(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
バイオフィルムで汚染された部品を洗浄するための、特に、骨インプラントまたは歯インプラント(20)の細菌で汚染された表面を洗浄するための治療システム(1)であって、治療を要する部品に電気的に接触可能な導体要素(10)と、治療液を供給するために設けられた媒体カニューレ(2)とを備えており、前記導体要素は電気供給ユニット(16)の第1の電極に接続されており、前記媒体カニューレの内面は導電的に前記電気供給ユニット(16)の第2の電極に接続されている治療システム(1)。
前記媒体カニューレ(2)の出口開口(4)に蓋(40)が設けられており、前記蓋は、予め定めた最小の力よりも大きい力で前記出口開口(4)が或る面に押し付けられると、自動的に開くように構成されている請求項1または2に記載の治療システム(1)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1の治療システム1はバイオフィルムで汚染された構成部品、特に歯インプラント部の洗浄のために設けられたものである。この治療システム1は電解質による洗浄コンセプトのために設計され、このコンセプトでは治療を要する構成部分に適切に選ばれた特殊な治療液が的確かつ局所的に供給され、次いで治療を要する部分と治療液とを通って電流が発生される。このために治療システム1は媒体カニューレ2を有し、この中を治療液が案内され、出口開口4を介して供給される。ここで媒体カニューレ2の端部は長く延びた形状をしているので、治療液を場所的に狙いを定めてかつ制御して供給することができる。媒体カニューレ2は媒体回路で接続ホース6を介して治療液の貯蔵容器8と接続されている。
【0017】
これに加えて、治療システム1は電気システムとして特殊に構成されている。設計原理として、媒体カニューレ2の中を案内される媒体、特にその内部を案内される治療液に電流パルスをパルス状に流すことができるようになされている。治療システム1は、治療を要する構成部品の洗浄目的で用いられる電流を、治療を要する空間領域内で狙った場所に的確に供給できるように設計されている。治療システム1は、電流が治療を要する構成部品に供給され、かつ、この構成部品が電極として利用できるという設計原理に基づいて構成されている。このために治療システム1は1つの電流路を形成する1つの導体要素10を有している。この実施例ではこの導体要素は「在来型の」電極の様式で、すなわち、特に、金属製の針状の導体要素として作られているが、他の任意の導電性金属で作ることもできる。導体要素10の外側は電気的に絶縁されており、その自由端12だけが露出された金属の接触尖端部14を有している。これは治療中に治療を要する構成部品に適切に押し付けられ、その結果、前記構成部品への電気接触が確立される。導体要素10は電気的に電気供給ユニット16、特に、電流源または電圧源、の電極の1つと接続されている。
【0018】
電気供給ユニット16には制御ユニット18が付設されており、これによって、供給される電流ないし電圧を制御および調節できる。この制御ユニットはさらに、詳細には示されていない接続ホース6の搬送系にも作用し、接続ホース6を通る治療液の流量を調節することができる。
【0019】
対向極すなわち対向電極を形成するために、媒体カニューレ2に案内される治療液の電気伝導度が利用される。このために、媒体カニューレ2の内面が、媒体カニューレ2の内面と導電的に接続されているケーブル19を介して、電気供給ユニット16のもう一方の極と電気的に接続されている。これにより媒体カニューレ2の出口開口4は電気的に見て1つの接触点すなわち電気接点を形成し、この接点を介して電流が要治療部へ流れる。媒体カニューレ2とその出口開口4を要治療部のできるだけ直近に適切に位置決めし、また、出口開口4を電気接点として利用することによって、治療・洗浄目的のために印加された電流が要治療部の細菌に冒された表面ゾーンを通過して、そこからできるだけ直接に、すなわち、特に、他の人体組織または同等物を介して「迂回」することなく、接触面として機能する出口開口4に流れることができる。こうして、この実施例では、媒体カニューレ2は、その中を案内される導電性の治療液とこれらに対応する接続要素とを含めて、出口開口4への電気電流路を形成する第2の導体要素を形成する。
【0020】
媒体カニューレ2は適切に選ばれた電気絶縁性の母材、例えばプラスチックで作られている。しかし、媒体カニューレ2の中の治療液を電気的な導体要素としてさらに有効に利用し、かつ、特に確実な電気接触を保証するために、媒体カニューレ2は内側が、すなわち、治療液に面する内側表面が導電性の層を備えている。
【0021】
図2の拡大図から分かるように、媒体カニューレ2は治療液を的確に場所的に限定して供給するように要治療部に取付けられている。この実施例では、これは患者の口骨に挿入された歯インプラント20に基づいて説明されている。しかし、当然ながら、他の実施形態も可能であり、それらの場合には、部品から、例えば任意の構成の骨インプラントからフレキシブルかつ焦点を絞った方法でバイオフィルム患部が洗浄される。
図2には同様に、外側ねじ22部の領域で歯インプラント20に隣接した、顎骨26における空間的に限定された領域24が示されており、この領域がインプラント周囲炎に冒されており、細菌が繁殖している。
【0022】
一般的に、歯インプラントシステムでは、特に2つの部分で構成されたインプラントシステムでも、挿入箇所近傍の組織領域、特に顎に挿入された外側ねじ22の領域への細菌または病原菌の侵入により、複数の炎症、すなわち、炎症群が生じるという問題がある。この種の、特に、いわゆるインプラント周囲炎の結果として生じる炎症は、これが長期間に亘り進展し決定的になると、挿入箇所領域の組織と骨に重大な損傷をもたらすことになる。適切な処置を施さなければ、この損傷により、インプラントシステム全体を骨から再び摘出し、他の人工物で置き換えねばならないことにもなる。インプラント周囲炎に起因する非常に望ましくないこの結果は、こうして、このインプラントシステム全体を喪失することにつながり、その結果、例えば、顎骨の当該領域の切除と新たなインプラントシステムを提供することが不可欠となる。このような除去により、さらに、骨の損失または他の組織の損失が本質的に生じ、極端な場合には他のインプラントの提供がもはや全く不可能になることがある。インプラント周囲炎に起因するこのような新たなインプラント提供の必要性は、インプラントシステムを最初に挿入してからかなり長い期間の後に、例えば、数年、またはそれどころか数十年という期間の後に現れることがある。
【0023】
インプラント周囲炎と共に観察される細菌または病原菌は、この場合、基本的には歯インプラント20の複数のコンポーネントの内部に住みつくが、通常は主に、顎骨26に挿入された歯インプラント20の表面の周囲組織または骨物質との接触領域、すなわち、特に外側ねじ22の領域に直接的に付着する。この領域では、組織または骨の中への食い込みと根付きを特に有利にすべく、また、挿入後の歯インプラント20の治癒を促進すべく、歯インプラント20の表面はざらざらに、または、ざらざら相当にされている。しかし、このような、インプラントシステムにとって本来有利と看做されている、表面が粗らされた領域において、細菌または病原菌の侵入と増殖が生じ、この粗さがそこに存在する細菌または病原菌の除去を困難にする。
【0024】
そこで、初期の、または、既に生じているインプラント周囲炎の場合に、既に挿入されているインプラントシステムを維持しつつ、炎症群に有効に対処し、侵入した細菌を殺菌し、それによって、引き続き、外側ねじ22の周囲領域において健全な組織または骨物質を再び形成することができるようにするための、適切な対処策が緊急に求められている。さらに、当該領域において細菌または病原菌を的確に殺菌することに加えて、引き続き当該領域が健全な組織または骨物質で再び満たされ、再び、歯インプラント20の外側表面とこれを取り巻く組織または骨物質との間の内部結合が形成されるように、その物質残渣および断片をこの当該の空間領域から確実に取り除くことが望まれる。このためには、殺菌された細菌の有機的な残渣を含む、細菌層で形成されたバイオフィルムを確実に除去しなければならない。
【0025】
この目的のために、すなわち、歯インプラント20の挿入領域における病原菌または細菌の殺菌のため、および、特に、組織残渣と殺菌された細菌の残渣を引続いて洗い流し、除去し、搬出するために治療システム1が設けられている。これはその形態と原理的な構成に関して、それぞれが独立に進歩性を有すると看做される2つの基本コンセプトに基づいている:すなわち、一つには、歯インプラント20の挿入領域に存在する病原菌または細菌を、殺菌性はあるが人間の器官には無害な洗浄剤または消毒剤を的確に供給することによって的確に殺菌するように構成されている。他方では、場合によって歯インプラント20の表面、特に外側ねじ22の領域にまだ付着している病原菌および/または細菌の残渣または断片を、適切に電流またはパルス電流を流すことによって、歯インプラント20の外側表面から剥離し、その結果、次にこれらを洗い落とすことができるように構成されている。
【0026】
したがって、システム構成に関しても、この治療方法の所定の工程ステップに関しても、独立に進歩性を有すると看做される第1の観点では、この治療システム1が、構造的にも機能的/コンセプト的にも、細菌または病原菌を殺菌するために、および/または、挿入されたインプラント部を洗浄するために、治療液を歯インプラント20の挿入領域、特にその外側ねじ22の領域に的確に供給するように構成されている。
【0027】
同様にシステムの形態および使用される治療液の基本成分の選択と組合せに関しても、治療方法の所定の工程ステップに関しても、独立に進歩性を有すると見做される第2の観点において、この治療システム1は、殺菌された細菌または病原菌、ないし、その残渣または断片を歯インプラント20の外側表面から確実に剥離するために設計されており、それによって、次にこれらを洗い流すことができ、次いで、健康な組織または骨物質が歯インプラント20の表面に接し、柱部が健康な組織または骨物質の中に再び完全に食い込むことができる。殺菌された細菌または病原菌、ないし、その残渣または断片を表面から剥離するために、パルス的に電流を流しながら外側表面が導電性の治療液で濡らされる。全く驚くべきことに以下のことが明らかになった。すなわち、表面に凹凸があり、その表面構造により有機物質がもともと非常に付着し易い場合であっても、治療液中の適切に選ばれたイオン濃度との組み合わせにおいて電流をパルス的に流すことが、特に、細菌または病原菌、ないし、それらの残渣または断片をその下の表面から剥離するのに特に確実に作用することが判った。
【0028】
これは、柱部28、すなわち特に外側ねじ22の領域の外側表面領域において適切に選ばれた治療液を使用しつつ、歯インプラント20、特にその柱部28に電流を流すことにより、治療液中で電解反応が生じ、その結果、場合によってはこの表面の直近でガス泡が発生するという驚くべき知見に基づく。柱部28の表面でのこのガス泡形成により、表面に付着している病原菌または細菌の残存成分または断片は共に剥離され残らず除去され、その結果、この領域においては病原菌が新たに侵入するための基盤および培養地は形成されなくなる。病原菌、細菌またはそれらの残存成分すなわち残渣が取り去られ、凹凸の在る、有孔性の柱部28の表面が残されると、これは再生する骨組織への今後の結合のための良好な基盤として役立つことができる。後に残されるこの表面は、表面を陽極化する際にも生じる酸化チタン層によっても形成することができる。
【0029】
表面の確実な洗浄という点において、表面に付着しているバイオフィルム残存成分の挿入された柱部28からの望ましい剥離は、電流を流す際の特に適切な方法によりさらに促進される。これは、挿入された表面領域での通電の結果生じる電解による泡の形成が特に強化されるように行うことができる。この場合、柱部28は陽極に接続されても、陰極に接続されても良い。特に、柱部28を少なくとも一時的に陰極に接続すると、電解的に誘導されて水素ガスが発生し、これがガス泡の形成に特に有効に寄与する。これとは異なり、柱部を陽極に接続すると、治療液の成分に応じて塩素ガス、酸素、窒素、一酸化炭素、および/または、二酸化炭素が発生する。こうして生じたガス泡は周りの液体中を上昇してこれによる持ち去り効果を生じ、この持ち去り効果によって、上述した表面残存成分が共に運び去られ、外部へ搬出される。例えば、全く驚くべきことに以下のことが観察された。すなわち、プラスイオンを含む溶液、例えば、水溶性の塩溶液を使用した場合に、柱部28を陰極に接続すると、これらのイオンが柱部で析出し、これによりガス泡の形成が著しく増加することが判った。例えば、柱部28を陰極に接続した時には、Na
+イオンが存在すると大量のガス泡が形成される。Na
+が陰極で周囲の水と反応してNaOHを生じ、この時に水素を解放するからである。
【0030】
同様に、システム構成に関しても、この治療方法の所定の工程ステップに関しても、独立に進歩性を有する第3の観点では、この治療システム1が、前述した複数の観点の特に簡単且つ有効と考えられる組合せのために構成されている。これは、前記洗浄液体の所定の供給も、細菌および病原菌の残渣と断片の的確な剥離も、1つの共通のシステムにおいて前述した電流を流すことにより、したがって、特に簡単な手段により、達成できるというコンセプトに基づく。
【0031】
使用される治療液は、これらの観点を考慮して適切に選ばれ、組合される。ここで、この治療液の基本成分の選択と組合せは、特に意図されている作用方法、すなわち、治療を要する表面の空間領域における電流の導入を考慮して行われ、この際に、この目的のための十分に高い電気伝導度をこの治療液が有することが特に守られる。これは特に、治療液中における十分に高く選ばれたイオン濃度によって確保されねばならない。このために、治療液の基本成分として、好ましくは水溶液状の、金属塩が使用される。これは電流搬送のためのイオンを供給し、さらに、その都度の電極反応で生じる置換生成物もなお適切な生物化学的作用を有することができる。十分に高い電気伝導度を的確に選ぶことにより、挿入されたインプラントで本洗浄方法を実施する際に、この電流は治療液を通って、そしてその結果、治療を要する部分とコンポーネントを通って流れるが、患者の人体組織を通っては流れないことが保証され、これによって、軟組織、骨、血液、および/または、その他の人体物質を通る望ましくない電流により患者を危険に曝すことを最小限にとどめることができる。この場合、治療液の電気伝導度は、血液、骨、軟組織、脂肪組織または他の人体物質の電気伝導度の可能な限り何倍も高い値を有するべきである。
【0032】
したがって、治療液の基本成分の選択と組合せに際して、下記の電導度値が考慮される(電気伝導度σは通常の単位mS/cmで表示されている)。
皮膚: 0.03〜0.1mS/cm
骨: 0.06〜0.2mS/cm
脂肪組織: 0.20〜1.0mS/cm
筋肉組織: 0.80〜2.5mS/cm
血液: 約6.7mS/cm
その他の体液: 約15mS/cm
【0033】
したがって、患者の危険ポテンシャルを適切に低く抑えるために、また、電流を所望の領域に限定するためには、この電気伝導度はその他の体液の電導度の少なくとも2倍、好ましくは5倍、特に好ましくは10倍とする必要がある。そこで、治療液の電気伝導度は少なくとも30mS/cm、好ましくは少なくとも75mS/cm、特に好ましくは少なくとも150mS/cmの値を有するべきである。これは血液と比較すると、治療液の電気伝導度は血液の電導度の少なくとも約5倍、好ましくは少なくとも約10倍、特に好ましくは少なくとも約20倍であることを意味する。測定の結果、このように選ばれた治療液を使用した場合に、人体組織、血液、体液などに掛かる電圧は6V以下、好ましくは3V以下、特に好ましい場合には1.5V以下であることが判った。こうして、患者への害を、電圧が低く抑えられたので、確実に除外することができる。このような電導度を維持するために特に、治療液中の、および、これを形成している基本成分中のイオン濃度は十分に高く選ばれている;このために、複数のアルカリ液、酸、塩および/または複数の他のイオン形成性の物質または物質組成物を使用することが可能である。
【0034】
治療液の基本成分の選択と組合せに際して特に考慮すべきは、汚染されたインプラント部表面の電解的な治療の洗浄効果またはバイオフィルム剥離効果は、多くの要因の組合せに拠り、これらをできるだけ互いに補い合って利用可能としなければならない、ということである。その1つとして、特に電極領域にある電解質を通って電流が流れると、ガスまたはガス泡が発生し、これらはバイオフィルムに対して(機械的な)剥ぎ取り効果を有する。これらのガスの発生は電極として機能するインプラント部表面の直近で、すなわち、この表面とバイオフィルムとの間で生じる。この時発生する複数のガス泡の成長速度とその最大寸法とが剥離プロセスに影響を及ぼす。
【0035】
電解プロセスのインプラント部を洗浄する効果またはバイオフィルムを剥離する効果に対する第2の要因として、インプラント部表面のバイオフィルムの元々の付着、すなわち、張り付きメカニズムまたは固着メカニズムに対する、電解的に発生する物質または物質組成物の分解・破壊・剥離効果を挙げることができる。
【0036】
電解プロセスの洗浄効果または剥離効果に対する第3の要因は、インプラント部材料の材料を剥離する効果に基づくものであり、インプラント部の表面領域における元々のインプラント部の構成成分すなわち粒子がそこから剥離される。
【0037】
電解プロセスの洗浄効果または剥離効果に対する第4の要因は、金属製インプラントの電解プロセスによる酸化物層形成に基づくものである。この場合、金属製基本材料の金属原子が、印加されている電圧により、場合によっては既にできている酸化物層に浸透し、電解質の物質と反応する(殆どの場合、酸素⇒金属酸化物形成)。酸化物層を形成しない、ないし、機械的に安定な酸化物層を形成しない金属では、非酸化性の物質組成物が生じ(大抵は塩)、これは溶解する。
【0038】
治療液を形成するために用意される基本成分は、その効果を考慮して適切に選ばれ、組み合わされる。さらに、基本的な設計目的として、治療液を、挿入された歯インプラント部、すなわち、患者の口内で使用するのにも適するように、毒性の、または患者に危険を及ぼす、または、患者に不快を与える作用が生じてはならない、ことが考慮される。この実施例では、基本成分として、一方では少なくとも1つの塩、他方では少なくとも1つの酸が、好ましくは水で希釈されて用いられ、その選択と組合せは特に上述した基準に沿っている。この場合、特に好適には、酸として、燐酸、クエン酸、蟻酸、酢酸、乳酸、炭酸、または、これらの組合せが用いられる。この代わりにまたはこれに加えて、特に好適には、塩として、ナトリウム、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、錫、もしくは、カリウムのヨウ化物、塩化物、硝酸塩、炭酸塩もしくは炭酸水素塩、および/または、亜塩素酸アンモニウム、硝酸アンモニウムもしくはヨウ化アンモニウム、あるいは、これらの組合せが用いられる。
【0039】
この場合、さらに、予定されている電解プロセスは歯インプラントを選択的に陽極にまたは陰極に接続して行うことができることが考慮される。したがって、以下においては、陽極反応と陰極反応に分けて説明する。
【0040】
陽極反応では、すなわち、歯インプラント2を陽極に接続した場合には、治療液中に存在する陰イオンが陽極で一般的に電子を奪われて酸化される。この場合にこの材料との直接的な反応が生じ、特に、酸化物層、および/または、インプラント材料を含む塩が形成される。骨インプラントは、したがって歯インプラント2も、大抵はチタン、ジルコニウム、タンタル、または、これらの金属の合金で作られている。さらに他の複数の金属が合金的に添加されている。これらの金属または合金は大抵は高度の酸化物層形成性を有している。この酸化物層形成は表面を不動態化する作用を有する。その結果、これらの金属または合金の陽極反応は阻止されるか、または、少なくとも非常に強く低減される。多くの場合、バイオフィルム中には、酸素を有する物質組成物が存在しているので、この不動態化の阻止は大抵は不可能である。したがって、歯インプラントが陽極に接続された場合には、剥離、洗浄作用は多くの場合酸化物層の形成に限られる。広範な実験の結果、例えば20V以上の運転電圧を印加すると、材料を剥離するプロセスは可能であるが、これは高い温度上昇を伴うことが判った。この温度上昇は骨の望ましくない壊死に繋がる。さらに、これに伴って生じる材料剥離が元々のインプラント表面の特性を望ましくないように変化させる。
【0041】
この例外として、驚くべきことに次のことが判った。すなわち、柱部28の母材が合金成分としてアルミニウムを含んでいる場合には(例えば、約6%のアルミニウム成分と4%のバナジウム成分を含む等級Vチタンの場合)、酸化物層の形成がこのプロセスを著しく妨げることなしに、柱部28に陽極電流を流すことが可能であることが判った。これによって、治療液の組合せに応じて、塩素ガスまたはヨウ素ガスが、または、CO
2も直接柱部28の表面で発生することができ、その結果、意図しているバイオフィルムの剥離に直接利用することができる。このような方法を実施するために、治療要素30が、例えば、DLC(ダイアモンド状の炭素)、金属、導電性プラスチックからなる導電性の表面被覆を備えていると特に好適である。
【0042】
しかし上述した理由から、柱部28を、治療液を使用した治療時には一般的に陰極に接続するのが好適である。この場合、プラスに荷電されたイオン(カチオン)は歯インプラント20の表面に移動する。これは特に、例えばイオン性の液体からのH
+イオン、金属イオンまたは長鎖の炭化水素イオンである。この場合、治療液の基本成分として供される塩(えん)は、上記プロセスを有利に行う、または、そもそも可能とする、カチオンの特性を特に的確に考慮して選ばれる。できるだけ高い電気伝導度を発生するためには、特に小さいイオン(H
+イオンまたは金属カチオン)が適しており、これらのイオンはさらに他の特に有利な効果という点で、場合によっては存在しているバイオフィルムに比較的容易に侵入することができる。H
+イオンは、歯インプラント20で構成されている陰極で還元されて元素としてのHとなる。これが気泡形成を生じる。
【0043】
アルカリ金属、アルカリ土類金属および/またはアルミニウムは、陰極で周囲の水と反応して、元素状の水素と、前記金属の金属陽イオンおよびOH
−イオンを発生する。これは、水素の泡と、使用された金属イオンの水酸化物が形成されることを意味する。こうして、これらのコンポーネントの組合せにより、発生した水素の剥離作用に加えて、この金属水酸化物が抗細菌作用を有し、バイオフィルム、ないし、その付着メカニズムを弱めるまたは溶かす作用をする。
【0044】
人体組織との不適合性を避けるべく、金属陽イオンとしては特に、元々人体に存在するイオン(例えば、カリウムイオン、および/またはナトリウムイオン)が特に好適である。さらに、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、および/またはアルミニウムイオンも適している。したがって、治療液の基本成分として用いられる塩としては、特に好適にはこれらの金属の塩である。というのは、特に、これらの金属陽イオンがもともと塩の形でのみ例えば水に溶けており、使用することができるからである。
【0045】
これらの金属塩は、上記金属の適切な塩形成剤、例えば、硫黄、燐、窒素、フッ素、塩素、ヨウ素、臭素、炭化水素、酸素、ホウ素または他の非金属との化合物とすることができる。この場合、この塩形成剤は「陰イオンが大きければ大きいほど、電気伝導度は小さくなる」という原則と、基本的には高い電気伝導度が求められていることを考慮して適切に選ぶのが有利である。このために、陰イオンとしては、健康にもインプラント部周辺の組織にも影響を及ぼさない材料のみを選ぶのが好適である。さらに、不快な臭いや味の化合物が望ましくないことも考慮すべきである。これらの理由から、硫黄陰イオン、または、酸素または他の元素と結合した硫黄を含むイオンはむしろ不適切と看做される。このことは、フッ素イオン、窒素イオン、ホウ素イオンについても、場合によっては、他の元素と結合したこれらのイオンについても当てはまる。
【0046】
それに対して、燐酸塩、燐酸塩イオンおよび燐酸水素塩イオンは大抵は全くまたは殆ど有害作用を起こさない。塩素イオン、または、塩素含有イオンは大抵は抗細菌作用を有する。しかし、塩素イオンが電解的に酸化され、水中に元素として存在すると、塩酸と次亜塩素酸が形成される。これは陰極に発生する水酸化物と結合して中和されるが、実験の結果、インプラント部に対する対向電極(陽極)で発生する塩素はガスとして電解質から大量に逃げることが判った。この塩素を治療の際に完全に吸引することができなければ、肺、および/または、粘膜に強い腐食が起こる。この場合、これを使用することが、患者のためになるか、または、患者をより危険に曝すかについて熟考すべきである。
【0047】
アルミニウム、カリウム、ナトリウム、カルシウムまたはマグネシウムの燐酸塩についてはさらに、水への可溶性が小さいので、電解質の十分な電気伝導度が保証されないことに留意すべきである(尤も、これらの燐酸塩はpH値を緩和するための電解質の添加物としては非常に適している)。上に挙げた金属の塩化物は、水への十分な可溶性を有し、また、バイオフィルムに対する良好な洗浄作用と剥離作用を有するが、最適な物質と看做すことはできないであろう。硝酸塩、および/または、亜硝酸塩の場合には、NO
Xガス形成による患者の危険が予期される。この理由から、亜硝酸塩または硝酸塩の使用は思いとどまるべきである。
【0048】
上述した設計目的を考慮し、特に、患者に対して特に支障を生じないために、有利な実施例では塩形成剤としてヨウ素が用いられる。この場合、特に有利なのは、カリウムとナトリウムのヨウ素塩が人体内においても生まれつき存在することである。陽極でヨウ素イオンが酸化すると、先ずヨウ素元素が発生し、これがヨウ化ナトリウム溶液/ヨウ化カリウム溶液に溶けることができる。この時、ヨウ素‐ヨウ化カリウム溶液ないしヨウ素‐ヨウ化ナトリウム溶液ができる。両方の溶液は、人間の医療で実証済みの強い消毒剤である。
【0049】
しかし、純粋なヨウ化ナトリウム溶液もしくはヨウ化カリウム溶液または両者の混合液の欠点として、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを形成し、その結果としてpH値が高くなるということがある。すなわち、上述した金属水酸化物の形成時には、全く一般的に、金属水酸化物が電解質のpH値を高めることが問題であるとされる。このように高められたpH値、および、形成される、溶解した金属水酸化物のアルカリ液または塩基が、患者の口内の周辺組織と特に骨に好ましくない影響を及ぼすであろう。周辺の歯も損傷を受けるであろう。さらに、水酸化物の形成により、その水溶性が非常に小さいので、この水酸化物が柱部28または一般的に治療を要する部品上に沈積し、その結果、それ以降の電気の流れとこれによるこのプロセスを全体的に阻害することが生じるであろう。万一、治療液にカルシウム塩を使用する場合には、生成される水酸化カルシウムが、これは骨物質の構成成分であるので、骨に一体化されることになろう;したがって、カルシウムは塩の特に好ましい成分である。前記の好ましくない影響を補償するために、この治療液は他の基本成分として、pH緩衝剤すなわちpH低下剤の形で、酸を有する。
【0050】
この場合、この酸は、設計基準として、この酸ができるだけ患者またはインプラント部周辺組織に危険を与えず、一つには水酸化物を中和し(また、pH値を可能な限り7以上に高めない)、二つには生成物質がインプラント体の洗浄とバイオフィルムの剥離という本来の目的に資するように、的確に選ばれる。このために無機酸として好適には燐酸、および/または、フォスフェート酸が考慮の対象になる。これらの濃度は、健康を害する、および/または、骨および組織を害する理由から制限されるべきである。これに対して、無機酸とも看做され、殺菌と洗浄という全体目的に対して特に有効な効果を有する特に好適な酸は炭酸である。しかし、この使用可能な量は、水への可溶性が比較的小さいので、限定されている。
【0051】
これに対して有機酸は、無機酸と同様にpH値を低減し、水酸化物を中和するH
+イオンを供給する。さらに、これら有機酸は組織における損傷を全くまたはごく僅かしか起こさず、ないし、患者に全体として惹き起こさないので、この種の有機酸は治療液用の基本成分として特に好適である。有機酸としては、例えば、アルカン酸、フルーツ酸、カルボン酸およびヒドロキシカルボン酸がある。特に適した酸はα‐ヒドロキシカルボン酸であることが判った。特に、特に好適な酸である乳酸、クエン酸、およびリンゴ酸は患者に対して全体的にまたはインプラント部周辺組織に対して健康を損なう作用を全く示さなかった。バイオフィルムが強く付着して汚染されており、歯石も形成されているインプラント部の場合には特に、比較的僅かな酢酸の添加だけで良好な洗浄効果が得られた。洗浄効果および細菌殺菌効果を有するが、健康上の理由から問題なしとはしない他の酸は、フマル酸、グルコン酸、グリコール酸、サリチル酸、マンデル酸、酒石酸、酢酸、シュウ酸および蟻酸であろう。
【0052】
水酸化イオンOH
−を酸のこれに対応するH
+イオンで中和する際に、これに対応して使用された金属水酸化物の酸の金属塩が付加的に生成する。すなわち、この酸の予定された使用は、pH値の緩和に有利なだけでなく、その上にさらに、比較的水に溶けにくい水酸化物を比較的水に溶け易い塩に変換するのに役立ち、その結果、治療を要する部分への、好ましくなく、且つ、当該プロセスを阻害する沈積を妨げる。上に挙げられた複数の塩は、特に前述の好適な諸材料を組合わせて、とりわけ、医療においても使用される。カリウム、ナトリウム、および/または、カルシウムの水酸化物を乳酸で中和する際に、(広範な抗微生物作用を有する)乳酸カリウム、乳酸ナトリウムないし乳酸カルシウムが生成される。これに対して、生成される水酸化物をクエン酸で中和すると、カリウム、ナトリウム、ないしカルシウムのクエン酸塩が生成される。これは特にクエン酸ナトリウムにとっては、これが血液凝固を妨げるので、特に好適である。このプロセスの間に出血しインプラント部の表面に凝固する血液がインプラント部表面へのイオン移動を阻害し、その結果、この治療プロセスの継続そのものを妨げることになるので、このことは特に好適である。
【0053】
これに対して、水酸化物をリンゴ酸で中和する場合には、それぞれの陽イオンのリンゴ酸塩が生成され、これらは同様にこのプロセスに対して有利な作用を有する。水酸化物を酢酸で中和する場合には、カリウム、ナトリウム、および/または、カルシウムの酢酸塩が生成され、これらは同様にこのプロセスに対して有利な作用を有する。
【0054】
カリウム、ナトリウム、および/または、カルシウムの乳酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、および/または、酢酸塩はすべて、酸調節作用を有し、食料品添加物に対する現在のEU基準によれば、これらを使用しても量的規制を受けないほどに、体に差し障りがない。
【0055】
電解質中に酸を、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、アルミニウム、および/または、カルシウムのヨウ化物、および/または、塩化物と組み合わせて使用すると、この電解質の利用において驚くべきことに次の効果があることが判った。すなわち、H
+イオンの直接的な還元により、泡の形成にプラスの影響が与えられ、それによりバイオフィルムが著しく速く、且つ、良好に剥離される、という事が判った。この場合、高い発生率で比較的小さい泡が多数発生し、これらの直径が比較的小さいので、バイオフィルムを、全体として、局所的にだけでなく、その下の表面から剥離することができる。こうして、バイオフィルムは、多数のより小さな断片としてではなく、好ましいことに全体として、または、複数の比較的大きな繋がった塊りとして、除去され、このことは著しく改善された洗浄効果を惹き起こす。
【0056】
金属陽イオンの代りにアンモニウム陽イオンを使用することもできる。しかし、この場合には、電解プロセスにおいて他のアンモニウム化合物(例えば、アンモニア)が形成される危険がある。これは患者に危険を与え、不快な味と匂いも生じる。
【0057】
実験中に、バイオフィルムが部分的に非常に小さな複数の断片で、または、より大きな繋がった複数の部分の形状で剥離されることが観察された。後者は、比較的大きな面積で非常に有利な洗浄効果が得られるので、好適である。調査の結果さらに、剥離されたバイオフィルム、および/または、その断片の搬出がインプラント部表面における泡の形成により有利に行われることが判った。特に殺菌と剥離を行う、上述した金属塩、酸および水からなる電解質を使用した後に、陰極領域において補足的に泡形成作用を有する第2の電解質を使用すると、有利であることが判った。この泡形成は、その電解質に、少なくなくとも3つのCH
2鎖、または、少なくなくとも1つのCH
2鎖と少なくなくとも1つの炭素環化合物、を有する物質を付加的に添加することにより得られる。この場合、例えば、油、および/または、クロルヘキシジンを使用することができる。さらに、好適には、I
‐イオン、Cl
‐イオン、および/または、OH
‐イオンを有するイオン化された液体を使用することも可能である。イオン化された液体の有機陽イオン成分が場合によってはインプラント部表面で還元され、そこに留まるので、特に有利な実施例では、骨の成長要素をこの陽イオン成分に関連付けることが可能である。
【0058】
塩化物とヨウ化物を適正な割合で混合すると、有害な塩素ガスの形成を防ぐことができる。
陽極で、
2J+5Cl+6H
2O→10HCl+2HIO
3
という反応が生じる。
【0059】
これは、陽極で塩酸とヨウ素酸が生じることを意味する。これらは確実に強い抗微生物作用を有し、陰極で生じる水酸化物と出会って再び中和される。
【0060】
研究室での実験で特に有利な洗浄特性を示した治療液の特に好適な成分は、ヨウ化ナトリウム(NaI)またはヨウ化カリウム(KI)の水溶液を含み、その混合割合は30mlの溶液中に少なくなくとも5g、好適には少なくなくとも10g、特に好適には少なくなくとも20gであり(すなわち、場合によってはCO
2を豊富に含ませた水、H
2O)、乳酸を添加してpH値を約2.7から2.9の間に低下してある。
【0061】
このプロセス実施に際しては、柱部28ないし治療を要する部分での平均電流密度が少なくなくとも50mA/cm
2、好ましくは少なくなくとも100mA/cm
2、特に好ましくは少なくなくとも250mA/cm
2とされるが、ここで、この電流密度は柱部28の外側表面積に基づく(すなわち、例えば、表面粗さや表面構造のような表面積を大きくする特性を考慮しないで)。バイオフィルム剥離のためには、平均電流密度が50mA/cm
2から300mA/cm
2、好適には100mA/cm
2から200mA/cm
2の範囲にあることが特に有利であることが判った。バイオフィルム搬出のためには、平均電流密度の範囲を好適には300mA/cm
2から5,000mA/cm
2、または、特に好適には1,000mA/cm
2、から2,000mA/cm
2に高めるべきである。
【0062】
このシステム全体の、すなわち、電解による洗浄コンセプトの特に有利な展開では、治療液に付加的に超音波が加えられる。これにより洗浄効果がその化学的な基盤と共に機械的な方法によっても支援されるので、得られる洗浄効果を大幅に高めることができる。この目的のために洗浄カニューレの適切な位置に超音波発生器を付設することができる。
【0063】
図2に示された実施形態では、一方では媒体カニューレ2が、他方では導体要素10が、互いに基本的には独立した部品として設けられており、これらが共通の供給ユニット16と電気的に接続されている。ここで導体要素10は、
図2に示された実施例では、「在来型」電極の方式で、すなわち、特に金属製の針状導体要素として作られている。この構成により、一方では媒体カニューレ2を、他方では導体要素10を、互いに独立に移動し、位置決めできるので、治療を要する部品に対する特にフレキシブルな作業が可能である。この場合、特に、一方では接触尖端部14を、他方では出口開口4を、互いに独立に、そしてそれにより、場合によっては要治療部品への最適な電気的接触のために適切にこの部品に位置決めすることができる。
【0064】
これとは異なり
図3の実施例に代案が示されており、この場合には、媒体カニューレ2と導体要素10が1つの共通のハウジング30の中に組み込まれている。ここに示された実施例では、一方では媒体カニューレ2の媒体チャネルが、他方では導体要素10の電気導体が、互いに隣接し、横に並んで案内されているので、接触尖端部14と出口開口4をこれに応じて互いに隣接してハウジング30の自由端32に位置決めすることができる。代案として、これらのコンポーネントを同軸に配置することも可能であり、この場合には媒体カニューレ2の媒体チャネルが導体要素10を(またはこれとは逆に)リング状に包む。一般的に、媒体カニューレ2と導体要素10とに対して共通のハウジング30を有するこのように統合された構成によって、治療者がこのシステムを片手でも操作し位置決めできるので、取り扱いが容易になる。
【0065】
治療システム1と特にその制御ユニット18は、一方で治療液の供給が、他方で電流を流すことが、互いに調整されて行われるという意味において、協調された方法のために設計されている。このために例えば、一方で接続ホース6または貯蔵容器8に付設された治療液の輸送ユニットと、他方で電気供給ユニット16との協調のとれた制御を制御ユニット18により行うようにすることができる。これは自動的に、または、必要に応じて1つのスイッチにより手動でも制御することができる。この場合、手動操作可能なスイッチは特に洗浄カニューレの端部領域に配置することができるので、患者の治療時に操作者がこのシステム制御にアクセスすることができる。
【0066】
特に容易な取り扱いのために、媒体カニューレ2の出口開口4に、
図4の抜粋拡大図に示すように、蓋40を設けることができる。この蓋は、予め決めることができる最小の力よりも大きい力で出口開口4が或る面に押し付けられると、自動的に開く。このために、
図4の実施例では、蓋40は媒体カニューレ2の内部で媒体チャネルの長手方向に変位可能に支持されている中空円筒42を有し、この円筒の外被には多数の流入開口44が設けられている。中空円筒42は、無負荷状態では出口開口4の領域に配置されたガイドスリーブ48の内部に位置するように、与圧スプリング46により支持されており、このガイドスリーブが複数の流入開口44を閉鎖している。しかし、中空円筒42がスプリング力よりも十分に大きい力で或る面に押し付けられると、中空円筒はスプリング力に抗して内側に、媒体カニューレ2内に押し込まれるので、これらの流入開口44は解放され、媒体が媒体カニューレ2から中空円筒42を通って外へ流出することができる。このような構成またはこれと同様な構成により、操作者は媒体カニューレを接触面に押し付けることによって、治療液の放出を直接に制御することができる。
【0067】
好適な展開では、このシステムが電気供給ユニット16の制御ユニット18と電気的に結合されている。この場合、中空円筒42の変位と、これによる治療液の流出チャネルの解放とが電気的、電子的または同様な方法で検知され、これに対応した信号を制御ユニットのためのトリガー信号として利用するように特別にシステム設計を行うことができる。次いで、このトリガー信号に基づき、コンポーネントへの通電を、例えば格納された通電パターンに基づいて行うことができる。
【0068】
出口開口4にはさらに、電解液すなわち治療液が高すぎる圧力で周囲の組織に吐出されるのを避けるべく、旋回器(スワラ)、反射器またはディフューザー50が付設されている。すなわち、電解質洗浄カニューレがインプラントと軟組織の間に挿入されると、電解質の流入によってこのポケット部に過圧が発生することがあるからである。この過圧を補償するために電解液媒体カニューレの外側にさらに複数の排液溝を設けることができる。
【0069】
この電解質洗浄カニューレ、すなわち、媒体カニューレ2は腰、膝、肩、肘、足、足指、手、指、背骨の骨インプラント、および/または、他の導電性の骨インプラントの洗浄にも使用することができる。電気電流路出口の材料は金属合金または洗浄される骨インプラントと同じ金属で作られているのが好ましい。これは:チタン、ジルコニウム、タンタル、および/または、骨インプラントに使用される他の金属とすることができる。両電極の電気絶縁は生体適合性のあるプラスチック、ガラスまたはセラミックで構成するのが好ましい。
【0070】
電気供給ユニット16および/またはこれに付設された制御ユニット18は予定されている方法を実施するために適切に設計されている。これから供給される電圧または電流は、両方向の極性の直流電圧ないし直流電流として、または、交流電圧として、両方の電極に印加することができる。交流電圧の場合には、これは異なる周波数を有する正弦波、三角波、矩形波またはこれらの考えうる重畳とすることができる。さらに、この交流電圧に直流電圧を重畳することができる。パルス状の直流電圧を利用することも可能である。
【0071】
上述したように、互いに異なって組合された多くの電解質を相前後して、または、同時に、インプラントに供給することは特に好適である。このためにこの治療システム1は適切に構成されている。特に、少なくとも2つの液体または電解質のための多数の貯蔵容器8を設けることができる。これらは複数のポンプを介して、また、1つまたは複数の弁または弁ユニットを介して、同時に(混合して)または相前後して、接続ホース6を通って媒体カニューレ2に搬送することができる。
【0072】
電極材料は歯インプラント20と同じ材料とすることができる。歯インプラント20は好適にはチタンまたはチタン合金で作られているので、他の1つまたは複数の電極を他の金属で作るのが好ましい。チタンおよびチタン類似の金属は、陽極電流を流すと、大抵は保護性の酸化物層を形成し、これは絶縁物として機能する。歯インプラント20に陰極電流を流す場合にこのような酸化物層を介して電流が制限されないようにするために、対向電極として、酸化物層を殆ど形成しないか、全く形成しない金属を使用するのが好適である。特に有利な場合には、この電極は、媒体/電解質と接触しても、電圧または電流を加えても、腐食しない。好適にはこの電極は金、白金、パラジウムで作られる。