特許第6294872号(P6294872)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6294872脳動脈瘤の形成および/または増大の抑制若しくは縮小用医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294872
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】脳動脈瘤の形成および/または増大の抑制若しくは縮小用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4245 20060101AFI20180305BHJP
   A61K 31/397 20060101ALI20180305BHJP
   A61K 31/453 20060101ALI20180305BHJP
   A61K 31/137 20060101ALI20180305BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180305BHJP
   A61P 9/14 20060101ALI20180305BHJP
   C07D 413/04 20060101ALI20180305BHJP
   C07D 405/06 20060101ALI20180305BHJP
   C07C 321/24 20060101ALI20180305BHJP
   C07D 205/04 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   A61K31/4245
   A61K31/397
   A61K31/453
   A61K31/137
   A61P43/00 111
   A61P9/14
   C07D413/04
   C07D405/06
   C07C321/24
   C07D205/04
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-513775(P2015-513775)
(86)(22)【出願日】2014年4月22日
(86)【国際出願番号】JP2014061335
(87)【国際公開番号】WO2014175287
(87)【国際公開日】20141030
【審査請求日】2017年1月31日
(31)【優先権主張番号】特願2013-93747(P2013-93747)
(32)【優先日】2013年4月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000006677
【氏名又は名称】アステラス製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100152319
【弁理士】
【氏名又は名称】曽我 亜紀
(72)【発明者】
【氏名】青木 友浩
(72)【発明者】
【氏名】荒森 一朗
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 潤
(72)【発明者】
【氏名】山本 梨絵
【審査官】 菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−107955(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/116866(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/064707(WO,A1)
【文献】 特表2007−503468(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/007565(WO,A1)
【文献】 特表2010−518848(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/022281(WO,A1)
【文献】 特表2007−523858(JP,A)
【文献】 OMORI, K. et al., Am. J. Physiol. Cell Physiol., 2007, Vol.293,pp.C1523-C1531
【文献】 信州医学雑誌,2009,Vol.57, No.4, pp.127-136
【文献】 The American Journal of Pathology, 2012, Vol.181,No.2, pp.706-718
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/4245
A61K 31/137
A61K 31/397
A61K 31/453
A61P 9/14
A61P 43/00
C07C 321/24
C07D 205/04
C07D 405/06
C07D 413/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スフィンゴシン 1-リン酸受容体1アゴニストとして、5-{5-[3-(トリフルオロメチル)-4-{[(2S)-1,1,1-トリフルオロプロパン-2-イル]オキシ}フェニル]-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル}-1H-ベンズイミダゾールまたはその製薬学的に許容される塩、1-[(7-{[4-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)-3-(トリフルオロメチル)ベンジル]オキシ}-2H-クロメン-3-イル)メチル]ピペリジン-4-カルボン酸またはその製薬学的に許容される塩、2-アミノ-2-[2-[4-[3-(ベンジルオキシ)フェニルスルファニル]-2-クロロフェニル]エチル]プロパン-1,3-ジオールまたはその製薬学的に許容される塩、及び、1-[4-[N-[4-シクロヘキシル-3-(トリフルオロメチル)ベンジルオキシ]-1(E)-イミノエチル]-2-エチルベンジル]アゼチジン-3-カルボン酸またはその製薬学的に許容される塩から選択される化合物を含む嚢状脳動脈瘤の形成および/または増大の抑制若しくは縮小
【請求項2】
スフィンゴシン 1-リン酸受容体1アゴニストが、5-{5-[3-(トリフルオロメチル)-4-{[(2S)-1,1,1-トリフルオロプロパン-2-イル]オキシ}フェニル]-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル}-1H-ベンズイミダゾールまたはその製薬学的に許容される塩である、請求項記載の嚢状脳動脈瘤の形成および/または増大の抑制若しくは縮小
【請求項3】
スフィンゴシン 1-リン酸受容体1アゴニストが、5-{5-[3-(トリフルオロメチル)-4-{[(2S)-1,1,1-トリフルオロプロパン-2-イル]オキシ}フェニル]-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル}-1H-ベンズイミダゾーまたはその製薬学的に許容される塩、1-[(7-{[4-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)-3-(トリフルオロメチル)ベンジル]オキシ}-2H-クロメン-3-イル)メチル]ピペリジン-4-カルボン酸またはその製薬学的に許容される塩、2-アミノ-2-[2-[4-[3-(ベンジルオキシ)フェニルスルファニル]-2-クロロフェニル]エチル]プロパン-1,3-ジオールまたはその製薬学的に許容される塩、及び、1-[4-[N-[4-シクロヘキシル-3-(トリフルオロメチル)ベンジルオキシ]-1(E)-イミノエチル]-2-エチルベンジル]アゼチジン-3-カルボン酸またはその製薬学的に許容される塩から選択される化合物を有効成分とする嚢状脳動脈瘤に伴う疾患の予防および/または治療剤
【請求項4】
嚢状脳動脈瘤に伴う疾患がクモ膜下出血である、請求項3記載の予防および/または治療剤。
【請求項5】
スフィンゴシン 1-リン酸受容体1アゴニストが、5-{5-[3-(トリフルオロメチル)-4-{[(2S)-1,1,1-トリフルオロプロパン-2-イル]オキシ}フェニル]-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル}-1H-ベンズイミダゾールまたはその製薬学的に許容される塩である、請求項記載の予防および/または治療剤
【請求項6】
スフィンゴシン 1-リン酸受容体1アゴニストが、5-{5-[3-(トリフルオロメチル)-4-{[(2S)-1,1,1-トリフルオロプロパン-2-イル]オキシ}フェニル]-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル}-1H-ベンズイミダゾールまたはその製薬学的に許容される塩、1-[(7-{[4-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)-3-(トリフルオロメチル)ベンジル]オキシ}-2H-クロメン-3-イル)メチル]ピペリジン-4-カルボン酸またはその製薬学的に許容される塩、2-アミノ-2-[2-[4-[3-(ベンジルオキシ)フェニルスルファニル]-2-クロロフェニル]エチル]プロパン-1,3-ジオールまたはその製薬学的に許容される塩、及び、1-[4-[N-[4-シクロヘキシル-3-(トリフルオロメチル)ベンジルオキシ]-1(E)-イミノエチル]-2-エチルベンジル]アゼチジン-3-カルボン酸またはその製薬学的に許容される塩から選択される化合物である、請求項1から5のいずれかに記載の剤の製造のためのスフィンゴシン 1-リン酸受容体1アゴニストの使用。
【請求項7】
スフィンゴシン 1-リン酸受容体1アゴニストが、5-{5-[3-(トリフルオロメチル)-4-{[(2S)-1,1,1-トリフルオロプロパン-2-イル]オキシ}フェニル]-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル}-1H-ベンズイミダゾールまたはその製薬学的に許容される塩である、請求項記載のスフィンゴシン 1-リン酸受容体1アゴニストの使用。
【請求項8】
嚢状脳動脈瘤が、脳動脈部の分岐部に形成される嚢状脳動脈瘤である請求項1から5のいずれかに記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳動脈瘤の形成および/または増大の抑制若しくは縮小用医薬組成物に関し、更には脳動脈瘤に伴う疾患の予防および/または治療用医薬組成物に関する。
【0002】
本出願は、参照によりここに援用されるところの日本出願、特願2013−093747号優先権を請求する。
【背景技術】
【0003】
脳動脈瘤は、一般人口の2〜5%に存在するといわれている。近年、脳ドックや検査の普及に伴い脳動脈瘤の存在が判明する例が急増している。クモ膜下出血は、脳動脈瘤の破裂が主要な原因であり、死亡率が高く、命を取り止めたとしても重篤な後遺症や高次脳機能障害に苦しむことが多い疾患である。また、未破裂の状態で脳動脈瘤が発見された場合、その破裂を予防する方法として、現時点では、開頭手術によるクリッピング術やコイル塞栓術といった外科的治療が行われている。このような外科的治療法は患者への負担が大きく、手術のリスクが未治療動脈瘤の破裂のリスクを上回ることもまれではないことから、非侵襲的な薬物療法の開発が望まれている。従来、薬物療法の可能性の報告(特許文献1〜5など)もいくつかあるが、いまだ確立された薬物治療法は存在せず、脳動脈瘤の形成を抑制する薬剤および/または脳動脈瘤の増大を抑制若しくは縮小する薬剤が求められている。
【0004】
脳動脈瘤の形成メカニズムについては、未だ十分解明されているとはいえないが、ヒトの脳動脈瘤発生部位では高い血流ストレス状態が認められること(非特許文献1)、ラットにおいて高い血流ストレスを負荷することにより脳動脈瘤が誘発されること(非特許文献2、3)が報告されている。また、実験的に誘発された脳動脈瘤では高い血流ストレス負荷部分で血管のリモデリングが生じることが報告されていること(非特許文献4)などから、脳動脈瘤は血流ストレスを誘因とする疾患である事が推測されている。また、脳動脈瘤の形成過程において、血管内皮細胞の機能障害、アポトーシス或いは炎症などが大きな役割を果たしていると考えられており、非特許文献5には、血管内皮細胞の機能障害にはeNOS(endothelial Nitric Oxide Synthase)やTNF-α(Tumor Necrosis Factor-α)が、アポトーシスにはTNF-αが、そして炎症にはTNF-α、MCP-1(Monocyte Chemotactic Protein-1)、VCAM-1(Vascular cell adhesion protein 1)によるNF-κB(nuclear factor kappa B)の活性化が関与していること等が報告されている。
【0005】
ところで、スフィンゴシン 1-リン酸(Sphingosine 1-phosphate:以下「S1P」)は、スフィンゴ脂質代謝の過程で産生され、様々な細胞に作用する脂質メディエーターの1種である。S1Pの受容体は、Gタンパク質共役型受容体であり、5種類のサブタイプ(S1P1受容体〜S1P5受容体)が同定されている。いずれの受容体も全身の細胞および組織に広範囲にわたり分布しているがS1P1受容体、S1P3受容体およびS1P4受容体はリンパ球および血管内皮細胞に、S1P2受容体は血管平滑筋細胞に、S1P5受容体は脳および脾臓に多く発現し、ヒトとげっ歯類ではそれらのアミノ酸配列がよく保存されている。S1Pとその受容体群は、発生期の血管や神経系の形成・発達に必須であり、生体では免疫機能に関与する。さらに、S1Pは心血管系においても、内皮細胞バリア機能、血管新生、動脈硬化や血管・心筋リモデリングに関与することが明らかになっている(非特許文献6)。
【0006】
S1P1受容体アゴニストは、リンパ球の関わる免疫反応において、リンパ球上のS1P1受容体のダウンレギュレーションを誘導し、二次リンパ組織からのS1P1受容体依存的なリンパ球移出を阻害することが知られている。そのため、望ましくないリンパ球浸潤によって引き起こされる疾患、例えば、臓器、骨髄若しくは組織の移植片拒絶、関節リウマチ、多発性硬化症等の自己免疫疾患、脳髄膜炎、肝炎、炎症性腸疾患等の炎症性疾患などの予防または治療への有効性が期待され、数多くの化合物が報告されている(特許文献6、7、8等)。特許文献8には、EDG-1(S1P1)が関与する疾患としては、例えば、痔核、裂肛、痔瘻等の 静脈瘤、解離性大動脈瘤などの数多くの疾患が挙げられているが、脳動脈瘤に関する記載はない。
【0007】
一方で、S1P受容体を介したシグナル伝達の生体内での役割についても種々報告されている。S1P受容体とそれを介する炎症性物質との関係について、正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)において、S1PはS1P1受容体とS1P3受容体を介して炎症に関連するIL-8およびMCP-1のmRNAを増大するとの報告がある(非特許文献7)。一方、マウスのマクロファージにおいては、S1PはS1P1受容体を介してNF-κBの活性化を抑制すること、またリポポリサッカライド(LPS)処理により誘導される炎症性物質であるTNFαやMCP-1等のmRNAの発現を抑制することが報告されている(非特許文献8)。また、S1PおよびS1P1受容体アゴニストは、LPSにより誘導されるマウスのマクロファージからのTNFα産生を抑制すること、さらにそのS1PおよびS1P1受容体アゴニストのTNFα産生抑制作用はS1P1受容体アンタゴニストによって阻害されることが報告されている(非特許文献8)。
【0008】
さらに、血管内皮細胞に発現するS1P1受容体の役割について、S1P1受容体を介したシグナルは細胞間の接着結合を高めることにより、血管の過剰な発芽を抑制して新生した血管を安定化することに加え、S1P1受容体はリガンドであるS1Pだけでなく、血流のズリ応力に応答して活性化し新生した血管を安定化する役割を果たしていることを示唆する報告がある(非特許文献9)。
【0009】
上述のとおり、脳動脈瘤の形成メカニズムについては、未だ十分解明されているとはいえない。脳動脈瘤の増大や破裂に対する予防、治療方法については、開頭手術によるクリッピング術や血管内手術によるコイル塞栓術といった外科的方法によらない方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009-107955号公報
【特許文献2】国際公開WO2008/149971号
【特許文献3】特開2008-19221号公報
【特許文献4】特開2006-89455号公報
【特許文献5】特開2003-104894号公報
【特許文献6】国際公開WO2007/116866号
【特許文献7】国際公開WO2010/064707号
【特許文献8】国際公開WO2005/020882号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】World Neurosurgery,2010年,73(3)巻,pp.174-185
【非特許文献2】Stroke,2007年,38(6)巻,pp.1924-1931
【非特許文献3】Journal of Neurosurgery,1991年,74(2)巻,pp.258-262
【非特許文献4】Neurosurgery,2009年,65(1)巻,pp.169-178
【非特許文献5】Expert Review of Neurotherapeutics,2010年,10(2)巻,pp.173-187
【非特許文献6】生化学,2011年,第83巻,第6号,pp.536-544
【非特許文献7】Biochemical and Biophysical Research Communications,2007年,355巻,pp.895-901
【非特許文献8】Circulation Research,2008年,102(8)巻,pp.950-958
【非特許文献9】Developmental Cell,2012年,23(3)巻,pp.600-610
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、脳動脈瘤の形成および/または増大を抑制若しくは縮小することができる医薬組成物を提供し、更には脳動脈瘤に伴う疾患の予防および/または治療用医薬組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らはS1P1受容体に着目して鋭意検討した結果、S1P1受容体アゴニストが脳動脈瘤の形成および増大を抑制することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、即ち以下よりなる。
(1) スフィンゴシン 1-リン酸受容体1アゴニストを有効成分とする脳動脈瘤の形成および/または増大の抑制若しくは縮小用医薬組成物。
(2) スフィンゴシン 1-リン酸受容体1アゴニストが、5-{5-[3-(トリフルオロメチル)-4-{[(2S)-1,1,1-トリフルオロプロパン-2-イル]オキシ}フェニル]-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル}-1H-ベンズイミダゾールまたはその製薬学的に許容される塩、1-[(7-{[4-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)-3-(トリフルオロメチル)ベンジル]オキシ}-2H-クロメン-3-イル)メチル]ピペリジン-4-カルボン酸またはその製薬学的に許容される塩、2-アミノ-2-[2-[4-[3-(ベンジルオキシ)フェニルスルファニル]-2-クロロフェニル]エチル]プロパン-1,3-ジオールまたはその製薬学的に許容される塩、及び、1-[4-[N-[4-シクロヘキシル-3-(トリフルオロメチル)ベンジルオキシ]-1(E)-イミノエチル]-2-エチルベンジル]アゼチジン-3-カルボン酸またはその製薬学的に許容される塩から選択される化合物である、(1)記載の脳動脈瘤の形成および/または増大の抑制若しくは縮小用医薬組成物。
(3) スフィンゴシン 1-リン酸受容体1アゴニストが、5-{5-[3-(トリフルオロメチル)-4-{[(2S)-1,1,1-トリフルオロプロパン-2-イル]オキシ}フェニル]-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル}-1H-ベンズイミダゾールまたはその製薬学的に許容される塩である、(2)記載の脳動脈瘤の形成および/または増大の抑制若しくは縮小用医薬組成物。
(4) スフィンゴシン 1-リン酸受容体1アゴニストを有効成分とする脳動脈瘤に伴う疾患の予防および/または治療用医薬組成物。
(5) 脳動脈瘤に伴う疾患が、脳動脈瘤の形成、増大または破裂に伴う疾患である、(4)に記載の予防および/または治療用医薬組成物。
(6) 脳動脈瘤に伴う疾患がクモ膜下出血である、(5)記載の予防および/または治療用医薬組成物。
(7) スフィンゴシン 1-リン酸受容体1アゴニストが、5-{5-[3-(トリフルオロメチル)-4-{[(2S)-1,1,1-トリフルオロプロパン-2-イル]オキシ}フェニル]-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル}-1H-ベンズイミダゾールまたはその製薬学的に許容される塩、1-[(7-{[4-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)-3-(トリフルオロメチル)ベンジル]オキシ}-2H-クロメン-3-イル)メチル]ピペリジン-4-カルボン酸またはその製薬学的に許容される塩、2-アミノ-2-[2-[4-[3-(ベンジルオキシ)フェニルスルファニル]-2-クロロフェニル]エチル]プロパン-1,3-ジオールまたはその製薬学的に許容される塩、及び、1-[4-[N-[4-シクロヘキシル-3-(トリフルオロメチル)ベンジルオキシ]-1(E)-イミノエチル]-2-エチルベンジル]アゼチジン-3-カルボン酸またはその製薬学的に許容される塩から選択される化合物である、(6)記載の医薬組成物。
(8) スフィンゴシン 1-リン酸受容体1アゴニストが、5-{5-[3-(トリフルオロメチル)-4-{[(2S)-1,1,1-トリフルオロプロパン-2-イル]オキシ}フェニル]-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル}-1H-ベンズイミダゾールまたはその製薬学的に許容される塩である、(7)記載の医薬組成物。
(9) (1)又は(4)記載の医薬組成物の製造のためのスフィンゴシン 1-リン酸受容体1アゴニストの使用。
(10) スフィンゴシン 1-リン酸受容体1アゴニストが、5-{5-[3-(トリフルオロメチル)-4-{[(2S)-1,1,1-トリフルオロプロパン-2-イル]オキシ}フェニル]-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル}-1H-ベンズイミダゾールまたはその製薬学的に許容される塩、1-[(7-{[4-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)-3-(トリフルオロメチル)ベンジル]オキシ}-2H-クロメン-3-イル)メチル]ピペリジン-4-カルボン酸またはその製薬学的に許容される塩、2-アミノ-2-[2-[4-[3-(ベンジルオキシ)フェニルスルファニル]-2-クロロフェニル]エチル]プロパン-1,3-ジオールまたはその製薬学的に許容される塩、及び、1-[4-[N-[4-シクロヘキシル-3-(トリフルオロメチル)ベンジルオキシ]-1(E)-イミノエチル]-2-エチルベンジル]アゼチジン-3-カルボン酸またはその製薬学的に許容される塩から選択される化合物である、(9)記載のスフィンゴシン 1-リン酸受容体1アゴニストの使用。
(11) スフィンゴシン 1-リン酸受容体1アゴニストが、5-{5-[3-(トリフルオロメチル)-4-{[(2S)-1,1,1-トリフルオロプロパン-2-イル]オキシ}フェニル]-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル}-1H-ベンズイミダゾールまたはその製薬学的に許容される塩である、(10)記載のスフィンゴシン 1-リン酸受容体1アゴニストの使用。
(12) 脳動脈瘤に伴う疾患の予防若しくは治療のためのスフィンゴシン 1-リン酸受容体1アゴニストの医薬組成物の使用。
(13) 脳動脈瘤に伴う疾患が脳動脈瘤の形成、増大または破裂に伴う疾患である、予防若しくは治療のための(12)記載の医薬組成物の使用。
(14) 脳動脈瘤に伴う疾患がクモ膜下出血である、予防若しくは治療のための(13)記載の医薬組成物の使用。
(15) スフィンゴシン 1-リン酸受容体1アゴニストが、5-{5-[3-(トリフルオロメチル)-4-{[(2S)-1,1,1-トリフルオロプロパン-2-イル]オキシ}フェニル]-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル}-1H-ベンズイミダゾールまたはその製薬学的に許容される塩、1-[(7-{[4-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)-3-(トリフルオロメチル)ベンジル]オキシ}-2H-クロメン-3-イル)メチル]ピペリジン-4-カルボン酸またはその製薬学的に許容される塩、2-アミノ-2-[2-[4-[3-(ベンジルオキシ)フェニルスルファニル]-2-クロロフェニル]エチル]プロパン-1,3-ジオールまたはその製薬学的に許容される塩、及び、1-[4-[N-[4-シクロヘキシル-3-(トリフルオロメチル)ベンジルオキシ]-1(E)-イミノエチル]-2-エチルベンジル]アゼチジン-3-カルボン酸またはその製薬学的に許容される塩から選択される化合物である、(12)記載の使用。
(16) スフィンゴシン 1-リン酸受容体1アゴニストが、5-{5-[3-(トリフルオロメチル)-4-{[(2S)-1,1,1-トリフルオロプロパン-2-イル]オキシ}フェニル]-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル}-1H-ベンズイミダゾールまたはその製薬学的に許容される塩である、(15)記載の使用。
(17) スフィンゴシン 1-リン酸受容体1アゴニストの有効量を対象に投与することからなる脳動脈瘤に伴う疾患の予防および/または治療方法。
(18) スフィンゴシン 1-リン酸受容体1アゴニストが、5-{5-[3-(トリフルオロメチル)-4-{[(2S)-1,1,1-トリフルオロプロパン-2-イル]オキシ}フェニル]-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル}-1H-ベンズイミダゾールまたはその製薬学的に許容される塩、1-[(7-{[4-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)-3-(トリフルオロメチル)ベンジル]オキシ}-2H-クロメン-3-イル)メチル]ピペリジン-4-カルボン酸またはその製薬学的に許容される塩、2-アミノ-2-[2-[4-[3-(ベンジルオキシ)フェニルスルファニル]-2-クロロフェニル]エチル]プロパン-1,3-ジオールまたはその製薬学的に許容される塩、及び、1-[4-[N-[4-シクロヘキシル-3-(トリフルオロメチル)ベンジルオキシ]-1(E)-イミノエチル]-2-エチルベンジル]アゼチジン-3-カルボン酸またはその製薬学的に許容される塩から選択される化合物である、(17)記載の予防および/または治療方法。
(19) スフィンゴシン 1-リン酸受容体1アゴニストが、5-{5-[3-(トリフルオロメチル)-4-{[(2S)-1,1,1-トリフルオロプロパン-2-イル]オキシ}フェニル]-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル}-1H-ベンズイミダゾールまたはその製薬学的に許容される塩である、(18)記載の予防および/または治療方法。
(20) 脳動脈瘤に伴う疾患が脳動脈瘤の形成、増大または破裂に伴う疾患である、(18)記載の予防および/または治療方法。
(21) 脳動脈瘤に伴う疾患がクモ膜下出血である、(20)記載の予防および/または治療方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のS1P1受容体アゴニストを有効成分とする脳動脈瘤の形成および/または増大の抑制若しくは縮小用医薬組成物によれば、開頭手術によるクリッピング術やコイル塞栓術といった外科的治療によらないで脳動脈瘤の形成および/または増大を抑制若しくは縮小しうる。さらに、本発明の脳動脈瘤の形成および/または増大の抑制若しくは縮小用医薬組成物は、血圧や心拍数に対して及ぼす影響が、薬物非投与群とほとんど同じであり、安全性の高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】脳動脈分岐部の内皮細胞におけるS1P1受容体の発現を示す写真図である(参考例2)。
図2】化合物1による末梢血中リンパ球数の減少を示す図である(参考例3)。
図3A】脳動脈瘤モデルの脳動脈分岐部に浸潤したマクロファージを示す写真図である(参考例4)。
図3B】化合物1による脳動脈分岐部に浸潤したマクロファージ数の減少を示す図である(参考例4)。
図4】化合物1による脳動脈分岐部におけるMCP-1の発現抑制を示す写真図である(参考例5)。
図5】化合物1による脳動脈瘤モデルの脳動脈瘤の形成抑制効果を示す図である(実施例1)。
図6】実施例1の脳動脈瘤部分を含む凍結薄切片標本をEvG染色した写真図である(実施例1)。
図7】化合物1による血圧および心拍数に与える影響を示す図である(実施例1)。
図8】化合物1による脳動脈瘤の増大抑制効果(脳動脈瘤の最大径の経時変化)を示す図である(実施例2)。
図9】化合物1による脳動脈瘤の増大抑制効果(脳動脈瘤の平均径の経時変化)を示す図である(実施例2)。
図10】化合物1による脳動脈瘤壁に浸潤したマクロファージ数減少を示す図である(実施例2)。
図11】化合物2による脳動脈瘤の形成抑制効果を示す図である(実施例3)。
図12】化合物3による脳動脈瘤の形成抑制効果を示す図である(実施例4)。
図13】化合物4による脳動脈瘤の形成抑制効果を示す図である(実施例5)。
図14】化合物1による内皮細胞の透過性の経時変化を示す図である(実施例6)。
図15】化合物1とS1P1受容体アンタゴニストの併用による内皮細胞の透過性の経時変化を示す図である(実施例7)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の脳動脈瘤の形成および/または増大の抑制若しくは縮小用医薬組成物は、スフィンゴシン 1-リン酸受容体1アゴニスト(S1P1受容体アゴニスト)を有効成分として含む。
【0018】
本明細書において、以下の略号を用いることがある。
化合物1=5-{5-[3-(トリフルオロメチル)-4-{[(2S)-1,1,1-トリフルオロプロパン-2-イル]オキシ}フェニル]-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル}-1H-ベンズイミダゾール 塩酸塩(なお、国際公開WO2007/116866号にも記載されている)、化合物1フリー体=5-{5-[3-(トリフルオロメチル)-4-{[(2S)-1,1,1-トリフルオロプロパン-2-イル]オキシ}フェニル]-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル}-1H-ベンズイミダゾール、化合物2=1-[(7-{[4-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)-3-(トリフルオロメチル)ベンジル]オキシ}-2H-クロメン-3-イル)メチル]ピペリジン-4-カルボン酸 塩酸塩(なお、国際公開WO2010/064707号にも記載されている)、化合物3=2-アミノ-2-[2-[4-[3-(ベンジルオキシ)フェニルスルファニル]-2-クロロフェニル]エチル]プロパン-1,3-ジオール 塩酸塩、((なおKRP-203ともいう、また国際公開WO2003/029205号にも記載されている)、化合物4=1-[4-[N-[4-シクロヘキシル-3-(トリフルオロメチル)ベンジルオキシ]-1(E)-イミノエチル]-2-エチルベンジル]アゼチジン-3-カルボン酸(また国際公開WO2004/103306号にも記載されている)、化合物At=5-クロロ-N-[(1R)-1-{4-エチル-5-[3-(4-メチルピペラジン-1-イル)フェノキシ]-4H-1,2,4-トリアゾール-3-イル}エチル]ナフタレン-2-スルフォンアミド(なお、WO2007/089018号に化合物120としても記載されている)、S1P1受容体アゴニスト=スフィンゴシン 1-リン酸受容体1アゴニスト、S1P1受容体アンタゴニスト=スフィンゴシン 1-リン酸受容体1アンタゴニスト、FTY720=2-アミノ-2-[2-(4-オクチルフェニル)エチル]プロパン-1,3-ジオール 塩酸塩。
【0019】
本明細書において、「S1P1受容体アゴニスト」とは、S1P1受容体に結合して、受容体へのGTP[γ35S]結合を促進させる化合物またはその製薬学的に許容される塩をいう。S1P1受容体アゴニストとしては、ある態様としては、GTP[γ35S]結合アッセイによる受容体アゴニスト作用のEC50値が100 μM〜1 pMの化合物またはその製薬学的に許容される塩であり、別の態様としては、EC50値が100 nM〜10 pMの化合物またはその製薬学的に許容される塩であり、他の態様としては、EC50値が10 nM〜0.1 nMの化合物またはその製薬学的に許容される塩が挙げられる。
S1P1受容体アゴニストとして、ある態様としては、FTY720(国際公開WO1994/008943号)が多発性硬化症治療薬として発売されている。FTY720は、スフィンゴシンキナーゼであるSPHK2によりリン酸化され、S1P1受容体と結合しリンパ球上のS1P1受容体をダウンレギュレーションさせる。結果、胸腺や二次リンパ系組織からの成熟リンパ球の移出が抑制され、血中の循環成熟リンパ球を二次リンパ系組織内に隔離することで、免疫抑制作用を発揮することが知られている(薬学雑誌,2009年,129(6),p.655-665)。
S1P1受容体アゴニストの別の態様として、5(Z)-[3-クロロ-4-[2(R),3-ジヒドロキシプロポキシ]ベンジリデン]-3-(2-メチルフェニル)-2(Z)-(プロピルイミノ)チアゾリジン-4-オン(ACT-128800、Ponesimod)(国際公開WO2005/054215号)、または1-[5-[3-アミノ-4-ヒドロキシ-3(R)-メチルブチル]-1-メチル-1H-ピロール-2-イル]-4-(4-メチルフェニル)ブタン-1-オン(CS-0777)(国際公開WO2012/073991号)などが挙げられる。
【0020】
S1P1受容体アゴニストの他の態様として、オキサゾロ[4,5-c]ピリジンカルボン酸誘導体(国際公開WO2013/004824号)、アミノプロピレングリコール誘導体(国際公開WO2013/004190号)、置換されたビシクロメチルアミン誘導体(国際公開WO2012/145236号)、 2-メトキシ-ピリジン-4-イル 誘導体(国際公開WO2012/098505号)、ピリミジン誘導体(国際公開WO2011/113309号)、2,5,7-置換オキサゾロピリミジン環を有するカルボン酸誘導体(国際公開WO2011/086077号)等が挙げられる。
【0021】
S1P1受容体アゴニストの具体的化合物の例としては、以下の化合物またはその製薬学的に許容な塩が挙げられる。5-{5-[3-(トリフルオロメチル)-4-{[(2S)-1,1,1-トリフルオロプロパン-2-イル]オキシ}フェニル]-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル}-1H-ベンズイミダゾールまたはその製薬学的に許容される塩、1-[(7-{[4-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)-3-(トリフルオロメチル)ベンジル]オキシ}-2H-クロメン-3-イル)メチル]ピペリジン-4-カルボン酸またはその製薬学的に許容される塩、2-アミノ-2-[2-[4-[3-(ベンジルオキシ)フェニルスルファニル]-2-クロロフェニル]エチル]プロパン-1,3-ジオールまたはその製薬学的に許容される塩、1-[4-[N-[4-シクロヘキシル-3-(トリフルオロメチル)ベンジルオキシ]-1(E)-イミノエチル]-2-エチルベンジル]アゼチジン-3-カルボン酸またはその製薬学的に許容される塩が挙げられる。
【0022】
S1P1受容体アゴニストの別の具体例としては例えば、化合物1、化合物2、化合物3、又は、化合物4又はそのヘミフマル酸塩、が挙げられる。
【0023】
本明細書において、「S1P1受容体アンタゴニスト」とは、S1PやS1P1受容体アゴニストによって誘導されるGTP-γS結合の増加を抑制する化合物またはその製薬学的に許容される塩をいう。S1P1受容体アンタゴニストとしては、ある態様としては、GTP[γ35S]結合アッセイによる受容体アンタゴニスト作用のEC50値が100 μM〜1 pMである化合物またはその製薬学的に許容される塩、別の態様としては、EC50値が100 nM〜10 pMである化合物またはその製薬学的に許容される塩、他の態様としては、EC50値が10 nM〜0.1 nMである化合物またはその製薬学的に許容される塩が挙げられる。S1P1受容体アンタゴニストの具体例としては、5-クロロ-N-[(1R)-1-{4-エチル-5-[3-(4-メチルピペラジン-1-イル)フェノキシ]-4H-1,2,4-トリアゾール-3-イル}エチル]ナフタレン-2-スルフォンアミドまたはその製薬学的に許容な塩(WO2007/089018号、化合物120)が挙げられる。
【0024】
本明細書において、「製薬学的に許容される塩」としては、具体的には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、ヘミフマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、マンデル酸、酒石酸、ジベンゾイル酒石酸、ジトルオイル酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等の有機酸との酸付加塩等が挙げられる。
【0025】
本明細書において、「脳動脈瘤」とは未破裂脳動脈瘤を意味する。脳動脈瘤は、脳動脈壁が血流による負荷のもとで炎症反応を起こしその結果壁の変性を生じる事により血管壁の強度が低下し生じる場合が多いが、その他に、脳の動脈の動脈硬化、脳の動脈への細菌の感染、頭部外傷などが原因となって起こることもある。脳動脈瘤はその形状や病因から、例えば、主に血流ストレスの負荷下で脳動脈の分岐部に形成される嚢状脳動脈瘤や動脈硬化の結果脳の血管自体が膨らんで形成される紡錘状脳動脈瘤、細菌感染等による炎症性脳動脈瘤、動脈の内弾性板の劣化や断裂等による解離性脳動脈瘤などに分けられる。
【0026】
本明細書において「脳動脈瘤の形成および/または増大の抑制若しくは縮小用医薬組成物」とは、脳動脈瘤の形成抑制用医薬組成物および/または形成された脳動脈瘤の増大抑制用医薬組成物若しくは縮小用医薬組成物を意味する。ある態様としては、(i)脳動脈瘤の形成抑制用医薬組成物である。別の態様としては、(ii)形成された脳動脈瘤の増大抑制用医薬組成物である。他の態様としては、(iii)形成された脳動脈瘤の縮小用医薬組成物である。脳動脈瘤の形成を抑制しおよび/または脳動脈瘤の増大を抑制若しくは縮小することにより、脳動脈瘤に伴う疾患を予防および/または治療することができる。「脳動脈瘤に伴う疾患」とは、脳動脈瘤の形成および/または増大或は破裂に伴う疾患であり、ある態様としては、クモ膜下出血、別の態様としては脳内出血、急性硬膜下血腫などが挙げられる。また、ある態様としては、瘤増大に伴う脳の圧迫症状(例えば、麻痺や意識障害)、脳神経麻痺(例えば、動眼神経麻痺、視神経障害)などが挙げられる。
【0027】
S1P1受容体アゴニストを有効成分として含有する脳動脈瘤に伴う疾患の予防および/または治療に用いる本発明の医薬組成物は、通常、製剤化に用いられる担体や賦形剤、その他の添加剤を用いて調製される。投与は錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等による経口投与、或いは、静注、筋注等の注射剤、座剤、経皮剤、経鼻剤または吸入剤等による非経口投与のいずれの形態であってもよい。
【0028】
投与量は症状、投与対象の年齢、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定されるが、通常、経口投与の場合、成人1日当たり0.001〜100 mg/kg、好ましくは0.003〜0.3mg/kgの範囲から選ばれ、この量を1回で、或いは、2〜4回に分けて投与することができる。また、症状によって静脈投与される場合は、通常、成人1回当たり0.0001〜10mg/kg、好ましくは0.003〜0.3mg/kgの範囲で1日に1回〜複数回投与される。また、吸入の場合は、通常、成人1回当たり0.001〜100 mg/kg、好ましくは0.003〜0.3mg/kgの範囲で1日に1回〜複数回投与される。
【0029】
本発明による経口投与のための固体組成物としては、錠剤、散剤、顆粒剤等が用いられる。このような固体組成物においては、一つまたはそれ以上の活性物質が、少なくとも一つの不活性な賦形剤、例えば、乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等と混合される。組成物は常法に従って、不活性な添加剤、例えばステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤やカルボキシメチルスターチナトリウム等の崩壊剤、溶解補助剤を含んでいてもよい。錠剤または丸剤は必要により糖衣または胃溶性もしくは腸溶性コーティング剤で被覆してもよい。
【0030】
経口投与のための液体組成物は、乳剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤等を含み、一般的に用いられる不活性な溶剤、例えば精製水、エタノールを含む。この組成物は不活性な溶剤以外に可溶化剤、湿潤剤、懸濁化剤のような補助剤、甘味剤、矯味剤、芳香剤、防腐剤を含んでいてもよい。
【0031】
非経口投与のための注射剤としては、無菌の水性または非水性の液剤、懸濁剤、乳剤を含む。水性の溶剤としては、例えば注射用蒸留水および生理食塩水が含まれる。非水性の溶剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類、ポリソルベート80(局方名)等がある。このような組成物は、さらに等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解補助剤を含んでいてもよい。これらは例えばバクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合または照射によって無菌化される。また、これらは無菌の固体組成物を製造し、使用前に無菌水または無菌の注射用溶媒に溶解、懸濁して使用することもできる。
【実施例】
【0032】
本発明の理解を深めるために、本発明に至る実験結果を各参考例に示し、具体的な発明内容を実施例に示し、詳細に説明する。本発明はこれら参考例、実施例に示す事項に限定されるものではない。
【0033】
本明細書において、以下の略号を用いることがある。
(略号)
MC=メチルセルロース、SDラット=Sprague-Dawleyラット、高塩分食=0.12 %β-アミノプロピオニトリル及び8 %塩化ナトリウムを含有する普通食、手術=脳動脈瘤誘発手術、脳動脈瘤モデル=脳動脈瘤誘発手術をしたラットのモデル、Day X=脳動脈瘤誘発手術日を0日目としたX日後(例えば、手術後翌日をDay1という。)、ビークル群=薬物非投与群(0 mg/kgの薬物投与群)、コントロール群=脳動脈瘤誘発手術を行わなかった群、ELASTICA VAN GIESON染色=EvG染色
【0034】
(化合物懸濁液の調製)
「S1P1受容体アゴニスト懸濁液」は、S1P1受容体アゴニストを乳鉢で粉砕後、0.5 % MC 溶液を用いて調製した。ここで、用量を設定する際のS1P1受容体アゴニストの量は、S1P1受容体アゴニストフリー体として換算した量を表す。例えば、「化合物1懸濁液」は、化合物1を乳鉢で粉砕後、0.5 % MC 溶液を用いて調製した。ここで、用量を設定する際の化合物1の量は、化合物1フリー体として換算した量を表す。
【0035】
(参考例1)脳動脈瘤モデルの作製
橋本らが文献に記載した方法(Surgical Neurology 1978年,10巻,p.3-8)に準じて、ラットの脳動脈瘤モデルを作成した。すなわち、7週齢の雄のSDラットにペントバルビタール50 mg/kgを腹腔内に投与し、麻酔下に左総頸動脈と左腎動脈を10-0ナイロン糸で結紮した(これを脳動脈瘤誘発手術という)。手術後(Day1)より高塩分食で飼育した。飼育期間中の飲水は自由とした。
【0036】
(参考例2)脳動脈分岐部の内皮細胞におけるS1P1受容体の発現
脳動脈瘤モデルに、0.03 mg/5 mLの化合物1懸濁液を5 mL/kgの用量で、手術後1日目(Day1)から27日目(Day27)まで、1日1回強制経口投与した。
なお、脳動脈瘤モデルに、0.5%MC溶液(0 mg/5 mLの化合物1懸濁液)を5 mL/kgの用量で1日1回強制経口投与した群をビークル群とした。
【0037】
1)手術後28日目(Day28)に同じラットを深麻酔にて解剖し、経心臓的に4%パラホルムアルデヒドで血管を還流した。そのまま脳を脳表の血管ごと摘出し4%パラホルムアルデヒド含有リン酸緩衝液中で、4℃で一晩固定した。
2)次いで、30%スクロース溶液に置換し、さらに4℃で24時間静置した。
3)脳表より脳動脈瘤を含む右嗅動脈前大脳動脈分岐部(閉塞側と逆側の右の脳血管分岐部)を摘出し、凍結切片(5μm厚)を作製した。
4)凍結切片を0.3%ポリソルベート20含有リン酸緩衝液で室温30分間透過処理した。
5)5%ロバ血清含有リン酸緩衝液で室温で1時間ブロッキングした。
6)一次抗体として、抗S1P1受容体マウスモノクローナル抗体(MABC94:Millipore社)をリン酸緩衝液で100倍希釈し、4℃で72時間反応させた。
7)次いで、0.3%ポリソルベート20含有リン酸緩衝液にて洗浄後、二次抗体としてAlexa 488 結合ロバ抗マウス IgG抗体(Invitrogen社)をリン酸緩衝液で100倍希釈し、室温で1時間反応させた。
8)0.3%ポリソルベート20含有リン酸緩衝液で洗浄し、褪色防止剤(Prolong Gold(TM):Invitrogen社)で封入した。
9)共焦点顕微鏡で観察した。
【0038】
結果を図1に示した。なお、脳動脈瘤誘発手術を実施しなかった群をコントロール群とした。コントロール群、ビークル群および化合物1投与群のいずれにおいても脳動脈瘤が形成される脳動脈分岐部の内皮細胞においてS1P1受容体が発現していた。
【0039】
(参考例3)リンパ球数減少作用
脳動脈瘤モデルに、0.03および0.1 mg/5 mLの化合物1懸濁液を、手術後1日目(Day1)から27日目(Day27)まで、5 mL/kgの用量で、1日1回強制経口投与した。
なお、脳動脈瘤モデルに、0.5%MC溶液(0 mg/5 mLの化合物1懸濁液)を5 mL/kgの用量で1日1回強制経口投与した群をビークル群とした。
手術後28日目(Day28)にペントバルビタール麻酔剤50 mg/kgを腹腔内投与して麻酔下に下大静脈より採血した。血液検査システム(アドヴィア120、Siemens Healthcare Diagnostics社)により、採取した血液中のリンパ球数をそのマニュアルに従って測定した。
【0040】
結果を図2に示した。化合物1は濃度依存的に末梢血中のリンパ球数を減少させた。一般にS1P1受容体アゴニストは、リンパ球上のS1P1受容体のダウンレギュレーションを誘導することで二次リンパ組織からのS1P1受容体依存的なリンパ球移出を抑制することが知られている。図2の結果は、化合物1がラット体内においてS1P1受容体アゴニストとして作用していることを示唆している。
【0041】
(参考例4)脳動脈瘤形成部位へのマクロファージ浸潤
脳動脈瘤モデルに、0.03および0.1 mg/5 mLの化合物1懸濁液を、手術後1日目(Day1)から27日目(Day27)まで、5 mL/kgの用量で、1日1回強制経口投与した。手術後28日目(Day28)に、参考例2の1)〜5)と同様の手法を用いて、脳動脈瘤を含む右嗅動脈前大脳動脈分岐部の処理を行い、当該分岐部の切片を作製した。
【0042】
作製した切片について、マクロファージ(F4/80陽性細胞)の免疫染色を次のように行った。一次抗体溶液として、ラット抗F4/80抗体 [BM8](AB16911:Abcam社)をリン酸緩衝液で100倍に希釈した溶液を調製した。二次抗体溶液として、alexa-488結合ロバ抗ラットIgG抗体(Invitrogen社)をリン酸緩衝液で100倍に希釈した溶液を調製した。切片を、一次抗体溶液で4℃、16時間反応させ、リン酸緩衝液で洗浄後、二次抗体溶液で室温で1時間反応させた。リン酸緩衝液で洗浄後、褪色防止剤(Prolong GoldTM:Invitrogen社)で封入し、共焦点顕微鏡で観察した。脳動脈の外膜部分にある細胞の核が青色に染まって観察された(白黒の図3Aでは、やや薄い白色の部分)。また、その中に核(青色)の周りが緑色に染色されたマクロファージ(F4/80陽性細胞)が観察された(白黒の図3Aでは、より強い白色の部分)。
【0043】
共焦点顕微鏡観察下、脳動脈瘤の発生する脳血管分岐部を中心に100μm四方の範囲についてマクロファージ数を計数した。この測定を5頭について行いその平均値を求めた。結果を図3Bに示した。ビークル群の場合、脳動脈瘤形成部位のマクロファージの細胞数は約30 個/100 μm2であった。一方、手術前、同部位におけるマクロファージの細胞数が2〜4 個/100 μm2であった。よって、ビークル群におけるマクロファージの細胞数は、手術前と比較して増加していることを確認した。
化合物1を0.03および0.1 mg/kgの用量で投与した群におけるマクロファージ数は、ビークル群におけるマクロファージ数と比較して減少していた。
【0044】
(参考例5)化合物1によるMCP-1発現抑制
一次抗体として、ヤギ抗MCP-1抗体(Santa Cruz社)を使用し、二次抗体としてalexa-488 結合抗goat IgG抗体(Invitrogen社)を使用し、参考例4の方法を用いて、共焦点顕微鏡で観察した。結果を図4に示した。白く光っている部分がMCP-1を表す。ビークル群において脳動脈瘤壁でMCP-1の発現が確認された。
化合物1を0.03および0.1 mg/kgの用量で投与したところ、MCP-1の発現は、薬物非投与群と比較して抑制された。
【0045】
(実施例1)化合物1による効果(in vivo)
(1) 化合物1による脳動脈瘤の形成抑制効果
脳動脈瘤モデルに、0.03および0.1 mg/5 mLの化合物1懸濁液を、5 mL/kgの用量で、手術後翌日の1日目(Day1)から27日目(Day27)までの期間、1日1回強制経口投与した。
なお、脳動脈瘤モデルに、0.5%MC溶液(0 mg/5 mLの化合物1懸濁液)を5 mL/kgの用量で1日1回強制経口投与した群をビークル群とした。
【0046】
手術後28日目(Day28)に、参考例2の1)〜2)の方法と同様にして、脳動脈瘤を含む右嗅動脈前大脳動脈分岐部を摘出し、4%パラホルムアルデヒドで固定化し、30%スクロースで置換後、凍結して5μm厚の凍結薄切標本を作製した。この標本をEvG染色して脳動脈瘤の形成を確認した。脳動脈瘤の大きさを測定して評価を行った。最大径(Maximum)はEvG染色での内弾性板断裂部位間の最大距離を表し、高さ「Height」は内弾性板断端を結ぶ線から垂直に引いたものを高さと規定しその最大値を表し、平均径「Mean」は最大径と高さの平均値を表した。この評価を各群のラット全頭(8〜9頭)について行い、それぞれその平均値を求めた。
【0047】
結果を図5に示した。化合物1は脳動脈瘤の形成を抑制した。図6に染色標本の例を示すが、両矢印で示した脳動脈瘤の底部の内弾性板間の大きさと、その底部から垂直方向の高さを測定した。内弾性板間の大きさが最大のものを「Maximum」、瘤の最も高い部分を「Height」とした。
【0048】
(2)化合物1のラットの血圧および心拍数に対する影響
実施例1(1)において、手術後28日目(Day28)にラットを解剖する直前に、未麻酔下で非観血的にテールカッフ(tail-cuff)法により血圧および心拍数を測定した。測定はラット・マウス用非観血的血圧測定装置BP-98A(ソフトロン社)を使用した。1頭当たり3回測定してその平均値を採用し、各群のラット全頭の平均値を求めた。結果を図7Aおよび7Bに示した。化合物1の投与による血圧(SBP:収縮期血圧、MBP:平均血圧、DBP:拡張期血圧)および心拍数に対する影響は認められなかった。
【0049】
(実施例2)化合物1による脳動脈瘤増大抑制効果(in vivo)
脳動脈瘤モデルを手術後当日から高塩分食で7日間飼育して、脳動脈瘤を形成させた。脳動脈瘤モデルを手術後7日目(1週、Day7)に普通食に切り替え、0.1 mg/5 mLの濃度の化合物1懸濁液を1日1回強制経口投与した。
なお、脳動脈瘤モデルに、0.5%MC溶液(0 mg/5 mLの化合物1懸濁液)を5 mL/kgの用量で1日1回強制経口投与した群をビークル群とした。
手術後7日目(1週、Day7)、28日目(4週、Day28)および49日目(7週、Day49)に、脳動脈瘤を含む右嗅動脈前大脳動脈分岐部を摘出し、脳動脈瘤の大きさ(最大径および平均径)を実施例1と同様にして測定した。それらの結果を図8および図9に示した。化合物1は脳動脈瘤の増大を抑制した。
また、手術後49日目(7週)に、脳動脈瘤壁に浸潤したマクロファージ数を、参考例4の手法を用いて、共焦点顕微鏡観察下で計数した。結果を図10に示した。化合物1は、脳動脈瘤が誘発された部位においてマクロファージの細胞数を減少させた。
【0050】
(実施例3)化合物2による脳動脈瘤の形成抑制効果
脳動脈瘤モデルに、0.1 mg/5 mLの化合物2懸濁液を、5 mL/kgの用量で、手術日(Day0)から投与を開始し、手術後26日目(Day26)まで、1日1回強制経口投与した。脳動脈瘤の大きさは実施例1のプロトコールを用いて測定した。その結果を図11に示した。化合物2が脳動脈瘤の形成を抑制した。
【0051】
(実施例4)化合物3による脳動脈瘤の形成抑制効果
脳動脈瘤モデルに、0.01 mg/5 mLの化合物3懸濁液を、5 mL/kgの用量で、手術日(Day0)から投与を開始し、手術後26日目(Day26)まで、1日1回強制経口投与した。脳動脈瘤の大きさは実施例1のプロトコールを用いて測定した。その結果を図12に示した。化合物3は脳動脈瘤の形成を抑制した。
【0052】
(実施例5)化合物4による脳動脈瘤の形成抑制効果
脳動脈瘤モデルに、0.3 mg/5 mLの化合物4懸濁液を、5 mL/kgの用量で、手術日(Day0)から投与を開始し、手術後26日目(Day26)まで、1日1回強制経口投与した。脳動脈瘤の大きさは実施例1のプロトコールを用いて測定した。その結果を図13に示した。化合物4は脳動脈瘤の形成を抑制した。
【0053】
(実施例6)化合物1による内皮細胞の透過性抑制効果
トランスウェル(直径6.5mm、孔径0.4μm、コラーゲンコート:コーニング社)の上室に、ヒト頸動脈内皮細胞HCtAEC(Cell Applications 社)を細胞密度が1 × 105個/ウェルとなるように播種し、MesoEndo Growth Medium(Cell Applications 社)中で5%CO2雰囲気下、37℃で一晩培養した。培地をEndothelial Cell Serum-Free Defined Medium(Cell Applications 社)に交換してさらに一晩CO2雰囲気下、37℃で培養した。次いで当該トランスウェルの上室および下室に最終濃度が0、0.1、1、10および100 nMである化合物1を添加し、引き続き培養した。化合物1を添加しなかったウェルをコントロールとした。培養60分後、当該トランスウェルの上室に250 μg/mLのフルオレセインイソチオシアナート(FITC)-デキストラン(2000 kDa:シグマアルドリッチ社)を添加し、5分、60分および210分に下室の培地の蛍光強度を測定することで下室に透過してくるFITC-デキストランの量を測定した。結果を図14に示した。化合物1は下室に透過するFITC-デキストランの量を濃度依存的に減少させた。
これは、化合物1が内皮細胞間の透過性を抑制していることを示している。
【0054】
(実施例7)化合物1による内皮細胞の透過性抑制効果に対するS1P1受容体アンタゴニストの阻害作用
実施例6と同様に、ヒト頸動脈内皮細胞を培養した。次いで、トランスウェルの上室に0又は、100 nMの濃度の化合物1と、0、0.1、1、10または100 nMの濃度のS1P1受容体アンタゴニストを添加し、引き続き培養した。化合物1およびS1P1受容体アンタゴニストを添加しなかったウェルをコントロールとした。S1P1受容体アンタゴニストとして、化合物Atを使用した。
培養60分後、実施例6と同様にして、下室に透過してくるFITC-デキストランの量を測定した。結果を図15に示した。化合物1による内皮細胞の透過性抑制効果をS1P1受容体アンタゴニストが濃度依存的に阻害することが確認された。
よって、化合物1による内皮細胞の透過性抑制効果がS1P1受容体を介した作用であることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のS1P1受容体アゴニストを有効成分とする脳動脈瘤の形成および/または増大の抑制若しくは縮小用医薬組成物は、脳動脈瘤の形成および/または増大を抑制若しくは縮小させることができ、脳動脈瘤に伴う疾患を予防および/または治療することができる。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
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図8
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図10
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図15