(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
同数ずつに分かれた前記コンデンサを結ぶ配線をさらに備え、当該配線にバイパスコンデンサをさらに備えることを特徴とする請求項1乃至3に記載のストロークセンサシステム。
同数ずつに分かれた前記コンデンサと並列に接続するツェナーダイオードをさらに備えることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のストロークセンサシステム。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<自動二輪車の全体構成の説明>
図1は、本実施の形態に係る自動二輪車1の概略構成を示す図である。
自動二輪車1は、前側の車輪である前輪2と、後前の車輪である後輪3と、自動二輪車1の骨格をなす車体フレーム11、ハンドル12及びエンジン13などを有する車両本体10と、を備えている。
【0012】
また、自動二輪車1は、前輪2と車両本体10とを連結するフロントフォーク21を、前輪2の左側と右側にそれぞれ1つずつ有している。また、自動二輪車1は、後輪3と車両本体10とを連結するリヤサスペンション22を、後輪3の左側と右側にそれぞれ1つずつ有している。
図1では、右側に配置されたフロントフォーク21及びリヤサスペンション22のみを示している。
【0013】
また、自動二輪車1は、前輪2の左側に配置されたフロントフォーク21と前輪2の右側に配置されたフロントフォーク21とを保持する2つのブラケット14と、2つのブラケット14の間に配置されたシャフト15と、を備えている。シャフト15は、車体フレーム11に回転可能に支持されている。
また、自動二輪車1は、フロントフォーク21の後述する流路切替ユニット300のソレノイド310を制御することで自動二輪車1の車高を制御する制御装置20を備えている。
【0014】
<リヤサスペンション22の構成・機能>
図2は、本実施形態のリヤサスペンション22の外観を示す図である。
図3は、
図2の断面図である。
リヤサスペンション22は、シリンダ部710と、ピストンロッド720と、ピストン730と、コイルスプリング740と、車体側取付部材750と、車輪側取付部材760とを備えている。
【0015】
(シリンダ部710の構成)
シリンダ部710は、シリンダ711と、シリンダ711の外側に設けられる外筒712とを備えている。シリンダ711と外筒712は同心(同軸)に配置される。
また、シリンダ部710は、下側の端部にロッドガイド713を備えている。
なお、以下の説明においては、外筒712の円筒の中心軸方向を、単に「上下方向」と称す。また、外筒712の上下方向において図中下側の後輪3側(車輪側、車軸側)を「下側」と称し、外筒712の上下方向において図中上側の車両本体10側(車体側、本体側)を「上側」と称する場合がある。
【0016】
シリンダ711は、薄肉円筒状の部材である。シリンダ711は、内側にオイルを収容する。また、シリンダ711は、内周面においてピストン730が上下方向に摺動可能に設けられ、ピストン730の外周がシリンダ711の内周を接触しながら移動する。
また、シリンダ711は、下側の端部側であってロッドガイド713よりも上側において、シリンダ開口711Hを有している。
【0017】
外筒712は、薄肉円筒状の部材である。外筒712は、シリンダ711の外周に対して内周が所定の間隔を有して配置される。そして、外筒712は、シリンダ711との間に、シリンダ711の内側と後述の減衰力発生装置753との間におけるオイルの経路となる連絡路Lを形成する。
外筒712は、管状に形成され車体側に位置する車体側部材として機能する。外筒712は、アルミニウム等の導体からなる。
【0018】
シリンダ711および外筒712は、上下方向の上側の端部が車体側取付部材750に取り付けられる。この場合、シリンダ711は、例えば、車体側取付部材750に圧入することにより取り付けられる。また外筒712は、車体側取付部材750に形成された雌ねじと外筒712に形成された雄ねじが嵌合することにより取り付けられる。
【0019】
ロッドガイド713は、概形が肉厚円筒状の部材であって、外筒712の内周面に保持される。またロッドガイド713は、Oリング713Aを介して外筒712の下側の端部にて上下方向に固定される。これによりロッドガイド713は、シリンダ711および外筒712の上下方向の下側の端部を塞ぐ。
そして、ロッドガイド713は、内側の孔にてオイルシール713B、ブッシュ713C、ダストシール713Dを介しピストンロッド720を保持し、ピストンロッド720を移動可能に支持する。
【0020】
(ピストンロッド720の構成)
ピストンロッド720は、上下方向に延びるとともに上下方向の上側の端部でピストン730に接続する。
ピストンロッド720は、中実または中空の棒状の部材であり、円柱状または円筒状のロッド部721と、上下方向の上側の端部にピストン730などを取り付けるための上側取付部722aと、上下方向の下側の端部にこのピストンロッド720を車輪側取付部材760へ取り付けるための下側取付部722bとを有している。上側取付部722aおよび下側取付部722bの端部の外面には螺旋状の溝が切られて雄ねじが形成されており、ボルトとして機能する。
【0021】
(ピストン730の構成)
ピストン730は、ピストンボディ731と、ピストンボディ731をピストンロッド720の上側取付部722aに取り付けるためのナット732と、リバウンドラバー733とを備えている。
ピストン730は、シリンダ711内において上下方向に移動可能に設けられるとともに、シリンダ711内の空間をオイルを収容する第1油室Y1と第2油室Y2とに区画する。
【0022】
ピストンボディ731は、ピストンロッド720の上側取付部722aを通すために上下方向に形成された取付孔731Rと、ピストンボディ731をシリンダ711内において上下方向に摺動させるためのブッシュ731Bと、第1油室Y1と第2油室Y2とを液密に区画するためのOリング731Kとを備えている。
リバウンドラバー733は、伸張行程においてシリンダ部710が最も伸長した際に、ロッドガイド713の上側の端部側がピストン730に接触した際の衝撃を吸収し、ピストン730やロッドガイド713の損傷を防止する。
【0023】
(コイルスプリング740の構成)
コイルスプリング740は、伸縮することにより路面の凸凹に伴い後輪3が受ける振動を吸収する。即ち、コイルスプリング740は、車体側と車輪側との間の振動を吸収する弾性部材として機能する。
コイルスプリング740は、上下方向の上側の端部側が後述するばね受け755に当たり、上下方向の上側の端部側の位置が規定される。また上下方向の下側の端部側が後述するスプリングアジャスタ763aに当たり、上下方向の下側の端部側の位置が規定される。
【0024】
(車体側取付部材750の構成)
車体側取付部材750は、車体側連結部材751と、シリンダ部装着部752と、減衰力発生装置753と、サブタンク部754と、ばね受け755とを備える。
車体側連結部材751は、連結孔751Hを有し、車両本体10側に設けられる取付部材(図示せず)を連結孔751Hに挿入することで、リヤサスペンション22を車両本体10側に取り付ける。
【0025】
シリンダ部装着部752は、上述したシリンダ部710のシリンダ711および外筒712を装着する。シリンダ部装着部752は、略円筒状をなし、その内周面は、外筒712の外周面に沿うように形成されている。そして外筒712を、ねじ締めすることによりシリンダ部装着部752に装着する。またシリンダ部装着部752は、上側の底部に突起部752Tを有し、この突起部752Tによりシリンダ711と外筒712とを液密に区画するとともに、突起部752Tの内周面にシリンダ711を圧入することで、シリンダ711を装着する。
【0026】
減衰力発生装置753は、詳しくは後述するが、シリンダ711およびピストンロッド720が相対的に移動するときに減衰力を発生する。減衰力発生装置753には、内部に減衰バルブが設けられ、この減衰バルブによるオイルの流れを遮る抵抗により減衰力が発生する。
【0027】
サブタンク部754は、詳しくは後述するが、内部にエア室および油溜室が設けられ、エア室と油溜室とは、ブラダにより区画されている。そしてエア室には、エアバルブ754Fからエアが注入できるようになっており、これによりエア室内は、高圧となる。
シリンダ711およびピストンロッド720が互いに離れる方向に移動する伸張行程では、ピストンロッド720がシリンダ711内に占める容積が減少する。そのためその分のオイルをシリンダ711内に補填する必要がある。この場合、エア室内のエア圧によりブラダを介してオイルを第1油室Y1に送り込み、オイル量の調整を行う。
またシリンダ711およびピストンロッド720が互いに接近する方向に移動する圧縮行程では、ピストンロッド720がシリンダ711内に占める容積が増加する。そのためその分のオイルをシリンダ711内から排出する必要がある。この場合、オイルを油溜室に送り込み、オイル量の調整を行う。
【0028】
ばね受け755は、上述したようにコイルスプリング740の上側の端部側の位置を規定する。
【0029】
(車輪側取付部材760の構成)
車輪側取付部材760は、車輪側連結部材761と、ピストンロッド装着部762と、荷重調整装置763と、信号線764とを備える。
車輪側連結部材761は、連結孔761Hを有し、後輪3の車軸を連結孔761Hに挿入することで、リヤサスペンション22を車軸に取り付ける。
【0030】
ピストンロッド装着部762は、ピストンロッド720を装着するための凹部762Aが設けられる。そして凹部762Aの内周面に形成される雌ねじに、ピストンロッド720の下側取付部722bの外面に形成される雄ねじを締め付けることでピストンロッド720を保持する。
またピストンロッド装着部762は、略環状に形成されたバンプラバー762Rを備える。バンプラバー762Rは、圧縮行程においてシリンダ部710が最も圧縮した際に、ロッドガイド713の下側の端部側が車輪側取付部材760に接触した際の衝撃を吸収し、ロッドガイド713等の損傷を防止する。
【0031】
荷重調整装置763は、ばね受けの位置を上下方向に変更する機構部であり、これによりコイルスプリング740の長さを変更する。その結果、車高やコイルスプリング740の初期荷重(プリロード)を調整することができる。
【0032】
図4は、荷重調整装置763の構成について示した図である。
荷重調整装置763は、スプリングアジャスタ763aと、ばね受け補助部材763bと、ガイド763cと、ばね受け部材763dとを備える。
荷重調整装置763は、これら4個の部品が、
図4のように組み合わさることで構成される。具体的には、ばね受け補助部材763bは、下側の端部側に拡管部763eを有するとともに拡管部763eに切欠き部763fを有する。切欠き部763fは、円周方向に複数個形成される。またガイド763cは、上下方向と直交する方向に突出する突起部763gを有する。そしてばね受け補助部材763bの内側にガイド763cが差し込まれ、切欠き部763fと突起部763gとが嵌合することでばね受け補助部材763bとガイド763cとは組み合わさる。またばね受け部材763dは、切欠き部763hを有する。そして突起部763gと切欠き部763hとが嵌合することでガイド763cとばね受け部材763dとは組み合わさる。さらにばね受け部材763dは、突起部763iを有する。そして切欠き部763fと突起部763iとが嵌合することでばね受け補助部材763bとばね受け部材763dとは組み合わさる。
【0033】
スプリングアジャスタ763aは、略円環状をなし、その上側の面がコイルスプリング740と当たっている。そしてスプリングアジャスタ763aは、回転することで上下方向の位置が変化し、コイルスプリング740の下側の位置を調整することができる。これによりコイルスプリング740の長さを変更する。
【0034】
ばね受け補助部材763bは、略円筒状をなし、コイルスプリング740から作用する力をばね受け部材763dに伝達するための部材である。
【0035】
ガイド763cは、略円筒状をなし、樹脂等からなる。ガイド763cは、ピストンロッド720を保護するための部材である。即ち、飛び石等からピストンロッド720を保護するために設けられるプロテクタとしての役割を担う。ガイド763cがないとピストンロッド720に傷が生じ、これによりオイルシールが破れやすくなる。オイルシールが破れた場合、オイルが外部に漏れ出しリヤサスペンション22の動作に支障が生ずることがある。
【0036】
ガイド763cは、ピストンロッド720の上下方向下側に生じる露出部全体を覆う。そしてガイド763cの内周と外筒712の外周は接触しつつ相対的に移動する。ガイド763cは、管状に形成されて後輪3側に位置すると共に外筒712に接続し、外筒712の上下方向において外筒712に対して相対的に移動する車輪側部材として機能する。
またガイド763cは、詳しくは後述するが、ストロークセンサシステムを構成するコイル763jを内部に備える。
【0037】
ばね受け部材763dは、略円環状の形状に上述したように切欠き部763hを有し、そのため略C字形状をしている。ばね受け部材763dは、スプリングアジャスタ763aやばね受け補助部材763bとともに、コイルスプリング740から作用する力を車輪側連結部材761側に伝達する受け部材としての役割を担う。またばね受け部材763dは、内周側がピストンロッド装着部762に嵌め込まれるとともに、外周側は、ばね受け補助部材763bの拡管部763eの内側に嵌め込まれる。これによりばね受け補助部材763bやガイド763cの軸位置を規定し、さらにコイルスプリング740を固定する。ばね受け部材763dを取り付けるときは、コイルスプリング740、スプリングアジャスタ763a、ばね受け補助部材763b、およびガイド763cを、順に外筒712やピストンロッド720に下側から上側に向けて上下方向に差し込む。そしていったんコイルスプリング740を縮めた状態にし、ばね受け部材763dを上下方向に直交する方向から差し込む。このとき切欠き部763hがあるため、切欠き部763hの箇所でばね受け部材763dの外周側から内周側へピストンロッド720を通し、差し込むことが可能である。そしてコイルスプリング740を伸ばし、ばね受け部材763dの内周側を車輪側連結部材761に嵌め込み、外周側をばね受け補助部材763bの拡管部763eの内側に嵌め込む。さらに突起部763iをばね受け補助部材763bの切欠き部763fに嵌め込む。
【0038】
信号線764は、荷重調整装置763のガイド763cの内部のコイル763jと接続し、コイル763jに発生する電流をリヤサスペンション22の外部へ取り出す。このときコイル763jと信号線764とは、突起部763gを介して電気的に接続する。例えば、信号線764を突起部763gの箇所を通して直接コイル763jに接続してもよく、また突起部763gの箇所をコネクタ(カプラ)とし、これを利用して信号線764を接続してもよい。この場合、信号線764側のコネクタを突起部763gのコネクタに対して下側から上側に差し込むことで接続する。
【0039】
つまり本実施形態では、ばね受け部材763dの切欠き部763hの箇所で空隙が生じることを利用し、この箇所に配線を施すことでコイル763jと信号線764とが電気的に接続する。この箇所を通さない場合、他の部材との干渉が生じやすく、コイル763jと信号線764とを電気的に接続するのは困難である。
【0040】
<リヤサスペンション22の動作の説明>
図5(a)及び(b)は、リヤサスペンション22の動作について説明した概略図である。
本実施形態のリヤサスペンション22では、第2油室Y2と連絡路Lとは、シリンダ711に設けられたシリンダ開口711Hを介して接続している。また連絡路Lは、減衰力発生装置753を介して第1油室Y1と接続している。また減衰力発生装置753とサブタンク部754の油留室754bとは接続している。
【0041】
このうち
図5(a)は、シリンダ711およびピストンロッド720が互いに接近する方向に移動する圧縮行程について図示している。
圧縮行程では、例えば、ピストンロッド720およびピストン730は、図中上側に移動する。このときピストン730が移動することにより、第1油室Y1のオイルは、矢印F1で示すように減衰力発生装置753に流入する。減衰力発生装置753では、圧縮チェック弁753bが開き、さらに圧縮減衰バルブ753aが開く。圧縮減衰バルブ753aは、略円盤状の金属板が複数重ねられて構成され、オイルは、この金属板を撓ませて開きながら圧縮減衰バルブ753aを通過する。そのため圧縮減衰バルブ753aにおいてオイルの流れを遮る抵抗が生じ、圧縮減衰力が発生する。圧縮チェック弁753bを通過したオイルは、連絡路Lに流入し、さらに矢印F2で示すようにシリンダ開口711Hを介して第2油室Y2に流入する。
【0042】
またこのとき第2油室Y2にピストンロッド720が入り込むことで、シリンダ711内の容積が減少し、そのためオイルに余剰が生じる。余剰分のオイルは、矢印F3で示すようにサブタンク部754の油留室754bに流入し、排出される。このときエア室754aからブラダ754cを介して加わる圧力に抗して、オイルは油留室754bに流入する。
【0043】
また
図5(b)は、シリンダ711およびピストンロッド720が互いに離間する方向に移動する伸張行程について図示している。
伸張行程では、例えば、ピストンロッド720およびピストン730は、図中下側に移動する。このときピストン730が移動することにより、第2油室Y2のオイルは、矢印F4で示すようにシリンダ開口711Hを介して連絡路Lに流入する。さらに連絡路Lのオイルは、矢印F5で示すように減衰力発生装置753に流入する。減衰力発生装置753では、伸張チェック弁753dが開き、さらに伸張減衰バルブ753cが開く。伸張減衰バルブ753cは、圧縮減衰バルブ753aと同様の構成を有する。そのため伸張減衰バルブ753cにおいてオイルの流れを遮る抵抗が生じ、伸張減衰力が発生する。伸張チェック弁753dを通過したオイルは、第1油室Y1に流入する。
【0044】
またこのとき第2油室Y2からピストンロッド720が退出することで、シリンダ711内の容積が増加し、そのためオイルに不足が生じる。不足分のオイルは、矢印F6で示すようにサブタンク部754の油留室754bから流入し、補填される。このときエア室754aからブラダ754cを介して加わる圧力により、オイルは油留室754bから排出される。
【0045】
<フロントフォーク21の構成・機能>
次に、フロントフォーク21について詳述する。
図6は、本発明の実施の形態に係るフロントフォーク21の断面図である。
本実施の形態に係るフロントフォーク21は、自動二輪車1の車両本体10と前輪2との間に配置されて前輪2を支えるとともに、後述するアウタ部材110が前輪2側にインナチューブ210が車両本体10側に配置された、所謂正立型のフロントフォークである。
【0046】
フロントフォーク21は、アウタ部材110を有して前輪2の車軸に取り付けられる車軸側ユニット100と、インナチューブ210を有して車両本体10に取り付けられる本体側ユニット200と、を備えている。また、フロントフォーク21は、車軸側ユニット100と本体側ユニット200との間に配置されて、路面の凸凹に伴い前輪2が受ける振動を吸収するスプリング500を備えている。
【0047】
アウタ部材110及びインナチューブ210は、同軸的に配置された円筒状の部材であり、この円筒の中心線の方向(軸方向)を、以下では「上下方向」と称し、車両本体10側を上側、前輪2側を下側と称する場合がある。そして、フロントフォーク21は、車軸側ユニット100と本体側ユニット200とが上下方向(軸方向)に相対的に移動することにより、前輪2を支持しながら路面の凸凹を吸収して振動を抑制する。
【0048】
[車軸側ユニット100の構成]
車軸側ユニット100は、前輪2の車軸に取り付けられるアウタ部材110と、オイルの粘性抵抗を利用した減衰力を発生する減衰力発生ユニット130と、減衰力発生ユニット130を保持するロッド150と、ロッド150の下端部を保持するロッド保持部材160とを備えている。
また、車軸側ユニット100は、ロッド保持部材160の後述する軸方向凹部161aに挿入された球状のボール166と、ボール166の移動を制限する制限部材167とを備えている。
また、車軸側ユニット100は、スプリング500の下端部を支持するスプリング支持部材170と、スプリング支持部材170を保持する支持部材保持部材180と、インナチューブ210の軸方向の移動を案内する案内部材190とを備えている。
【0049】
(アウタ部材110の構成)
アウタ部材110は、インナチューブ210が挿入される円筒状の円筒状部111と、前輪2の車軸を取り付け可能な車軸ブラケット部112とを有している。
円筒状部111は、上端部に、インナチューブ210の外周面との間をシールするオイルシール113と、インナチューブ210の外周面との摺動を円滑にするためのスライドブッシュ114とを有している。
車軸ブラケット部112には、ロッド保持部材160が挿入される軸方向の軸方向貫通孔112aと、軸方向に交差する方向に貫通して前輪2の車軸を取り付け可能な車軸取付孔112bと、が形成されている。
【0050】
(減衰力発生ユニット130の構成)
減衰力発生ユニット130は、後述するシリンダ230の内側の空間に形成された作動油室50内を区画するピストン131と、ピストン131の上端側に設けられた上端側バルブ136と、ピストン131の下端側に設けられた下端側バルブ137とを備えている。また、減衰力発生ユニット130は、ピストン131、上端側バルブ136及び下端側バルブ137などを支持するピストンボルト140と、ピストンボルト140に締め付けられてピストン131、上端側バルブ136及び下端側バルブ137などの位置を定めるナット145とを備えている。
【0051】
ピストン131は、円筒状の部材であって、外周面に、シリンダ230との間の隙間をシールするシール部材を有している。ピストン131には、軸方向の貫通孔である第1貫通孔132及び第2貫通孔133が形成されている。また、ピストン131には、上端部にて径方向に延びて形成されると共に第1貫通孔132に連通する第1径方向連通路134と、下端部にて径方向に延びて形成されると共に第2貫通孔133に連通する第2径方向連通路135とが形成される。第1貫通孔132及び第2貫通孔133は、それぞれ周方向に等間隔に複数(例えば3つ)形成されており、第1径方向連通路134,第2径方向連通路135は、それぞれ第1貫通孔132,第2貫通孔133に対応する位置に形成されている。
【0052】
上端側バルブ136は、円盤状の金属板が複数重ねられて構成される。上端側バルブ136は、それぞれの金属板の中央に貫通孔が形成され、その貫通孔にピストンボルト140の後述する軸部141が通されている。そして、上端側バルブ136は、第2貫通孔133を塞ぎ、かつ第1貫通孔132を開放する。
【0053】
下端側バルブ137は、円盤状の金属板が複数重ねられて構成される。下端側バルブ137は、それぞれの金属板の中央に貫通孔が形成され、その貫通孔にピストンボルト140の後述する軸部141が通されている。そして、下端側バルブ137は、第1貫通孔132を塞ぎ、かつ第2貫通孔133を開放する。
【0054】
ピストンボルト140は、上端側に設けられた円柱状の軸部141と、下端側に設けられるとともに軸部141の半径よりも大きな半径の円柱状の基部142とを有する。ピストンボルト140には、基部142の下端面から軸部141にかけて凹んだ凹部143が形成されている。
【0055】
軸部141の上端部には、ナット145に形成された雌ねじに締め付けられる雄ねじが形成されている。
凹部143における下端部の内周面には、ロッド150における上端部に形成された雄ねじが締め付けられる雌ねじが形成されている。また、凹部143における上端部には、軸部141の外側と凹部143とを連通するように径方向に貫通された径方向貫通孔144が形成されている。
【0056】
ナット145には、上端部に、ピストンボルト140の雄ねじが締め付けられる雌ねじ146が形成され、雌ねじ146よりも下方には、下端面から凹むとともに雌ねじ146の谷の半径よりも大きな半径の円柱状の凹部147が形成されている。また、ナット145には、ナット145の外部と凹部147とを連通するように径方向に貫通された径方向貫通孔148が形成されている。
【0057】
以上のように構成された減衰力発生ユニット130は、ピストンボルト140の凹部143に形成された雌ねじにロッド150の上端部に形成された雄ねじが締め付けられることでロッド150に保持される。そして、ピストン131が、その外周面に設けられたシール部材を介してシリンダ230の内周面に接触し、シリンダ230内の空間を、ピストン131よりも上方の第1油室51と、ピストンよりも下方の第2油室52とに区画する。
【0058】
(ロッド150の構成)
ロッド150は、円筒状の部材であり、上端部及び下端部における外周面には雄ねじが形成されている。上端部に形成された雄ねじは、減衰力発生ユニット130のピストンボルト140に締め付けられ、下端部に形成された雄ねじは、ロッド保持部材160の上端側円柱状部161に形成された雌ねじ161dに締め付けられる。また、下端部に形成された雄ねじにロックナット155が締め付けられることでロッド保持部材160に固定される。
また、ロッド150の下端部の内周面には雌ねじが形成されている。
【0059】
(ロッド保持部材160の構成)
ロッド保持部材160は、それぞれ径が異なる複数の円柱状の部位を有する部材であり、上端部にある上端側円柱状部161と、下端部にある下端側円柱状部162と、上端側円柱状部161と下端側円柱状部162との間にある中間円柱状部163とを有している。
【0060】
上端側円柱状部161には、上端面から軸方向に凹んだ軸方向凹部161aと、外周面から径方向に全周に渡って凹んだ径方向凹部161bと、軸方向凹部161aと径方向凹部161bとを径方向に貫通する径方向貫通孔161cとが形成されている。
軸方向凹部161aには、ロッド150の下端部に形成された雄ねじが締め付けられる雌ねじ161dが形成されている。また、軸方向凹部161aには、内径が下方に行くに従って徐々に小さくなるように軸方向に対して傾斜した傾斜面161eが形成されている。
また、上端側円柱状部161における下端部には、支持部材保持部材180に形成された後述する雌ねじが締め付けられる雄ねじ161fが形成されている。
【0061】
中間円柱状部163の径は、アウタ部材110に形成された軸方向貫通孔112aの内径よりも小さく、中間円柱状部163は、アウタ部材110の軸方向貫通孔112aに嵌め込まれている。
下端側円柱状部162の外周面には雄ねじ162aが形成されている。
ロッド保持部材160は、下端側円柱状部162に形成された雄ねじ162aがアウタ部材110の軸方向貫通孔112aに挿入されたナット165に締め付けられることで、アウタ部材110に固定される。
【0062】
(制限部材167の構成)
制限部材167は、段付き円筒状の部材である。そして、制限部材167の上端部の外周面には雄ねじが形成されている。制限部材167は、この雄ねじが、ロッド150の下端部の内周面に形成された雌ねじに締め付けられることで、ロッド150に固定される。そして、制限部材167は、下端部にて、ロッド保持部材160の軸方向凹部161a内に挿入されたボール166の移動を制限する。
【0063】
(スプリング支持部材170の構成)
スプリング支持部材170は、円筒状の部材であり、支持部材保持部材180における上端部に固定される。固定方法としては、溶接や圧入であることを例示することができる。
【0064】
(支持部材保持部材180の構成)
支持部材保持部材180は、円筒状の部材であり、下端部にはロッド保持部材160に形成された雄ねじ162aが締め付けられる雌ねじ181が形成されている。支持部材保持部材180は、雌ねじ181がロッド保持部材160に形成された雄ねじ162aに締め付けられることで、ロッド保持部材160に固定される。
支持部材保持部材180には、軸方向の位置においてロッド保持部材160の径方向凹部161bに対応する位置に、内外を連通する連通孔182が形成されている。
【0065】
(案内部材190の構成)
案内部材190は、円筒状の円筒状部191と、円筒状部191における下端部から半径方向の内側に向かうように形成された内向部192とを有している。
案内部材190は、内向部192がロッド保持部材160とアウタ部材110との間に挟み込まれることによって、ロッド保持部材160とアウタ部材110との間に固定される。
そして、内向部192における下端部には面取りが形成されており、この面取りとロッド保持部材160との間に形成された空間にOリング195が嵌め込まれる。Oリング195は、案内部材190、ロッド保持部材160及びアウタ部材110間の隙間をシールする。これにより、アウタ部材110の円筒状部111の内部空間が液密に保持される。
【0066】
以上のように構成された車軸側ユニット100においては、アウタ部材110の内周面と、ロッド150や支持部材保持部材180の外周面との間には、フロントフォーク21内に密封されたオイルを貯留するリザーバ室40が形成される。
【0067】
[本体側ユニット200の構成]
本体側ユニット200は、両端が開口した円筒状のインナチューブ210と、インナチューブ210における上端部に取り付けられたキャップ220と、を備えている。
また、本体側ユニット200は、円筒状のシリンダ230と、シリンダ230における下端部に取り付けられてシリンダ230内の空間を密封する密封部材240とを備えている。
また、本体側ユニット200は、スプリング500の上端部を支持するとともにスプリング500の長さを変更するスプリング長変更ユニット250と、シリンダ230における上端部に取り付けられて作動流体の一例としてのオイルの流路を切り替える流路切替ユニット300とを備えている。
【0068】
(インナチューブ210の構成)
インナチューブ210は、円筒状の部材である。
インナチューブ210は、下端部に、アウタ部材110の円筒状部111の内周面との摺動を円滑にするための円筒状のスライドブッシュ211と、スプリング支持部材170やアウタ部材110の車軸ブラケット部112に突き当たることにより軸方向の移動を抑制する円筒状の移動抑制部材212とを備えている。
インナチューブ210における上端部には、キャップ220に形成された後述する雄ねじが締め付けられる雌ねじ213が形成されている。
【0069】
(キャップ220の構成)
キャップ220は略円筒状の部材である。キャップ220の外周面には、インナチューブ210に形成された雌ねじ213に締め付けられる雄ねじ221が形成され、内周面には、スプリング長変更ユニット250や流路切替ユニット300に形成された雄ねじが締め付けられる雌ねじが形成されている。そして、キャップ220は、インナチューブ210に取り付けられるとともに、スプリング長変更ユニット250や流路切替ユニット300を保持する。
また、キャップ220は、インナチューブ210の内部空間を液密に保つためのOリング222を有している。
【0070】
(シリンダ230の構成)
シリンダ230は円筒状の部材である。シリンダ230における上端部の外周面には、流路切替ユニット300に形成された雄ねじが締め付けられる雌ねじが形成され、下端部の内周面には、密封部材240に形成された雄ねじが締め付けられる雌ねじが形成されている。
【0071】
(密封部材240の構成)
密封部材240は円筒状の部材である。密封部材240の外周面には、シリンダ230の下端部の内周面に形成された雌ねじに締め付けられる雄ねじが形成されている。密封部材240は、雄ねじがシリンダ230の下端部の内周面に形成された雌ねじに締め付けられることでシリンダ230に保持される。
【0072】
密封部材240は、内周側に、ロッド150の外周面との摺動を円滑にするためのスライドブッシュ245を有している。また、密封部材240は、シリンダ230の内部空間を液密に保つために、ロッド150の外周面との間に配置されたOリング246とシリンダ230の内周面との間に配置されたOリング247とを有している。
また、密封部材240の上端部には、減衰力発生ユニット130との接触の際の衝撃を緩和する衝撃緩和部材248が取り付けられている。衝撃緩和部材248は、樹脂やゴムなどの弾性部材であることを例示することができる。
【0073】
(スプリング長変更ユニット250の構成)
スプリング長変更ユニット250は、キャップ220に固定されたベース部材260と、スプリング500の上端部を支持するとともにベース部材260に対して軸方向に相対移動することでスプリング500の長さを変更する上端部支持部材270とを備えている。上端部支持部材270は、アルミニウム等の導体からなる。上端部支持部材270は、管状に形成されて後輪3側に位置すると共にベース部材260に接続し、ベース部材260の上下方向においてベース部材260に対して相対的に移動する車輪側部材として機能する。
【0074】
ベース部材260は、略円筒状の部材である。ベース部材260における上端部の外周面には、キャップ220に形成された雌ねじに締め付けられる雄ねじ260aが形成されている。この雄ねじ260aがキャップ220に形成された雌ねじに締め付けられることで、ベース部材260は、キャップ220に固定される。ベース部材260は、管状に形成され車体側に位置する車体側部材として機能する。またベース部材260は、詳しくは後述するが、ストロークセンサシステムを構成するコイル260cを内部にモールドしている。
ただし、ベース部材260の上端部は、周方向の一部が径方向に突出した突出部260bが形成されており、突出部260bの内側に、シリンダ230内のオイルをリザーバ室40へ排出する排出流路41を形成する。
【0075】
ベース部材260は、下端部に、外周に嵌め込まれて、上端部支持部材270の内周面との摺動を円滑にする円筒状のスライドブッシュ261と、スライドブッシュ261の内側に設けられたOリング262とを有している。ベース部材260の内周面とシリンダ230の外周面との間には、環状の環状流路61が形成される。
【0076】
上端部支持部材270は、円筒状の円筒状部271と、円筒状部271における下端部から半径方向の内側に向かうように形成された内向部272とを有している。上端部支持部材270は、シリンダ230の外周面及びベース部材260の下端部との間の空間に、ベース部材260に対する上端部支持部材270の位置を変更するオイルを収容するジャッキ室60を形成する。
【0077】
円筒状部271の内径は、ベース部材260に嵌め込まれたスライドブッシュ261の外径以下に設定されている。円筒状部271には、この円筒状部271の内外を連通するように径方向に貫通した径方向貫通孔273が形成されている。この径方向貫通孔273を介してオイルがジャッキ室60からリザーバ室40へ排出されることにより、ベース部材260に対する上端部支持部材270の移動量が制限される。
【0078】
内向部272は、内周側に、シリンダ230の外周面との間の隙間をシールすることによりジャッキ室60を液密に保つOリング274を有している。
ジャッキ室60へは、ベース部材260の内周面とシリンダ230の外周面との間に形成された環状流路61を介してシリンダ230内のオイルが供給される。
【0079】
(流路切替ユニット300の構成)
流路切替ユニット300は、ソレノイド310のコイル311への通電状態を変化させることで、後述するフロントフォーク21の圧縮行程時において、オイルの流路を第1切替状態、第2切替状態、および第3切替状態の何れかに切り替える。このうち第1切替状態では、オイルは、第1油室51から流出し、流路切替ユニット300を経由して排出流路41を通り、リザーバ室40に流入する。また第2切替状態では、オイルは、第1油室51から流出し、第1油室51から流路切替ユニット300を経由して環状流路61を通り、ジャッキ室60へに流入する。さらに第3切替状態では、オイルは、ジャッキ室60から流出し、流路切替ユニット300を経由して排出流路41を通り、リザーバ室40に流入する。
【0080】
<フロントフォーク21の作用>
以上のように構成されたフロントフォーク21は、スプリング500が自動二輪車1の車重を支えて衝撃を吸収し、減衰力発生ユニット130がスプリング500の振動を減衰する。
図7は、フロントフォーク21の圧縮行程時の作用を説明するための図である。
フロントフォーク21の圧縮行程においては、減衰力発生ユニット130のピストン131が、白抜き矢印のようにシリンダ230に対して上方へ移動し、ピストン131の移動で第1油室51内のオイルは押されて圧力が上昇する。その結果、第1貫通孔132を塞ぐ下端側バルブ137が開き、オイルは第1貫通孔132を通って第2油室52に流入する(矢印C1参照)。この第1油室51から第2油室52へのオイルの流れは、第1貫通孔132及び下端側バルブ137で絞られ、圧縮行程時における減衰力を得る。
【0081】
また、圧縮行程時にシリンダ230内部へロッド150が進入したことに起因して、ロッド進入体積分のオイルが、流路切替ユニット300の切替状態に応じて、ジャッキ室60又はリザーバ室40へ供給される(矢印C2参照)。なお、減衰力発生ユニット130、ロッド150及びシリンダ230などは、シリンダ230内のオイルをジャッキ室60又はリザーバ室40へ供給するポンプとして機能する。以下では、このポンプを「ポンプP」と称す場合もある。
【0082】
図8は、フロントフォーク21の伸張行程時の作用を説明するための図である。
フロントフォーク21の伸張行程においては、減衰力発生ユニット130のピストン131が、白抜き矢印のようにシリンダ230に対して下方へ移動し、ピストン131の移動で第2油室52内のオイルは押されて圧力が上昇する。その結果、第2貫通孔133を塞ぐ上端側バルブ136が開き、オイルは第2貫通孔133を通って第1油室51に流入する(矢印T1参照)。この第2油室52から第1油室51へのオイルの流れは、第1貫通孔132及び上端側バルブ136で絞られ、伸張行程時における減衰力を得る。
【0083】
また、伸張行程時にシリンダ230内部からロッド150が退出したことに起因して、ロッド退出体積分のオイルが、リザーバ室40から第1油室51へ供給される。つまり、ピストン131が下方へ移動したことに起因して低圧となった第1油室51へ、リザーバ室40のオイルが進入する。つまり、リザーバ室40のオイルは、支持部材保持部材180の連通孔182、ロッド保持部材160の径方向貫通孔161cを通ってロッド保持部材160の軸方向凹部161aに進入した後にボール166を上方へ移動させてロッド150内部へ進入する(矢印T2参照)。そして、ロッド150内部へ進入したオイルは、ピストンボルト140の凹部143、径方向貫通孔144、ナット145の径方向貫通孔148を通って第1油室51へ至る(矢印T3参照)。
【0084】
このように、支持部材保持部材180の連通孔182、ロッド保持部材160の径方向貫通孔161c、ロッド保持部材160の軸方向凹部161a、ロッド150内部、ピストンボルト140の凹部143,径方向貫通孔144、ナット145の径方向貫通孔148は、リザーバ室40からシリンダ230内(第1油室51)へオイルを吸入する吸入路として機能する。また、ボール166及びロッド保持部材160の軸方向凹部161aに形成された傾斜面161eは、リザーバ室40からロッド150内部へのオイルの流入を許容するとともにロッド150内部からリザーバ室40へのオイルの排出を抑制するチェック弁として機能する。以下では、ボール166及び傾斜面161eを、「吸入側チェック弁Vc」と称す。
【0085】
<車高の昇降について>
以上述べたように作用するフロントフォーク21において、流路切替ユニット300が第2切替状態である場合、圧縮行程時に、ポンプPから吐出されたオイルがジャッキ室60に流入し、ジャッキ室60内のオイル量が増す。そして、ジャッキ室60内のオイル量が増すことによってスプリング長変更ユニット250のベース部材260に対して上端部支持部材270が下方へ移動する。上端部支持部材270がベース部材260に対して下方へ移動することでスプリング500のバネ長が短くなると、上端部支持部材270がベース部材260に対して移動する前と比べてスプリング500が上端部支持部材270を押すバネ力が大きくなる。その結果、車体フレーム11から前輪2側へ力が作用したとしても両者の相対位置を変化させない初期セット荷重が切り替わる。かかる場合、車体フレーム11(シート19)側から軸方向に同じ力が作用した場合には、フロントフォーク21の沈み込み量が小さくなる。それゆえ、上端部支持部材270がベース部材260に対して移動することでスプリング500のバネ長が短くなると、上端部支持部材270がベース部材260に対して移動する前と比べて、シート19の高さが上昇する(車高が高くなる)。
【0086】
他方、流路切替ユニット300が第3切替状態である場合、ジャッキ室60内のオイル量が減少することによってスプリング長変更ユニット250のベース部材260に対して上端部支持部材270が上方へ移動する。上端部支持部材270がベース部材260に対して上方に移動することでスプリング500のバネ長が長くなると、上端部支持部材270がベース部材260に対して移動する前と比べてスプリング500が上端部支持部材270を押すバネ力が小さくなる。かかる場合、初期セット荷重が小さくなり、車体フレーム11(シート19)側から軸方向に同じ力が作用した場合のフロントフォーク21の沈み込み量が大きくなる。それゆえ、上端部支持部材270がベース部材260に対して上方に移動することでスプリング500のバネ長が長くなると、上端部支持部材270がベース部材260に対して移動する前と比べて、シート19の高さが下降する(車高が低くなる)。
【0087】
なお、流路切替ユニット300が第1切替状態である場合、圧縮行程時にポンプPから吐出されたオイルはリザーバ室40に流入するので、ジャッキ室60内のオイル量は増減しない。それゆえ、シート19の高さが維持される(車高が維持される)。
【0088】
<ストロークセンサシステムの説明>
また本実施形態の自動二輪車1では、リヤサスペンション22のストローク量を検知する。ストローク量を検知することでリヤサスペンション22の動作状態を把握することができる。またストローク量を微分したストローク速度を利用することもできる。またフロントフォーク21におけるスプリング長変更ユニット250のストローク量を検知する。
本実施形態では、リヤサスペンション22やスプリング長変更ユニット250のストローク量を検知するためにストロークセンサシステムを具備している。
【0089】
図9は、本実施形態のストロークセンサシステムの構成について説明したブロック図である。
図示するストロークセンサシステム770は、上述したコイル763j(コイル260c)と、外筒712(上端部支持部材270)とガイド763c(ベース部材260)とが相対的に移動するときの移動量を求める移動量導出部771とを備える。
【0090】
移動量導出部771は、発振回路部771aと、A/D変換部771bと、分周部771cと、選択部771dと、カウンタ部771eと、移動量決定部771fとを備える。移動量導出部771は、例えば制御装置20であり、ECU(Electronic Control Unit)等により実現される。
【0091】
発振回路部771aは、詳しくは後述するが、コイル763j(コイル260c)と電気的に接続し、LC発振回路を構成するコンデンサを備える。そしてこのLC発振回路から所定の共振周波数の交流電流を出力する。本実施形態では、この共振周波数が、リヤサスペンション22や上端部支持部材270のストローク量により変化する。
【0092】
図10は、本実施形態のリヤサスペンション22またはスプリング長変更ユニット250のストローク量と共振周波数との関係について説明した図である。
図示する例では、円筒状の導体TとコイルLとが、嵌合し、その嵌合長(重なり長さ)がKである場合を示している。この場合、導体Tは、上述した例では、アルミニウムで作成される外筒712(上端部支持部材270)に対応する。またコイルLは、コイル763j(コイル260c)に対応する。そして嵌合長Kは、外筒712(上端部支持部材270)とコイル763j(コイル260c)の上下方向における重なり長さに対応する。なお導体TとコイルLとの内外の関係および外筒712とコイル763jとの内外の関係は、
図3および
図10に示すように逆の関係にあるが、この違いは、以下の説明において影響を及ぼさない。
【0093】
嵌合長Kは、リヤサスペンション22やスプリング長変更ユニット250のストローク量に従い変化する。リヤサスペンション22やスプリング長変更ユニット250が伸びると嵌合長Kはより小さくなり、リヤサスペンション22やスプリング長変更ユニット250が縮むと嵌合長Kはより大きくなる。
【0094】
このときコイルLに交流電流を流すと、磁界の変動を打ち消すように導体T内に渦電流Iが生じる。そして渦電流Iが生じるとその作用によりコイルL周囲にできる磁界が小さくなる。つまり渦電流IによりコイルLのインダクタンスが見かけ上小さくなる。嵌合長Kが小さいとき(リヤサスペンション22やスプリング長変更ユニット250が伸びたとき)は、渦電流Iによる影響が小さいため、インダクタンスはより大きくなる。対して嵌合長Kが大きいとき(リヤサスペンション22やスプリング長変更ユニット250が縮んだとき)は、渦電流Iによる影響が大きいため、インダクタンスはより小さくなる。
【0095】
LC発振回路の共振周波数は、コイルLのインダクタンスにより変化する。具体的には、共振周波数f
0、コイルのインダクタンスL、コンデンサの電気容量Cの間の関係は、f
0=1/(2π√(LC))となる。つまりコイルLのインダクタンスが大きいと、共振周波数は小さくなる。対してコイルLのインダクタンスが小さいと、共振周波数は大きくなる。よって共振周波数からリヤサスペンション22やスプリング長変更ユニット250のストローク量を求めることができる。
本実施形態の共振周波数は、例えば、30kHz(リヤサスペンション22やスプリング長変更ユニット250が最大長のとき)〜60kHz(リヤサスペンション22やスプリング長変更ユニット250が最小長のとき)となり、最大の共振周波数が最小の共振周波数の2倍程度になるようにしている。
【0096】
図9に戻り、A/D変換部771bは、発振回路部771aから出力される発振波形を整形し、アナログ信号からデジタル信号に変換した整形波形とする。A/D変換部771bは、アナログ信号を1bitのデジタル信号に変換するコンパレータである。
分周部771cは、A/D変換部771bでデジタル化した信号を分周し、分周波形とする。
【0097】
図11(a)は、発振回路部771aから出力される発振波形について示した図である。また
図11(b)は、A/D変換部771bにより整形された整形波形について示した図である。さらに
図11(c)は、分周部771cにより分周した分周波形について示した図である。
【0098】
図11(b)に示すように、整形波形は、周波数は発振波形と同一であるが、正弦波から矩形波に整形されている。また
図11(c)に示すように、分周波形は、波形は矩形波のままであるが、周波数が分周により小さくなっている。
【0099】
分周部771cでは、例えば、4通りの分周比で分周を行い、出力する。分周比は、例えば、2
n(nは整数)となり、1〜4096の中から選択する。本実施形態では、分周比として32(=2
5)、64(=2
6)、128(=2
7)、256(=2
8)を選択する。
A/D変換部771bおよび分周部771cとして、例えは、バイナリカウンタを用いることができる。
【0100】
選択部771dは、分周部771cにより出力された分周波形の中から1つを選択する。
選択部771dが分周波形を選択することで、発振回路部771aから出力される発振波形の周波数の変動が大きく、ダイナミックレンジが広い場合でも、分周波形の周波数を比較的狭い範囲内に収めることができる。
【0101】
またストロークセンサの応答性が変化しにくくなる。つまり周波数がより大きい場合は、後述するカウンタ部771eでの周期の測定を行う回数が増加し、周波数がより小さい場合は、カウンタ部771eでの周期の測定を行う回数が減少する。そのため後述する移動量決定部771fで出力されるストローク量の回数が多くなったり少なくなったりし、その結果、ストロークセンサとしての応答性が変化する。選択部771dが分周波形を選択することでこの変化をより小さくすることができる。実際には、分周波形の周期について予め定められた閾値を設け、この閾値を基に選択部771dが分周波形を選択する。
実用上は、分周波形の周波数が、300Hz〜2000Hz程度の範囲に収まることが好ましい。
選択部771dとして、例えは、マルチプレクサを用いることができる。
【0102】
カウンタ部771eは、選択部771dで選択した分周波形のエッジ間隔を、水晶振動子等を用いたカウンタによりカウントし、周期を測定する。このエッジ間隔は、例えば、
図11(c)のE1で示した分周波形の1周期の間隔とすることができる。なおこれに限られるものではなく、例えば、E2で示した分周波形の半周期の間隔としてもよい。
【0103】
移動量決定部771fは、カウンタ部771eによるカウント値からリヤサスペンション22やスプリング長変更ユニット250のストローク量を決定する。ストローク量は、例えば、所定の算出式を用意し、この算出式にカウント値を入力することにより求めることができる。またはカウント値とストローク量との対応を示すマップに、カウント値を代入することによりストローク量を決定してもよい。
【0104】
しかしながら発振回路部771aで使用するLC発振回路として従来のものを使用した場合、ノイズの影響を受けやすい問題がある。
図12は、従来のLC発振回路を使用した場合のノイズの影響について説明した図である。
図12では、リヤサスペンション22を縮めた状態から一定速度で伸ばしたときに、カウンタ部771eから出力されるカウント値について示している。ここで横軸は、時間を表し、縦軸は、カウンタ部771eでカウントされたカウント値を表す。なおLC発振回路としては、既存のフランクリン発振器を用いている。なお以後、リヤサスペンション22の場合について説明を行うが、フロントフォーク21についても同様のことが言える。
【0105】
ここで実線は、時間に対するカウント値の変化を表す。図示するようにカウント値は、時間の経過に伴い減少する。またここではこのときに検出されたノイズを併せて図示している。つまり時間に対するノイズの変化を併せて図示している。実線には現れていないが、カウント値は上下に変動しつつ減少していく。この変動は、ノイズにより生じるものである。よってノイズは、この変動量として表すことができる。この場合、図示するようにノイズは、規則性のあるジッタピークを描き、時間の経過とともに強いときと、弱いときを交互に繰り返す。
【0106】
ここで挙げたノイズは、モータやソレノイドを駆動する際に使用するPWM(pulse width modulation)信号が原因となり発生するものである。このPWM信号を流す信号線は、信号線764とともに束ねられ、ハーネスとなっている。そのためこれが原因で、信号線764からノイズが侵入する。このノイズは通常は同相ノイズである。
【0107】
カウント値は、時間の経過に伴い減少していくが、矢印Mで示したカウント値が約32000の辺りで、カウンタ値が一定となる。即ち、カウンタ値が一定値に張り付く現象が生じる。この領域は、図示するようにノイズが特に大きくなるときであり、分周波形よりもノイズが支配的になるためと考えられる。
【0108】
これは発振周波数にした場合、約80Hzである。この周波数は、PWM信号の周波数(20kHz)の4倍である。よってノイズは、PWM信号の4倍高調波であると考えられる。つまり従来のLC発振回路は、PWM信号の周波数、またはその高調波の周波数の領域の影響を受けやすい。
【0109】
ノイズが発振回路部771aを実装する基板内から発生するノイズであれば、回路構成と回路パターンの適正化で対応が可能である。しかしコイル763jと発振回路部771aとの間の信号線764から侵入するノイズについては、対策が困難である。信号線764をPWM信号の配線から十分な距離をとればノイズの侵入は小さくなるが、通常は、ハーネスとして共に束ねるものであり、別々にした場合、車体の設計の自由度が低下し、商品価値が低下する場合もある。
【0110】
また信号線764としてシールド線を使用すれば、ある程度ノイズの侵入を防止できる。ただしシールド線導入によるコスト上昇に伴う効果は得られない。さらにローパスフィルタを使用する方法もあるが、ストロークセンサシステムの分解能が低下し、ストロークセンサシステムの性能が大幅にダウンする。
【0111】
従来の一般的なLC発振回路では、コイルLの両極は、非平衡(非対称)でインピーダンスの差がある。
図13(a)及び(b)は、従来のLC発振回路についてインピーダンスの差を示した図である。
図13(a)は、インバータを使用するタイプのコルピッツ発振器であり、
図13(b)は、インバータを使用するタイプのフランクリン発振器である。両者ともコイルLの両極が高インピーダンス側および低インピーダンス側になっている。このようにコイルLの両極にインピーダンス差があった場合、ノイズがコイルLの両極に平等に作用せず、ノイズの影響を受けやすい回路構成である。
【0112】
そこで本実施形態では、LC発振回路を平衡回路とすることで、ノイズ耐性を向上させている。
図14(a)及び(b)は、本実施形態で使用するLC発振回路の例について示した図である。
図14(a)に示したLC発振回路は、コイルLと電気的に接続し、LC共振部を構成する偶数個のコンデンサC1、C2と、外筒712とガイド763cとが相対的に移動することでLC共振部により出力された発振波形を励起するための偶数個の励起部の一例であるコンパレータH1、H2とを備える。コンデンサC1とC2とは同じ電気容量を有し、コンパレータH1とコンパレータH2とは同じものである。そして偶数個のコンデンサC1、C2および偶数個のコンパレータH1、H2は、同数ずつ(この場合、1個ずつ)に分かれて平衡回路を構成する。この場合、コイルLの両極は、電気的に同等となり、コイルLの両極のインピーダンスが同じとなる。その結果、ノイズがコイルLの両極に平等に作用し、ノイズの影響を受けにくい回路構成となる。
【0113】
またこのLC共振回路では、コンパレータH1、H2を用いることで、コイルLの両側電位の差動比較により発振波形を出力する。このような差動回路とすることで、ノイズが同相ノイズであった場合にノイズを打ち消すことが可能となる。即ち、同相ノイズに対する耐性が向上する。
【0114】
図14(b)に示したLC発振回路は、偶数個のコンデンサC1、C2と、偶数個の励起部の一例であるインバータN1、N2とを備える。コンデンサC1とC2とは同じ電気容量を有し、インバータN1とインバータN2とは同じものである。そして偶数個のコンデンサC1、C2および偶数個のインバータN1、N2は、同数ずつ(この場合、1個ずつ)に分かれて平衡回路を構成する。なおこのLC共振回路では、差動比較による出力は行わない。
【0115】
またこれらのLC発振回路は、コンデンサC1とコンデンサC2とを直列に結ぶ配線S1をさらに備え、配線S1が接地する。これは同数ずつに分かれたコンデンサの中点を接地すると言い換えることもできる。なお配線S1を接地せず、電源+側の低インピーダンスラインに接続してもよい。
【0116】
さらにこれらのLC発振回路は、配線S1にバイパスコンデンサC3をさらに備える。図示する例では、バイパスコンデンサC3の図中下側を接地側とし、図中上側を電源側としている。なお上述した配線S1を接地せず、電源+側の低インピーダンスラインに接続したときは、図中上側を接地とする。バイパスコンデンサC3を設けることにより、ノイズを接地側に逃がし、ノイズが励起部へ伝わらないようにフィルタリングすることができる。
【0117】
またこれらのLC発振回路は、コンデンサC1、C2と並列に接続するツェナーダイオードD1、D2をさらに備える。この場合、ツェナーダイオードD1、D2のアノード側を接地側とする。ツェナーダイオードD1、D2を設けることにより、静電気や電磁ノイズが侵入したときに、これらを接地側に逃がすことができ、静電気や電磁ノイズに対する耐性が向上する。
【0118】
図15及び
図16は、本実施形態のLC発振回路を使用した場合のノイズの影響について説明した図である。このうち
図15は、
図14(a)に示したLC発振回路を使用した場合を示し、
図16は、
図14(b)に示したLC発振回路を使用した場合を示す。
【0119】
図15及び
図16は、
図12の場合と同様に、リヤサスペンション22を縮めた状態から一定速度で伸ばしたときに、カウンタ部771eから出力されるカウント値について示している。横軸は、時間を表し、縦軸は、カウンタ部771eでカウントされたカウント値を表す。
実線は、時間に対するカウント値の変化を表す。またここではこのときに検出されたノイズを併せて図示している。
【0120】
図15及び
図16で示すように、カウント値は、時間の経過に伴い減少していく。そして
図12で見られたような途中でカウンタ値が一定となる現象が生じることはない。またノイズについてもほとんど生じていないことがわかる。
【0121】
またノイズは、PWM信号によるものとは限られない。
図17(a)及び(b)は、エンジン13の点火ノイズに対する影響について示した図である。
ここでは、エンジン13の点火プラグに高電圧の点火電流を供給するハイテンションコードに信号線764を3回巻回させ、信号線764に点火ノイズを侵入させやすくした状況を設定した。そして従来のLC発振回路と、本実施形態のLC発振回路とで、検出されるノイズを比較した。
【0122】
図17(a)は、従来のLC発振回路を使用した場合の点火ノイズの影響について説明した図である。また
図17(b)は、本実施形態のLC発振回路を使用した場合の点火ノイズの影響について説明した図である。
図17(a)に示すように、従来のLC発振回路では、点火ノイズの影響を受け、LC発振回路に多くのノイズが発生している。対して本実施形態のLC発振回路では、点火ノイズの影響をほとんど受けず、LC発振回路に発生するノイズはほとんどない。
【0123】
また以上詳述したLC発振回路は、ストロークセンサシステム770に適用していたが、これに限られるものではなく、同調回路、信号発信回路等に使用するなど他にも適用できることはもちろんである。