空洞、41 試験管、42 光源、43 端部、44 導入用管状体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8