特許第6294158号(P6294158)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294158
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】イオン液体、潤滑剤及び磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
   C07C 317/04 20060101AFI20180305BHJP
   C10M 105/72 20060101ALI20180305BHJP
   C10M 105/60 20060101ALI20180305BHJP
   C10M 105/50 20060101ALI20180305BHJP
   C07C 211/07 20060101ALI20180305BHJP
   C07D 487/04 20060101ALI20180305BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20180305BHJP
   C10N 40/18 20060101ALN20180305BHJP
【FI】
   C07C317/04CSP
   C10M105/72
   C10M105/60
   C10M105/50
   C07C211/07
   C07D487/04 147
   C07D487/04 150
   C10N30:08
   C10N40:18
【請求項の数】7
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2014-111223(P2014-111223)
(22)【出願日】2014年5月29日
(65)【公開番号】特開2015-224235(P2015-224235A)
(43)【公開日】2015年12月14日
【審査請求日】2016年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】近藤 洋文
(72)【発明者】
【氏名】初田 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 牧八
(72)【発明者】
【氏名】多納 信郎
(72)【発明者】
【氏名】ユン キョンソン
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 正義
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−095007(JP,A)
【文献】 特開2006−321856(JP,A)
【文献】 特開2005−154755(JP,A)
【文献】 特開2005−089667(JP,A)
【文献】 特表平06−503842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 317/04
C07C 211/07
C07D 487/04
C10M 105/50
C10M 105/60
C10M 105/72
C10N 30/08
C10N 40/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役酸(B)と共役塩基(X)とを有し、プロトン性であるイオン液体を含有し、
前記イオン液体が、下記一般式(2)〜一般式(4)のいずれかで表され、
前記共役塩基が、下記一般式(1)で表されることを特徴とする潤滑剤。
【化1】
前記一般式(2)〜一般式(4)中、Xは、前記一般式(1)で表される共役塩基である。
前記一般式(2)中、R、R、R、及びRは、置換基であり、R、R、R、及びRのうち、少なくとも1つは水素原子であり、少なくとも1つは炭素数が10以上の直鎖状の炭化水素基を含む基である。
前記一般式(3)中、Rは、炭素数が10以上の直鎖状の炭化水素基を含む基である。nは、0又は1である。
前記一般式(4)中、Rは、炭素数が10以上の直鎖状の炭化水素基を含む基である。
【化2】
前記一般式(1)中、nは、0〜6の整数を表す。
【請求項2】
共役塩基が、下記構造式(1)で表される請求項1に記載の潤滑剤。
【化3】
【請求項3】
炭化水素基が、アルキル基である請求項1から2のいずれかに記載の潤滑剤。
【請求項4】
非磁性支持体と、前記非磁性支持体上に磁性層と、前記磁性層上に請求項1から3のいずれかに記載の潤滑剤とを有することを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項5】
共役酸(B)と共役塩基(X)とを有し、
下記一般式(2)〜一般式(4)のいずれかで表され、
前記共役塩基が、下記一般式(1)で表され、
プロトン性であることを特徴とするイオン液体。
【化4】
前記一般式(2)〜一般式(4)中、Xは、前記一般式(1)で表される共役塩基である。
前記一般式(2)中、R、R、R、及びRは、置換基であり、R、R、R、及びRのうち、少なくとも1つは水素原子であり、少なくとも1つは炭素数が10以上の直鎖状の炭化水素基を含む基である。
前記一般式(3)中、Rは、炭素数が10以上の直鎖状の炭化水素基を含む基である。nは、0又は1である。
前記一般式(4)中、Rは、炭素数が10以上の直鎖状の炭化水素基を含む基である。
【化5】
前記一般式(1)中、nは、0〜6の整数を表す。
【請求項6】
共役塩基が、下記構造式(1)で表される請求項5に記載のイオン液体。
【化6】
【請求項7】
炭化水素基が、アルキル基である請求項5から6のいずれかに記載のイオン液体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン性イオン液体、該イオン液体を含有する潤滑剤、及びそれを用いた磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薄膜磁気記録媒体では、磁気ヘッドと媒体表面における摩擦や摩耗を減少させるために磁性層表面に潤滑剤が塗布される。実際の潤滑剤の膜厚は、スティクションのような接着を避けるため、分子レベルになる。それゆえ、薄膜磁気記録媒体において、最も重要なことは、あらゆる環境下においても、優れた耐摩耗性を有する潤滑剤の選択にあるといっても過言ではない。
【0003】
磁気記録媒体のライフにおいて、脱離、スピンオフ、化学的な劣化などを生じさせずに、潤滑剤を媒体表面に存在させることは重要である。潤滑剤を媒体表面に存在させることは、薄膜磁気記録媒体の表面が平滑になるほど困難となる。これは、薄膜磁気記録媒体が塗布型磁気記録媒体のような潤滑剤の補充能力を有していないからである。
【0004】
また、潤滑剤と磁性層表面の保護膜との接着力が弱い場合には、加熱や摺動時に潤滑剤膜厚の減少が生じ、摩耗を加速することになるため、多量の潤滑剤が必要とされる。多量の潤滑剤は、移動性の潤滑剤となり、消失した潤滑剤の補充機能を持たせることができる。しかし、過剰な潤滑剤は、潤滑剤の膜厚を表面疎度よりも大きくするため、接着に関連する問題が生じ、致命的な場合にはスティクションとなってドライブ不良の原因になるというジレンマがある。これらの摩擦の問題は、従来のパーフルオロポリエーテル(PFPE)系潤滑剤では、十分には解決されていない。
【0005】
特に、表面平滑性の高い薄膜磁気記録媒体では、これらのトレードオフを解消するために、新規潤滑剤が分子設計され、合成されている。また、PFPEの潤滑性に関する報告が数多く提出されている。このように、磁気記録媒体において、潤滑剤は、大変重要なものである。
【0006】
表1に、代表的なPFPE系潤滑剤の化学構造を示す。
【0007】
【表1】
【0008】
表1中のZ−DOLは、一般に使用されている薄膜磁気記録媒体用の潤滑剤の一つである。また、Z−Tetraol(ZTMD)は、機能性の水酸基をPFPEの主鎖にさらに導入したものであり、ヘッドメディアインターフェイスの隙間を減少させながらドライブの信頼性を高めるとの報告がある。A20Hは、PFPE主鎖のルイス酸やルイス塩基による分解を抑え、トライボロジー特性を改善するとの報告がある。一方、Monoは、高分子主鎖及び極性基が、上記のPFPEと異なり、それぞれポリノルマルプロピルオキシとアミンであり、ニアコンタクトにおける接着相互作用を減少させるとの報告がある。
【0009】
しかし、融点が高く熱的に安定と考えられる一般的な固体潤滑剤では、非常に高感度である電磁変換プロセスを妨害し、また、ヘッドによって削られた摩耗粉が走行トラックに生じるために摩耗特性が悪くなる。前述のように液体潤滑剤では、ヘッドによる摩耗によって取り除かれた潤滑剤に対して隣の潤滑層から移動して補充するといった移動性がある。しかし、この移動性のために、特に高温では、ディスク稼働中にディスク表面からスピンオフして潤滑剤が減少し、その結果、防護機能が失われる。このため、粘度が高くまた低揮発性の潤滑剤が好適に用いられており、蒸発速度を抑え、ディスクドライブの寿命を延ばすことを可能としている。
【0010】
これらの潤滑機構から鑑みると、薄膜磁気記録媒体に用いられる低摩擦、低摩耗の潤滑剤への要求としては、以下のようになる。
(1)低揮発性であること。
(2)表面補充機能のために低表面張力であること。
(3)末端極性基とディスク表面への相互作用があること。
(4)使用期間での分解、減少がないように、熱的及び酸化安定性が高いこと。
(5)金属、ガラス、高分子に対して化学的に不活性で、ヘッドやガイドに対して摩耗粉を生じないこと。
(6)毒性、可燃性がないこと。
(7)境界潤滑特性に優れていること。
(8)有機溶媒に溶解すること。
【0011】
近年、蓄電材料、分離技術、触媒技術などにおいて、イオン液体が、有機や無機材料合成のための環境にやさしい溶媒の一つとして、注目を集めている。イオン液体は、低融点の溶融塩という大きな範疇に入るが、一般的には、その中でも融点が100℃以下のものをいう。潤滑剤として使用するイオン液体の重要な特性として、揮発性が低いこと、可燃性がないこと、熱的に安定であること、溶解性能に優れていることがある。それゆえイオン液体はその特徴から、真空中や高温中等の極限環境下における新規潤滑剤としての適用も期待されている。また単一の自己形成量子ドットトランジスタのゲートにイオン液体を使用することによりトランジスタの制御性を従来の100倍に高める技術も知られている。この技術では、イオン液体が電気二重層を形成し1nm程度の絶縁膜として働いたことにより大きな電気容量が得られている。
【0012】
例えば金属やセラミックス表面での摩擦及び摩耗が、あるイオン液体を用いることにより、従来の炭化水素系潤滑剤と比較して低減することがある。例えばフルオロアルキル基で置換してイミダゾールカチオンベースのイオン液体が合成され、アルキルイミダゾリウムのテトラフルオロホウ酸塩やヘキサフルオロリン酸塩が、鋼、アルミニウム、銅、単結晶SiO、シリコン、サイアロンセラミックス(Si−Al−O−N)に用いた場合、環状フォスファゼン(X−1P)やPFPEよりも優れたトライボロジー特性を示すとの報告がある。また、アンモニウムベースのイオン液体では、弾性流体から境界潤滑領域において、ベースオイルよりも摩擦を低下させる報告もある。また、イオン液体は、ベースオイルへの添加剤としての効果が調べられたり、化学的な及びトライボ化学的な反応が潤滑機構を理解するうえで研究されたりしているが、磁気記録媒体としての応用例はほとんどない。
【0013】
その中で、プロトン性のイオン液体(PIL)は、ブレンステッド酸とブレンステッド塩基の当量の化学反応によって形成される化合物の総称である。パーフルオロオクタン酸アルキルアンモニウム塩は、PILであるが、前述のZ−DOLと比較して、著しく磁気記録媒体の摩擦低減の効果があることが報告されている(特許文献1及び2、並びに非特許文献1〜3参照)。
【0014】
スルホン酸アンモニウム塩を用いて酸のpKaと塩基のpKaとの差(ΔpKa)を大きくすることにより、熱安定性を高めた磁気記録媒体用の潤滑剤が報告されている(非特許文献4参照)。この報告では、ΔpKaの数値により潤滑剤の熱安定性のメカニズムが異なっており、DG/DTAから、ΔpKaの数値が小さい場合には、重量減少が吸熱的であり、蒸発により重量減少が起こるのに対して、ΔpKaの数値が大きい場合には、重量減少が発熱的であり、重量減少は熱分解が支配的であることが確認されている。
【0015】
ところで、ハードディスクの面記録密度の限界は、1Tb/in−2.5Tb/inと言われている。現在、その限界に近付きつつあるが、磁性粒子の微細化を大前提として、大容量化技術への精力的な開発が続けられている。大容量化の技術として、実効フライングハイトの減少、Single Writeの導入(BMP)などがある。
【0016】
また、次世代記録技術として、「熱アシスト記録(Heat Assisted Magnetic Recording)」がある。図3に、熱アシスト磁気記録の概略を示す。この技術の課題としては、記録再生時にレーザーで記録部分を加熱するために、磁性層表面の潤滑剤の蒸発あるいは分解による耐久性の悪化が挙げられる。熱アシスト磁気記録は、短い時間ではあるが400℃以上とも言われる高温に晒される可能性があり、一般に使用されている薄膜磁気記録媒体用の潤滑剤Z−DOLやカルボン酸アンモニウム塩系潤滑剤では、その熱的な安定性が懸念されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特許第2581090号公報
【特許文献2】特許第2629725号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Kondo, H., Seto, J., Haga. S., Ozawa, K.,(1989) Novel Lubricants for Magnetic Thin Film Media, Magnetic Soc. Japan, Vol. 13, Suppl. No. S1, pp.213−218
【非特許文献2】Kondo, H., Seki, A., Watanabe, H., & Seto, J., (1990). Frictional Properties of Novel Lubricants for Magnetic Thin Film Media, IEEE Trans. Magn. Vol.26, No. 5, (Sep. 1990), pp.2691−2693, , ISSN:0018−9464
【非特許文献3】Kondo, H., Seki, A., & Kita, A., (1994a). Comparison of an Amide and Amine Salt as Friction Modifiers for a Magnetic Thin Film Medium. Tribology Trans. Vol.37, No. 1, (Jan. 1994), pp. 99−105, ISSN: 0569−8197
【非特許文献4】Hirofumi Kondo , Makiya Ito, Kouki Hatsuda, Kyungsung Yun, Masayoshi Watanabe、New ionic liquid lubricants for magnetic thin film mediaIEEE Trans. Magn., 2013, Vol. 49, issue 7, pp. 3756−3759
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、高温においても優れた潤滑性を有するイオン液体、高温においても優れた潤滑性を有する潤滑剤、及び高温においても優れた実用特性を有する磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 共役酸(B)と共役塩基(X)とを有し、プロトン性であるイオン液体を含有し、
前記共役酸が、炭素数10以上の直鎖状の炭化水素基を有し、
前記共役塩基が、下記一般式(1)で表されることを特徴とする潤滑剤である。
【化1】
前記一般式(1)中、nは、0〜6の整数を表す。
<2> 共役酸の元となる塩基が、アミン、アミジン、グアニジン、及びイミダゾールのいずれかである前記<1>に記載の潤滑剤である。
<3> イオン液体が、下記一般式(2)〜一般式(4)のいずれかで表される前記<1>から<2>のいずれかに記載の潤滑剤である。
【化2】
前記一般式(2)〜一般式(4)中、Xは、一般式(1)で表される共役塩基である。
前記一般式(2)中、R、R、R、及びRは、置換基であり、R、R、R、及びRのうち、少なくとも1つは水素原子であり、少なくとも1つは炭素数が10以上の直鎖状の炭化水素基を含む基である。
前記一般式(3)中、Rは、炭素数が10以上の直鎖状の炭化水素基を含む基である。nは、0又は1である。
前記一般式(4)中、Rは、炭素数が10以上の直鎖状の炭化水素基を含む基である。
<4> 共役酸の元となる塩基が、1級窒素原子を含有する化合物、2級窒素原子を含有する化合物、及び3級窒素原子を含有する化合物のいずれかである前記<1>から<3>のいずれかに記載の潤滑剤である。
<5> 共役塩基が、下記構造式(1)で表される前記<1>から<4>のいずれかに記載の潤滑剤である。
【化3】
<6> 炭化水素基が、アルキル基である前記<1>から<5>のいずれかに記載の潤滑剤である。
<7> 非磁性支持体と、前記非磁性支持体上に磁性層と、前記磁性層上に前記<1>から<6>のいずれかに記載の潤滑剤とを有することを特徴とする磁気記録媒体である。
<8> 共役酸(B)と共役塩基(X)とを有し、
前記共役酸が、炭素数10以上の直鎖状の炭化水素基を有し、
前記共役塩基が、下記一般式(1)で表され、
プロトン性であることを特徴とするイオン液体である。
【化4】
前記一般式(1)中、nは、0〜6の整数を表す。
<9> 共役酸の元となる塩基が、アミン、アミジン、グアニジン、及びイミダゾールのいずれかである前記<8>に記載のイオン液体である。
<10> 下記一般式(2)〜一般式(4)のいずれかで表される前記<8>から<9>のいずれかに記載のイオン液体である。
【化5】
前記一般式(2)〜一般式(4)中、Xは、一般式(1)で表される共役塩基である。
前記一般式(2)中、R、R、R、及びRは、置換基であり、R、R、R、及びRのうち、少なくとも1つは水素原子であり、少なくとも1つは炭素数が10以上の直鎖状の炭化水素基を含む基である。
前記一般式(3)中、Rは、炭素数が10以上の直鎖状の炭化水素基を含む基である。nは、0又は1である。
前記一般式(4)中、Rは、炭素数が10以上の直鎖状の炭化水素基を含む基である。
<11> 共役酸の元となる塩基が、1級窒素原子を含有する化合物、2級窒素原子を含有する化合物、及び3級窒素原子を含有する化合物のいずれかである前記<8>から<10>のいずれかに記載のイオン液体である。
<12> 共役塩基が、下記構造式(1)で表される前記<8>から<11>のいずれかに記載のイオン液体である。
【化6】
<13> 炭化水素基が、アルキル基である前記<8>から<12>のいずれかに記載のイオン液体である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決することができ、高温においても優れた潤滑性を有するイオン液体、高温においても優れた潤滑性を有する潤滑剤、及び高温においても優れた実用特性を有する磁気記録媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の一実施の形態に係るハードディスクの一例を示す断面図である。
図2図2は、本発明の一実施の形態に係る磁気テープの一例を示す断面図である。
図3図3は、熱アシスト磁気記録を示す概略図である。
図4図4は、実施例1の生成物のFTIRスペクトルである。
図5図5は、実施例1の生成物のTG/DTA測定結果である。
図6図6は、実施例2の生成物のFTIRスペクトルである。
図7図7は、実施例2の生成物のTG/DTA測定結果である。
図8図8は、実施例3の生成物のFTIRスペクトルである。
図9図9は、実施例3の生成物のTG/DTA測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(潤滑剤、及びイオン液体)
本発明の潤滑剤は、本発明のイオン液体を含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
【0024】
本発明のイオン液体は、共役酸(B)と共役塩基(X)とを有する。
前記共役酸は、炭素数10以上の直鎖状の炭化水素基を有する。
前記共役塩基は、下記一般式(1)で表される。
【化7】
前記一般式(1)中、nは、0〜6の整数を表す。
前記イオン液体は、プロトン性である。
【0025】
本発明者らは、プロトン性イオン液体において、共役塩基が前記一般式(1)で表されることにより、熱安定性が高いことを見出し、本発明に至った。
【0026】
前記イオン液体において、プロトン性であるとは、前記イオン液体がプロトン供与性を持つことをいい、例えば、前記イオン液体において、前記共役酸(B)のカチオン性原子に水素原子が結合している状態をいう。
【0027】
<共役酸>
前記共役酸(B)は、炭素数10以上の直鎖状の炭化水素基を有する。
前記炭素数が10以上の直鎖状の炭化水素基の炭素数の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、原材料の調達の観点から前記炭素数は、25以下が好ましく、20以下がより好ましい。前記炭化水素基が長鎖であることにより、摩擦係数を低減し、潤滑特性を向上させることができる。
【0028】
前記炭化水素基は直鎖状であればよく、飽和炭化水素基でも、一部に二重結合を有する不飽和炭化水素基、又は一部に分岐を有する不飽和分枝炭化水素基のいずれでもよい。これらの中でも、耐摩耗性の観点から飽和炭化水素基であるアルキル基であることが好ましい。また、一部にも分岐を有さない直鎖状の炭化水素基であることも好ましい。
【0029】
前記共役酸は、炭素数10以上の直鎖状の炭化水素基を有する塩基から形成されることが好ましい。
前記塩基の水中でのpKaとしては、特に制限はないが、9以上であることが好ましい。
ここで、本明細書におけるpKaは、酸解離定数であって、水中における酸解離定数である。
水中における前記酸解離定数は、例えば、J. Chem. Res., Synop. 1994, 212−213に記載の方法を参照して測定でき、具体的には、スペクトロメーターと電位差測定の組み合わせにより測定することができる。
【0030】
前記塩基としては、例えば、1級窒素原子を含有する化合物、2級窒素原子を含有する化合物、3級窒素原子を含有する化合物などが挙げられる。
ここで、「1級窒素原子」とは、水素原子2つ及び水素原子以外の原子1つのみに結合している窒素原子(例えば、1級アミノ基(−NH基)に含まれる窒素原子)を指す。
また、「2級窒素原子」とは、水素原子1つ及び水素原子以外の原子2つのみに結合している窒素原子を指す。
また、「3級窒素原子」とは、水素原子以外の原子3つのみに結合している窒素原子を指す。
上記において、「水素原子以外の原子」としては、特に限定はないが、例えば、炭素原子、ケイ素原子などが挙げられる。
【0031】
また、前記塩基としては、例えば、共役酸と共役塩基とのイオン対を形成した際に、正の電荷を有する窒素を含有する共役酸になるものが使用できる。そのような塩基としては、例えば、アミン類、ヒドロキシルアミン類、イミン類、オキシム類、ヒドラジン類、ヒドラゾン類、グアニジン類、アミジン類、スルホアミド、イミド類、アミド類、チオアミド類、カルバメート類、ニトリル類、尿素類、ウレタン類、環状複素環類などが挙げられる。前記環状複素環類としては、例えば、ピロール、インドール、アゾール、オキサゾール、トリアゾール、テトラアゾール、イミダゾールなどが挙げられる。例えば、アミンでは脂肪族アミン、芳香族アミン、環状アミン、アミジン、グアニジンなどが挙げられる。前記脂肪族アミンとしては、例えば、3級脂肪族アミンなどが挙げられる。前記芳香族アミンとしては、例えば、ジメチルアニリン、トリフェニルアミン、4−ジメチルアミノピリジン誘導体などが挙げられる。前記環状アミンとしては、例えば、ピロリジン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、キヌクリジン誘導体などが挙げられる。前記アミジンやグアニジンとしては、例えば、環状アミジン、環状グアニジンなどが挙げられる。具体的には、前記表1の強塩基化合物が使用できるが、構造はこれに限定されることはない。
また、前記塩基としては、例えば、オクタデシルアミン(C1837NH)、メチルオクタデシルアミン〔C1837NH(CH)〕、ジメチルオクタデシルアミン〔C1837N(CH〕、ジメチルデシルアミン〔C1021N(CH〕、ジメチルテトラデシルアミン〔C1429N(CH〕、ジメチルエイコシルアミン〔C2041N(CH〕、ジメチルオレイルアミン〔C1835N(CH〕、2−ヘプチルウンデシルアミン〔CH(CHCH(C15)CHNH〕などが挙げられる。
これらの中でも、アミン、アミジン、グアニジン、イミダゾールが好ましい。
【0032】
ここで、「元になる塩基」とは、共役酸を形成する際に用いられる塩基を意味する。「元になる塩基」としては、共役酸から形成される塩基のうち、pKaが大きい塩基が好ましい。例えば、下記式において生成されるアミンのうち、pKaが大きいアミンが好ましい。
【化8】
【0033】
前記共役酸としては、例えば、下記一般式(2−1)で表される共役酸、下記一般式(3−1)で表される共役酸、下記一般式(4−1)で表される共役酸などが挙げられる。
【化9】
前記一般式(2−1)中、R、R、R、及びRは、置換基であり、R、R、R、及びRのうち、少なくとも1つは水素原子であり、少なくとも1つは炭素数が10以上の直鎖状の炭化水素基を含む基である。
前記一般式(3−1)中、Rは、炭素数が10以上の直鎖状の炭化水素基を含む基である。nは、0又は1である。
前記一般式(4−1)中、Rは、炭素数が10以上の直鎖状の炭化水素基を含む基である。
【0034】
なお、前記一般式(3−1)及び一般式(4−1)における共役酸は、他の共鳴構造(極限構造)を取りうる。即ち、他の窒素原子がプラスの電荷を帯び、水素原子が、その窒素原子に結合している共鳴構造(極限構造)を取りうる。本発明においては、そのような共鳴構造(極限構造)を取る共役酸についても、前記一般式(3−1)で表される共役酸、及び一般式(4−1)で表される共役酸に含む。
【0035】
前記一般式(2−1)のR、R、R、及びRにおける置換基としては、例えば、アリール基、シクロアルキル基、アルキル基などが挙げられる。前記アルキル基としては、例えば、炭素数1〜20のアルキル基などが挙げられる。R、R、R、及びRのうち、炭素数が10以上の直鎖状の炭化水素基を含む基以外の基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。
【0036】
前記一般式(2−1)で表される共役酸としては、例えば、オクタデシルアンモニウム(C1837)、ジメチルオクタデシルアンモニウム〔C1837H(CH〕、メチルオクタデシルアンモニウム〔C1837(CH)〕、デシルアンモニウム(C1021)、テトラデシルアンモニウム(C1429)、エイコシルアンモニウム(C2041)、オレイルアンモニウム(C1835)、2−ヘプチルウンデシルアンモニウム〔CH(CHCH(C15)CH〕などが挙げられる。
【0037】
しかし、前記一般式(2−1)で表される共役酸の構造がこの限りでないことは言うまでもない。例えば、前記R、R、R、及びRの少なくともいずれかに、複素環化合物、脂環状化合物、芳香族化合物に由来する基が導入されていてもよい。
【0038】
前記共役酸の元となる塩基は、例えば、非特許文献(Ivari Kaljurand, Agnes Ku¨ tt, Lilli Soova¨ li, Toomas Rodima, Vahur Ma¨emets, Ivo Leito,* and Ilmar A. Koppel,” Extension of the Self−Consistent Spectrophotometric Basicity Scale in Acetonitrile to a Full Span of 28 pKa Units: Unification of Different Basicity Scales”J. Org. Chem. 2005, Vol.70, pp.1019−1028)のTable 1に記載されている塩基誘導体から合成することが可能である。
【0039】
<共役塩基>
前記共役塩基は、下記一般式(1)で表され、下記構造式(1)で表されることが好ましい。
【化10】
前記一般式(1)中、nは、0〜6の整数を表す。
【化11】
【0040】
前記イオン液体は、下記一般式(2)〜一般式(4)のいずれかで表されることが好ましい。
【化12】
前記一般式(2)〜一般式(4)中、Xは、一般式(1)で表される共役塩基である。
前記一般式(2)中、R、R、R、及びRは、置換基であり、R、R、R、及びRのうち、少なくとも1つは水素原子であり、少なくとも1つは炭素数が10以上の直鎖状の炭化水素基を含む基である。
前記一般式(3)中、Rは、炭素数が10以上の直鎖状の炭化水素基を含む基である。nは、0又は1である。
前記一般式(4)中、Rは、炭素数が10以上の直鎖状の炭化水素基を含む基である。
【0041】
なお、前記一般式(3)及び一般式(4)における共役酸は、他の共鳴構造(極限構造)を取りうる。即ち、他の窒素原子がプラスの電荷を帯び、水素原子が、その窒素原子に結合している共鳴構造(極限構造)を取りうる。本発明においては、そのような共鳴構造(極限構造)を取る共役酸についても、前記一般式(3)、及び一般式(4)における共役酸に含む。
【0042】
前記一般式(2)のR、R、R、及びRにおける置換基としては、例えば、アリール基、シクロアルキル基、アルキル基などが挙げられる。前記アルキル基としては、例えば、炭素数1〜20のアルキル基などが挙げられる。R、R、R、及びRのうち、炭素数が10以上の直鎖状の炭化水素基を含む基以外の基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。
【0043】
前記イオン液体の合成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メチドのアルカリ金属塩と、塩基の硝酸塩とを当量混合して合成する方法などが挙げられる。
前記メチドのアルカリ金属塩の合成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、特開2000−226392号公報に記載の方法などが挙げられる。
【0044】
前記潤滑剤は、前記イオン液体を単独で使用してもよいが、従来公知の潤滑剤と組み合わせて用いてもよい。公知の潤滑剤としては、例えば、長鎖カルボン酸、長鎖カルボン酸エステル、パーフルオロアルキルカルボン酸エステル、カルボン酸パーフルオロアルキルエステル、パーフルオロアルキルカルボン酸パーフルオロアルキルエステル、パーフルオロポリエーテル誘導体などが挙げられる。
【0045】
また、厳しい条件で潤滑効果を持続させるために、質量比30:70〜70:30程度の配合比で極圧剤を併用してもよい。前記極圧剤は、境界潤滑領域において部分的に金属接触が生じたときに、これに伴う摩擦熱によって金属面と反応し、反応生成物皮膜を形成することにより、摩擦・摩耗防止作用を行うものである。前記極圧剤としては、例えば、リン系極圧剤、イオウ系極圧剤、ハロゲン系極圧剤、有機金属系極圧剤、複合型極圧剤などのいずれも使用できる。
【0046】
また、必要に応じて防錆剤を併用してもよい。前記防錆剤としては、通常この種の磁気記録媒体の防錆剤として使用可能であるものであればよく、例えば、フェノール類、ナフトール類、キノン類、窒素原子を含む複素環化合物、酸素原子を含む複素環化合物、硫黄原子を含む複素環化合物などが挙げられる。また、前記防錆剤は、潤滑剤として混合して用いてもよいが、非磁性支持体上に磁性層を形成し、その上部に防錆剤層を塗布した後、潤滑剤層を塗布するというように、2層以上に分けて被着してもよい。
【0047】
また、前記潤滑剤の溶媒としては、例えば、イソプロピルアルコール(IPA)、エタノール等のアルコール系溶媒などから単独又は組み合わせて使用することができる。例えば、ノルマルヘキサンのような炭化水素系溶剤やフッ素系溶媒を混合しても使用することができる。
【0048】
(磁気記録媒体)
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体と、磁性層と、本発明の前記潤滑剤とを有し、更に必要に応じて、その他の部材を有する。
前記磁性層は、前記非磁性支持体上に形成されている。
前記潤滑剤は、前記磁性層上に形成されている。
【0049】
前記潤滑剤は、磁性層が非磁性支持体表面に蒸着やスパッタリング等の手法により形成された、所謂、金属薄膜型の磁気記録媒体に適用することが可能である。また、非磁性支持体と磁性層との間に下地層を介した構成の磁気記録媒体にも適用することもできる。このような磁気記録媒体としては、磁気ディスク、磁気テープなどを挙げることができる。
【0050】
図1は、ハードディスクの一例を示す断面図である。このハードディスクは、基板11と、下地層12と、磁性層13と、カーボン保護層14と、潤滑剤層15とが順次積層された構造を有する。
【0051】
また、図2は、磁気テープの一例を示す断面図である。この磁気テープは、バックコート層25と、基板21と、磁性層22と、カーボン保護層23と、潤滑剤層24とが順次積層された構造を有する。
【0052】
図1に示す磁気ディスクにおいて、非磁性支持体は、基板11、下地層12が該当し、図2に示す磁気テープにおいて、非磁性支持体は、基板21が該当する。非磁性支持体として、Al合金板やガラス板等の剛性を有する基板を使用した場合、基板表面にアルマイト処理等の酸化皮膜やNi−P皮膜等を形成して、その表面を硬くしてもよい。
【0053】
磁性層13、22は、メッキ、スパッタリング、真空蒸着、プラズマCVD等の手法により、連続膜として形成される。磁性層13、22としては、Fe、Co、Ni等の金属や、Co−Ni系合金、Co−Pt系合金、Co−Ni−Pt系合金、Fe−Co系合金、Fe−Ni系合金、Fe−Co−Ni系合金、Fe−Ni−B系合金、Fe−Co−B系合金、Fe−Co−Ni−B系合金等からなる面内磁化記録金属磁性膜や、Co−Cr系合金薄膜、Co−O系薄膜等の垂直磁化記録金属磁性薄膜が例示される。
【0054】
特に、面内磁化記録金属磁性薄膜を形成する場合、予め非磁性支持体上にBi、Sb、Pb、Sn、Ga、In、Ge、Si、Tl等の非磁性材料を、下地層12として形成しておき、金属磁性材料を垂直方向から蒸着あるいはスパッタし、磁性金属薄膜中にこれら非磁性材料を拡散せしめ、配向性を解消して面内等方性を確保するとともに、抗磁力を向上するようにしてもよい。
【0055】
また、磁性層13、22の表面に、カーボン膜、ダイヤモンド状カーボン膜、酸化クロム膜、SiO膜等の硬質な保護層14、23を形成してもよい。
【0056】
このような金属薄膜型の磁気記録媒体に前述の潤滑剤を保有させる方法としては、図1及び図2に示すように、磁性層13、22の表面や、保護層14、23の表面にトップコートする方法が挙げられる。潤滑剤の塗布量としては、0.1mg/m〜100mg/mであることが好ましく、0.2mg/m〜3mg/mであることがより好ましい。
【0057】
また、図2に示すように、金属薄膜型の磁気テープは、磁性層22である金属磁性薄膜の他に、バックコート層25が必要に応じて形成されていてもよい。
【0058】
バックコート層25は、樹脂結合剤に導電性を付与するためのカーボン系微粉末や表面粗度をコントロールするための無機顔料を添加し塗布形成されるものである。本実施の形態においては、前述の潤滑剤を、バックコート層25に内添又はトップコートにより含有させてもよい。また、前述の潤滑剤を、磁性層22とバックコート層25のいずれにも内添、トップコートにより含有させてもよい。
【0059】
また、他の実施の形態として、磁性塗料を非磁性支持体表面に塗布することにより磁性塗膜が磁性層として形成される、所謂、塗布型の磁気記録媒体にも潤滑剤の適用が可能である。塗布型の磁気記録媒体において、非磁性支持体や磁性塗膜を構成する磁性粉末、樹脂結合剤などは、従来公知のものがいずれも使用可能である。
【0060】
例えば、前記非磁性支持体としては、例えば、ポリエステル類、ポリオレフィン類、セルロース誘導体、ビニル系樹脂、ポリイミド類、ポリアミド類、ポリカーボネート等に代表されるような高分子材料により形成される高分子支持体や、アルミニウム合金、チタン合金等からなる金属基板、アルミナガラス等からなるセラミックス基板、ガラス基板などが例示される。また、その形状も何ら限定されるものではなく、テープ状、シート状、ドラム状等、如何なる形態であってもよい。さらに、この非磁性支持体には、その表面性をコントロールするために、微細な凹凸が形成されるような表面処理が施されたものであってもよい。
【0061】
前記磁性粉末としては、γ−Fe、コバルト被着γ−Fe等の強磁性酸化鉄系粒子、強磁性二酸化クロム系粒子、Fe、Co、Ni等の金属や、これらを含んだ合金からなる強磁性金属系粒子、六角板状の六方晶系フェライト微粒子等が例示される。
【0062】
前記樹脂結合剤としては、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、塩化ビニリデン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、アクリロニトリル等の重合体、あるいはこれら二種以上を組み合わせた共重合体、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等が例示される。これら結合剤には、磁性粉末の分散性を改善するために、カルボン酸基やカルボキシル基、リン酸基等の親水性極性基が導入されてもよい。
【0063】
前記磁性塗膜には、前記の磁性粉末、樹脂結合剤の他、添加剤として分散剤、研磨剤、帯電防止剤、防錆剤等が加えられてもよい。
【0064】
このような塗布型の磁気記録媒体に前述の潤滑剤を保有させる方法としては、前記非磁性支持体上に形成される前記磁性塗膜を構成する前記磁性層中に内添する方法、前記磁性層の表面にトップコートする方法、若しくはこれら両者の併用等がある。また、前記潤滑剤を前記磁性塗膜中に内添する場合には、前記樹脂結合剤100質量部に対して0.2質量部〜20質量部の範囲で添加される。
【0065】
また、前記潤滑剤を前記磁性層の表面にトップコートする場合には、その塗布量は0.1mg/m〜100mg/mであることが好ましく、0.2mg/m〜3mg/mであることがより好ましい。なお、前記潤滑剤をトップコートする場合の被着方法としては、イオン液体を溶媒に溶解し、得られた溶液を塗布若しくは噴霧するか、又はこの溶液中に磁気記録媒体を浸漬すればよい。
【0066】
本実施の形態では、本発明の前記潤滑剤を用いることにより、良好な潤滑作用を発揮して摩擦係数を低減することができ、熱的に高い安定性を得ることができる。また、この潤滑作用は、高温、低温、高湿、低湿下等の厳しい条件下においても損なわれることはない。
【0067】
したがって、本実施の形態における潤滑剤を適用した磁気記録媒体は、潤滑作用により、優れた走行性、耐摩耗性、耐久性等を発揮し、さらに、熱的安定性を向上させることができる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。本実施例では、イオン液体を合成し、イオン液体を含有する潤滑剤を作製した。そして、潤滑剤を用いて磁気ディスク及び磁気テープを作製し、それぞれディスク耐久性及びテープ耐久性について評価した。磁気ディスクの製造、ディスク耐久性試験、磁気テープの製造、及びテープ耐久性試験は、次のように行った。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
<磁気ディスクの製造>
例えば、国際公開第2005/068589号公報に従って、ガラス基板上に磁性薄膜を形成し、図1に示すような磁気ディスクを作製した。具体的には、アルミシリケートガラスからなる外径65mm、内径20mm、ディスク厚0.635mmの化学強化ガラスディスクを準備し、その表面をRmaxが4.8nm、Raが0.43nmになるように研磨した。ガラス基板を純水及び純度99.9%以上のイソプロピルアルコール(IPA)中で、それぞれ5分間超音波洗浄を行い、IPA飽和蒸気内に1.5分間放置後、乾燥させ、これを基板11とした。
【0070】
この基板11上に、DCマグネトロンスパッタリング法によりシード層としてNiAl合金(Ni:50モル%、Al:50モル%)薄膜を30nm、下地層12としてCrMo合金(Cr:80モル%、Mo:20モル%)薄膜を8nm、磁性層13としてCoCrPtB合金(Co:62モル%、Cr:20モル%、Pt:12モル%、B:6モル%)薄膜を15nmとなるように順次形成した。
【0071】
次に、プラズマCVD法によりアモルファスのダイヤモンドライクカーボンからなるカーボン保護層14を5nm製膜し、そのディスクサンプルを洗浄器内に純度99.9%以上のイソプロピルアルコール(IPA)中で10分間超音波洗浄を行い、ディスク表面上の不純物を取り除いた後に乾燥させた。その後、25℃50%相対湿度(RH)の環境においてディスク表面にイオン液体のIPA溶液を用いてディップコート法により塗布することで、潤滑剤層15を約1nm形成した。
【0072】
<ディスク耐久性試験>
市販のひずみゲージ式ディスク摩擦・摩耗試験機を用いて、ハードディスクを14.7Ncmの締め付けトルクで回転スピンドルに装着後、ヘッドスライダーのハードディスクに対して内周側のエアベアリング面の中心が、ハードディスクの中心より17.5mmになるようにヘッドスライダーをハードディスク上に取り付けCSS耐久試験を行った。本測定に用いたヘッドは、IBM3370タイプのインライン型ヘッドであり、スライダーの材質はAl−TiC、ヘッド荷重は63.7mNである。本試験は、クリーン清浄度100、25℃60%RHの環境下で、CSS(Contact、Start、Stop)毎に摩擦力の最大値をモニターした。摩擦係数が1.0を超えた回数をCSS耐久試験の結果とした。CSS耐久試験の結果において、50,000回を超える場合には「>50,000」と表示した。また、耐熱性を調べるために、300℃の温度で3分間加熱試験を行った後のCSS耐久性試験を同様に行った。
【0073】
<磁気テープの製造>
図2に示すような断面構造の磁気テープを作製した。先ず、5μm厚の東レ製ミクトロン(芳香族ポリアミド)フィルムからなる基板21に、斜め蒸着法によりCoを被着させ、膜厚100nmの強磁性金属薄膜からなる磁性層22を形成した。次に、この強磁性金属薄膜表面にプラズマCVD法により10nmのダイヤモンドライクカーボンからなるカーボン保護層23を形成させた後、6ミリ幅に裁断した。この磁性層22上にIPAに溶解したイオン液体を、膜厚が1nm程度となるように塗布して潤滑剤層24を形成し、サンプルテープを作製した。
【0074】
<テープ耐久性試験>
各サンプルテープについて、温度−5℃環境下、温度40℃30%RH環境下のスチル耐久性、並びに、温度−5℃環境下、温度40℃90%RH環境下の摩擦係数及びシャトル耐久性について測定を行った。スチル耐久性は、ポーズ状態での出力が−3dB低下するまでの減衰時間を評価した。シャトル耐久性は、1回につき2分間の繰り返しシャトル走行を行い、出力が3dB低下するまでのシャトル回数で評価した。また、耐熱性を調べるために、100℃の温度で10分間加熱試験を行った後の耐久性試験も同様に行った。
【0075】
(実施例1)
<トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド−n−オクタデシルアンモニウム塩の合成>
トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド−n−オクタデシルアンモニウム塩については、下記スキームによって合成した。
原料のオクタデシルアミン硝酸塩は、オクタデシルアミンを、加熱したエタノールに溶解させ、等モルの硝酸を滴下して中性になったことを確認後、冷却して析出した結晶をろ過後乾燥させて得た。この硝酸塩3.3gをエタノールに溶解させ、メチドのカリウム塩4.5gをエタノールに溶解させたものを加えた。その後に、撹拌を1時間行い、30分間加熱還流した。溶媒を除去後にエーテルを加え、有機層を水で洗浄後に無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、エーテルを除去した。n−ヘキサンとエタノールとの混合溶媒を用いて再結晶を行い、無色の結晶6.5gを得た。収率95%。融点92.0℃。
【化13】
【0076】
ここで、本明細書においてのFTIRの測定は、日本分光社製FT/IR−460を使用し、KBrプレート法あるいはKBr錠剤法を用いて透過法で測定を行った。そのときの分解能は4cm−1である。
また、TG/DTA測定では、セイコーインスツルメント社製EXSTAR6000を使用し、200ml/minの流量で空気中を導入しながら、10℃/minの昇温速度で30℃−600℃の温度範囲で測定を行った。
HNMRスペクトルは、VarianMercuryPlus300核磁気共鳴装置(バリアン社製)で測定した。HNMRの化学シフトは、内部標準(7.24ppmにおけるCDCl)との比較としてppmで表した。分裂パターンは、一重項をs、二重項をd、三重項をt、多重項をm、ブロードピークをbrとして示した。
13CNMRスペクトルは、VarianGemini−300(125MHz)核磁気共鳴装置(バリアン社製)で測定した。13CNMRの化学シフトは、内部標準(77.0ppmにおけるCDCl)との比較としてppmで表した。
【0077】
生成物のFTIRスペクトルとその帰属をそれぞれ図4及び表2に示す。
1124cm−1にSOの対称伸縮振動、1371cm−1にSO結合の逆対称伸縮振動、1197cm−1と1220cm−1にCFの対称伸縮振動、1614cm−1にNH結合の逆対称変角振動、2851cm−1にCHの対称伸縮振動、2920cm−1にCHの逆対称伸縮振動、3170−3263cm−1にNH結合の伸縮振動が見られた。
【0078】
【表2】
【0079】
また、重メタノール中でのプロトン(H)NMR及びカーボン(13C)NMRのピークとその帰属について、以下に示す。
【化14】
【化15】
【0080】
以上から、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド−n−オクタデシルアンモニウム塩が合成されていることが確認できた。
【0081】
次に、TG/DTA測定を行った。TG/DTA測定結果を、図5に示す。重量減少による発熱ピーク温度は、386.0℃及び397.1℃と非常に高かった。また、重量減少が発熱であることから、これが化合物の分解反応であることが示唆された。発熱温度は、パーフルオロオクタンスルホン酸オクタデシルアンモニウム塩と比較して2℃改善されている。
【0082】
(実施例2)
<トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド−n−オクタデシルTBD塩の合成>
トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド−n−オクタデシルTBD塩については、以下のスキームによって合成した。
まず、原料の7−n−オクタデシル−1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]−5−デセン(オクタデシルTBD)の合成について示す。R.W.Alderらの方法(非特許文献、 Roger W. Alder, Rodney W. Mowlam, David J. Vachon and Gray R. Weisman, “New Synthetic Routes to Macrocyclic Triamines,” J. Chem. Sos. Chem. Commun. pp.507−508 (1992)参照)を参考にして合成した。
即ち、水素化ナトリウム(55質量%ヘキサン)を、乾燥THFに溶解させた1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]−5−デセン(TBD)8.72g中に10℃で加えて攪拌した。10℃に温度を保ったまま、臭素化オクタデカンを20分間かけて滴下した。その後、10℃で30分間撹拌し、続いて、常温で2時間撹拌した後に、1時間加熱還流した。常温に戻して過剰の水素化ナトリウムを加えて反応させた。溶媒を除去後、アミノ処理したシリカゲルでカラムクロマトグラフィーを行い、淡黄色の目的物を得た。
【0083】
得られた目的物4.0gをエタノールに溶解させ、そこへ65質量%硝酸(d=1.400)を0.71cc加えた。リトマス紙で中性になったのを確認後、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドカリウム塩4.60gのエタノール溶液を添加した。添加後30分間撹拌後30分間加熱還流を行った。溶媒を除去後に、エーテルを加え、有機層を水で洗浄後に無水硫酸ナトリウムで乾燥させ溶媒のエーテルを除去した。n−ヘキサンとエタノールとの混合溶媒を用いて再結晶を行い、無色の針状結晶7.6gを得た。収率89%。
【0084】
【化16】
【0085】
生成物のFTIRスペクトルとその帰属をそれぞれ図6及び表3に示す。
1132cm−1にSOの対称伸縮振動、1205cm−1にCFの対称伸縮振動、1383cm−1にSO結合の逆対称伸縮振動、1600cm−1にNH結合の逆対称変角振動、1631cm−1にC=Nの伸縮振動、2852cm−1にCHの対称伸縮振動、2920cm−1にCHの逆対称伸縮振動、3447cm−1にNH結合の伸縮振動が見られた。
【0086】
【表3】
【0087】
また、重クロロホルム中でのプロトン(H)NMR及びカーボン(13C)NMRのピークとその帰属について以下に示す。
【化17】
【化18】
【0088】
以上より、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド−n−オクタデシルTBD塩が合成されていることが確認できた。
【0089】
次に、TG/DTA測定を行った。TG/DTA測定結果を、図7に示す。メインの重量減少による発熱ピーク温度は、415.0℃、424.7℃、及び506.7℃と非常に高かった。また、重量減少が発熱であることから、これが化合物の分解反応であることが示唆された。発熱温度は、パーフルオロオクタンスルホン酸オクタデシルアンモニウム塩と比較して31℃改善されている。
【0090】
(実施例3)
<トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド−n−オクタデシルDBU塩の合成>
トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド−n−オクタデシルDBU塩については、以下のスキームによって合成した。
まず、6−octadecyl−1,8−diazabicyclo[5.4.0]−7−undecene(オクタデシルDBU)の合成について述べる。
DBU−C1837は、Matsumuraらの方法(非特許文献、Noboru Matsumura, Hiroshi Nishiguchi, Masao Okada, and Shigeo Yoneda, “Preparation and Characterization of 6−Substituted 1,8−diazabicyclo[5.4.0]undec−7−ene,” J. Heterocyclic Chemistry Vol.23, Issue 3, pp.885−887 (1986)参照)を参考にして合成した。
即ち、原料の1,8−diazabicyclo[5.4.0]−7−undecene(DBU)7.17gをテトラヒドロフラン(THF)溶液に溶解させて0℃に冷却し、1.64mol/L濃度のn−ブチルリチウム29ccをアルゴンガス雰囲気下で滴下して、0℃で1時間撹拌した。得られた溶液へ、臭化オクタデシル15.71gをTHFに溶解させたものを滴下した後に、24時間撹拌放置した。なお、THFはtype4Aのモレキュラーシーブスで乾燥後、蒸留精製したものを直ぐに用いた。その後、塩酸で酸性にした後に溶媒を除去し、ヘキサンに溶解させたものをアミノ化したシリカゲルでカラムクロマトグラフィーを行って精製して無色結晶を得た。収率90%。
【0091】
得られたオクタデシルDBU4.0gをエタノールに溶解させ、65質量%硝酸(d=1.400)を0.96g加えた。リトマス紙で中性になったのを確認後、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドカリウム塩4.45gのエタノール溶液を添加した。添加後、30分間撹拌後30分間加熱還流を行った。溶媒を除去後に、エーテルを加え、有機層を水で洗浄後に無水硫酸ナトリウムで乾燥させ溶媒のエーテルを除去した。n−ヘキサンとエタノールとの混合溶媒を用いて再結晶を行い無色の針状結晶7.6gを得た。融点58.6℃、収率94%。
【0092】
【化19】
【0093】
生成物のFTIRスペクトルとその帰属をそれぞれ図8及び表4に示す。
1117cm−1にSOの対称伸縮振動、1198cm−1にCFの対称伸縮振動、1381cm−1にSO結合の逆対称伸縮振動、1632cm−1にC=Nの伸縮振動、2850cm−1にCHの対称伸縮振動、2918cm−1にCHの逆対称伸縮振動、3408cm−1にNH結合の伸縮振動が見られた。
【表4】
【0094】
また、プロトン(H)NMR及びカーボン(13C)NMRのピークとその帰属について以下に示す。
【化20】
【化21】
【0095】
以上より、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド−n−オクタデシルDBU塩が合成されていることが確認できた。
【0096】
次に、TG/DTA測定を行った。TG/DTA測定結果を、図9に示す。メインの重量減少による発熱ピーク温度は、414.3℃、426.7℃、及び528.4℃と非常に高かった。また、重量減少が発熱であることから、これが化合物の分解反応であることが示唆された。発熱温度は、パーフルオロオクタンスルホン酸オクタデシルアンモニウム塩と比較して30℃改善されている。
【0097】
合成したイオン液体について下記表5にまとめた。
実施例1〜3で合成したイオン液体についてイオン液体1〜3とする。そのときの融点、発熱ピーク温度、20%重量減少温度、及び10%重量減少温度も併せて示す。比較例1として、パーフルオロオクタンスルホン酸オクタデシルアンモニウム塩を挙げた。比較例2としてFomblin Z−DOLを挙げた。比較例3として、Z−Tetraol(ZTMD)を挙げた。
比較例1のパーフルオロオクタンスルホン酸オクタデシルアンモニウム塩と比較して、発熱ピーク温度は、実施例1、実施例2、実施例3の場合にそれぞれ、3℃、32℃、31℃高かった。また20%重量減少温度は、それぞれ12℃、45℃、49℃高かった。10%重量減少温度は、14℃、32℃、43℃高かった。
本発明のイオン液体を含有する本発明の潤滑剤は、パーフルオロオクタンスルホン酸オクタデシルアンモニウム塩、Z−DOLや他の潤滑剤と比べて非常に耐熱性が高いことがわかった。
【0098】
【表5】
【0099】
次に磁気記録媒体にイオン液体を含有する潤滑剤を使用して耐久性について調べた。
【0100】
(実施例4)
表5に示す[イオン液体1]のトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド−n−オクタデシルアンモニウム塩を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気ディスクを作製した。表6に示すように、磁気ディスクのCSS測定は、50,000回を超え、加熱試験後のCSS測定も50,000回を超え、優れた耐久性を示した。
【0101】
(実施例5)
表5に示す[イオン液体2]のトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド−n−オクタデシルTBD塩を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気ディスクを作製した。表6に示すように、磁気ディスクのCSS測定は、50,000回を超え、加熱試験後のCSS測定も50,000回を超え、優れた耐久性を示した。
【0102】
(実施例6)
表5に示す[イオン液体3]のトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド−n−オクタデシルDBU塩を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気ディスクを作製した。表6に示すように、磁気ディスクのCSS測定は、50,000回を超え、加熱試験後のCSS測定も50,000回を超え、優れた耐久性を示した。
【0103】
(比較例4)
表5に示す[比較例1]のパーフルオロオクタンスルホン酸オクタデシルアンモニウム塩(C17SO1837)を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気ディスクを作製した。表6に示すように、磁気ディスクのCSS測定での耐久性は50,000回を超えるが、加熱試験後でもCSS測定は50,000回を超えであり、ディスクでの特性に対しては実施例との大きな差は見られなかった。
【0104】
(比較例5)
表5に示す[比較例2]のZ−DOLを含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気ディスクを作製した。表6に示すように、磁気ディスクのCSS測定での耐久性は50,000回を超えるが、加熱試験後にはCSS耐久性はは12,000回で劣化が始まった。実施例と比較すると耐熱性に欠けるため、加熱後に耐久性が低下したと考えられる。
【0105】
(比較例6)
表5に示す[比較例3]のZ−Tetraolを含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気ディスクを作製した。表6に示すように、磁気ディスクのCSS測定での耐久性は50,000回を超えるが、加熱試験後にはCSS耐久性は36,000回で劣化が始まった。耐熱性に関して、Z−DOLよりは耐久性は改善されているが、実施例と比較すると耐熱性に欠けるため、加熱後に耐久性が低下したと考えられる。
【0106】
【表6】
【0107】
以上の説明からも明らかなように、本発明のイオン液体を含有する本発明の潤滑剤は、高温保存条件下においても優れた潤滑性を保つことができ、また、長期に亘ってそのCSS潤滑性を保つことができた。
【0108】
次に、イオン液体1〜3、比較イオン液体1、及び比較潤滑剤1〜2を磁気テープに適用した例を示す。
【0109】
(実施例7)
イオン液体1を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気テープを作製した。表7に示すように、100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は、温度−5℃の環境下で0.19であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.21であった。また、スチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、シャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。また、加熱試験後の100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は温度−5℃の環境下で0.19であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.22であった。スチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、加熱試験後のシャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。以上の結果より、イオン液体1を塗布した磁気テープは、優れた摩擦特性、スチル耐久性、及びシャトル耐久性を有することが分かった。
【0110】
(実施例8)
イオン液体2を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気テープを作製した。表7に示すように、100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は、温度−5℃の環境下で0.22であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.23であった。また、スチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、シャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。また、加熱試験後の100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は温度−5℃の環境下で0.22であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.23であった。加熱試験後のスチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、加熱試験後のシャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。以上の結果より、イオン液体2を塗布した磁気テープは、優れた摩擦特性、スチル耐久性、及びシャトル耐久性を有することが分かった。
【0111】
(実施例9)
イオン液体3を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気テープを作製した。表7に示すように、100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は、温度−5℃の環境下で0.21であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.21であった。また、スチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、シャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。また、加熱試験後の100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は温度−5℃の環境下で0.21であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.22であった。加熱試験後のスチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、加熱試験後のシャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。以上の結果より、イオン液体3を塗布した磁気テープは、優れた摩擦特性、スチル耐久性、及びシャトル耐久性を有することが分かった。
【0112】
(比較例7)
比較例としてイオン液体であるパーフルオロオクタンスルホン酸オクタデシルアンモニウム塩を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気テープを作製した。表7に示すように、100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は、温度−5℃の環境下で0.20であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.23であった。また、スチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、シャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。しかし、加熱試験後の100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は温度−5℃の環境下で0.23であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.26に増加した。加熱試験後のスチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、加熱試験後のシャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。以上の結果より、比較イオン液体1を塗布した磁気テープは、優れたスチル耐久性、及びシャトル耐久性を有するが、加熱試験後に摩擦係数が増加することが分かった。
【0113】
(比較例8)
比較例2を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気テープを作製した。表7に示すように、100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は、温度−5℃の環境下で0.25であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.30であった。また、スチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で12minであり、温度40℃、相対湿度30%環境下で48minであった。また、シャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で59回であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で124回であった。また加熱試験後の100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は温度−5℃の環境下で0.32であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.35に増加した。加熱試験後のスチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で12minであり、温度40℃、相対湿度30%環境下で15minであった。また、加熱試験後のシャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で46回であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で58回であった。以上の結果より、比較例2の化合物を塗布した磁気テープは、摩擦係数が高く、またスチル耐久性、及びシャトル耐久性の劣化が大きいことが分かった。
【0114】
(比較例9)
比較例3の化合物を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気テープを作製した。表7に示すように、100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は、温度−5℃の環境下で0.22であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.26であった。また、スチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で25minであり、温度40℃、相対湿度30%環境下で35minであった。また、シャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で65回であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で156回と耐久性は比較例2よりは改善したものの磁気テープの仕様を満足しない。また加熱試験後の100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は温度−5℃の環境下で0.28であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.32に増加した。加熱試験後のスチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で23minであり、温度40℃、相対湿度30%環境下で31minであった。また、加熱試験後のシャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で55回であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で126回であった。以上の結果より、比較例3の潤滑剤Z−Tetraolを塗布した磁気テープは、実施例と比較して摩擦係数が高くまたスチル耐久性、及びシャトル耐久性が悪いことが分かった。
【0115】
【表7】
【0116】
これらの結果も、本発明のイオン液体を含有する本発明の潤滑剤を塗布した磁気テープは、優れた耐摩耗性、スチル耐久性、シャトル耐久性を示した。しかし、比較例として示したZ−DOLやZ−Tetraolの場合には、前述のディスクの場合と同様にその耐久性の劣化が大きかった。またパーフルオロオクタンスルホン酸オクタデシルアンモニウム塩を含有する潤滑剤の場合には優れた耐久性を有するものの、加熱後に摩擦係数が増加した。
【0117】
以上の説明からも明らかなように、共役酸(B)と共役塩基(X)とを有し、前記共役酸が、炭素数10以上の直鎖状の炭化水素基を有し、前記共役塩基が、前記一般式(1)で表され、プロトン性であるイオン液体を含有する潤滑剤は、高温条件下においても潤滑性を保つことができ、また、長期に亘って潤滑性を保つことができる。したがって、このイオン液体を含有する潤滑剤を用いた磁気記録媒体は、非常に優れた走行性、耐摩耗性、及び耐久性を得ることができる。
【符号の説明】
【0118】
11 基板
12 下地層
13 磁性層
14 カーボン保護層
15 潤滑剤層
21 基板
22 磁性層
23 カーボン保護層
24 潤滑剤層
25 バックコート層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9