【実施例1】
【0044】
以下、本発明の第1の実施形態である実施例1に係る半導体装置(ダイオード)について、
図1〜
図9、
図17、および
図18を用いて説明する。
【0045】
[ダイオードの構成]
まず、
図1を参照して、本発明の第1の実施形態である実施例1に係るダイオードの構成について説明する。なお、
図1は、第1実施形態に係るダイオード1のアクティブ領域の模式的断面図である。ターミネーション領域については記載を省略しているが、ターミネーション領域には、p型ウェルと電極とをリング状に配置したFLR(Field Limiting Ring)型等の従来のターミネーション構造が用いられる。
【0046】
図1に示すように、第1実施形態に係るダイオード1は、n
-ドリフト層101と、アノードp層102と、アノードp
-層103と、カソードn層104と、カソードバッファn層105と、低ライフタイム領域106と、アノード電極107と、カソード電極108と、で構成されている。
【0047】
なお、以下の説明では製造工程の途中の段階を含めて、半導体層部分の全体をSi基板100と呼ぶ。
【0048】
n
-ドリフト層(第1半導体層)101は、n型Siからなる半導体層であって、イオン注入や拡散等により変性されない、もとのn型Si基板のままのn型半導体領域からなるn型半導体層である。
【0049】
カソードn層(第3半導体層)104は、Si基板100の裏面側であるカソード側に設けられ、n
-ドリフト層101よりも高濃度のn型不純物領域からなるn型半導体層である。
【0050】
カソードバッファn層(第5半導体層)105は、カソードn層104のn
-ドリフト層101側に設けられ、カソードn層104よりも低濃度でn
-ドリフト層101よりも高濃度のn型不純物領域からなるn型半導体層である。カソードバッファn層105はなくてもよいが、カソードバッファn層105を設けることにより、ダイオード1に逆方向電圧が印加されたときに、PN接合からアノード側への空乏層の伸びが抑制され、耐圧が向上する。
【0051】
低ライフタイム領域(第4半導体層)106は、アクティブ領域のカソードn層104とn
-ドリフト層101との間に局所的に複数形成され、低ライフタイム領域106におけるキャリアのライフタイム(寿命)がn
-ドリフト層101やカソードバッファn層105におけるキャリアのライフタイムよりも短いn型半導体層である。低ライフタイム領域106は、ライフタイムの長いn
-ドリフト層101と隣接する位置に設けられており、n型不純物としてカソードバッファn層105が含有するn型不純物と同種の不純物(元素)を含有している。
【0052】
なお、これらのn型半導体層の構造については、後記する[イオン注入とレーザアニールの条件]の説明と共に、更に詳細に説明する。
【0053】
アノードp層(第2半導体層)102は、Si基板100の表面側であるアノード側に局所的に設けられ、p型不純物領域からなるp型半導体層である。
【0054】
アノードp
-層103は、Si基板100の表面側であるアノード側であって、アノードp層102が設けられていない領域に設けられ、アノードp層102よりも低濃度のp型不純物領域からなるp型半導体層である。
【0055】
すなわち、p型半導体層は、Si基板100の表面側において、厚さが薄く低濃度のp型不純物領域層であるアノードp
-層103が形成され、局所的に高濃度のp型不純物領域からなる厚さの厚いアノードp層102が設けられたウェル構造を有している。
【0056】
本実施形態では、アクティブ領域においてアノードp層102を局所的に配置したウェル構造を有しており、アノード電極107からのホール注入量を抑制しリカバリをソフト化するように、すなわち、リカバリ時の電圧の跳ね上がりを低減されるように構成されている。
【0057】
図1に示した局所的に配置されたアノードp層102は、アノード側であるSi基板100の表面から見た平面視で、ドット(円)状、ストライプ状等の形状で形成することができる。例えば、アノードp層102を、直径10−100μmの円形とし、この円の間の距離を10-200μmにて配置することができる。アノードp層102の深さは3〜10μm程度、p型不純物のピーク濃度は1×10
17〜1×10
19cm
-3程度にすることができる。なお、アノードp層102の不純物濃度や寸法は、ダイオードの耐圧、仕様により適宜設定される。
【0058】
Si基板100の表面側において、アノードp層102が設けられた領域以外の領域にはアノードp層102よりも低濃度のp型不純物領域からなるアノードp
-層103が形成されている。アノードp
-層103のp型不純物のピーク濃度は1×10
15〜1×10
17cm
-3程度にするのが好ましい。
【0059】
アノードp
-層103を設けると、アノードp
-層103がない場合と比べ、アノード電極107から流れるリーク電流を低減することができる。なお、このリーク電流が許容できる場合は、アノードp
-層103をなくして、p型半導体層として局所的に設けられたアノードp層102のみで構成するようにしてもよい。その場合は、アノードp
-層103を形成するためのp型不純物のイオン注入工程等を省いて工程を簡略化することができる。
【0060】
アノード電極(第1電極)107は、アノードp層102にオーミック接続された電極である。
【0061】
カソード電極(第2電極)108は、カソードn層104にオーミック接続された電極である。
【0062】
[ダイオードの製造方法]
次に、
図2〜
図5を参照(適宜
図1参照)して、第1実施形態に係るダイオード1のアクティブ領域の構造の製造方法の一例について説明する。なお、ターミネーション領域の構造もアクティブ領域の構造と同時に作製するが、ターミネーション領域の構造の製造方法は従来のダイオードと同じであるので説明は簡略化する。
【0063】
(基板の準備)
まず、ダイオード1を作製するためのSi基板100として、Siウエハを準備する。Siウエハには、耐圧に応じた比抵抗を有するFZ(Floating Zone)ウエハを用いることができる。本実施形態では、FZウエハのバルクをn
-ドリフト層101とする。FZウエハの比抵抗は、例えば3.3kVの耐圧をもつダイオードでは250Ωcm程度とする。
【0064】
(アクティブ領域形成工程)
図示しない最初の工程で、Si基板100の表面全体に熱酸化により酸化膜を形成する。次に、アノードp
-層103を設ける領域であるアクティブ領域を形成するためのフォトリソグラフィ工程を行う。このフォトリソグラフィ工程では、Si基板100の表面にレジスト材料を塗布、露光、現像することで、アクティブ領域の全面が開口したレジストを形成する。なお、このとき、ターミネーション領域において、p型ウェルを形成する領域もレジストを開口する。続いて、レジストの開口部に露出した酸化膜をウェットエッチングで除去し、レジストも除去する。この工程で、Si基板100の表面には、アクティブ領域の全面と、ターミネーション領域のp型ウェルを形成する領域とが開口した酸化膜が形成される。
【0065】
(アノードp
-層形成工程)
その後、
図2に示すように、熱酸化によりSi基板100の表面にインプラスルー酸化膜109を形成し、アクティブ領域形成工程で形成した酸化膜とインプラスルー酸化膜109とからなる酸化膜の厚膜部をマスクとして、薄膜部であるインプラスルー酸化膜109越しにアノードp
-層103を形成するためのp型不純物をイオン注入する。これによって、アクティブ領域には全面にアノードp
-層103のp型不純物がイオン注入される。
【0066】
(アノードp層形成工程)
次に、
図3に示すように、アノードp層102を形成するためのフォトリソグラフィ工程を行う。このフォトリソグラフィ工程では、Si基板100の表面にレジスト材料を塗布、露光、現像して、アクティブ領域のアノードp層102を形成する領域に開口を有するレジスト110を形成する。なお、このとき、不図示のターミネーション領域において、p型ウェルを形成する領域もレジストを開口する。
【0067】
その後、レジスト110をマスクとして、アノードp層102を形成するためのp型不純物をイオン注入する。このとき同時に、不図示のターミネーション領域のp型ウェルを形成する領域にもp型不純物のイオン注入が行われる。
【0068】
次に、レジスト110を除去した後、高温アニールと酸化とを行うことで、
図4に示すようにイオン注入したp型不純物を拡散させてアノードp層102及びアノードp
-層103を形成すると共に、Si基板100の表面に形成されている酸化膜(不図示)を成長させる。
【0069】
(アノード電極形成工程)
続いて、コンタクト部を形成するためのフォトリソグラフィ工程を行う。このフォトリソグラフィ工程では、レジスト材料を塗布、露光、現像して、アクティブ領域の全面に開口を有するレジスト(不図示)を形成する。
【0070】
続いて、レジストの開口部に露出した酸化膜(不図示)をエッチングで除去し、レジストも除去する。その後、アノード電極107となる導電性材料からなる膜、例えば、AlSi膜をスパッタ又は蒸着で形成する。
【0071】
そして、不図示のターミネーション領域のp型ウェル上に設けられる電極を形成するためのフォトリソグラフィ工程とエッチング工程を行うことで、p型ウェル上の電極が形成される。このとき、
図4に示すように、アクティブ領域の全面に形成されたままのAlSi膜がアノード電極107となる。
【0072】
次に、不図示のターミネーション領域に設けられる電極を加工するためのレジストを除去した後、ターミネーション領域に保護膜を形成する。保護膜の形成法としては、例えば、ポリイミドの前駆体材料と感光材料とを含有する溶液を塗布し、ターミネーション領域を露光して前駆体をポリイミド化することで、ターミネーション領域上にポリイミド保護膜を形成することができる。
【0073】
以上で、アノード側の構造が完成する。
【0074】
次に、
図5に示すように、カソード側の構造を形成する。
【0075】
(カソードバッファn層・カソードn層・低ライフタイム領域形成工程)
その後、Si基板100の裏面側からウエハ全面に、カソードバッファn層105及びカソードn層104を形成するためのn型不純物のイオン注入を順次に行う。さらに、低ライフタイム領域106を形成するためにn型不純物をイオン注入する。このとき、低ライフタイム領域106を形成するためのn型不純物のイオン注入前に、両面アライナーを用いてレジスト110を形成する。イオン注入は、カソードバッファn層105を形成するためのn型不純物のイオン注入と比較し、高濃度でかつ同等の打ち込みエネルギーで実施する。ついで、レジストを除去する。
【0076】
続いて、イオン注入したn型不純物を活性化させるためにレーザアニールを行う。活性化にレーザアニールを使うことで、Si基板100のアノード側である表面側に形成した電極及び保護膜(不図示)が耐熱温度以上に加熱されずに、裏面側のn型不純物の活性化を行うことができる。このとき、低ライフタイム領域106を形成するためにn型不純物が注入された領域の内で、レーザアニールによる活性化が十分に行われたカソードn層104側の領域がカソードバッファn層105となり、活性化率が低いn
-ドリフト層101側の領域が低ライフタイム領域106となる。
【0077】
レーザアニールは2回に分けて実施することも可能である。まず、カソードバッファn層105を活性化するためにレーザアニールする。この際、レーザ照射量を大きくしカソードバッファn層105全層を活性化する。レジストパターン越しに不純物注入しレジスト除去した後、低ライフタイム領域106を形成するためにレーザアニールする。この際、レーザ照射量を小さくし低ライフタイム領域106を形成する。
【0078】
低ライフタイム領域106は周期的に形成することにより、特性バラツキを抑えることができる。
図1に示したようにアノード側のパターン周期に合せることにより特性の安定化を図ることができる。また、別のパターン例として
図6に示すパターンも作製することができる。また、アノードp層と同様に、
図7の平面図に示すストライプパターンや
図8に示すドットパターンも作製可能である。アノードp層がストライプパターンの場合、低ライフタイム領域のストライプを直
交させると合せ尤度を拡大することが可能である。以上のように、アノードp層アノードp層パターンと整合をとるように形成することで特性バラツキの低減を図ることができる。
【0079】
低ライフタイム領域106の平面上の面積は、アクティブ領域全体の5%から50%であることが望ましい。低ライフタイム領域106の面積が5%より小さくなると、低損失化が難しくなる。一方、低ライフタイム領域106の面積が50%を越えると電圧波形の発振の抑制が難しくなる。
【0080】
レーザアニールに用いるレーザは、波長532nmのYLF(Yttrium Lithium Fluoride)レーザの第2高調波、同等の波長を持つ波長532nmのYAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザ、波長532nmのYVO
4レーザ等のレーザ等を用いることができる。また、更に波長の短い波長308nmのXeClエキシマレーザ、波長248nmのKrFエキシマレーザを用いることもできる。レーザ照射のエネルギーや波長は、n型不純物を活性化させる深さに応じて適宜選択することができる。
【0081】
(カソード電極形成工程)
レーザアニール後に、カソード側である裏面にカソード電極108を形成する。なお、カソード電極108は、金属等の適宜な導電性材料を用いて、アノード電極107と同様の方法で形成することができる。
【0082】
その後、必要に応じて、ウエハ全域についてのキャリアのライフタイムを調整するために、裏面側から電子線照射を行い、更に、電子線照射によるダメージ回復のためにアニール処理を行うようにしてもよい。
【0083】
また、アノード側のキャリアライフタイムを局所的に短くし、リカバリー時の跳ね上がり電圧を低減するために、アノード側にHeやプロトンを照射しアニール処理しても良い。
【0084】
(分割工程)
最後にウエハをダイシングなどで分割してダイオード1のチップが完成する。
【0085】
[イオン注入とレーザアニールの条件]
次に、イオン注入とレーザアニールの条件について説明する。
【0086】
イオン注入により生成される結晶欠陥の濃度がピークとなる深さは、レーザアニールによりイオン注入されたn型不純物が活性化される深さよりも、深い方が望ましい。結晶欠陥の濃度がピークとなる深さの方が深くすることで、結晶欠陥分布の深さ方向のばらつき及びレーザアニールで活性化される深さ方向のばらつきによる、低ライフタイム領域106に残存する結晶欠陥の量のばらつきを低減することができる。
【0087】
ここで、
図9を参照(適宜
図1参照)して、カソード側であるn型半導体層の深さ方向の構造について説明する。
図9は、後記する条件で作製した実施例に係るダイオードのい低ライフタイム領域106について、Si基板100の裏面、すなわちカソード側の表面からの深さ方向のn型不純物の濃度プロファイル(実線)及び活性化されたn型不純物の濃度プロファイル(破線)を示したものである。
【0088】
n型不純物の濃度プロファイルは、ダイオード1のSi基板100のカソード側の表面からの2次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)によりn型不純物元素の濃度を測定することで求めることができる。また、活性化されたn型不純物の濃度プロファイルは、拡がり抵抗(SR:Speading Resistance)の深さ方向の分布を測定し、測定したSR値をキャリア濃度に換算して求めることができる。
【0089】
また、活性化率は、(SR測定で求めたキャリア濃度)/(SIMS測定で求めたn型不純物濃度)と定義することとする。ここで、キャリア濃度とは、SR測定で求めた活性化されたn型不純物の濃度のことである。
【0090】
図9に示した濃度プロファイルについて説明する。
【0091】
Si基板100のカソード側の表面(深さ0μm)から0.3μm程度の深さまでの領域Aは、SIMS測定により求めた不純物濃度及びSR測定で求めたキャリア濃度が共に、1×10
19cm
-3以上の高濃度であり、かつ略一定値である。この領域は、カソードn層104を形成するためにn型不純物としてのリンを高濃度でイオン注入した領域であり、レーザアニールでSi基板100のカソード側の表面付近の結晶が溶融したためにボックス状のプロファイルになっている。この領域Aがカソードn層104に相当する。
【0092】
なお、この領域のキャリア濃度が低いと、導通時にカソード電極108からの電子注入が減るので、ダイオード1の順方向電圧が上がってしまう。また、導通時のカソード側のキャリア濃度が低くなるために、リカバリ時に電圧の跳ね上がり・振動が起こりやすくなってしまう。従って、カソードn層104のキャリア濃度は、より高濃度である方が好ましく、1×10
19cm
-3以上であることが望ましい。
【0093】
カソードn層104を示すボックス状のプロファイルの領域Aにおけるn型不純物の活性化率は、レーザの照射エネルギーにもよるが、20〜100%程度になる。なお、カソードn層104は、活性化率が100%未満であっても、キャリア濃度自体が高濃度であればよい。
【0094】
なお、Si基板100のカソード側の表面からの深さが0.3μm付近のn型不純物濃度及びキャリア濃度が急激に減少する領域の活性化率に関しては、現状では十分な精度が得られないため、詳細な検討は省略する。十分な精度が得られないのは、SR測定における深さ方向の原点に十分な精度が得られないことと、PN接合付近では空乏層の影響を受けてSR測定の精度が落ちることとによるものである。
【0095】
Si基板100のカソード側の表面から0.3〜2.7μmまでの深さの領域(領域B及び領域C)は、カソードバッファn層105を形成するためにn型不純物を注入した領域である。この領域の中で、0.3〜1.0μmまでの深さの領域Bは、SIMS測定で求めたn型不純物濃度とSR測定で求めたキャリア濃度とが一致しており、活性化率はほぼ100%である。レーザ照射でSi基板100のカソード側の表面を
加熱した熱が1.0μmの深さまで十分に伝わり、n型不純物が十分に活性化されたためである。この領域Bが電気的に有効なカソードバッファn層105に相当する。
【0096】
カソードバッファn層105を形成するためにn型不純物が注入された深さ0.3〜2.7μmまでの領域の中で、1.0μmよりも深い部分である領域Cは、SIMS測定で求めたn型不純物濃度と比べて、SR測定で求めたキャリア濃度が低く、n型不純物の活性化率が低下している領域である。レーザ照射による熱がこの領域には十分に伝わらず、イオン注入による結晶欠陥が残存して活性化率が低く、活性化率が5%未満となる領域が含まれている。結晶欠陥が残存することで、この領域Cがキャリアのライフタイムが短い領域となっており、この領域Cが低ライフタイム領域106に相当する。この図から、低ライフタイム領域(領域C)がカソードn層(領域A)から離れて位置していることがわかる。この構成では高濃度のn層から結晶欠陥が分離しており、耐圧の向上に有効となる。
【0097】
また、2.7μm以上の領域Dは、n型不純物のイオン注入がされない領域であり、n
-ドリフト層101に相当する。
【0098】
ここで、低ライフタイム領域106について定義する。低ライフタイム領域106は、前記したように
図9に示したプロファイルに基づいて定めることができる。このときに、低ライフタイム領域106は、リカバリー損失を低減するために活性化率が10%以下であることが望ましい。
【0099】
図9に示した例では、カソードバッファn層105の形成のためにイオン注入したn型不純物のピーク濃度の深さは1.2μm程度である。また、結晶欠陥の量のピーク深さは、n型不純物としてリンを720keVのエネルギーでイオン注入した場合にはn型不純物のピーク濃度の深さよりも10%程度浅くなるので、1.1μm程度となる。
【0100】
活性化率は不純物ドーズ量、イオン注入エネルギー、レーザ照射量、レーザ波長などで制御することが可能である。
図1の実施例では、不純物ドーズ量を増加することにより低ライフタイム領域106を形成している。
【0101】
結晶欠陥の分布を深くするためには、イオン注入するn型不純物として、より軽い元素を用いるか、イオン注入のエネルギーを高くする。イオン注入する元素としてプロトン(水素)やヘリウムを用いると、イオン注入の飛程が大きくなり過ぎるため、イオン注入の深さ方向の幅が大きくなり過ぎてしまい、かつ、大掛かりなサイクロトロンの粒子線照射装置を必要としてしまう。また、パターン形成のために、阻止能力の高い材料でマスクを形成する必要があるが、パターン精度の確保や微細化が難しくなるとともに、パターンの合せ精度を劣化する。従って、LSI(大規模集積回路)の製造において、n型不純物層を形成するのに用いられるn型不純物元素の中で最も軽いリンを用いホトプロセスでパターン形成するのが最も望ましい。
【0102】
また、レーザの波長に関しては、
図9に示した例では、波長532nmのYLFレーザの第2高調波を用いたが、更に波長の短い波長308nmのXeClエキシマレーザ、波長248nmのKrFエキシマレーザを用いることで、更にn型不純物が活性化を制御することもできる。
【0103】
[比較実験]
次に、
図1、
図17、及び
図18を参照して、
図1に示した本発明の第1の実施形態である実施例1に係るダイオード1と
図17に示した比較例とを比較するために発明者らが行った実験について説明する。
【0104】
(作製条件)
実施例1のダイオード1は、Si基板100としてn型Siウエハを用い、カソードバッファn層105を形成するためのn型不純物としてリンを、エネルギー720keV、オフ角0°、ドース2×10
11cm
-2で注入する。また、カソードn層104のn型不純物としてリンを、エネルギー60keV、オフ角7°、ドース1×10
15cm
-2で注入する。さらに、低ライフタイム領域106を形成するため、レジストパターンを形成し、リンをエネルギー720keV、オフ角0°、ドース4×10
12cm
-2で注入する。その後、レジスト除去後、注入したn型不純物を活性化させるためのレーザアニールとして、波長532nmのYLFレーザの第2高調波を1.5J/cm
2のエネルギーで照射した。
【0105】
また、比較例として、
図17に示すダイオード1Gを作成した。このダイオードでは低ライフタイム領域106をパターニングしていないため、前面にリンをエネルギー720keV、オフ角0°、ドース1×10
12cm
-2で注入する。ついで、イオン注入したn型不純物を活性化させるためのレーザアニールとして、レーザ照射エネルギーを1.5J/cm
2と高くしてダイオードを作製した。なお、比較例におけるその他の条件は、実施例1における条件と同じである。
【0106】
実施例1では、ダイオードのオン電圧を揃えるために、低ライフタイム領域106の面積比率を調整した。その結果、オン電圧が2.7Vと揃えることができた。定格動作時のリカバリ損失が、比較例においては1.43Jであるのに対して、実施例においては1.42Jとほぼ同等かそれ以下の値となることがわかった。
【0107】
(リカバリ時の電流・電圧波形)
図18に、実施例1(実線)及び比較例(破線)それぞれのダイオード1及び1Gの、室温における小電流(定格電流X1/10)リカバリ特性の電流波形及び電圧波形を示す。
【0108】
この図から、比較例の波形で振動が観測されるのに対して、実施例1の波形では振動が観測されないことがわかる。
【0109】
この結果から、本発明のダイオードの低ライフタイム領域106をアクティブ領域に複数配置した構成が低ノイズ化に極めて有効であることが確認できた。このダイオードを電力変換システムに適用して、後述する実施例8に係る電力変換システムを構成することで、電力変換システムにおける信頼性の向上、並びにEMI低減を図ることができる。