(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294493
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】エンジン高調波消去システムのアフターグローの軽減
(51)【国際特許分類】
G10K 11/16 20060101AFI20180305BHJP
H03H 21/00 20060101ALI20180305BHJP
H03H 17/00 20060101ALI20180305BHJP
G01M 15/12 20060101ALI20180305BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20180305BHJP
B60R 11/02 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
G10K11/16 100
H03H21/00
H03H17/00 601M
G01M15/12
F02D45/00 362P
F02D45/00 364A
B60R11/02 B
【請求項の数】20
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-540890(P2016-540890)
(86)(22)【出願日】2014年8月12日
(65)【公表番号】特表2016-541024(P2016-541024A)
(43)【公表日】2016年12月28日
(86)【国際出願番号】US2014050681
(87)【国際公開番号】WO2015034632
(87)【国際公開日】20150312
【審査請求日】2016年4月27日
(31)【優先権主張番号】14/016,561
(32)【優先日】2013年9月3日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591009509
【氏名又は名称】ボーズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】BOSE CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ディヴィス・ワイ・パン
【審査官】
大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】
特表2012−506070(JP,A)
【文献】
特開2009−257326(JP,A)
【文献】
特開平02−237298(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第00568128(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 11/02
F02D 45/00
G01M 15/12
H03H 17/00
H03H 21/00
G10K 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車両用の能動ノイズ低減システムを動作させるための方法であって、車両エンジン速度に関連した能動ノイズ低減システム入力信号があり、前記能動ノイズ低減システムが、フィルタ係数を使用して、ノイズ消去基準信号の振幅および/または位相を修正し、1つまたは複数の変換器を、それらの出力をエンジンノイズを低減するように向けて、駆動するのに使用される、ノイズ低減信号を出力する1つまたは複数の適応フィルタを備え、前記係数の値が適応フィルタ漏れ係数に関連する、方法であって、
車両エンジン動作に関連した前記入力信号に基づく前記エンジン速度の変化を監視するステップと、
前記エンジン速度の変化のみに応答して、前記適応フィルタ漏れ係数を修正するステップとを含む、方法。
【請求項2】
前記適応フィルタ漏れ係数が、前記エンジン速度の減少に応答して減少される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記適応フィルタ漏れ係数が、前記エンジン速度の減少に応答してゼロまで低減される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記適応フィルタ漏れ係数が、前記エンジン速度の前記減少が所与の時間にわたってエンジン速度の減少閾値を超えた後にのみ減少される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記適応フィルタ漏れ係数が、少なくとも出力がエンジンノイズの推定レベルを下回るまで低減される請求項2に記載の方法。
【請求項6】
エンジンノイズの前記レベルが、エンジン負荷から推定される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
エンジンノイズの前記レベルが、エンジントルクから推定される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
エンジンノイズの前記レベルが、異なるエンジン動作における、前に測定されたノイズレベルと前記エンジン動作との比較に基づいて推定される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記適応フィルタ漏れ係数が、時間の量に対して修正される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記時間の量が可変である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記時間の量が、前記エンジン動作の変化に依存する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
エンジン負荷の変化を監視するステップをさらに含み、前記適応フィルタ漏れ係数が、前記エンジン速度および前記エンジン負荷の一方または両方の変更に基づいて修正される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記フィルタ係数の前記値が、適応フィルタ適応速度にさらに関連し、エンジン速度の変化に応答して、前記適応速度が修正される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記適応速度の前記修正が一時的に行われる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
エンジン速度の変化に応答して、前記適応速度および前記漏れ係数の一方または両方が修正され、そのような修正の量およびそのような修正の持続時間の一方または両方が、前記エンジン速度が増加するのかまたは減少するのか、そのような増加または減少の程度、および/またはそのような増加または減少の持続時間に依存する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
自動車両用の能動ノイズ低減システムを動作させるための方法であって、車両エンジン速度に関連した能動ノイズ低減システム入力信号があり、前記能動ノイズ低減システムが、フィルタ係数を使用して、ノイズ消去基準信号の振幅および/または位相を修正し、1つまたは複数の変換器を、それらの出力をエンジンノイズを低減するように向けて、駆動するのに使用されるノイズ低減信号を出力する1つまたは複数の適応フィルタを備え、前記係数の値が、適応フィルタ漏れ係数に関連する、方法であって、
車両エンジン動作に関連した前記入力信号に基づく前記エンジン速度の変化を監視するステップと、
前記エンジン速度の変化のみに応答して、前記適応フィルタ漏れ係数を減少させるステップとを含み、前記適応フィルタ漏れ係数が、前記エンジン速度の変化が所与の時間にわたってエンジン速度の変化閾値を超えた後のみ減少され、前記適応フィルタ漏れ係数が、少なくとも出力がエンジンノイズの推定レベルを下回るまで低減され、エンジンノイズの前記レベルが、エンジン負荷から推定される、方法。
【請求項17】
前記適応フィルタ漏れ係数が、前記エンジン速度の変化に応答してゼロまで低減される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記フィルタ係数の値が、適応フィルタ適応速度にさらに関連し、エンジン速度の変化に応答して、前記適応速度が一時的に修正される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
エンジン速度の変化に応答して、前記適応速度および前記漏れ係数の一方または両方が修正され、そのような修正の量およびそのような修正の持続時間の一方または両方が、前記エンジン速度が増加するのかまたは減少するのか、そのような増加または減少の程度、および/またはそのような増加または減少の持続時間に依存する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
自動車両用の能動ノイズ低減システムの動作を制御するように構成されるデバイスであって、車両エンジン速度に関連した能動ノイズ低減システム入力信号があり、前記能動ノイズ低減システムが、フィルタ係数を使用して、ノイズ消去基準信号の振幅および/または位相を修正し、1つまたは複数の変換器を、それらの出力をエンジンノイズを低減するように向けて、駆動するのに使用されるノイズ低減信号を出力する1つまたは複数の適応フィルタを備え、前記係数の値が適応フィルタ漏れ係数に関連し、前記デバイスが、
車両エンジン動作に関連した前記入力信号に基づく前記エンジン速度の変化を監視し、
前記エンジン速度の変化のみに応答して、前記適応フィルタ漏れ係数を修正するように構成されるプロセッサを備える、デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は自動車両内のエンジンノイズの能動低減に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン高調波消去(EHC: engine harmonic cancellation)システムは、エンジン高調波ノイズを低減または消去するために自動車両に、例えば、キャビンに、または消音器組立品に使用される能動ノイズ低減システムである。EHCシステムは、1つまたは複数のマイクロホンを入力変換器として使用する。消去されるべきノイズに関連した信号は、適応フィルタにも入力される。適応フィルタの出力は、音を発生する1つまたは複数の変換器(すなわち、スピーカ)に加えられる。音は消去されるべき望ましくないエンジン音と音響的に正反対である。適応フィルタは、入力信号の大きさおよび/または位相を改変することができる。システムの目的は、音響変換器を使用して、周波数および振幅が同じだが位相が正反対(180度オフセット)の正弦波を出力することによって、正弦波エンジンノイズの周波数におけるマイクロホン信号を消去することにある。
【0003】
ある状況において、これらのEHCシステムは、エンジンノイズを消去するように設計されたスピーカ音出力レベルを、消去されるべきノイズのレベルよりも大きくさせるようにすることができる。これにより、望ましくない可聴ノイズアーチファクト(「アフターグロー」とも呼ばれる)が生じることがある。アフターグローは、エンジン負荷に突然の減少があり(例えば、変速機のアップシフトまたはダウンシフトがあり)、その結果、ノイズが減少する前の音圧レベルにEHC出力が一瞬とどまる間にキャビン内のエンジンノイズレベルに突然の減少が起きるときに生じる可能性がある。EHCシステムは、そのノイズ消去を再開するために新たな、より低いエンジンノイズレベルに適応し直さなければならず、このプロセスは、しばしば、一時的ノイズ利得を避けるのに必要である以上に遅い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示のシステム、デバイスおよび方法は、典型的には、自動変速機がアップシフトするとき、または手動変速機のクラッチが押し込まれるとき起きる、エンジンノイズレベルが突然減少するときEHC出力レベルが高いままであることによる可聴アーチファクトを最小限に抑え、または除去するのに有効である。このような場合のEHC出力の急速な低減は、エンジンRPMが突然減少するとき、適応フィルタ漏れ係数の値を減少させることによって達成され得る。その結果、エンジンノイズが突然降下するとき、エンジン高調波消去システムの出力トーンも降下し、したがって、ノイズ全体は低いままである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下に述べるすべての例および特徴は、任意の技術的に可能なやり方で組み合わせることができる。
【0006】
一態様において、自動車両用の能動ノイズ低減システムを動作させるように構成される方法であって、車両エンジン速度、例えば、RPMに関連した能動ノイズ低減システム入力信号があり、能動ノイズ低減システムが、フィルタ係数を使用して、ノイズ消去基準信号の振幅および/または位相を修正し、1つまたは複数の変換器を、それらの出力をエンジンノイズを低減するように向けて、駆動するのに使用される出力ノイズ低減信号を出力する1つまたは複数の適応フィルタを備え、係数の値が、適応フィルタ漏れ係数に関連する、方法が、車両エンジン動作に関連した入力信号に基づくエンジン速度の変化を監視するステップと、エンジン速度の変化に応答して、適応フィルタ漏れ係数の値を一時的に修正するステップとを含む。
【0007】
実施形態は、以下の特徴のうちの1つまたはそれらの任意の組合せを含むことができる。漏れ係数は、エンジン速度の減少に応答して減少させることができる。漏れ係数は、エンジン速度の減少に応答してゼロまで低減することができる。漏れ係数は、エンジン速度の減少が所与の時間にわたってエンジン速度の閾値の減少を超えた後のみ減少させることができる。漏れ係数は、少なくとも出力がエンジンノイズの推定レベルを下回るまで低減することができる。エンジンノイズのレベルは、エンジン負荷から推定することができる。エンジンノイズのレベルは、エンジントルクから推定することができる。エンジンノイズのレベルは、異なるエンジン動作における、前に測定されたノイズレベルとエンジン動作との比較に基づいて推定することができる。
【0008】
実施形態は、以下の追加の特徴のうちの1つ、またはそれらの任意の組合せを含むことができる。漏れ係数は、可変であり得る時間の量に対して修正することができる。時間の量は、エンジン動作の変化に依存することができる。方法は、エンジン負荷の変化を監視するステップをさらに含むことができ、適応フィルタ漏れ係数は、エンジン速度およびエンジン負荷の一方または両方の変更に基づいて修正される。適応フィルタ係数の値は、適応フィルタの適応速度にさらに関連することができ、その場合、エンジン速度の変化に応答して、適応速度は修正される。適応速度は、漏れ係数が減少された後のみ、または適応速度の修正が漏れ係数から独立し得た後のみのいずれかで修正され得る。適応速度の修正は、一時的に起きることがある。エンジン速度の変化に応答して、適応速度および漏れ係数の一方または両方は、修正することができ、その場合、そのような修正の量およびそのような修正の持続時間の一方または両方が、エンジン速度が増加するのかまたは減少するのか、そのような増加または減少の程度、および/またはそのような増加または減少の持続時間に依存する。
【0009】
別の態様において、自動車両のための能動ノイズ低減システムを動作させるための方法であって、その場合、車両エンジン速度に関連した能動ノイズ低減システム入力信号があり、能動ノイズ低減システムが、フィルタ係数を使用して、ノイズ消去基準信号の振幅および/または位相を修正し、1つまたは複数の変換器を、それらの出力をエンジンノイズを低減するように向けて、駆動するのに使用されるノイズ低減信号を出力する1つまたは複数の適応フィルタを備え、その場合、係数の値が適応フィルタ漏れ係数に関連する、方法が、車両エンジン動作に関連した入力信号に基づくエンジン速度の変化を監視するステップと、エンジン速度の変化に応答して、適応フィルタ漏れ係数を修正するステップ(例えば、低減するステップ)とを含み、その場合、適応フィルタ漏れ係数が、エンジン速度の変化が所与の時間にわたってエンジン速度の変化閾値を超えた後のみに修正され、適応フィルタ漏れ係数が、少なくとも出力がエンジンノイズの推定レベルを下回るまで修正され、エンジンノイズのレベルが、エンジン負荷から推定される。
【0010】
実施形態は、以下の特徴のうちの1つ、またはそれらの任意の組合せを含むことができる。漏れ係数は、エンジン速度の減少に応答してゼロまで低減することができる。適応フィルタ係数の値は、適応フィルタ適応速度にさらに関連することができ、その場合、エンジン速度の変化に応答して、適応速度は、一時的に修正される。エンジン速度の変化に応答して、適応速度および漏れ係数の一方または両方は、修正することができ、その場合、そのような修正の量およびそのような修正の持続時間の一方または両方は、エンジン速度が増加するのかまたは減少するのか、そのような増加または減少の程度、および/またはそのような増加または減少の持続時間に依存する。
【0011】
別の態様において、自動車両のための能動ノイズ低減システムの動作を制御するように構成されるデバイスであって、その場合、車両エンジン速度に関連した能動ノイズ低減システム入力信号があり、能動ノイズ低減システムが、フィルタ係数を使用して、ノイズ消去基準信号の振幅および/または位相を修正し、1つまたは複数の変換器を、それらの出力をエンジンノイズを低減するように向けて、駆動するのに使用されるノイズ低減信号を出力する1つまたは複数の適応フィルタを含み、その場合、係数の値が、適応フィルタ漏れ係数に関連する、デバイスが、車両エンジン動作に関連した入力信号に基づくエンジン速度の変化を監視し、エンジン速度の変化に応答して適応フィルタ漏れ係数を修正するように構成されるプロセッサを含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明のシステム、デバイスおよび方法を達成するのに使用することができるエンジン高調波消去システムの概略的構成図である。
【
図2】エンジン高調波消去システムのアフターグローを例示する図である。
【
図3】エンジン高調波消去システムのアフターグローの軽減を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面の
図1の要素を構成図における個別の要素として示し、説明する。これらは、アナログ回路またはデジタル回路の1つまたは複数として実装することができる。代替えとして、または追加として、それらはソフトウェア命令を実行する1つまたは複数のマイクロプロセッサを用いて実装することができる。適応フィルタは、デジタル信号プロセッサなどのプロセッサを用いて達成することができる。ソフトウェア命令はデジタル信号処理命令を含むことができる。動作はアナログ回路によってまたはアナログ動作の同等物を実行するソフトウェアを実行するマイクロプロセッサによって実行することができる。信号線は、個別のアナログまたはデジタル信号線として、別々の信号を処理することができる適切な信号処理を有する個別のデジタル信号線として、および/またはワイヤレス通信システムの要素として、実装され得る。
【0014】
プロセスが構成図において表現されまたは暗示されるとき、ステップは1つの要素または複数の要素によって実行され得る。ステップは、一緒に、または異なる時間に実行され得る。行動を実行する要素は、物理的に同じであり得る、または相互に近似し得る、または物理的に別個であり得る。1つの要素は、1つよりも多くのブロックの働きを実行することができる。オーディオ信号は符号化することができ、または符号化しない可能性があり、デジタル形態またはアナログ形態のいずれかで伝送することができる。従来のオーディオ信号処理機器および動作は、場合によって、図面から省略される。
【0015】
図1は、開示される本発明を具現化するエンジン高調波消去システム10の簡略化された概略図である。システム10は、信号を1つまたは複数の出力変換器14に供給する適応フィルタ20を使用し、出力変換器14はそれらの出力を車両キャビン12に向けさせる。変換器の出力は、キャビン伝達関数16によって修正されたとき、入力変換器(例えば、マイクロホン)18によって拾われる。車両キャビン内のエンジンノイズも、入力変換器18によって拾われる。既存の車両エンジン制御システム28は、車両エンジン動作に関連した1つまたは複数の入力信号を供給する。例には、RPM、トルク、アクセルペダル位置、およびマニホルド絶対圧力(MAP)が含まれる。適応フィルタ係数コントロール30には、エンジンRPMを含むが必ずしもそれに限定されない車両エンジン動作に関連するエンジン制御システム28から信号が入力される。以下にさらに説明するように、コントローラ30は、エンジンRPMの変化に応答して適応フィルタ20の漏れ係数を修正する。
【0016】
正弦波発生器25は、適応フィルタ20に対して、適応フィルタ20を使用して消去されるべきエンジン周波数の高調波を含むノイズ低減基準信号を提供する。適応フィルタ20はプロセッサを備える。「x信号」とも称される正弦波発生器25の出力もモデル化キャビン伝達関数24に提供されて、フィルタリングされたx信号を発生する。フィルタリングされたx信号とマイクロホン出力信号とは、共に乗算され26、制御入力として適応フィルタ20に提供される。適応フィードフォワード高調波ノイズ消去システムの動作は、当業者によってよく理解される。フィルタリングされたx適応アルゴリズムが使用される本事例において、アルゴリズム係数の変数は、適応速度および漏れを含む。適応アルゴリズムの適応速度および漏れは、参照によりその開示が本明細書に組み込まれている、米国特許第8,194,873号、第8,204,242号、第8,355,512号、および第8,306,240号に開示されている。
【0017】
フィルタ係数コントロール30は、適応フィルタ20に対して、エンジンRPMの変化に基づいて変換器14の出力を制限するのに有効である信号を提供する。結果として、システムは、車両キャビン12内のエンジンノイズの推定レベルしかないレベルの音を出力するように構成される。コントローラ30は、適応フィルタ20にエンジンRPMの変化に応答して少なくともアルゴリズムの漏れ係数を修正させることによってこの目標を達成することができる。コントローラ30は、フィルタの適応速度の修正を生じることもできる。
【0018】
適応フィルタ係数の値は、フィルタの漏れ係数に直接関連する。漏れ係数の値が低減される場合、係数がフィルタ適応の各反復に対して低減され、EHC出力トーンのレベルが低減される。適応フィルタはEHC出力トーンを変更するのに有限の時間の量を要するので、適応フィルタ出力の変更は、エンジンノイズへの突然の変化よりも遅れることがある。この遅れは、エンジン制御システムから受け取った信号に基づいてEHC出力を直接制御することによって低減され得る。エンジン速度(例えば、毎分回転数またはRPM)はエンジンノイズの振幅の指標である。エンジン速度が突然変化する場合、エンジンノイズが突然変化する。ノイズレベルは、その通常動作において、適応フィルタよりも速く降下することがあり、EHC出力トーンのレベルを低下させることがある。これが起きる場合、EHC出力は瞬時にエンジンノイズよりも大きくなり、「アフターグロー」と呼ばれる人間の知覚可能なノイズアーチファクトを生じる。
【0019】
システム10は、エンジン制御システム30を介して受け取られる突然のRPM変化に基づいてEHC出力トーンのレベルを適応フィルタ20に低減させることによってアフターグローを低減または除去することができる。このようにして、EHCシステムは、通常のフィードフォワード動作で反応するよりも速く反応することができる。EHC出力トーンのレベルは、コントローラ30を使用して、適応フィルタ20にその漏れ係数を低減させることによって迅速に低減することができる。1つの非限定例において、EHC出力トーンのレベルができるだけ迅速に降下するように漏れをゼロまで低減することができる。漏れの低減は、ノイズが消去される位置(例えば、車両キャビン)におけるEHC出力トーンレベルが推定エンジンノイズレベルしかない大きさになるまで継続することができる。この状況が達成されるとき、フィルタ動作を通常に戻すことができる。
【0020】
エンジンRPMは、通常、自動車両が動作している間変動する。システム10は、保証されないEHC出力変化を生じないように、これを考慮すべきである。したがって、コントローラ30は、エンジンRPMが迅速に変化するときのみ、漏れ係数を変化させるように適応することができる。例えば、少なくとも閾値絶対または相対量を所定の時間にわたって変化させると、コントローラ30を介して対抗する必要があるRPMの「突然の」変化を示すことがある。具体的な非限定例として、エンジンのRPMについて、その変速機が3速から4速にアップシフトするときを検討してみる。時速96.56064キロメートル(60マイル)で3速にあるとき、エンジンはRPMが約3500である。4速にアップシフトした後、RPMは2600RPMに降下する。1秒の何分の1かのうちに900RPMの突然の降下は、変速機のアップシフトとエンジンノイズレベルの顕著な一時的降下とがあることを強く示している。
【0021】
本発明の1つの結果は、消去システム出力が突然のエンジンRPMの変化によるキャビンエンジンノイズの低減よりもわずかに遅れることによる人間の検知可能なノイズアーチファクトの低減または除去である。
【0022】
本技術革新が働くことができるやり方の非限定例は、
図2および
図3を参照して例示する。
図2はアフターグローを例示する。車両キャビン内のエンジンノイズの二次音圧レベル(SPL: sound pressure level)をプロット52(実線)で例示する。時間60において、突然のアクセルペダルの解放により、または変速機のアップシフトなどの潜在的に他の働きにより、エンジンノイズが迅速に降下する。EHCシステム出力をプロット54(破線)で例示する。時間60の前で、EHC出力は、通常であり、エンジンノイズに従う。しかし、時間60の直後および時間61まで、EHC出力(プロット54の領域56)はエンジンノイズよりも大きい。これはアフターグローである。EHCシステムは、プロット54の領域57によって示すように、最終的には自己修正するものであり、通常のレベルに戻る。
【0023】
図3は、コントローラ30により、EHCトーンのレベルをより迅速に減少させるように適応フィルタの漏れ係数が低減されるシステム10の動作を例示する。時間60の直後の領域56aにおけるEHC出力曲線54は、ここで、迅速に、アフターグローが低減されるかまたは除去されるほどに迅速に降下する。通常の動作も、曲線54の領域57aで示すように、より迅速に戻る。システム10がEHCトーンレベルを人間の聴覚の知覚的限界に達しないうちにエンジンノイズよりも降下させることができる限り、アフターグローはほとんどないかまったく目立たないであろう。
【0024】
EHC出力トーンレベルは、漏れ係数値をゼロまで低減させることにより、最も迅速に低減することができる。しかし、EHCシステムが、漏れがゼロのままであるか、または非常に長く人工的に抑制されたままであるよりも迅速に通常の動作に戻ることが望ましい。動作は以下のように通常に戻ることができる(プロット54の領域57aで示すように)。1つのやり方は、コントローラ30を使用して、EHCトーンのレベルがエンジンノイズのレベルよりも低下するまでのみ漏れを低減することである。エンジンノイズは変換器を用いて測定することができる。実際のノイズレベルが既知でない場合、エンジンノイズを推定することができる。エンジンノイズを推定できる1つやり方は、エンジンノイズを示すエンジン制御システム28からの信号に基づくことであり得る。1つのそのような信号はトルクであり得る。コントローラ30は、トルク信号からエンジンノイズを推定し、EHC出力がこの推定以下になったら、漏れを人工的に抑制することをやめることができる。消去するとき、EHC出力のSPLは対象とするエンジンノイズのSPLにおよそ一致する。漏れ係数および時間の関数としてのSPLの降下は近似させることができる。したがって、アップシフトによるエンジンノイズSPLの降下が既知である場合、必要な漏れ係数の量および持続時間は、システム10によって計算することができ、使用することができる。代替としては、様々な動作状態における(例えば、様々なRPMおよびエンジン負荷における)エンジンノイズをシステム設計時(例えば、EHCシステムが特定のモデルの自動車両用に調整されるとき)に測定することができ、記録することができる。これらの値はシステム10に関連付けられたメモリに記憶させることができる。このメモリは、エンジンノイズを推定し、EHC出力とこの推定値とを比較するするやり方として、動作の間にクエリーを行い、現在のエンジン動作状態と比較することができる。
【0025】
適応フィルタ適応速度は、いかに迅速にEHC出力が変化に応答するのかということに影響する。出力がエンジンノイズを消去するのに有効である、EHC動作を通常に戻すことは、適応速度を増加させるようにすることによって加速させることもできる。この増加はコントローラ30によって達成することができる。任意のそのような増加は、望ましくは、一時的であるべきであり、EHCシステムが通常の動作に戻るのに十分な長さだけであるべきである。そのような増加は、典型的には、EHC出力が対象とするエンジンレベルを下回ると起き、EHCシステムが通常の消去動作に復帰するまで継続する。適応速度が、いかに迅速に適応フィルタ20がその出力を対象とするエンジンノイズレベルに合わせるかを決定するので、コントローラ30は、所定のおよび調整された時間の量に対する調整量によって一時的に適応速度を増加させることができ、したがって、適応がその最適ノイズ消去状態まで加速される。
【0026】
コントローラ30は、エンジン速度の増加に応答することもできる。RPMの突然の増加は、エンジンノイズSPLの突然の増加を生じさせることがある。EHCシステムは、この増加よりも遅れることがあり、それによって、エンジンノイズが乗員によって一時的に増加して聞こえる。EHCシステムの遅れは、コントローラ30を使用して、所与の時間を超えない範囲で、少なくとも所与の量のRPMの増加を検知すると、漏れ係数、および所望であれば適応速度に一時的変化を生じさせることによって、最小限に抑えるまたは効果的に除去することができる。例えば、前の例と逆に、4速から3速への変速機のダウンシフトの間、エンジンRPMは、2600RPMから3500RPMに増加する。ダウンシフトの間の非常に短い時間にわたって、エンジン負荷は、変速機がギアチェンジするために解除されると降下する。この時間の間、エンジンノイズレベルが降下し、したがって、漏れ係数を降下させて、EHC出力を迅速に低減することは有益である。EHC出力が対象とするエンジンノイズレベル以下になった後、一時的に適応速度を増加させ(調整された時間の量、例えば、50msにわたって、調整された量、例えば、2倍だけ)、したがって、EHC消去性能をできるだけ迅速に復帰させることは有益である。エンジンノイズ挙動はアップシフトとダウンシフトとでは異なるので、漏れ係数および適応速度を決定するとき、コントローラ30が大きな正のRPM変化と、大きな負のRPM変化とを区別することは有益である。
【0027】
より一般的に、漏れ低減の量および/または適応速度増加の量、および/またはそのような修正の持続時間は、エンジン速度の変化の速さによりおよび変化がエンジン速度の増加であるのかまたは減少であるのかにより指定することができる。例えば、エンジンノイズの降下の量および持続時間は、変速機がアップシフトするのかまたはダウンシフトするのかによって異なり、したがって、同調可能なフィルタパラメータはその相違に対応すべきである。適応速度および/または漏れ係数を修正することができる。そのような修正の量およびそのような修正の持続時間の一方または両方は、エンジン速度が増加するのかまたは減少するのか、そのような増加または減少の程度、および/またはそのような増加または減少の持続時間に依存することができる。
【0028】
上記は車両キャビン内のノイズ消去に関して説明したものである。しかし、本開示は他の車両の位置におけるノイズ消去にも適用される。1つの追加の例は、システムが消音器組立品内のノイズを消去するように設計することができることである。そのようなノイズはエンジン高調波ノイズであり得るが、当技術分野で知られているように、他のエンジン動作関連のノイズ(例えば、空調コンプレッサ)でもあり得る。
【0029】
上記のデバイス、システムおよび方法の実施形態は、当業者には明らかであるコンピュータ構成要素およびコンピュータ実装ステップを含む。例えば、コンピュータ実装ステップは、例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光ディスク、フラッシュROM、不揮発性ROM、およびRAMなどのコンピュータ可読媒体上のコンピュータ実行可能命令として記憶され得ることは当業者には理解されるはずである。さらに、コンピュータ可読命令は、例えば、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ、ゲートアレイなどの多種多様なプロセッサ上で実行され得ることが当業者には理解されるはずである。説明を容易にするために、上記のシステムおよび方法のことごとくのステップまたは要素がコンピュータシステムの一部として本明細書に説明されているわけではないが、各ステップまたは要素が対応するコンピュータシステムまたはソフトウェア構成要素を有し得ることを当業者は認識されよう。そのようなコンピュータシステムおよび/またはソフトウェア構成要素は、したがって、それらの対応するステップまたは要素(すなわち、それらの機能)を説明することによって有効となり、本開示の範囲内にある。
【0030】
本開示の様々な特徴は、本明細書に説明したやり方とは異なるやり方で有効とすることができ、本明細書に説明したやり方と異なるやり方で組み合わせることができる。いくつかの実装形態を説明してきた。それにもかかわらず、本明細書に説明した本発明概念の範囲から逸脱することなくの追加の修正を加えることができ、したがって、他の実施形態は以下の特許請求の範囲内にあることを理解されよう。
【符号の説明】
【0031】
10 エンジン高調波消去システム
12 車両キャビン
14 出力変換器
16 キャビン伝達関数
18 入力変換器
20 適応フィルタ
24 モデル化キャビン伝達関数
25 正弦波発生器
26 乗算される
28 車両エンジン制御システム
30 適応フィルタ係数コントロール
52 プロット
54 プロット、EHC出力曲線
56 領域
56a 領域
57 領域
57a 領域
60 時間
61 時間