(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294165
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】チップ型ヒューズ
(51)【国際特許分類】
H01H 85/055 20060101AFI20180305BHJP
H01H 85/12 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
H01H85/055
H01H85/12
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-126036(P2014-126036)
(22)【出願日】2014年6月19日
(65)【公開番号】特開2016-4736(P2016-4736A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2017年5月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092406
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 信太郎
(74)【復代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【復代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(74)【復代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(72)【発明者】
【氏名】石川 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】市川 洋
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 千佳
【審査官】
楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−129115(JP,A)
【文献】
特開2007−095592(JP,A)
【文献】
特表2013−539904(JP,A)
【文献】
特開2006−344477(JP,A)
【文献】
特開2013−229293(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0191832(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 85/00〜87/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基板と、
該絶縁性基板上に積層した下地ガラス層と、
該下地ガラス層上の両端側に配設された一対の電極と、
前記電極間に配設されたヒューズエレメントと、
該エレメントの少なくとも溶断部を被覆する上側ガラス層を備え、
前記エレメントは第一の金属層と第二の金属層とが積層され、さらに前記エレメントの幅よりも広い幅で前記第一と第二の金属層を覆う第三の金属層からなるバリア層を備えたことを特徴とするチップ型ヒューズ。
【請求項2】
請求項1に記載のチップ型ヒューズにおいて、
前記第三の金属層によって第二の金属層を介して第一の金属層まで回り込んで覆われていることを特徴とするチップ型ヒューズ。
【請求項3】
請求項1に記載のチップ型ヒューズにおいて、
前記第一の金属層はCrからなり、前記第二の金属層はCuからなるヒューズエレメントであることを特徴とするチップ型ヒューズ。
【請求項4】
請求項1に記載のチップ型ヒューズにおいて、
前記第三の金属層は、Ta、Cr、Ni、NiCr、またはTiのいずれかからなるバリア層であることを特徴とするチップ型ヒューズ。
【請求項5】
請求項1に記載のチップ型ヒューズにおいて、
前記バリア層の膜厚は、50〜2000Åの範囲であることを特徴とするチップ型ヒューズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回路保護素子に係り、特に所定の過電流で溶断するヒューズエレメントを備えたチップ型ヒューズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、絶縁性基板の上面に下地ガラス層が形成され、その上面に一対の厚膜電極が形成され、この厚膜電極に接続するように薄膜または厚膜からなるヒューズエレメントが形成され、その上面に上側ガラス層が形成され、さらにその上面に樹脂保護層が形成された、チップ型ヒューズが知られている(特許文献1参照)。係るヒューズによれば、ヒューズエレメントが上下のガラス層で覆われているために、ヒューズエレメントから生じる熱が蓄熱される効果が生じ、ヒューズエレメントを小さな過電流でも高速に溶断させることが可能である。
【0003】
このチップ型ヒューズにおいては、ヒューズエレメントの耐熱性向上を目的の一つとして、エレメントをガラス層で両面からコートしているが、これは大気中の気体酸素との反応を想定したものである。しかしながら、多湿環境下では、ガラス成分の酸化ホウ素がホウ酸となってヒューズエレメント上に溶け出し、Cuのヒューズエレメントパターンを腐食してしまうという問題がある。加えて、Cuのヒューズエレメントパターンが表面に形成され、高温環境にさらされると、Cuの移動が促進され、結果として粒界に沿ったCuの隆起が生じ、長期的にはヒューズエレメントが破損する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−52989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述の事情に基づいてなされたもので、高温多湿環境下でも安定に動作が可能な、耐候性に優れたチップ型ヒューズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のチップ型ヒューズは、絶縁性基板と、該絶縁性基板上に積層した下地ガラス層と、該下地ガラス層上の両端側に配設された一対の電極と、前記電極間に配設されたヒューズエレメントと、該エレメントの少なくとも溶断部を被覆する上側ガラス層を備え、前記エレメントは第一の金属層と第二の金属層とが積層され、さらに前記エレメントの幅よりも広い幅で前記第一と第二の金属層を覆う第三の金属層からなるバリア層を備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、エレメントの溶断部を被覆する上側ガラス層は一般に融点を下げるためホウ素を含有したホウケイ酸ガラスからなり、多湿環境下ではガラス成分の酸化ホウ素がホウ酸となってエレメント上に溶け出し、Cu等のエレメントパターンを腐食してしまうという問題があるが、エレメントを覆う第三の金属層からなるバリア層を備えたことで、エレメントパターンの腐食を防止することができる。さらに、高温環境下では導電性に優れたエレメントの金属層が流動化するが、バリア層がこの移動を抑制し、耐熱性を向上することができる。従って、高温・多湿環境下において安定動作が可能な、耐候性に優れたチップ型ヒューズが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施例のチップ型ヒューズの、
図2および
図3のAA線に沿った断面図である。
【
図2】
図1のチップ型ヒューズの上側ガラス層を形成した段階の平面図である。
【
図3】
図1のチップ型ヒューズの保護樹脂層を形成した段階の平面図である。
【
図5】85℃/85%耐湿通電試験結果を示すグラフである。
【
図6】175℃耐熱放置試験結果を示すグラフである。
【
図7】134℃/95%耐湿通電試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、
図1乃至
図7を参照して説明する。なお、各図中、同一または相当する部材または要素には、同一の符号を付して説明する。
【0010】
図1−4は、本発明の一実施例のチップ型ヒューズの構造を示す。このヒューズ10は、アルミナ等の絶縁性基板11と、該絶縁性基板上に積層した下地ガラス層12と、該下地ガラス層上の両端側に配設された一対の電極15Aと、この電極15A間に配設されたヒューズエレメント15Bと、該エレメントの少なくとも溶断部を被覆する上側ガラス層17を備える。ヒューズエレメント層15は幅広の電極15Aと該電極間をつなぐ幅狭のヒューズエレメント15Bが一体的に構成されている。
【0011】
ヒューズエレメント層15は、スパッタにより形成された第一の金属層15aに、同様にスパッタにより形成された第二の金属層15bが積層されてなる。第一の金属層15aは例えば膜厚500Å程度のCr層からなり、第二の金属層15bは例えば膜厚1〜3μm程度のCu層からなる。ここで、電流は主として導電性の高いCu層からなる第二の金属層15bに流れ、第一の金属層15aは第二の金属層15bを下地ガラス層12に接合する役割を主として果たしている。
【0012】
ヒューズエレメント層15は、その幅よりも広い幅で第二の金属層15bを覆う第三の金属層からなるバリア層16を備える。すなわち、第三の金属層からなるバリア層16によって、第二の金属層15bを介して第一の金属層15aまで回り込んで覆われている(
図4参照)。バリア層16である第三の金属層は、Ta、またはCr、のいずれかからなることが好ましく、スパッタにより形成される。但し、Ni、NiCr(6:4)、NiCr(8:2)、Ti等もバリア効果が認められ、バリア層として使用可能である。バリア層16の膜厚は、50〜2000Åの範囲であることが好ましい。
【0013】
ヒューズエレメント層15の溶断部(ヒューズエレメント)15Bを覆う領域に、電極15Aの幅より狭い上側ガラス層17が形成されている。従って、主たる電流経路であるCuからなる第二の金属層15bは、四面がTaまたはCr等からなるバリア層16と、Crからなる第一の金属層15aによって囲まれている。さらに、第一と第二の金属層からなるヒューズエレメント層15と第三の金属層からなるバリア層16は下地ガラス層12および上側ガラス17によって囲まれている(
図4参照)。
【0014】
上側ガラス層17のさらに上側には、エポキシ樹脂等からなる保護層18が配置されている。絶縁基板11および下地ガラス層12の端面には表電極15Aと裏電極14を接続する端面電極が形成され、その面および表裏電極15A,14の露出部に面実装に好適な電極メッキ層20a、20b、20c、20dが形成されている(
図1参照)。電極メッキ層20aはNiメッキ層からなり、20bはCuメッキ層からなり、20cはNiメッキ層からなり、20dはSnメッキ層からなる。係る構成は通常のチップ型部品と同様であり、このチップ型ヒューズ10も面実装が可能なチップ型部品である。
【0015】
後工程で形成するものほど、低温で加工しなければばらない制約から、上側ガラス層17には低融点ガラスが使用される。低融点ガラスには、その融点を下げる目的で一般にホウ素、鉛、ビスマスといった成分が含有されている。この代表的な材料の1つがホウケイ酸ガラスである。ホウケイ酸ガラスは多湿環境下で水分を取り込み、溶け出したホウ酸(H
3BO
3)によって以下の反応が起こり、多湿環境下でCuからなるヒューズエレメントが腐食してしまう。
B
2O
3(ガラス)+ 3H
2O → 2H
3BO
3(ホウ酸)
CuO + 2H
3BO
3(ホウ酸) → Cu(BO
2)
2 + 3H
2O
【0016】
すなわち、高湿環境では、外部の水分子が製品内部に入り込んでヒューズエレメントに到達し、水分による酸化によってヒューズエレメントが腐食するメカニズムが想定される。故に、ヒューズエレメント層15のCuが水分子に攻撃されるのをバリア層16がガードするので、Cuの水分侵入による腐食が防止され、耐湿性が向上するものと考えられる。
【0017】
また、高温環境では、ヒューズエレメント層15のCu粒子が熱エネルギーによって活性化されて移動しやすい状態になる。それによりヒューズエレメント表面のCu粒子が移動現象を引き起こすので、その表面にフタをするようにバリア層16が形成され、その内部のCu粒子の動きを止めるものと考えられる。それ故、バリア層16によりCuの隆起現象等が防止され、耐熱性が向上する。結果としてバリア層16は2種類の故障メガニズムに作用し得るので、耐湿性および耐熱性を向上させ、耐候性に優れたチップ型ヒューズが得られる。
【0018】
図5は、85℃/85%耐湿通電試験結果を示す。バリア層16の導入品にて85℃85%の耐湿通電試験を実施したところ、バリア層16がTaおよびCrの場合、従来構造(バリア層無し)に対する耐候性の優位差を確認した。すなわち、上記試験後にサンプルを抜き取り、ヒューズエレメント層15の腐食がおきていないかを確認したところ、バリア層を備えない従来構造以外では、腐食は生じていなかったことが確認された。但し、バリア層16の成分によっては腐食に対してバリア層の効果がないものがあるので、実施にあたってはバリア層の材料を選ぶ必要がある。
【0019】
バリア層16を備えない従来構造では、上記試験を実施したところ、ヒューズエレメント上に腐食部が見いだされた。バリア層16がTaとCr(ともに厚み:250Å)については、腐食は無く、抵抗値の変動も僅かであり、バリア層としての効果を確認できた。バリア層16がNi(厚み:333Å)の場合においても、腐食は生じず効果を確認できた。また、バリア層の材料としてNi、NiCr(6:4)、NiCr(8:2)、Tiでも、耐湿性は向上するものと考えられる。
【0020】
一方、バリア層16がCr、Taの場合は、高温環境下でのCu表面の粒子移動現象においても効果がある。Cuからなるエレメント層15表面に、Cr、Ta(共に250Å)からなるバリア層16を形成することによって、内部のエレメントであるCu粒子の活性を低下させ、長期の動作特性を向上させることができる。
【0021】
この確認のため、着膜条件の異なる5つのサンプル(従来構造、バリア層−Ni2種(66Å、333Å)、Ta(250Å)、Cr(250Å))を作製し、175℃の試験槽中に放置し、ΔR(抵抗値変動)を観測した(
図6参照)。1000時間経過して、従来構造のものは抵抗値変動も大きく(Max.=5.5%)、ばらつきも大きかった。これに対し、バリア層16を形成したものはいずれもそれより好成績であった。最も良かったバリア層材料はCrであり、抵抗値変動(Max.=1.11%)であり、ばらつきも小であった。Taについても同様である。また、この時点でサンプルを抜き取り、ヒューズエレメントを観察したところ、上記材料のバリア層形成品についてはCuの隆起は生じていなかった。これをもって耐熱性への効果も確認できた。
【0022】
図7はPCT試験の結果を示す。PCT試験とは、プレッシャークッカー試験の略で、加速寿命試験の一種である。134℃の高温で、且つ湿度95%の加圧水蒸気雰囲気下で、定格電流値の8%の電流を印加して行う過酷な試験である。これにより、試験槽内の水蒸気圧力を供試品の内部の水蒸気分圧よりも極端に高めることにより、供試品の内部への水分の浸入を時間的に短縮することができ、電子部品材料の耐湿・耐熱評価を短時間で行うことができる。
【0023】
50時間以上経過後の抵抗値変動(ΔR)は、バリア層Cr750Å(●印)およびバリア層Ti1500Åが最も小さく、次いでバリア層Ta750Å(◆印)が小さく、バリア層Ni1500Å(■印)がこれらより大きく、バリア層Ni750ÅがNi1500Åより少し大きい。しかしながら、バリア層を備えたサンプルはいずれも従来構造(バリア層無し)よりも抵抗値変動(ΔR)が小さいという結果が得られている。
【0024】
以上の結果からバリア層を備えることで、チップ型ヒューズの耐候性が改善され、特に、バリア層として、Cr,Ta,Ti等の薄膜が有効である。また、Ni、NiCr(6:4)、NiCr(8:2)等についても検討したが、これらについても、Cu粒子の移動は認められず、
図7に示すように、従来構造と比較して抵抗値変動(ΔR)が小さく、バリア層として有効と考えられる。バリア層の膜厚に関しては、これらの試験結果から50〜2000Åの範囲で十分と考えられる。
【0025】
これまで本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、チップ型回路保護素子、特にチップ型ヒューズに好適に利用可能である。