(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
緑茶に代表される茶飲料は、日々の生活に潤いを与え、日本人の生活にはなくてはならないものである。近年では茶の持つ抗酸化性が注目を集めており、ノンカロリーの健康的な飲み物として、茶飲料は無糖飲料の代表的なものとなってきている。さらに最近では嗜好性の多様化により、種々の茶飲料が市場に供されている。
【0003】
茶飲料は、一般に茶葉を水などの水性溶媒で抽出して茶抽出液を得、この茶抽出液を飲料に適した濃度になるように水などで希釈して濃度調整等を行った後、アルミニウムや鉄製などの缶、ポリエチレンテレフタラート(PET)などのプラスチックやガラス製のボトルなどの密封容器に封入して販売されている。
しかし、水性溶媒での抽出で得られた茶エキスは茶葉に含まれるカフェインやカテキン類などに由来する苦渋味が強く残るため消費者から敬遠されることが多い。このため、茶エキスの苦渋味を低減することを目的として、各種技術が提案されてきた。
【0004】
例えば、細胞壁消化酵素と共にタンナーゼを水に溶解させて調製した酵素水溶液を茶葉に作用させることで、カテキン類のうち強い苦渋味を有するエピカテキンガレート、エピガロカテキンガレートを加水分解し、苦渋味を軽減する方法(特許文献1)、緑茶・紅茶・ウーロン茶・マテ茶などのカフェインを含む茶類を素材とした茶の抽出時及び/又は抽出後、適量の活性炭を混合または添加してカフェインを低減した茶類抽出液を得る方法(特許文献2)、ガレート体率の高い原料から得られた緑茶抽出液を通常の方法でタンナーゼ処理し、pHを調節して、高濃度の非重合体カテキン類含有飲料においても風味や外観の優れた緑茶抽出物を得る方法(特許文献3)、茶葉から茶抽出液を濃縮抽出し、この濃縮抽出により得られた茶抽出液をタンナーゼまたはクロロゲン酸エステラーゼで処理することにより、旨味やコク味を損なわずに渋味を低減した茶飲料の製造方法(特許文献4)、アルカリ処理した紅茶抽出物又はアルカリ処理した後中和して得られた紅茶抽出物を活性炭処理することにより、摂取後に口中に残る不快な渋味及び尖った苦味が緩和された紅茶抽出物(特許文献5)、緑茶抽出物の有機溶媒水溶液を、該緑茶抽出物の固形分中のカテキン類に対して0.1〜1質量倍の活性炭と通常行われる処理時間よりも長く(12時間〜5日間)接触させることにより、緑茶風味の悪化の要因となる緑茶抽出物中のフラボノール類を低減させた精製緑茶抽出物の製造方法(特許文献6)など、がこれまでに提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、茶葉をタンナーゼ等の酵素で処理する方法では苦渋味が十分に低減されず、また、活性炭等の吸着剤を使用すると苦渋味はある程度低減できるものの、茶が本来有する豊かな風味も減少する。
従って、本発明の課題はカテキン類等に起因する苦渋味が低減され、かつ風味の優れた茶抽出液を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは茶葉をタンナーゼ水溶液で抽出して得られた抽出液を活性炭で処理したところ、苦渋味は十分に低減できたが、茶の風味も減少した。そこで、茶葉をタンナーゼ水溶液で抽出する時に活性炭を共存させたところ、意外にも風味の減少が抑えられ、苦渋味が少なく、茶本来の風味豊かな茶抽出液が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)茶葉を吸着剤存在下、タンニン分解活性を有する酵素の水溶液で抽出処理することを特徴とする茶抽出液の製造方法、
(2)吸着剤が活性炭又は合成吸着剤である(1)記載の製造方法、
(3)タンニン分解活性を有する酵素がタンナーゼである(1)又は(2)記載の製造方法、
(4)茶葉が不発酵茶、半発酵茶、発酵茶から選択される少なくとも1種の茶葉である(1)乃至(3)のいずれかに記載の製造方法、
(5)(1)乃至(4)のいずれかの方法で製造された茶抽出液、
(6)(1)乃至(4)のいずれかに記載の方法で製造された茶抽出液を含んでなる飲食品、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、カテキン類等に起因する苦渋味が少なく、茶本来の風味豊かな茶抽出液を得ることができる。従って、飲食品において嗜好の多様化が進む中で、新たな食品素材として各種飲食品に幅広く適用することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1)原料茶葉
本発明の茶抽出液の原料である茶葉は、ツバキ科の常緑樹であるチャ(Camellia sinensis)の芽、葉、茎に飲料用として前処理を施したものである。茶の前処理方法としては不発酵、半発酵、発酵があるが、いずれの処理方法によるものでもよい。不発酵茶としては緑茶(煎茶、玉露、かぶせ茶、番茶、玉緑茶、抹茶、ほうじ茶、釜炒り茶、てん茶等)、半発酵茶としてはウーロン茶、包種茶等、発酵茶としては紅茶、プーアール茶が挙げられる。
茶葉は種類、等級、産地、製法などは何ら限定されることはなく、いずれの茶葉でも可能である。あるいは、種類の異なる茶葉を1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0011】
(2)酵素
本発明ではタンニンを加水分解する活性を有する酵素であれば特に制限なく使用できるが、好ましくはタンナーゼ(EC番号3.1.1.20)が用いられる。タンナーゼはタンニンの没食子酸エステル結合を選択的に加水分解する酵素であり、Aspergillus属やPenicillium属等に属する微生物から得ることができる。
本発明においては、酵素製剤として市販されているものを用いてもよく、具体的には「タンナーゼ」(三菱化学フーズ社製)、「スミチームTAN」(新日本化学工業社製)、「タンナーゼ」(キッコーマンバイオケミファ社製)等を挙げることができる。
この他、植物の細胞壁分解酵素(セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ等)やタンパク分解酵素(プロテアーゼ等)のうち、夾雑酵素によるタンナーゼ活性を有している酵素も使用することができる。
【0012】
(3)吸着剤
本発明で用いる吸着剤は、活性炭又は合成吸着剤であり、いずれも特に限定することなく用いることができる。
活性炭は、木材、木炭、ヤシ殻、石炭類を原材料として炭化し、水蒸気等で賦活化して得られるもので、大きな比表面積と吸着能をもつ多孔質の炭素質物質であり、粉末状や粒状体のものがある。原料の木炭、ヤシがら、石炭チャー等を十分に炭化した後、水蒸気による高温処理あるいは塩化亜鉛等の水溶液の含浸と高温焼成などの方法で賦活し製造されている。
【0013】
一般に、比表面積は800〜3000m
2/g、好ましくは1000〜2000m
2/g、細孔容積は0.2〜2cm
3/g、好ましくは1〜2cm
3/g、細孔径は1〜5nm、好ましくは2.5〜4.5nmである。さらに、吸着後の分離性の観点から粉末状の活性炭よりも平均粒径が0.1〜1.0mm程度の顆粒状の活性炭が好ましい。
活性炭の組成は炭素を主成分とするが、他に少量の水素、酸素、無機成分を含み、化学構造はグラファイトを基本とするが無定形で表面にヒドロキシル基、キノン基などの官能基を持っている。
活性炭としては例えば、「クラレコール」(クラレケミカル社製)、「白鷺」(日本エンバイロンケミカルズ社製)、「太閤」(フタムラ化学社製)などを挙げることができる。
【0014】
合成吸着剤としては、その母体がスチレン系ポリマー、例えば「アンバーライト(登録商標)XAD-16」(オルガノ株式会社製)、スチレン−ジビニルベンゼン系ポリマー、例えば「ダイヤイオン(登録商標)HP-20」(三菱化学株式会社製)、アクリル系ポリマー、例えば「ダイヤイオン(登録商標)WK-10」(三菱化学株式会社製)、メタクリル系ポリマー、例えば「ダイヤイオン(登録商標)HP-2MG」(三菱化学株式会社製)、アクリル酸エステル系ポリマー、例えば「アンバーライト(登録商標)XAD-7」(オルガノ株式会社製)、アミド系ポリマー、例えば「アンバーライト(登録商標)XAD-11」(オルガノ株式会社製)、二酸化ケイ素系、例えば「サイロピュート(登録商標)202」(富士シリシア化学株式会社製)、デキストラン系、例えば「セファデックス(登録商標)G-25」(アマシャム ファルマシア バイオテク社製)、ポリビニル系、例えば「ダイヤイオン(登録商標)FP-II」(三菱化学株式会社製)、ポリビニルアミド系のポリビニルポリピロリドン(PVPP)、例えば「ポリクラール(登録商標)」(アイエスピー・ジャパン社製)、「ダイバガン(登録商標)」(BASF社製)などを挙げることができる。
【0015】
本発明では活性炭又はポリビニルポリピロリドンの使用が好ましく、活性炭の使用が特に好ましい。さらに、ポリビニルポリピロリドン製吸着剤の中でも平均粒径が10〜60μm、比表面積が0.5〜3.5m
2/g、かさ密度が0.1〜0.5g/cm
3のものが好ましい。
【0016】
(4)抽出処理
本発明では原料となる茶葉を吸着剤の存在下、酵素の水溶液で抽出することにより、カテキン類等に起因する苦渋味が少なく、茶本来の風味豊かな茶抽出液を得ることができる。すなわち、吸着剤と酵素が共存する態様で抽出操作を行う点に本発明の特徴がある。
酵素水溶液での抽出方法は特に制限はないが、通常は予め調製した酵素の水溶液に茶葉と吸着剤を投入し、一定時間静置又は撹拌条件下で酵素処理と同時に抽出を行う。
酵素の使用量は力価などにより異なるが、通常は乾燥茶葉1質量部に対し、酵素0.0001〜0.1質量部、水5〜100質量部、好ましくは酵素0.0002〜0.02質量部、水10〜50質量部である。
【0017】
吸着剤の使用量は種類により異なるが、後述するように抽出液のBrix比は60〜90%の範囲が好ましく、この観点から吸着剤の使用量は、通常は茶葉1質量部に対して吸着剤0.01〜1質量部、好ましくは0.05〜0.2質量部、より好ましくは0.05〜0.15質量部、さらに好ましくは0.07〜0.15質量部である。
抽出は通常は30〜55℃、好ましくは35〜50℃の温度範囲で、通常は10分〜3時間、好ましくは30分〜2時間の条件下で行う。
抽出時のpHは特に制限なく、使用する酵素や吸着剤の種類に応じて適宜適切なpHに調整することができる。
なお、抽出時に、茶葉の細胞壁を分解し細胞内容物が浸出され易くすることを目的としてセルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ等の細胞壁分解酵素や、プロテアーゼ等のタンパク質分解酵素などを添加してもよく、酸化防止剤としてアスコルビン酸又はその塩などを添加してもよい。
【0018】
抽出後、固液分離により茶葉、吸着剤その他の不溶物を除去し、酵素を失活させる。酵素の失活は、例えば抽出液を80〜95℃で1〜20分間加熱することにより行う。酵素失活後、遠心分離、濾過等の処理により清澄な茶抽出液を得る。
【0019】
本発明の茶抽出液は、優れた香味の観点から、製造される茶抽出液のBrixが、吸着剤処理を行わずに作製した抽出液のBrixとの比(以下「Brix比」と記す)が60〜90%となるように抽出時に使用する吸着剤の量を調整することが好ましく、香りの強さの観点からは70〜90%がより好ましい。Brix比が90%を超えると苦渋味が強く、また、Brix比が60%以下の場合には香りが弱くなってしまう。
ここで、Brix(ブリックス)とは、溶液100gあたりの可溶性固形物重量(g)のことである。
【0020】
(5)茶抽出液の製剤化
本発明の茶抽出液は、さらに濃縮してペースト状の抽出エキスとしても、また噴霧乾燥、凍結乾燥又は加熱乾燥などの処理を行い粉末として使用してもよい。
一般的には各種成分(糖、酸味料、酸化防止剤、香料など)を組み合わせて、例えば水、アルコール、グリセリン、プロピレングリコール等、又はこれらを混合した溶剤に適当な濃度で溶解させて液剤とする。具体的には、水/エタノール、水/エタノール/グリセリン、水/グリセリン等の混合溶剤が好ましい。
また、各溶液に賦形剤(例えばデキストリン等)を添加し噴霧乾燥により粉末状にすることも可能であり、用途に応じて種々の剤形を採用することができる。
【0021】
(6)茶抽出液の適用
得られた茶抽出液は、茶飲料としてそのまま飲用することができる。あるいは他の飲食品に添加して使用することができる。
例えば、緑茶、ウーロン茶、紅茶などの茶類飲料に添加すると、飲料に苦渋味を増加させることなく茶の本来の風味を付与することができる。茶類飲料に添加する場合は飲料に対して通常0.05〜2質量%、好ましくは0.1〜1質量%の添加量(抽出液として)が適当である。
【0022】
さらに、本発明の茶抽出液は苦味や渋みが少なく優れた香味を有することから、茶類飲料以外の茶風味を有する飲食品、例えば、茶の風味を付与したスナック類、栄養食品、アイスクリーム、シャーベット等の冷菓類、饅頭、羊かん、ういろう、クッキー、ケーキ、チョコレート、チューイングガム、ゼリー、プリン、ムース等の菓子類、菓子パン、食パン等のパン類、ラムネ菓子、タブレット、錠菓類などに添加することができる。
具体的には、茶エキス入りキャンディー、抹茶アイスクリーム、抹茶ムース、抹茶入り乳飲料、緑茶ゼリーや抹茶チョコレート等が例示される。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例の記載に限定されるものではない。
【0024】
〔実施例1〜6〕
抽出器に所定量の水及び0.02質量部のタンナーゼ酵素「スミチームTAN」(新日本化学工業社製)を仕込み、溶解させた後、茶葉100質量部と所定量の吸着剤を加え、40℃で1.5時間抽出した。
その後固液分離を行い、得られた抽出液を85℃で5分間加熱して酵素を失活させ、10℃まで冷却した。
10℃で遠心分離を行い、上澄み液を回収して茶抽出液を得た。抽出液のBrixは(株)アタゴ製のデジタル屈折計「RX−7000α」で測定した。
なお、本実施例及び比較例において、茶葉は市販の緑茶、紅茶又はウーロン茶を使用した。また、吸着剤は活性炭又はポリビニルポリピロリドン(PVPP)を使用した。
【0025】
〔比較例1、3、9〕
抽出器に所定量の水及び0.02質量部の「スミチームTAN」(新日本化学工業社製)を仕込み、溶解させた後、茶葉100質量部を加え、40℃で1.5時間抽出した。
その後固液分離を行い、得られた抽出液を85℃で5分間加熱して酵素を失活させ、10℃まで冷却した。
10℃で遠心分離を行い、上澄み液を回収した。抽出液のBrixは実施例1〜6と同じ方法で測定した。
【0026】
〔比較例2、5〜8、10〕
抽出器に所定量の水及び0.02質量部の「スミチームTAN」(新日本化学工業社製)を仕込み、溶解させた後、茶葉100質量部を加え、40℃で1.5時間抽出した。
その後固液分離を行い、得られた抽出液を85℃で5分間加熱して酵素を失活させ、40℃まで冷却した。これに吸着剤を所定量加え40℃で1.5時間吸着剤処理を行った。
その後10℃まで冷却して遠心分離を行い、上澄み液を回収して抽出液を得た。抽出液のBrixは実施例1〜6と同じ方法で測定した。
【0027】
〔比較例4〕
抽出器に所定量の水及び所定量の吸着剤を仕込んだ後、茶葉100質量部を加え、40℃で1.5時間抽出した。
その後固液分離を行い、得られた抽出液を10℃まで冷却した。
10℃で遠心分離を行い、上澄み液を回収した。抽出液のBrixは実施例1〜6と同じ方法で測定した。
【0028】
〔試験例〕
実施例1〜6及び比較例1〜10で得られた茶抽出液の香り及び苦渋味の強さを3名の専門パネルにより評価した。
評価の基準は吸着剤不使用の比較例1及び3を4点(強い)とし、3点(やや強い)、2点(やや弱い)、1点(弱い)の4段階とした。各パネルの評価点の平均を表1に示す。なお、吸着剤量は茶葉
100質量部に対して使用した吸着剤の質量部で表示した。
【0029】
【表1】
【0030】
酵素のみを使用し吸着剤を使用しなかった比較例1、3、9に比べ、酵素処理の後吸着剤を使用した比較例2、5〜8、10では苦渋味は低減されたが香りも減少した。酵素を使用せず吸着剤のみを使用した比較例4も同様の結果となった。これに対し、吸着剤存在下で酵素反応を行った実施例1〜6では香りの減少が抑えられ、苦渋味が少なく風味の豊かな茶抽出液が得られた。また、実施例1〜6では吸着剤として活性炭を使用した場合に効果が高く、Brix比が70〜90%の場合に香りの強い抽出液が得られた。
【0031】
本願発明の効果は、苦渋味が少なく風味豊かな茶抽出液が得られる点にある。
すなわち、表1において「香りの強さ」の平均評価点が高いことと、「苦渋味の強さ」の平均評価点が低いことが重要である。
例えば、苦渋味の強さを1.0まで抑えた比較例7と実施例4を対比すれば、比較例7の香りの強さは1.0なのに対し、実施例4は1.7であり、苦渋味を強く抑えても香りの強さは一定程度維持されるという点で効果が優れる。