(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294718
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】増加ポイント判定装置、通信装置、増加ポイント判定方法およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
H04L 12/70 20130101AFI20180305BHJP
【FI】
H04L12/70 100Z
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-59071(P2014-59071)
(22)【出願日】2014年3月20日
(65)【公開番号】特開2015-185944(P2015-185944A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(72)【発明者】
【氏名】立花 篤男
(72)【発明者】
【氏名】パル オヌップクマル
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 輝之
【審査官】
宮島 郁美
(56)【参考文献】
【文献】
特表2011−515978(JP,A)
【文献】
特開2012−142684(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0090811(US,A1)
【文献】
特開2002−259998(JP,A)
【文献】
宮坂 昌宏 Masahiro Miyasaka,パケット遅延相関による利用可能帯域推定方式の検討 Estimating Available Bandwidth Using Packet-Delay Correlation,電子情報通信学会技術研究報告 Vol.102 No.694 IEICE Technical Report,日本,社団法人電子情報通信学会 The Institute of Electronics,Information and Communication Engineers,第102巻
【文献】
宮坂 昌宏 Masahiro Miyasaka,リアルタイム性を考慮した利用可能帯域推定方式 Real-time Measurement of Available Bandwidth,電子情報通信学会技術研究報告 Vol.103 No.691 IEICE Technical Report,日本,社団法人電子情報通信学会 The Institute of Electronics,Information and Communication Engineers,第103巻
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L12/00−12/26,12/50−12/955
H04B7/24−7/26,H04W4/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験パケットの送信レートを増加させながら行われる通信ネットワークの通信装置間の可用帯域の測定において使用されるキューイング遅延の増加ポイントを判定する増加ポイント判定装置であり、
前記試験パケットのキューイング遅延を表すグラフのグラフ分割点までのキューイング遅延を第1の関数で近似する第1近似処理部と、
前記グラフ分割点以降のキューイング遅延を第2の関数で近似する第2近似処理部と、
最も残差の少ない近似結果になった前記グラフ分割点を増加ポイントとする判定部と、
を備え、
前記第2の関数は曲線であることを特徴とする増加ポイント判定装置。
【請求項2】
前記グラフ分割点又は前記グラフ分割点を含む前記グラフ分割点の近傍の所定範囲に対して、それ以外の範囲よりも大きな重み付けを行って前記近似を行うことを特徴とする請求項1に記載の増加ポイント判定装置。
【請求項3】
前記第1の関数は直線であることを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載の増加ポイント判定装置。
【請求項4】
前記可用帯域の測定の対象である通信装置間に無線区間が含まれる場合に、キューイング遅延の値が大きいデータよりも、キューイング遅延の値が小さいデータの方に重みを付与し、前記第1の関数及び前記第2の関数を求めることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の増加ポイント判定装置。
【請求項5】
増加する送信レートで送信された各試験パケットを受信し、該各試験パケットのキューイング遅延を取得する受信部と、
前記取得された各試験パケットのキューイング遅延に基づいて増加ポイントを判定する請求項1から4のいずれか1項に記載の増加ポイント判定装置と、
前記判定結果の増加ポイントに該当する試験パケットの送信レートを、可用帯域推定値とする可用帯域推定部と、
を備えたことを特徴とする通信装置。
【請求項6】
試験パケットの送信レートを増加させながら行われる通信ネットワークの通信装置間の可用帯域の測定において使用されるキューイング遅延の増加ポイントを判定する増加ポイント判定装置の増加ポイント判定方法であり、
前記増加ポイント判定装置が、前記試験パケットのキューイング遅延を表すグラフのグラフ分割点までのキューイング遅延を第1の関数で近似する第1近似処理ステップと、
前記増加ポイント判定装置が、前記グラフ分割点以降のキューイング遅延を第2の関数で近似する第2近似処理ステップと、
前記増加ポイント判定装置が、最も残差の少ない近似結果になった前記グラフ分割点を増加ポイントとする判定ステップと、
を含み、
前記第2の関数は曲線であることを特徴とする増加ポイント判定方法。
【請求項7】
試験パケットの送信レートを増加させながら行われる通信ネットワークの通信装置間の可用帯域の測定において使用されるキューイング遅延の増加ポイントを判定する増加ポイント判定装置のコンピュータに、
前記試験パケットのキューイング遅延を表すグラフのグラフ分割点までのキューイング遅延を第1の関数で近似する第1近似処理ステップと、
前記グラフ分割点以降のキューイング遅延を第2の関数で近似する第2近似処理ステップと、
最も残差の少ない近似結果になった前記グラフ分割点を増加ポイントとする判定ステップと、
を実行させ、
前記第2の関数は曲線であるコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増加ポイント判定装置、通信装置、増加ポイント判定方法およびコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネットの利用において、可用帯域は様々な通信アプリケーションにとって重要な指標となっている。例えば、映像ストリーミングでは、通信端末間で可用帯域を監視することにより、映像データのコーデックや送信ビットレートを可用帯域に応じて動的に制御し、通信ネットワークの状況に適した映像配信を行うことができる。
【0003】
通信ネットワークのエンドツーエンド(end to end)の可用帯域を測定する技術として、例えば、試験パケット(UDP(User Datagram Protocol)パケット)を通信ネットワーク内に送信し、試験パケットが経験する遅延の変動等(キューイング遅延に相当)を監視し、この監視結果に基づいて可用帯域を推定するアクティブ計測法がある。代表的なアクティブ計測法の例としてpathChirp法が知られている(例えば非特許文献1参照)。
【0004】
Pathchirp法では、連続する試験パケット群(以下、パケットトレインと称する)を、送信端末から、試験パケットの送信間隔が指数関数的に減少するように調節して、受信端末へ送信する(試験パケットの送信レートは徐々に増加する)。そして、受信端末側で計算される各試験パケットのキューイング遅延の増加傾向を分析することにより、可用帯域を推定する。具体的には、試験パケットの送信レートが可用帯域を超えたところで試験パケットのキューイング遅延が増加する特性を利用するものであって、キューイング遅延の増加が始まるポイント(以下、増加ポイントと称する)を検出することにより、増加ポイントに該当する試験パケットの送信レートに基づいて可用帯域を推定している。
【0005】
Pathchirp法では次の判定条件により増加ポイントを判定する。
[Pathchirp法の判定条件]
「i+1」番目以降のキューイング遅延は、「i+1」番目以降のキューイング遅延の最大値の「1/d」倍よりも大きい。但し、dは、1よりも大きい定数であり、予め設定される。Pathchirp法では、デフォルト値として「d=1.5」が使用される。
この判定条件によれば、キューイング遅延が最大値の「1/d」倍以下に低下するポイントにおいて、キューイング遅延の増加傾向は継続していないと判定される。
【0006】
上記したPathchirp法以外の可用帯域測定技術として、観測されるパケット遅延の傾向に基づき、次に送信する試験パケットの送信レート(送信間隔)を動的に調節し、可用帯域を絞り込む方法として、Pathload法(例えば非特許文献2参照)やIGI法(例えば非特許文献3参照)が知られている。また、試験パケットの送信間隔ではなくパケットサイズを変化させたり、又は試験パケットの送信間隔とパケットサイズの両方を変化させたりすることで、試験パケットの送信レートを調整する方法が知られている(例えば非特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Vinay J. Ribeiro , Rudolf H. Riedi , Richard G. Baraniuk , Jiri Navratil , Les Cottrell,“pathChirp: Efficient Available Bandwidth Estimation for Network Paths”, 2003年
【非特許文献2】M.Jain and C.Dovrolis,“Pathload:A measurement tool for end-to-end probing and available bandwidth”, Proceedings of Passive and Active Measurement(PAM) Workshop
【非特許文献3】N. Hu and P. Steenkiste,“Evaluation and Characterization of Available Bandwidth Probing Techniques”, IEEE Journal on Selected Areas in Communications, August 2003年
【非特許文献4】小関, 加藤, 小原,“可変長chirp 方式によるインターネットの可用帯域の測定”, 計測自動制御学会東北支部 第264回研究集会, 2011年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述した従来のPathchirp法の判定条件を用いて増加ポイントを判定すると、定数dの値によって増加ポイントの位置が大きく変動する場合がある。
図9は従来のPathchirp法の判定条件を用いた増加ポイント判定方法を説明するためのグラフ図である。
図9において、キューイング遅延がしきい値Th以下になると、そのポイントが増加ポイントに判定される。該しきい値Thは定数dの値に基づいて決まる。したがって、定数dの値が変わればしきい値Thも変わるので、増加ポイントも変わる可能性がある。また、利用者が、実際の通信ネットワークにおいて、定数dを適切な値に設定することは困難である。このため、増加ポイントを的確に判定することが難しく、可用帯域の推定精度が低下する可能性がある。また、Pathchirp法以外の上述の方法でも、同様に、増加ポイントを精度よく判定する方法が課題となっている。
【0009】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、通信ネットワークの通信装置間の可用帯域の測定において使用される増加ポイントの判定の精度向上を図ることができる、増加ポイント判定装置、通信装置、増加ポイント判定方法およびコンピュータプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係る増加ポイント判定装置は、試験パケットの送信レートを増加させながら行われる通信ネットワークの通信装置間の可用帯域の測定において使用されるキューイング遅延の増加ポイントを判定する増加ポイント判定装置であり、前記試験パケットのキューイング遅延を表すグラフのグラフ分割点までのキューイング遅延を第1の関数で近似する第1近似処理部と、前記グラフ分割点以降のキューイング遅延を第2の関数で近似する第2近似処理部と、最も残差の少ない近似結果になった前記グラフ分割点を増加ポイントとする判定部と、を備え
、前記第2の関数は曲線であることを特徴とする。
(2)本発明に係る増加ポイント判定装置は、上記(1)の増加ポイント判定装置において、前記グラフ分割点又は前記グラフ分割点を含む前記グラフ分割点の近傍の所定範囲に対して、それ以外の範囲よりも大きな重み付けを行って前記近似を行うことを特徴とする請求項1に記載の増加ポイント判定装置。
(3)本発明に係る増加ポイント判定装置は、上記(1)又は(2)のいずれかの増加ポイント判定装置において、前記第1の関数は直線で
あることを特徴とする。
(4)本発明に係る増加ポイント判定装置は、上記(1)から(3)のいずれかの増加ポイント判定装置において、前記可用帯域の測定の対象である通信装置間に無線区間が含まれる場合に、キューイング遅延の値が大きいデータよりも、キューイング遅延の値が小さいデータの方に重みを付与し、前記第1の関数及び前記第2の関数を求めることを特徴とする。
【0011】
(5)本発明に係る通信装置は、増加する送信レートで送信された各試験パケットを受信し、該各試験パケットのキューイング遅延を取得する受信部と、前記取得された各試験パケットのキューイング遅延に基づいて増加ポイントを判定する上記(1)から(4)のいずれかの増加ポイント判定装置と、前記判定結果の増加ポイントに該当する試験パケットの送信レートを、可用帯域推定値とする可用帯域推定部と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
(6)本発明に係る増加ポイント判定方法は、試験パケットの送信レートを増加させながら行われる通信ネットワークの通信装置間の可用帯域の測定において使用されるキューイング遅延の増加ポイントを判定する増加ポイント判定装置の増加ポイント判定方法であり、前記増加ポイント判定装置が、前記試験パケットのキューイング遅延を表すグラフのグラフ分割点までのキューイング遅延を第1の関数で近似する第1近似処理ステップと、前記増加ポイント判定装置が、前記グラフ分割点以降のキューイング遅延を第2の関数で近似する第2近似処理ステップと、前記増加ポイント判定装置が、最も残差の少ない近似結果になった前記グラフ分割点を増加ポイントとする判定ステップと、を含
み、前記第2の関数は曲線であることを特徴とする。
【0013】
(7)本発明に係るコンピュータプログラムは、試験パケットの送信レートを増加させながら行われる通信ネットワークの通信装置間の可用帯域の測定において使用されるキューイング遅延の増加ポイントを判定する増加ポイント判定装置のコンピュータに、前記試験パケットのキューイング遅延を表すグラフのグラフ分割点までのキューイング遅延を第1の関数で近似する第1近似処理ステップと、前記グラフ分割点以降のキューイング遅延を第2の関数で近似する第2近似処理ステップと、最も残差の少ない近似結果になった前記グラフ分割点を増加ポイントとする判定ステップと、を実行させ
、前記第2の関数は曲線であるコンピュータプログラムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、通信ネットワークの通信装置間の可用帯域の測定において使用される増加ポイントの判定の精度向上を図ることができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る可用帯域測定システム1の概念図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る可用帯域測定方法を説明するためのグラフ図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る増加ポイント判定方法を説明するためのグラフ図である。
【
図4】
図1に示す受信端末20の構成例を示すブロック図である。
【
図5】
図4に示す増加ポイント判定部22の構成例を示すブロック図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る増加ポイント判定処理の手順を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の一実施形態に係る近似処理を説明するためのグラフ図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る近似処理を説明するためのグラフ図である。
【
図9】従来のPathchirp法の判定条件を用いた増加ポイント判定方法を説明するためのグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る可用帯域測定システム1の概念図である。
図1において、可用帯域測定システム1は送信端末10と受信端末20を備える。送信端末10は、パケットトレインを受信端末20へ送信する。パケットトレイン内の試験パケットの送信間隔は徐々に減少する(言い換えれば、徐々に送信レートが増大する)。受信端末20は、パケットトレインを受信し、パケットトレイン内の各試験パケットのキューイング遅延の増加傾向を分析することにより、増加ポイントを判定し、可用帯域を推定する。
【0017】
図2は、本実施形態に係る可用帯域測定方法を説明するためのグラフ図である。
図2において、横軸は試験パケット番号を示し、縦軸は試験パケットのキューイング遅延(秒)を示す。パケットトレイン内の試験パケットの送信レートは徐々に高くなる。その試験パケットのキューイング遅延の増加が始まるポイント(増加ポイント)に該当する試験パケットの送信レートを可用帯域として推定する。このため、増加ポイントを精度よく検出することが、可用帯域の測定精度の向上につながる。
【0018】
図3は、本実施形態に係る増加ポイント判定方法を説明するためのグラフ図である。
図3において、横軸は試験パケット番号を示し、縦軸は試験パケットのキューイング遅延(秒)を示す。キューイング遅延は、一般に増加ポイントまではほぼ一定であり、増加ポイントを境にして増加を始める。したがって、キューイング遅延のグラフを、増加ポイントまでのキューイング遅延を表すグラフと増加ポイント以降のキューイング遅延を表すグラフとに分け、分割後のそれぞれのグラフに当てはまりのよい関数を求めることにより、尤もらしいグラフ分割点を探索し、増加ポイントとして検出する。その関数は直線であってもよく、又は、曲線であってもよい。例えば、グラフ分割点k(kは試験パケット番号)を変えながら、グラフ分割点kまでのキューイング遅延を直線W1で近似し、グラフ分割点k以降のキューイング遅延を表すグラフを直線又は曲線W2で近似する。そして、最も残差の少ない近似結果になったグラフ分割点kを増加ポイントとする。
【0019】
図4は、
図1に示す受信端末20の構成例を示すブロック図である。
図4において、受信端末20は受信部21と増加ポイント判定部22と可用帯域推定部23を備える。
【0020】
受信部21は、送信端末10から送信された試験パケットを受信する。また、受信部21は、各試験パケットのキューイング遅延101を取得する。各試験パケットのキューイング遅延101は増加ポイント判定部22へ通知される。
【0021】
ここで、キューイング遅延101の取得方法の例を説明する。送信端末10から送信される各試験パケットには、送信時刻情報s
jが付加される(j=1,2,・・・,N+1)。試験パケット番号「p_no=j」の試験パケットの送信時刻情報がs
jである。受信部21は、次式により、各試験パケットのキューイング遅延を算出する。
q
i=(r
i+1−r
1)−(s
i+1−s
1)
但し、q
iは、「i+1」番目の試験パケットのキューイング遅延(秒)である(i=1,2,・・・,N)。r
jは、試験パケット番号「p_no=j」の試験パケットの受信時刻情報である(j=1,2,・・・,N+1)。受信時刻情報r
jは、受信部21により試験パケット受信時に記録される。これにより、
図2に例示される、試験パケット番号に対するキューイング遅延のグラフデータ、が取得される。
【0022】
増加ポイント判定部22は、受信部21から通知された各試験パケットのキューイング遅延101に基づいて、増加ポイントを判定する。この判定結果の増加ポイント102は可用帯域推定部23へ通知される。
【0023】
可用帯域推定部23は、増加ポイント判定部22から通知された増加ポイント102に該当する試験パケットの送信レートを、可用帯域推定値とする。試験パケットの送信レートは、送信端末10が使用する送信レートを、受信端末20内で算出してもよく、又は、送信端末10等の他の装置から取得してもよい。
【0024】
図5は、
図4に示す増加ポイント判定部22の構成例を示すブロック図である。
図5において、増加ポイント判定部22は第1近似処理部221と第2近似処理部222と判定部223を備える。
【0025】
第1近似処理部221は、グラフ分割点kまでのキューイング遅延101を近似する直線W1を算出し、該直線W1とグラフ分割点kまでのキューイング遅延101との残差を算出する。第2近似処理部222は、グラフ分割点k以降のキューイング遅延101を近似する直線又は曲線W2を算出し、該直線又は曲線W2とグラフ分割点k以降のキューイング遅延101との残差を算出する。
【0026】
判定部223は、グラフ分割点kを変えながら各グラフ分割点kでの第1近似処理部221の残差及び第2近似処理部222の残差を取得し、第1近似処理部221の残差と第2近似処理部222の残差の和が最小となるグラフ分割点kを増加ポイント102とする。
【0027】
次に
図6を参照して、
図5に示す増加ポイント判定部22の動作を説明する。
図6は、本実施形態に係る増加ポイント判定処理の手順を示すフローチャートである。
【0028】
(ステップS1) 判定部223が、グラフ分割点kを初期値に設定する。グラフ分割点kは第1近似処理部221及び第2近似処理部222へ通知される。kは試験パケット番号p_noであり(p_noは1から「N+1」までの自然数)、「1<k≦N−2」とする。試験パケット数は「N+1」である。グラフ分割点kの初期値として例えば「k=2」とする。なお、「k≦N−2」とする理由は、グラフ分割点k以降の近似計算において、3個以上のサンプルデータ(キューイング遅延)を確保するためである。
【0029】
(ステップS2) 第1近似処理部221が、グラフ分割点kまでのキューイング遅延101を近似する直線W1を算出し、該直線W1とグラフ分割点kまでのキューイング遅延101との残差を算出する。具体的には、直線W1を「y=a」とする。該aの値は、最小二乗法により、「y=a」とグラフ分割点kまでの各キューイング遅延101との残差の総和が最小になるように計算する。次いで、「y=a」とグラフ分割点kまでの各キューイング遅延101との残差の総和Δ_1を判定部223へ通知する。
【0030】
(ステップS3) 第2近似処理部222が、グラフ分割点k以降のキューイング遅延101を近似する直線又は曲線W2を算出し、該直線又は曲線W2とグラフ分割点k以降のキューイング遅延101との残差を算出する。具体的には、直線又は曲線W2を二次関数「f(x)=bx
2+cx+d」とする。但し、xはk以降の試験パケット番号p_noであり、「k<x≦N+1」である。係数b,c,dの値は、最小二乗法により、「f(x)=bx
2+cx+d」とグラフ分割点k以降の各キューイング遅延101との残差の総和が最小になるように計算する。次いで、「f(x)=bx
2+cx+d」とグラフ分割点k以降の各キューイング遅延101との残差の総和Δ_2を判定部223へ通知する。
【0031】
(ステップS4) 判定部223が、グラフ分割点kでの、第1近似処理部221による残差の総和Δ_1と第2近似処理部222による残差の総和Δ_2との和(総残差Skと称する)を算出する。判定部223は、グラフ分割点kでの総残差Skを記録する。
【0032】
(ステップS5) 判定部223が、グラフ分割点kの変更の終了を判断する。グラフ分割点kの変更が終了である場合にはステップS7へ進み、まだグラフ分割点kの変更が終了でない場合にはステップS6へ進む。
【0033】
(ステップS6) 判定部223が、グラフ分割点kを更新し、更新後のグラフ分割点kを第1近似処理部221及び第2近似処理部222へ通知する。グラフ分割点kの更新方法として、例えば、kの値を所定値ずつ増加させることが挙げられる。
【0034】
(ステップS7) 判定部223が、各グラフ分割点kでの総残差Skに基づいて、増加ポイント102を判定する。具体的には、総残差Skが最小であるグラフ分割点kを増加ポイント102とする。
【0035】
上述した実施形態によれば、従来のPathchirp法の判定条件を用いた増加ポイント判定方法のように、判定パラメータ(Pathchirp法の判定条件における定数dの値)によって増加ポイントの位置が大きく変動するがない。これにより、増加ポイントの判定の精度向上を図ることができ、可用帯域の推定精度を良好に保つことが可能となる。
【0036】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0037】
例えば、試験パケットの送信レートを変化させる仕方として、(1)試験パケットの送信間隔を変化させる、(2)試験パケットのパケットサイズを変化させる、(3)試験パケットの送信間隔とパケットサイズの両方を変化させる、ことが挙げられる。本発明は、それらいずれの仕方にも適用可能であり、同様に上述した効果が得られる。なお、試験パケットのパケットサイズは、送信レートを送信間隔で除算することにより、容易に計算できる。
【0038】
また、受信端末20として、スマートフォンやタブレット型のコンピュータ(タブレットPC)等の携帯通信端末装置、又は、据置き型の通信端末装置(例えば、据置き型のパーソナルコンピュータ等)であってもよい。
【0039】
また、上述した実施形態では、通信端末間(通信ネットワークのエンドツーエンド)の可用帯域を測定する場合を例に挙げたが、通信中継装置間や、通信端末と通信中継装置間の可用帯域を測定する場合にも同様に適用可能である。
【0040】
なお、可用帯域の測定の対象である通信装置間に無線区間が含まれる場合には、電波干渉やフェージングなどの影響により、キューイング遅延の計測結果に雑音(異常値)が含まれる可能性がある。このような雑音が観測された場合、受信端末20で計算されるキューイング遅延の計算結果は、より大きな値になる。そこで、その雑音の影響を抑制するために、キューイング遅延の値が大きいデータよりも、キューイング遅延の値が小さいデータの方に重みを付与し、近似関数を求めるようにしてもよい。具体的には、最小二乗法における誤差の二乗和として「第1近似処理部221での最小二乗法における誤差の二乗和Δ
1」、「第2近似処理部222での最小二乗法における誤差の二乗和Δ
2」を、キューイング遅延値q
iの絶対値に基づいて[数1]で計算する。
【0042】
また、
図6のステップS2,S3の近似処理において、グラフ分割点kにおける残差にそれ以外の残差よりも大きな重みを付けて、近似直線や近似曲線を算出するようにしてもよい。
【0043】
図7、
図8は、本発明の一実施形態に係る近似処理を説明するためのグラフ図である。
図7において、上述した実施形態のように残差に重みを付けない場合、グラフ分割点kまでのキューイング遅延101を近似する直線W11と、グラフ分割点k以降のキューイング遅延101を近似する直線又は曲線(ここでは曲線とする)W21がそれぞれ算出される。この場合、
図7中のグラフ点301とグラフ点302のようにグラフ分割点kの前後のキューイング遅延101に大きな差があると、
図7に示されるように、直線W11と曲線W21の繋ぎ目に大きな乖離が発生し、増加ポイントの検出精度が低下する可能性がある。
【0044】
そこで、
図6のステップS2,S3の近似処理において、グラフ分割点kにおける残差にそれ以外の残差よりも大きな重みを付けて、近似直線や近似曲線を算出する。これにより、あるグラフ分割点kにおいて、
図7に示されるように、グラフ分割点k以降のキューイング遅延101を近似する曲線が曲線W22となる。この曲線W22の方が、重み付けしない曲線W21よりも、グラフ分割点kまでのキューイング遅延101を近似する直線W11との繋ぎ目の乖離が小さくなり、増加ポイントの検出精度が向上する。又は、あるグラフ分割点kにおいて、
図8に示されるように、グラフ分割点kまでのキューイング遅延101を近似する直線が直線W12となる。この直線W12の方が、重み付けしない直線W11よりも、グラフ分割点k以降のキューイング遅延101を近似する曲線W21との繋ぎ目の乖離が小さくなり、増加ポイントの検出精度が向上する。
【0045】
なお、
図6のステップS2,S3の近似処理において残差の重み付けは、グラフ分割点kにおける残差にそれ以外の残差よりも大きな重みを付けるようにしてもよく、又は、グラフ分割点kを含むグラフ分割点kの近傍の所定範囲における残差にそれ以外の残差よりも大きな重みを付けるようにしてもよい。
【0046】
また、
図6に示す各ステップを実現するためのコンピュータプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、増加ポイント判定処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものであってもよい。
【0047】
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、フラッシュメモリ等の書き込み可能な不揮発性メモリ、DVD(Digital Versatile Disk)等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0048】
さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory))のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【符号の説明】
【0049】
1…可用帯域測定システム、10…送信端末、20…受信端末、21…受信部、22…増加ポイント判定部、23…可用帯域推定部、221…第1近似処理部、222…第2近似処理部、223…判定部