特許第6294116号(P6294116)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友電気工業株式会社の特許一覧 ▶ 住友電工プリントサーキット株式会社の特許一覧

特許6294116ポリイミド前駆体樹脂組成物、ポリイミド樹脂膜、フレキシブルプリント配線板、回路付きサスペンション及びハードディスクドライブ
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294116
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】ポリイミド前駆体樹脂組成物、ポリイミド樹脂膜、フレキシブルプリント配線板、回路付きサスペンション及びハードディスクドライブ
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20180305BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   C08G73/10
   C08J5/18CFG
【請求項の数】8
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-60983(P2014-60983)
(22)【出願日】2014年3月24日
(65)【公開番号】特開2014-208793(P2014-208793A)
(43)【公開日】2014年11月6日
【審査請求日】2016年12月16日
(31)【優先権主張番号】特願2013-75126(P2013-75126)
(32)【優先日】2013年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500400216
【氏名又は名称】住友電工プリントサーキット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100158540
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 博生
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100176876
【弁理士】
【氏名又は名称】各務 幸樹
(74)【代理人】
【識別番号】100177976
【弁理士】
【氏名又は名称】根木 義明
(74)【代理人】
【識別番号】100117167
【弁理士】
【氏名又は名称】塩谷 隆嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100187768
【弁理士】
【氏名又は名称】藤中 賢一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 秀明
(72)【発明者】
【氏名】菅原 潤
(72)【発明者】
【氏名】改森 信吾
(72)【発明者】
【氏名】柿本 正也
【審査官】 中西 聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−182757(JP,A)
【文献】 特開2006−137881(JP,A)
【文献】 特開2010−024350(JP,A)
【文献】 特開平11−054862(JP,A)
【文献】 特開2009−300578(JP,A)
【文献】 特開2001−111178(JP,A)
【文献】 特開2012−150872(JP,A)
【文献】 特開2007−246709(JP,A)
【文献】 特開平10−126019(JP,A)
【文献】 特開2009−134121(JP,A)
【文献】 特開平09−302091(JP,A)
【文献】 特開2009−286854(JP,A)
【文献】 特開2010−174195(JP,A)
【文献】 HASEGAWA,M et al.,Poly(ester imide)s Possessing Low Coefficient of Thermal Expansion and Low Water Absorption,High Performance Polymers,2006年,Vol.18,p.697-717
【文献】 HASEGAWA,N. et al.,Poly(ester imide)s Possessing Low CTE and Low Water Absorption (II). Effect of Substituents,Polymer Journal,2008年,Vol.40, No.1,p.56-67
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00−73/26
C08J 5/00−5/24
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを縮合重合させたポリイミド前駆体樹脂を含有する組成物であって、
上記芳香族テトラカルボン酸二無水物及び上記ジアミンのうちの少なくとも一方が、ビフェニル骨格を有し、
上記ビフェニル骨格を有するものの含有量が、上記芳香族テトラカルボン酸二無水物と上記ジアミンとの合計量に対して40モル%以上であり、
上記芳香族テトラカルボン酸二無水物が、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)を上記合計量に対して5モル%以上含み、
上記p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)の含有量が、上記芳香族テトラカルボン酸二無水物の全量に対して5モル%以上30モル%以下であり、
上記芳香族テトラカルボン酸二無水物が、上記ビフェニル骨格を有する3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含み、
上記3,4,3’,4’−ビフェニルカルボン酸二無水物の含有量が、上記芳香族テトラカルボン酸二無水物の全量に対して70モル%以上であるポリイミド前駆体樹脂組成物。
【請求項2】
上記ジアミンが、上記ビフェニル骨格を有する2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、o−トリジン、又はそれらの組合せを含む請求項1に記載のポリイミド前駆体樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のポリイミド前駆体樹脂組成物を成膜し、このポリイミド前駆体樹脂組成物に含有される上記ポリイミド前駆体樹脂をイミド化させてなるポリイミド樹脂膜。
【請求項4】
湿度膨張係数が10ppm/%RH未満である請求項に記載のポリイミド樹脂膜。
【請求項5】
熱膨張係数が10ppm/K以上25ppm/K以下である請求項又は請求項に記載のポリイミド樹脂膜。
【請求項6】
請求項、請求項又は請求項に記載のポリイミド樹脂膜を有するフレキシブルプリント配線板。
【請求項7】
請求項に記載のフレキシブルプリント配線板を使用したハードディスクドライブの回路付きサスペンション。
【請求項8】
請求項に記載の回路付きサスペンションを搭載したハードディスクドライブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド前駆体樹脂組成物、ポリイミド樹脂膜、フレキシブルプリント配線板、回路付きサスペンション及びそれを搭載するハードディスクドライブに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は耐熱性に優れ、良好な電気絶縁性を示すことから、プリント配線板の基材、層間接着剤、保護膜等として使用されている。一般にポリイミドの熱膨張係数は、シリコンや金属に比べると大きい。そのため、熱膨張係数の小さい金属、シリコン等からなる基材、導体層等と、ポリイミドとを組み合わせたフレキシブルプリント配線板では、ポリイミドと金属やシリコン等との熱膨張係数の差に起因して配線板に反りが生じることがある。このようなフレキシブルプリント配線板は、ハードディスクドライブのサスペンションの回路基板として使用した場合、配線板の反りによりハードディスク読み取り誤差を生じさせる原因ともなりかねない。また、ポリイミド層とこれに接触する金属層等との間に残留応力が蓄積することで、クラックや層間剥離等を生じることがある。
【0003】
ポリイミドの熱膨張係数を小さくするために、ビフェニル骨格及びテトラメチルジシロキサン骨格を有するポリイミド前駆体樹脂を含有させた感光性樹脂組成物(特開2009−300578号公報参照)、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ピロメリット酸二無水物、4,4−ジアミノジフェニルエーテル、及びパラフェニレンジアミンを共重合して得られるポリイミドフィルム(特許第3794446号公報参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−300578号公報
【特許文献2】特許第3794446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリイミドの熱膨張係数を小さくすることで、温度変化によるポリイミド樹脂膜の寸法変化に対応することができる。しかし、ポリイミド樹脂膜の寸法変化は、温度変化ばかりでなく、吸湿又は脱湿による湿度変化によっても生じ得る。そのため、湿度変化によっても配線板の反りが生じる得ることから、湿度変化によるポリイミド樹脂の寸法変化についても考慮する必要性が高い。
【0006】
しかし、特開2009−300578号公報に記載の感光性樹脂組成物は、熱膨張性について検討されているが、湿度膨張性については検討されていない。
【0007】
一方、特許第3794446号公報に記載のポリイミドフィルムは、熱膨張性及び湿度膨張性について検討されているが、エッチングによるパターニング性が十分に考慮されていない。そのため、上記ポリイミドフィルムは、アルカリ性水溶液によるエッチング量のコントロールが容易ではなく、目的とするパターンにポリイミド樹脂膜を形成することが困難なおそれがある。特に、微細加工が必要な回路を形成する場合には、エッチングによるパターニング性のコントロールがより重要となる。
【0008】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、熱膨張性及び湿度膨張性が低く、エッチングによるパターニング性に優れるポリイミド(前駆体)樹脂膜を形成可能なポリイミド前駆体樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
芳香族テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを縮合重合させたポリイミド前駆体樹脂を含有する組成物であって、
上記芳香族テトラカルボン酸二無水物及び上記ジアミンのうちの少なくとも一方が、ビフェニル骨格を有し、
上記ビフェニル骨格を有するものの含有量が、上記芳香族テトラカルボン酸二無水物と上記ジアミンとの合計量に対して40モル%以上であり、
上記芳香族テトラカルボン酸二無水物が、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)を上記合計量に対して5モル%以上含む。
【0010】
本発明のポリイミド樹脂膜は、当該ポリイミド前駆体樹脂組成物を成膜し、このポリイミド前駆体樹脂組成物に含有される上記ポリイミド前駆体樹脂をイミド化させてなるポリイミド樹脂膜である。
【0011】
本発明のフレキシブルプリント配線板は、当該ポリイミド樹脂膜を有するフレキシブルプリント配線板である。
【0012】
本発明の回路付きサスペンションは、当該フレキシブルプリント配線板を使用したハードディスクドライブの回路付きサスペンションである。
【0013】
本発明のハードディスクドライブは、当該回路付きサスペンションを搭載したハードディスクドライブである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、熱膨張性及び湿度膨張性が低く、エッチングによるパターニング性に優れるポリイミド(前駆体)樹脂膜を形成可能なポリイミド前駆体樹脂組成物が提供される。従って、本発明のポリイミド前駆体樹脂組成物は、ハードディスクドライブの回路付きサスペンションに使用されるフレキシブルプリント配線板に好適に適用できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[本発明の実施形態の説明]
上記課題を解決するためになされた本発明は、
芳香族テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを縮合重合させたポリイミド前駆体樹脂を含有する組成物であって、
上記芳香族テトラカルボン酸二無水物及び上記ジアミンのうちの少なくとも一方が、ビフェニル骨格を有し、
上記ビフェニル骨格を有するものの含有量が、上記芳香族テトラカルボン酸二無水物と上記ジアミンとの合計量に対して40モル%以上であり、
上記芳香族テトラカルボン酸二無水物が、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)を上記合計量に対して5モル%以上含む。
【0016】
当該ポリイミド前駆体樹脂組成物は、剛直な構造であるビフェニル骨格を有するモノマーを、芳香族テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの合計モル量に対して40モル%以上含むように縮合重合させたポリイミド前駆体樹脂を含有している。そのため、当該ポリイミド前駆体樹脂組成物は、ビフェニル骨格に基づいて、熱膨張係数が低く適度な剛直性を有するポリイミド前駆体樹脂膜及びポリイミド樹脂膜を提供することが可能となる。
【0017】
また、当該ポリイミド前駆体樹脂組成物は、上記合計モル量に対して5モル%以上のp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)を縮合重合させている。このp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)は、吸水率が低い骨格を有するため、湿度膨張係数を下げることが可能である。加えて、上記ポリイミド前駆体樹脂は、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)によってアルカリ性水溶液に対する溶解性が高められているため、アルカリ性水溶液によるエッチングが可能となる。
【0018】
このように、当該ポリイミド前駆体樹脂組成物は、ビフェニル骨格を有するモノマーとp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)とが所定量含まれるように縮合重合されたポリイミド前駆体樹脂を含むため、熱膨張性及び湿度膨張性の双方がバランス良く改善されたポリイミド前駆体樹脂膜及びポリイミド樹脂膜を提供することが可能となる。また、当該ポリイミド前駆体樹脂組成物から得られるポリイミド前駆体樹脂膜及びポリイミド樹脂膜は、ビフェニル骨格に基づく適度な剛直性と、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)に基づくアルカリ溶解性によって、エッチングによるパターニング性に優れたものとなる。
【0019】
上記芳香族テトラカルボン酸二無水物が、上記ビフェニル骨格を有する3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を含むとよい。当該ポリイミド前駆体樹脂組成物が芳香族テトラカルボン酸二無水物としてBPDAを含有することで、より適度に熱膨張係数が低く適度な剛直性を有するポリイミド前駆体樹脂膜及びポリイミド樹脂膜を提供することが可能となる。
【0020】
上記p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)の含有量としては、上記芳香族テトラカルボン酸二無水物の全量に対して5モル%以上30モル%以下が好ましく、上記3,4,3’,4’−ビフェニルカルボン酸二無水物(BPDA)の含有量としては、上記芳香族テトラカルボン酸二無水物の全量に対して70モル%以上が好ましい。このようにTAHQ及びBPDAの含有量を芳香族テトラカルボン酸二無水物の全量に対して特定範囲とすることで、微細なパターンを形成する場合でもポリイミド前駆体樹脂膜に浮き(基材とポリイミド前駆体樹脂膜との間での剥がれ)を生じることなく、良好なパターニング性を発揮することができる。アルカリ性水溶液で現像処理を行ってポリイミド前駆体樹脂膜とレジストを同時にパターニングする際、ポリイミド前駆体樹脂膜が必要以上に溶解することでポリイミド前駆体樹脂膜に浮きが生じるおそれがあることを見出した。これは、TAHQのエステル結合がアルカリ性水溶液に侵されやすいためであると考えられる。そこで、BPDAの含有量を70モル%以上とすると共に、アルカリ性水溶液に侵されやすいTAHQの含有量を5モル%以上30モル%以下と少なくすることで、ポリイミド前駆体樹脂膜の熱膨張係数を低くしつつ、ポリイミド前駆体樹脂膜にアルカリ性水溶液に対する適度な溶解性を与え、過剰な溶解を抑制できる。その結果、微細なパターンを形成する場合であっても、ポリイミド前駆体樹脂膜の浮きの発生を抑制することができる。
【0021】
上記ジアミンが、上記ビフェニル骨格を有する2,2’−ジメチル4,4’−ジアミノビフェニル(mTBHG)、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル(TFMB)、o−トリジン(TOL)、又はそれらの組合せを含むとよい。当該ポリイミド前駆体樹脂組成物がジアミンとしてmTBHG、TFMB又はTOLを含有することで、より適度に熱膨張係数が低く適度な剛直性を有するポリイミド前駆体樹脂膜及びポリイミド樹脂膜を提供することが可能となる。
【0022】
上記課題を解決するためになされた別の本発明は、
当該ポリイミド前駆体樹脂組成物を成膜し、このポリイミド前駆体樹脂組成物に含有される上記ポリイミド前駆体樹脂をイミド化させてなるポリイミド樹脂膜である。
【0023】
当該ポリイミド樹脂膜は、ビフェニル骨格を有するモノマーに由来する構造単位と、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)に由来する構造単位とが所定量含有されている。そのため、熱膨張性及び湿度膨張性の双方がバランス良く改善され、その前駆体樹脂膜はエッチングによるパターニング性に優れている。
【0024】
当該ポリイミド樹脂膜の湿度膨張係数としては10ppm/%RH未満が好ましい。このように湿度膨張係数を10ppm/%RH未満とすることで、吸湿又は脱湿による湿度変化に起因する寸法変化を抑制することができる。その結果、当該ポリイミド樹脂膜は、配線板等に反りが発生することを抑制できるため、フレキシブルプリント配線板、特にハードディスクドライブの回路付きサスペンションの回路基板において保護膜等として好適に使用することができる。
【0025】
当該ポリイミド樹脂膜の熱膨張係数としては10ppm/K以上25ppm/K以下が好ましい。このように熱膨張係数を上記範囲とすることで、温度変化に起因する寸法変化を抑制することができる。その結果、当該ポリイミド樹脂膜は、配線板等に反りが発生することを抑制できるため、フレキシブルプリント配線板の保護膜等、特にハードディスクドライブのサスペンションに使用される回路基板の保護膜等として好適に使用することができる。
【0026】
上記課題を解決するためになされた別の本発明は、
当該ポリイミド樹脂膜を有するフレキシブルプリント配線板である。
【0027】
当該フレキシブルプリント配線板のポリイミド樹脂膜は、湿度膨張係数及び熱膨張係数が低くされていることで、湿度や熱の変化に起因する寸法変化が適切に抑制されている。そのため、当該フレキシブルプリント配線板によれば、反りの発生及び残留応力の蓄積が抑制されることでクラックや層間剥離等の発生を抑制することが可能となる。
【0028】
上記課題を解決するためになされた別の本発明は、
当該フレキシブルプリント配線板を使用したハードディスクドライブの回路付きサスペンションである。
【0029】
当該回路付きサスペンションは、上述のように反りの発生が抑制された当該フレキシブルプリント配線板を使用している。そのため、当該回路付きサスペンションをハードディスクドライブに使用すれば、サスペンションの回路基板の反りに起因するハードディスク読み取り誤差の発生を抑制できる。
【0030】
上記課題を解決するためになされた別の本発明は、
当該回路付きサスペンションを搭載したハードディスクドライブである。
【0031】
当該ハードディスクドライブによれば、上述したように当該回路付きサスペンションにおける回路基板に反りが発生することが抑制されているため、回路基板の反りに起因するハードディスク読み取り誤差の発生を抑制できる。
【0032】
ここで、「湿度膨張係数」は、温度23℃の窒素気流下、湿度30%RHで3時間安定させ後のサンプル長L1を測定すると共に、湿度を80%RHに変えて3時間安定させた後のサンプル長L2を測定し、下記数式に基づいて算出した値である。

湿度膨張係数(ppm/%RH)=10×(L2−L1)/(L1×(80−30))

サンプル長は、例えば熱分析装置(EXSTAR TMA/SS6100:SIIナノテクノロジー株式会社(現株式会社日立ハイテクサイエンス))により測定することができる。
【0033】
「熱膨張係数」は、サンプルに引張荷重を作用させて50℃から150℃(150℃から50℃)の間で昇温(降温)させたときの単位温度当りの寸法変化量(ppm/K)である。
熱膨張係数は、例えば熱応力歪測定装置(「TMA/SS120C」:セイコーインスツルメンツ株式会社)を用いて測定することができる。
【0034】
[本発明の実施形態の詳細]
以下において、本発明の実施形態に係るポリイミド前駆体樹脂組成物(以下、「ポリイミド前駆体樹脂組成物(X)」ともいう)、ポリイミド樹脂膜、フレキシブルプリント配線板、回路付きサスペンション、及びハードディスクドライブを説明する。なお、本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等な意味及び範囲内で全ての変更が含まれることが意図される。
【0035】
[ポリイミド前駆体樹脂組成物(X)]
ポリイミド前駆体樹脂組成物(X)は、(A)ポリイミド前駆体樹脂を含み、通常、(B)有機溶媒を含み、本発明の効果を損なわない範囲において、(C)他の成分を含んでいてもよい。
【0036】
<(A)ポリイミド前駆体樹脂>
(A)ポリイミド前駆体樹脂は、(A1)芳香族テトラカルボン酸二無水物と(A2)ジアミンとが縮合重合したポリアミック酸を含む。この縮合重合反応は、従来のポリイミドの縮合重合と同様な条件にて行うことができる。
【0037】
<(A1)芳香族テトラカルボン酸二無水物>
(A1)芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ(2,2,2)−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボンキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0038】
中でも、(A1)芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、ビフェニル骨格を有する3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)が好ましい。ビフェニル骨格が剛直な構造であることから、ビフェニル骨格を有するBPDAを縮合重合させた(A)ポリイミド前駆体樹脂をポリイミド前駆体樹脂組成物(X)に含有させることで、この組成物(X)により形成されるポリイミド前駆体樹脂膜及びポリイミド樹脂膜の熱膨張係数を低くすることが可能となる。
【0039】
(A)ポリイミド前駆体樹脂は、(A1)芳香族テトラカルボン酸二無水物としてp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)を含んでいる。このp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)の含有量は、(A1)芳香族テトラカルボン酸と(A2)ジアミンの合計モル量に対して5モル%以上である。p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)は、吸水率が低い骨格を有するため、湿度膨張係数を下げることが可能となる。
【0040】
(A1)芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)とp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)とを併用することが好ましい。これらを併用することで、当該ポリイミド前駆体樹脂組成物(X)は、皮膜浮きの発生を抑制し、微細パターン形成時に良好なパターニング性を発揮することができる。
【0041】
p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)の含有量としては、(A1)芳香族テトラカルボン酸二無水物の全量に対して5モル%以上30モル%以下が好ましい。TAHQの含有量の下限としては、10モル%がより好ましい。TAHQの含有量の上限としては、25モル%がより好ましい。
【0042】
一方、3,4,3’,4’−ビフェニルカルボン酸二無水物(BPDA)の含有量のとしては、(A1)芳香族テトラカルボン酸二無水物の全量に対して70モル%以上が好ましい。BPDAの含有量の下限としては、75モル%がより好ましい。BPDAの含有量の上限としては、95モル%が好ましく、90モル%がより好ましい。
【0043】
TAHQの含有量が上記下限未満であると(BPDAの含有量が上記上限を超えると)、BPDAアルカリ水溶液に対するポリイミド前駆体樹脂膜の溶解性が悪化し、現像時に皮膜残りが発生するおそれがある。一方、TAHQの含有量が上記上限を超えると(BPDAの含有量が上記下限未満であると)、アルカリ水溶液に対するポリイミド前駆体樹脂膜の溶解性が向上し過ぎて微細パターン形成時に皮膜浮きが発生するおそれがある。
【0044】
<(A2)ジアミン>
(A2)ジアミンとしては、例えば2,2’−ジメチル4,4’−ジアミノビフェニル(mTBHG)、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)4,4’−ジアミノビフェニル(TFMB)、o−トリジン(TOL)、2,2’−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン(Bis−A−AF)パラフェニレンジアミン(PPD)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、3,3’−ジヒドロキシ4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジヒドロキシ3,3’−ジアミノビフェニル等が挙げられる。これらは、単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0045】
この中でも、(A2)ジアミンとしては、2,2’−ジメチル4,4’−ジアミノビフェニル(mTBHG)、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)4,4’−ジアミノビフェニル(TFMB)、o−トリジン(TOL)が好ましい。ビフェニル骨格が剛直な構造であることから、ビフェニル骨格を有するmTBHG、TFMB又はTOLを縮合重合させた(A)ポリイミド前駆体樹脂をポリイミド前駆体樹脂組成物(X)に含有させることで、この組成物(X)により形成されるポリイミド前駆体樹脂膜及びポリイミド樹脂膜の熱膨張係数を低くすることが可能となる。
【0046】
(A)ポリイミド前駆体樹脂を形成するときに縮合重合させるビフェニル骨格を有するモノマーは、(A1)芳香族テトラカルボン酸二無水物及び(A2)ジアミンうちの一方であっても、双方であっても良い。ビフェニル骨格を有するモノマーの含有量は、(A)芳香族テトラカルボン酸と(A2)ジアミンの合計モル量に対して40モル%以上とする必要があり、50モル%以上が好ましく、75モル%以上がより好ましい。上記モノマーの含有量が40モル%未満であると、ポリイミド前駆体樹脂組成物(X)により形成されるポリイミド前駆体膜及びポリイミド樹脂膜の熱膨張係数を十分に低くすることができない。
【0047】
(A)ポリイミド前駆体樹脂は、ポリアミック酸等の末端にフェノール基を導入したものであってもよい。フェノール基の導入は、例えば末端のカルボキシル基とフェノール誘導体とを反応させ、フェノール誘導体で末端のカルボキシル基を封止することで行うことができる。(A)ポリイミド前駆体樹脂は、ポリアミック酸等の末端にフェノール基の導入することで、剛直なビフェニル骨格を有するモノマーによって熱膨張係数を小さくしつつ、末端に導入されたフェノール基によってアルカリ性水溶液に対するエッチングによるパターニング性を向上させることができる。
【0048】
フェノール誘導体としては、例えば、m−アミノフェノール、p−アミノフェノール等が挙げられ、m−アミノフェノールが好ましい。フェノール誘導体の含有量としては、0.1モル%以上10%モル以下が好ましい。
【0049】
(A)ポリイミド前駆体樹脂の重量平均分子量としては、10,000〜100,000が好ましく、30,000〜80,000がさらに好ましい。重量平均分子量は、GPC装置を使用し、展開溶媒としてNMPを用い、単分散ポリスチレンを標準として測定した値である。重量平均分子量が上記範囲を超えると、ポリイミド前駆体樹脂組成物(X)の印刷性の低下、エッチング時の抜け残り等が発生しやすくなる。重量平均分子量が上記範囲未満であると、エッチング時ポリイミド前駆体樹脂膜の劣化が生じ、あるいはポリイミド樹脂膜の機械強度が不十分になる等の問題を生じるおそれがある。
【0050】
<(B)有機溶媒>
(B)有機溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ−ブチロラクトン(GBL)等が挙げられる。これらの(B)有機溶媒は、単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用しても良く、NMP若しくはDMAcを単独で、又はこれらを混合して使用することが好ましい。
【0051】
(B)有機溶媒の含有量としては、(A)ポリイミド前駆体樹脂(固形分)100質量部に対し、通常100質量部以上1,000質量部以下であり、300質量部以上700質量部以下が好ましい。
【0052】
<(C)他の成分>
(C)他の成分としては、例えば、着色剤、密着向上剤、感光剤、無機又は有機のフィラー、潤滑剤、反応性低分子、相溶化剤、ポリイミド前駆体樹脂以外の樹脂等が挙げられる。
【0053】
着色剤を含有させることで、エッチング時の視認性を向上させることが可能となる。着色剤としては、染料及び顔料のいずれであってもよく、例えば、フェノールフタレイン、フェノールレッド、ニールレッド、ピロガロールレッド、ピロガロールバイレット、ディスパースレッド1、ディスパースレッド13、ディスパースレッド19、ディスパースオレンジ1、ディスパースオレンジ3、ディスパースオレンジ13、ディスパースオレンジ25、ディスパースブルー3、ディスパースブルー14、エオシンB、ロダミンB、キナリザリン、5−(4−ジメチルアミノベンジリデン)ロダニン、アウリントリカルボキシアシド、アルミノン、アリザリン、パラローザニリン、エモジン、チオニン、メチレンバイオレット、ピグメントブルー、ピグメントレッド等が挙げられる。
【0054】
密着向上剤を含有させることで、基材や導体との密着力を向上させることができる。密着向上剤としては、例えば、チアジアゾール骨格又はトリアゾール骨格とチオール基とを有する化合物が挙げられる。チアジアゾール骨格又はトリアゾール骨格とチオール基とを有する化合物としては、5−アミノ−1,3,4−チアジアゾール−2−チオール、1,3,4−チアジアゾール−2,5−チオール、5―メチル−1,3,4−チアジアゾール−2−チオール、1H−1,3,4−トリアゾール−3−チオール等が挙げられる。
【0055】
例示した密着向上剤は、エッチング性を損なうことなく基材や導体とポリイミド樹脂膜との密着性を向上させる効果に優れている。特に、基材がニッケルである場合に密着力向上効果が高い。
【0056】
感光剤を含有させることで、ポリイミド前駆体樹脂組成物(X)に感光性を与えることができる。感光剤としては、ポジ型及びネガ型のいずれであってもよい。
【0057】
ポジ型感光剤は、紫外線や可視光が照射(露光)されることで酸を発生する化合物である。ポジ型感光剤としては、キノンジアジド化合物が挙げられる。このキノンジアジド化合物を含有させることで、ポリイミド前駆体樹脂膜における露光部と非露光部との溶解性の差が大きくなり現像によるパターニングが可能となる。
【0058】
キノンジアジド化合物としては、例えば、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホン酸エステル、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−4−スルホン酸エステル、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン及び2,3,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンの6−ジアゾ−ジヒドロ−5−オキソ−1−ナフタレンスルホン酸エステル等が挙げられる。
【0059】
ポジ型感光剤の含有量としては、ポリイミド前駆体樹脂(固形分)に対して5質量%以上50質量%以下が好ましく、10質量%以上40質量%以下がより好ましい。
【0060】
ネガ型感光剤としては、光重合性モノマーが挙げられる。この光重合性モノマーは、X線、電子線、紫外線等が照射(露光)されることで架橋する光反応性官能基を持つモノマーである。光重合性モノマーとしては、不飽和二重結合等の光反応性官能基とアミノ基とを有する化合物であってもよい。この化合物を含有させる場合、光重合開始剤としては、i線(波長365nm)吸収タイプとしてはα−アミノケトン型のもの、g線(波長436nm)吸収タイプとしてはチタノセン化合物等のメタロセン系のものがそれぞれ好ましく用いられる。
【0061】
ネガ型感光剤の含有量としては、ポリイミド前駆体樹脂のカルボキシル基に対して1当量以上1.5当量以下が好ましい。
光重合開始剤の含有量としては、例えばポリイミド前駆体樹脂(固形分)に対して0.1質量%以上10重量%以下が好ましい。
【0062】
[ポリイミド前駆体樹脂膜及びポリイミド樹脂膜]
当該ポリイミド樹脂膜は、ポリイミド前駆体樹脂組成物(X)に含有された(A)ポリイミド前駆体樹脂を脱水環化反応(イミド化)させることで得られる。脱水環化反応は、脱水試薬を用いて、あるいは加熱することで行うことが好ましい。脱水試薬としては三級アミン等のイミド化触媒及び酸無水物を含むものを使用することができる。加熱条件は、例えば温度200℃以上400℃以下で1時間以上20時間以下とされる。
【0063】
当該ポリイミド樹脂膜は、例えば基材上にポリイミド前駆体樹脂組成物(X)を塗布して塗膜形成する工程、塗膜を加熱することで(B)有機溶媒を除去してポリイミド前駆体樹脂膜を形成する工程、ポリイミド前駆体樹脂膜上にレジストを形成する工程、レジストに対してマスクを介して露光する工程、アルカリ性水溶液を用いてレジストを現像するとともにポリイミド前駆体樹脂膜をエッチングする工程、レジストを除去する工程、エッチング後のポリイミド前駆体樹脂膜を硬化する工程を経て形成することができる。
【0064】
ポリイミド前駆体樹脂組成物(X)の塗布は、スクリーン印刷やスピンコート等、一般的な方法を用いることができる。ポリイミド前駆体樹脂膜形成工程、レジスト形成工程、露光工程、現像(エッチング)工程、レジスト除去工程、及び硬化工程は、公知の方法と同様に行うことができる。レジストの現像液及びポリイミド前駆体樹脂のエッチング液であるアルカリ性水溶液としては、従来と同様のものを用いることができ、例えばテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、アンモニア等の水溶液が挙げられる。現像液としては、水溶性の有機溶媒や界面活性剤等を添加したものであっても良い。
【0065】
このようにして得られるポリイミド樹脂膜は、剛直な構造であるビフェニル骨格を有している。そのため、当該ポリイミド樹脂膜は、ビフェニル骨格に基づいて、熱膨張係数が低く適度な剛直性を有している。
【0066】
また、当該ポリイミド樹脂膜は、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)に由来する構造単位を含んでいる。このp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)は、吸水率が低い骨格を有するため、湿度膨張係数を下げることが可能となる。加えて、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)に基づくアルカリ溶解性によって、適切にパターニングされたポリイミド樹脂膜を得ることができる。
【0067】
このように、当該ポリイミド樹脂膜は、ビフェニル骨格を有するモノマーと、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)とを縮合重合させたポリイミド前駆体樹脂から形成されていることで、湿度膨張性及び熱膨張性の双方がバランス良く改善されたものとなる。具体的には、当該ポリイミド樹脂膜の湿度膨張係数は、10ppm/%RH未満とすることが可能である。当該ポリイミド樹脂膜の熱膨張係数は、10ppm/K以上25ppm/K以下とすることが可能である。
【0068】
また、当該ポリイミド樹脂膜を形成過程において得られるポリイミド前駆体樹脂膜は、ビフェニル骨格に基づく適度な剛直性とp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)に基づくアルカリ溶解性を有する。そのため、ポリイミド前駆体樹脂膜は、エッチングによるパターニング性のコントロールが容易化され、微細パターンの形成にも適用することが可能である。
【0069】
[フレキシブルプリント配線板、回路付きサスペンション及びハードディスクドライブ]
当該フレキシブルプリント配線板は、当該ポリイミド樹脂膜を保護膜等として有するものである。
【0070】
当該フレキシブルプリント配線板は、一例において、ポリイミド基材の片面に、銅等の金属からなる導体配線、及びこの導体配線上に保護膜として当該ポリイミド樹脂膜を形成したものである。保護膜は、導体配線を選択的に覆うものであってもよい。このような保護膜の形成には、エッチングが必要であるが、上述のようにポリイミド前駆体樹脂組成物(X)から形成されるポリイミド前駆体樹脂膜はエッチング性に優れる。そのため、導体配線上に適切に保護膜としてポリイミド樹脂膜を形成することが可能である。また、ポリイミド前駆体樹脂組成物(X)は、フレキシブルプリント配線板において、基材に導体配線を形成するための下地、保護膜を接着するための接着剤等、保護膜以外の他の用途のポリイミド樹脂膜を形成するために使用できる。
【0071】
当該フレキシブルプリント配線板は、他の例において、回路付きサスペンションの回路基板として使用できる。この回路基板は、例えばハードディスクドライブにおけるサスペンションのフレキシャーに積層され、回路付きサスペンションを構成するものである。この回路基板は、ステンレス等の金属箔基材上にポリイミド等の絶縁層、銅等の金属やニッケルめっきを施した導体配線(回路)、及び導体配線上に保護膜を形成したものである。
【0072】
上記回路基板を形成する場合、例えば保護膜として当該ポリイミド樹脂膜を形成した後に、導体配線や絶縁層をエッチングすることがある。そのため、保護膜には、ポリイミド用のエッチング液耐性、ニッケル剥離液耐性等の薬剤耐性が要求される。ポリイミドのエッチングは、例えば18質量%KOH及び60質量%エタノールアミンを含むエッチング液を用いて80℃程度で行われる。ニッケルの剥離は、例えば7質量%aqエタノールアミンを用いて50℃程度で行われる。これに対して、当該ポリイミド樹脂膜(保護膜)は、ビフェニル骨格のような剛直な構造を有しているため、フレキシャーに積層される回路基板の保護膜として好適に使用することができる。もちろん、当該ポリイミド樹脂膜は、下地膜、絶縁膜、接着膜等の他の目的の膜としても使用できる。
【0073】
ここで、当該ポリイミド樹脂膜の湿度膨張係数は、ステンレス及び銅の湿度膨張係数が非常に低いため、低ければ低いほど好ましい。また、当該ポリイミド樹脂膜の熱膨張係数は、ステンレス及び銅の熱膨張係数に近いほうが好ましい。ステンレス及び銅の熱膨張係数は、それぞれ約17ppm/℃及び約19ppm/℃である。
【0074】
一方、当該ポリイミド樹脂膜は、湿度膨張係数を10ppm/%RH未満、熱膨張係数を10ppm/K以上25ppm/K以下とすることが可能である。すなわち、当該ポリイミド樹脂膜は、湿度膨張係数を低くすることができ、熱膨張係数をステンレス及び銅に近い値とすることが可能である。そのため、当該ポリイミド樹脂膜は、湿度変化や温度変化による配線板の反りを適切に抑制できる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0076】
<実施例1>
o−トリジン(TOL)35.62g(168mmol)、及びp−フェニレンジアミン(PPD)18.14g(168mmol)を、N−メチル−2−ピロリドン720gに溶解させた後、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)49.36g(168mmol)、及びp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)76.9g(168mmol)を加えて窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。
その後、60℃で20時間撹拌し、共重合ワニス(ポリイミド前駆体樹脂組成物)を得た。この共重合ワニスの固形分は、18.6質量%であった。
【0077】
得られたポリイミド前駆体樹脂組成物を厚み40μmの銅箔上にスピンコート法によって塗布した後、120℃で30分間加熱乾燥して厚み20μmのポリイミド前駆体樹脂膜を形成した。次いで、ポジ型フォトレジスト(OFPR−800:東京応化工業株式会社)をスピンコート法によりポリイミド前駆体樹脂膜上に塗工し、120℃で15分間加熱乾燥して厚さ4〜8μmのレジスト皮膜を形成した。
テストパターンを介して露光量1000mJ/cmで紫外光を照射してレジストに50μm幅のラインアンドスペース(50μm L/S)をパターン形成した後、30℃のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)2.38質量%のアルカリ性水溶液で現像処理を行い、露光部のレジストを除去するとともに下層のポリイミド前駆体膜のパターニングを同時に行った。現像後のサンプルを蒸留水で十分洗浄した後、窒素気流で強制風乾燥した。
その後、30℃の酢酸ブチルで残ったレジストを除去してパターニングしたポリイミド前駆体樹脂膜を得た。得られたポリイミド前駆体樹脂膜は、窒素雰囲気下、120℃で30分間、220℃で30分間、350℃で60分間の熱処理を行ってポリイミド前駆体のイミド化を行ってポリイミド樹脂膜とした。
【0078】
<実施例2>
2,2’−ジメチル4,4’−ジアミノビフェニル(mTBHG)35.62g(168mmol)、及びp−フェニレンジアミン(PPD)18.14g(168mmol)をN−メチル−2−ピロリドン720gに溶解させた後、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)49.36g(168mmol)、及びp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)76.9g(168mmol)を加えて窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。
その後、60℃で20時間撹拌し、共重合ワニス(ポリイミド前駆体樹脂組成物)を得た。この共重合ワニスの固形分は、18.5質量%であった。
得られたポリイミド前駆体樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にしてポリイミド前駆体樹脂膜をパターニングした後にイミド化することでポリイミド樹脂膜を作成した。
【0079】
<実施例3>
2,2’−ジメチル4,4’−ジアミノビフェニル(mTBHG)23.95g(113mmol)、p−フェニレンジアミン(PPD)16.94g(157mmol)、4,4’−オキシジアニリン(ODA)6.27g(31mmol)、及び1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(APDS)3.11g(13mmol)をN−メチル−2−ピロリドン737gに溶解させた後、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)55.31g(188mmol)、及びp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)57.44g(125mmol)を加えて窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。
その後、60℃で20時間撹拌し、共重合ワニス(ポリイミド前駆体樹脂組成物)を得た。この共重合ワニスの固形分は、17.0質量%であった。
得られたポリイミド前駆体樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にしてポリイミド前駆体樹脂膜をパターニングした後にイミド化することでポリイミド樹脂膜を作成した。
【0080】
<実施例4>
2,2’−ジメチル4,4’−ジアミノビフェニル(mTBHG)55.02g(259mmol)、4,4’−オキシジアニリン(ODA)6.03g(30mmol)、及び1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(APDS)3.00g(12mmol)をN−メチル−2−ピロリドン737gに溶解させた後、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)70.92g(241mmol)、及びp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)27.62g(60mmol)を加えて窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。
その後、60℃で20時間撹拌し、共重合ワニス(ポリイミド前駆体樹脂組成物)を得た。この共重合ワニスの固形分は、16.0質量%であった。
得られたポリイミド前駆体樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にしてポリイミド前駆体樹脂膜をパターニングした後にイミド化することでポリイミド樹脂膜を作成した。
【0081】
<実施例5>
2,2’−ジメチル4,4’−ジアミノビフェニル(mTBHG)48.74g(230mmol)、4,4’−オキシジアニリン(ODA)12.10g(60mmol)、及び1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(APDS)3.00g(12mmol)をN−メチル−2−ピロリドン737gに溶解させた後、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)71.09g(242mmol)、及びp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)27.69g(60mmol)を加えて窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。
その後、60℃で20時間撹拌し、共重合ワニス(ポリイミド前駆体樹脂組成物)を得た。この共重合ワニスの固形分は、16.9質量%であった。
得られたポリイミド前駆体樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にしてポリイミド前駆体樹脂膜をパターニングした後にイミド化することでポリイミド樹脂膜を作成した。
【0082】
<実施例6>
2,2’−ジメチル4,4’−ジアミノビフェニル(mTBHG)50.38g(237mmol)、4,4’−オキシジアニリン(ODA)12.51g(62mmol)、及び1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(APDS)3.10g(12mmol)をN−メチル−2−ピロリドン737gに溶解させた後、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)82.68g(281mmol)、及びp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)14.31g(31mmol)を加えて窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。
その後、60℃で20時間撹拌し、共重合ワニス(ポリイミド前駆体樹脂組成物)を得た。この共重合ワニスの固形分は、16.9質量%であった。
得られたポリイミド前駆体樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にしてポリイミド前駆体樹脂膜をパターニングした後にイミド化することでポリイミド樹脂膜を作成した。
【0083】
<実施例7>
2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル−4,4’−ジアミン(TFMB)34.52g(108mmol)、p−フェニレンジアミン(PPD)16.19g(150mmol)、4,4’−オキシジアニリン(ODA)6.0g(30mmol)、及び1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(APDS)2.98g(12mmol)をN−メチル−2−ピロリドン737gに溶解させた後、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)61.67g(210mmol)、及びp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)41.17g(90mmol)を加えて窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。
その後、60℃で20時間撹拌し、共重合ワニス(ポリイミド前駆体樹脂組成物)を得た。この共重合ワニスの固形分は、17.0質量%であった。
得られたポリイミド前駆体樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にしてポリイミド前駆体樹脂膜をパターニングした後にイミド化することでポリイミド樹脂膜を作成した。
【0084】
<実施例8>
2,2’−ジメチル4,4’−ジアミノビフェニル(mTBHG)45.16g(213mmol)をN−メチル−2−ピロリドン757gに溶解させた後、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)97.50g(213mmol)を加えて窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。
その後、60℃で20時間撹拌し、共重合ワニス(ポリイミド前駆体樹脂組成物)を得た。この共重合ワニスの固形分は、14.9質量%であった。
得られたポリイミド前駆体樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にしてポリイミド前駆体樹脂膜をパターニングした後にイミド化することでポリイミド樹脂膜を作成した。
【0085】
<実施例9>
o−トリジン(TOL)45.16g(213mmol)をN−メチル−2−ピロリドン757gに溶解させた後、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)97.50g(213mmol)を加えて窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。
その後、60℃で20時間撹拌し、共重合ワニス(ポリイミド前駆体樹脂組成物)を得た。この共重合ワニスの固形分は、15.0質量%であった。
得られたポリイミド前駆体樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にしてポリイミド前駆体樹脂膜をパターニングした後にイミド化することでポリイミド樹脂膜を作成した。
【0086】
<実施例10>
2,2’−ジメチル4,4’−ジアミノビフェニル(mTBHG)70.33g(331mmol)をN−メチル−2−ピロリドン720gに溶解させた後、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)73.06g(248mmol)、及びp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)37.94g(83mmol)を加えて窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。
その後、60℃で20時間撹拌し、共重合ワニス(ポリイミド前駆体樹脂組成物)を得た。この共重合ワニスの固形分は、19.0質量%であった。
得られたポリイミド前駆体樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にしてポリイミド前駆体樹脂膜をパターニングした後にイミド化することでポリイミド樹脂膜を作成した。
【0087】
<実施例11>
o−トリジン(TOL)69.62g(328mmol)をN−メチル−2−ピロリドン720gに溶解させた後、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)72.36g(246mmol)、及びp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)37.58g(82mmol)を加えて窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。
その後、60℃で20時間撹拌し、共重合ワニス(ポリイミド前駆体樹脂組成物)を得た。この共重合ワニスの固形分は、18.8質量%であった。
得られたポリイミド前駆体樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にしてポリイミド前駆体樹脂膜をパターニングした後にイミド化することでポリイミド樹脂膜を作成した。
【0088】
<実施例12>
2,2’−ジメチル4,4’−ジアミノビフェニル(mTBHG)60.45g(285mmol)、4,4’−オキシジアニリン(ODA)7.13g(36mmol)、及び1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(APDS)8.84g(36mmol)をN−メチル−2−ピロリドン807.19gに溶解させた後、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)83.77g(285mmol)、及びp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)32.63g(71mmol)を加えて窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。
その後、60℃で20時間撹拌し、共重合ワニス(ポリイミド前駆体樹脂組成物)を得た。この共重合ワニスの固形分は、18.0質量%であった。
得られたポリイミド前駆体樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にしてポリイミド前駆体樹脂膜をパターニングした後にイミド化することでポリイミド樹脂膜を作成した。
【0089】
<実施例13>
2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル−4,4’−ジアミン(TFMB)72.84g(227mmol)、4,4’−オキシジアニリン(ODA)11.99g(60mmol)、及び1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(APDS)2.98g(12mmol)をN−メチル−2−ピロリドン819.22gに溶解させた後、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)79.25g(269mmol)、及びp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)13.72g(30mmol)を加えて窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。
その後、60℃で20時間撹拌し、共重合ワニス(ポリイミド前駆体樹脂組成物)を得た。この共重合ワニスの固形分は、17.0質量%であった。
得られたポリイミド前駆体樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にしてポリイミド前駆体樹脂膜をパターニングした後にイミド化することでポリイミド樹脂膜を作成した。
【0090】
<実施例14>
o−トリジン(TOL)44.34g(209mmol)、4,4’−オキシジアニリン(ODA)14.72g(74mmol)、及び1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(APDS)2.92g(12mmol)をN−メチル−2−ピロリドン839.41gに溶解させた後、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)64.9g(221mmol)、及びp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)33.7g(74mmol)を加えて窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。
その後、60℃で20時間撹拌し、共重合ワニス(ポリイミド前駆体樹脂組成物)を得た。この共重合ワニスの固形分は、15.0質量%であった。
得られたポリイミド前駆体樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にしてポリイミド前駆体樹脂膜をパターニングした後にイミド化することでポリイミド樹脂膜を作成した。
【0091】
<実施例15>
2,2’−ジメチル4,4’−ジアミノビフェニル(mTBHG)49.33g(232mmol)、4,4’−オキシジアニリン(ODA)20.53g(103mmol)、及び1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(APDS)1.70g(7mmol)をN−メチル−2−ピロリドン816.70gに溶解させた後、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)80.42g(273mmol)、及びp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)31.32g(68mmol)を加えて窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。
その後、60℃で20時間撹拌し、共重合ワニス(ポリイミド前駆体樹脂組成物)を得た。この共重合ワニスの固形分は、17.1質量%であった。
得られたポリイミド前駆体樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にしてポリイミド前駆体樹脂膜をパターニングした後にイミド化することでポリイミド樹脂膜を作成した。
【0092】
<実施例16>
2,2’−ジメチル4,4’−ジアミノビフェニル(mTBHG)60.23g(284mmol)、4,4’−オキシジアニリン(ODA)3.34g(17mmol)、及び1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(APDS)8.29g(33mmol)をN−メチル−2−ピロリドン818.98gに溶解させた後、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)78.56g(267mmol)、及びp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)30.59g(67mmol)を加えて窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。
その後、60℃で20時間撹拌し、共重合ワニス(ポリイミド前駆体樹脂組成物)を得た。この共重合ワニスの固形分は、16.9質量%であった。
得られたポリイミド前駆体樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にしてポリイミド前駆体樹脂膜をパターニングした後にイミド化することでポリイミド樹脂膜を作成した。
【0093】
<比較例1>
4,4’−オキシジアニリン(ODA)58.97g(294mmol)をN−メチル−2−ピロリドン740gに溶解させた後、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)86.64g(294mmol)を加えて窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。
その後、60℃で20時間撹拌し、共重合ワニス(ポリイミド前駆体樹脂組成物)を得た。この共重合ワニスの固形分は、15.0質量%であった。
得られたポリイミド前駆体樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にしてポリイミド前駆体樹脂膜をパターニングした後にイミド化することでポリイミド樹脂膜を作成した。
【0094】
<比較例2>
2,2’−ジメチル4,4’−ジアミノビフェニル(mTBHG)22.16g(104mmol)、p−フェニレンジアミン(PPD)10.15g(94mmol)、4,4’−オキシジアニリン(ODA)27.87g(139mmol)、及び1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(APDS)1.73g(7mmol)をN−メチル−2−ピロリドン736gに溶解させた後、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)102.36g(348mmol)を加えて窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。
その後、60℃で20時間撹拌し、共重合ワニス(ポリイミド前駆体樹脂組成物)を得た。この共重合ワニスの固形分は、17.0質量%であった。
得られたポリイミド前駆体樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にしてポリイミド前駆体樹脂膜をパターニングした後にイミド化することでポリイミド樹脂膜を作成した。
【0095】
<比較例3>
o−トリジン(TOL)22.16g(104mmol)、p−フェニレンジアミン(PPD)10.15g(94mmol)、4,4’−オキシジアニリン(ODA)27.87g(139mmol)、及び1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(APDS)1.73g(7mmol)をN−メチル−2−ピロリドン736gに溶解させた後、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)102.36g(348mmol)を加えて窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。
その後、60℃で20時間撹拌し、共重合ワニス(ポリイミド前駆体樹脂組成物)を得た。この共重合ワニスの固形分は、17.0質量%であった。
得られたポリイミド前駆体樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にしてポリイミド前駆体樹脂膜をパターニングした後にイミド化することでポリイミド樹脂膜を作成した。
【0096】
<比較例4>
p−フェニレンジアミン(PPD)15.17g(140mmol)、及び4,4’−オキシジアニリン(ODA)45.85g(229mmol)をN−メチル−2−ピロリドン725gに溶解させた後、ピロメリット酸二無水物(PMDA)49.95g(229mmol)、及びp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)64.33g(140mmol)を加えて窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。
その後、60℃で20時間撹拌し、共重合ワニス(ポリイミド前駆体樹脂組成物)を得た。この共重合ワニスの固形分は、18.0質量%であった。
得られたポリイミド前駆体樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にしてポリイミド前駆体樹脂膜をパターニングした後にイミド化することでポリイミド樹脂膜を作成した。
【0097】
<比較例5>
p−フェニレンジアミン(PPD)17.01g(157mmol)、及び4,4’−オキシジアニリン(ODA)34.13g(170mmol)をN−メチル−2−ピロリドン725gに溶解させた後、ピロメリット酸二無水物(PMDA)25.02g(115mmol)、及びp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)97.64g(213mmol)を加えて窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。
その後、60℃で20時間撹拌し、共重合ワニス(ポリイミド前駆体樹脂組成物)を得た。この共重合ワニスの固形分は、18.0質量%であった。
得られたポリイミド前駆体樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にしてポリイミド前駆体樹脂膜をパターニングした後にイミド化することでポリイミド樹脂膜を作成した。
【0098】
<比較例6>
2,2’−ジメチル4,4’−ジアミノビフェニル(mTBHG)51.25g(241mmol)、4,4’−オキシジアニリン(ODA)12.72g(64mmol)、及び1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(APDS)3.16g(13mmol)をN−メチル−2−ピロリドン818.56gに溶解させた後、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)56.07g(191mmol)、及びp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)58.23g(127mmol)を加えて窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。
その後、60℃で20時間撹拌し、共重合ワニス(ポリイミド前駆体樹脂組成物)を得た。この共重合ワニスの固形分は、17.0質量%であった。
得られたポリイミド前駆体樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にしてポリイミド前駆体樹脂膜をパターニングした後にイミド化することでポリイミド樹脂膜を作成した。
【0099】
<比較例7>
2,2’−ジメチル4,4’−ジアミノビフェニル(mTBHG)58.42g(275mmol)、4,4’−オキシジアニリン(ODA)14.50g(72mmol)、及び1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(APDS)3.60g(14mmol)をN−メチル−2−ピロリドン816.97gに溶解させた後、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)106.52g(362mmol)を加えて窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。
その後、60℃で20時間撹拌し、共重合ワニス(ポリイミド前駆体樹脂組成物)を得た。この共重合ワニスの固形分は、17.1質量%であった。
得られたポリイミド前駆体樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にしてポリイミド前駆体樹脂膜をパターニングした後にイミド化することでポリイミド樹脂膜を作成した。
【0100】
<比較例8>
2,2’−ジメチル4,4’−ジアミノビフェニル(mTBHG)63.74g(300mmol)、及び4,4’−オキシジアニリン(ODA)15.03g(75mmol)をN−メチル−2−ピロリドン798.49gに溶解させた後、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)88.33g(300mmol)、及びp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)34.40g(75mmol)を加えて窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。
その後、60℃で20時間撹拌し、共重合ワニス(ポリイミド前駆体樹脂組成物)を得た。この共重合ワニスの固形分は、18.8質量%であった。
得られたポリイミド前駆体樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にしてポリイミド前駆体樹脂膜をパターニングした後にイミド化することでポリイミド樹脂膜を作成した。
【0101】
<比較例9>
2,2’−ジメチル4,4’−ジアミノビフェニル(mTBHG)47.63g(224mmol)、4,4’−オキシジアニリン(ODA)14.97g(75mmol)、及び1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(APDS)18.58g(75mmol)をN−メチル−2−ピロリドン796.54gに溶解させた後、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)88.00g(299mmol)、及びp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)34.27g(75mmol)を加えて窒素雰囲気下室温で1時間撹拌した。
その後、60℃で20時間撹拌し、共重合ワニス(ポリイミド前駆体樹脂組成物)を得た。この共重合ワニスの固形分は、19.0質量%であった。
得られたポリイミド前駆体樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にしてポリイミド前駆体樹脂膜をパターニングした後にイミド化することでポリイミド樹脂膜を作成した。
【0102】
[評価]
実施例1〜16及び比較例1〜9で作成したポリイミド樹脂膜(厚さ約10μm)について、湿度膨張係数(CHE)熱膨張係数(CTE)、伸び、ガラス転移温度(Tg)、エッチングによるパターニング性、及びエッチング時の皮膜浮きを下記方法に従い評価した。実施例1〜8の評価結果については表1に、実施例9〜16の評価結果については表2に、比較例1〜9の評価結果については表3にそれぞれ示す。なお、表1〜表3において、「−」は、該当成分を配合していないか、評価を行っていないことを意味する。
【0103】
<湿度膨張係数(CHE)>
湿度膨張係数は、湿度30%RHで3時間安定させたサンプルの長さL1を測定し、その後に湿度を80%RHに変えて3時間安定させた後のサンプルの長さL2を測定し、下記数式に基づいて算出した。

CHE(ppm/%RH)=10×(L2−L1)/(L1×(80−30))

サンプルの長さの測定は、熱分析装置(EXSTAR TMA/SS6100:SIIナノテクノロジー株式会社(現株式会社日立ハイテクサイエンス)を用い、温度23℃の窒素気流下で行った。
サンプルサイズは、4.0mm×25mmとした。
【0104】
<熱膨張係数(CTE)>
熱膨張係数は、熱応力歪測定装置(「TMA/SS120C」:セイコーインスツルメンツ株式会社)を用いて、引張荷重を作用させて測定した。
熱膨張係数は、50℃から150℃までの昇温過程及び150℃から50℃までの降温過程のそれぞれについて熱膨張係数を測定し、昇温過程での熱膨張係数と降温過程での熱膨張係数との平均値とした。
昇温速度及び降温速度は、10℃/分とした。
サンプルサイズは、4.0mm×25mmとした。
【0105】
<伸び>
伸びは、引張試験機を用いて、チャック間距離20mm、10mm/minで引張試験を行い、破断伸びとして測定した。
【0106】
<ガラス転移温度(Tg)>
ガラス転移温度は、動的粘弾性測定装置(DMS)を用いて、温度範囲20℃〜500℃、昇温速度10℃/分の条件で測定した。
【0107】
<パターニング性(50μm L/S)及びエッチング時の皮膜浮き>
エッチングによるパターニング性は、走査型電子顕微鏡(S−9380:日立ハイテクノロジーズ製)を用い、ポリイミド樹脂膜に形成したラインアンドスペース(50μm L/S)を確認することで評価した。この評価と同時に、エッチング時の皮膜(ポリイミド前駆体膜)に浮きが生じているか否かを確認した。
【0108】

【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
【表3】
【0111】
表1及び表2の結果から明らかなように、実施例1〜16のポリイミド樹脂膜は、いずれも湿度膨張係数(CHE)及び熱膨張係数(CTE)が低く、エッチングによるパターニング性についても良好な結果が得られた。
【0112】
これに対して、表3の結果から明らかなように、比較例1〜3のポリイミド樹脂膜は、エッチングによるパターニング性について良好な結果が得られたが、湿度膨張係数(CHE)及び熱膨張係数(CTE)の少なくともいずれかが高くなった。
【0113】
比較例4,5,9のポリイミド樹脂膜は、湿度膨張係数(CHE)及び熱膨張係数(CTE)が低いが、エッチングによるパターニング性についてはポリイミド前駆体樹脂膜の溶解速度が大きすぎるためか、ポリイミド前駆体樹脂膜の一部が過剰に溶解していた。比較例7のポリイミド前駆体樹脂膜は、湿度膨張係数(CHE)が高いと共に、溶け残りが存在していた。
【0114】
表1〜表3の結果から明らかなように、エッチング時の皮膜浮きを評価したものについては、実施例4〜7及び実施例12〜16のポリイミド前駆体樹脂膜はエッチング時の皮膜浮きが発生せず、酸無水物として3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)のみを使用した比較例7を除き、他のポリイミド前駆体樹脂膜はエッチング時の皮膜浮きが発生した。
【0115】
実施例4〜7及び実施例12〜16のポリイミド前駆体樹脂組成物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物としてp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)及び3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を併用するものである。これらの実施例のポリイミド前駆体樹脂組成物では、TAHQの含有量が芳香族テトラカルボン酸二無水物の全量に対して10モル%以上30モル%以下であり、BPDAの含有量が芳香族テトラカルボン酸二無水物の全量に対して70モル%以上90モル%以下である。この結果から、アルカリ性水溶液に侵されやすいTAHQの含有量を30モル%以下と小さくすることで、微細なパターンを形成する場合であっても皮膜浮きの発生を抑制することと推察される。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明によれば、熱膨張性及び湿度膨張性が改善され、エッチングによるパターニング性に優れるポリイミド(前駆体)樹脂膜の作成に好適に使用することができるポリイミド前駆体樹脂組成物が提供される。