特許第6294135号(P6294135)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6294135-還元鉄の製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294135
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】還元鉄の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 13/12 20060101AFI20180305BHJP
   C21B 13/10 20060101ALI20180305BHJP
   C22B 1/244 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   C21B13/12
   C21B13/10
   C22B1/244
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-84554(P2014-84554)
(22)【出願日】2014年4月16日
(65)【公開番号】特開2015-203151(P2015-203151A)
(43)【公開日】2015年11月16日
【審査請求日】2016年9月1日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島本 正樹
(72)【発明者】
【氏名】細野 優維
(72)【発明者】
【氏名】吉田 紳吾
(72)【発明者】
【氏名】立石 雅孝
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−331344(JP,A)
【文献】 特開2009−167466(JP,A)
【文献】 特開2013−087344(JP,A)
【文献】 特開2003−049227(JP,A)
【文献】 特開平07−331341(JP,A)
【文献】 米国特許第04239530(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 3/00〜5/06,11/00〜15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鉱石および炭素質還元剤を含む混合物を塊成化する工程と、
得られた塊成物を加熱して、該塊成物中の酸化鉄を還元する工程を含み、
前記塊成物として、該塊成物中の全CaO量、全SiO量、および石英量に基づいて下記式(1)で算出されるX値が0.5〜6.0のものを用いることを特徴とする還元鉄の製造方法。
X=(全CaO)/[(全SiO)−(石英)] ・・・(1)
式(1)中、( )は、塊成物中の各成分の含有量(質量%)を示している。また、石英とは、X線回折および走査型電子顕微鏡を併用することにより、分析対象からSiとOのみが検出された鉱物相である。
【請求項2】
前記塊成物は、石英を0.5質量%以上含む請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鉱石や製鉄ダスト等の酸化鉄含有物質と、炭材等の炭素質還元剤とを含む塊成物を加熱して還元鉄を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原料として鉄鉱石を用いた製鉄プロセスは高炉−転炉法が主流である。しかし、高炉−転炉法は、高炉で鉄鉱石を還元して高炭素の溶銑を製造し、得られた溶銑を転炉で脱炭して鋼を製造するという所謂間接製鉄法であるため、鉄鉱石を還元して直接鋼を製造する直接製鉄法と比べると、CO2ガスの発生量が多くなる。そこで近年では、CO2ガスの排出量を抑制する観点から、直接製鉄法が見直されてきている。
【0003】
直接製鉄法としては、炭素質還元剤として入手が比較的容易な石炭を用いる還元鉄製造プロセスが注目されている。この還元鉄製造プロセスは、酸化鉄含有物質および炭素質還元剤を含む塊成物を加熱炉に装入し、炉内で加熱バーナーによるガス加熱や輻射熱で加熱することによって酸化鉄を還元して塊状の還元鉄を得るというものである。この還元鉄製造プロセスは、炭素質還元剤として石炭を用いることの他にも粉状の鉄鉱石を直接利用できること、還元時には鉄鉱石と還元剤が近接配置されているため、鉄鉱石中の酸化鉄を高速還元できること、還元して得られる製品中の炭素含有量を容易に調整できることといった利点を有している。
【0004】
上記還元鉄製造プロセスで粒状金属鉄を製造する方法として、本出願人は、特許文献1の技術を先に提案している。この文献に開示している粒状金属鉄の製造方法は、酸化鉄含有物質と炭素質還元剤を含む原料混合物を、移動炉床式加熱還元炉の炉床上に装入して加熱し、該原料混合物中の酸化鉄を前記炭素質還元剤により還元し、生成する金属鉄を副生するスラグと分離しつつ粒状に凝集させた後、冷却凝固させて粒状金属鉄を製造する方法において、(1)前記原料混合物に含まれるCaO供給物質、MgO供給物質およびSiO2供給物質の量を調整することによって、前記スラグ中のCaO、MgOおよびSiO2の含有量から求められる該スラグの塩基度[(CaO+MgO)/SiO2]を1.2〜1.5の範囲とし、且つ前記スラグ中のMgO量を5質量%以下(0質量%を含まない)とし、(2)前記原料混合物にCaF2供給物質を配合することによって前記スラグ中のCaF2量を2質量%以上とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−36058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記還元鉄製造プロセスで得られる還元鉄には、原料として用いられる鉄鉱石等の酸化鉄含有物質や石炭等の炭素質還元剤に含まれるCaO、SiO2、Al23といった脈石成分がスラグとして混入する。そのため還元鉄の品位は低くなる。鉄品位の低い還元鉄は、例えば、電気炉で溶解し、スラグを分離除去する必要がある。しかし還元鉄に含まれるスラグ量が増加すると、精錬時の歩留まりが低下するため、上記還元鉄製造プロセスで得られる還元鉄としては、スラグ含有量が少なく、鉄品位が高いものが求められている。
【0007】
上記還元鉄製造プロセスで得られる還元鉄の鉄品位を高めるには、原料として鉄品位の高い酸化鉄含有物質を用いることが有効である。しかし鉄鋼の生産量は世界的に増大している一方で、高品位鉄鉱石の採掘量は減少傾向にある。そのため高品位鉄鉱石の価格が上昇している。そこでコストを削減するには鉄品位の低い酸化鉄含有物質を用いる必要がある。しかし鉄品位の低い酸化鉄含有物質を用いると、還元鉄の歩留まりが低下し、還元鉄の生産性が悪かった。
【0008】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであり、その目的は、酸化鉄含有物質および炭素質還元剤を含む塊成物を加熱して還元鉄を製造するにあたり、鉄品位の高い酸化鉄含有物質を用いた場合のみならず、鉄品位の低い酸化鉄含有物質を用いた場合でも、還元鉄の生産性を向上できる手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決することのできた本発明に係る還元鉄の製造方法は、鉄鉱石および炭素質還元剤を含む混合物を塊成化する工程と、得られた塊成物を加熱して、該塊成物中の酸化鉄を還元する工程を含んでいる。そして、前記塊成物として、該塊成物中の全CaO量、全SiO量、および石英量に基づいて下記式(1)で算出されるX値が0.5〜6.0のものを用いる点に要旨を有する。下記式(1)中、( )は、塊成物中の各成分の含有量(質量%)を示している。また、石英とは、X線回折および走査型電子顕微鏡を併用することにより、分析対象からSiとOのみが検出された鉱物相である。
X=(全CaO)/[(全SiO)−(石英)] ・・・(1)
【0010】
前記塊成物は、石英を0.5質量%以上含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、塊成物を加熱して還元鉄を製造するにあたり、塊成物中の全CaO量、全SiO2量、および石英量が所定の関係を満足するように調整しているため、溶融スラグが速やかに形成される。その結果、還元鉄同士の凝集が促進され、還元鉄の歩留まりが向上し、還元鉄の生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、式(1)で算出されるX値と、生産性指数の相対値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、塊成物を加熱して還元鉄を製造するにあたり、還元鉄の歩留まりを向上させて、還元鉄の生産性を高めるために鋭意検討を重ねてきた。その結果、塊成物中の全CaO量、全SiO2量、および石英量が所定の関係を満足すれば、脈石が早期に溶融し、溶融スラグが速やかに形成されること、溶融スラグが速やかに形成されることによって還元鉄同士の凝集が促進されるため、還元鉄の生産性を向上できることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
まず、本発明を完成するに至った経緯について説明した後、本発明について詳述する。
【0015】
鉄品位の低い酸化鉄含有物質を用いて還元鉄を製造すると、上述したように、還元鉄の歩留まりが低下し、還元鉄の生産性が悪くなった。この原因は、酸化鉄含有物質に含まれる脈石にある。鉄品位の低い酸化鉄含有物質は、脈石を多く含むが、塊成物を加熱したときに、脈石が溶融せずに固体のまま存在すると、還元溶融して得られた還元鉄は、互いに凝集、合体し難くなるからである。そのため、還元鉄は、微細化し、脈石成分との分離性が悪くなり、還元鉄の歩留まりが低下する。そこで従来では、脈石を速やかに溶融させるために、上記特許文献1で提案したように、スラグの塩基度を調整した。
【0016】
本発明者らが、脈石の成分と還元鉄の歩留まりとの関係について更に検討したところ、脈石を構成する主要鉱物相である珪酸塩鉱物に含まれる石英の量が、脈石の滓化に大きく影響を及ぼすことが判明した。即ち、従来では、鉄鉱石で代表される酸化鉄含有物質の成分組成を測定する際は、鉄鉱石から検出されたSiは、Siの酸化物(SiO2)に換算して成分組成を測定していた。ところが、酸化鉄含有物質に含まれるSiは、金属のSiとして存在するものもあるが、大部分は、石英(SiO2)、カオリナイト[Al2Si25(OH)4]、カオリナイトに酸化鉄を含んだもの、アクチノ閃石[(Ca2(Mg,Fe)5Si822(OH)2]、カミングトン閃石[(Fe,Mg)7Si822(OH)2]、グリュネ閃石[Fe7Si822(OH)2]などの珪酸塩鉱物として存在する。これらの珪酸塩鉱物のうち、石英は、その他の鉱物相に比べて大型であり、粒径が大きい。また、石英は、共有結合で、各原子が非常に強固に結びついているため、反応性が乏しい。そのため塊成物を加熱しても、塊成物に含まれる石英の滓化には時間がかかる。従って、脈石と鉄鉱石や融点調整剤等が反応して溶融スラグが形成されても、石英は殆ど反応せずに固体のまま存在し、石英が溶融するタイミングは、還元鉄が得られる最終段階であった。そのため上記特許文献1で提案したように、溶融したスラグの流動性を高めるために塊成物の原料の配合割合を調整し、スラグの塩基度が所望の範囲を満足するように制御しても、石英が溶融し、スラグの塩基度が所望の範囲を満足するタイミングが、還元鉄が得られる最終段階であると、スラグの流動性を高めて還元鉄との分離性を良好なものとして還元鉄の歩留まりを高める効果は殆ど享受できない。還元鉄の歩留まり向上効果を享受するには、石英が溶融し、スラグの塩基度が所望の範囲を満足するようになってからも更に加熱を続ける必要がある。しかし加熱時間を長くすると、還元鉄の生産性が悪くなる。
【0017】
そこで本発明者らは、石英の滓化性が悪いことに着目し、石英の特徴を考慮した原料配合を行うことによって、脈石を速やかに溶融させ、液相率を高くし、溶融スラグの流動性を高めて還元鉄の歩留まりを向上させるために検討した。その結果、塊成物として、該塊成物中の全CaO量、全SiO2量、および石英量に基づいて下記式(1)で算出されるX値が0.5〜6.0のものを用いれば、還元鉄の歩留まりを向上させることができ、還元鉄の生産性を高められることを見出した。下記式(1)中、( )は、塊成物中の各成分の含有量(質量%)を示している。
X=(全CaO)/[(全SiO2)−(石英)] ・・・(1)
【0018】
上記式(1)は、石英の滓化性が悪いことを考慮して設計した式であり、分子は、塊成物に含まれるCaをCaOに換算した全CaO量、分母は、塊成物に含まれるSiをSiO2に換算した全SiO2量から、石英の量を引いた値を示している。このX値は、塩基度に相当しており、本発明では、X値を0.5〜6.0と規定する。なお、酸化鉄含有物質に含まれる脈石、および炭素質還元剤に含まれる灰分に、CaOは含まれる他、後述する融点調整剤としても塊成物に配合されるが、CaOは、滓化性が良好であるため、塊成物に含まれるCaをCaOに換算した値を分子とすればよい。
【0019】
上記X値が0.5を下回ると、塊成物中のSi含有物量が過剰となり、スラグの粘性が向上し、流動性が低下するため、還元鉄の歩留まりが低下する。従って本発明では、上記X値は、0.5以上とし、好ましくは0.6以上、より好ましくは1.0以上とする。しかし、上記X値が6.0を超えると、CaOが過剰となり、スラグの融点が上昇するため、還元鉄の歩留まりが低下する。従って本発明では、上記X値は、6.0以下とし、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.0以下とする。
【0020】
上記塊成物に含まれる石英の量は、X線回折および走査型電子顕微鏡を併用することによって定量できる。即ち、走査型電子顕微鏡観察におけるマッピング機能で珪酸塩鉱物相を検出し、走査型電子顕微鏡に付属するEDS(Energy dispersive X-ray spectrometry)等で組成分析を行い、分析対象物からSiおよびOのみが検出された場合を石英と判定して定量する。一方、SiおよびO以外に、例えば、Al、Ca、Mg、Fe等の元素が検出された場合は、石英以外の鉱物相と判定して定量する。なお、通常用いられる鉄鉱石は、石英を0.1質量%以上含んでいる。
【0021】
以上、本発明を最も特徴付けるX値について説明した。
【0022】
次に、本発明に係る還元鉄の製造方法について説明する。
【0023】
本発明に係る還元鉄の製造方法は、
酸化鉄含有物質および炭素質還元剤を含む混合物を塊成化する工程(以下、塊成化工程ということがある)と、
得られた塊成物を加熱して、該塊成物中の酸化鉄を還元する工程(以下、加熱還元工程ということがある)を含み、
前記塊成物として、上述した上記X値が0.5〜6.0のものを用いるところに特徴がある。
【0024】
[塊成化工程]
塊成化工程では、酸化鉄含有物質および炭素質還元剤を含む混合物を塊成化し、塊成物を製造する。
【0025】
上記酸化鉄含有物質としては、具体的には、鉄鉱石、砂鉄、製鉄ダスト、非鉄精錬残渣、製鉄廃棄物などの酸化鉄含有物質を用いることができる。
【0026】
上記炭素質還元剤としては、例えば、石炭やコークスなどを用いることができる。
【0027】
上記炭素質還元剤は、上記酸化鉄含有物質に含まれる酸化鉄を還元できる量の炭素を含有していればよい。具体的には、上記酸化鉄含有物質に含まれる酸化鉄を還元できる炭素量に対して、0〜5質量%の余剰または0〜5質量%の不足の範囲で含有していればよい。即ち、上記酸化鉄含有物質に含まれる酸化鉄を還元できる炭素量に対して、±5質量%の範囲で含有していればよい。
【0028】
上記酸化鉄含有物質および炭素質還元剤を含む上記混合物には、更に融点調整剤またはバインダーを配合してもよい。
【0029】
上記融点調整剤とは、酸化鉄含有物質中の脈石や、炭素質還元剤中の灰分の融点を下げる作用を有する物質を意味する。即ち、上記混合物に融点調整剤を配合することによって、塊成物に含まれる酸化鉄以外の成分(特に、脈石)の融点に影響を与え、例えばその融点を降下させることができる。それにより脈石は、溶融が促進され、溶融スラグを形成する。このとき酸化鉄の一部は溶融スラグに溶解し、溶融スラグ中で還元されて金属鉄となる。溶融スラグ中で生成した金属鉄は、固体のまま還元された金属鉄と接触することにより、固体の還元鉄として凝集する。
【0030】
上記融点調整剤としては、例えば、CaO供給物質、MgO供給物質、Al23供給物質などを用いることができる。上記CaO供給物質としては、例えば、CaO(生石灰)、Ca(OH)2(消石灰)、CaCO3(石灰石)、およびCaMg(CO32(ドロマイト)よりなる群から選ばれる少なくとも一つを用いることができる。上記MgO供給物質としては、例えば、MgO粉末、天然鉱石や海水などから抽出されるMg含有物質、MgCO3よりなる群から選ばれる少なくとも一つを配合してもよい。上記Al23供給物質としては、例えば、Al23粉末、ボーキサイト、ベーマイト、ギブサイト、ダイアスポアなどを配合できる。
【0031】
上記バインダーとしては、例えば、コーンスターチや小麦粉等の澱粉などの多糖類を用いることができる。
【0032】
本発明では、塊成物中の全CaO量、全SiO2量、および石英量に基づいて算出される上記X値が0.5〜6.0を満足するように、上記酸化鉄含有物質および炭素質還元剤、更に必要に応じて混合する融点調整剤およびバインダー等の配合量を調整することが重要である。
【0033】
上記塊成物に含まれる石英の量は、0.5質量%以上であってもよいし、1.0質量%以上であってもよい。更には、1.5質量%以上であってもよい。上記塊成物に含まれる石英の量の上限は、上記式(1)に基づいて算出されるX値が上記範囲を満足すれば特に限定されないが、上限は、例えば、5.0質量%である。なお、石英は、主に酸化鉄含有物質(特に、鉄鉱石)に含まれる成分であり、酸化鉄含有物質に含まれる石英量は、上述したように、X線回折および走査型電子顕微鏡を併用することによって定量できる。
【0034】
上記酸化鉄含有物質、炭素質還元剤、および融点調整剤は、混合する前に予め粉砕しておくことが好ましい。例えば、上記酸化鉄含有物質は平均粒径が10〜60μm、上記炭素質還元剤は平均粒径が10〜1000μm、上記融点調整剤は平均粒径が5〜90μmとなるように粉砕することが推奨される。
【0035】
上記酸化鉄含有物質等を粉砕する手段は特に限定されず、公知の手段を採用できる。例えば、振動ミル、ロールクラッシャ、ボールミルなどを用いればよい。
【0036】
上記原料の混合には、回転容器形や固定容器形の混合機を用いることができる。上記混合機の型式は、回転容器形としては、例えば、回転円筒形、二重円錐形、V形などが挙げられるが、特に限定されない。固定容器形としては、例えば、混合槽内に鋤などの回転羽を設けたものがあるが、特に限定されない。
【0037】
上記混合物を塊成化する塊成機としては、例えば、皿形造粒機(ディスク形造粒機)、円筒形造粒機(ドラム形造粒機)、双ロール型ブリケット成型機などを用いることができる。
【0038】
上記塊成物の形状は特に限定されず、成型はペレット、ブリケット、押し出しのどれで実施しても構わない。
【0039】
[加熱還元工程]
加熱還元工程では、上記塊成化工程で得られた塊成物を加熱して、該塊成物中の酸化鉄を還元することによって還元鉄を製造する。
【0040】
上記塊成物の加熱は、例えば、電気炉や移動炉床式加熱炉で行えばよい。上記移動炉床式加熱炉とは、炉床がベルトコンベアのように炉内を移動する加熱炉であり、例えば、回転炉床炉やトンネル炉が挙げられる。上記回転炉床炉は、炉床の始点と終点が同じ位置になるように、炉床の外観形状が、円形またはドーナツ状に設計されており、炉床上に装入された塊成物に含まれる酸化鉄は、炉内を一周する間に加熱還元されて還元鉄を生成する。従って、回転炉床炉には、回転方向の最上流側に塊成物を炉内に装入する装入手段が設けられ、回転方向の最下流側に排出手段が設けられる。なお、回転構造であるため、実際には装入手段の直上流側になる。上記トンネル炉とは、炉床が直線方向に炉内を移動する加熱炉である。
【0041】
上記塊成物は、1300〜1500℃で加熱して加熱還元することが好ましい。加熱温度が1300℃を下回ると、金属鉄やスラグが溶融しにくく、高い生産性が得られない。一方、加熱温度が1500℃を超えると、排ガス温度が高くなるため、排ガス処理設備が大掛かりなものとなって設備コストが増大する。
【0042】
上記電気炉や移動炉床式加熱炉に上記塊成物を装入するに先立ち、炉床保護のために炭素質、耐火セラミックス等の床敷材を敷くことが望ましい。上記床敷材としては、上記炭素質還元剤として例示したものの他、耐火性粒子を用いることができる。上記床敷材の粒径は、塊成物やその溶融物が潜り込まないように、例えば、3mm以下であることが好ましい。上記粒径の下限は、バーナーの燃焼ガスによって吹き飛ばされないように、例えば、0.5mm以上であることが好ましい。
【0043】
[その他]
上記加熱還元工程で得られた還元鉄は、副生したスラグや、必要に応じて敷かれた床敷材等と共に炉内から排出し、篩や磁選機等を用いて選別して還元鉄を回収すればよい。
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限を受けるものではなく、前記および後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0045】
酸化鉄含有物質、炭素質還元剤、および融点調整剤を含む混合物を塊成化し、塊成物を製造した。
【0046】
上記酸化鉄含有物質としては、下記表1に示す成分組成の鉄鉱石Aまたは鉄鉱石Bを用いた。鉄鉱石の成分組成のうち、T.Fe、および全FeOはニクロム酸カリウム滴定法で、全SiO2、全CaO、全Al23、全MgO、全MnO、全TiO2、およびPはICP発光分光分析法で、S、およびT.Cは燃焼赤外線吸収法で、全Na2Oは原子吸光光度法で定量した。なお、全SiO2には、後記で別途定量する石英も含まれる。また、鉄鉱石に含まれる石英の量は、走査型電子顕微鏡に付属するEDSで鉄鉱石の成分組成を分析し、SiとOのみが検出された場合を石英と判定して定量した。一方、SiとO以外に、例えば、Al、Ca、Mg、Feなどが検出された場合は、石英以外の鉱物相と判定して定量した。
【0047】
上記炭素質還元剤としては、下記表2に示す成分組成の炭材を用いた。表2において、Fix.Cは固定炭素、T.Cは全炭素を示している。炭材の成分組成のうち、揮発分はJIS M8812で規定される揮発分定量方法で定量した。灰分はJIS M8812で規定される灰分定量方法で定量した。Fix.CはJIS M 8812で規定される固定炭素質量分率算出方法により、Fix.C=100−灰分の質量−揮発分の質量(いずれも単位は質量%)で定量した。また、S、およびT.Cは燃焼赤外線吸収法で定量した。また、灰分の成分組成のうち、全Fe23、全SiO2、全CaO、全Al23、全MgO、全TiO2、全P25はICP発光分光分析法で、全Na2O、全K2Oは原子吸光光度法で定量した。
【0048】
上記融点調整剤としては、石灰石を用いた。
【0049】
上記鉄鉱石、炭材、および石灰石と、更にバインダーとして小麦粉を下記表3に示す割合で配合し、適量の水を加えたものを、タイヤ型造粒機を用いて平均直径が19mmの生ペレットを造粒した。得られた生ペレットを乾燥機に装入し、180℃で1時間加熱して付着水を除去して乾燥した。得られた乾燥ペレットに含まれる全CaO量、全SiO2量、および石英量を下記表3に示す。また、乾燥ペレット中の全CaO量、全SiO2量、および石英量に基づいて上記式(1)によりX値を算出し、その結果を下記表3に示す。
【0050】
次に、下記表3に示した配合割合で調製したNo.1〜4の乾燥ペレットを、夫々、30個ずつ加熱炉に供給し、1450℃で加熱し、乾燥ペレット中の酸化鉄を還元して還元鉄を製造した。なお、加熱炉の炉床保護のために、乾燥ペレットの投入に先立ち、炉床に床敷材を敷いた。床敷材としては、最大粒径が2mm以下の炭材(無煙炭)を用いた。加熱中は、加熱炉内に、窒素ガスを40体積%と二酸化炭素ガスを60体積%の割合で混合した混合ガスを、ガス流量が440NL/分となるように流した。還元終了後、加熱炉内から還元鉄を含む被加熱物を排出し、篩分けした。被加熱物の篩分けには、目開きが3.35mmの篩を用い、篩上の残留物を製品として回収した。篩上の残留物の質量(kg)と、加熱炉に装入した鉄の合計質量(kg)に基づいて、下記式(2)により還元鉄の歩留まり(%)を算出した。なお、篩上の残留物には、Fe以外に、C、Si、Mn等も含まれるため、還元鉄の歩留まりは100%を超えることがある。
歩留まり(%)=(篩上の残留物の質量/加熱炉に装入した鉄の合計質量)×100 ・・・(2)
【0051】
また、乾燥ペレットを加熱炉に供給してから還元鉄を含む試料を排出するまでの時間を反応時間(時間)として計測した。
【0052】
篩上に残留した残留物を製造するときの生産性指数を下記式(3)により算出した。即ち、まず、加熱炉に供給した鉄の合計質量(kg)を、乾燥ペレットを敷いた炉床の面積(m2)で除算して、単位面積当たりの鉄量(kg/m2)を求めた。次に、単位面積当たりの鉄量(kg/m2)に、還元鉄の歩留まり(%)を掛け、単位面積当たりで回収した篩上に残留した残留物の質量(kg/m2)を求めた。次に、単位面積当たりで回収した篩上に残留した残留物の質量(kg/m2)を、反応時間(時間)で除して、篩上に残留した残留物の生産性指数(kg/m2/h)を求めた。
生産性指数(kg/m2/h)=[(加熱炉に供給した鉄の合計質量/乾燥ペレットを敷いた炉床の面積)×歩留まり]/反応時間 ・・・(3)
【0053】
下記表3に示したNo.1〜4において、No.4における生産性指数を1.00とし、No.1〜3の生産性指数の相対値を算出し、その結果を下記表3に示す。本発明では、生産性指数の相対値が1.10以上となる場合を合格とし、還元鉄の生産性を向上できていると評価した。
【0054】
また、式(1)のX値と、生産性指数の相対値との関係を図1に示す。図1において、○印は、No.1〜3の結果を示しており、×印は、No.4の結果を示している。
【0055】
下記表3および図1から次のように考察できる。No.4は、本発明で規定する要件を満足しない例である。即ち、乾燥ペレットに含まれる全CaO量、全SiO2量、および石英量に基づいて上記式(1)で算出されるX値が、本発明で規定する要件を満足していない。一方、No.1〜3は、本発明で規定する要件を満足する例である。即ち、乾燥ペレットに含まれる全CaO量、全SiO2量、および石英量に基づいて上記式(1)で算出されるX値が、所定の範囲を満足しているため、生産性は、No.4に比べて10%以上向上した。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
図1