(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3の技術は、被膜を形成するために加熱処理を必要とし、またその被膜は硬質のものであるため、摺動性向上のための機械的強度は高いものの、被膜を形成する金属部材が変形すると被膜にクラック等の欠損部を生じやすい。したがって、防食用途などの外部との隔離を目的とする表面コーティング技術には適用できない。また、電気・電子部材で用いようとすると、電気接点に影響しやすく、接触不良の原因にもなり得る。
【0007】
一方、特許文献4の技術は、加熱等の処理を必要とせず、塗布のみでその機能を発揮できる構成となっている。しかしながら、その材料は油成分であることから、金属表面への吸着力は低い。また、特許文献4には、一時的な表面保護である事も記載されている。
【0008】
また、特許文献5の技術は、あくまでも金属基板上にリン酸コーティングを形成するものであり、所定の添加剤を使うことによりその添加剤を使わなかった従来のリン酸コーティングと比べて摩擦係数を小さくするものであり、油を主成分とするコーティング剤とは異なる。
【0009】
本発明の解決しようとする課題は、加熱等の後処理を必要とせず、塗布する部材の変形にも追随できる柔軟性を持ち、しかも金属表面から剥がれにくく、防食用途で用いる事ができる金属表面コーティング用組成物およびこれを用いた端子付き被覆電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本発明に係る金属表面コーティング用組成物は、下記の一般式(1)および(2)で表される化合物の1種または2種以上からなる酸性リン酸エステルと金属とのアダクトと、基油と、を含有することを要旨とするものである。
(化1)
P(=O)(−OR
1)(−OH)
2 ・・・(1)
(化2)
P(=O)(−OR
1)
2(−OH) ・・・(2)
ただし、R
1は炭素数4〜30の炭化水素基である。
【0011】
この場合、前記R
1は、その炭素数4〜30の炭化水素基の構造中に、1以上の分岐鎖構造または1以上の炭素−炭素二重結合構造を有することが好ましい。そして、前記R
1としては、オレイル基、イソステアリル基、2−エチルヘキシル基、ブチルオクチル基、イソミリスチル基、イソセチル基、ヘキシルデシル基、オクチルデシル基、オクチルドデシル基、イソベヘニル基から選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0012】
そして、前記酸性リン酸エステルとアダクトを形成する金属の価数は2価以上であることが好ましい。
【0013】
また、前記酸性リン酸エステルとアダクトを形成する金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、チタン、亜鉛から選択される少なくとも1種であることが好ましい。この場合、前記アルカリ土類金属は、カルシウム、マグネシウムから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
そして、本発明に係る金属表面コーティング用組成物は、pHが4以上に設定されていることが好ましい。
【0015】
また、前記酸性リン酸エステルと金属とのアダクトと前記基油の合計に占める前記基油の割合は、30〜99質量%の範囲内であることが好ましい。
【0016】
さらに、前記基油は、20〜200℃の範囲内において流動性を持つものであることが好ましい。
【0017】
そして、本発明に係る端子付き被覆電線は、上記の金属表面コーティング用組成物により端子金具と電線導体との電気接続部が覆われていることを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る金属表面コーティング用組成物によれば、特定の酸性リン酸エステルと金属とのアダクトと、基油と、を含有することから、加熱等の後処理を必要とせず、塗布する部材の変形にも追随できる柔軟性を持ち、しかも金属表面から剥がれにくく、防食用途で用いる事ができる。これは、特定の酸性リン酸エステルと金属とのアダクトがそのリン酸塩基(P−O
−基)で金属表面にイオン結合するとともにそのエステル部分の脂肪族炭化水素基で基油を保持しているためと推察される。
【0019】
この場合、R
1がその炭素数4〜30の炭化水素基の構造中に1以上の分岐鎖構造または1以上の炭素−炭素二重結合構造を有すると、炭化水素基と基油の親和性がより高くなり、金属表面から基油がより流出しにくくなる。つまり、特定の酸性リン酸エステルと金属とのアダクトが基油を保持する機能により優れる。
【0020】
そして、酸性リン酸エステルとアダクトを形成する金属の価数が2価以上であると、2分子以上の酸性リン酸エステルが一つの金属を介してアダクトを形成するため、1価の金属とのアダクトよりもアダクトの分子量が大きく、流動温度が高くなり、その分、より高温でも基油を保持することができ、耐熱性に優れる。
【0021】
そして、酸性リン酸エステルとアダクトを形成する金属が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、チタン、亜鉛から選択される少なくとも1種であると、金属表面に対し、高い吸着性を得る事ができる。また、例えばSnよりもイオン化傾向が高いため、Snに対するイオン結合性に優れたものとすることができる。この場合、アルカリ土類金属が、カルシウム、マグネシウムから選択される少なくとも1種であると、吸着後も高い耐久性を得る事ができる。吸着時に表面金属との交換反応で生じるカルシウム塩やマグネシウム塩は、広いpH域で水溶性が低いため、特に高温多湿下でも吸着面に電解質の流動層を生じ難いためと推定される。
【0022】
そして、pHが4以上に設定されていると、特に遷移金属に対するイオン結合性に優れたものとすることができる。また、酸性リン酸エステルによる金属表面の腐食を抑えることができる。
【0023】
そして、酸性リン酸エステルと金属とのアダクトと基油の合計に占める基油の割合が30質量%以上であると、基油の量が十分であり、油膜による金属表面の保護機能により優れる。また、より耐水性に優れる被膜となる。そして、基油の割合が99質量%以下であると、酸性リン酸エステルと金属とのアダクトの量が十分であり、金属表面とのイオン結合力に優れ、金属表面に被膜を維持する効果に優れる。また、基油を保持する機能により優れる。
【0024】
そして、基油が20〜200℃の範囲内において流動性を持つものであると、組成物全体を液状にしやすく、塗布性、密着性に優れる。
【0025】
そして、本発明に係る端子付き被覆電線によれば、上記の金属表面コーティング用組成物により端子金具と電線導体との電気接続部が覆われていることから、長期にわたって安定した防食性能を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0028】
本発明に係る金属表面コーティング用組成物(以下、本組成物ということがある。)は、下記の一般式(1)および(2)で表される化合物の1種または2種以上からなる酸性リン酸エステルと金属とのアダクトと、基油と、を含有する。
(化1)
P(=O)(−OR
1)(−OH)
2 ・・・(1)
(化2)
P(=O)(−OR
1)
2(−OH) ・・・(2)
ただし、R
1は炭素数4〜30の炭化水素基である。
【0029】
本粘着性組成物における、酸性リン酸エステルとしては、一般式(1)で表される化合物のみで構成されるもの、一般式(2)で表される化合物のみで構成されるもの、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物の両方で構成されるものなどが挙げられる。
【0030】
本粘着性組成物における、酸性リン酸エステルと金属とのアダクトとしては、一般式(1)で表される化合物と金属とのアダクトのみで構成されるもの、一般式(2)で表される化合物と金属とのアダクトのみで構成されるもの、一般式(1)で表される化合物と金属とのアダクトおよび一般式(2)で表される化合物と金属とのアダクトの両方で構成されるものなどが挙げられる。
【0031】
酸性リン酸エステルと金属とのアダクトにおいて、リン酸塩基(P−O
−基)は、本組成物を塗布する金属表面にイオン結合してその金属表面に本組成物からなる被膜を強固に密着させることに寄与する。金属とのアダクトにすることで、リン酸塩基(P−O
−基)のイオン結合性を高めてイオン結合を促進する。また、金属とのアダクトにすることで、酸性リン酸エステルと金属とのアダクトを、粘着性を持つものにする。さらに、金属とのアダクトにすることで、酸性リン酸エステルの酸性を下げて(pHを上げて)、本組成物を塗布する金属表面の酸性リン酸エステルによる腐食を抑える。
【0032】
酸性リン酸エステルとアダクトを形成する金属は、耐熱性、低流動性などの観点から、価数が2価以上であることが好ましい。
【0033】
酸性リン酸エステルとアダクトを形成する金属としては、Li,Na,Kなどのアルカリ金属、Mg,Caなどのアルカリ土類金属、アルミニウム、チタン、亜鉛などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、2種以上組み合わされて用いられてもよい。これらの金属のリン酸エステル塩は、金属表面に対し、高い吸着性を得る事ができる。また、例えばSnよりもイオン化傾向が高いため、Snに対するイオン結合性に優れたものとすることができる。これらのうちでは、耐水性などの観点から、Ca,Mgがより好ましい。
【0034】
酸性リン酸エステルと金属とのアダクトにおいて、エステル部位のR
1は炭素数4〜30の炭化水素基であり、長鎖アルキル化合物である基油との相溶性に寄与する。つまり、本組成物中に基油を保持するものとなる。炭化水素基とは、炭素および水素からなる有機基であり、N,O,Sなどのヘテロ元素を含有しないものである。そして、長鎖アルキル化合物である基油との相溶性から、R
1は、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基であることが好ましい。より好ましくは脂肪族炭化水素基である。
【0035】
肪族炭化水素基としては、飽和炭化水素からなるアルキル基、不飽和炭化水素からなるアルケニル基が挙げられ、これらのいずれであってもよい。脂肪族炭化水素基であるアルキル基やアルケニル基は、直鎖状、分岐鎖状のいずれの構造のものであってもよい。ただし、アルキル基がn−ブチル基、n−オクチル基などの直鎖状のアルキル基であると、アルキル基同士が配向しやすく、酸性リン酸エステルと金属とのアダクトの結晶性が高くなり、基油との相溶性が低下する傾向がある。この観点から、R
1がアルキル基である場合には、直鎖状のアルキル基よりも分岐鎖状のアルキル基が好ましい。一方、アルケニル基は、1以上の炭素−炭素二重結合構造を有することで、直鎖状であっても結晶性がそれほど高くない。このため、アルケニル基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。
【0036】
R
1の炭素数は4〜30であるが、この炭素数が4未満では、酸性リン酸エステルが無機質となる。また、酸性リン酸エステルは結晶化の傾向が強くなる。そうすると、基油との相溶性が悪く、基油と混ざらなくなる。一方、R
1の炭素数が30超では、酸性リン酸エステルの粘度が高くなりすぎて、流動性が確保できなくなる。R
1の炭素数としては、基油との相溶性から、より好ましくは5以上、さらに好ましくは6以上である。また、R
1の炭素数としては、流動性などの観点から、より好ましくは26以下、さらに好ましくは22以下である。
【0037】
また、酸性リン酸エステルと金属とのアダクトは、分子内にリン酸塩基(極性基)と非極性基(エステル部位の炭化水素基)を併せ持つものであり、極性基同士、非極性基同士が会合した層状態で存在できるため、非重合体においても、高粘性の液体とすることが可能である。そうすると、基油との混合物である本組成物を粘性の液体にすることができる。粘性の液体であると、金属表面に塗布したときに、ファンデルワールス力による物理吸着を利用して、金属表面により密着させることができる。この粘性は、鎖状の分子鎖同士の絡まりが生じることにより得られるものと推察される。したがって、この観点から、酸性リン酸エステルの結晶化を促進しない方向への設計が好ましい。具体的には、炭化水素基の炭素数を4〜30とすること、炭化水素基が1以上の分岐鎖構造または1以上の炭素−炭素二重結合構造を有することなどが挙げられる。
【0038】
粘着性の観点からすると、酸性リン酸エステルは、金属とのアダクトにする必要がある。金属とのアダクトにしていない酸性リン酸エステルそのものを用いた場合、リン酸基の部分の極性が小さく、極性基であるリン酸基同士の会合性(凝集性)が低く、高粘性の液体にならない。このため、粘着性(粘性)が低い。また、アンモニアもしくはアミンとのアダクトにしても、リン酸塩基(アミン塩)の部分の極性が小さく、極性基であるリン酸塩基(アミン塩)同士の会合性(凝集性)が低く、高粘性の液体にならない。このため、粘着性(粘性)が低い。
【0039】
R
1としては、より具体的には、オレイル基、ステアリル基、イソステアリル基、2−エチルヘキシル基、ブチルオクチル基、イソミリスチル基、イソセチル基、ヘキシルデシル基、オクチルデシル基、オクチルドデシル基、イソベヘニル基などが挙げられる。一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物との間で、R
1の種類は同じであってもよいし、異なっていてもよい。組成物の調製が簡便であるなどの観点からいえば、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物との間で、R
1の種類は同じであるほうが好ましい。
【0040】
そして、具体的な酸性リン酸エステルとしては、ブチルオクチルアシッドホスフェイト、イソミリスチルアシッドホスフェイト、イソセチルアシッドホスフェイト、ヘキシルデシルアシッドホスフェイト、イソステアリルアシッドホスフェイト、イソベヘニルアシッドホスフェイト、オクチルデシルアシッドホスフェイト、オクチルドデシルアシッドホスフェイト、イソブチルアシッドホスフェイト、2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト、イソデシルアシッドホスフェイト、ラウリルアシッドホスフェイト、トリデシルアシッドホスフェイト、ステアリルアシッドホスフェイト、オレイルアシッドホスフェイト、ミリスチルアシッドホスフェイト、パルミチルアシッドホスフェイト、ジ−ブチルオクチルアシッドホスフェイト、ジ−イソミリスチルアシッドホスフェイト、ジ−イソセチルアシッドホスフェイト、ジ−ヘキシルデシルアシッドホスフェイト、ジ−イソステアリルアシッドホスフェイト、ジ−イソベヘニルアシッドホスフェイト、ジ−オクチルデシルアシッドホスフェイト、ジ−オクチルドデシルアシッドホスフェイト、ジ−イソブチルアシッドホスフェイト、ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト、ジ−イソデシルアシッドホスフェイト、ジ−トリデシルアシッドホスフェイト、ジ−オレイルアシッドホスフェイト、ジ−ミリスチルアシッドホスフェイト、ジ−パルミチルアシッドホスフェイトなどが挙げられる。これらのうちでは、非結晶性、基油との分子鎖絡まり性などの観点から、オレイルアシッドホスフェイト、イソステアリルアシッドホスフェイトが好ましい。
【0041】
本組成物においては、特定の酸性リン酸エステルと金属とのアダクトを含有していれば、金属とのアダクトにしていない酸性リン酸エステルそのものを一部に含有していてもよい。ただし、本組成物において、酸性リン酸エステルそのものの割合が大きくなると、イオン結合性が低下する、粘着性(粘性)が低下する、腐食を抑える効果が低下するなどから、酸性リン酸エステルそのものの割合は小さいほうが好ましい。
【0042】
酸性リン酸エステルそのものの割合を測る指標として、本組成物のpHを測る方法がある。酸性リン酸エステルの比率が高くなると、リン酸基(P−OH基)の残存量が多くなり、酸性度が高くなる(pHが下がる)。酸性リン酸エステルの比率が低くなると、リン酸基(P−OH基)の残存量が少なくなり、酸性度が低くなる(pHが上がる)。本組成物のpHとしては、4以上であることが好ましい。より好ましくは5.5以上である。
【0043】
また、酸性リン酸エステルと金属の比率(モル比)は、酸性リン酸エステルの価数をx
−、金属の価数をy
+、酸性リン酸エステルのモル数をl、金属のモル数をm、f=l×x−m×yとしたときのfの値によって示すこともできる。f>0の範囲では、金属に対し酸性リン酸エステルが過剰であり、リン酸基(P−OH基)が残存する。f=0では、金属に対し酸性リン酸エステルが当量であり、リン酸基(P−OH基)は残存しない。また、f<0では、金属に対し酸性リン酸エステルが不足であり、リン酸基(P−OH基)が残存しない。本組成物の粘着性に優れる、pHを高くするには、f≦0であることが好ましい。
【0044】
基油は、室温もしくは高温下で流動性を持つものを用いることができる。基油は、20〜200℃の範囲内において流動性を持つことが好ましい。より好ましくは30〜150℃の範囲内において流動性を持つことである。これにより、組成物全体を液状にしやすく、塗布性、密着性に優れる。
【0045】
基油としては、具体的には、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリブテン、鉱物油、合成油、ワセリン、ワックス、合成エステル、油脂、シリコーン油、ポリグリコール、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリエーテル、これらの2種以上のブレンド油などが挙げられる。これらのうちでは、熱安定性の観点から、鉱物油、パラフィン系が好ましい。
【0046】
基油の含有量は、酸性リン酸エステルと金属とのアダクトと基油の合計に占める割合として30質量%以上であることが好ましい。より好ましくは40質量%以上である。基油の含有量が30質量%以上であると、基油の量が十分であり、油膜による金属表面の保護機能により優れる。また、より耐水性に優れる被膜となる。また、基油の含有量は、99質量%以下であることが好ましい。より好ましくは96質量%以下である。基油の含有量が99質量%以下であると、酸性リン酸エステルと金属とのアダクトの量が十分であり、本組成物を塗布する金属表面とのイオン結合力に優れ、その金属表面に被膜を維持する効果に優れる。また、本組成物において基油を保持する機能により優れる。
【0047】
本組成物中には、酸性リン酸エステルと金属とのアダクトおよび基油の他に、本組成物の機能を損なわない範囲で、安定化剤、腐食防止剤、色素、増粘剤、フィラーなどを添加することができる。
【0048】
本組成物においては、さらに、溶剤を含有していてもよい。溶剤は、本組成物を金属表面に塗布する際の塗布性を高める、常温などの低温下での塗布性を確保する、などの観点から用いるとよい。溶剤は、本組成物を金属表面に塗布したことにより形成される塗膜にそのまま残って被膜の一部となるような不揮発性溶剤であってもよいし、塗膜から揮発して残らないで被膜の一部にならないような揮発性溶剤であってもよい。不揮発性溶剤としては、流動パラフィン(合成油)、鉱物油などが挙げられる。揮発性溶剤としては、ヘキサンやイソオクタンなどの低分子アルカン、トルエンやキシレンなどの芳香系溶剤、ベンジルアルコールやラウリルアルコールなどの比較的低極性のアルコール、テトラヒドロフラン(THF)やエチレングリコールなどのエーテル系溶剤、メチルエチルケトン(MEK)やメチルイソブチルケトン(MIBK)などのケトン系溶剤、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル系溶剤、クロロホルムやジクロロエタンなどのハロゲン系溶剤などが挙げられる。これらのうちでは、基油への分散性、溶解性などの観点から、合成油、イソオクタン、トルエン、ベンジルアルコールなどが好ましい。
【0049】
本組成物は、金属表面への塗布性に優れる観点から、20〜200℃において液状を示す(あるいは流動性を示す)ことが好ましい。例えば、基油が20〜200℃の範囲内において流動性を持つこと、酸性アルキルリン酸エステルと金属のアダクトの結晶性が低いこと、酸性アルキルリン酸エステルと金属のアダクトと基油の相溶性に優れる構成であること、などにより、本組成物が上記温度範囲において液状を示し(あるいは流動性を示し)、金属表面への塗布を容易とすることができる。
【0050】
金属表面に塗布する本組成物の膜厚としては、コーティング箇所からの流出防止や漏出防止の観点から、100μm以下であることが好ましい。より好ましくは50μm以下である。一方、コーティング被膜の機械的強度などの観点から、所定の厚さ以上であることが好ましい。膜厚の下限値としては、0.5μm、2μm、5μmなどが挙げられる。
【0051】
本組成物は、酸性リン酸エステルと金属とのアダクトと、基油と、必要に応じて添加される成分と、を単に混合することにより容易に得ることができる。そして、金属表面に本組成物を塗布するか、本組成物中に金属材料を浸漬することにより、容易に金属表面に本組成物よりなる被膜を形成することができる。本組成物を用いて金属表面に形成された被膜は、特に硬化させる必要はなく、加熱等の後処理を必要としない。また、このような成分からなるため、塗布する部材の変形にも追随できる柔軟性を持ち、金属表面から剥がれにくく、防食用途で用いる事ができる。金属表面から剥がれにくいのは、特定の酸性リン酸エステルと金属とのアダクトがそのリン酸塩基(P−O
−基)で金属表面にイオン結合するとともにそのエステル部分の脂肪族炭化水素基で基油を保持しているためと推察される。
【0052】
そして、本組成物は、潤滑や防食用途などに用いることができる。防食用途としては、例えば端子付き被覆電線の防食剤などとして用いることができる。
【0053】
次に、本発明に係る端子付き被覆電線について説明する。
【0054】
本発明に係る端子付き被覆電線は、絶縁電線の導体端末に端子金具が接続されたものにおいて、本組成物により端子金具と電線導体の電気接続部が覆われたものからなる。これにより、電気接続部での腐食が防止される。
【0055】
図1は、本発明の一実施形態に係る端子付き被覆電線の斜視図であり、
図2は
図1におけるA−A線縦断面図である。
図1、
図2に示すように、端子付き被覆電線1は、電線導体3が絶縁被覆(絶縁体)4により被覆された被覆電線2の電線導体3と端子金具5が電気接続部6により電気的に接続されている。
【0056】
端子金具5は、相手側端子と接続される細長い平板からなるタブ状の接続部51と、接続部51の端部に延設形成されているワイヤバレル52とインシュレーションバレル53からなる電線固定部54を有する。端子金具5は、金属製の板材をプレス加工することにより所定の形状に成形(加工)することができる。
【0057】
電気接続部6では、被覆電線2の端末の絶縁被覆4を皮剥ぎして、電線導体3を露出させ、この露出させた電線導体3が端子金具5の片面側に圧着されて、被覆電線2と端子金具5が接続される。端子金具5のワイヤバレル52を被覆電線2の電線導体3の上から加締め、電線導体3と端子金具5が電気的に接続される。又、端子金具5のインシュレーションバレル53を、被覆電線2の絶縁被覆4の上から加締める。
【0058】
端子付き被覆電線1において、一点鎖線で示した範囲が、本組成物の被膜7により覆われる。具体的には、電線導体3の絶縁被覆4から露出する部分のうち先端より先の端子金具5の表面から、電線導体3の絶縁被覆4から露出する部分のうち後端より後の絶縁被覆4の表面までの範囲が、被膜7により覆われる。つまり、被覆電線2の先端2a側は、電線導体3の先端から端子金具5の接続部51側に少しはみ出すように被膜7で覆われる。端子金具5の先端5a側は、インシュレーションバレル53の端部から被覆電線2の絶縁被覆4側に少しはみ出すように被膜7で覆われる。そして、
図2に示すように、端子金具5の側面5bも被膜7で覆われる。なお、端子金具5の裏面5cは被膜7で覆われなくてもよいし、覆われていてもよい。被膜7の周端は、端子金具5の表面に接触する部分と、電線導体3の表面に接触する部分と、絶縁被覆4の表面に接触する部分と、で構成される。
【0059】
こうして、端子金具5と被覆電線2の外側周囲の形状に沿って、電気接続部6が被膜7により所定の厚さで覆われる。これにより、被覆電線2の電線導体3の露出した部分は被膜7により完全に覆われて、外部に露出しないようになる。したがって、電気接続部6は被膜7により完全に覆われる。被膜7は、電線導体3、絶縁被覆4、端子金具5のいずれとも密着性に優れるので、被膜7により、電線導体3および電気接続部6に外部から水分等が侵入して金属部分が腐食するのを防止する。また、密着性に優れるため、例えばワイヤーハーネスの製造から車両に取り付けるまでの過程において、電線が曲げられた場合にも、被膜7の周端で被膜7と、電線導体3、絶縁被覆4、端子金具5のいずれとの間にも隙間ができにくく、防水性や防食機能が維持される。
【0060】
被膜7を形成する本組成物は、所定の範囲に塗布される。被膜7を形成する本組成物の塗布は、滴下法、塗布法等の公知の手段を用いることができる。被膜7を形成する本組成物の塗布の際には、加熱、冷却等により温度調節してもよい。
【0061】
被膜7を形成する本組成物は、所定の厚みで所定の範囲に塗布される。その厚みは、0.01〜0.1mmの範囲内が好ましい。被膜7を形成する本組成物が厚くなりすぎると、端子金具5をコネクタへ挿入しにくくなる。被膜7を形成する本組成物が薄くなりすぎると、防食性能が低下しやすくなる。
【0062】
被覆電線2の電線導体3は、複数の素線3aが撚り合わされてなる撚線よりなる。この場合、撚線は、1種の金属素線より構成されていても良いし、2種以上の金属素線より構成されていても良い。また、撚線は、金属素線以外に、有機繊維よりなる素線などを含んでいても良い。なお、1種の金属素線より構成されるとは、撚線を構成する全ての金属素線が同じ金属材料よりなることをいい、2種以上の金属素線より構成されるとは、撚線中に互いに異なる金属材料よりなる金属素線を含んでいることをいう。撚線中には、被覆電線2を補強するための補強線(テンションメンバ)等が含まれていても良い。
【0063】
電線導体3を構成する金属素線の材料としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、もしくはこれらの材料に各種めっきが施された材料などを例示することができる。また、補強線としての金属素線の材料としては、銅合金、チタン、タングステン、ステンレスなどを例示することができる。また、補強線としての有機繊維としては、ケブラーなどを挙げることができる。電線導体3を構成する金属素線としては、軽量化の観点から、アルミニウム、アルミニウム合金、もしくはこれらの材料に各種めっきが施された材料が好ましい。
【0064】
絶縁被覆4の材料としては、例えば、ゴム、ポリオレフィン、PVC、熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。これらは単独で用いても良いし、2種以上混合して用いても良い。絶縁被覆4の材料中には、適宜、各種添加剤が添加されていても良い。添加剤としては、難燃剤、充填剤、着色剤等を挙げることができる。
【0065】
端子金具5の材料(母材の材料)としては、一般的に用いられる黄銅の他、各種銅合金、銅などを挙げることができる。端子金具5の表面の一部(例えば接点)もしくは全体には、錫、ニッケル、金などの各種金属によりめっきが施されていても良い。
【0066】
なお、
図1に示す端子付き被覆電線1では、電線導体の端末に端子金具が圧着接続されているが、圧着接続に代えて溶接などの他の公知の電気接続方法であってもよい。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は、実施例により限定されるものではない。
【0068】
(粘着性組成物の合成)
<合成例1> OL−Li
500mlのフラスコにオレイルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A18D」、分子量467(平均)、酸価183mgKOH/g)を50g(酸価0.163mol)とメタノール50mLを加え、50℃で撹拌し、均一溶液とした。そこに、水酸化リチウム一水塩6.84g(0.163mol)/メタノール50mL溶液を少しずつ加えた。加え終わった澄明溶液を50℃のまま30分間撹拌した後、ロータリーエバポレータにて、メタノールと生成水を減圧留去した。次いで、トルエン50mLを加えた後、同様に減圧留去する事で生成水を共沸によって留去し、澄明粘性物である目的物を得た。
【0069】
<合成例2> OL−Ca
500mlのフラスコにオレイルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A18D」、分子量467(平均)、酸価183mgKOH/g)を50g(酸価0.163mol)とメタノール50mLを加え、室温で撹拌し、均一溶液とした。そこに、水酸化カルシウム6.04g(0.0815mol)を加え、懸濁液を室温のまま24時間攪拌し、水酸化カルシウムの沈殿物が無くなったことを確認した後ろ過し、ロータリーエバポレータにて、メタノールと生成水を減圧留去した。次いで、トルエン50mLを加えた後、同様に減圧留去する事で生成水を共沸によって留去し、澄明粘性物である目的物を得た。
【0070】
<合成例3> IS−Li
オレイルアシッドホスフェイトに代えてイソステアリルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A18OL」、分子量487(平均)、酸価178 mgKOH/g)50g(酸価0.159mol)とし、そこに加える水酸化リチウム一水塩を6.67g(0.159mol)とした以外は合成例1と同様にして、澄明粘性物である目的物を得た。
【0071】
<合成例4> IS−Ca
オレイルアシッドホスフェイトに代えてイソステアリルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A18OL」、分子量487(平均)、酸価178 mgKOH/g)50g(酸価0.159mol)とし、そこに加える水酸化カルシウムの量を5.89g(0.0795mol)とした以外は合成例2と同様にして、澄明粘性物である目的物を得た。
【0072】
<合成例5> IS−Mg
水酸化カルシウム5.89g(0.0795mol)に代えて水酸化マグネシウム4.64g(0.0795mol)を加えた以外は合成例4と同様にして、澄明粘性物である目的物を得た。
【0073】
<合成例6> IS−Zn
水酸化カルシウム5.89g(0.0795mol)に代えて塩基性炭酸亜鉛8.73g(Znとして0.0795mol)を加えた以外は合成例4と同様にして、澄明粘性物である目的物を得た。
【0074】
<合成例7> IS−Al
水酸化リチウム一水塩/メタノール溶液に代えてアルミニウムイソプロポキシド10.83g(0.053mol)を加えた以外は合成例3と同様にして、澄明粘性物である目的物を得た。
【0075】
<合成例8> EH−Li
イソステアリルアシッドホスフェイトに代えてジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A−208」、分子量322(平均)、酸価172mgKOH/g)50g(酸価0.153mol)とし、そこに加える水酸化リチウム一水塩の量を6.42g(0.153mol)とした以外は合成例3と同様にして、澄明粘性物である目的物を得た。
【0076】
<合成例9> EH−Ca
イソステアリルアシッドホスフェイトに代えてジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A−208」、分子量322(平均)、酸価172mgKOH/g)50g(酸価0.153mol)とし、そこに加える水酸化カルシウムの量を5.67g(0.076mol)とした以外は合成例4と同様にして、澄明粘性物である目的物を得た。
【0077】
<合成例10> EH−Mg
イソステアリルアシッドホスフェイトに代えてジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A−208」、分子量322(平均)、酸価172mgKOH/g)50g(酸価0.153mol)とし、そこに加える水酸化マグネシウムの量を4.46g(0.076mol)とした以外は合成例5と同様にして、澄明粘性物である目的物を得た。
【0078】
<合成例11> EH−Zn
イソステアリルアシッドホスフェイトに代えてジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A−208」、分子量322(平均)、酸価172mgKOH/g)50g(酸価0.153mol)とし、そこに加える塩基性炭酸亜鉛の量を8.34g(Znとして0.076mol)とした以外は合成例6と同様にして、澄明粘性物である目的物を得た。
【0079】
<合成例12> EH−Al
イソステアリルアシッドホスフェイトに代えてジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A−208」、分子量322(平均)、酸価172mgKOH/g)50g(酸価0.153mol)とし、そこに加えるアルミニウムイソプロポキシドの量を10.4g(0.051mol)とした以外は合成例7と同様にして、澄明粘性物である目的物を得た。
【0080】
(比較組成物の合成)
<合成例13> MT−Li
オレイルアシッドホスフェイトに代えてメチルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A−1」、分子量119(平均)、酸価707mgKOH/g)25g(酸価0.315mol)とし、そこに加える水酸化リチウム一水塩の量を13.2g(0.315mol)とした以外は合成例1と同様にして、目的物を得た。
【0081】
<合成例14> MT−Ca
オレイルアシッドホスフェイトに代えてメチルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A−1」、分子量119(平均)、酸価707mgKOH/g)25g(酸価0.315mol)とし、そこに加える水酸化カルシウムの量を11.67g(0.157mol)とした以外は合成例2と同様にして、目的物を得た。
【0082】
<金属表面コーティング用組成物の調製>
合成例1〜14により得られた各組成物と基油とをそれぞれ所定の割合で混合することにより、金属表面コーティング用組成物を調製した。基油の種類および混合割合は表1、2に示す通りである。なお、比較例1〜2の金属表面コーティング用組成物は、基油のみで構成されるものである。
PA5:JX日鉱日石エネルギー社製「ユニプレスPA5」
YUBASE:エクソンモービル社製「YUBASE8」(流動パラフィン系)
PAO:エクソンモービル社製「SPECTTRASYN40」(ポリアルファオレフィン系)
【0083】
<油膜残存性の評価>
調製した各金属表面コーティング用組成物中に、50℃加温下で、スズめっき銅板および銅板を浸漬し、超音波洗浄機を用いて50℃で5分間超音波を照射した。次いで、各金属表面コーティング用組成物中に浸漬したスズめっき板および銅板を取り出し、表面を均一化するため40℃の恒温槽中に垂直に立てかけ、2時間放置した。その後、恒温槽から取り出したスズめっき板および銅板水平に置き、20℃の室温下で、各金属表面コーティング用組成物が塗布された塗布面に純水10μLの水滴を静かに垂らした。そのまま5分静置した後、塗布面上の水滴の接触角を測定し、その水接触角の値から油膜残存性の評価を行った。
各金属表面コーティング用組成物で表面処理していない未処理のスズめっき板上および銅板上の水接触角はともに約40°であり、この値よりも接触角が大きいと、金属表面に疎水性の物質が残存する(油膜が残存する)と判断できる。そして、水接触角の値が60°以上であれば、油膜が金属表面に十分に残存していると判断した。
油膜残存性の評価は、恒温槽に2時間放置した後と、熱水処理した後と、加熱処理した後の3条件について行った。
熱水処理は、恒温槽から取り出したスズめっき板および銅板を80℃の撹拌温水中で1時間洗浄することにより行い、スズめっき板および銅板は、その後、一晩風乾した。
加熱処理は、恒温槽から取り出したスズめっき板および銅板を120℃のオーブン中で垂直に立てて48時間加熱することにより行った。
【0084】
(pHの測定)
各組成物について、pHを測定した。各組成物を約3%(w/v)の割合で純水に超音波照射により懸濁させ、その懸濁液についてガラス電極pH計にてpHの測定を行った。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
実施例1〜24では、熱水処理や加熱処理後においても60°以上の水接触角を維持しており、金属表面コーティング用組成物(油膜)が金属表面に十分に残存していることがわかる。したがって、本発明に係る金属表面コーティング用組成物によれば、浸漬等の塗布により簡単に金属表面に油膜をコーティングすることができ、その油膜を高温条件下あるいは高温高湿条件下においても金属表面に保持し続けることができるため、耐久性に優れることが示された。
【0088】
これに対し、比較例1、2では、金属表面に塗布する組成物が、本発明に係る酸性リン酸エステルと金属とのアダクトを含有せず、基油のみからなることから、油膜を均一化するための恒温槽中の放置の段階から基油の減少を示唆する水接触角の低下がみられ、熱水処理や加熱処理後には、水接触角の低下が顕著で、金属表面から基油がかなり流出してしまっていることが示唆される。
【0089】
そして、比較例3、4では、金属表面に塗布する組成物が酸性リン酸エステルと金属とのアダクトを含有するが、酸性リン酸エステルのエステル部位の炭化水素基がメチル基であり、炭素数が少ないため、酸性リン酸エステルと金属とのアダクトと、基油と、の相溶性が低く、このアダクトが基油を保持する機能が小さいと推察される。このため、油膜を均一化するための恒温槽中の放置の段階では水接触角の低下は大きくなかったものの、熱水処理や加熱処理後には水接触角の低下が顕著で、金属表面から基油がかなり流出してしまっていることが示唆される。
【0090】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。