特許第6294315号(P6294315)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6294315インクジェット用途の熱安定性微粒子インク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294315
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】インクジェット用途の熱安定性微粒子インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20180305BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20180305BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   C09D11/30
   B41M5/00 120
   B41J2/01 501
【請求項の数】18
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-517833(P2015-517833)
(86)(22)【出願日】2013年6月24日
(65)【公表番号】特表2015-527421(P2015-527421A)
(43)【公表日】2015年9月17日
(86)【国際出願番号】FR2013051471
(87)【国際公開番号】WO2013190251
(87)【国際公開日】20131227
【審査請求日】2016年4月27日
(31)【優先権主張番号】1255925
(32)【優先日】2012年6月22日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】594034072
【氏名又は名称】セブ ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ローラン カイリエル
(72)【発明者】
【氏名】ステファニー ル ブリ
【審査官】 青鹿 喜芳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−189625(JP,A)
【文献】 特開2011−183770(JP,A)
【文献】 特表2000−517370(JP,A)
【文献】 特開2010−189626(JP,A)
【文献】 特開平10−195362(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/147589(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00− 11/54
B41J 2/01
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット用途の熱安定性微粒子組成物であって、
・前記組成物の合計重量に対して10重量%から95重量%の水と、
・前記組成物の合計重量に対して90重量%から5重量%の、(i)少なくとも1種のフッ素化熱安定性バインダーであって、前記バインダーが粒子状であり、その特徴的な寸法の少なくとも1つが800nmより小さいバインダー、または(ii)少なくとも1の乾燥分58%もしくは60%のPTFE分散物、
を含むことを特徴とする組成物。
【請求項2】
少なくとも1種の熱安定性顔料を、前記フッ素化熱安定性バインダーおよび前記熱安定性顔料が組成物の合計重量の90から5重量%を占める量でさらに含み、前記熱安定性顔料も粒子状であり、その特徴的な寸法の少なくとも1つは800nmより小さいことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
組成物中に含まれる前記フッ素化熱安定性バインダーの粒子の特徴的な寸法の少なくとも1つは400nmより小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
組成物の合計重量に対して少なくとも1重量%の、5℃〜50℃の間に含まれる温度および大気圧において水の蒸気圧より低い蒸気圧を有し、少なくとも部分的に水と混和し得る形態の、少なくとも1種の蒸発遅延化合物をさらに含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記蒸発遅延化合物は、界面活性剤、湿潤剤、消泡剤、および水溶性または部分的水溶性溶媒を含む群から選択されることを特徴とする請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
少なくとも2種の蒸発遅延化合物を含むことを特徴とする請求項4または5に記載の組成物。
【請求項7】
前記蒸発遅延化合物は、少なくとも
・2種の異なる界面活性剤、または
・界面活性剤および溶媒、または
・界面活性剤および湿潤剤、または
・湿潤剤および溶媒、または
・2種の溶媒
を含むことを特徴とする請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記2種の蒸発遅延化合物の重量百分率の和は、組成物の合計重量に対して5重量%より大きいことを特徴とする請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
第1の蒸発遅延化合物の量の第2の蒸発遅延化合物の量に対する重量比は0.001〜1000の間に含まれることを特徴とする請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記熱安定性顔料は、カーボンブラック、鉱物顔料および有機顔料、熱変色性半導体顔料、ならびにそれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項2から9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
顔料を含まず、少なくとも溶媒および/または湿潤剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
少なくとも1種の第2の非フッ素化熱安定性バインダーを含むことを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記非フッ素化熱安定性バインダーは、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリアミドイミド(PAI)、およびポリイミドから選択されることを特徴とする請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記フッ素化熱安定性バインダーは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロプロピルビニルエーテルコポリマー(PFA)、およびテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロペンコポリマー(FEP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、MVA(TFE/PMVEコポリマー)、TFE/PMVE/FAVEターポリマー、ETFE、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、それらの関連するコポリマー、ならびにそれらの混合物から選択されるフルオロカーボン化樹脂であることを特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物が、その印刷の結果が、少なくとも110℃の温度に曝された後で、特性の変化を何ら示さないものであることを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物が、その印刷の結果が、少なくとも250℃の温度に曝された後で、特性の変化を何ら示さないものであることを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
請求項1に記載のインクジェット用途の熱安定性微粒子組成物の使用方法であって、
基材上に前記組成物を適用する工程を含み、
前記適用された基材が、前記基材を使用している間に少なくとも110℃以上の温度に曝されることを特徴とする方法。
【請求項18】
前記温度が少なくとも250℃以上であることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、任意の種類の基材上に、特にその製造または使用の間に高温(特に250℃以上の温度)に曝される基材上に使用可能なインクジェット用途の熱安定性微粒子組成物またはインクの処方に関する。
【0002】
意図する分野は主には調理器具の分野であるが、本発明は衣類用のアイロンの底板もしくは矯正用アイロンのプレート、フライ鍋もしくはパン焼き器のボウル、またはブレンダーのボウル等の、高い使用温度で成形し、および/または高い使用温度に曝すことを意図した他の全ての種類の物品にも関連し得る。
【0003】
本発明において、インクジェット用途の熱安定性微粒子インク(または組成物)は、インクジェット印刷デバイスから吐出することができ、少なくとも1種の熱安定性フッ素化バインダーを含む水性組成物を意味すると理解される。
【0004】
組成物が熱安定性顔料を全く含んでいなければインクは透明で、むしろワニスの構成要素となり、この種のインクはたとえばラミネートまたはレリーフ効果が必要な場合に使用される。
【0005】
組成物がまた、熱安定性フッ素化バインダーの他に少なくとも1種の熱安定性顔料を含むならば、これは真にこの用語の通常の意味でのインクを構成する。本発明の場合において、熱安定性微粒子組成物は、その印刷の結果が、少なくとも110℃の温度、とりわけ少なくとも250℃の温度に曝された後で、認知し得る、望ましくない、または制御されない色または特性の変化を何ら示さないような組成物である。
【0006】
本発明において、バインダーは高分子量(1000Daを超える)で、インク中に最初に存在し、乾燥、癒合、または熱処理によってフィルムを形成し得る化学物質を意味すると理解される。
【0007】
熱安定性バインダーは、熱に安定で、いったんフィルムを形成すると少なくとも250℃の温度で全く変化(鎖切断等)を示さないバインダーを意味すると理解される。
【0008】
本発明の意味において、熱安定性顔料は、効率的に熱に耐え、言い換えると温度に対して安定な物理化学的特性を有する、微粒子または不溶性着色物質を意味すると理解される。
【0009】
本発明の場合において、熱安定性顔料は、その変色温度よりも高い温度に以前曝された後でさえも、温度に応じたその安定な挙動が、温度に応じて同じ色のコントラストを示す能力によって表される熱変色性顔料をも含む。
【背景技術】
【0010】
調理器具を装飾する数種類の手法が当技術において知られている。詳細には、平坦な表面にパターンを適用するためのスクリーン印刷またはパッド印刷の手法を用いてそれらを装飾することが当業者には知られている。これらの手法においては、スクリーン印刷またはパッド印刷によってパターンを適用した後に物品の賦形操作を行なうことが可能である。
【0011】
多色パターンを適用するためにスクリーン印刷(またはパッド印刷)を用いるならば、色の数に応じて数回のスクリーン印刷(またはパッド印刷)の操作を順に行なう必要がある。それぞれの色についてスクリーン印刷(またはパッド印刷)を通過することが必要であり、それぞれの印刷の後、次の層のインクを印刷する前に、乾燥操作を行なわなければならないことは明らかである。そのような印刷手法は、多数の基材に同一の画像またはパターンを適用する場合にのみ収益性がある。少数の品目に印刷するためには、多色スクリーン印刷(またはパッド印刷)は非常に高価であり、全く収益性がない。それは、それぞれのベース色に対して別々のスクリーン(または彫刻スタンプ)が必要となるからである。さらに、印刷スクリーンを製造し、洗浄するためのコストは高く、スクリーンを製造するための時間は長いので、完璧な製造スケジューリングが必要である。さらに、色合いの変更は、同一の図形であっても、完全な洗浄を必要とし、製造時間が分割される(これは彫刻スタンプの場合も同じである)。さらに、スクリーン印刷およびパッド印刷の手法においては、中間製品および部品(具体的にはインク、スクリーン、半完成キャップ等)の大量のストックが発生する。
【0012】
従来技術においては、装飾された調理器具を得るための染料昇華型印刷手法の使用も知られている。基本的には、昇華は固体が液相を経由せずに気体または蒸気に変化することである。染料昇華型印刷手法によれば、最初に基材(紙またはプラスチックフィルム)に印刷されたパターンが、装飾すべき物品の表面に捺しつけられ、次いで全体が短時間、150℃〜210℃の間に含まれる温度に加熱される。標準的な染料昇華型印刷は平坦な物品にのみ用いられる。それは、平坦でない物品に基材を捺しつけると、皺およびそれによる印刷欠陥が生じるからである。しかし、参照文献である特許文献1および特許文献2は、任意の形状を有する物品の全ての表面の装飾を可能にする染料昇華型印刷法の改良を開示している。しかし、そのような改良は染料昇華型印刷法を極めて複雑で採用し難く、非生産的なものにしている。
【0013】
従来技術においては、インクジェットとして知られている印刷手法の使用も知られており、これは小さな開口から基材上の正確に決定された場所にインクの液滴を吐出して画像を作成することからなっている。インクジェット印刷は唯一の非接触印刷手法である。
【0014】
2種のインクジェット印刷手法が区別されている。第1は「連続インクジェット」(CIJ)として知られており、第2は「ドロップオンデマンド」(DOD)として知られている。
【0015】
CIJインクジェット印刷手法は、流体のジェットの制御された細分化に基づいている。干渉によってジェットが破壊され、制御された大きさで十分に確定した速度の液滴が誘起される。これは、ジェットの破壊とその速度を同期化することによって達成される。印刷基材に到達するインク液滴は、静電気的手段によって選択される(液滴は荷電し、次いでこれらの液滴が電場によって偏向される)。
【0016】
一方、DODインクジェット印刷手法は異なる物理的プロセスに基づいている。インクは、流体の体積に印加される圧力が表面張力を上回り、液滴の吐出を可能にするまで、容器内に残ってノズルにおいてメニスカスを形成する。今日主流となっているこの技術的選択は、4つの吐出手法、すなわち圧電性、サーマル(またはバブルジェット(登録商標))、バルブジェット、および熱融着、に基づいている。圧電吐出手法が現在のところ、最も開発されている手法である。これは以下の原理によって機能している。
・印刷デバイスのインク容器は、電気的励起(パルスの形態の)を機械力に変換するように設計された圧電結晶と接触させられる。
・電気的励起は容器の壁の変形を誘起し、これは次に過圧をもたらす。
・この過圧は液滴の吐出を引き起こす。
【0017】
インクジェット印刷手法は、コンピュータツールの進歩および印刷の品質および速度の増大と相まって、その成功を説明する固有の利点を有する。
【0018】
方法の視点からは、そのような技術(インクジェット印刷)によって、管理すべきインク処方の数(4色印刷では4、6色印刷では6)を限定することが可能になり、これは処方および保存の観点では紛れもない利点である。さらに、インクジェット印刷は基材との接触がない印刷技術であり、画像キャリア(スクリーン、彫刻スタンプ、または染料昇華法のための印刷済み基材)が存在しないので、他の印刷手法を採用するために必要な準備作業、すなわちスクリーンの準備、スタンプの彫刻、またはおそらく基材(紙またはプラスチックフィルム)が不要になる。さらに、特に印刷すべきそれぞれの対象ごとに変動する印刷データの動的管理によって、物品の個別化が可能になり、実施不能なほどのコストアップを招くことなしに極めて少ない系列の製造が可能になる。消費は厳密に必要な量に低減されるのでインクの無駄がなく、印刷ヘッドが小さいので装置の損失は非常に小さい。最後に、インクジェット印刷により、系列を即時に変更することおよび製造のトレーサビリティが可能になる。結論として、インクジェット印刷デバイスによって占有されるスペースは、同一のアウトプットを生産するために用いられるスクリーン印刷機械またはパッド印刷機械の系列と比較して小さい。
【0019】
製品の視点からは、インクジェット印刷により、多種類の色および複雑なパターン(写真、布帛、石、木材、または大理石の効果、その他)のデザインを高鮮明度で作成することが可能になる。このような技術により、ヘッドをロボットに連結することによって、基材にレリーフ状印刷をすることが可能になる。
【0020】
応用の視点からは(インクジェット印刷によってインクを塗布するために用いる基材の性質の意味で)、オフィスワークおよび書類の個人化(要求に応じたカスタムデザイン)の他に、インクジェット印刷の応用は多様であり、大および特大のフォーマットのポスター、布帛への印刷、セラミックへのデザイン、ラベリング、あて名書き、食品への印刷、活性成分の堆積、バイオマテリアルの堆積、導電性インクによる印刷、その他がある。
【0021】
インクジェット印刷手法の種々の応用の中で、1つの応用は、たとえばセラミックタイルのように製造プロセスにおいて非常に高い温度で焼き付ける必要がある物品の装飾に関係がある。
【0022】
この分野においては、焼結または粉末融合等の製造手法において、物品を少なくとも300℃、場合によっては1300℃以上の温度に加熱する必要がある。したがってインクジェット手法においては紙または布帛の印刷に用いられる標準のインクを用いてデザインを印刷することは不可能である。それは、これらのインクは高温には耐えられない有機染料化合物を含む水系(水性)インクであるからである。焼き付けまたは使用のサイクルにおける高温により、典型的には有機物である顔料だけでなく、その成分であるバインダーも酸化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】欧州特許第0451067号明細書
【特許文献2】欧州特許第544603号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
したがって本発明は、製造または使用の間に110℃を超える温度に曝される物品(たとえば調理器具)の機能層または装飾層のインクジェット印刷による製造を可能にするという課題に対処するものである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
したがって本発明の対象は、熱安定性インクジェット用途の微粒子組成物であって、
・前記組成物の合計重量に対して10重量%から95重量%の水と、
・前記組成物の合計重量に対して90重量%から5重量%の、少なくとも1種の粒子状のフッ素化熱安定性バインダーであって、その特徴的な寸法の少なくとも1つが800nmより小さいバインダーと
を含む、微粒子組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明において、粒子の特徴的な寸法は、粒子の大きさを特徴付ける寸法(具体的には球状粒子の直径)を意味すると理解されるが、たとえば特徴的な寸法「D50」または「D99」に関する粒径分布をも意味すると理解される。
【0027】
本発明において、用語「D50」は、粒子の50%が有する最大寸法(粒径分布のメディアン)を意味すると理解される。
【0028】
本発明において、用語「D99」は、粒子の99%が有する最大寸法を意味すると理解される。
【0029】
本発明の微粒子組成物中の熱安定性バインダーによって、水性インク層が所要の表面特性および耐久特性を有することが保証でき、ある場合には保護ラミネート層なしで済ますことが可能になる。
【0030】
有利には、本発明の熱安定性微粒子組成物は少なくとも1種の熱安定性顔料を、前記フッ素化熱安定性バインダーおよび前記熱安定性顔料が組成物の合計重量の90から5重量%に相当する量で含んでもよく、前記熱安定性顔料も粒子状であり、その特徴的な寸法の少なくとも1つは800nmより小さい。
【0031】
バインダー粒子、および該当する場合には顔料粒子の特徴的な寸法が800nmより小さいことにより、印刷ヘッドノズルの目詰まりおよび損傷のリスクを解消するか、少なくとも制限することができる。
【0032】
本発明の熱安定性微粒子組成物において用いることができるフッ素化熱安定性バインダーとして、具体的にはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロプロピルビニルエーテルコポリマー(PFA)、およびテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロペンコポリマー(FEP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、MVA(TFE/PMVEコポリマー)、TFE/PMVE/FAVEターポリマー、ETFE、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、それらの関連するコポリマー、ならびにそれらの混合物を挙げることができる。
【0033】
本発明の熱安定性微粒子組成物において用いることができる顔料として、具体的にはカーボンブラック、熱安定性顔料(たとえばCoAl24、酸化鉄III、チタン酸クロムおよびチタン酸アンチモン、シリコアルミネート、ニッケルチタンイエロー、二酸化チタン、種々の金属酸化物を含むスピネル結晶構造を有する無機顔料、酸化鉄または酸化チタンでコートしたマイカ光輝顔料、酸化鉄でコートしたアルミニウム光輝顔料、ペリレンレッド)、熱変色性半導体顔料(たとえばFe23、Bi23、BiVO4等の半導体金属酸化物)およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0034】
これらの顔料は、カーボンブラック、金属酸化物、ペリレンレッド等の有機分子のいずれであれ、優れた耐熱性を有しており、これらは特に温度に対して安定である。
【0035】
最後に、顔料として大きさが5から200nmのナノメータオーダーの無機粒子を用いることもでき、これはその極めて小さいサイズのためにインクの製剤中では必ずしも着色していないが、乾燥後、再凝集によって典型的には大きさ350nmを超える大きなユニットを形成してその色を発現し、結果として着色して見えるようになる。この溶液は特に有用である。それは、それによりノズルが詰まることなく機能するとともに、ノズルの摩耗が少ないことが保証されるからである。
【0036】
有利には、本発明の組成物中に含まれる前記熱安定性バインダーの粒子、および該当する場合には前記熱安定性顔料の粒子は、400nmより小さい特徴的な寸法を示してもよい。
【0037】
そのような寸法を有する粒子を用いる利点は、それ自体小さな開口部を有するノズル、理想的には粒径/ノズル開口径の比が約1:100であるノズルを使用することができるという点にある。それにより液滴の体積を制限することが可能であることが分かる。これは、より正確な輪郭線を有する印刷、したがってより良い描画を意味する。これは、平坦な色合い(一様な色)を作成したい場合でさえも有利である。それは、それによりインクの消費が制限されるからである。
【0038】
本発明の熱安定性微粒子組成物(または水性インク)は、DODインクジェット印刷デバイスにおける使用に適している。それは、印刷デバイスのノズルに適合する粒子サイズに加えて、この組成物が以下の物理学的特性およびレオロジー特性を有しているからである。
− 吐出温度において2〜25mPa.sの間に含まれる粘度、
− 22〜40mN/mの間に含まれる表面張力(ガンマ)、
流体の粘度および表面張力は、一様なサイズおよび形状を有する液滴の生成の制御を可能にするパラメータである。
【0039】
さらに、および印刷システム(特に印刷ヘッドおよび流体システム)全体の成分材料を変化させないために、本発明の組成物のpHは、できるだけ中性に近くなくてはならない。
【0040】
有利には、本発明の組成物は、前記組成物の合計重量に対して少なくとも1重量%の、5℃〜50℃の間に含まれる温度および大気圧において水の蒸気圧より低い蒸気圧を有し、少なくとも部分的に水と混和し得る形態の、少なくとも1種の蒸発遅延化合物をさらに含む。
【0041】
本発明において、蒸発遅延化合物は、本発明の組成物の蒸発を低減させ/遅延させる化合物を意味すると理解される。
【0042】
実際、ノズルにおいてメニスカスを形成する水性インクは、2つのジェットの間で乾燥してはならない。したがってこの目的のため、本発明の水性組成物の蒸気圧は水の蒸気圧より低いことが好ましい。水よりも蒸発が遅い組成物を用いることによって、ノズルを湿潤状態に保つことができる。
【0043】
本発明の水性組成物中に蒸発遅延化合物が存在するため、本発明の組成物の液滴(これは乾燥するにつれて化合物中で徐々に濃縮される)がノズルチップに保持されるので、次の液滴による壁の再湿潤化が容易になり、それが液滴列の再現性、したがって印刷品質に寄与することが注目される。
【0044】
蒸発曲線があまり知られていない場合もあるいくつかの化合物から蒸発遅延化合物を選択するために、これらの化合物の沸点データを用いることができる。
【0045】
実際、沸点が135℃を超える化合物によって、本発明の熱安定性微粒子組成物に用いることができる蒸発遅延流体を得ることが概して可能になる。
【0046】
本発明の範囲内で用いることができる化合物の中では、界面活性剤、湿潤剤、消泡剤、および水溶性または部分的水溶性溶媒が挙げられる。これらの化合物により、インクの物理化学的特性の調整、したがって印刷ヘッドによる吐出の安定性、基材の湿潤化、フィルムの形成等の調節が可能になる。
【0047】
本発明において、界面活性剤は、分散剤(とりわけ顔料を安定化するため)、湿潤剤、乳化剤、および起泡剤を意味すると理解される。
【0048】
本発明の熱安定性微粒子組成物において用いることができる水溶性または部分的水溶性溶媒としては、具体的にはアルコール、グリコール、アルキルグリコール、アルキルホスフェート、酸およびそれらの誘導体、アミノアルコール、ならびに非プロトン性極性溶媒が挙げられる。
【0049】
本発明において、湿潤剤は水中で水溶性または部分的水溶性(それぞれ混和性または部分的混和性)であり、印刷ヘッド中のインクの保水性を増大させることができる化合物を意味すると理解される。
【0050】
本発明の熱安定性微粒子組成物中で用いることができる湿潤剤として具体的には、糖、カルボン酸(好ましくは13個以上の炭素原子を含む炭素鎖を有する)のナトリウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩およびカルシウム塩、ならびに尿素が挙げられる。
【0051】
ある種の化合物(たとえばグリコール)は、湿潤剤および溶媒としての二重の役割を有し得る。
【0052】
有利には、本発明の組成物は少なくとも2種の蒸発遅延化合物を含み得る。
【0053】
2種の蒸発遅延化合物の組み合わせにより、インクの品質または描画を顕著に改善することができる。たとえば、蒸発遅延化合物の一方を、顔料または熱安定性バインダーの分散安定性を強化するために選択し、他方を基材上における湿潤性または拡散性を促進するために選択することができる。
【0054】
これらの2種の蒸発遅延化合物は、
・2種の異なる界面活性剤、または
・界面活性剤および溶媒、または
・界面活性剤および湿潤剤、または
・湿潤剤および溶媒、または
・2種の溶媒
からなることが好ましい。
【0055】
この場合(本発明の組成物における少なくとも2種の蒸発遅延化合物)、前記2種の蒸発遅延化合物の重量百分率の和は、組成物の合計重量に対して5重量%より大きく、好ましくは10重量%より大きい。
【0056】
これらの化合物の遅延効果は組成物の合計重量に対して5重量%で観察され始め得る(本発明の水性組成物の蒸発に関する限り)が、この百分率が増大するとともにこの効果は強化される。このことは、印刷ヘッドノズルの開放時間が長くなり、それにより工業利用が促進されることを意味する。
【0057】
第1の化合物の量の第2の化合物の量に対する重量比は、好ましくは0.001〜1000の間、より好ましくは0.01〜100の間に含まれる。
【0058】
最後に、熱安定性バインダー、および該当する場合には顔料または蒸発遅延化合物等の他に、本発明の組成物は以下の添加剤をさらに含んでもよい。
・定着剤および/または浸透剤(具体的には印刷基材にインクを定着させるため)、
・殺生物剤および/または抗真菌剤(具体的には細菌および/または真菌の成長を阻害するため)、
・緩衝剤(pHを調節するため)、
・および防食剤、消泡剤等。
【0059】
本発明の水性組成物中に蒸発遅延化合物がなくても、印刷ヘッドによる組成物の吐出は可能であるが、人の介入(具体的にはノズルの洗浄のための)がなければ長期に行なうことはできない。
【0060】
有利には、フッ素化熱安定性バインダーを含む本発明の微粒子組成物は、顔料を含まず、少なくとも1種の既に定義した溶媒を含んでもよい。
【0061】
そのような実施形態により、連続フィルムを得ることが可能になる。
【0062】
有利には、本発明の微粒子組成物は、顔料を含まず、少なくとも1種の既に定義した湿潤剤を含んでもよい。
【0063】
そのような実施形態により、本発明の組成物を基材上に塗布する(基材を覆う)ことが可能になる。
【0064】
一般には、想定した実施形態に関わらず、本発明の組成物は少なくとも1種の第2の非フッ素化熱安定性バインダーをさらに含んでもよい。
【0065】
本発明の熱安定性微粒子組成物において用いることができる非フッ素化熱安定性バインダーとして、具体的にはポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリアミドイミド(PAI)、およびポリイミドが挙げられる。
【0066】
[実施例]
本発明を以下の実施例においてより詳細に説明する。
【0067】
これらの実施例において百分率および部の全ては、他に注釈しない限り、重量%として表現する。
【0068】
実施例
インクジェット(DOD)によって操作する装飾デバイス
印刷デバイスとしてDOD型デバイスを用いる。これはノズル、チャンバー、およびインク回路を有し、商品名ARDEJE HA5として市販されている印刷ヘッドを備える。
【0069】
製品
インクジェット用途の熱安定性微粒子組成物
− キャリア:水;
− 溶媒:
− エチレングリコール;
− プロピレングリコール;
− エタノール;
− 湿潤剤:グリセロール;
− 顔料:
− Shepherdアルミニウム−コバルト青色顔料(商品名10C595);
− Shephardクロムアンチモンチタネート黄色顔料(商品名Y193);
− Bayferrox社より市販の酸化鉄赤色顔料(商品名110M);
− 商品名Paliogen(登録商標)Red K3911としてBASF社より市販のペリレンレッド赤色顔料;
− Cabot表面改質カーボンブラック、水中20%;
− 界面活性剤(分散剤):
− 商品名SOLSPERSE(登録商標)としてLUBRIZOL社より市販の高分子量超分散剤ポリマー;
− 50重量%のDISPERBYK(登録商標)−190と50重量%のDISPERBYK(登録商標)−180の混合物(これらの分散剤はいずれもBYK社より市販);
− 商品名TEGO(登録商標)としてEVONIK社より市販の脂肪酸由来非イオン性界面活性剤;
− 界面活性剤(湿潤剤):
− 非イオン性界面活性剤:商品名GENAPOL(登録商標)としてClariant社より市販のポリエチレングリコールイソトリデシル;
− 消泡剤:
− Evonik社より市販の添加剤入り鉱油;
− 熱安定性バインダー:
− フッ素化熱安定性バインダー:
・商品名TF 5035ZとしてDyneon社より市販の乾燥分58%のPTFE分散液;
・商品名FEP 6300GZとしてDyneon社より市販の乾燥分55%のFEP分散液;
− 非フッ素化熱安定性バインダー:
・商品名Torlon AI30としてSolvay社より市販のポリアミドイミド樹脂。
【0070】
試験
インクジェット用途の熱安定性微粒子組成物の吐出性の評価
インク組成物のpH、粘度、および表面張力等の物理化学的パラメータは、インク組成物の均一かつ安定な吐出を経時的に保証するための必要条件であるが十分条件ではない。実際、吐出の際に流体に加わる力(せん断力および起動頻度)は、標準的な分析装置によっては模擬できない。
【0071】
したがって、処方物の吐出性(すなわち、十分な吐出速度および経時的な安定性を有する均一な寸法および形状の液滴の生成)を検証することも重要である。
【0072】
本発明において、吐出性は、試験される組成物について以下の基準が満たされることを意味すると理解される。
1.印刷ノズルから液滴が吐出される可能性;
2.吐出された液滴の列が規則的であること;
3.液滴が異形でないこと;テイル(延長された形状の液滴)およびサテライト(ノズルの平面に直角でない方向に吐出された寄生液滴)がないこと;
4.ノズルの開放時間が15秒より長いこと;この開放時間は、ノズルにインクの蒸発残留物が残っていない時間に対応する。
【0073】
試験される組成物の吐出性は、商品名HA5としてARDEJE社より市販されている印刷デバイスを用いて、周波数1.7kHz、制御温度25℃または35℃で操作して評価する。
【0074】
観察およびストロボ記録を行なうことにより、液滴の形状および液滴列の規則性を経時的に可視化することができる。
【0075】
レオロジープロファイルの評価/粘度測定
粘度はMalvern社のGeminiレオメーターを用いて測定する。測定は可動コーン/プレート(直径55mmに対して傾斜2%)を用いて、インクの吐出についての目標温度で行なう。粘度は、5s-1より大きい速度勾配について測定した瞬間粘度を平均することによって計算する。
【0076】
(実施例1)
フッ素化熱安定性バインダーおよび蒸発遅延化合物を含む本発明の顔料添加水性インクEA1
フッ素化熱安定性バインダーを含まない顔料添加初期組成物CP1を撹拌下に調製する。組成物の種々の成分および組成物の合計重量に対する重量%で表したそれぞれの量を以下に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
水性組成物CP中において、溶解した青色10C595顔料は以下の粒径分布を有する。
− D50=930nm、および
− D99=3360nm
【0079】
したがって、水性組成物CP1中の顔料の粒径分布は、現状ではインクジェットによる適用には適しない。この目的のため、顔料添加組成物CP1を、ZrO2ビーズを満たした水平ピンミルで摩砕する。
【0080】
2時間の摩砕の後、熱安定性バインダーを含まない二次顔料添加組成物CP1’が得られる。これについて、以下の粒径分布が色顔料に関して得られる。
− D50=170nm、および
− D99=415nm。
【0081】
この二次組成物CP1’の乾燥分百分率は9%である。
【0082】
この摩砕ステップの後、ナノメーターサイズのCP’顔料分散液に、以下に示す割合(重量部)でPTFE分散液を加えて水性インク組成物EA1を作成する。
【0083】
【表2】
【0084】
PTFEの添加により顔料は凝集しない。水性インク組成物EA1のレオロジープロファイルはニュートニアンである。25℃で測定した粘度は20mPa.sである。
【0085】
インクEA1の吐出性を、ARDEJE社のHA5印刷デバイスを用いて、周波数1.7kHz、25℃で検証した。以下の特性が得られる。
− 液滴速度は4.5m/sである。
− ノズルの開放時間は1分より長い。
− 液滴列はよく分離しており、側面は一様に前進することが認められる。
− 印刷が完了した後もノズルチップは清浄であることも認められ、ノズルは長期間、汚れることなしに機能し得ることが明確に示される。
【0086】
グリセロールにより、基材上の液滴の印象は一様で、ハローがない。
【0087】
印刷結果は、少なくとも110℃の温度、またとりわけ少なくとも250℃の温度に曝した後も、色または特性において認知し得る、望ましくない、または制御されない変化を全く示さない。
【0088】
(実施例2)
フッ素化熱安定性バインダーおよび少なくとも1種の蒸発遅延化合物を含む本発明の顔料不添加水性インクEA2
フッ素化熱安定性バインダーを含む顔料不添加水性インク組成物EA2を調製する。組成物の種々の成分および組成物の合計重量に対する重量%で表したそれぞれの量を以下に示す。
【0089】
【表3】
【0090】
水性組成物EA2を以下のようにして調製する。
− 穏やかに撹拌しながらPTFE分散液に水を加え、希釈PTFE分散液を作成する;
− 次いで、希釈PTFE分散液に界面活性剤、次にグリセロールを加える。
− たとえば孔径0.8μm、次いで孔径0.45μmのセルロースアセテートシリンジフィルターを通して、全量濾過方式で濾過して、安定な分散液が得られる。グリセロールおよび界面活性剤の添加により、分散液中の種々の成分の大きさは改変しない。
【0091】
25℃で測定した水性インクEA2の粘度は2.8mPa.s、WILHELMYプレートテンシオメーターで測定した流体の表面張力は28.3mN/mで、プロファイルはニュートニアンである。
【0092】
インクEA2の吐出性を、ARDEJE社のHA5印刷デバイスを用いて、周波数1.7kHz、温度25℃で操作して検証した。以下の特性が得られる。
− 液滴速度は4m/sである。
− ノズルの開放時間は1分である。
− 液滴列はよく分離しており、側面は一様に前進することが認められる。
− 印刷が完了した後もノズルチップは清浄であることも認められ、ノズルは長期間、汚れることなしに機能し得ることが明確に示される。
【0093】
グリセロールにより、基材上の液滴の印象は一様で、ハローがない。
【0094】
印刷結果は、少なくとも110℃の温度、またとりわけ少なくとも250℃の温度に曝した後も、色または特性において認知し得る、望ましくない、または制御されない変化を全く示さない。
【0095】
(実施例3)
フッ素化熱安定性バインダーおよび蒸発遅延化合物を含む本発明の顔料不添加水性インクEA3
フッ素化熱安定性バインダーを含む顔料不添加水性インク組成物EA3を調製する。組成物の種々の成分および組成物の合計重量に対する重量%で表したそれぞれの量を以下に示す。
【0096】
【表4】
【0097】
水性組成物EA3を以下のようにして調製する。
− 穏やかに撹拌しながらPTFE分散液に水を加え、希釈PTFE分散液を作成する;
− 次いで、希釈PTFE分散液に界面活性剤、次にプロピレングリコールを加える。
− たとえば孔径0.8μm、次いで孔径0.45μmのセルロースアセテートシリンジフィルターを通して全量濾過方式で濾過して、安定な分散液が得られる。プロピレングリコールおよび界面活性剤の添加により、分散液中の種々の成分の大きさは改変しない。
【0098】
35℃で測定した水性インクEA3の粘度は3.6mPa.s、WILHELMYプレートテンシオメーターで測定した流体の表面張力は30.3mN/mである。
【0099】
インクEA3の吐出性を、ARDEJE社のHA5印刷デバイスを用いて、周波数1.7kHz、温度35℃で操作して検証した。以下の特性が得られる。
− 液滴速度は4.5m/sである。
− ノズルの開放時間は2分である。
− 液滴列はよく分離しており、側面は一様に前進することが認められる。
− 印刷が完了した後もノズルチップは清浄であることも認められ、ノズルは長期間、汚れることなしに機能し得ることが明確に示される。
【0100】
印刷結果は、少なくとも110℃の温度、またとりわけ少なくとも250℃の温度に曝した後も、色または特性において認知し得る、望ましくない、または制御されない変化を全く示さない。
【0101】
(実施例4)
フッ素化熱安定性バインダーを含む本発明の顔料不添加水性インクEA4
フッ素化熱安定性バインダーを含む顔料不添加水性インク組成物EA4を調製する。組成物の種々の成分および組成物の合計重量に対する重量%で表したそれぞれの量を以下に示す。
【0102】
【表5】
【0103】
水性組成物EA4を以下のようにして調製する。
− 穏やかに撹拌しながらFEP分散液に水を加え、希釈FEP分散液を作成する;
− 次いで、希釈FEP分散液に界面活性剤、次にグリセロールを加える。
− たとえば孔径0.8μm、次いで孔径0.45μmのセルロースアセテートシリンジフィルターを通して全量濾過方式で濾過して、安定な分散液が得られる。グリセロールおよび界面活性剤の添加により、分散液中の種々の成分の大きさは改変しない。
【0104】
25℃で測定した水性インクEA4の粘度は20mPa.sである。
【0105】
インクEA4の吐出性を、ARDEJE社のHA5印刷デバイスを用いて、周波数1.7kHz、温度25℃で操作して検証した。以下の特性が得られる。
− 液滴速度は4.5m/sである。
− ノズルの開放時間は2分である。
− 液滴列はよく分離しており、側面は一様に前進することが認められる。
− 印刷が完了した後もノズルチップは清浄であることも認められ、ノズルは長期間、汚れることなしに機能し得ることが明確に示される。
【0106】
印刷結果は、少なくとも110℃の温度、またとりわけ少なくとも250℃の温度に曝した後も、色または特性において認知し得る、望ましくない、または制御されない変化を全く示さない。
【0107】
(実施例5)
フッ素化熱安定性バインダーおよび非フッ素化熱安定性バインダー、ならびに蒸発遅延化合物を含む本発明の顔料添加水性インクEA5
フッ素化熱安定性バインダーおよび非フッ素化熱安定性バインダーを含まない顔料添加初期組成物CP5を調製する。組成物の種々の成分および組成物の合計重量に対する重量%で表したそれぞれの量を以下に示す。
【0108】
【表6】
【0109】
水性組成物CP5中において、溶解した黒色顔料は以下の粒径分布を有する。
− D50=140nm、および
− D99=335nm
顔料は現状においてインクジェット印刷に適合する。
【0110】
この顔料分散液(CP5)に、以下に示す割合(重量部)でPTFE分散液および水相のPAIを加えて水性インク組成物EA5を作成する。
【0111】
【表7】
【0112】
PTFEおよびPAIの添加により顔料は凝集しない。水性インク組成物EAのレオロジープロファイルはニュートニアンであり、25℃における粘度は21mPa.sである。
【0113】
インクEA5の吐出性を、ARDEJE社のHA5印刷デバイスを用いて、周波数1.7kHz、25℃で検証した。以下の特性が得られる。
− 液滴速度は4.5m/sである。
− ノズルの開放時間は2分である。
− 液滴列はよく分離しており、側面は一様に前進することが認められる。
− 印刷が完了した後もノズルチップは清浄であることも認められ、ノズルは長期間、汚れることなしに機能し得ることが明確に示される。
【0114】
グリセロールにより、基材上の液滴の印象は一様で、ハローがない。
【0115】
印刷結果は、少なくとも110℃の温度、またとりわけ少なくとも250℃の温度に曝した後も、色または特性において認知し得る、望ましくない、または制御されない変化を全く示さない。
【0116】
(比較例1)
フッ素化熱安定性バインダーを含まず、水の蒸気圧より高い蒸気圧を有する溶媒を含む顔料添加水性インクEC1
フッ素化熱安定性バインダーを含まない顔料添加初期組成物EC1を調製する。ここで用いる溶媒は、5℃から50℃の温度および大気圧において水の蒸気圧より高い蒸気圧を有する溶媒であるエタノールである。
【0117】
組成物の種々の成分および組成物の合計重量に対する重量%で表したそれぞれの量を以下に示す。
【0118】
【表8】
【0119】
水性組成物EC1中において、溶解した黒色顔料は以下の粒径分布を有する。
− D50=140nm、および
− D99=335nm
顔料は現状においてインクジェット印刷に適合する。
【0120】
水性インク組成物EC1のレオロジープロファイルはニュートニアンであり、粘度は4.4mPa.sである。
【0121】
インクEC1の吐出性を、ARDEJE社のHA5印刷デバイスを用いて、周波数1.7kHz、25℃で検証した。以下の特性が得られる。
− 液滴速度は4.5m/sである。
− ノズルの開放時間は5秒である。
− ノズルチップは直ちに乾燥することが認められ、ノズルは長期間、汚れることなしには機能し得ないことが明確に示される。
【0122】
(比較例2)
非熱安定性アクリルバインダーを含む微粒子インク
非熱安定性アクリルバインダー(アクリル酸ベンジル/メタクリル酸コポリマー)を含む顔料不添加水性インク組成物を調製する。組成物の種々の成分および組成物の合計重量に対する重量%で表したそれぞれの量を以下に示す。
【0123】
【表9】
【0124】
水性組成物を以下のようにして調製する。
− アクリル酸ベンジル/メタクリル酸コポリマー分散液に界面活性剤、次いでグリセロールを加える;
− たとえば孔径0.8μm、次いで孔径0.45μmのセルロースアセテートシリンジフィルターを通して全量濾過方式で濾過して、安定な分散液が得られる。グリセロールおよび界面活性剤の添加により、分散液中の種々の成分の大きさは改変しない。
【0125】
25℃で測定した水性インクの粘度は22mPa.sである。
【0126】
インクの吐出性を、ARDEJE社のHA5印刷デバイスを用いて、周波数1.7kHz、温度25℃で操作して検証した。以下の特性が得られる。
− 液滴速度は4.6m/sである。
− ノズルの開放時間は2分である。
− 液滴列はよく分離しており、側面は一様に前進することが認められる。
− 印刷が完了した後もノズルチップは清浄であることも認められ、ノズルは長期間、汚れることなしに機能し得ることが明確に示される。
【0127】
印刷結果は、250℃の温度に曝した後、その特性において顕著な変化を示す。印刷層は実際、アクリルコポリマーの劣化により、その温度に曝した後、顕著な黄色化を示す。
【0128】
(比較例3)
非熱安定性ポリウレタンバインダーを含む微粒子インク
非熱安定性ポリウレタン樹脂バインダーを含む顔料不添加水性インク組成物を調製する。組成物の種々の成分および組成物の合計重量に対する重量%で表したそれぞれの量を以下に示す。
【0129】
【表10】
【0130】
水性組成物を以下のようにして調製する。
− ポリウレタン樹脂分散液に界面活性剤、次いでグリセロールを加える;
− たとえば孔径0.8μm、次いで孔径0.45μmのセルロースアセテートシリンジフィルターを通して全量濾過方式で濾過して、安定な分散液が得られる。グリセロールおよび界面活性剤の添加により、分散液中の種々の成分の大きさは改変しない。
【0131】
25℃で測定した水性インクの粘度は23mPa.sである。
【0132】
インクの吐出性を、ARDEJE社のHA5印刷デバイスを用いて、周波数1.7kHz、温度25℃で操作して検証した。以下の特性が得られる。
− 液滴速度は4.6m/sである。
− ノズルの開放時間は2分である。
− 液滴列はよく分離しており、側面は一様に前進することが認められる。
− 印刷が完了した後もノズルチップは清浄であることも認められ、ノズルは長期間、汚れることなしに機能し得ることが明確に示される。
【0133】
印刷結果は、250℃の温度に曝した後、その特性において顕著な変化を示す。印刷層は実際、ポリウレタン樹脂の劣化により、その温度に曝した後、顕著な黄色化を示す。
【0134】
(比較例4)
非熱安定性アクリルバインダーおよび蒸発遅延化合物を含む顔料添加水性インク
アクリルバインダーを含む初期顔料添加組成物を撹拌下に調製する。組成物の種々の成分およびそれぞれの量を組成物の合計重量に対する重量%で以下に示す。
【0135】
【表11】
【0136】
水性組成物において、溶解した青色10C595顔料は以下の粒径分布を有する。
− D50=930nm、および
− D99=3360nm
用語「D50」は粒径分布のメディアンを表し、既に定義した通りであり、用語「D99」も同様に既に定義した通りであり、本発明の場合において99%の粒子の最大寸法を表す。
【0137】
したがって、水性組成物中の顔料の粒径分布は、現状ではインクジェットによる適用には適しない。この目的のため、顔料添加組成物を、ZrO2ビーズを満たした水平ピンミルで摩砕する。
【0138】
2時間の摩砕の後、熱安定性バインダーを全く含まない二次顔料添加組成物が得られる。これについて、以下の粒径分布が青色顔料に関して得られる。
− D50=170nm、および
− D99=415nm。
【0139】
この二次組成物の乾燥分百分率は9%である。
【0140】
この摩砕ステップの後、ナノメーターサイズの顔料分散液に、以下に示す割合(重量部)でアクリルコポリマー分散液を加えて水性インク組成物を作成する。
【0141】
【表12】
【0142】
水性インク組成物のレオロジープロファイルはニュートニアンである。25℃で測定した粘度は20mPa.sである。
【0143】
インクの吐出性を、ARDEJE社のHA5印刷デバイスを用いて、周波数1.7kHz、25℃で検証した。以下の特性が得られる。
− 液滴速度は4.5m/sである。
− ノズルの開放時間は1分より長い。
− 液滴列はよく分離しており、側面は一様に前進することが認められる。
− 印刷が完了した後もノズルチップは清浄であることも認められ、ノズルは長期間、汚れることなしに機能し得ることが明確に示される。
【0144】
印刷結果は、250℃の温度に曝した後、その特性において顕著な変化を示す。印刷層は実際、アクリルコポリマーの劣化により、その温度に曝した後、顕著な黄色化を示す。
【0145】
(比較例5)
非熱安定性アクリルバインダー、熱安定性フッ素化粒子の分散液および蒸発遅延化合物を含む顔料添加水性インク
アクリルポリマー基体によって結合したPTFE粒子を用いて、これを含む組成物に印刷後の潤滑特性および耐剥離性をもたらすことは、従来技術において既知である。
【0146】
アクリルバインダーを含む初期顔料添加組成物を撹拌下に調製する。組成物の種々の成分およびそれぞれの量を組成物の合計重量に対する重量%で以下に示す。
【0147】
【表13】
【0148】
水性組成物中において、溶解した青色10C595顔料は以下の粒径分布を有する。
− D50=930nm、および
− D99=3360nm
用語「D50」は粒径分布のメディアンを表し、既に定義した通りであり、用語「D99」も同様に既に定義した通りであり、本発明の場合において99%の粒子の最大寸法を表す。
【0149】
したがって、水性組成物中の顔料の粒径分布は、現状ではインクジェットによる適用には適しない。この目的のため、顔料添加組成物を、ZrO2ビーズを満たした水平ピンミルで摩砕する。
【0150】
2時間の摩砕の後、熱安定性バインダーを全く含まない二次顔料添加組成物が得られる。これについて、以下の粒径分布が青色顔料に関して得られる。
− D50=170nm、および
− D99=415nm。
【0151】
この二次組成物の乾燥分百分率は9%である。
【0152】
この摩砕ステップの後、ナノメーターサイズの顔料分散液に、以下に示す割合(重量部)でPTFE粒子分散液およびアクリルコポリマー分散液を加えて水性インク組成物を作成する。
【0153】
【表14】
【0154】
水性インク組成物のレオロジープロファイルはニュートニアンである。25℃で測定した粘度は20mPa.sである。
【0155】
インクの吐出性を、ARDEJE社のHA5印刷デバイスを用いて、周波数1.7kHz、25℃で検証した。以下の特性が得られる。
− 液滴速度は4.5m/sである。
− ノズルの開放時間は1分より長い。
− 液滴列はよく分離しており、側面は一様に前進することが認められる。
− 印刷が完了した後もノズルチップは清浄であることも認められ、ノズルは長期間、汚れることなしに機能し得ることが明確に示される。
【0156】
印刷結果は、高温に曝した後、その特性において顕著な変化を示す。
【0157】
250℃においては、印刷層はアクリルコポリマーの劣化により顕著な黄色化を示す。この場合、基材上において顔料とPTFE粒子の凝集が全くないので、フィルムの品質は悪い。
【0158】
PTFE粒子の融合温度より高い350℃においては、アクリルポリマーの劣化によりフッ素化化合物のフィルム形成が妨害されるので、フィルムの品質は悪い。
【0159】
全ての場合において、印刷の描画は温度によって誘起されるアクリルの褐色化によって悪化する。