特許第6294173号(P6294173)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6294173固形筆記体及びそれを用いた固形筆記体セット
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  • 特許6294173-固形筆記体及びそれを用いた固形筆記体セット 図000010
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294173
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】固形筆記体及びそれを用いた固形筆記体セット
(51)【国際特許分類】
   C09D 13/00 20060101AFI20180305BHJP
   B43K 19/02 20060101ALI20180305BHJP
   B43K 19/00 20060101ALI20180305BHJP
   B43K 29/02 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   C09D13/00
   B43K19/02 J
   B43K19/00 D
   B43K29/02 Z
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-134336(P2014-134336)
(22)【出願日】2014年6月30日
(65)【公開番号】特開2016-11390(P2016-11390A)
(43)【公開日】2016年1月21日
【審査請求日】2017年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】中村 尚嗣
【審査官】 ▲吉▼澤 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−091744(JP,A)
【文献】 特開2014−080453(JP,A)
【文献】 特開2014−051537(JP,A)
【文献】 特開2012−219253(JP,A)
【文献】 特開2014−015545(JP,A)
【文献】 特開2001−011359(JP,A)
【文献】 特開平10−330680(JP,A)
【文献】 特開2007−246605(JP,A)
【文献】 特開昭53−017424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 13/00
B43K 19/00
B43K 19/02
B43K 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体とからなる感温変色性色彩記憶組成物を内包した可逆熱変色性マイクロカプセル顔料と、賦形材と、フィラーと、バインダー樹脂と、ポリエステルポリオール樹脂とを含んでなる固形筆記体。
【請求項2】
前記ポリエステルポリオール樹脂の添加量が、全量中0.3〜5質量%である請求項1記載の固形筆記体。
【請求項3】
前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の添加量が、10質量%以上である請求項1又は2に記載の固形筆記体。
【請求項4】
前記請求項1〜3のいずれか一項に記載の固形筆記体を内芯とし、前記内芯の外周面を被覆する外殻を具備してなることを特徴とする固形筆記体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の固形筆記体と、摩擦体とからなることを特徴とする固形筆記体セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形筆記体に関する。更には、可逆熱変色性を有する筆跡を形成することが可能な固形筆記体とそれを用いた固形筆記体セットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、常温域など一定の温度域において、変色前後の状態を互変的に記憶保持できる可逆熱変色性組成物を用いた固形筆記体が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
前記固形筆記体は、賦形材であるワックス中に添加する着色剤として可逆熱変色性組成物単独又はそのマイクロカプセル封入物を用いることで、温度変化により変色する筆跡を形成するものである。特に、加熱消色タイプの可逆熱変色性組成物を封入するマイクロカプセル顔料を用いた場合、摩擦熱によって筆跡を容易に消去できるため、誤記などの修正などが可能な利便性の高い筆記体となり、例えば、ノートや手帳への筆記や、描画等に適用可能である。
【0004】
前記マイクロカプセル顔料を用いた固形筆記体は、組成物を高温下で加圧して押出、成形した後、マイクロカプセル顔料を発色させるために低温冷却することによって芯状に製造されるのが一般的である。その際、マイクロカプセル顔料が凍結するまで冷却した場合、マイクロカプセル顔料が体積変化を生じ、成形した芯の外径が収縮してしまうことがあった。そのため、所望の芯径が得られず、鉛筆形態にする際の木軸に収容できなくなったり、外殻を設けた芯鞘構造とした際には、外殻にクラックが発生する等の不具合が生じるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平7−6248号公報
【特許文献2】特開2008−291048号公報
【特許文献3】特開2009−166310号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】近藤保、小石真純共著、「マイクロカプセル−その製法・性質・応用−」三共出版(株)、1977年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記したような問題点に鑑みて、着色剤として熱変色性マイクロカプセル顔料を用いた場合であっても、製造工程での凍結時に芯径の収縮変動を生じることなく、成形時の所望の寸法を維持できる形状安定性に優れた固形筆記体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による固形筆記体は、少なくとも(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体とからなる感温変色性色彩記憶組成物を内包した可逆熱変色性マイクロカプセル顔料と、賦形材と、結合剤と、バインダー樹脂と、ポリエステルポリオール樹脂とを含んでなることを要件とする。
更に、前記ポリエステルポリオール樹脂の添加量が、全量中0.3〜5質量%であること、前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の添加量が、10質量%以上であることを要件とする。
更に、前記いずれかに記載の固形筆記体を内芯とし、前記内芯の外周面を被覆する外殻を具備してなることを要件とする。
更には、前記いずれかに記載の固形筆記体と、摩擦体とからなる固形筆記体セットを要件とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、製造工程で低温冷却する必要がある熱変色性マイクロカプセル顔料を着色剤として用いた場合であっても、ポリエステルポリオール樹脂を添加することにより、凍結冷却時に芯径の収縮変動を生じることなく、成形時の所望の寸法を維持できる形状安定性に優れた固形筆記体となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明による固形筆記体の筆跡の、変色挙動を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明による固形筆記体は、少なくとも(イ)、(ロ)、および(ハ)成分からなる感温変色性色彩記憶組成物を内包した可逆熱変色性マイクロカプセル顔料と、賦形材と、結合剤と、バインダー樹脂とを含む芯材成分に加え、ポリエステルポリオール樹脂を用いたことを特徴とするものである。
【0012】
本発明による固形筆記体は、第1の発色状態と第2の発色状態を互変的に呈することができる。本発明で言う、第1の発色状態と第2の発色状態を互変的に呈するとは、有色(1)と有色(2)の二つの発色した状態、発色状態と消色状態または消色状態と発色状態を互変的に呈することを意味する。即ち、第1の発色状態から温度が上昇して第2の発色状態へ変化する場合、有色(1)から有色(2)への変化、発色状態から消色状態への変化、即ち、加熱消色型の変化を含んでいる。
【0013】
本発明による固形筆記体で筆記した際の筆跡の変色挙動について、加熱消色型を例に、図1と共に説明する。図1において、縦軸に色濃度、横軸に温度が表されている。温度変化による色濃度の変化は矢印に沿って進行する。ここで、Aは完全消色状態に達する温度t(以下、完全消色温度と言うことがある)における濃度を示す点であり、Bは消色を開始する温度t(以下、消色開始温度と言うことがある)における濃度を示す点であり、Cは発色を開始する温度t(以下、発色開始温度と言うことがある)における濃度を示す点であり、Dは完全発色状態に達する温度t(以下、完全発色温度ということがある)における濃度を示す点である。変色温度域は前記tとt間の温度域であり、発色状態と消色状態の両状態が共存でき、tとtの間の温度域において完全発色状態と完全消色状態を選択的に呈することができる温度域となる。また、線分EFの長さが変色の割合を示す尺度であり、線分EFの中点を通る線分HGの長さがヒステリシスの程度を示す温度幅(以下、ΔHと言うことがある)である。本発明において、このΔH値を有することで、一定の温度域で第1の発色状態と第2の発色状態が選択的に保持されるヒステリシス特性を示すこととなる。
【0014】
本発明による固形筆記体に用いるマイクロカプセル顔料に内包する(イ)成分としては、通常、感熱紙などの感熱材料に用いられる、所謂ロイコ染料を用いることができる。具体的には、ジフェニルメタンフタリド類、インドリルフタリド類、ジフェニルメタンアザフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、フルオラン類、スチリノキノリン類、ジアザローダミンラクトン類などが挙げられる。
【0015】
より具体的には、3,3−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド、3−(4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3,3−ビス(1−n−ブチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3,3−ビス(2−エトキシ−4−ジエチルアミノフェニル)−4−アザフタリド、3−〔2−エトキシ−4−(N−エチルアニリノ)フェニル〕−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−アザフタリド、3,6−ジフェニルアミノフルオラン、3,6−ジメトキシフルオラン、3,6−ジ−n−ブトキシフルオラン、2−メチル−6−(N−エチル−N−p−トリルアミノ)フルオラン、3−クロロ−6−シクロヘキシルアミノフルオラン、2−メチル−6−シクロヘキシルアミノフルオラン、2−(2−クロロアニリノ)−6−ジ−n−ブチルアミノフルオラン、2−(3−トリフルオロメチルアニリノ)−6−ジエチルアミノフルオラン、2−(N−メチルアニリノ)−6−(N−エチル−N−p−トリルアミノ)フルオラン、1,3−ジメチル−6−ジエチルアミノフルオラン、2−クロロ−3−メチル−6−ジエチルアミノフルオラン、2−アニリノ−3−メチル−6−ジエチルアミノフルオラン、2−アニリノ−3−メチル−6−ジ−n−ブチルアミノフルオラン、2−キシリジノ−3−メチル−6−ジエチルアミノフルオラン、1,2−ベンツ−6−ジエチルアミノフルオラン、1,2−ベンツ−6−(N−エチル−N−イソブチルアミノ)フルオラン、1,2−ベンツ−6−(N−エチル−N−イソアミルアミノ)フルオラン、2−(3−メトキシ−4−ドデコキシスチリル)キノリン、スピロ〔5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−d)ピリミジン−5,1′(3′H)イソベンゾフラン〕−3′−オン、2−(ジエチルアミノ)−8−(ジエチルアミノ)−4−メチル−スピロ〔5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−g)ピリミジン−5,1′(3′H)イソベンゾフラン〕−3−オン、2−(ジ−n−ブチルアミノ)−8−(ジ−n−ブチルアミノ)−4−メチル−スピロ〔5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−g)ピリミジン−5,1′(3′H)イソベンゾフラン〕−3−オン、2−(ジ−n−ブチルアミノ)−8−(ジエチルアミノ)−4−メチル−スピロ〔5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−g)ピリミジン−5,1′(3′H)イソベンゾフラン〕−3−オン、2−(ジ−n−ブチルアミノ)−8−(N−エチル−N−i−アミルアミノ)−4−メチル−スピロ〔5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−g)ピリミジン−5,1′(3′H)イソベンゾフラン〕−3−オン、3−(2−メトキシ−4−ジメチルアミノフェニル)−3−(1−ブチル−2−メチルインドール−3−イル)−4,5,6,7−テトラクロロフタリド、3−(2−エトキシ−4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4,5,6,7−テトラクロロフタリド、3−(2−エトキシ−4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−ペンチル−2−メチルインドール−3−イル)−4,5,6,7−テトラクロロフタリド、3´,6´−ビス〔フェニル(2−メチルフェニル)アミノ〕−スピロ[イソベンゾフラン−1(3H),9´−〔9H〕キサンテン]−3−オン、3´,6´−ビス〔フェニル(3−メチルフェニル)アミノ〕−スピロ[イソベンゾフラン−1(3H),9´−〔9H〕キサンテン]−3−オン、3´,6´−ビス〔フェニル(3−エチルフェニル)アミノ〕−スピロ[イソベンゾフラン−1(3H),9´−〔9H〕キサンテン]−3−オン等を挙げることができる。
【0016】
更には、蛍光性の黄色乃至赤色の発色を発現させるのに有効な、ピリジン系、キナゾリン系、ビスキナゾリン系化合物等を挙げることができる。
【0017】
(ロ)成分の電子受容性化合物としては、活性プロトンを有する化合物群、偽酸性化合物群(酸ではないが、組成物中で酸として作用して成分(イ)を発色させる化合物群)、電子空孔を有する化合物群などがある。活性プロトンを有する化合物を例示すると、フェノール性水酸基を有する化合物としては、モノフェノール類からポリフェノール類があり、更にその置換基としてアルキル基、アリール基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシ基及びそのエステル又はアミド基、ハロゲン基等を有するもの、及びビス型、トリス型フェノール等、フェノール−アルデヒド縮合樹脂などが挙げられる。また、前記フェノール性水酸基を有する化合物の金属塩を用いることもできる。
【0018】
より具体的には、フェノール、o−クレゾール、ターシャリーブチルカテコール、ノニルフェノール、n−オクチルフェノール、n−ドデシルフェノール、n−ステアリルフェノール、p−クロロフェノール、p−ブロモフェノール、o−フェニルフェノール、p−ヒドロキシ安息香酸n−ブチル、p−ヒドロキシ安息香酸n−オクチル、レゾルシン、没食子酸ドデシル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、1−フェニル−1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルプロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキ
シフェニル)n−オクタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ノナン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−デカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ドデカン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチルプロピオネート、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ヘプタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ノナンなどが挙げられる。
【0019】
また、前記フェノール性水酸基を有する化合物が最も有効な熱変色特性を発現させることができるが、芳香族カルボン酸及び炭素数2〜5の脂肪族カルボン酸、カルボン酸金属塩、酸性リン酸エステル及びそれらの金属塩、1,2,3−トリアゾール及びその誘導体から選ばれる化合物なども用いることができる。
【0020】
更に、電子受容性化合物として炭素数3〜18の直鎖又は側鎖アルキル基を有する特定のアルコキシフェノール化合物(特開平11−129623号公報)、特定のヒドロキシ安息香酸エステル(特開2001−105732号公報)、没食子酸エステル(特開2003−253149号公報)等を用いた加熱発色型の可逆熱変色性組成物を適用することもできる。
【0021】
前記(イ)成分および(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体である(ハ)成分としては、具体的には、アルコール類、エステル類、ケトン類、またはエーテル類を挙げることができる。
【0022】
前記(ハ)成分として好ましくは、色濃度−温度曲線に関し、大きなヒステリシス特性(温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線が、温度を低温側から高温側へ変化させる場合と、高温側から低温側へ変化させる場合で異なる)を示して変色する、色彩記憶性を示す可逆熱変色性組成物を形成できる5℃以上50℃未満のΔT値(融点−曇点)を示すカルボン酸エステル化合物、例えば、分子中に置換芳香族環を含むカルボン酸エステル、無置換芳香族環を含むカルボン酸と炭素数10以上の脂肪族アルコールのエステル、分子中にシクロヘキシル基を含むカルボン酸エステル、炭素数6以上の脂肪酸と無置換芳香族アルコール又はフェノールのエステル、炭素数8以上の脂肪酸と分岐脂肪族アルコール又はエステル、ジカルボン酸と芳香族アルコール又は分岐脂肪族アルコールのエステル、ケイ皮酸ジベンジル、ステアリン酸ヘプチル、アジピン酸ジデシル、アジピン酸ジラウリル、アジピン酸ジミリスチル、アジピン酸ジセチル、アジピン酸ジステアリル、トリラウリン、トリミリスチン、トリステアリン、ジミリスチン、ジステアリンなどを用いる整理ことができる。
【0023】
また、炭素数9以上の奇数の脂肪族一価アルコールと炭素数が偶数の脂肪族カルボン酸から得られる脂肪酸エステル化合物、n−ペンチルアルコール又はn−ヘプチルアルコールと炭素数10〜16の偶数の脂肪族カルボン酸より得られる総炭素数17〜23の脂肪酸エステル化合物を用いてもよい。
【0024】
具体的には、エステル類としては、酢酸n−ペンタデシル、酪酸n−トリデシル、酪酸n−ペンタデシル、カプロン酸n−ウンデシル、カプロン酸n−トリデシル、カプロン酸n−ペンタデシル、カプリル酸n−ノニル、カプリル酸n−ウンデシル、カプリル酸n−トリデシル、カプリル酸n−ペンタデシル、カプリン酸n−ヘプチル、カプリン酸n−ノニル、カプリン酸n−ウンデシル、カプリン酸n−トリデシル、カプリン酸n−ペンタデシル、ラウリン酸n−ペンチル、ラウリン酸n−ヘプチル、ラウリン酸n−ノニル、ラウリン酸n−ウンデシル、ラウリン酸n−トリデシル、ラウリン酸n−ペンタデシル、ミリスチン酸n−ペンチル、ミリスチン酸n−ヘプチル、ミリスチン酸n−ノニル、ミリスチン酸n−ウンデシル、ミリスチン酸n−トリデシル、ミリスチン酸n−ペンタデシル、パルミチン酸n−ペンチル、パルミチン酸n−ヘプチル、パルミチン酸n−ノニル、パルミチン酸n−ウンデシル、パルミチン酸n−トリデシル、パルミチン酸n−ペンタデシル、ステアリン酸n−ノニル、ステアリン酸n−ウンデシル、ステアリン酸n−トリデシル、ステアリン酸n−ペンタデシル、エイコサン酸n−ノニル、エイコサン酸n−ウンデシル、エイコサン酸n−トリデシル、エイコサン酸n−ペンタデシル、ベヘニン酸n−ノニル、ベヘニン酸n−ウンデシル、ベヘニン酸n−トリデシル、ベヘニン酸n−ペンタデシルなどが挙げられる。
【0025】
また、ケトン類としては、総炭素数が10以上の脂肪族ケトン類が有効であり、2−デカノン、3−デカノン、4−デカノン、2−ウンデカノン、3−ウンデカノン、4−ウンデカノン、5−ウンデカノン、2−ドデカノン、3−ドデカノン、4−ドデカノン、5−ドデカノン、2−トリデカノン、3−トリデカノン、2−テトラデカノン、2−ペンタデカノン、8−ペンタデカノン、2−ヘキサデカノン、3−ヘキサデカノン、9−ヘプタデカノン、2−ペンタデカノン、2−オクタデカノン、2−ノナデカノン、10−ノナデカノン、2−エイコサノン、11−エイコサノン、2−ヘンエイコサノン、2−ドコサノン、ラウロン、ステアロンなどが挙げられる。
【0026】
更に、総炭素数が12〜24のアリールアルキルケトン類としては、例えば、n−オクタデカノフェノン、n−ヘプタデカノフェノン、n−ヘキサデカノフェノン、n−ペンタデカノフェノン、n−テトラデカノフェノン、4−n−ドデカアセトフェノン、n−トリデカノフェノン、4−n−ウンデカノアセトフェノン、n−ラウロフェノン、4−n−デカノアセトフェノン、n−ウンデカノフェノン、4−n−ノニルアセトフェノン、n−デカノフェノン、4−n−オクチルアセトフェノン、n−ノナノフェノン、4−n−ヘプチルアセトフェノン、n−オクタノフェノン、4−n−ヘキシルアセトフェノン、4−n−シクロヘキシルアセトフェノン、4−tert−ブチルプロピオフェノン、n−ヘプタフェノン、4−n−ペンチルアセトフェノン、シクロヘキシルフェニルケトン、ベンジル−n−ブチルケトン、4−n−ブチルアセトフェノン、n−ヘキサノフェノン、4−イソブチルアセトフェノン、1−アセトナフトン、2−アセトナフトン、シクロペンチルフェニルケトンなどが挙げられる。
【0027】
また、エーテル類としては、総炭素数10以上の脂肪族エーテル類が有効であり、ジペンチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジヘプチルエーテル、ジオクチルエーテル、ジノニルエーテル、ジデシルエーテル、ジウンデシルエーテル、ジドデシルエーテル、ジトリデシルエーテル、ジテトラデシルエーテル、ジペンタデシルエーテル、ジヘキサデシルエーテル、ジオクタデシルエーテル、デカンジオールジメチルエーテル、ウンデカンジオールジメチルエーテル、ドデカンジオールジメチルエーテル、トリデカンジオールジメチルエーテル、デカンジオールジエチルエーテル、ウンデカンジオールジエチルエーテル等を挙げることができる。
【0028】
更に、前記(ハ)成分として、下記一般式(1)で示される化合物が好適に用いられる。
【化1】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、aは0〜2の整数を示し、Xのいずれか一方は−(CHOCOR’又は−(CHCOOR’、他方は水素原子を示し、bは0〜2の整数を示し、R’は炭素数4以上のアルキル基又はアルケニル基を示し、Y1はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、メトキシ基、又はハロゲンを示し、bはそれぞれ独立に1〜3の整数を示す。)
【0029】
前記(1)で示される化合物のうち、Rが水素原子の場合、より広いヒステリシス幅を有する可逆熱変色性組成物が得られるため好適であり、さらにRが水素原子であり、且つ、aが0の場合がより好適である。
【0030】
尚、(1)で示される化合物のうち、より好ましくは下記一般式(2)で示される化合物が用いられる。
【化2】
(式中のRは、炭素数8以上のアルキル基又はアルケニル基、好ましくは炭素数10〜24のアルキル基、更に好ましくは炭素数12〜22のアルキル基である。)
【0031】
前記化合物として具体的には、オクタン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチル、ノナン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチル、デカン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチル、ウンデカン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチル、ドデカン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチル、トリデカン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチル、テトラデカン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチル、ペンタデカン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチル、ヘキサデカン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチル、ヘプタデカン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチル、オクタデカン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチルなどを例示できる。
【0032】
更に、前記(ハ)成分として、下記一般式(3)で示される化合物を用いることもできる。
【化3】
(式中、Rは炭素数8以上のアルキル基又はアルケニル基を示し、cはそれぞれ独立に1〜3の整数を示し、Xはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、又はハロゲンを示す。)
【0033】
前記化合物として具体的には、オクタン酸1,1−ジフェニルメチル、ノナン酸1,1−ジフェニルメチル、デカン酸1,1−ジフェニルメチル、ウンデカン酸1,1−ジフェニルメチル、ドデカン酸1,1−ジフェニルメチル、トリデカン酸1,1−ジフェニルメチル、テトラデカン酸1,1−ジフェニルメチル、ペンタデカン酸1,1−ジフェニルメチル、ヘキサデカン酸1,1−ジフェニルメチル、ヘプタデカン酸1,1−ジフェニルメチル、オクタデカン酸1,1−ジフェニルメチルなどを例示できる。
【0034】
更に、前記(ハ)成分として下記一般式(4)で示される化合物を用いることもできる。
【化4】
(式中、Xはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、メトキシ基、又はハロゲン原子のいずれかを示し、eはそれぞれ独立に1〜3の整数を示し、dは1〜20の整数を示す。)
【0035】
前記化合物としては、マロン酸と2−〔4−(4−クロロベンジルオキシ)フェニル)〕エタノールとのジエステル、こはく酸と2−(4−ベンジルオキシフェニル)エタノールとのジエステル、こはく酸と2−〔4−(3−メチルベンジルオキシ)フェニル)〕エタノールとのジエステル、グルタル酸と2−(4−ベンジルオキシフェニル)エタノールとのジエステル、グルタル酸と2−〔4−(4−クロロベンジルオキシ)フェニル)〕エタノールとのジエステル、アジピン酸と2−(4−ベンジルオキシフェニル)エタノールとのジエステル、ピメリン酸と2−(4−ベンジルオキシフェニル)エタノールとのジエステル、スベリン酸と2−(4−ベンジルオキシフェニル)エタノールとのジエステル、スベリン酸と2−〔4−(3−メチルベンジルオキシ)フェニル)〕エタノールとのジエステル、スベリン酸と2−〔4−(4−クロロベンジルオキシ)フェニル)〕エタノールとのジエステル、スベリン酸と2−〔4−(2,4−ジクロロベンジルオキシ)フェニル)〕エタノールとのジエステル、アゼライン酸と2−(4−ベンジルオキシフェニル)エタノールとのジエステル、セバシン酸と2−(4−ベンジルオキシフェニル)エタノールとのジエステル、1,10−デカンジカルボン酸と2−(4−ベンジルオキシフェニル)エタノールとのジエステル、1,18-オクタデカンジカルボン酸と2−(4−ベンジルオキシフェニル)エタノールとのジエステル、1,18-オクタデカンジカルボン酸と2−〔4−(2−メチルベンジルオキシ)フェニル)〕エタノールとのジエステルなどを例示できる。
【0036】
更に、前記(ハ)成分として下記一般式(5)で示される化合物を用いることもできる。
【化5】
(式中、Rは炭素数1〜21のアルキル基又はアルケニル基を示し、fはそれぞれ独立に1〜3の整数を示す。)
【0037】
前記化合物としては、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンとカプリン酸とのジエステル、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンとウンデカン酸とのジエステル、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンとラウリン酸とのジエステル、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンとミリスチン酸とのジエステル、1,4−ビス(ヒドロキシメトキシ)ベンゼンと酪酸とのジエステル、1,4−ビス(ヒドロキシメトキシ)ベンゼンとイソ吉草酸とのジエステル、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンと酢酸とのジエステル、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンとプロピオン酸とのジエステル、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンと吉草酸とのジエステル、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンとカプロン酸とのジエステル、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンとカプリル酸とのジエステル、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンとカプリン酸とのジエステル、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンとラウリン酸とのジエステル、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンとミリスチン酸とのジエステルなどを例示できる。
【0038】
更に、前記(ハ)成分として下記一般式(6)で示される化合物を用いることもできる。
【化6】
(式中、Xはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、又はハロゲン原子のいずれかを示し、hは1〜3の整数を示し、gは1〜20の整数を示す。)
【0039】
前記化合物としては、こはく酸と2−フェノキシエタノールとのジエステル、スベリン酸と2−フェノキシエタノールとのジエステル、セバシン酸と2−フェノキシエタノールとのジエステル、1,10-デカンジカルボン酸と2−フェノキシエタノールとのジエステル、1,18-オクタデカンジカルボン酸と2−フェノキシエタノールとのジエステルなどが挙げられる。
【0040】
本発明による固形筆記体に用いるマイクロカプセル顔料に内包する(イ)、(ロ)、(ハ)の3成分の配合比としては、濃度、変色温度変色形態や各成分の種類により決まるが、一般的に所望の特性が得られる配合比は、質量比で、(イ)成分:(ロ)成分:(ハ)成分=1:0.1〜50:1〜800であり、好ましくは、(イ)成分:(ロ)成分:(ハ)成分=1:0.5〜20:5〜200である。これらの各成分は、各々二種類以上を混合して用いてもよい。
【0041】
本発明による固形筆記体に用いるマイクロカプセル顔料には、その機能に影響を及ぼさない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、溶解助剤、防腐・防黴剤などの各種添加剤を添加することができる。
本発明による固形筆記体は、第1の発色状態と第2の発色状態が、有色(1)と有色(2)の変化をする場合、染料や顔料などの非熱変色性の着色剤を配合することで達成できる。
【0042】
本発明に用いるマイクロカプセル顔料は、内包物と壁膜の質量比が、内包物:壁膜=1:1〜7:1であることが好ましい。この範囲より内包物の比率が大きくなると、壁膜の厚みが薄くなり、圧力や熱に対して弱くなりマイクロカプセルが破壊される傾向があり、この範囲より小さいと、発色状態での濃度や視認性が低下する傾向がある。より好ましくは、内包物:壁膜=1:1〜6:1であり、この範囲にあると、発色状態での濃度や視認性が高く、マイクロカプセルが破壊されることがない。
【0043】
本発明による固形筆記体に用いるマイクロカプセル顔料は、特に限定されないが平均粒子径が0.1〜50μmであることが好ましい。この範囲より小さいと、発色濃度が低くなる傾向が見られ、この範囲より大きいと固形筆記体に用いる際に、分散安定性や加工性が劣る傾向が見られる。より好ましくは、0.3〜30μmである。この範囲にあると、発色状態も良好で、分散安定性や加工性がよくなる。
【0044】
本発明でいうマイクロカプセル顔料の平均粒子径とは、粒子径を測定したときの体積基準で表わしたD50の値で表される。測定の一例としては、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置((株)堀場製作所製;LA−300)を用いて測定してその数値を基に平均粒子径(メジアン径)を算出した値を用いる。
【0045】
本発明による固形筆記体に用いるマイクロカプセル顔料の配合割合としては、前記固形筆記体の内芯全質量に対し、1〜70質量%が好ましい。この範囲より小さいと発色濃度が低くなる傾向が見られ、この範囲より大きいと固形筆記体の内芯の強度が低下する傾向が見られる。好ましくは、5〜50質量%、さらに好ましくは、10〜40質量%であり、この範囲にあると、固形筆記体の強度と筆跡濃度を両立することができる。
尚、10質量%以上添加する場合、凍結状態での体積変化率が大きくなるため、本発明の構成が特に有用となる。
【0046】
前記マイクロカプセル顔料は、製造方法としては、例えば、非特許文献1に記載されているような一般的に知られている方法を用いることができる。具体的には、コアセルベート法、界面重合法、界面重縮合法、in−situ重合法、液中乾燥法、液中硬化法、懸濁重合法、乳化重合法、気中懸濁被覆法、スプレードライ法などが挙げられ、適宜選択される。
【0047】
本発明による固形筆記体に用いるポリエステルポリオール樹脂は、アルキレン樹脂の一種類で主鎖中に少なくともエステル結合(−CO−O−)と水酸基を2個以上有するアルコ−ルからなる高分子化合物である。分子中の−CH(CH)−CH−の(CH)基が50%程度であるため、大気中の水分には反応せず、冷却状態から常温への昇温時においても水分を吸収し難い物質である。
【0048】
前記ポリエステルポリオ−ル樹脂としては、第一工業製薬(株)製の「パオゲン」や、東洋紡績(株)製の「バイロン300」等が挙げられる。
配合量としては、全量中0.3〜5質量%、好ましくは0.5質量%〜3質量%であり、この範囲にあると、凍結冷却時の固形筆記体の縮径抑制に対する作用が特に高く発揮される。
【0049】
本発明による固形筆記体に用いる賦形材としては、例えばワックス、ゲル化剤、粘土などを用いることが出来る。ワックスとしては、従来公知のものであればいずれを用いてもよく、具体的にはカルナバワックス、木ろう、蜜ろう、マイクロクリスタリンワックス、モンタンワックス、キャンデリラワックス、ショ糖脂肪酸エステル、デキストリン脂肪酸エステル、ポリオレフィンワックス、スチレン変性ポリオレフィンワックス、パラフィンワックスなどが挙げられる。ゲル化剤としては従来公知のものを用いることができ、例えば12ヒドロキシステアリン酸、ジベンジリデンソルビトール類、トリベンジリデンソルビトール類、アミノ酸系油、高級脂肪酸のアルカリ金属塩などが挙げられる。粘土鉱物としては、カオリン、ベントナイト、モンモリロナイトなどが挙げられる。賦形材としては、ポリオレフィンワックス、ショ糖脂肪酸エステルまたはデキストリン脂肪酸エステルの少なくとも一種を含有していることが好ましい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、αオレフィン重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体等のワックスなどが挙げられる。
【0050】
特に、前記ポリオレフィンワックスのうち、軟化点が100℃〜130℃の範囲にあり、かつ針入度が10以下であるものは、筆記感が高いために、好ましく用いられる。針入度が10を越えると、固形筆記体が柔らかすぎて筆記し難くなる傾向が見られ、しかも、擦過消去時に筆跡が紙面上で伸びてしまう(ワックスが薄層化される)ために筆記面の空白部分を汚染したり、他の紙への色移りや汚れを生じる。
【0051】
尚、前記ポリオレフィンワックスの軟化点、針入度の測定方法は、JIS K2207に規格化されており、針入度の値は、0.1mmを針入度1と表す。従って、数字が小さいほど硬く、大きいほど柔らかい固形筆記体である。
【0052】
具体的には、ネオワックスシリーズ(ヤスハラケミカル(株)製 ポリエチレン)、サンワックスシリーズ(三洋化成工業(株)製 ポリエチレン)、ハイワックスシリーズ(三井化学(株)製 ポリオレフィン)、A−Cポリエチレン(Honeywell社製 ポリエチレン)等が挙げられる。
【0053】
本発明による固形筆記体の賦形材として、ショ糖脂肪酸エステルまたはデキストリン脂肪酸エステルの少なくとも一種を含有していると、筆跡濃度の向上を図ることが出来るため好ましく用いられる。
【0054】
ショ糖脂肪酸エステルとしては、特にC12〜C22の脂肪酸を構成脂肪酸とするエステルが好ましく、より好ましくは、パルミチン酸、ステアリン酸が有用である。具体的には、三菱化学フーズ(株)製:リョートーシュガーエステルシリーズ、第一工業製薬(株)製:シュガーワックスシリーズ等が挙げられる。
【0055】
また、本発明による固形筆記体に用いるデキストリン脂肪酸エステルとしては、特にC14〜C18の脂肪酸を構成脂肪酸とするエステルが好適であり、より好ましくは、パルミチン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸が有用である。具体的には、千葉製粉(株)製:レオパールシリーズ等が挙げられる。
【0056】
本発明による固形筆記体に用いる賦形材の配合割合としては、全質量に対し0.2〜70質量%、が好ましい。この範囲より小さいと固形筆記体の筆記可能な内芯としての形状を得られ難くなる傾向が見られ、この範囲より大きいと十分な筆記濃度が得られにくくなる傾向が見られる。好ましくは、0.5〜40質量%であり、この範囲にあると、固形筆記体の形状と筆跡濃度を両立することができる。
【0057】
本発明による固形筆記体に用いるフィラーは、固形筆記体の強度の向上や書き味を調整する目的で配合される。本発明において用いることができるフィラーとしては、例えばタルク、クレー、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、マイカ、窒化硼素、チタン酸カリウム、およびガラスフレークなどが挙げられ、特に成形性、マイクロカプセル顔料に対する変色性能への影響などの点からタルク、炭酸カルシウムが好ましい。
【0058】
前記フィラーの配合割合としては、全質量に対し、10〜55質量%が好ましい。この範囲より小さいと強度が低下する傾向がみられ、この範囲より大きいと、発色性が低下したり、書き味が劣る傾向がみられる。
【0059】
前記フィラーと、前記賦形材と、前記マイクロカプセルとの配合比は、特に限定されないが、質量基準で、一般にマイクロカプセル1に対して賦形材が0.1〜5、好ましくは0.5〜2であり、フィラーが0.1〜5、好ましくは0.5〜2である。
【0060】
本発明による固形筆記体に用いるバインダー樹脂は、固形筆記体の強度を向上する目的で配合されるが、天然樹脂、合成樹脂を用いることができる。具体的には、オレフィン系樹脂、セルロース系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ピロリドン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン樹脂、アミド系樹脂、塩基性基含有樹脂などが挙げられる。特に、ポリエステルポリオール樹脂との併用によって成形安定性が向上することから、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、エチレンビニルアルコール共重合樹脂、ポリビニルアルコール樹脂が好適である。
前記バインダー樹脂の添加量としては、全量中0.5〜5質量%の範囲であることが好ましい。
【0061】
また、本発明による固形筆記体には、ヒンダードアミン化合物を添加することができる。ヒンダードアミン化合物を添加することにより、筆跡を消去した箇所の残像がいっそう視認され難くなるという特徴がある。このため被筆記面の見栄えを損なうことなく、しかも、再筆記性を満足させることができ、商品性を高めることができるので好ましい。
【0062】
前記ヒンダードアミン化合物の分子量が1000以下であることにより賦形材との相溶性に富み、ブリードアウトし難くなるため、経時後も明瞭な筆跡を形成することができる。
尚、前記ヒンダードアミン化合物の融点が120℃以下あると製造時に過度の熱を加えることなく固形筆記体を製造することができるため、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料や各種添加剤が劣化することを防止できる。
前記ヒンダードアミン化合物の添加量としては、全量中0.1〜5質量%であることが好ましい。前記範囲内で添加することにより、マイクロカプセル顔料中からブリードアウトした成分を効果的に中和でき、筆跡を消去した箇所の残像がいっそう視認され難くなるため、被筆記面の見栄えを損なうことなく、しかも、再筆記性を満足させることができ、商品性を高めることができる。
【0063】
本発明による固形筆記体は、必要に応じて、各種添加剤を添加することができる。添加剤としては、粘度調整剤、防かび剤、防腐剤、抗菌剤、紫外線防止剤、香料などが挙げられる。
【0064】
本発明による固形筆記体は、単独で筆記体として使用する他、内芯として用いてその外周面を被覆する外殻を設けた芯鞘構造(二重芯)とすることもできる。このような外殻は、内部にある固形筆記体が物理的接触によって損傷を受けることを防ぐほか、固形筆記体全体の機械的強度の向上に寄与することもできる。このような外殻は筆跡形成に寄与する着色剤を含んでいても含んでいなくてもよいが、一般に固形筆記体の先端は錐状に削られることが多いため、外殻は筆跡には影響を与えないことが多い。このため、外殻に着色剤を添加しないのが一般的である。
【0065】
前記外殻は、汎用の樹脂等により形成することが可能であるが、安定した被覆状態を維持できる点から、賦形材を用いることが好ましい。
前記賦形材としては、例えばワックス、ゲル化剤などを用いることができる。ワックスとしては、従来公知のものであればいずれを用いてもよく、具体的にはカルナバワックス、木ろう、蜜ろう、マイクロクリスタリンワックス、モンタンワックス、キャンデリラワックス、ショ糖脂肪酸エステル、デキストリン脂肪酸エステル、ポリオレフィンワックス、スチレン変性ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス、ステアリン酸などが挙げられる。ゲル化剤としては従来公知のものを用いることができ、例えば12ヒドロキシステアリン酸、ジベンジリデンソルビトール類、トリベンジリデンソルビトール類、アミノ酸系油、高級脂肪酸のアルカリ金属塩などが挙げられる。賦形材としては、ポリオレフィンワックス、ショ糖脂肪酸エステルまたはデキストリン脂肪酸エステルの少なくとも一種を含有していることが好ましい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、αオレフィン重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体等のワックスなどが挙げられ、内芯に用いることができる賦形材を用いることができる。更に、内芯に用いた賦形材と同じ材料を用いると、内芯と外殻の界面が適度に融合し、無用な界面剥離を起こさないため好ましい。外殻に用いる賦形材の配合割合としては、外殻全質量に対して、10質量%〜90質量%であることが好ましい。この範囲にあると、成形性が良くなるため好ましい。賦形材の配合量は、より好ましくは10質量%〜90質量%であり、更に好ましくは20質量%〜70質量%であり、この範囲にあると、固形筆記体の成形性、固形筆記体の耐光性が更に向上する。
【0066】
本発明による固形筆記体の外殻に、賦形材と共にフィラーを配合することができる。フィラーとしては、体質剤などに用いられる炭酸カルシウム、粘土、カオリン、ベントナイト、モンモリロナイト、タルク、二酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、マイカ、チタン酸カリウムウィスカー、マグネシウムオキシサルフェートウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、ワラストナイト、アタパルジャイト、セピオライト、シリカなど、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化ホウ素、アルミナ、ジルコニアなどのセラミックス類、天然黒鉛、人造黒鉛、キッシュ黒鉛、膨張黒鉛、膨張化黒鉛などの黒鉛類、オイルファーネスブラック、ガスファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、ランプブラックなどのカーボンブラック類などが挙げられる。
【0067】
前記フィラーの配合割合としては、外殻全質量に対して、10質量%以上が好ましく、90質量%以下であることが好ましい。固形筆記体の耐光性や成形性、固形筆記体の強度を改良するという観点からはフィラーの配合割合が多いことが好ましい。一方、外芯の成形性を改良するという観点からはフィラーの配合量が少ないことが好ましい。より好ましくは、フィラーの配合割合が10質量%〜80質量%であり、更に好ましくは、30質量%〜80質量%である。この範囲にあると、固形筆記体の耐光性、成形性、および固形筆記体の強度の全てが向上するのでより好ましい。
【0068】
更に前記外殻には、弾性体樹脂を配合することもできる。外殻に弾性体樹脂を用いると、固形筆記体の内芯と外殻との親和性が改良され、製造時に形成される欠陥が減少して、耐衝撃性などの強度を向上させることができる。また、製造時における成形性も改良される。
ここで弾性体樹脂とは、固体状態である時に弾性を有する樹脂をいう。
弾性体樹脂の配合割合として、前記したような効果を得るためには、外殻全質量に対して、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましい。一方で、成形性などを良好に保つために、15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0069】
本発明による固形筆記体に用いる外殻は、各種機能を付与する目的などで、必要に応じて、各種添加剤を添加することができる。添加剤としては、前述のヒンダードアミン化合物や着色剤、防黴剤、防腐剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、滑剤、香料などが挙げられる。これらの添加剤は、任意のものを用いることができる。また、単一の添加剤が複数の機能を有していてもよい。例えば、ステアリン酸のように滑り剤として機能すると同時に、賦形材としても機能するものもある。このように滑剤の機能を有する添加剤を添加した場合には、成形性を向上することができるなど、更なる効果が得られる。また、紫外線吸収剤は単に紫外線を吸収するにとどまらず、外殻に含まれる各種材料が紫外線によって退色などすることを防ぐので、光安定性や保存性を改良する機能を併せ持つことがある。
更に必要に応じて、前述の可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を添加することも可能である。その場合、内芯で用いるマイクロカプセル顔料と同じ色相のものを適用することが好ましいが、別の色相のマイクロカプセル顔料を用いることもできる。
【0070】
本発明による固形筆記体の製造方法としては、押出成形や、圧縮成形を用いて製造することができる。芯鞘構造の具体例を挙げると、内芯の塊状物の外周面に外殻を配設しプレスにて圧縮成形をするなどして、内芯の外周面を被覆する外殻を設けた固形筆記体を得ることができる。
【0071】
前記成形を高温下で行った後、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を発色させることを目的として、低温冷却することによって固形筆記体は製造される。従来、マイクロカプセル顔料が凍結するまで冷却してから常温に戻した場合、マイクロカプセル顔料が体積変化を生じ、成形した芯の外径が収縮してしまい、所望の芯径が得られないものであった。本発明では、水分を吸収し難いポリエステルポリオール樹脂を配合することにより、固形筆記体内に水分には反応しない骨格を形成できるため、冷却時や冷却状態から常温への昇温時においても大気中の水分を吸収することがなく、芯の外径が膨潤することを抑制できる。そのため、鉛筆形態にする際の木軸に収容できなくなったり、外殻を設けた芯鞘構造とした際に外殻にクラックが発生する等の不具合が生じることなく、安定した品質での製品製造が可能となる。
【0072】
尚、本発明による固形筆記体の太さや長さは、目的に応じて任意に選択することができる。例えば本発明による固形筆記体を鉛筆の芯として利用する場合を考えると、太さは一般的には2.0〜5.0mmであり、2.5〜4.0mmであることが好ましく、長さは一般に60〜300mmであり、80〜200mmであることが好ましい。
また、芯鞘構造とする場合には、内芯の太さおよび外殻の厚さも任意に選択することができるが、外殻の厚さが厚いと耐衝撃性が優れる傾向にあり、一方で外殻の厚さが薄いと内芯の露出量が多くなるため、使い勝手に優れる傾向にある。内芯の半径長さに対する外殻の厚さが10〜100%であることが好ましく、20〜50%であることがより好ましい。尚、本発明による固形筆記体は、鉛筆以外の用途、例えばメカニカルペンシルの芯、クレヨンなどにも利用可能であり、太さや長さは用途に応じて適切に調整できる。
【0073】
本発明による固形筆記体は、各種被筆記面に対して、筆記することが可能である。更に、その筆跡は、指による擦過や加熱具又は冷熱具の適用により変色させることができる。
【0074】
前記加熱具としては、抵抗発熱体を装備した通電加熱変色具、温水等を充填した加熱変色具、ヘアドライヤーの適用が挙げられるが、好ましくは、簡便な方法により変色可能な手段として摩擦部材が用いられる。
【0075】
前記摩擦部材は、弾性感に富み、摩擦時に適度な摩擦を生じて摩擦熱を発生させることのできるエラストマー、プラスチック発泡体等の弾性体が好ましく用いられる。前記摩擦部材の材質としては、シリコーン樹脂やSEBS樹脂(スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体)、ポリエステル系樹脂などを用いることができる。前記摩擦部材は固形筆記体と別体の任意形状の部材である摩擦体とを組み合わせて固形筆記体セットを得ることもできるが、固形筆記体または、固形筆記体を外装収容物に収容した固形筆記具の外装に摩擦部材を設けることにより、携帯性に優れたものとなる。具体的には、外装が木や紙などの鉛筆や、クレヨンなどの形状に、摩擦部材を設けた形態などが挙げられる。
【0076】
前記冷熱具としては、ペルチエ素子を利用した冷熱変色具、冷水、氷片などの冷媒を充填した冷熱変色具や保冷剤、冷蔵庫や冷凍庫の適用などが挙げられる。
【実施例】
【0077】
以下に実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0078】
(マイクロカプセル顔料Aの製造)
(イ)成分として2−(2−クロロアニリノ)−6−ジ−n−ブチルアミノフルオラン5質量部、(ロ)成分として2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン5質量部、4,4’−(2−メチルプロピリデン)ビスフェノール3.0質量部、(ハ)成分としてラウリン酸4−ベンジルオキシフェニルエチル50質量部からなるからなる可逆熱変色性組成物を加温溶解し、壁膜材料として芳香族イソシアネートプレポリマー30.0質量部、助溶剤40.0質量部を混合した溶液を、8%ポリビニルアルコール水溶液中で乳化分散し、加温しながら攪拌を続けた後、水溶性脂肪族変性アミン2.5質量部を加え、更に攪拌を続けて可逆熱変色性マイクロカプセル懸濁液を得た。前記懸濁液を遠心分離して可逆熱変色性マイクロカプセルを単離した。なお、前記マイクロカプセルの平均粒子径は2.3μmであり、t:−8℃、t:−1℃、t:52℃、t:65℃のヒステリシス特性を有する挙動を示し、黒色から無色、無色から黒色へ可逆的に色変化した。
【0079】
(マイクロカプセル顔料Bの製造)
(イ)成分として9−エチル(3−メチルブチル)アミノ−スピロ[12H−ベンゾ(α)キサンテン−12,1′(3′H)−イソベンゾフラン]−3′−オン5.0質量部、(ロ)成分として4,4′−(2−エチルヘキサン−1、1−ジイル)ジフェノール3.0質量部、2,2−ビス(4′−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパン5.0部、(ハ)成分としてカプリン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチル50.0質量部からなる感温変色性色彩記憶組成物を加温溶解し、壁膜材料として芳香族イソシアネートプレポリマー30.0質量部、助溶剤40.0質量部を混合した溶液を、8%ポリビニルアルコール水溶液中で乳化分散し、加温しながら攪拌を続けた後、水溶性脂肪族変性アミン2.5質量部を加え、更に攪拌を続けて熱変色マイクロカプセル懸濁液を得た。前記懸濁液を遠心分離して熱変色マイクロカプセルを単離した。
尚、前記マイクロカプセルの平均粒子径は2.3μmであり、t:−20℃、t:−10℃、t:48℃、t:58℃のヒステリシス特性を有する挙動を示し、ピンク色から無色、無色からピンク色へ可逆的に色変化した。
【0080】
(マイクロカプセル顔料Cの製造)
(イ)成分として3−(4−ジエチルアミノ−2−ヘキシルオキシフェニル)−3−(1)−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−アザフタリド2.0質量部、(ロ)成分として1,1−ビス(4‘―ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン4.0質量部、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−デカン4.0質量部、(ハ)成分としてカプリル酸−4−ベンジルオキシフェニルエチル(融点57℃)50.0質量部からなる感温変色性色彩記憶組成物とした以外は、マイクロカプセル顔料Aと同じ方法で、マイクロカプセル顔料を得た。尚、前記マイクロカプセル顔料の平均粒子径は3.0μmであり、t:−24℃、t:−10℃、t:42℃、t:55℃のヒステリシス特性を有する挙動を示し、青色から無色、無色から青色へ可逆的に色変化した。
【0081】
以下の表に実施例及び比較例の固形筆記体の組成を示す。尚、表中の組成の数値は質量部を示す。
【0082】
【表1】
【0083】
表中の原料の内容について注番号に沿って説明する。
(1)三洋化成工業(株)製、商品名:サンワックス171−P
(2)三井化学(株)製、商品名:ハイワックス2203A
(3)ヤスハラケミカル(株)製、商品名:ネオワックスLA−05
(4)三菱化学フーズ(株)製、商品名:リョートーシュガーエステルP−170
(5)富士タルク工業(株)製、商品名:LMS−200
(6)第一工業製薬(株)製、商品名:パオゲンPP−15
(7)BASF社製、商品名:TINUVIN770DF
【0084】
(固形筆記体Aの製造)
前記各配合物をニーダーにて混練し、得られた混練物をプレスにて外径φ3mm、長さ60mmに設定して圧縮成形を行い、−20℃まで冷却し、常温に戻すことで固形筆記体(単芯)を得た。
【0085】
(固形筆記体Bの製造)
前記各配合物をニーダーにて混練し、得られた混練物が内芯となるように、その外周面に、タルク69質量部、ショ糖脂肪酸エステル10質量部、ポリオレフィンワックス10質量部、エチレン酢酸ビニル共重合体(弾性体樹脂)10質量部からなる混練物を外殻となるように巻き付け、プレスにて圧縮成形を行い、外径φ3mm、長さ60mm(内芯がφ2mmであり、外殻の被覆厚が0.5mm)に成形することで、芯鞘構造の固形筆記体を得た。尚、前記寸法は設定値であり、圧縮成形後に−20℃まで冷却し、常温に戻すことで固形筆記体を製造している。
【0086】
前記実施例及び比較例で得られた各固形筆記体Aについて芯径(外径)の実寸を測定し、凍結前(−20℃まで冷却せずに常温冷却したもの)のものとの寸法差(μm)を測定した。尚、実寸測定には、レーザ式外径測定器〔キーエンス社製、LS−3001〕を用いて各10本の試料を測定し、平均値を求めた。
また、着色させた後の各固形筆記体Bの外観状態を目視により確認した。
試験の結果を以下に示す。
【0087】
【表2】
【0088】
尚、前記表中の記号に関する評価は以下の通りである。
外殻の状態
○:クラックや湾曲等が生じることなく、均一な被覆状態を形成している。
×:クラックの発生が見られる、または形状が湾曲している。
【0089】
鉛筆の作製
実施例1〜5を用いて得られた固形筆記体A,Bを用いて、丸形外軸(木軸)内に収納成形することで10本の鉛筆を得た。
前記鉛筆を用いて紙面上に筆記すると、黒色、ピンク色又は青色の筆跡を形成することができた。
前記鉛筆により形成される筆跡は、SEBS樹脂からなる摩擦体を用いて摩擦することにより消色(消去)された。
【0090】
摩擦体付鉛筆の作製
前記鉛筆の後端に、金属製の連結部材を介してSEBS樹脂からなる円柱状摩擦体を固着して摩擦体付鉛筆を得た。
前記摩擦体付鉛筆を用いて紙面上に形成される筆跡は、後端に設けた摩擦体を用いて摩擦することにより消色し、携帯性に優れた利便性に富む摩擦体付鉛筆を得ることができた。
【0091】
固形筆記体セットの作製
前記固形筆記体Bを用いた5本の鉛筆と、SEBS樹脂からなる直方体形状の摩擦体とを組み合わせて固形筆記体セットを得た。
前記鉛筆を用いて紙面上に形成される筆跡は、摩擦体を用いて摩擦することにより消色し、筆記と消去が簡単にできるより利便性の高いセットを得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明による固形筆記体は、マーキングペン用、鉛筆用、色鉛筆用など各種筆記具の他、塗り絵や描画等の描画材、温度インジケーターなどの示温材料などに利用可能である。
【符号の説明】
【0093】
本発明による加熱消色型の固形筆記体の筆跡の完全発色温度
本発明による加熱消色型の固形筆記体の筆跡の発色開始温度
本発明による加熱消色型の固形筆記体の筆跡の消色開始温度
本発明による加熱消色型の固形筆記体の筆跡の完全消色温度
ΔH ヒステリシスの程度を示す温度幅
図1