【実施例】
【0072】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0073】
[製造例1]
アニリン生産遺伝子のクローニングと発現
(1) 微生物からの染色体DNAの抽出
エンテロバクター クロアカエ(Enterobacter cloacae)NBRC 13535からの染色体DNA抽出は、NBRC Medium No.802培地 [polypeptone 10 g, yeast extract 2 g, MgSO
4・7H
2O 1 gを蒸留水1 Lに溶解]に、白金耳を用いて植菌後、対数増殖期まで37℃で振とう培養し、菌体を集菌後、DNAゲノム抽出キット(商品名:GenomicPrep Cells and Tissue DNA Isolation Kit、アマシャム社製)を用いて、取扱説明書に従い、集めた菌体から染色体DNAを回収した。
【0074】
(2) クローニングベクターの構築
クローニングベクターpCRB22の構築
コリネバクテリウム カゼイ JCM12072由来のプラスミドpCASE1のDNA複製起点(以降、pCASE1-oriと記す)配列、及びクローニングベクターpHSG298(タカラバイオ株式会社製)をそれぞれ含むDNA断片を以下のPCR法により増幅した。
PCRに際して、pCASE1-ori配列、クローニングベクターpHSG298をそれぞれクローン化するべく、配列番号3(pCASE1-ori配列)、配列番号4(クローニングベクター−pHSG298)を基に、それぞれ下記の一対のプライマーを合成し、使用した。
【0075】
pCASE1-ori配列増幅用プライマー
(a-1); 5’- AT
AGATCT AGAACGTCCGTAGGAGC -3’ (配列番号5)
(b-1); 5’- AT
AGATCT GACTTGGTTACGATGGAC -3’ (配列番号6)
なお、プライマー(a-1)及び(b-1)には、BglII制限酵素部位が付加されている。
クローニングベクターpHSG298増幅用プライマー
(a-2); 5’- AT
AGATCT AGGTTTCCCGACTGGAAAG -3’ (配列番号7)
(b-2); 5’- AT
AGATCT CGTGCCAGCTGCATTAATGA -3’ (配列番号8)
なお、プライマー(a-2)及び(b-2)には、BglII制限酵素部位が付加されている。
【0076】
鋳型DNAは、Japan. Collection of Microorganisms (JCM)より入手したコリネバクテリウム カゼイ JCM12072から抽出したトータルDNA及びクローニングベクターpHSG298(タカラバイオ株式会社製)を用いた。
実際のPCRは、サーマルサイクラー GeneAmp PCR System 9700(アプライド・バイオシステムズ社製)を用い、反応試薬としてTaKaRa LA Taq(タカラバイオ株式会社製)を用いて下記の条件で行った。
【0077】
反応液:
TaKaRa LA Taq
TM (5 units/μl) 0.5μl
10X LA PCR
TM Buffer II (Mg
2+ free) 5μl
25mM MgCl
2 5μl
dNTP Mixture (2.5mM each) 8μl
鋳型DNA 5μl(DNA含有量1μg以下)
上記記載の2種プライマー
*) 各々0.5μl(最終濃度1μM)
滅菌蒸留水 25.5μl
以上を混合し、この50μlの反応液を用いてPCRを行った。
*) pCASE1-ori配列を増幅する場合はプライマー(a-1)と(b-1)の組み合わせ、クローニングベクターpHSG298を増幅する場合はプライマー(a-2)と(b-2)の組み合わせで行った。
【0078】
PCRサイクル:
デナチュレーション過程 :94℃ 60秒
アニーリング過程 :52℃ 60秒
エクステンション過程 :72℃
pCASE1-ori配列 150秒
クローニングベクターpHSG298 180秒
以上を1サイクルとし、30サイクル行った。
【0079】
上記で生成した反応液10μlを0.8%アガロースゲルにより電気泳動を行い、pCASE1-ori配列の場合約1.4-kb、クローニングベクターpHSG298の場合、約2.7-kbのDNA断片を検出した。
【0080】
上記のPCRにより増幅したコリネバクテリウム カゼイ株由来のプラスミドpCASE1-ori配列含む約1.4-kbDNA断片10μl及びクローニングベクターpHSG298を含む約2.7-kb DNA断片10μlを各々制限酵素BglIIで切断し、70℃で10分処理させることにより制限酵素を失活させた後、両者を混合し、これにT4 DNAリガーゼ10×緩衝液 1μl 、T4 DNAリガーゼ (タカラバイオ株式会社製)1 unitの各成分を添加し、滅菌蒸留水で10μlにして、15℃で3時間反応させ、結合させた。これをライゲーションA液とした。
得られたライゲーションA液を、塩化カルシウム法〔Journal of Molecular Biology, 53, 159 (1970)〕によりエシェリヒア コリJM109を形質転換し、カナマイシン50μg/mlを含むLB寒天培地〔1% ポリペプトン、0.5% 酵母エキス、0.5% 塩化ナトリウム、及び1.5% 寒天〕に塗布した。
培地上の生育株を常法により液体培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出、該プラスミドを制限酵素BglIIでそれぞれ切断し、挿入断片を確認した。この結果、クローニングベクターpHSG298約2.7-kbのDNA断片に加え、pCASE-ori配列の約1.4-kb DNA断片が認められた。
pCASE1-ori配列を含むクローニングベクターをpCRB22と命名した。
【0081】
クローニングベクターpCRB207の構築
コリネバクテリウム グルタミカムR由来のグリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)をコードするgapA遺伝子のプロモーター配列(以降、PgapAと記す)を含むDNA断片、及びクローニングベクターpKK223-3(ファルマシア社製)由来rrnBT1T2双方向ターミネーター配列(以降、ターミネーター配列と記す)を含むDNA断片を以下の方法により増幅した。
PCRに際して、PgapA配列及びターミネーター配列をそれぞれクローン化するべく、配列番号9(PgapA配列)、配列番号10(ターミネーター配列)を基に、それぞれ下記の一対のプライマーを合成し、使用した。
【0082】
PgapA配列増幅用プライマー
(a-3); 5’- CTCT
GTCGAC CCGAAGATCTGAAGATTCCTG -3’(配列番号11)
(b-3);5’- CTCT
GTCGAC GGATCC CCATGG TGTGTCTCCTCTAAAGATTGTAGG -3’
(配列番号12)
なお、プライマー(a-3)には、SalI制限酵素部位が、プライマー(b-3)には、SalI、BamHI及びNcoI制限酵素部位が付加されている。
ターミネーター配列増幅用プライマー
(a-4); 5’- CTCT
GCATGC CCATGG CTGTTTTGGCGGATGAGAGA -3’
(配列番号13)
(b-4); 5’- CTCT
GCATGC TCATGA AAGAGTTTGTAGAAACGCAAAAAGG -3
(配列番号14)
なお、プライマー(a-4)には、SphI及びNcoI制限酵素部位が、プライマー(b-4)には、SphI及びBspHI制限酵素部位が付加されている。
【0083】
鋳型DNAは、コリネバクテリウム グルタミカム R (FERM P-18976(FERM BP-18976))から抽出した染色体DNA及びpKK223-3プラスミド(ファルマシア社製)を用いた。
実際のPCRは、サーマルサイクラー GeneAmp PCR System 9700(アプライド・バイオシステムズ社製)を用い、反応試薬としてTaKaRa LA Taq(タカラバイオ株式会社製)を用いて下記の条件で行った。
【0084】
反応液:
TaKaRa LA Taq
TM (5 units/μl) 0.5μl
10X LA PCR
TM Buffer II (Mg
2+ free) 5μl
25mM MgCl
2 5μl
dNTP Mixture (2.5mM each) 8μl
鋳型DNA 5μl(DNA含有量1μg以下)
上記記載の2種プライマー
*) 各々0.5μl(最終濃度1μM)
滅菌蒸留水 25.5μl
以上を混合し、この50μlの反応液を用いてPCRを行った。
*) PgapA配列を増幅する場合はプライマー(
a-3)と(
b-3)の組み合わせ、ターミネーター配列を増幅する場合はプライマー(
a-4)と(
b-4)の組み合わせで行った。
【0085】
dec/LR遺伝子増幅用プライマー
(a-5);5’- CTCT
CATATG ACAGCATCACCTTGGG -3’ (配列番号15)
(b-5);5’- CTCT
CATATG TCATCTTAACGACGCTCCATTC -3’(配列番号16)
なお、プライマー(a-5)及び(b-5)には、NdeI制限酵素部位が付加されている。
dec/LB遺伝子増幅用プライマー
(a-6); 5’- CTCT
CATATG GTAAATGATCCTTATGATTTACGAAAAG -3’
(配列番号17)
(b-6); 5’- CTCT
CATATG CTAATCTCCCTCCCAACG -3’ (配列番号18)
なお、プライマー(a-6)及び(b-6)には、NdeI制限酵素部位が付加されている。
【0086】
PCRサイクル:
デナチュレーション過程 :94℃ 60秒
アニーリング過程 :52℃ 60秒
エクステンション過程 :72℃
PgapA配列 45秒
ターミネーター配列 30秒
以上を1サイクルとし、30サイクル行った。
【0087】
上記で生成した反応液10μlを0.8%アガロースゲルにより電気泳動を行い、PgapA配列の場合約0.6-kb、ターミネーター配列の場合、約0.4-kbのDNA断片が検出できた。
【0088】
上記のPCRにより増幅したコリネバクテリウム グルタミカム R由来PgapA配列を含む約0.6-kb DNA断片10μlとクローニングベクターpCRB22約4.1-kbを各々制限酵素SalIで切断し、70℃で10分処理させることにより制限酵素を失活させた後、両者を混合し、これにT4 DNAリガーゼ10×緩衝液 1μl、T4 DNAリガーゼ (タカラバイオ株式会社製) 1 unitの各成分を添加し、滅菌蒸留水で10μlにして、15℃で3時間反応させ、結合させた。これをライゲーションB液とした。
得られたライゲーションB液を、塩化カルシウム法〔Journal of Molecular Biology, 53, 159 (1970)〕によりエシェリヒア コリJM109を形質転換し、カナマイシン50μg/mlを含むLB寒天培地〔1% ポリペプトン、0.5% 酵母エキス、0.5% 塩化ナトリウム、及び1.5% 寒天〕に塗布した。
培地上の生育株を常法により液体培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出、該プラスミドを制限酵素SalIでそれぞれ切断し、挿入断片を確認した。この結果、クローニングベクターpCRB22約4.1-kbのDNA断片に加え、PgapA配列の約0.6-kb DNA断片が認められた。
PgapA配列を含むクローニングベクターをpCRB206と命名した。
【0089】
上記PCRにより増幅したpKK223-3プラスミド由来ターミネーター配列を含む約0.4-kb DNA断片10μlを制限酵素NcoI及びBspHIで、上述のクローニングベクターpCRB206 2μlを制限酵素NcoIで切断し、70℃で10分処理させることにより制限酵素を失活させた後、両者を混合し、これにT4 DNAリガーゼ10×緩衝液 1μl 、T4 DNAリガーゼ (タカラバイオ株式会社製) 1 unitの各成分を添加し、滅菌蒸留水で10μlにして、15℃で3時間反応させ、結合させた。これをライゲーションC液とした。
得られたライゲーションC液を、塩化カルシウム法〔Journal of Molecular Biology, 53, 159 (1970)〕によりエシェリヒア コリJM109を形質転換し、カナマイシン50μg/mlを含むLB寒天培地〔1% ポリペプトン、0.5% 酵母エキス、0.5% 塩化ナトリウム、及び1.5% 寒天〕に塗布した。
培地上の生育株を常法により液体培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出、該プラスミドを制限酵素で切断し、挿入断片を確認した。この結果、クローニングベクターpCRB206約4.7-kbのDNA断片に加え、ターミネーター配列の約0.4-kb DNA断片が認められた。
rrnBT1T2ターミネーター配列を含むクローニングベクターをpCRB207と命名した。
【0090】
クローニングベクターpCRB209の構築
コリネバクテリウム グルタミカムR由来のgapA(glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase A)遺伝子のプロモーター(以降、PgapAと記す)配列を含むDNA断片を以下の方法により増幅した。
PCRに際して、pCRB207配列をクローン化するべく、配列番号19(pCRB207)を基に、それぞれ下記の一対のプライマーを合成し、使用した。
【0091】
pCRB207配列増幅用プライマー
(a-7);5’- CTCT
CATATG CTGTTTTGGCGGATGAGAG -3’(配列番号20)
(b-7);5’- CTCT
CATATG GTGTCTCCTCTAAAGATTGTAGG -3’(配列番号21)
尚、プライマー(a-7)及び(b-7)にはNdeI制限酵素部位が付加されている。
【0092】
鋳型DNAは、gapAプロモーター及びrrnBT1T2ターミネーター配列を含有するクローニングベクターpCRB207を用いた。
実際のPCRは、サーマルサイクラー GeneAmp PCR System 9700(アプライド・バイオシステムズ社製)を用い、反応試薬としてTaKaRa LA Taq(タカラバイオ株式会社製)を用いて下記の条件で行った。
【0093】
反応液:
TaKaRa LA Taq
TM (5 units/μl) 0.5μl
10X LA PCR
TM Buffer II (Mg
2+ free) 5μl
25mM MgCl
2 5μl
dNTP Mixture (2.5mM each) 8μl
鋳型DNA 5μl(DNA含有量1μg以下)
上記記載の2種プライマー
*) 各々0.5μl(最終濃度1μM)
滅菌蒸留水 25.5μl
以上を混合し、この50μlの反応液を用いてPCRを行った。
*)pCRB207配列を増幅する場合はプライマー(
a-7)と(
b-7)の組み合わせで行った。
【0094】
dec/PP遺伝子増幅用プライマー
(a-8); 5’- CTCT
CATATG AACGGGCCGGAAC -3’ (配列番号22)
(b-8); 5’- CTCT
CATATG TCAATCATCCACCCCGAAG -3’ (配列番号23)
なお、プライマー(a-8)及び(b-8)には、NdeI制限酵素部位が付加されている。
【0095】
PCRサイクル:
デナチュレーション過程 :94℃ 60秒
アニーリング過程 :52℃ 60秒
エクステンション過程 :72℃ 307秒
以上を1サイクルとし、30サイクル行った。
【0096】
上記で生成した反応液10μlを0.8%アガロースゲルにより電気泳動を行い、クローニングベクターpCRB207配列を含む約5.1-kbのDNA断片が検出できた。
【0097】
上記のPCRにより増幅したpCRB207由来遺伝子を含む約5.1-kb DNA断片10μlを制限酵素NdeIで切断し、70℃で10分処理させることにより制限酵素を失活させた後、これにT4 DNAリガーゼ10×緩衝液 1μl、T4 DNAリガーゼ(タカラバイオ株式会社製) 1 unitの各成分を添加し、滅菌蒸留水で10μlにして、15℃で3時間反応させ、結合させた。これをライゲーションD液とした。
得られたライゲーションD液を、塩化カルシウム法〔Journal of Molecular Biology, 53, 159 (1970)〕によりエシェリヒア コリJM109を形質転換し、カナマイシン50μg/mlを含むLB寒天培地〔1% ポリペプトン、0.5% 酵母エキス、0.5% 塩化ナトリウム、及び1.5% 寒天〕に塗布した。
この培地上の生育株を常法により液体培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出、該プラスミドを制限酵素NdeIで切断し、制限酵素サイトの挿入を確認した。
PgapA配列及びrrnBT1T2ターミネーター配列を含むクローニングベクターをpCRB209と命名した。
【0098】
(3) エンテロバクター クロアカエ由来のアニリン生産遺伝子のクローニング
エンテロバクター クロアカエ由来のアミノベンゾエート デカルボキシラーゼをコードするECL_04083-ECL_04082-ECL_04081(以降、dec/ECLと記載)遺伝子を含むDNA断片を以下のPCR法により増幅した。
PCRに際して、dec/ECL遺伝子をクローン化するべく、配列番号24(エンテロバクター クロアカエdec/ECL遺伝子)を基に、それぞれ下記の一対のプライマーを、アプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)社製「394 DNA/RNAシンセサイザー(synthesizer)」を用いて合成し、使用した。
【0099】
dec/ECL遺伝子増幅用プライマー
(a-9); 5’- CTCT
CATATG AGATTGATCGTGGGAATGAC -3’(配列番号25)
(b-9); 5’- CTCT
CATATG TTACAGCAATGGCGGAATGG -3’(配列番号26)
なお、プライマー(a-9)及び(b-9)には、NdeI制限酵素部位が付加されている。
【0100】
鋳型DNAは、エンテロバクター クロアカエは、NITE Biological Resource Center(NBRC)より入手したエンテロバクター クロアカエ NBRC 13535から抽出した染色体DNAを用いた。
【0101】
実際のPCRは、サーマルサイクラー GeneAmp PCR System 9700(アプライド・バイオシステムズ社製)を用い、反応試薬としてTaKaRa LA Taq(タカラバイオ株式会社製)を用いて下記の条件で行った。
反応液:
TaKaRa LA Taq
TM (5 units/μl) 0.5μl
10X LA PCR
TM Buffer II (Mg
2+ free) 5μl
25mM MgCl
2 5μl
dNTP Mixture (2.5mM each) 8μl
鋳型DNA 5μl(DNA含有量1μg以下)
上記記載の2種プライマー
*) 各々0.5μl(最終濃度1μM)
滅菌蒸留水 25.5μl
以上を混合し、この50μlの反応液を用いてPCRを行った。
*)エンテロバクター クロアカエdec/ECL遺伝子を増幅時には、プライマー(a-9) と(b-9) の組み合わせで行った。
【0102】
PCRサイクル:
デナチュレーション過程 :94℃ 60秒
アニーリング過程 :52℃ 60秒
エクステンション過程 :72℃
エンテロバクター クロアカエ dec/ECL遺伝子 135秒
以上を1サイクルとし、30サイクル行った。
【0103】
上記で生成した反応液10μlを0.8%アガロースゲルにより電気泳動を行い、エンテロバクター クロアカエdec/ECL遺伝子の場合約2.3-kbのDNA断片が検出できた。
【0104】
(4) アニリン生産遺伝子発現プラスミドの構築
アニリン生産遺伝子のpCRB209へのクローニング
上記項(3)に示したエンテロバクター クロアカエ株由来dec/ECL遺伝子を含む約2.3-kbのDNA断片10μl及びPgapAプロモーターを含有するクローニングベクターpCRB209 2μlを各々制限酵素NdeIで切断し、70℃で10分処理させることにより制限酵素を失活させた後、両者を混合し、これにT4 DNAリガーゼ10×緩衝液 1μl、T4 DNAリガーゼ(タカラバイオ株式会社製) 1 unitの各成分を添加し、滅菌蒸留水で10μlにして、15℃で3時間反応させ、結合させた。これをライゲーションE液とした。
【0105】
得られたライゲーションE液を、塩化カルシウム法〔Journal of Molecular Biology, 53, 159 (1970)〕によりエシェリヒア コリJM109を形質転換し、カナマイシン50μg/mlを含むLB寒天培地〔1% ポリペプトン、0.5% 酵母エキス、0.5% 塩化ナトリウム、及び1.5% 寒天〕に塗布した。
各々の培地上の生育株を常法により液体培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出、該プラスミドを制限酵素でそれぞれ切断し、挿入断片を確認した。この結果、プラスミドpCRB209約5.1-kbのDNA断片に加え、エンテロバクター クロアカエ株由来dec/ECL遺伝子の長さ約2.3-kbの挿入断片が認められた。
【0106】
エンテロバクター クロアカエ株由来dec/ECL遺伝子を含むプラスミドをpCRB209-dec/ECLと命名した(
図1)。
【0107】
(5) アニリン生産遺伝子導入株の構築
上述のプラスミドpCRB209-dec/ECLを用いて、電気パルス法 [Agric. Biol. Chem.、Vol.54、443-447(1990) 及び Res. Microbiol.、Vol.144、181-185(1993)] により、コリネバクテリウム グルタミカム R 株を形質転換し、カナマイシン 50μg/mlを含むA寒天培地[(NH
2)
2CO 2g、(NH
4)
2SO
4 7g、KH
2PO
4 0.5 g、K
2HPO
4 0.5 g、MgSO
4.7H
2O 0.5 g、0.06% (w/v) Fe
2 SO
4.7H
2O + 0.042% (w/v) MnSO
4.2H
2O 1 ml、0.02% (w/v) biotin solution 1 ml、0.01% (w/v) thiamin solution 2 ml、yeast extract 2 g、vitamin assay casamino acid 7 g、glucose 40 g、寒天 15 gを蒸留水1Lに懸濁]に塗布した。
この培地上の生育株を常法により液体培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出、該プラスミドを制限酵素で切断し、挿入断片を確認した。この結果、上記で作製のプラスミドpCRB209-dec/ECLの導入が認められた。
【0108】
pCRB209-dec/ECLプラスミドを導入した株をコリネバクテリウム グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ANI-7と命名した。
【0109】
[実施例1]
エンテロバクター クロアカエ由来アミノベンゾエート デカルボキシラーゼをコードする遺伝子をターゲットとしたランダムミューテーションの導入を行い、アニリン生成量が増大した株をスクリーニングすることによって突然変異株を取得した。具体的には、ランダムミューテーション導入キット(商品名:GeneMorphII Random Mutagenesis Kit、Agilent社製)を用いて、変異を導入した。具体的には、上述のpCRB209-dec/ECLプラスミドを鋳型として、プライマー1(5’-GTCGCTCCCATATGAGATTGATCGTG-3’、配列番号27)と、プライマー2(5’-GCTCCTGCCATATGTTACAGCAATGG-3’、配列番号28)の組み合わせにより、前記キットの添付マニュアルに従いランダム変異を導入した。変異が導入されたDNA断片とプラスミドpCRB209を制限酵素Nde Iで消化し、70℃で10分処理させることにより制限酵素を失活させた後、精製を行った後、両者を混合し、これにT4 DNAリガーゼ10×緩衝液1μl、T4 DNAリガーゼ(タカラバイオ株式会社製) 1 unitの各成分を添加し、滅菌蒸留水で10μlにして、15℃で3時間反応させ、結合させた。これをDNAライブラリーF液とした。
【0110】
このDNAライブラリーF液を、塩化カルシウム法〔Journal of Molecular Biology, 53, 159 (1970)〕によりエシェリヒア コリJM109を形質転換し、カナマイシン50μg/mlを含むLB寒天培地〔1% ポリペプトン、0.5% 酵母エキス、0.5% 塩化ナトリウム、及び1.5% 寒天〕に塗布した。培地上の生育株を常法により液体培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出し、ランダムに選択したクローン由来プラスミドのDNA塩基配列を決定して変異導入を確認した。次に、上記にて抽出したDNAライブラリー(プラスミドDNA混合物)を用いて、電気パルス法 [Agric. Biol. Chem.、Vol.54、443-447(1990) 及び Res. Microbiol.、Vol.144、181-185(1993)] により、コリネバクテリウム グルタミカム R 株を形質転換し、カナマイシン 50μg/mlを含むA寒天培地に塗布した。この培地上の生育株を常法により液体培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出、該プラスミドを制限酵素で切断し、挿入断片を確認した。この結果、プラスミドpCRB209約5.1-kbのDNA断片に加え、エンテロバクター クロアカエ株由来dec/ECL遺伝子(P309部位におけるランダム変異体)の長さ約2.3-kbの挿入断片が認められた。
【0111】
この変異株では、アミノベンゾエート デカルボキシラーゼの3つのサブユニット(21.7 kDa, 52.5 kDa, 8.6 kDa)のうち、52.5 kDaサブユニット中のN末端から309番目のプロリン(P)がスレオニン(T)に置換されていた。
【0112】
[実施例2〜6及び比較例2〜3]
アミノ安息香酸デカルボキシラーゼの52.5 kDaサブユニット中のN末端から309番目のプロリン(P)を、スレオニン(T)以外のアミノ酸へそれぞれ置換した部位特異的変異導入を行った。具体的には、変異導入キット(商品名:PrimeSTAR(登録商標) Mutagenesis Basal Kit、タカラバイオ社製)を用いて、変異を導入した。具体的には、下記の条件で反応を行った。
PrimeSTARMax Premix (2x) 25μl
Primer1 (Fwd) 5μl(終濃度0.2μM)
Primer2 (Rev) 5μl(終濃度0.2μM)
鋳型DNA 5μl(2pg)
(pCRB209-dec/ECLプラスミド)
滅菌蒸留水 10μl
以上を混合し、この50μlの反応液を用いてPCRを行った。
【0113】
各変異体について、以下のプライマーを使用した。
実施例2(P309R)用Primers:
R(Fwd); 5’- GGGATGCGCTGGACCGAGATCGACTAC -3’(配列番号29)
R(Rev); 5’- GGTCCAGCGCATCCCGAGATAGAGGGA -3’(配列番号30)
【0114】
実施例3(P309S)用Primers:
S(Fwd); 5’- GGGATGTCCTGGACCGAGATCGACTAC -3’(配列番号31)
S(Rev); 5’- GGTCCAGGACATCCCGAGATAGAGGGA -3’(配列番号32)
【0115】
実施例4(P309M)用Primers:
M(Fwd); 5’- GGGATGATGTGGACCGAGATCGACTAC -3’(配列番号33)
M(Rev); 5’- GGTCCACATCATCCCGAGATAGAGGGA -3’(配列番号34)
【0116】
実施例5(P309V)用Primers:
V(Fwd); 5’- GGGATGGTGTGGACCGAGATCGACTAC -3’(配列番号35)
V(Rev); 5’- GGTCCACACCATCCCGAGATAGAGGGA -3’(配列番号36)
【0117】
実施例6(P309Q)用Primers:
Q(Fwd); 5’- GGGATGCAGTGGACCGAGATCGACTAC -3’(配列番号37)
Q(Rev); 5’- GGTCCACTGCATCCCGAGATAGAGGGA -3’(配列番号38)
【0118】
比較例2(P309A)用Primers:
A (Fwd); 5’- GGGATGGCATGGACCGAGATCGACTAC -3’(配列番号39)
A (Rev); 5’- GGTCCATGCCATCCCGAGATAGAGGGA -3’(配列番号40)
【0119】
比較例3(P309F)用Primers:
F(Fwd); 5’- GGGATGTTCTGGACCGAGATCGACTAC -3’(配列番号41)
F(Rev); 5’- GGTCCAGAACATCCCGAGATAGAGGGA -3’(配列番号42)
【0120】
PCRサイクル:
デナチュレーション過程: 98℃ 10秒
アニーリング過程: 98℃ 15秒
エクステンション過程: 72℃ 40秒
以上を1サイクルとして、30サイクル行った。
【0121】
上記で生成した反応液5μlを0.8%アガロースゲルにより電気泳動を行い、約2.7 -kbのDNA断片が検出された。
【0122】
上記のPCR反応液を、塩化カルシウム法〔Journal of Molecular Biology, 53, 159 (1970)〕によりエシェリヒア コリJM109を形質転換し、カナマイシン50μg/mlを含むLB寒天培地〔1% ポリペプトン、0.5% 酵母エキス、0.5% 塩化ナトリウム、及び1.5% 寒天〕に塗布した。
各々の培地上の生育株を常法により液体培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出、該プラスミドを制限酵素でそれぞれ切断し、挿入断片を確認した。この結果、プラスミドpCRB209約5.1-kbのDNA断片に加え、エンテロバクター クロアカエ株由来dec/ECL(P309部位変異体)遺伝子の長さ約2.3-kbの挿入断片が認められた。
また、DNAシーケンスによって、目的とする変異が導入されていることを確認した。
【0123】
アニリン生産遺伝子導入株の構築
上述のプラスミドpCRB209-dec/ECL(野生型、及びP309における各変異体)を用いて、電気パルス法 [Agric. Biol. Chem.、Vol.54、443-447(1990) 及び Res. Microbiol.、Vol.144、181-185(1993)] により、コリネバクテリウム グルタミカム R 株を形質転換し、カナマイシン 50μg/mlを含むA寒天培地に塗布した。
この培地上の生育株を常法により液体培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出、該プラスミドを制限酵素で切断し、挿入断片を確認した。この結果、上記で作製のプラスミドpCRB209-dec/ECL変異体の導入が認められた。
【0124】
pCRB209-dec/ECL(P309A変異体)プラスミドを導入した株をコリネバクテリウム グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ANI-8と命名した。
pCRB209-dec/ECL(P309F変異体)プラスミドを導入した株をコリネバクテリウム グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ANI-9と命名した。
pCRB209-dec/ECL(P309T変異体)プラスミドを導入した株をコリネバクテリウム グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ANI-10と命名した。
pCRB209-dec/ECL(P309R変異体)プラスミドを導入した株をコリネバクテリウム グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ANI-11と命名した。
pCRB209-dec/ECL(P309S変異体)プラスミドを導入した株をコリネバクテリウム グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ANI-12と命名した。
pCRB209-dec/ECL(P309M変異体)プラスミドを導入した株をコリネバクテリウム グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ANI-13と命名した。
pCRB209-dec/ECL(P309V変異体)プラスミドを導入した株をコリネバクテリウム グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ANI-14と命名した。
pCRB209-dec/ECL(P309Q変異体)プラスミドを導入した株をコリネバクテリウム グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ANI-15と命名した。
【0125】
コリネバクテリウム グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ANI-13、ANI-14及びANI-15は、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8(郵便番号292-0818)の独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託した(受託日:2013年4月2日、受託番号:NITE P-01583、NITE P-01584及びNITE P-01585)。またこれらについて、同センターにブタペスト条約に基づく国際寄託への移管を申請し、移管が完了している(国際受託番号:NITE BP-01583、NITE BP-01584及びNITE BP-01585)。
また、コリネバクテリウム グルタミカムR(Corynebacterium glutamicum R)は、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8(郵便番号292-0818)の独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センターに寄託した(受託日:2002年8月20日、受託番号:FERM P-18976)。またこれについて、同センターにブタペスト条約に基づく国際寄託への移管を申請し、移管が完了している(国際受託番号:FERM BP-18976)。
【0126】
アミノベンゾエート デカルボキシラーゼの3つのサブユニット(21.7 kDa, 52.5 kDa, 8.6 kDa)のうち、52.5 kDaサブユニット中のN末端から309番目のプロリンがアラニンに置換されたものを比較例2とし、該N末端から309番目のプロリンがフェニルアラニンに置換されたものを比較例3とした。該N末端から309番目のプロリンがスレオニンに置換されたものを実施例1とした。該N末端から309番目のプロリンがアルギニンに置換されたものを実施例2とした。該N末端から309番目のプロリンがセリンに置換されたものを実施例3とした。該N末端から309番目のプロリンがメチオニンに置換されたものを実施例4とした。該N末端から309番目のプロリンがバリンに置換されたものを実施例5とした。該N末端から309番目のプロリンがグルタミンに置換されたものを実施例6とした。
【0127】
[比較例4]
コリネバクテリウム グルタミカム アニリン生産遺伝子導入株の4−アミノベンゾエートからのアニリン製造
(1)
好気培養
製造例1において作製したコリネバクテリウム グルタミカムANI-7株(野生型、比較例1)を、カナマイシン50μg/mlを含むA寒天培地[(NH
2)
2CO 2g, (NH
4)
2SO
4 7g, KH
2PO
4 0.5g, K
2HPO
4 0.5g, MgSO
4・7H
2O 0.5g, 0.06% (w/v) Fe
2SO
4・7H
2O + 0.042% (w/v) MnSO
4・2H
2O 1 ml, 0.02% (w/v) biotin solution 1 ml, 0.01%(w/v) thiamin solution 2 ml, yeast extract 2 g, vitamin assay casamino acid 7 g, glucose 40 g, 寒天 15 gを蒸留水1Lに懸濁、カナマイシンを終濃度が50μg/mlとなるように添加]に塗布し、33℃、15時間暗所に静置した。
【0128】
上記のプレートで生育したコリネバクテリウム グルタミカムANI-7株を、カナマイシン 50μg/mlを含むA液体培地[(NH
2)
2CO 2 g, (NH
4)
2SO
4 7 g, KH
2PO
4 0.5 g, K
2HPO
4 0.5 g, MgSO
4・7H
2O 0.5 g, 0.06% (w/v) Fe
2SO
4・7H
2O + 0.042% (w/v) MnSO
4・2H
2O 1 ml, 0.02% (w/v) biotin solution 1 ml, 0.01%(w/v) thiamin solution 2 ml, yeast extract 2 g, vitamin assay casamino acid 7 g, glucose 40 gを蒸留水1Lに溶解]10mlの入った試験管に一白金耳植菌し、33℃にて15時間、好気的に振とう培養を行った(前培養)。
上記条件で生育したコリネバクテリウム グルタミカム
ANI-7株を、A液体培地10mlに初期菌体濃度OD
610=0.1となるように植菌し、33℃にて好気的に振とう培養を行った。
【0129】
(2)
アニリン製造実験
このようにして培養増殖された菌体は、遠心分離 (4℃、15,000×g、10分) により回収した。得られた菌体を、5mlの新たなBT液体培地[(NH
2)
2CO 2g, (NH
4)
2SO
4 7g, KH
2PO
4 0.5g, K
2HPO
4 0.5g, MgSO
4・7H
2O 0.5g, 0.06% (w/v) Fe
2SO4・7H
2O + 0.042% (w/v) MnSO
4・2H
2O 1 ml, 0.02% (w/v) biotin solution 1 ml, 0.01%(w/v) thiamin solution 2 mlを蒸留水1Lに溶解]を加えて懸濁後、再度遠心分離して(4℃、15000×g,10分)洗浄し、再度新たなBT液体培地を加えて菌体を懸濁した。反応溶液中の最終濃度が以下の条件になるように、MESバッファー(pH 6.0)、基質(4-アミノ安息香酸 Na塩)、BT培地を添加し、33℃に保った水浴中で攪拌しながら下記の反応液組成と反応条件にて反応を行った。
反応溶液組成:
100mM 4−アミノ安息香酸Na塩
100mM MESバッファー(pH6.0)
遺伝子組み換え型コリネバクテリウム グルタミカム(コリネ型細菌)最終OD
610値=25
BT培地
ここで、OD610値は菌体密度を示しており、値が大きいほど菌体密度が高いことを示す。
【0130】
反応条件:
温度:33℃、
反応容器:ファルコンチューブ(15 mL)、
還元条件下(酸化還元電位;-450 mV)
攪拌速度:125 rpm
【0131】
上記と同様に、比較例2及び3のサンプルについても、反応を行った。
【0132】
(3)
反応生成物解析
嫌気反応開始から、24時間及び48時間後に、反応溶液を1mL採取した。反応溶液は、遠心分離によりコリネバクテリウム グルタミカムを除去した後、上清を0.22μmフィルターに通したものを試料としてHPLCによって生成物の分析を行った。結果を、下記表1に示す。
【0133】
[実施例7]
コリネバクテリウム グルタミカム アニリン生産遺伝子導入株の4−アミノベンゾエートからのアニリン製造
実施例1〜6のサンプルについて、比較例4と同様の条件で、アニリンを製造した。結果を、下記表1に示す。
【0134】
【表1】
(表中、P309Aは、N末端から309番目のプロリンがアラニンに置換されたことを意味し、P309Fは、N末端から309番目のプロリンがフェニルアラニンに置換されたことを意味し、P309Tは、N末端から309番目のプロリンがスレオニンに置換されたことを意味し、P309Rは、N末端から309番目のプロリンがアルギニンに置換されたことを意味し、P309Sは、N末端から309番目のプロリンがセリンに置換されたことを意味し、P309Mは、N末端から309番目のプロリンがメチオニンに置換されたことを意味し、P309Vは、N末端から309番目のプロリンがバリンに置換されたことを意味し、P309Qは、N末端から309番目のプロリンがグルタミンに置換されたことを意味する。)
【0135】
実施例1は、野生型(比較例1)と比較して、より高いアニリン生産性を示した。また、アラニン(比較例2)、フェニルアラニン(比較例3)に置換した場合は、実施例1と比べてアニリン生産性が低下した。一方、アルギニン(実施例2)、セリン(実施例3)、メチオニン(実施例4)、バリン(実施例5)、グルタミン(実施例6)に置換した場合、実施例1と比較して、より高いアニリン生産性を示した(一方、遺伝子を導入していない、コリネバクテリウム グルタミカム(宿主)は同条件では全くアニリンを生成しないことを確認した。他方、アニリンの分解も認められなかった。)。
【0136】
[比較例5]
菌体密度を増大させた場合のアニリン製造
(1)
好気培養
野生型(比較例1)を用いて、好気培養は比較例4と同様に行った。
(2)
アニリン製造実験
好気培養で培養増殖された菌体を、遠心分離 (4℃、15,000×g、10分) により回収した。得られた菌体を、5mlの新たなBT液体培地を加えて懸濁後、再度遠心分離して(4℃、15,000×g、10分)、洗浄した。再度、新たなBT液体培地を加えて懸濁後、再度遠心分離して(4℃、15000xg,10分)洗浄し、再度新たなBT液体培地を加えて菌体を懸濁した。
反応溶液中の最終濃度が以下の条件になるように、MESバッファー(pH 6.0)、基質(4-アミノ安息香酸 Na塩)、BT培地を添加し、33℃に保った水浴中で攪拌しながら下記の反応液組成と反応条件にて反応を行った。
反応溶液組成:
100mM 4−アミノ安息香酸Na塩
100mM MESバッファー(pH6.0)
遺伝子組み換え型コリネバクテリウム グルタミカム(コリネ型細菌)最終OD
610値=150
BT培地
ここで、OD
610値は菌体密度を示しており、値が大きいほど菌体密度が高いことを示す。
【0137】
反応条件:
温度:33℃、
反応容器:ファルコンチューブ(15 mL)、
還元条件下(酸化還元電位;-450 mV)
攪拌速度:125 rpm
【0138】
(3)
反応生成物解析
嫌気反応開始から48時間後に、反応溶液を0.2mL採取した。反応溶液は、遠心分離によりコリネバクテリウム グルタミカムを除去した後、上清を0.22μmフィルターに通したものを試料としてHPLCによって生成物の分析を行った。結果を、下記表2に示す。
【0139】
[実施例8]
菌体密度を増大させた場合のアニリン製造
実施例4〜6のサンプルについて、比較例5と同様の条件で、アニリンを製造した。結果を、下記表2に示す。
【0140】
【表2】
【0141】
エンテロバクター クロアカエ由来アミノベンゾエート デカルボキシラーゼの野生型をコードする遺伝子を宿主のコリネバクテリウム グルタミカムに導入した。菌体密度を比較例4の6倍に増大させてアニリンの生成を検討したところ、高いアニリン生産性を示した。
【0142】
アミノ安息香酸デカルボキシラーゼの52.5 kDaサブユニット中のN末端から309番目のアミノ酸を、メチオニン(実施例4)、バリン(実施例5)、グルタミン(実施例6)にそれぞれ置換した部位特異的変異導入酵素をコードする遺伝子を宿主のコリネバクテリウム グルタミカムに導入して、比較例5同様、菌体密度を実施例7と比較してそれぞれ6倍に増大させてアニリン生産性を調べた。各変異体は、実施例7の表1に比べて、それぞれ、さらに高いアニリン生産性を示した。
【0143】
[試験例1]
エシェリヒア コリとコリネバクテリウム グルタミカムについて、以下の方法で、アニリン存在下における増殖への影響を評価した。
(1)エシェリヒア コリ
エシェリヒア コリについて、好気培養における
アニリンの生育阻害実験を行った。エシェリヒア コリHST02株をLB寒天培地[1% ポリペプトン、0.5% 酵母エキス、0.5%塩化ナトリウム、及び1.5%寒天] に塗布し、37℃、15時間暗所に静置した。
上記プレートで生育したエシェリヒア コリHST02株をLB液体培地[1% ポリペプトン、0.5% 酵母エキス、及び0.5%塩化ナトリウム]10 mlの入った試験管に一白金耳植菌し、37℃にて13時間、好気的に振とう培養を行った。
【0144】
上記培養条件で生育したエシェリヒア コリHST02株をLB液体培地100mlに初期菌体濃度OD
610=0.1となるように植菌し、同時にアニリン濃度が終濃度0,20,40,60,80mMとなるように添加し、37℃にて好気的に振とう培養を行った。菌体の生育は、OD
610の吸光度を測定することにより行った。培地中へのアニリン添加による好気増殖への影響の解析結果を
図2に示す。
図2の縦軸はOD
610である。
【0145】
エシェリヒア コリHST02株は、20mMアニリン存在下で著しく阻害を受け、40mMでは顕著に増殖が阻害された。
【0146】
(2)コリネバクテリウム グルタミカム
コリネバクテリウム グルタミカム R株をA寒天培地[(NH
2)
2CO 2 g, (NH
4)
2SO
4 7 g, KH
2PO
4 0.5 g, K
2HPO
4 0.5 g, MgSO
4・7H
2O 0.5 g, 0.06% (w/v) Fe
2SO
4・7H
2O + 0.042% (w/v) MnSO
4・2H
2O 1 ml, 0.02% (w/v) biotin solution 1 ml, 0.01%(w/v) thiamin solution 2 ml, yeast extract 2 g, vitamin assay casamino acid 7 g, glucose 40 g, 寒天 15 gを蒸留水1Lに懸濁]に塗布し、33℃、15時間暗所に静置した。
上記のプレート上で生育したコリネバクテリウム グルタミカム R株をA液体培地[(NH
2)
2CO 2 g, (NH
4)
2SO
4 7 g, KH
2PO
4 0.5 g, K
2HPO
4 0.5 g, MgSO
4・7H
2O 0.5 g, 0.06% (w/v) Fe
2SO
4・7H
2O + 0.042% (w/v) MnSO
4・2H
2O 1 ml, 0.02% (w/v) biotin solution 1 ml, 0.01%(w/v) thiamin solution 2 ml, yeast extract 2 g, vitamin assay casamino acid 7 g, glucose 40 gを蒸留水1Lに溶解]10 mLの入った試験管に一白金耳植菌し、33℃にて15時間、好気的に振とう培養を行った。
上記条件で生育したコリネバクテリウム グルタミカム R株を、A液体培地10mlに初期菌体濃度OD
610=0.1となるように植菌し、同時にアニリンが終濃度0,20,40,60,80mMとなるように添加し、33℃にて好気的に振とう培養を行った。菌体の生育は、OD
610の吸光度を測定することにより行った。
【0147】
培地中へのアニリン添加による好気増殖への影響の解析結果を
図3に示す。
図3の縦軸はOD
610である。
【0148】
コリネバクテリウム グルタミカムは、エシェリヒア コリHST02株が顕著な増殖阻害を受けた40mMアニリン存在下においても増殖への影響はほとんどなく、エシェリヒア コリHST02株では完全に増殖が阻害された60mMのアニリン存在下でも生育可能であった。このように、コリネバクテリウム グルタミカムは、エシェリヒア コリと比較して、アニリンに対して高い耐性を示し、アニリン生産の宿主として高い適性を有することが示された。
【0149】
上記のように、アミノベンゾエート デカルボキシラーゼ活性を有する酵素の3つのサブユニット21.7 kDa(配列番号43で表されるアミノ酸配列から構成される), 52.5 kDa(配列番号2で表されるアミノ酸配列から構成される), 8.6 kDa(配列番号44で表されるアミノ酸配列から構成される)のうち、配列番号2で表されるアミノ酸配列から構成される52.5 kDaサブユニット中のN末端から309番目のプロリンに変異を導入した本発明の形質転換体は、優れたアニリン生産能を有する。