【文献】
Biochimica Biophysica Acta, 1991, Vol. 1118, pp. 41-47
【文献】
Biochem.Biophys.Res.Commun., 1992, Vol. 186, No. 1, pp. 40-46
【文献】
Agric.Biol.Chem., 1991, Vol. 55, No. 2, pp. 471-477
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
グルコースのような単糖類のみならず、二糖類以上の糖質をも酸化する酵素であれば、グルコースオキシダーゼに比べて、更に広い分野における用途が期待できる。
【0012】
そこで、本発明では、様々な用途に対応し得る新規な糖質酸化酵素活性を有するタンパク質を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者らは、糖質酸化酵素活性を有するタンパク質について鋭意探索を行った結果、広範囲の糖に作用し、かつ、適度な温度安定性を有するタンパク質の生産に成功し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
即ち、本発明では、以下の[1]乃至[32]を提供する。
[1] 以下の理化学的性質を有するタンパク質。
(1)作用:糖を酸化して糖酸を生成する。
(2)基質特異性:グルコース、マルトトリオース、マルトース、ガラクトース、マルトテトラオース、ラクトース、セロビオースに作用する。
(3)[グルコースのKm値]/[マルトースのKm値]≦1。
[2] 0.4≦[グルコースのKm値]/[マルトースのKm値]≦1である、[1]に記載のタンパク質。
[3] 以下の理化学的性質を有するタンパク質。
(1)作用:糖を酸化して糖酸を生成する。
(2)基質特異性:グルコース、マルトトリオース、マルトース、ガラクトース、マルトテトラオース、ラクトース、セロビオースに作用する。
(3)分子質量:約63kDa(SDS−PAGE法による測定)。
[4] [グルコースのKm値]/[マルトースのKm値]≦1である、[3]に記載のタンパク質。
[5] 0.4≦[グルコースのKm値]/[マルトースのKm値]≦1である、[4]に記載のタンパク質。
[6] 以下の理化学的性質を有するタンパク質。
(1)作用:糖を酸化して糖酸を生成する。
(2)基質特異性:グルコース、マルトトリオース、マルトース、ガラクトース、マルトテトラオース、ラクトース、セロビオースに作用する。
(3)至適pH:5.0〜9.0。
(4)安定pH範囲:5.0〜10.5。
(5)至適温度:20℃〜55℃。
(6)温度安定性:45℃以下で安定。
(7)分子質量:約63kDa(SDS−PAGE法による測定)。
[7] [グルコースのKm値]/[マルトースのKm値]≦1である、[6]に記載のタンパク質。
[8] 0.4≦[グルコースのKm値]/[マルトースのKm値]≦1である、[7]に記載のタンパク質。
[9] 以下の理化学的性質を有するAcremonium属微生物由来のタンパク質。
(1)作用:糖を糖酸へ酸化する。
(2)基質特異性:グルコース、マルトトリオース、マルトース、ガラクトース、マルトテトラオース、ラクトース、セロビオースに作用する。
(3)[グルコースのKm値]/[マルトースのKm値]≦1。
[10] 0.4≦[グルコースのKm値]/[マルトースのKm値]≦1である、[9]に記載のタンパク質。
[11] 以下の理化学的性質を有するAcremonium属微生物由来のタンパク質。
(1)作用:糖を糖酸へ酸化する。
(2)基質特異性:グルコース、マルトトリオース、マルトース、ガラクトース、マルトテトラオース、ラクトース、セロビオースに作用する。
(3)分子質量:約63kDa(SDS−PAGE法による測定)。
[12] [グルコースのKm値]/[マルトースのKm値]≦1である、[11]に記載のタンパク質。
[13] 0.4≦[グルコースのKm値]/[マルトースのKm値]≦1である、[12]に記載のタンパク質。
[14] 以下の理化学的性質を有するAcremonium属微生物由来のタンパク質。
(1)作用:糖を糖酸へ酸化する。
(2)基質特異性:グルコース、マルトトリオース、マルトース、ガラクトース、マルトテトラオース、ラクトース、セロビオースに作用する。
(3)至適pH:5.0〜9.0。
(4)安定pH範囲:5.0〜10.5。
(5)至適温度:20℃〜55℃。
(6)温度安定性:45℃以下で安定
(7)分子質量:約63kDa(SDS−PAGE法による測定)。
[15] [グルコースのKm値]/[マルトースのKm値]≦1である、[14]に記載のタンパク質。
[16] 0.4≦[グルコースのKm値]/[マルトースのKm値]≦1である、[15]に記載のタンパク質。
[17] 前記Acremonium属微生物が、Acremonium chrysogenumである[9]から[16]に記載のタンパク質。
[18] 以下の(a)、(b)または(c)に記載のタンパク質。
(a)配列番号10で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(b)配列番号10で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなり、糖質酸化酵素活性を有するタンパク質。
(c)配列番号10で表されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、糖質酸化酵素活性を有するタンパク質。
[19] [18]に記載のタンパク質をコードする遺伝子。
[20] 以下の(a)、(b)または(c)に記載のDNAからなる遺伝子。
(a)配列番号6で表される塩基配列からなるDNA。
(b)配列番号6で表される塩基配列において、1から数個の塩基が欠失、置換および/または付加された塩基配列からなり、糖質酸化酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(c)配列番号6で表される塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなり、糖質酸化酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。
[21] 以下の(a)、(b)または(c)に記載のDNAからなる遺伝子。
(a)配列番号9で表される塩基配列からなるDNA。
(b)配列番号9で表される塩基配列において、1から数個の塩基が欠失、置換および/または付加された塩基配列からなり、糖質酸化酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(c)配列番号9で表される塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなり、糖質酸化酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。
[22] [19]から[21]のいずれか一項に記載の遺伝子を含有する組み換えベクター。
[23] [22]に記載の組み換えベクターにより宿主細胞が形質転換されてなる形質転換体。
[24] [1]から[18]のいずれか一項に記載のタンパク質の生産能を有する微生物を栄養培地で培養して得られる培養物から、[1]から[18]のいずれか一項に記載のタンパク質を採取するタンパク質の製造方法。
[25] [23]に記載の形質転換体を培地で培養し、培養物から糖質酸化酵素活性を有するタンパク質を採取するタンパク質の製造方法。
[26] [1]から[18]のいずれか一項に記載のタンパク質を用いて、糖質から糖酸を製造する糖酸の製造方法。
[27] 食品内の糖質を酸化するための、[1]から[18]のいずれか一項に記載のタンパク質の使用。
[28] [27]に記載のタンパク質の使用を少なくとも行う卵白の脱糖方法。
[29] [28]に記載の脱糖方法を用いた脱糖卵白の製造方法。
[30] [27]に記載のタンパク質の使用を少なくとも行うパンの品質および/またはドウの物性の改質方法。
[31] [30]に記載の改質方法を用いたパンの製造方法。
[32] [27]に記載のタンパク質の使用を少なくとも行うラクトビオン酸の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るタンパク質は、広範囲の糖に作用し、かつ、適度な温度安定性を有するため、既存のグルコースオキシダーゼやオリゴ糖酸化酵素では対応できなかった広範囲な分野において、糖質酸化作用を機能させることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための好適な形態について、詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0018】
<1.糖質酸化酵素活性を有するタンパク質>
本発明に係るタンパク質は、後述する理化学的性質を有するタンパク質である。
【0019】
本発明において、糖質酸化酵素活性の測定方法は特に限定されず、公知の方法を自由に選択して行うことができる。本発明では、特に、後述する実施例に記載の方法によって、糖質酸化酵素活性を測定した。
【0020】
(1)作用
本発明に係るタンパク質は、酸素存在下において、後述する糖を酸化し糖酸を生成する。より詳しくは、酸素存在下において、後述する糖に本発明に係るタンパク質を作用させると、糖酸と過酸化水素が生成する。
【0021】
(2)基質特異性
本発明に係るタンパク質は、グルコース、マルトトリオース、マルトース、ガラクトース、マルトテトラオース、ラクトース、セロビオースに対し活性を示す。各基質に対する本発明に係るタンパク質の相対活性は、グルコースに対する活性を100%とした場合、マルトトリオース:約92%、マルトース:約86%、ガラクトース:約79%、マルトテトラオース:約60%、ラクトース:約58%、セロビオース:約53%である(後述する実施例2参照)。
なお、本発明においては、グルコースを基質とした場合の活性を基準(100%)としたときの相対活性が50%以上あれば、「本酵素が良好に作用する基質である」と判断した。
【0022】
このように、本発明に係るタンパク質は、グルコースのような単糖類のみならず、二糖類以上の広範囲な糖質にも活性を示す。そのため、既存のグルコースオキシダーゼやオリゴ糖酸化酵素では対応できなかった広範囲な分野において、糖質酸化作用を機能させることが可能である。
【0023】
(3)Km値
本発明において、タンパク質のKm値(ミカエリス定数)の具体的な算出方法は特に限定されず、公知の方法を自由に選択して算出することができる。本発明では、特に、後述する実施例8に記載の方法によって、Km値を算出した。本発明に係るタンパク質のKm値は特に限定されないが、[グルコースのKm値]/[マルトースのKm値]≦1であることが好ましく、0.4≦[グルコースのKm値]/[マルトースのKm値]≦1であることがより好ましい。
【0024】
(4)分子質量
本発明に係るタンパク質は、SDS−PAGE法による分子質量が約63kDaである。
【0025】
(5)至適pH
本発明に係るタンパク質は、37℃で5分間の反応条件において、pH5.0〜9.0付近で最も糖質酸化酵素活性が高い。
【0026】
(6)安定pH範囲
本発明に係るタンパク質は、37℃で15分間の処理条件において、pH5.0〜10.5付近において安定である。
【0027】
(7)至適温度
本発明に係るタンパク質は、pH7.0で5分間の反応条件において、20℃〜55℃付近で最も糖質酸化酵素活性が高い。
【0028】
(8)温度安定性
本発明に係るタンパク質は、pH7.0で15分間の処理条件において、45℃までの温度条件で処理しても80%以上の活性を維持する。
【0029】
(9)由来について
以上説明した本発明に係るタンパク質は、前述の理化学的性質に従来にない特徴を持つため、前述の理化学的性質で特定されるタンパク質であれば、その由来は特に限定されない。本発明においては、例えば、Acremonium属に属する微生物に由来するものが挙げられる。この場合、Acremonium属に属する微生物としては、Acremonium chrysogenumが挙げられる。
【0030】
ここでの「Acremonium chrysogenumに由来する糖質酸化酵素」とは、Acremonium chrysogenumに分類される微生物(野生株であっても変異株であってもよい)が生産する糖質酸化酵素、あるいは糖質酸化酵素遺伝子を利用して遺伝子工学的手法によって得られた糖質酸化酵素であることを意味する。従って、Acremonium chrysogenumより取得した糖質酸化酵素遺伝子(又は当該遺伝子を改変した遺伝子)を導入した宿主微生物によって生産された組換え体も「Acremonium chrysogenumに由来する糖質酸化酵素」に該当する。
【0031】
本発明に係るタンパク質がそれに由来することとなるAcremonium chrysogenumの例としては、Acremonium chrysogenum NBR C30055(NITE、日本)、ATCC15006(ATCC、アメリカ)、DSM880(DSMZ、ドイツ)を挙げることができる。
【0032】
(10)アミノ酸配列
本発明に係るタンパク質は、前述の理化学的性質に従来にない特徴を持つため、前述の理化学的性質で特定されるタンパク質であれば、そのアミノ酸構造は限定されないが、一例を挙げると、以下のアミノ酸配列により特定することができる。
【0033】
具体的には、本発明に係るタンパク質は、配列番号10で表されるアミノ酸配列で特定することができる。
【0034】
ここで、一般に、あるタンパク質のアミノ酸配列の一部に改変を施した場合において改変後のタンパク質が改変前のタンパク質と同等の機能を有することがある。即ち、アミノ酸配列の改変がタンパク質の機能に対して実質的な影響を与えず、タンパク質の機能が改変前後において維持されることがある。そこで、本発明は他の態様として、配列番号10で表されるアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなり、糖質酸化酵素活性を有するタンパク質を提供する。「アミノ酸配列を構成する1から数個のアミノ酸の欠失、置換および/または付加」とは、典型的にアミノ酸配列の一部の相違のことをいう。
【0035】
ここでのアミノ酸配列の相違は、糖質酸化酵素活性が保持されうる限り許容される(活性の多少の変動があってもよい)。この条件を満たす限り、アミノ酸配列が相違する位置は特に限定されず、また複数の位置で相違が生じていてもよい。ここでの複数とは、例えば、全アミノ酸配列の約30%未満に相当する数であり、好ましくは約20%未満に相当する数であり、さらに好ましくは約10%未満に相当する数であり、より一層好ましくは約5%未満に相当する数であり、最も好ましくは約1%未満に相当する数である。
即ち、配列番号10のアミノ酸配列と、例えば約70%以上、好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、より一層好ましくは約95%以上、最も好ましくは約99%以上の同一性を有することを指す。
【0036】
また、好ましくは、糖質酸化酵素活性に必須でないアミノ酸残基において、保存的アミノ酸置換を生じさせることによって、タンパク質を得る方法がよい。ここでの「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸残基を、同様の性質の側鎖を有するアミノ酸残基に置換することをいう。アミノ酸残基は、その側鎖によって塩基性側鎖(例えばリシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)のように、いくつかのファミリーに分類されている。保存的アミノ酸置換は好ましくは、同一のファミリー内のアミノ酸残基間の置換である。
【0037】
ところで、二つのアミノ酸配列又は二つの核酸(以下、これらを含む用語として「二つの配列」を使用する)の同一性(%)は例えば以下の手順で決定することができる。まず、最適な比較ができるよう二つの配列を並べる。この際、例えば、第一の配列にギャップを導入して第二の配列とのアライメントを最適化してもよい。第一の配列の特定位置の分子(アミノ酸残基又はヌクレオチド)が、第二の配列における対応する位置の分子と同じであるとき、その位置の分子が同一であるといえる。二つの配列の同一性は、その二つの配列に共通する同一位置の数の関数であり(即ち、同一性(%)=同一位置の数/位置の総数×100)、好ましくは、アライメントの最適化に要したギャップの数及びサイズも考慮に入れる。
【0038】
また、二つの配列の比較及び同一性の決定は、数学的アルゴリズムを用いて実現可能である。配列の比較に利用可能な数学的アルゴリズムの具体例としては、Karlin及びAltschul(1990)Proc.Natl.Acad.Sci. USA 87:2264―68に記載され、Karlin及びAltschul(1993)Proc.Natl.Acad.Sci. USA 90:5873―77において改変されたアルゴリズムがあるが、これに限定されることはない。このようなアルゴリズムは、Altschulら(1990)J.Mol.Biol. 215:403―10に記載のNBLASTプログラム及びXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。本発明の核酸分子に等価なヌクレオチド配列を得るには例えばNBLASTプログラムでscore=100、wordlength=12としてBLASTヌクレオチド検索を行えばよい。
【0039】
本発明のポリペプチド分子に等価なアミノ酸配列を得るには、例えば、XBLASTプログラムでscore=50、wordlength=3としてBLASTポリペプチド検索を行えばよい。比較のためのギャップアライメントを得るためにはAltschulら(1997)Amino Acids Research 25(17):3389−3402に記載のGapped BLASTが利用可能である。BLAST及びGapped BLASTを利用する場合は、対応するプログラム(例えば、XBLAST及びNBLAST)のデフォルトパラメータを使用することができる。詳しくはhttp://www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。
【0040】
配列の比較に利用可能な他の数学的アルゴリズムの例としては、Myers及びMiller(1998)Comput Appl Biosci. 4:11―17に記載のアルゴリズムがある。このようなアルゴリズムは、例えばGENESTREAMネットワークサーバー(IGH Montpellier、フランス)又はISRECサーバーで利用可能なALIGNプログラムに組み込まれている。アミノ酸配列の比較にALIGNプログラムを使用する場合は例えば、PAM120残基質量表を利用し、ギャップ長ペナルティ=12、ギャップペナルティ=4とすることができる。
【0041】
二つのアミノ酸配列の同一性を、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムを用いて、Blossom62マトリックス又はPAM250マトリックスを使用し、ギャップ加重=12、10、8、6又は4、ギャップ長加重=2、3、又は4、として決定することができる。また、二つの核酸配列の相同度を、GCGソフトウェアパッケージhttp://www.gcg.comで利用可能)のGAPプログラムを用いて、ギャップ加重=50、ギャップ長加重=3として決定することができる。
【0042】
本発明に係るタンパク質は、より大きいタンパク質(例えば融合タンパク質)の一部であってもよい。融合タンパク質において付加される配列としては、例えば、多重ヒスチジン残基のような精製に役立つ配列、組み換え生産の際の安定性を確保する付加配列等が挙げられる。
【0043】
上記アミノ酸配列を有する本タンパク質は、遺伝子工学的手法によって容易に調製することができる。例えば、本タンパク質をコードするDNAで適当な宿主細胞(例えば大腸菌)を形質転換し、形質転換体内で発現されたタンパク質を回収することにより調製することができる。回収されたタンパク質は目的に応じて適宜調製される。このように組換えタンパク質として本タンパク質を得ることにすれば、種々の修飾が可能である。例えば、本タンパク質をコードするDNAと他の適当なDNAとを同じベクターに挿入し、当該ベクターを用いて組換えタンパク質の生産を行えば、任意のペプチドないしタンパク質が連結された組換えタンパク質からなる本タンパク質を得ることができる。また、糖鎖及び/又は脂質の付加や、あるいはN末端若しくはC末端のプロセッシングが生ずるような修飾を施してもよい。以上のような修飾により、組換えタンパク質の抽出、精製の簡便化、又は生物学的機能の付加等が可能である。
【0044】
<2.遺伝子、組み換えベクター、形質転換体>
(1)遺伝子
本発明では、前記タンパク質をコードする遺伝子を提供する。一態様において本発明の遺伝子は、配列番号10のアミノ酸配列をコードするDNAを含む。当該態様の具体例は、配列番号6または配列番号9の塩基配列からなるDNAである。
【0045】
ところで、一般に、あるタンパク質をコードするDNAの一部に改変を施した場合において、改変後のDNAがコードするタンパク質が、改変前のDNAがコードするタンパク質と同等の機能を有することがある。即ち、DNA配列の改変が、コードするタンパク質の機能に実質的に影響を与えず、コードするタンパク質の機能が改変前後において維持されることがある。そこで、本発明では他の態様として、配列番号6または配列番号9の塩基配列と等価な塩基配列を有し、糖質酸化酵素活性をもつタンパク質をコードするDNA(以下、「等価DNA」ともいう)を提供する。ここでの「等価な塩基配列」とは、配列番号6または配列番号9に示す核酸と一部で相違するが、当該相違によってそれがコードするタンパク質の機能(ここでは糖質酸化酵素活性)が実質的な影響を受けていない塩基配列のことをいう。
【0046】
等価DNAの具体例は、配列番号6または配列番号9の塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAである。ここでの「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。このようなストリンジェントな条件は当業者に公知であって例えばMolecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)やCurrent protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987)を参照して設定することができる。ストリンジェントな条件として例えば、ハイブリダイゼーション液(50%ホルムアミド、10×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、5×Denhardt溶液、1% SDS、10% デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いて約42℃〜約50℃でインキュベーションし、その後0.1×SSC、0.1% SDSを用いて約65℃〜約70℃で洗浄する条件を挙げることができる。更に好ましいストリンジェントな条件として、例えば、ハイブリダイゼーション液として50%ホルムアミド、5×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、1×Denhardt溶液、1%SDS、10%デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いる条件を挙げることができる。
【0047】
等価DNAの他の具体例として、配列番号6または配列番号9に示す塩基配列を基準として1若しくは複数(好ましくは1〜数個)の塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含む塩基配列からなり、糖質酸化酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAを挙げることができる。塩基の置換や欠失などは複数の部位に生じていてもよい。ここでの「複数」とは、当該DNAがコードするタンパク質の立体構造におけるアミノ酸残基の位置や種類によっても異なるが例えば2〜40塩基、好ましくは2〜20塩基、より好ましくは2〜10塩基である。以上のような等価DNAは例えば、制限酵素処理、エキソヌクレアーゼやDNAリガーゼ等による処理、位置指定突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)やランダム突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)による変異の導入などを利用して、塩基の置換、欠失、挿入、付加、及び/又は逆位を含むように、配列番号6または配列番号9に示す塩基配列を有するDNAを改変することによって得ることができる。また、紫外線照射など他の方法によっても等価DNAを得ることができる。
【0048】
等価DNAの更に他の例として、SNP(一塩基多型)に代表される多型に起因して上記のごとき塩基の相違が認められるDNAを挙げることができる。
【0049】
本発明の遺伝子は、本明細書又は添付の配列表が開示する配列情報を参考にし、標準的な遺伝子工学的手法、分子生物学的手法、生化学的手法などを用いることによって単離された状態に調製することができる。具体的には、適当なAcremonium chrysogenumのゲノムDNAライブラリー又はcDNAライブラリー、或はAcremonium chrysogenumの菌体内抽出液から、本発明の遺伝子に対して特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドプローブ・プライマーを適宜利用して調製することができる。オリゴヌクレオチドプローブ・プライマーは、市販の自動化DNA合成装置などを用いて容易に合成することができる。尚、本発明の遺伝子を調製するために用いるライブラリーの作製方法については、例えば、Molecular Cloning, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照できる。
【0050】
例えば、配列番号6または配列番号9の塩基配列を有する遺伝子であれば、当該塩基配列又はその相補配列の全体又は一部をプローブとしたハイブリダイゼーション法を利用して単離することができる。また、当該塩基配列の一部に特異的にハイブリダイズするようにデザインされた合成オリゴヌクレオチドプライマーを用いた核酸増幅反応(例えばPCR)を利用して増幅及び単離することができる。また、配列番号10に示すアミノ酸配列や配列番号6または配列番号9の塩基配列の情報を元にして、化学合成によって目的とする遺伝子を得ることもできる(参考文献:Gene,60(1), 115−127 (1987))。
【0051】
以下、本発明の遺伝子の取得法の具体例を示す。まず、Acremonium chrysogenumから本酵素(糖質酸化酵素)を単離・精製し、その部分アミノ酸配列に関する情報を得る。部分アミノ酸配列決定方法としては、例えば、精製した糖質酸化酵素を直接常法に従ってエドマン分解法〔ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー、第256巻、第7990〜7997頁(1981)〕によりアミノ酸配列分析〔プロテイン―シーケンサー476A、アプライド バイオシステムズ(Applied Biosystems)社製等〕に供する。タンパク質加水分解酵素を作用させて限定加水分解を行い、得られたペプチド断片を分離精製し、得られた精製ペプチド断片についてアミノ酸配列分析を行うのが有効である。
【0052】
このようにして得られる部分アミノ酸配列情報を基に糖質酸化酵素遺伝子をクローニングする。例えば、ハイブリダイゼーション法又はPCRを利用してクローニングを行うことができる。ハイブリダイゼーション法を利用する場合、例えば、Molecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)に記載の方法を用いることができる。
【0053】
PCR法を利用する場合、以下の方法を用いることができる。まず、糖質酸化酵素を産生する微生物のゲノムDNAを鋳型とし、部分アミノ酸配列の情報を基にデザインした合成オリゴヌクレオチドプライマーを用いてPCR反応を行い、目的の遺伝子断片を得る。PCR法は、PCRテクノロジー〔PCR Technology、エルリッヒ(Erlich)HA編集、ストックトンプレス社(Stocktonpress)、1989年発行〕に記載の方法に準じて行う。更に、この増幅DNA断片について通常用いられる方法、例えば、ジデオキシチェーンターミネーター法で塩基配列を決定すると、決定された配列中に合成オリゴヌクレオチドプライマーの配列以外に糖質酸化酵素の部分アミノ酸配列に対応する配列が見出され、目的の糖質酸化酵素遺伝子の一部を取得することができる。得られた遺伝子断片をプローブとして更にハイブリダイゼーション法等を行うことによって糖質酸化酵素全長をコードする遺伝子をクローニングすることができる。
【0054】
後述の実施例では、Acremonium chrysogenumが産生する糖質酸化酵素をコードする遺伝子の配列を、PCR法を利用して決定した。Acremonium chrysogenum由来の糖質酸化酵素をコードする遺伝子の全塩基配列を配列番号6に、当該酵素をコードするcDNAの全塩基配列を配列番号9に示した。また、当該塩基配列がコードするアミノ酸配列を決定した(配列番号10)。なお、配列番号10に示すアミノ酸配列に対応する塩基配列は配列番号6または配列番号9に記載したもの以外に複数存在する。
【0055】
全塩基配列が明らかにされた糖質酸化酵素遺伝子(配列番号6)の全体あるいは一部分をハイブリダイゼーション用のプローブとして用いることによって、他の糖質酸化酵素を産生する微生物のゲノムDNAライブラリーあるいはcDNAライブラリーから、配列番号6または配列番号9の糖質酸化酵素遺伝子と相同性の高いDNAを選別することができる。
【0056】
同様に、PCR用のプライマーをデザインすることができる。このプライマーを用いてPCR反応を行うことによって、上記糖質酸化酵素遺伝子と相同性の高い遺伝子断片を検出し、さらにはその遺伝子全体を得ることもできる。
【0057】
以上のようにして得られた遺伝子のタンパク質を製造し、その糖質酸化酵素活性を測定することにより、糖質酸化酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であるか否かを確認することができる。また、得られた遺伝子の塩基配列(又はそれがコードするアミノ酸配列)を上記糖質酸化酵素遺伝子の塩基配列(又はそれがコードするアミノ酸配列)と比較することで遺伝子構造や相同性を調べ、糖質酸化酵素活性を有するタンパク質をコードするか否かを判定することにしてもよい。
【0058】
一次構造及び遺伝子構造が明らかとなったことから、ランダム変異あるいは部位特異的変異の導入によって改変型糖質酸化酵素(1個又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加、挿入若しくは置換の少なくとも1つが施された遺伝子)を得ることが可能である。これにより、糖質酸化酵素活性を有するが、至適温度、安定温度、至適pH、安定pH、基質特異性等の性質が異なる糖質酸化酵素をコードする遺伝子を得ることが可能となる。また、遺伝子工学的に改変型糖質酸化酵素を製造することが可能となる。
【0059】
ここで、変異を導入する際の計画は、例えば、遺伝子配列上の特徴的な配列を参酌して行われる。特徴的な配列の参酌は、例えば、そのタンパク質の立体構造予測、既知のタンパク質との相同性を考慮することにより行うことができる。
【0060】
ランダム変異を導入する方法としては、例えば、DNAを化学的に処理する方法として、亜硫酸水素ナトリウムを作用させシトシン塩基をウラシル塩基に変換するトランジション変異を起こさせる方法〔プロシーディングズ オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシーズ オブ ザ USA、第79巻、第1408〜1412頁(1982)〕、生化学的方法として、〔α−S〕dNTP存在下、二本鎖を合成する過程で塩基置換を生じさせる方法〔ジーン(Gene)、第64巻、第313〜319頁(1988)〕、PCRを用いる方法として、反応系にマンガンを加えてPCRを行い、ヌクレオチドの取り込みの正確さを低くする方法〔アナリティカル バイオケミストリー(Analytical Biochemistry)、第224巻、第347〜353頁(1995)〕等が挙げられる。
【0061】
部位特異的変異を導入する方法としては、例えば、アンバー変異を利用する方法〔ギャップド デュプレックス(gapped duplex)法、ヌクレイック アシッズ リサーチ(Nucleic Acids Research)、第12巻、第24号、第9441〜9456頁(1984)〕、制限酵素の認識部位を利用する方法〔アナリティカル バイオケミストリー、第200巻、第81〜88頁(1992)、ジーン、第102巻、第67〜70頁(1991)〕、dut(dUTPase)とung(ウラシルDNA グリコシラーゼ)変異を利用する方法〔クンケル(Kunkel)法、プロシーディングズ オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシーズ オブ ザ USA、第82巻、第488〜492頁(1985)〕、DNAポリメラーゼ及びDNAリガーゼを用いたアンバー変異を利用する方法〔オリゴヌクレオチド―ダイレクティッド デュアル アンバー(Oligonucleotide−directed Dual Amber:ODA)法、ジーン、第152巻、第271〜275頁(1995)、特開平7−289262号公報〕、DNAの修復系を誘導させた宿主を利用する方法(特開平8−70874号公報)、DNA鎖交換反応を触媒するタンパク質を利用する方法(特開平8−140685号公報)、制限酵素の認識部位を付加した2種類の変異導入用プライマーを用いたPCRによる方法(USP5,512,463)、不活化薬剤耐性遺伝子を有する二本鎖DNAベクターと2種類のプライマーを用いたPCRによる方法〔ジーン、第103巻、第73〜77頁(1991)〕、アンバー変異を利用したPCRによる方法〔国際公開WO98/02535号公報〕等が挙げられる。
【0062】
その他、市販されているキットを使用することにより、部位特異的変異を容易に導入することもできる。市販のキットとしては、例えば、ギャップド デュプレックス法を用いたMutan(登録商標)―G(宝酒造社製)、クンケル法を用いたMutan(登録商標)−K(宝酒造社製)、ODA法を用いたMutan(登録商標)−ExpressKm(宝酒造社製)、変異導入用プライマーとピロコッカス フリオサス(Pyrococcus furiosus)由来DNAポリメラーゼを用いたQuikChangeTM Site−Directed Mutagenesis Kit〔ストラタジーン(STRATAGENE)社製〕等を用いることができ、また、PCR法を利用するキットとして、TaKaRa LA PCR in vitro Mutagenesis Kit(宝酒造社製)、Mutan(登録商標)−Super Express Km(宝酒造社製)等を用いることができる。
【0063】
このように、本発明により糖質酸化酵素の一次構造及び遺伝子構造が提供されたことにより、糖質酸化酵素活性を有するタンパク質の安価で高純度な遺伝子工学的製造が可能となる。
【0064】
(2)組み換えベクター
本発明に係る遺伝子は、適当なベクター中に挿入して使用することができる。本発明において用いることができるベクターの種類は、それに挿入された核酸分子を細胞等のターゲット内へと輸送することができる核酸性分子をいい、その種類、形態は特に限定されるものではない。従って、本発明のベクターはプラスミドベクター、コスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクター(アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター等)の形態をとり得る。
【0065】
使用目的(クローニング、タンパク質の発現)に応じて、また宿主細胞の種類を考慮して適当なベクターが選択される。ベクターの具体例を挙げれば、大腸菌を宿主とするベクター(M13ファージ又はその改変体、λファージ又はその改変体、pBR322又はその改変体(pB325、pAT153、pUC8など)など)、酵母を宿主とするベクター(pYepSec1、pMFa、pYES2等、昆虫細胞を宿主とするベクター(pAc、pVLなど)、哺乳類細胞を宿主とするベクター(pCDM8、pMT2PCなど) 等である。
【0066】
本発明の組換えベクターは好ましくは発現ベクターである。「発現ベクター」とは、それに挿入された核酸を目的の細胞(宿主細胞)内に導入することができ、且つ当該細胞内において発現させることが可能なベクターをいう。発現ベクターは通常、挿入された核酸の発現に必要なプロモーター配列や発現を促進させるエンハンサー配列等を含む。選択マーカーを含む発現ベクターを使用することもできる。かかる発現ベクターを用いた場合には選択マーカーを利用して発現ベクターの導入の有無(及びその程度)を確認することができる。
【0067】
本発明の遺伝子のベクターへの挿入、選択マーカー遺伝子の挿入(必要な場合)、プロモーターの挿入(必要な場合)等は標準的な組換えDNA技術(例えば、Molecular Cloning, Third Edition, 1.84, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照することができる、制限酵素及びDNAリガーゼを用いた周知の方法)を用いて行うことができる。
【0068】
(3)形質転換体
本発明に係る組み換えベクターを適当な宿主に導入することによって形質転換体を作製することができる。本発明の形質転換体では、本発明の遺伝子が外来性の分子として存在することになる。本発明の形質転換体は、好ましくは、上記本発明のベクターを用いたトランスフェクション乃至はトランスフォーメーションによって調製される。トランスフェクション、トランスフォーメーションはリン酸カルシウム共沈降法、エレクトロポーレーション(Potter, H. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81, 7161−7165(1984))、リポフェクション(Felgner, P.L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 84,7413−7417(1984))、マイクロインジェクション(Graessmann, M. & Graessmann,A., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 73,366−370(1976))、Hanahanの方法(Hanahan, D., J. Mol. Biol. 166, 557−580(1983))、酢酸リチウム法(Schiestl, R.H. et al., Curr. Genet. 16, 339−346(1989))、プロトプラスト−ポリエチレングリコール法(Yelton, M.M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 81, 1470−1474(1984))等によって実施することができる。
【0069】
宿主細胞は、本発明の糖質酸化酵素が発現する限りにおいて特に限定されず、例えばBacillus subtilius、Bacillus licheniformis、Bacillus circulansなどのBacillus属細菌、Lactococcus、Lactobacillus、Streptococcus、Leuconostoc、Bifidobacteriumなどの乳酸菌、Escherichia、Streptomycesなどのその他の細菌、Saccharomyces、Kluyveromyces、Candida、Torula、Torulopsis、などの酵母、Aspergillus oryzae、Aspergillus nigerなどのAspergillus属、Penicillium属、Trichoderma属、Fusarium属などの糸状菌(真菌)などが挙げられる。動物細胞としては、バキュロウイルスの系統などが挙げられる。
【0070】
<3.糖質酸化酵素活性を有するタンパク質の製造方法>
本発明に係る糖質酸化酵素活性を有するタンパク質の製造方法は特に限定されず、公知の方法を自由に採用することができる。具体的には、本発明に係るタンパク質は、本発明に係るタンパク質の生産能を有する微生物または本発明に係る形質転換体を栄養培地で培養して得られる培養物から、糖質酸化酵素活性を有するタンパク質を採取することで製造することができる。
【0071】
本発明に係る製造方法において、用いることができる微生物は、前述した理化学的性質および糖質酸化酵素活性を有するタンパク質の生産能を有する微生物であれば、特に限定されず、公知の微生物を自由に選択して用いることができる。例えば、Acremonium属に属する微生物を挙げることができる。この場合、Acremonium属に属する微生物としては、Acremonium chrysogenumが挙げられる。
【0072】
また、本発明に係る製造方法において使用する前記微生物は、野生株に限らず、上記野生株を紫外線、エックス線、放射線、各種薬品などを用いる人工的変異手段で変異した変異株であっても、前記の糖質酸化酵素活性を有する酵素の生産能を有する限り、使用することが可能である。
【0073】
本発明に係る製造方法における培養には、公知の手法を適宜採用することができ、例えば液体培養及び固体培養の何れも任意に用いることができる。
【0074】
本発明に係る製造方法における培養に際し、用いることができる培地の炭素源は特に限定されず、公知の培地に用いられる炭素源を、1種または2種以上自由に選択して用いることができる。例えば、グルコース、フルクトース、ショ糖、乳糖、澱粉、グリセリン、デキストリン、レシチンなどを挙げることができる。
【0075】
また、窒素源も特に限定されず、公知の培地に用いられる窒素源を、1種または2種以上自由に選択して用いることができる。例えば、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、塩化アンモニウムなどの無機窒素源や、コーングルテンミール、大豆粉、カザミノ酸、コーヒー粕、綿実油粕、酵母エキス、麦芽エキス、コーンスティープリカー、カゼイン加水分解物、ふすま、肉エキス、アミノ酸、ペプトンなどの有機窒素源など、いずれも用いることが可能である。
【0076】
更に、無機栄養源も特に限定されず、公知の培地に用いられる無機栄養源を、1種または2種以上自由に選択して用いることができる。例えば、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、鉄、亜鉛、カルシウム、マンガンの塩類の他、ビタミンなどを挙げることができる。
【0077】
本発明に係る製造方法における培養を行う具体的温度は特に限定されず、本発明の効果を損なわない限り、自由に設定することができる。本発明においては特に、20〜35℃の温度範囲で行うことが好ましく、25〜30℃の温度範囲で行うことがより好ましい。
【0078】
また、培地のpHも特に限定されず、本発明の効果を損なわない限り、自由に設定することができる。本発明においては特に、pH5〜8に設定することが好ましく、pH6〜7に設定することがより好ましい。
【0079】
本発明に係る製造方法における培養期間も特に限定されず、本発明の効果を損なわない限り、菌体濃度、培地pH、培地温度、培地の構成などに応じて自由に設定することができる。本発明においては特に、培養期間を3〜8日に設定することが好ましく、4〜7日に設定することがより好ましい。培養法としては例えば静置培養、振盪培養法、ジャー・ファーメンターなどによる好気的深部培養法が利用できる。
【0080】
このようにして、菌体を培養した後、本発明のタンパク質を精製・回収する。タンパク質の精製・回収方法は、特に限定されず、公知の方法を自由に選択して行うことができる。
【0081】
例えば、培養液から回収する場合には、例えば培養上清をろ過、遠心処理等することによって不溶物を除去した後、限外ろ過膜による濃縮、硫安沈殿等の塩析、透析、イオン交換樹脂等の各種クロマトグラフィーなどを適宜組み合わせて分離、精製を行うことにより本タンパク質を得ることができる。
【0082】
他方、菌体内から回収する場合には、例えば菌体を加圧処理、超音波処理などによって破砕した後、上記と同様に分離、精製を行うことにより本タンパク質を得ることができる。尚、ろ過、遠心処理などによって予め培養液から菌体を回収した後、上記一連の工程(菌体の破砕、分離、精製)を行ってもよい。
【0083】
尚、発現の確認や発現産物の確認は、糖質酸化酵素に対する抗体を用いて行うことが簡便であるが、糖質酸化酵素活性を測定することにより発現の確認を行うこともできる。
【0084】
本発明の他の態様では、上記の形質転換体を用いて糖質酸化酵素を製造する。この態様の製造法ではまず、それに導入された遺伝子によってコードされるタンパク質が産生される条件下で上記の形質転換体を培養する。様々なベクター宿主系に関して形質転換体の培養条件が公知であり、当業者であれば適切な培養条件を容易に設定することができる。培養ステップに続き、産生されたタンパク質(即ち、糖質酸化酵素)を回収する。回収及びその後の精製については、上記態様の場合と同様に行えばよい。
【0085】
<4.本発明に係るタンパク質の使用、その用途>
本発明のタンパク質の具体的な使用形態は特に限定されないが、例えば酵素剤の形態で提供することができる。酵素剤は、有効成分(本発明のタンパク質)の他、薬理学的に許容される添加剤を1種または2種以上自由に選択して含有させることができる。例えば、賦形剤、緩衝剤、懸濁剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水などを含有していてもよい。賦形剤としては、デンプン、デキストリン、マルトース、トレハロース、乳糖、D−グルコース、ソルビトール、D−マンニトール、白糖、グリセロール等を用いることができる。緩衝剤としては、リン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としては、フェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては、エタノール、塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等を用いることができる。
【0086】
本発明に係るタンパク質を用いて、前述の基質となり得る糖質を酸化することにより、糖酸を製造することができる。本発明に係るタンパク質は、前述の基質となり得る糖質が存在すれば、あらゆる分野において糖質酸化酵素として機能させることができる。特に、本発明に係るタンパク質は、広範囲の糖に対して作用するという特徴を有しているため、複数種の糖を一度に酸化する必要性を有する場合などに好適に用いることができる。また、本発明に係るタンパク質は、適度な温度安定性を有するため、例えば、糖質を酸化して糖酸を製造した後に、その酵素活性を不活化させる必要がある場合などに好適に用いることができる。
【0087】
具体的な一例としては、例えば、食品内の糖質を酸化するために好適に使用することができる。そして、この使用方法を利用して、様々な用途に応用することができる。例えば、(1)卵白の脱糖方法、脱糖卵白の製造方法、(2)パンの品質および/またはドウの物性の改質方法、パンの製造方法、(3)ラクトビオン酸の製造方法などに好適に用いることができる。
【0088】
(1)卵白の脱糖方法、脱糖卵白の製造方法
本発明に係るタンパク質は、卵白の脱糖に好適に用いることができる。
卵白内に含まれるグルコースなどの糖は、例えば、菓子などを製造する際、メイラード反応による着色を起こすという問題がある。そこで、従来から、菓子などの製造には、脱糖卵白が使用されている。
【0089】
卵白の脱糖には、従来、グルコースオキシダーゼによる処理や、酵母などを用いた発酵法が用いられている。しかし、グルコースオキシダーゼによる処理では、一般的に温度安定性が高いため、脱糖後の卵白中で活性が残存するという問題があった。活性が残存したグルコースオキシダーゼは、例えば、菓子原料中に含まれるグルコースを酸化してしまい甘味を減少させてしまうという問題を引き起こしていた。また、発酵法では、脱糖処理後の卵白に、発酵臭がつくという問題があり、卵白の用途が制限されるという問題があった。
【0090】
また、本発明に係るタンパク質の温度安定性は高すぎることなく、適度な温度安定性を示すため、脱糖後の卵白中では、活性が低減するといった特徴がある。そのため、活性残存による最終的な食品の甘味を減少させるといった問題を低減することができる。
【0091】
更に、本発明に係るタンパク質を用いた脱糖方法は、卵白中の糖を糖酸に変化させる方法であり、発酵法とは異なるため、発酵臭などの問題も解決することが可能である。
【0092】
(2)パンの品質および/またはドウの物性の改質方法、パンの製造方法
本発明に係るタンパク質は、パンの品質および/またはドウの物性の改質に好適に用いることができる。
具体的には、製パンに用いられる材料中に含まれる糖質を酸化して過酸化水素を発生させることにより、パンの生地(ドウ)を引き締め、製造工程におけるベタつきを軽減させて、ハンドリングし易く物性改良することができる。
【0093】
従来から、小麦粉に糖質酸化酵素を添加することにより、パンの生地(ドウ)の物性改良が行われている。具体的には、パンの生地(ドウ)の引き締め効果を期待して、グルコースオキシダーゼを単独、あるいは他の酵素と併用して、パンの製造に用いられている。しかし、小麦粉中のグルコースの存在量は、一般的に0〜0.4重量%の範囲であるため、グルコースオキシダーゼのみで実際に品質向上させるのは難しく、他の酵素と併用する必要があった。
【0094】
一方、本発明に係るタンパク質は、前述の通り、グルコース以外にも広範囲の糖に作用するため、本発明に係るタンパク質のみで、パンの品質やドウの物性の優れた改質効果を発揮することができる。
【0095】
(3)ラクトビオン酸の製造方法
本発明に係るタンパク質は、ラクトースに対しても作用するため、ラクトースを酸化させてラクトビオン酸を製造する方法に好適に用いることができる。
【0096】
ラクトビオン酸は、カルシウム、カリウム、ナトリウム、亜鉛など無機カチオンと塩を作ることにより、ミネラルの吸収を促進することが知られている。また、化粧料分野においては酸化防止剤としてラクトビオン酸が、食品分野においては、安定剤としてラクトビオン酸カルシウムが広く使用されている。このように、本発明に係るタンパク質は、幅広い分野で使用されているラクトビオン酸の製造にも好適に利用することが可能である。
【0097】
従来、ラクトビオン酸は、乳に酢酸菌などを接種し発酵させるなどして、乳中のラクトースをラクトビオン酸に変換させるなどの方法が行われてきた。
しかし、本発明に係るタンパク質を用いることで、酵素法によるラクトビオン酸の製造が可能となる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明するとともに、本発明の効果を検証する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0099】
なお、本実施例において、特に記載しない限り、糖質酸化酵素活性の測定は、以下の方法で行った。
<糖質酸化酵素活性測定方法>
0.15%(W/V)フェノール及び0.15%(W/V)トリトンX−100を含む0.1Mリン酸一カリウム―水酸化ナトリウム緩衝液(pH7.0)2ml、10%マルトース一水和物溶液0.5ml、25U/mLペルオキシダーゼ溶液0.5ml、及び0.4%(W/V)4−アミノアンチピリン溶液0.1mlを混合し、37℃で10分保温後、酵素溶液0.1mlを添加し、反応を開始した。酵素反応の進行と共に、波長550nmに吸収を持つキノンイミン色素が生成されるため、1分間あたりの波長550nmにおける吸光度の増加を測定することにより糖質酸化活性を測定した。なお、1分間に1μmolのマルトース一水和物を酸化するのに必要な酵素量を1単位とした。
【0100】
<実施例1:糖質酸化酵素活性を有するタンパク質の生産及び精製>
実施例1では、本発明に係る糖質酸化酵素活性を有するタンパク質を精製した。なお、以下の実施例では、本発明に係るタンパク質の生産能を有する微生物の一例として、Acremonium属微生物であるAcremonium chrysogenumを用いた。
【0101】
(1)培養
Acremonium chrysogenum NBRC30055、ATCC15006、DSM880の3株を前培養後、下記表1に示す組成の液体培地を用いて、30℃、6日間振盪培養を行った。培養後、培養液をNo.2のろ紙(アドバンテック東洋製)でろ過することにより、培養ろ液を回収した。得られた培養ろ液中の糖質酸化酵素活性を、前記糖質酸化酵素活性測定法にて測定した。その結果を表2に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
(2)Acremonium chrysogenum NBRC30055由来糖質酸化酵素の精製
前記で得られた培養ろ液を、ラヂオライトファインフローA(昭和化学工業製)を用いて珪藻土ろ過し、次いでUF膜(AIP−1013D、旭化成製)にて濃縮後、65%飽和濃度になるよう硫酸アンモニウムを添加し、得られた上清に90%飽和濃度となるよう硫酸アンモニウムを添加した。得られた沈殿画分を、2M硫酸アンモニウムを含む20mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)に溶解した。2M硫酸アンモニウムを含む20mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)にて平衡化したHiLoad 16/10 Phenyl Sepharose HPカラム(GEヘルスケア製)に供し、2Mから0Mの硫酸アンモニウム直線濃度勾配により、吸着した糖質酸化酵素タンパク質を溶離させた。
【0105】
集めた糖質酸化酵素画分をUF膜にて濃縮後、1mM塩化マンガン、1mM塩化カルシウム、0.5M塩化ナトリウムを含む20mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.4)にて透析した。得られた透析内液を1mM塩化マンガン、1mM塩化カルシウム、0.5M塩化ナトリウムを含む20mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.4)にて平衡化したHiTrap ConA 4Bカラム(GEヘルスケア製)に供し、0.5M Methyl−α−D−glucopyranoside(MDGP)、0.5M塩化ナトリウムを含む20mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.4)へのステップワイズ溶出により、吸着した糖質酸化酵素タンパク質を溶離させた。
【0106】
集めた糖質酸化酵素画分をUF膜にて濃縮後、20mMリン酸一カリウム−水酸化ナトリウム緩衝液(pH6.0)にて透析し、透析内液を20mMリン酸一カリウム−水酸化ナトリウム緩衝液(pH6.0)にて平衡化したMono Q HR 5/5カラム(GEヘルスケア製)に供し、0Mから1Mの塩化ナトリウム直線濃度勾配により、吸着した糖質酸化酵素タンパク質を溶離させた。
【0107】
さらに、集めた糖質酸化酵素画分をUF膜にて濃縮後、0.3M塩化ナトリウムを含む25mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)にて透析し、得られた透析内液を0.3M塩化ナトリウムを含む25mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)にて平衡化したHiLoad 16/60 Superdex 200 pgカラム(GEヘルスケア製)に供し、同緩衝液で溶離した。糖質酸化酵素タンパク質を集め、限外ろ過膜にて脱塩濃縮をし、精製酵素標品を得た。得られた本精製酵素は下記の諸性質の検討に供し、また内部ペプチドアミノ酸配列分析に供した。
【0108】
なお、各段階における精製の結果を下記表3に示した。最終段階の比活性は粗酵素に比較して約160倍となった。
図1に、最終精製工程におけるサンプルを10%のゲルにてSDS−PAGE(銀染色)した結果を示す。
【0109】
【表3】
【0110】
<実施例2:基質特異性の検討>
実施例2では、各基質に対する基質特異性を調べた。
【0111】
下記表4に記載の各糖質を基質として、酸素の存在下にて、前記実施例1で精製したタンパク質をpH7.0、37℃で5分間作用させ、上記糖質酸化酵素活性測定法に準じ測定した。さらに、グルコースに対する活性を100%として、それぞれの糖質に対する相対活性値を算出することにより、基質特異性を評価した。結果を下記表4に示す。
【0112】
【表4】
【0113】
表4に示す通り、グルコース、マルトース一水和物、マルトトリオース、マルトテトラオース、ガラクトース、ラクトース一水和物、D(+)−セロビオースに対してはよく作用した。D(−)−フルクトース、スクロースには作用しなかった。
【0114】
<実施例3:至適pHの検討>
上記糖質酸化酵素活性測定法に準じ、各緩衝液(グリシン―塩酸緩衝液(pH2.0、pH3.0)、クエン酸―クエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.0、pH4.0、pH5.0、pH6.0)、リン酸一カリウム―リン酸二カリウム緩衝液(pH6.0、pH7.0、pH8.0)、トリス―塩酸緩衝液(pH8.0、pH9.0)、炭酸ナトリウム―炭酸水素ナトリウム緩衝液(pH9.0、pH10.0、pH11.0)、リン酸一カリウム―水酸化ナトリウム緩衝液(pH7.0))中、37℃で5分間の反応条件下で測定した。また、リン酸一カリウム―水酸化ナトリウム緩衝液(pH7.0)を用いたときの活性を100%として、それぞれの相対活性値を算出した。結果を
図2の図面代用グラフに示す。至適pHは5.0〜9.0であった。
【0115】
<実施例4:安定pH範囲の検討>
前記実施例1で精製したタンパク質溶液と、前記実施例3で用いた各pH緩衝液を等量混合し、37℃で15分処理後、上記糖質酸化酵素活性測定法にて活性を測定した。なお、基質としては、マルトースを用いた。また、リン酸一カリウム―水酸化ナトリウム緩衝液(pH7.0)を用いて処理したときの活性を100%として、それぞれの相対活性値を算出した。結果を
図3の図面代用グラフに示す。pH5.0からpH10.5の範囲では、85%以上の残存活性を有しており、pH5.0からpH10.5の範囲では安定であった。
【0116】
<実施例5:至適温度の検討>
マルトースを基質として、酸素の存在下にて、前記実施例1で精製したタンパク質をpH7.0、反応温度を20℃、30℃、37℃、40℃、45℃、50℃、55℃、60℃及び65℃で5分間作用させ、過酸化水素を生成させた。生成した過酸化水素に、アミノアンチピリン、TOOS(株式会社同仁化学研究所製)の存在下でペルオキシダーゼを作用させ、生成したキノンイミン色素の呈する色調を波長555nmで測定し、定量した。また、反応温度を37℃としたときの活性を100%として、それぞれの相対活性値を算出した。結果を
図4の図面代用グラフに示す。至適温度は20℃〜55℃であった。
【0117】
<実施例6:温度安定性の検討>
前記実施例1で精製したタンパク質溶液を、20℃、25℃、30℃、35℃、37℃、40℃、45℃、50℃、55℃、60℃、65℃、70℃、75℃及び80℃の各温度下、15分間熱処理した後、残存活性を上記糖質酸化酵素活性方法にて測定した。熱に対して未処理の活性を100%として、それぞれの残存活性値を算出した。結果を
図5の図面代用グラフに示す。45℃、15分間の熱処理では、80%以上の残存活性を有しており、45℃までは安定であった。
【0118】
<実施例7:分子質量の測定>
前記実施例1で精製したタンパク質について、SDS−PAGE法により分子質量を算出した結果、約63kDaであることが分かった。
【0119】
<実施例8:Km値の測定>
前記実施例1で精製したタンパク質について、グルコース、マルトースを基質として、上記糖質酸化酵素活性方法にて活性測定を行い、Hanes−Woolfプロットから、それぞれのミカエリス定数(Km)を求めた。この結果、グルコースに対するKm値は8mM、マルトースに対するKm値は14mMであることが判明した。
【0120】
<実施例9:卵白の脱糖>
実施例9では、前記実施例1で精製したタンパク質およびグルコースオキシダーゼ(「ハイデラーゼ15」天野エンザイム株式会社製)を用いて、卵白の脱糖を行った。
【0121】
(1)卵白の調製
卵白と卵黄を分け、泡だて器で卵白が泡立たない程度で水溶卵白と濃厚卵白を混合し、駒込ピペットを用いて、20mLずつ100mLフラスコに分注した。分注したそれぞれの100mLフラスコに、攪拌子を入れ、ウォーターバス付きスターラーで強めに攪拌することにより、卵白を調製した。
【0122】
(2)卵白の脱糖反応
前記で調製した卵白に、前記実施例1で精製したタンパク質6Uもしくは15U、グルコースオキシダーゼ6Uもしくは15Uをそれぞれ添加し、水分の蒸発を防ぐためにアルミホイルでフタをして、反応をスタートさせた。
【0123】
酵素添加前、反応開始後1〜5時間まで1時間毎に、500μLのサンプリングを行った。その後、−30℃で冷凍することにより反応を停止させた。
【0124】
(3)残存グルコース量の測定
前記でサンプリングしたそれぞれの卵白について、残存するグルコース量を測定した。グルコース量の測定は、処理卵白溶液中のα‐D‐グルコースをムタロターゼによりβ‐D‐グルコースとした後、β‐NAD+存在下、グルコースデヒドロゲナーゼでD‐グルコノ‐1,5‐ラクトンへと変換する。その際に生じるβ‐NADH+を波長340nm
で測定することで定量した。
【0125】
具体的には、1mMEDTA、0.05%アジ化ナトリウム、0.14%TritonX‐100、0.8mMβ‐NAD+、2U/m1MUT“AMANO”II(天野エンザイム株式会社製)、14U/mlGLUCDH“AMANO” II(天野エンザイム株式会社製)を含む100mMBES緩衝液(pH7.0)3.4mlに適宜希釈した処理卵白溶液76μlを添加し、37℃で10分保温した。保温後、波長340nmにおける吸光度を測定することで残存グルコース量を定量した。
【0126】
(4)結果
結果を
図6の図面代用グラフに示す。
図6の図面代用グラフに示す通り、グルコースオキシダーゼを用いた場合に比べ、本発明に係るタンパク質を用いて脱糖を行った場合の方が、脱糖後の卵白における残存グルコースの量が、優位に低下することが分かった。
【0127】
<実施例10:卵白脱糖後の熱失活条件の検討>
実施例10では、卵白脱糖後の熱失活条件について検討を行った。
具体的には、実施例9と同様に調製した卵白に、本発明に係るタンパク質およびグルコースオキシダーゼを、それぞれ15U添加し、5時間脱糖反応を行った。脱糖反応後の卵白100μLを54、56、58℃の温度で、それぞれ1、3、5、8分加熱処理した後に氷冷し、各酵素の残存活性を測定した。
【0128】
54℃の結果を
図7に、56℃の結果を
図8に、58℃の結果を
図9にそれぞれ示す。
図7〜9の図面代用グラフに示す通り、54および56℃で加熱処理した場合は、本発明に係るタンパク質およびグルコースオキシダーゼのいずれも、活性の低下があまり見られないものの、58℃で5分以上加熱処理した場合には、グルコースオキシダーゼに比べ、本発明に係るタンパク質の活性が、明らかに低下することが分かった。
【0129】
<実施例11:パンの製造>
実施例11では、前記実施例1で精製したタンパク質、グルコースオキシダーゼ(「ハイデラーゼ15」天野エンザイム株式会社製)およびヘミセルラーゼ(「ヘミセルラーゼ「アマノ」90」天野エンザイム株式会社製)を用いて、パンの製造を行った。
【0130】
(1)パンの調製方法
山型パン用基本材料(強力粉260g;砂糖10.9g;食塩5.2g;ショートニング;7.8g;脱脂粉乳7.8g;ドライイースト3.1g;精製水192ml)またはこの材料に前記実施例1で精製したタンパク質10Uを添加したもの、同じくこの材料に前記実施例1で精製したタンパク質10Uとヘミセルラーゼ100ppmを添加したもの、グルコースオキシダーゼ10Uを添加したものをそれぞれ調製し、ホームベーカリーSD‐BMS102(パナソニック株式会社製)に供した。
【0131】
(2)物性測定
焼きあがった各サンプルのパンの重量、ボリューム(菜種置換法)を測定した。また、焼き上がりから2時間後に、ボリューム(菜種置換法)を測定し、各サンプルのパンをそれぞれビニール袋に入れ、口を輪ゴムで縛り、25℃で4日間保管した。保管1日目にパンを2cmの厚さにスライスした。保管1日目と4日目にパンの中央部を直径47mmの円柱状にカットした。各サンプルのパンの硬さを、SUN RHEO METER COMPAC―100II(株式会社サン科学製)を用いて圧縮スピード1mm/秒で10mm圧縮したときの最大荷重で測定した。
【0132】
(3)結果
前記で測定したボリュームを
図10、パンの硬さを
図11に示す。
図10および11に示す通り、グルコースオキシダーゼに比べ、本発明に係るタンパク質を用いた方が、ボリュームが減り、硬さが増す結果となった。これは、生地の引き締め効果が強いことを意味する。即ち、本発明に係るタンパク質を用いれば、従来のグルコースオキシダーゼに比べて、少ない量でパンの物性を改善できることが分かった。また、ヘミセルラーゼとの併用で酵素無添加と同程度のボリュームにすることができた。グルコースオキシダーゼに比べ、本発明に係るタンパク質を用いた方が、生地のベタつきが減少し、機械に付着しにくくなり、製造時のハンドリングが向上することも分かった。
【0133】
<実施例12:パン生地(ドウ)の物性改質>
実施例12では、前記実施例1で精製したタンパク質、グルコースオキシダーゼ(「ハイデラーゼ15」天野エンザイム株式会社製)およびヘミセルラーゼ(「ヘミセルラーゼ「アマノ」90」天野エンザイム株式会社製)を用いて、パンの製造を行った。
【0134】
(1)パン生地の調製方法
山型パン用基本材料(強力粉260g;砂糖10.9g;食塩5.2g;ショートニング;7.8g;脱脂粉乳7.8g;ドライイースト3.1g;精製水192ml)またはこの材料に前記実施例1で精製したタンパク質17Uを添加したもの、同じくこの材料にグルコースオキシダーゼ17Uを添加したもの、ヘミセルラーゼ50ppmを添加したもの、アスコルビン酸50ppmを添加したものをそれぞれ調製し、ホームベーカリーSD―BMS102(パナソニック株式会社製)に供した。パン生地コースでスタートし、1時間終了後、パン生地を取り出し、トスロン密閉容器(角型)に入れ、室温にて30分放置した。
【0135】
(2)結果
前記で調製した生地の扱いやすさを下記表5に示す。
【表5】
【0136】
表5に示す通り、本発明に係るタンパク質やアスコルビン酸を添加した生地は、機械に付着することがなく、取り出しもスムーズに行うことができた。一方、グルコースオキシダーゼを添加した生地はややべとつき、ヘミセルラーゼを添加した生地は非常にべたつき、手に残ってしまい、製造時のハンドリングが悪いことが分かった。更に、本発明に係るタンパク質を添加した生地を目視により観察すると、網目状を呈していることが確認できた。
【0137】
<実施例13:ラクトビオン酸の製造>
実施例13では、前記実施例1で精製したタンパク質を用いて、ラクトビオン酸の製造を行った。
【0138】
(1)ラクトビオン酸の製造
ラクトース一水和物0.75g、炭酸カルシウム0.225g、前記実施例1で精製したタンパク質3Uを含む溶液を3ml添加し、40℃、160rpmの条件で23時間振とうした。
【0139】
(2)ラクトビオン酸生成の確認
反応後のサンプルを10分間煮沸した後、15,000rpmで10分間遠心した。得られた上澄みを0.45μmのフィルターでろ過し、HPLC分析に供した。HPLC分析条件は下記表6に示す通りである。
【表6】
【0140】
上記分析の結果を
図12に示す。
図12に示す通り、ラクトビオン酸の生成を確認することが出来た。この結果から、本発明に係るタンパク質を用いて酵素法によるラクトビオン酸の製造が可能であることが証明された。
【0141】
<実施例14:Acremonium chrysogenum NBRC30055由来糖質酸化酵素をコードする遺伝子断片の取得>
(a)染色体DNAの単離
Acremonium chrysogenum NBRC30055を下記表7に示すYPD培地100mlを入れた坂口フラスコを用いて、25℃、3日間培養した後、ブフナー漏斗及びヌッチェ吸引瓶を用いて培養液をろ過し、菌体を得た。
【0142】
【表7】
【0143】
前記で得た菌体を−80℃で凍結後、凍結乾燥して得られた重量約0.3gの菌体を薬匙1杯の海砂とともに乳鉢、乳棒を用いて破砕し、Extraction Buffer(1%Hexadecyltrimethylammonium bromide、0.7M 塩化ナトリウム、50mM トリス‐塩酸(pH8.0)、10mMEDTA、1%メルカプトエタノール)12mlに懸濁した。室温で30分回転攪拌を続けた後、等量のフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1)溶液を加えて攪拌、遠心分離(1,500g、5分、室温)して上清を得た。得られた上清に、クロロホルム:イソアミルアルコール(24:1)溶液を加えて攪拌、遠心分離(1,500g、5分、室温)して上清を得た。その結果得られた上清に、等量のイソプロパノールを穏やかに加えた。この処理によって析出した染色体DNAを遠心分離(20,000rpm、10分、4℃)し、得られた沈殿を、70%エタノールで洗浄し、真空乾燥した。このようにして得られた染色体DNAを、再びTE4mlに溶解し、10mg/mlRNaseA(シグマアルドリッチ株式会社製)200μl加えた後、37℃、30分間インキュベートした。次いで、20mg/mlProteinaseK, recombinant, PCR Grade(ロシュ・アプライドサイエンス株式会社製)溶液40μl加えて37℃、30分間インキュベートした後、等量のフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1)溶液を加えた。攪拌後、遠心分離(1,500g、5分、室温)して上清を得た。この洗浄操作を2回繰り返した後、得られた上清にクロロホルム:イソアミルアルコール(24:1)溶液を加えて攪拌、遠心分離(1,500g、5分、室温)を行った。その結果得られた上清に対して、1/10容量の3M NaOAc(pH4.8)と2倍容量のエタノールを加えて−80℃で冷却することにより染色体DNAを析出させた。析出した染色体DNAを遠心分離(20,000rpm、10分、4℃)により回収した。回収された染色体DNAを70%エタノールで洗浄した後、真空乾燥させ、最後に400μlのTE溶液に溶解して濃度約1mg/mlの染色体DNAを得た。
【0144】
(b)部分アミノ酸配列の決定
前記実施例1で精製したタンパク質をアミノ酸配列解析に供し、内部アミノ酸配列(配列番号1、2、3)を決定した。
(c)PCRによるDNAプローブの作成
内部アミノ酸配列を基に2種の混合オリゴヌクレオチド(配列番号4、5)を合成し、PCRプライマーとした。これらのプライマーを用い、Acremonium chrysogenum NBRC30055の染色体DNAを鋳型として、以下の条件にてPCR反応を行った。
【0145】
<PCR反応液>
10×PCR反応緩衝液(TaKaRa社製) 5.0μL
dNTP混合液(それぞれ2.5mM、TaKaRa社製) 8.0μL
25mM MgCl2 5.0μL
50μM センス・プライマー 0.5μL
50μM アンチセンス・プライマー 0.5μL
蒸留水 29.5μL
染色体DNA溶液(100μg/mL) 1.0μL
La Taq DNAポリメラーゼ(TaKaRa社製) 0.5μL
【0146】
<PCR反応条件>
ステージ1:変性(94℃、1分) 1サイクル
ステージ2:変性(94℃、30秒) 30サイクル
アニール(55℃、30秒)
伸長(72℃、1.5分)
ステージ3:伸長(72℃、3分) 1サイクル
【0147】
得られた約1kbのDNA断片をpGEM−T easy(Promega社製)にクローニング後、塩基配列を確認したところ、センス・プライマーの直後とアンチセンス・プライマーの直前に、上記の部分アミノ酸配列をコードする塩基配列が見出された。本DNA断片を全長遺伝子クローニングのためのDNAプローブとした。
【0148】
(d)遺伝子ライブラリーの作製
Acremonium chrysogenum NBRC30055の染色体DNAのサザン・ハイブリダイゼーション解析の結果、XbaI分解物中にプローブDNAとハイブリダイズする約3kbのシングルバンドが確認された。この約3kbのXbaIDNA断片をクローニングするため、以下の様に遺伝子ライブラリーを作製した。
【0149】
上記(a)で調製した染色体DNAのXbaI処理を行った。染色体DNA50μg、10×M緩衝液40μL、10×BSA緩衝液40μL、蒸留水302.0μL、及びXbaIを8.0μL混合し、37℃で15時間処理した。得られた分解物をXbaI処理したpUC19ベクター(TaKaRa社製)にライゲーションし、遺伝子ライブラリーを得た。
【0150】
(e)遺伝子ライブラリーのスクリーニング
上記(c)で得た1kbのDNA断片をDIG−High Prime(Roche社製)を用いてラベルした。これをDNAプローブとして、(d)で得た遺伝子ライブラリーをコロニー・ハイブリダイゼーションによりスクリーニングした。得られたポジティブコロニーからプラスミドpUCGOOXを得た。
【0151】
(f)塩基配列の決定
前記で得られたプラスミドpUCGOOXの塩基配列を定法に従って決定した。Acremonium chrysogenum NBRC30055由来糖質酸化酵素をコードする塩基配列(1681bp)を配列番号6に示す。
【0152】
<実施例15:Acremonium chrysogenum NBRC30055由来糖質酸化酵素をコードするcDNA断片の取得>
(a)mRNAの単離
前記実施例1に記載の培養条件でAcremonium chrysogenum NBRC30055を25℃、3日間培養した後、ブフナー漏斗及びヌッチェ吸引瓶を用いて培養液をろ過し、菌体を得た。この菌体を用いてRNeasyプラントミニキット(株式会社QIAGEN製)によりTotal RNAを抽出した。得られたTotal RNAをGenElute(登録商標)ダイレクトmRNAミニプレップキット(シグマアルドリッチ株式会社製)に供し、mRNAを得た。
【0153】
(b)RT−PCR
前記実施例14で得たAcremonium chrysogenum NBRC30055由来糖質酸化酵素をコードする塩基配列(1681bp)(配列番号6)を基に2種のオリゴヌクレオチド(配列番号7、8)を合成し、PCRプライマーとした。上記(a)で得たmRNAを鋳型にPrimeScript High Fidelity RT−PCR Kit(TaKaRa社製)を用いて以下の条件にてRT−PCR反応を行った。
【0154】
<鋳型RNAの変性・アニーリング反応液>
dNTP混合液(それぞれ10mM、TaKaRa社製) 1.0μL
2μM アンチセンスプライマー 1.0μL
mRNA溶液 4.0μL
RNase Free dH2O 4.0μL
【0155】
<鋳型RNAの変性・アニーリング条件>
ステージ1:変性(65℃、5分) 1サイクル
ステージ2:冷却(4℃、∞) 1サイクル
【0156】
<鋳型RNAの逆転写反応液>
変性・アニーリング済み反応液 10μL
5×PrimeScript Buffer(TaKaRa社製) 4μL
RNase Inhibitor(40U/μL)(TaKaRa社製) 0.5μL
PrimeScript RTase(for 2step)(TaKaRa社製) 0.5μL
RNase Free dH2O 5μL
【0157】
<鋳型RNAの逆転写反応条件>
ステージ1:42℃、30分 1サイクル
ステージ2:95℃、5分 1サイクル
ステージ3:4℃、∞ 1サイクル
【0158】
<PCR反応液>
PrimeSTAR Max Premix(2×)(TaKaRa社製) 50μL
20μMセンスプライマー 1μL
20μMアンチセンスプライマー 1μL
逆転写反応液 5μL
滅菌水 43μL
【0159】
<PCR反応条件>
ステージ1:変性(98℃、10秒) 30サイクル
アニール(55℃、5秒)
伸長(72℃、2分)
【0160】
(c)塩基配列の決定
得られた約1.5kbのDNA断片をSmaI処理したpBluescript II KS+ベクター(Stratagene社製)にクローニング後、得られたプラスミドpUCcGOOXの塩基配列を定法に従って決定した。Acremonium chrysogenum NBRC30055由来糖質酸化酵素をコードするcDNA(1518bp)を配列番号9に示す。配列番号9によりコードされるアミノ酸配列(アミノ酸)を配列番号10に示す。このアミノ酸配列中には、前述実施例15(b)で決定した内部アミノ酸配列(配列番号1、2、3)が見出された。
【0161】
<実施例16:Acremonium chrysogenum NBRC30055由来糖質酸化酵素の糸状菌での発現>
(a)発現プラスミドの構築
前記実施例15で使用した2種のオリゴヌクレオチド(配列番号7、8)を用い、アスペルギルス宿主細胞中での発現のためにAcremonium chrysogenum NBRC30055由来糖質酸化酵素をコードするcDNAを鋳型として以下の条件にてPCR反応を行った。
【0162】
<PCR反応液>
PrimeSTAR Max Premix(2×)(TaKaRa社製) 25μL
20μMセンスプライマー 1μL
20μMアンチセンスプライマー 1μL
プラスミドpUCcGOOX 1μL
滅菌水 22μL
【0163】
<PCR反応条件>
ステージ1:変性(98℃、10秒) 33サイクル
アニール(55℃、5秒)
伸長(72℃、15秒)
【0164】
得られたDNA断片をアガロースゲル電気泳動にて確認後、NucleoSpinExtractII(日本ジェネティクス社製)で精製した。
【0165】
発現ベクターpCSFGPは調節配列として特許第4495904号に記載の改変プロモーター及びアスペルギルス・オリゼBB‐56由来フラビンアデニンジヌクレオチド結合型グルコース脱水素酵素ターミネーター、ならびに真菌形質転換のための選択可能マーカーアスペルギルス・オリゼBB‐56由来pyrG遺伝子を含有する。当該発現ベクターは大腸菌中での選択のためのamp遺伝子も含有する。
【0166】
前記で得られたDNA断片をリン酸化処理し、pCSFGP中でクローン化して発現プラスミドpCSGOOXGを生じた。構築したプラスミドpCSGOOXGを
図13に示す。
【0167】
発現プラスミドを、大腸菌JM109 Competent Cells(TaKaRa社製)中で形質転換させた。正確なプラスミドを含有する形質転換体を単離し、プラスミドDNAを得た。
【0168】
(b)糖質酸化酵素の糸状菌での発現
前記で得られた発現プラスミドpCSGOOXGによるアスペルギルス・オリゼの形質転換を次のように行った。pyrG遺伝子の欠損株であるアスペルギルス・オリゼBB‐56pyrG‐を、前記表7に示す培地に0.2%ウリジン、0.1%ウラシルを添加した培地で30℃、一晩振とう培養した後、得られた菌体を細胞壁溶解液(20mg/ml Yatalase(TaKaRa社製)、0.3mg/ml Novozym−234(Novozymes社)、0.8M塩化ナトリウム、10mMリン酸緩衝液(pH6.0))に懸濁し、30℃で1〜2時間緩やかに振とうすることによりプロトプラスト化させた。そしてプロトプラストを含む懸濁液をナイロンフィルターでろ過して残存する菌体を除去した。
【0169】
尚、アスペルギルス・オリゼBB‐56pyrG‐はBB‐56を親株とし、Mol. Gen. Genet.(1987)210:460―461に従って5‐フルオロオロチン酸(5‐FOA)の耐性株を分離した後ウリジン要求性変異株を選抜することによって得た。
アスペルギルス・オリゼBB‐56は以下のとおり寄託されている。
寄託機関:NITEバイオテクノロジー本部 特許微生物寄託センター(〒292‐0818日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2‐5‐8)
寄託日(受領日):2006年5月17日
寄託番号:NITE BP‐236
【0170】
次に上記の方法で得られたプロトプラストを用いて、Turnerらの方法(Gene, 36,321―331(1985))によりコンピテントセルの調製及び形質転換を行い、そしてウリジンを含まないツァペック・ドックス培地(0.2%NaNO3、0.1%KH2PO4、0.05%KCl、0.05%MgSO4・7H2O、2%グルコース(pH5.5))で生育可能な形質転換体を数十株得た。
【0171】
得られた形質転換体を前記実施例1に記載の培養条件で30℃、5日間培養した。培養後、培養液をNo.2のろ紙(アドバンテック東洋製)でろ過することにより、培養ろ液を回収した。
【0172】
(c)糖質酸化酵素の発現確認
得られたサンプルをSDS‐PAGEに供した。その結果、
図14に示すように、pCSGOOXGでは約63kDa付近に糖質酸化酵素と考えられる有意なタンパク質の生産が確認された。対象であるアスペルギルス・オリゼBB‐56の培養ろ液では同様のタンパク質の生産が確認されなかったため、本タンパク質は糖質酸化酵素cDNAの導入によるものと考えられた。
【0173】
また、同じサンプルについて上記糖質酸化酵素活性測定法に準じ活性測定を行った結果を以下の表8に示す。
【0174】
【表8】
【0175】
表8に示す通り、糖質酸化酵素cDNAの導入によって得られたタンパク質は、対照と比べて明らかな糖質酸化酵素活性が検出され、目的の糖質酸化酵素の発現が確認された。