特許第6294785号(P6294785)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294785
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】歯科用硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/083 20060101AFI20180305BHJP
   A61K 6/027 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   A61K6/083 500
   A61K6/027
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-158167(P2014-158167)
(22)【出願日】2014年8月1日
(65)【公開番号】特開2016-34920(P2016-34920A)
(43)【公開日】2016年3月17日
【審査請求日】2017年2月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】定金 祐司
(72)【発明者】
【氏名】笠場 秀人
(72)【発明者】
【氏名】宮田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】木本 勝也
(72)【発明者】
【氏名】中塚 稔之
【審査官】 常見 優
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−203865(JP,A)
【文献】 特開2003−095836(JP,A)
【文献】 特開2011−068596(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/176877(WO,A1)
【文献】 国際公開第2002/034207(WO,A1)
【文献】 特開昭56−020066(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00− 6/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)25℃における粘度が10,000〜17,000mPa・sであるマトリックスレジン、
(b)有機無機複合フィラー、
(c)無機フィラー、および
(d)重合開始材
を含有する歯科用硬化性組成物であって、
(a)マトリックスレジンが、25℃における粘度が100mPa・s以下である低粘度重合性単量体をさらに含有し、該低粘度重合性単量体の含有量が、該マトリックスレジン100重量%に対して、0.01重量%以上10重量%以下であり、かつ
歯科用硬化性組成物100重量%に対する有機無機複合フィラーと無機フィラーの合計含有量が75重量%以上である該組成物
【請求項2】
歯科用硬化性組成物100重量%に対する有機無機複合フィラーの含有量が15〜35重量%である請求項1に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項3】
50℃にて1ヶ月保存した後における歯科用硬化性組成物の稠度の維持率が85%以上であることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の歯科用硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、齲蝕や破折等により生じた歯牙の欠損を修復するための歯科用硬化性組成物に関するものである。さらに詳しくは臼歯部修復に適したペースト性状で形態付形性に優れ、またペースト性状の保存安定性も有し、さらに低重合収縮性をも有する歯科用硬化性組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯科臨床において、齲蝕や破折等により生じた歯牙の欠損に対して審美的および機能的回復を行うために、歯科充填用コンポジットレジンとも称される歯科用硬化性組成物が用いられている。一般に歯科用硬化性組成物は、数種類の重合性単量体からなるマトリックスレジンと、無機フィラーおよび有機無機複合フィラー等の各種充填材と、重合触媒とを混合し、ペースト状とすることで調製される。
【0003】
歯科用硬化性組成物に求められる要件として、高い機械的特性、天然歯類似の色調および光透過性に加え、歯科医師が充填操作を行う際の操作性に優れること等が挙げられる。この操作性について詳述すると、窩洞への填入時や歯牙の形態を再現するための付形時においてペーストが充填器に付着しにくいことが好ましく、さらに前歯部修復では伸びのあるペースト性状が、一方臼歯部修復においては適度にコシ感のあるペースト性状が好まれる傾向にある。また歯科用硬化性組成物は重合硬化時に収縮するため、それに起因して歯質との接着界面に応力が掛かり、ギャップが生じることで術後疼痛を引き起こす危険がある。特に臼歯部においては高い咬合圧が掛かるためにその危険は高まる。このことから低重合収縮性も歯科用硬化性組成物に求められる重要な要件である。
【0004】
臼歯部修復において好まれるコシ感のあるペースト性状を発現させる手法として、平均粒子径が0.1〜5μm程度の無機フィラーをマトリックスレジンに高充填する手法が挙げられる。しかし、この粒子径の無機フィラーは表面積が大きいために高充填することが困難である。その結果、無機フィラー含有量が少なくなり、マトリックスレジンの比率が高くなるために、歯科用硬化性組成物の重合硬化時における収縮が大きくなる。
【0005】
一方、特許文献1には有機無機複合フィラーに60℃における粘度が10Pa・s以下の重合性単量体をあらかじめ含浸させることで、経時的にペースト性状が硬くなることを抑制する技術が提案されている。しかし、この技術では重合性単量体の含浸工程が増えるため有機無機複合フィラーの作製が煩雑になるという課題があった。
【0006】
また、歯科用硬化性組成物に配合する充填材として、前述した無機フィラー以外に平均粒子径が数μm〜30μm程度の有機無機複合フィラーが用いられている。この有機無機複合フィラーは数nm〜0.5μm程度の無機フィラーとマトリックスレジンを混合し重合させた後、粉砕することで作製されるものである。一般に有機無機複合フィラーは、歯科用硬化性組成物に単独で配合するのではなく、前述の無機フィラーと共に配合される(特許文献2、3)。有機無機複合フィラーは、ペーストの粘着性を低減させることができること、マトリックスレジンに高充填が可能であることなどの利点を有している。
しかし、有機無機複合フィラーを配合した歯科用硬化性組成物は、マトリックスレジン中の重合性単量体が有機無機複合フィラーの有機質部分に吸着されることにより経時的にペースト性状が硬くなる傾向にあり、特にフィラー充填量を高くした場合において、よりその傾向が顕著になる。この現象はフィラー充填量を低下させて、あらかじめペースト性状を軟らかくすることである程度抑制することができる。しかし、この対応では臼歯部修復に適した付形性に優れたコシ感があるペースト性状を得ることができず、また重合収縮も大きくなるなどの問題も発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−98941号公報
【特許文献2】特公平7−91170号公報
【特許文献3】特許第3276388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来技術の課題を解消し、臼歯部修復に適したコシ感があり、かつ、充填器に付着しにくいペースト性状で形態付形性に優れ、また経時的なペースト性状の変化も少なく、さらに低重合収縮性を有する歯科用硬化性組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、歯科用硬化性組成物を構成しているマトリックスレジンの粘度及びそのマトリックスレジン中に含まれている重合性単量体の種類とその含有量等に注目し、それらが歯科用硬化性組成物を構成している有機無機複合フィラーに影響を与えることによって経時的なペースト性状の変化をもたらすことを明らかにした。その結果、以下の内容を見出し、本発明を完成させるに至った。
歯科用硬化性組成物を構成しているマトリックスレジンには高粘度の重合性単量体と低粘度の重合性単量体が一定の割合で混合されているが、その中でも低粘度の重合性単量体の混合割合を少なくし、かつ、マトリックスレジン自体の粘度を高くすることによって、フィラー充填量を高くした場合においても経時的なペースト性状の変化を抑制できることを見出した。
さらに歯科用硬化性組成物を構成している有機無機複合フィラーの製造に用いている数種類の重合性単量体の中から、少なくとも一種類を歯科用硬化性組成物を構成しているマトリックスレジンの成分として含有させることによって、高粘度のマトリックスレジンを用いているにも関わらず、フィラーとの馴染みが向上して高いフィラー充填量を達成できることを見出した。
これらの内容から本発明は臼歯部修復に適したペースト性状とそれを用いた形態付形性、及び低重合収縮性を有する歯科用硬化性組成物を得ることができたのである。
【0010】
すなわち、本発明は、
(a)25℃における粘度が10,000〜17,000mPa・sであるマトリックスレジン、
(b)有機無機複合フィラー、
(c)無機フィラー、および
(d)重合開始材
を含むことを特徴とする歯科用硬化性組成物に関する。
【0011】
本発明による歯科用硬化性組成物を用いることにより、経時的なペースト性状の変化を抑制できる。経時的なペースト性状の変化を抑制できる理由は次のように考えられる。すなわち、本発明に係るマトリックスレジンは粘度が高く、有機無機複合フィラーの有機質部分への吸着が抑制されるためと推察される。
また、本発明に係るマトリックスレジンは、25℃における粘度が100mPa・s以下である低粘度重合性単量体をさらに含有してもよく、該低粘度重合性単量体の含有量は、該マトリックスレジン100重量%に対して、例えば、0.01重量%以上10重量%以下である。
本発明による、低粘度重合性単量体を含有することにより、低粘度重合性単量体が有機無機複合フィラーの有機質部分に優先的に吸着され、さらに、高粘度のマトリックスレジンの有機無機複合フィラーの有機質部分への吸着が抑制されるため、経時的なペースト性状の変化を相乗的に抑制できるものと推察される。
さらに、本発明の歯科用硬化性組成物においては粘度の高いマトリックスレジンを用いているにも関わらず、高いフィラー充填量を達成できた理由は次のように考えられる。本発明の歯科用硬化性組成物を構成するマトリックスレジンの成分には有機無機複合フィラーを製造する段階で用いている重合性単量体を少なくとも一種類は含んでいる。その共通している重合性単量体の存在、具体的にはマトリクスレジンに含まれる共通重合性単量体と有機無機複合フィラーの有機質部分に含まれている共通重合性単量体の相互作用により両者の濡れ性が高まるために高いフィラー充填量を達成できたものと考えられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、臼歯部修復に適したコシ感があり、かつ、充填器に付着しにくいペースト性状で形態付形性に優れ、また経時的なペースト性状の変化も少なく、さらに低重合収縮性を有する歯科用硬化性組成物を提供することが可能となる。
本願明細書において規定される「コシ感」は、歯科用硬化性組成物の窩洞への充填のし易さ(押し込みやすさ)を示す用語である。「コシ感」が良好とは、ペースト性状に適度な弾力があり、適度な流動性(付形性)が保持され、窩洞の側壁において垂れにくい(形態を保持できる)特性を有し、さらに、組成物を如何なる方向から押し込み、充填しても、このような特性を保持しながら、歯科用硬化性組成物と歯牙との間に隙間を生じることなく、窩洞の奥まで組成物を充填できる性質を意味する。例えば、本発明のように、歯科用硬化性組成物の「コシ感」が良好であると、組成物と歯牙との間に隙間を生じることなく、窩洞の形状に沿って組成物を奥まで押し込みながら充填できるので、作業性に優れ、組成物と歯牙との隙間から細菌が進入すること、および組成物が歯牙から剥離することを防ぐこともできる。また、「コシ感」が良好であることにより、組成物を窩洞に押し込むと、押し込んだ分だけ充填できるため、術者は充填している感覚を実感できる。例えば、本発明のように、歯科用硬化性組成物の「コシ感」が良好であると、術者はアマルガムのような感覚で組成物を窩洞に充填することができる。
一方、「コシ感」がほとんど感じられない組成物は、充填時の押し込む力によって、その形状が大きく変形してしまうので、形態を保持することができず、窩洞の形状に沿って組成物を奥まで押し込むことが困難となる。また、組成物が窩洞内で偏在してしまうおそれがある。このため、組成物と歯牙との間に隙間を生じることなく組成物を窩洞内に充填することが困難となり、作業効率も極めて悪くなる。また、術者は充填している感覚を実感できない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の歯科用硬化性組成物における各成分について詳細に説明する。
<(a)マトリックスレジン>
本発明の特徴のうちの1つは、25℃におけるマトリックスレジンの粘度を10,000〜17,000mPa・sとすることである。好ましくは、本発明に係る歯科用硬化性組成物は、マトリックスレジンの粘度が25℃において10,000〜17,000mPa・sであり、25℃において100mPa・s以下の粘度を有する低粘度重合性単量体をマトリックスレジン100重量%に対して10重量%以下の量で含有する。
これにより、有機無機複合フィラーの有機質部分へのマトリックスレジンの吸着を抑制することでき、その結果、経時的なペースト性状の変化を抑制することができる。
本発明の歯科用硬化性組成物を構成しているマトリックスレジンは、一般に歯科用硬化性組成物に用いられている単官能性および/または多官能性の重合性単量体からなり、該重合性単量体は特に制限はなく公知のものが使用できる。一般に好適に使用される代表的な重合性単量体を例示すると、アクリロイル基および/またはメタクリロイル基を有する重合性単量体が挙げられる。なお、本発明においては、(メタ)アクリロイルをもってアクリロイル基含有重合性単量体とメタクリロイル基含有重合性単量体の両者を包括的に表記する。
【0014】
具体的に例示すれば次の通りである。
(I)単官能性重合性単量体:
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、グリセリン(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等。
【0015】
(II)芳香族系二官能性重合性単量体:
2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)−2(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン等
【0016】
(III)脂肪族系二官能性重合性単量体:
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等。
【0017】
(IV)三官能性重合性単量体:
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等。
【0018】
(V)四官能性重合性単量体:
ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等。
【0019】
また、ウレタン系重合性単量体として具体的に例示すると、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ハイドロキシプロピル(メタ)アクリレートのような水酸基を有する重合性単量体とメチルシクロヘキサンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルメチルベンゼン、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネートのようなジイソシアネート化合物との付加物から誘導される二官能性または三官能性以上のウレタン結合を有するジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0020】
上記の(メタ)アクリロイル基含有重合性単量体以外に、リン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基等の酸性基を有する重合性単量体、硫黄原子を分子内に有する重合性単量体、フルオロ基を有する重合性単量体、(メタ)アクリルアミド誘導体、少なくとも1個以上の重合性基を有するオリゴマーまたはポリマーを用いても良い。
【0021】
本発明の歯科用硬化性組成物を構成しているマトリックスレジンはこれら重合性単量体を単独で或いは必要に応じて複数を混合して調製するものである。
【0022】
本発明において歯科用硬化性組成物を構成しているマトリックスレジンは、25℃において100mPa・s以下の粘度を有する重合性単量体、すなわち、低粘度重合性単量体の含有量が、マトリックスレジン100重量%に対して10重量%以下である。好ましくは、低粘度重合性単量体の含有量は、マトリックスレジン100重量%に対して0.01重量%以上10重量%以下、更に好ましくは、0.1重量%以上6重量%以下である。
低粘度重合性単量体の含有量がこのような範囲であることにより、有機無機複合フィラーの有機質部分への低粘度重合性単量体の吸着量を低減でき、その結果、歯科用硬化性組成物のペースト性状が経時的に硬くなることを防ぐことができる
また、低粘度重合性単量体は、25℃にて、好ましくは10mPa・s以下の粘度である。
【0023】
この低粘度重合性単量体を具体的に例示すれば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0024】
本発明の歯科用硬化性組成物を構成しているマトリックスレジンは、25℃における粘度が10,000〜17,000mPa・sである。マトリックスレジンの粘度は、25℃において、好ましくは10,000〜15,000mPa・sである。
このような範囲にマトリックスレジンが粘度を有することにより、有機無機複合フィラーの有機質部分への重合性単量体の吸着量を少なくでき、その結果、歯科用硬化性組成物のペースト性状が経時的に硬くなることを防ぐことができる。さらに、十分なフィラー充填量をもたらすことができるので、適当な粘着性を有し、付形性に優れたペースト性状を得ることができる。加えて、重合収縮を小さくすることもできる。
【0025】
さらに、本発明の歯科用硬化性組成物を構成しているマトリックスレジンには、有機無機複合フィラーを製造する段階で用いている重合性単量体を少なくとも一種含んでもよい。これにより、マトリックスレジンの粘度が本願発明において規定される範囲内であれば、有機無機複合フィラー表面の有機質部分とマトリックスレジンとの親和性が向上し、マトリックスレジンの有機無機複合フィラーに対する高い濡れ性が発現するため、歯科用硬化性組成物において高いフィラー充填量を達成することが可能となる。
【0026】
歯科用硬化性組成物におけるマトリックスレジンの含有量は、歯科用硬化性組成物100重量%に対して、好ましくは10〜25重量%、より好ましくは10〜20重量%である。歯科用硬化性組成物におけるマトリックスレジンの含有量をこのような範囲に設定することにより、歯科用硬化性組成物をペースト状に製造できる、かつ、適当な粘着性を示し、コシ感優れたペースト性状がもたらされる。さらに重合収縮を小さくできる。
【0027】
<(b)有機無機複合フィラー>
本発明の歯科用硬化性組成物を構成している有機無機複合フィラーは、重合性単量体と無機フィラーを混合・重合させた後、粉砕することによって製造される。有機無機複合フィラーの製造に用いる重合性単量体は、前述のマトリックスレジンに用いる重合性単量体と同様に一般に歯科用硬化性組成物に用いられている単官能性および/または多官能性の重合性単量体から何等制限はなく公知のものが使用できる。また、有機無機複合フィラーの製造に用いる無機フィラーとしては、特に制限はなく歯科分野で用いられている公知のものが使用できる。無機フィラーの形状は球状、針状、板状、破砕状、鱗片状、多孔質状等の任意の粒子形状であり、特に制限されない。また、それらの凝集体であっても良く、さらに無機フィラーの種類も特に制限されない。
【0028】
無機フィラーを具体的に例示すると、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化イッテルビウム、シリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア、シリカ−チタニア−酸化バリウム、シリカ−チタニア−ジルコニア等の無機酸化物および無機複合酸化物、溶融シリカ、石英、アルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、アルミノボレートガラス、ボロアルミノシリケートガラス等のガラス類、フッ化ナトリウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、フッ化ストロンチウム、フッ化イットリウム、フッ化ランタン、フッ化イッテルビウム等の金属フッ化物、炭酸カルシウム、タルク、カオリン、クレー、雲母、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化ホウ素、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、ゼオライト等が挙げられる。
【0029】
これらの無機フィラーは単独で或いは複数を組み合わせて有機無機複合フィラーの製造に用いることができる。これらの中でも、歯科用硬化性組成物に高いX線造影性を付与する観点から、有機無機複合フィラー中に含まれる無機フィラーとしてはストロンチウム、バリウム、ランタン等の金属および/またはフッ素を含むアルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、アルミノボレートガラス、ボロアルミノシリケートガラス等が好ましい。これらの無機フィラーの平均粒子径は0.01〜10μmの範囲が好ましく、より好ましくは0.01〜2.0μmの範囲である。特に、歯科用硬化性組成物に高い研磨性、研磨後の表面滑沢性や光沢性を付与する観点からは、無機フィラーとして平均一次粒子径が0.8μm以下のものを用いることが好ましい。
【0030】
また、これらの無機フィラーは有機無機複合フィラーの製造に用いる前にあらかじめ表面処理して疎水化することが好ましい。この表面処理を行うことで有機無機複合フィラー中における無機フィラーの高充填化が可能となるため、有機無機複合フィラーの機械的強度が向上する。無機フィラーの表面処理に用いる表面処理剤としては、有機ケイ素化合物、有機ジルコニウム化合物、および有機チタン化合物等、特に制限はなく公知のものが使用できるが、最も一般的に使用されるのは有機ケイ素化合物である。有機ケイ素化合物を具体的に例示すると、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メトキシトリプロピルシラン、プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、トリメチルシリルイソシアネート、ビニルシリルトリイソシアネート、フェニルシリルトリイソシアネート等が挙げられる。これらの化合物は単独で或いは複数を組合せて使用することができる。また、表面処理の方法は、特に制限はなく、公知の方法を適用することができる。
【0031】
有機無機複合フィラーの製造方法は、特に制限はなく、いずれの方法も採用することができる。歯科分野において公知の有機無機複合フィラーの製造方法として、先ず重合性単量体、無機フィラーおよび重合開始材を乳鉢、ニーダー、ロールおよび雷カイ機等を用いて機械的に混練してペーストを調製する。重合開始材は特に制限されず、光重合開始材、化学重合開始材、熱重合開始材等、公知のラジカル発生剤が何等制限なく使用することができるが、熱重合開始材が最も一般的に使用される。例えば、熱重合開始材としてはベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、トリブチルホウ素等の有機金属化合物等が好適である。これらの重合開始材は重合様式や重合方法に関係なく、単独で或いは複数を組み合わせて用いることができる。重合開始材の添加量は、重合性単量体に対して0.1〜10重量%の範囲から適宜選択すればよい。また、有機無機複合フィラーに含有させる無機フィラーの含有量は、10〜85重量%の範囲が好ましく、より好ましくは40〜85重量%の範囲である。この範囲未満の場合は、有機無機複合フィラーの機械的強度、表面硬度および熱膨張係数等に、一方、この範囲を超える場合は、有機無機複合フィラー中における無機フィラーの分散性低下に基因して機械的強度および研磨性等にそれぞれ問題が生じる。
【0032】
次に、このペーストを加熱プレス等の適切な重合設備を用いて重合させる。重合温度は、重合開始材の分解温度に応じて適宜選択すればよいが、20〜250℃の範囲が好ましく、より好ましくは60〜200℃の範囲である。重合時間は重合物の重合状態および残存未反応モノマー量等を考慮に入れ適宜決めればよい。また、一般に重合は重合物が変色しないように窒素やアルゴンのような不活性ガス雰囲気下で行うこともできる。重合は大気圧下の重合で十分であるが、必要に応じて、加圧下でも行うことができる。また、ペーストの調製および重合は加圧ニーダー等の混練機を用いて同時に行うこともできる。
【0033】
ペーストの重合後、この重合物を粉砕して有機無機複合フィラーを得る。粉砕方法は特に限定されないが、歯科分野で一般に採用されている方法で行うことができる。例えば、ボールミルや振動ミル等の容器駆動媒体ミル、ハンマーミルやターボミル等の高速回転ミル、サンドグライダーやアトライター等の媒体攪拌ミルが挙げられ、必要な平均粒子径に応じて適宜選定できる。また、粉砕時に粉砕物が着色しないように不活性ガス雰囲気下またはアルコール等の溶媒中で行うこともできる。また、酸化防止剤、例えば、ハイドロキノンモノメチルエーテル等の公知のフェノール類を添加して粉砕することもできる。粉砕した有機無機複合フィラーの平均粒子径は1〜100μmの範囲が好ましい。より好ましくは3〜50μm、さらに好ましくは5〜30μmである。粉砕後の有機無機複合フィラーは前述の無機フィラーの表面処理に用いたものと同じ表面処理剤で処理を行うことが好ましい。表面処理により有機無機複合フィラーはマトリックスレジンに高充填することが可能となるため、歯科用硬化性組成物は機械的強度が向上し、さらに重合収縮が低減する。製造した有機無機複合フィラーは単独で或いは複数を組合せて使用することができる。歯科用硬化性組成物における有機無機複合フィラーの含有量は、歯科用硬化性組成物100重量%に対して、好ましくは15〜80重量%、より好ましくは15〜50重量%、より好ましくは15〜35重量%であり、特に好ましくは20〜35重量%である。このような範囲に有機無機複合フィラーの含有量を有することにより、ペーストの粘着性が高くなることを防ぎ、重合収縮も小さくできる。さらに、歯科材料として好ましい機械的強度を備えることができる。
【0034】
<(c)無機フィラー>
本発明の歯科用硬化性組成物を構成している無機フィラーは、特に制限はなく歯科分野で用いられている公知のものが使用できる。また、その形状は球状、針状、板状、破砕状、鱗片状、多孔質状等が挙げられ、特に制限されない。さらにそれらの凝集体であっても良く、種類も特に制限されない。無機フィラーの具体的な例示は、前述の有機無機複合フィラーの製造に用いる無機フィラーと同様である。また、無機フィラーは単独で或いは複数を組み合わせて用いることができる。歯科用硬化性組成物における無機フィラーの含有量は、歯科用硬化性組成物100重量%に対して、好ましくは10〜75重量%、より好ましくは20〜75重量%である。歯科用硬化性組成物における無機フィラーの含有量がこのような範囲であることにより、歯科用硬化性組成物は、歯科材料として好ましい機械的強度と適度な粘着性を有することができ、付形性が良いペースト性状がもたらされる。
【0035】
<歯科用硬化性組成物における有機無機複合フィラーと無機フィラーの含有量>
本発明の歯科用硬化性組成物は、有機無機複合フィラーおよび無機フィラーを組み合わせて組成物中に高充填することで、充填器に付着しにくく付形性に優れ、かつ、コシ感のあるペースト性状と低重合収縮性を発現させることが可能となる。歯科用硬化性組成物における有機無機複合フィラーと無機フィラーの合計含有量は、歯科用硬化性組成物100重量%に対して、好ましくは75重量%以上、より好ましくは80重量%以上である。歯科用硬化性組成物における有機無機複合フィラーと無機フィラーの合計含有量をこのような範囲にすることにより、所望の粘着性が得られ、コシ感に優れたペースト性状が得られ、さらに重合収縮を小さくできる。
また、歯科用硬化性組成物における有機無機複合フィラーと無機フィラーの割合は重量比で有機無機複合フィラー:無機フィラー=1:5〜8:1であることが好ましい。
【0036】
<(d)重合開始材>
本発明の歯科用硬化性組成物を構成している重合開始材は、特に制限はなく公知のラジカル発生剤が使用できる。重合開始材は一般に使用直前に混合することにより重合を開始させるもの(化学重合開始材)、加熱や加温により重合を開始させるもの(熱重合開始材)、光照射により重合を開始させるもの(光重合開始材)に大別される。
【0037】
化学重合開始材としては、有機過酸化物/アミン化合物、有機過酸化物/アミン化合物/スルフィン酸塩または有機過酸化物/アミン化合物/ボレート化合物からなるレドックス型の重合開始材系、酸素や水と反応して重合を開始する有機金属型の重合開始材系が挙げられ、さらにはスルフィン酸塩類やボレート化合物類は酸性基を有する重合性単量体との反応により重合を開始させることもできる。
【0038】
有機過酸化物を具体的に例示すると、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジハイドロパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキシベンゾエード等が挙げられる。
【0039】
アミン化合物を具体的に例示すると、アミノ基がアリール基に結合した第二級または第三級アミンが好ましく、具体的に例示するとp−N,N−ジメチル−トルイジン、N,N−ジメチルアニリン、N−β−ヒドロキシエチル−アニリン、N,N−ジ(β−ヒドロキシエチル)−アニリン、p−N,N−ジ(β−ヒドロキシエチル)−トルイジン、N−メチル−アニリン、p−N−メチル−トルイジン等が挙げられる。
【0040】
スルフィン酸塩類を具体的に例示すると、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム等が挙げられる。
ボレート化合物を具体的に例示すると、トリアルキルフェニルホウ素、トリアルキル(p−フロロフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基、n−ドデシル基等)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0041】
有機金属型の重合開始材を具体的に例示すると、トリフェニルボラン、トリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物等の有機ホウ素化合物類等が挙げられる。
【0042】
また加熱や加温による熱重合開始材としては、上記有機過酸化物の他にアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル、アゾビスシアノ吉草酸等のアゾ化合物類が好適に使用される。
【0043】
さらに光重合開始材としては、光増感剤からなるもの、光増感剤/光重合促進剤等が挙げられる。光増感剤を具体的に例示すると、ベンジル、カンファーキノン、α−ナフチル、アセトナフセン、p,p'−ジメトキシベンジル、p,p'−ジクロロベンジルアセチル、ペンタンジオン、1,2−フェナントレンキノン、1,4−フェナントレンキノン、3,4−フェナントレンキノン、9,10−フェナントレンキノン、ナフトキノン等のα−ジケトン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−メトキシチオキサントン、2−ヒドロキシチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類、ベンゾフェノン、p−クロロベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド類、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1等のα−アミノアセトフェノン類、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジル(2−メトキシエチルケタール)等のケタール類、ビス(シクロペンタジエニル)−ビス〔2,6−ジフルオロ−3−(1−ピロリル)フェニル〕−チタン、ビス(シクペンタジエニル)−ビス(ペンタンフルオロフェニル)−チタン、ビス(シクロペンタジエニル)−ビス(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−ジシロキシフェニル)−チタン等のチタノセン類等が挙げられる。
【0044】
光重合促進剤を具体的に例示すると、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ−n−ブチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、p−N,N−ジメチル−トルイジン、m−N,N−ジメチル−トルイジン、p−N,N−ジエチル−トルイジン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノベンゾイックアシッド、p−ジメチルアミノベンゾイックアシッドエチルエステル、p−ジメチルアミノベンゾイックアシッドアミノエステル、N,N−ジメチルアンスラニリックアシッドメチルエステル、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、p−N,N−ジヒドロキシエチル−トルイジン、p−ジメチルアミノフェニルアルコール、p−ジメチルアミノスチレン、N,N−ジメチル−3,5−キシリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン、N,N−ジメチル−β−ナフチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルステアリルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、2,2'−(n−ブチルイミノ)ジエタノール等の第三級アミン類、N−フェニルグリシン等の第二級アミン類、5−ブチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸等のバルビツール酸類、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジバーサテート、ジオクチルスズビス(メルカプト酢酸イソオクチルエステル)塩、テトラメチル−1,3−ジアセトキシジスタノキサン等のスズ化合物類、ラウリルアルデヒド、テレフタルアルデヒド等のアルデヒド化合物類、ドデシルメルカプタン、2−メルカプトベンゾオキサゾール、1−デカンチオール、チオサルチル酸等の含イオウ化合物等が挙げられる。
【0045】
さらに、光重合促進能の向上のために、上記光重合促進剤に加えて、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グリコール酸、グルコン酸、α−オキシイソ酪酸、2−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、ジメチロールプロピオン酸等のオキシカルボン酸類の添加が効果的である。
【0046】
これらの重合開始材は重合様式や重合方法に関係なく、単独で或いは複数を組み合わせて用いることができる。また、これらの重合開始材は必要に応じてマイクロカプセルに内包するなどの二次的な処理を施しても何等問題はない。
【0047】
これらの重合開始材の中でも、光照射によりラジカルを発生する光重合開始材を用いることが好ましい態様であり、空気の混入が少ない状態で歯科用硬化性組成物を重合させることができる点で最も好適に使用される。また、光重合開始材の中でも、α−ジケトンと第三級アミンの組み合わせがより好ましく、カンファーキノンとp−N、N−ジメチルアミノ安息香酸エチル等のアミノ基がベンゼン環に直結した芳香族アミンまたはN、N−ジメチルアミノエチルメタクリレート等の分子内に二重結合を有した脂肪族アミン等の組み合わせが最も好ましい。また、使用用途に応じて他に、クマリン系、シアニン系、チアジン系等の増感色素類、ハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体、ジフェニルヨードニウム塩化合物等の光照射によりブレンステッド酸またはルイス酸を生成する光酸発生剤、第四級アンモニウムハライド類、遷移金属化合物類等も適宜使用することができる。
【0048】
本発明の硬化性歯科用組成物を構成している重合開始材の含有量は、使用用途に応じて適宜選択することができるが、マトリックスレジン100重量部に対して0.1〜10重量部の範囲が好ましく、より好ましくは0.1〜5重量部の範囲である。
【0049】
<その他の添加材>
本発明の歯科用硬化性組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、上記(a)〜(d)成分に加えて、公知の添加材が配合されていても良い。例えば、(b)有機無機複合フィラーまたは(c)無機フィラー以外のフィラー(有機フィラー)、重合禁止材、酸化防止材、紫外線吸収材、抗菌材、染料、顔料等が挙げられる。
重合禁止材には、例えば、2,6−ジ−ブチルヒドロキシトルエン、ハイドロキノン、ジブチルハイドロキノン、ジブチルハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6−tert−ブチルフェノール等が含まれる。
紫外線吸収材には、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、4−tert−ブチルフェニルサリシレート等が含まれる。
顔料には、例えば、黒色酸化鉄、酸化第二鉄、黄色酸化鉄、酸化チタン等が含まれる。
【0050】
本発明の歯科用硬化性組成物は、以上に示した各成分を混合することで調製される。歯科用硬化性組成物のペーストにおける稠度の経時的な変化については、実施例中の(4)保存安定性の項目に示した方法で判断することができる。すなわち、歯科用硬化性組成物は、通常30℃以下で保存または使用されるが、その際、各成分の配合量にもよるが稠度の変化は数ヶ月〜数年に渡って徐々に進行する。一方、歯科用硬化性組成物を50℃で保存する加速試験を行うことで、比較的短時間で稠度の変化を確認することができる。本発明者らの検討によれば、50℃で1ヶ月保存した場合における稠度の維持率(50℃−1ヶ月保存後の稠度/初期の稠度×100)は、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上である。この条件に適合する場合は、歯科用硬化性組成物は通常の保存または使用条件下で長期間その稠度が維持される。
【0051】
本発明の歯科用硬化性組成物の包装形態は、特に限定されず、重合開始材の種類、または使用目的により、1パック包装形態または2パック包装形態、またはそれ以外の形態のいずれも可能であり、用途に応じて適宜選択することができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明をより詳細に、かつ、具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
実施例及び比較例で使用した材料とその略称を以下に示す。
〔重合性単量体〕
・Bis−GMA:2,2−ビス[4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]プロパン(50℃粘度: 15,000mPa・s)
・UDA: 1,6−ビス [(1−アクリロイルオキシ−3−フェノキシ)−2−イソプロポキシカルボニルアミノ]ヘキサン(50℃粘度: 3,000mPa・s)
・UDMA: N,N−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス[2−(アミノカルボキシ)エタノール]メタクリレート(25℃粘度: 8,000mPa・s)
・Bis−MPEPP: 2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(25℃粘度: 1,000mPa・s)
〔低粘度重合性単量体(25℃において100mPa・s以下の粘度を有する重合性単量体)〕
・3G: トリエチレングリコールジメタクリレート(25℃粘度: 4mPa・s)
・NPG: ネオペンチルグリコールジメタクリレート(25℃粘度: 2mPa・s)
・TMPT: トリメチロールプロパントリメタクリレート(25℃粘度: 46mPa・s)
〔無機フィラー〕
・バリウムボロアルミノシリケートガラスフィラー(平均粒子径1μm)
・フルオロアルミノシリケートガラスフィラー1(平均粒子径1μm)
・フルオロアルミノシリケートガラスフィラー2(平均粒子径3μm)
・アエロジルR972(超微粒子フィラー)
〔重合促進剤〕
・DMABE: N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル
〔重合開始材〕
・BPO: 過酸化ベンゾイル
・CQ: α−カンファーキノン
〔表面処理剤〕
・γ‐MPS: γ‐メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン
【0054】
実施例及び比較例において採用した試験方法は以下の通りである。
(1)粘度
マトリックスレジン65gを50mLガラス製ビンに入れた後、25℃の恒温室(湿度50%)で1日間静置した。1日間静置後、B型粘度計(東機産業社製、BMII型)を用いて、25℃にて粘度を測定した。なお、測定開始から3分後における値をその粘度とした。
(2)粘着性
充填器を用いて1級窩洞の模型に歯科用硬化性組成物を充填することで粘着性を評価した。その評価基準は以下の通り。
A: 粘着性がほとんど感じられない。
B: 粘着性が感じられる。
(3)コシ感
充填器を用いて1級窩洞の模型に歯科用硬化性組成物を充填することでコシ感を評価した。その評価基準は以下の通り。なお、A及びB評価の場合、コシ感は良好と判断される。
A: コシ感が充分に感じられ、窩洞に非常に充填しやすい。
B: コシ感が感じられ、窩洞に充填しやすい。
C: コシ感がやや感じられ、窩洞への充填が可能である。
D: コシ感がほとんど感じられず、窩洞への充填が困難である。
(4)保存安定性
歯科用硬化性組成物を25℃の恒温室(湿度50%)に1日間静置後、ガラス板上に歯科用硬化性組成物を300mm計量した。その上にガラス板を載せ、更に385gの重りを載せた後、3分間放置した。3分間経過後、重りを外し、円状に広がった歯科用硬化性組成物の平行切線間の寸法を2点測定し、その2点の平均値を初期稠度(mm)とした。
また、50℃の恒温器(湿度50%)に1ヶ月間静置後、25℃の恒温室(湿度50%)に1日間静置した歯科用硬化性組成物に関して、上記の方法で稠度を測定し、これを50℃保存後における稠度(mm)とした。
これら得られた稠度の値から、式(I)に従い稠度維持率(%)を算出することで、歯科用硬化性組成物の保存安定性を評価した。なお、稠度維持率が85%以上の場合、保存安定性は良好と判断される。
稠度維持率(%)=50℃保存後における稠度/初期稠度×100 式(I)
(5)重合収縮率
歯科用硬化性組成物をステンレス製金型(内径10mm、厚さ2mm)に充填し、両面にカバーガラスを置いて圧接した後、可視光線照射器(ソリディライトV:松風社製)を用いて両面からそれぞれ3分間光照射することにより歯科用硬化性組成物の硬化体を得た。
硬化前と硬化後における歯科用硬化性組成物の密度をガスピクノメーター(アキュピック1303:Micromeritics社製)を用いて測定し、得られた測定値から式(II)に従い、重合収縮率を算出した。なお、密度の測定は25℃にて行った。
重合収縮率(vol%)=(1−Dbefore/Dafter)×100 式(II)
(Dbefore:歯科用硬化性組成物の硬化前の密度、Dafter:歯科用硬化性組成物の硬化後の密度)
【0055】
(有機無機複合フィラーの製造)
バリウムボロアルミノシリケートガラスフィラー(平均粒子径1μm)100重量部を通法に従い、6重量部のγ‐MPSで表面処理を行い、バリウムガラスフィラーとした。 次に、Bis-GMA 50重量部、3G 50重量部、BPO 0.5重量部からなる混合物30重量部に、上記バリウムガラスフィラー 70重量部を混合して均一に混練した。その後、窒素雰囲気下、100℃にて4時間加熱して硬化させたものを粉砕および分級することにより、平均粒子径が25μmの粉末を得た。さらにこの粉末 100重量部を通法に従い、6重量部のγ‐MPSで表面処理を行い、有機無機複合フィラーを得た。
(無機フィラーAの製造)
フルオロアルミノシリケートガラスフィラー1(平均粒径1μm) 100重量部を通法に従い、8重量部のγ‐MPSで表面処理を行ったものを無機フィラーAとした。
(無機フィラーBの製造)
フルオロアルミノシリケートガラスフィラー2(平均粒径3μm) 100重量部を通法に従い、4重量部のγ‐MPSで表面処理を行ったものを無機フィラーBとした。
(無機フィラーC)
アエロジルR972(日本アエロジル社製)を無機フィラーCとして用いた。
【0056】
(マトリックスレジンの調製及び粘度の測定)
表1に示す割合にて各重合性単量体を混合することによりマトリックスレジンR−1〜9を調製した。また、(1)粘度に示した方法に従い、調製したマトリックスレジンの粘度を測定した。それらの試験結果も合わせて表1に示す。なお、マトリックスレジンの粘度を測定後、マトリックスレジン 100重量部に対して、DMABE 1重量部およびCQ 0.3重量部を溶解させた。この混合液を「重合触媒含有マトリックスレジン」とし、歯科用硬化性組成物の調製に用いた。
【0057】
(歯科用硬化性組成物の調製)
表2に示す割合にて各成分を混練した後、真空下で脱泡することによりペースト状の歯科用硬化性組成物(実施例1〜9、比較例1〜)を調製した。調製した歯科用硬化性組成物について、上記の方法に従い粘着性、コシ感、保存安定性、重合収縮率の測定を行った。それらの試験結果を表2に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
<実施例1〜9>
実施例1〜9の歯科用硬化性組成物は、いずれも粘着性が少なく、良好なコシ感を示した。また、稠度維持率は90%以上と優れた保存安定性を示し、さらに重合収縮率も低かった。
【0061】
<比較例1および比較例4>
比較例1および比較例4の歯科用硬化性組成物は、25℃における粘度が10,000mPa・s未満であるマトリックスレジンを用いている点で本発明の要件を満たしていない。その結果、比較例1および比較例4の歯科用硬化性組成物は、コシ感に劣り、稠度維持率も85%未満であった。
【0062】
<比較例2>
比較例2の歯科用硬化性組成物は、有機無機複合フィラーを配合していない点で本発明の要件を満たしていない。その結果、比較例2の歯科用硬化性組成物は、粘着性が高く、コシ感に劣り、さらに重合収縮率も大きかった。
【0063】
<比較例3>
比較例3の歯科用硬化性組成物は、有機無機複合フィラーと無機フィラーの合計含有量が75重量%未満である。その結果、比較例3の歯科用硬化性組成物は、粘着性が高く、コシ感に劣り、さらに重合収縮率も大きかった。
【0064】
<比較例5>
比較例5の歯科用硬化性組成物は、低粘度重合性単量体の含有量が10重量%よりも多いマトリックスレジンを用いている点で本発明の要件を満たしていない。その結果、比較例5の歯科用硬化性組成物は、稠度維持率が85%未満であり、さらに重合収縮率も大きかった。
【0065】
<比較例6>
比較例6の歯科用硬化性組成物は、低粘度重合性単量体の含有量が10重量%よりも多く、かつ、25℃における粘度が10,000mPa・s未満のマトリックスレジンを用いている点で本発明の要件を満たしていない。その結果、比較例6の歯科用硬化性組成物は、コシ感に劣り、稠度維持率が80%と低かった。
【0066】
<比較例7>
比較例7の歯科用硬化性組成物は、25℃における粘度が17,000mPa・sよりも高いマトリックスレジンを用いている点で本発明の要件を満たしていない。その結果、比較例7の歯科用硬化性組成物は、粘着性が高かった。
以上の結果から、本発明の歯科用硬化性組成物は、粘着性が少なく、良好なコシ感を示し、また優れた保存安定性を示し、さらに重合収縮率も低かった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、齲蝕や破折等により生じた歯牙の欠損を修復するための歯科用硬化性組成物が提供される。さらに詳しくは臼歯部修復に適したペースト性状で形態付形性に優れ、またペースト性状の保存安定性も有し、さらに低重合収縮性をも有する歯科用硬化性組成物が提供される。