【実施例】
【0012】
図1に示されるように、サイリスタ型の静電気保護素子1は、半導体層10、絶縁膜20、アノード電極32及びカソード電極34を備える。半導体層10には、電気信号を処理する半導体集積回路(図示省略)が形成されている。静電気保護素子1は、その半導体集積回路と同一の半導体層10に形成されており、アノード電極32が半導体集積回路の電源端子に接続され、カソード電極34がGND端子に接続される。静電気保護素子1は、半導体集積回路の電源端子に印加される静電気から半導体集積回路を保護する。
【0013】
図1に示されるように、半導体層10は、シリコン単結晶であり、p型の基板11、n型のN型ウェル領域12、n
+型のN型ウェルコンタクト領域13、p
+型のアノード領域14、n
+型のN型高濃度領域15、p型のP型ウェル領域16、n
+型のカソード領域17及びp
+型のP型ウェルコンタクト領域18を有する。
【0014】
図1に示されるように、基板11は、半導体層10の裏層部に形成されており、半導体層10の表層部に各半導体領域12,13,14,15,16,17,18を形成した残部に相当する。基板11は、例えば、ドーパントとしてボロンを含んでおり、そのドーパント濃度が約5×10
14〜5×10
16cm
-3である。この例では、基板11のドーパント濃度が1×10
15cm
-3である。
【0015】
図1に示されるように、N型ウェル領域12は、半導体層10の表層部に形成されており、半導体層10の主面に露出する。N型ウェル領域12は、イオン注入技術を利用して、半導体層10の主面からリンを導入することで形成される。N型ウェル領域12のドーパント濃度は、約5×10
16〜2.5×10
17cm
-3である。この例では、N型ウェル領域12のドーパント濃度が1.27×10
17cm
-3である。N型ウェル領域12は、特許請求の範囲に記載の第1半導体領域の一例である。
【0016】
図1に示されるように、N型ウェルコンタクト領域13は、半導体層10の表層部に形成されており、半導体層10の主面に露出しており、アノード電極32に電気的に接続する。N型ウェルコンタクト領域13は、N型ウェル領域12に囲まれている。N型ウェルコンタクト領域13は、イオン注入技術を利用して、半導体層10の主面からリンを導入することで形成される。N型ウェルコンタクト領域13のドーパント濃度は、約5×10
18〜1×10
20cm
-3である。N型ウェルコンタクト領域13の厚みは、約0.2〜1.0μmである。この例では、N型ウェルコンタクト領域13のドーパント濃度が5×10
19cm
-3であり、その厚みが0.5μmである。N型ウェルコンタクト領域13は、N型ウェル領域12のうちのドーパント濃度が濃い部分であり、N型ウェル領域12の一部と評価できる。
【0017】
図1に示されるように、アノード領域14は、半導体層10の表層部に形成されており、半導体層10の主面に露出しており、アノード電極32に電気的に接続する。アノード領域14は、N型ウェル領域12に囲まれている。アノード領域14は、半導体層10の主面を含む面内において、N型ウェルコンタクト領域13とP型ウェル領域16の間に配置されている。
図2に示されるように、アノード領域14とカソード領域17を結ぶ方向のアノード領域14とカソード領域17の間の距離L1は、約10〜30μmである。この例では、アノード領域14とカソード領域17の間の距離L1が20μmである。アノード領域14は、イオン注入技術を利用して、半導体層10の主面からボロンを導入することで形成される。アノード領域14のドーパント濃度は、約5×10
18〜1×10
20cm
-3である。アノード領域14の厚みは、約0.2〜1.0μmである。この例では、アノード領域14のドーパント濃度が5×10
19cm
-3であり、その厚みが0.5μmである。アノード領域14は、特許請求の範囲に記載の第2半導体領域の一例である。
【0018】
図1に示されるように、N型高濃度領域15は、半導体層10の表層部に形成されており、半導体層10の主面から離れており、P型ウェル領域16よりも浅い位置に形成されている。N型高濃度領域15は、N型ウェル領域12及びP型ウェル領域16の双方に接しており、一部がN型ウェル領域12で囲まれており、他の一部がP型ウェル領域16で囲まれている。N型高濃度領域15は、N型ウェル領域12とP型ウェル領域16のPN接合面を分断するように配置されている。
【0019】
図2に示されるように、N型高濃度領域15は、半導体層10の主面に直交する方向から観測したときに、N型ウェル領域12とP型ウェル領域16のPN接合面が半導体層10の主面に露出する露出部分1Aに重複する位置に配置されている。N型高濃度領域15では、アノード領域14とカソード領域17を結ぶ方向の幅W1が、約2.0〜6.0μmである。この例では、N型高濃度領域15の幅W1は、4.0μmである。N型高濃度領域15は、イオン注入技術を利用して、半導体層10の主面からリンを導入することで形成される。N型高濃度領域15のドーパント濃度は、約5×10
18〜1×10
20cm
-3である。N型高濃度領域15の厚みは、約0.2〜1.0μmである。半導体層10の主面からN型高濃度領域15までの深さは、約0.5〜2.0μmである。この例では、N型高濃度領域15のドーパント濃度が5×10
19cm
-3であり、その厚みが0.3μmであり、その深さが0.5μmである。N型高濃度領域15は、特許請求の範囲に記載の第5半導体領域の一例である。
【0020】
図1に示されるように、P型ウェル領域16は、半導体層10の表層部に形成されており、半導体層10の主面に露出する。P型ウェル領域16は、N型ウェル領域12に囲まれている。P型ウェル領域16は、イオン注入技術を利用して、半導体層10の主面からボロンを導入することで形成される。P型ウェル領域16のドーパント濃度は、約2.5〜3.5×10
17cm
-3である。P型ウェル領域16の厚みは、約2〜5μmである。この例では、P型ウェル領域16のドーパント濃度が3.0×10
17cm
-3であり、その厚みが3.0μmである。P型ウェル領域16は、特許請求の範囲に記載の第3半導体領域の一例である。
【0021】
図1に示されるように、カソード領域17は、半導体層10の表層部に形成されており、半導体層10の主面に露出しており、カソード電極34に電気的に接続する。カソード領域17は、P型ウェル領域16に囲まれている。カソード領域17は、半導体層10の主面を含む面内において、N型ウェル領域12とP型ウェルコンタクト領域18の間に配置されている。カソード領域17は、イオン注入技術を利用して、半導体層10の主面からリンを導入することで形成される。カソード領域17のドーパント濃度は、約5×10
18〜1×10
20cm
-3である。カソード領域17の厚みは、約0.2〜1.0μmである。この例では、カソード領域17のドーパント濃度が5×10
19cm
-3であり、その厚みが0.5μmである。カソード領域17は、特許請求の範囲に記載の第4半導体領域の一例である。
【0022】
図1に示されるように、P型ウェルコンタクト領域18は、半導体層10の表層部に形成されており、半導体層10の主面に露出しており、カソード電極34に電気的に接続する。P型ウェルコンタクト領域18は、P型ウェル領域16に囲まれている。P型ウェルコンタクト領域18は、イオン注入技術を利用して、半導体層10の主面からボロンを導入することで形成される。P型ウェルコンタクト領域18のドーパント濃度は、約5×10
18〜1×10
20cm
-3である。P型ウェルコンタクト領域18の厚みは、約0.2〜1.0μmである。この例では、P型ウェルコンタクト領域18のドーパント濃度が5×10
19cm
-3であり、その厚みが0.5μmである。P型ウェルコンタクト領域18は、P型ウェル領域16のうちのドーパント濃度が濃い部分であり、P型ウェル領域16の一部と評価できる。
【0023】
図1に示されるように、絶縁膜20は、アノード電極32及びカソード電極34のコンタクト部分に開口が位置するように、半導体層10の主面の一部を被覆する。絶縁膜20は、半導体層10の主面に直交する方向から観測したときに、N型ウェル領域12とP型ウェル領域16のPN接合面の露出部分1Aを被覆する。絶縁膜20の材料は、酸化シリコンである。絶縁膜20は、熱酸化技術を利用して、半導体層10の主面を熱酸化することで形成される。
【0024】
次に、静電気保護素子1の動作について説明する。
図3に、静電気保護素子1のI−V特性のシミュレーション結果の概要を示す。アノード電極32に静電気が印加され、アノード電極32とカソード電極34の電位差が降伏電圧Vbに達すると、N型高濃度領域15とP型ウェル領域16の接合面でアバランシェ降伏が発生し、多量のキャリア(電子及び正孔)が生成する。次に、アノード電極32とカソード電極34の電位差がトリガ電圧Vtに達すると、アバランシェ降伏で生成した多量のキャリアがベース電流となってアノード領域14とN型ウェル領域12とN型高濃度領域15とP型ウェル領域16で構成されるPNPトランジスタが動作し、サイリスタがターンオンする。これにより、アノード電極32からカソード電極34に電流が流れ、アノード電極32の電位が過度に高くなることが防止される。
【0025】
ここで、アバランシェ降伏により生成した電子は、アバランシェ降伏の発生個所(N型高濃度領域15とP型ウェル領域16の接合面)の上方に存在する絶縁膜20に蓄積する。
図3では、絶縁膜20の半導体層10に接する面に蓄積した負電荷の電荷量を5×10
10cm
-2、5×10
11cm
-2、1×10
12cm
-2と変動させたときのシミュレーション結果の概要を示す。本実施例の静電気保護素子1では、I−V特性が、絶縁膜20に蓄積した負電荷の電荷量に実質的に依存しないことが確認された。具体的には、蓄積した負電荷の電荷量が5×10
10cm
-2の例のトリガ電圧Vtは約14.0Vであり、5×10
11cm
-2の例のトリガ電圧Vtは約14.0Vであり、1×10
12cm
-2の例のトリガ電圧Vtは約14.0Vである。このように、本実施例の静電気保護素子1では、サイリスタがターンオンするトリガ電圧Vtが、絶縁膜20に蓄積した負電荷の電荷量の影響を実質的に受けないことが確認された。
【0026】
ここで、
図4に、比較例の静電気保護素子2を示す。比較例の静電気保護素子2は、N型高濃度領域15が半導体層10の主面に露出し、絶縁膜20に接することを特徴とする。
図5に、比較例の静電気保護素子2のI−V特性のシミュレーション結果の概要を示す。
図5では、絶縁膜20の半導体層10に接する面に蓄積した負電荷の電荷量を5×10
10cm
-2、5×10
11cm
-2、1×10
12cm
-2と変動させたときのシミュレーション結果の概要を示す。比較例の静電気保護素子2では、I−V特性が、絶縁膜20に蓄積した負電荷の電荷量に依存することが確認された。具体的には、蓄積した負電荷の電荷量が5×10
10cm
-2の例のトリガ電圧Vtは約14.0Vであり、5×10
11cm
-2の例のトリガ電圧Vtは約14.5Vであり、1×10
12cm
-2の例のトリガ電圧Vtは約15.0Vである。このように、比較例の静電気保護素子2では、サイリスタがターンオンするトリガ電圧Vtが、絶縁膜20に蓄積した負電荷の電荷量が大きくなると高くなることが確認された。
【0027】
上記したように、本実施例の静電気保護素子1は、N型高濃度領域15が半導体層10の主面から離れて形成されているので、半導体層10の主面を被覆する絶縁膜20に負電荷が蓄積したとしても、その影響が抑えられる。これにより、本実施例の静電気保護素子1のトリガ電圧が安定する。
【0028】
図6に示されるように、変形例の静電気保護素子3では、N型高濃度領域15が、半導体層10の主面に直交する方向から観測したときに、N型ウェル領域12とP型ウェル領域16のPN接合面の露出部分1Aに沿って分散配置されていることを特徴とする。例示されるN型高濃度領域15は円形状であるが、これに限らず、矩形等の多角形であってもよい。このような形態のN型高濃度領域15は、曲率半径が小さくなるので、P型ウェル領域16との接合面での電界強度が高くなる。これにより、変形例の静電気保護素子3のトリガ電圧が低下する。なお、N型ウェルコンタクト領域13、アノード領域14、カソード領域17及びP型ウェルコンタクト領域18の各々も、半導体層10の主面に直交する方向から観測したときに、分散配置されていてもよい。
【0029】
図7に示されるように、変形例の静電気保護素子4では、N型高濃度領域15が、P型ウェル領域16の底部の同一の深さに形成されており、P型ウェル領域16のコーナー部に対応した位置に形成されていることを特徴とする。N型高濃度領域15は、N型ウェル領域12及びP型ウェル領域16の双方に接しており、一部がN型ウェル領域12で囲まれており、他の一部がP型ウェル領域16で囲まれている。変形例の静電気保護素子4でも、N型高濃度領域15が半導体層10の主面から離れて形成されているので、半導体層10の主面を被覆する絶縁膜20に負電荷が蓄積したとしても、その影響が抑えられる。これにより、変形例の静電気保護素子4のトリガ電圧が安定する。
【0030】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。