特許第6294781号(P6294781)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立建機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6294781-制動距離抑制装置 図000002
  • 特許6294781-制動距離抑制装置 図000003
  • 特許6294781-制動距離抑制装置 図000004
  • 特許6294781-制動距離抑制装置 図000005
  • 特許6294781-制動距離抑制装置 図000006
  • 特許6294781-制動距離抑制装置 図000007
  • 特許6294781-制動距離抑制装置 図000008
  • 特許6294781-制動距離抑制装置 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294781
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】制動距離抑制装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 7/24 20060101AFI20180305BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20180305BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20180305BHJP
   B60K 6/46 20071001ALI20180305BHJP
   B60L 11/12 20060101ALI20180305BHJP
   B60W 10/184 20120101ALI20180305BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20180305BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20180305BHJP
   B60W 10/18 20120101ALI20180305BHJP
【FI】
   B60L7/24 D
   B60T7/12 BZHV
   B60T8/17 C
   B60K6/46
   B60L11/12
   B60W10/184
   B60W10/08
   B60W10/00 120
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-149960(P2014-149960)
(22)【出願日】2014年7月23日
(65)【公開番号】特開2016-25798(P2016-25798A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年3月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武田 宏栄
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 真二郎
【審査官】 笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−183687(JP,A)
【文献】 特開平10−320700(JP,A)
【文献】 特開2010−096721(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 7/24
B60K 6/46
B60L 11/12
B60T 7/12
B60T 8/17
B60W 10/04
B60W 10/08
B60W 10/18
B60W 10/184
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機により駆動される交流発電機と、前記交流発電機により電力が供給されて駆動する走行用の電動モータとを有し、前記電動モータで発生するトルクを用いた電気式ブレーキ装置によって制動する電気駆動式の作業車両に用いる制動距離抑制装置において
配情報、積載量情報、路面摩擦情報、車速情報を取得する情報取得部と、
前記勾配情報、積載量情報、路面摩擦情報、車速情報、及び予め与えられた前記電動モータの制動トルクの特性を基に、前記電気式ブレーキ装置による制動距離が閾値以下となる安全車速を算出する安全車速算出部と、
前記勾配情報、積載量情報、路面摩擦情報、車速情報、及び予め与えられた前記電動モータの制動トルクの特性を基に、前記電気式ブレーキ装置による減速度が閾値以下となる減速度限界車速を算出する減速度限界車速算出部と、
前記情報取得部で取得された車速情報を前記安全車速及び前記減速度限界車速と比較した結果を基に、設定距離以内で前記電気式ブレーキ装置により停止できるか否かを判定する車速判定部と、
前記車速判定部の判定結果を基に、注意喚起又はブレーキ操作を促す報知動作を報知装置に指示する報知指示部と、
アクセルペダルとブレーキペダルの操作量を基に報知の設定を判定するオペレータ操作判定部と、
前記車速判定部及び前記オペレータ操作判定部の判定結果を基に前記報知指示部に報知動作の設定を出力する論理積算出部と
を備えたことを特徴とする制動距離抑制装置。
【請求項2】
原動機により駆動される交流発電機と、前記交流発電機により電力が供給されて駆動する走行用の電動モータとを有し、前記電動モータで発生するトルクを用いた電気式ブレーキ装置によって制動する電気駆動式の作業車両に用いる制動距離抑制装置において
配情報、積載量情報、路面摩擦情報、車速情報を取得する情報取得部と、
前記勾配情報、積載量情報、路面摩擦情報、車速情報、及び予め与えられた前記電動モータの制動トルクの特性を基に、前記電気式ブレーキ装置による制動距離が閾値以下となる安全車速を算出する安全車速算出部と、
前記勾配情報、積載量情報、路面摩擦情報、車速情報、及び予め与えられた前記電動モータの制動トルクの特性を基に、前記電気式ブレーキ装置による減速度が閾値以下となる減速度限界車速を算出する減速度限界車速算出部と、
前記減速度限界車速及び前記安全車速を指示する車速指示部と
を備えたことを特徴とする制動距離抑制装置。
【請求項3】
請求項2に記載の制動距離抑制装置において、
前記勾配情報、積載量情報、路面摩擦情報、車速情報、及び予め与えられた非電気式ブレーキ装置の制動力の値を基に、前記非電気式ブレーキ装置による制動距離を算出する制動距離算出部と、
前記制動距離算出部で算出された前記制動距離を基に前記非電気式ブレーキ装置による制動の要否を判定し、必要と判定された場合に前記非電気式ブレーキ装置を制御して前記安全車速に車速を近付ける非電気式ブレーキ制御部と
を備えたことを特徴とする制動距離抑制装置。
【請求項4】
請求項2に記載の制動距離抑制装置において、前記安全車速と制御車速とから目標車速を選択し、前記電動モータのトルクを制御して前記目標車速に車速を近付ける電気式ブレーキ制御部を備えたことを特徴とする制動距離抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機によって駆動輪が駆動されることで走行する電気駆動式の作業車両の制動距離の増大を抑制する制動距離抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気駆動車両として、エンジンで発電機を駆動し、発電機で得た電力を後輪のモータに供給して後輪を駆動するハイブリッド型のものが知られている。この種のハイブリッド型の電気駆動車両は、高速で走行する場合にはモータの回転数が上昇することからモータトルクが低下し、特に重量物を積載し下り坂等を走行するときには、車両の制動距離が著しく増加し得る。制動距離が増加した際にはモータトルクを制動に利用する電気式ブレーキの他に、排気式、油圧式、機械式のうちのいずれかのブレーキ装置を併用して制動することが一般的である。制動距離が増加した制動時間が著しく長くなった場合には、特に電気式や機械式を含む冷却式のブレーキ装置ではブレーキ装置のオーバーヒート、油圧式や機械式のブレーキ装置では摩耗や発熱による劣化を招き得る。
【0003】
そこで、制動距離の著しい増加を回避するために、設定された制御車速に車速を一致させる自動制御装置が既に提唱されている(特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3743692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の自動制御装置で車速の制御目標値としている制御車速はオペレータが任意に設定した値である。電気式ブレーキで制動できる車速は路面の傾斜度、積載量等の各種条件によって変化する。オペレータによる制御車速の設定がそもそも不適切である場合もある。従って、制御車速に車側を一致させても気付かぬ間に制動距離が増加し得る。
【0006】
本発明の目的は、状況に応じて制動距離の増大を抑制することができる制動距離抑制装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、第1の発明は、原動機により駆動される交流発電機と、前記交流発電機により電力が供給されて駆動する走行用の電動モータとを有し、前記電動モータで発生するトルクを用いた電気式ブレーキ装置によって制動する電気駆動式の作業車両に用いる制動距離抑制装置において、勾配情報、積載量情報、路面摩擦情報、車速情報を取得する情報取得部と、前記勾配情報、積載量情報、路面摩擦情報、車速情報、及び予め与えられた前記電動モータの制動トルクの特性を基に、前記電気式ブレーキ装置による制動距離が閾値以下となる安全車速を算出する安全車速算出部と、前記勾配情報、積載量情報、路面摩擦情報、車速情報、及び予め与えられた前記電動モータの制動トルクの特性を基に、前記電気式ブレーキ装置による減速度が閾値以下となる減速度限界車速を算出する減速度限界車速算出部と、前記情報取得部で取得された車速情報を前記安全車速及び前記減速度限界車速と比較した結果を基に、設定距離以内で前記電気式ブレーキ装置により停止できるか否かを判定する車速判定部と、前記車速判定部の判定結果を基に、注意喚起又はブレーキ操作を促す報知動作を報知装置に指示する報知指示部と、アクセルペダルとブレーキペダルの操作量を基に報知の設定を判定するオペレータ操作判定部と、前記車速判定部及び前記オペレータ操作判定部の判定結果を基に前記報知指示部に報知動作の設定を出力する論理積算出部とを備えたことを特徴とする。
【0008】
第2の発明は、原動機により駆動される交流発電機と、前記交流発電機により電力が供給されて駆動する走行用の電動モータとを有し、前記電動モータで発生するトルクを用いた電気式ブレーキ装置によって制動する電気駆動式の作業車両に用いる制動距離抑制装置において、勾配情報、積載量情報、路面摩擦情報、車速情報を取得する情報取得部と、前記勾配情報、積載量情報、路面摩擦情報、車速情報、及び予め与えられた前記電動モータの制動トルクの特性を基に、前記電気式ブレーキ装置による制動距離が閾値以下となる安全車速を算出する安全車速算出部と、前記勾配情報、積載量情報、路面摩擦情報、車速情報、及び予め与えられた前記電動モータの制動トルクの特性を基に、前記電気式ブレーキ装置による減速度が閾値以下となる減速度限界車速を算出する減速度限界車速算出部と、前記減速度限界車速及び前記安全車速を指示する車速指示部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、状況に応じて制動距離の増大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態に係る制動距離抑制装置の機能ブロック図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る制動距離抑制装置に備えられた減速度限界車速算出部の機能ブロック図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る制動距離抑制装置に備えられた安全車速算出部の機能ブロック図である。
図4】本発明の第1実施形態に係る制動距離抑制装置で用いられる制動距離閾値テーブルの例を表した図である。
図5】本発明の第1実施形態に係る制動距離抑制装置に備えられた車速判定部による判定条件の一例を表した図である。
図6】本発明の第1実施形態に係る制動距離抑制装置に備えられたオペレータ操作判断手段による判定条件の一例を表した図である。
図7】本発明の第2実施形態に係る制動距離抑制装置の機能ブロック図である。
図8】本発明の第2実施形態に係る制動距離抑制装置に備えられた非電気式ブレーキ制動距離算出部の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係る制動距離抑制装置の機能ブロック図である。
図1に示した制動距離抑制装置は、原動機により駆動される交流発電機と、この交流発電機から供給される電力で駆動する少なくとも2つの(例えば後輪を駆動する)走行用の電動モータとを有し、電動モータで発生するトルクを用いた電気式ブレーキ装置によって制動するダンプトラック等の電気駆動式の作業車両に用いるものである。この制動距離抑制装置は、主な構成要素として、情報取得部1〜4及び10〜13と、減速度限界車速算出部5と、安全車速算出部9と、車速判定部8と、オペレータ操作判定部14と、論理積算出部15と、車速指示部16と、報知指示部17と、通信指示部18とを備えている。これら要素について順次説明していく。
【0015】
1.情報取得部1〜4,10〜13
情報取得部1〜4は、それぞれ路面摩擦情報、勾配情報、積載情報、及び車速情報を取得する手段である。情報取得部10〜13は、それぞれアクセルペダル操作量、電気式ブレーキペダル操作量、非電気式ブレーキペダル操作量、時間を取得する手段である。
【0016】
路面摩擦情報を取得する情報取得部1には、例えば、車両の駆動輪と受動輪の回転数をそれぞれ検出し、回転数の差からすべり率を演算し、演算結果から路面摩擦情報を推定する装置を適用することができる。路面の勾配情報を取得する情報取得部2には、車載の加速度センサ出力値と車速の微分値との差を取り、重力加速度の勾配と平行な方向成分を演算し、演算結果から勾配情報を推定する装置(例えば特開昭63−117211号公報に詳しい)や、車体に取り付けた加速度センサ値と車体を駆動するモータのトルク値から運動方程式を基に演算を行い、勾配情報を推定する装置(例えば特開2010−047237号公報に詳しい)等を適用することができる。積載量情報を取得する情報取得部3には、対象とする電気駆動式の作業車両の車体に搭載した歪ゲージ等から積載物による車体構造の変化を検知し、積載量情報を推定する装置や、前輪後輪の車軸にかかる荷重を検知し、積載量情報を推定する装置等を適用することができる。車速情報を取得する情報取得部4には、車輪の回転数を検出し車速情報を算出する装置、ドップラー効果を利用したセンサで車体と路面との相対速度を検出する装置等を適用することができる。
【0017】
アクセルペダル操作量を取得する情報取得部10には、例えば、作業車両の運転室に搭載したアクセルペダル(不図示)のポテンショメータ等の出力を基にアクセルペダルの踏み込み量を演算する装置を適用することができる。電気式ブレーキペダルを取得する情報取得部11には、例えば、上記運転室に搭載した電気式ブレーキ装置(不図示)のペダルに設けたポテンショメータ等の出力を基に電気式ブレーキペダルの踏み込み量を演算する装置を適用することができる。非電気式ブレーキペダルを取得する情報取得部12には、例えば、上記運転室に搭載した非電気式ブレーキ装置(例えば油圧式ブレーキ装置、機械式ブレーキ装置、排気式ブレーキ装置のうちの少なくとも1つを組み合わせたブレーキ装置)のペダルに設けたポテンショメータ等の出力を基に非電気式ブレーキペダルの踏み込み量を演算する装置を適用することができる。時間を取得する情報取得部13には、例えば、タイマ(不図示)の時刻情報を基にある時刻からある時刻までの計時時間を演算する装置を適用することができる。
【0018】
2.減速度限界車速算出部5
減速度限界車速算出部5は、情報取得部1〜4で取得した情報(勾配情報、積載量情報、路面摩擦情報、車速情報)及び予め与えられた電動モータの制動トルクの特性を基にモータトルクを算出し、算出したモータトルクより減速度限界車速を算出する機能部である。減速度限界車速とは、電動モータを用いた電気式ブレーキによる作業車両の減速度が閾値以下となるための限界車速、つまりこれ以上速いと電気式ブレーキによる減速度が閾値を超える車速である。
【0019】
減速度限界車速算出部5においては、次の式1に従って減速度限界車速が算出される。
2F=Ma−μMgcosθ−Mgsinθ…(式1)
ここで、Fは左右の電動モータのトルクが同じと仮定した場合の片輪のモータトルク、Mは車体重量と積載量を加算した車体総重量、aは減速度閾値、μは路面摩擦係数、θは路面の勾配、gは重力加速度である。
【0020】
図2は減速度限界車速算出部5の機能ブロック図である。
図2を用いて式1に準ずる減速度限界車速の算出手順と併せて減速度限界車速演算部5の構成を説明する。
減速度限界車速算出部5は、記憶部30,32〜34,36,40と、加算部31,35と、乗算部37,39と、減算部38とを備えている。記憶部30には車体重量値が、記憶部32には減速度閾値(設定値)が、記憶部33にはcosテーブルが、記憶部34にはsinテーブルが、記憶部36には重力加速度値が、記憶部40にはトルク−車速テーブル(電動モータの制動トルクの特性)がそれぞれ記憶されている。
【0021】
この減速度限界車速算出部5は、まず記憶部30から読み出した車体重量値と情報取得部3から入力された積載量情報とを加算部31により加算し、車体総重量を算出する。
【0022】
これと並行して、減速度限界車速算出部5は、記憶部33から読み出したcosテーブルを使用して、情報取得部1から入力された路面摩擦情報を基に算出した値と、記憶部34から読み出したsinテーブルを使用して、情報取得部2から入力された勾配情報から算出した値とを加算部35によって加算する。減速度限界車速算出部5は、加算部35で算出した値に記憶部36から読み出した重力加速度値を乗算部37によって乗算し、記憶部32から読み出した減速度閾値から乗算部37で算出した値を減算部38で減算する。
【0023】
そして、減速度限界車速算出部5は、加算部31で算出した値と減算部38で算出した値とを乗算部39で乗算し、作業車両の制動時の減速度と減速度閾値が等しくなるモータトルク値を算出する。最後に、減速度限界車速算出部5は、記憶部40に記憶されたトルク−車速テーブルを参照し、乗算部39で算出したモータトルク値から減速度限界車速を算出し出力する。
【0024】
3.安全車速算出部9
安全車速算出部9は、情報取得部1〜4で取得した情報(勾配情報、積載量情報、路面摩擦情報、車速情報)及び予め与えられた電動モータの制動トルクの特性を基に安全車速を算出する機能部である。安全車速とは、作業車両の電動モータによる制動距離が閾値以下となる車速、つまりこれ以上速いと電気式ブレーキによる制動距離が閾値を超える車速である。この安全車速は、減速度限界車速よりも遅い速度である。
【0025】
図3は安全車速算出部9の機能ブロック図である。
図3を用いて安全車速の算出手順と併せて安全車速算出部9の構成を説明する。
安全車速算出部9は、記憶部30,33,34,36,50,51,56,57,66,70と、比較部52,53,67と、論理積算出部54と、判断部55,68と、加算部58,62,65と、除算部61と、積分部63,64と、安全車速出力部69,71とを備えている。記憶部30には車体重量値が、記憶部33にはcosテーブルが、記憶部34にはsinテーブルが、記憶部36には重力加速度値が、記憶部50には前回の安全車速の算出に用いた積載量情報が、記憶部51には前回の安全車速の算出に用いた勾配情報が、記憶部56には初期車速値(0km/h)が、記憶部57には車速−制動トルクテーブル(電動モータの制動トルクの特性)が、記憶部66には制動距離閾値テーブル(路面摩擦−制動距離閾値テーブル)が、記憶部70には前回算出した安全車速がそれぞれ記憶されている。なお、記憶部30,33,34,36は減速度限界車速算出部5と共用であるが、減速度限界車速算出部5のものとは別に安全車速算出部9専用のものを別途設けても良い。
【0026】
安全車速算出部9は、まず情報取得部3から入力された積載量情報と、記憶部50から読み出した前回の安全車速算出時の積載量情報とを比較部52において比較する。同時に、安全車速算出部9は、情報取得部2から入力された勾配情報と、記憶部51から読み出した前回の安全車速算時の勾配情報とを比較部53において比較する。安全車速算出部9は、比較部52,53の比較結果から論理積算出部54において論理積を算出し、論理積算出部54で算出した論理積を判定条件に用いて判断部55において安全車速の計算が必要か否かを判断する。
【0027】
判断部55における判定条件は、今回入力された積載量情報と前回の積載量情報が等しく、なおかつ今回入力された勾配情報と前回の勾配情報が等しいことである。判断部55で判定条件が満たされた場合(今回と前回の積載量情報が等しく、かつ今回と前回の勾配情報が等しい場合)には、安全車速算出部9は、安全車速の計算を実行せず、記憶部70から前回算出した安全車速を読み出して安全車速出力部71を介して出力する。反対に、判断部55で判定条件が満たされない場合(今回と前回の積載量情報が異なる、今回と前回の勾配情報が異なる、又はその双方の場合)には、安全車速算出部9は、次のようにして安全車速を計算して出力する。なお、当然ながら、初回計算時には判定部55の判定は不満足となる。
【0028】
安全車速を計算する場合、安全車速算出部9は、まず記憶部56から初期車速値を読み出し、記憶部57に記憶された制動トルクテーブルを参照して初期車速値からモータトルクを算出する。なお、この計算は初回算出時のみ初期車速値を使用するものとし、2回目以降の再計算時はΔt秒前の車速vtを使用する。Δtは、例えば安全車速の算出周期、或いは設定時間である。また、安全車速算出部9は、情報取得部3から入力された積載量情報と記憶30から読み出した車体重量とを加算部58において加算して車体総重量を算出する。その後、安全車速算出部9は、除算部61において記憶部57で算出されたモータトルクで車体総重量を除算する。また、安全車速算出部9は、記憶部33から読み出したcosテーブルを使用して情報取得部1から入力された路面摩擦情報を基に算出した値と、記憶部34から読み出したsinテーブルを使用して情報取得部2から入力された勾配情報を基に算出した値とを加算部59により加算する。さらに、安全車速算出部9は、加算部59で算出した値と記憶部36から読み出した重力加速度値とを乗算部60によって乗算する。その後、安全車速算出部9は、除算部61で算出した値と乗算部60で算出した値とを加算部62において加算する。加算部62で求める値は作業車両の減速度である。
【0029】
次いで、安全車速算出部9は、加算部62で算出した値を積分部63において時間Δtで積分してΔt秒前の車速vtを算出し、積分部63で算出した車速vtを積分部64においてさらに時間Δtで積分してΔt秒間の移動距離を算出する。Δt秒間の移動距離は、後述するように判断部68(後述)における判断時に制動距離が閾値より大きくなるまで積分部64において繰り返し算出されるが、繰り返し算出したΔt秒間の移動距離は加算部65で全て加算される。加算部65で算出される値が、積分部63で算出した車速vtでの制動距離となる。
【0030】
その一方でまた、安全車速算出部9は、記憶部66に記憶された制動距離閾値テーブルを参照し、情報取得部1から入力された路面摩擦情報を基に路面摩擦情報に応じた制動距離閾値を算出する。記憶部66に記憶された制動距離閾値テーブルは、図4に示すように、路面摩擦係数が低い場合に車輪のロックにより制動距離が長めになることを考慮し、路面摩擦係数が低い場合に制動距離の閾値が低くなるように設定されている。
【0031】
その後、安全車速算出部9は、加算部65で算出した車速vtでの制動距離と記憶部66で算出した制動距離閾値とを比較部67で比較し、判断部68において車速vtでの制動距離が制動距離閾値より大きいかどうかを判定する。車速vtでの制動距離が制動距離閾値以下であると判断部68で判断された場合、安全車速算出部9は、記憶57に記憶されている制動トルクテーブルを参照し、積分部63で算出した車速vtを基に車速vtでのモータ制動トルクを算出し、除算部61、加算部62、積分部63,64、加算部65、記憶部66、比較部67及び判断部68を用いた上記処理を再度実行する。反対に車速vtでの制動距離が制動距離閾値より大きいと判断部68で判断された場合、安全車速算出部9は、積分部63で算出した車速vtを安全車速として安全車速出力部69を介して出力する。
【0032】
4.車速判定部8
図1において、車速判定部8は、情報取得部4で取得された車速情報を安全車速及び減速度限界車速と比較した結果を基に、設定距離以内で電動モータの制動トルクにより作業車両が停止できるか否かを判定する機能部である。車速判定の手順について説明する。
【0033】
まず、図2で説明したように減速度限界車速算出部5から出力された減速度限界車速に対して、情報取得部4から入力された車速情報が比較部6で比較される。また、図3で説明したように安全車速算出部9から出力された安全車速に対して、情報取得部4から入力された車速情報が比較部7で比較される。車速判定部8では、これら比較部6,7の比較結果を基に設定距離以内で電動式ブレーク装置のみで作業車両が停止できるか否かが判定され、図5に例示したように報知1,2の設定(ON/OFF)が判定される。報知1とは、電動モータの制動トルクのみによって設定距離以内で作業車両を停止させられなくなる恐れがある状況下でその旨をオペレータに報知することであり、制動操作について注意喚起を促すメッセージである。報知2とは、電動モータの制動トルクを利用した電気式ブレーキのみでは作業車両を設定距離以内で停止させることが困難な状況下で非電気式ブレーキ装置の積極的な操作を促すメッセージである。
【0034】
図5に示した例では、車速情報が安全車速未満である場合、車速判定部8は、制動距離が十分に抑えられていて電動モータの制動トルクのみによって設定距離以内で作業車両を停止させることができると判定し、報知1,2の設定をともにOFFと判定する。車速情報が減速度限界車速未満であるものの安全車速以上である場合、車速判定部8は、制動距離が増大しつつあって電動モータの制動トルクのみによって設定距離以内で作業車両を停止させられなくなる恐れがあると判定し、報知1の設定をON(報知2の設定はOFF)と判定する。さらに、車速情報が減速度限界車速以上である場合、安全車速算出部9は、電動モータの制動トルクを利用した電気式ブレーキのみでは作業車両を設定距離以内で停止させることは著しく困難な状況であると判定し、報知2の設定をON(報知1の設定はOFF)と判定する。
【0035】
5.オペレータ操作判定部14
オペレータ操作判定部14は、情報取得部10〜13からそれぞれ入力されるアクセルペダル操作量、電気式ブレーキペダル操作量、非電気式ブレーキペダル操作量及びこれらペダルの操作継続時間を基に報知1,2の設定(ON/OFF)を図6に例示したように判定する。
【0036】
図6に示した例では、アクセルペダル操作量が設定の対応する閾値未満の場合には報知1,2の設定はともにONと判定される。アクセルペダル操作量が閾値以上の場合も原則的に報知1,2の設定はともにONと判定されるが、その後アクセルペダルの操作量が閾値以上のまま操作継続時間が設定時間tに到達したときには、アクセルペダルが閾値以上の操作量で継続して操作されている間、オペレータが意図的に作業車両を加速させていると判断され、例外的に報知1,2の設定はともにOFFと判定される。
【0037】
電気式ブレーキペダル操作量が設定の対応する閾値未満の場合には報知1,2の設定はともにONと判定される。電気式ブレーキペダル操作量が閾値以上の場合には、オペレータに減速の意思があると判断されて報知1の設定はOFFと判定されるが、電気式ブレーキのみでは停止が困難である可能性を考慮して操作量に関わらず報知2の設定はONと判定される。
【0038】
非電気式ブレーキペダル操作量が設定の対応する閾値未満の場合には報知1,2の設定はともにONと判定される。非電気式ブレーキペダル操作量が閾値以上の場合にはオペレータに車両停止の意思があると判断され、報知1,2の設定はともにOFFと判定される。
【0039】
アクセルペダル、電気式ブレーキペダル、非電気式ブレーキペダルのうち複数のペダルが操作されている場合には、操作されているペダルのうち優先度が高いペダルの操作量で報知1,2の設定が判定される。優先度は、図6に示した数値が小さい順に高く、この例では非電気式ブレーキペダルの操作量が判定の基礎として最優先され、次いで電気式ブレーキペダルの操作量、アクセルペダルの操作量の順で優先される。
【0040】
6.論理積算出部15
論理積算出部15は、車速判定部8及びオペレータ操作判定部14の判定結果を基に報知指示部17に報知動作の設定を出力する機能部である。論理積算出部15から出力される報知動作の設定は、車速判定部8で判定された報知1,2の設定(ON/OFF)、及びオペレータ操作判断部14で判定された報知1,2の設定(ON/OFF)の論理積であり、報知1,2のうち車速判定部8及びオペレータ操作判定部14の双方で設定がONと判定されているもののみの設定をONとする。
【0041】
例えば、安全車速以上減速度限界車速未満の場合、アクセルペダルが操作されているとき(時間t以上継続してペダル操作量が閾値以上であるときを除く)、若しくは電気式ブレーキ装置又は非電気式ブレーキ装置が操作されているとしてそのペダル操作量が閾値未満であるとき、報知1をONにして制動距離が延びていることをオペレータに知らせることによって注意喚起する。また、例えば減速度限界車速以上の場合、アクセルペダルが操作されているとき(時間t以上継続してペダル操作量が閾値以上であるときを除く)、電気式ブレーキ装置が操作されているとき、若しくは非電気式ブレーキ装置が操作されているとしてそのペダル操作量が閾値未満であるとき、報知2をONにして非電気式ブレーキ装置を踏み込む(閾値以上のペダル操作量で操作する)ように警告する。言うまでもないが、車速判定部8及びオペレータ操作判定部14の少なくとも一方が報知1の設定をOFFと判定している場合には、論理積算出部15から出力される報知1の設定はOFFであり、車速判定部8及びオペレータ操作判定部14の少なくとも一方が報知2の設定をOFFと判定している場合には、論理積算出部15から出力される報知2の設定はOFFである。従って、図5に示した通り、車速情報が安全車速未満である場合には報知1,2の設定は必然的にOFFになり、報知1の設定がONとなり得るのは車速情報が安全車速以上で減速度限界車速未満の場合のみであり、報知2の設定がONとなり得るのは車速情報が減速度限界車速以上の場合のみである。
【0042】
7.車速指示部16
車速指示部16は、減速度限界車速算出部5で算出した減速度限界車速、及び安全車速算出部9で算出した安全車速を基に、出力装置(不図示)に対して減速度限界車速及び安全車速を指示する機能部である。出力された減速度限界車速及び安全車速は、オペレータの運転操作の参考となる。出力装置による出力態様は特に限定されず、ディスプレイへの表示出力の他、スピーカーへの音声出力等も適用可能である。
【0043】
8.報知指示部17
報知指示部17は、車速判定部8の判定結果を基に、注意喚起又はブレーキ操作を促す報知動作(報知1/報知2/報知なし)を報知装置(不図示)に指示する機能部である。本実施形態においては、前述した通り車速判定部8及びオペレータ操作判定部14の判定結果を基に論理積算出部15で報知1,2のON/OFFが判定されるため、報知指示部17から出力される指示信号は、車速判定部8のみならずオペレータ操作判定部14の判定結果も加味されている。報知の態様は特に限定されず、音声出力の他、表示出力等も適用可能であり、報知装置の態様には例えばブザーやディスプレイを用いることができる。
【0044】
9.通信指示部18
通信指示部18は外部端末(PC等、不図示)と通信するための機能部であり、情報取得部4で取得した車速情報、減速度限界車速算出部5で算出した減速度限界車速、安全車速算出部9により算出した安全車速、論理積算出部15によって算出した報知1,2の設定等の情報を外部端末に送信する機能を有する。通信指示部18によって外部端末にそれら情報を送信することにより、制動距離が閾値を超えて増大した頻度等を管理することができる。
【0045】
10.効果
本実施形態によれば、情報取得部1〜4で取得された車速情報を基に、現在の路面摩擦状態、勾配、積載量及び車速に応じた安全車速及び減速度限界車速を算出することにより、これら安全車速及び減速度限界車速との比較によって設定距離以内で電気式ブレーキ装置のみで作業車両を停止させられるか否かを判定することができる。安全車速や減速度限界車速は、オペレータが任意に設定した値ではなく、その時々で車速、積載量、路面情報等を加味して随時算出される値であるため、設定距離以内で電気式ブレーキ装置のみで作業車両を停止させられるか否かの判定の基礎としての信頼性は高い。制動距離増大を安全車速や減速度限界車速から判断することで、気付かぬ間に制動距離が増加してしまうという事態の回避に寄与することができ、状況に応じて制動距離の増大を抑制することができる。
【0046】
また、車速判定部8の上記判定結果を基に、車速が減速度限界車速未満であるものの安全車速を超えていて制動距離が延びてきていると判断された場合には注意喚起を促す報知動作(報知1)、車速が減速度限界車速を超えて電気式ブレーキ装置では作業車両を停止させることが難しい状況であると判断された場合にはブレーキ操作を促す報知動作(報知2)を報知装置に指示することにより、オペレータに現在の状況を知らせて適切な運転操作を促し、危険な運転状態に陥ることを未然に抑制することができる。
【0047】
また、車速判定部8の判定結果に応じて報知装置に報知の指示をするに当たって、本実施形態では、オペレータ操作判定部14によりアクセルペダルとブレーキペダルの操作状況を判定し、論理積算出部15においてオペレータ操作判定部14による報知の設定の判定結果を加味することで、車速や積載量、路面情報のみならずオペレータの現在の操作状況も加味して報知の要否及び報知の種類を判断することができる。これにより、判定結果の妥当性の向上が期待できる。
【0048】
また、車速指示部16によって現在の状況に応じた減速度限界車速及び安全車速をオペレータに指示する(知らせる)ことにより、オペレータは状況に応じて変動する制動距離を知ることで制動距離の増大を抑制することができ、例えば車速が安全車速を超えそうになったらアクセル操作を控える等して安全車速以下の走行に注力することができる。
【0049】
また、通信指示部18によって外部端末に情報を送信することによって外部端末で複数の作業車両の運転データを集中管理することができ、例えばオペレータ毎に安全車速や減速度限界車速を超える頻度や運転傾向を管理し、問題のあるオペレータに対して注意喚起や警告を行うといったことも可能となる。この点も制動距離増大の抑制に寄与し得る。
【0050】
(第2実施形態)
図7は本発明の第2実施形態に係る制動距離抑制装置の機能ブロック図である。
本実施形態に係る制動距離抑制装置が第1実施形態に係る制動距離抑制装置と相違する点は、ブレーキ装置の制御機能を更に備えた点である。本実施形態に係る制度距離抑制装置は、第1実施形態に係る制動距離抑制装置を構成する要素に加え、情報取得部80,81、非電気式ブレーキ制動距離算出部82、非電気式ブレーキ制御部86及び電気式ブレーキ制御部87を備えている。第1実施形態と同様の要素についての説明は省略し、これら追加要素について順次説明していく。
【0051】
1.情報取得部80,81
情報取得部80,81は、それぞれ制御車速情報及び車速制御可否情報を取得する手段である。情報取得部80,81で取得した情報は、いずれも電気式ブレーキ制御部87による車速制御の基礎となる。情報取得部80,81には、運転席に設置する入力装置を用いることができ、本実施形態ではオペレータのボタン操作によって制御車速及び車速制御可否情報(車速制御機能のON/OFF)が入力設定されることとする。
【0052】
2.非電気式ブレーキ制動距離算出部82
非電気式ブレーキ制動距離算出部82は、情報取得部1〜4から入力された路面摩擦情報、勾配情報、積載量情報及び車速情報を基に、式2で表される制動特性に従って減速度を算出し、算出した減速度から非電気式ブレーキ装置による制動距離を算出する。
【0053】
mec=Fmec/M+μgcosθ+gsinθ…(式2)
mecは減速度、Fmecは非電気式ブレーキを使用した際の制動力、Mは車体総重量、μは路面摩擦係数、θは路面勾配、gは重力加速度である。
【0054】
図8は非電気式ブレーキ制動距離算出部82の機能ブロック図である。式2に準じた制動距離の算出手順について図8を用いて説明する。
図8に示したように、非電気式ブレーキ制動距離算出部82は、記憶部30,33,34,36,93、加算部90,91,95、乗算部92,96,97、及び除算部94,98を備えている。記憶部93には、非電気式ブレーキ装置による制動力の情報が記憶させてある。記憶部30,33,34,36については、安全車速算出部9や減速度限界車速算出部5と共用であるが、非電気式ブレーキ制動距離算出部82専用のものを別途設けても良い。
【0055】
非電気式ブレーキ制動距離算出部82は、まず、情報取得部3から入力された積載量情報と記憶部30から読み出した車体重量値とを加算部90によって加算し、車体総重量を算出する。また、非電気式ブレーキ制動距離算出部82は、記憶部33から読み出したcosテーブルを使用して、情報取得部1から入力された路面摩擦情報から算出した値と、記憶部34から読み出したsinテーブルを使用して、情報取得部2から入力された勾配情報から算出した値を加算部91によって加算する。非電気式ブレーキ制動距離算出部82は、加算部91で算出した値に記憶部36から読み出した重力加速度値を乗算部92によって乗算する。
【0056】
次に、非電気式ブレーキ制動距離算出部82は、除算部94によって、記憶部93から読み出した非電気式ブレーキ装置による制動力を加算部90で算出した値で除算する。非電気式ブレーキ制動距離算出部82は、乗算部92及び加算部95でそれぞれ算出した値を加算部95によって加算することにより減速度を算出する。
【0057】
次いで、非電気式ブレーキ制動距離算出部82は、加算部95により算出した減速度を用いて式3に従って制動距離を算出する。
【0058】
L=v/2amec…(式3)
Lは制動距離、vは現在の車体の車速である。制動距離の具体的算出方法としては、加算部95により算出した値を乗算部96により2倍する。そして、情報取得部4から入力された車速情報を乗算部97で2乗し、除算部98において、乗算部97で算出した値を乗算部96で算出した値で除算して制動距離を算出する。非電気式ブレーキ制動距離算出部82は、こうして制動距離を算出して出力する。
【0059】
3.非電気式ブレーキ制御部86
非電気式ブレーキ制御部86は、安全車速算出部9で算出した安全車速と非電気式ブレーキ制動距離算出部82で算出した非電気式ブレーキ制動距離とを基に、必要な場合に制動制御信号を生成し非電気式ブレーキ装置(不図示)に出力することにより非電気式ブレーキ装置を自動的に制御する機能部である。本実施形態における非電気式ブレーキ装置の具体的制御手順は次の通りである。
【0060】
まず、非電気式ブレーキ制動距離算出部82で算出された非電気式ブレーキによる制動距離は比較部85に入力され、比較部85では、この制動距離の値が記憶部84から読み出された非電気式ブレーキ装置による制動距離に対して設定された閾値と比較される。非電気式ブレーキ制御部86には、非電気式ブレーキ装置による制動距離の値が比較部85の比較結果として入力される。非電気式ブレーキ制動距離算出部82にはまた、比較部85の出力の他、安全車速算出部9で算出された安全車速の値、及び論理積算出部15から出力された報知の設定が入力される。非電気式ブレーキ制御部86は、比較部85及び論理積算出部15の出力を基に非電気式ブレーキ装置の制御が必要であるか否かを判定し、必要と判定した場合に非電気式ブレーキ装置に制御信号を出力して非電気式ブレーキ装置を制御し、安全車速算出部9で算出した安全車速まで作業車両を減速させる。非電気式ブレーキ装置の制御が必要な場合とは、非電気式ブレーキ制動距離算出部82で算出した制動距離がその閾値よりも大きく、なおかつ論理積算出部15からの入力において報知2の設定がONであるという条件を満足する場合である。言い換えれば、この条件が満たされない場合には非電気式ブレーキ制御部86による非電気式ブレーキ装置の制御は実行されない。
【0061】
4.電気式ブレーキ制御部87
電気式ブレーキ制御部87は、安全車速算出部9で算出した安全車速と情報取得部80から入力された制御車速とから目標車速を選択し、電気式ブレーキ装置を制御して(電動モータのトルクを制御して)作業車両の車速を目標車速に近付ける機能部である。本実施形態における電気式ブレーキ装置の具体的制御手順は次の通りである。
【0062】
まず、情報取得部80で設定された制御車速の値は比較部83に入力され、比較部83では、この制御車速の値が安全車速算出部9で算出した安全車速と比較される。電気式ブレーキ制御部87には、比較部83の出力の他、情報取得部81で設定された車速制御可否情報が入力される。電気式ブレーキ制御部87は、比較部83の比較結果及び車速制御可否情報を基に電気式ブレーキ装置に制御信号(電動モータへのトルク制御信号)を出力して電気式ブレーキ装置を制御し、必要な場合に作業車両を目標車速まで減速させる。電気式ブレーキ装置の制御が必要な場合とは、情報取得部81から入力された車速制御可否情報において車速制御機能の設定がON(入)になっている場合である。言い換えれば、車速制御機能の設定がOFF(切)になっている場合には電気式ブレーキ制御部87による電気式ブレーキ装置の制御は実行されない。また、目標車速とは、制御車速と安全車速のうち値の低い方の車速である。
【0063】
5.効果
本実施形態においても安全車速算出部9、減速度限界車速算出部5、オペレータ操作判定部14、論理積算出部15、車速指示部16、報知指示部17、通信指示部18等の働きによって第1実施形態と同様の効果を得ることができる。この他、本実施形態においては次の効果が得られる。
【0064】
本実施形態においては、非電気式ブレーキ制御部86を追加して設け、非電気式ブレーキ制動距離の産出地を基に非電気式ブレーキ装置による制動の要否を判定し、必要と判定された場合に非電気式ブレーキ装置を制御して安全車速に車速を近付ける構成とした。これにより、オペレータによるブレーキ操作が適切に行われていない場合でも、現状の走行状態に応じた安全車速を目標にして車速を制御し、制度距離の増大を抑制することができる。
【0065】
電気式ブレーキ制御部87を設け、安全車速と制御車速とから目標車速を選択し、電動モータのトルクを制御して前記目標車速に車速を近付ける構成とした。これにより、オペレータが制御車速を設定して制御車速を車速の上限にして電気式ブレーキ装置を自動制御する場合、例えば状況変化によって制御車速では速すぎて安全性を欠く場面になったとしても、このような場面では安全車速が目標車速となって電気式ブレーキ装置が自動的に制御されるため、状況に応じて制動距離の増大を抑制することができる。
【0066】
(その他)
以上においては、車速判定部8、車速指示部16の双方を備えた場合を例に挙げて説明したが、車速判定部8による制動距離の状態判定、車速指示部16による安全車速の報知は、それぞれ単独でも制動距離の増大抑制の効果が期待できる。従って、いずれかを省略しても制動距離の増大抑制の効果が期待できる。車速判定部8を省略する場合、その判定結果を用いる報知指示部17等を省略することも可能である。また、報知指示を実行する場合に車速判定部8及びオペレータ操作判定部14の双方の判定結果の論理積を用いる場合を例に挙げて説明したが、安全車速に基づいてブレーキ操作の注意喚起を行う限りにおいては、オペレータの操作状況は必ずしも加味する必要はなく、場合によってはオペレータ操作判定部14及び論理積算出部15は省略することもできる。
【0067】
第2実施形態において、非電気式ブレーキ制御部86及び電気式ブレーキ制御部87の双方を備えた場合を例示して説明したが、非電気式ブレーキ制御部86及び電気式ブレーキ制御部87の機能はいずれも単独で制動距離の増大抑制の効果が期待できるものである。従って、第2実施形態において非電気式ブレーキ制御部86及び電気式ブレーキ制御部87のいずれかを省略しても制動距離の増大抑制の効果が期待できる。非電気式ブレーキ制御部86及び電気式ブレーキ制御部87のいずれかを備える場合には、車速判定部8、車速指示部16の少なくとも一方を省略することもできる。
【0068】
また、第2実施形態において減速度限界車速算出部5を備えた場合を例に挙げて説明したが、減速度限界車速は電気式ブレーキ制御部87では用いられないため、電気式ブレーキ制御部87の機能により制動距離の増大の抑制を図り、車速判定部8、オペレータ操作判定部14、論理積算出部15、車速指示部16、報知指示部17、通信指示部18、非電気式ブレーキ制御部86の各機能の一部又は全部を省略する場合には、減速度限界車速算出部5も省略することができる。
【符号の説明】
【0069】
1−4 情報取得部
5 減速度限界車速算出部
8 車速判定部
9 安全車速算出部
14 オペレータ操作判定部
15 論理積算出部
16 車速指示部
17 報知指示部
82 制動距離算出部
86 非電気式ブレーキ制御部
87 電気式ブレーキ制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8