特許第6294281号(P6294281)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294281
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】ゴルフボール
(51)【国際特許分類】
   A63B 37/00 20060101AFI20180305BHJP
【FI】
   A63B37/00 650
   A63B37/00 314
   A63B37/00 324
   A63B37/00 616
   A63B37/00 538
   A63B37/00 328
   A63B37/00 332
   A63B37/00 644
   A63B37/00 210
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-215629(P2015-215629)
(22)【出願日】2015年11月2日
(65)【公開番号】特開2017-86155(P2017-86155A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2016年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005935
【氏名又は名称】美津濃株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤川 良宏
(72)【発明者】
【氏名】中 裕里
【審査官】 大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−140618(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/147890(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0013184(US,A1)
【文献】 国際公開第2011/024859(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状のコアと、
前記コアを覆うカバーとを備えたゴルフボールであって、
前記カバーは、ポリウレタンを主成分として含み、
前記カバーのtanδは、計測温度23℃、周波数1000Hzにおいて、0.11以下であり、
前記ゴルフボールの揚力係数は、スピンパラメータが0.1のときに、0.20以上0.22以下である、ゴルフボール。
【請求項2】
前記コアのJIS−C硬度による表面硬度と中心硬度との差が14以上40以下である、請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項3】
前記カバーのシートの状態でのショアD硬度は、43以上60以下である、請求項1または2に記載のゴルフボール。
【請求項4】
前記カバーの前記ゴルフボールの状態でのショアD硬度は、50以上71以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のゴルフボール。
【請求項5】
前記カバーの厚みが0.4mm以上2.3mm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のゴルフボール。
【請求項6】
前記ゴルフボールのコンプレッションが63以上121以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のゴルフボール。
【請求項7】
前記カバーを覆うペイント層をさらに備え、
前記ペイント層は、1層および2層のいずれかの塗膜からなる、請求項1〜6のいずれか1項に記載のゴルフボール。
【請求項8】
前記カバーは、イソシアネート成分および活性水素化合物成分を反応させて得られるポリウレタンを含むカバー材であって、前記イソシアネート成分が、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンを含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載のゴルフボール。
【請求項9】
前記カバーは、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンを含むイソシアネート成分、および、活性水素化合物成分を反応させて得られるポリウレタンと、熱可塑性エラストマーと、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンとを混練し、成形したものである、請求項1〜8のいずれか1項に記載のゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボールに関し、特に、ポリウレタンを主成分とするカバーを備えたゴルフボールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴルフボールには、飛距離およびコントロール性が求められる。ゴルフボールの飛距離は、ゴルフボールの初速に影響される。ゴルフボールの初速はゴルフボールの反発に影響される。そのため、反発の良い材料としてアイオノマーがゴルフボールのカバーに用いられている。しかしながら、アイオノマーは高い剛性および硬度を有するため、スピンがかかりにくい。また、コントロール性は、スピン量に影響される。そのため、スピンがかかりやすい材料としてポリウレタンがゴルフボールのカバーに用いられている。しかしながら、ポリウレタンの反発は良くないという問題がある。この問題に対して、特許第5371881号公報(特許文献1)には、反発弾性の優れたポリウレタンを含むカバー材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5371881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者が鋭意検討したところ、上記公報に記載されたカバー材がゴルフボールに単純に用いられても、ゴルフボールの飛距離は向上しないことがわかった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、スピンがかかりやすい性能を維持しつつ飛距離を向上できるゴルフボールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のゴルフボールは、球状のコアと、コアを覆うカバーとを備えたゴルフボールである。カバーは、ポリウレタンを主成分として含む。カバーのtanδ(損失正接)は、計測温度23℃、周波数1000Hzにおいて、0.11以下である。ゴルフボールの揚力係数は、スピンパラメータが0.1のときに、0.20以上0.22以下である。
【0007】
本発明者は、ポリウレタンの反発が良くない理由として、ポリウレタンのtanδ(損失正接)がアイオノマーのtanδよりも大きいことに着目した。そこで、tanδの小さいポリウレタンをカバーに用いることを検討した。しかしながら、単純に、tanδの小さいポリウレタンをカバーに用いると、ポリウレタンはスピンがかかりやすいため、スピン量の増加によりゴルフボールの弾道は吹け上がることがわかった。このことはドライバーショットで顕著である。この結果、飛距離が落ちることがわかった。そこで、発明者は、スピンがかかりやすい性能を維持しつつ飛距離を向上できるゴルフボールを鋭意検討し、ゴルフボールの空力特性に思い至った。
【0008】
本発明者は、ポリウレタンを主成分として含むカバーのtanδが計測温度23℃、周波数1000Hzにおいて、0.11以下であり、ゴルフボールの揚力係数がスピンパラメータが0.1のときに、0.20以上0.22以下であることにより、スピンがかかりやすい性能を維持しつつ飛距離を向上できることを見い出した。つまり、ポリウレタンによってスピンがかかりやすい性能を維持することができ、ゴルフボールの空力特性によってスピン量の増加によるゴルフボールの弾道の吹け上がりを抑制して飛距離を向上できることを本発明者は見出した。
【0009】
上記のゴルフボールにおいては、好ましくは、コアのJIS−C硬度による表面硬度と中心硬度との差が14以上40以下である。これにより、内軟外硬効果による飛び出しスピン量の強制的な低下効果を得ることができることを本発明者は見い出した。
【0010】
上記のゴルフボールにおいては、カバーのシートの状態でのショアD硬度は、43以上60以下である。これにより、優れた打感を得ることができることを本発明者は見出した。
【0011】
上記のゴルフボールにおいては、カバーのゴルフボールの状態でのショアD硬度は、50以上71以下である。これにより、優れた打感を得ることができることを本発明者は見出した。
【0012】
上記のゴルフボールにおいては、カバーの厚みが0.4mm以上2.3mm以下である。カバーの厚みが薄すぎると反発の良いポリウレタンの効果が引き出せない。また、カバーの厚みが薄すぎると製造しにくいため製造コストが高くなる。他方、カバーの厚みが厚すぎると、材料コストが高くなる。また、カバーの厚みが厚すぎると、材料の成形後のひけが大きくなり、空力特性を維持するための設計が難しくなる。カバーの厚みが0.4mm以上2.3mm以下であることにより、反発の良いポリウレタンの効果を引き出すことができ、製造コストを抑え、材料コストを抑え、空力特性を維持するための設計が容易になることを本発明者は見い出した。
【0013】
上記のゴルフボールにおいては、ゴルフボールのコンプレッションが63以上121以下である。ゴルフボールのコンプレッションが硬すぎるとスピンがかかりすぎることになる。ゴルフボールのコンプレッションが軟らかすぎるとコアにも軟らかい材料を用いることになる。この場合には、コアの反発低下に伴ってゴルフボールの反発も低下する。ゴルフボールのコンプレッションが63以上121以下であることにより、スピンがかかりすぎることを抑制でき、ゴルフボールの反発の低下を抑制できることを見い出した。
【0014】
上記のゴルフボールは、カバーを覆うペイント層をさらに備えている。ペイント層は、1層および2層のいずれかの塗膜からなる。ポリウレタンは黄変するため経時による外観に品位を維持する為に、通常、塗膜が3層以上としたものもある。塗膜が増えると塗膜が意図した以上に厚くなる恐れがあり、そうするとディンプルの深さが浅くなるため揚力が必要以上に増加する可能性がある。また、塗膜が増えると塗膜のばらつきが大きくなるため、空力特性のばらつきが大きくなる。ペイント層の塗膜を1層および2層のいずれかにできることを発明者は見い出した。これにより、空力特性を維持し、かつ空力特性を安定させることができることを発明者は見い出した。
【0015】
上記のゴルフボールにおいては、カバーは、イソシアネート成分および活性水素化合物成分を反応させて得られるポリウレタンを含むカバー材であって、イソシアネート成分が、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンを含むことを特徴とする。これにより、反発の良いカバーを得ることができる。
【0016】
上記のゴルフボールにおいては、カバーは、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンを含むイソシアネート成分、および、活性水素化合物成分を反応させて得られるポリウレタンと、熱可塑性エラストマーと、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンとを混練し、成形したものである。これにより、反発の良いカバーを得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、スピンがかかりやすい性能を維持しつつ飛距離を向上できるゴルフボールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施の形態におけるゴルフボールの概略正面図である。
図2図1のII−II線に沿う断面図である。
図3】飛行中のゴルフボールの状態を説明するための図である。
図4】本発明の一実施の形態の変形例1のゴルフボールの断面図である。
図5】本発明の一実施の形態の変形例2のゴルフボールの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施の形態について図に基づいて説明する。
最初に本実施の形態におけるゴルフボールの構造について説明する。
【0020】
図1および図2を参照して、ゴルフボール1は、ディンプル2と、ランド3と、球状のコア4と、コア4を覆うカバー5とを備えている。カバー5の表面には、多数のディンプル2が設けられている。カバー5の表面の複数のディンプル2以外の部分はランド3である。このゴルフボール1は、カバー5の外側にペイント層及びマーク層を備えているが、これらの層の図示は省略されている。
【0021】
ここで、ゴルフボールの飛距離に関し、クラブにより打撃された飛行中のゴルフボール1は、図3に示すように、重力11、空気による抵抗(抗力)12、更にゴルフボール1がスピンを有するために生じる揚力13を受けることが知られている。なお、ゴルフボール1は、飛行方向14に移動し、ボール中心15を中心に矢印方向16に回転している。
【0022】
この場合、ゴルフボール1に働く力は下記弾道方程式(1)で表される。
F=FL+FD+Mg (1)
F:ゴルフボールに働く力、FL:揚力、FD:抗力、Mg:重力
また、上記弾道方程式(1)の揚力FL、抗力FDはそれぞれ下記数式(2),(3)で表される。
【0023】
FL=0.5×CL×ρ×A×V2 (2)
FD=0.5×CD×ρ×A×V2 (3)
CL:揚力係数、CD:抗力係数、ρ:空気密度、A:ゴルフボール最大断面積、V:ゴルフボール対空気速度
ゴルフボール1の揚力係数CLは、スピンパラメータSpが0.1のときに、0.15以上0.22以下である。
【0024】
抗力係数CD及び揚力係数CLは、ゴルフボールの弾道に影響を与える。米国ゴルフ協会(USGA)は、弾道計算プログラムのマニュアルを公表している。このマニュアルに沿ったプログラムに抗力係数CD及び揚力係数CLが入力されることにより、ゴルフボールの飛距離が予想されうる。抗力係数CD及び揚力係数CLは、USGAのルールに規定されたITR(Indoor Test Range)により測定される。
【0025】
なお、揚力係数CLは、特許4982148号公報に開示されているような空気力測定装置を用いて、回転させたゴルフボールに風を吹き付け、発生する空気力の3分力(抗力・揚力・横力)から算出することもできる。
【0026】
スピンパラメータSpは、下記の式(4)で規定される。スピンパラメータは周速度/速度で表される。
【0027】
Sp=πdN/U (4)
式(4)の各符号について説明する。dは直径(m)であり、Nは回転速度(rps)であり、Uはボール速度(m/s)である。たとえば、ボール速度(球速)60m/s、回転数2684rpmのとき、スピンパラメータSp≒0.1となる。
【0028】
また、スピンパラメータSpは、Uを通じて以下の式(5)にてレイノルズ数Reと関連付けられる。
【0029】
Re=UL/ν (5)
Re:レイノルズ数、U:流速(m/s)(ボール速度)、L:代表長さ(m)(ボール直径)、ν:動粘性係数 空気(1気圧、20℃):1.51×10-5(m2/s)
式(5)を用いれば、例えばレイノルズ数17000、スピン量2684rpmのとき、スピンパラメータSp≒0.1となる。
【0030】
ゴルフボールのコンプレッションが63以上121以下であることが好ましい。コンプレッションとは、圧縮試験機にてボールを所定の大きさだけ変形させるのに要する力をいう。具体的には、圧縮試験機を使用し、10mm/minでボールを2.54mm圧縮変形させた時の荷重である。
【0031】
ゴルフボール1の直径は、規則(R&A、及びUSGA参照)の定めるところにより、42.67mm以上にすることが求められている。但し、空力特性等を考慮するとボール径はできるだけ小さくすることが好ましく、例えば42.7〜43.7mmとすることができる。重さも、規則の定めるところにより45.93g以下にすることが求められている。ボールの飛距離性能を考慮すると重さはできるだけ大きいことが好ましく、45.2g〜45.93g以下に形成することができる。
【0032】
本実施の形態のゴルフボール1では、コア4とカバー5の間に1層または2層以上の中間層が設けられても良い。図4を参照して、本実施の形態の変形例1のゴルフボール1では、コア4とカバー5との間に中間層6が設けられている。
【0033】
また、本実施の形態のゴルフボール1では、カバー5を覆うペイント層7は二層以下の塗膜を有していてもよい。図5を参照して、本実施の形態の変形例2のゴルフボール1は、ペイント層7を備えている。ペイント層7は1層および2層のいずれかの塗膜からなっている。
【0034】
コア4の形状としては、球状が一般的であるが、例えば、球状のコア4の表面を均等に分割するように突条が設けられていても良いし、均等に分布した凹部が設けられていても良い。突条を設ける場合には、突条によって仕切られる凹部を、複数の包囲層、あるいは、それぞれの凹部を被覆するような単層の包囲層によって充填するようにして、コア4と包囲層からなる成形体の形状を球形とすることが好ましい。凹部を設ける場合には、コア4を被覆する外層材で凹部が充填されるように成形され、形状を球形とすることが好ましい。
【0035】
コア4は、球状に形成され、ゴム組成物で形成されている。コア4の直径は、33.0mm〜41.0mmにすることが好ましく、38.5mm〜40.0mmにすることが特に好ましい。コア4が小さいと反発性能が低下し、コア4が大きすぎるとコア4を被覆するカバー5の厚みが小さすぎて耐久性が落ちたり、ボールが軟らかくなりすぎ逆に反発性能が低下したりする。
【0036】
コア4は、基材ゴム、架橋材、不飽和カルボン酸の金属塩、充填剤等を配合した公知のゴム組成物で製造することができる。基材ゴムとしては、天然ゴム、ポリイソブレンゴム、スチレンブタジエンゴム、EPDM等を使用できるが、シス1,4結合を少なくとも40%以上、好ましくは80%以上を有するハイシスポリブタジエンを使用することが特に好ましい。
【0037】
架橋剤としては、例えばジクミルパーオキサイドやt−ブチルパーオキサイドのような有機過酸化物を使用することができるが、ジクミルパーオキサイドを使用するのが特に好ましい。
【0038】
不飽和カルボン酸の金属塩としては、アクリル酸又はメタクリル酸のような炭素数3〜8の一価又は二価の不飽和カルボン酸の金属塩を使用することが好ましいが、アクリル酸亜鉛を使用するとボールの反発性能を向上することができ、特に好ましい。
【0039】
充填剤は、コアに通常配合されるものを使用することができ、例えば酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等を使用することができる。また、必要に応じて有機硫黄化合物、老化防止剤、またはしゃく解剤等を配合してもよい。
【0040】
なお、コア4を構成する材料は、上記ゴム組成物の他、公知のエラストマーを用いることができる。
【0041】
コア4のJIS−C硬度による表面硬度と中心硬度との差が14以上40以下であることが好ましい。JIS−C硬度は、JIS K 7312付属書2にいうスプリング硬さ試験タイプC試験方法に準じて測定した硬度である。
【0042】
カバー5は、エラストマーで構成されている。カバー5は、ポリウレタンを主成分として含んでいる。カバー5は、ポリウレタンを50質量%以上含んでいる。カバー5のtanδ(損失正接)は、計測温度23℃、周波数1000Hzにおいて、0.11以下である。損失正接は、下記の式(6)に示すように、粘弾性測定における損失弾性率E”(G”)と貯蔵弾性率E'(G’)の比である。
【0043】
tanδ=E”/E’(=G”/G’) (6)
ここで、材料の弾性体(個体的性質)の特性をE’(G’)によって表現され、材料の粘成体(液体的性質)の特性をE”(G”)で表現される。ここで、材料の反発特性は、E’(G’)が大きいほど、E”(G”)が小さいほど良いと考えられるので、tanδが小さい方が有利であると考えた。
【0044】
カバー5のシートの状態でのショアD硬度は、43以上60以下であることが好ましい。ショアD硬度は、JIS K 7215に準拠して測定した硬度である。
【0045】
カバー5のゴルフボール1の状態でのショアD硬度は、50以上71以下であることが好ましい。
【0046】
カバー5の厚み(層厚)は0.4mm以上2.3mm以下とするのが好ましい。カバー5の厚みは、0.9mm以上1.99mm以下とすることが特に好ましい。通常、ポリウレタンの反発は良くないため、ポリウレタンを構成材料とするカバー5の厚みは薄くされる。本実施の形態では、ポリウレタンの反発が良いため、カバー5の厚みは厚くすることができる。
【0047】
カバー5は、イソシアネート成分および活性水素化合物成分を反応させて得られるポリウレタンを含むカバー材であって、イソシアネート成分が、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンを含むことを特徴とする。
【0048】
また、カバー5は、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンを含むイソシアネート成分、および、活性水素化合物成分を反応させて得られるポリウレタンと、熱可塑性エラストマーと、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンとを混練し、成形したものであってもよい。カバー5は、特許第5371881号公報に記載されたものを用いることができ、この公報に記載された方法により製造することができる。
【0049】
カバー5が、上記ポリウレタンの他の樹脂成分を含有する場合には、ポリウレタンの含有率は、ポリウレタンとその他の樹脂成分との総量に対して、例えば、50質量%以上、好ましくは、60質量%以上、さらに好ましくは、70質量%以上である。さらに、上記ポリウレタンのみからなることも好ましい態様である。
【0050】
また、カバー5は、上記樹脂成分のほか、カバー材の性能を損なわない範囲で、例えば、酸化亜鉛、酸化チタン、青色顔料などの顔料成分、例えば、炭酸カルシウムや硫酸バリウムなどの比重調整剤、さらに、例えば、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光材料、蛍光増白剤などを含有することもできる。
【0051】
顔料成分としては、例えば、白色顔料としての酸化チタンなどが挙げられる。
酸化チタンが配合される場合には、その含有量は、樹脂成分(必須成分としてのポリウレタン、および、任意成分としてのその他の樹脂成分、以下同様。)100質量部に対して、例えば、0.5質量部以上、好ましくは1質量部以上、通常、8質量部以下である。
【0052】
酸化チタンの含有量が上記範囲であると、カバー材としての隠蔽性と反発弾性や物性の耐久性を確保することができる。
【0053】
次に、本実施の形態のゴルフボールの製造方法について説明する。
まず、上記のコア4が成形される。実施例に記載の表1の配合にて、A練りをニーダー、B練りをロールを用いてゴムを練り、所定の質量となるよう練ったゴムを裁断(予備成型)して、その裁断物(予備成型品)を金型にセットする。この金型は140〜170℃の範囲程度で、成形時間をその温度で適正に成形できる時間として成形しコア4を得る。コア4の形状としては、一般的に球状に成形される。なお、コア4の表面に突条または凹部が成形されてもよい。得られたコア4には、バリ、履型剤が残っている場合もあるので、所定の研摩機にて研摩を行って得る場合もある。マントル層を形成する場合は、このコアを射出成形機にセットし、マントルに用いる材料に適した射出温度、射出圧にて成形を行った後、ゲート、バリ等の除去を目的として研摩を行う。続いて、コア4を被覆するようにカバー5が成形される。また、マントル層を形成する場合は、マントル層を被覆するようにカバー5が成形される。
【0054】
カバー5は、上記のポリウレタンを主体とした樹脂成分を熱成形することにより製造される。例えば、特定の金型を用いた熱圧縮成形やコア層に直接、射出成形する方法を挙げることができる。
【0055】
熱成形温度は、例えば、180〜240℃、好ましくは、185〜230℃である。また、成形圧力は、例えば、0.5〜25MPa、好ましくは、1〜20MPaである。上記条件で熱成形することにより、均一な厚みを有するカバー5を得ることができる。
【0056】
カバー5が成形される際、カバー表面にディンプル2が形成される。カバー5の成形後、必要に応じて、バリ取り、洗浄、研摩、塗装、マーク印刷がなされ、ゴルフボール1が完成する。その際、適宜成型品を湿式振動バレルなどを用いて研摩を行うことで、ディンプル深さを調整して所望の揚力係数CLとすることができる。
【0057】
次に、本実施の形態のゴルフボールの作用効果について説明する。
発明者は、スピンがかかりやすい性能を維持しつつ飛距離を向上できるゴルフボール1の空力特性を見い出した。
【0058】
本発明者は、ポリウレタンを主成分として含むカバー5のtanδが計測温度23℃、周波数1000Hzにおいて、0.11以下であり、ゴルフボール1の揚力係数がスピンパラメータSpが0.1のときに、0.15以上0.22以下であることにより、スピンがかかりやすい性能を維持しつつ飛距離を向上できることを見い出した。つまり、ポリウレタンによってスピンがかかりやすい性能を維持することができ、ゴルフボール1の空力特性によってスピン量の増加によるゴルフボール1の弾道の吹け上がりを抑制して飛距離を向上できることを本発明者は見出した。
【0059】
また、コア4のJIS−Cによる表面硬度と中心硬度との差が14以上40以下であることより、内軟外硬効果による飛び出しスピン量の強制的な低下効果を得ることができることを本発明者は見い出した。
【0060】
また、カバー5のシートの状態でのショアD硬度は、43以上60以下であることにより、優れた打感を得ることができることを本発明者は見出した。
【0061】
また、カバー5のゴルフボール1の状態でのショアD硬度は、50以上71以下であることにより、優れた打感を得ることができることを本発明者は見出した。
【0062】
また、カバー5の厚みが0.4mm以上2.3mm以下であることにより、反発の良いポリウレタンの効果を引き出すことができ、製造コストを抑え、材料コストを抑え、空力特性を維持するための設計が容易になることを本発明者は見い出した。
【0063】
また、ゴルフボール1のコンプレッションが63以上121以下であることにより、スピンがかかりすぎることを抑制でき、ゴルフボール1の反発の低下を抑制できることを見い出した。
【0064】
また、ペイント層7は、1層および2層のいずれかの塗膜からなる。通常、塗膜は3層以上である。塗膜が増えると塗膜が厚くなるため空力特性が低下する。また、塗膜が増えると塗膜のばらつきが大きくなるため、空力特性のばらつきが大きくなる。ペイント層の塗膜を1層および2層のいずれかにできることを発明者は見い出した。これにより、空力特性を維持し、かつ空力特性を安定させることができることを発明者は見い出した。
【0065】
また、ゴルフボール1においては、カバー5は、イソシアネート成分および活性水素化合物成分を反応させて得られるポリウレタンを含むカバー材であって、イソシアネート成分が、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンを含むことを特徴とする。
【0066】
あるいは、ゴルフボール1においては、カバー5は、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンを含むイソシアネート成分、および、活性水素化合物成分を反応させて得られるポリウレタンと、熱可塑性エラストマーと、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンとを混練し、成形したものであってもよい。これにより、反発の良いカバー5を得ることができる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
表1および表2を参照して、実施例1〜21は、本発明の実施例であり、比較例1〜9は本発明に対する比較例である。
【0071】
発明者は、表1および表2に示す構成を備えた実施例1〜21、比較例1〜9のゴルフボールを準備した。そして、これらのゴルフボールの各々のボール性能を測定した。
【0072】
測定結果を表1および表2に示す。表1および表2の各項目について説明する。構造はツーピース(2P)またはスリーピース(3P)を示している。コア配合は、コアの材料の配合を示している。
【0073】
コンプレッションは、圧縮試験機として精密万能試験機(オートグラフ AG−5000D(島津製作所製))を使用して、10mm/minでボールを2.54mm圧縮変形させた時の荷重を測定した値である。コア、マントル、ゴルフボールいずれも上記方法にて測定した。測定数は半ダース(6個)以上とし、値はその平均をとった。上記計測は、計測前日より約23℃の恒温漕に保管していたものを取り出した後、速やかに計測した。
【0074】
JIS−C硬度の計測は、計測前日より約23℃の恒温漕に保管していたものを取り出した後、速やかに計測した。JIS−C硬度(表面)は、コアの表面を計測した。JIS−C硬度(中心)は、コアを真っ二つに切断し、その中心硬度を計測した。コアの表面硬度については、表面の硬度を(コア表面からコア中心に向かう方向にて)計測した。中心硬度については、コアを2分割し、断面の中心を計測した。また、計測値のバラツキを考慮して、表面硬度は、略等間隔に離れた5箇所を計測し、その平均値とした。中心硬度は、5個のゴルフボールを計測し、その平均値とした。なお、測定機器としては、ASKER CL−150(高分子計器株式会社製)を用いた。この場合、針の重みで測定対象物がずれないようしっかりと固定したうえで測定を行った。
【0075】
ショアD硬度は、マントル、カバー(シート)、カバー(ゴルボール)について測定した。マントルの表面硬度については、表面の硬度を(コア表面からコア中心に向かう方向にて)計測した。また、計測値のバラツキを考慮して、表面硬度は、略等間隔に離れた5箇所を計測し、その平均値とした。カバー(シート)の表面硬度については、約2mmの厚みのシートを作成し、これを3枚重ねて、総厚みが約6mmとして計測を行った。表面硬度を5回計測し、その平均値とした。
【0076】
ゴルフボールの表面硬度(ボール状態)については、表面の硬度を(コア表面からコア中心に向かう方向にて)計測した。計測地点としてディンプルとディンプルの間のランドの硬度を測定した。また、計測値のバラツキを考慮して、表面硬度は、略等間隔に離れた5箇所を計測し、その平均値とした。
【0077】
tanδ(損失正接)については、粘弾性試験により測定した。試験片として、幅3mm程度、高さ30mm程度(チャック間20mm)、厚み2mm程度の試験片を準備した。試験機として、株式会社ユービーエム製 Rheogel−E4000を使用した。試験条件として、測定周波数1Hz,2Hz,4Hz,8Hz,16Hz,32Hz,64Hzの合成波を用いた。また、開始温度=−40℃、ステップ温度=2℃、終了温度=50℃、昇温速度=1℃/minとした。引張モードで測定した。マスターカーブ(合成曲線)は、演算法(n=3)乃至WMF方式を用いた。そして、計測温度23℃、周波数1000Hzにおける、その材料のtanδ(損失正接)を得た。
【0078】
マスターカーブ(合成曲線)の作成について詳述する。一台の測定装置の測定周波数は(Hz)の範囲は3桁程度であり、物質の広範な性質を調べることは困難である。高分子では任意の温度Tで得られた粘弾性関数を、時間(周波数)の単位に変換することで基準温度の値に変換できる。この性質を温度時間換算則といい、得られた曲線をマスターカーブ(合成曲線)という。例えば、ある試料を異なる温度で(例えば、25℃、100℃、125℃)、前述のように周波数を変えて測定したときに得られる例えば動的貯蔵弾性率(E’、G’)のデータ(貯蔵弾性率と周波数の関係)を、縦軸貯蔵弾性率、横軸を周波数とグラフ化したとき、例えば100℃を基準温度とした時に、25℃のデータ及び125℃のデータを横軸(周波数)100℃に重なるようにシフトさせることで、温度の異なるデータを基準温度に対し周波数の異なるデータへと変換できることとなる(温度時間換算)。
【0079】
ここで、演算法とは、基準となるデータに、重ねるデータをどれだけシフトさせれば上手く重なるかを計算し、2〜3種の関数に当てはめて、フィッティングの具合が最も良いものを選んでデータをシフトさせ重ね合わせる方法である。具体的には、合成線を1次方程式と2次方程式にあてはめ、その相関係数が高い次数の方程式の解を求めて、重ねるデータの最初の点(周波数が低い)、真ん中の点、最後の点(周波数が高い)の3点で、合成曲線の距離を計算する。この3点の距離の平均値をシフト量とする。これを複数の温度で計測されたデータについて繰り返し、マスターカーブを得る。また、WMF方式は、ウィリアム、ランデル、フェリーらによって提唱された高分子材料に関し経験的に得られた手法である。
【0080】
反発係数の測定方法について説明すると、まず、エアーガンにより、エアガンの発射口から水平方向に距離2mだけ離れた地点に垂直に設置された厚さ約5cmの固定した表面が平滑な鉄板に向けて、衝突前の速度を43.51m/s(e=43.51)として各実施例及び比較例に係るゴルフボールを発射した。そして、鉄板に衝突して反射した各ゴルフボールの衝突前後のボールの速度を測定し、衝突前の速度に対する、衝突後の速度の比を反発係数とした。
【0081】
塗装による差は、塗装回数以外は同一の構成のゴルフボールの塗装が一層増えたことによる、反発係数の変化を示す。具体的には、実施例13に対する実施例14および15の反発係数の変化が示されている。また、実施例16に対する実施例17および18の反発係数の変化が示されている。この変化から、塗装が一層増えるごとに反発係数が低下することがわかった。
【0082】
揚力係数は、ゴルフボールのセット方向をPP(Poles over Pole)とPH(Poles Horizontal)とにして測定した値の平均である。
【0083】
打撃ロボット(ミヤマエ株式会社製SHOT ROBO IV)による1番ウッド(1W:ミズノ株式会社製MP CRAFT H4 10.5℃ クワッド H4 カーボンシャフト ♯S)、サンドウェッジ(SW:ミズノ株式会社製MP−T10 ロフト58° Dynamic Gold)を使用した打撃テストを行った。1番ウッド(ドライバー)については、初速、飛び出し角(例示無し)、スピン量、及び飛距離(キャリー)を測定した。またサンドウェッジについては、飛び出し角(例示無し)とスピン量とを測定した。ここで、1番ウッド(1W)のヘッドスピード(HS)は40m/sとし、サンドウェッジ(SW)のヘッドスピードは20m/sとした。計測器としてトラックマン社製トラックマンを用いて計測した。そして、実施例1〜21および比較例2〜9と比較例1との初速差を検討した。また、実施例1〜21および比較例2〜9と比較例1とのスピン差を検討した。
【0084】
比較例1〜7は、コアとカバーとからなるツーピース(2P)構造を有している。比較例1のカバー材料はアイオノマーである。比較例2〜9のカバー材料はポリウレタンである。なお、表1および表2では、ポリウレタンは、ウレタンと表記されている。比較例2〜7は、比較例1に比べて飛距離が短くなった。比較例8および9はコアとマントルとカバーとからなるスリーピース(3P)構造を有している。比較例8は、比較例2〜7に比べてtanδ(損失正接)が大きくなった。比較例9は、比較例8に比べて揚力係数が小さくなった。
【0085】
実施例1〜7は、コアとカバーとからなるツーピース(2P)構造を有している。実施例8〜21はコアとマントルとカバーとからなるスリーピース(3P)構造を有している。実施例1〜21のカバー材料はポリウレタンである。実施例1〜21は、tanδが0.11以下となり、揚力係数が0.15以上0.22以下となり、比較例1に比べて飛距離が長くなった。また、実施例1〜21は、コアのJIS−Cによる表面硬度と中心硬度との差が14以上40以下となった。また、カバーのシートの状態でのショアD硬度は、42.7以上60.0以下となった。また、カバーのゴルフボールの状態でのショアD硬度は、49.5以上71.0以下となった。また、ゴルフボールのコンプレッションが63以上121以下となった。
【0086】
表1および表2を参照して、ポリウレタンを主成分として含むカバー5のtanδが計測温度23℃、周波数1000Hzにおいて、0.11以下であり、ゴルフボール1の揚力係数がスピンパラメータSpが0.1のときに、0.15以上0.22以下であることにより、スピンがかかりやすい性能を維持しつつ飛距離を向上できることがわかった。
【0087】
また、コア4のJIS−Cによる表面硬度と中心硬度との差が14以上40以下であることより、内軟外硬効果による飛び出しスピン量の強制的な低下効果を得ることができることがわかった。
【0088】
また、カバー5のシートの状態でのショアD硬度は、43以上60以下であることにより、優れた打感を得ることができることがわかった。
【0089】
また、カバー5のゴルフボール1の状態でのショアD硬度は、50以上71以下であることにより、優れた打感を得ることができることがわかった。
【0090】
また、カバー5の厚みが0.4mm以上2.3mm以下であることにより、反発の良いポリウレタンの効果を引き出すことができ、製造コストを抑え、材料コストを抑え、空力特性を維持するための設計が容易になることがわかった。
【0091】
また、ゴルフボール1のコンプレッションが63以上121以下であることにより、スピンがかかりすぎることを抑制でき、ゴルフボール1の反発の低下を抑制できることがわかった。
【0092】
また、ペイント層7が1層および2層のいずれかの塗膜からなることにより、空力特性を維持し、かつ空力特性を安定させることができることがわかった。
【0093】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることを意図される。
【符号の説明】
【0094】
1 ゴルフボール、2 ディンプル、3 ランド、4 コア、5 カバー、6 中間層、7 ペイント層。
図1
図2
図3
図4
図5