(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記エチレン重合体Aがエチレン単独重合体であり、かつ、前記MFRが1g/10min以上100g/10min以下であり、かつ、前記Mw/Mnが2.5以上4.5以下である、請求項8又は9に記載のポリエチレン樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0013】
本実施形態のポリエチレン樹脂組成物は、密度が950〜965kg/cm
3であり、分子量分布(Mw/Mn)が5以上15以下であり、190℃、2.16kgのメルトフローレートが0.01g/10min以上5g/10min以下であり、含有塩素量がポリエチレンに対して5ppm以下であり、クロス分別クロマトグラフィー(CFC)で測定した89℃以上94℃以下の積分溶出量が、全溶出量の0.01質量%以上10質量%以下である。このように構成されているため、本実施形態のポリエチレン樹脂組成物は、残留塩素の低減を十分なものとした上で、高温でブリードアウトする低分子量成分の量を低減すると共に、良好な容器内面の平滑性を発揮することができる。すなわち、高温でもクリーン性が保持できるポリエチレン樹脂組成物であって、該ポリエチレン樹脂樹脂組成物を容器として使用した場合に、高温環境下でも内容物に対する汚染を極めて少なくすることができ、高度なクリーン性を発揮することができる。そのため、本実施形態のポリエチレン樹脂組成物は、高純度薬品用の容器の原料として好適に用いることができる。
【0014】
以下、上記要件について詳細に説明する。
【0015】
〔密度〕
本実施形態におけるポリエチレン樹脂組成物の密度は、950kg/cm
3以上965kg/cm
3以下であり、好ましくは952kg/cm
3以上963kg/cm
3以下であり、より好ましくは954kg/cm
3以上961kg/cm
3以下である。ポリエチレン樹脂組成物の密度は、エチレンと共重合する他のコモノマーの導入量等によって調整することができる。ポリエチレン樹脂組成物の密度が950kg/m
3以上であれば、容器の耐熱性、及び剛性が向上する。更に、溶出成分になり易い低分子量成分にα−オレフィンが挿入される割合が低下し、融点の低下を抑えられるため溶出量を抑制することもできる。一方、ポリエチレン樹脂組成物の密度が965kg/m
3以下であれば、耐環境応力性(ESCR)を向上させることができる。
【0016】
〔メルトフローレート(MFR)〕
本実施形態におけるポリエチレン樹脂組成物の190℃、2.16kgのメルトフローレートは、0.01g/10min以上5g/10min以下であり、好ましくは0.05g/10min以上4g/10min以下であり、より好ましくは0.1g/10min以上3g/10min以下である。ポリエチレン樹脂組成物の190℃、2.16kgのメルトフローレートは、主に分子量により調整することができ、重合系に水素を存在させる等によって調節することができる。ポリエチレン樹脂組成物の190℃、2.16kgのメルトフローレートが0.01g/10min以上であれば、成形性に優れ、表面が平滑な容器を形成することができる。また、溶融成形時の樹脂圧、及びシェアを低減することができるため成形機の錆等に含まれる金属成分を取り込みにくくなる。一方、ポリエチレン樹脂組成物の190℃、2.16kgのメルトフローレートが5g/10min以下であれば、溶出成分である低分子量成分の生成を低減することができる。
【0017】
〔分子量分布(Mw/Mn)〕
本実施形態のポリエチレン樹脂組成物の分子量分布(Mw/Mn)は、5以上15以下であり、好ましくは6以上14以下であり、より好ましくは7以上13以下である。後述する本実施形態所望の触媒を使用するか、後述するエチレン重合体Aとエチレン重合体Bの分子量差を小さくすることで分子量分布は小さくすることができる。一方、エチレン重合体Aとエチレン重合体Bの分子量差を大きくすることで、分子量分布を大きくすることができる。分子量分布(Mw/Mn)が5以上であれば、ブロー成形、及び射出成形、フィルム成形が容易で、ゲル量が少なく平滑性に優れた成形体が得られる。一方、15以下であれば、優れた成形性を保持したまま低分子量成分の発生を抑制することが可能で、クリーン性、耐衝撃性、耐熱特性が向上する。本実施形態のポリエチレン樹脂組成物の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mw/Mn)は、ポリエチレン樹脂組成物を溶解したオルトジクロロベンゼン溶液をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」ともいう。)で測定し、市販の単分散ポリスチレンを用いて作成した検量線に基づいて求めることができる。
【0018】
〔含有塩素量〕
ポリエチレン樹脂組成物の含有塩素量は、ポリエチレン樹脂組成物に対して3ppm以下であり、好ましくは2ppm以下、より好ましくは1ppm以下である。ポリエチレン樹脂組成物の含有塩素量は、後述する触媒を使用して、重合条件等を適宜調整することで目的の塩素量を達成することができる。具体的には、塩素含有量が0.01質量%以下の触媒担体を使用して調整された、塩素含有量が1質量%以下の触媒を使用すること等によって含有塩素量を調節することができる。ポリエチレン樹脂組成物の含有塩素量がポリエチレン樹脂組成物に対して3ppm以下であれば、成形機等の腐食が抑制されてポリマーに含有される金属成分量を低減することができ、更に、塩素及び塩酸に影響を受けやすい内容物を入れる容器として好適に使用することができる。
【0019】
〔クロス分別クロマトグラフィー(CFC)で測定した89℃以上94℃以下の溶出量〕
ポリエチレン樹脂組成物のクロス分別クロマトグラフィー(CFC)で測定した89℃以上94℃未満の積分溶出量は、全溶出量の0.01質量%以上10質量%以下であり、好ましくは0.01質量%以上8質量%以下であり、より好ましくは0.01質量%以上6質量%以下である。ポリエチレン樹脂組成物のCFCで測定した89℃以上94℃未満の積分溶出量が、全溶出量の0.01質量%以上10質量%以下であることにより、低結晶性成分の溶出を抑制することが可能であり、ビカット軟化点等の耐熱性も向上する。そのため、滅菌処理が必要な容器、あるいは貯蔵、搬送中に高温になる容器等に使用することができる。
【0020】
なお、ポリエチレン樹脂組成物のクロス分別クロマトグラフィー(CFC)で測定した89℃以上94℃未満の積分溶出量とは、結晶性が低く、高温下で容器から溶出し易い成分を意味する。
【0021】
ここで、「クロス分別クロマトグラフィー(CFC)」とは、結晶性分別を行う温度上昇溶出分別部(以下、「TREF部」ともいう。)と分子量分別を行うGPC部とを組み合わせた装置であって、例えば、TREF部とGPC部とを直接接続することにより組成分布と分子量分布の相互関係の解析できるように構成された装置である。なお、TREF部での測定を、CFCでの測定と記す場合がある。
【0022】
TREF部による測定は、「Journal of Applied Polymer Science,Vol 26,4217−4231(1981)」に記載されている原理に基づき、以下のような要領で行うことができる。まず、測定の対象とするポリエチレン樹脂組成物をオルトジクロロベンゼン中で完全に溶解させる。その後、一定の温度で冷却して不活性担体表面に薄いポリマー層を形成させる。このとき結晶性の高い成分が最初に結晶化され、続いて、温度の低下に伴って結晶性の低い成分が結晶化される。次に温度を段階的に上昇させると、結晶性の低い成分から結晶性の高い成分の順に溶出し、所定の温度での溶出成分の濃度を検出することができる。本実施形態の「89℃以上94℃以下の溶出量」とは、上記温度上昇時、94℃において溶出されたポリエチレン樹脂組成物量と89℃において溶出されたポリエチレン樹脂組成物量の差を示すものである。
【0023】
ポリエチレン樹脂組成物の各温度での溶出量、及び溶出積分量は、TREF部により、溶出温度−溶出量曲線を以下のように測定することで求めることができる。
図1にカラムの温度プロファイルを示す。具体的には、まず、充填剤を含有したカラムを140℃に昇温し、エチレン重合体をオルトジクロロベンゼンに溶かした試料溶液(例えば、濃度:20mg/20mL)を導入して120分間保持する。
【0024】
次に、降温速度0.5℃/分で40℃まで降温した後、20分間保持する。この工程で試料が充填剤表面に析出する。その後、カラムの温度を、以下のとおり順次昇温する。まず、50℃まで昇温速度20℃/分で昇温し、50℃で21分間保持する。続いて60℃まで昇温し60℃で保持する(昇温速度と保持時間は同前)。同様に保持温度を変えて昇温を続けるが、60℃から75℃までは5℃間隔で昇温・保持し、75℃から90℃までは3℃間隔で昇温・保持し、90℃から110℃までは1℃間隔で昇温・保持し、110℃から120℃までは5℃間隔で昇温・保持する。各保持温度で21分間保持した後に溶出した試料(エチレン重合体)の濃度を検出する。そして、試料(エチレン重合体)の溶出量(質量%)とその時のカラム内温度(℃)との値より、溶出温度−溶出量曲線(
図2)を測定し、各温度での溶出量、及び溶出積分量が得られる。より具体的には、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0025】
89℃以上94℃未満の溶出量を全溶出量の0.01質量%以上10質量%以下に調整するための手段としては、例えば、エチレン重合体Aを後述する範囲で製造すること、エチレンガス、溶媒、触媒等を連続的に重合系内に供給し、生成したエチレン重合体と共に連続的に排出する連続式重合にすること、触媒は予め水素と接触させた後、重合系内に添加すること、触媒導入ライン出口を、エチレン導入ラインの出口から可能な範囲で離れた位置にすること等が挙げられる。これらの手段により、触媒導入直後の急重合による発熱を抑制することができ、汚染物質となる低分子量成分、及び低結晶性成分等の副反応による生成を少なくすることができる。その結果、89℃以上94℃未満の溶出量を上記の範囲に調整することができる。
【0026】
また、エチレン重合体Aを後述する本実施形態の範囲に調整すること、溶融混練時の樹脂温度を200℃以下の低温にすることで分解成分の生成を抑制すること等でも、89℃以上94℃未満の溶出量を上述の範囲に調整することができる。
【0027】
更に、スラリー重合法で炭素数6〜12の炭化水素溶媒を使用すること、遠心分離法によってエチレン重合体と溶媒を分離し、乾燥前のエチレン重合体に含まれる溶媒量をエチレン重合体の重量に対して70質量%以下にすること、触媒の失活は、遠心分離法によって溶媒を可能な限り分離した後に実施すること等で、89℃以上94℃未満で溶出する成分を可能な限りポリエチレン樹脂組成物から除去することができ、上述の範囲に調整することができる。
【0028】
本実施形態のポリエチレン樹脂組成物は、上述したように、(1)密度が950〜965kg/cm
3であり、(2)分子量分布(Mw/Mn)が8以上15以下であり、(3)190℃、2.16kgのメルトフローレート(MFR)が0.01g/10min以上5g/10min以下であり、(4)含有塩素量がポリエチレンに対して5ppm以下であり、(5)クロス分別クロマトグラフィー(CFC)で測定した89℃以上94℃以下の積分溶出量が、全溶出量の0.01質量%以上10質量%以下である。すなわち、本実施形態のポリエチレン樹脂組成物は、上述した(1)〜(5)の全てを満たすことが重要である。一方、従来の方法では、上述の(1)〜(4)を満たした上で89℃以上94℃未満の溶出量を全溶出量の0.01質量%以上10質量%以下に調整することは困難であった。例えば、従来の方法では、分子量分布が8以上15以下の範囲で、メルトフローレートが4g/10minの場合、低分子量成分が多くなり、CFC測定による89℃以上94℃以下の積分溶出量は10質量%より多くなることによって、クリーン性が低下する。これに対して、本実施形態のポリエチレン樹脂組成物は、上述した、(1)〜(5)全てを満たすべく、急重合による副反応の抑制、ポリマー分解の抑制、及び後工程での不純物除去などの特別な方法を採用することにより、諸物性を良好なものとしつつも高いクリーン性を達成したものである。
【0029】
本実施形態のポリエチレン樹脂組成物のCFCで測定した94℃以上110℃未満の積分溶出量は、全溶出量の好ましくは80%以上であり、より好ましくは83%以上であり、さらに好ましくは85%以上である。ポリエチレン樹脂組成物のCFCで測定した94℃以上110℃未満の積分溶出量は、上述の方法で、89℃以上94℃未満の溶出量を少なくすることや、ポリマーの密度、MFR及び分子量分布Mw/Mnを本実施形態の所望の範囲内に調整すること等により調整することができる。94℃以上110℃未満の積分溶出量が上記範囲であることにより、成形性に優れ、かつ溶出成分が少なくビカット軟化点や耐衝撃性等に優れる成形体が得られる。
【0030】
すなわち、本実施形態のポリエチレン樹脂組成物において、所望の密度、分子量分布(Mw/Mn)、メルトフローレート、含有塩素量及び積分溶出量をいずれも満たすためには、上記した各制御条件に基づき、適宜調整すればよい。
【0031】
〔Al、Mg、Ti、Zr、及びHfの合計含有量〕
本実施形態のポリエチレン樹脂組成物のAl、Mg、Ti、Zr及びHfの合計含有量は、好ましくは20ppm以下であり、より好ましくは17ppm以下であり、更に好ましくは15ppm以下であり、少ないほど好ましい。Al、Mg、Ti、Zr及びHfは残留触媒灰分に主として含まれることから、これらの合計含有量が上記範囲であることにより、金属溶出成分を低減できるだけでなく、耐熱性に優れ、さらに着色も少なくなる傾向にある。
【0032】
ポリエチレン樹脂組成物のAl、Mg、Ti、Zr及びHfの合計含有量を制御する方法としては、後述するAlの少ない助触媒を使用する、又は遠心分離法によってエチレン重合体と溶媒を分離し、乾燥前のエチレン重合体に含まれる溶媒量をエチレン重合体の重量に対して70質量%以下にすること等が挙げられる。
【0033】
〔ヘキサンで抽出される炭素数12以上34以下の炭化水素成分の合計量〕
本実施形態のポリエチレン樹脂組成物のヘキサンで抽出される炭素数12以上34以下の炭化水素成分の合計量は、クリーン性の観点から、好ましくは200ppm以下であり、より好ましくは180ppm以下であり、さらに好ましくは160ppm以下である。ポリエチレン樹脂組成物の炭素数12以上34以下の炭化水素成分の合計量とは、常温で容器から内容物に溶出しやすい成分を意味する。ポリエチレン樹脂組成物の炭素数12以上34以下の炭化水素成分の合計量は、後述する触媒を使用して、重合条件等を適宜調整することで制御することができる。具体的には、(1)エチレンガス、溶媒、触媒等を連続的に重合系内に供給し、生成したエチレン重合体と共に連続的に排出する連続式重合にすること、(2)触媒は予め水素と接触させた後、重合系内に添加すること、(3)触媒導入ライン出口を、エチレン導入ラインの出口から可能な範囲で離れた位置にすること等により急重合を抑制し、更に、エチレン重合体Aを後述する本実施形態の範囲に調整すること、(4)溶融混練時の温度を低くして分解成分の生成を抑制すること等で、その生成を抑制することができる。また、スラリー重合法で炭素数6〜12の炭化水素溶媒を使用すること、遠心分離法によってエチレン重合体と溶媒を分離し、乾燥前のエチレン重合体に含まれる溶媒量をエチレン重合体の重量に対して70質量%以下にすること、触媒の失活は、遠心分離法によって溶媒を可能な限り分離した後に実施すること等で炭素数12以上34以下の炭化水素成分を可能な限りポリエチレン樹脂組成物から除去することができる。
【0034】
〔1000炭素中の二重結合の量〕
本実施形態のポリエチレン樹脂組成物の1000炭素中の二重結合の量は、0.1個以下であることが好ましく、より好ましくは0.09個以下であり、さらに好ましくは0.08個以下である。二重結合の量が0.1個以下であれば、熱による劣化を受けにくく、流動性が向上し、低分子量成分、金属成分、ゲル等を低減することができる傾向にある。通常、熱劣化を抑制するためには、酸化防止剤等を添加することが必要になるが、使用した酸化防止剤が溶出成分の原因となり、クリーン性が低下してしまう。しかしながら、二重結合の量が0.1個以下であれば、このようなクリーン性の低下も防止できる傾向にある。なお、二重結合の量は、使用する触媒により変化するため、後述する触媒等を適宜使い分けることにより制御することができる。
【0035】
〔ビカット軟化温度〕
本実施形態のポリエチレン樹脂組成物のビカット軟化温度は、好ましくは125℃以上135℃以下であり、より好ましくは126℃以上134℃であり、さらに好ましくは127℃以上133℃以下である。ポリエチレン樹脂組成物のビカット軟化温度は、後述する触媒を使用して、重合条件等を適宜調整することで制御することができる。具体的には、上述したヘキサンで抽出される炭素数12以上34以下の炭化水素成分の合計量を制御する手法を用いること等が挙げられる。ポリエチレン樹脂組成物のビカット軟化温度が125℃以上であれば、高温下でも容器が溶融変形することなく、更にスチームによる滅菌作業等も行い易くなる傾向にある。一方、ポリエチレン樹脂組成物のビカット軟化温度が135℃以下であれば、表面肌荒れの無い成形体を得られる傾向にある。
【0036】
〔シャルピー衝撃強度〕
本実施形態のポリエチレン樹脂組成物のシャルピー衝撃強度は、好ましくは20KJ/cm
2以上であり、より好ましくは25KJ/cm
2以上であり、さらに好ましくは30KJ/cm
2以上である。ポリエチレン樹脂組成物のシャルピー衝撃強度は、上述した要領で、エチレン重合体Aとエチレン重合体Bの重合生成量比、ポリマーの密度、MFR、分子量分布Mw/Mnを本実施形態の所望の範囲内に調整すること等により調整することができる。ポリエチレン樹脂組成物のシャルピー衝撃強度が20KJ/cm
2以上であれば、割れにくい容器となり、更には容器肉厚を薄くすることもできる傾向にある。
【0037】
〔エチレン重合体〕
本実施形態におけるエチレン重合体Aのポリエチレン樹脂組成物に対する重合生成量比は、好ましくは40質量%以上95質量%以下であり、より好ましくは50質量%以上90質量%以下であり、さらに好ましくは60質量%以上85質量%以下である。エチレン重合体Aのポリエチレン樹脂組成物に対する重合生成量比が40質量%以上であれば、成形性に優れ、肌荒れの無い成形体を形成することができる傾向にある。一方、95質量%以下であれば、低分子量成分の増加を抑制した状態で、成形体の剛性、耐熱特性、衝撃強度等を高めることができる傾向にある。エチレン重合体Aのポリエチレン樹脂組成物に対する重合生成量比は、1段目の重合生成量と2段目以降の重合生成量を調整することで制御することができる。上記の重合生成量比は、…により求めることができる。
【0038】
本実施形態におけるエチレン重合体Aはエチレン単独重合体であることが好ましい。単独重合体であれば、融点が高く、低分子量成分の溶出を抑制することが可能で、更に、耐熱特性等も高くなる傾向にある。エチレン重合体Aが、エチレンと他のコモノマーとの共重合体を含む場合は、その共重合体は低分子量成分の溶出特性及び耐熱特性が低下しない範囲でコモノマーを挿入することが好ましい。
【0039】
本実施形態におけるエチレン重合体Aの190℃、2.16kgのメルトフローレートは、好ましくは1g/10min以上100g/10min以下であり、より好ましくは10g/10min以上90g/10min以下であり、さらに好ましくは20g/10min以上80g/10min以下である。エチレン重合体Aの190℃、2.16kgのメルトフローレートは、限定されるものでは無いが、重合系に水素を存在させるか、あるいは重合時間や重合温度を変化させること等によって調整することができる。エチレン重合体Aの190℃、2.16kgのメルトフローレートが1g以上であれば、成形性に優れ、更に溶融成形時の樹脂圧、及びシェアを低減することができるため成形機の錆等に含まれる金属成分を取り込みにくくなる。一方、エチレン重合体Aの190℃、2.16kgのメルトフローレートが100g以下であれば、溶出成分である低分子量成分を低減することができる。
【0040】
本実施形態のエチレン重合体Aの分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは2.5以上4.5以下であり、より好ましくは2.7以上4.3以下であり、さらに好ましくは2.9以上4.1以下である。なお、後述する本実施形態所望の触媒を使用するか、重合系内の条件(水素濃度、温度、エチレン圧力等)を一定に保つことで、エチレン重合体の分子量分布を小さくすることができる。一方、エチレン重合体の分子量分布を大きくする方法としては、重合中の条件を変化させる(例えば、連鎖移動剤である水素の濃度を重合中に変化させる等)、あるいは回分式重合で触媒を断続的に導入する等の手法が挙げられる。エチレン重合体Aの分子量分布(Mw/Mn)が2.5以上であれば、ブロー成形、射出成形及びフィルム成形が容易で、ゲル量が少なく平滑性に優れた成形体が得られる傾向にある。一方、4.5以下であれば、低分子量成分の生成を低減することができ、耐衝撃性、耐熱特性も向上する傾向にある。
【0041】
本実施形態におけるエチレン重合体Bは、耐環境応力性、成形性等の観点からエチレンと、他のコモノマーとの共重合体であることが好ましい。本実施形態で用いることができるコモノマーは、特に限定されないが、具体的には、次の式で表されるαーオレフィンが挙げられる。
H
2C=CHR
2
(式中、R
2は炭素数1〜18のアルキル基、又は炭素数6〜20のアリール基であり、アルキル基は直鎖状、分岐状、又は環状である。)
【0042】
このようなコモノマーとしては、特に限定されないが、具体的には、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン、ビニルシクロヘキサン、スチレン及びこれらの誘導体よりなる群から選ばれる化合物;シクロペンテン、シクロヘプテン、ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、テトラシクロドデセン及び2−メチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレンよりなる群から選ばれる炭素数3〜20の環状オレフィン;1,3−ブタジエン、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン及びシクロヘキサジエンよりなる群から選ばれる炭素数4〜20の直鎖状、分岐状又は環状ジエンが挙げられる。本実施形態においては、経済性及び取扱いの容易さの観点から、特に、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン及び1−エイコセン等が好適である。
【0043】
本実施形態において、上記共重合体中に占めるエチレンのモル比としては、密度調整の観点から、80%以上100%未満であることが好ましく、より好ましくは85%以上100%未満であり、さらに好ましくは90%以上100%未満である。
【0044】
〔ポリエチレン樹脂組成物の製造方法〕
次に、本実施形態で使用されるポリエチレン樹脂組成物の製造方法、具体的にはエチレン単独重合体、又はエチレンと他のコモノマーとの共重合体の製造方法について述べる。
【0045】
(重合触媒)
本実施形態におけるエチレン重合体Aとエチレン重合体Bは、限定されるものでは無いが、少なくとも(ア)担体物質、(イ)有機アルミニウム化合物、(ウ)環状η結合性アニオン配位子を有する遷移金属化合物、及び(エ)該環状η結合性アニオン配位子を有する遷移金属化合物と反応して触媒活性を発現する錯体を形成可能な活性化剤、から調製された担持型幾何拘束型メタロセン触媒を用いて、エチレンを単独重合して、又はエチレンと他のコモノマーとを共重合して得ることができる。
【0046】
(ア)担体物質としては、有機担体、無機担体のいずれであってもよい。有機担体としては、特に限定されないが、具体的には、炭素数2〜10のα−オレフィンの(共)重合体、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−ヘキセン−1共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−ジビニルベンゼン共重合体;芳香族不飽和炭化水素重合体、例えば、ポリスチレン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体;及び極性基含有重合体、例えば、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリルニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0047】
上記無機担体としては、特に限定されないが、具体的には、無機酸化物、例えば、SiO
2、Al
2O
3、MgO、TiO
2、B
2O
3、CaO、ZnO、BaO、ThO、SiO
2−MgO、SiO
2−Al
2O
3、SiO
2−V
2O
5等;無機ハロゲン化合物、例えば、MgCl
2、AlCl
3、MnCl
2等;無機の炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、例えば、Na
2CO
3、K
2CO
3、CaCO
3、MgCO
3、Al
2(SO
4)
3、BaSO
4、KNO
3、Mg(NO
3)
2等;水酸化物、例えば、Mg(OH)
2、Al(OH)
3、Ca(OH)
2等が例示される。より好ましい担体物質はSiO
2である。担体の粒子径としては、任意の値をとることができるが、一般的には1〜3000μm、好ましくは3〜2000μm、より好ましくは5〜1000μmの範囲である。担体の塩素含有量としては、1質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以下であり、より好ましくは0.01質量%以下である。担体の塩素含有量が1質量%以下であれば、重合触媒の塩素含有量が低減でき、その結果、ポリエチレン樹脂組成物の塩素含有量を低減することができる傾向にある。担体の塩素含有量を低減する方法としては、塩素の少ない原料から担体を合成すること、生成した担体を水洗すること、ブロー及び焼成すること等が挙げられる。担体の塩素含有量は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0048】
上記(ア)担体物質は、必要に応じて(イ)有機アルミニウム化合物で処理される。好ましい(イ)有機アルミニウム化合物としては、特に限定されないが、具体的には、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、及びトリデシルアルミニウム等のアルキルアルミニウム;ジエチルアルミニウムモノクロリド、ジイソブチルアルミニウムモノクロリド、エチルアルミニウムセスキクロライド、エチルアルミニウムジクロリド、ジエチルアルミニウムハイドライド、及びジイソブチルアルミニウムハイドライド等のアルキルアルミニウムハイドライド;ジエチルアルミニウムエトキシド、ジメチルアルミニウムメトキシド、及びジメチルアルミニウムフェノキシド等のアルミニウムアルコキシド;メチルアルモキサン、エチルアルモキサン、イソブチルアルモキサン、及びメチルイソブチルアルモキサン等のアルモキサン等が挙げられる。これらのうちで塩素含有量が少ないトリアルキルアルミニウム、及びアルミニウムアルコキシド等が好ましい。より好ましくはトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムである。
【0049】
本実施形態における担持型幾何拘束型メタロセン触媒は、(ウ)環状η結合性アニオン配位子を有する遷移金属化合物(以下、単に「遷移金属化合物」と称することがある。)を含むことができる。本実施形態の遷移金属化合物は、特に限定されないが、具体的には、以下の式(1)で表すことができる。
L
lMX
pX’
q‥‥(1)
【0050】
式(1)中において、Mは、1つ以上の配位子Lとη
5結合をしている、酸化数+2、+3又は+4の周期律表第4族遷移金属である。
【0051】
また、式(1)中において、Lは、環状η結合性アニオン配位子であり、各々独立に、シクロペンタジエニル基、インデニル基、テトラヒドロインデニル基、フルオレニル基、テトラヒドロフルオレニル基又はオクタヒドロフルオレニル基であり、これらの基は20個までの非水素原子を含む炭化水素基、ハロゲン、ハロゲン置換炭化水素基、アミノヒドロカルビル基、ヒドロカルビルオキシ基、ジヒドロカルビルアミノ基、ヒドロカルビルフォスフィノ基、シリル基、アミノシリル基、ヒドロカルビルオキシシリル基及びハロシリル基から各々独立に選ばれる1〜8個の置換基を任意に有していてもよく、さらには2つのLが20個までの非水素原子を含むヒドロカバジイル、ハロヒドロカルバジイル、ヒドロカルビレンオキシ、ヒドロカルビレンアミノ、シラジイル、ハロシラジイル、アミノシラン等の2価の置換基により結合されていてもよい。
【0052】
さらに、式(1)中において、Xは、各々独立に、60個までの非水素性原子を有する1価のアニオン性σ結合型配位子、Mと2価で結合する2価のアニオン性σ結合型配位子、又はM及びLに各々1価ずつの価数で結合する2価のアニオン性σ結合型配位子である。X’は各々独立に、炭素数4〜40からなる、フォスフィン、エーテル、アミン、オレフィン及び共役ジエンから選ばれる中性ルイス塩基配位性化合物である。また、lは1又は2の整数である。pは0、1又は2の整数であり、Xが1価のアニオン性σ結合型配位子又はM及びLに各々1価ずつの価数で結合する2価のアニオン性σ結合型配位子であるとき、pはMの形式酸化数よりl以上少ない整数であり、またXがMと2価で結合する2価のアニオン性σ結合型配位子であるとき、pはMの形式酸化数よりl+1以上少ない整数である。また、qは0、1又は2である。遷移金属化合物としては、上記式(1)でl=1の場合が好ましい。
【0053】
例えば、遷移金属化合物の好適な例は、以下の式(2)で表される。
【0055】
式(2)式中において、Mは形式酸化数+2、+3又は+4の、チタニウム、ジルコニウム又はハフニウムである。また、式(2)中において、R
1は各々独立に、水素、炭化水素基、シリル基、ゲルミル基、シアノ基、ハロゲン、又はこれらの複合基であり、各々20個までの非水素原子を有することができ、また近接するR
1同士が相俟ってヒドロカルバジイル、シラジイル、ゲルマジイル等の2価の誘導体を形成して環状となっていてもよい。
【0056】
また、式(2)中において、X”は各々独立にハロゲン、炭化水素基、ヒドロカルビルオキシ基、ヒドロカルビルアミノ基又はシリル基であり、各々20個までの非水素原子を有しており、また2つのX”が炭素数5〜30の中性の共役ジエン若しくは2価の誘導体を形成してもよい。Yは−O−、−S−、−NR
*−又は−PR
*−であり、ZはSiR
*2、CR
*2、SiR
*2SiR
*2、CR
*2CR
*2、CR
*=CR
*、CR
*2SiR
*2又はGeR
*2であり、ここでR
*は各々独立に炭素数1〜12のアルキル基又はアリール基である。また、nは1〜3の整数である。
【0057】
さらに、遷移金属化合物としてより好適な例は、以下の式(3)及び(4)で表される。
【0060】
式中、式(3)及び(4)中において、R
1は各々独立に、水素、炭化水素基、シリル基、ゲルミル基、シアノ基、ハロゲン、又はこれらの複合基であり、各々20個までの非水素原子を有することができる。また、Mは、チタニウム、ジルコニウム又はハフニウムである。Z、Y、X及びX’は前出の定義と同じである。
【0061】
式(3)及び(4)中において、pは0、1又は2であり、またqは0又は1である。但し、pが2でqが0のとき、Mの酸化数は+4であり且つXはハロゲン、炭化水素基、ヒドロカルビルオキシ基、ジヒドロカビルアミド基、ジヒドロカルビルフォスフィド基、ヒドロカルビルスルフィド基、シリル基、又はこれらの複合基あり、20個までの非水素原子を有している。
【0062】
また、式(3)及び(4)中において、pが1でqが0のとき、Mの酸化数が+3であり且つXがアリル基、2−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェニル基及び2−(N,N−ジメチル)−アミノベンジル基から選ばれる安定化アニオン配位子であるか;Mの酸化数が+4であり且つXが2価の共役ジエンの誘導体であるか;又はMとXが共にメタロシクロペンテン基を形成している。
【0063】
さらに、式(3)及び(4)中において、pが0でqが1のとき、Mの酸化数は+2であり、且つX’は中性の共役あるいは非共役ジエンであって任意に1つ以上の炭化水素基で置換されていてもよく、また該X’は40個までの炭素原子を含むことができ、Mとπ型錯体を形成している。
【0064】
さらに、本実施形態において、遷移金属化合物として最も好適な例は、以下の式(5)及び(6)で表される。
【0067】
式(5)及び(6)中において、R
1は各々独立に、水素、又は炭素数1〜6のアルキル基である。また、Mはチタニウムであり、Yは−O−、−S−、−NR
*−、−PR
*−である。Z
*はSiR
*2、CR
*2、SiR
*2SiR
*2、CR
*2CR
*2、CR
*=CR
*、CR
*2SiR
*2、又はGeR
*2であり、R
*は各々独立に水素、あるいは、炭化水素基、ヒドロカルビルオキシ基、シリル基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基、又はこれらの複合基であり、該R
*は20個までの非水素原子を有することができ、また必要に応じてZ
*中の2つのR
*同志、又はZ
*中のR
*とY中のR
*とが相俟って環状となっていてもよい。
【0068】
式(5)及び(6)中において、pは0、1又は2であり、qは0又は1である。但し、pが2でqが0のとき、Mの酸化数は+4であり且つXは各々独立にメチル基又はベンジル基である。また、pが1、qが0のとき、Mの酸化数が+3であり且つXが2−(N,N−ジメチル)アミノベンジルであるか、又はMの酸化数が+4であり且つXが2−ブテン−1,4−ジイルである。また、pが0でqが1のとき、Mの酸化数は+2であり且つX’は1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン又は1,3−ペンタジエンである。前記ジエン類は金属錯体を形成する非対称ジエン類を例示したものであり、実際には各幾何異性体の混合物である。
【0069】
また、本実施形態におけるメタロセン系触媒は、(エ)遷移金属化合物と反応して触媒活性を発現する錯体を形成可能な活性化剤(以下、単に「活性化剤」と称することがある。)を含む。通常、メタロセン系触媒においては、遷移金属化合物と上記活性化剤により形成される錯体が、触媒活性種として高いオレフィン重合活性を示す。本実施形態において、活性化剤としては、特に限定されないが、具体的には、以下の式(7)で定義される化合物が挙げられる。
[L−H]
d+[M
mQ
p]
d− ‥‥(7)
【0070】
但し、式中[L−H]
d+はプロトン付与性のブレンステッド酸であり、Lは中性ルイス塩基である。また、式中[M
mQ
p]
d−は相溶性の非配位性アニオンであり、Mは周期律表第5族〜第15族から選ばれる金属又はメタロイドであり、Qは各々独立にヒドリド、ジアルキルアミド基、ハライド、アルコキシ基、アリールオキシ基、炭化水素基、炭素数20個までの置換炭化水素基であり、またハライドであるQは1個以下である。また、mは1〜7の整数であり、pは2〜14の整数であり、dは1〜7の整数であり、p−m=dである。
【0071】
本実施形態で、活性化剤のより好ましい例は以下の式(8)で定義される化合物である。
[L−H]
d+[M
mQ
n(G
q(T−H)
r)
z]
d− ‥‥(8)
【0072】
但し、式中[L−H]
d+はプロトン付与性のブレンステッド酸であり、Lは中性ルイス塩基である。また、式中[M
mQ
n(G
q(T−H)
r)
z]
d−は相溶性の非配位性アニオンであり、Mは周期律表第5族〜第15族から選ばれる金属又はメタロイドであり、Qは各々独立にヒドリド、ジアルキルアミド基、ハライド、アルコキシ基、アリールオキシ基、炭化水素基、炭素数20個までの置換炭化水素基であり、またハライドであるQは1個以下である。また、GはM及びTと結合するr+1の価数を持つ多価炭化水素基であり、TはO、S、NR、又はPRである。ここで、Rはヒドロカルビル、トリヒドロカルビルシリル基、トリヒドロカルビルゲルマニウム基又は水素である。また、mは1〜7の整数であり、nは0〜7の整数であり、qは0又は1の整数であり、rは1〜3の整数であり、zは1〜8の整数であり、dは1〜7の整数であり、n+z−m=dである。
【0073】
上記活性化剤のさらに好ましい例は、以下の式(9)で表される。
[L−H]
+[BQ
3Q
*]
− ‥‥(9)
【0074】
但し、式中[L−H]
+はプロトン付与性のブレンステッド酸であり、Lは中性ルイス塩基である。また、式中[BQ
3Q
*]
−は相溶性の非配位性アニオンであり、Bは硼素元素を表し、Qはペンタフルオロフェニル基であり、Q
*は置換基としてOH基を1つ有する炭素数6〜20の置換アリール基である。
【0075】
本実施形態の相溶性の非配位性アニオンとしては、特に限定されないが、具体的には、トリフェニル(ヒドロキシフェニル)ボレート、ジフェニル−ジ(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリフェニル(2,4−ジヒドロキシフェニル)ボレート、トリ(p−トリル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリス(2,4−ジメチルフェニル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリス(3,5−ジメチルフェニル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリス(3,5−ジ−トリフルオリメチルフェニル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(2−ヒドロキシエチル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(4−ヒドロキシブチル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(4−ヒドロキシ−シクロヘキシル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(4−(4´−ヒドロキシフェニル)フェニル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)ボレート等が挙げられる。これらを「ボレート系化合物」ともいう。本実施形態において、触媒活性の観点並びにAl、Mg、Ti、Zr及びHfの合計含有量を低減する観点から、担持型幾何拘束型メタロセン触媒の活性化剤が、ボレート系化合物であることが好ましい。好ましいボレート系化合物の具体例としては、トリス(ペンタフルオロフェニル)(ヒドロキシフェニル)ボレートが挙げられる。
【0076】
他の好ましい相溶性の非配位性アニオンとしては、特に限定されないが、具体的には、上記例示のボレートのヒドロキシ基がNHR基で置き換えられたボレートが挙げられる。ここで、Rは好ましくは、メチル基、エチル基又はtert−ブチル基である。
【0077】
また、プロトン付与性のブレンステッド酸としては、特に限定されないが、具体的には、トリエチルアンモニウム、トリプロピルアンモニウム、トリ(n−ブチル)アンモニウム、トリメチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、トリ(n−オクチル)アンモニウム、ジエチルメチルアンモニウム、ジブチルメチルアンモニウム、ジブチルエチルアンモニウム、ジヘキシルメチルアンモニウム、ジオクチルメチルアンモニウム、ジデシルメチルアンモニウム、ジドデシルメチルアンモニウム、ジテトラデシルメチルアンモニウム、ジヘキサデシルメチルアンモニウム、ジオクタデシルメチルアンモニウム、ジイコシルメチルアンモニウム、及びビス(水素化タロウアルキル)メチルアンモニウム等のようなトリアルキル基置換型アンモニウムカチオン;N,N−ジメチルアニリニウム、N,N−ジエチルアニリニウム、N,N−2,4,6−ペンタメチルアニリニウム、及びN,N−ジメチルベンジルアニリニウム等のようなN,N−ジアルキルアニリニウムカチオン;ジ−(i−プロピル)アンモニウム、及びジシクロヘキシルアンモニウム等のようなジアルキルアンモニウムカチオン;トリフェニルフォスフォニウム、トリ(メチルフェニル)フォスフォニウム、及びトリ(ジメチルフェニル)フォスフォニウム等のようなトリアリールフォスフォニウムカチオン;ジメチルスルフォニウム、ジエチルフルフォニウム、及びジフェニルスルフォニウム等;トリフェニルカルボニウムイオン、ジフェニルカルボニウムイオン、シクロヘプタトリニウム、及びインデニウム等が好適である。
【0078】
また、本実施形態における活性化剤として、次の式(10)で表されるユニットを有する有機金属オキシ化合物も用いることができる。
【0079】
【化6】
(ただし、式(10)中において、M
2は周期律表第13族〜第15族の金属、又はメタロイドであり、Rは各々独立に炭素数1〜12の炭化水素基又は置換炭化水素基であり、nは金属M
2の価数であり、mは2以上の整数である。)
【0080】
本実施形態の活性化剤の好ましい例は、例えば次式(11)で示されるユニットを含む有機アルミニウムオキシ化合物である。
【0081】
【化7】
(但し、式(11)中において、Rは炭素数1〜8のアルキル基であり、mは2〜60の整数である。)
【0082】
本実施形態の活性化剤のより好ましい例は、例えば次式(12)で示されるユニットを含むメチルアルモキサンである。
【0083】
【化8】
(但し、式(12)中において、mは2〜60の整数である。)
【0084】
また、本実施形態では、上記(ア)〜(エ)触媒成分の他に、必要に応じて有機アルミニウム化合物を触媒成分として用いることもできる。本実施形態の有機アルミニウム化合物とは、特に限定されないが、具体的には、次式(13)で表される化合物が挙げられる。
AlR
nX
3−n ‥‥(13)
【0085】
上記式(13)中において、Rは炭素数1〜12の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基であり、Xはハロゲン、水素又はアルコキシル基であり、nは1〜3の整数である。本実施形態の有機アルミニウム化合物は、上記式(13)で表される化合物の混合物であっても構わない。
【0086】
本実施形態で用いる触媒は、成分(ア)に、成分(イ)成分(ウ)及び成分(エ)を担持させることにより得ることができる。成分(イ)〜成分(エ)を担持させる方法は特に限定されないが、一般的には成分(イ)、成分(ウ)及び成分(エ)をそれぞれが溶解可能な不活性溶媒中に溶解させ、成分(ア)と混合した後、溶媒を留去する方法;成分(イ)、成分(ウ)及び成分(エ)を不活性溶媒に溶解後、固体が析出しない範囲でないでこれを濃縮して、次に濃縮液の全量を粒子内に保持できる量の成分(ア)を加える方法;成分(ア)に成分(イ)、及び成分(エ)をまず担持させ、ついで成分(ウ)を担持させる方法;成分(ア)に成分(イ)及び成分(エ)、及び成分(ウ)を逐次に担持させる方法等が例示される。本実施形態の成分(ウ)、及び成分(エ)は一般的には液体又は固体である。本実施形態では成分(イ)、成分(ウ)、成分(エ)は、担持の際、不活性溶媒に希釈して使用する場合がある。
【0087】
この目的に使用する不活性溶媒としては、特に限定されないが、具体的には、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;エチルクロライド、クロルベンゼン、ジクロルメタン等のハロゲン化炭化水素;あるいはこれらの混合物等を挙げることができる。かかる不活性溶媒は、乾燥剤、吸着剤等を用いて、水、酸素、硫黄分等の不純物を除去して用いることが望ましい。
【0088】
本実施形態において、成分(ア)1gに対し、成分(イ)はAl原子換算で1×10
−5〜1×10
−1モルが好ましく、より好ましくは1×10
−4〜5×10
−2モル、成分(ウ)は1×10
−7〜1×10
−3モルが好ましく、より好ましくは5×10
−7〜5×10
−4モル、成分(エ)は1×10
−7〜1×10
−3モルが好ましく、より好ましくは5×10
−7〜5×10
−4モルの範囲である。各成分の使用量及び担持方法は、活性、経済性、パウダー特性、及び反応器内のスケール等により決定される。得られた担持型幾何拘束型メタロセン触媒は、担体に担持されていない有機アルミニウム化合物、ボレート化合物、チタン化合物を除去することを目的に、不活性溶媒を用いでデカンテーションあるいは濾過等の方法により洗浄することもできる。本実施形態の高純度薬品用容器で使用される高密度ポリエチレンを製造する場合には、クリーン性を向上させるために、デカンテーションあるいは濾過を3回以上実施することが好ましい。
【0089】
上記一連の溶解、接触、洗浄等の操作は、その単位操作毎に選択される−30℃以上150℃以下範囲の温度で行うことが推奨される。そのような温度のより好ましい範囲は、0℃以上100℃以下である。担持型幾何拘束型メタロセン触媒を得る一連の操作は、乾燥した不活性雰囲気下で行うことが好ましい。本実施形態で用いる担持型幾何拘束型メタロセン触媒は、不活性溶媒中に分散したスラリー状態で保存することも、あるいは乾燥して固体状態で保存することもできる。
【0090】
本実施形態で用いる担持型幾何拘束型メタロセン触媒の塩素含有量は、好ましくは0.1質量%以下であり、より好ましくは0.05質量%以下であり、さらに好ましくは0.01質量%以下である。担持型幾何拘束型メタロセン触媒の塩素含有量が0.1質量%以下であれば、エチレン重合体及びポリエチレン樹脂組成物の塩素含有量が低減する傾向にある。
【0091】
また、本実施形態で用いる担持型幾何拘束型メタロセン触媒は、それのみでエチレンの単独重合、又はエチレンとαーオレフィンの共重合が可能であるが、溶媒や反応系の被毒の防止のため、付加成分として有機アルミニウム化合物を共存させて使用することもできる。好ましい有機アルミニウム化合物としては、特に限定されないが、具体的には、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、及びトリデシルアルミニウム等のアルキルアルミニウム;ジエチルアルミニウムモノクロリド、ジイソブチルアルミニウムモノクロリド、エチルアルミニウムセスキクロライド、エチルアルミニウムジクロリド、ジエチルアルミニウムハイドライド、及びジイソブチルアルミニウムハイドライド等のアルキルアルミニウムハイドライド;ジエチルアルミニウムエトキシド、ジメチルアルミニュウトリメチルシロキシド、ジメチルアルミニウムフェノキシド等のアルミニウムアルコキシド;メチルアルモキサン、エチルアルミキサン、イソブチルアルミキサン、及びメチルイソブチルアルモキサン等のアルモキサンが挙げられる。これらの中でも、トリアルキルアルミニウム、アルミニウムアルコキシドが好ましい。より好ましくはトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムである。
【0092】
(重合方法)
本実施形態におけるエチレン単独重合体、又はエチレンと他のコモノマーとの共重合体の重合方法は、特に限定されないが、具体的には、スラリー重合法、気相重合法、又は公知の重合方法を用いることができる。本実施形態において重合を行う場合、一般的には重合圧力は1〜100気圧が好ましく、より好ましくは3〜30気圧である。また、重合温度は20℃〜115℃が好ましく、より好ましくは50℃〜90℃である。よりクリーン性に優れ、バリアー性を有した容器を提供するためには、スラリー重合法が好適である。本実施形態でスラリー重合法を用いる場合、温度の上限は生成するエチレン単独重合体又は共重合体が実質的にスラリー状態を維持し得る温度とすることが好ましい。この値以下であれば、エチレン単独又は共重合体の分子量分布が3以上となる。一方、温度の下限は低分子量成分が溶媒に溶出し易い20℃以上にすることが好ましい。
【0093】
スラリー重合法に用いる溶媒としては、本実施形態で先に記載した不活性溶媒が好適である。上記不活性炭化水素媒体としては、特に限定されないが、具体的には、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;エチルクロライド、クロルベンゼン、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素又はこれらの混合物等を挙げることができる。
【0094】
本実施形態のエチレン単独重合体、又はエチレンと他のコモノマーとの共重合体の重合方法は、回分式、半連続式、連続式のいずれの方法において行なうことができるが、連続式で重合することが好ましい。エチレンガス、溶媒、触媒等を連続的に重合系内に供給し、生成したエチレン重合体と共に連続的に排出することで、急激なエチレンの反応による部分的な高温状態を抑制することが可能となり、重合系内がより安定化する。系内が均一な状態でエチレンが反応すると、低分子量成分の生成、ポリマー鎖中の分岐や二重結合等の生成が抑制される。更に、エチレン重合体の分解や架橋による低分子量成分や超高分子量体の生成が抑制される。これにより、ポリエチレン樹脂組成物の溶出成分が減少し、耐熱劣化性と耐熱変形性が向上し、更に、表面の肌荒れ等も減少するため、高純度薬品容器として好適に利用することが出来る。よって、重合系内がより均一となる連続式が好ましい。
【0095】
本実施形態における、エチレン重合体A又はエチレン重合体Bの重合方法としては、複数の重合器を直列につないで重合を行う多段式スラリー重合法を用いて、前段で前記エチレン重合体Aを重合し、後段で前記エチレン重合体Bを重合することが好ましい。このように重合を行う場合、エチレン重合体Aとエチレン重合体Bをブレンドすることにより得られるポリエチレン樹脂組成物よりもゲルが少なくなり、容器内面の平滑性も高くなり、クリーン性も向上する傾向にある。
【0096】
本実施形態におけるポリエチレン樹脂組成物及びエチレン重合体のMFRの調整は、西独国特許出願公開第3127133号明細書に記載されているように、重合系に水素を存在させるか、又は重合温度を変化させること等によって調節することができる。重合系内に連鎖移動剤として水素を添加する場合、エチレン重合体ないしポリエチレン樹脂組成物の分子量を本実施形態所望の範囲に調整しやすくなる傾向にある。重合系内水素を添加する場合、水素のモル分率は、0mol%以上30mol%以下であることが好ましく、0mol%以上25mol%以下であることがより好ましく、0mol%以上20mol%以下であることがさらに好ましい。
【0097】
本実施形態において、更に、水素は予め触媒と接触させた後、触媒導入ラインから重合系内に添加することが好ましい。触媒を重合系内に導入した直後は、導入ライン出口付近の触媒濃度が高く、エチレンが急激に反応することによって部分的な高温状態になる可能性が高まるが、水素と触媒を重合系内に導入する前に接触させることで、触媒の初期活性を抑制することが可能となり、低分子量成分の生成等も効果的に抑制できる傾向にある。よって、水素を触媒と接触させた状態で重合系内に導入することが好ましい。同様の理由から、重合系内の触媒導入ラインの出口は、エチレン導入ラインの出口から可能な範囲で離れた位置にすることが好ましい。具体的には、エチレンは重合液の底部から導入し、触媒は重合液の液面と底部の中間から導入する等の方法が挙げられる。
【0098】
(処理方法)
本実施形態におけるポリエチレン樹脂組成物の製造方法における溶媒分離方法は、デカンテーション法、遠心分離法、フィルター濾過法等によって行うことができるが、ポリエチレン樹脂組成物と溶媒との分離効率が良い遠心分離法がより好ましい。溶媒分離後にポリエチレン樹脂組成物に含まれる溶媒の量としては、特に限定されないが、好ましくはポリエチレン樹脂組成物の重量に対して70質量%以下であり、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下である。ポリエチレン樹脂組成物に含まれる溶媒が少量の状態で溶媒を乾燥除去することにより、溶媒中に含まれる金属成分や低分子量成分等がエチレン重合体に残存しにくい傾向にある。これらの成分が残存しないことにより、ポリエチレン樹脂組成物の溶出成分が減少し、耐熱劣化性と耐熱変形性が向上し、更に、表面の肌荒れ等も減少するため、高純度薬品容器として好適に利用することが出来る。よって、ポリエチレン樹脂組成物と溶媒との分離効率が良い遠心分離法がより好ましい。また、溶媒と分離されたポリエチレン樹脂組成物を、不純物を含まない精製ヘキサン等で洗浄することで、溶出成分を除去することもできる。
【0099】
本実施形態におけるポリエチレン樹脂組成物を合成するために使用する触媒の失活方法としては、特に限定されないが、ポリエチレン樹脂組成物と溶媒を分離した後に実施することが好ましい。溶媒と分離した後に触媒を失活させるための薬剤を導入することで、溶媒中に含まれる低分子量成分や触媒成分等の析出を低減することができ、その結果、溶媒中に含まれる金属成分や低分子量成分等がポリエチレン樹脂組成物に取り込まれにくくなる傾向にある。
【0100】
触媒系を失活させる薬剤としては、酸素、水、アルコール類、グリコール類、フェノール類、一酸化炭素、二酸化炭素、エーテル類、カルボニル化合物、アルキン類等を挙げることができる。
【0101】
本実施形態のポリエチレン樹脂組成物の製造方法における乾燥に際しては、窒素やアルゴン等の不活性ガスを流通させた状態で実施することが好ましい。また、乾燥温度としては、通常、50℃以上150℃以下であり、好ましくは50℃以上140℃以下であり、より好ましくは50℃以上130℃以下である。乾燥温度が50℃以上であれば、効率的な乾燥が可能である。一方、乾燥温度が150℃以下であれば、ポリエチレン樹脂組成物の分解や架橋を抑制した状態で乾燥することが可能である。本実施形態では、上記のような各成分以外にもエチレン重合体の製造に有用な他の公知の成分を含むことができる。
【0102】
本実施形態のポリエチレン樹脂組成物の製造方法におけるペレタイズに際して、ポリマー温度が230℃以下であり、好ましくは220℃以下であり、より好ましくは210℃以下である。ポリマー温度が230℃以下であれば、ポリエチレン樹脂組成物の分解による低分子量成分の生成や架橋による高分子量成分の生成を抑制することが可能である。
【0103】
〔添加剤〕
本実施形態のポリエチレン樹脂組成物の添加剤の含有量としては通常100ppm以下であり、好ましくは50ppm以下であり、より好ましくは10ppm以下であり、溶出成分を低減する観点から無添加であることが特に好ましい。添加剤の種類としては、中和剤、酸化防止剤及び耐光安定剤等が挙げられる。
【0104】
上記中和剤はエチレン重合体中に含まれる塩素キャッチャー、又は成形加工助剤等として使用することができる。中和剤としては、特に限定されないが、具体的には、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属のステアリン酸塩が挙げられる。中和剤の含有量としては、特に限定されないが、100ppm以下であり、好ましくは50ppm以下、より好ましくは10ppm以下である。なお、本実施形態におけるメタロセン触媒により得られるエチレン重合体は、触媒構成成分中から塩素を除外することができる。この場合、エチレン重合体に実質的に塩素を含んでおらず、成形機の腐食等がないため中和剤は不要である。
【0105】
上記酸化防止剤としては、特に限定されないが、具体的には、ジブチルヒドロキシトルエン、ペンタエリスチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤の含有量としては、特に限定されないが、通常100ppm以下であり、好ましくは50ppm以下であり、より好ましくは10ppm以下である。本実施形態のメタロセン触媒より得られるエチレン重合体は、熱劣化しやすい末端二重結合が少なく耐熱性が高いため、この場合には酸化防止剤は不要である。
【0106】
上記耐光安定剤としては、特に限定されないが、具体的には、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系耐光安定剤;ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジン)セバケート、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]等のヒンダードアミン系耐光安定剤が挙げられる。耐光安定剤の含有量としては、特に限定されないが、通常100ppm以下であり、好ましくは50ppm以下であり、より好ましくは10ppm以下である。
【0107】
なお、本実施形態におけるエチレン重合体中に含まれる添加剤の含有量は、エチレン重合体中の添加剤を、テトラヒドロフラン(THF)を用いてソックスレー抽出により6時間抽出し、抽出液を液体クロマトグラフィーにより分離、定量することにより求めることができる。
【0108】
本実施形態のポリエチレン樹脂組成物には核剤を添加することができる。核剤としては、ポリプロピレン添加剤として広範に使用されている市販の核剤、例えば、タルク、マイカ、シリカ、ドロマイト粉、ケイ酸塩、石英粉、珪藻土、アルミナ、環状ジカルボン酸塩等が挙げられる。
【0109】
本実施形態のエチレン重合体には、特性が異なるエチレン重合体をブレンドすることもできるし、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等の他の樹脂をブレンドすることもできる。
【0110】
[ポリエチレン樹脂組成物の用途]
(成形体)
本実施形態の成形体は、本実施形態のポリエチレン樹脂組成物を含む。そのため、本実施形態の成形体は、クリーン性が高く、強度及び内面平滑性に優れる。本実施形態のポリエチレン樹脂組成物を含む成形体の製造方法については、特に限定されないが、射出成形、ブロー成形、押出成形、回転成形等既知の成形方法により、製造できる。特に、射出成形法、ブロー成形法により形成された成形体が好ましい。成形体の形状は特に限定されないが、例えば、ビン、タンク、ドラム、アンプル、カップ、袋、その他の容器の形状、フィルム等に成形して製造される。
【0111】
(高純度薬品容器)
本実施形態の高純度薬品容器は、本実施形態のポリエチレン樹脂組成物を含む。そのため、本実施形態の高純度薬品容器は、クリーン性が高く、強度及び内面平滑性に優れる。本実施形態の高純度薬品容器としては、特に限定されないが、例えば、化学薬品、農薬、ガソリン、オイル等の工業薬品用容器;医薬品用容器;飲食品用容器;洗剤や化粧品等のトイレタリー用品用容器;レジストインキ、接着剤、塗料、印刷インキ等の高純度薬品を入れる容器等を挙げることができる。本実施形態の高純度薬品容器は、特に、ハイクリーン性が要求される工業薬品容器やガラス代替容器として好ましく適用される。なお、用語「高純度」とは、その目的に応じて、不純物を可能な限り少なくしたという意味で、純度は特に限定されるものではない。典型的には、高純度とは、99%以上の水準を意味する。
【実施例】
【0112】
次に実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものでない。
【0113】
〔各種特性及び物性の測定方法〕
(1)密度
JIS K6760に準拠し、密度勾配管法により測定した。
【0114】
(2)MFR
ASTM−D−1238に従い、190℃、荷重2.16kgで測定した。
【0115】
(3)Al、Mg、Ti、Zr、Crの合計含有量
各例において得られた樹脂組成物の試料0.2gをテフロン(登録商標)製分解容器に秤取り、高純度硝酸を加えてマイルストーンゼネラル社製マイクロウェーブ分解装置ETHOS−TCにて加圧分解後、日本ミリポア社製超純水製造装置で精製した純水で全量を50mLとしたものを検液として使用した。上記検液に対し、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)Xシリーズ2を使用して、内標準法でAl、Mg、Ti、Zr、Cr及びClの定量を行った。
【0116】
(4)ポリエチレン樹脂組成物中の塩素含有量
各例において得られた樹脂組成物約0.05gを石英製ボートに入れて、三菱アナリティカル社製自動燃焼装置中AQF−100で燃焼させた。発生した燃焼ガスをあらかじめ酒石酸を添加した吸収液に吸収させて、ダイオネクス社製イオンクロマトグラフ分析装置ICS−1500で酒石酸を内標準物質として内標準法で定量を行った。
【0117】
(5)ヘキサンで抽出される炭素数12以上34以下の炭化水素成分量の測定方法
各例の樹脂組成物から得られた直径約3.0mm×長さ約3.0mmの円柱状ペレット10g、和光純薬社製PCB試験用ヘキサン40mLを180mL容積のSUS製容器中に入れて密閉した。このSUS製容器全体を70℃の湯浴に浸し、50min
−1速度で振とうしながら2時間抽出した後、20℃の水に浸し急冷した。上澄み液を、0.2μmフィルター(PTFE製)を取り付けたガラスシリンジで濾過し、サンプルとした。炭素数12と14の標準物質は、和光純薬工業社製特級n−ドデカンとn−テトラデカン、炭素数16から炭素数34の標準物質は、シグマアルドリッチ社製ASTM D5442 C16−C44 Qualitative Retention Time Mixを和光純薬社製PCB試験用ヘキサンヘキサンに溶解して標準物質として用いた。
【0118】
上記サンプルは、島津製作所社製ガスクロマトグラフGC−2014AF、及び信和化工製SiliconeOV−1(3%)/CW80−100mesh/AW−DMCS処理を充填した、ガラス製3mmφx1.5mのカラムを用いて測定した。温度は、インジェクション温度300℃、検出温度290℃で、初期温度100℃で2分間保持した後、10℃/minで昇温、280℃で10分間保持する条件で測定された。上記標準試薬のピークエリアとの比から炭素数12以上34以下の炭化水素成分量を算出した。
【0119】
(6)CFC溶出量(TREF溶出量)
実施例及び比較例で製造したエチレン重合体について、昇温溶離分別(TREF)による溶出温度−溶出量曲線を以下のように測定し、各温度での溶出量、溶出積分量、及び高温側溶出ピークの最高溶出量になる温度での重量平均分子量(Mw)を求めた。まず、充填剤を含有したカラムを140℃に昇温し、エチレン重合体をオルトジクロロベンゼンに溶かした試料溶液を導入して120分間保持した。次に、カラムの温度を、降温速度0.5℃/分で40℃まで降温した後、20分間保持した。この工程で試料が充填剤表面に析出した。
【0120】
その後、カラムの温度を、以下のとおり順次昇温した(
図1にCFCの温度プロファイルを示す。)。まず、50℃まで昇温速度20℃/分で昇温し、50℃で21分間保持した。続いて60℃まで昇温し60℃で保持した(昇温速度と保持時間は同前)。同様に保持温度を変えて昇温を続けたが、60℃から75℃までは5℃間隔で昇温・保持し、75℃から90℃までは3℃間隔で昇温・保持し、90℃から110℃までは1℃間隔で昇温・保持し、110℃から120℃までは5℃間隔で昇温・保持することとした。各保持温度で21分間保持した後に溶出した試料(エチレン重合体)の濃度を検出した。そして、試料(エチレン重合体)の溶出量(質量%)とその際のカラム内温度(℃)との値より、溶出温度−溶出量曲線を測定し、各温度での溶出量、及び溶出積分量を求めた。
図1にCFCの温度プロファイルを示す。また、
図2に後述する実施例1及び比較例4の溶出温度と溶出量との関係を示す。なお、測定に用いた材料ないし条件は、より詳細には以下のとおりとした。
・装置:Polymer ChAR社製Automated 3D analyzer CFC−2
・カラム:ステンレススチールマイクロボールカラム(3/8”o.d x 150mm)
・溶離液:o−ジクロロベンゼン(高速液体クロマトグラフ用)
・試料溶液濃度:試料(エチレン重合体)20mg/o−ジクロロベンゼン20mL
・注入量:0.5mL
・ポンプ流量:1.0mL/分
・検出器:Polymer Char社製赤外分光光度計IR4
・検出波数:3.42μm
・試料溶解条件:140℃×120min溶解
【0121】
(7)1000炭素中の二重結合量の測定方法
各例におけるポリエチレン樹脂組成物の二重結合量の測定は、日本分光社製JASCO FTIR4200を使用して測定した。測定用シートはJISK6922−2に準拠して、各例のペレット(高密度ポリエチレン)を0.5mm厚の型枠を入れたプレス用金型板上に必要量載せ、200℃、1MPaで加圧しながら3分間予熱した。続いて2分間かけて1MPaで加圧、除圧を7回繰り返し、続いて10MPaで加圧、除圧を4回繰り返した。最後に10MPaで2分間加圧した後、15℃/minの平均冷却速度で、12分間冷却することで0.5mm厚の測定用シートを作製した。
【0122】
高密度ポリエチレンの二重結合量は、日本分析化学会高分子ハンドブックのポリエチレンの異種結合の定量法に準拠して測定した。二重結合量(個/1000C)は、963cm
−1のトランス(個/1000C)、910cm
−1の末端ビニル(個/1000C)、888cm
−1のビニリデン(個/1000C)の吸光度Aを測定することで求めた。吸光度Aは日本分光株式会社製のFT/IR−5300で測定した。計算式を下記に示す。
二重結合量=0.083A
963/(ρ×t)+0.114A
910/(ρ×t)+0.109A
888/(ρ×t)
(なお、Aは吸光度、ρは密度(g/cm
3)、tは厚み(mm)を表す。)
【0123】
(8)ポリエチレン樹脂組成物のMw/Mn
各例において得られた樹脂組成物20mgにo−ジクロロベンゼン15mLを導入して、150℃で1時間撹拌することで調製したサンプル溶液について、下記の条件によりゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定を行った。測定結果から、市販の単分散ポリスチレンを用いて作成した検量線に基づいて、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mw/Mn)を求めた。なお、測定に用いた材料ないし条件は、より詳細には以下のとおりとした。
・装置:Waters社製150−C ALC/GPC
・検出器:RI検出器
・移動相:o−ジクロロベンゼン(高速液体クロマトグラフ用)
・流量:1.0mL/分
・カラム:Shodex製AT−807Sを1本と東ソー製TSK−gelGMH−H6を2本連結したものを用いた。
・カラム温度:140℃
【0124】
(9)クリーン度
各例において得られた樹脂組成物を50m/m、L/D=22(D:スクリュー直径、L:スクリュー有効長)の押出機の中で185℃に溶融し、筒状のパリソンに押出した。押出されたパリソンを金型で挟んで、ブローピンより6kg/cm
2の圧縮空気を吹き込み、20℃に冷却された金型で冷却し、容量1000mL、重量100gの丸型容器を成形した。次に、成形した容器のクリーン度を次の要領で測定した。
【0125】
上述した丸型容器に超純水(トレピュアLV−10T(東レ(株)製)(登録商標)を用いて精製)500mLを入れ、15秒間振とう洗浄して排水した。この振とう洗浄を5回繰り返した。この容器にあらためて500mLの超純水を充填し、そのまま70℃で4週間保管した。4週間後、この充填水から5mLを採取し、その中に浸出した0.1μm以上の微粒子の数をパーティクルカウンター(KL−22(リオン株式会社製))により測定した。水中に含まれる微粒子数は次式で求められ、これをクリーン度とした。計算式及び評価基準を下記に示す。
クリーン度;水中の微粒子数(個/mL)={(カウント数(個))×(超純水の量100(mL))}/{サンプリング量5(mL)×容器容量200(mL)}
・クリーン度が30個/mL以下の時、判定を◎とした。
・クリーン度が30個/mLより多く60個以下の時、判定を○とした。
・クリーン度が60個/mLより多い時、判定を×とした。
【0126】
(10)鉄板腐食試験
塩基点を有する無機固体による塩化物イオン吸着の効果を測定する、鉄板腐食試験を行った。中和剤がない状態では樹脂に含まれる遊離塩化物イオンにより高温高湿下金属が腐食して錆が発生するが、塩化物イオンが塩基点を有する無機固体に吸収されることにより錆が生じなくなるか否かを判別した。
【0127】
上記ボトル成形と同条件にて樹脂を押出し、樹脂塊を得た。脱脂処理した鉄板に該樹脂を固定し、プレス成形した。180℃で5分間予熱した後に9.8MPaで25分間加熱した。次に、恒温恒湿槽中60℃90%RHで48時間加熱後、鉄板上の錆の出具合を目視で観察した。
・試験後鉄板の光沢に変化が見られなかった時、判定を〇とした。
・試験後鉄板に錆が発生した時、判定を×とした。
【0128】
(11)ゲル量
山口製作所製Tダイ(スクリュー径30mm、ダイ300mm幅)を用い、シリンダー温度200℃、ダイ温度230℃、押出し量5kg/時間、引き取り速度10m/分で各例において得られた樹脂組成物を成形し、幅30cm、厚さ35μmのポリエチレン樹脂からなるフィルムを得た。上記フィルムサンプルの厚みをJIS K7130に準じて測定した。上記フィルムを、Tダイのフィルム引き取り機に取り付けた、株式会社ヒューテック社製フィッシュアイカウンター(検出能力横:0.04mm/bit、検出能力縦:0.015mm/scan、投光距離:200mm、受光距離:440mm、検査幅:50mm)を用いて、検査面積4000cm
2 、直径0.1m以上1mm未満のゲル数をカウントした。上記の測定結果を基に、以下の式を用いて35μmのフィルム1cm
2当たりのゲル数を算出した。
N=n×(35/δ)
(ここで、Nは厚さ35μmのフィルム4000cm
2当たりのゲル数、nはフィッシュアイカウンターにより観察されたゲルの個数、δは観察に用いたフィルムサンプルの厚み(μm)である。)
【0129】
(12)熱劣化による流動性保持率
各例のポリエチレン樹脂組成物の熱劣化による流動性低下率は、上述の(2)の方法で測定したMFRと、同じ方法で3回繰り返し測定した後のMFRを比較することで求めた。計算式及び評価基準を下記に示す。
流動性保持率(%)={(1回目のMFR)−(3回目のMFR)}/{1回目のMFR}×100
・流動性保持率が20%以下の時、判定を○とした。
・流動性保持率が20%より大きい時、判定を×とした。
【0130】
(13)ビカット軟化温度
JIS K7206:1999に準拠して測定した。
【0131】
(14)シャルピー衝撃強度
JIS K7111:2004に準拠して測定した。
【0132】
(15)総合判定
ビカット軟化温度が125℃以上135℃以下で、シャルピー衝撃強度が20KJ/cm
2以上であり、クリーン度、鉄板腐食試験、ゲル量、及び流動性保持率の評価で一つも×がつかないものを総合評価○と判定し、それ以外を×と判定した。
【0133】
[参考例]触媒合成例
〔担持型幾何拘束型メタロセン触媒[I]の調製〕
[メタロセン触媒(I−a)]
充分に水洗し、乾燥された触媒担体用シリカを、窒素雰囲気下、400℃で5時間焼成し、脱水した。脱水シリカの表面水酸基の量は、1gのSiO
2あたり1.85mmol/gであり、塩素含有量は50ppm質量%であった。容量1.8Lのオートクレーブに、この脱水シリカ40gをヘキサン800mL中に分散させ、スラリーを得た。得られたスラリーを攪拌下50℃に保ちながらトリエチルアルミニウムのヘキサン溶液(濃度1mol/L)を80mL加え、その後2時間攪拌し、トリエチルアルミニウムとシリカの表面水酸基とを反応させ、トリエチルアルミニウム処理されたシリカと上澄み液とを含み、該トリエチルアルミニウム処理されたシリカの表面水酸基がトリエチルアルミニウムによりキャッピングされている成分[a]を得た。得られた反応混合物中の上澄み液をデカンテーションによって除去することにより、上澄み液中の未反応のトリエチルアルミニウムを除去した。その後、ヘキサンを適量加え、トリエチルアルミニウム処理されたシリカのヘキサンスラリー880mLを得た。
【0134】
一方、[(N−t−ブチルアミド)(テトラメチル−η5−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル(以下、「チタニウム錯体」と記載する。)200mmolをアイソパーE[エクソンケミカル社(米国)製の炭化水素混合物の商品名]1000mLに溶解し、予めトリエチルアルミニウムとジブチルマグネシウムより合成したAlMg
6(C
2H
5)
3(n−C
4H
9)
12の1mol/Lヘキサン溶液を20mL加え、さらにヘキサンを加えてチタニウム錯体濃度を0.1mol/Lに調製し、成分[b]を得た。
【0135】
また、ビス(水素化タロウアルキル)メチルアンモニウム−トリス(ペンタフルオロフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)ボレート(以下、「ボレート」と記載する。)5.7gをトルエン50mLに添加して溶解し、ボレートの100mmol/Lトルエン溶液を得た。このボレートのトルエン溶液にエトキシジエチルアルミニウムの1mol/Lヘキサン溶液5mLを室温で加え、さらにヘキサンを加えて溶液中のボレート濃度が70mmol/Lとなるようにした。その後、室温で1時間攪拌し、ボレートを含む反応混合物を得た。
【0136】
ボレートを含むこの反応混合物46mLを、上記で得られた成分[a]のスラリー800mLに15〜20℃で攪拌しながら加え、ボレートを物理吸着によりシリカに担持した。こうして、ボレートを担持したシリカのスラリーが得られた。さらに上記で得られた成分[b]のうち32mLを加え、3時間攪拌し、チタニウム錯体とボレートとを反応させた。その後、得られた反応混合物中の未反応のトリエチルアルミニウムを含む上澄み液をデカンテーションによって除去することにより、触媒活性種が該シリカ上に形成されている担持型幾何拘束型メタロセン触媒[I−a]を得た。
【0137】
同様の方法で、下記[I−b]〜[I−e]の担持型幾何拘束型メタロセン触媒を調整した。
【0138】
[メタロセン触媒[I−b]]
チタニウム錯体を[(N−t−ブチルアミド)(テトラメチル−η5−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウム−1,3−ペンタジエンにした以外は、メタロセン触媒[I−a]に準じて合成した。
【0139】
[メタロセン触媒[I−c]]
チタニウム錯体を[(N−t−ブチルアミド)(テトラメチル−η5−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウムジクロライドにした以外は、メタロセン触媒[I−a]に準じて合成した。
【0140】
[メタロセン触媒[I−d]]
ボレートの代わりにメチルアルミノキサンを使用した以外は、メタロセン触媒[I−c]に準じて合成した。
【0141】
[メタロセン触媒[I−e]]
塩素含有量が50ppm質量%の触媒担体用シリカの代わりに、塩素含有量が6200ppmの触媒担体用シリカを使用した以外は、メタロセン触媒[I−c]に準じて合成した。
【0142】
[液体助触媒成分[II]の調製]
200mLのフラスコにヘキサン40mLとAlMg
6(C
2H
5)
3(n−C
4H
9)
12(MgとAlの総量として37.8mmol)を攪拌しながら添加し、続いて25℃でメチルヒドロポリシロキサン2.27g(37.8mmol)を含有するヘキサン40mLを攪拌しながら添加した。その後80℃に温度を上げて3時間、攪拌下に反応させることにより、液体助触媒成分[II]を調製した。
【0143】
〔チーグラー・ナッタ触媒[III]の調製〕
[チーグラー・ナッタ触媒[III−a]]
充分に窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブにヘキサン1,600mLを添加した。10℃で攪拌しながら1mol/Lの四塩化チタンヘキサン溶液800mLと1mol/LのAlMg
5(C
4H
9)
11(OSiH)
2で表される有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液800mLとを4時間かけて同時に添加した。添加後、ゆっくりと昇温し、10℃で1時間反応を継続させた。反応終了後、上澄み液を1600mL除去し、ヘキサン1,600mLで5回洗浄することにより、固体触媒成分[A]を調製した。
【0144】
[チーグラー・ナッタ触媒[III−b]]
(1)担体の合成
充分に窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブに2mol/Lのヒドロキシトリクロロシランのヘキサン溶液1,000mLを仕込み、65℃で攪拌しながらAlMg
5(C
4H
9)
11(OC
4H
9)
2で表される有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液2,550mL(マグネシウム2.68mol相当)を4時間かけて滴下し、さらに65℃で1時間攪拌しながら反応を継続させた。反応終了後、上澄み液を除去し、1,800mLのヘキサンで4回洗浄した。この固体を分析した結果、固体1g当たりに含まれるマグネシウムが8.31mmolであった。
【0145】
(2)固体触媒成分[III−b]の調製
上記担体110gを含有するヘキサンスラリー1,970mLに10℃で攪拌しながら1mol/Lの四塩化チタンヘキサン溶液110mLと1mol/LのAlMg
5(C
4H
9)
11(OSiH)
2で表される有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液110mLとを同時に1時間かけて添加した。添加後、10℃で1時間反応を継続させた。反応終了後、上澄み液を1100mL除去し、ヘキサン1100mLで2回洗浄することにより、固体触媒成分[III−b]を調製した。
【0146】
[エチレン重合体の製造方法]
[実施例1]
触媒の調製例に記載したメタロセン触媒を用いて、以下に示すスラリー二段重合法によりポリエチレン樹脂組成物を得た。
【0147】
一段目の重合として、攪拌装置が付いたベッセル型340L重合反応器を用い、重合温度70℃、重合圧力0.5MPa、平均滞留時間1.6時間の条件で連続重合を行った。溶媒として脱水ノルマルヘキサン90L/時間、触媒として上記の担持型メタロセン触媒[I−a]をTi原子換算で1.4mmol/時間、液体助触媒成分[II]をAl原子換算で20mmol/時間で供給した。また、分子量調整のための水素をエチレンの気相濃度に対して0.28mol%になるように供給することで、エチレンを重合させた。尚、脱水ノルマルヘキサンは重合器の底部より供給し、水素は予め触媒と接触させるために触媒導入ラインから触媒と共に重合器の液面と底部の中間から供給し、エチレンは重合器の底部から供給した。重合反応器内の重合スラリーは、重合反応器のレベルが一定に保たれるように圧力0.08MPa、温度75℃のフラッシュタンクに導き、未反応のエチレン、水素を分離した。次に、連続的に二段目の攪拌装置が付いたベッセル型300L重合反応器に移送した。
【0148】
二段目の重合として、重合温度75℃、重合圧力0.8MPa、平均滞留時間1.0時間の条件で連続重合を行った。また、溶媒として脱水ノルマルヘキサン110L/時間、分子量調整のための水素をエチレンと1−ブテンの気相濃度に対して0.06mol%、1−ブテンをエチレンの気相濃度に対して0.23mol%になるように供給することで、エチレン及び1−ブテンを重合させた。尚、脱水ノルマルヘキサンは重合器の底部より供給し、水素は重合器の液面と底部の中間から供給し、エチレンは重合器の底部から供給した。重合反応器内の重合スラリーは、重合反応器のレベルが一定に保たれるように圧力0.2MPa、温度75℃のフラッシュタンクに導き、未反応のエチレン、1−ブテン、水素を分離した。次に、連続的に遠心分離機に送り、ポリマーとそれ以外の溶媒等を分離した。その時のポリマーに対する溶媒等の含有量は45%であった。
【0149】
分離された高密度ポリエチレンパウダーは、85℃で窒素ブローしながら乾燥した。なお、この乾燥工程で、重合後のパウダーに対し、スチームを噴霧して、触媒及び助触媒の失活を実施した。
【0150】
得られた高密度ポリエチレンパウダーは、中和剤や酸化防止剤等の添加剤を使用せずに、日本製鋼所社製TEX−44(スクリュー径44mm、L/D=35。L:重合反応機の原料供給口から排出口までの距離(m)、D:重合反応機の内径(m)。以下、同じ。)の二軸押出成形機を利用し、195℃の樹脂温度で溶融混錬して造粒した。該ポリエチレン樹脂組成物の密度、MFR、分子量分布、及び一段目後段のフラッシュタンクより抜き出したエチレン重合体AのMFR、分子量分布の評価結果を表1と表2に示す。
【0151】
[実施例2]
一段目の重合として、重合圧力0.65MPaの条件で、上記の担持型メタロセン触媒[I−b]を使用して、水素をエチレンの気相濃度に対して0.20mol%になるように供給し、二段目の重合として、重合圧力0.85MPa、水素をエチレンと1−ブテンの気相濃度に対して0.03mol%、1−ブテンはエチレンの気相濃度に対して0.26mol%にした以外は、実施例1と同様の操作により、ポリエチレン樹脂組成物を得た。評価結果を表1と表2に示す。
【0152】
[実施例3]
一段目の重合として、重合圧力0.6MPaの条件で、上記の担持型メタロセン触媒[I−b]を使用して、水素をエチレンの気相濃度に対して0.20mol%になるように供給し、二段目の重合として、重合圧力0.86MPa、水素をエチレンと1−ブテンの気相濃度に対して0.03mol%、1−ブテンはエチレンの気相濃度に対して0.22mol%にした以外は、実施例1と同様の操作により、ポリエチレン樹脂組成物を得た。評価結果を表1と表2に示す。
【0153】
[実施例4]
一段目の重合として、重合圧力0.55MPaの条件で、水素をエチレンの気相濃度に対して0.20mol%になるように供給し、二段目の重合として、重合圧力0.87MPa、水素をエチレンと1−ブテンの気相濃度に対して0.04mol%、1−ブテンはエチレンの気相濃度に対して0.30mol%にした以外は、実施例1と同様の操作により、ポリエチレン樹脂組成物を得た。評価結果を表1と表2に示す。
【0154】
[実施例5]
一段目の重合として、重合圧力0.7MPaの条件で、上記の担持型メタロセン触媒[I−b]を使用して、水素をエチレンの気相濃度に対して0.10mol%になるように供給し、二段目の重合として、重合圧力0.90MPa、水素をエチレンと1−ブテンの気相濃度に対して0.02mol%、1−ブテンはエチレンの気相濃度に対して0.30mol%にした以外は、実施例1と同様の操作により、ポリエチレン樹脂組成物を得た。評価結果を表1と表2に示す。
【0155】
[実施例6]
一段目の重合として、重合圧力0.6MPaの条件で、上記の担持型メタロセン触媒[I−c]を使用して、水素をエチレンの気相濃度に対して0.25mol%になるように供給し、二段目の重合として、重合圧力0.80MPa、水素をエチレンと1−ブテンの気相濃度に対して0.03mol%、1−ブテンはエチレンの気相濃度に対して0.27mol%にした以外は、実施例1と同様の操作により、ポリエチレン樹脂組成物を得た。評価結果を表1と表2に示す。
【0156】
[比較例1]
一段目の重合として、重合圧力0.6MPaの条件で、上記の担持型メタロセン触媒[I−b]を使用し、水素をエチレンの気相濃度に対して0.20mol%になるように供給して、二段目の重合として、重合圧力0.86MPa、水素をエチレンと1−ブテンの気相濃度に対して0.03mol%、1−ブテンはエチレンの気相濃度に対して0.43mol%にした以外は、実施例1と同様の操作により、ポリエチレン樹脂組成物を得た。ポリエチレン樹脂組成物の密度が低く、低分子量成分、及び低結晶成分が増加することで、クリーン度が大幅に低下した。評価結果を表1と表2に示す。
【0157】
[比較例2]
一段目の重合として、重合圧力0.5MPaの条件で、上記の担持型メタロセン触媒[I−b]を使用して、水素をエチレンの気相濃度に対して0.63mol%になるように供給し、二段目の重合として、重合圧力0.80MPa、水素をエチレンと1−ブテンの気相濃度に対して0.03mol%、1−ブテンはエチレンの気相濃度に対して0.37mol%にした以外は、実施例1と同様の操作により、ポリエチレン樹脂組成物を得た。エチレン重合体AのMFRが大きく、低分子量成分、及び低結晶成分が増加することで、クリーン度が大幅に低下した。また、分子量分布が大きくエチレン重合体Aとエチレン重合体Bの分子量差が大きくなったことで、ゲル量が増加した。評価結果を表1と表2に示す。
【0158】
[比較例3]
一段目の重合として、重合圧力0.55MPaの条件で、上記の担持型メタロセン触媒[I−b]を使用して、水素をエチレンの気相濃度に対して0.22mol%になるように供給し、二段目の重合として、重合圧力0.87MPa、水素をエチレンと1−ブテンの気相濃度に対して0.04mol%、1−ブテンはエチレンの気相濃度に対して0.28mol%にした以外は、実施例1と同様の操作により、ポリエチレン樹脂組成物を得た。ポリエチレン樹脂組成物の分子量分布が狭く、フィルムが肌荒れしたため正確なゲル量の測定ができなかった。またボトル内面も肌荒れが激しく、クリーン度が低下した。評価結果を表1と表2に示す。
【0159】
[比較例4]
一段目の重合として、重合圧力0.45MPaの条件で、水素をエチレンの気相濃度に対して0.45mol%になるように供給し、二段目の重合として、重合圧力0.75MPa、水素をエチレンと1−ブテンの気相濃度に対して0.1mol%、1−ブテンはエチレンの気相濃度に対して0.30mol%にした以外は、実施例1と同様の操作により、ポリエチレン樹脂組成物を得た。ポリエチレン樹脂組成物のMFRが大きく、低分子量成分、及び低結晶成分が増加することで、ビカット軟化温度、シャルピー衝撃強度、及びクリーン度が大幅に低下した。評価結果を表1と表2に示す。
【0160】
[比較例5]
一段目の重合として、重合圧力0.60MPaの条件で、上記の担持型メタロセン触媒[I−d]、液体助触媒成分[II]はボレートの代わりにメチルアルミノキサン(以下、MAOと言う。)200molを使用して、水素をエチレンの気相濃度に対して0.22mol%になるように供給し、二段目の重合として、重合圧力0.86MPa、水素をエチレンと1−ブテンの気相濃度に対して0.03mol%、1−ブテンはエチレンの気相濃度に対して0.23mol%にした以外は、実施例1と同様の操作により、ポリエチレン樹脂組成物を得た。MAOを使用したことで、Al成分、及び塩素の量が増加して、鉄板腐食試験において鉄板が腐食した。また、ポリエチレン樹脂組成物の熱劣化が促進された。評価結果を表1と表2に示す。
【0161】
[比較例6]
一段目の重合として、重合圧力0.5MPaの条件で、上記の担持型メタロセン触媒[I−e]を使用して、水素をエチレンの気相濃度に対して0.60mol%になるように供給し、二段目の重合として、重合圧力0.86MPa、水素をエチレンと1−ブテンの気相濃度に対して0.03mol%、1−ブテンはエチレンの気相濃度に対して0.24mol%にした以外は、実施例1と同様の操作により、ポリエチレン樹脂組成物を得た。塩素含有量の多い担持型メタロセン触媒[I−a]を使用したことによって、ポリエチレン樹脂組成物の塩素含有量が増加して、板腐食試験において鉄板が腐食した。評価結果を表1と表2に示す。
【0162】
[比較例7]
一段目の重合として、重合圧力0.6MPaの条件で、上記の担持型メタロセン触媒[I−b]を使用して、水素をエチレンの気相濃度に対して0.20mol%になるように供給し、二段目の重合として、重合圧力0.86MPa、水素をエチレンと1−ブテンの気相濃度に対して0.03mol%、1−ブテンはエチレンの気相濃度に対して0.24mol%にした。続いて、得られたスラリーを濾過することによって、ポリエチレンのパウダーと溶媒を分離した以外は、実施例1と同様の操作により、ポリエチレン樹脂組成物を得た。濾過後のポリマーに対する溶媒等の含有量は250%であった。ポリマーに対する溶媒等の含有量が多いことによって低分子量成分が増加してクリーン度が低下した。評価結果を表1と表2に示す。
【0163】
[比較例8]
一段目の重合として、重合圧力0.5MPaの条件で、上記の担持型メタロセン触媒[I−a]を使用して、水素をエチレンの気相濃度に対して0.27mol%になるように供給した。尚、ヘキサン供給ライン、水素供給ライン、エチレン供給ライン、及び触媒供給ラインの出口は各々隣接していて、重合器の底部より連続的に供給した。二段目の重合として、重合圧力0.8MPa、水素をエチレンと1−ブテンの気相濃度に対して0.06mol%、1−ブテンはエチレンの気相濃度に対して0.23mol%にした以外は、実施例1と同様の操作により、ポリエチレン樹脂組成物を得た。触媒を予め水素と接触させずに重合系内に添加したこと、触媒導入ライン出口とエチレン導入ライン出口が隣接していることで、急重合反応が起こり、低分子量成分及び低結晶性成分が増加した。評価結果を表1と表2に示す。
【0164】
[比較例9]
触媒の調製例に記載したチーグラー・ナッタ触媒を用いて、次に示すスラリー二段重合法によりポリエチレン樹脂組成物を得た。一段目の重合として、重合圧力0.7MPaの条件で、上記のチーグラー・ナッタ触媒[III−a]を使用して、水素をエチレンの気相濃度に対して0.22mol%になるように供給し、二段目の重合として、重合圧力0.80MPa、水素をエチレンと1−ブテンの気相濃度に対して0.03mol%、1−ブテンはエチレンの気相濃度に対して0.28mol%にした以外は、実施例1と同様の操作により、ポリエチレン樹脂組成物を得た。チーグラー・ナッタ触媒により合成されたことによってポリエチレン樹脂組成物中の塩素量が多く、板腐食試験において鉄板が腐食した。また二重結合数が多く、ポリエチレン樹脂組成物の熱劣化が促進され、エチレン重合体Aの分子量分布が大きいことによって低分子量成分、及び低結晶性成分が増加することでクリーン度が低下した。更に、ポリエチレン樹脂組成物のMFRが小さく成形性も低下した。評価結果を表1と表2に示す。
【0165】
[比較例10]
一段目の重合として、重合圧力0.7MPaの条件で、上記のチーグラー・ナッタ触媒[III−b]を使用して、水素をエチレンの気相濃度に対して0.22mol%になるように供給して、二段目の重合として、重合圧力0.67MPa、水素をエチレンと1−ブテンの気相濃度に対して0.03mol%、1−ブテンはエチレンの気相濃度に対して0.28mol%にした以外は、実施例1と同様の操作により、ポリエチレン樹脂組成物を得た。チーグラー・ナッタ触媒により合成されたことによってポリエチレン樹脂組成物中の塩素量が多く、板腐食試験において鉄板が腐食した。また二重結合数が多く、ポリエチレン樹脂組成物の熱劣化が促進され、エチレン重合体Aの分子量分布が大きいことによって低分子量成分、及び低結晶性成分が増加することでクリーン度が低下した。更に、ポリエチレン樹脂組成物のMFRが小さく成形性も低下した。評価結果を表1と表2に示す。評価結果を表1と表2に示す。
【0166】
【表1】
【0167】
【表2】