特許第6294345号(P6294345)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6294345平坦化された挿入損失を有する電子音響バンドパスフィルタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294345
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】平坦化された挿入損失を有する電子音響バンドパスフィルタ
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/145 20060101AFI20180305BHJP
   H03H 9/64 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   H03H9/145 Z
   H03H9/64 Z
【請求項の数】15
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-546904(P2015-546904)
(86)(22)【出願日】2013年10月17日
(65)【公表番号】特表2016-517190(P2016-517190A)
(43)【公表日】2016年6月9日
(86)【国際出願番号】EP2013071746
(87)【国際公開番号】WO2014090451
(87)【国際公開日】20140619
【審査請求日】2015年8月21日
(31)【優先権主張番号】102012112237.7
(32)【優先日】2012年12月13日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】500480274
【氏名又は名称】スナップトラック・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】デトレフゼン, アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】メロウリ, モハメド, ニザル
【審査官】 ▲高▼須 甲斐
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−066676(JP,A)
【文献】 特開昭54−000844(JP,A)
【文献】 特開昭55−115712(JP,A)
【文献】 特開2003−087096(JP,A)
【文献】 特開2001−285012(JP,A)
【文献】 特開平04−132409(JP,A)
【文献】 特開平11−234080(JP,A)
【文献】 特開2005−150918(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/035372(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/145
H03H 9/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平担化された挿入損失を有する電子音響バンドパスフィルタ(BPF)であって、
当該電子音響バンドパスフィルタ(BPF)は、
1つの音響トラック(AT)を有する圧電層と、
前記圧電層上の前記音響トラック(AT)に配設されたメタライジング層と、
を備え、
前記音響トラック(AT)は、第1の部分(SEC)と第2の部分(SEC)とを備え、
前記第1の部分(SEC)には、前記メタライジング層における第1の変換器セグメントが形成されており、当該第1の変換器セグメントは、第1の周波数fで共鳴を生成して、挿入損失のピークを生じ、
前記第2の部分(SEC)には、前記メタライジング層における第2の変換器セグメントが形成されており、当該第2の変換器セグメントは、前記第1の周波数fと異なる第2の周波数fで共鳴を生成して、挿入損失のピークを生じ、
前記第1の周波数fおよび前記第2の周波数fは、前記第1の変換器セグメントの挿入損失のピークと前記第2の変換器セグメントの挿入損失のピークと、が互いに補償し合うように設定され、かつ、前記第1の周波数fおよび前記第2の周波数fは、当該電子音響バンドパスフィルタ(BPF)の挿入損失のピークが、前記第1および第2の変換器セグメントの挿入損失のピークよりも低減されるように設定される
ことを特徴とする、電子音響バンドパスフィルタ。
【請求項2】
請求項1に記載の電子音響バンドパスフィルタ(BPF)において、
前記第1の変換器セグメントおよび前記第2の変換器セグメントは、第1の変換器(TD)および第2の変換器(TD)それぞれのセグメントであって、前記第1の変換器(TD)および前記第2の変換器(TD)は互いに異なる共鳴周波数を有することを特徴とする電子音響バンドパスフィルタ。
【請求項3】
請求項1に記載の電子音響バンドパスフィルタ(BPF)において、
前記第1の変換器セグメントおよび前記第2の変換器セグメントは、第1の変換器(TD)の2つのセグメントであることを特徴とする電子音響バンドパスフィルタ。
【請求項4】
請求項3に記載の電子音響バンドパスフィルタ(BPF)において、
前記第1の変換器(TD)は、扇型変換器であることを特徴とする電子音響バンドパスフィルタ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電子音響バンドパスフィルタ(BPF)において、
当該電子音響バンドパスフィルタ(BPF)がSAWフィルタまたはGBAWフィルタであることを特徴とする電子音響バンドパスフィルタ。
【請求項6】
請求項3または4に記載の電子音響バンドパスフィルタ(BPF)においては、
前記第1の変換器セグメントおよび前記第2の変換器セグメントを備える前記第1の変換器(TD)と、第2の変換器(TD)を備え、
前記電子音響バンドパスフィルタ(BPF)は、
1つのDMSフィルタ、または1つのマルチポート共鳴器フィルタを構成する、
ことを特徴とする電子音響バンドパスフィルタ。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の電子音響バンドパスフィルタ(BPF)において、
さらに扇型反射器として形成された1つの第1の反射器(REF)を備えることを特徴とする電子音響バンドパスフィルタ。
【請求項8】
請求項4に記載の電子音響バンドパスフィルタ(BPF)において、
前記扇型変換器が500ppm〜2000ppmの間のピッチスケーリングを有することを特徴とする電子音響バンドパスフィルタ。
【請求項9】
請求項2乃至8のいずれか1項に記載の電子音響バンドパスフィルタ(BPF)において、
前記電子音響バンドパスフィルタ(BPF)は、1つのDMSフィルタであり、
前記第1の変換器(TD)および前記第2の変換器(TD)のそれぞれは、一部が扇型の変換器または全体が扇型変換器である、
ことを特徴とする電子音響バンドパスフィルタ。
【請求項10】
請求項6乃至9のいずれか1項に記載の電子音響バンドパスフィルタ(BPF)におい て、
さらに1つの第3の変換器(TD)をそなえ、
前記第1の変換器(TD)、前記第2の変換器(TD),および前記第3の変換器(TD)は扇型変換器であり、
前記第1の変換器(TD)、前記第2の変換器(TD),および前記第3の変換器(TD)の内の2つが出力変換器であり、当該出力変換器以外の1つが入力変換器であって、前記入力変換器は前記2つの出力変換器の間に配設される、
ことを特徴とする電子音響バンドパスフィルタ。
【請求項11】
請求項4、8および10のいずれか1項に記載の電子音響バンドパスフィルタ(BPF)において、
前記圧電層は、音響体積波を少なくとも部分的に反射する下面を備え、
前記扇型変換器は、挿入損失のうねりを低減するために音響体積波を散乱するように設けられていることを特徴とする電子音響バンドパスフィルタ。
【請求項12】
請求項2に記載の電子音響バンドパスフィルタ(BPF)において、
前記第1および第2の変換器(TD,TD)がカスケード接続され、直列または並列に回路接続されていることを特徴とする電子音響バンドパスフィルタ。
【請求項13】
請求項12に記載の電子音響バンドパスフィルタ(BPF)において、
前記第1および第2の変換器(TD,TD)は、1つの共通のバスバーを有する共鳴器カスケード(CRES)の一部であることを特徴とする電子音響バンドパスフィルタ。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載の電子音響バンドパスフィルタ(BPF)において、
さらにピッチPを有する1つの並列分岐変換器(PR)を備え、
前記第1の変換器セグメントおよび第2の変換器セグメントのいずれか一方は、直列分岐変換器(SR)内にピッチPを有して配設されており、
>Pである、
ことを特徴とする電子音響バンドパスフィルタ。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれか1項に記載の電子音響バンドパスフィルタ(BPF)において、
前記第1の周波数fおよび前記第2の周波数fは、望ましくないファブリペロー共鳴(複数)が低減されるように設定されていることを特徴とする電子音響バンドパスフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばモバイル通信機器のフロントエンド回路に使用できるような、平坦化された挿入損失を有する電子音響バンドパスフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
モバイル通信機器においてバンドパスフィルタは、様々な信号路のための所望の周波数領域の選択に用いられる。この所望の周波数領域はフィルタを通過させることができ、これに対し望ましくない周波数領域はブロックされる。
【0003】
特許文献1には電子音響活性デバイスを備えたバンドストップフィルタが開示されている。
【0004】
特許文献2には、例えば近接周波数選択度(Nahselektion)を改善するための電子音響デバイスも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公報第2004/0130411号明細書
【特許文献2】米国特許第6804588号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
所望の周波数領域、すなわち通過帯域は、できるだけ小さくかつ平坦な挿入損失をもつことが望ましい。特許文献1のバンドストップフィルタと異なり、通過帯域における挿入損失のうねりは、重要な役割を演じる。
【0007】
従って、通過帯域で小さくかつ平坦な挿入損失を有するバンドパスフィルタを提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は請求項1に記載のバンドパスフィルタによって解決される。従属請求項は本発明の有利な実施形態を示す。
【0009】
ここで、以下に示される特徴は、個別に調整されたバンドパスフィルタとするために、任意の組み合わせで協働可能である。
【0010】
本発明による電子音響バンドパスフィルタは音響トラック(akustischen Spur)を有する圧電層を備える。このフィルタはさらにメタライジング層を備え、このメタライジング層は、圧電層上でこの音響トラックに配設されている。この音響トラックは第1の部分と第2の部分とを含む。第1の部分には、このメタライジング層における第1の変換器セグメントが形成されており、この第1の変換器セグメントは、第1の周波数f1で共鳴を生成し、挿入損失のピークを生じる。第2の部分には、このメタライジング層における第2の変換器セグメントが形成されており、この第2の変換器セグメントは、f1と異なる第2の周波数f2で共鳴を生成し、挿入損失のピークを生じる。周波数f1とf2は、このフィルタの挿入損失のピークが、上記それぞれの変換器のピークに比べて顕著でなくなるように設定されている。
【0011】
こうしてこのようなバンドパスフィルタは、伝達関数においてピークを、つまり狭い帯域の共鳴あるいはスパイクを低減することができる。通過帯域におけるうねりの低減により、電力を全体としてより低く保つことができるので、これよりフィルタの電力耐性も改善されている。ピークの低下により、より小さな電力がフィルタに印加され、その結果寿命が長くなる。さらに、必要な電力の低減のおかげで、フィルタの線形挙動、すなわち非線形効果の低減についても改善されている。こうして本発明によるバンドパスフィルタは、相互変調積による歪み(英語表示:IMD=intermodulation distortion)の低減および望ましくないより高い高調波による歪みの低減にも寄与する。
【0012】
音響トラックが形成されている上記圧電層は、担体基板上の圧電層であってよいが、圧電基板自体であってもよい。ここでこの音響トラックは、音響波がそこで励起可能、かつ/または伝播可能な圧電層の面である。従ってこの音響トラックは基本的にフィルタの音響的に活性な領域である。上記のメタライジング層は、音響トラックに電極パターンまたは反射器(複数)が形成された層である。電極パターンは特に電磁高周波信号と音響波の間の変換を行うことができる。音響波としては特に音響表面波(英語表示:SAW=surface acoustic wave)またはガイド音響体積波(英語表示:GBAW=guided bulk acoustic wave)が対象となる。
【0013】
上記の第1の変換器セグメントを備えた第1の部分と上記の第2の変換器セグメントを備えた第2の部分とは互いに直接接していてよく、または空間的に分離されて配設されていてよい。いずれの場合もこれら2つ部分が同じチップ基板上に配設されていてよい。さらに第1の変換器セグメントと第2の変換器セグメントとは、同じ変換器内に配設されていてよく、または異なる変換器内に配設されていてよい。
【0014】
1つの実施形態においては、第1および第2の変換器セグメントは適宜、わずかに周波数がずらされた異なる変換器(複数)のセグメント(複数)である。この場合本発明によるバンドパスフィルタは、圧電層上の電子音響領域に配設され、例えば励起中心(複数)の中央部間の異なる間隔、例えば電極フィンガ間の異なる間隔によって周波数がずらされた少なくとも2つの変換器を含む。ピッチという概念は励起中心間の間隔を言う。上記の2つのセグメントは適宜、わずかに異なるピッチを有していてよい。
【0015】
従って、並列分岐共鳴器(複数)と直列分岐共鳴器(複数)を備えたラダー型フィルタに、少なくとも2つの異なる並列分岐共鳴器および/または直列分岐共鳴器が、周波数のずれを有しているラダー型フィルタが設けられていることも可能である。こうして例えば圧電材料としてLiNbO3(ニオブ酸リチウム)またはLiTaO3(タンタル酸リチウム)を含有するフィルタでは、共鳴周波数より上(並列分岐)または下(直列分岐)での望ましくない共鳴を低減することができる。
【0016】
1つの実施形態においては、上記の第1の変換器セグメントと上記の第2の変換器セグメントは、同じ変換器の2つのセグメントである。
【0017】
この場合この変換器は、2つの相互にカスケード接続された部分変換器の間に1つの共通のバスバーを有する1つの変換器であってよい。しかしながら、1つの同一の変換器、例えば扇型変換器が、ピッチの異なる2つの異なるセグメントを有していてもよい。特に扇型変換器はさらに、ほぼ隣り合って配設された、ピッチの異なる極めて狭小のセグメントの連続体を有し、これによりピッチ勾配を有する変換器であってよい。
【0018】
扇型変換器は例えば特許文献1に開示されている。しかしながら公知の扇型変換器は、互いに補償し合う、挿入損失における異なるピーク(複数)を生成するように設けられていない。
【0019】
これに対応して1つの実施形態においては、上記第1の変換器セグメントと上記の第2の変換器セグメントは、1つの同一の扇型変換器の2つのセグメントである。
【0020】
1つの実施形態においては、本発明によるフィルタはSAWフィルタまたはGBAWフィルタである。
【0021】
1つの実施形態においては、上記の第1の変換器セグメントと上記の第2の変換器セグメントは、1つの第1の変換器内に配設されている。このバンドパスフィルタは、さらに1つの第2の変換器を含み、またDMSフィルタまたはマルチポート共鳴器フィルタとなっている。
【0022】
異なる周波数f1およびf2が設けられていること、ここで挿入損失がこれらの周波数で対応したピークを有することは、特にDMSフィルタまたはマルチポート共鳴器フィルタに適している。これは、この場合、複数の電子音響的に活性な変換器パターンが、個々の共鳴器パターン内に配設され、音響的に相互にカップリングされているからである。
【0023】
これに対応したDMSトラックまたはマルチポート共鳴器フィルタのトラックを、概念上、異なるピッチのトラックセグメントに分割することができ、これらのトラックセグメントは、互に周波数においてスケーリングされた電気的特性を有する。これは全伝達関数において個々のピークを「平坦化する」ことをもたらす。
【0024】
1つの実施形態において、本発明によるバンドパスフィルタはさらに1つの扇型反射器を含む。ここで扇型反射器は、圧電層上に配設された、パターニングされた、音響波を反射するパターンである。反射パターンとして、特に複数の互いに前後に並んでパターニングされた帯状体を含んでいてよく、これらの帯状体は扇型の原理に従い、横方向で拡がっている。ここで横方向とは、圧電層の表面に平行に延伸する、音響波の伝播方向である、長手方向に直角な方向を意味している。
【0025】
1つの実施形態においては、上記の扇型変換器または扇型反射器は、500ppm〜2000ppmの間のピッチスケーリングを有する。従って2つの並んで延伸しているフィンガーパターンにおいて、横方向のフィンガーの間隔は0.05〜0.2%変化する。ここでピッチは一定であってよく、または変化するメタライジング比では同様に変化されてよい。
【0026】
ピッチスケーリングは別な値であってもよい。特に並列分岐中の共鳴器では別な値でよい。そして直列分岐のピッチスケーリングと並列分岐のピッチスケーリングは異なるように設定されていてよい。こうしてフィルタパターンの設計に際し、より大きな自由度が得られる。
【0027】
1つの実施形態においては、本発明によるフィルタはDMSフィルタである。上記の2つのセグメントは、一部が扇型の変換器または全体が扇型の変換器である同じ変換器のセグメントである。
【0028】
ここで一部が扇型の変換器は、第1の部分、ここでは上記の2つのセグメントの一方で、互いに平行に延伸する電極フィンガーを有する変換器である。これに対し第2の部分、ここでは上記の2つのセグメントの他方で、ピッチは横断方向で連続的に変化する。
【0029】
これに対し全体が扇型の変換器は、全変換器領域においてピッチが横方向で連続的に変化する変換器である。
【0030】
1つの実施形態においては、本発明によるバンドパスフィルタは、第1および第2の変換器に加えて第3の変換器を備える。これら第1、第2および第3の変換器は扇型変換器である。これらの変換器のうち2つは出力変換器であり、これらの変換器のうち1つはそれら出力変換器の間に配設されている、1つの入力変換器である。
【0031】
従ってこのような変換器パターンは2つの電気的入力部と1つの電気的出力部を有する。ここで入力部と出力部の概念は交換可能である。ここで上記の1つの接続端子が入力部であって、他の2つの接続端子が2つの出力部であってよい。
【0032】
こうしてBALUN機能(BALUN=BALanced-UNbalanced converter 平衡不平衡変換器)を有する変換器パターンを得ることができる。
【0033】
本発明によるバンドパスフィルタの1つの実施形態において、上記圧電層は、音響体積波を少なくとも部分的に反射する下面を有する。このフィルタの変換器は扇型変換器として形成されており、挿入損失のうねりを低減するために音響体積波を散乱するように備えられている。
【0034】
一般に、バンドパスフィルタ機能を有するデバイスの体積波を反射する下面は望ましくないが、これは、反射する下面から放射された体積波が表面で表面波と干渉し、フィルタの機能を妨げるからである。
【0035】
体積波を吸収する材料で下面を形成することが可能である。しかしながら電気デバイスの一層の小型化に向かうトレンドが続いており、そのためますます薄い基板が要求されている。ここで薄い基板を得る1つの方法は、下面から基板材料をグラインディングすることである。機械的強度は基板の厚さに依存するので、こうしたシニングは機械的強度の低下をもたらす。従って、体積波を吸収または分散するパターンを配設することは、特別に薄い基板の場合、デバイスを破壊する虞を孕んでいる。こうして上記の2つの周波数f1,f2でのピークの相殺的干渉のために設けられる手段により、下面で反射された体積波による歪みの問題を、デバイスの表面のパターンのみによって低減できる。このようなパターンはシニングの前に生成され、シニング自体によっては破壊されないので、これによってデバイス製造の際の破壊の虞は低減される。
【0036】
1つの実施形態にて、上記の2つの変換器はカスケード接続されており、これらのカスケード段は直列または並列に回路接続されている。ここでこれら2つの変換器は、異なる周波数でピークをもつ上記の2つのセグメントを含む。ここでこれらのピークの異なる周波数は、カスケード接続されたこれら2つの変換器のピッチを適宜調整することによって得られる。
【0037】
1つの実施形態において、上記の2つの変換器は1つの共通のバスバーを有する共鳴器カスケードの一部である。従って上記の2つのセグメントを含むこれら2つの変換器は、互いに直に接して圧電層上に配設されており、これはフィルタパターンの極めて省スペースのデザインを可能にする。
【0038】
1つの実施形態において、本発明によるバンドパスフィルタは、ピッチP2を有する1つの並列分岐変換器を備える。さらに、上記の2つの変換器セグメントの一方は、直列分岐変換器内に配設されており、ピッチP1を有している。ここで、P2>P1である。
【0039】
1つの実施形態において、上記の2つの周波数f1およびf2は、望ましくないファブリペロー共鳴(複数)が低減されるように設定されている。
【0040】
ファブリペロー共鳴は、バンドパスフィルタの通過帯域においても望ましくない共鳴の原因となり、このため挿入損失のうねりを大きくし得ることがわかっている。上記の周波数f1およびf2を設定することにより、ファブリペロー共鳴に関連したピークが相互に相殺的に重畳して補償し合うことが可能である。
【0041】
以下で本発明によるバンドパスフィルタを、実施例および実施例に関連した概略図に参照してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】1つの基板上の2つの変換器の概略的構成を示す。
図2】1つの扇型変換器を示す。
図3】1つの一部が扇型の変換器を示す。
図4】2つの反射器の間に2つの扇型変換器を有する共鳴器を示す。
図5】2つの隣り合って配設された扇型変換器の概略図を示す。
図6】3つの扇型変換器を備えたDMSパターンを示す。
図7】3つの部分共鳴器パターンを備えた三段カスケード共鳴器を示す。
図8】ラダー型フィルタ構造を示す。
図9】共鳴器のアドミタンスへのファブリペロー共鳴の影響、およびこれに対応するバンドパスフィルタの挿入損失を示す。
図10】最適化された三段カスケードの振動特性の実部を示す。
図11】うねりが低減された通過帯域における挿入損失を示す。
図12】従来のフィルタおよび改良されたフィルタのエラーベクトル振幅(EVM)を示す。
図13】最適化されたフィルタの挿入損失を示す。
図14図13に示された挿入損失の一部を示す。
図15】従来のフィルタおよび最適化されたフィルタの2つのポートのうちの一方での反射を示す。
図16図15のフィルタそれぞれの他方のポートでの反射を示す。
図17】共鳴器パターン(複数)および1つのDMSトラックを有するバンドパスフィルタの算出された伝達関数を示す。
図18図17の曲線の一部を示す。
図19】1つの適合したフィルタパターンの外部の周辺回路へのマッチングを示す。
図20】1つの適合したフィルタパターンの外部の周辺回路へマッチングを示す。
【0043】
図1は、第1の部分SEC1および第2の部分SEC2を有するバンドパスフィルタBPFを示し、これらの第1および第2の部分は音響トラックATに配設されている。第1の部分SEC1は基本的に第1の変換器TD1によって実現され、第2の部分SEC2は基本的に第2の変換器TD2によって実現されている。しかしながら図2に示されているように、これら2つの部分SEC1およびSEC2が同じ変換器内に配設されていてもよい。
【0044】
音響トラックATは基板SU上に配設されている。基板は、その上に圧電層が堆積された担体基板であってよい。しかしながら基板自体が圧電性であってもよく、圧電層と成っていてよい。
【0045】
上記の2つの変換器TD1およびTD2は3つの接続端子C1,C2,C3に接続されている。これら2つの変換器の一方、例えばTD1は直列分岐変換器であってよい。その場合接続端子C1が信号入力接続端子、接続端子C2が信号出力接続端子であってよい。その場合変換器TD2は、接続端子C2をグラウンドと回路接続する並列分岐共鳴器である。その場合これら2つの変換器TD1およびTD2は原則的にラダー型回路の基本回路(Grundglied)となっている。
【0046】
図2は2つの反射器REFの間に1つの扇型変換器TDを有する実施形態を示す。こで反射器フィンガーのフィンガー間隔は横方向に沿って増大または減少してよい。しかしながらフィンガ間隔は一定であってもよい。これら2つの部分SEC1およびSEC2は扇型変換器TDの互いに平行に延伸する領域により形成される。こうして図1と異なり図2は、これら2つの部分が同じ変換器、つまり1つの全体が扇型の変換器内にある場合を表している。
【0047】
図3は、例えば第2の部分SEC2を実現する、ピッチが一定の第1の領域と、第1の部分SEC1を実現する、ピッチが変化する部分とを有する、一部が扇型の変換器TDを概略的に示す。
【0048】
図4は、2つの扇型変換器を備えたマルチポート共鳴器MPRを示す。それぞれの変換器は、異なるピッチを有する少なくとも2つの領域を備える。すなわち全部で少なくとも4つの変換器セグメントSECa,SECb,SECc,SECdが得られ、上記の第1の変換器セグメントと上記の第2の変換器セグメントはこれらのうちから選択されていてよい。
【0049】
ここでこのマルチポート共鳴器MPRの2つの変換器は、2つの反射器パターンの間に配設されている。ここで図5図4の扇型変換器を記号的に表したものである。
【0050】
図6は2つの反射器REFの間に3つの変換器TDを有するDMSパターン(DMS=dual mode SAW 二重モード表面音響波)を概略的に示す。ここでこれら3つの変換器のうちの1つ、例えば中央の変換器は入力変換器であってよく、外側の2つの変換器は出力変換器であってよい。しかしながら内側の1つの変換器が出力変換器で、外側の2つの変換器が入力変換器であってもよい。
【0051】
図7は、3つの変換器セグメントが互いに隣り合って、かつそれぞれが2つの反射器素子の間に配設されている、直列に回路接続されている三段共鳴器カスケードCRESを示す。ここでこれらのカスケード段のピッチは、伝達関数における望ましくないピークが互いに補償し合うように調整されていてよい。
【0052】
図8は、互いに直列に回路接続された1つの第1の直列分岐変換器SR1,1つの第2の直列分岐変換器SR2,および1つの第3の直列分岐変換器SR3を有するラダー型フィルタ構造を記号を用いて表している。全ての個々の直列分岐共鳴器に対し並列に1つの並列分岐共鳴器がグラウンドに対し接続されており、ここでは第1の並列分岐共鳴器PR1、第2の並列分岐共鳴器PR2,および第3の並列分岐共鳴器PR3がグラウンドに対し接続されている。バンドパスフィルタBPFは、1つの第1のポートP1と1つの第2のポートP2とを有し、これらは入力ポートあるいは出力ポートとなっている。
【0053】
図9はファブリーペロー共鳴の良くない効果を示す。ここで曲線CRESはバンドパスフィルタ内の共鳴器のアドミタンスの実部を表す。曲線CBPは、曲線CRESの共鳴器を有する共鳴器を有するバンドパスフィルタの挿入損失を表す。共鳴器フィンガー(複数)のエッジ(複数)で反射された部分波の重畳により、ファブリペロー共鳴(複数)が生じる。その局所的極大値が矢印により示されている。バンドパスフィルタの挿入損失は個々の共鳴器のアドミタンスに依存するので、これらのファブリペロー共鳴は通過帯域におけるうねりにも反映している。通過帯域のうねりの低減のため、異なる共鳴器または変換器セグメントのファブリペロー共鳴は、相互の補償が生じて全通過帯域特性における挿入損失のうねりが著しく低減されるように設定することができる。
【0054】
図10は従来の三段カスケードの応答関数C3,CONを示す。これに対しC3,NEWは、著しく低減されたうねりを特徴とする、改良された三段カスケードの応答関数を示す。この著しく低減されたうねりは、3つのそれぞれのカスケードのそれぞれの共鳴C1NEWの位置が、相殺的干渉が得られるように設定されていることによって得られる。これに応じて、このような三段カスケードを有するバンドパスフィルタの挿入損失のうねりも同様に低減される。
【0055】
図11は、従来のバンドパスフィルタの挿入損失CCONを、うねりが低減された挿入損失CNEWと比較して示す。
【0056】
図12は、エラーベクトル振幅(EVM)を、従来のフィルタに対するEVMCONと改良されたフィルタに対するEVMNEWで示す。EVMは、信号空間ダイヤグラムにおける、受信された、変調されたシンボルの正しい値からの平均のベクトルのずれを表す。理想的な方形からのずれによるフィルタでの信号の歪みにより、EVMは大きくなる。すなわちEVMは、信号の品質に対するフィルタの影響を表し、従ってフィルタの平坦度の尺度となる。改良されたフィルタは、より小さいEVMとより平坦なフィルタ特性を有することが明らかである。
【0057】
図13は、従来のバンドパスフィルタと最適化されたバンドパスフィルタの挿入損失を示す。
【0058】
図14は、図13の通過帯域領域を拡大して示す。
【0059】
ここで図13および14は、それ自体通過帯域でわずかなうねりしかもたないフィルタパターンを示す。あまり最適化されていなかったフィルタにおいて顕著な改善をもたらす方法が、既に良好な特性の場合には、これに不利な影響を与えないことが分る。
【0060】
図15は、2つのポートの一方での反射を、従来のフィルタと最適化されたフィルタに対して示す。
【0061】
図16は、上記それぞれのフィルタの他方のポートでの反射を示す。
【0062】
図15および16は、それぞれのフィルタパターンの外部の周辺回路へのマッチングを示す。このフィルタ特性改善のための方法により、マッチングの劣化を蒙らないことがわかる。
【0063】
図17は、共鳴器パターンとDMSトラックを有するバンドパスフィルタの算出された伝達関数を示す。2つの曲線の内で、より平坦な曲線では、ピーク周波数が適宜有利に設定されたものである。
【0064】
図18図17の曲線の一部を示す。
【0065】
ここで図17および18は、それ自体通過帯域でわずかなうねりしかもたないフィルタパターンを示す。あまり最適化されていなかったフィルタにおいて顕著な改善をもたらす方法が、既に良好な特性の場合には、これに不利な影響を与えないことが分る。
【0066】
図19および20は、それぞれのフィルタパターンの外部の周辺回路へのマッチングを示す。フィルタ特性改善のための方法により、マッチングの劣化を蒙らないことがわかる。
【0067】
本発明によるバンドパスフィルタは上記の実施例の1つに限定されない。
変換器セグメントおよびその他のフィルタパターンの種々の組み合わせも、本発明による実施例となる。
【符号の説明】
【0068】
AT : 音響トラック
BPF : バンドパスフィルタ
C1,C2,C3: 電気接続端子
C1,NEW : 相互に調整された3つのカスケード段のそれぞれのアドミタンス
C3,CON : 従来の三段カスケードのアドミタンス
C3,new : 改良された三段カスケードのアドミタンス
CBP : 従来の共鳴器を有するバンドパスフィルタの挿入損失
CCON : 従来のバンドパスフィルタの挿入損失
CNEW : うねりが低減された改良バンドパスフィルタの挿入損失
CRES : カスケード型共鳴器
CRES : ファブリペロー共鳴を有する共鳴器のアドミタンス
EVM : エラーベクトル振幅
MPR : マルチポート共鳴器
P1,P2 : 第1,第2ポート
PR1,PR2,PR3: 並列分岐共鳴器
REF : 反射器
RES : 共鳴器
SEC1 : 第1の部分
SEC2 : 第2の部分
SECa,b,c,d: 異なる変換器部分
SR1,SR2,SR3: 直列分岐共鳴器
SU : 基板
TD : 変換器
TD1 : 第1の変換器
TD2 : 第2の変換器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
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