(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記多孔性管状体フィルターが、互いに結合した二酸化ケイ素粒子を含む層と、前記二酸化ケイ素粒子を含む層に隣接する酸化チタン結晶相を含む粒子を含む層とを備える、請求項1に記載の浄化ユニット。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態の内容を列記して説明する。本願発明は、
(1)互いに結合した二酸化ケイ素粒子を含む多孔性管状体フィルターと、酸化チタンと、酸化チタンの光触媒反応を励起するための光源とを備える浄化ユニットである。
【0011】
本発明によれば、互いに結合した二酸化ケイ素粒子を含む多孔性管状体フィルターにより細菌を除去するだけでなく、酸化チタンの光触媒反応によりウイルスを不活性化することができ、殺菌とウイルスの不活性化の両方が可能となった浄化ユニットを提供することができる。
【0012】
ここで、「多孔性」とは、流体(液体および気体)が通過し得る多数の孔(気孔)を備える状態を指す。
【0013】
ここで、「管状体」とは、管状に形成された中空物を指し、その断面形状は円形状が好ましいが、これに限定されるものではない。
【0014】
ここで、「酸化チタン」は、浄化ユニットが構成要件として備えていればよく、多孔性管状体フィルターにおいて酸化チタンの結晶相を含む粒子として二酸化ケイ素粒子と混在されていてもよいし、多孔性管状体において二酸化ケイ素粒子を含む層に積層された酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層であってもよい。また酸化チタンは、多孔性管状体フィルターとは別に配置されていてもよい。
【0015】
(2)前記多孔性管状体フィルターは、互いに結合した二酸化ケイ素粒子を含む層と、前記二酸化ケイ素粒子を含む層に隣接する酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層とを備えることが好ましい。この態様は、酸化チタンが、多孔性管状体フィルターにおける酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層として、浄化ユニットの構成要件に含まれる場合である。
【0016】
(3)前記多孔性管状体フィルターが互いに結合した二酸化ケイ素粒子を含む層を備え、前記多孔性管状体フィルターに、その内周側に酸化チタンの結晶相を含む粒子が配置された、非晶質二酸化ケイ素を含む透光性管状体が連結されていてもよい。この態様は、酸化チタンは、多孔性管状体フィルターとは別に配置されて、浄化ユニットの構成要件に含まれる場合である。
【0017】
[本願発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態にかかる浄化ユニットの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0018】
≪第1の実施形態≫
図1は、本発明の第1の実施形態に係る浄化ユニット1を模式的に示す断面図である。
図1に示す浄化ユニット1は、互いに結合した二酸化ケイ素を含む多孔性管状体フィルター2と、酸化チタンと、酸化チタンの光触媒反応を励起するための光源5とを備える。
図1には、多孔性管状体フィルター2が、互いに結合した二酸化ケイ素粒子を含む層(担体層)3と、前記二酸化ケイ素粒子を含む層の外周に隣接して酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層4とを備える場合が示されている(すなわち、酸化チタンは、多孔性管状体フィルターにおける酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層として、浄化ユニットの構成要件に含まれる)。
【0019】
図1に示す第1の実施形態では、多孔性管状体フィルター2は、一方側の端部6のみに開口を有し、他方側の端部7には、外周部から連なって、二酸化ケイ素粒子を含む層3と、前記二酸化ケイ素粒子を含む層に隣接する酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層4とが形成されている(一端封じ)。多孔性管状体フィルター2は、両端に開口を有していてもよいが、流体が酸化チタンの結晶相を含む粒子と接触する確率を上げるためには、
図1に示すように一方側の端部のみに開口を有するように形成されていることが好ましい。
【0020】
なお、多孔性管状体フィルターは、酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層の外周に二酸化ケイ素粒子を含む層が積層された二層構造で構成されてもよいし、二酸化ケイ素粒子と酸化チタンの結晶相を含む粒子とが混在した一層のみで構成されていてもよいし、このような二酸化ケイ素粒子と酸化チタンの結晶相を含む粒子とが混在した層の外周に、酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層が積層された二層構造であってもよい。また多孔性管状体フィルターは、三層以上の積層構造であっても勿論よく、たとえば、酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層の外周に、二酸化ケイ素粒子を含む層が積層され、さらにその外周に酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層が積層された三層構造が例示される。また、三層構造の場合、上述の酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層に挟まれた層が、二酸化ケイ素粒子と酸化チタンの結晶相を含む粒子とが混在した層であってもよい。なお、後述するように、浄化ユニットに、多孔性管状体フィルター以外の部分に酸化チタンを備えるのであれば、多孔性管状体フィルターは、二酸化ケイ素粒子を含む層の一層のみで実現されていてもよい。
【0021】
しかしながら、酸化チタンの結晶相を含む粒子は、その光触媒効果を効率的に励起する観点から、励起するための光が実質的に照射される多孔性管状体フィルターの表面近傍にのみ形成されることが好ましいという観点から、多孔性管状体フィルターは、
図1に示すように、二酸化ケイ素粒子を含む層の外周に酸化チタンの結晶相を高濃度に含む粒子を含む層が積層された二層構造で実現されることが好ましい。また、二酸化ケイ素粒子は非晶質材料であるため、二酸化ケイ素粒子同士、二酸化ケイ素粒子と酸化チタンの結晶相を含む粒子との焼結は進行しやすいが、酸化チタンの結晶相を含む粒子同士では、酸化チタンの結晶相の濃度が高くなるほど焼結が進行しにくくなり、結合強度が低く、厚く形成することが困難であることから
も、二酸化ケイ素粒子を含む層の外周に酸化チタンの結晶相を含む粒子を高濃度に含む層が薄く積層された二層構造で実現されることが好ましい。
【0022】
図1に示す多孔性管状体フィルター2において、その内径は特に制限されないが、4〜26mmの範囲内であることが好ましく、6〜17mmの範囲内であることがより好ましい。多孔性管状体フィルター2の内径が4mm未満である場合には、後述する酸水素火炎中で生成した粒子をロッドに効率よく堆積させることが難しいという傾向にあり、また、26mmを超える場合には、粒子の堆積温度が十分に高くならないという傾向にあるためである。
【0023】
図1に示す多孔性管状体フィルター2において、二酸化ケイ素粒子を含む層3の厚みは、特に制限されないが、0.6〜3mmであることが好ましく、1〜2mmであることがより好ましい。二酸化ケイ素粒子を含む層3の厚みは、たとえばノギス、変位計を用いることで測定できる。
【0024】
二酸化ケイ素粒子を含む層は、二酸化ケイ素粒子以外の成分を含んでいてもよいが、互いに結合した二酸化ケイ素粒子のみで層が形成されていることが好ましい。なお、当該層において二酸化ケイ素粒子が互いに結合していることは、当該層の断面のSEM(Scanning Electron Microscope)像により確認することができる。
【0025】
また、後述する酸水素火炎中で生成する粒子の粒径は、特に制限されないが、平均孔径を後述のような好適な範囲内とする観点からは、平均粒径が100〜500nmの範囲内であることが好ましく、200〜400nmの範囲内であることがより好ましい。このような粒径は、たとえば酸水素火炎中で生成した粒子をすばやく冷却して捕集し、市販の粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0026】
また
図1に示す多孔性管状体フィルター2において、酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層4の厚みは、特に制限されないが、1〜10μm以下であることが好ましい。酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層の厚みが1μm未満である場合には、十分な光触媒効果が得られない場合があるためであり、また、酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層が10μmを超える場合には、酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層が剥がれ易くなってしまう傾向にあるためである(酸化チタンの結晶相を多く含む粒子は焼結速度が低く、酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層は機械的強度が低いため)。酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層4の厚みは、断面を適切な倍率によってSEMを撮像し、これを観察することによって求めることができる。
【0027】
酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層は、酸化チタンの結晶相を含む粒子以外の構成物を含んでいてもよく、酸化チタンの結晶相と二酸化ケイ素および酸化チタンの分子間化合物からなる非晶質相とが混在して層が形成されていることが好ましい。
【0028】
酸化チタンの結晶相は、高い光触媒機能を発揮することができることから、アナターゼ型であることが好ましいが、アナターゼ型とルチル型とが混合していてもよい。これにより、他の結晶相の酸化チタン、たとえば、ブルカイト型酸化チタンからなる酸化チタンの結晶相を含む粒子のみを含む場合と比して、高い光触媒機能を有することができる。特に、アナターゼ型酸化チタンを多く含むことにより、より高い光触媒機能を有することができる。酸化チタンの結晶相は、X線回折法、ラマン分光法など従来公知の適宜の方法で同定することができる。
【0029】
多孔性管状体フィルター2は、その平均気孔率が35〜70%の範囲内であることが好ましい。ここで、「気孔」とは、二酸化ケイ素粒子を含む層、酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層を構成する粒子間の空隙を意味する。したがって、二酸化ケイ素粒子を含む層、酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層が有する気孔は、1つの部材を穿って形成される貫通孔のような単純な形状を有するものではなく、二酸化ケイ素粒子を含む層、酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層内を複雑な経路を経て貫通する形状、貫通しない形状などが含まれる。また、「平均気孔率」とは、二酸化ケイ素粒子を含む層、酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層の全体に対する、気孔の占める割合であり、「平均孔径」とは、二酸化ケイ素粒子を含む層、酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層が有する気孔の孔径(直径)の平均値であり、「平均気孔率」と「平均孔径」は市販の細孔分布測定装置を用いて水銀圧入法により測定することができる。
【0030】
多孔性管状体フィルター2の平均気孔率が35%未満である場合には、後述するように外付けCVD法にて多孔性管状体フィルターを製造する場合に、ロッドと堆積物(二酸化ケイ素粒子を含む層)の融着が発生し、ロッドの引き抜きができなかったり、堆積後の冷却時に堆積物が破壊してしまう場合がある。また、平均気孔率が70%を超える場合には、十分な機械的特性(破壊強度)が得られない場合があるためである。
【0031】
多孔性管状体フィルター2は、上述した気孔の孔径(直径)の平均値である平均孔径が200〜500nmの範囲内であることが好ましい。多孔性管状体フィルターの平均孔径が200nm未満である場合には、浄化の対象である多孔性管状体フィルターを通過させる流体(たとえば水)の透過速度が小さ過ぎる虞があるためであり、また、多孔性管状体フィルターの平均孔径が500nmを超える場合には、細菌が多孔性管状体フィルターを通過してしまう虞があるためである。
【0032】
多孔性管状体フィルター2は、その機械的強度としては、長さ20mmの試験片を8個作製し、圧環試験法により測定された8回の測定値の最小値である最小破壊強度が1MPa以上であることが好ましい。上述した最小破壊強度が1MPa未満であると、多孔性管状体フィルターとして実用に耐えない虞があるためである。
【0033】
本発明の浄化ユニット1に用いられる光源5は、酸化チタンの光触媒反応を励起し得るように設けられていればよく、その種類には特に制限はないが、紫外光(UVC)を照射する紫外光ランプが好ましい。また、光源5の形状にも特に制限はないが、浄化ユニットにおける酸化チタン(
図1では、酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層4に含まれる酸化チタン)に効率的に励起光を照射し得る観点から、多孔性管状体フィルターよりも長い直線状の紫外光ランプを複数本(たとえば、多孔性管状体フィルターを挟んで対向させて2本)用いることが好ましい。また、光源5は、酸化チタンの結晶相による光触媒効果を十分に発揮できる観点から、好ましくは0.25mW/cm
2以上となるように、酸化チタンに紫外光を照射し得るように配置されることが好ましい。
【0034】
図1に示す第1の実施形態では、多孔性管状体フィルター2の一方側の端部6の開口に、当該多孔性管状体フィルター2の内部空間に浄化の対象となる流体を導入するための導入用管状体8が取り付けられる。導入用管状体8は、その形成材料について特に制限はなく、たとえば可撓性を有する樹脂製のチューブが用いられる。
【0035】
また
図1に示すように、前記導入用管状体8が取り付けられた多孔性管状体フィルター2は、回収用容器9に収容される。導入用管状体8から導入された流体は、多孔性管状体フィルター2を通過後、回収用容器9に回収される。
【0036】
本発明によれば、多孔性管状体フィルターにより細菌を除去するだけでなく、酸化チタンの光触媒反応によりウイルスをも浄化することができ、殺菌とウイルスの不活性化の両方が可能となった浄化ユニットを提供することができる。本発明の浄化ユニットによる浄化の対象としては、細菌、ウイルスの他、汚染物を含むことが疑われる水、ガスなどの流体が挙げられる。
【0037】
≪第2の実施形態≫
図2は、本発明の第2の実施形態に係る浄化ユニット21を模式的に示す断面図である。
図2に示す浄化ユニット21は、二酸化ケイ素を含む多孔性管状体フィルター22と、酸化チタンと、酸化チタンの光触媒反応を励起するための光源23とを備える。なお、
図2において、
図1に示した例の浄化ユニット1と同様の構成を有する部分については同一の参照符を付して説明を省略する。
図2には、多孔性管状体フィルター22が、互いに結合した二酸化ケイ素粒子を含む層3の一層のみを備え、この多孔性管状体フィルター22に、その内周側に酸化チタンの結晶相を含む粒子25が配置された、非晶質二酸化ケイ素を含む透光性管状体24が連結されている(すなわち、酸化チタンは、透光性管状体24の内周側に配置された酸化チタンの結晶相を含む粒子として、浄化ユニットの構成要件に含まれる)。
【0038】
図2に示す第2の実施形態において、多孔性管状体フィルター22については、酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層以外の部分について第1の実施形態における多孔性管状体フィルター2について上述したのと同様である。
【0039】
透光性管状体24は、透光性を有するならば、非晶質二酸化ケイ素以外の成分、たとえばカリウム、カルシウム、塩素などの元素を含んでいてもよいが、非晶質二酸化ケイ素(石英)で形成されてなることが好ましい。これにより透光性管状体24の紫外光の透過性を非常に高くすることができ、紫外光を減衰させることなく、その内周側に配置された酸化チタンの結晶相を含む粒子25による光触媒反応を効率的に励起できる。また石英以外の通常のガラスを透光性管状体の材料として用いた場合、当該ガラスにはNaが多く含まれ、このNaが酸化チタンに拡散することで、酸化チタンの活性が低下してしまうという問題が起こるが、石英を透光性管状体の材料として用いることで、このような問題が起こらないという利点もある。
【0040】
酸化チタンの結晶相を含む粒子25は、従来公知の適宜のバインダ(バインダも透光性を有することが好ましい)中に分散され、ディッピングなどの従来公知の適宜の方法で透光性管状体24の内周側に、酸化チタンの結晶相を含む粒子を含有する層として好適に形成できるが、透光性管状体24の内周側に配置されていれば、これに限定されるものではない。
【0041】
≪第3の実施形態≫
図3は、本発明の第3の実施形態に係る浄化ユニット41を模式的に示す断面図である。
図3に示す浄化ユニット41は、
図1に示した第1の実施形態と
図2に示した第2の実施形態とを併せ持つ構成であり、互いに結合した二酸化ケイ素粒子を含む層3と、前記二酸化ケイ素粒子を含む層に隣接する酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層4とを備える多孔性管状体フィルター2と、この多孔性管状体フィルター2に、その内周側に酸化チタンの結晶相を含む粒子25が配置された、非晶質二酸化ケイ素を含む透光性管状体24が連結されている(すなわち、酸化チタンは、多孔性管状体フィルター2における酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層4として、ならびに、透光性管状体24の内周側に配置された酸化チタンの結晶相を含む粒子として、浄化ユニットの構成要件に含まれる)。
図3に示す実施形態では、多孔性管状体フィルター2における酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層4の酸化チタンを励起するための光源5、ならびに、透光性管状体24の内周側に配置された酸化チタンの結晶相を含む粒子を励起するための光源23の両方を備えていることが好ましい。
【0042】
≪製造方法≫
上述した浄化ユニットは、その製造方法については特に制限されるものではないが、多孔性管状体フィルター2,22は、たとえば従来公知の手法である外付けCVD(chemical vapor deposition)法により好適に製造することができる。「CVD法」は外付けC
VD(chemical vapor deposition)法を意味し、合成しようとする酸化物の前駆体と
なる原料を酸水素火炎中に供給し、加水分解反応あるいは酸化反応によって生成された酸化物粒子をマンドレル(ロッド)上に堆積させ
る方法である。ここで、
図4は、
図1に示した多孔性管状体フィルター2の好適な製造方法の一例を模式的に示す図である。
【0043】
図4に示すように、上述した多孔性管状体フィルター2は、ロッド51の周囲に、二酸化ケイ素粒子、酸化チタンの結晶相を含む粒子を順次、あるいは同時に堆積させ(
図4に示す例では、二酸化ケイ素粒子からなる層53、酸化チタンの結晶相を含む層54を順次堆積)(
図4(a))、必要に応じ焼結した後、ロッド51を引き抜く(
図4(b))ことで好適に製造される(
図4(c))。
図2に示した酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層を有さない場合の多孔性管状体フィルター22を製造する場合には、二酸化ケイ素粒子を堆積させた後、必要に応じ焼結し、ロッドを引き抜くことで好適に製造できる。
【0044】
ロッド51は、
図4(a)に示す例のように、水平に配置されていてもよいし、先端部が下になるようにして鉛直に配置されていてもよい。ロッド51の素材としては、アルミナ、ガラス、耐火性セラミックス、カーボンなどを用いることができる。ロッド51は固定された後、中心軸Aを中心として回転される。
【0045】
二酸化ケイ素粒子は、
図4(a)に示すように、ロッド51の表面に四塩化ケイ素(SiCl
4)、Si(OC
2H
5)
4、C
8H
24O
4Si
4などのケイ素系ガスを原料ガスとして酸水素火炎中に供給しながら酸水素バーナー52をロッド51の中心軸Aに平行な方向に沿って往復移動(トラバース)、または、バーナー52を固定してロッド51を軸方向にトラバースさせることで、酸水素火炎中に粒子が形成され、ロッド51の表面に互いに結合した粒子を堆積させることができる。酸化チタンの結晶相を含む粒子の堆積は、たとえば、ケイ素系ガスに代えて四塩化チタン(TiCl
4)、Ti(OC
2H
5)
4などのチタン系ガスを含む以外は同様の原料ガスを、上述のケイ素系ガスを含む原料ガスと共に供給することで、堆積させることができる(これにより、二酸化ケイ素および酸化チタンの分子間化合物からなる非晶質相と酸化チタンの結晶相とが混在した層が形成される。)。
【0046】
二酸化ケイ素粒子、酸化チタンの結晶相を含む粒子の堆積に際して、バーナー52をロッド51の軸方向にトラバース、またはそのトラバースの回数毎にバーナー51への供給原料の種類やガスの供給量を異ならせることもできる。これにより、ロッド51の外周に堆積される二酸化ケイ素粒子、酸化チタンの結晶相を含む粒子は、径方向に所定の嵩密度と組成の分布を有することになる。また、ロッド51の先端部にも二酸化ケイ素粒子、酸化チタンの結晶相を含む粒子を堆積させることで、
図4(c)に示すような一端封じの多孔性管状体フィルター2を製造することができる。
【0047】
二酸化ケイ素粒子、酸化チタンの結晶相を含む粒子の堆積は、得られた多孔性管状体フィルターが上述のような好適な範囲内の平均気孔率となるように二酸化ケイ素粒子、酸化チタンの結晶相を含む粒子を加熱焼結し緻密化させてもよいが、二酸化ケイ素粒子、酸化チタンの結晶相を含む粒子を堆積させる温度やバーナー52もしくはロッド51のトラバース速度を調整しながらその平均気孔率を制御しても良い。
【0048】
堆積後に加熱焼結させる場合の温度は特に限定されないが、1000〜1400℃とすることが好ましい。1000℃未満では焼結が十分に進行しない場合があり、1400℃を超えると平均気孔率が小さくなりすぎる場合がある。また、堆積温度により平均気孔率を調整する場合、特に温度やバーナー52もしくはロッド51のトラバース速度の限定はないが、たとえば1000〜1700℃、50〜500mm/分とすることが好ましい。この範囲以外では焼結が十分に進行しない場合や平均気孔率が小さくなりすぎる場合がある。また、上述のように酸化チタンの結晶相を含む粒子はアナターゼ型が好ましいが、加熱時間を長くすると酸化チタンはアナターゼ型からルチル型に移行しやすく、このような観点からは、酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層の形成におけるトラバース速度は、200mm/分以上とすることが好ましい。
【0049】
なお、引き抜きを容易にするために、予めロッド51の表面にカーボンや窒化物などを塗布しておいてもよい。また、同様に引き抜きを容易にするという観点から、ロッド51は先細のテーパ形状としても良く、たとえばその外径傾斜率を0.2〜2.0mm/1000mmとすることができる。さらにロッド51は、たとえば酸化物粒子との親和性が低い窒化珪素などの非酸化物を材質とするロッドを用いるようにしてもよい。
【0050】
また、上述のように、多孔性管状体フィルターは二酸化ケイ素および酸化チタンの分子間化合物からなる非晶質相と酸化チタンの結晶相とが混在した層を備えていてもよいが、このような層を形成する場合、1つの酸水素バーナーから二酸化ケイ素および酸化チタンの分子間化合物からなる非晶質相と酸化チタンの結晶相とが混在した粒子を生成させる場合は、酸化チタン(TiO
2)のモル分率が小さくなると、酸化チタンの結晶相の密度が減少するため、十分な光触媒性能が得られないことがある。このような場合は酸化チタンのモル分率を0.25以上1未満の範囲内とすることが好ましい。
【実施例】
【0051】
本発明を実施例および比較例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例および比較例により本発明が限定されるものではない。
【0052】
<実施例1>
外付けCVD法により、四塩化ケイ素(SiCl
4)を酸水素火炎中に供給し、回転させた外径6.0mmの窒化ケイ素ロッドの軸方向に沿って酸水素バーナーを往復移動(トラバース)させ、ロッドの周囲に二酸化ケイ素粒子からなる層を形成した。次に、バーナーを用いて、担体層の表層部を酸水素火炎でトラバースしながら加熱することにより、当該担体層の表層部を焼結した(表層部焼結工程)。次に、四塩化チタン(TiCl
4)を酸水素火炎中に供給し、同様にバーナーをロッドの軸方向に沿ってトラバースさせ、酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層4を形成した。ロッドを引き抜いた後、ロッドを引き抜いた側の端部を切断し、外径8.6mm、内径6.0mm、長さ300mmの一端封じの多孔性管状体フィルター2を得た。
【0053】
なお、各条件は以下のとおり行なった。
(二酸化ケイ素粒子からなる層の形成)
・原料供給速度(SiCl
4):2.2×10
−2mol/分
・温度:1340℃
・トラバース速度:300mm/分
・トラバース数:46回
(表層部焼結工程)
・焼結時温度:1250℃
・焼結時トラバース速度:200mm/分
・焼結時トラバース数:2回
(酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層の形成)
・原料供給速度(TiCl
4):1.3×10
−3mol/分
・温度:1200℃
・トラバース速度:200mm/分
・トラバース数:2回
得られた多孔性管状体フィルター2について、電子顕微鏡による表面断面観察、平均孔径測定、機械強度(最少破壊強度)測定、および、酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層のラマン分光分析を実施した。二酸化ケイ素粒子を含む層の厚みが1.3mm、酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層の厚みが2.2μm、平均孔径が0.40μm、最小破壊強度が3.5MPaであった。また、ラマン分光分析により、酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層における酸化チタンの結晶相は、アナターゼとルチルの混合であることが確認された。さらに、平均気孔率は64%であった。
【0054】
多孔性管状体フィルター2を、透光性を有する回収用容器9として試験管の開口部に設置し、酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層3に紫外光を照射できるように光源5として、直線型の紫外光ランプ(冷陰極殺菌ランプ、三共電機株式会社製)を、多孔性管状体フィルター2を挟んで対向するように2個設置した。このようにして、
図1に示した例の浄化ユニット1を作製した。多孔性管状体フィルター2の一端6の開口に、浄化対象(後述するように調製されたサンプル)を導入するための導入用管状体8(シリコーン樹脂製チューブ)を取り付け、注射器を連結した。
【0055】
<比較例1>
酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層を形成しなかったこと以外は実施例1と同様にして、浄化ユニットを作製した。得られた多孔性管状体フィルターについて、実施例1と同様の測定を行なった結果、二酸化ケイ素粒子を含む層の厚みが1.3mm、平均孔径が0.40μm、最小破壊強度が2.2MPa、平均気孔率は64%であった。
【0056】
(評価試験1)
大腸菌(NBRC3972)を平板培地で一晩培養した後、回収し、PBSに懸濁し、菌数を約10
6CFU(colony forming unit)/mLに調整した。
【0057】
大腸菌液を注射器内に収容し、実施例1または比較例1の多孔性管状体フィルター内に注入し、圧力をかけてサンプルを多孔性管状体フィルターを通過させ、回収用容器である試験管内に回収した。そのうち0.1mLをPBS0.9mLと混合し、10倍希釈(10
−1)された液を調製した。そのうち0.1mLをPBS0.9mLと混合し、100倍希釈(10
−2)された液を調製した。同様の手順で希釈を繰り返し、10
−3、10
−4、10
−5と希釈された液を順次調製していき、それぞれを0.1mL/プレートで、NB平板培地上に接種し、コンラージ棒で均一に広げた後、37℃で約18〜20時間培養し、培地上に出現したコロニーを計測した。
【0058】
図5は、実施例1、比較例1の多孔性管状体フィルターを通過させた各サンプルを通過させなかったサンプルと比較して大腸菌の菌数(CFU/mL)を示すグラフである。
図5から分かるように、酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層の有無にかかわらず、多孔性管状体フィルターを通過させることで、大腸菌は除去されたことが分かる。
【0059】
(評価試験2)
ウイルスのモデルとして大腸菌ファージQβ(NBRC20012)を、PBSで500倍に希釈したNB培地(1/500NB培地)に接種し、プラーク数を約10
10PFU(plaque forming unit)/mLに調整した。
【0060】
ファージ液を注射器内に収容し、実施例1または比較例1の多孔性管状体フィルター内に、4mLを10秒に1滴で1分間注入し、圧力をかけてサンプルを多孔性管状体フィルターを通過させ、回収用容器である試験管内に回収した。そのうち0.1mLをPBS0.9mLと混合し、10倍希釈(10
−1)された液を調製した。そのうち0.1mLをPBS0.9mLと混合し、100倍希
釈(10
−2)された液を調製した。同様の手順で希釈を繰り返し、10
−3、10
−4、10
−5、10
−6、10
−7、10
−8と希釈された液を順次調製した。それぞれを0.1mL小試験管に取り、大腸菌液0.1mLを加え、0.5%寒天LB培地3mLを加え、転倒混和後、LB平板培地上に播いた。37℃で約18〜20時間培養し、出現したプラーク数を計測した。紫外光を照射する場合には、多孔性管状体フィルターを挟んで対向し、合計5mW/cm
2(254nm)となるようにした。回収したサンプルを、上述と同様にPBSで10段階解釈した。
【0061】
図6は、紫外光の照射の有無それぞれの場合について、実施例1、比較例1の多孔性管状体フィルターを通過させた各サンプルを通過させなかったサンプルと比較して大腸菌ファージQβのプラーク数(PFU/mL)を示すグラフである。
図6中、それぞれの場合の表記と、計測されたプラーク数は以下のとおりであった。
【0062】
・通過前/多孔性管状体チューブを通過前の状態:1.6×10
9PFU/mL
・TiO
2(−),UV(−)/比較例1の多孔性管状体フィルターを、紫外光を照射せずに通過させた場合:3.3×10
7PFU/mL
・TiO
2(+),UV(−)/実施例1の多孔性管状体フィルターを、紫外光を照射せずに通過させた場合:4.4×10
7PFU/mL
・TiO
2(−),UV(+)/比較例1の多孔性管状体フィルターを、紫外光を照射して通過させた場合:4.4×10
3PFU/mL
・TiO
2(+),UV(+)/実施例1の多孔性管状体フィルターを、紫外光を照射して通過させた場合:9.1×10
2PFU/mL
図6から分かるように、大腸菌についての評価試験1とは異なり、大腸菌ファージQβの場合には、紫外光を照射した場合にその除去効果が発揮されることは明らかであり、特に、酸化チタンの結晶相を含む粒子を含む層を設け、紫外光を照射した場合にその効果は格段に顕著なものとなることが分かった。これは、二酸化ケイ素粒子を含む層によるフィルター効果に加え、酸化チタンの光触媒反応によるウイルスの浄化効果が発揮されたためであると考えられた。