(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294652
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B60C 15/00 20060101AFI20180305BHJP
B29D 30/06 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
B60C15/00 A
B60C15/00 B
B29D30/06
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-259371(P2013-259371)
(22)【出願日】2013年12月16日
(65)【公開番号】特開2015-116837(P2015-116837A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2016年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】細見 和正
【審査官】
増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−001108(JP,A)
【文献】
特開平03−169712(JP,A)
【文献】
特開平05−008615(JP,A)
【文献】
特開2005−289301(JP,A)
【文献】
特開昭48−088603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00−19/12
B29D 30/00−30/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部からビード部へと向かい、前記ビード部で内側から外側へと折り返されて貼り付けられるカーカスプライを備えた空気入りタイヤであって、
前記カーカスプライの先端部は、内側に位置する前記カーカスプライの外面を覆う被覆層で構成され、
前記被覆層の先端縁は、タイヤ径方向に増減することにより形成される窪み部と膨らみ部とを3以上繰り返す変位部で構成し、前記窪み部を、前記変位部よりも少ない変位量でタイヤ径方向に増減することにより形成される、補助窪み部と補助膨らみ部とを繰り返す補助変位部で構成したことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記変位部の窪み部と膨らみ部とで構成される先端縁は、sin波形であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記変位部の窪み部と膨らみ部とは、タイヤ幅方向の両側で位相をずらせて配置したことを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記変位部の窪み部と膨らみ部とは、タイヤ幅方向の両側で逆位相となるように配置したことを特徴とする請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
カーカスプライの先端部に形成される被覆層の先端縁に、先端方向に増減する、窪み部と膨らみ部とを3回以上繰り返す変位部を形成し、前記窪み部を、前記変位部よりも少ない変位量でタイヤ径方向に増減することにより形成される、補助窪み部と補助膨らみ部とを繰り返す補助変位部で構成し、
前記カーカスプライを、トレッド部からビード部へと向かわせ、前記ビード部で内側から外側へと折り返し、
前記カーカスプライの被覆層で、内側に位置する前記カーカスプライの外面を覆うことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、空気入りタイヤとして、次のような構成のものが公知である。
特許文献1には、生のカーカスの端部を生のビードコアの周りに折り返す前に、端部の内側及び外側にオーバーラップするように応力緩和ゴム層を配置して端部を包み込むようにした空気入りタイヤが開示されている。
特許文献2には、帯状体の巻き始め部と巻き終わり部との間のワイヤースカーカスプライス部と、ビードフィラーのビードフィラースカーカスプライス部とが、周上で同一位置にあるタイヤビード組立部品を用いた空気入りタイヤが開示されている。
特許文献3には、ビードフィラーの断面積をタイヤ周方向において繰り返し変化させるようにした空気入りタイヤが開示されている。
特許文献4には、ビードエーペックスゴムの半径方向外端縁が、半径方向内外に山谷を繰り返して周方向にのびる波線をなすようにした空気入りタイヤが開示されている。
【0003】
しかしながら、前記いずれの空気入りタイヤであっても、成型前のグリーンタイヤを形成する際、特にカーカスプライを貼り付ける際に最終の先端縁での段差が原因で大きな空気溜まりが発生することを防止するための構成についての開示及び示唆はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−254400号公報
【特許文献2】特開2002−36833号公報
【特許文献3】特開2007−320540号公報
【特許文献4】特開2009−51418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、カーカスプライを貼り付ける際の大きな空気溜まりの発生を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するための手段として、
トレッド部からビード部へと向かい、前記ビード部で内側から外側へと折り返されて貼り付けられるカーカスプライを備えた空気入りタイヤであって、
前記カーカスプライの先端部は、内側に位置する前記カーカスプライの外面を覆う被覆層で構成され、
前記被覆層の先端縁は、タイヤ径方向に増減することにより形成される窪み部と膨らみ部とを3以上繰り返す変位部で構成し、
前記窪み部を、前記変位部よりも少ない変位量でタイヤ径方向に増減することにより形成される、補助窪み部と補助膨らみ部とを繰り返す補助変位部で構成したものである。
【0007】
この構成により、被覆層を貼り付ける際、大きな空気溜まりが発生することを抑制できる。すなわち、カーカスプライの先端縁が窪み部と膨らみ部とを繰り返す変位部で構成されているので、カーカスプライを回転させながらその折り返し部分をビード部側から貼り付けて行くと、その貼り付け力が窪み部の重なっていない1層部と、膨らみ部の重なった2層部とに交互に作用する。このため、従来のように、カーカスプライが重なった2層部から重なっていない1層部へと段差を移動する際に大きな空気溜まりが発生するといったことがない。つまり空気が1箇所に留まることがなく、複数箇所に分散させることが可能となる。
また、窪み部に空気が集中して混入しようとしても、補助変位部により分散させることができる。またたとえ空気が混入したとしても、補助変位部は変位量が小さいので、混入した空気を分散させることが可能である。
【0008】
前記変位部の窪み部と膨らみ部とで構成される先端縁は、sin波形とすればよい。
【0011】
前記変位部の窪み部と膨らみ部とは、タイヤ幅方向の両側で位相をずらせて配置するのが好ましい。
【0012】
この構成により、タイヤ周方向の質量バランスが両側で不均一となることがなく、いわゆるユニフォーミティを向上させることができる。
【0013】
この場合、前記変位部の窪み部と膨らみ部とは、タイヤ幅方向の両側で逆位相となるように配置するのが好適である。
【0014】
また本発明は前記課題を解決するための手段として、
空気入りタイヤの製造方法を、
カーカスプライの先端部に形成される被覆層の先端縁に、先端方向に増減する、窪み部と膨らみ部とを3回以上繰り返す変位部を形成し、
前記窪み部を、前記変位部よりも少ない変位量でタイヤ径方向に増減することにより形成される、補助窪み部と補助膨らみ部とを繰り返す補助変位部で構成し、
前記カーカスプライを、トレッド部からビード部へと向かわせ、前記ビード部で内側から外側へと折り返し、
前記カーカスプライの被覆層で、内側に位置する前記カーカスプライの外面を覆うことにより行うようにしたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、カーカスプライの先端縁に変位部を形成したので、貼り付ける際に従来のように空気溜まりが1箇所に集中することがなく、複数箇所に分散させることができる。したがって、大きな空気溜まりが形成されて製品不良となるといった不具合の発生を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態に係るタイヤの子午面での部分断面図である。
【
図2】(a)は
図1のカーカスプライの先端部分の被覆層を含む部分断面図、(b)は被覆層を貼り付ける前の状態を示す部分断面図である。
【
図3】(a)は比較例2に係るタイヤの概略正面図、(b)はそのカーカスプライの両端縁の分布状態を示すグラフである。
【
図4】(a)は実施例1に係るタイヤの概略正面図、(b)はそのカーカスプライの両端縁の分布状態を示すグラフである。
【
図5】実施例2に係るタイヤのカーカスプライの両端縁の分布状態を示すグラフである。
【
図6】実施例3に係るタイヤのカーカスプライの両端縁の分布状態を示すグラフである。
【
図7】実施例4に係るタイヤのカーカスプライの両端縁の分布状態を示すグラフである。
【
図8】本実施形態に係るビードフィラーの先端縁の詳細を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る実施形態を添付図面に従って説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、「側」、「端」を含む用語)を用いるが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が限定されるものではない。また、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいは、その用途を制限することを意図するものではない。
【0018】
図1は本実施形態に係る空気入りタイヤの子午面に於ける部分断面図である。この空気入りタイヤでは、外部構造は、トレッド部1、ショルダー部2、サイド部3及びビード部4で構成されている。また内部構造は、トレッド部1からショルダー部2にかけて設けられるベルト5を備える。ベルト5の外周側に補強カーカスプライ6が設けられている。ベルト5の内周側にはカーカスプライ7が設けられている。カーカスプライ7はトレッド部1からビード部4に向かい、そこに内蔵されるビードコア8で折り返して外面側に至る。なお、
図1では、他の部材については省略している。
【0019】
図2に示すように、カーカスプライ7は、金属製の線材7aを複数本並列し、全体をゴム材料からなるゴム層7bで覆うことによりシート状としたものである。カーカスプライ7の折り返し部の両端縁部は、線材7aの端部から先端部分に延びるゴム層7bのみで構成される被覆層9となっている。
【0020】
被覆層9は、先端縁に向かうに従って徐々に一方の面が他方の面へと徐々に接近している。すなわち、カーカスプライ7の外面7cに向かって、そこに貼り付ける被覆層9の厚みが徐々に薄くなる断面略三角形状となっている。このため、被覆層9の先端縁とカーカスプライ7の外面7cとの間の段差は殆ど形成されないようになっている。
【0021】
被覆層9の先端縁は先端方向に向かって増減している。これにより、被覆層9の先端縁には、先端側から内側に窪んだ窪み部10と、先端側に膨らんだ膨らみ部11とを繰り返す変位部12が形成されている。
【0022】
ここでは、変位部12は3周期以上のsin波形からなり、振幅を被覆層9の幅(タイヤ径方向の寸法)に対して30〜70%、好ましくは30〜50%の範囲に設定されている。但し、この場合のsin波形は、円周上に形成されるものであるため、極座標を用いて次式で表される。
【0023】
【数1】
a:半径、b:振幅、n:周期
【0024】
また、変位部12の先端縁の形状は、両端縁で位相がずれて形成されている。すなわち、一方のsin波形に対して他方のsin波形は、半ピッチ位相がずれて逆位相となっている。但し、この位相のずれは、1/2周期に対して±20%以下であるのが好ましく、±10%以下とするのが好適で、±5%以下とするのが最適である。
【0025】
また窪み部10には、
図8に示すように、その縁部から内側に窪んだ補助窪み部13と、外側に膨らんだ補助膨らみ部14とを繰り返す補助変位部15が形成されている。補助変位部15の振幅は、前記変位部12の振幅よりも小さい値に設定されている。
【0026】
次に前記構成からなる空気入りタイヤの製造方法について説明する。ここでは、本発明の特徴部分であるカーカスプライ7の形成方法についてのみ言及する。
【0027】
まずカーカスプライ7の両端部を両側に設けた各ビード部4で折り返し、カーカスプライ7の両端側をそれぞれ重なった2層とする。そしてこれら形成途中の部品を周方向に回転させながら、側方から折り返し部分に図示しないステッチャを押し付けることにより重なり面同士を貼着する。
【0028】
ステッチャの押付では、折り返し部の先端縁に変位部12が形成されているため、ステッチャが窪み部10に形成される1層部と、膨らみ部11に形成される2層部とを交互に通過する。すなわち、従来のカーカスプライ7のように同一円周上に位置する先端縁であれば、ステッチャが通過するのは1箇所のみであり、空気溜まりがその場所に集中し、大きなものとなる。しかしながら、前記変位部12であれば、ステッチャが、1層部から2層部、あるいは、2層部から1層部へと複数箇所で段差を移動する。また先端縁はsin波形状となっているため、段差を通過する際に空気は膨らみ部側へと逃がすことができる。しかも窪み部10には補助変位部15が形成されており、さらに細かく空気溜まりを分散させることができる。したがって、成型後のタイヤに空気溜まりが発生しにくくなると共に、発生する空気溜まりは製品不良とはならない小さなものとして後処理で除去することが可能となる。
【実施例】
【0029】
ここで、前記構成からなるタイヤの性能について比較実験を行った。
すなわち、比較例1及び2と実施例1から5とに示すように、グリーンタイヤのカーカスプライ7の先端縁での形状を種々変更して成型後に得られたタイヤについて性能を比較した。比較結果を表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
ここで、形状は、カーカスプライ7の両端縁の形状を示す。ここでは、同一円周上に位置するものと、sin波形をしたものの例が挙げられている。
周期は、カーカスプライ7の両端縁をsin波形とした場合に於けるタイヤ周方向の1回転での周期を示す。
振幅は、前記sin波形の振幅を意味する。
初期位相ずれは、カーカスプライ7の両端縁をsin波形とした場合の位相の1波長分の位相のずれ量を、ずれ量0%の基準位置に対して、ずれ量0%で逆位相、ずれ量100%で同位相となるように設定した値である(1/2周期が100%)。
RFV(OAL)は、タイヤ径方向の変動力(RFV : Radial Force Variation)を指数化したものである。ここでは、ドラム上でタイヤを回転させ、上下方向の軸力変動を検出し、それを接地面全体(OAL : over all)で評価した。この場合、比較例1を基準値(100%)とし、値を求めるようにした。値が小さい程、性能が悪いことを示す。
エア入り不良発生率は、生産本数に対するエア入り(溜まり)タイヤの本数の比率から合否を判定したものである。「○」判定のものはエア入り不良が低減したことを示す。
【0032】
比較例1では、カーカスプライ7の先端縁を同一円周上に位置させている(例えば、特開2009−254400号公報参照)。
比較例2では、
図3に示すように、カーカスプライ7の先端縁を1周期のsin波形とし、位相のずれを5%(9°)としている。
実施例1では、
図4に示すように、被覆層9の先端縁を3周期のsin波形とし、位相のずれを50%(30°)としている。
実施例2では、
図6に示すように、カスプライの先端縁を3周期のsin波形とし、位相のずれを100%(60°すなわち同位相)としている。
実施例3では、
図7に示すように、被覆層9の先端縁を3周期のsin波形とし、位相のずれを5%(3°)としている。
実施例4では、
図8に示すように、被覆層9の先端縁を5周期のsin波形とし、位相のずれを5%(1.8°)としている。
実施例5では、被覆層9の先端縁を3周期のsin波形とし、位相のずれを20%(12°)としている。
【0033】
表1から明らかなように、実施例1から5のいずれでもsin波の周期を3周期以上とすることにより、タイヤ径方向の変動力の悪化もなく、エア入り不良発生率を低減することができた。
【0034】
なお、本発明は、前記実施形態に記載された構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【0035】
前記実施形態では、被覆層9の先端縁すなわち変位部12の形状をsin波形としたが、ジグザグ状等、先端方向に向かって増減するような形状であれば、いずれの形状であっても採用することが可能である。この形状は、補助変位部15であっても同様である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は空気入りタイヤ、特に、トラック、バス等の重荷重用の空気入りタイヤに適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1…トレッド部
2…ショルダー部
3…サイド部
4…ビード部
5…ベルト
6…補強カーカスプライ
7…カーカスプライ
8…ビードコア
9…被覆層
10…窪み部
11…膨らみ部
12…変位部
13…補助窪み部
14…補助膨らみ部
15…補助変位部